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ザトウクジラに向き合って10年〜沖縄の海で起きた奇跡

2022/7/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、沖縄在住のフリーダイバーで写真家の「篠宮龍三(しのみや・りゅうぞう)」さんです。

 篠宮さんは1976年、埼玉県出身。人間で初めて素潜りで100メートル超えを達成したジャック・マイヨールに触発されてフリーダイビングの道へ。国内唯一のプロ選手として、世界を転戦し、2010年に115メートルというアジア記録を樹立。

 そして2016年に第一線を退いたあとは、沖縄で現役の頃から続けていた、フリーダイビングのスクールや大会を運営。さらに「ONE OCEAN〜海はひとつ」をテーマにした活動もされています。ホームの海は宜野湾だそうです。

 そんな篠宮さんが先頃、『HERITAGE(ヘリテージ)』という写真集を出されました。この本は、沖縄近海で捉えたザトウクジラだけを掲載した写真集で、篠宮さんにとっては記念すべき1冊目の写真集です。

 水中写真は現役の頃から撮っていたそうですが、野生の生き物が相手の撮影は、競技よりも難しいとのこと。酸素ボンベはつけずに、重いカメラを持って潜る、一息1〜2分の勝負なので、いい写真が撮れた時の感慨はひとしおだそうです。

 きょうは、10年撮り続けているザトウクジラへの思いと、海中での驚きのエピソードなどお話しいただきます。

☆写真:篠宮龍三

篠宮龍三さん
篠宮龍三さん

HERITAGEに込めた思い

※改めて、この『HERITAGE』という写真集を出そうと思ったのは、どうしてなんですか?

「10年ぐらい、ホエールスイムというんですけれども、冬の間、沖縄にやってくるザトウクジラと一緒に泳いだり、撮影をしたりということにチャレンジしてきたんです。10年前は、なかなかやりかたもわからずに、相手は野生動物ですから、どうやって向こうの機嫌を見極めて、うまくアプローチをして撮影をしたりとか、そういうことがまったくわからなかったんですね。

 ここ2〜3年で、うまく撮れるようになってきましたし、もしかしたらですけど、ザトウクジラ全体の数が増えているような感じで、より見やすくというか、アプローチしやすくなってきましたので、ひとつ10年という区切りで形に残しておきたいなと思って写真集を作りました」

●撮影場所は沖縄の海のみなんですか?

「はい、沖縄の北部と奄美と、あとは八重山のほうですね。だいたいこの3箇所で撮影しています」

『HERITEGE』

●「HERITAGE」というタイトルに込められた思いは?

「沖縄本島北部と八重山と奄美大島は、去年世界遺産に登録されましたよね。その世界遺産は、英語でいうと”WORLD HERITAGE”ですよね。そこからワンワードもらって”HERITAGE”というタイトルにしたんですけれども、日本語に訳すと多分、伝承とか継承とか、後世に残すという意味があると思うんです。

 10年撮ってきて、この先の10年もやっぱりクジラたちが安心して、また沖縄の海に毎年毎年戻って来てくれるようにという、そういう思いを込めて”HERITAGE”という名前をつけました」

●ザトウクジラは一年中、沖縄の海にいるわけではないんですよね?

「そうなんですよ。夏はロシアとかアラスカのほうにいて、いっぱい餌を食べて、身体を太らせて、春になると沖縄に南下して来て、出産とか子育てとか繁殖活動を行なって、それで3〜4ヶ月経ったら、また北のほうに帰っていくっていうことの繰り返しをしているんですね」

●撮影しようと思っても、そんなにいつもは出会えないっていう感じなんですね。

「(出会えるのは)冬の間、3ヶ月くらいですかね」

モノクロ写真は肌の色!?

※この写真集『HERITAGE』は全編モノクロ写真なんですが、あえてモノクロで表現したのはどうしてなんですか?

