毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

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Every Sun. 20:00~20:54

2022年12月のゲスト一覧

2022/12/25 UP!

◎鈴木俊太郎(相模原の市民活動「藤野電力」プロジェクト・リーダー)
シリーズ「SDGs~私たちの未来」の第10弾
~相模原市藤野地区の市民活動「藤野電力」にフォーカス!
』(2022.12.25)

◎とよさきかんじ(日本野虫の会)
春夏秋冬、街なか 虫さんぽのすすめ』(2022.12.18)

◎鈴木ともこ(漫画家)
山好き漫画家「鈴木ともこ」、ハワイに登る!?』(2022.12.11)

◎岡野昭一(写真家)
真っ赤なベニサケ200万匹が川を遡上~カナダ・アダムス川、命のビッグラン』(2022.12.04)

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第10弾〜相模原市藤野地区の市民活動「藤野電力」にフォーカス!

2022/12/25 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第10弾!「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」「住み続けられる まちづくりを」そして「気候変動に具体的な対策を」、ということで神奈川県相模原市藤野地区の「藤野電力」の活動をクローズアップ!

 プロジェクト・リーダー鈴木俊太郎さんにミニ太陽光発電システムを作る防災ワークショップや、自給自足的な暮らしについてうかがいます。

☆写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

鈴木俊太郎さん

始まりは、東日本大震災

※藤野電力というと、電力会社なのかと思ってしまうかも知れませんが、企業でもNPOでもない、地域住民が行なっている市民活動です。そのリーダーの鈴木さんは藤野から東京に通うサラリーマンだったそうですが、暗いうちに家を出て、暗くなってから家に帰る生活に疑問を感じ、独立。現在は整体師を本業に、藤野電力の活動にも取り組んでいらっしゃいます。

●藤野電力はいつ頃、どんなきっかけで始まったんですか?

「2011年の東日本大震災ですね。その時の停電から始まった活動なんですけれども、ちょうどその時、私は相模原市内のほうに仕事に出ていまして、そこで地震があって、(近隣は)大停電で翌朝までずっと停電していたんですね。

 ちょうど夕方、日が落ちてきた頃、信号も住宅や店舗も電気は消えているし、街灯も消えていて、本当に真っ暗闇の中を家まで帰ってきた時に、多分うちだけはなんとかなっているかなって、ちょっと思っていました。
 それは今、藤野電力のワークショップでやっているような、小規模の自家発電の仕組みがあったから、おそらくその灯りがついているだろうと思いながら帰ってきたんですよ。

 で、実際にうちだけ、灯りが灯っていたっていうのを見て、やっぱりこれはすごく大事なことだろうなと思って、仲間内に声をかけたんですよ。うちはいつもと変わらない暮らしができましたよっていうようなことをね」

●ご近所の方々は、みんな停電になっている中で、鈴木さんのお宅だけ、灯りがついていたんですよね?

「そうなんですよ」

●まわりのみなさんは、なんでなんで!? ってなりそうですよね。

「そうですよね。翌日聞いたら、みんな寝るしかなかったから、寝ていたらしいです」

●まわりの方にこういうことやっているんだよとか、電気を自分で作っているんだよっていうのを、どんどんお伝えしていったっていう感じなんですか?

「そうですね。グループ活動がいくつかあって、その仲間にまずは声をかけて、そしたらぜひその仕組みを教えてほしいとか、勉強会を開いてほしいっていうようなことがあがってきたので、じゃあやってみようかっていうことで始めたんです。

 それはその時の単発ですけど、その中から改めて『藤野電力』っていう活動をやりたいですっていう声が地域からあがってきたんですね。最初、関わったこともあるので、私もちょっと参加してみようかなっていうことで始まりました。私が主として始めたわけではなくて、みんなの中にちょっとわかっている人が入ったっていうような、それがきっかけですね」

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 

●活動のモデルというか、何か参考にしている活動はあるんですか?

「トランジション活動っていうのはその前からあります。トランジション活動自体はイギリスの市民活動として始まったんですけど、簡単にいうといろんなものに、例えば石油に頼る暮らしじゃなくて、自分たちで何かを編み出すような、そういうちょっと前の日本みたいな暮らしにしていこうっていうような提案で始まったんですね。たまたまそれをイギリス留学中に勉強していた人が藤野に越してきまして、ぜひ日本でもやってみたいっていう声があがったんですよね。

 それが最初にトランジション活動として始まって、藤野電力はそのトランジション活動の中のエネルギーを考えてみようっていうグループなので、藤野電力っていうようなスタンスの見本は何もないんですけれども、ベースになっているのはトランジション活動っていうことですね」

(編集部注:鈴木さんによれば、藤野地区は昔から芸術家など外部の人を積極的に受け入れてきた地域で、現在もミュージシャンや俳優、カメラマンやライターなど、自立した方々が住んでいて、住民同士のつながりが密なエリアだそうですよ。藤野電力のほかにもグループ活動があるということですから、もともと市民活動が生まれやすい土壌だったと言えるかも知れませんね)

幼稚園児の頃から憧れていた!?

※藤野電力の具体的な活動についてお聞きする前に、鈴木さんご自身のことをうかがっていきたいと思います。鈴木さんはご自宅のログハウスをご自分で建てたと、ネットの記事で見たんですけど、そうなんですか?

「そうなんですよ。全部じゃなくて大工さんも入っているし、友達もいっぱい来て、みんなで作ったって感じなんですけど・・・」

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

●必要なものは自分で作っちゃう自給自足的な志向っていうことですか?

「そうですね」

●ご自身で作るのがお好き?

「好きですね」

●昔からですか? 何かきっかけがあったとか・・・。

「物作りが好きっていうのは子供の頃からだったので、純粋にそういうものに興味がありましたね。例えば時計があったら分解して、どういう仕組みになっているのかとか、中学生ぐらいだと自転車に乗っているので、自転車を改造したりとか、そういうことはずっと子供の頃からやっていたんですけれども、いわゆる自給自足的な暮らし、今みたいな暮らしにシフトしたいと思ったのは、実は幼稚園ぐらいの頃からですね(笑)。

 両親が山に登っていたこともあって、山小屋に泊まることがあったんですよね。そうすると木でできた建物で、薄暗い感じで、薪ストーブが炊かれていてっていうのを小さい頃から体験していたので、すごくそういう空間が自分に合っているなって小っちゃいながらに思っていましたね。

 決定打になったのは小学生ですね・・・9歳だったかな。その時に『アドベンチャー・ファミリー』っていう映画が放映されまして、カナディアンロッキーで暮らすファミリーの物語なんですけど、それを見て、そういう暮らしを絶対実現しようと・・・変わらず今もやってますけどね」

●鈴木さんのお宅は、生活に必要なエネルギーは全部ご自身でまかなっているですか? どんなお家なんですか?

「20年以上前に家を建てたので、当時はこういう自家発電、今はオフグリッドっていう言葉で一般的に言われていますけど、自家発電、オフグリッドっていうような考え方はもちろんなかったし、そういう機材も一般的には出回ってなかったので、普通に電力会社の電気を入れてましたね。

 藤野電力が始まったきっかけで、自分の家もそういうふうにシフトしていこうっていうことで、部分的にちょっとずつちょっとずつ増やしていって、今現在はメインで使うところは、ほぼ自家発電でまかなっていて、特に夏は大丈夫ですね。冬はどうしても山の中に暮らしているので、日が当たらないからちょっと厳しいんですけど・・・」

●寒いですよね?

「(寒い)ですけど、暖房に関しては薪ストーブで済んじゃうし、あと冷蔵庫や洗濯機、照明とか最低限のところは、冬でもなんとかまかなえますので、ある意味使う電気は自家発電でまかなえていますね。

 暖房は薪ストーブがあるし、料理は田舎なんでプロパンガスですけど、冬に関しては薪ストーブがあるから、なるべく薪ストーブで料理したり、お湯を沸かしたりってことをしています。あと水に関しては、よく羨ましいって言われるんですけど、井戸水なんですよ。だから水も自分の土地から吸い上げていて、水道代はかからないです」

●え〜! じゃあ電気とかガスとか契約してないっていうことですか?

