2020/12/27 UP!
◎藤井 幹(公益財団法人「日本鳥類保護連盟」の調査研究室・室長) 『羽根は進化の結晶 〜羽根から見る野鳥の多様性〜』(2020.12.27)
◎水口博也(写真家、科学ジャーナリスト)『南極〜忍び寄る地球温暖化の脅威』(2020.12.20)
◎中嶋亮太(海洋研究開発機構JAMSTECの研究員)『行方不明の海洋プラスチックごみを探せ!〜深海調査と「プラなし生活」〜』(2020.12.13)
◎藤井一至(土の研究者、森林総合研究所の主任研究員)『食べ物のほとんどは「土」から 〜「土との距離」を縮めないと危うい未来が待っている!?〜』(2020.12.06)
2020/12/27 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、公益財団法人「日本鳥類保護連盟」の調査研究室・室長「藤井 幹(ふじい・たかし)」さんです。
藤井さんは1970年、広島県生まれ。日本動物植物専門学院を卒業後、日本鳥類保護連盟の職員に。現在は主にコアジサシの調査などを行なっていらっしゃいます。そんな藤井さんは専門学院在学中から野鳥の羽根に着目し、研究。そして先頃、その集大成ともいえる『BIRDER SPECIAL羽根識別マニュアル』を出版されました。
きょうは進化の過程で多様化してきた野鳥の羽根、その不思議な魅力に迫ります。また、冬のバードウォッチングの楽しみ方もうかがいますよ。
☆写真協力:藤井 幹、文一総合出版
野鳥の多様性
●藤井さんの新しい本『BIRDER SPECIAL 羽根識別マニュアル』を読ませていただきました。羽根識別マニュアルというこのタイトル通り、ずらっと羽根の写真が載っているんですよね。しかもカラーで載っていて、こんなにいろんな羽根を見比べることは今までなかったので、すごく面白かったです!
「いろんな種類を並べて比べるっていうところにすごく重点を置いたので、そう言ってもらえるとすごく嬉しいですね」
●何種類の羽根を掲載されているんですか?
「どこまでを数えるかなんですよね。単純に載っているものと、情報として出てくるものとかいろいろあるんで、数を正確に把握できてないんですけど、一応Amazonでは265種って書いてあるので、それが正しいんじゃないかと思います(笑)」
●形や色も様々で、本当に野鳥の多様性というものを感じたんですけれども。
「鳥の羽根の色や形というのは、彼らが生き抜いてきた中での進化の結晶なんですね。生きていくために進化していった過程を支えてきたのが羽根なんですよね。だから生き残るためにいかに進化させてきたかというのが、その羽根を眺めているとよく分かると思います」
●羽根の役割がいろいろ違うんですよね?
「そうですね。逆にいうと鳥って羽根しか持ってないんですよ。くちばしとか足とかまで入れるとまた別ですけど、基本的に羽根しか持っていなくて、その羽根でいろんなことを補っているわけですよね。体を保温するためだとか、空を飛ぶためだとか、メスに対する求愛行動だとか、あとは触覚、感覚みたいなものもその羽根で補ったりしています」
●いろんな役割があるんですね。オスの方がカラフルな羽根になるっていうのはどうしてなんですか?
「基本的にはやはりメスにアピールするっていう部分が大きいと思います。異性に対するアピールですね。逆にオスが子育てする場合はメスが派手だったりするんですよね。なので基本的には異性へのアピールっていうのもあります。
あとは子どもを育てている時に、その卵を抱いたりしているメスとか、逆にオスだったりする方が目立っちゃいけないので、逆に卵を抱いている方は地味になって、周りで縄張りを持っているやつは派手になって、それでメスの方に注意がいかないようにするっていう意味もあると思うんです」
顕微鏡で見る羽根の世界
※藤井さんの新しい本『BIRDER SPECIAL羽根識別マニュアル』には顕微鏡で覗いた羽根の写真が載っていますが、羽根を顕微鏡で観察するとは意外でした。
「多分これがこの本でいちばん推したい部分なんです。元々はここのパートだけで作りたいって言ったんですけど、これだけじゃ売れないって却下されてしまったんで(笑)。なので3部作みたいになってしまったんですけど、本当にこれは日本に限らず、海外でもあまり今、主流になっていなくて、やっている人が少ないんですよね。
でも本当に顕微鏡で覗くと、鳥が進化してきた過程っていうのが、ものすごくはっきり出ていて、グループによっても違うし、あとはグループっていう垣根を越えて、水辺で生活する場合にはこういう構造になるとか、生活環境でも変わってくるわけですね。それを見ることでいろんなことが分かるのですごく面白いと思います」
●顕微鏡で見ることによって、具体的にどんなことが分かるんですか?
「鳥に限らず、動物や植物などは種っていうのがあって、その上に属や科、目(もく)とかにグループ分けをどんどんしているんですけど、目レベルぐらいであれば、その羽根の構造を見ただけで仕分けることができます。
あとは先ほども言った、生息環境によって構造が変わってくるっていう、そういう偏りもあるので、その鳥がどういう生活をしてるかっていうのも推測することができますね」
ものまねが上手なコトドリ
※多種多様な野鳥が世界にはいますが、藤井さんが今いちばん惹かれている種として、「コトドリ」という野鳥を挙げてくださいました。いったいどんな鳥なんでしょうか?
「オーストラリアの南東部の方にいるんです。スズメ目っていうスズメの仲間がいるんですけど、その中で世界で一番大きい鳥で、琴のような羽根を持っているんですよ。
好きっていう理由が羽根好きだからなんですけど、琴のようなすごく変わった羽根を持っていて、鳴き声もものまねがすごいんですよ。近くの工事の音だとか、カメラのシャッター音だとか、全部綺麗に真似するんですよ」
●へ〜〜!
「オーストラリアの地元では言い伝えがあって、森の中で子どもを呼んじゃいけないって言うんですよね。森の中でお母さんが子供を呼ぶと、それをコトドリが真似して、その声につられて、子供がついて行ってしまって迷子になるっていう言い伝えがあって、それぐらいそっくりに真似ることができる鳥がいます」
※フクロウの羽根が特殊だと聞いたことがあるんですけど、そうなんですか?
「消音効果とか、多分そういう話だと思うんですけれども、まずひとつは表面に産毛みたいな毛がいっぱい出ているんですよ。それも書籍を読んでもらうと何で出ているのかっていうのは書いてあります。
あとはその翼のいちばん外側にギザギザになっている部分があって、そこが消音効果を発揮しています。これは新幹線のパンタグラフとか、そういうものに利用されていますね。新幹線だと騒音を軽減する役割のために、フクロウの羽根の構造を真似て、使ったりしていますね」
●へ〜! ほかにそういった特殊な羽根を持っている野鳥はいるんですか?
「日本だとオオジシギという鳥がいるんですけれども、それは尾羽から音を出すんですよね。高速で飛ぶことで尾羽を振動させて、ものすごく大きな音を出します。それはディスプレイのためなんですけれども、あまりにも大きな爆音みたいな音を出すので、カミナリシギみたいに呼ばれたりしています。
海外だとエクアドルの方に生息しているキガタヒメマイコドリという鳥がいるんですけど、それは翼が棍棒みたいに、軸がちょっと変形していて、それを高速で1秒間に100回以上振動させるらしいんですよ。振動させてこすることで、バイオリンみたいな音を出すんですよね。そういう変わった羽根を持っている鳥もいます」
野鳥はバロメーター!?
*野鳥は「環境を知るバロメーター」とも呼ばれているそうですが、環境の変化に敏感に反応するのが野鳥たちなんですか?
