毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

2024年3月のゲスト一覧

2024/3/31 UP!

◎増本幸恵(「リトルギフトブックス」の代表)・近藤純夫(ハワイのスペシャリスト/エッセイスト)
「ありがとう マウイ」〜大災害に見舞われたマウイ島への思い』(2024.3.31)

◎相場大佑(公益財団法人「深田地質研究所」研究員/古生物学者)
アンモナイトは「巻貝」の仲間ではありません〜謎だらけのアンモナイトに迫る!』(2024.3.24)

◎北澤 功(東京都大田区で動物病院を営む獣医師)
家庭で飼えない動物を飼ったら、1日いくらかかるか、「妄想」しましょう!』(2024.3.17)

◎江口亜維子(千葉大学・予防医学センター特任研究員/「エディブルウェイ」の代表)
エディブルウェイ=食べられる道〜人と人、人と町の「つながり」をつくる景観〜』(2024.3.10)

◎塚田英晴(麻布大学・獣医学部の教授)
あなたが知らないキツネの世界〜コンコンとは鳴かない!?』(2024.3.3)

「ありがとう マウイ」〜大災害に見舞われたマウイ島への思い

2024/3/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「リトルギフトブックス」の代表「増本幸恵(ますもと・ゆきえ)」さんと、ハワイのスペシャリストで、エッセイストの「近藤純夫(こんどう・すみお)」さんです。

 「リトルギフトブックス」は、もともと編集者だった増本さんが、いま世の中に出しておくべき本、贈り物として届けられる本を出していきたいという思いで、去年の3月に鎌倉で立ち上げた出版社です。

 増本さんと近藤さんは、「アロハスタイル」という雑誌の創刊号からの付き合いで、20数年前に最初の取材先としてマウイ島を訪れ、世界最大級の休火山とも言われるハレアカラにも行ったそうです。

 近藤さんはハワイの伝統や文化、歴史、そして自然、特に植物に精通した、まさにハワイのスペシャリストで、この番組の初出演は1995年6月、その時はケービング、つまり洞窟探検のスペシャリストとしてお話をうかがいました。ちなみに火山島のハワイの島々には洞窟がたくさんあって、近藤さんは以前は、洞窟探検のためにハワイに通っていたそうです。

写真協力:リトルギフトブックス

 ハワイは数多くの島や環礁からなる諸島で、おもな島はワイキキのあるオアフ島やビッグアイランドと呼ばれるハワイ島を含め、魅力的で個性的な島が6つあります。そのうち、ハワイ島に次いで2番目に大きな島、マウイ島で昨年8月8日に大規模な山火事が発生、ラハイナという街が焼失してしまったのは、記憶に新しいことだと思います。

 そんなマウイ島の復興支援のために、今年2月に『Dear Maui マウイを巡る12の物語』という本が発売されました。

 今週は、その本を出版した増本幸恵さんと、企画の段階からサポートされた近藤純夫さんをお迎えし、マウイ島への思いや、その後の状況などについてうかがいます。

☆写真協力:リトルギフトブック

マウイへの思い

※「リトルギフトブックス」から出版された『Dear Maui マウイを巡る12の物語』、この本を企画したのは、増本さんなんですよね?

増本さん「企画したというよりも・・・日本で夜、ニュースを見ていたら、マウイの火災のことが飛び込んできまして、本当にどうしようと思って、わなわな震えるような感じでした。まずは、どこに寄付をしたらいいのかを相談しようと思って、近藤さんにメールを送ろうとしていたんですね。

 そのメールの文章を考えて打っている時に、いや、待てよと・・・。私は出版社を立ち上げたばっかりなんだから、もしこれを本にすることができて、それを復興支援に充てられたら、お金もそうですけれども、その本を見てくれた人の気持ちもマウイに向くし、そんなことができないかなと思ったんですね。

 その思いを文章にして、近藤さんにメールでお送りしたんです。そしたら確か夜10時過ぎていたと思うんですけれど、5分も10分経たないうちに近藤さんからお電話をいただいて、よし、やろう! っていうふうに言ってくださったので、企画がスタートしてというよりも、思いつきで走り出したという感じだと思いますね」

増本幸恵さん

●近藤さんは、増本さんからお話を聞いて、いかがでしたか?

近藤さん「災害がかなり激しかったので、これは街のレベルとかハワイ州のレベルを超えて、アメリカ合衆国自体がバックアップしないと、到底復興できないだろうなと感じたんですね。ハワイは、復興基金というのをすぐに立ち上げまして、この復興基金のことを知っていたので、増本さんから相談があった時に、これを寄付するという形が最もストレートに現地に伝わるんじゃないだろうかっていうお話をしました」

(編集部注:本作りの資金は、クラウドファンディングを募り、結果、156名のかたからの支援があったそうです)

※この本には、12名のかたが原稿や写真を寄せていらっしゃいます。みなさん、お知り合いだったんですか?

近藤さん「メンバーのうちの3分の2ぐらいは僕の知り合いでもありますので、直接お願いする形を取ればよかったんですが、やっぱりこの企画の発起人は増本さんなので、増本さんを通じて、みなさんに依頼を差し上げたという形です。みなさん、ふたつ返事で、すぐにやるよ! って言ってくださったのはすごく感謝ですよね。

近藤純夫さん

 ラハイナの災害というのはよく知られているんですけれども、実はこの火災はラハイナだけじゃないんですよ。ラハイナの北の街でもあったし、南の遥か離れたところにもありましたし、なんとハワイ島にも起きたんですね。相当離れたところに広範囲に火災が起きていたんですけれども、その中でもマウイ島はかなりの場所で火災が起きましたので、島全体も含めてラハイナを応援したいなというのがまず基本にありました」

●増本さんは12名のかたからそれぞれ原稿があがってきて、編集者としてどんなお気持ちでしたか?

増本さん「12名の中でいちばん最初に写真をあげてくださったかたが、佐藤秀明さんという写真家のかたなんですね。写真とエッセイをいただいたんですけれども、そのエッセイのいちばん最初が『ありがとうマウイ』っていうひとことで始まっていたんです。それを見て涙が出そうになって・・・。

 その後、みなさんからいろんな原稿が届く中で、なるほどなって・・・みなさん『ありがとうマウイ』っていう気持ちで書いてくださったり、寄せてくださったんだなっていうのがわかったので、そこからスムーズに、例えば順番だったり写真の選び方だったりっていうのは、本当にスムーズに流れていきました。写真家さんにしてもテキストを書くかたも全然個性が違うので、すごく面白かったです。編集自体はとっても面白かったですね」

(編集部注:『Dear Maui マウイを巡る12の物語』に原稿や写真を寄せている12名のかたはボランティアという形で協力されています)

歴史的にも重要な島

※近藤さんはマウイ島、そしてラハイナにもよく出かけていたんですよね?

近藤さん「仕事柄ハワイのことをやっていますので、等しくいろいろな島に行きましたけれども、マウイ島は・・・僕は中でも植物のことを結構よく本にしていまして、その先生がマウイ島にいるんですね。なので、一般には行かないマウイ島の素顔みたいなものをいろいろと教えていただいたこともあって、思いはたくさんありました。
 ラハイナは兎にも角にも昔のハワイ州の首都ですから、そういう意味でもいろいろと象徴的なものがたくさんあったところなんですよね。それがすっかりなくなったことには相当ショックを受けました」

写真協力:リトルギフトブックス

●改めてマウイ島はどんな島で、ラハイナはどんな町だったのか、教えてください。

近藤さん「ラハイナは先ほど言いましたように、かつてハワイ州の首都だったんですね。首都っていうことは国だったわけですけど、国である前の、まだ伝統文化の社会の時代からいちばん大事な場所だったんですね。それはハワイ諸島の右側、つまり東側に当たるところに大きなハワイ島という島があって、左側の日本側になる西側には小さな島がいくつも連なるんですけど、(マウイ島は)ちょうどその真ん中にあるんですよ。

 だから、このマウイ島を制するものは全部の島々を制するみたいなものが、ずっと伝統文化の時代にあったんですね。厳密にはマウイ島の左端にあるラハイナと、右端にあるハナという街、このふたつが最も重要な街だったんですね。

 なので、ここからいろんなものが始まっていますし、それから現代になって、つまり国が、ハワイ王国というのが作られた後からも、ハワイで最初に文字が・・・ポリネシアって文字がないので言葉だけなんですけど、最初に文字が作られたところなんですよ。

 その文字を学んで、いわゆる識字率と言って、読んだり書いたりできる人たちは、当時アメリカ合衆国全体でも2番目に高かったという場所なんですね。そういう伝統的にも文化的にもハワイの象徴と言える街だっていうのがあって、ハワイの人たちにとってラハイナは特別な場所だったんですよね」

(編集部注:近藤さんによれば、さとうきびから砂糖を作る産業に多くの日本人移民が関わっていた歴史があり、明治から大正にかけて、ラハイナに暮らしていた人たちの半分以上が日本人だったそうです。ハワイと日本の結びつきを感じますよね)

写真協力:リトルギフトブックス

※増本さんは初めてマウイ島に行った時は、どんな印象を持ちましたか?

増本さん「行くまでは本当にハワイのイメージは、いかにもワイキキなイメージだったんですけれども、例えばハレアカラは、圧倒的なスケールで迎えてくれましたね。それからハナのほうに行くと全然違う景色で、緑が豊かで田舎の漁村のような雰囲気も残っていて、そしてちょっと行くと素敵なリゾートホテルがあったりという、すごく面白い島ですね。でもなんていうか、地球の鼓動というか、ハワイ島とも違う営みを感じました」

忘れてほしくない

※増本さんはマウイ島に、お知り合いはいらっしゃるんですか? 