「ガスだけはプロパンなんで契約していますけど、電気に関しては本当に最低限の契約だけして、足りない時だけ手動で切り替える仕組みを作っているので、そういうふうに切り替えてやったりとか・・・」

(編集部注:鈴木さんが藤野地区に引っ越してきたのは20年以上前で、自然暮らしをしたくて、土地を探してみたものの、田舎暮らしブームの前だったこともあり、なかなか思うような土地が見つからなかったそうです。そんな中、たまたま見つけたのが今住んでいる場所、つまり藤野地区に転居してきたのは偶然だったそうですよ)

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

ミニ太陽光発電システムを作る

※現在、藤野電力で行なっている主な活動について教えてください。

「まずはワークショップですね。これが毎月1回、藤野に事務所があるんですけど、そちらのほうで開催しています。それ以外も出張で依頼があれば、全国どこでもうかがってワークショップをしているんですね。

 ワークショップ自体は基本的な機材を組んで、発電の仕組みを作るっていうことと、電気に関するいろんなお話はさせていただくんですけど、なかなかそれだけだとその先進めない方も多いので、ちゃんとそれを使えるように家に設置してあげようっていうのも同時進行で始まったんです。

 これも実はちょっと逸話がありまして・・・うち(森氣庵)にずっと通っていた患者さんが、311の震災の時に計画停電がありましたけど、その時にも実は予約が入っていたんです。普通ならみんな来ないだろうと思っていたんですけど、いらっしゃったんですよ。

 その人は鈴木さん家だったら、絶対何があっても普通にやっているよっていうふうに家族に言って出てきたっていうことでした。その時にまわりは停電しているけど、(うちだけ)オフグリッドの電気で部屋が明るかったり、薪ストーブがあったりっていうのを見て、家を建てる時にはこういう暮らしがしたいって言っていたんですよ。その1年後ぐらいに実際、家を建てる時に設計士さんに言ったことが『鈴木さん家みたいな暮らしぶりがしたいので』って(笑)。

 その方が実は、藤野電力のオフグリッドの仕組みを家に設置してほしいって、最初に言ってくださった方なんです。それまで小さな仕組みをみなさんに伝えるっていうのはやっていましたけど、家に付けるとなるとちょっと違ってくるんで、じゃあうちで実験してみようとか、そういったことが始まって、そのきっかけから今現在も住宅施工と言ってますけど、そこに設置するっていうのもずっとやっています。 そのふたつがいちばん大きいですね」

●太陽光発電システムを自分で作るっていう発想がなかったんですけど、素人でも作れるものなんですか?

「はい、大丈夫ですよ。もともと私が始めた時には電気の知識は全くなくて、最初は2001年、震災より遥か前の話です。実は車のバッテリーがしょっちゅうあがってしまうのを、なんとかしたいっていうことから始まっています。

 たまたまちょうど夏だったんですけど、車が熱くて触れないぐらいに日差しを浴びて停まっているのを見た時に、太陽をなんとかできないか!? ってすごく思ったんですよ。それで調べてみたらソーラーパネルっていうのがあるっていうことがわかって、これならいけるかもしれないって始まったのが実は最初でした。なので電気の知識は全くないんですよ」

●それでもシステムを考案したのは鈴木さんってことですか?

「そうですね。使う機材自体は簡単にいうと、キャンピングカーに入っている仕組みなので、ソーラーパネル、バッテリー、コントローラー、インパーターっていう4つの機械を使うんですね。それ自体はキャンピングカーとかで流通はしていたけど、一般的なものじゃなかったんです。

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 知識がなかったのでいろいろ調べたりして、これを組み合わせれば、車のバッテリーの充電ができるなっていうところから始まりました。車のバッテリーは12ボルトなんですけど、それすら知らなかったし、ケーブルの太さはどうすればいいか全然わかんないわけですよ。

 そういう状態でとりあえず組み上げたものを実際使ってみたら、すごく便利で面白くて・・・。なので全然知らない状態で私が始めているので、知らない方がワークショップに参加しても全く問題ないですね」

(編集部注:鈴木さんは本業のほか、地域の人たちのお困りごと、例えば、破裂した水道管や、雨漏りのする屋根の修理ほか、藤野地区に引っ越してきた移住者の方の相談にのったりと、忙しい日々を送っていらっしゃるそうですが、ストレスはないと、にこやかにおっしゃっていました)

藤野は相模原のSDGs!?

※鈴木さんが藤野電力の活動を本格的に始めて、11年ほど経ちました。今どんなことを感じていますか?

「今はSDGsってよく言われるようになりましたよね。実は相模原市からも藤野は相模原のSDGsだっていうふうに言われてしまうぐらい、ずっと前からそういう活動を続けてきたっていう地域になっています。

 当時ソーラーパネルを使って電気を作るのは、一般的には売電って言われていて、屋根の上にパネルを設置して電気を作って売るっていうやつですよね。メガソーラーなんかは今いろいろ問題が出ていますけど、ソーラーパネル=電気を作って売る、いわゆる投資目的のものだったんです。
 その時代にそうではなくて、暮らしに使うための電気を自分で作るっていう、いわゆる自給自足的な発想を持って始めたのは全然いなかったわけですよね。

 絶対そっちのほうが面白いし、意味があるって思って始めているので、ずっとその路線で来たんですけど、10年経ってみたらSDGsっていうような言葉が出てきて、売電ではそんなに儲けられるものでもないから、蓄電して自分の家の電気として使いましょう! っていうような、まさにオフグリッドっていう発想に世の中がガラって変わってきたので、やっとこっちの時代に来たかっていう、間違ってなかったなっていう確信をすごく今は持っていますね」

●地球温暖化の影響もあって、国内でも世界でも今までにないような災害が起きています。普段から備える防災意識がすごく大事になってくるんじゃないかなって思うんですけれども、そのあたりいかがですか?

「そうですね。災害用とか非常用に藤野電力の仕組みが欲しいっていうことを言われる方もいらっしゃったり、例えば外灯、夜中つけっぱなしにするので、電気代がもったいないから、使いたいっていうことをおっしゃる方もいるんですけど、我々はそういうものに使うんじゃなくて、日々の暮らしの中で使う電気をまかなうという発想でやっているんですよ。非常用じゃないんですよってことをずっと言っているんです。

 非常用、例えば防災袋なんていうのもありますけど、1回買って20年も30年も経って、災害がなければそのままなわけですよ。邪魔だからどっか押し入れの奥のほうに入っちゃって、いざって時には使えない。そういうものでは意味がないので、日常用でなおかつ非常時には持っていけるような、そういう暮らしに変えていかないとダメなんですよっていうことをずっと伝えています。

 防災の関連のお話会とかワークショップも頼まれて行くことがあります。そういう時にも普段、常にカバンの中に入っていて、何かあった時にはそれでなんとかなるっていう最低限のものも入れてあるんですね。

 どっかに避難しなくちゃいけないっていう時には、(必要なものを)持っていかなくちゃいけないから、ある程度のサイズでギリギリなんとかなるものは、こういう中身でとか、なんかあった時の専用っていうよりは普段の生活の中で、こことここを持って出れば、それでなんとかなるっていうふうに変えていかないと、実際何の意味もないからっていうことを常に伝えているんです」

自分の手でなんとかする

※藤野電力の活動は、持続可能な暮らしにつながると思うんですが、都会で暮らしている方に向けて、アドバイスがあれば、ぜひお願いします。

「ワークショップに参加される方は、東京とか街中の方もたくさんいらっしゃって、ほとんどの方がマンションなんですね。 マンションのベランダで日差しは入るんですけども、その日差しが蓄電できるレベルかっていうギャップが結構あります。

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 (ミニ太陽光発電システムを)持って帰ったんだけど、どうもうまくつかないっていうことで見に行くと、ほんの一瞬太陽が横切る程度だったりとか。それから夏と冬で太陽の角度が違うので、(日差しが)全然パネルに当たってなかったりっていうことがありますね。

 マンションでやりたい方は、あまり大きなもの持って行っても設置場所もないですから、小さい仕組みを移動しながら、どこにどう置けば太陽の光がちゃんと当たるかを考えながらやっていただきたいっていうのもありますね。
 それでは現実的じゃないからやめますっていう人もいらっしゃるんですけど、やめちゃうと意味がないから、うまくいかないのをどう改善するかをぜひ都会に住んでいる方にはねチャレンジしてほしいって思いますね。

 田舎だと自分で何かをしなくちゃいけないとかって普通のことなんですけど、街中に住んでいると、お金を払って業者の人に来てもらうっていうような、お金とのやり取りが基本になってしまって、自分でなんとかしようっていう発想になかなかいかないんですよね。
 だからこそ、こういうちょっとした仕組みを暮らしに取り入れることで、ここはダメだからこっちにしてみようとか、ちょっと使いすぎちゃったから、みんなで使わないようにしてみようみたいに、自分たちの手を動かしながら、そこから学んでいただくっていうことをぜひやってほしいなと思います」