「自然環境の変化に敏感に反応するのは多分、動物、植物みんな共通なんですよ。ただ、鳥は飛ぶことができるので、大きな移動ができない哺乳類とか、昆虫とか、全然動けない植物なんかと比べると、移動が早いんですよね。
そこの環境が気に入らなければ、餌がないと思ったら、すぐにどっか飛んでいってしまうので、人間が見た時に、鳥がいなくなっていれば、よくない環境だとか、鳥がたくさん来ていれば、いい環境になったとかっていう、そういう判断ができるわけですね。
哺乳類や昆虫とかだと、急に環境が悪くなっても、なかなかすぐにはそこの個体数が変わったりとかしてこないので、そういう意味では鳥はすぐ飛んでいく、飛んでくるっていうその動きが早いから、変化を見ることが簡単だということで、バロメーターっていう言い方をしていますね」
●そういった意味でいうと、日本は鳥にとって居心地はいい場所なんですか?
「これは鳥に聞いてみないと分からないです(笑)。私が言っていい話なのかという感じもしますけど、でも今生活できているっていう意味では、鳥にとって最低限生きることができる環境だと思うので、悪くはないんじゃないかなとは思いますね」
●長年、藤井さんが野鳥たちを見てきて、改めてどんなことを感じますか?
「私が本格的に鳥を見始めて、たかだか、子どもの頃からだとしても40年とかそんなもんですよね。その中でもやっぱり鳥が少なくなったなというのは感じますね。私なんかよりももっと昔から鳥を見ている方の話を聞くと、その頃から比べて鳥は少なくなっているんです。
私が見始めてからでもさらに鳥は少なくなってきているので、本当にいちばん感じることは、増えている鳥も一部いるんですけど、全体的に鳥が減ってきたなっていうことを感じますね」
●それはどうしてなんでしょうか?
「やっぱり環境の変化というのがあると思います。それが日本だけじゃないかもしれないですね。日本は四季があって、1年中いるんではなくて、夏になったら渡ってくる鳥、冬になったら渡ってくる鳥もいます。そうすると越冬地だとか、夏どこか繁殖しに行く所だとか、そういう場所の環境変化も、もしかすると影響しているかもしれないですね。
種類によっては海外でどんどん獲られて食べられていて、そのせいで日本で減ってしまったっていう種類もいます。一概に理由がなかなかはっきり言えないんですけど。日本も干潟みたいなところは面積が縮小したりだとか、どんどん環境が変わっていますので、そういう意味ではちょっと鳥にとって生息しづらい環境っていうのがあちこちにできてしまって、見られる数が減っているっていうのも当然あるのかなと思います」
バードウォッチングのコツ!
●この番組の取材で以前、幕張海浜公園に行ってバードウォッチングを体験させていただいたんですけれども、都会にも意外に多くの野鳥がいるんだな! っていうことをすごくその時に痛感したんですが、普段は気付いてないだけなんですね。
「そうですね。本当にそうだと私も思うんですけど。よく観察会をするんですけども、初めて鳥の観察会に参加される人の多くが、小さい鳥はみんなスズメみたいに思っているわけですよね。でも実際あれはこういう鳥です、これはこういう鳥です、と教えてあげると本当に皆さんびっくりされているのがすごく印象的です」
●種類も、カラスとハトとスズメぐらいかな〜って思っていたんですが、やっぱり観察するっていうのが大事なんですね!
「そうですね。そこに目を向けるっていうことが大切だと思います。実際に何気なく見ているのではなく、鳥を鳥として認識してあげると世界が広がるので、意識するっていうことがすごく大切なんだなと思いますね」
●冬、野鳥観察するとしたら、千葉でおすすめの場所がありましたら教えてください。
「千葉はすごくいい場所なんですよ。まず東京湾がありますよね。東京湾にはたくさん鳥いますし、船橋だとか、先ほど行かれたって言っていた幕張の方だとか、干潟が広がったりしていますので、そういう干潟には、シギやチドリだとか、そういう干潟に集まる鳥がいっぱい来ています。ちょっと海の方を見渡すと、スズガモっていうカモがもう何千羽も集まったりしてますし、すごく東京湾はいい環境なんですよね。
あと、九十九里浜ですよね。あそこもいいところですし、内陸に行けば、印旛沼だとか手賀沼だとか、いろんないいバードウォッチング・スポットがありますので、是非いろんなところを歩いてもらえると、いろんな鳥が見られると思います」
●野鳥を見る上で何かコツなどありましたら教えてください。
「どういう場所にいるかっていうことを、やっぱり理解することが大切だと思いますね。鳥をなんとなく見るのも楽しいんですけども、見たいっていう鳥を見る時に、どこに行けば見られるかっていうことを、調べて行くっていうのがひとつ重要だと思います。
あとは小鳥なんかだと、何を食べているか、例えば木の実だと、この実をすごく食べるから、探し回るよりもこの実がある木のところで待ってみようとか、そうするとその鳥が当然そこに飛んできたりしますから、そういう見方もありますね。だから前もって調べて探しに行くっていうのがひとついい方法だと思います」
INFORMATION
『BIRDER SPECIAL羽根識別マニュアル』
羽根の部位や特徴などから、その羽根の持ち主が分かる優れた羽根図鑑。藤井さんが羽根の調査や研究に費やした膨大な時間さえも感じる力作です。顕微鏡を用いた識別法は画期的で、美しい羽根の写真を見ているだけでもわくわくしますよ! ぜひご覧ください。文一総合出版から絶賛発売中。詳しくは文一総合出版のホームページを見てください。
◎文一総合出版のHP:https://www.bun-ichi.co.jp
◎藤井さんが所属する公益財団法人「日本鳥類保護連盟」のHPはこちら:
http://www.jspb.org/
2020/12/27 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. BLUEBIRD / PAUL McCARTNEY & WINGS
M2. LOVE IS A WONDERFUL THING / MICHAEL BOLTON
M3. WE FOUND WHAT WE WERE LOOKING FOR / BRYAN ADAMS
M4. TO LOVE YOU MORE / CELINE DION
M5. SOULS / bird
M6. LIFE / DES’REE
M7. WIND BENEATH MY WINGS / BETTE MIDLER
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2020/12/20 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは写真家、そして科学ジャーナリストの「水口博也(みなくち・ひろや)」さんです。
水口さんは1953年、大阪府生まれ。京都大学理学部卒業後、出版社で自然科学系の本の編集に携わり、1984年にフリーランスとして独立。世界中の海をフィールドに主にクジラやシャチ、イルカなどの海洋哺乳類と彼らが生息する自然環境を取材し、数多くの写真集や書籍を出版されています。20年以上前から南極にも通い、精力的に取材活動を続け、先頃、新刊『南極ダイアリー』を出されました。
きょうは南極大陸の特徴や、数万羽の群れをつくるペンギンたちの習性、そして地球温暖化による影響についてうかがいます。
応募方法はこちら!
☆写真協力:水口博也
南極大陸は最後の砦!?
*それでは水口さんにご登場いただきましょう。南極大陸は、いろいろな意味で特別な場所なんですよね?
「個人にとっても特別ですけれども、地球にとっても相当特別な場所ではあります」
●どのあたりが特別なんでしょうか?
「私自身は20代から相当、世界中を旅行していますけれども、大陸としては最後に行った場所にどうしてもなります。地球環境から言えば、いろんな所で気候の変動は起こっているわけですけれども、それがある部分、特に今回の舞台になってる南極半島は最も出てる部分ではあります。
それからもうひとつは、南極大陸っていうのは南極半島と違ってものすごくでっかい氷の大陸なので、実は地球上全部、温暖化していると言いながら、南極大陸自体はあんまり温暖化していないんですね。
じゃあ温暖化は起こってないのかというと、間違いなくそれは起こっているんですけれども、南極大陸で温暖化が顕著に見えるようになれば、もう地球は終わりですねというくらい、最後の砦という意味でもあります」
●改めて、南極大陸の広さや特徴を教えていただけますか? 周りの海についても!