増本さん「例えば今回の著者のひとり、岡崎友子さんはマウイ島にお住まいで、ご自分でも支援活動に回っていらしたんですね。みなさん、火災のあとは無事に過ごされているんですが、最初に聞こえてくる声と今聞こえてくる声は随分違っています。

 初期の頃はとにかくメディアの人たちが、日本に限らず世界中のメディアの人たちが、悲惨なラハイナを撮りたい、聞きたいというオファーがすごくあって、困ったっていう声が聞こえてきたりしていたんですが、だんだん落ち着いてきました。今お話をしていると、復興は進んでいるそうですが、問題もいろいろあるようです。

 こんな本を作ったよ! ってお伝えすると、すごく喜んでくださるんですよね。
というのも、もう7か月ぐらい経ちますけれども、世界の人はラハイナに火事があったことを忘れかけているんじゃないか、自分たちのことは忘れられているんじゃないかって、なんとなくうちひしがれているところに、日本でこんなに応援してくれている人がいることに勇気づけられたっていう声を聞きます」

●近藤さんの知り合いのかたは、みなさんご無事でしたか?

近藤さん「レストランを経営している友達とか、先ほど言いました学者のかたとか、いろいろと(知り合いが)いまして、地元で長く暮らしているんですけども、多くのかたがやっぱり増本さんが言われるように、忘れて欲しくないというのは、強い思いとしてあるんですね。でも一方で、我々日本人も正月から能登の大災害を見たりして、やっぱり災害は次々起きるので、そうするといつも同じ気持ちを持ってということはできませんよね。

 で、思ったのが、増本さんとも強く話をしたんですけども、本という形を取って、我々は物書きだったり写真家だったりするわけですから、その持っているパワーでできることをしたい。でもそれがすぐ消えてしまうような類いの本であってはよくないんじゃないかと・・・。ずっとわずかであっても、そう言い続けることができるような立ち位置の本を出したいという気持ちが強くありました。

 それを伝えたところ、本という形でこれが残るっていうことはすごくいいことだと言っていただいてはいます。なので、その気持ちも大切に、またハワイに関わっていく身としては、これからも忘れずにマウイという島を見続けていきたいなっていうのは、今の偽らざる気持ちです」

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

大火災の原因は?

※去年8月8日に発生したマウイ島の山火事、その原因は特定されたんでしょうか?

近藤さん「特定はされていませんけれども、ほぼという形で一応言われているのが火の不始末です」

●火の不始末?

近藤さん「ハワイは、この大火災で世界中に知られましたけど、山火事は毎年起きています。それがいろいろな悪いタイミングで重なったために大きな災害となったんですけれども、その8割が人の火の不始末と言われています。その不始末のうちのしかも半分以上が観光客じゃないかと言われているんですね。だから我々にとっては他人事ではないということですよね」

●やっぱり気候変動による乾燥とかも影響しているんですか?

近藤さん「それもあるとは思います。ハワイはすごくざっくりと言うと、島の右上と左下で気候が全く違うんです。なぜかというと、広い太平洋を北東側から、つまりアメリカ大陸の側からずーっと湿った風が来るんですけれども、山に当たると全部雨で落ちるんです。

 だから地図の右上は緑が生い茂っているんですけど、山を越えると、もともと乾燥しているんです。だから火事は起きやすいんですね。右上では起きないけど、左下では起きる。でも悪いことばっかりじゃなくて、左下は晴れていることが多いってことですから、リゾート地はどの島でも左下にあるんですね」

●なるほど・・・。私もフラダンスを習っていて、フラの仲間とみんなで寄付させていただいたんですけれども、焼失から7ヶ月余り経ってラハイナの復興は、現状はどういう感じなんでしょうか?

近藤さん「まずラハイナと、それからその隣にあるカアナパリとか、さらに上にはカパルアという町がありまして、下のほうには街はそれほどないんですけども、この周辺はほぼ被災しているので、焼け残ったものもわずかながらあるんですが、ホテルを含めてそれはすべて避難所になったんですね。

 だからラハイナにあるホテルで残ったものは、すべて今は避難されているかたが住んでいます。で、カアナパリはラハイナと比べると、もうちょっと大きい街なんですが、ここは被害がラハイナほどではなかったので、ラハイナの住民はここに避難しているかたが多いです。カアナパリから順にホテルの運営を再開しているんですが、それはなぜというと、避難民のための建物を作って、そこに移動できたから(ホテルを)やっているわけですよね。

 ではラハイナはどうだったのか? っていうと、なかなかそう簡単にいかなくて、まずは避難民の落ち着く先がないとどうにもならない。しかも建物が少ないということで、なかなかできなかったんですけど、先月からまずカフェとレストランとがひとつふたつと再オープンしているところで、まだこれからですね。相当先になると思います」

●観光で訪れることができるのは、いつぐらいになりますか?

近藤さん「訪れられます。今も大丈夫ですよ。焼け野原になっていますけども、シャットアウトはしていませんので訪れることはできます」

●そうなんですね。

近藤さん「はい。ただ宿泊施設はないので、そこはどっか遠くから車で移動して、また戻るみたいな形になると思います」

マウイストロング基金

※本の売り上げは、寄付されるんですよね? そのあたりのお話を少し詳しく教えてください。

増本さん「はい、売り上げから利益の分をすべて寄付させていただきます」

●寄付する先は決まっているんですか?

増本さん「はい、マウイストロング基金という地元の支援団体がありまして、そこにとは思っているんですけれども・・・」

近藤さん「もうちょっと詳細にお伝えしますと、マウイストロング基金っていうのは、ハワイコミュニティ財団っていうところが運営しているんですね。これは突然作られたものではなくて、もう100年以上こういう活動をしていまして、すごく長い歴史を持っているんです。
 年間の予算もすごくて、そういうところなもんですから、ハワイ州政府も観光客も含めて、すべてここを起点にして動くようにできているので、ここがいちばん確かだろうということで、我々も(寄付する先を)ここにいたしました」

●そうなんですね。おふたりそれぞれにおうかがいしたいんですけれども、改めてこの本『Dear Maui マウイを巡る12の物語』を通して、どんなことを伝えたいですか? では増本さんからお願いします。

増本さん「なんでしょう・・・私は本当にマウイを好きになってもらうのがいちばん嬉しくて、私が知っていたマウイと、この本を通して知るマウイは全然違うというか、知らないことばっかりだったんですね。なので、この本を見ていただいて、みなさんもマウイを好きになってもらって、マウイに行ってもらうのがいちばん嬉しいです」

●近藤さんはいかがですか?

近藤さん「マウイは観光地としては特別によく知られているところで、結構、長期滞在されるかたの多いところなんですね。でも、逆に言うと歴史とか自然とかそういったものは、あまり多く語られてこなかったところがあります。

 大災害が起きましたけども、これを機会にマウイをリピーターのかたにはもうちょっと深く、新しいかたには観光地の象徴となるラハイナがなくなったことで、これから再建されますけれども、観光地というのをまた違う目で見ていただけたらいいなと思っています。この本がそういうことにはとても役立つと思っていますので、ぜひみなさんに読んでいただきたいなと思っています」

☆この他の近藤純夫さんのトークもご覧ください


INFORMATION

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

『Dear Maui マウイを巡る12の物語』

 今年2月に出版された、マウイ島の復興支援のためのこの本には、近藤さん始め、写真家の佐藤秀明さんや高砂淳二さん、フリーライターの今井栄一さん、ハワイ研究家の平川享さん、そしてオーシャンアスリートの岡崎友子さんほか、合わせて12名のかたが原稿や写真で、マウイ島への思いを寄せていらっしゃいます。本の収益はすべてマウイストロング基金に寄付されます。

 お買い求めは「リトルギフトブックス」のオフィシャルサイトから、どうぞ。

 なお、本の発売を記念して、鎌倉のブック&ギャラリー「海と本」で4月14日までフェアを開催中。また、代々木上原の「シティライトブック」でも、4月19日から24日までフェアを開催。ほかにも本屋さんやフラの大会でブースを出店する予定だそうです。

 詳しくは「リトルギフトブックス」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎リトルギフトブックス:https://littlegiftbooks.com

オンエア・ソング 3月31日(日)

2024/3/31 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. HANOHANO ‘O MAUI / KEALI’L REICHE
M2. COUNT ON ME / BRUNO MARS
M3. OUR HAWAI’I / NA LEO
M4. BLUE HAWAII / ELVIS PRESLEY
M5. SLOW & EASY / 平井 大
M6. OVER THE RAINBOW / ISRAEL KAMAKAWIWO’OLE
M7. IN MY LIFE / KEALI’L REICHEL

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

アンモナイトは「巻貝」の仲間ではありません〜謎だらけのアンモナイトに迫る!

2024/3/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アンモナイト博士、公益財団法人「深田地質研究所」の研究員で、古生物学者の「相場大佑(あいば・だいすけ)」さんです。

 相場さんは大学院時代、訪ねた研究室で先生から本物の化石を手渡され、生まれて初めて触った、てのひらに載るアンモナイトの化石に猛烈に感動! 謎に包まれたアンモナイトの研究の道に進んでいらっしゃいます。そして、新種をふたつも発見するなど、若手の研究者として注目を集め、さらに巡回展「ポケモン化石博物館」の企画と総合監修を務めたことでも知られています。

 きょうはそんな相場さんに、アンモナイトはいったい何の仲間なのか、どうしてぐるぐる巻いているのか、海の中をどうやって移動していたのかなど、知られざるアンモナイトの生態についてうかがいます。

☆写真協力:相場大佑

相場大佑さん

アンモナイトはなんの仲間?

