2021/11/28 UP!
◎田中康平(筑波大学の恐竜学者)
『恐竜の卵化石は時空を超えたミステリー!〜謎だらけの恐竜卵に挑む、若き恐竜学者〜』(2021.11.28)
◎吉田正仁(徒歩旅行家)
『リヤカーを引いて、世界5大陸単独踏破!〜小さな一歩を積み重ねて77500キロ!』(2021.11.21)
◎森沢明夫(小説家)
『散歩のすすめ〜日々ご機嫌でいるために』(2021.11.14)
◎太田光海(映像人類学者)
『「カナルタ〜螺旋状の夢」〜アマゾンの先住民、その叡智に今こそ学べ!』(2021.11.7)
2021/11/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、筑波大学の恐竜学者「田中康平(たなか・こうへい)」さんです。
田中さんは1985年、名古屋市生まれ。北海道大学卒業後、カナダのカリガリー大学に留学し、博士号を取得。現在は筑波大学・生命環境系の助教として、恐竜の繁殖行動や子育ての研究を中心に、恐竜の進化や生態の謎を解き明かそうとされています。
恐竜の研究者というと、おもに骨の化石を研究しているイメージがありますよね。でも田中さんは、恐竜の骨ではなく、卵の化石を専門に研究されているスペシャリストとして注目されています。
そんな「田中」さんの本『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』が話題になっているということで、ゲストとしてお迎えいたしました。
きょうは大発見となったモンゴル・ゴビ砂漠の卵化石や、恐竜の繁殖行動、そして謎多き恐竜卵についてお話しいただきます。
☆写真協力:田中康平
ティラノサウルスは卵を温めていたのか!?
●『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』という本を私も読ませていただきました。恐竜研究の本ですけれども、代表的なティラノサウルスやトリケラトプスはあまり出てこなくて、卵化石にここまで焦点を当てた本ってなかなかないですよね?
「そうですよね。結構マニアックなところですよね(笑)」
●すごく興味深かったですし、田中さんのワクワクさがすごく伝わってきました。
「よかったです。本を書いていて、研究の楽しさが伝わればいいかなと思っていまして、そう言っていただいて本当によかったです」
●田中さんが本当に恐竜がお好きなんだなーっていうのが伝わってきました! きょうは主に、田中さんのご専門である恐竜の繁殖行動についてうかがっていきたいと思うんです。
恐竜の研究は日進月歩ということで、以前私たちがよく目にしていた恐竜の絵は、肌が爬虫類のようで、色もどちらかというと地味で、大型のトカゲのようなイメージでしたけれども、今は羽毛が生えた恐竜の絵が一般的になっていますよね?
「そうですね。結構大人のかたのほうが驚かれるかたが多いですね」
●羽毛が生えていたという発見は、田中さんの研究でも大きなことだったんじゃないですか?
「羽毛恐竜は、1990年代に実は最初のが見つかり始めていて、かなり前なんですよね。僕が子供の頃にも既に羽毛恐竜が出始めていたので、僕は結構すんなり羽毛がある恐竜にはスッと入っていけたんですけども、やっぱり卵化石を研究していて、恐竜が鳥みたいに卵を温めていたっていう説を言う時、羽毛があるかないかって結構違うじゃないですか。羽毛恐竜が見つかったことで、より説が浸透したというか、より確からしく感じますよね」
●映画『ジュラシックパーク』とかも私好きでよく観るんですけれども、あのティラノサウルスが卵を温めていたっていうことですよね?
「恐竜の中でも、卵を温められたやつと、温めることができなかったやつがいると思うんですよ。ティラノサウルスは流石にちょっと身体が大きすぎて、温めようとすると多分、卵は割れたんじゃないかなと・・・」
●そうですよね! ちょっと想像がつかないなと思ったんですけど・・・恐竜によって色々違うんですね。
「恐竜は爬虫類から生まれてきて、最終的に鳥が恐竜の中から出現するんですけど、爬虫類と鳥だと全然子育てをする方法って違いますよね。恐竜はその中間にいるので、繁殖行動がどんな風に移り変わっていくかっていうのを研究するのには、すごくベストなグループなんですよね」
●恐竜卵の最大のものは、どれぐらいの大きさになるんですか?
「今見つかっている中でいちばん大きいのは、中国から見つかっているんですけれども、結構、細長い卵で、長さが50 センチ近くあって、幅が16〜17センチぐらいですかね。かなり細長くて、生きていた時は(重さが)6キロぐらいあったんじゃないかなって言われています」
●6キロ!? 形は細長いものが多いんですか?
「これも恐竜によって様々なんですけれども、鳥に近づくほど細長くなっていくことが分かっています」
●カメのようにピンポン球みたいな卵も中にはあるんですか?
「見つかっています。そういうのもいっぱいあります」
●すごいですね。色んなバリエーションがあるんですね。
「そうなんですよ! 世界中で恐竜の卵はいっぱい見つかっているんですけど、全然今まで研究する人がいなかったんですよね」
卵の殻から謎を読み解く
※恐竜の卵化石は、海外ではお話に出てきた中国のほか、モンゴル、カナダ、アメリカ、アルゼンチンなど、そして国内では兵庫や福井、岐阜や山口などでも見つかっているそうですよ。
そんな卵化石、田中さんはどこに着目して、どんな研究をされているんですか?
「顕微鏡で卵の細かな構造を調べたりとか、卵はどういうところに埋まっているかを調べたりとか、色んな情報を集めていくと、恐竜たちがどんな風に卵を産んで温めて孵化させていたのかが結構分かってくるものなんですよね」
●殻からも色々分かってくるんですよね?
「卵化石は、そもそも卵の殻しか化石には残っていないんですね。中の黄身とか白身ってなくなっちゃうので」
●そうですよね。でもその殻だけを見て何が分かるんですか? 殻ですよね!?
「そうなんですよ、証拠は本当にちょっとしかなくて。例えば卵の殻に小っちゃな穴がいっぱいあいているんですよ。ゆで卵を作るとプチプチと気泡みたいなのができますよね。中の赤ちゃんが息するための穴なんですけども、あれがたくさんあいていたら地面に埋めるタイプとか、穴が少なかったら鳥みたいに地上に巣を作って卵を産み落とすタイプっていうふうに、結構そういう形や構造に違いが出てくるんですね」
●すごい! 色んな研究があるんですね。野鳥は繁殖のために巣を作りますよね。 巣を作る材料も様々で、キツツキのように木に穴を開けて巣作りするものもあれば、コアジサシのように海岸の平坦な場所に、小石を敷き詰めて産卵するための場所を作る種もいますけど、恐竜の場合はどんな巣を作っていたんですか?
「これもまた恐竜によって色々あったという風に考えられています。先ほど出てきた鳥に近い羽毛恐竜は、本当に鳥みたいに地面に巣を作って、親が卵を温めていたというのが分かっていますし、それよりもうちょっと古い恐竜だと、ウミガメみたいに卵を地面の中に埋めて、周りの熱で卵を孵化させていたことが分かっていますね」
●きょうはスタジオに卵化石の模型とレプリカを持ってきていただいたんですけれども、このふたつ、全然違う形ですよね?
「まず大きさが違いますね」
●こちらが親指ぐらいの大きさというか、ウズラの卵をちょっと細長くしたような感じですよね。もうひとつのほうが?
「これはニワトリの卵をふたつ、くっ付けたくらいの長さですかね」
●そうですね〜。
「どちらも同じ、鳥に近い羽毛恐竜の卵なんですね。ただ身体の大きさが違うので、ちょっと大きいのと、ちょっと小っちゃいのっていう感じですね」
●卵の殻の素材というか・・・このウズラの卵をちょっと細長くしたような小さめの卵のほうはツルツルですけど、大きいほうはブツブツというか・・・。
「表面をよく見るとなんかブツブツがいっぱいありますよね? 恐竜によって表面の模様みたいなものに実は色んなパターンがあって、それによって分類することができるし、例えばどの恐竜が産んだ(卵)だろうっていうことが推測できるんですね」
●へ〜〜そうなんですね。この卵ですと・・・?