「僕たちが南極大陸の大きさを実感することって実はほぼありません。というのはいちばん僕たちが行く、別のルートも通ったことありますけれども、最も使うのは南アメリカの最南端フエゴ島に、アルゼンチンのウシュアイアって町があって、そこから船で行くわけですけれども、見られるのは南極半島のちょろちょろっとした場所だけですね。
時にはオーストラリアのタスマニアから南極大陸の反対側は行ったことはありますけれども、それも見られるのはピンポイントなんです。
実際、日本の37倍とか38倍と言われる大陸のほとんど、これは僕に限らず多くの研究者の方もそうですけれども、そのほとんどは未知の部分なので、大陸の大きさ自体を実感することはまずない。
ところが南極が皆さん寒いって言われるんだけど、実際、大陸のど真ん中に行けば寒いに決まっているんです。ただ私たちの取材とか、旅行に関していうと、行けるのは南極大陸にアクセスできる南極の初夏から秋までで、南極大陸から少し飛び出している南極半島というところに限られます。
そこは南緯でいうと63〜64度なんです。南極はもちろん南緯90度、それに対して63〜64度。つまりなぜかっていうと南極大陸があまりにもでかいので、沿岸を旅行する程度の旅だと63〜64度、その辺りなんです。
ところが北極圏に行くと、例えばノルウェー領でスヴァールバル諸島っていう、普通に飛行機が飛んで普通に皆さんが旅行に行けるところは北緯80度なんです。だからいかに南極って真ん中まで行けないか」
●なるほど〜!
「真ん中まで行けない上に夏に行くものですから、特に最近、気温も上がっていることもあって、普通に夏に船で旅行すると、日中だと下手すると0度より少し高いぐらいの気温なんです。
なので南極大陸って難しいと思われているかもしれませんけれども、今4〜5万人が旅行してるんです。今年はちょっとコロナがあってアレですけど、例年4万人を超えて旅行しています。で、その人たちの多くが船で旅行してるわけですけれども、その人たちにとっては、南極は旅行としては厳しいところではないんですよ」
海を一周できる唯一の場所!?
※新しい本に、南極大陸を取り巻く海に「南極前線」があると書いてありますが、この「南極前線」とはなんでしょうか。
「もちろん海の上でその線が見えるわけではありません。南極大陸の周りは地球上の中でも極めて特殊なんですけれども、ちょっと地球儀を思い浮かべていただくと、同じ緯度のところで、ぐるっと海を一周できるところを探すと、南極大陸の周りしかないんです。
例えば、赤道だとすぐどこか大陸にぶつかりますね。日本の緯度辺りを辿ってもアメリカ大陸にぶつかったり、ヨーロッパにぶつかったりします。南半球でもあまり緯度が高くなければ、すぐ南米大陸やアフリカにぶつかります。何の大陸にもぶつからないで一周できるのはあそこだけなんですね。
そうすると何が起こっているかというと、南極大陸を取り巻いて、南極還流という大きな海流が南極大陸を取り巻いてぐるぐる流れている。それが温度というか熱力学的には地球の他の部分とを分けるバリアリーになっていて、そのために南極大陸が非常に氷の大陸になっちゃったわけです。
で、南極大陸の方から流れ出すすごく冷たい水と、地球の北側にある温かい水が南に流れ、ぶつかっているところが南極前線です。
僕たちが船で南極へ行くのは、アルゼンチンの南、フエゴ島から南極半島に向かうわけですけれども、そこにはだいたい800キロぐらいのドレーク海峡があります。一般の船だと2日くらいで横断するわけです。
ちょうど真ん中くらいで水温が6度から2度くらいにストンと落ちるところがあるんですよ。それが南極前線を超えたっていう・・・南極前線を超えたっていうことは、海の環境的には南極と呼ばれるエリアに入ったということです」
ペンギンたちの子育て
※続いて水口さんの本に掲載されているペンギンの、気になる写真についてお話をうかがいました。
●中には数万羽のペンギンの群れの写真が載っていましたけど、これすごいですね! 隙間がないくらいぎっしりとペンギンたちがいますけど、実際にご覧になったら迫力というか圧倒されたんじゃないですか?
「圧倒されますね。実はその島っていうのはサウスジョージアという南極大陸ではなくて、亜南極、南極大陸の周りに広がってる海に浮かんでいる島なんですけれども、そういう所の方が実は生き物が相当豊かに残っている。
やっぱり僕たちが何かの風景を見て驚くとか、感動するのは、多くの生き物が密集している風景なので、多分ご覧になった写真の場所は、地球上の中でも生き物が最も集中している場所じゃないですかね」
●どうしてこんなにペンギンたちは、群れているんですか?
「ひとつはそのペンギンの敵がいなかったっていうことです。それからペンギンは陸のものを食うわけではなくて、海へ出て行って餌を獲るわけです。
さっき言いました南極前線は、ふたつの水の塊、つまり南極側からの冷たい水と北側からの幾分温かい水がぶつかってできる線ですけれども、サウスジョージアは南極前線の近くに浮かんでいるんですよ。
ふたつの水の塊がぶつかり合うところは生物がより豊かに発生する所ですから、もう餌がめちゃくちゃあると。だから餌がめちゃくちゃある海の真っ只中に浮かんでいる敵のいない島なので、あれだけ増えたんでしょう」
●居心地がいいんでしょうね。繁殖のためっていうのもあるんですか?
「もちろん繁殖のためです」
●へ〜! ペンギンたちはどんな風に子育てをするんですか?
「これが面白くて、多くのペンギン、17種類いるペンギンの中の、多くのペンギンは元々全部、南半球ですけど、南半球の春に、あるいは初夏に繁殖をスタートして、秋に繁殖が終わって冬を迎えるというのが普通のパターンですね。夏の方が当然餌を獲りやすいので、子育てがしやすい。
ところが今話題になっている、そのサウスジョージアのぐっしゃり群れているところはオウサマペンギン、キングペンギンっていうペンギンで、これがものすごく変則的な繁殖をするので、ものすごく表現しにくい(笑)。
例えば繁殖のサイクルが14ヶ月とか15ヶ月、長いので16ヶ月なんです。15ヶ月とか16ヶ月って言ったら1年じゃないので、普通生き物って1年サイクルで、春に子どもを産みましてとかって説明ができるんですけど、15ヶ月16ヶ月の繁殖サイクルを持っているやつはそういう説明が実はできない。で、それぞれに個別な特殊な事情を持っているので、そこは本を読んでいただいた方が効率はいいかもしれない(笑)」
※もっと珍しい子育てをするペンギンがいるそうです。
「本の表紙になっているコウテイペンギンはもっと極端な子どもの育て方で、真冬が始まる頃に卵を産むんですね。こんな珍しい生き物はあまりいないんですけれども。卵を産む時って当然オスとメスが出会うわけだけど、卵を産んでしまうとメスは海に帰っちゃうんです。で、オスが1羽で、足の上で2ヶ月間、卵を温め続ける。
南極の真冬ですから、要するに昼もないような極寒の世界で、オスが1羽で足の上で卵を温め続けるわけです。ただオスが1羽って言っても、そういうオスが固まっているので、オスの集団はあるんですけれども、2ヶ月かけて温める。
で、2ヶ月かけて温めて雛が孵る頃に、メスが海から餌を取って帰ってきて、ようやく交代ができる。その間オスは飲まず食わずで、卵を温めるっていう非常に特殊なことをやるペンギンです」
●そうなんですね〜。こんなに群れがある中で、すぐにパートナーのもとに辿り着けるものなんですか?
「それは僕たちも実際行ってみると驚きますけれども、見つけるんですよね。鳥は基本的には音というか、声の動物なので、声で鳴き交わしながら、大体自分の巣のあるところ、パートナーのいるところは、おおよそは分かっていますけど、最終的には鳴き交わしながら自分のパートナーであったり、子どもを見つけるというやり方です」
南極半島にドカ雪と雨!