 相場さんは1989年、東京都生まれ。横浜国立大学大学院から北海道・三笠市立博物館の学芸員を経て、現職。専門は古生物学。特にアンモナイトの分類や進化、生態などを研究し、生物としての姿を解き明かそうとされています。

 そして先頃、新しい本『アンモナイト学入門〜殻の形から読み解く進化と生態』を出されました。

●表紙のアンモナイトのイラストを見て驚いたんですけど、アンモナイトって目とか口とか、あとこれは腕ですか? 数本の腕のようなものがあるんですね?

「はい、そうなんですよ。渦巻きの殻を持っているので、(一般のかたは)巻貝やカタツムリみたいな体をイメージされるんですけれども、実は(殻の中の)本体の化石ってなかなか見つからないんです。研究からこんな姿をしていたんじゃないか、腕がいっぱいあったり大きな目を持っていたりっていうことが、最近わかったりしています」

●巻貝だと思っていたんですけど(アンモナイトは)巻貝じゃないってことですか?

「はい、そうです。アンモナイトはこう見えても、実はイカとかタコの仲間なんです」

●イカとかタコとは、見た目も全然違いますけど・・・。

「イカとかタコのことを頭足類(とうそくるい)というんです。イカ、タコのほかに、オウムガイっていう生き物もいまして、殻を持った頭足類なんですけども、実はイカも殻を持っているんですよ、体に・・・。

 体の中にプラスチックのペラペラの棒みたいなのが入っていて、あれが実は貝殻の名残りだったりするんですけども、その貝殻が退化せずにこうやって残っていたのがアンモナイトです」

●表紙のイラストは、相場さんが発見されたアンモナイトをもとに描かれたと、うかがったんですけど・・・。

「そうですね。僕が学生時代に北海道で見つけたお気に入りのアンモナイトがあって、きょうは(それを)持ってきているんですけど・・・」

写真協力:相場大佑

●わぁ~〜ちょっと触ってもいいですか?  けっこうずっしりと重いんですね! 手のひらサイズの、ドーナツのようなベーグルのような形ですけれども、これがアンモナイトなんですね!

「そうですね」

●確かに渦を巻いていますよね。

「渦を巻いていて、殻が剥がれているところで、ちょっと内部構造が見えていたりとかして・・・」

●白地に所々に茶色いところがありますね。

「はい、そうですね。この白いところが殻で、この茶色のところが、殻が剥がれて内部構造が見えているところって感じですね。学生時代から北海道で調査したいんですけども、そこでこれ見つけて、ほとんどこの状態で川に落ちていて・・・」

●えっ! 落ちていたんですか?

「そうですね。で、拾って、うわ! すごい! と思って、一発ハンマーでボコってやったら、この形が出てきて・・・(笑)」

●えぇ~そんなに簡単にアンモナイトって発見できるものなんですか?

「そうですね。北海道には、アンモナイトが生きていた白亜紀の地層が広がっているところがあって、そこの流域の川をいくと、こういったアンモナイトはよく見つけることができたりします」

●今もすごく触りながら愛でている感じがありますけれども・・・(笑)

「持っていると落ち着くんです(笑)」

写真協力:相場大佑

どうして絶滅したのか!?

※アンモナイトという呼び名には、何か由来はありますか?

「アンモナイトっていう名前ですけども、もともと“アモン”っていう、古代エジプトの神様がいて、太陽神なんですけど、その神様の頭の部分に羊のツノみたいな渦巻き状のツノがついていたんです。アンモナイトが最初に見つかった時に、これはアモンの頭の部分なんじゃないかみたいなことが考えられて、”アモンの石”という名前でアンモナイトとつけられています」

●へぇ〜そういう由来があったんですね! アンモナイトは絶滅した、いわゆる古生物と言われている生き物ですけれども、どうして絶滅しちゃったんですか?

「アンモナイトが絶滅したのは、中世代・白亜紀末で、同じ時期に恐竜とか絶滅しているんです。それはなぜかというと、巨大な隕石が現在のメキシコのユカタン半島という所に落ちて、それがきっかけで地球全体の環境がガラッと変わってしまって、その環境変動に耐えられなくて絶滅してしまったというふうに言われています」

●アンモナイトはいつ頃、地球上に誕生したんですか?

「アンモナイトが誕生したのが、今からだいたい4億年ぐらい前です」

●4億年前に誕生して、そこから絶滅まではどれぐらい繁栄していたんですか?

「絶滅したのがおよそ6600万年前ですので、3億年以上にわたって地球上で
繁栄していたと言われています」

●化石の代名詞とも言えるのがやっぱりアンモナイトだと思うんですけど、世界中でこれまでに何種類ぐらいのアンモナイトが見つかっているんですか?

「アンモナイトは確かに化石の代名詞、なんかアイコンみたいな感じですね。世界中から化石が見つかっていて、今の時点で1万種以上、もしかしたら2万種近くかもしれないというぐらいの数が見つかっています」

新種アンモナイト
新種アンモナイト

●みんな渦を巻いて、基本的な形は同じ感じなんですか? 何がそんなに違うんですか?

「渦を巻いているのが基本ではあるんですけども、異常巻きアンモナイトっていう少し巻きがほどけたものとか、そういったものもあります。巻いているってひとことで言っても、殻が横に膨れてぶっとくなっていたりとか、円盤のようにぺっちゃんこになっていたりとか、それから突起が付いていたりとか、殻の表面にそういう装飾があったりとか、いろんな特徴によってアンモナイトは分類されています」

ぐるぐる巻きの理由

※アンモナイトはイカやタコ、そしてオウムガイの仲間ということなんですが、見た目でいちばん似ているのは、オウムガイ・・・ですよね。ということは、アンモナイトを研究する上で、生きているオウムガイを参考にすることも多いですか?

「そうです。まさにその通りで、実は系統でいうとイカとかタコのほうに近い、オウムガイはちょっと親戚関係としては遠いんですね・・・なんですけれども、やっぱり体の外に殻を持っている頭足類という意味では、現在、生きているオウムガイが唯一になりますので、泳ぐ時の殻の挙動とか、研究する上ではオウムガイはすごく参考にされている側面があります」

オウムガイ
オウムガイ

●アンモナイトのいちばんの特徴でいうと、やっぱりぐるぐる巻いた殻かなって思うんですけど、そもそもどうしてぐるぐる巻きなんですか?

「実はアンモナイトの祖先は棒状で巻いていなかったです。さかのぼると巻いていなかった、ボールペンみたいな形の殻をしていたんですけども、それがある時に巻いて、アンモナイトが登場するわけです」

●どうして? 何があったんですか?

「それは、答えからいうとおそらく巻いていたほうが、泳ぎやすかったっていうのがあって、アンモナイトが登場した時代、古生代のデボン紀っていう時代なんですけど、その時代はたくさんいろんな種類の魚が登場した時代で、すごく速く泳ぐ魚とかが登場したんですね。そんな時にアンモナイトは食べられる側だったわけですけども、その食べられる側のアンモナイトも速く泳げたほうが逃れることができるということで、より巻いたものが残っていって、巻いた形に進化したと・・・」

●まっすぐなほうが速く動けそうじゃないですか?

「あ〜確かに、そんなイメージもあるんですけども、例えば私たちが頭に帽子をかぶったことを考えた時に、とんがり帽子をかぶると、たぶんすごく邪魔だと思うんですね。そのとんがっている部分が巻いてあったほうが頭が動かしやすい・・・なんていうんでしょう・・・コンパクトになっているほうが抵抗がないというか、海の中では邪魔にならない・・・。

 しかも、実はアンモナイトの殻の中に空気が入っていて、浮きの役割をしていたので、まっすぐだと浮きになっている部分が邪魔になってしまうというか、そういうのがたぶんあると思います」

●殻自体は硬いんですよね?

「殻自体は硬いです。普通の貝殻と同じです」

(編集部注:アンモナイトは、速く泳ぐためにぐるぐる巻きになったというお話でしたが、魚の歯形がついた化石も見つかっていて、ほかの生き物から身を守るために、丸い形になったとも考えられるそうです。
 また、色や柄は化石として残らないけれど、中にはその痕跡が残っている化石も見つかり、殻にストライプや点線、放射状の模様を確認できたそうです。

 そして、今まで見つかったアンモナイトの化石で最大のものは殻の直径がなんと! 2メートル50センチくらい、一方、小さいものは1センチにも満たないそうですよ)

殻の形で泳ぎが変わる!?

※アンモナイトは海の中をどうやって移動していたんですか?