「ブツブツの模様が付いている卵は、オヴィラプトルの仲間にみられる特徴です。オヴィラプトルは、オウムみたいな顔にダチョウのような体つきをした、小型の恐竜なんですけども、彼らが特徴的な卵を産むんですね。だから破片が見つかれば、オヴィラプトルの卵だって分かるんですね」
●そうやって読み解いていくんですね。
「もう1個の小っちゃなほうは、実は兵庫県の丹波市で見つかった卵なんですけど、めちゃくちゃ小さいですよね? 本当にウズラの卵ぐらいですね。これ今のところ世界最小の恐竜卵とされています」
モンゴルで発見! 大規模な集団営巣
※本に書いてあった、モンゴル・ゴビ砂漠で発見した恐竜卵の話がとても興味深く、面白かったんですが、改めていつ頃、どんな発見があったのか、教えていただけますか。
「これは僕がまだ大学院生の時だったんです。一緒に研究をしている北海道大学の先生で有名な小林快次先生っていう恐竜研究の先生がいらっしゃるんですけど、その先生がモンゴルで調査を毎年ずっとやっていて、そこで恐竜の巣の化石がいくつか見つかったんですね。それで僕に連絡をくださって、一緒に調査しないかっていうことで、僕もモンゴルに行ったんです。
テニスコートぐらいのところに恐竜の巣の化石が、ぽこぽこぽこっていっぱいあったんですよ。同じ場所にたくさんあるのは集団営巣、”コロニー”って言って、ペンギンがよくテレビの映像で(同じ場所に)一緒に巣を作っていますよね。あんな感じのことを恐竜もしていたんじゃないかっていうことが分かってきたんですね」
●集団で巣を作っていたっていう発見は、恐竜研究の歴史に刻まれるすごいことですよね?
「集団で巣を作っていた痕跡は、実は今までにも結構見つかってはいたんですよ。ただ、今回のモンゴルの(発見)は結構大きな規模で、詳しく研究したら恐竜の面白い行動パターンが分かってきたので、僕たちは論文にしたんですけど、どういう行動をしていたと思います? なんで恐竜って群れていたんでしょうね? 群れることで実はいいことがあるんですけど・・・」
●何だろう???
「群れると敵が来た時にすぐに発見できるんですよね。みんなに知らせられるので、ひとりでいるよりもたくさんでいたほうが、たくさんの目で敵を見つけやすいというメリットがあるわけなんですね。多分そうしていたんじゃないかと思っています。そうすることで巣をみんなで守っているというか、親がたくさんいるから敵が来た時でもすぐ見つけられて、営巣地を守っていたんじゃないかっていう風に考えています」
●先ほど規模が大きかったっておっしゃっていましたけれど、どれくらいの規模だったんですか?
「少なくとも15個、巣の化石が見つかっています。本当に狭いエリアからですね」
●密集してみんなで群れていたんですね。この恐竜は自分たちで卵を温めていたタイプなんですか?
「この恐竜の面白いことに、自分たちで温めていないパターンの恐竜なんですよね。爬虫類みたいに卵を地面の中に埋めていたタイプなんですよ。なのに集団で巣を守っているっていうのは、爬虫類的でもあるし、鳥によく似ているし、本当にちょっとモザイク上というか、進化の途中だっていうのが分かりますよね」
●肉食獣、草食獣っていう風に考えると、どっちなんですか?
「これがまたややこしいんですけど、肉食から進化した植物食の恐竜なんですよ」
●ええ!? なんですかそれ!
「ちょっと不思議ですよね。鳥に近いんですけども、そこまでまだ近くはない、本当に中途半端というか変わった恐竜なんですよ。テリジノサウルス類っていう恐竜なんですけど、可愛いテディベアみたいな可愛い恐竜です」
●どんな特徴があるんですか?
「前足に長い爪を持っていまして、大きい種だと1メートル近い爪を持っています」
●すごいですね!
「でも植物食なので、二足歩行で爪を熊手みたいに使って、木の枝をかき集めて植物を食べていたんじゃないかって言われています」
●で、敵から守るためにみんなで集まっていたんですね。
「そうですね。強い恐竜ではなかったので、みんなで集まって巣を作って、卵を守っていたと思います」
●孵化したことは分かっているんですか?
「それも分かってきていて、孵化したのが化石を詳しく調べていくと分かりました」
●15個の中からどれくらい孵化していたんですか?
「15個巣があった内の9個の巣で孵化した形跡が見られたんですね。15個の内の9個っていうと、結構割合としては成功しているほうなんですね。60%の成功率なんですけど、この高い成功率は親が巣を守っている場合に見られる割合なんですね」
注:お話に出てきた北海道大学・総合博物館の教授「小林快次(こばやし・よしつぐ)」先生は恐竜ファンの間では「ダイナソー小林」として有名な、恐竜研究のエキスパートで、その先生との出会いが少年時代、自然や恐竜が大好きだった田中さんを本格的に恐竜学者への道にいざなったと言っても過言ではないでしょうね。
田中さんは留学していたカナダでも発掘調査を行なっていますが、今後、発掘調査に行きたい場所としてウズベキスタンをあげてくださいました。実はコロナ禍になる前にウズベキスタンに行ったことがあるそうです。まだまだ未開拓の地で、たくさんの恐竜卵の化石が埋まっているのではないかと田中さんは胸を膨らませています。
恐竜の子育てミステリー
※恐竜の種類にもよると思いますが、卵から孵化したあと、親は子供にどうやって食べさせていたんですか?
「小尾さん、どうやっていたと思います?」
●鳥は口移しとか、ですよね・・・。
「はいはいはい、ツバメみたいな感じで」
●そういうイメージがありますけど、恐竜もそうですか?
「えーっとですね、クイズにしましょうか! 1:ツバメみたいに親が直接餌を与えていた。2:親が餌を巣まで持ってきて、それを子供がパクパクと食べていた。3:餌はあげなかった」
●う〜ん、2番!
「2番、餌を持ってきて、巣の中でヒナが自分で食べていた。正解は、どれも分かりませんでした」
●え〜〜〜〜なんですか、それ!
「すみません。まだそこまで分かっていないんですよ」
●そうなんですか?
「生まれたあとの行動って化石には残らないので・・・。研究者によっては、親が餌を運んできただろうと言っている研究者もいるんですけども、なかなか確固たる証拠がないんですね。まだまだ謎に満ち溢れているという(笑)」
●そうなんですね。でもそういったことも今後分かってくるかもしれないってことですよね?
「そうです! アイデア次第でまだ気づいていないだけで、ヒントが隠されているかもしれないですよね」
●子育ての期間とかもまだ分かっていないっていう感じなんですか?
「分かっていないですね。ただ、卵が孵化するまでの期間は分かっているんですよ。何か月だと思います?」
●ちょっと見当もつかないです。どれくらいですか?
「例えば、体の大きなハドロサウルス類っていう恐竜がいるんですよ。体長が7〜8メートルくらいある恐竜で、直径20センチくらいの丸い卵を産むんですけど、何日くらいだと思います?」
●何日だろう? 時間がかかるのかな~?
「大きいからそれなりに時間はかかりそうですよね」
●正解は?
「正解は半年って言われているんです。長いですよね、半年! 」
●半年!
「僕はそんなに長くはないんじゃないかと思っているんですけど、そういう研究があります」
●野鳥の中ではカッコウのように、他の野鳥の巣に卵を産み付ける「托卵」という繁殖行動をとる種もいますけれども、恐竜でもあったと推測できるんですか?
「鋭い質問ですね~、それ(笑)。今のところ、托卵していた確かな証拠はないんですね。ただ、中国とかモンゴルとか、恐竜の卵化石がたくさん見つかる地域で、色んな博物館によって調べたりしているんですね。恐竜のきれいな巣の化石があって、卵がたくさん産んであるんですけども、明らかに種類が違う卵が混じっていたりすることがたまにあるんですよ」
●ほお~〜〜〜!
「もしかしたら、そういうのは托卵しているのかもしれないですね。ただ、まだ公表はされていないので、すごく興味ありますよね。今後、僕も詳しく調べてみたいなと思います」
恐竜の謎を一緒に解き明かそう!