*水口さんは地球温暖化が南極に与える影響についても新しい本で指摘されていますが、大きな変化が広大な南極大陸全域で起こっているわけではないそうです。顕著に地球温暖化の影響が出ているのは「南極半島」だとおっしゃっています。いったいどんな変化が起こっているのでしょうか。
「興味深い例なんですけど、ものすごく雪が降るようになっているんです。一般の観光客、これは私たちも含めてですけれども、温暖化っていうと氷とか雪が少なくなる風景を思いますけど、ただ、まだそうではない、非常に面白い局面があって、気温も上がってるし、南極を取り巻く海の水温も上がってるいんですね。
水温が上がると、海からの蒸発量もものすごく増える、だから海から水分がものすごく大気中に移動します。移動した水分はいずれ何らかの形で地上に降り注ぐわけですけれども、南極半島が暖かくなったと言っても、例えば冬とか春だったらまだマイナスです、氷点下なんですね。だから降る水分は雪という形をとるわけですよ。
今までより大量に大気中に行った水分がより多く雪として降るために、特に春にものすごくドカ雪が降るようになった。だから僕たちが20年前に行った時より、むしろ、前ここ、こんな雪なかったよね? というようなところにドカ雪を見ることがものすごく多くなりました。
もうひとつは春までは雪でも、夏でもうちょっと気温が上がると今度は雨になるんです。30年前ぐらいまでは、南極半島はそんなに雨は降らなかったよって言われたんですけど、最近は夏にやっぱり雨が降るようになった。そのふたつが大きな違いです」
●変わってきてるんですね。温度も上がってきてるんですね?
「温度が上がっていることだけは、まず間違いない事実です」
●温度は何度上がると大変と言われているんですか?
「例えばこの間、日本も2050年までに温室効果ガスをゼロにしようという話がありましたけど、せめて1.5度上昇に抑えようという。1.5度でも大きな影響があるけれども、せめて1.5度に抑えようっていうことから計算されたことなので、普通にいうと、地球上全部の平均温度が1度上がるってことは非常に大きな変化です」
●それが南極半島では、平均温度が何度ぐらい上がっちゃってるんですか?
「50年で3度です」
●それはものすごく大変なことですよね?
「ものすごく大変なことですね。ただそこに人間の住まいがあるわけではないので、僕たちが直感しにくいだけで、例えば僕たちが住んでいる東京だとか、あるいはアメリカだとかヨーロッパだとか、人口の多いところで平均温度が3度上がるなんていうのは、まあとんでもない話です」
温暖化とペンギン
*ペンギンたちにも地球温暖化の影響は出ていますよね?
「これも南極半島のみに限ってお話しします。南極大陸のほかのところでは違う状態もあるので、南極半島だけに限ってお話しすると、ドカ雪が降っている。
で、実は春にペンギンたちは何をするかというと、アデリーペンギンという南極大陸に典型的な、数の多いペンギンがいるんですけど、アデリーペンギンが海での生活から帰ってきて、繁殖を始めようとするんですね。ところが彼らが巣を作るためには、雪がなくなって地面なり岩場が露出した所が必要なんです。雪の上では巣が作れないので。
今までは、彼らが繁殖始めようとする時期の、しかるべき所にはそういう場所ができて、巣を作って卵を産んで子供を育てるということがやれた。ところが今ドカ雪なので、彼らが繁殖を始めようとする時期には、まだそこに雪が残っているので繁殖がどんどん遅れる。
あまり繁殖のスタートが遅れると、彼らは秋口までに雛を育てて、繁殖を終わらないとだめですけど、それがうまくいかなくなるので、アデリーペンギンが特に南極大陸ではなくて、南極半島だけですけども、極端に数が減っています。
20年前はアデリーペンギンは南極半島でも非常にポピュラーなペンギンだったので、どこでも固まって巣作りをしてる光景は見られたんですけれども、今は南極半島でアデリーペンギンを見ることが非常に難しくなりました」
●減ってきちゃってるんですね〜。
「それに対して、ペンギンの数全体が減ったのかっていうとそうではなくて、ジェンツーペンギンっていう、水族館にもよくいるのでご覧になった方々もいらっしゃるかも分かりませんけど、本来は、南極半島よりもうちょっと北側の、いわゆる亜南極の島々に多いペンギンだったんです。
そのジェンツーペンギンが南極半島にどんどん入り込んで、個体数がものすごく増えてるという、ペンギンの組成が20年前あるいは15年前と比べて非常に大きく変わっているという風な現象があります」
●へ〜! そうなんですね! 改めて、水口さんはこの『南極ダイアリー』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか?
「ひとつはやっぱり、僕たちは都会で暮らしていると気候変動は本当に起こっているの?とか、温暖化は本当に起こっているの?って考える人たちがいる。世界のリーダーの中でもそんなことは嘘だと言っている人がいるわけですけれども、別にこれ南極に行かなくても、アフリカであってもどこであっても、実際自然の中では起こっているわけです。
それが最も顕著に目に見える形で起こっているのが南極半島であったり、北極なんですけれども、それが目に見える形でご報告するのが最も説得力があるだろうというところではあります」
☆この他の水口博也さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
『南極ダイアリー』
例年なら年間4万人ほどの観光客が行く南極とはいえ、そう簡単には行けない南極に水口博也さんは20回以上も通って、南極の自然や生き物の変化を見てきた、いわば目撃者。その証言には重みがあります。なにより、南極のことがよくわかる本で、紀行文的な要素もあって、旅の気分も味わえます。講談社から絶賛発売中!
詳しくは講談社のホームページか、水口さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎講談社のHP:
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000347002
◎水口博也さんのHP:http://www.hiroyaminakuchi.com
『南極ダイアリー』を抽選で3名さまにプレゼントいたします。応募はメールでお願いします。件名に「本のプレゼント希望」と書いて、下記までお送りください。
flint@bayfm.co.jp
あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。
応募の締め切りは12月25日(金)。当選発表は発送をもって代えさせていただきます。たくさんのご応募、お待ちしています。
プレゼントのご応募は締め切りました。たくさんのご応募をいただきまして、誠にありがとうございました。
『黄昏 in the twilight』
光が美しいマジカルアワーに撮った写真の数々。アフリカのサバンナからアラスカの海まで、奇跡のような瞬間が収められた珠玉の写真集。創元社から絶賛発売中。
◎創元社のHP:
https://www.sogensha.co.jp/productlist/detail?id=4188
2020/12/20 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. THIS WILL BE / NATALIE COLE
M2. MAKE IT WITH YOU / BREAD
M3. SEVEN SEAS OF RHYE / QUEEN
M4. SMILE / ELVIS COSTELLO
M5. time will tell / 宇多田ヒカル
M6. スノースマイル / BUMP OF CHICKEN
M7. HEAL THE WORLD / MICHAEL JACKSON
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2020/12/13 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋研究開発機構JAMSTEC(ジャムステック)の研究員「中嶋亮太(なかじま・りょうた)」さんです。
中嶋さんは1981年、生まれ。創価大学大学院・修了後、サンゴ礁の動物プランクトンの研究で博士号取得。2012年からJAMSTECの研究員、現在は主に海洋プラスチックについて研究されています。
JAMSTECは海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、調査用の船「ちきゅう」や「よこすか」ほか、有人潜水調査船「しんかい6500」などを保有しています。
そこできょうは中嶋さんに、「しんかい6500」による房総半島沖の調査や、海の生き物に与える影響ほか、中嶋さんがブログ「プラなし生活」で発信している減らすヒントについてうかがいます。
☆写真協力:JAMSTEC、中嶋亮太
深海で見つけたチキンハンバーグ!?
*中嶋さんは去年「しんかい6500」に乗船し、房総半島沖の、深さおよそ5700メートル付近の調査を行ないました。そこはどんな世界が広がっていたんですか?
「私たちが潜ったところは深海平原といって、まさしく平原、平らな泥の海底がずっと続くんですね。透明なナマコがいたり、ヒトデがいたり、いろんな生き物がいるんですけど、ずっと(海中を)走っているとゴミがいっぱい出てくるんですね」
●そんな奥底にあるわけですね。
「そうなんですよ。真っ暗闇なので、ライトを照らしながら行くんですけど、そうすると目の前に白いゴミが浮かび上がってくるんですよ」
●白いゴミ?