「アンモナイトは、すごくいろんな形があって、その形ごとにけっこう生き方が違ったんじゃないか、みたいなことが最近言われていて、中にはもしかしたらあまり泳がなかった種類もいたかもしれない・・・なんですけど、それあとで説明するとして・・・。

 泳ぐものとしては、形によるんですけども、ディスクみたいな平べったいアンモナイトは、海の中を切るように一直線にぴゃーっと、速いスピードで泳いだかもしれないみたいなことが言われていたり、ずんぐりした丸っこいアンモナイト、(きょう)持ってきているやつよりも、もっと丸っこいボールみたいなアンモナイトもいるんですけども、そういうアンモナイトはあまり速く泳がない代わりに、いろんな方向に方向転換できて、泳いでいたんじゃないかと言われたりします。

 実は最近、アンモナイトのロボットを作って、そのロボットがどういう泳ぎ方をするか、みたいなことを調べた研究があって、そんなことがわかっています。で、泳がなかったんじゃないかなと言われているやつがいて、異常巻アンモナイトって呼ばれているちょっとヘンテコな形をしたアンモナイトなんですけども・・・」

●細長〜い渦みたいな感じになっているんですね。

「そうですね。ワインを開けるコークスクリューみたいな形をしていたりとか、それを限界まで引き延ばしたようなものとか、巻貝みたいな形のものとか、そういったものがいろいろあって、アンモナイトはもしかしたら、あまり泳げなかったんじゃないかなと・・・。アンモナイトが泳いでいる挙動を直接見ることはできないんですけれども、それこそ、今生きているオウムガイから推測することができますね。

 オウムガイがどんなふうに泳いでいるかっていうと、まず水を吸い込むんですよ。吸い込んだ水を筋肉を使って体の外に押し出すんですね。その時に漏斗(ろうと)っていって、管みたいなものがあって、そこから水をピューッと噴射するんです。それがオウムガイの泳ぎ方なんですね。

 アンモナイトもやっぱり同じように泳いだのではないかと言われていて、実際に漏斗の化石と思われるようなやつも痕跡が見つかっていたりとかするので、おそらくオウムガイと同じように水を吸い込んで、漏斗から噴射して、後ろの方向に進む、そんな泳ぎ方をしていたんじゃないかなっていう想像がされています」

(編集部注:相場さんによると、この10年くらいで見つかったアンモナイトの化石の中には、大きな目の痕跡が残っていて、視力の良さを推測できたり、殻の中にある内臓の胃の部分に、消化されていないミジンコやウミホタルの仲間「貝形虫(かいけいちゅう)」などの化石が見つかり、アンモナイトが何を食べていたのかも少しずつわかってきているそうです。

 また、アンモナイトにはオスとメスがいたということですが、どうやって繁殖していたのかはまだわかっていないそうです。孵化する前の卵の化石は見つかっているので、おそらくイカやタコのように大量に卵を産んで子孫を残す戦略だったと、考えられるということでした)

もっと知りたいアンモナイト

※アンモナイトのいちばんの魅力はどんなところですか?

「これ、難しいですね・・・(笑)。魅力はいろいろあるんですけども、いちばんっていうと、なかなか難しいですね・・・そうですね・・・やっぱりこれだけ数が見つかっていて有名な化石なのに、まだまだたくさん謎があるっていうことですかね。その体の、本体のことで言えば、足がおそらく10本だったんじゃないかって推測はされているんですけども、実際に足の化石は見つかっていなかったりするので、正確には足が何本かわからないとか、いろんな謎があります。

 1万種以上見つかっているって言いましたけども、今生きている現世の頭足類でイカ、タコが700種類なんですよ。でもイカ、タコってすごくいろんな形のものがいますよね。すごく大きいものがいたりとか、透明にスケスケになっているイカがいたりとか、いろんなイカ、タコがいて、それでも700種類なんですよ。

 だから1万種以上いるアンモナイトって、たぶん僕たちが想像できないような姿をしたようなやつも、もしかしたらいたかもしれないって思うと、すごくワクワクしますよね」

●まだまだ謎が多いということですけれども、今後解き明かしたいことって何かありますか?

「アンモナイトには謎がいっぱいありますけども、解き明かしたいことでいうと、例えば、異常巻きアンモナイト、ヘンテコな形をしたアンモナイトがいますけども、なんでそういう形に進化したかって、はっきりわかっていなかったりするんですよ。なので、そういうヘンテコな形、私たちにとってヘンテコに見える形が、なんでその形になったのかは、やっぱり明らかにしたいっていうのがあります。

 それから、先ほどのお話もちょっと被りますけども、やっぱり本体、どんな姿をしていたのか、どんなふうに海の中で生きていたのか、一生をどういうふうに過ごしていたのか、そういう生き物の側面をもっともっと知っていきたいなと思います」

●生きているアンモナイトが発見されたら面白いのになって思っちゃうんですけど、そういう空想をされたことはありますか?(笑)

「そうですね。想像はしたことありますけど・・・見つかるかな〜(笑)」

(編集部注:相場さんに首都圏で、アンモナイトの化石が展示してあるおすすめの博物館を教えていただきました。まずは、上野にある国立科学博物館の日本館のほうに、北海道で発見された化石がたくさん展示されているそうです。ほかにも、神奈川県立生命の星地球博物館、千葉県立中央博物館などを挙げてくださいました。

 そして、都内の施設でアンモナイトが見つかる場所として、東京駅の地下構内や、地下鉄三越前駅の改札付近、そして日本橋三越本店の、石材の壁や床に化石が眠っているそうですよ)


INFORMATION

『アンモナイト学入門〜殻の形から読み解く進化と生態』

『アンモナイト学入門〜殻の形から読み解く進化と生態』

 アンモナイトがどんな生き物だったのかを最新のトピックや研究、そして写真やイラストを交え、わかりやすく解説。まさにアンモナイトを知るための、うってつけの入門書です。ぜひ読んでください。誠文堂新光社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/85247/

◎公益財団法人 深田地質研究所:https://fukadaken.or.jp

オンエア・ソング 3月24日(日)

2024/3/24 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. ELEVATION / U2
M2. THE RIVER OF DREAMS / BILLY JOEL
M3. I HEAR YOUR NAME / INCOGNITO
M4. ROUND AND ROUND / AMIEL
M5. タイムマシンにおねがい / サディスティック・ミカ・バンド
M6. SWIM / MADONNA
M7. I STILL HAVEN’T FOUND WHAT I’M LOOKING FOR / THE CHIMES

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

家庭で飼えない動物を飼ったら、1日いくらかかるか、「妄想」しましょう!

2024/3/17 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東京都大田区で動物病院を営む獣医師「北澤 功(きたざわ・いさお)」さんです。

 北澤さんは1966年、長野市生まれ。北海道にある酪農学園大学を卒業後、長野市茶臼山動物園や城山動物園に獣医として勤務。動物の飼育や治療に加え、展示エリアの設計も担当。

 その後、2010年に東京都大田区に「五十三次どうぶつ病院」を開設し、現在は獣医師としての仕事の傍ら、子供たちや一般向けに動物の生態などを解説する講演活動のほか、本も執筆。そして先頃、『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』という本を出されています。

 きょうはその本をもとに、もし家庭で、ジャイアントパンダやキリンを飼ったら、エサ代や光熱費など、日々いくらお金がかかるのかなど、家庭では飼えない動物の飼育を、北澤さんと一緒に「妄想」します。また、イヌやネコの健康管理のお話などもうかがいますよ。

☆写真協力:北澤 功

北澤 功さん

イルカ 、キリンの飼育を妄想!?

●では、本に掲載されているリスト「飼えない動物、一緒に住んだらいくら?」から、いくつか動物をピックアップしてお話をうかがいたいと思います。まずはイルカ・・・1日9,333円ということで、これはプールの維持費とかすごく大変そうだなって思うんですけど・・・。

「いちばんはプールですね。実は狭いところでも飼えるんです。なんだったら(スタジオの)この部屋くらいのところで、水いっぱいしたら生きていくことはできるんです」

●このスタジオくらいで・・・?

「ええ、水いっぱい入れてね。だけど、飼うってことはただ飼うんじゃなくて、その子がいかに快適にするかなんで、それが大事です。そうすると、やっぱりある程度大きなプールが必要だし、プールの温度もその子が寒くて我慢しなきゃいけないとかじゃなくて、きちんとした温度も必要だったり・・・。

 とにかく綺麗な水、水の中で生きているので、汚れたらすぐ病気になりますので、いかに健康で快適に楽しく住むか。イルカは自分たちのものじゃなくて、地球から預かったものなんで、快適にするために飼うにはやっぱりお金がかかると・・・」

●しかも海のそばに移住するっていうふうに本に書かれていましたけど(笑)

「海のそばって、新鮮で綺麗な海水がどんどん手に入るから、お金もかけずに水質管理もしやすいんで、たぶん海のほうが楽しいんじゃないかな、イルカも(笑)」

●エサはどうですか?

「けっこう食べるからね。やっぱりお魚もなんでもいいってわけじゃなくて、新鮮で美味しい魚というかね・・・そういうことを考えていくと、比較的やっぱりエサ代はかかりますね」

●お金がかかるんですね〜。では続いてキリンです。1日3,666円ということで、イルカよりはちょっと安いのかなっていう感じですね。

「これは基本的に施設を、建物で飼うってなったら別になっちゃうんだけど、暖房とエアコンをうまいことやればいいのと、パドックって言ってるんだけど、遊ぶところをきちんと作ってやれば、あとはほとんどエサ代でいけるなと思っています」

●3階建てに住んだら、毎日窓から顔を合わせることができると本に書かれていましたね。

「キリンってなつくんです、すごくなつくんです。毎日行ってエサをあげていると、梯子(はしご)じゃないけど、ちょっと高いところに登ってキリンにエサをあげたりすると、目の前の同じ高さでエサをあげると楽しいんですよ。長い舌で巻き取ってエサをとってくれます」

●庭付きの3階建てのお家に、家族が3階から見ていればいいですね(笑)

「そこのベランダで、自分たちは食卓で食事しながら、隣でキリンが(エサを)食べてるって最高!」

北澤 功さん

パンダは別格!? コアラは偏食家!?

※本に載っているリストの中から、続いてはジャイアントパンダです。1日にかかる費用が、21万6,166円、1ヶ月になると、なんと648万円5,000円ということになっていますが・・・いかがでしょうか。

「とにかくすべてが高い(苦笑)」

●すべて?

「レンタル料とかもかかりますので・・・。ジャイアントパンダに関しては、最先端の治療をしなきゃいけないですし、そういう研究費もかかります。エサも特殊で、新鮮な竹を・・・あの子たちはわがままだから、まずい竹を食べなかったりしますので、大変。エサ代もでかいし、施設も(費用が)すごくかかりますからね」

●レンタルっていうのは、中国からレンタルされたっていうことですよね。

「そうです。基本的に動物はすべてレンタルっていうか、私たち人間のものじゃないんです。全部借り受けているんです。たまたまジャイアントパンダの場合は、中国から借り受けているって形ですが、でも中国も地球から借りているって思っています」

●最新の治療をしなきゃいけないっていうのは、何かあるんですか?