※田中さんが調査や研究をしていく中で、いちばんワクワクするのはどんな時ですか?
「やっぱり研究のアイデアを思いついた時ですかね」
●アイデア!?
「砂漠で化石を発掘したり新種を見つけたりするのも、それはそれで楽しいと思うんですけども、卵が孵化するまでの日数をどうやって調べるかとか、恐竜は親が卵を温めていたのかっていうのは、アイデア勝負というか、いくつか限られた証拠から、仮説を立てて調べていくわけですね。そこで研究をこうやったら分かるんじゃないかっていう方法を思いついた時は、すごく嬉しいです」
●恐竜学者として心がけていることとか、大事にしていることはありますか?
「ちょっとした謎でも思いついたら、不思議だなって思ったことはメモしています。もしかしたら、それが次の研究に繫がるかもしれないですよね」
●子どもの時に感じていたような、何でなんだろう? っていう気持ちを大事にされているっていうことですか?
「本当にそれは重要だと思います。お子さんが質問してくることって大概、僕たち(研究者は)答えられないんです(笑)。本当にいいところを突いていて難しい質問が多いんですよね。でもそれは、逆を言えば今分かっていないから、大いに今後の研究のテーマになりうるってことですよね」
●なるほど〜。やりたいことがたくさんあると思うんですけれども、今後の大きな目標は何かありますか?
「そうですね。やっぱりまだみんなが思いつかないような、思いもしなかったような恐竜たちの行動とか暮らしぶりを明らかにしたいなって思いますよね」
●なにか具体的なことはありますか?
「やっぱり卵の研究をしているので、卵でもまだ分かっていないこと、ですね。さっきおっしゃったように、恐竜の親が赤ちゃんに餌を与えていたのか、何日くらいで巣立ったのか、そういうこともほとんど分かっていないんですよ。ぜひ何かしら、きっかけを見つけて謎を解き明かしたいなと思います」
●楽しみですね〜。夢が広がりますね! 恐竜が大好きな子供たちや、恐竜学者を目指そうとしている学生さんたちに、もし伝えたいことが何かありましたらお願いします。
「はい! 研究は大変ではあるんですけれども、とっても楽しいです。まだまだたくさんの謎があって、見つかっていない恐竜もたくさんまだ埋まっています。だからみんなが、お子さんたちが研究者になる頃には、謎がまだたくさんあふれているので、ぜひ一緒に恐竜の謎を解いていけたら嬉しいなって思っています」
INFORMATION
『恐竜学者は止まらない!〜読み解け、卵化石ミステリー』
カナダやモンゴル、中国などの発掘現場での奮闘の様子や、卵化石の研究成果、そしてなにより研究者として邁進していく姿に圧倒されると思います。恐竜卵の研究はまさに時空を超えてつながるミステリー。丸くて硬くて面白い、卵化石の世界にぜひ触れてみてください。創元社(そうげんしゃ)から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎創元社HP:https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4275
2021/11/28 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. WALK THE DINOSAUR / WAS (NOT WAS)
M2. I FOUND SOMEONE / MICHAEL BOLTON
M3. E.G.G. / CYMBALS
M4. BORN TO MAKE YOU HAPPY / BRITNEY SPEARS
M5. EGG / 木村カエラ
M6. LONG LONG TIME / LINDA RONSTADT
M7. MAGICAL MYSTERY TOUR / THE BEATLES
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/11/21 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、徒歩旅行家「吉田正仁(よしだ・まさひと)」さんです。
吉田さんは1981年、鳥取県生まれ。2009年から、ユーラシア大陸の横断を皮切りに、北米大陸、オーストラリア大陸の横断、東南アジアの縦断、その後、2014年からアフリカ大陸、2015年からは南米・北米大陸の縦断に挑戦し、たくさんの困難を乗り越え、リヤカーを引いて5大陸の単独踏破を成し遂げました。およそ10年かけて歩いた距離は全部で77500キロ! 地球一周がおよそ4万キロなので、2周分に近い距離になるんです。
きょうはそんな吉田さんに、時速5キロの旅で出会った人々や、忘れられない絶景など、お話しいただきます。
☆写真協力:吉田正仁
ひとつのことをやり遂げたい!
※吉田さんの新しい本が『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』。この本は南米大陸の南の端から、北米大陸の北の端まで歩いた旅の紀行文です。
やはり気になるのが、どうして歩いて世界をまわってみようと思ったのか。何度も聞かれていると思うんですけど、大陸を横断するような旅に挑戦しようと思ったのは、どうしてなんですか?
「25歳くらいになって、自分の人生を振り返った時に、何かひとつのことをやり遂げたっていう経験がなかったんですね。スポーツや勉強も何をやっても中途半端で、自分の人生って何だろうと考えていた時期がありました。私の場合は何かひとつのことをやり遂げたいと思って、元々旅好きだったというのもあるんですけど、どうせだったら歩いて、中国からユーラシア大陸の最西端のロカ岬まで自分の足で歩いてみようと、それがきっかけでした」
●その発想があっても、実際実行に移すのはなかなか大変なことなんじゃないですか?
「そうですね。まずお金がなかったので、2年ぐらい仕事をして、お酒もやめてタバコもやめて、お金をしっかり貯めました。あと装備品ですね。テントや寝袋、リアカー、そういったものは色んな企業にお願いをしたんです。会社の昼休みにひとり、車にこもって、ずっと営業の電話をかけて、装備の支援をいただく交渉をしたりとか。ひとつひとつ自分だけの力で、あまり誰かにお金とかで頼ることもなくやりたいって思いがあったので、資金に関しても全部自己資金でやりました」
●旅の相棒はリアカーですよね? どうしてリアカーなんですか?
「歩くとなると衣食住、どこにでもホテルとか宿があるわけではないので、テントも必要ですし、無人地帯では食料も必要になって、衣食住すべて揃えたら、時には50キロとかになるんです。それらは全部背負って歩くと足の故障にも繋がると思いますし、そういうリスクがあって、荷物の運搬手段として、動物も考えたんですけど、やっぱり国境を越える時に何かしらのトラブルが生じたりとか、途中で死なれても困りますし、そういうこともあって色々と考えていき着いたのがリアカーというものでした」
●野営のために必要な道具を全部詰め込むんですよね。
「そうですね。全てないと、野営に必要なものもですし、タイヤのパンク修理とかそういう道具や工具、そういったものも必要です」
●いちばん重い時で何キロくらいになるんですか?
「食料や水に左右されるんですよ。いちばん長い時で320キロとか無補給地帯、水も食料も補給できないところもあるんですけど、そういうところでもいちばん重い時で水だけで32リットル、32キロですね。あと食料も10日分とか詰め込んで、いちばん重い時で100キロを超えるぐらいですね」
(注:大陸を横断するような旅に出ようと思ったのは、今までの人生を振り返って、ひとつのことをやり遂げたことがなかったから、というお話でしたが、大陸に挑戦する前に、バックパッカーとしてアフリカを旅したときに、観光地や大きな街を巡って、物足りなさを感じたそうです。もっと小さな村や街を訪れ、現地の人たちと触れ合いたい、という思いも大陸に挑戦する理由だったそうです)
アースウォーカー「ポール・コールマン」との出会い
※吉田さんの本を読んでいると、南米大陸の旅でもいろんなかたたちと出会っています。中でも、パタゴニアの小さな町に暮らすポール・コールマンさんとの出会いが興味深いんです。ポールさんは「アースウォーカー」と呼ばれ、世界を歩いて旅をしながら、100万本以上の木を植えた人として知られています。ポールさんとはどうやって出会ったんですか?
「私がポール・コールマンという名前を知ったのは、日本を出る前の話なんですね。登山とか極地探検とか、結構色んな冒険の歴史ってあるんですけど、なかなか歩いて大陸を横断したっていう前例が、記録として文章として残っているかというとそうでもないんです。インターネットで歩いている人について調べていたら、ポール・コールマンっていう名前が出てきて、それが最初のきっかけですね。100万本の木を植えながら世界4万キロを歩いた男がいると、それが彼を知ったひとつのきっかけだったんです。
そして、チリを歩いていた時に、旅行者だったと思うんですけど、”ラフンタっていう町に木を植えながら(地球を)歩いた男がいるよ”と(教えてもらって)、その情報だけでポール・コールマンだと(わかって)すぐに思い立って、会いに行きました」
●実際、会っていかがでしたか?