INFORMATION

写真協力:鈴木俊太郎(藤野電力)

 鈴木さんのお話を聴いて「藤野電力」で行なっている、ミニ太陽光発電システムを作る「防災ワークショプ」に参加したいと思った方、1月も開催されますが、実は大変人気で、すでに定員に達しています。2月は12日(日)に開催予定となっています。

 体験コースと持ち帰りコースがあり、持ち帰りのほうは50ワットと160ワットのふたつのコースがあります。参加費など含め、詳しくは「藤野電力」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎藤野電力HP:https://fujino.pw

 鈴木さんの本業、整体師のサイト「森氣庵(しんきあん)」もぜひ見てください。

◎森氣庵HP:https://www.sinkian.com

オンエア・ソング 12月25日(日)

2022/12/25 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU / JUSTIN BIEBER & MARIAH CAREY
M2. LIGHTS / JOURNEY
M3. STORY OF MY LIFE / ONE DIRECTION
M4. WEST OF HOLLYWOOD / STEELY DAN
M5. CHANGE IN MIND, CHANGE OF HEART / CAROLE KING
M6. THE CHRISTMAS SONG / CELINE DION

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

春夏秋冬、街なか 虫さんぽのすすめ

2022/12/18 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫が大好きな「とよさきかんじ」さんです。

 とよさきさんは1975年、埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。本業は、おもちゃやパッケージなどのデザインを手がけるデザイナー、そして、専門学校で絵やデザインを教える先生でもいらっしゃいます。

 そんなとよさきさんは「日本野虫の会」をひとりで立ち上げ、昆虫の観察、撮影、本の出版、虫グッズの販売をするときの「屋号」として使っていらっしゃいます。

 テーマは「虫と和解せよ」。虫が苦手になるのは、虫のことを知らないから怖くなる、だから、虫の魅力を伝えることで苦手意識をやわらげ、和解してほしいという思いが込められているんです。

 2019年には『手すりの虫観察ガイド』を出版、話題に。そして先頃、新しい本『街なか 葉めくり 虫さんぽ』を出されたということで、この番組にお迎えすることになりました。

 今回は、ご近所の散歩や公園などで出会える虫と植物のワンダーランドにご案内します。

☆写真:とよさきかんじ

オオムラサキツツジの花と、ヤブキリ
オオムラサキツツジの花と、ヤブキリ

虫好きを封印していた時代!?

※とよさきさんは、やはり子供の頃から虫が大好きだったんですか?

「そうですね。小学生の頃は近所で虫を捕まえて、それを半年で100種類ぐらい集めて、スケッチするっていう自由研究をやっておりました。枕元に図鑑が散らばっているような子供でしたね」

●そうなんですね。ちょっとやんちゃな時期があったとうかがっているんですけれども(笑)。

「そうですね(笑)。中学2年生ぐらいの時に、そんな少年時代だったんですけれども・・・そうするとやっぱり周りの目とかもあって、虫が好きだとかいうと、不良仲間からは“あいつ、だせぇよ”みたいなことになってしまうんで、虫好きを封印してしまったんですね」

●その封印を解いて、虫好きなとよさきさんに戻ったのはいつ頃だったんですか?

「今から8年ぐらい前なんです。だいぶ大人にもうなってからなんですね」

●それは何かきっかけがあったんですか?

「そうですね。いくつかきっかけはあるんですけど・・・その頃に犬を飼い始めて、柴犬なんですけれども、割と運動量が多い犬なので、朝晩散歩に行って30分とか1時間とか歩いていたんですね。

 住んでいるのは東京の住宅密集地で、自然とかも少ないし、虫なんていないんだろうなと思っていたんですけれども、歩いていると虫がチョロチョロ見つかるんですね。今まで僕はいないと思っていたけれども、それは単純に気付かなかっただけなのかなと思うようになって、それで虫の世界にどんどん近づいていきました」

●虫の世界や自然に触れることで、何か取り戻したものはありますか?

「大人になって、もう1回虫を観察しようと思って、草むらにしゃがんでみたんですね。子供の頃によくやっていたことだったんですけれども、しゃがんでみたら、子供の時に見た虫が、小さなオンブバッタであったりとか、そこらへんにいるヘリカメムシっていうカメムシだったりとか、本当に子供の頃に見た虫が全然普通にいたんですよ。

 自分は(虫から)離れて何十年も経っているのに、虫は1年とか2年の生をつなぎながら世代をつないで、ちゃんと種を存続させてきているんだなっていうことにすごく感動して、それでやっぱり虫をもっとやろうと思うようになりました」

(編集部注:少年時代にやんちゃしていたとよさきさん、インタビューの収録時に着ていたウエアは、なんと黒い特攻服! でも刺繍されている文字は「日本野虫の会」や「生物多様性保全」「愛羅武虫 夜露死苦」など、虫愛に溢れた言葉があしらわれています)

とよさきかんじさん

都会にも虫はいる

※とよさきさんの新しい本『街なか 葉めくり 虫さんぽ』は、虫と植物にフォーカスしていますが、虫と植物の関係に興味があるということですか?

「そうですね。虫が苦手な人は、虫が突然出てきたっておっしゃることが多いんですよ。突然出てきて、びっくりするから嫌いっていう方もいるんですけれども、実は虫がそこにいるのは必然があって、なんでこの辺に虫が多いのかとか、なんでこの季節に虫が多いのかは、そこに食べ物があったりとか、住処があったりするんですね。

 それで僕が大人になって虫を探し始めた時に、いざ虫を探そうと思うと意外と虫は隠れるのが上手くって、むやみやたらに探しても見つからないんですね。ひとつそれで虫の居場所を見つけたのが、実は手すりがありまして、公園の階段とかに手すりがあるんですけど、その手すりには虫がとまっていることが多いっていうことに気付いたんですね。

 で、手すりにいる虫だけを2年半ぐらい集めて、2019年に『手すりの虫観察ガイド』っていう名前で出版して、その本もまあ話題にはなったんですけれども、その時はまだ偶然が多いなっていう感じだったんですよ。たまたまそこにとまっているっていうこともあるなと思って、もっと必然を考えた時にやっぱり植物と虫をセットで考えると、この植物にはこの虫がいるっていうのがはっきりしているんで、初めて虫を探す人も、それだけ分かれば、探しやすいのかなと思って今回のテーマにしました」

『街なか 葉めくり 虫さんぽ』

●この本はタイトルにあるように、街中をお散歩しながら虫を探してみようということなんですよね。散歩中、どんなことに気を付けたらよろしいんでしょうか?

「植物があれば大体虫はどこにでもいるかなとは思っているんで、例えば渋谷の駅前の花壇にもいますし、青山の街路樹、ポプラの並木にも虫はいるので、どこでも探せるっていうことはあります。

 ただやっぱり気を付けることとしては、みなさん、街を歩いている時にあまり周りのものは見ていないんじゃないかなっていう気がしています。
 毎日歩く通勤路だったりとか通学路であったりするところで、一体周りにどんな植物があるのか、どんな落ち葉が落ちているのか、どんな花が咲いているのかをちょっと気にするようになると、実は虫は見つかるのかなと思っています」

●ポイントは葉っぱの裏側ですか?

「そうですね。”葉めくり虫さんぽ”というタイトルで書いているんで、葉っぱの裏側はすごく知られてないポイントだなと思うんですけれども、初めて探す人が見つけやすいのは、まず花だと思いますね。植物の花が咲いていたら近寄ってみると、そこに虫が蜜を求めて集まっていることがあるので、まずそこでひとつ植物には虫がいるんだっていうことが分かると思います」

ミソハギとルリモンハナバチ
ミソハギとルリモンハナバチ

公園で虫探し。ポイントは?

※とよさきさんの、普段の虫散歩はどんな感じなんですか?

「2種類ありまして、 ひとつは犬の散歩をしながら、20分とか30分の中で、虫散歩を犬と一緒に楽しんでいます。
 今の季節ですと垣根にサザンカの花が咲いていて、ピンク色の花を咲かせているんですけど、それを覗き込むと、この冬の時期でもアリが蜜を舐めに来ていたりとかするので、そういう虫を探したりとか・・・。

 あとヤツデっていう葉っぱが天狗のうちわの形をしている植物がありまして、その花が今ちょうど咲いているんで、そこに集まる虫であったりとか、葉っぱをめくるとヨコバイって言って、セミとかウンカの仲間の小っちゃい虫が付いているんで、そういうのを見つけたりしています。

 もうひとつは山や公園に行って、がっつり探す時は6時間とか8時間とか、2万歩ぐらい歩くんですけど(笑)、本当に朝から晩まで歩けるだけ歩いて、葉っぱめくったり覗き込んだりして探しています」

写真:とよさきかんじ

●肉眼でいつも観察されているんですか? 何か観察用に道具を持ち歩いているんですか?