「最新の治療っていうか、わからない、治療法が・・・やっぱりみんな経験がないし、すごく大事なことがわからないですね。薬の量もどのくらいやったらいいのかわからないですし、はたしてジャイアントパンダにはこの薬をやって大丈夫なのかもわからないから、そのデータとか(を集めるの)もやっぱり大変です。獣医とかもやっぱりすごく大変なんで、そういう部分はやっぱりお金もかかりますね」

●しかも竹を選ぶんですね。

「そうです。わがままです(苦笑)」

●竹専用の冷蔵庫もいると、本にも書かれていましたね。

「地震とか、なんかあったら(竹が)手に入らないことを想定しなきゃいけないので、ある程度のストックは絶対的に必要なんでね」

●なるほど〜。じゃあやっぱり高くなりますね。

「はい、ジャイアントパンダは別格ですね」

北澤 功さん

●あともうひとつ、コアラです。コアラは1日26,500円ということで、ユーカリしか食べない超偏食家!と(本に)書かれていましたけど・・・。

「いや大変なんですよね、食べ物を考えると・・・偏食っていう動物もいっぱいいるんです、それしか食べないって動物が・・・。特にコアラになると、それしか食べないんで、まずユーカリを確保しておくことが大変ですね」

●ユーカリは動物園でも大きな負担になると本に書かれていましたね。

「最近はコアラの飼育やめるところも出てきています。あまりにも大変すぎるし・・・ただ飼うんじゃなくて、 動物たちを快適に過ごさせてあげたいんで、良質のエサを手に入れるために・・・ということを考えると、あまりにもお金がかかりすぎますね」

(編集部注:動物園の獣医だった頃、飼育している動物は全部診ていた北澤さんによると、ライオンやトラは麻酔を打って眠っている間に診察や治療はできたそうですが、大きなゾウはそうもいかず、知能も発達しているので大変だったそうです。

 動物園ではエサや飼育環境に注意し、動物にストレスを与えないようにすることが肝心で、基本は予防医療。治療よりも病気にさせないことが大事だとおっしゃっていました。

オランウータンのフジコ

※動物園の獣医時代に経験した、こんなエピソードを話してくださいました。

「私ね、獣医ではあるんだけど飼育もやっていたんです。最初の担当はずーっとチンパンジーとオランウータンの人工保育、親が飼育放棄をしちゃった子たちの親代わりをずっとしていたんですよね。ほんと親としてやったらね、(彼らは)すごく賢いから治療を理解してくれる、良好な関係ができたら、注射もできるし、苦い薬もあげることができるし・・・ただ関係ができないと、逆に(彼らのような)賢い動物は難しいですね」

●どうやって寄り添って関係を良好に持っていくんですか?

「動物たちの飼育で、力で抑えようとか、そういうこともあるんだけど、あの子たちは折り合いをつけるっていうか、もう人間関係と一緒、力で抑えるんじゃなくてお互いが信頼するような状況を作らなきゃ、力じゃ絶対無理ですね。

 とにかく信頼関係のためにお互い、それぞれ性格がオランウータンもチンパンジーも個体によって違うから、その性格に合わせた接し方というか、お願いしますっていうようなイメージでやっていましたね」

●ほんとに人対人っていう感じですね。

「もうそうですね。オランウータンなんて特に完全に人と同じぐらいの感覚でしたね。
 私、動物園から離れてもう10何年経つんですけど、そのオランウータンだけは未だに私が行くと覚えていてくれて、なんて言うんだろう・・・作った関係はもう絶対失わないし・・・昔は触る関係だったんだけれど、(オランウータンとの)間に柵があったり、会うと両方ちょっと悲しいことはあるんだけどね。だけど本当に行くだけで、すぐ近づいてくれるし、 子供の頃にしていた遊びを一緒にしてくれるとか、そのぐらい賢いしね、面白い! あの子たちは本当にすべてが面白いですね」

●そのオランウータンは、長野の動物園で飼っているんですよね?

「そう、お母さんが育児放棄っていうか、自分が人に育てられちゃったんで、やっぱり子育てわからなかったんですね。産んで抱っこしたのはいいんだけど、おっぱいのやり方がわかんなかったりとかで、すごくパニックになっちゃったんです。それでうまく育てられなかったってことで、私たちが取り上げて、哺乳瓶で(ミルクを与えて)育てたんです。そういうふうにしてずっと育てたんですよね」

●生まれてすぐの状態から一緒にいたわけですね。

「そう、ず~っといました。ちょうど同じようなチンパンジーもいたんです。同時期に同じのがいたんで、チンパンジーとオランウータンを一緒に(育てていました)。私、前にオランウータンを抱っこして、背中にチンパンジーを背負って、園内散歩をしたりとか・・・」

●もう本当に赤ちゃんですね!

「そうです、同じ同じ!」

●名前とかつけていたんですか?

「フジコ」

●フジコ! それは北澤さんがつけたんですか?

「いや、俺じゃないんですけどね」

●フジコちゃん!

「今でも可愛いですけどね! 可愛いたって、もうおばあちゃんだけどね。頭いいんだよね、すごく頭がいい」

写真協力:北澤 功

(編集部注:北澤さんが赤ちゃんの頃から育て、心を通じ合わせたオランウータンのフジコは、長野市茶臼山動物園に行くと会えますよ。

 北澤さんは、動物園勤務を離れたいまでも、プライベートで動物園に行くそうです。そんな北澤さんから楽しみ方のアドバイス。動物園に行くと、展示されている動物を全部見ようとするかたが多いと思いますが、それよりも、推しの動物に会いに行く感覚で、定期的に行って変化を見つけたり、ポイントを絞って、例えば、きょうは動物の足だけを観察するとか、そんな楽しみ方もありますよとご提案いただきました)

災害時にペットを守るために

※北澤さんの動物病院に来院する動物は、やはりペットの犬や猫が多いと思うんですけど、おもにどんな病気を患っていることが多いですか?

「単純で、猫ちゃんは腎臓病、ワンちゃんは心臓病、(それには)意味があるんです。猫ちゃんは本当は砂漠の生き物だったんです。砂漠の生き物だから水がない、水がないところに生きていたから、少ない水で生きようと思うから、腎臓っていうのは水を再利用しようと考えています。腎臓の能力はすごく高いんです。なので、腎臓が頑張るから、歳をとると腎臓病になる。

 ワンちゃんのほうは狩りをするために心臓がすごく発達しているんです。早く走ったり、長距離を、オオカミですから、(狩りを)やるために心臓の能力がすごく高いから、歳をとるとやっぱり負担がかかるんです」

●季節によって来院する動物って変わったりするんですか?

「冬は猫、夏は犬」

●どうしてなんですか?

「やっぱり心臓病が多くなるのは夏。あと膀胱とか、泌尿系はストレスで膀胱炎になったりしますよね。猫ちゃんはそういう泌尿器系、腎臓から膀胱系はやっぱり冬のほうが(猫は)すごく苦手。寒いのが苦手なのは猫ちゃんで、暑いのが苦手なのはワンちゃんっていうのは生態的にもそうですから・・・」

●残念ながら日本って自然災害が多く発生します。東日本大震災そして直近では能登半島の地震と大災害に見舞われました。最優先はやっぱり人命救助とか被災者の支援なんですけれども、犬や猫を飼っているご家庭で、避難所に行かず車などで生活することを選ぶっていうかたもいらっしゃると思うんです。

 ペットを飼っているかたに向けに、日頃から用意しておいたほうがいいよっていうものとか、災害に遭った時にペットを守る方法などありましたら、ぜひ教えてください。

「まずね、飼うにあたって、ちっちゃなケージだったり、ペットのケースに慣らしとくことが大事です。今まで入ったことないのに急に入ったら、パニックになっちゃうから、普段からそこで寝るとか、なんかあったら、お客さん来たら、そこに入っているようにするとか・・・。

 安心する狭い空間、あの子たちっていうのは、そんなに広くなくても安心な場所が好きだから、その場所だと安心だよってことを慣らしておくと、震災とかあっても、その中に入れてどこかにいてもストレスは少ないです。まだ慣らすことが大事ですね。

 あと、当然ご飯はやっぱりある程度用意してほしい。病気のワンちゃんとか猫ちゃん別ですけど、出来れば、ある程度いろんなものを食べる練習(をしておく)、ただ人間の(食べ物)はダメです。人間の物でもいいのは生の肉、味を付けていない肉とかは全然いいです。胸肉とかそういうのは全然いいです、味ないものだったら。

 お菓子とかは絶対ダメなんだけど、基本的にいろんなフードをちょっと食べさせといて、(災害時に)いろんなもの食べられる状態を作っといてあげると・・・鶏肉なんて食べさせておくといいですよ! 胸肉がね。自分で食べてるのをちょっと湯がいて、たまにあげとくと、筋肉もつくし・・・。そうなった時に鶏肉だけちょっと余っていたら、それも食べることができますし・・・。

 あとね、ペットシート! とにかくペットシートはいっぱい用意しとくといいです。やっぱり汚れがいちばん臭いを呼びますから、みなさん大変ですけど、どんどん替えられるぐらいにしておくと・・・あれは人も使えますから。袋にペットシートを入れておけば、トイレ替わりにもなるから、ペットシートはすごく便利ですね」

写真協力:北澤 功

(編集部注:北澤さんが営む、東京都大田区にある「五十三次どうぶつ病院」は、傷ついた野生の鳥や動物の保護活動をする病院として東京都から指定されていて、これまでに野生のフクロウなどが持ち込まれたことがあるそうです)

ペットと長く一緒にいるために

※北澤さんの新しい本『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』には、実際に飼える犬や猫なども載っていました。当たり前のことなんですが、ペットを飼うと日々お金がかかりますよね。

「お金はかかります、なんでもかんでも。だけど工夫によって、かからない飼い方があるんです。病気にさせなければ医療費はかからない。人間が食べるものをあげなかったら病気はぐっと減る。いっぱい走るのが大好きだったら、いっぱい走らせあげることによって病気が減るとか、お金をかけない飼い方はありますので、それをしっかりやってもらうといいと思いますね。楽しく飼えます」

●ほかに飼う前に何かやっておいたほうがいいことはありますか?