「白いレジ袋ですよ。レジ袋だけじゃなくて、あそこにも、あそこにもゴミがあるって感じで、たくさんありました」
●分解されずに残ってしまっているってことですよね。
「分解なんて絶対しないですよね。いちばん分解しないんだなって思った瞬間が、私が潜っている時に、面白いものを拾って。
ゴミを見つけるとパイロットの人に、あのゴミを取ってくださいってお願いするんですよ。そうすると、すごい手さばきで、マニピュレータっていうロボットのアームを動かして、ゴミを拾ってくれるんですね。
それを持ち帰って、船の上に上げて見てみたら、チキンハンバーグの袋だったんですけど、製造年月日を見たら、昭和59年って書いてあったんですよ。だから拾った時点で既に35年前、だけど印刷はすごく綺麗で、何も劣化は見られなくて、深海に落ちたら、もう劣化することはないんだなっていうのは目の当たりにしました」
●どうして中嶋さんたちは深海に焦点を当てているんですか?
「実は私たちJAMSTECのミッションのひとつが、行方不明のプラスチックを探しに行くことなんですよ」
●行方不明?
「実は大量のプラスチックが海に入っているんですけれども、そのほとんどがまだ見つかってないんです。海の中のどっかにあるんですけど、どこに行ったか分からないんですよ。具体的にいうと、今私たちが、海の上にたくさん浮かんでいるよねって、映像とかで見るプラスチックの量は、実は海に入っちゃった量の1%もないんですよ」
●え、そうなんですか!?
「そうなんです。少なく見積もっても海に1億5000万トンのプラスチックがあるはずなんですね。だいたい計算上、そのうちの4500万トンぐらいは、広い外洋をプカプカ浮いているはずなんですけど、研究者たちが4500万トン浮いているはずだ! と思って研究調査船に乗っていろいろ海を調べても、どう頑張って推定しても44万トンぐらいしか浮いてないんですよ。
44万トンを4500万トンで割って100かけると1%もないんですね。残り99%がどっかにいっちゃってるんですね。それがどこにいったのか、多分深海に沈んだんじゃないかって言われていて、じゃあ深海のどこにたくさん溜まっているのかを暴いてやろう、それが私たちのミッションのひとつです」
●調査海域を房総半島沖にしているのは、なぜなんですか?
「房総半島沖をやっている理由は、黒潮がちょうど太平洋に入り込む分岐点なんですね。黒潮って南の方から流れて、九州、四国を通って、千葉の犬吠埼辺りで急に進路を東向きに変えて、アメリカの方に流れていくわけですよ。
その時にぐるぐるって大きな渦を巻いてしまうんですね。その渦の中にプラスチックがたくさん溜まるんですよ。渦に囲まれてプラスチックが溜まって、その溜まったプラスチックが下に沈んでいく、だからあの辺りはたくさんプラスチックが沈んでいると考えています」
●だから房総半島沖で調査されているんですね。
「していますね。でももっと怪しい場所もいっぱいあるんですよ。実は四国沖の黒潮がもっと大きな渦を巻くところがあるんですね。そこにも大量のゴミが沈んでいると予想されているんですけど、まだ誰も行ったことがないので、来年調べに行きます!」
毎年、東京スカイツリー600個分!?
※ところで、世界で1年間にどれくらいの量のプラごみが、海に入り込んでいるのでしょうか?
「1年間に、海と河川を両方合わせると、2100万トンあるって言われています。2100万トンっていうと、重さにして東京スカイツリー600個分ですね。それと同じ重さのプラスチックを海と川に毎年捨てています。
何でこんなに海とか川に入っちゃってるかっていうと、原因は2つあって、1つはプラスチックを作りまくっているからです。作りまくって、大量生産して、大量廃棄しているから。もう1つの理由が、ゴミがちゃんと管理できていないんですね。その2つが原因です。ちなみにじゃあ小尾さん、1年間に何億トン、プラスチックが作られているか知っていますか?」
●え! 想像もつかないです、どれくらいなんですか?
「1年間に4億トン超えているんですよ」
●え!?
「4億トンっていうと、東京スカイツリー何個分でしょうか・・・。答えは1万個分以上あるんですよ。東京スカイツリー1万個分と同じ重さのプラスチックが毎年作られている。
で、そういったゴミがだいたい捨てられて、そのうちの半分ぐらいが使い捨てプラスチックのために作られているんですよ。だから瞬く間にゴミになるんですよ。そういったゴミがちゃんと管理できてない。ちゃんとゴミ箱に入ってないとか、ちゃんと回収されてないと、環境に漏れ出すんですね。
小尾さん、レジ袋を風に飛ばしたことってありますか?」
●あえて飛ばしたことはないですけど、あっ! 飛んでっちゃった! みたいな経験はあります。
「 飛んでちゃった! ってありますよね? あれ誰でもありますよね。そういうことが世界中で刻々と起きているわけです。それはほんの一例で、どっか行っちゃった! ってことは、もう世の中ごまんと起きていて。
それならまだいいほうで、ゴミ箱がちゃんとないところとかもありますから、そういうところはバンバンその辺に捨てられていますよね」
●そういったプラスチックごみが、どういうルートで海にいっちゃうんですか?
「それは例えば、朝、ゴミ捨て場を見に行ったらカラスが(ゴミ袋を)破っていることあるじゃないですか。そうしたらプラスチックごみが散乱していますよね。 風が強かったら、全部飛ばされていきますよね。雨が降れば流されていきますよね。排水溝に入ってそのまま川に入って、海に入ります。
日本だったらそういう感じですけど、海外だと違法に埋め立てたゴミとかも嵐に飛ばされて、どんどん海に入っていきます。
私たちが家庭で出している、排水溝から流すプラスチックごみも実はたくさんあるんですよ。1つが冬になると着るフリースです。フリースはポリエステルでできていますけれども、洗濯するとたくさんの毛が抜けて、それが排水溝を流れていって、下水処理場に行って一旦ストップするんですけど、やっぱり少し漏れだすんですよ。で、雨が降るともう処理ができないからほとんど流れ出して、それがやっぱり海に入ってしまう。
洗顔フォームとかにもよく毛穴の汚れを落とすスクラブ粒とか入っているじゃないですか。あれって結構プラスチックが多いんですよ。それで洗顔するとプラスチックが排水溝を流れていくっていうことが世界中で起きていますね」
マイクロプラスチックと化学物質
※海のプラごみの中でも、5ミリ以下の「マイクロプラスチック」が、より深刻な問題だと聞いたことがあるんですが、そうなんですか?
「そうなんですよ。とにかく小さいので、ありとあらゆる生き物が食べちゃうんですよ。小さなプランクトンから、それこそクジラだって海水を飲み込む時に飲み込んじゃうわけですよ。そういうのはだいたい食べてもうんちになって出ちゃうから、影響ないんじゃないの? って人も多いんですけども、実はもっと懸念されているのが、そのマイクロプラスチックにくっ付いている化学物質なんですよね。
プラスチックって製造する時に、いろんな化学物質を加えるんですよ。添加剤っていうんですけど、プラスチックそのものだと劣化しやすくて、すぐ割れちゃったり、色が抜けちゃったりとかあるので、いろんな薬を入れるんですけれども、そういった薬を生き物が食べると脂肪に溶け込んだりするものがあるんですよ。
脂肪に溶け込んじゃうタイプは、脂肪の中にずっと溜まっていくので、そうすると例えば、小魚が脂肪に溜め込むでしょ? するともうちょっと大きい魚がまた食べると、もっと化学物質の濃度が脂肪に溶け込んで、どんどん濃くなっていくんですよ。
で、マグロが今度それを食べてもっともっと濃くなって、人間がその濃くなった(マグロの)化学物質をいただくんです。水銀生物濃縮とかよく聞きますけど、同じような理屈で、プラスチックに入っている化学物質が生物濃縮していくものがあります」
●私たち人間の健康にも影響が出てくるってことですよね?