「やっぱり(虫は)小っちゃいので、僕は虫用のカメラで撮影するので、それで覗き込むと虫がより大きく見えるんですね。虫眼鏡の代わりにもなるんですけれども、こういう小っちゃい虫眼鏡も携帯しています」

●手のひらサイズなんですね。

「これを近づけて虫を見たりもしています」

●よく通うお気に入りスポットみたいなところはあるんですか?

「まず、やっぱり私の場合は木が多い公園ですね。植物があって木が多くて、あまり遊具とか芝生とかそういうものがなくて、なるべく植物が生い茂っている公園ですね。千葉県だと佐倉市にある佐倉城址公園は、時々足を伸ばして行ったりしています。水田環境と雑木林のような環境が入り混じっていたりして、たくさんの種類の虫が見られます」

●そういう場所で虫を探すときのポイントとしては、やっぱり手すりを見るとかですか?

「そうですね。いいポイントですし・・・それからさっきも出てきた花を見ることと、あとは実がなっていたら、汁を吸いに来る虫もいるので、実を見ることですね。
 花と実が分かると、実はその植物がすごく調べやすいんですね。葉っぱから植物を調べると結構難しくって、花や実が特徴的だと、あとから調べやすいので、その写真を撮ったり、ちょっとスケッチしたりすると、後ですごく調べやすいと思います。
 あと虫は葉っぱが重なっているところで休んだりするんで、まあそういうところをめくって休んでいる虫を探したりもします」

虫たちに大人気、ハルジオン

※本を見ていて気づいたんですけど、いろいろな昆虫がやってくる植物もあれば、この植物にはこの昆虫だけと決まっているものもあるんですね?

「そうですね。植物食、植物を食べる虫は狭食性の虫と、広食性の虫っていう2種類がありまして、狭い虫のほうが多いんですね。この植物の葉っぱをなるべく食べたいという虫が多くて、そっちのほうが虫や植物を調べるのにはすごく有効なんですね。

 要はこの植物があれば、この虫がいるはずだっていう予想ができたり、逆に虫を見たら、ひょっとしたらこの植物を食べる虫なんじゃないかって、当たりをつけることができるので調べやすくなりますね。

 広食性の虫だと、例えばマイマイガっていう蛾がいるんですけれども、その蛾の幼虫は200〜300種類ぐらいの植物を食べるって言われているので、時に針葉樹から広葉樹までバリバリ食べて大発生することもあります」

●春に咲く野草ハルジオンは、チョウやミツバチ、ハナムグリなどいろんな虫がやってくるんですね?

「あっ、そうですね」

ハルジオンとアオスジアゲハ
ハルジオンとアオスジアゲハ

●すごく人気なんですね?

「とっても人気があります。春は花に来る虫も非常に多いんですね。ハルジオンはちょっと古くに入ってきた外来種なんですが、至るところで見られて、チョウやハチは羽根があって、茎が細くてちょっと 揺れるような花にもとまりやすいんです。

 ハナムグリとかコガネムシの仲間、甲虫の仲間は(体型が)ボテッとしてるので、飛ぶのが下手だったり、花につかまるのが下手だったり・・・あと口が短いので花の奥の花粉を吸ったりできないんですけれども、ハルジオンは平たくて円盤状をしていて、飛行の下手な虫でもとまりやすいっていう形状があるんで、それで虫に人気なのかなと思っています」

(編集部注:ハルジオンのほかにも、春から初夏にかけて咲くツツジも、昆虫たちには大人気。街なかにたくさん植えられていて、花には甘い蜜があり葉っぱが柔らかいので、いろんな虫たちがやってくるそうですよ)

※新しい本には冬こそ、葉めくりのメインシーズンと書かれていますが、そうなんですか?

「そうですね。先ほど出てきたヤツデの葉っぱとかアオキとか、ちょっと硬くて冬でも落葉しない、ずっと茂り続けている照葉樹の葉っぱがあるんですけれども、その裏にとまって冬越しをする昆虫は結構いるので、ほかの木々が葉を落としてる中で、残っている植物を探してみると、意外とそこにつかまって越冬している虫が見つかりやすいなと思います。

 葉めくり以外でいうと枝先ですかね。葉っぱの落ちた木の枝先を見てみると、意外とそこにモズの“はやにえ”っていう、鳥が保存用に虫をぶすっと刺して置いておく習性があるんですね。そのはやにえが見つかって、ここにはこんな虫がいて鳥の保存食になっているのが分かったりとか・・・。

 あとはケヤキって木があるんですけれども、大きくなるとどんどん樹皮がちょっとずつめくれてくるんですね。その隙間に虫が入り込んで冬越しをしているので、ちょっと浮いているのをペリペリっとめくってみると、全部じゃないんですけれども10枚に1枚とか虫が入っているのがあるので、くじ引きみたいな感じで探してみるという楽しみもあります」

地球上から昆虫がいなくなったら

※もし地球上から昆虫がいなくなってしまったら、どんなことが起きるのでしょうか?

「先ほどから、花に虫が来るって話をしていますよね。チョウやガ、ハチやハナアブが花の蜜を吸ったりすることによって、花は受粉をして果実を付けたり、その中に種子ができて、次の世代につながっていくんですけれども、そういう虫がみんないなくなってしまうと、当然花を付けても実ができない、 次の世代ができないっていうことになってしまって、虫を介してどんどん繁殖していく植物は滅んでしまうということがあります。

 同時に牧草とか、虫の受粉によって世代をつなげている植物もあるので、それを食べている家畜の餌がなくなってしまったり・・・。あとは鳥も昆虫を主な餌にしているんですね。だから野鳥の多くは虫がいなくなると滅んでしまったりするので、食物連鎖がガタガタに崩れてしまう可能性は高いと思いますね」

●この本や、普段の活動を通して、どんなことを伝えたいですか?

「この本に載っている植物や虫は、珍しくてすごく美しいっていう存在のものじゃないのを集めているんですね。それはあえて読んだ人が、身近にいっぱいある植物なんだけれども、ありふれているんだけれども、その分、追体験がしやすい種類をたくさん載せています。

 やっぱり植物の名前がわからないと、目に入ってもこれは単に緑色の壁だなって認識しちゃったりとか、虫がいたとしても不快な黒い点があるなとしか思えなくって、なかなか自分たちの暮らしと関係のある生き物だと思えないんじゃないかなと私は感じています。

 それが1種類でも分かると、この植物はこうだったんだとか、だからこの時期に花が咲いていたんだとか、だからこの虫が来ていたのかなとか、来年また見られるかなっていうふうにいろんな点と点がだんだんつながってくると思います。

 今まで自分が、例えば田舎でつまんない町だなとか、都会すぎて殺風景だなと思っていたのが、すごく身近にたくさん楽しめる自然があるじゃないか! っていうふうに 思える、ワンダーランドのようなものに感じられる瞬間はきっとあると思っていますので、それをぜひぜひ本を読んで見つけてもらえたらなと思っています。

クズと、ウラギンシジミの幼虫
クズと、ウラギンシジミの幼虫

 この本で扱っているテーマのもうひとつに、生物多様性の魅力であったり、重要さは載せてあります。虫もそうですし、植物もそうなんですけれども、その種類が多いことによって、人間がサービスを受けている、恩恵を受けているのが、生物多様性の考え方のひとつなんですね。

 今までは(人間は)ずっとそれをタダで消費していたんですね。でもやっぱり生き物をすごく大事にしたり、環境を大事にしていかないと、結局自分たちが将来すごく不利益を被ってしまうことが、最近自然とか生き物に関わる考え方の大きな流れになっていると思います。
 なかなかでっかいことはできないんですよ。いきなりでかいことはできないんですけど、でも足もとから世界を知っていく、自然を知っていくことはすごく大事だと思いますので、その一助にこの本がなってくれると嬉しいと思います」


INFORMATION

『街なか 葉めくり 虫さんぽ』

『街なか 葉めくり 虫さんぽ』

 とよさきかんじさんの新しい本をぜひ読んでください。公園や街路樹、植え込みなど、身近な植物の花や葉っぱにやってくる昆虫たちの写真がオールカラーで掲載。とよさきさんの観察力に圧倒されますよ。季節ごとに分かれているので、冬のページを見て、ぜひ葉めくり散歩に出かけませんか。
 ベレ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎ベレ出版HP:https://www.beret.co.jp/books/detail/838

オンエア・ソング 12月18日(日)

2022/12/18 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. WINTER WONDERLAND / TONY BENETT
M2. TELL IT LIKE IT IS / AARON NEVILLE
M3. SUDDENLY I SEE / KT TUNSTALL
M4. WALK ON / U2
M5. アゲハ蝶 / ポルノグラフィティ
M6. WALK OUT TO WINTER / AZTEC CAMERA
M7. WE BELONG TOGETHER / MARIAH CAREY

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

山好き漫画家「鈴木ともこ」、ハワイに登る!?