「まずね、調べること! 飼い方を調べること! 私、基本的に生態学が好きなんで生態を学んでから治療に入っていく。なんでこの子は病気になったの? って思ったら、この子はこれを食べるのはダメだからっていうのがあります。そこまで調べなくてもいいけど、ワンちゃんってなんで散歩が好きなの?とか、猫ちゃんは寒いの苦手だよ!とか、それを調べて知っておくだけでも、食べ物をちょっと知っておくだけでも全然違います。知ってから飼うことはすごく大事だと思っています」

●獣医師としてペットには、こう接してしてほしいってありますか?

「いや、難しくないです。好きであればいいんです。好きもただ可愛いんじゃなくて、好きだから長く一緒にいたいから、いい飼い方と良好な関係を作る! それです。でもやっぱり好きだったり、可愛がるっていう気持ちがなかったら、それができませんのでね」

●愛情と、尊重してあげるっていうか・・・。

「いいですね、尊重はいいですね、すごくいいと思いますね」


INFORMATION

『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』

『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』

 北澤さんの新しい本をぜひ読んでください。きょうご紹介した以外にもアザラシやオオカミ、カンガルーやチンバンジーなど、合わせて32種の動物を掲載、もし家庭で飼ったら、いくらかかるのか、そしてどんなことが起こるのか、ぜひ「妄想」して楽しんでくださいね。

 動物が大好きな北澤さんとしては、地球でともに暮らす動物たちに興味を持ってほしい、そんな思いも込めているそうです。日経ナショナルジオグラフィックから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎日経ナショナルジオグラフィック:
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/23/120100061/

◎五十三次どうぶつ病院: https://53tsugi.com

オンエア・ソング 3月17日(日)

2024/3/17 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. ANIMAL / KE$HA
M2. GIRAFFE / MINIATURE TIGERS
M3. TALK / COLDPLAY
M4. TO FIND A FRIEND / TOM PETTY
M5. ZOO / ECHOES
M6. SAVE / TIMMY CURRAN
M7. ANIMAL / DEF LEPPARD & ROYAL PHILHARMONIC ORCHESTRA

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

エディブルウェイ=食べられる道〜人と人、人と町の「つながり」をつくる景観〜

2024/3/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、千葉大学・予防医学センターの特任研究員で「エディブルウェイ」の代表「江口亜維子(えぐち・あいこ)」さんです。

 江口さんは、石川県小松市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、設計事務所に勤務。当時、東京都杉並区にあった阿佐ヶ谷住宅に暮らしていたことで、自然と人、人と人がつながる空間「コモンスペース」に関心を持ち、2013年に千葉大学大学院に進学。木下勇教授の研究室で、環境に配慮した住宅づくりや住民参加の街づくりなどを学んだそうです。そして2016年から「エディブルウェイ=食べられる道」の活動に取り組んでいらっしゃいます。

 今回は、エディブルウェイ・プロジェクトの活動や災害時に役立つ、人と町、そして人と人のつながりについてもうかがいます。

☆写真協力:江口亜維子

写真協力:江口亜維子、大橋香奈

エディブルウェイ・プロジェクト

※まずは、江口さんが進めている「エディブルウェイ・プロジェクト」、これはどんな活動なのか教えてください。

「まず、『エディブル・ランドスケープ』という考え方があります。直訳すると『食べられる景観』で、ランドスケープの中の植栽に果物だったり、実のなる木や野菜、ハーブとか、食べられる植物があって、それで構成された景観のことを言います。で、エディブルウェイ・プロジェクトは、町中でエディブル・ランドスケープをやってみようという活動です。

 私たちがやっているのは、沿道のおうちだったり、お店の軒先、道路に面した小さなスペースにお揃いのプランターを置いて、そこで野菜やハーブとか食べられる植物を、地域のお住まいのみなさんと一緒に育てて、食べられる景観づくりの実践をするというプロジェクトです。

 エディブルウェイっていう名前なんですけど、沿道から見えるところにプランターが置かれているので、プランターが並ぶことでエディブルな道(ウェイ)ができるよっていうことと、あとはエディブル・ランドスケープの方法・・・ウェイには方法って意味もあるので、その方法をみんなで探求していこうという、ふたつの意味をかけてプロジェクトの名前にしています」

(編集部注:研究室のプロジェクトとして始まった「エディブルウェイ」の活動は、2020年から市民参加型の活動となり、現在、江口さん始め、3人のメンバーが中心となって進めているそうです。ほかに、野菜などの苗を育てるボランティアチーム「苗部(なえぶ)」があって、ここには小学生も参加しているそうですよ。

 そして気になる実際の活動場所は、JR松戸駅から千葉大学園芸学部のキャンパスまでの約1キロ、その沿道のお店や住宅など60軒ほどが活動に参加。各軒先には、ロゴを大きくプリントした黒いフェルト製の、バッグのような形をしたプランターが点在し、野菜などが植えられているとのことです)

写真協力:江口亜維子

プランターが育てるコミュニケーション!?

※お店や住宅の軒先にプランターを置くとなると、プロジェクトに賛同してくださるかたの協力が欠かせませんよね。どうやって集めたんですか?

「最初は、当時の研究室の留学生だったり学生だったり、あとは師匠の先生だったりと、その1キロ沿いを一軒一軒訪ねて、エディブル・ランドスケープという考え方があって、町の中でやってみたいと思っているんですが、興味はありますか、もし興味があったら一緒に活動しませんかっていうことで、プロジェクトの説明だったり、エディブル・ランドスケープの説明をして、賛同していただいたお宅から(プランターを)置き始めたっていう感じです」

●お店や住民のかたがたは、すぐに理解ってしてくださったんですか?

「大学周辺のお宅のかたは割と、その当時地域にコミュニティガーデンがあって、大学生との活動に理解があったりするかたが多かったり・・・。
 あと園芸学部のキャンパスは学園祭で苗木や苗、野菜とか売ったりしているので、けっこう地域のかたが買いに来ています。園芸学部周辺のかたは、ちょっとお話をうかがっていると、”これ、園芸学部のキャンパスで買った木よ”とか”このみかんは園芸学部で買った苗木よ”みたいな感じでお話ししてくださるかたが多かったんですよ。すごく暖かく受け入れていただきましたね。

 7軒のご近所同士のかたたちで、その7軒に(プランターを)置き始めたら、同じものなので、すごく目立って、これは何?って、近所で話題にしていただいて・・・。で、口コミであそこの誰々さんも置きたいって言っていたよとか、プランターを運んでいる時に、うちにも置いてとか、そういう感じで、けっこう口コミでじわじわと広がっていったという経緯になります」

(編集部注:プランターに植えてある野菜などの日々のお世話は、各個人の園芸活動の一環としてやってもらっているそうですが、年に2回、植え替え講座や、タネや苗の交換会を実施。参加者のかたが余ったタネや、ハーブの挿木などを交換。中には珍しい野菜などを育てているかたもいて、そこでも情報交換を含めた参加者同士のコミュニケーションが生まれているそうですよ)

写真協力:江口亜維子

※活動するにあたって、何か規則のようなものはあるんですか?

「基本的には規則は特にはないんですけれども、(エディブルウェイ ・プロジェクトは)景観づくりでもあるので、プランターを道から見えるところに置いてくださいっていうことと、食べられるものを植えてねっていうことはお話ししていますね」

●食べられるものっていうことで、育った野菜は食べちゃっていいんですか?

「基本的には、各家庭で育てているものを各家庭で召し上がってくださいって話していて、コロナが始まる前までは、収穫時期の最後のほうに少しずつみんなで持ち寄って鍋をしたりとか、サンドイッチを作ったりとかサラダそうめんを作るとか、ちょっと収穫祭のようなイベントはやっていました」

●いいですね。みんなで集まって食べるっていうのは・・・。

「そうですね。あとはプランターが目立つので、そこでお水やりとかをしていると、道行く人に話しかけられたりするみたいで、そういうコミュニケーションの中で、(育てた野菜を)おすそ分けしたよっていうようなエピソードはいくつか聞いたことがあります」

写真協力:江口亜維子

東日本大震災と阿佐ヶ谷住宅

※そもそもなんですが、このプロジェクトを始めたのは、なにかきっかけがあったんですか? 