「やっぱり普通に考えて、歩いて旅をするって、最初できるんだろうか? って、経験も知識も何もなくて、大きな不安がやっぱりあったんですけど、ポール・コールマンとか、あと何人か歩いて(旅をして)いる人がいて、そういった人の前例が不安とか迷いがあった自分の背中を後押ししてくれました。
それがあったのは確かなので、彼と出会えたことはすごく幸せだったと思います。彼は今、自給自足に近いような生活をしていて、元々荒地だったところ、そこにも木を植えて、今は野鳥や虫の、色んな生物の楽園になっているんです。
彼も”ひとつひとつ目の前のことをやっていくことは、歩いているのと同じだ”というような話をしてくれて、歩き終えた時も自分の生きかたを、進む道を同じように一歩一歩行くんだよっていうことを教えてくれたような気がしました」
(注:ポール・コールマンさんの奥様は実は、活動を共にしている日本人の「菊池木乃実(きくち・このみ)」さんというかたです。菊池さんはポールさんの本も出していらっしゃいます)
旅が交わる砂漠のレストラン
●南米のペルーの砂漠にポツンとレストランがありましたよね?
「それもすごく印象的ですね。ポール・コールマンと同じように自分の背中を後押ししてくれたかたのひとりが、池田拓さんっていうかたなんですね。池田さんの名前を知った時には、彼は既に亡くなっていて、もちろん面識はないんですけど、池田さんが南米(大陸)を縦断したということはもちろん自分の頭にもあって、南米を実際に歩きながら、池田さんもこういう場所を歩いたのかなと想像しながら歩いていたんですね。
ペルーの砂漠地帯、首都リマの北300キロぐらいのところに、そのレストランはありました。レストランに着く3日前ぐらいに、1台の車が止まって、おじさんがこの先に家があるから寄って行けよと、そういうこと言ってくださったんすね。
住所は、1キロ毎にマイルストーンっていうんですかね、距離の数字が書いてあるんです。337とかそういう数字だったと思うんですけど、くしゃくしゃのレシートに337キロって書いて渡してくれて、実際3日ぐらいでそこに辿り着いた時、レストランが現れたんです。
そこが彼のレストランで、この砂漠地帯を旅する、自転車で旅する人もいるし、バイクで通り過ぎるような人もいるんですけど、そういう人を善意で招いて食事を与えてくれるかたなんです。そこを訪れた人のゲストブックっていうんですかね、記録で名前を書いていたり、色んな感想を書いていたり、そういうものが5冊くらいありました。それを渡されて、ページをめくった瞬間にもうビビビっと、稲妻が走るような衝撃があって、そこには池田拓さんの書き込みがあったんですね。衝撃的でしたね」
●吉田さんにとっては、池田拓さんは憧れに近いような存在ですよね?
「そうですね。歩くきっかけを与えてくれた、直接面識はないんですけど、間接的にきっかけを与えてくれたようなかたで、こういう形で自分の旅と池田さんの旅が交わるということに感動を覚えました」
●すごいですね。ゲストブックには色々な歴史が刻まれているんですね。
「そうですね。グレートジャーニーっていう旅をされた関野吉晴さんっていう探検家もいらっしゃるんですけど、池田さんの数ページあとに関野さんの書き込みがあったり、個人的にいちばん尊敬しているカール・ブッシュビーっていう30年くらい歩き続けている人がいて、彼の書き込みもあって、こういう形で旅路が交わる、重なることにすごく嬉しく思いました。
池田さんの話には後日談があって、日本に帰って本を出したあとに、知り合いの知り合いくらいを辿って、池田さんのお父さんも亡くなられているんですけど、お姉さんがまだお元気で、お姉さんに連絡を取って、本と池田さんの(ゲストブックの)書き込みの写真を送らせていただいて、喜んでくださったと、そういうことがありました」
●旅が繋いでくれた絆っていう感じですね!
「そうですね」
(注:お話に出てきた吉田さん憧れの冒険家「池田拓」さんは、1988年から3年かけて、徒歩で北米大陸の横断と南米大陸の縦断を成し遂げた人です。残念ながら1992年に26歳の若さで亡くなっています)
忘れられないペルーの絶景
※南米大陸の旅で出会った未だに忘れられない絶景があれば、教えていただけますか?
「絶景ということであれば、ペルーにワスカラン国立公園というところがあるんですね。ちょうどペルーの首都リマに着いたあと、3週間くらい足を止めていたんです。その時に、リマの北東300キロくらい離れているんですけど、そのワスカラン国立公園は自分の歩くルートとちょっとずれるので、バスでワラスという街まで行ってトレッキングをしたんですね。テントとか寝袋を持って山を歩いて。
それもすごく息をのむような景色の連続で、満足のいくものだったんですけど、トレッキングを終えて、バスに乗ってワラスに戻る時に、峠があって、峠を超えた瞬間、目の前にもう信じられないような景色が現れたんですね。6000メートル級の山が連なっていて、全部氷河を抱いているような山で、眼下にはターコイズブルーの湖が見えて」
●へぇ〜〜!
「これ凄いな! と思って、トレッキングを終えて、一回リマに戻るんですけど、その景色を忘れられないんですね。戻りたいなって思って。でもペルーのリマからずーっと北を目指す当初の予定では、海抜0メートルの海岸線をずっと歩くだけなんです。ワラスに戻るにはアンデスを越えないといけなくて、4000メートルの峠を3つくらい越えないといけないんですよ。
そういうことを考えていたら、戻りたくないという気持ちもあるんですけど、キツいのは目に見えているから。でも帰国後に、例えば今もなんですけど、どこがいちばん綺麗でした? と言われた時に、ワスカラン国立公園って堂々と答えるには、やっぱり自分の足でそこをリヤカーを引いて歩かないといけないなと思って、その4000メートルの峠を3つ越えて、2週間ぐらいかけて戻って、バスから見た景色と同じものをリヤカーと一緒に見ることができました」
会社務めは、新しい冒険!?
※世界5大陸をおよそ10年かけて踏破して、すでに3年近く経ちました。現在はモンベルの社員として仕事をされていますが、吉田さんの旅は次のステージに入っていると言ってもいいのでしょうか。
「そうですね。新しい冒険ですね、今の仕事は」
●おお〜! それはどんな冒険なんですか?
「未知ですね!(笑)。今の業務も全くの未知なんですね。仕事を教えてくださるかたは“北極圏を歩くほうが大変です”って言うんですけど(笑)」
●あははは(笑)
「僕は今の仕事のほうがよっぽど大変かな〜と思っています」
●ガラッと、生活も変わりますよね。
「はい」
●12月11日に開催されるモンベル主催の」冒険塾」で講師を務めることになっていますけれども、どんな内容になりそうなんですか?
「自分としては、踏み出す最初の一歩、踏み出すきっかけを与えるようなお話ができたらなと思っています。旅で歩く理由はもちろん、色んな国々でのエピソードもちょっとお話できたらと考えています」
●本を出版されるということは、人に影響を与える立場になられていると思うんですけれども、世界の旅で得たこと、感じたことで、どんなことをいちばん伝えたいですか?
「自分が伝えられること、いちばん、唯一にして最大のことっていうのは、どんな小さな一歩でもそれを積み重ねることで、夢とか目標とか、そういうものに辿り着く、近づくことができるっていうことかなと思います。
歩いてきた距離が77500キロ、年月は10年くらいなんです。その77500キロとか、10年っていう数字だけを見たら、すごく大きなものに思われるかもしれないんですけど、結局やってきたことって、目の前の一歩を着実に確実に刻んでいくことなんですね。その結果そういう大きな数字になっていたということなので、そういうことを伝えられたらなと思っています」
INFORMATION
『歩みを止めるな! 世界の果てまで 952日リヤカー奮闘記』
南米・北米大陸を単独踏破したときの紀行文。奇跡的で印象的な出会いの数々や、大自然の過酷さや絶景など、読み応えのある話が満載です。ぜひ読んでください。産業編集センターから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎産業編集センターHP:https://www.shc.co.jp/book/15058
「モンベル冒険塾」開催!