2022/12/11 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、コミックエッセイ『山登りはじめました』で知られる漫画家の「鈴木ともこ」さんです。

 鈴木さんは東京都豊島区生まれ。日本大学芸術学部卒業。ポプラ社に勤務後、執筆活動を開始。2009年に発表したコミックエッセイ『山登りはじめました』、そしてその続編もベストセラーに。現在はご家族と松本に暮らし、松本市観光大使としての活動もされています。

 もともとインドア派だった鈴木さんが、どうして山登りにハマってしまったのか、その辺のいきさつは、2017年9月、この番組に出演してくださったときにお話しいただいていますので、ぜひその時のインタビュー記事をご覧ください。

 鈴木さんは先頃、新しい本を出されたんですが、今回の舞台はなんとハワイ!
本のタイトルはズバリ!『山とハワイ』。上・下巻に分かれたこのコミックエッセイは、3世代家族5人で行った、およそ1ヶ月にわたるハワイの旅をまとめた力作なんです。

 きょうはそんな鈴木さんに、標高4000メートルを超える山登りや秘境のビーチを目指すトレッキングなど、ハワイの、あまり知られていない魅力についてうかがいます。

☆写真協力:鈴木ともこ

鈴木ともこさん

ハワイはどうやら山もすごいぞ!

※それでは早速、鈴木さんにお話をうかがっていきましょう。

●鈴木さんの新しいコミックエッセイ『山とハワイ』の上・下巻を拝見させていただきました。3世代5人で行く初めてのハワイということで、オールカラーの漫画を読みながら一緒に旅をしているような、すごくワクワクしっぱなしでした! 

「とっても嬉しいです! ありがとうございます」

●ハワイと言えば、やっぱり海のイメージが強かったんですけれども、ハワイ諸島の山に目をつけたのはどうしてなんですか?

「そうなんです。実は私は一切泳げないんですね。でもハワイと言えばやっぱり海やビーチで、あとショッピングと芸能人、そういったイメージなので、自分とは縁のないところだとずっと思っていたんですね。

 ただハワイに行った知り合い全員がハワイを絶賛するので、なんでだろう〜!?とちょっと自分なりに調べてみた時に、ハワイはどうやら山もすごいぞということを知りまして、それで行くことに決めたんですね。というのもハワイは富士山を超える標高4000メートル以上の山がふたつもあって、実はスキーもできるんですよ」

●ちょっとイメージなかったです。

「ですよね。ほかにも500万年かけて浸食された彫刻のような崖があったり・・・これは自分の目で見て歩いて、それを本にして伝えたいと思ったというのが最初のきっかけですね」

●本によるとおよそ1か月間、ご両親とお子さんを連れての一大旅行という感じでしたけれども、1か月、家を空けてお仕事も減らして行かれるのは、かなり思い切ったことなんじゃないですか?

「そうですよね。実はもともと私は父の仕事の関係で、子供時代から住む場所を転々としていたんです。小中学校の時はイギリスに4年間家族で住んでいました。なので両親も海外には抵抗がないというのと、いろんな異国の文化を知りたいっていう気持ちがありましたね。ただ子連れで1か月は、確かにかなり思い切ったなとは思います」

●で、初めてのハワイですよね!?

「家族全員が初めてでした」

●鈴木さんは以前から山登りはされていたっていうことですけれども、ご主人やご家族は山登りの経験はあったんですか?

「はい、夫とは一緒に山登りを楽しんでいまして、それは私の本『山登りはじめました』というコミックエッセイで書いているんですね。両親はそんなに山登りを頻繁にするほうではなくて、それでもアウトドアには興味はある感じでしたね」

●そうだったんですね。事前に登る山をいろいろ決めてからハワイに行かれたんですか?

「はい、やっぱり旅の時間っていうのは限られていて、なるべく無駄にしたくなかったので、登る山はすべてあらかじめスケジュールを組んで、しっかり下調べもしましたね。ただ火山のことを調べていたら時間切れになってしまって、ホノルルの観光はノープランでした」

●そうだったんですね!(笑)

「もう行き当たりばったり」

写真協力:鈴木ともこ

身長が9000メートル!?

●ハワイ島に1位と2位の山があるということなんですけれど、これはどういうことなんでしょう?

「標高っていうのは平均海水面からの高さのことなので、高台にある山は山自身が小さくても標高は高くなります。ハワイの島は海底からそそり立っている巨大な山なんですね。で、海底までは大体5000メートルあって、標高が4000メートルを超える山がふたつもあるので、身長が結果的に9000メートル以上の山がふたつあるということなんです。だからこの身長が世界で1位と2位ですね」

●それぞれなんという山なんですか?

「身長が1位の山は”マウナ・ケア”、身長が2位の山は”マウナ・ロア”って言うんですが、こっちは富士山の軽く50個分のボリューム、ちょっと想像が追いつかないですよね」

●富士山の軽く50個分ってすごい!(笑)

「体積が世界一の世界最大の山でもあるんです。そしてこの世界最大の山マウナ・ロアに登ってきたことを私は(『山とハワイ』の上巻に)メインで書いています」

●すごいですね。ハワイに世界1位と2位の山があったわけですね。

「スケールがもう半端ないんですね」

●まずはマウナ・ケアのお話からうかがっていきます。頂上までは車で行くツアーに参加されたんですよね?

「そうなんです。ほとんどのレンタカー会社が通行禁止にしているので、ツアー会社のバスで行きました。高山病になりやすいかなと思うかたもいるかもしれませんが、ツアーなので滞在時間もそんな長くないですし、途中で休憩をしっかり取りながら登っていくので、高山病になる人はそこまで多くない感じですね。観光客がすごくたくさんいます」

●マウナ・ケアの山頂に行かれてどうでしたか?

「マウナ・ケアって地球上で最も宇宙に近い場所って言われているんですね。それぐらい天体観測にすごく適した場所なので、夕暮れもすごいんですが、星空にもびっくりします。変な例えなんですけど、プラネタリウムみたい・・・ちょっと嘘みたいなんですよね。目がびっくりしてしまって・・・そして寒いです。高い山なので(気温が)2度ぐらい・・・」

●ハワイなのに!?

「はい、しっかりダウンジャケットを着込んだツアー客のかたがいっぱいいますね」

●どうしてそんなに星が綺麗なんでしょう? 空気が澄んでいるから!?

「そうですね。標高の高さと、すごく晴天率が高いんですね。あと赤道に近かったり、いろんないい条件が重なって、結果的に日本のすばる望遠鏡とか世界的な天文台が何個もありますね」

(編集部注:鈴木さんファミリーは、ホノルル到着後、すぐに最初の目的地ハワイ島に飛び、ヒロの街を散策。のんびりとした雰囲気と人の良さがすっかり気に入り、ヒロで暮らしたいと思ったそうですよ)

世界最大の山マウナ・ロア

マウナ・ロア
マウナ・ロア

※先ほどご説明いただいた、ハワイ島にある世界最大の山マウナ・ロアにはご主人とふたりで行かれたんですよね。

「はい、こちらはかなり大冒険といった感じでしたね」

●世界最大の山ですからね〜。どんなスケジュールの山登りだったんですか?

「こちら2泊3日で行きました。最終的に55時間5分の登山だったんですが、イメージとしては富士山に2回登る感じですね。さらに水を担いだり食料を担いだり・・・山小屋も無人なので、すれ違う人もほとんどいなかったですね。

 もうひたすら溶岩です。黒い溶岩がどこまでも続いていて、違う惑星に降り立っちゃったみたいな感じなんですね。だからもし溶岩に興味がなかったり、溶岩を楽しめなかったら、すごく心細くなると思います」

●ガイドのかたはいらしたんですか?