「きっかけはいろいろあるんですけど、私が食べる植物を育てることに関心が向いたのは、2011年3月の東日本の震災がきっかけです。その当時は、東京都杉並区にある阿佐ヶ谷住宅という古い団地に住んでいて、やっぱり揺れは揺れて、地震後の数日は都内のスーパーとかコンビニに行っても、物が買えなかったり買い占めが起こったりとかしていました。

 都市で災害に遭うと、なんて言うんだろう・・・死んでしまうかもっていう危機をすごく感じて、計画停電があったりとかもしたので、自分が生きるために何が必要なんだろうみたいなことをけっこう真剣に考えている時期でした。そんな中で食べるものを自分で育てるって大事な気がするなって思いました。

 で、当時住んでいた阿佐ヶ谷住宅は『コモン』っていう、団地内の建物以外の緑地が豊かに計画されている団地で、専用庭もあったりとか、建物と建物の間にゆとりのある緑地帯があったんですね。そこに果物のなる木を植えている人もいれば、専用庭で畑している人もいて、自分もそこで野菜を育てたりもしていたんですけど、真剣に育てたい!みたいなことを考えたりしていました。

 地震でうまく物が買えなかったりとか、心細い思いをしたんですけど、団地で普段、顔を合わせて挨拶していたかたたちと声をかけあったりとか、特に花粉症のすごい時期だったのでティッシュを分けていただいたりとか、耳鼻科を教えていただいたりとか・・・・。

 本当に些細なことなんですけど、当時の自分はすごく心強い経験をして、普段、挨拶程度のつながりでも、地域のつながりってすごく大事なんだなっていうことも同時に感じたっていうことがありました。なので、なんて言うんでしょうね・・・つながりづくりや、食べられるものを育てる、このふたつはすごく大事だなって感じたのが、このプロジェクトを始めるきっかけになる、大もとにあるかなっていうふうに思います」

(編集部注:「エディブルウェイ・プロジェクト」の基礎になっている「エディブル・ランドスケープ=食べられる景観」は、1980年代にアメリカ人のランドスケープデザイナー、ロサリン・クリーシーが提唱した概念だと言われているそうです。

 「エディブル・ランドスケープ」という言い方は比較的新しいものですが、江口さんによれば、実はこの考え方は古代からあって、例えば、エジプトでは庭園の中にオリーブやブドウなど、実がなる植物を植えていた。また、日本でも奈良時代に、街道沿いに果樹の木を植える律令、今で言う法律があったとのこと。お陰で、夏は行き交う人々に木陰をつくり、果実は旅人を飢えから救うことにもなっていたそうです)

災害時にものを言う「つながり」

※あすは、東日本大震災が発生して13年、そして今年初めには能登半島で大きな地震がありました。自然災害の多い日本では、いざというとき、日頃培ってきた人と人との「つながり」がものを言うような気がしますが、改めて、いかがでしょうか?

「なにかあった時に、その時住んでいる地域だったり働いている場所だったりで、顔の知っている人がひとりでもいるっていうことが、すごく心強いんじゃないかなって思いますね。東日本大震災の時の私自身の経験で言うと、普段は挨拶するぐらいのゆるいつながりであっても、困った時とかは、大丈夫ですか?とか声をかけたり、気遣いあったり、助けあったりできるのかなって思いますね」

●「エディブルウェイ」は災害が発生した時に、その地域の人たちを救う一助になるかもしれませんよね。

「そうですね。すごく小さなプランターでの栽培なので、直接的な助けになりますって言い切れないんですけど、エディブルウェイの活動をしている中で、プランターを置いているかたたちが、苗の配布交換会とかで顔を合わせたりしています。本当に世代を超えて緩いつながりができていたりするので、人のつながりという面では(災害時の)一助になるといいなっていうふうには思います」

●都会に住んでいると、なかなか近隣住民と会話する機会も少ないのかなって感じるので(エディブルウェイの)効果は大きいかもしれませんよね。

「そうかもしれないです。今やっている地域も住宅地なんですけど、大学までの通学路でもあって、何もしてない時は、特に誰も知らないし、すごく退屈に歩く15分だったんですね。ただこのプロジェクトを始めたことで、歩いていると必ず知っている人に出会うので・・・」

●いいですね~。

「そうですね。一緒に活動していた留学生はこのプロジェクトに参加したことで、ここの街に住んでいる人たちがすごく親切な人なんだなっていうことがわかって、安心して歩けるようになったって言っている子がいました」

写真協力:江口亜維子

ささやかな園芸活動が広げる未来

※「エディブルウェイ ・プロジェクト」で、今後やってみたいことはありますか?

「今運営のメンバーで話をしているのは、夢や野望になるんですけど、地域の中に拠点を作って、エディブルウェイのプランターで採れるもので作った食だったり、ハーブティーだったりを提供できるようなカフェ・・・あとは、そこに行くとエディブルウェイを始められる資材、プランター、苗とかを買えるような拠点をいつか持てるようになったらいいねっていう話はよくしています」

●このプロジェクトを通して、最も伝えたいことはなんでしょうか?

「本当にこのプロジェクトでやっていることって、プランターをおうちの前に置いて、ひとりひとりの日常的なささやかな園芸活動が主になっているんですけど、そういう個人的な活動も、通りから見えることで町の景観づくりになったり、あとは関係づくりになったりとか、地域の環境を学び合う場になったりっていう、いろんな広がりが出てきています。本当にささやかな園芸活動もこうやって地域の中で発展していけるので、ぜひみなさんも野菜を育てたりとか、そういう活動が広がっていくといいなって思います」

写真協力:江口亜維子

INFORMATION

 現在、江口さんたちプロジェクトのメンバーが直接手掛けているのは松戸だけですが、都内や千葉の団地、商店街、そしてNPO団体などからも問い合わせが入っているそうです。この放送を聞いて、自分が住んでいる街でもこの活動をやってみたいと思われたら、「エディブルウェイ」のオフィシャルサイトやSNSで問い合わせてくださいとのことです。

◎エディブルウェイ:http://edibleway.org/

◎インスタグラム:https://www.instagram.com/edible.way/

オンエア・ソング 3月10日(日)

2024/3/10 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. FLOWER GIRL / MEJA
M2. WALK THIS WAY / SHELIYAH
M3. FLOWERS / EMOTIONS
M4. THE POWER OF LOVE / CELINE DION
M5. 花 / ORANGE RANGE
M6. SAFETY NET feat. TY DOLLA $IGN / ARIANA GRANDE
M7. COME TO MY GARDEN / MINNIE RIPERTON

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

あなたが知らないキツネの世界〜コンコンとは鳴かない!?

2024/3/3 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、麻布大学・獣医学部の教授「塚田英晴(つかだ・ひではる)」さんです。

 塚田さんは1968年、岐阜県生まれ。愛知に住んでいた頃に、大学にいったら、野生動物の研究をしたいと思い、大自然なら北海道! という理由で、北海道大学に進学。まずはクマの研究をするサークルに入り、痕跡を探すフィールドワークの面白さに目覚め、その後、長年キツネの研究を行なっている研究室に所属。

 そしてキツネの調査に出掛けるということで、先生に連れて行ってもらったフィールドがなんと! 町中だったそうです。そこで、町中であっても公園や樹林帯など、ちょっとしたすき間を見つけて、上手に暮らしている「都市ギツネ」の存在を知り、俄然興味がわき、キツネの研究をすることになったそうです。

 北海道大大学大学院時代は、キタキツネと人間社会の関わりなどを研究。キツネの研究は30年以上、博士号はキツネの研究で取得。まさに「キツネ博士」でいらっしゃいます。専門は野生動物学、動物行動学など。そして先頃、『野生動物学者が教える キツネのせかい』という本を出されました。

 きょうはそんな塚田さんに、賢いとされるキツネの、あまり知られていない生態や鳴き声、そして優れた能力についてうかがいます。

☆写真協力:塚田英晴

塚田英晴さん

キツネは賢い動物!?

※以前、河川敷に暮らすホンドキツネの写真絵本を出された写真家「渡邉智之(わたなべ・ともゆき)」さんにお話をうかがったことがあって、キツネは私たちが生活しているすぐ近くで暮らしていると、教えていただいたことがありました。

 でも、意外と見たことがある人は少ないように思うんですけど、どうしてなんでしょうね?

「基本的には、私たちは昼間に活動しますよね。夜も暗闇の中で活動したりすることもありますけども、基本的にキツネは昼間には出てこなくて、夜になってから活動するので、彼らと出会う機会がなかなかないってことが、ひとつあると思いますね。

 あと、キツネは群れてなくて、ほぼ単独で生活しているんですね。一頭で歩き回っているっていうような感じなので、見かけることがあっても一頭しかいなくて、私たちを見ると、さっと逃げたりとか隠れたりすると、意外に気づかないっていうことがあるんじゃないかなっていうふうに思いますね」

●キツネは、昔話や童話に出てきて、人を化かしたり、稲荷神社では神様の遣いだったりとか、ほかにもずる賢いなんていうイメージもありますけど、実際のキツネはどういう動物なんでしょうか?

「基本的に肉食性で、獲物を捕らえて食べることがとても好きな動物なので、獲物を捕まえるためには彼らの裏をかいて、ある意味、騙し打ちをしたりとかしないと捕まえられないっていうところがあると思うんですね。なので例えば、死んだふりをして油断させて、ぱっと飛びついたりとか、そんなところが知恵を感じさせるのかなって思いますね。

 あとはハンターに追われたりすると、足跡を犬が追ってきますよね。キツネは追われていることを察して、自分の足跡を追う追手をうまくまくために、『止め足』っていうテクニックを使うんですね。普通に進んでいるように見せるんですけども、ある時、少し離れたところにジャンプして、足跡がついてないように見せかけて、どこに行ったんだろうってわからなくさせる、そんなことをするんですね」

(編集部注:キツネは分類でいうと「イヌ科」に属し、日本に生息しているのは、北海道にいるキタキツネと、本州より南にいるホンドギツネ、そしてギンギツネと呼ばれる、毛色が違うキツネがいるそうですが、種でいうと、いずれもアカギツネだそうです。

 ちなみに世界には12種のキツネがいるとされていて、ほぼ全世界に分布しているとのこと。好んで暮らしているフィールドは、開けた環境で草原があって林があるような、いわゆる里山。おもな獲物はネズミや小鳥などの小動物、ほかにもバッタなどの昆虫、ヤマブドウやサルナシなどの果実も食べるそうですよ)

優れた聴覚で獲物をゲット!?