吉田さんが講師として登壇する「モンベル冒険塾」が12月11日(土)の午後2時から開催されます。講師の顔ぶれは吉田さんのほかに、ヨットで太平洋往復単独横断を達成した辛坊治郎さん、冒険作家の佐藤ジョアナ玲子さん、そしてモンベルの辰野会長です。今回はモンベル大阪本社でのリアル開催と、オンライン配信となっています。参加者の募集は11月30日まで。参加費など、詳しくはモンベルのオフィシャルサイトをご覧ください。
2021/11/21 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. TALKING TO THE MOON / BRUNO MARS
M2. WALK ON BY / DIONNE WARWICK
M3. STEP BY STEP / WHITNEY HOUSTON
M4. MILES AWAY / MADONNA
M5. ラストシーン / 菅田将暉
M6. UNFORGETTABLE / NATALIE COLE & NAT KING COLE
M7. THE POWER OF THE DREAM / CELINE DION
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/11/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、小説家の「森沢明夫(もりさわ・あきお)」さんです。
森沢さんは1969年、船橋市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターに。そして2007年に『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。その後、話題作を次々と発表されています。
映画化されている作品も多く、例えば、高倉健さん主演の映画『あなたへ』や、吉永小百合さん主演の『ふしぎな岬の物語』、そして、有村架純さん主演の『夏美のホタル』など、原作は森沢さんの小説です。
そんな森沢さんとこの番組は、14〜5年前からのお付き合いで、事あるごとにご出演いただいていますが、今回は、先頃出されたエッセイ集『ごきげんな散歩道』に沿ってお話をうかがうことになりました。
森沢さん流の、日々「ごきげん」でいるためのコツや、小さな幸せに出会える散歩のお話にはきっと、心と体をリフレッシュさせるヒントがたくさんあると思いますよ。
☆写真:森沢明夫
深夜の散歩、霧の夜
※おうち時間が増えている中、本のタイトルにある「ごきげん」と「散歩」が、日々を過ごすための大切なキーワードになっていると思ったんですが、そのあたりはいかがですか?
「僕、単純に家の中にいるより、外をふらふらしているとそれだけでご機嫌になれる体質なのか分からないんですけど、散歩って科学的にも精神や心にすごく良いって言いますよね。歩いていると色んな出会いとか、人とも出会うし、例えば綺麗な空とも出会ったり、その季節の例えば花とか、色んなものと出会えるので、そういうものを見ていると、それだけでご機嫌になっていくなと思っていますね」
●私は移動手段として、ただただ歩いていたなっていう風に感じました。ちゃんと散歩で楽しんでなかったなと思ったので、やっぱり視野を広げて色々な世界を見てみると色んな発見がありますよね。
「足もとの世界に、よく見れば見るほど、色んな世界が実は広がっていて、子供の頃、よく“ありんこ”とかしゃがんで見ていませんでした? 大人になるとあまり見ないですよね。
子供の視点で足もとに何かないかなーと思って探す、何か面白いものを探そうって目を持って歩いていると、意外と何でもない国道の道端に見たことのない雑草の花が、可愛いのが咲いていたりとか、色んな発見があるので、すごく楽しいですよね」
●日々、立ち止まりながら散歩されているんですか?
「そうですね。この歳で道端でしゃがんで写真を撮ったりすると、結構怪しがられますよね(笑)」
●そうですよね(笑)。深夜にもお散歩されるってうかがったんですけども?
「します。結構、深夜率も高いです。3割ぐらい深夜かもしれない」
●深夜というと何時ごろですか?
「僕は寝る時間とか決めていないんで、夜中の2時、3時、4時とかありますね」
●え〜! 真っ暗ですよね?
「真っ暗だったり、朝方になりつつあったりとかもします」
●深夜のお散歩だと、どんな発見があるんですか?
「深夜は、例えば星が綺麗だったり・・・ツイッターとか見ていたりすると、星の観察されているかたがいて、今どこの方向に金星と土星が光っていますとか、そういうのを見て、ちょっと散歩しようと思って見たり・・・。あと星座を見られるアプリがあるんですよ。そのアプリを見ながら空にスマホをかざして、あれが何座であれが何座だなと思いながら歩いたり・・・意外と面白いのが霧の夜。雰囲気が好きですね」
●霧の夜、何か幻想的ですね。
「そうなんですよ。小説の中の世界に、ミステリー小説の中に入り込んだみたいな不思議な感覚になって・・・男だから(深夜に散歩が)できるんだと思うんですけど」
●確かにちょっと女性の深夜の散歩は危ないかも。
「深夜の霧の夜に、わざと狭い路地に入っていくとかって雰囲気がちょっと面白いですよね。
本当に朝、昼、晩の散歩の面白さがあるし、日本って四季があるじゃないですか。だから春夏秋冬、同じ道を通っていても色んな発見があって、雰囲気も違って、すごく面白いんですよね」
メモが止まらなくなる散歩!?
※森沢さんは散歩をしているときに、小説家らしいというのか・・・、こんなこともよくあるそうですよ。
「小説を書いていると、頭の中がぎゅーって圧迫されている状態が続くっていうか、集中している状態が続くじゃないですか。でも一回それをふわって解きほぐす時間帯が欲しくて散歩するんですけど、意外なことに、そのふわって何も考えずにいる散歩の瞬間にむしろアイデアがいっぱい降ってくるんですよね」
●この本の中にも「メモが止まらなくなる散歩」という項目があって、「歩き始めてすぐに僕の内側から言葉とひらめきが溢れ出した」というような文章がありますけど、やっぱりそういう切り替えというか、あえて外だからこそ浮かんでくるものって何かあるんですか?
「やっぱり歩いていると、視覚から入ってくる情報とか、嗅覚、風の匂いとか、風の触感もそうだし、色んな感覚が新しく入ってくるんで、脳に刺激がいくのかなと思ってますね」
●「(本に)脳と心がしゃきっと目覚めた」っていう表現もありましたけれども、森沢さんが散歩中に出会った印象に残っている出来事って何かありますか?
「いっぱいありますけど、暗い夜道にひとりで路地を歩いていたら、前に若い女性がいたんです。悪いことしたなと思ったんですけど、その女性が僕のことを振り返ってダッシュで逃げていった時、まじか!と思って・・・追いかけていって、僕は悪い人間じゃありませんって言いたいぐらいですけど、追いかけていったらそれこそ怖いんで(笑)」
●そうですね(笑)。何か素敵な出会い、生き物だったり人だったり、そういったことはありますか?
「結構、猫と出会えたりとか、野良猫なのか分からないけど、人懐っこい猫が結構いたり・・・猫と触れ合っていると通学中の子供たちが寄ってきて話しかけてくれたり。
あと、子供のころよく遊んでいた草花を久しぶりに見つけて、子供のころやっていた遊びをやってみると、何かちょっと癒されますね。懐かしいなーって」
●すごく癒されそう、ほっこりしそうですね。
「本にも書いたんですけど、オシロイバナで遊んだりしませんでした?」
●やりました〜!
「ああいうのって懐かしいな〜と思って」
●何かふわ〜っと子供のころの情景も思い浮かびますし。
「地元を歩いていると、当時の通学路を歩いたりするんで、思い出がたくさん蘇ってくるんですよね 」
註釈:森沢さんが散歩に行くときに持っていくのは、ほぼスマホのみ。散歩の平均時間は1時間半くらい。お天気の良い日には公園で本を読んだり、行きつけの喫茶店に行くこともあるそうですよ。
渚の旅人、釣りを楽しむ!?
●森沢さんは昔「渚の旅人」ということで、日本の海岸線を巡っていたんですよね?