「いなかったんですね。というのもマウナ・ロアをガイドしてくれるかたを探しても誰もいなかったんですよ。見つけられなかったんです。

 それで夫婦で行ったんですが、結果的には良かったなとすごく思っていますね。自分たちでどうにかしなきゃいけないっていう思いによって、すごく感性が研ぎ澄まされたというか、その場その場を目一杯楽しんで、しっかりと歩こうっていう気持ちになれて、よかったですね」

●55時間ですよね。具体的にどういう感じなんですか? 想像がつかない世界です。

「それを『山とハワイ』に書き切ったという感じなんです(笑)。1日目はまず途中の山小屋を目指すので、決して55時間ずっと歩きっぱなしってわけではないんです。ただし、例えば日本の山ですと、山頂に向かって上に上に登るっていう感じですよね。マウナ・ロアは山頂がまず見当たらなくて、ひたすら平らな道を歩いてる感覚なんですね。 大きすぎて自分の向かう場所が分からないっていう、その果てしなさ・・・私もすごいところに来ちゃったなって思いながら歩いていましたね。くじけそうにもなりましたね」

●ご主人と励まし合いながら歩かれたわけですね。

「夫はすごく溶岩とか火山とか地質に興味があって、とっても喜んで興奮する感じなんですよ」

●そうなんですね(笑)

「ひとくちに溶岩と言っても噴火の時代によって種類が変わったり・・・なので溶岩の山なんですが、色が微妙に黒から赤に変わったり、質感が滑らかからゴツゴツに変わったり、そういった変化に気づくと一気に面白くなりますね」

●へえ〜〜、溶岩は溶岩でもいろいろと違うわけですね。

「そうなんです。私も行くまでは全く知らなかったんですが、そういったことに注目すると、また本を読んでいただく時も楽しんでもらえるんじゃないかなって思いますね」

●マウナ・ロアの頂上に立ったときは、どんな思いがこみ上げてきましたか?

「達成感よりもホッとする安堵といった感じで、ようやく着いたっていう、まず力が抜けましたね。
 目の前には180メートル下まで切れ落ちた巨大なカルデラがあるんですね。その全長は6000メートル! 想像が追いつかないですよね。あまりにも大きくて、人間なんか立ち打ちできないなっていうのが、実感としてぶわっと込み上げまして、大自然の中で生かされているってね。普段日常でなんとなく思っていても、それが圧倒的な実感として迫ってきて、 なんというか、日々誠実に生きていこうってすごく謙虚に思いました」

(編集部注:鈴木さんはマウナ・ロアの登山は、生涯忘れられない体験になったとおっしゃっていました)

秘境のビーチ、カララウ

カララウ
カララウ

※鈴木さんはカウアイ島にも行かれています。ハワイ島と比べて、どんな島でしたか?

「『山とハワイ』の下巻のメインがカウアイ島なんですね。ハワイの火山って大量に溶岩が出るので、一気に成長するかわりに中が空洞になってたり、崩れやすかったり、もろいところがあって、それがハワイ島の火山では特徴なんです。

 一方、カウアイ島はもともとそういった火山だったものが、500万年かけて雨や波に浸食されてできた場所、そして緑がすごく豊かに水も豊富で、(映画)ジュラシックパークの舞台になったので知られていますね。その侵食された崖が芸術品みたいに美くしくて、神様が創ったみたいな、そういった崖や渓谷がいっぱいあります」

●具体的にはどんな場所に行かれたんですか?

「メインは”カララウ”という渓谷です。 ”カララウ大聖堂”という異名を持つ崖なんですが、その崖は自然が浸食して作ったものですね。まるで大聖堂みたいに、いくつかの塔がそびえ立ってるみたいに見えるんです。
 そこを見に行くためには、真下に秘境と言われるビーチがありまして、そのビーチに向かってテントを担いで、海沿いの断崖絶壁のトレイルを8時間かけてっていう、そこにチャレンジしました」

●かなり過酷ですよね。

「それがですね〜、聞くと結構怖そうとか思いますが、海沿いがとにかく美しくて、ダブルレインボーがびっくりするぐらいたくさん出たり、奇跡みたいな景色の中を行くので、実は怖さよりも楽しさのほうがすごくある場所でしたね」

●そうだったんですね〜。

「途中に激流があったり、川を越えてったり・・・水も自分たちで担いで、テントも背負って歩きましたね。水は飲めるんですが、消毒というか、ろ過しなきゃいけないので・・・」

●重い荷物を担ぎながら歩いたんですね。

「そこは全米ハイカーの憧れの地としても知られているので、結構ハイカーのかたもよく会いました」

●そうだったんですね〜。ご主人と一緒におふたりで?

「はい、そうですね」

●お目当ての秘境のビーチに到着された時はどんな気分でした?

「それこそ世界の常識がすべてひっくり返って、新しい世界にいるような・・・ここだけ違う世界があるような不思議な魅力に包まれた場所だなって思いましたね。
夕焼けが本当に美しく輝いていました。

 世界50カ国以上に行ったかたに出会ったんですが、そのかたはいつも”カララウに戻りたくなる“、世界中を知った上でそうやって言ってたんですね。その気持ちがなんとなくわかるような気がして、それぐらい私もまた行きたい場所ですね」

●何がそんなに魅力なんですか?

「まずは、歩かないとたどり着けないっていうのは、やっぱりすごいことだなと思いますね。スケジュール(の都合上)1泊にしたんですが、5泊ぐらいのんびりしたかったですね。時間の感覚もなくなりますし、海の音を聴きながら、緑のすごい渓谷を見上げて、なんかこうね、生きているって最高! って叫びたい感じでしたね」

●カララウ、行ってみたいです! 素敵ですね〜。

(編集部注:カウアイ島での秘境のビーチを目指すトレッキングでは途中で、かなりユニークな人たちに出会ったそうですよ。どんな人たちだったのかは『山とハワイ』の下巻に載っているので、ぜひ見てくださいね)

ハワイで感じた、旅っていいな

※およそ1ヶ月という期間で、8つの山登りとハイキングを経験されて、ハワイの印象は変わりましたか?

「ガラッとひっくり返りましたね! ハワイはこんなに奥が深いっていうのを行って初めて私は知ったんですけども、今までいかに食わず嫌いだったか、ハワイってちょっとベタだなとか、観光地でしょうみたいな目で私も見ていたんですね。実際そういうかたもいらっしゃると思うんですが、多分『山とハワイ』を読んでいただいたらガラッと変わると思いますね。

 この『山とハワイ』の最後のほうでは、山の要素は実は薄まっていきまして、最終的にはハワイが歩んできた歴史と向き合い、居心地のいい社会とは何かっていうところにテーマが収束していくんです。

 でもそれこそが旅の醍醐味だなってすごく思っていて、出発前の目的を果たすだけじゃなくて、その旅で何を感じて、予想もしなかった出来事や出会いを得て、それをその後の人生にどう自分が生かしていくみたいな・・・旅っていいなって思うのがハワイでいちばん感じたことですね」

●ハワイには日系移民のかたも多くいらっしゃいますよね。古くから日本ともご縁があると思うんですけれど、山登りとか出会った人たちを通して、改めてどんなことを感じましたか?

「今のハワイっていうのは観光と軍事の一大拠点になっていて、多種多様な人たちが集まる場所になっていますが、ただこれはもともといたハワイアンのかたが自発的に選んだ姿ではないなと思うんですね。

 ハワイアンのかたには忸怩(じくじ)たる思いがあって、アメリカになっていく、併合されていく歴史ですとか、サトウキビ・プランテーションで働くために22万人もの日本人が移民として渡った歴史を知ると、決してハワイって楽園ではないっていうことがわかるんですね。

 それでも、なぜこんなにたくさんの人を惹きつけて、こんなに居心地がいいっていう、その理由を考えると、やっぱりハワイの、一歩も二歩も先に行っている社会に対する考え方だなってすごく思ったんですね。そのことを本に熱く書いていますし、やっぱり日系移民のかたを知るための歴史も大事に伝えたかったので、ぜひ上・下巻通して読んでいただけると、その真意が伝わるんじゃないかなと思います」

●では最後にこの放送を聴いて、ハワイ諸島の山登りにチャレンジしたいと思ったかたにアドバイスをお願いします。

「とにかく下調べと準備は大事だなと思いますね。そしてある程度余裕を持ったスケジュールも必要だなと思います。特にもしマウナ・ロアに登りたい、挑戦したいというかたがいましたら、出発前日か当日にしか登山の許可が降りないんですね。やはり(マウナロアは)火山なので、天候や火山活動によっては閉鎖もされてしまいますので、決して無理はしないで楽しんでいただければなと思います」


