2020/7/26 UP!

今回お話を伺った池田省治さんは、海浜幕張に新しく誕生したサッカー日本代表の練習拠点・JFA夢フィールドをはじめ、国立競技場、味の素スタジアムなど、さまざまなグラウンドの芝生を管理している、まさに芝生のスペシャリスト。インタビューは、JFA夢フィールドの管理棟にある「オフィスショウ」の事務所で行われました。初歩的なことからちょっとマニアックなことまで色々お話しいただいたんですが・・・残念ながら放送では全てをお伝えすることができず!というわけで、放送しきれなかった部分も含め、前編・後編の記事にまとめました。(聞き手・番組D、作家)
そもそも、家の庭や公園の芝生と、サッカー場の芝生、どういった違いがあるんですか?
池田さん)もともと「芝生」とは、草でできた絨毯のことです。なので「芝」という草が生えているわけではなく、その目的にあった草で、目的にあった本数と長さが揃う草であれば、草の種類は何でもいいんです。庭の芝生と、スポーツの芝生では目的が違いますよね。例えば庭の芝生だったら、鑑賞したい人、子どもと遊びたい人、犬と転げ回りたい人・・・。一方、スポーツの芝生は、走ったり、跳んだり、スライディングしても、安全にプレイができるように、特にサッカーの場合は、ボールの動きに対して、どういう芝を用意するか、というように、目的による違いが出てきます。
スポーツの芝の品種は決められているんですか?
池田さん)小さいお子さんが遊ぶような芝生は、15〜6種類の草で形成されていますが、このJFA夢フィールドは、日本代表が練習をして、上達していく場所なので、均一性を重視した草を使っています。

JFA夢フィールドの天然芝は、どこかで育てたものを持ってきているんですか。
池田さん)JFA夢フィールドのクラブハウスに近い天然芝のグラウンドを「A面」、管理棟に近い方を「B面」と呼んでいます。「A面」は、50cm×2m×1cmの芝生を持ってきて貼りました。一方、「B面」は、去年の6月、ポット苗を200人くらいで植えて作り上げたグラウンドなんです。

番組D)bayfmのスタジオからグラウンドが見えるんですが、日に日に緑になっていくのがわかりました!
池田さん)そうでしたか!だいたい10週間で緑に見えてくるんですよ。

JFA夢フィールドをはじめ、さまざまなグラウンドを管理されていると思いますが、日本の場合、使っている芝はどこも同じなんですか?
池田さん)サッカーの場合でお話ししますと、草の種類として、夏に強い・冬に強い芝生、そして育ちが早い・遅い芝生に分けています。我々が今、使っているのは、関東近郊だと、育ちが早く、夏に強い芝生。冬は、夏に強い芝生は冬眠しますので、冬に強い草のタネをまいて、冬を過ごします。一方、北海道をはじめ、寒い地域ですと、夏に強い芝生はあまり育ちがよくないので、一年中、育ちが早い冬の芝生で育てます。
なぜ、育ちが早い芝生を使うかというと、長所が「傷むこと」だから。削れて芝生が傷むんです。そのため、スライディングをしても怪我が少なくて済むんです。その代わり、翌日も使いたいので早く回復しなければいけません。なので、育ちが早い種類を使っています。
では、どうやって芝のコンディションを整えていますか?
池田さん)まずは「刈ること」です。また、葉の数と、地下茎の出来具合によっては、スポンジのようにやわらかくなる可能性があります。そうならないように、グルーミングといって、すいてあげることで、茎と葉の量を調節しています。そして、グラウンドを激しく使うので、死んでしまった葉や茎を除去します。それと同時に、激しく使うと、土壌がかたくなります。健康な土壌でないと、草が早く育たなくなるので、穴を開けて、空気を入れるエアレーションという作業をしています。土壌は大切ですね。いつも、目で見て触って、匂いを嗅いで、コンディションを確認しています。
どのくらいのペースで手入れをしていますか?
池田さん)基本的には毎日です。練習で使う前に芝を刈るケースが多いです。練習が終わった後は、へこんだ部分などをフォークで直したり、練習後に出たカスを回収します。1日グラウンドが空いているときは、別の作業をしていますが、雨の日だけは、あまり大きい作業はしていないですね。

芝生の長さはチームによってオーダーがあるんですか?
池田さん)はい、今、ほとんどのチームが、ボールが速く動くということを望んでいるので、極力短く刈るケースが多いですね。短い方が、ボールの動きが速いので、スリリングなゲームが楽しめると思います。
どのくらいの人数で管理をしていますか?
池田さん)JFA夢フィールドの場合、基本的に2人のスタッフが常駐していて、毎日の様子を確認しています。それ以外に、大きな作業が必要な場合は、4〜5人で作業をしています。
基本的に私たちの仕事は、これをやれば完璧、という「特効薬」がありません。小さいことの積み重ねがピッチを作っていく。例えば芝を刈るときに、芝刈り機の刃を研いでいないと、葉をきれいに切ってあげることができません。うまく切れずに引きちぎってギザギザになってしまうと、それを補修するのにエネルギーを使うことになります。そのほか、肥料を均等にあげるとか、そういうことを積み重ねていくと、いいピッチが出来上がります。
番組D)もう少し若ければ芝を育ててみたかったです・・・
池田さん)いやいやいや!年齢は関係ないですね。定年退職してからでも十分です。芝への意欲と愛をもって接すれば頑張れると思います。ここにはペイントロボットという、GPSを使ってラインを引いてくれるロボットだったり、芝を刈るデッキが5個ついていて、刈る幅も広いので短時間でいい作業をしてくれる芝刈り機などがあります。今、機械も、いいものがたくさんできていますし、今後はロボット化も進んでいくので、パソコンの操作ができればやっていけると思いますよ。

・・・後編へ続きます!