「クジラの肌というか、地肌がやっぱりモノクロなんですよ。黒と白とそれからグレーの部分があるという感じなんですけども、その色そのものを出すには、写真をモノクロにしてしまったほうが、より雰囲気としては近づけるなというのもありますし、青い海に浮かんでいるクジラってとても綺麗だと思うんですけれども、それほど海は青くはないんです、実は。沖縄の海は結構プランクトンが豊富で、ちょっと緑がかっているんですね。

 見た目をよくするために、編集でどんどん青くしちゃったりとか、映える写真にしてしまうんですけど、それだと本質というか、本来のクジラの肌の色は出なくなっちゃうかなとも思いました。見た目が華やかな写真も素敵だと思うんですけど、クジラのそのものの色を出したいなと思って、モノクロで仕上げました」

写真:篠宮龍三

●なるほどー。写真を見ると、かなり近づいて撮影されているように感じるんですが・・・?

「そんなに近づきすぎるとすごく嫌がるんですよね。野生動物ですし、警戒もしますし、こっちに来るなっていうふうに腕を振ってくる時もあります。
 だから、そういうふうにストレスを与えるようなことはしたくないなって思って、レンズを変えたり、ちょっと望遠気味のレンズを使ったりして、寄ったような写真にしているという感じです。そんなにすぐ近くまでは寄らないように気をつけていますね」

●一日かけて撮影に臨むとして、だいたい何頭くらいに出会えるんですか?

「そうですね。いちばんピークの時期、3月中旬とかなんですけれども、5頭から10頭という感じですかね。まあ1頭会えればいいという時もあるし、1頭も会えないという時もありますので、やっぱり自然相手のものだなと思いますね」

表情は目に現れる

※これまでに出会ったザトウクジラで、いちばん大きな個体は全長、何メートルくらいですか?

「おそらく15メートルは超えていると思いますね」

●えーっ、15メートル! 怖くないですか? 

「やっぱり15メートルを超えてくると、かなり大きな部類に入ってきますし、水中では屈折率の関係で物が1.4倍に見えるんですよ。なので余計大きく見えるんですね。そういうかなり大きな個体に会った時は、圧倒されて怖くなりますね」

●それはそうですよね〜。ザトウクジラと目が合うこともあるんですか?

「もちろん! やっぱり目を見て、相手の様子をうかがうことが、まず大事だと思っているんですよ。目に表情が現れるんですね、意志というか感情というか。怒っているとか近寄るなとか、受け入れてくれているとかね。

 そういうのがすべて目に現れるので、まず目を見て確認をして、もう少し寄っても大丈夫かなとか、これはもう引いた方がいいかなとか。特に子供を連れている、子育てしているお母さんクジラは、神経質になっている場合がありますので、そういう時は離れて見守るとか、そういうこともしていますね」

写真:篠宮龍三

●目でわかるんですか。すごい!

「まあそうですね。やっぱり同じ哺乳類ですし、ガッと(目を)見開いている時は、怒っていたり驚いていたりとか、そういう状態なので、そういう時は離れるようにしますね」

●ザトウクジラって、近くにいる人間を認知して、大きなヒレが当たらないように避けてくれた、なんて話も聞くこともあるんですけど、そういうこともあるんですか? 

「そうですね。とても繊細な生き物なので、間違ってぶつかっちゃったりとか、そういうことは、ほとんどないんですよね。すごく大きな巨体で、胸ビレの長さだけで4メートルくらいあるんですけど、それでもぶつからずにうまく身をかわして避けていくので、すごいなって思いますね」

●撮影中に心がけていることはありますか?

「やっぱり海の中ですから、自然相手の野生動物相手なので、安全に行って帰ってくることをまず大事にしています。それと相手にストレスをかけすぎないっていうか、追いかけすぎないようにしてますね。

 親子クジラだと、お母さんクジラがちょっと神経質になっている場合もあるし、子供のほうが逆に興味を持って寄って来てしまうこともあるし、そういう時は逃げないといけないですけどね。そういうふうに向こうの機嫌もよく見ながら、あまり嫌な思いをさせないようにと考えていますけどね」

ザトウクジラの歌

※ザトウクジラは「歌うクジラ」としても知られていると思うんですが、篠宮さんは、ザトウクジラの歌を聴いたことはありますか?