INFORMATION

『山とハワイ〜登れ! 世界最大の山 ハワイ島篇』上巻

『山とハワイ』上巻

『山とハワイ〜行け! 断崖秘境のビーチ カウアイ島&オアフ島篇』下巻

『山とハワイ』下巻

 鈴木さんの新しいコミックエッセイ『山とハワイ』の上・下巻をぜひ読んでください。全編カラー漫画で、キャラクター化された登場人物が可愛いんです。旅の行程をきちんと絵と文で説明してあるので、旅を擬似体験できます。さらに人との出会いや出来事が面白すぎて、ハマりますよ。
 新潮社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎新潮社HP:
https://www.shinchosha.co.jp/book/354831/

https://www.shinchosha.co.jp/book/354832/

 鈴木さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。
◎鈴木ともこさんHP:https://suzutomo1101.com/

オンエア・ソング 12月11日(日)

2022/12/11 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. NATURALLY / KALAPANA
M2. OUR HAWAI’I / NA LEO
M3. THE ROSE / BETTE MIDLER
M4. HAWAI’I / KEALI’I REICHEL
M5. One Day with Jake Shimabukuro / Def Tech
M6. COUNT ON ME / BRUNO MARS
M7. WHAT A WONDERFUL WORLD / ISRAEL KAMAKAWIWO’OLE

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

真っ赤なベニサケ200万匹が川を遡上〜カナダ・アダムス川、命のビッグラン

2022/12/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、カナダの大自然を撮り続けている写真家「岡野昭一(おかの・しょういち)」さんです。

 岡野さんは、三重県四日市市出身。1995年、日本写真芸術専門学校を卒業。フォトジャーナリスト樋口健二(ひぐち・けんじ)さんに師事。現在は、カナダの大自然をテーマに撮影活動を続けていらっしゃいます。そして先頃、『命めぐる川〜カナダのベニザケ』という写真集を出されました。

 これは、カナダ・バンクーバーにそそぐフレーザー川の支流、アダムス川に、4年一度、およそ200万匹が遡上する、その名の通り、真っ赤な色になったベニザケの生態をとらえた写真集で、集大成的な作品となっています。

 きょうはそんな岡野さんにベニザケの生態や、写真家になるきっかけとなった星野道夫さんとの出会いなどお話しいただきます。

☆写真:岡野昭一

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

何これっ!? 綺麗! すごいっ!

※そもそもなんですが、どうしてカナダの川でベニザケを撮ろうと思ったんですか?

「最初、きっかけになったのが『釣りキチ三平』っていう釣り漫画だったんですね。小学生の時に読んで、初めて意識した外国で、行ってみたいなっていうのは子供心にあったんです。
 実際、大人になって行ってみると自然が広くて・・・たまたま現地の新聞にベニザケの記事が載っていたんですよ。その写真が本当に赤くて、こんな魚! サケ! ? えっ、いるの!? っていう感じで、行ってみたいなと思って、そこがきっかけでしたね」

●写真だけでもすごく衝撃的ですけれども、実際にご覧になっていかがでしたか?

「もう圧倒されたのと綺麗すぎて・・・生き物なんですけど、生き物に見えない。なんかひとつの芸術作品みたいな感じで、ずっと見惚れていましたね。何これっ!? 綺麗! すごいっ! ていう感じでしたね」

●名前の通り、顔以外、ほとんどが真っ赤ですけれども、日本ではヒメマスとも呼ばれていますよね?

「はい、そうですね」

●いつもこんなに赤い色をしているわけではないんですよね?

「実は海の中では白いんですよね。それが産卵するために、河口からずっと内陸の川に向かっていく途中で、徐々に徐々に赤く変わってくるんですね。
 詳しく言いますと、サケの体内の血液がだんだんと表面のほうに移行してきて、体の色が赤く染まってくるっていうのが、ベニザケの赤くなる原因だそうなんです」

●オスもメスも赤くなるってことですか?

「そうですね。メスもオスもですね。川にのぼってくるあたりで、徐々に赤くなってくるんで、本当に綺麗ですよ。 びっくりするぐらい・・・」

●カナダのアダムス川に何年ぐらい通われているんですか?

「最初に行った時が1994年、写真学校の学生の時だったんですね。とにかくどんなものかと見てみたいと思って行ったんですけど、川にのぼってくるサケ自体、それから群れのすごさ・・・初体験ですよね。北海道とかでサケを見たことがないもんですから、初めてのサケで、川の遡上がカナダで、こんなに赤いサケっていうのが、すごく衝撃的でしたね」

『命めぐる川〜カナダのベニザケ』

4年に1度の「ビッグラン」!

※サケは自分が生まれた川に戻ってくる習性がありますが、アダムス川に戻ってくるベニザケは、どんな一生を送るのでしょうか。

「ざっくり言いますと、みなさんご存じのように、親ザケが(川に)戻ってきて産卵をして、卵は翌年ぐらいに孵(かえ)って、それから稚魚になって成長していくんですね。
 ベニザケの特徴はそこから直に海に下るんではなくて、1〜2年ぐらいでしょうか、ある程度、下流の湖とかで過ごして、大きくなってから海に降りていくって形にはなりますね。
 そして海を回誘して、4年後にちゃんと(生まれた川に)帰ってくるのは本当に不思議なんですよね。どういう計画が頭の中にあるのかが、すごく不思議なんですけど、そこもちょっと神秘的なところですよね」

●その4年に1度は、ものすごい群れになるっていう感じなんですか? 

「一気にあがってくるっていうわけではなく、言ってみたら、細長い列になって徐々に徐々にあがってくるんですよね。
 いちばん先頭群があがっていくのは、大体早くて9月の下旬ぐらい。それから徐々にあがってきまして、だんだん大きくなってきて、川の(サケの)密度がどんどん増えてくるわけですよ。どんどん来ますので・・・。そこから産卵したりとか流れたりして、もうぐしゃぐしゃになっているんです。

 11月の下旬頃になってくると、やっと落ち着いてきて、12月頃にはほぼサケがいなくなるっていうか、死んだり流されたりして、いなくなるっていうのが(繁殖の)流れですね」

●アダムス川のベニザケというと、「ビッグラン」っていう表現があると思うんですけれど、改めてそのビッグランの説明をしていただいてもよろしいですか?

「これは現地のかたが例えば、新聞だったりとかで、ビッグランもしくレッドラン、魚が赤いのでレッドランとか、あとサーモンランとか言ってるんですね。

 実はこの川は、山奥の川ではなくて、国道も鉄道も走っているような民家の近くにあるんですよ。交通の便もいいし、日帰りで行って帰って来れるような、バンクーパーからもチャーターバスが出たりするんですよね。

 アダムス川の本流になっているフレーザー川っていうのがあるんですけども、そこでも上流のほうにビッグラン的な川はいくつかあります。中でもアダムス川は、メディアも撮影する人もたくさんいらっしゃるので、徐々にその知名度があがってきたっていう、特別なところはありますね」

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

「4000」から「2」!?

※ベニザケはなるべく上流に行って、川底に卵を産み付けますよね。どんな感じで産卵するんですか?

「サケって川にのぼってきますと、特にメスなんですけど・・・研究者のかたがおっしゃるには、川底を通って、また川の中に噴き出してくる伏流水っていう地下水があるんですね。 まずメスのサケはそこを探して、卵を生んだあと、砂利をかけるんですけどね。

 卵に酸素がいき届くようにって、そういう場所を探すんですよ、メス自体が鼻を利かせて・・・。あっ! ここだ! って見つけたら、メスは一生懸命、穴を掘るんですよね。いつまで掘るんだろうと思うぐらい納得するまで掘るんですよ。
 それでオスはそのメスを取り合うんです。噛み付き合ったり体当たりをして、俺のメスだ! みたいな感じなんですかね。その間もメスはずっと穴を掘っているわけですよ、納得するまで・・・。

 で、やっとメスが卵を産むタイミングになってきて、何回もその穴の周りを往復して、何回も上を回って口を開けた瞬間に、オスがパッとやってきて、よし、今か! って踏ん張って、卵をパッと出して、オスも精子を出すっていうような、そういう形になるんですよね」

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

●へぇ〜! メスは卵をどれぐらい産むんですか?

「約4000っていう数らしいですね」

●4000!

「すごい数ですよね」

●そのうち大人の魚になるのはどれぐらいなんですか?