「可能性はあります。まだ現段階では、これっていうのは分からないことがいっぱいあるんですけれども、可能性はやっぱりあって。
忘れちゃいけないのは、プラスチックの量は今後も爆発的に増えていくことなんですよ。今、年率5〜7%の勢いで増えているんですけれど、人口が増加する量よりも、すごい勢いで増えていますからね。それに応じて海に出るプラスチックの量も増えています。
そのうちですね、今ししゃもが美味しいですけど、ししゃもを食べたら、お腹からプラスチックが出てきちゃうなんてことも起きる可能性はありますよね。すでに一部の魚ではもうお腹から出てきていますし、出てきてもおかしくはないかな。ただそういう頻繁に目にしちゃうような世界が、何十年後に起きる可能性はありますね。
あと社会的なダメージもやっぱり大きくて、ゴミがたくさん観光地に落ちていたらもう行きたくないですよね?」
●確かにそうですね〜。
「それで観光業がやっぱり収益が減っているのも事実なんですよ。世界中で起きています。で、やっぱり掃除しないといけない。すると掃除するコストはすごくバカにならないんですね。あと船の運航とかも妨げられちゃうんですよ。例えばレジ袋がいっぱい海に浮いていたら、スクリューに絡んで船が止まっちゃうじゃないですか。そういった事故もやっぱりあって、年間に、最大の見積もりで250兆円ぐらいの損失が起きるって言われています」
●え〜!? もうどうしたらいいんですか?
「もうとにかく減らすしかないです。これ以上海に入らないようにするしかないです。実はもう海に入ったプラスチック回収ほぼ不可能です」
●えっ!?
「だって、さっき私が言ったように、(海に)浮いているのって1%もないんです。深海に入ったら回収できないし、ましてやマイクロプラスチックになったらもう回収なんてできないです」
3R+断る!
*中嶋さんは「プラなし生活」というブログで、プラスチックに頼らないライフスタイルを発信されています。生活からプラスチックを減らすヒントをうかがう前に、改めて、なぜ減らすのか、お話いただきました。
「やっぱり減らすことが、科学的にいちばん海のプラスチック問題を解決するのに効果があるんです。とにかく多すぎて処理できてないんですよね。減らさないといけない。
じゃあどうやって減らすの? って、よくリサイクルだ! とかいうけど、リサイクルも大問題だらけで、リサイクルがうまくいってるんだったら、別に今困ってないですよ。でもリサイクルは問題だらけなので、今プラスチック問題が起きているんです。
マスコミが問題問題って騒ぐけど、個人レベルでどうしたらいいのよっていうのが探してもない。結構そういった、ヒントを伝えるウェブサイトって海外に多いんです。英語とかよく見つかるんですけど、日本語で書かれていて、日本人に向けて作られたウェブサイトって全くなかったんですね。それで作りました。
で、どうやったらじゃあ減らせるかって話ですけれども、小尾さん、普段マイボトルとか、マイバックとか持ってます?」
●レジ袋は使わないようにエコバックを持ち歩いています。
「でもエコバックもいつも持つのは大変でしょ?」
●そうですね〜。うっかり、あ! 忘れてきちゃった! っていう時も。
「ハンドバッグに入るぐらいの小さいものがあるので、小さなエコバッグを持つとか。あと私いつも持ち歩いているのは箸です」
●あっ、マイ箸ですか!
「カバンにマイ箸が入っています。ちょっと箸はかさばるから、折りたたみ式の箸をいつもカバンに入れて、テイクアウトしなきゃいけない時にパッと自分の箸を使えば、プラスチックのフォークとか使わなくて済む。
レストラン行ったら必ずっていうくらいにお手拭きが出てくるじゃないですか。でも日本ぐらいですよ。あんなにプラスチックの包装に入ったお手拭きを毎回くれるところなんて。もう私は使わないようにして、手を洗ってます」
●確かに当たり前と思っていましたけど、あれもプラスチックですね。
「そうなんですよ。ストローだって何も言わなかったら、必ずストローを(容器に)刺してくるような世界ですからね。そういうのを断れるものはとことん断っていきます。
よく3Rっていうじゃないですか、リデュース、リユース、リサイクル、3Rが大事っていうんですけど、もう1個、4Rが大事で、それが”リフューズ”、断るです」
●なるほど〜!
「そう、もらう前に断っちゃえばいいんです」
楽しく、環境に優しく
*中嶋さんはブログ「プラなし生活」で、石鹸は液体ではなく、固形石鹸を勧めていらっしゃいますが、どうしてなんですか?
「実はプラスチックを減らす上で、液体を固形に変えるって発想がすごく重要なんですよ。液体だからボトルに入れなきゃいけないでしょ? でも固形だったら紙の容器だっていいわけだし、粉だったらいいわけですよ。
だから例えば、液体石鹸はもうやめて、固形石鹸にしちゃうとか、洗濯の洗剤だって液体洗剤じゃなくて粉だったら、紙の容器があるじゃないですか。それだけでもたくさん減るわけで。今だったら固形シャンプーとかも流行っていますし、そういうのを使うのはいいですよね」
●そう考えると家の中にいろいろと変えるべき点はたくさんありますね!
「いっぱいありますよ、探すとね。それがまた楽しいんですよ」
●家族で考えるのもいいかもしれませんね。
「いいと思います。子供とか意外といいアイデアを出してくれたりしますよ。私、娘が3人いるんですけど、プラスチックの話をよくしています。
どうやってプラスチックを楽しみながら減らすかというと・・・なかなか楽しみながらって難しいんですけど、1ついいのは、ゴミ拾いのイベントに行くことですよね。そうするとやっぱりゴミ問題を自分の身近に感じてくれます。
あと家の中では、私の家ではよく新聞紙で作ったゴミ袋を作るんですよ。新聞紙を折ってゴミ袋。レジ袋をゴミ袋にしている人が多かったですけど、レジ袋が有料化になっちゃったから、ゴミ袋がないって人も多いんです。それで新聞紙を折ってゴミ袋を作るとすごく使いやすくて、それを子供に折ってもらって、お小遣いをあげたりとかやったりして。あとは一緒にパンを作ったりします」
●パンですか?
「そう、毎朝パンを食べるんですけど、パンだって袋はプラスチックで、毎回ゴミになってしまうので。ホームベーカリーで焼いて、子供に手伝ってもらって、楽しみながらやってくれますよ」
●へ〜! いいですね。環境のためにもなるし、お子さんも楽しんでできるし。
「そうですね。一石二鳥です」
●改めて今、中嶋さんがいちばん伝えたいことってどんなことですか?
「そうですね。やっぱり知ることって大切ですね。東京スカイツリー600個分のゴミが海と川に入っているなんて知らなかったと思うんですけど、そういうことを知るってことが次のアクションに繋がるので、すごく大事ですね。やっぱり知ること、もっとみんなに知ってほしい。
あと脱プラ生活っていうのは、プラスチックを減らすって結構大変そうとか、結構辛いところも実はあったりするので、楽しみながらやるのが大事です。周りから変な目で見られても気にしないで、正しいことやってるから大丈夫、みたいな感じで、楽しみながら無理しないでやることが大切です!」
INFORMATION
海洋研究開発機構JAMSTEC
海に入り込んだ大量のプラスチックごみ、漂っているのは1%もなく、残りの99%がどこにいったかわからない。いったいどこにあるのか、行方不明のプラスチックを探す中嶋さんたちのミッションに番組では今後も注目していきたいと思っています。JAMSTECについて詳しくは以下のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎JAMSTECのHP : http://www.jamstec.go.jp/j/
ブログ「プラなし生活」
マイバッグ、折りたたみ式の箸、新聞紙でゴミ袋作り、などなど、生活から少しでもプラスチックを減らすヒントや情報はぜひ、中嶋さんが運営するブログ「プラなし生活」をご覧いただき、参考にされてみてはいかがでしょう。
◎「プラなし生活」:https://lessplasticlife.com/
◎中嶋亮太さんのHP:https://dr.ryotanakajima.com
2020/12/13 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. GEORGY PORGY / TOTO
M2. IT’S TOO LATE / CAROLE KING
M3. EMERGENCY ON PLANET EARTH / JAMIROQUAI
M4. STEPPING INTO MY LIFE / JAMES TAYLOR QUARTET
M5. Who I Am / milet
M6. THE 3R’S / JACK JOHNSON
M7. EVERYBODY WANTS TO RULE THE WORLD / TEARS FOR FEARS
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2020/12/6 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、土の研究者、森林総合研究所の主任研究員「藤井一至(ふじい・かずみち)」さんです。
藤井さんは1981年、富山県生まれ。京都大学大学院を経て、土の研究者に。国内はもちろん、カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林まで、まさに泥まみれになって土集めに奔走。土の成り立ちや、土と食糧問題などを研究されています。
私たちは普段は土のことをほとんど意識せずに生活していると思いますが、あって当たり前の土が、実は地球の最後の謎ともいわれているそうです。
きょうは謎だらけの「土」に迫る1時間。世界には何種類の土があるのか、いったい土はどうやってできるのか、いい土とはどんな土なのか、そんな疑問に答えていただきます。
☆写真協力:藤井一至
1センチに100年、1000年!?