「そうですね。日本の海岸線を尺取虫状に、今回はここからここまで、その次はこっからここまでって繋いでいって、一周しようっていう企画が雑誌の連載であったんですよ。一周しながらそれを紀行エッセイにしていくっていう」
●私の名前が「渚沙」なので、すごく興味深いんです(笑)。
「いい名前ですね〜!」
●渚を旅されて、いかがでした?
「最高に面白くて、エキサイティングで、釣り好きなんで。でも釣竿を持って旅するのは編集長に禁止されていたんです。なぜなら先に進まないから(笑)。
僕がやっていたのは、海岸にいる釣り人に話しかけて、釣れている人にちょっと竿を貸してって言って、竿を奪い取って自分で釣って楽しんだり。
あとは日本の美味しい海産物とたくさん出会えたり。風景も、色んな独特の風景がたくさんあるんで、7年以上やったんですけど、全く飽きることがなかったですね」
●特に印象に残っている場所はありますか?
「難しいな〜。めちゃくちゃ難しいけど、ここ日本かよって思うぐらいびっくりしたのは、青森県の仏ヶ浦っていう海岸。白い巨大な岩がたくさん海岸線沿いに屹立していて、そのスケールが大きいんで、日本じゃないみたいと思いましたね。
海も本当にソーダ水みたいな綺麗な海で、5メートルとかそれ以上深いところの小石が見えます」
●ええ!? すごいですね!
「本当に綺麗です。よくテレビとかでカヌーが(水面から)浮いているように見える(シーンがありますが)、あれぐらい綺麗かもっと綺麗かってくらいでした」
註釈:森沢さんのおすすめスポットとして、散歩コースではないんですが、 「ふなばし三番瀬(さんばんぜ)海浜公園」をあげてくださいました。海好きな森沢さんは散歩の代わりに、オートバイに乗って出かけることもあるそうです。
森沢さん流の「散歩の極意」
※「だから散歩はやめられない!」という瞬間はどんな時なんですか?
「個人的には、単純に歩いて帰ってきた時の、家を出た時と家に帰って来た時の、心と身体の軽さが違うんですよね。それはやっぱり、もう本当にやめられない」
●煮詰まって出かけたのに・・・。
「そうですね。背中も肩も首も凝りっこりで、ガチガチに凝って、精神的にも疲弊して、頭もなんかこう、重たいような状況で歩きはじめて、1時間して帰って来たらものすごくすっきりしているんですよね。これはもう(散歩を)やめられないですよね」
●森沢さんが思う散歩の極意っていうのは?
「極意!? 極意はやっぱり“五感”を使うこと! 情報はたくさん目から入ってくるし、途中で花の匂いがしたり、例えば秋だったらキンモクセイの匂いがしたりね。あと、カレーライスの匂いがしてきたり・・・」
●あ〜!
「どっかの家でね、今夜はカレーなんだなあ(笑)とか思いながら。あとツツジの花をたまに吸ってみたり。サルビアとか、サルビアって分かります?」
●はい! 分かります。
「赤い花なんですけど、あれを、ちゅっと吸うと蜜の味がしたりするじゃないですか。あとね、空気の感じとか。たまに枯れ葉を拾ってみたり、そういう色んな五感を使って楽しむ。
ひとつひとつに小さな感動があると思うんです。その小さな感動をしっかり身体で味わうっていうのかな。それをやっているとなんかね、すごく小さな幸せをたくさん蓄積していく感があって、個人的にはすごくいいと思うんですよね。
だから極意は? って言われたら、五感を使って、身近なことを、場所を、味わいましょうっていうことかな」
●身体全体で感じられますよね。
「散歩、しません?」
●そうですね。でも私は本当に森沢さんの本を読んで散歩しよう! って思いました。歩くことが手段でしかなかったので、散歩をすることでもっともっと心が豊かになりそうだなって思いました。
「単純に、家から駅まで通勤で歩いている間にも、多分何かしらの発見はあるはずなんですよね」
●本当ですよね〜。ただ今、テレワークも増えていて、朝起きてから夜寝るまで、ずっと家にいるってかたも多いと思うので、本当に息抜きで散歩って大事ですよね?
「大事ですね〜。ずっと家にいるのが小説家ですからね」
●そうですよね〜。締め切りに追われてとかも多いと思うんですけど。
「締め切りに追われた時ほど散歩した方がいい! そのほうが多分、筆が走る」
●むしろはかどる?
「むしろはかどると思います。30分でもいいから歩いて帰ってきたほうが、その分、時間を無駄にしたというよりは、30分ぶん以上、筆が走るんで・・・経験上僕はそうだと思います」
新しい小説は「チェアリング」!
※明かせる範囲内でいいんですけど、これから書こうと思っている小説の構想だけでも教えていただくことはできますか?
「実はそれこそフリントストーンっぽいんですけど・・・」
●おっ〜!
「“チェアリング”って知っています?」
●チェアリング? 何でしょう?
「チェアって英語で椅子ですよね。その椅子ひとつを持って、風景のいいところに出かけて行って、そこに椅子を置いて、そこでビールを呑んだり、コーヒーを飲んだり、っていうのを楽しむのをチェアリングって言うんですって。もっとも手軽なアウトドアって言われているらしいんです。
大学生が主人公なんですけど、友達や仲間とチェアリングをやって、彼らが成長していく物語みたいなものを今、日本農業新聞というところで連載しています」
●森沢さん自身もチェアリングはされるんですか?
「僕はそんなやっていないんですけど、ただ昔、野宿であちこち放浪していたので、その時はやっぱり椅子をキャンプ地にぽんと置いて、ここから視界に入る風景は全部俺の庭! と思って、贅沢な気分で遊んでいましたね。それを今の大学生達がどうやって楽しんで、どんな出会いをして、どうやって成長していくかっていう物語です」
●どうやって小説って思い描いていくんですか? 森沢さんの脳はどうなっているんですか?
「脳はちょっとお見せできないんですけど(笑)。最初は“人間関係図”みたいなものが閃めくんです。パッて降って来るんです。こういう悩みを持った、何歳くらいの、こういう人を主人公にして、それに対してサブキャラ、こういう人とこういう人がいて、こういう関係性っていうのが最初に降って来るんです」
●へぇ〜〜。
「その人間関係の中に色んな問題があったり、それぞれ抱えている悩みがあったりして、それを何かしら、今回だったらチェアリングを使って、成長させていくにはどうしたらいいのかなって考えていくんですよね。最初は人間関係ができて、キャラクター設定をするんです。
どういうキャラクターにするかって、すごく細かくいっぱい書き出していって、架空の人なんだけど、本当にいるんじゃないかって自分が勘違いしそうなぐらいまで、夢に出てくるくらいまで結構書いていくんですよね。
そのキャラクターたちを、例えば地方の大学とかそういう舞台にキャラクターを置いてあげて、あとは彼らがどういう動きをしていくか観察していく感じですね」
●かつてのアウトドアの経験も活かされているんですよね?
「めちゃくちゃ活きていますね〜。結構、釣りのシーンとかよく書くんですけど」
●では、最後にお散歩マイスターとしてリスナーの皆さんにアドバイスがあればお願いします。
「アドバイスは、四季を活かした日本の散歩をすごく楽しんで欲しいので、同じ道でも色んな時間帯と色んな季節を楽しんで欲しいのと、あとはすごくおすすめなのが、かつての通学路に、あえて行ってみて歩いてほしいですね。懐かしい子供の頃の想い出の道を歩いてみて欲しいなと思います。すごく胸がきゅ〜ってなるのでおすすめですね」
(注:写真や記事の無断複製、複写、転載は禁じられています)
INFORMATION
『ごきげんな散歩道』
エッセイ集『ごきげんな散歩道』をぜひ読んでください。森沢さんが散歩の途中に出会った「ひと」や「もの」「こと」が、やわらかい文章で書かれています。写真も全部「森沢」さんがスマホで撮ったもの。読み進めていくうちにふわっとした感じに包まれて、きっと心が軽くなると思います。春陽堂書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎春陽堂書店HP:https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000762/
2021/11/14 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. WALKING IN THE SUN / TRAVIS
M2. WAITING FOR A STAR TO FALL / BOY MEETS GIRL
M3. HAZY SHADE OF WINTER / THE BANGLES
M4. 渚 / スピッツ
M5. 星の中の君 / Uru
M6. 歩いて帰ろう / 斉藤和義
M7. 散歩しよう/ bird
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/11/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新進気鋭の映像人類学者「太田光海(おおた・あきみ)」さんです。
太田さんは1989年、東京都生まれ。神戸大学卒業後、パリに渡り、人類学の修士号を取得。その後、英国マンチェスター大学・グラナダ映像人類学センターに在籍しているときにアマゾンの熱帯雨林の村に1年間滞在、その成果を映像作品にまとめ、博士号を取得されています。
太田さんの初監督作品、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』は、その斬新な手法と内容が高く評価され、海外の映画祭で数多くの賞を受賞!
