2020/7/26 UP!

7月26日の放送で、JFA夢フィールド、国立競技場、味の素スタジアムなど、さまざまなグラウンドの芝生を管理している、グラウンドキーパー・池田省治さんのインタビューをご紹介しました。今回は、放送しきれなかった部分も含め、まとめ直したインタビューの後編です。サッカー好きの方も、最近芝生の上でゴロゴロしてないな〜、という方も、ぜひご覧ください。(聞き手・番組D、作家)
前編はこちらから!

ここで基本的なことなんですが・・・人工芝と天然芝の違いを教えてください。
池田さん)人工芝は、傷まないのでたくさん使えます。天然芝は、「傷むところ」がいいところです。スライディングしたときに、芝が傷むから、人間が傷まない。使って傷んだのであれば、一生懸命芝のよさが出たんだな、と思えばいいだけです。

番組D)選手がゴールしたときに、膝をついてスライディングすると、芝が剥がれますよね。試合を観ていて、あれはよくないと思っていました。
池田さん)喜びを表現して、膝で滑るぶんには、そんなに傷まないんですよね。それが、万が一傷んだにしても、我々は、選手が最高のパフォーマンスが出来て、観客にとって思いっきり感動が生まれれば構いません。そのために作っているようなものですから。意味のある動きであれば、全然問題ないですね。
番組D)それは意外でした!では、海外と日本の芝生の違いはありますか?
池田さん)ヨーロッパやアメリカは芝生の文化がある、ということが挙げられます。例えば、プロのトップチームが使う芝生から、小学校・幼稚園の芝生、公園の芝生まで、ちゃんとピラミッドになっています。一方、日本の場合は、Jリーグで使ういい芝生はあるけれど、その「下」がありません。したがって、日本には芝生文化が根付いていないんです。

作家)実は今回久しぶりに、芝生を見た気がします・・・
池田さん)それが寂しいところですね。基本的にヨーロッパやアメリカの子どもたちは、スポーツは芝生の上でするものである、と。日本の場合、今はだいぶ少なくなりましたが、「芝生内に入るな」という看板がありましたよね。しかし、スポーツの芝生や公園の芝生は、「見るもの」ではなく、「使うもの」だと思っています。
今、日本サッカー協会では、この(JFA夢フィールドの)グラウンドを作ったポット苗で、遊べる芝生をたくさん作ろうと、「グリーンプロジェクト」を立ち上げました。今のところ、サッカーコートでいうと、約260面の広さの芝生を作りました。これからももっと増やしていきたいと思っています。
ちなみに、イギリスでは、スポーツができる芝生は何面ぐらいあるかご存知ですか?
番組D)う〜ん、わかりません(笑)!
池田さん)だいたい2万面あるのに対し、日本はまだ2千面強です。それだけイギリスは芝生が当たり前、ということなんです。例えばドローンで空撮すると、日本は四角い砂漠、つまり土のグラウンドがまだまだ多いですね。
今、池田さんは、学校の校庭の芝生化にも取り組まれていると伺いました。
池田さん)まずは幼稚園や保育園からスタートしました。今、島根県や滋賀県のとある町では、7〜8割の小学校で芝生化されています。
実際に、芝生の校庭を使った子どもたちの反応はいかがでしたか?
池田さん)一言で言えば、「笑顔」ですね。メリットとしては、怪我をしにくいということ、土踏まずが形成されること、浮き指が少なくなる、といったことが挙げられます。
今の若い選手は、子どもの頃から芝生に触れていますが、昔と今で違いはありますか?
池田さん)小さい頃から、いろんな絨毯(芝生)の上で遊んで、上手くなって、さらにいい絨毯の上でプレーしていくと、良い選手ができると思います。たまに、ピッチがよくなかったので上手くできなかった、という選手がいますよね。そういうときに、報道関係者は、相手も条件が同じでしょう、と言うんですが、それはもう少しよく考えてみると、子どもの頃からいろんな芝生に触れていれば、多少ピッチがよくなくても、身体が覚えているのでプレーできちゃうんです。そうすれば「ピッチが悪かった」という言葉が出づらくなるんです。なので、ああいう言葉を聞いたときには、私も含めて、そういう環境を用意できなかった自分たちが恥ずかしいんだ、と思っています。
今後、サッカーの試合を観るときに、こんなところに注目して欲しい!というポイントはありますか?
池田さん)よく、しましまに見えるグラウンドがありますよね。あれは、草がどっちに倒れたか、です。草が手前に倒れていると影になって、暗く見えます。反対に倒れていると、光が反射して、淡い色に見えます。英語では「ダークライト」という表現をします。

池田さん)なぜ、濃淡をつけているかというと、見た目の問題です。テレビで放送したときや、写真を撮ったときに、立体感をつけるためです。一面同じ緑だと、ベタっとして立体感が生まれないんですね。したがって、我々はまず、試合会場で、メインカメラの位置に立ってデジカメで写真を撮って確認しています。問題は、あまり色が濃すぎると、つまり草を倒しすぎると、ボールの転がりが変わってくること。なので、やりすぎない程度にほどよく濃淡をつけるのが一番の理想です。
そういう意味では、ボールの転がりを考えると、草の向きを変えない方がいいのかもしれませんが・・・競技場において、大切にしなければいけない順番があると、私は思っています。1番は選手。2番はお客さん。3番はスタッフ。ということから、2番目となるお客さんや、テレビの放送、スポンサーのことを考えて、作業をしています。
最後に、池田さんの今後の目標を教えてください!
池田さん)芝生のグラウンドをたくさん作ると同時に、傷んだところをすぐ回復できるスタッフを育成していかなければいけないと考えています。今後は、人材を育てながら、子どもが遊べる芝生の面積を増やしていきたいというのが今後の夢ですね。その結果、日本にも芝生文化ができるのではないか、と思っています。

<おわりに>
インタビューや撮影に、笑顔で応じてくださった池田さん。サッカーに疎い作家ですが、お話を伺っていて、池田さんの「芝」に対する熱い思いが伝わってきて、選手たちからも絶対の信頼が寄せられているんだろうな、というのを強く感じました。
JFA夢フィールドには、池田さん、そしてスタッフのみなさんの「芝愛」と「夢」が詰まっていました!みなさんもぜひ、今後は「芝生」にも注目して観戦してみてください。池田さん、本当にありがとうございました!