*それでは藤井さんにお話をうかがいましょう。どうして土の研究者になろうと思ったんですか?
「そもそも私、石ころが大好きで、石ころから土ができるって聞いて、すごく面白いなと思ったのがひとつ。僕は元々石ころは詳しいと思っていたから、土のこともすぐ詳しくなれるんじゃないかっていう打算があったのがひとつのきっかけです。
もうひとつ真面目なきっかけは、学校で、教科書とかで例えば砂漠化で大変だとか、世界には食料で困っている人がいるとか、そういう話を聞いて、すごく深刻に思って、食料の問題が解決しないとアフリカの人だけじゃなくて自分の未来も危ういんじゃないかと。
僕は結構真に受けるタイプなので、学校の授業でずいぶん深刻に状況を受け止めて、これをなんとかしたいと思った時に、食料を生み出すのは土だから、土、大事だ! っていうのは、いちばん大事なこととして思いましたね」
●石ころというお話がありましたけれども、土は改めてどうやってできるんですか?
「逆にどうやってできると思いますか? 」
●いや〜、考えたことが正直なかったです(笑)。
「ですよね。僕も研究して初めて、色々勉強して、言われてみたらそうなのか、って思ったのが、岩から砂と粘土ができて、それだけじゃ足りなくて、植物とか動物が死んだものっていうのが腐って、で、形がなくなってできた腐植って呼ばれるものが混ざったもの。
だから簡単に言うと植物が腐ったものと、岩が細かくなったものが混ざって、土ができているんですよっていうのが、そういうことだったのかと。私は土ってなんかもっと得体の知れないものだと思ってたけど、言葉にすると3つぐらい、砂と粘土と植物の腐ったものなんだっていうことらしいです」
●土ができるまでに結構時間ってかかるんですか?
「そうなんです。私もそれが見たいんですけど、実際自分は岩から土になってるところを見たことなくて、なんでかって言うと結構時間がかかるんですね。例えば本当に岩から土ができるのにだいたい数千年かかりますよとか、数万年かかりますよっていうのが、普通、教科書ではそういう風に説明してあります。
実際に例えば日本だと火山灰が降ってくるんですね。その火山灰がたくさん降ってきて、それが積もって土ができているんですけど、土を掘ってみるとだいたい1メートル掘ると1万年前の縄文時代の人たちの暮らしていた地面が出るんですよ。なので、1メートルのその土ができるのに1万年かかっていると、そうすると割り算すると1センチの土ができるのに、だいたい100年かかってるっていう感じなんですよ。
そう考えると結構長いなって思うんですけど、まだ日本は火山灰が降ってきて雨も多くて生き物も元気で、すぐ風化するから土になりやすいんですけど、アフリカみたいに火山灰とか降ってこないところだと、だいたい1センチの土ができるのに1000年かかるって言われています。
そこまでくるともう人間では対応しきれない。私もだからよく岩から土ができるんですよって言いながら、実際の人間のタイムスケールだと見ることができないので、ちょっとずつ後ろめたい思いをしながら、自分が見たこともないことを言ってるっていうことになりますね」
世界の土は12種類!?
※藤井さんは、海外の土も研究されているんですよね?
「私も本当は最初、日本の土を研究し始めたんですけど、そうすると、何か世界にはもう全然違う土があるぞって言われると、1回それを見に行かないことには、ちょっと土の研究者としていかがなものかと思って、私は飛行機苦手なんですけど、ひと通り、世界中の土を見に行って、全部自分で掘って研究するっていうことをやってきました。
私も同じ土っていうのは、日本の国の中ですら見たことないんですけれど、でも、どこか似ている、やっぱり同じところでできて、同じ火山灰とか花崗岩でできた土ってどっか似てるよねっていうので、全部同じようなものを仲間にグループ化していくと、世界の全部の土って12種類ぐらいまで単純化できるっていう話があります。
それを日本で探そうと思ったら、残念ながら日本にはそのうちの主に3種類しかなくて、本当に山の山頂とか沼地まで含めて全部で頑張るとなんとか5種類くらい見つけられるんです。日本国内だと5種類、あとの7種類は日本にないっていうことなので、日本とは全然違う砂漠とか、永久凍土って言われる寒いところとか、いろんなところに行って、全部土を見に行かないと、なかなかコンプリートできないんですよ」
●そうなんですね。世界中というのは具体的にどういった国々に行かれたんですか?
「いちばん多いのはカナダによく行っています。カナダって大きい国なので、暖かいところから寒いところまであるので、ひとつの国の中でいろんな土があるんですね。ひとつ行くだけでいろいろ見ることができるので、お得というメリットがあるんです。
カナダとアメリカの国境ぐらいのところは、草原地帯で黒い土ができますよ。そこは今小麦の畑に変わっていて、私たちが食べているパンになる小麦、そこから採れますよっていう、そういう場所に行くことができるんです。そこから北極海まで北上して行くと、今度は土を削ると、夏でも土が凍ってる永久凍土っていうのがあって、そこは当たり前なんですけど、何も育たないんですね。野菜を育てようと思っても野菜が育たない。
で、私が驚いたのは、そこに1軒だけスーパーがあるんですけれど、そのスーパーに白菜が、しおれた白菜が並んでいる・・・考えてみたら何も農業やってないのになんでこの白菜が届いてるんだろうと思ったら、例えばフロリダとかから届いてたりするんです。
そうすると輸送費がかかるものだから、美味しくなさそうな1束の白菜が1800円もするんですよ。日本でやっぱりちょっと最近野菜が高いわねって言っても、1束の白菜は数百円するかなっていうところなんですけど、本当にその現地の人たちは毎日野菜は高いわねっていう生活をしてるんですね。だから土がよくないとか気候がよくないことによって、生活が全然違うんだなっていうのを、世界中の土を見て思い知りました」
土の色って何色?
※藤井さん、土の色は場所によって、違いますよね?
「 そうなんです。例えば、小尾さん、土の絵を書いてくださいって言われたら、何色を選びますかね?」
●こげ茶のような、感じですかね?