写真:篠宮龍三

「はい、歌うクジラのことを”シンガー”っていうんです。冬になると、素潜りのトレーニングや講習中によく水底で聴こえてくるんですね。その声がとても、なんというか、切ないというか、狂おしいというか、そういう歌声なんです。

 仲間を呼んでいるとか、いろんな説があるんですけれども、オスが歌うので、メスに対して歌っているという説も昔はありましたね。最近では、オスがほかのオスに歌っているとか、オスが小さい子クジラに歌っているとか、そういう研究もあるみたいですね」

●どういう歌声なんですか?

「低い音が多いですかね。唸るような、牛さんが水中で唸っているような感じなんですけど」

●へぇ〜!

沖縄で有名なザトウクジラ

※ザトウクジラの撮影中に遭遇した印象的な出来事ってありますか?

「沖縄に毎年戻ってくる”Z(ゼット)”っていうクジラがいるんです。沖縄でホエールウォッチングとかホエールスイムをしている人の間では、とても人気のある有名なクジラなんですね。そのクジラをどうしても何年もかけて撮影していきたいなって思うようになって、ようやくここ数年撮れるようになったんです。

 普段そのZは、けっこう走り回っていることが多くて、早いんですよ、スピードが。ほかのメスを追いかけていたりすることが多いんですけれでも、たまたま止まっていることがありました。これはすごくラッキーだなって思って、今年何回か止まっているZを撮れたんです。
 向こうもこちらの存在に気がついて、くるっと振り返って向かい合わせのような形で向き合っちゃったんですね。もうすごくびっくりしまして・・・。

 向こうもとても興味を持ってくれたというか、嫌がらずにずーっと何秒か停止してくれました。その瞬間は撮影じゃなくて、どういう機嫌なのかなとか、どういう目をしているのかなとか、もっと探って仲良くなりたいって言ったら、ちょっと変ですけど、もっと自分の肉眼で見て、その場の空気とかその感覚とか時間を感じたいな、共有したいなと思いましたね」

写真:篠宮龍三

●Zと呼ばれるようになったのは、どうしてなんですか?

「尾ビレの右側にアルファベットのZみたいな文字が、文字のようにみえるキズが刻まれているんですよ。たぶん岩場とか珊瑚礁で擦れたあとだと思うんですけれども、それで通称Zってみんな呼んでいるんです。30年ほど前から毎年、沖縄に来ているみたいなんですね。とても古株というか身体もすごく大きいですし、とても見応えのあるクジラなんですよ」

●どれくらい大きいんですか?

「やはり15メートル以上はあると思いますね」

●わぁ〜!

ONE OCEAN〜海はひとつ

※長年、海と関わっている篠宮さんは、海の変化も感じていて、特にここ数年、沖縄の海の水温が高くなっていることと、海洋ゴミの問題を危惧されています。

 活動のテーマにもなっている「ONE OCEAN〜海はひとつ」というメッセージには、どんな思いが込められているのか、改めて教えてください。

「プラスチックゴミとかビニールのゴミは、海中に漂ったり浮かんだりして、いろんな国に流れていってしまうんですよね。自分が住んでいる沖縄でも、文字を読むと隣の国のゴミがあるなと思いますし、こっちでも出しているゴミが太平洋のほうにも行ってしまっているでしょうし、それはもうお互い様だと思うんですね。

 やっぱり(海は)ひとつにつながっているからこそ、大切にしていかなければいけないと思いますよね。海がなければ、地球の気候というのは安定しないですし、海がすべての生き物のルーツでもありますから、海に感謝して大切にしていかないといけないなと思いますね」

☆この他の篠宮龍三さんのトークもご覧下さい

写真:篠宮龍三

INFORMATION

『HERITEGE』

『HERITEGE』

 篠宮さんの初めての写真集です。沖縄の近海で10年撮り続けているザトウクジラだけの写真集。全編モノクロ写真だからこそ感じるクジラの迫力、その雄大さに圧倒されます。静寂さも感じますよ。沖縄では有名なZと呼ばれるザトウクジラの写真も掲載、見応えのある重厚な写真集です。ぜひご覧ください。お買い求めは篠宮さんのオフィシャルサイトから、どうぞ。

 篠宮さんが案内する各種ツアーもありますよ。8月は世界遺産の沖ノ島・玄界灘ツアーや小笠原ツアーなど。また、フリーダイビングのスクールも随時開催。詳しくは篠宮さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎篠宮龍三さんHP:https://apneaworks.com

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