ちなみに映像人類学とは太田さんによれば、自分の研究を社会に伝える方法が、映像だったり、写真だったり、音であったりとされていて、日本には専門の学校がなく、マンチェスター大学やハーバード大学などが有名だそうです。
きょうは日本でも公開中の同映画をクローズアップ! 太田さんの、アマゾンの森の先住民たちと暮らした日々と、映像に込めた思いに迫ります。
☆写真協力:太田光海
セバスティアンとの奇跡的な出会い
※まずは映画のタイトル「カナルタ」にはどんな意味があるのか、教えてください。
「”カナルタ”というのはシュアール語で”おやすみなさい”という意味がありますね。毎日、夜寝る前にみんなで言い合う言葉です。同時に”いい夢を見なさい”という意味や、”いいヴィジョンを見なさい”という意味も含まれているんですね。
寝るということはつまり夢を見ることと同じだし、その夢を見るということはビジョンを見る、自分自身が何者なのかを知るという意味も含まれているという、深い意味があるなと思いまして、それでこのタイトルを選びました」
●撮影場所は南米エクアドルということですけれども、どのあたりなんですか?
「エクアドルの若干東のほうに、アマゾンと呼ばれるいわゆる熱帯雨林が広がっていまして、その中のちょっと南のほうですね」
●シュアール族という先住民が暮らしている村っていうことですよね?
「シュアール族の村はたくさんあるんですけど、その中で集合的にその辺に住んでいると・・・」
●だいたい何人ぐらいの村になるんですか?
「僕がいた村は200人ぐらいですね。ただ子供の数がすごく多いので」
●そこに太田さんがおひとりで行ってたんですか?
「そうです。完全にひとりで行きました」
●ええ!? 怖いとかそういった気持ちはなかったですか?
「正直、最初はそういう不安とかもありますけど、アマゾンと呼ばれる地帯に入ってから、もう少し奥に行かないとその村に入れないので、その村に入る時点ではある程度、そういう怖さみたいなものに慣れていましたね」
●映画の主な登場人物が(シュワール族の)セバスティアンというかたでした。このかたとは、どのようにして出会ったんですか?
「偶然と言えば偶然です。なぜかと言いますと、彼らの村というのは基本的に地図に全く表示されないんです。住所という概念が存在しないので・・・僕のような外部の人間が行きたいと思っても、そもそもどこにあるのかも分からない、行きかたも全く調べようがない場所にあるので、人に連れて行ってもらうしか方法がないんですよ。
僕は一回、エクアドルの首都のキトという町に飛行機で着きまして、1〜2週間そこに滞在して、その間に知り合いのかた、友人を介して紹介してもらった現地のかたに何人か会って、その人たちに、アマゾンでこういう映画を撮りたくて研究もしたいんだけど、どうすればいいだろう? ということを聞くわけですね。
そうすると、彼らが、僕がアマゾンの人を直接知っているわけじゃないけど、僕の知り合いで、アマゾンの人を知ってそうな人がいるよということで、また紹介してくれたりするんですね。
そういうのを繰り返していくと、ある時から、シュアール族なんですけど、今はちょっと都市に住んでいるよっていう人もいるので、そういう人と繋がったりします。
その人に同じような内容、こういう映画が撮りたくて、こういうことに興味があるんだけどっていう話をした時に、その人が、そういうことならうってつけの人がいるから連れて行くよということで、連れて行かれたのが、そのセバスティアンの住む村でした」
注釈:セバスティアンは、年齢は50歳くらい。長い黒髪で火焼けして精悍。家族構成は奥さんのパストーラと5人の子供たち。森から調達した木で建てた家で生活。服装は民族衣装を着るときもあるようですが、Tシャツやズボンなど着用し、プラスチックの容器なども使用。村の仲間たちと助け合い、伝統を大切にしながら、現代文明の恩恵は受け入れるところは受け入れています。
太田さんがいうには、村にはゆったりとした時間が流れているとのことでした。ちなみに言葉はスペイン語とシュアール語で会話していたそうです。
出されたものは全部平らげた!?
※いきなり見ず知らずの人が村に行くと、警戒されたりすると思うんですけど、太田さんは、どうやって信頼関係を築いていったんですか?
「いろいろやりかたはあって、本当に些細なことの積み重ねなんですけど、ひとつ、すごく大きかったなと思うのは、僕が彼らが出してくれたご飯や飲み物を、もう全部、嫌な顔せずに平らげたというのが、多分彼らにとってはすごく大きかったかなと。
やっぱり人間誰しも、日本でもそうだと思うんですけど、自分たちがめちゃくちゃ美味しいと思っているものを外の人に、これすごくまずいよとか、これはよく分かんないから手を付けられないとかって言われたら、ちょっとショックというか、傷付くじゃないですか。
多分そういう感覚が彼らもあって、彼らの料理には口噛み酒っていう唾液の中の微生物で発酵させた、自家製のお酒みたいなのもあるんですけど、ああいうのってエクアドル国内の人でも、アマゾン出身じゃない人ってやっぱり手を付けにくかったりするんです。
彼らはそれを知っているので、僕が村を訪ねた時に、躊躇せずに全部飲んだんです。その時に彼らは、この人は何でも食べるし、飲んでくれるということになって、すごくみんながいろいろものをくれるようになって、そこから仲よくなったなと思いますね」
●実際そういった食事は、太田さんの中でちょっと美味しくないなっていう感じもありました?
「美味しくないって感じたことは正直ほとんどなくて、すごく本当に美味しいんですよ。というのも、彼らの食材って全部すごく新鮮で、何もしなくてもナチュラルに有機栽培なんですね。彼らは農薬とかわざわざ手に入れるために動くわけではないので、そのまま生えているわけですから、だから採れたてで有機栽培だと。
で、アマゾンの土地のエネルギーというか、栄養価もすごく高いので、単純に素材としてすごく美味しかったです。ただ、同じようなものをずっと食べているので、僕らにとっての白ご飯みたいなものかもしれないですけど、時々ちょっと違うものを食べたいなっていうのは正直思いましたけど(笑)、基本的にはすごく美味しいです」
少子化!? それでいいのか!?
※太田さんはシュアール族の村に1年滞在されましたが、撮り貯めた映像は35時間だったんですよね。映画を作るにしては、とても短い気がしたんですけど、撮影以外には何をしていたんですか?
「撮影以外には、本当に彼らと同じ生活をなるべくしようとしていました。彼らが森で作業する時は僕も映画にも出てくる鉈ですね、あれを持って、僕も自分用の鉈を手に入れて一緒に作業したり、魚を捕る時は一緒に川で魚を捕ったり、もう本当に彼らと同じようなことをできるだけやろうとしました。
あとはもうたくさん彼らと話しましたね。いろんな話を聞いて、研究者としてとかインタビューする人としてではなくて、ひとりの人間として、僕の人生についてもいろいろ話しましたし、そういう個人的な関係を作るようにしましたね」
●例えば、どんな話をされたんですか?