「私は真っ黒を選んで、小学校の時に写生大会で土を真っ黒に塗って、先生に茶色でしょ! とか言われたことがあって、いやいや灰色でしょ! とか言う友達もいたんです。
だから日本っていうのは黒色を選ぶ人と、茶色を選ぶ人と、灰色を選ぶ人がいて、黒色を選ぶ人は、北海道、東北、関東、九州に多いんです。これは火山灰で黒ボク土って言われる畑の土に多いんですね。
で、茶色っていうのは、それ以外の山に暮らしてる人が多くて、そうすると山だと斜面が急なので、火山灰が降っても流れてしまってあんまり黒い土ができなくて、それで茶色になる。元々、粘土の色が残っていて茶色になるっていうのが、山の人。
最後、灰色の人っていうのは田んぼの色って言われていて、田んぼは水を張ると何故か土が、土の中の赤とか黄色の成分が青く変わるので、それを水を通してみると灰色に見えるんですね。
そういう違いになるんです。日本の場合はこの3色、なんだかんだ黒っぽい色に収まるんですけれど、例えばノルウェーの子どもに、土は何色? って聞いたら白色って答えたりとか、アフリカの子どもたちに、土は何色って聞いたら赤色って答えるのが、なんか私たちが土は黒色って答えるのと同じぐらい当たり前になるってことがある。そのくらい日頃見ている土の色が違っているんですね」
いい土は、実はとても難しい
*そもそも、いい土とはどんな土なんでしょうか?
「私が口で言うのは簡単なんですけど、黒くて、なんとなくその食材の産地を訪ねる番組で、この土がいいんだ! って農家の人が言った時の土っていうのは、なんかネバネバしていて、ちょっと黒くて、いい匂いがしそうな、そんな土。
さっき言った言葉で言うと、粘度が多くて、しかも植物の腐ったもの、腐植って呼ばれるものもかなり含まれていて、それを餌として生きている微生物がたくさん棲んでいる、それによってなんか色んな匂いがするっていうことになりますね。でも、かといってそれだけでもダメで、そこにある程度、砂が混じっているという・・・
いい土って私たち言うんですけど、結構いい土かどうか判断するのって難しいっていうのが現実です。ちょうど砂と粘土と腐植のバランスになってくるので、どれかが多ければ多いほど、いいというほど単純なのじゃなくて、しかもそこで育てるのが、例えばイチゴなのか、木なのか、稲なのかによっても、そのベストな調合の比率は変わっちゃうっていうのが難しいところですね。
大概、農家の人がこの土はいいって言ってる時は、俺はこの土でうまいこと育てることができるっていうことを言ってるだけだったり、もしくは、俺はこの土を飼い馴らしてきたとか、そういう腕自慢だったりするっていうことが多いんですよね。本当にいい土かどうかってのは結構、単純には言えなくて、むしろいろんな土で、そこでいろんなものを栽培して、ちょっとずつ技術も合わせていって、そこの土でいちばん上手く農業ができるようになった時に、その土をいい土と呼ぶという、そういうことが多いです」
●藤井さんは家庭菜園もお好きだそうですね?
「家庭菜園にあまり触れたくなかったんですけど(笑)、それはなんでかって言うと、家庭菜園は元々好きで始めたわけではなくて、僕が土の研究者だって言われると皆さん家庭菜園について聞いてくるもんだから、これは詳しくないとちょっとかっこ悪いと思って始めてみると、想像以上にうまくいかないんですね。
私も土のことはこれがいいっていうのは知ってるつもりなんですけど、そういう理論と、実際どうやってトマトを育てるかっていうことにはすごく距離があるんですよ。野菜作りは土作りと言いましたけど、土だけ作っても野菜は作れないんです(笑)。
そういう難しい問題があって、そこはやっぱり栽培の仕方っていうのも、ちゃんとセットで分かってなきゃいけなくて、私も何回となく失敗して、毎年ひとつずつクリアして、ちょっとずつ、今はそれなりに家庭菜園を頑張ってるようなふりをしています。
基本は近所の農家の方とかに、私は土の研究者だっていうことは言わないでおいて、オクラ(作り)今年失敗したんですけど、何でダメだったんですかね〜? とかって聞いて、コツを聞くんです。たまにその農家の人が、やっぱりこの土が悪いんだよとか言われたりして(笑)、土のこととかいろいろ教えてもらって、なんとか改善していってますね」
食糧の95%は土から!?
*土の研究をすることで、どんなことが見えてくるんでしょうか?
「まず大事なこととしては、 僕も研究して初めて知ったんですけれど、私たちが毎日食べてるものの95%は土から来てるんです。そんなことも(知らずに)、いや、スーパーから来てるよとか思ってしまう、コンビニから来てるよとか、ついつい思ってしまう・・・私たちは、流通経路が長くなった末に、土からずいぶん距離が開いてるんですね。
土との距離は見えてないけれど、やっぱりあらゆる食べ物、ほとんどは土から来ている。さっき95%って言いましたけれども、残りの5%は海から来てるんですけど、そうじゃないものは土から来てるから、その土をいかに管理するかによって、何人分の食料が生産できるかっていうことが決まるんですね。
そうすると、今例えば飢餓で困ってる人とか、あるいはもっと美味しい野菜を作りたいのにって思っている農家の人とかがいた時に、この土をもっとこうしたら収穫がよくなるよとか、あるいは今の生活が改善されるとか。農家だったら、もうちょっとこういう風に肥料をやったら、イチゴがおいしくなるよっていうような、具体的な提案ができるっていう意味では、生活と繋がりの深い意味で、役に立てるっていう部分はあるんですね」
●土ってすごく身近なものというかあって当たり前というイメージがあったので、改めて考えること、意識することって正直なかったんですけれども、藤井さんは土の研究を通してどんなことを伝えたいですか?
「よく土と水は大切だ、みたいなことを聞くことはあるんですけど、みんな水は毎日飲むから大事だね、って分かってくれるんですけれど、土ってなかなか直接食べないんで、どっちかって言うと空気と同じぐらいの、あって当たり前っていう認識になるんですよね。
そのまま何もしていないと土って、例えば僕のプランターの土みたいにどんどんダメになっていく土っていっぱいあるんです。ちゃんとしたケアをしてあげないと悪くなってしまうってことはいくらでもあります。そうすると私たちの毎日食べる食料がよくなくなってしまうっていうことが、いつでも起こりえる。どこでも世界中、砂漠化とかそういった言葉があるように、いくらでもそういう問題が起きてるんだっていうことなんです。
皆さんは、多分農家じゃない人の方が多いし、毎日コンビニでご飯を買っているだけで、土との繋がりなんか見えないだろうと、靴にも土は付いてないって人も多いと思うんです。でも毎日食べているものって、あの産地なんだな〜とか、あの産地でやっぱり土から育ってるんだな〜っていうことをイメージしてもらうだけでも、土との距離って違うんじゃないかなと思います。
やっぱり(この問題を)放っておくと、別に輸入すればいいじゃないとか、食料なんて今、日本の自給率は40%だけど、それでも今日本やっていけているんだったら、それが30%でも20%でもいいよねとか、あんまり土との関わりあいが見えなくなると、そういう風に思っちゃうところもあるかもしれないんですね。
でも、僕がカナダの永久凍土で見た1800円の白菜っていうのは、そこで農業を自分たちでできない時に、どこでも起こりえることなんですね。日本でも、もし白菜を作らなくなったら、外国から輸入した美味しくない白菜を1800円で買わなきゃいけない可能性もある。
そういうやっぱり土と本当に距離が空いてしまって、日本には今のところそれなりに肥沃な土がある程度あるけど、それをちゃんと使わなくなってしまった時には、私たちはいくらでも美味しくもない白菜に1800円払わなきゃいけないっていう未来があるんだっていうことは、どこかで知っておいて欲しいなということが、私が土を研究して伝えたいことのひとつですね 」
INFORMATION
『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』
藤井さんが2018年に出版し、多くの新聞や雑誌等で紹介された本です。
ぜひ読んでください。
◎光文社HP :
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334043681
藤井さんの研究や活動については、ぜひオフィシャルサイトを見てください。
◎藤井一至さんのHP:
https://sites.google.com/site/fkazumichi/
2020/12/6 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. TAKE IT EASY / JACKSON BROWNE
M2. TIME IS ON MY SIDE / THE ROLLING STONES
M3. STARTING OVER AGAIN / DOLLY PARTON
M4. TRUE COLORS / PHIL COLLINS
M5. 虹 / 菅田将暉
M6. ベジタブル / 大貫妙子
M7. THE TIMES THEY ARE A CHANGIN’ / BLACKMORE’S NIGHT
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」