「統計なんですけど、実際に卵から無事孵って、海に行って回遊して戻ってくのは、たったの約2匹・・・」

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

●えっ! 4000も産んでいるのに! ベニザケ自身も繁殖活動を終えると、そこで一生を終えるっていうことなんですよね?

「そうですね。川とかにいる淡水魚、魚は何年か生きるみたいですけど、サケの場合は、本当に一回きりっていうふうに体がなっているんでしょうね。ですから一回きりの産卵で、そこで全部体力も使いきって、次の子孫を残してっていう形になるんですよね」

●子孫を残すために命がけなんですね。

「そうですね。命がけですよね」

●川を遡上するサケたちが、海の栄養分を山に森に持っていくっていう話を聞いたことあるんですけれども、これはどういったことなんでしょうか?

「(サケは)海に行って小魚だったりプランクトンだったりをたくさん摂るんですけども、そこで海の栄養分をたくさん体の中に蓄積するんですよね。
 サケはもともと白身魚なんですよ。それが海に行って、プランクトンとかの食べ物の中に、アスタキサンチンっていう色素があるそうで、それが蓄積するとだんだん体が染まっていって、あの見事な赤い身の色になってくるんですよね。

 海のたくさんの栄養分を蓄積したサケが川に戻ってくる中で・・・特にクマだったり、鳥だったりがサケを食べると、その栄養分を森に持ち帰ることになるんですね。(サケの)死骸がその場所の栄養分になっていくんです。

 炭素や窒素、リンっていうような栄養素がたくさんサケの中にあって、それが土の栄養になったり、それを食べる鳥やクマの栄養になっていくってことなんです。言わば、“海からの贈り物”がサケによって川にもたらされて、生き物も森も豊かになる、もちろん川も豊かになる、それが自然の恵みっていうことになるんですよね」

●循環していくわけですね。

「そうです。循環していくわけです。そういう意味ではサケの役割ってものすごく大きいと思いますね」

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

星野道夫さんとの出会い

※岡野さんが写真家になったのは、実はいまなお多くのファンがいらっしゃる写真家、星野道夫さんとの出会いがあったからなんです。

 岡野さんが星野さんの存在を知ったのは、1988年。カナダ・バンクーバーの英会話学校の先生に、クリスマス・プレゼントとしてもらった星野さんの写真集『MOOSE』を見て、衝撃を受け、さらにアメリカで写真集を出版する日本人がいることに驚いたそうです。そして職業としての写真家にとても興味がわき、どんな人なのか会ってみたいと強く思ったそうです。

 とはいえ、アラスカに住んでいて、連絡先もわからない星野さんに、いったいどうやってコンタクトをとって、会うことができたのでしょうか。

「実際、お会いいするにも手立てがないわけですよ。それで一度目のワーキング・ホリデーが終わって日本に帰国した時に、本屋さんに星野さんのエッセイ集があってそれを買って、2回目のワーキング・ホリデーをまた取って、(日本を)出る時はアラスカに行くって決めていたので、そのエッセイ集を持ってアラスカに行ったんですね。

 エッセイ集の中に星野さんが行きつけにしているアウトドアのお店の名前があって、そこを訪ねて行ったんですよ。それで、店主のかたが(星野さんを)知っているよ! っていうんで、何人かにお電話して取りついでくださったんです。突然(お店に)行って、いま思うと大変失礼なんですけども、手立てがなくて・・・。

 現地の星野さんを知っているかたに電話をつないでいただいて、受話器を渡されて、“すいません、来ちゃったんですけど、星野さんってかたにお会いしたくて” って電話したら、何時に電話してくださいって言われたんですよ。で、一回電話を切って、その後電話し直したら、“あっ、星野です”って。“すいません、岡野なんです。突然来て申し訳ないです”って話になって、明日そのお店に行くから会いましょうって約束してくださって、お店で待ち合わせして、初めてお会いすることができたんですよ」

●すごーい! どうでしたか? 憧れの星野さんにお会いして・・・。

「憧れっていうよりかは、私ファンです! っていう気持ちじゃなくて、職業としての写真家のかたにお会いするって意識だったんですよ。芸能人にお会いするファンですとか、そういう感じでは全然なくて、写真家ってどんな仕事なのか? っていう、もう人生相談ですよね。

 もちろん写真の話もお聞きしたかったんですけど、写真家ってどんな仕事なんですか? それを聞きたくて・・・星野さんの印象に残っている言葉がありまして、”この仕事ってお金もかかるし、精神的にものすごく大変なんだけど、なぜそこまでしてやりたいかっていう目的意識、それがすごく大事になるね”って。

 それがいちばん大きいお話でしたね、時間がかかるって・・・。その時、写真集も一緒に持って行ったんですけど、星野さんが“あっ! 持ってきたの!”ってびっくりしていましたね。でもページをめくりながら、”実はね、この写真集を作る時に、あまりにも自分が持っている写真が少なくて、ショックだったんだよね”っておっしゃっていて、10年以上やっているかたが、少ないっていうこの言葉の重さ、それがすごく大きかったですよね。

 でも、突然行って失礼な話なんですけど、そこまで話をしてくださって、本気で向き合って話をしてくださったのが、すごくありがたかったですし、それがいまも財産になってますよね」

地球の肖像写真

※岡野さんは今後もカナダに通われると思いますが、撮りたい被写体はありますか?

「ひとつサケに関しては、今までこうやって撮影してきたんですけども、動画も撮ってみたいなっていうのはありますね。というのは、昨年9月だったんですけど、写真展を開催させていただいた時に、写真の展示のほかに、ちょっと動画を撮ったものがあってモニターで流していたんですね。

 親子連れのかたがいらして、お父さんが(お子さんに)一生懸命説明しているんですよ。お子さんがきょとんと反応がなくて・・・でも、モニターに映った卵が孵るシーンを見ると、すごく前のめりに食いついてきて、やっぱり動いているシーンってお子さんにとってはわかりやすいんだなと思ったんです。

 実際にサケの生態とかも見ているんですけど、まだ写真に収めてないところもあるので、そういうとこも撮りたいですね。
 あとカナディアン・ロッキーとオーロラ、この三部作でやってきたので、カナディアン・ロッキーも歩いたり、オーロラに関しても、もう少し自分の中で、例えばトナカイと一緒にオーロラを撮れないかなとか、かなり難しいと思うんですけど、そういうところも撮ってみたいなっていうのはありますね」

写真:岡野昭一
写真:岡野昭一

●では最後に写真を通して、どんなことを伝えたいですか?

「そうですね。ひとつはカナダっていうところを通して、地球の肖像写真を撮っていると思っているんですよ。地球ってどんなところ、僕はカナダを撮る、そういう意味では、地球って私たちのお家のような解釈なんですよね。

 いま気候変動だったりとか、いろいろな問題がありますよね。自分たちが住む家を大切にしなきゃいけないのに、開発だったりとかで、どんどん自然を壊しちゃったりして、水害とかいろいろな災害も起きていますよね。

 だからそういう意味で考えると、自分たちのお家なんだから、もっと大事にしたいし・・・あとサケを通して食料のことだったりとか、環境だったりとか、そういうことをもっと大事にしてね。
 この星で、私たち人間も含めて生き物が生きていけるように、環境を大事にしていかなくちゃいけないよなってのは思います」


INFORMATION

『命めぐる川〜カナダのベニザケ』

『命めぐる川〜カナダのベニザケ』
協力:講談社

 岡野さんの新しい写真集は約25年かけて追い続けたベニザケの、命をつなぐ生態が迫力のある写真とともに紹介されています。凍えるような川に入ってとらえた産卵シーンなど見応えのある写真ばかりですよ。ベニザケを取り巻く環境の変化にも触れています。漢字にはふりがながふってあるので、お子さんにもおすすめです。講談社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎講談社HP:https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000370295

 岡野さんはカナダ・イエローナイフでオーロラの撮影も行なっていらっしゃいます。神秘的なオーロラ写真、ぜひ岡野さんのブログで見てくださいね。

◎岡野昭一さんのブログ:https://ameblo.jp/shoichiokano/

オンエア・ソング 12月4日(日)

2022/12/4 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. BAD DAY / DANIEL POWTER
M2. COMPLICATED / AVRIL LAVIGNE
M3. SWIM AWAY / C.W.NICOL
M4. GOLD IN THEM HILLS / RON SEXSMITH
M5. DIE FOR YOU / THE WEEKND
M6. WHEN YOU’RE GONE / SHAWN MENDES
M7. HEAVEN / BRYAN ADAMS

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

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