「僕の家族の話ですとか、彼は結構、興味津々なので・・・当時、僕はイギリスに住んでいたんですけど、マンチェスター大学にいたので、そのイギリスでの生活とかについて彼らに話すんですけど、彼らは僕らの生活がすごく不思議なんですよ。
例えば、僕は東京出身なんですけど、東京ではこういう家がたくさん建っていて、渋谷の話をすると、すごく高いビルがたくさん建って、電車が何本通っていて、人がめちゃくちゃたくさんいて、みんな会社とかに勤めている・・・日本では最近少子化というのがあって、みんななかなか子供を持ちにくいとか、そういう話をすると、何で!? ってなるんです。
何で子供がいなくて君たちはそれでいいの? みたいな感じなんですけど、そういう話、パソコンに向かうのはなぜ? って聞いてくるわけです。パソコンに向かって君たちは何しているの? みたいなこと言われるんですけど、そういう時に、確かになんでだろう? みたいなことを思うんです。そういう素朴な話とかをいろいろしました」
●太田さん自身の人生を振り返るいい機会にもなったような感じですね。
「そうですね」
●確かに村ではすごくお子さんも多いとおっしゃっていましたよね。
「やっぱり子供がたくさんいて、家族がみんな健康で幸せであるという、単純な話なんですけど、そこをすごく彼らは重視していますね」
鬱蒼とした熱帯雨林を歩く能力
※映画『カナルタ〜螺旋状の夢』を見ていると、主人公セバスティアンの存在感が際立ちます。彼は神話、薬草、歌に詳しい文化的なリーダーとして尊敬されていて、薬草を使って村人の治療もします。ちなみに村の政治的リーダーは奥さんなんです。
映画の中でセバスティアンと一緒に森を歩くシーンが多くありましたが、一緒に歩いていて、驚くことがたくさんあったんじゃないですか?
「ありましたね。驚きの連続過ぎて、何から話していいかちょっと分からないんですね。いちばん最初にやっぱり衝撃だったのは、彼らが森を歩く時のスピードというか、全てなんですけど、僕が急に森に入ってもそもそも歩けないんですよ。
障害物がまず多すぎる。日本で例えば登山やハイキングに行くと、確かに自然に溢れた場所に行けるんですけど、階段があったりとか、道がとりあえず舗装されていたりっていうのはある程度あると思うんですね。
そういうのがアマゾンはもう一切ない。木が倒れていたら、その木は倒れたままだし、そこを人間が行く時はそれを飛び越えていくわけですよね。その上にはたくさんの蔓性植物がとんでもない量で垂れ下がっているんですけど、そこに枝もあって、そういうのを全部避けながら進んでいくわけです。
しかもその地面は泥だらけだったり、どこに沼があるか分からない。急に足がズボって本当に1メートルぐらい中に入ってしまうってこともあります。その上、横から急に蛇が襲ってくる可能性もある。毒蛇に噛まれると結構、死に至る可能性もあるので、そういうのを全部気を付けながら前に進んでいくわけですよ。
僕は最初それはできなくて、ものすごく歩くスピードが遅かったんですけれども、彼らは僕が普通に街を歩くのと同じスピードで、そこを歩いていくんですね。その時に僕が目で1回確認して、大丈夫だなっていって進むみたいな、そういう感覚ではここでは生きていけないんだなってことは気づきました」
“似ている”から始まる薬草の見つけ方
※映画の中にセバスティアンが薬草を探すシーンが収められていました。彼はどうやって森の中で薬草を探し出すんですか?
「彼は、むやみやたらに自分の知らない薬草を食べているわけではないんですね。彼はもともと、先祖から受け継いできた薬草の知識を、ある程度は持った状態で独自の研究に進むわけですね。
彼が薬草を見つけるにはどうするかというと、”似ている”というところから始まるんですよ。この葉っぱやこの草は、僕が知っているこの病気に効くあの草にすごく形が似ているぞとか、匂いが似ているぞとか、そういうところから始まるんですよ。匂いが似ているってことは、同じような効果があるんじゃないかって考えるわけです。
もしくは、映画のシーンにも出てくるんですけれど、その植物の生き様のようなものを見るんですよ。例えば、形がまるで蛇のようだとか・・・僕がちょっと笑っちゃったのは彼が、髪の毛がすごくふさふさしているように見える草を見つけた時があって、一緒に僕がいた時に、彼は“この草はまるで髪の毛のように見える”、ということは、これで髪の毛を洗ったらいいんじゃないかみたいなことを言い出して・・・実際に効果があったのか分からないんですけれど、彼はそうやって植物自体が持っている姿とか、ある種、主張していることを、ひとりの人間と接するように見るわけです。
そこでこの植物にはこんな力があるんじゃないかって予測を立てていくわけですね。実際に食べたり試したりして、なんか効くなって思ったら、そこからだんだん調べていくと、そういうプロセスですね」
●へぇ〜それでどんどん知識が増えていくわけですよね。
「そうですね。増やせば増やすほど、もちろん比較出来るものがどんどん増えていくので、それでまた新しいものが分かってきたりとか。
面白いのは、薬草っていうと植物が思い浮かぶんですけど、彼らはアリもそうですし、ほかの動物も含めて、虫とかも含めて、身体にいいものは薬なんだっていう認識をしていて、そこはあまりほかの研究書を読んでも載っていなかったようなことなので、面白い発見でしたね」
自分の未来を見る儀式
※映画の中の印象的なシーンとして、薬草から作った飲み物を飲むことで「ヴィジョン」が見えてくるとセバスティアンは言ってました。これはシュアール族の、先祖から伝わる儀式のようなものなんですか?
「これは本当に、彼らの重要な部分ですね。劇中に出てくるのは“アヤワスカ”と呼ばれる覚醒植物の薬草なんですけど、あと“マイキュア”という別の薬草も出てきます。彼らにとってはすごく重要な植物で飲むと、ちょっと身体の感覚が変わって、夢を見るような状態になるんです。同時に吐いたりとかするんですけど、劇中で出てくるように・・・。
そこで見えたものを自分の中に落とし込んで考えることで、自分の未来を一部垣間みることが出来るっていう風に彼らは考えるんですね。常にそこから得たイメージと対話しながら人生を生きているというか、そういう世界ですね」
●映画の中でもセバスチャンが「森を破壊することは自分を破壊することだ」とおっしゃっていましたけれども、太田さんがこの映画を通して伝えたいことっていうのはこういったことにも繫がってくるのですか?
「間違いなく! 伝えたいことのひとつとして大きなものです。それは決して彼らだけではないと思うんですよね。彼らはもちろん、それが直接的に感じられる場所にいるので、そういう風にダイレクトに言葉が出てきますけれども、僕らも同じ世界に生きているわけで、巡り巡って本当はしわ寄せは来ているかも知れないし、今後来るかもしれないわけですよね。
だからそれを、なかなか僕らは日々のせわしない生活の中で感じることは難しいんですね。でもこの映画があることで、彼らはどういうプロセスと生活の中で、そういうことを言うに至っているのかということを、ちょっとでも垣間みることが出来たらいいなって思っています」
●映画の最後にセバスチャンが太田さんに、薬草で作った飲み物を手渡していましたけれども、あれは全て飲み干されたんですか?
「はい、飲み干しました! 」
●お〜! ヴィジョンは見えました?
「見えたと言えば見えたし、見えなかったとは言いたくないですね。見えたと言えば見えました。それを解釈するのは僕自身なので、今後の人生がどうなっていくのかっていうのは楽しみなところですね」
INFORMATION
『ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』
太田さん渾身の一作、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』をぜひご覧ください。実は構想から完成までおよそ7年を要した力作です。海外の映画祭で数多くの賞を受賞しています。淡々と流れていく映像・・・2時間を超える作品ですが、釘付けになりますよ。
首都圏では現在、神奈川の横浜シネマリンで上映中。11月28日からは同じく神奈川のシネマアミーゴで上映される予定です。上映スケジュールなど、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎『カナルタ〜螺旋状の夢』オフィシャルサイト:https://akimiota.net/Kanarta-1
2021/11/7 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. FINISH LINE / ELTON JOHN & STEVIE WONDER
M2. LITTLE VILLAGE / VAN MORRISON
M3. DON’T KNOW WHY / NORAH JONES
M4. WALKING THE LINE / THE EMOTIONS
M5. ハート / あいみょん
M6. WE FOUND WHAT WE WERE LOOKING FOR / BRYAN ADAMS
M7. EL AGUAJAL / LOS SHAPIS
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」