写真協力:塚田英晴

※初歩的な質問なんですけど、キツネの大きさや体重は、どれくらいなんですか?

「鼻先から尻尾の先まで含めるとだいたい1メートルぐらいですね。尻尾だけで30センチ強といったところですかね」

●体重は?

「4〜5キロなんですよ」

●意外と軽いんですね。

「そうですね。ちょっと重めの猫とか、小型の犬ぐらいの大きさですね」

●やっぱり見た目の特徴でいうと、長い尻尾だと思うんですけれども、この長い尻尾には、なにか役割はあるんですか?

「はい、キツネはネズミを捉える時にジャンプをして捕まえたりするんですけど、空中での姿勢をうまく保つためにバランスを取ったりするのに、長い尻尾は役に立っていると考えられています」

●確かに地面とか草むらに顔から突っ込むような動画を見たことあるんですけど、キツネはどうやって、そこに獲物がいるのを察知するんですか?

「ネズミの場合ですと、キツネが好きなネズミは草と土の間にトンネルを掘って生活しているんですね。なので、動き回ったりするとカサカサっていうような、体が草とこすり合うような音がするんですけども、その音をかなり感度の高い耳でキャッチして、どこにいるのかを正確に突き止めるんです。

 あと音も、左右の耳の聴こえ具合で、音が遠くからやってくるとか、右からやってくるとか左からやってくるとかだいたいわかります。それをすごく感度を高くやることができて、数メートル先にいるネズミの位置をピンポイントで捉えて、ジャンプをして、2.5メートル先で5センチぐらい誤差で捕らえることができます」

●すごいですね! 確かにキツネの耳は大きいですよね。聴覚が優れているっていうことなんですね。

「そうですね。人間だとだいたい、高い音だと2万ヘルツぐらいまでしか聴こえないんですけど、キツネの場合は4万8千ヘルツぐらいまで聴こえるので、およそ2倍ぐらい高い音が聴こえますね」

写真協力:塚田英晴

(編集部注:塚田さんによれば、キツネの視覚は人間と比べると、青色がよく見えていないなど、色の感度はあまりよくないそうですが、暗闇でもよく見え、獲物の動きを探知できるようになっているとのこと。また、嗅覚は優れていて、私たちとは違う匂いの世界を持っているそうです)

キツネの子育て、オスは子煩悩!?

※キツネは基本的に夜行性ということですが、オスもメスも単独で行動しているんですよね?

「基本的には一頭で動き回るっていう感じなんですね。ただ交尾の時期、1月から2月にかけて繁殖をする、交流する時期なんですけども、その時はオスとメスが連れ立って歩く、2頭でよく一緒に歩いているのを見かけますね」

●発情期、いわゆる「恋の季節」は1年に1回なんですね?

「はい、1回ですね」

●縄張りみたいなものはあるんですよね?

「はい、動き回る範囲が決まっていて、その範囲を特定のファミリー、オスとメス、あと子供で一緒に暮らしていて、隣のファミリーとはあんまり交わらないような形で暮らしています。そういう意味でテリトリーなんですけども、だいたい広さは数ヘクタールから数千ヘクタールぐらいまでと結構幅があるんです」

●かなり広いところもあるんですね。

「そうですね」

●出産はいつ頃なんですか?

「出産はだいたい3月から4月にかけてですかね」

●一回の出産で、どれぐらいの子供を産むんですか?

「3頭から5頭、まあ4〜5頭そんなところですかね。哺乳類では本当にメスだけが子育てをすることも多いんですけれども、イヌ科の仲間はオスもかなり子育てに参加する特徴があって、キツネも例外ではでなくて、オスは非常に子煩悩ですね」

●子ギツネはどれぐらいの間、親ギツネと一緒に暮らすんですか?

「同じ行動圏の中に暮らしているのが6ヶ月ぐらいですかね。4月に生まれて10月ぐらいになると旅立っていくっていうような感じになります」

●先ほどおっしゃっていた縄張りを出なきゃいけないってことですか?

「そうですね」

●(子ギツネが)出ちゃったら、そのオスとメス、お父さんとお母さんだけが残るっていう感じですか?

「そうですね。基本的にはオスとメスが残るんです。中にはおもにメスなんですけども、娘が行った先からまた戻ってきたりとか、そのまま残ったりとかっていうこともあって、そうすると拡大家族みたいになったりしますね」

(編集部注:塚田さんによると、キツネの寿命は、生まれて最初の冬を乗り越えると、6年から7年くらい。特殊な例として、キタキツネで14年、生きた個体もいたそうです)

子ギツネが、鳴き真似にだまされた!?

『野生動物学者が教える キツネのせかい』

※キツネは鳴き声をよく出す動物だと本に書いてありました。どんな声を出すんですか?

「よく”コンコン”って言いますね」

●はい、そのイメージがあります。

「あれは、発情期の声なんですね! (鳴き真似)こんな声です」

●へ~〜、ではコンコンとは鳴かないってことですか?

「そうですね。普段は・・・いろいろな声があるんですけども、例えば(ほかの個体に)近づいて甘えたりすると、”ミーミーミー”っていうような声を出します。あとは警戒をしている時、敵が来たぞっていう時は、”フォンフォンフォン(鳴き真似)“と鳴きますね」

●“コンコン”のイメージしかなかったです。いろいろあるんですね。

「はい、この”フォンフォンフォン“は、要するに”ワンワン”にちょっと似ている感じの声ですかね」

●ほかに特徴的な鳴き声はありますか?

「そうですね・・・親が例えば、獲物を巣穴に持ち帰った時、巣穴に隠れている子ギツネを呼び出す時に特徴的な声を出すんですね。喉の奥から”グググググッ”というようなちょっと低い声を出すんですけども、実はその鳴き真似、私、得意です(笑)」

●本にも載っていましたよね!

「そうなんですよ。その鳴き真似をすると、子ギツネが間違えて、ちゃんと巣穴から飛び出してくるんです」

●塚田さんの鳴き声を親ギツネの鳴き声だと思って、子ギツネが出てきたんですね! すご〜い! ちょっと聴かせてください。

「はい、やってみますね。(鳴き真似)こんな声です」

●すごい!

「今すごく喉の奥のほうから出した声なんですけど、これは口に何かをくわえている状態でも出せるんですよ。(鳴き真似)口の先のほうじゃなくて喉の奥のほうで出すので、多分獲物をくわえて帰ってきて、その獲物をくわえている状態でも出せる声なんだと思うんですね。喉の奥のほうから出す“ググっ”という声なんですけども、子ギツネたちがそれを聴くと、(親ギツネが)獲物を持って帰ってきたっていうような感じになるんですかね。それで一斉に巣穴から出てきますよ」

写真協力:塚田英晴

※塚田さんは、どんな方法で野生のキツネの調査をされているんですか?

「昔と今ではだいぶ違うんですけど、昔はどちらかというと、キツネの社会がどんなふうになっているかを調べていたので、キツネの巣穴の前でずっと待っていて、キツネが現れたら、そのあとを追いかけるというような、ちょっと効率の悪いやり方をしていました」

●キツネから警戒されたりとかはしないんですか?

「警戒されますよ。だから、すぐにまかれてしまいます」

●頭がいいんですよね!

「そうなんですよ。だから、まかれないようにずっとずっと根気強くやっていると、(キツネのほうが)またここに来たか! みたいな感じで、それであとをついていけるようになるんです」

●観察中にキツネが見せた行動で、何か印象に残っていることはありますか?

「ずっとつけ回していて、すぐにまかれてしまうんですけども、ある日、私があとをついていくのを許してくれた個体がいて、私がちょっとまかれそうになると待っていてくれて、近づくとまた歩き出して・・・本当に私、この子と友達になれたんじゃないかっていうような気分にもなりましたね。それがとても感動的な思い出としてはありますね」

都市環境を利用する野生動物

※自然環境の変化は、キツネの暮らしにどのような影響を与えていると思われますか?

「私たちはある意味、自分たちが暮らすために森を切り開いて田畑を作って、都市を作っていくようなことによって、(野生動物の)生活場所が脅かされていくんじゃないかっていうようなイメージを受けますよね。どちらかというと、キツネは森林よりも開けた環境が好きなんですね。

 私たちがそういった形で森林を切り開いて、開けた環境を作って、農地を作って植物を生やして、そこにネズミとかが増えるような環境を作ると、実はキツネにとって棲みやすい環境を作っているような気がしますね。

 自分たちが暮らすために生活を改変していく、環境を変えていくっていうことが、逆にキツネにとって棲みやすい環境を作っているんじゃないかなって思います。

 動物なんかいないと思われるような都市の環境でも、最近キツネは入り込んでいて、数を増やしていることが知られています。私たちが作っていく環境、これから都市が地球の中でもいちばん栄えていくような環境と言われていますけども、そういったところでも、したたかに生き残っていけるのが、キツネなんじゃないかなっていうふうに思いますね」

●塚田さんは30年以上キツネを見続けてきて、改めて今どんな思いがありますか?

「やっぱりとてもしたたかで奥深い動物だと思いますね。生き物って多分どんどん変化していくと思うんですけど、(キツネは)そういった変化を非常に短いスパンで見せてくれるような動物なのかなと思っています。そういうところがとても魅力的だし、これからどんなことを見せてくれるのか、楽しみな動物ですね」


INFORMATION

『野生動物学者が教える キツネのせかい』

『野生動物学者が教える キツネのせかい』

 塚田さんの新しい本をぜひ読んでください。童話や映画などに登場するキツネから、野生動物としての生物学的な生態、そして人との関わりなど、キツネに関する幅広い情報を、とてもわかりやすく解説、まさにキツネの教科書的な本だと思います。おすすめですよ。緑書房から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎緑書房:https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1636.html

1 2
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW