2025/1/19 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第23弾!
「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」
そして「住み続けられる まちづくりを」ということで、長野県諏訪市に拠点がある「REBUILDING CENTER JAPAN(リビルディング・センター・ジャパン)」通称「リビセン」のリサイクル事業にフォーカスします。
「リビセン」では、解体される空き家や建物から、古材や古道具を引き取って販売する事業を行なっています。
きょうは「リビセン」の取締役「東野華南子(あずの・かなこ)」さんにリサイクル事業を始めた経緯や事業内容のほか、活動の理念「リビルド・ニュー・カルチャー」に込めた思いなどうかがいます。
☆写真協力:REBUILDING CENTER JAPAN
合言葉は「リビルド・ニュー・カルチャー」
※2016年にオープンした「リビセン」は、一般的なリサイクルショップでは扱わない、例えば、床板や柱、古いタンスなどを扱っているのが特徴です。活動の裏には、捨てられて燃やされてしまうのは「もったいない」、ゴミにせずに再び使う、そんな思いがあるんですね。
創業メンバーは、東野さんご夫妻のほか、全部で5人。現在は総勢18人のスタッフで運営されています。
●もともとは、デザイナーのご主人「東野唯史(あずの・ただふみ)」さんとふたりで「medicala(メヂカラ)」というユニット名を掲げ、全国を転々としながら、空間デザインのお仕事をされていたんですよね?
「はい、そうなんです。もともと夫が空間デザインの仕事をしていて、私は文学部卒業で、建築の文脈だったりとかデザインの文脈を学んできたわけではなかったんですけど、依頼があった土地に夫と一緒に行って、そこに住み込みながら、解体しながらデザインしながら施工して、完成したら次の土地に行くっていう暮らしを2年ぐらいやっていました」
●へぇ〜! で、解体される家屋などの古い材料だったり古道具を引き取って、販売する事業をやっていこうと持ちかけたのは、どちらなんですか?
「2014年に夫とふたりで、その仕事を始めたんですけど、1年ぐらい経ったところで、2015年に(アメリカの)ポートランドに『REBUILDING CENTER』っていうリサイクルショップというか、建築建材がたくさんあるようなお店があるんですけど、そこに行ったんですよね。
そこを見た時に夫が、いま日本にもやっぱり空き家の問題だったりとかゴミの問題だったりがある中で、これが日本にあったら、きっと日本の社会をよくできるじゃないですけど、社会がよくなることに貢献できるんじゃないかって思ったのがきっかけで、それでポートランドのREBUILDING CENTERに連絡をして、やることになったっていうことですね。
ポートランドはもともと、アメリカにはDIYの文化もすごくあって、お家は日本だと30年ぐらい経った建物の価値ってなくなっちゃったりするんですけど、アメリカでは手をかけたら、その分ちゃんと建物の価値が上がっていくっていうような仕組みになっているので、みなさん、自分のお家を楽しみながら直しながら暮らしているかたが多いんですよね。
なので、そういう古材だったりとかドアノブだったりとか洗面台だったりとか、何でもリサイクルする文化というか、買えるようなお店がたくさんあって、そのうちのひとつがREBUILDING CENTERという感じですね」
●「リビセン」の合言葉は「リビルド・ニュー・カルチャー」ということですけども、これらにはどんな思いが込められているんでしょうか。
「私たちが本当にずっと気に入って使っている言葉ではあるんですけど、この中に古材とか古道具っていう言葉が入っていないのがすごくポイントなんです。
もともと日本にあった文化というか、物を直して使うっていうこともそうですし、物を簡単に捨てるんじゃなくて、それを次に何かに活かせないかって考える。そういうふうにもともとあったものをもう一回呼び起こすっていうのもあります。
自分の手で何かを作っていくっていう経験だったりとか、もちろん物づくりだけじゃなくって、私たちがこれから暮らす未来にどんな文化があって欲しいか、どんな仕組みがあって欲しいかっていうところを考えようって、そういう意味も込めて『リビルド・ニュー・カルチャー』、私たちのこれからの暮らしを作っていこうっていう気持ちでやっています」
(編集部注:「リビセン」の拠点を長野県諏訪市にしたのは、空間デザインのお仕事で下諏訪に3ヶ月ほど滞在していたら、華南子さんの体調が良くなり、また知り合いもできたことや、長野には古いものがたくさんあるし、東京や名古屋など、都会へのアクセスも良かったので、住まいを東京から下諏訪に移した結果、諏訪市で事業を始めることになったそうです)
<日本の空き家、過去最多に>
2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家はおよそ900万戸あり、過去最多の空き家数に。また、総住宅数に占める割合も13.8%と最高を更新。900万戸の空き家のうち、賃貸や別荘などを除き、取り壊し予定や長期間不在の空き家は、およそ386万戸にのぼるそうです。
空き家は放置しておくと、いずれは朽ち果て、また草木が生い茂り、近隣に影響を及ぼすかもしれませんが、所有者がわからない空き家も多くあるようで、自治体が勝手に取り壊すことはできないそうです。
65歳以上のかたの持ち家率が8割を超えるとされる日本、今後も空き家は、増えていく傾向にあるのかも知れませんね。
引き取り依頼、月に70〜80件!
※「リビセン」は、いわゆるリサイクルショップといっても、古材や古道具を売るだけの場所ではないですよね。カフェがあるんですよね?
「古材屋さんができても行かなくないですか?(笑)多分だいたいの人にとっては関係がない場所になっちゃうというか・・・私も以前だったら行かなかっただろうなって思うんですけど、いろんな人にとって関係のある場所だよとか、来ていい場所だよっていうところをちゃんと示すためにカフェを、オープン当時からずっとやっていますね」
●リビセン自体は大きな建物なんですね。
「そうなんです。1,000平米あって1階に古材売り場とカフェがあって、2階に古道具、3階も古道具だったり建具だったりとかを販売しています。あとは1階には雑貨スペースもあって、建具にハマっていた古いガラスを使ったプロダクトだったりとか、それをもう一回ガラス作家さんに吹き直してもらって、グラスとか器にしたものを販売したりしています」
●販売する古材とか古道具は、どうやって集めているんですか?
「基本的には全部、家主さんとの直接のお取り引きが多いです」
●引き取って欲しいっていう依頼が来るっていうことですか?
「そうです。月に70件から80件もあるんですよ」
●すごいですね!
「基本的には車で1時間圏内のご依頼を引き受けていて、それ以上なら、ちょっと出張料金がかかっちゃうよっていうふうにやっているんですけど、それでも月70件から80件あるってことは、全国でどんなスピードで物が捨てられているんだろうって思っていますね」
●確かにそうですね〜。システムとしては事前に下見したりとかされるんですか?
「例えば、物の量が多そうだなっていう時とかは、現地調査に行くこともありますけど、最近は依頼をもらったら、公式LINEでお問い合わせいただいたりもします。公式LINEにこんなものがありますって写真を撮って送っていただいて、この辺を引き取りますねと連絡して現地に行って、そのままお引き取りすることも多いですね」
●なるほど〜。引き取れるものと引き取れないものがありますよね?
「そうですね。私たちに売る力があれば、それこそ何でも引き取れるんですけど、リビセンに来てくれるお客さんが手に取ってくれるようなものだったりとか、自分たちが使い方を提案できるものだったりとか、これ、かわいいですよねってお客さんと一緒に言えるとか、次の人にちゃんと手渡せるぞって、つなげることができるって、自分たちが思えるものを引き取りさせてもらっていますね」
レスキュー率が高いプロダクト!?
※販売している古道具は、具体的にはどんな道具が多いんですか?
「本当にさまざまなんですけど、多分いちばん身近なところだと古いお皿とかはとっても多いですね。1枚300円ぐらいから売っているんですけど、印判皿っていう昔の小っちゃいお皿だったりとか、漆の器だったりもあります。あとは、諏訪だと結構、養蚕が盛んだった地域なので、そういうお家だと籠がたくさん出てきたりとか、そういうものも多いですね」
●販売前にきちんとメンテナンスされるわけですよね?
「そうです。もう本当にそれが大変です(笑)。やっぱりみなさん、おばあちゃんからお家を引き継いだけど、手つかずの場所みたいなところがあって、真っ暗だったりとか、そういう埃がかぶっているようなところに行ってレスキューしてきます。
クモの巣だったり、繭(まゆ)がついたままのお蚕さんのグッズだったり、そういうのを全部水で洗って乾かして値段をつけて、さらにどこからレスキューしてきたのかわかるように、うちは番号で管理しているので、そういう番号をつけて、ようやく店頭に出せるっていう感じなので、レスキューしてきてから店頭に出すまでに長いと1ヶ月ぐらいかかるものもありますね」
●オリジナルの製品も販売されているんですよね?
「はい、そうですね。オリジナルの製品だと古材のフレームとかが今はすごく人気で販売しているんですけど、これは本当にレスキュー率がすっごく高いプロダクトなんですよ」
●その古い材が素材ってことですよね?
「古材とか古道具だけだと、やっぱり古材をお家に欲しいっていう人ってそんなに多くないというか・・・。古材を素敵だなと思っても、お家でどう使っていいかわかんないっていうかたのために、どうにかして、暮らしの中で古材だったりとか、リサイクルのプロダクトを家に置くきっかけを作れたらいいなと思って・・・。
古材を使って枠を作って、レスキューしてきた建具からガラスを外して掃除して、それをはめてフレームを作っているんです。なので、ほとんど新しく買って何かを作っているっていうことがないプロダクトです。後ろのガラスを止める金具だけ、新しく買っているんですけど、それ以外は全部レスキューしたものなので、とてもレスキュー 率が高くて、気に入っているプロダクトです」
「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」
※「リビセン」では、ほかにも古い材を使った空間デザインやDIYのワークショップなどもやっていますが、番組として特に注目したのが、2023年から始めた「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」。ネーミングにも惹かれたんですけど、こんなスクール、やっていたんですね?
「そうなんです! リビセンが2025年で(オープンから)丸9年になるんですけど、やっていく中で本当に大変だなって思うことがたくさんあるんですね。
でも大変な一方で、さっきも申し上げました通り、月に70件から80件、1時間圏内だけでレスキュー(の依頼が)あるから、みんなが各地でレスキューをやってくれることを応援できるといいんじゃないのかなって思って、私たちがしてきた大変な思いを全部学びにして、みなさんにお伝えするっていうスクールをやっています」
●日程はどれぐらいなんですか?
「2泊3日で、がっつりと夜まで懇親会というか、みなさん、本当にずっと質問し続けてくれるみたいな時間なんですけど・・・」
●例えば、どんなプログラムがあるんですか?
「例えば、最初にうちの夫がリビセンが立ち上がった経緯から、今までどういうふうに進んできたかっていう話もあったり、どういうふうにレスキューして、どういう道具を使って掃除してっていう、具体的なレスキューの方法についてのヒントがあったりとか・・・。
あとはリビセンから徒歩5分圏内にお店がたくさんあったりするんですけど、そういうコミュニティがどういうふうに育まれていったかっていう話だったりとかもしていますね」
●でも、これまでに培ってきたノウハウをさらけ出すってことじゃないですか?
「もう! すべて!(笑)」
●いずれ競合するかもしれないとか、何か怖さとかためらいみたいなものはなかったですか?
「ないんですよね・・・(笑)。それにはいくつか理由があるんですけど、ひとつは自分たちに70件から80件のレスキューがあって、例えば富山からレスキュー依頼があっても、東京からレスキュー依頼があっても、やっぱり私たちが行けない。私たちが行けなかったら、どうせ捨てられてしまう。だったら各地でみんながレスキューしてくれたほうがいいよな! っていう・・・。商圏が被らないっていうのがひとつだったりとか。
あとは、夫がデザイナーとしてのキャリアが始まる時に、大学の先生に“デザイナーはデザインで世界をよくするんだ!”って言われたのがきっかけで、デザイナーになって、今もデザイナーとして働いているんですけど、本当にスクールを通じて古材とか古道具をみんなが奪い合う世界になったら、私たちはあっさりリビセンはやめて、自分たちの力を効率よく社会に還元できる方法をまた考えられたらいいなって思っているので、全然怖くないです(笑)」
(編集部注:「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」の参加者の顔ぶれは、工務店などの建築関係、介護職、農家さん、デザイナー、地域起こし協力隊のかたなど、多彩だそうです。今年のスクールは3月からスタート! 「リビセン」のサイトに日程が掲載されていますので、参加してみたいと思ったかたは、ぜひチェックしてください。https://school.rebuildingcenter.jp)
移住者も暮らしやすい街
※華南子さんは埼玉のご出身ということですが、長野県上諏訪での暮らしはいかがですか?
「私にとっては、本当に最高ですね(笑)」
●この時期は寒いですよね?
「本当に地獄みたいに寒くて・・・(笑)。私、初めてこんな寒いところに住んだので、長野に住んでから地獄って暑いと思っていたけど、寒い場所なのかもなって思うようになるぐらい本当に寒いんです。
でも私の生い立ちというか、10年以上同じ場所に住んだことがないんですよね。なので、長野県の上諏訪が初めて(10年)住んでいるんですけど、本当にここでよかったなって思って暮らしていますね。10年同じ町に暮らすと、こんなふうに町の関わり方というか、町と自分の距離感だったりが変わっていくんだって、すごく楽しませてもらっています」
●具体的にどんなところが最高なんですか?
「たくさんあるんですけど、すごくわかりやすいところで言うと、これは諏訪の魅力っていうわけではないですけど、東京に住んでいたことも長かったので、東京との距離も結構ちょうどいいです。2時間ぐらいで行けるので日帰りでも行けるし、仕事もすごくしやすいっていうのも、物理的に地理的に便利なところだし、温泉が気持ちいい! すごく!
すっごく寒いけど、温泉も豊富な地域なので、温泉があることもありがたいし、車で10分で山があるけど、上諏訪は中央線沿線っていうこともあって、私的には結構都会なんですよね。
歩いてスーパーも行けるし、コーヒースタンドもあって、お花屋さんも古道具屋さんもあるっていう・・・車であっちこっち素敵な場所に行くのもいいんですけど、歩くスピードで歩ける距離感の中で、自分の暮らしが楽しいっていうのは、私にとってはすごく心地がいいですね。
諏訪のすごくいいところは、外から来る人に慣れている人が多いというか、中山道が通っていて、東京から名古屋に抜ける、もともと人が行き交う場所だったので、私たちみたいな移住者も暮らしやすいですね。
空き家が出てもまたそこに入居する人も多かったりとかして、ちょっとずつ改善というか、活用されていく兆しのある町だなって思っています」
生きる心強さを持てる場所
※今までレスキューした古材や古道具で、びっくりするようなものはありましたか?
「びっくりするようなものかぁ・・・いろいろあるんですけど(笑)。私たちが諏訪の出身じゃないっていうところが多分大きいんですけど、養蚕のいろいろな道具が出てきたのはすごくいろんな、いい驚きがありました。
この土地を知るきっかけにもすごくなったし、養蚕って言葉では聞いたことがあったけど、実際にここにこういうふうに葉っぱを敷いて、ここでお蚕さんを飼っていたんだみたいな、そこで本当に暮らしていたこととかが垣間見えたのがすごくその土地の解像度が上がったというか・・・。
この土地で暮らす意味だったりだとか、この土地を楽しむきっかけにもなったのは、その養蚕の現場のレスキューだったので、すごく印象深いレスキューではありますね」
●「REBUILDING CENTER JAPAN」の活動は、今後益々注目されると思うんですけれども、そのあたりはいかがですか?
「え~〜、どうでしょう(笑)。注目!? そうですね・・・」
●益々人手が必要になってきますよね?
「そうですね・・・でも自分たちとしては、そんなに大きな会社になりたいっていうことはないので、今ぐらいの人数で楽しく暮らしていけたらいいなって言ったらあれなんですけど・・・。
その一方で、日本は空き家問題とか高齢化の問題だったりとか、最近は居場所作りみたいな話だったりとか、そういう社会問題ってどこも同じようなことを抱えていると思うので、『みたいなスクール』を通じて、ほかの地域で同じような課題感を持っている人たちとつながることで、もちろんリビセンみたいな事業もサポートしつつ、いろんな地域で起きている社会課題を私たちもインプットしながら、また自分たちの地域にフィードバックしていくっていうことは、どんどんやっていきたいなと思っています」
●リビセンの活動を通じて、どんなことを伝えていきたいですか?
「私たちのメインの事業は、もちろん古道具とか古材が外から見てもいちばんわかりやすいところではあるんですけれど、大もとにあるところで『生きる心強さを持てる根拠になる場所』になれたらいいなっていうのを思っています。例えば、物が壊れたら捨てるっていうだけじゃなくて、自分で直せるって思えるってすごく心強いと思うんですよね。
電化製品とかが多かったりすると、自分で直せるって思えるものって、なかなか少ない世の中ではあるなと思うんですけど、自分にもできるかも! っていう気持ちをひとりひとりが少しでも持てて、その一歩を踏み出せたら、どんどん見える世界が因数分解されていったりとか、社会の解像度が上がっていって、自分がよりよく暮らしていくためにとか、よりよい社会を作っていくために、これだったらできるって考えられるような、原体験じゃないですけど、場所を作っていけたらいいなっていうふうに思っています」
INFORMATION
ぜひ「REBUILDING CENTER JAPAN」の活動にご注目ください。今年の「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」は3月21日から23日、4月25日から27日、5月16日から18日、そして10月にも、11日から13日に開催される予定です。「リビセン」で販売している古材や古道具のほか、所在地など、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「REBUILDING CENTER JAPAN」:https://rebuildingcenter.jp
2025/1/12 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。
雨宮さんは1969年、山梨県生まれ。20歳のときに丸太の皮を剥くアルバイトをきっかけにチェーンソーを使いこなすログビルダーに憧れ、その後、伝統的な木造建築を学ぶために弟子入りし、大工修行。
そして石の斧(おの)「石斧(せきふ)」に出会い、人生が一変。現代の文明社会に疑問を感じ、自然とともに暮らしていた縄文時代の人々の知恵や技術に傾倒していきます。普段は山梨のご自宅にある縄文小屋で暮らしていて、髭や髪を伸ばした、そのルックスも含め、まさに現代の縄文人なんです。
そして2016年からおよそ3年かけて行なわれた、国立科学博物館の人類進化学者「海部陽介」さん率いる一大プロジェクト「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」に全面協力、石の斧だけで丸木舟を作る中心人物として活躍されました。
そんな雨宮さんがいま全力で取り組んでいるのが「JOMONさんがやってきた!」というプロジェクト。これは、日本全国の子供たちと一緒に丸木舟を作り、その舟で日本各地の海を巡るというプロジェクトなんです。
3年前にご出演いただいたときには、すでにこのプロジェクトは始まっていましたが、今年、新たなステージに突入するということで、改めてプロジェクトの全容や今後の展開に迫りたいと思います。
☆写真協力:JOMONさんがやってきた!
樹齢280年の杉の命をいただく
※2021年にプロジェクトの第一章、そのパート1として「杉の命をいただく」という取り組みがありました。これは丸木舟にするための木を伐る活動ですよね?
「そうです。丸木舟を作るためには巨大な杉の木が必要なので、その杉さんの命をいただくというのが、いちばん最初のスタートですね」
●その巨大な木は、どこにあったんですか?
「愛知県 北設楽郡 東栄町、奥三河と言われている地域ですね。愛知県でも名古屋とか街のほうではなくて、山の山の奥で長野県との県境ですね」
●樹齢とか大きさは、どのくらいだったんですか?
「めちゃくちゃ大きかったですよ! 樹齢が280年、樹高、木の高さが46メートル、木全体の重さが多分30トンくらいあったでしょうね」
●ええ〜っ! そんな巨大な杉の木を石斧で伐っていくってことですよね?
「そうなんです。子供たちと一緒に石斧を使って、杉の命をいただくということでした」
●杉と対話しながらっていうことですよね?
「そうですね。もう否応なしに対話が絶対生まれるんですよね。長い期間、向き合いますから」
●樹齢280年の木が倒れたときってどんな思いがありました?
「もう感無量ですし、とにかくありがとうございましたっていう気持ち。それともうひとつは、命をいただいた以上、その杉さんとの約束を果たすことが頭をよぎるというか、絶対にそれはやらなきゃいけないことだなっていうのは、常にありましたね」
●子供たちにも参加してもらって、という作業でしたけれども、どれくらいの日数がかかりましたか?
「19日間です。これは体験教室を3回行なったんですよ。最初の体験教室をやって、次の週、また次の週と3週に渡ってやったので、(木を)寝かせる期間を調整しながらやったんですね。だから伐採だけをやって木を寝かせるには、本当はもっと早くできるんですけども、体験教室をやりながらゆっくりやったので、19日間かかりました」
丸木舟の進水式で奇跡が!?
※2022年には「JOMONさんがやってきた!」の第一章・パート2として「47都道府県・丸木舟作りツアー」がスタートしました。伐った大きな杉の木をトラックに積んで、全国を回ったんですよね。各地で参加した子供たちの様子はどうでしたか?
「もう本当に感動しかないですね。どの県がよかったとか、よく聞かれるんですけれども、本当にどこの県も素晴らしい子供たち、そしてひとりも諦めた子供がいない。これは自分で石斧を作るというところからやるので、そこで諦める子がひとりもいないんですよ。
土曜日に石斧を作って、日曜日にその石斧で削る。それを全国リレーするわけですけれども、それは本当にびっくりすることだったですね」
●石斧を作って、その石斧を使って木をくり抜く作業で、延べ何人くらい参加されたんですか?
「全国ツアーの丸木舟作りは、親御さん含めて1600名くらいですね」
●おお〜そうなんですね! 子供たちもなかなかできる体験じゃないから、目を輝かせていたんじゃないですか?
「そうですね(笑)。子供もそうなんですけど、大人もやったことがある人はひとりもいないんですよ。だから本当に親子で目を輝かせながらやっていましたね。
実際に来てくれた子供たちの年齢層は、ほぼほぼ10歳・・・10歳くらい、もしくは10歳以下の子供です。最年少は4歳くらいで、参加して、自分で石斧を作るっていうね。だから本当に保育園児とか(小学校)1年生から4年生までの子供が主体になって作ったんです。それがまたすごいなと思いますね。高学年とか中学生とかじゃなくてね、はい」
●で、2023年10月には第一章が完了して、丸木舟が完成しました! 舟に名前をつけたんですよね?
「はい、命名ですね。進水式でね」
●なんというお名前になったんですか?
「みんなの舟だから、『ミンナ』という名前です」
●へ〜! カタカナでミンナ、いいですね!
「はい、ありがとうございます」
●丸木舟「ミンナ」の大きさは、どれくらいになるんですか?
「ミンナの大きさは全長が約10メートル、沖縄で完成した時の重さは1.7トンありました」
●実際に水に浮かべて、試乗されたりもしたんですよね?
「ミンナが完成したあとに沖縄で・・・そのミンナを山梨まで一度持ってこなきゃならなかったので、その帰りの道中、トラックに乗せて、山口、静岡、そして山梨の西湖で試乗会を2カ月間やりましたね」
●実際に水に浮いたときは感動だったんじゃないですか?
「そうですね。奇跡が起こったなと思いましたね。なぜかというと、丸木舟は丸太の状態でくり抜いて作るので、左右をバランスよく作るとか、平らにふなべりが真っ直ぐ浮かぶとか、バランスよく作るのはめちゃくちゃ難しいんですよ。一回浮かべただけでは絶対できないっていう、そういう舟作りなんですけども、なんとそれが沖縄の進水式で、一回浮かべただけで完璧に浮かんでしまったと!」
●すご〜い!
「すごいですよ! 本当にすごいです! 手直しは全くなかったですね」
杉さんとの約束を守る
※2023年11月から「JOMONさんがやってきた!」の活動は第二章に入り、「キラキラ星プロジェクト」が始まりました。これはどんな活動なんですか?
「第一章は丸木舟を作るっていう活動でしたよね。第二章は杉の木、丸木舟になった杉の木との約束を果たすためのプロジェクトです」
●具体的にはどんなことをするのですか?
「その約束というのは、杉さんが生きていた時に、私たちが命をいただく時に、杉さんが私たちにこう言ってきたんですよ。“俺の命をお前たちにあげる代わりに、お前たちがそんなに舟を作りたいなら、命をあげよう“と、”その代わりにひとつだけ約束してほしい“と言ってきたんですよ。それが“この地球上のすべての生き物たちを幸せにすることだ! わかったか~!”って言ってきたんです。
それで私たち参加した人たちも“わかりました! 杉さん! 約束を必ず果たします”って言って、石斧の斧を(杉の幹に)入れて木の命をいただいたんですね。そして全国ツアー、1600人の参加者も“杉さんとの約束を守ります!”と言って、みんなが幸せになる舟を作ったんです。これが第一章だったんですよ。
今度はその舟で世界航海をして、すべての生き物を幸せにする航海を、実際にみんなでしていこうというのが第二章なんですね」
●杉さんが言ってきたっていうのは、どういうことなんですか?
「実際に杉の木は人間の言葉は喋らないですからね。私も聴きたかったですけど(笑)・・・私たち人間は、いろんな生き物の声を聴く力はあると思います。いわゆる相手を思いやる、相手の立場になって物を考えるっていうことですね。 もしあなたが、君が杉の木だったらどんな気持ちになるかと・・・」
●なるほど~。
「と言いますと(杉さんは)280年も生きてきて、いろんな生き物たちの家になって、そして私たちにいちばん大切な、生命にいちばん必要な、おいしい水、おいしい空気を毎日作ってきてくれたんですよ。その役目を断ち切られるわけですね。そしたら“俺の命をお前にあげるけども、お前たちは俺以上のことをしてくれ“と、そういうふうに言ってきた。命のやり取りは本来そういうことなんですね。
いろんな生き物の命を私たちはいただいて生きています。その生き物たちの命をいただいたら、より良い地球にしていかなきゃいけないですね。これはもう本当、生命原理で当たり前のことなんですけどね。それを杉さんがこう言ってきたというふうに言っていますけども」
地球をキラキラ星にしよう!
※雨宮さんが取り組んでいるプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」の活動は2023年11月から第二章に入り、「キラキラ星プロジェクト」が始まりました。プロジェクト名にある「キラキラ星」には、どんな思いが込められているんですか?
「これは夜、星を見た時に“きれいだな~”って思うでしょ!? みんなこれ、全人類が思うことだと思うんですよ。“あの星、なんか汚ねえ星だな~”なんて思う人はひとりもいないと思う。キラキラする星をね。でも、私たちが住んでいるこの星、地球は今めちゃくちゃ汚いんですよ。その地球を汚しているのは私たちなんですね。その星をキラキラ星にしようよっていうプロジェクトなんです」
●素敵な名前ですね~。全国の海を丸木舟「ミンナ」で巡りながら、海岸のゴミ拾いもされるってことですよね?
「そうですね。この地球を汚しているものは、私たちが毎日出す、暮らしから出るゴミなんですね。想像してみてください。もし全人類がゴミを出さない暮らしをしたら、どうなると思いますか? ゴミが出ないんですよ、暮らしから。それは原始人たちが、縄文人たちがやってきたことなんですね。そういう地球は本当に輝いていたと思います。
ここでひとつ、ゴミというのは一般家庭から出るゴミだけではなくて・・・そもそもゴミという概念は、手に負えない危険なものですよね。そういう意味で考えると戦争の道具とか、核兵器とか、あらゆる毒薬とか、もうすべてがゴミなんですよ。そういうものを作り出さない世の中にしていく、それを目指していますね。
海岸のゴミを拾っても、ただ場所が移動するか、燃やせば気体になるか、形は変わってもなんら地球に害を及ぼさないものには変化しないんですよ。ずっとゴミであり続ける。だからこそ、もうこれ以上ゴミを作らない世界を作っていこう、全人類の暮らしを作っていこうということを、みんなにアピールしながら航海していくということですね。それが大切なところです」
●現在は準備期間っていうことですよね?
「そうですね。2023年の11月から2024年の10月まで、日本一周航海練習ということをしまして、山口県の佐合島(さごうじま)というところで航海の練習をしていました。おかげさまで航海のクルー、ずっと一緒にいつも漕いでくれる常駐クルーが私を含めて3人誕生しました」
●おお~~!
「そして、日替わりクルーという、『ミンナ』を作った子供たちとか、作ってない子供たちもみんなで一緒に漕いでいこうっていうのが、このプロジェクトなんですね。今回、体験教室に参加してくれた子供や大人たちも入れて、60名以上の日替わりクルーも誕生しました」
●この「キラキラ星プロジェクト」が本格的に始まるのは、いつ頃からなんでしょうか?
「今年2025年の4月から航海がスタートします」
(編集部注:今年4月から始まる日本一周の航海は、まず、瀬戸内海を2年かけて巡り、その後、九州編、日本海編、北海道編、さらには太平洋編、南西諸島編と続く予定。毎年、寒い時期は避けて、4月から10月に航海することを繰り返し、7年ほどで日本一周を終える構想になっています)
ドキュメンタリー映画『みんなのふね』
※そんな雨宮さんのプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」は、実は第一章の活動が映像として記録され、ドキュメンタリー映画として、ついに完成。タイトルは『みんなのふね〜Jomon-san has come』。監督は、雨宮さんが全面協力した「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の撮影クルーだった「にしやま・ゆうき」さんというかたなんです。
この映画は、雨宮さんのほうから「にしやま」さんにアプローチし、これからやる活動を映画にしてほしいと頼んだそうですね。映画にしたいと思ったのは、どうしてなんですか?
「『JOMONさんがやってきた!』というプロジェクトを言葉で言っても、なんじゃそれ!? っていう、わけのわかんないプロジェクトなんですけども、それをより知っていただくために、いちばん大切な、杉の木の命をいただいて、全国の子どもたちと舟を作ったというところを、それに参加したわずかな人しか見てないわけですよ。
そこがいちばん大切な部分で、舟ができちゃったら、みんなそのことを見ようともしないし、なかなか見られない。そこを映像を通して全国の人たち、そして全世界の人たちに知ってもらいたい! そういう思いで、これは絶対に映像に残さなきゃと思って、私の知り合いにもテレビ局の人とかいましたけども、みんな断られて、最後の最後に頭に浮かんできたのが、にしやま監督だったんです」
●へぇ~! 完成版はご覧になりました?
「はい! 昨年の12月7、8日と、先行上映会やりまして・・・」
●どんなお気持ちになりましたか?
「いやもう、ありがとうございますって、これしかないですね! 素晴らしい映画です。本当に自分で言うのもなんですけども・・・」
●英語の字幕が入っているんですよね?
「そうです。このプロジェクトは、全世界の人でやっていかないと絶対に達成できないので、英語(の字幕)も入って、全世界の人に発信していきたいですね」
●『JOMONさんがやってきた!』は現状、どんな構想になっていますか?
「今のところ、今年の4月から航海が始まって、7年間かけて日本を一周できたら、その後は世界一周です!」
●おお~!
「これを5年かけてやります。で、日本を出発して5年後に戻ってこられたら、次はアメリカ大陸に向かって、今度は各大陸の沿岸のゴミを拾う航海をずっとしていきますね。これはおそらく300年ぐらいかかるんじゃないですかね」
●うわ~、じゃあ、後継者が必要ですね?
「そうですね。全国にタネを撒いてきましたし、おかげさまで日替わりクルーの練習にも、子どもたちが参加してくれていますし、常に私も“次は頼むぞ!”っていうことを言いながら一緒にやっていますよ」
●改めてになりますが『JOMONさんがやってきた!』の活動を通して、いちばん伝えたいことを教えてください。
「いちばん伝えたいこと・・・これはみなさん、全人類がこの地球船というかけがえのない、ひとつの船に今乗って暮らしているわけですよ。みんなで同じ方向を向いて、キラキラ星に向かって漕いでいかなければ、絶対に達成できないプロジェクトなんですね。
必ずひとりひとりにできることがあって、その小さな行動が絶対に大きな成果を生んで、ゴールすることができるので諦めないで、みんなの心をひとつにして、毎日漕いでいく、毎日楽しく仲よく暮らしていくっていうことを心がけて、漕いでいってほしいなと思います。この『地球船』をね」
●今だからこそ私たちは、縄文時代の暮らしとか考え方に習う必要がありますよね?
「そうですね。科学万能の、この社会が本当にいいんだ! ではなくて、やはり世界の状況が今こういう結果になっているわけですから、一度見直して、本当にこの文明社会がいいのかをしっかり考え直してほしいですね」
INFORMATION
雨宮さんが全身全霊で取り組んでいるプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」では、活動資金を寄付という形でも募っています。ぜひサポートをお願いします。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎JOMONさんがやってきた!:https://jomonsan.com
ドキュメンタリー映画『みんなのふね〜Jomon-san has come』は順次、全国で公開予定。3月8日には雨宮さんの地元、山梨県甲州市にある勝沼市民会館で上映されることになっています。この映画は自主上映も可能だということで、上映会のスケジュールも含め、詳しくはオフィシャルサイトを見てください。
2025/1/5 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の主任研究員「川口慎介(かわぐち・しんすけ)」さんです。
川口さんは1982年、兵庫県宝塚市生まれ。北海道大学・理学部時代は、海ではなく空、それもオゾン層より上の「大気の研究」をしていたそうです。その後、一転「深海の研究」へ。そして東京大学海洋研究所の大学院生時代に、JAMSTECのスタッフと一緒に仕事をしたこともあって、誘われてJAMSTECの職員になり、現在は主任研究員として活躍されています。プライベートではプロレス好きのサッカー部員で、カラオケも得意だとか。SNSでは「海ゴリラ」として知られています。
JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、日本が世界に誇る科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。
川口さんは「しんかい6500」に乗船するなどして、深海や海底に関する研究をされています。そして先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されました。
きょうはそんな川口さんに「しんかい6500」による調査のほか、海水に含まれる成分や、海の中で聴こえる音の研究のお話などうかがいます。
☆写真提供:海洋研究開発機構
「しんかい6500」、初めての時の記憶がない!?
※まずは、JASMSTECで、どんな研究をされているのか、教えてください。
「僕は調査船に乗って、陸地から離れた遠洋のほうまで行って、深い海、特に海底の近くで何が起こっているかを実際に潜ったりとか、ロボットを降ろして調べる仕事をしています」
●研究のために川口さんも「しんかい6500」に乗って調査することもあるってことですよね?
「はい、実際に『しんかい6500』に乗り込んで、深い海まで潜ったこともあります」
●これまでに何回ぐらい乗ったんですか?
「僕、実は少なくて、4回だけなんですけども、潜らせてもらっています」
●初めて「しんかい6500」に乗って、深い海に行った時はどんなお気持ちでしたか?
「もう全然覚えてないですね。初めての時のことは全く覚えてないです。きっと興奮していたんだと思います」
●乗る前からワクワクみたいな、そういう感じでしたか?
「う〜ん、もう本当に覚えてないんですけど(苦笑)、どちらかというとやっぱり研究が進む進まないっていう部分のプレッシャーがあったので、そっちでいっぱいいっぱいだったのかもしれないですね」
●(最初の時は)どれぐらいの深さまで潜ったんですか?
「最初の時は2500メートルだったんですけど、その後6000メートルまで潜る機会がありました」
●光が届かない深海って真っ暗ですよね?
「真っ暗ですね」
●外の様子は窓から確認できるんですか?
「はい、窓に顔をへばり付けて、ずっと外を見るんですけど、時々プランクトンとか魚で光るやつなんかがいたりして、ちらっと光が見えたりして幻想的です」
●へえ〜、すごいですね! 1回の潜水時間はどれぐらいなんですか?
「潜水船の蓋が閉じて、潜って帰ってくるまでのトータルで8時間ぐらいですね」
●深海で調査できる時間はどれぐらいなんですか? 到達するだけでも時間はかかりますよね?
「そうなんですよ。だから6000メートルぐらいまで潜ると、行くのに3時間、帰るのに3時間ぐらいで、海底にいるのは2時間もないですね」
●乗船するのは何名ぐらいなんですか?
「潜水船の中には3人乗ります。パイロット側のかたが2名と、研究者1名というのが通常の組み合わせです」
(編集部注:6000メートルくらいまで潜るのに、およそ3時間はかかるというお話でしたが、予定の深さに到達するまでの間、「しんかい6500」の狭い船内で何をされているのか、気になりますよね。お聞きしたら、努めてリラックスするようにしていて、パイロットのかたとおしゃべりをするか、仮眠をとるか、中にはタブレットなどで映画を見る人もいるそうです。
また、船内にはトイレはないので、成人用のおむつを着用して乗船するとのことですが、おむつもどんどん改善されて、不快感はまったくないそうですよ)
母船に戻ってきたからが勝負!?
※研究にはサンプルの採取が欠かせないと思いますが、どんなサンプルをどんな方法で採取するんですか?
「生物だと、掃除機のような形をしているもので吸い取って、網に引っかけるように集めたりだとか、水を取りたい場合だと、ペットボトルのようなものを持っていって、深海で(水を採取したら)蓋を閉じて持って帰ってくるとか、ということをやっています」
●深海になればなるほど、水圧がとんでもなくすごいですよね。そんな深海で採取したサンプルを船の上まで引き上げると、状態が変わっちゃわないのかなって思うんですが、そのあたりはどうですか?
「めちゃくちゃ変わってしまうんですね。圧力が抜けるので変形するっていうのもあるんですけども、深海は基本的に涼しいというか冷たい環境なので、持って帰ってくるまでに、ぬるくなってしまうのが結構深刻な問題になります」
●ぬるくしないために何か方法があるんですか?
「みんな工夫はしているんですけれど、これという方法はなくって・・・僕は最近そこを解決したくって、冷たくするための装置を開発するような仕事もしています。 冷たいまま持って帰ってきて調べた時に、今までと全然違う見え方をしたら、ぬるくなっているってよくなかったんだなっていうのがわかっちゃう、よくも悪くも判明するかなと思って取り組んでいます」
●採取したサンプルは、船の上ですぐ調べるんですか?
「ものによっては本当にそこの時間が勝負になったりしますね。どんどん腐っていくものもありますし・・・だから潜水船で潜ることの調査なんですけど、潜水船が海の上で待っている母船に帰ってきてからのほうが本当の勝負で、徹夜続きになることもあります」
●では母船には、すぐ研究できるような機器とか施設が揃っているってことですよね?
「母船には冷蔵庫、冷凍庫はあるんですけど、基本的なものしかなくて、航海の度に研究者が自分のツールを持ち込んでそれを使います」
●川口さんの研究でこれまでサンプルを通して分かってきたことがあれば、ぜひ教えてください。
「わかってきたことは・・・まだまだわかんないことがあるなっていうのが毎回わかります」
●(笑)謎が多いんですね?
「謎だらけですね!」
(編集部注:川口さんが開発している冷やす装置はスバリ「深海冷凍装置」。パソコンを冷やす機能を応用しているそうですよ)
海水にはあらゆるものが含まれている!?
※川口さんは先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されています。この本を出すにあたって、何かコンセプトのようなものはありましたか?
「海の研究者が書いた海の本っていうのは、僕の師匠とか上司もたくさん本を書いているんですけど、これまでだいたい2種類あって、研究者が自分の専門分野のことを詳しく書いて紹介するタイプの本と、もうひとつは(一般のかたに)海に親しんでもらうために、”海って不思議なところだね”っていうポップな感じで書いてあるものと、だいたい2種類に分かれるんですね。
僕は今回その中間ぐらいの本を書きたいなと思って、ポップで読みやすいんだけど、専門的な話も書いてあるっていう、そこを狙いたいなっていうのがいちばん大きなコンセプトで 書きました」
●本の中から、ほんの少し初歩的なことをピックアップして質問させていただきたいと思います。まず海水はしょっぱいですよね?
「はい、しょっぱいですね」
●しょっぱい、そのもとは食塩の成分ですよね?
「そうですね。食塩の成分である主にナトリウムがしょっぱさの原因だというふうに言われています」
●塩分濃度はどこの海でも同じなんですか?
「これ、ほんとに重要なポイントで、海の塩分はどこの海でもだいたい同じなんですけど、専門家からすると全然違います! っていう言い方をします。ちょっとしか塩分は違わないんですけど、そのほんのちょっとの違いが、海水が動いたりとか混ざったりするのにとても大きな影響を及ぼすんですね。
一般に普通に暮らしている人がなめたら、同じしょっぱさだねっていうレベルの塩分なんですけど、科学的にはこれは全然塩分が違うんだというような言い方をしたりします」
●海水には、ほかにどんなものが含まれているんですか?
「海水にはなんでも含まれています。あらゆるものが含まれている・・・ただ多い少ないというのがあって、塩分、しょっぱいって言っている塩素とかナトリウムはとってもいっぱい溶けていますけど、たとえば鉄はほんの少ししか溶けてないです。でもほんの少しは溶けている、金も銀も銅もほんの少しは溶けているっていうのが海水の正体です」
日本近海にもある海底資源
※海底にある資源については、世界でも関心を持っている国が多いと思いますが、日本近海にも海底資源はあるんですよね?
「はい、日本の近海にも海底の資源が見つかっている場所はあります」
●どんな資源が見つかっているんでしょうか?
「日本の近海でよく見つかるのは、ひとつは銅を多く含むような『熱水性鉱床』と呼ばれるもの。日本列島からは離れてしまいますけども、離島の周りにあるのが『マンガン団塊』とか呼ばれるようなマンガンを主体とする海底資源があります」
●実際に海底から引き上げて資源として利用するとなると、それはそれで莫大な費用がかかりそうですね?
「費用はすごくかかると思いますよ。資源として利用するっていうことは大量に採らなきゃいけなくて、大量に採るっていうことは、それに必要な船も大量だし、働く人も大量だし、かかる時間も長いしっていうので費用はたくさんかかると思います」
●そうなると、国家プロジェクトですよね?
「う〜ん・・・微妙・・・(苦笑)表現が難しいですけど、海底資源ってよく相場で1グラム何円っていう部分があって、そこは変動するじゃないですか。でもここの海底に何グラムありますっていうのは変動しないんですよ。
だからもし、すごく貴重になって価格がすごく上がると、国家プロジェクトじゃなくても儲かるからやるっていう企業が出てくるかもしれない。でもそこに何グラムありますか? っていうのがわかっていないと、やっぱり企業は手が出しにくくて、そういう意味で今の段階では国家プロジェクト的に動いているというのが、海底資源に関する現状だと思っています」
勝手になっている海の音!?
※川口さんは数年前から「海の音」の研究をされているそうですね。これはどんな研究なんでしょうか?
「海の音の研究にもいろんな種類があるんですけど、僕は海に人間が鳴らした音というよりは、勝手に鳴っている音をよく聴くと、海の状況がわかるんじゃないかっていう考え方で取り組んでいます」
●勝手に鳴っている音っていうのは、どういう音なんでしょうか?
「一般的にいちばん鳴る音は、たとえば、雨が”ザア〜ザア〜”降ると海面を叩くので音が鳴るとか、波がじゃぶじゃぶすると”ジャブジャブン”という音がするとか、そういうのが勝手になっている音のひとつです。それとは別に生物が動くことで、浅いところから深いところ、深いところから浅いところへと移動すると、体が”ポキポキ”なる音とか、(生物が)餌を食べる時に海面で”ジャブジャブ“する音が聴こえたりもします」
●そういう音は、どうやって録音するんですか?
「深海で音を録る時は、海底に録音機を設置してただひたすら待つ。録音機に音が入ってくるという形で今は録音しています」
●深い海に録音機を設置するってことですよね? どんな録音機なんですか?
「深海の圧力に耐えられる、海水につけても壊れない特殊な装備をした録音機なんですけれども、それはさておき、そういう録音機をたとえば『しんかい6500』に持たせて潜らせて、海底に置いて帰ってくるという方法をとります。
で、結構大事なところで、『しんかい6500』は船自体から出る音があまりにうるさくて、海の自然な音が聴こえないので、録音機を海底に置いたら一度離れて、船の音が入らない状態にして、自然の音を聴いてもらって、改めてまた回収しに行くというようなことをやっています」
●実際に海の音を研究されて、わかってきたことはあるんですか?
「いや〜わかんないですね(苦笑)まだまだわかんないことばっかりです」
●本当に海って謎だらけなんですね?
「はい、謎だらけです」
●海は本当に広くて深いので調べれば調べるほど、謎が増えていくように思いますけれども、今後、調査研究したいテーマはありますか?
「ひとつ大きいのは、深海生物がどうやって時間を感じているのかっていう研究は、いつかしたいなと思っているテーマです。深海生物が季節とか時間を感じているんじゃないかとか、いや感じてないとかっていうことは、昔から言われています。
いずれにせよ、深海には太陽の光が届かないので、昼と夜ってわからないはずなんだけど、時々(深海生物は)わかっているんじゃないか、みたいなデータが取れることもあって、それが音と関係しているんじゃないかな〜っていう話につなげられると、ロマンがあって面白いかなと思って考えています」
●解明してください!
「(笑)頑張ります。応援してください!」
(編集部注:川口さんは、クジラやイルカなどの鳴き声を含め、海の中で鳴っている音は、きっと深海まで響いているので、その音を研究することで、生物の様子がわかるのではないか、そんなこともおっしゃっていました。
川口さんが携わっている海の音をモニタリングするプロジェクトについて詳しくは、JAMSTECのオフィシャルサイトに情報が載っているので、ぜひチェックしてください)
☆海洋研究開発機構(JAMSTEC ):https://www.jamstec.go.jp/smartsensing/j/
INFORMATION
川口さんの新刊をぜひ読んでください。海とは何か、地球とは何かを、生命の起源や深海の謎、気候変動の対策など、地球規模のテーマにそって探求する問答集です。謎だらけ、わからないことだらけの海について、深く潜って考えてみてはいかがでしょうか。エクスナレッジから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767833187
「海ゴリラ」という名前で展開している川口さんのSNS「X」にもぜひアクセスしてみてください。
◎X:https://x.com/the_kawagucci
◎海洋研究開発機構(JAMSTEC):https://www.jamstec.go.jp/j/
2024/12/29 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サバイバル登山家の「服部文祥(はっとり・ぶんしょう)」さんです。
服部さんは1969年、横浜生まれ。東京都立大学在学中にワンダーフォーゲル部に所属し、日本国内の山々を縦走。96年に世界第2位の、カラコルム山脈K2・標高8611メートルに登頂。97年から冬の北アルプス 黒部横断などに挑戦。99年からは食料を現地調達するサバイバル登山を始め、その後、狩猟にも取り組んでいらっしゃいます。
山好きのかたは、山岳雑誌『岳人』の連載で、服部さんのことを知っている、というかたもいらっしゃると思いますが、実はもともと『岳人』の編集者で、現在もフリーランスという立場で編集にも携わっていらっしゃいます。
そして作家としても数々の本を出されていて、いちばん新しい本が『今夜も焚き火をみつめながら 〜サバイバル登山家随想録』。これは山岳雑誌『岳人』に連載していた記事を中心に、えりすぐりのエッセイを加えて編纂した本となっています。
今回は14年ぶりのご出演ということで、改めてサバイバル登山とは、どんな山登りスタイルなのか、そんな初歩的なことから、数年前から始めたという自給自足的な古民家暮らしのお話などもうかがっていきます。
☆写真協力:服部文祥
「サバイバル登山」〜フリークライミング思想
※私、小尾は今回初めて「サバイバル登山」という山登りがあることを知りました。改めて、これはどんな登山スタイルなのか、教えていただけますか。
「自分の力で登ることにこだわった登山だと思っているんですけども、メインの思想というか中心の思想はフリークライミングにあります。フリークライミングは、自然のまんまの岩を自然のまんまの自分で登ろうっていう考え方だと、僕は理解しているんですけども、それをやってみると面白いんですね。
その前の段階のことをちょっと説明しておくと、人工登攀(じんこうとはん)っていうのがあって、岩登りがどんどん発展していく中で、岩に穴を開けて、そこにボルトを打って、それから縄梯子をぶら下げて登るっていうふうにどんどん発展していく、それが人工登攀なんですね。その中で、登るってことは一体どういうことなんだろう? って考えた人たちがいて、それがフリークライミングを生んだんです。
登るっていうことは、もともとある自然の岩の、登りたい人にとって、利用できる(ものが少ない)弱点を、自分たちの肉体を利用しながら、使うことでそれ(岩)を登っていく。
簡単に言えば、子供たちが岩とかを見た時に、これ登れる? ずるしないで登れる? みたいな・・・梯子をかけたりとか、上から垂れているロープとかをつかまないで、自分の体だけで登れるっていうようなのと同じだと思うんですね。そういうフェアな思想っていうか、スポーツマンシップみたいな思想を前面に押し出したというか、それに忠実にやろうと思って考えたのがフリークライミングだと思うんですよね。
実際、僕も自分でやってみて面白いし、これが登ることだなっていうのがすごくよくわかる。あと登れなかったら、今まで人間がやってきたように、その対象を加工しちゃうんじゃなくて、梯子をかけちゃうとか、穴を開けちゃうとかっていうんじゃなくて、一回おうちに戻ってというか、一回その岩から降りて自分を鍛えるんです。またそれにチャレンジするっていう、フェアネスの精神みたいなものもある。
岩を加工しないんで、岩は原始のまま、そこにずっとあるわけですよ。だから100回目にチャレンジした人も、最初にチャレンジした人と同じように、その岩と向き合うことができる。簡単に言うと持続可能なんですよね。
人間っていうか、我々は結構、自然環境を都合のいいようにいじってしまって、持続可能ではない世界をたくさん生んでしまったというか、(自然を)壊してしまったんですね。フリークライミングはそうではなくて、できるだけ自分たちの都合のいいようにいじらずにそのまんまの状態にして、だからこそ、ずっとこれから何年も何年も、最初に触った人と同じような喜びを、2回目でも100回目でも1000回目でも感じることができるっていう意味で持続可能なんですよ。
そういう意味でフリークライミングってすごく面白いというか、これから地球を対象に遊ぶ場合の、我々のすごく理想的なやり方だと思うんです。僕は日本の山を登って育ってきたんで、日本の山でフリークライミング的なことができてるのかって考えた時に、できてないな~と思って・・・。
今から日本にできちゃった道とかロープウェイとか、壊してもしょうがないんで、そういうものをできるだけ避けて、フリークライミングと同じように、過剰に便利な道具は使わないってことを課して、そういう条件で山に登ってみたらフリークライミング的にやっぱり面白いんですよ。
で、やったのがサバイバル登山で、名前は営業もあって、目を引くような、耳にちょっとなんなの? って、みんなが思うようなものを敢えてつけたっていう感じですね」
(編集部注 :初めてのサバイバル登山は、南アルプスの北に位置する「仙丈ヶ岳<せんじょうがたけ>」だったそうです。この時、持って行った道具はタープと薄い生地の寝袋など、食料はコメなどの穀類を少しと塩だけ。あとは現地調達にチャレンジしたそうですが、ご本人いわく、食べられる山菜やキノコがわからない、釣りが下手でイワナも釣れない。寒くて腹は減っていたけれど、面白くて清々しい気持ちだった。山を降りたあとに登山として美しいと思ったそうです。
その後、食料の現地調達に向けて、釣りの練習のほか、山菜などの知識を身に付けるために図鑑を見たり、友人に教えてもらったりと、スキルを磨いたとのことです)
肉も現地調達〜山の見方に変化
※食料は基本的には現地調達ということで、釣りに加え、その後、狩猟が加わりました。そのあたりの思いをお話しいただきました。
「食料って我々普通に生活していると、食料品店で買うのが当たり前ですけど、よくよくサバイバル登山をしてみると、本来の食料は自然環境から自分の手で獲ってくるものなんですよね。みんな、そうやってずっと何万年も生きてきて、最近は買うものになりましたけど・・・でもやってみると、そういうもんだなと思っているのに肉に関しては買ってんですよね・・・自分も買っていた。
サバイバル登山を通して、魚を釣って山菜を採ってキノコを採ってみたいなことをやっているけど、肉に関してはまだ買っているな~って・・・。肉もちゃんと自分で調達してみたいなと思って、一回登山はちょっと横に置いといて、狩猟だけをする2シーズンぐらいがあって、獲れるようになった時に、シカやイノシシを食料に、もしかしたら冬もサバイバル登山できるかもしれないって思って、思っちゃうとね、気がついちゃうとやらないといられないってわけじゃないですけど(笑)、気が付いちゃったんでやってみたのが、冬のシカを食料にしたサバイバル登山です」
●猟銃を持ってってことですよね?
「そうです。狩猟を始めた時は冬のサバイバル登山の意識っていうか、そういう発想は全くなくて、とにかく肉をちゃんと自分で調達して、その時、何を自分が感じるのかを知りたいなと思ってやっていたんですけど、獲れるようになっていく過程で、獲れるようになっていったんで、これが食料になるって気がついてしまった。めんどくさいぞ! と思ったんですけど(笑)。やってみると、やっぱりひとりでやると効率があんまりよくない。鉄砲は重いし、シカを獲ると荷物が一気に増えるし、そういう意味ではひとりでは効率がよくないですね」
●仕留めた獲物はその場で解体するんですか?
「そうですね。それしかないんで・・・」
●そうですよね〜。
「その場で解体して持ち運ぶとか、できるだけその場で食うわけです。でも20〜30キロの肉が手に入るわけで、それを全部食うことなんてできないですし、運ぶこともできないんで、悪いけど森に返す、みんなで食べてください。実際みんなで食べてくださいっていう状態になるんですけど、あっという間に鳥とか獣とかに食べられちゃう・・・」
●狩猟を始めて、山の見方は変わりましたか?
「変わりますね。狩猟もサバイバル登山もそうですけど、やっぱり普通の登山って結局、道を歩く。岩登りとかでも、ある程度ルートが決まっていて、そのラインをたどるみたいなところがあるんですけど、食料とか燃料とかを現地で、山の中で調達しようと思ったら、もちろん山をよく見なきゃいけないですね。
登山道を歩いて線上で山と接していたのが、獲物を探すとか獲るとかっていうことで、それが広がっていく。面とまではいかないんですけど、かなり幅を持って広がっていく。実際にそこに生えていたり、そこに棲んでいたりするものを見つけて獲らなきゃいけないんで、よく見るようになりますよね。幅広くよく見るようになる」
(編集部注:服部さんは大学時代の縦走に始まり、エベレストよりも難しい山と言われるK2の登頂のほか、岩登り、沢登り、山スキーなど、いろんなことに挑戦してきました。その理由は、なんでもできたほうがかっこいいし、登山家として、オールラウンダーでありたいという気持ちがあったからだそうです)
自分で考えて超えていく
※先鋭的な登山家のかたは、人がたどったことがないルートを踏破するとか、まだ誰もやってない登り方で頂上に立つとか、「登山史上、初めて」に挑むことがありますよね。なぜ「登山史上、初」にこだわるのでしょうか?
「面白いからですね! っていうのは、やっぱり誰もやってないから、そこは自分で工夫しなきゃいけないわけですよ。何が起こるかわからないですし、どういうふうになっているかも実際に行ってみないとわからないわけなんで・・・。
実際に行って、ぱっと見て、あっここが難しいとか、ここはどうやって登るんだろうみたいな、わかんないところを自分で考えて工夫して、超えていくっていうのは、ものすごくクリエイティヴなことなんですよ。だから未知っていうものはやっぱり、そういうことにチャレンジしたい人にとっては魅力のあることですけどね」
●ワクワクするんですね~。
「でも今はもうそういう未知の部分もなくなってきてしまったんで、そういう志はもう絶滅危惧種というか・・・。さっき言ったフリークライミングはそういう意味では、最初の人と2番目の人も3番目も100番目の人も、最初の人と同じような気持ちを楽しめるようなシステムにはなっているんですけどね。
情報をフリークライマーたちは(自分の中に)入れないんですよ。っていうのは、やっぱり登り方がわかっていたら、あんまり面白くないんで・・・。自分で岩に取りついて、登り方を考えながら登るのが面白いんで、敢えて人が登った登り方を調べたりしないし、登った人たちもそういうことを敢えて言わないんです。
それはその人たちの喜びを奪うことになっちゃうんで、これから登山もそういう方向にいってもいいんじゃないかなと思いますけどね。僕なんかは敢えてもう調べない。今『ヤマレコ』(*)とかでいくらでも調べられるじゃないですか。調べることもあるんですけど、敢えて調べないことによって、すごく面白いっていうか、初めてそこに行った人と同じような気持ちで登ることができる。自分もいろいろ悩んで工夫する余地があるっていう意味で、これから情報を入れないで、敢えて自分も初期衝動を楽しむのは、登山にもあってもいい考えなのかなと思いますけど・・・」 (*山のコミュニティサイト)
●でも登っている最中に怪我しちゃったとかもあると思うんです。山はやっぱり危険と隣り合わせっていう印象もあるんですが、リスク・マネジメントは常に意識されていますか?
「そうですね・・・いや、どうなんですかね? っていうか、マイナスのことを考え始めると、きりがないですよね。それは行かない理由にはならないんで・・・もともと登山者とか我々みたいなタイプの人間はおそらくですけど、僕はそうなんですけど、できないとか、やめる理由を探し出したら、いくらでもあるんで、それはもう考えないですよね。
それよりもどうすれば、自分がやりたいことをできるか、どうすれば、自分の登りたい山に登れるか、どうすれば、自分が憧れているルートを越えられるかっていう方向から、ってわけじゃないですけど、そこで何があるのかっていうことはもちろん予想するわけです。その予想をどうすれば、自分の能力で超えられるかっていう方向でしか考えないんで・・・。
ベクトルが常に上に向いているっていうか、それで突っ込んで怪我とかしたりしたらしょうがないんで、もちろんリスク・マネジメントは考えるんですけどでも、それがやめる理由にはならないっていう意味で、“危ないじゃん”って言われると、“うん、危ないよ”って、危ないから考えて、安全を考えて登ります! っていう感じですかね」
100年前の生活!?
※服部さんは横浜の郊外にあるご自宅のほかに、狩猟でよく行くエリアに古民家を手に入れ、2020年から二拠点生活をされています。横浜のご自宅でも自給自足に近い暮らしをされているとのことなんですが、それでは物足りなくて、古民家暮らしを始めたそうです。そのあたりの思いを語っていただきました。
「サバイバル登山って当たり前だけど、お金を使わないんですよね。食料は現地調達、水は流れているし、空気はもちろんタダだし、寝る場所だって別にキャンプ場じゃないんで勝手に寝るわけです。燃料はもちろんタダで、それをやっていると本来生きるのにお金はかかんないじゃんっていう・・・。で、そっちのほうが面白いし、まっとうというか、もともとはこういうことが生きるってことだよな・・・みたいな感じで思っていたので、それを自分の実生活でもやったら楽しいかなというふうに思って・・・。
横浜の家でもストーブは薪ストーブだけ、ニワトリを飼ってっていうことをやってみたんですけど、実際面白い面もある、っていうか面白いので、のちのち狩猟の基地が別に欲しいなと思っていて・・・。
それまでは電車とバスで猟場に行って、獲ったら電車とバスで帰ってきていたんですよ。荷物がすごく重くて、猟場に解体場みたいな拠点があったら、いろいろ楽だなと思っていたところ、山の廃村の中に古民家みたいなというか、完全な廃屋ですけど、まだギリギリ住めるだろうなって家がふたつ残っていて、たまたま知り合いができて、そのうちのひとつを譲ってもらえることになったんですね」
●ずっと誰も住んでなかった家を住めるような状態にするのは、なかなか大変だったんじゃないですか?
「まあ、掃除だけですね。あと水を引くこと。もともと田舎暮らしにちょっと憧れがあって、登山なんてやっているから、そういうのはあったんですけども、実際に廃屋みたいのを手に入れて、現場に寝泊まりしながら掃除をしていて、単なる田舎暮らしを求めていたんではないってことに気がついて・・・まさにその古民家を100年前のまんま使う生活が、自分の力で生きることに近いってことに古民家を見て気がつかされたっていう、こっちを求めていたんだ! って。
だから土間は土間として使う。囲炉裏は囲炉裏として使う。まあ竈(かまど)ですけど、竈は竈として使う。水は水船(*)から引いてくる。これは塩ビパイプ使ってやっているんで現代的なんですけども、あとは本当に昔のまんまにするほうが・・・。 (*飲み水をためておく大きな桶というか箱のようなもの)
100年前に建った家なんで、100年前の生活に適したようにできているんですよね。それが僕の求める自分の力の割合が多い生活なんで・・・。だから古民家と言っても現代風の別荘みたいな感じにするんではなくて、単に掃除して昔の状況、状態を再生すればいいので、掃除は大変でしたけど、特にリフォームとかそういうのはほとんどしてないんで、そんなに大変ではないと・・・」
●古民家暮らしもサバイバル登山の一環っていう感じですね?
「そうですね。登山の一環というか、僕のあり方というか、世界の向き合い方の延長線上に生まれてきたっていう感じですかね」
(編集部注:1年の半分くらいを古民家で過ごしている服部さん、年に数回、ご家族が泊まりに来るとのことですが、普段、生活に必要なこと、例えば薪割りや火を起こしての食事作りなどは全部ひとりでやるので、清々しいけれど、面倒臭いとおっしゃっていましたよ。畑もやっていて、それは面白いとのことでした)
サバイバル登山家の25年後!?
●サバイバル登山を始めて、今年で25年ぐらいになりますかね?
「そうですね。29歳の時に始めたんで、25年ぐらいですね」
●どうですか、サバイバル登山というスタイルの山登りは円熟してきましたか?
「う~ん、サバイバル登山って言っても、やっぱり行ったことないところに行きたいんですよ。もちろん何度も何度も同じところに行っているんですけど、行ったことないエリアがなくなっちゃったのが寂しいっていうのかな・・・」
●ここ数年は愛犬との山旅もあったりしましたが・・・?
「そうです! 犬は面白いっすね」
●山登りのやり方もちょっと変化してきているんですね。
「うん、変化しています。やっぱり、自分の肉体が歳をとってきて、動かなくはなってないですけど、若い時みたいにできることが増えていかないですよね。できることが増えていかないとリスクをかけられないっていうか、できることが増えていかないから新しいことができないんで、その新鮮さみたいなものはないんですよね。
だから自分の肉体にはもう新鮮さがない。そうなると、あんまりいいことかどうかわかんないですけど、獲物とかその世界に新鮮さを求めてしまって・・・獲物は同じことはほとんどないんで、すごくいつでも新鮮です。犬もやっぱり、ちょっと想像つかないんで面白い、いろんなことを教えてもらいました。新鮮なものを見せてもらいましたね」
●誰でも1年にひとつ歳を重ねますけれども、サバイバル登山家 「服部文祥」の、例えば25年後、80歳の時にはこうなっていたいとかありますか?
「いやぁ~死んでいるかもしれないけど、自然環境の近くで活動したり、特に獲物の相手をしていると遠い未来、遠い未来って言っても、2ヶ月ぐらい、まあ1週間でもそうですね。あんまり考えても意味ないから・・・。
徒歩旅行でもそうですね。20キロ以上先のことを考えても、あんまり意味がないんですよね。雨が降るかもしれないじゃないですか。何か別のことが起こるかもしれないんで、だからその場その場で生きていく。いわゆる、狩猟採集民族みたいに半径10キロとか、時間的には1日2日ぐらいのことしか考えなくなるっていうか、考えてもしょうがない、何が起こるかわからないんで・・・。
遠い未来のことを考えると怖くなるっていうか、気分が悪くなるっていうか・・・それまでに超えなきゃいけないものをイメージしちゃうっていうか・・・でも、元気な爺さんで、畑とか狩猟はもう続けてないかもしれないですけど、自分の力でできるだけ、自分の力で生きていたらいいなとは思いますけどね」
☆この他の服部文祥さんのトークもご覧ください。
INFORMATION
山岳雑誌『岳人』に連載していた人気コラムを中心にまとめた本。第一章の「ケモノを狩る」から第二章の「山に登る」、そして第五章の「現代に生きる」まで5つの章に選りすぐりのエッセイが載っています。導入部の「ちょっと長いはじめに」には、服部さんの生い立ちや登山の半生が綴られていて、これも興味深いですよ。物事の本質や生き方、社会のあり方などを問いかけるようなエッセイ集をぜひ読んでください。
モンベル・ブックスから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎モンベル・ブックス:https://webshop.montbell.jp/goods/disp.php?product_id=1991015
2024/12/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「高校地理お助け部」
略して「地理おた部」のメンバーとして活動されている現役の高校の先生「四倉武士(よつくら・たけし)」さんです。
「地理おた部」は「ケッペンちゃん」という、地理を題材にした漫画をオフィシャルブログで展開しているので、ご存知のかたもいらっしゃるかも知れません。
そんな「地理おた部」名義で先頃、新しい本『自然のふしぎを解明! 超入門「地理」ペディア』を出されたということで、 この番組でご紹介することになりました。
きょうは「地理おた部」を代表して四倉さんにどんなメンバーが集まっているのか、そして現役の先生として地理を教える醍醐味のほか、『超入門「地理」ペディア』から、日本の気候的な特徴や地球規模の変動についてうかがいます。
☆イラストレーション:ちまちり、協力:地理おた部/ページ画像・協力:ベレ出版
代表作は「ケッペンちゃん」!
※まずは、気になる「地理おた部」について。どんなことがきっかけで、「地理おた部」が始まったのか、そして具体的にどんな活動をしているのか、お話しいただきました。
「私は本当は専門が歴史関係なんですよ。ただ、高校の地理の先生、社会の先生って日本史、世界史、地理で採用されるので、採用されるまでに地理に触れ合うことが多くて、そのまま地理のほうに自分の進路を変えて、地理を専門にしました。
その際に自分の中で難しいなとか、わかりにくいなっていうところを教材化して、これが本当に合っているのか、ちょっと自信がなかったので、それをインターネットで公開して、いろんな先生に見てもらおうというのがきっかけで始まりました」
●「地理おた部」は、いわゆるサークルみたいな感じなんですか?
「そうですね。私ができないことをできる人たちに・・・私は絵が描けないので、絵を描ける人だとか、私よりも知識がある人にいろいろ協力してもらって作っています」
●メンバーは何名ぐらいいらっしゃるんですか?
「今は私を含めて4人ですね」
●どんなかたがいらっしゃるんでしょうか?
「イラストを担当しているのが、“ちまちり”さんっていうかたで、うちの代表作である『ケッペンちゃん』の漫画を描いています。今回の本の挿絵もすべて彼女が描いています。
あとは、私よりも圧倒的に知識の宝庫である“瀧浪(一誠)先生”っていうかたがいらっしゃいます。1冊目の『ゼロから学びなおす 知らないことだらけの日本地理』っていう本があるんですけど、それは瀧波先生に大変協力していただいて、書いていただきました。
あと、地理をネタにしたお笑い芸人トフィー、たぶん日本にひとりしかいないと思います。元々高校の先生だったんですけど、そこから松竹のお笑い芸人になりまして、今も頑張っているかた・・・多種多様な人が地理おた部のメンバーです」
●ほんと多種多様ですね! 職業もみなさん違いますけど、どうやって知り合ったんですか?
「X、旧Twitterですね。私が教材を発信し、そこから親交があって、いろいろやり取りしていくうちに、この人と一緒だとなんかもっと面白いことができるなっていうことで、私が声をかけて今の形になっています」
●「地理おた部」の活動テーマとか、モットーみたいなものはあるんですか?
「とにかく授業は楽しく、地理を楽しく、わかりにくいことをわかりやすくをモットーにしています。
代表作である『ケッペンちゃん』は、『はたらく細胞』がきっかけになっていて、あれを見て”あ〜なんかこういう漫画を作りたいな”と思って、読んでいるだけで勉強になる、楽しいし面白いし・・・そういう授業で使えるような楽しくてわかりやすい教材を作りたいをモットーに活動しています」
●「地理おた部」のブログでも展開されているケッペンちゃんは、漫画でわかりやすく高校地理を解説していますけれども、ネタとかってどなたが考えるんですか?
「これは全部、私が考えています」
(編集部注:四倉さんによると、地理が「地理総合」という科目になり、選択科目から必須になったため、生徒全員が学ぶことになったそうです。そのため、地理の先生が足りなくなり、専門外の先生も教えることになったとのこと。
このお話をお聞きして、現場の先生は大変だな〜と思ったんですけど、だからこそ、教材になるような地理ネタを発信している「地理おた部」の存在は大きいな〜と思いました)
地理は今を理解できる教科
●今回「地理おた部」として出された新しい本『自然のふしぎを解明! 超入門「地理」ペディア』を拝見しました! 今の地理って世界の国々とか地域の特徴だけじゃなくて、自然環境とか気候の変化、さらには世界の動きまでをも扱う、まさに今の地球を知るための科目なんだなって感じたんですけれども、幅が広すぎますよね?
「そうですね。逆に言えば、きのうやきょうあった事件をそのまま授業の頭で使えたりもするので、台風が来たよねとか・・・だからそれこそ今の世界情勢いろいろ起きているので、起きていることをそのまま授業で使えるところは、やっぱり地理の良さではありますね」
●なるほど、すべて地理につながっているっていうことですね。
「そうですね。なるべく授業の冒頭にニュースや、いろんな出来事を使って、今学んでいることは、まさに今を理解できる教科なんだよっていうことを生徒たちには言っていますね」
●この本では地形、気候、そして環境の3つのカテゴリーに分けて、全部で80のトピックが掲載されています。その中から番組でいくつかトピックをピックアップさせていただきました。
見出しを言いますので、ご説明をお願いしたいんですが・・・まずは「ハワイはいつか日本にやってくる?」という見出しがありました。年末年始をハワイで過ごされるかたもいらっしゃると思いますが、これはどういうことですか?
「要は日本にあるプレートとハワイのプレートが近くて、狭まる関係にあって、プレート同士が近づいているわけですよ。だからだんだんハワイのほうがやってきているっていう形にはなっているんですけど・・・何千万年後とかでもなく、何億年も先なので果てしないんですけども、いずれはなるよっていう話です」
●へ〜〜! いずれは南国のハワイがすぐ近くにあって、気軽に泳いだりとかできちゃうっていうことですか?
「そうですね。でも残念ながら、(日本)海溝があって、そこにハワイは沈むだろうという予測もあったりとか・・・タイムマシンがあったら見られるんですけども、なかなか見ることはできないですね(笑)」
●どれぐらいのペースで近づいてきているんですか?
「1年間に数センチなんですけど、地球の年齢を考えた時に、1年間に数センチだったとしても、何万年とあれば、何キロにもなるわけですよね。だからもう気の長い話ですね。歴史の授業とは桁違いな時間のスパンで動いているので・・・」
日本は世界一の温泉保有国
※続いて、新しい本『自然のふしぎを解明! 超入門「地理」ペディア』に載っているトピックから「温泉大国ニッポン」について。日本は世界一の温泉保有国なんですね。
「そうですね。まず温泉がある国が珍しいのかなっていうところで、火山がないとやっぱり(温泉は)発生しませんし、雨が降らないとどうしても湯の元になりませんし、さらには雨を蓄えるための地盤ですよね。固い岩盤とかがないと水が溜まりにくいので・・・だからやっぱり諸外国を見た時に温泉がある国は少ないですよね」
●ちなみに温泉の数がいちばん多いのは、どの都道府県なんですか?
「数で言うと北海道なんですよね。やっぱり面積が広いからなんですけども・・・。ただ湯の量で考えると、大分が奇跡的な地形になっているらしくて、水が溜まりやすいっていうのもあって・・・実際に大分に行くと学校とかにも、地熱発電の機械があったりするんですよ」
●え~~っ!
「学校に(行った時に)“片隅にある機械はなんですか?”って聞いてみたら“地熱発電です!”っていう・・・不思議ですよね。それぐらいやっぱり大分って恵まれているみたいですね」
●すごいですね~。数が多いのは北海道で、湯の量で言うと大分県なんですね。
「そうですね」
●では続いて、「日本は世界でいちばん雪が積もる国」っていう項目があって驚いたんですけど、ほんとなんですか?
「これは結構、意外に思われると思います」
●はい、思いました!
「雪が降るっていうことは、水蒸気が必要なんですよね。基本的に寒い地域って、そもそも水資源が凍っていたりとか意外と雪が降らなかったりするんですよね。あとは海からものすごく遠かったりとかして、だから(水資源が)凍っているっていう感じなんですよ」
●なるほど~。
「日本って雪が降るすごく奇跡的な地形をしているんですよね。周囲を暖流で囲まれていて、だから海が凍らない。その水蒸気が雲となって、陸地に着いた時に寒さで雪になるっていう形で、だから(本に載せた)データぐらい降っているんですよね。意外ですよね」
●日本より寒そうな国ってたくさんあるイメージがあったんですけど・・・。
「そうですね」
●でも雪が積もる国って考えると、日本が世界でいちばんになるんですね。
「そうですね。だから雪っていうのと、寒さっていうのがどこまでリンクしているかっていうのと、雪ってなんだろうって(考える)きっかけにはなるのかなとは思っています」
●カナダとか雪のイメージがありますけど・・・。
「カナダも海のほうは緯度が高いので、結構、海が凍っていたり、あとは内陸地が水資源から遠くて、そもそも雨が降らない、乾燥しちゃっているっていう地域も多かったりするので・・・」
(編集部注:本に載っている2016年のデータによると、世界の年間降雪量の第1位は青森市で792センチ、2位は札幌市、3位は富山市なんですが、4位のカナダのセントジョンズという街では、年間333センチの降雪なので、青森は倍以上の降雪量なんです。日本は雪がたくさん降る国なんですね)
赤道の「赤」の意味
※続いてのトピック、「赤道の『赤』の意味とは?」、これ、考えたことなかったです。この「赤」の意味って何なんでしょう?
「よく生徒たちも、“赤”って聞くと、なんかあったかいイメージがあったりすると言ってますけど、そもそも古代中国の天文学で使われていたんですよね。太陽が真上を通る地球上の線のことを“赤道”って言っていただけで、だから実は英語にすると“equator line”とか”当分するライン“、だから”red line”って言わないんですよね」
●へぇ~~!
「だから英語にすると意味がわかるっていうか、だからちょうど真ん中だよ! 当分する線だよっていう・・・」
●赤道っていう意味の国家もあるんですよね?
「そうですね。エクアドルがまさにそれで、赤道が通っている・・・だから決して赤っていう意味ではないんですね」
●おしまいは「エルニーニョの意味は”神の子”」というトピックがありました。エルニーニ現象という言葉をよくニュースでも聞きますけれども、改めて用語の由来も含めてどんな現象なのか教えていただけますか?
「エルニーニョっていうのは“神の子イエス・キリスト”っていう意味で、エルニーニョっていうのは、スペイン語で“男の子”を意味するんですよね。
ちょうどクリスマスの時期になると、ペルー沖の海面の温度が上昇して、いつもとは違う魚が大量に獲れて、これは神様の恵みだっていうことで、“エルニーニョ”っていう名前が付いているわけです」
●海面の温度って、なぜ上がるんですか?
「これはちょっと難しいんですけど、南アメリカの近くにはペルー海流っていう南極から来ている寒流、冷た~い水が流れているんですよ。これが貿易風が吹くと、どんどん太平洋のほうに流れていって、(海水を)冷たくしてくれるんですよ。
ところが、この貿易風が弱くなるとどうなるかっていう話なんですよ。弱くなると太平洋に注ぐ量が減っちゃうわけですよね。そのままペルー海流が北上してしまうので、結果として冷たい、ペルー海流の水が太平洋に入らない、温度が上がっちゃう、結果として今までとは違う魚が獲れるっていうことになるわけですね」
●で、海面温度が上がるってことなんですね。
「そうですね。冷たい水が入ってこないので上がっちゃうんですね」
(編集部注:ちなみに、ペルー沖の海面温度が下がることを「ラニーニャ現象」と呼びますが、この「ラニーニャ」は女の子という意味だそうですよ)
今見ている光景に名前が付く!?
※改めて思ったんですけど、地理を学ぶと、普段見ている景色が違って見えそうですね?
「そうですね。授業で習ったことが(学校の)帰りの道で見えるようになってほしいなって思っています。自然堤防とか微高地になっているとかを聞いた時に、家路で、”あれ? 自然堤防じゃない?”とか・・・。
浜堤(ひんてい)っていうのがあるんですけど、海の近くにちょっと高くなっているところがあるんです。海岸沿いにたまに高くなっているところ・・・それを浜堤って言うんですけど・・・。“あっ! これが浜堤か!”みたいな感じで、地理を学ぶことによって、今見ている光景に名前が付いて見えるようになるのは、地理の楽しみでもあるかなとは思っています」
●現役の高校の地理を教える先生として、どんなことを大切にされていますか?
「いちばんは、学ぶってものすごく楽しいことなんだっていうところですね。地理って意外と知らなかったことをものすごく学べる教科ですので、学んだことをそのまま現実世界に活かしたりとか、ニュースが少しでもわかるようになったりだとか・・・。
遠足とか修学旅行に行った時に、“あっ! 先生、これ、あれでしょ?”って生徒が言えた瞬間は、教えていてよかったと思いますね。
ほかにも卒業していった子たちがgoogleアースを使って家を探してみたりだとか、仕事で役立てたりだとか、何か自分たちのスキルアップになる教科だなって思っているので、楽しくそして自分を高める教科だと思って、いつも教えています」
●では最後に「地理おた部」としての今後の目標ですとか、新たに取り組みたいことがあれば教えてください。
「はい、やりたいことはいっぱいあって、今の目先はやっぱりケッペンちゃんをどうにかこうにかしてアニメにできないかな~だとか、V-tuber化してもっとわかりやすく、もしくはAIを使って、ケッペンちゃんが地理を教えるコンテンツを作るだとか・・・。
今、地理が必須化されて、先生たちのほうが困っているんですよ。専門じゃない先生たちが教えなきゃいけない。専門じゃない先生が無理やり教えたことを聞いた生徒たちはもっと可哀そうなんですよね。
なので、そういう人たちみんな、先生も生徒も助けられるようなコンテンツ、この動画を見たら、とにかくわかる!とか、わかんなかったらこの漫画を読む!とか、“地理って楽しいよね!”“面白いよね! わかりやすい!”っていうような教材をこれからもどんどん作っていこうと思っています」
INFORMATION
「地理おた部」の新しい本をぜひチェックしてください。「地形」「気候」「環境」の3つのカテゴリーにわけて、全部で80のトピックをそれぞれ見開き2ページで解説。気になる見出しから読めますし、イラストや写真がたくさん載っているので、とてもわかりやすいですよ。地理や自然の基本が学べる入門書、おすすめです。ベレ出版から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版:https://www.beret.co.jp/book/47704
「地理おた部」のオフィシャルブログもぜひ見てください。4コマ漫画「ケッペンちゃん」もチェックしてくださいね。
2024/12/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、タレントの「松本明子」さんです。
松本さんは、香川県高松市出身。1982年にテレビ番組「スター誕生!」チャンピオン大会に合格し、それを機に歌手デビュー。その後はバラエティ番組などで人気者となり、バラドルの元祖としても知られていますよね。
そんな松本さんの趣味が山登り。現在アウトドア雑誌に連載を持つ、そんな一面も注目されています。
松本さんが山登りを始めたのは、ある舞台に出演されたときに膝を痛めてしまい、それから運動をしなくなり、どうしたものかと悩んでいたそうです。そんなとき、ママ友や同級生から、運動しないのは健康にもよくないので節約家の松本さんにぴったりの、お金をかけない遊びとして、ハイキングや山登りを勧められたことがきっかけだったそうです。松本さんのYouTubeチャンネルを拝見すると、冬山に行くほど、のめり込んでいらっしゃいます。
きょうはそんな松本さんに趣味の山登り、それがきっかけで始めた軽自動車のキャンピングカー・レンタカー事業のほか、芸能界でも節約家として知られる松本さんに台所の大掃除に大活躍する「あるもの」の活用法についてもうかがいます。
☆写真協力:ワタナベエンターテインメント、オフィスアムズ
心に決めた瞬間!?
※初めての山登りは、どこに行かれたんですか?
「初めて登ったのは2019年の11月ぐらいだったと思います。いちばん最初は神奈川県にある大山(おおやま)っていう山を選びました。電車に乗って登山口までバスに乗り継いで行って登ったんですね。ケーブルカーはあるんですが、早朝から登ったので、まだケーブルカーも動いていない時間、5時半とか6時ぐらいから登ったと思います」
●標高1200メートルを超える山ですよね?
「結構高かったです。お仕事で新幹線に乗るときに、いつも車窓から大山が見えていて、大きくてすごく素晴らしい山だな〜と思って、いつか登れたらいいな〜なんて思っていたんです。いつも新幹線で見ていたので、大山を選んで登ったんですけど、結構石段もハードで・・・で、中腹に神社があるんですね。その神社の脇の道からまた鬼の石段がずーっと続いていて、そこから山道に入っていくんですね」
●膝は大丈夫だったんですか?
「膝をかばいながら、恐る恐る登ったんですけど、結構ハードでしたね。その時に偶然、知っていらっしゃるかたも多いと思うんですけど、百名山を走って登っているランナーのかたがいて・・・田中陽希さんって言ったかな・・・? そのかたがカメラマンのかたとふたりだけなんですけど、颯爽と走って登って動画を撮っていたんです。それをYouTubeとかにあげていらっしゃるかたで、何回も日本中の百名山を制覇しているかたなんですよ。
そのかたがカモシカのように、私の横を颯爽と駆け上がっていくっていう、そのすれ違いのシーンもあったんです。私はもう必死で登ったんですが、やっとの思いで山頂に出た時は、達成感とその絶景を見た感動とで、山登りっていいな、これを本当に趣味にして自分のペースでいいから、少しずつ登れたらいいなっていうのを心に決めた瞬間でしたね」
(編集部注:松本さんは仕事柄、先の予定が立てられないので、山に行くのはいつも急だそうです。翌日が休みだとわかると、天気予報とにらめっこしつつ、山のガイドブックを見ながら、どこの山に行こうか、体力や体調と相談しながら、初心者や女性でも登りやすい、おもに東京近郊、そして、ちょっと足を伸ばして甲府や山梨方面の低山を選ぶことが多いそうです。頂上から富士山が見えたら最高ですよね、とおっしゃっていました)
五感が磨かれた運命の山
※その後、登った山の中で、強く印象に残っている運命的な山があったそうですよ。
「これね、唐松岳(からまつだけ)という山なんですけれども、標高約2700メートル、もう自分の中では本格的な登山。早朝5時台から登ったんですけど、最初、小雨が降っていて、うわ〜これ、先が思いやられるな、せっかく来たのに雨なのかと思って、がっかりきていたんです。
まずはリフトに乗るんですね。ふたり掛けのスキー場にあるようなリフト、それにふたつ乗るんです。一回乗って、もう一回ふたり乗りのリフトに乗り換えていくんです。でもずーっとリフトに乗っている間、小雨なんですよ。寒くて、うわ〜これ、ちょっと天気選び、失敗しちゃったなと思って後悔していたんですけれども、標高2700メートルですから、どんどん登っていくうちに雲を突き抜けちゃうんですよ。
そうすると、右のほうの眼下には八方池っていう、とても素晴らしい池があって、白馬岳が鏡のように映るんですよ。そういうのを見下ろしながら、ずーっと登っていって、もう雲の上まで行きます! そうすると、標高が高くなると樹木が生えてこないんですよね、高すぎて・・・。草木があったのがだんだん見えなくなってきて、笹になっていくんですよ、植物が・・・。その笹を通り越すともう岩なんです。植物は生えない、高すぎて・・・。
で、カンカン照りで、暑くて暑くて、9月くらいに登ったんですけれども、真夏で、サンサンと太陽を浴びているのに雪渓が見えるんです。上のほうの山にはまだまだ雪が残っているんですよね。なんか不思議な光景でしたけれども・・・。
どんどん登って、山頂にやっとの思いで着いた時は、迫り来る周りのアルプスの景色、壮大な景色で濃い緑色の山がこちらに迫ってくるような感じがして、それはそれは感動的、達成感もあるし絶景の感動もあるし・・・。山に登って壮大な景色を見ていると、なんかきのうまで気にしていたこと、”私の悩みごとなんかちっぽけなんだな、ホコリみたいなもんだ、私の悩みなんて”っていうふうな、大らかな気持ちになれるというか・・・。
あと、時間に追われて暮らしている都会の生活の中で、忘れかけていた五感っていうんですかね、土に触れた触感とか、山の匂いとか、山の音とか、小鳥たちのさえずりとか、雲の流れを見ていて、視界がすごく透き通って晴れやかに見えたりとか、五感が磨かれるというか、そういうのも感じましたね。すごくよかったです〜」
「もったいない」から始まったレンタカー事業!?
※お話にあった、北アルプスの唐松岳は東京から直ではなく、前乗りして泊まってから向かったそうです。実は、この時の経験がレンタカー事業につながったそうですよ。
「やはり前の日に松本市に入ってビジネスホテルをとって、宿泊代もかかるし、松本市までの列車代もかかるんですよね。で、結局、登山口まで行くのに、バスもないので、前の日から駅前でレンタカーを借りて、結構お金がかさばっちゃって・・・」
●確かにそうですよね〜。
「お金のかからないレジャーということで選んだのに、長野県の標高が高い山に登ろうとすると、結構お小遣いがかかっちゃうなと思って・・・これはやっぱり私の信条ではもったいない! なんとか交通費と宿泊費を一緒くたにできるような、なんか面白いことはないかな〜と思ってずーっと考えていたんですね。
で、よし、これは車中泊ができる、女性でも運転しやすい、初心者でも私でも運転できる、小回りのきく、大きいキャンピングカーじゃなくって、小ぶりのかわいい軽自動車で車中泊ができるような車があったら、一石二鳥でいいな〜と思ってずーっと探していたんです。
そしたら出会いがありまして、よし、これは自分で乗ろう、いやいや自分で乗るだけではもったいないな、これは山ガールの女の子たちにも乗ってもらえたら、喜ばれるんじゃないかと思って、レンタカーを始めよう! っていう考えがどんどん転換されちゃって、それでひらめいてしまって、すぐ事務所の社長に直談判に行って、こういうことで私の夢なんです、事業を始めさせていただけないでしょうか、ということでお願いをしました。
で、ひとりキャンパーで有名な芸人のヒロシさんにも電話をして、”こういうふうに考えているんだけど、どう思う?”って聞いて、”いいじゃないですか〜!”って言われたんですね。で、やっぱり日本の山となると、山梨の甲府の駅前か、長野の松本の駅前でレンタカー店を出したほうがいいのかな〜って思って、考えを言ったんですね。そしたら、”ぜひとも、経費はかかるかもしれないけれども、絶対に都内でやってください”というふうにヒロシさんから背中を押されて・・・。
(自動車の)免許は持っているんだけれども、山登りに行きたいんだけれども、車を持てない、駐車場代を払うのがもったいないっていう大学生とか、若いカップル、若い夫婦のためにも、そういうレジャーを気軽に楽しんでいただけるように都内でやってください! って背中を押されて、よし、じゃあ近所でやろうっていう考えになっちゃったんですよね〜」
(編集部注:そんな経緯で始めた軽キャンピングカーのレンタカー事業、レンタカー店「オフィスアムズ」のオープンは2021年3月。開業するまでは、運輸局などの許認可を取得したり、レンタカー事業を行なっている会社に、フランチャイズ化のお願いに行ったりと、準備におよそ半年かかったそうです。
「オフィスアムズ」が保有している軽キャンピングカーは、いずれも専門の会社がカスタマイズした、オシャレで可愛い軽キャンばかり。アメリカンスクールバスをイメージした、イエローやミントグリーンにペイントされた軽キャンのほか、荷台に幌(ほろ)タイプのテントがある軽トラなど、どれも魅力的です。ぜひオフィシャルサイトでチェックしてみてください。
☆オフィスアムズ:https://officeams.com
車種によっては女性のために、女優ミラーライト付きのドレッサーやミニテーブルを装備しているそうですよ。また、レンタル・グッズも充実していて、車中泊用のセットのほか、テントや寝袋、ランタン、焚き火セット、さらには照明や充電用のバッテリーなども完備しています。
運営は松本さんと、もうひとり、長年専属ドライヴァーを務めている方と一緒にやっていて、松本さんも芸能界のお仕事がないときはお店にいて、車の掃除・点検、電話の応対などを行なっているそうです)
※開業して3年半が経ち、お客様の傾向も変わってきているそうですよ。
「今年はお陰様で、インバウンド効果で外国人のお客様が結構多く利用されています。英語のホームページもありますので、それを見て海外からネット予約をしてくださるんですよ。松本明子なんて全く知らないかたが、外国人のかたがいらしてくれています。
日本人のかたと外国人のお客さんと全然違うのは、日本人のかたって働き者なんですよ。やっぱり仕事が第一優先で、仕事の合間にレジャーを楽しむっていうことで、1泊とか2泊とかされるかたが主流なんですけれども、外国人のお客様はドカーンと2週間バカンスとか、長く日本でレジャーを楽しむんだっていうことで、1ヶ月間、車を借りま~す! みたいなお客様がいます。“布団を貸してください!”って、車中泊しながら日本全国、京都に行ったり富士山を見たり、九州に行ったりとか北海道に行ったりとかっていうお客様が増えて、ありがたいな~と思っていますね」
もったいない精神〜油汚れにティーパック!?
●ではここからは、松本さんが去年出された本『この道40年 あるもので工夫する 松本流ケチ道生活』から、年末の大掃除に向けてヒントになるお話をうかがっていきたいと思います。
「ありがとうございます」
●松本さんは芸能界で倹約家としても知られていますけれども・・・。
「そうなんです(笑)。私が香川県の出身で、雨が降らない県なんですよ。県民性というか教育というか、とにかく小さい頃から家族とか学校の先生に“節水して! お水を使うのはもったいないから!”っていうことで、水とかペーパーとかは絶対捨てちゃいけない、大切に使うんだっていうのをずーっと親から言われ続けて、学校の先生からも言われ続けて・・・香川県のみなさん、みんな節約家というか倹約家というか、そういうもったいない精神の塊ですね」
●小さい頃から根本にもったいない精神があったんですね~。
「はい! そうなんです」
●この本を読ませていただいて、節約のために仕方なくっていうよりは楽しみながら、いろいろ工夫されているんだなっていうのがすごく伝わってきました。
「ありがとうございます、楽しんでやっています!」
●アイデアを出すのも、すごく楽しまれているんだなと感じたんですけれども、実際にお掃除のヒントになるお話をうかがっていきたいと思います。
まずは出がらしのティーパックが油汚れの救世主、なんですね?
「そうなんですよ!」
●使い終わったティーパックを取っておくんですね?
「そうなんです。使い終わったティーパックを捨てずに取っておくんです。いつも流し台のところにもたくさんストックがあるんですね。私は割とコーヒー派なんですけど、主人とか息子は紅茶党なんですね。なので、毎朝ミルクティーを飲むんですけれども、その出がらしのティーパックを捨てずに取っておく。そうすると炒め物をしたフライパンの油汚れとか食器とか、いきなり洗剤をつけたスポンジで洗うと、スポンジがヌルヌル、ヌメヌメになっちゃって長く使えないんですよね。
もうそれが嫌で嫌で、許せなくて、なんかいいアイデアはないかと思って、新品のティッシュペーパーで油汚れを取るためにぬぐうのも、もったいないと言えばもったいなくて、なんとか捨てるものでできないかなと思って考えていたら、そうだ! 出がらしのティーパック、これでひと拭きしたらどうだろう! と思ってやったのがもう20年前ぐらいなんですけど、消えるんですよ、油が!」
●へ~~っ!
「もうね、9割がた取れます、フライパンの油汚れや食器の油汚れが・・・。なので、スポンジに洗剤をつけて洗う前に(ティーパックで)一拭いしていただけると・・・。これ、紅茶の葉の成分も油汚れを分解するっていう科学的な、理にかなった展開がちゃんと証明されていますので・・・」
●いや~捨てていました(苦笑)
「ぜひとも参考に! もう騙されたと思ってやってみてください」
●すぐに試したいと思います!
セーターをたわしに!? 日焼け止めクリームが大活躍!?
※松本さんの本には、ほかにも「着古したセーターをほどいてアクリルたわしに」というアイデアが載っていました。これは何か、コツのようなものはありますか?
「これはね、高級な毛100パーセントの(お値段が)高いセーターじゃないほうがいいです。できればアクリルが何パーセントか入っている毛糸、もう着なくなった手編みのセーターなんかを全部ほどいて、カギ編みでいいです。もう適当な編み方でいいです。
それで油汚れを拭い取ると、アクリルっていう性質が油を吸収するんですって、この繊維の中に・・・。これでもうほとんど洗剤はいらないです。洗剤もいらないし、地球の環境にも優しいし、これもぜひとも、おすすめですね。アクリルたわしも適当なカギ編みをして(台所に置いて)ありますね」
●なんかカラフルですごく可愛いたわしですよね~。
「そうです、そうです! 見た目にも華やかで」
●あと、余った日焼け止めクリームは掃除アイテムにということで・・・。
「そうなんですよ!」
●日焼け止めクリームって余りますよね。
「ひと夏で使い切らないんですよね。お子さんがテーブルとか床とかにちょっと書いてしまったマジックの汚れ、それを使いきれなかった日焼け止めクリームを塗ってティッシュで拭くと、綺麗に」
●取れるんだ・・・。
「油性のマジックが取れちゃうんですよね~! あとね、ハサミの・・・ネバネバ、粘着がちょっと引っ付いちゃって、ノリのところをハサミでカットしたところに、ネバネバが付いちゃった刃の部分、あれを使い切らなかった日焼け止めクリームを塗ってティッシュで拭くと、あら不思議! 綺麗に取れます!」
●へえ~! すごいです、ほんとに!
「これ、いいですよね~。だから捨てずに、何かに利用してみていただきたいと思います」
(編集部注:ほかにも、歯ブラシだけじゃなく、歯間ブラシを隙間の掃除に再利用しているそうです。ぜひご参考に)
元気の源はレジャーから
●お金を節約する山登りから生まれた軽自動車のキャンピングカー・レンタル事業、実際、松本さんも軽キャンピングカーを使って、山登りに出かけていらっしゃるんですよね?
「はい! そうです」
●やはりキャンピングカー・ライフは楽しいですか?
「そうですね。自由ですし、キャンプの達人ではない私でも、自然に触れるというだけで、自分の心の栄養になりますし、明日また元気になれる、心に栄養をもらえるのがやっぱりアウトドアであり、山登りかなというふうに思いますね」
●どんなところに喜び感じますか?
「ほんとに適当にお弁当を持っていくんですよね、お昼ご飯とかも・・・やっぱり景色を見ながらお弁当を食べると、本当に笑顔になれるというか、体も栄養! 心も栄養! 食べて美味しい! お金もかからない! っていうことで楽しくなりますね(笑)。毎日が元気になります。私の元気の源はそういうレジャーから来ているのかもしれないですね」
●松本さんのレンタカー店「オフィスアムズ」で軽キャンを借りたいなと思ったら、どのようにしたらよろしいでしょう?
「ぜひとも、ホームページでネット予約ができます。すぐ予約もできますので、なんでも相談事があれば、言っていただきたいと思います。それに全面協力しますので・・・あと、記念写真をいつもお客様のスマホで撮っています」
●松本さんと!?
「大学生とか10代、20代は、“店員さんとこんなサービスがあるんですか(笑)”ってよく言われるんですけど、40代、50代のお客様には喜んでいただけます!」
●そうですよ~、松本さんにお会いできるなんて~。
「いえいえ~、元気にお店でスタンバっていますので、ぜひともおしゃべりをしに来てください!」
●ありがとうございます!
INFORMATION
松本さんが運営する軽キャンピングカーのレンタカー店「オフィスアムズ」の軽キャンをぜひご利用ください。オシャレで可愛い軽キャンがそろっていますよ。また、装備やレンタル・グッズも充実しています。お話にもありましたが、松本さんがお店にいるときは、記念写真を撮るサービスも行なっているとのこと。
レンタカーの利用料金など、詳しくは「オフィスアムズ」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎オフィスアムズ:https://officeams.com
松本さんが去年出された本には大掃除のヒントになるアイデアや、日頃の節約につながる特に主婦には役立つヒントが満載です。ぜひ読んでください。アスコムから発売中。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。
◎アスコム:https://www.ascom-inc.jp/books/detail/978-4-7762-1290-4.html
2024/12/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、公益財団法人
「宮城県 伊豆沼(いずぬま)・内沼(うちぬま)環境保全財団」の研究室長
「嶋田哲郎(しまだ・てつお)」さんです。
宮城県北部にある「伊豆沼・内沼」は、毎年たくさんのガンやカモ、ハクチョウ類が飛来する国内有数の越冬地で、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」通称「ラムサール条約」に登録されています。
千葉県市川市出身の嶋田さんは働きながら、「マガンの越冬生態と保全」というテーマで論文を書き、博士号を取得。縁あって、研究者を探していた財団に勤務することになったそうです。
「宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団」は1988年に設立された公益財団法人で、沼の自然環境の保全や研究、そして環境教育などの啓発活動を実施。普段はガンやカモなど、水鳥の個体数のモニタリングや外来魚の駆除なども行なっていらっしゃいます。
現在、嶋田さんは伊豆沼・内沼にやってくるハクチョウを調査する「スワン・プロジェクト」に力を入れています。いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。
☆写真協力:宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団
渡り鳥たちが安心して暮らせる越冬地
※まずは、宮城県北部にある伊豆沼・内沼について。沼自体はどれくらいの大きさなんですか?
「面積は559ヘクタール、東京ドームでいうと110個分ございます」
●おっきいですね~。
「はい、周辺は農地に囲まれています。(沼は)いちばん深いところで1.6メートルというとても浅いって特徴があって、広くて浅い、そういう地形をしています。浅いので、夏になりますと沼一面にハスが咲くんですね。ハス祭りなども開催されています」
●そちらの財団のホームページを見ると、この伊豆沼・内沼は、秋から冬に極東ロシアからやってくるガンやカモ、そしてハクチョウなどの貴重な越冬地と書かれていました。ほかにも越冬する場所はたくさんありそうな気がするんですが、どうしてこの伊豆沼・内沼にやってくるんでしょうか?
「人も食住というのが大事なように、実は鳥も同じなんですね。伊豆沼には10万羽ほどのマガンですとか非常に多くの鳥が来ます。マガンは沼周辺の農地で、稲刈り後の田んぼに残っている落ちもみを食べています。また、ねぐらとなるこの伊豆沼は凍りにくい特徴があって、天敵となる哺乳類が入って来にくいんですね。そのため安全です。ですので、食もあり安心なねぐらがある、食住が安定しているということが理由で、たくさんの鳥が集まってきます」
●渡り鳥たちは毎年いつ頃やってきて、いつ頃までいるんですか?
「9月の下旬頃に初雁(はつかり)と言って、最初のマガンの初飛来があって、それからどんどん数が増えていきます。だいたい2月上旬には北帰行(ほっきこう)と言って北へ帰る、そういった動きが始まります」
●毎年どれぐらいの数の渡り鳥たちがやってくるんですか?
「年によっても少し異なるんですけども、伊豆沼・内沼ではマガンなどのガン類が10万羽ほど、ハクチョウ類で3000羽、カモ類で4000羽ほどが越冬しています」
●すごい数ですね。そんなにたくさんだと、渡り鳥たちの食べるものとかなくなっちゃうんじゃないかなって心配になっちゃうんですが・・・。
「沼周辺には非常に広大な農地があって、そこにはたくさんの落ちもみがありますし、実はオオハクチョウはレンコンを食べています。先ほどのハス祭りの後に、ハスが枯れて地中にレンコンができます。それを食べていて、そういったいろんな食物が豊富なので、これだけ多くの鳥を支えていると思います。
鳥というのは、生態系の食物網の頂点にいる生き物です。つまりこれだけ多くの水鳥がいるということは、それを支えている植物や魚類を含めた生態系が豊かなことを示しています。最近では特にオオクチバスの駆除による保全の成果が見られてきまして、沼の魚が回復してきています。
また、沈水植物といった水の中に生える植物も増えてきていますので、生態系が回復してきています。こういったことも鳥たちの生活に大きく貢献していると思います」
カメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」
※ここからは現在、嶋田さんが進めていらっしゃる「スワン・プロジェクト」についてうかがっていきます。まずはどんなプロジェクトなのか、教えてください。
「このプロジェクトは2023年12月に始まりました。我々の財団ですとか、中国のドルイドテクノロジーといった会社を中心に始まったプロジェクトで、カメラ付きのGPSロガー、通称『スワンアイズ』と呼んでいますけども、それをオオハクチョウ10羽、コハクチョウ10羽に装着して追跡しています。
これまでなかった最大のオリジナリティが、カメラによってハクチョウ目線の画像を見られるってことです。そして位置情報とか画像を一般公開しています。市民のかたがそれを見てハクチョウを見守ろうという、そういった国際共同プロジェクトです」
●野鳥に認識番号付きの足環を付けたりとか、発信器を付けたりするのは聞いたことがあったんですけど、カメラ付きっていうのは画期的ですよね。
「カメラ付きGPSロガーっていうのは、たぶん世界初だと思います」
●重くないんですか?
「これはちゃんと計算しておりまして、GPSを中心にふたつの小型カメラがついていて、カメラの全体の重さは130グラムです。この重さはオオハクチョウの体重の2%以下ということになっていて、とても軽量なんですね。鳥の行動に影響しない重さで作られています」
●負担はそんなにない感じなんですね。
「はい、ほぼないです」
●(スワンアイズは)自然に外れるものなんですか?
「そうですね。やはり野外でずっと使っているものですので、劣化してだいたい2〜3年で脱落することになっています」
●ハクチョウにカメラ付きのGPSロガー「スワンアイズ」を付けるためには、捕まえる必要がありますよね? どうやって捕まえたんですか?
「なかなかこれが簡単ではないことなんです。オオハクチョウは水と一緒に食物を食べる、漉(こ)しとって食べるので、水があるところが食べやすいんですね。ですので、農家さんのご協力をいただきまして、田んぼをお借りして、そこに水を張ります。そして1ヶ月前から餌付けをするんです。餌付けをしてハクチョウを集めておいて、集まってきたところを網で被せて捕まえるってことをします」
●へぇ~、でも大きい鳥ですから、なかなか大変ですよね?
「大変です。本当に大変です。翼を広げると2.4メートルありますし、体重も10キロ、結構重いんですよ。本当に捕獲作業は泥だけになって、オオハクチョウと格闘しなければなりません」
●格闘の末にカメラを付ける作業になりますけれども、ハクチョウのどこに付けたんですか?
「首です。首についていますので、本当にハクチョウの、若干目線が下がりますけど、ハクチョウ目線に近い形で(撮られた)画像を見ることができます」
●なんか蝶ネクタイみたいな感じですよね。
「はい、そうです」
●捕獲してスワンアイズを付けるということですけれども、許可は得ているんですよね?
「もちろんです。これは環境省にちゃんと申請をして許可証をもらった上でやっています。また農地は私有地なので、当然その農地のかたに許可をもらってやっていて、全て手続きを済ませた上で実施しています」
ハクチョウ目線の画像に感動!
※「スワン・プロジェクト」のサイトを見ると、ハクチョウそれぞれに名前を付けていますよね。それはなにか意図があるんですか?
「このプロジェクトは、樋口広芳(ひぐち・ひろよし)*先生に顧問になっていただいているんですね。樋口先生はこのスワン・プロジェクトの10年前に、実は“ハチクマ”という鷹の位置情報を一般公開する『ハチクマ・プロジェクト』をやっておられるんです。先生からのご助言で、“愛称をつけたほうが市民に親しみが湧くんです”というアイデアをいただきまして、それでそうさせていただいたんですが、まさにその通りでした!」
(*鳥類学者。東京大学名誉教授。当番組にも出演)
●確かに愛着が湧きますよね! スワンアイズからは、定期的にデータが送られてくるっていう仕組みなんですか?
「そうです。携帯電話通信を用いているんですけども、それで位置情報が1日6回、画像が1日4回取得されて、定期的に送られてきます。少しタイムラグがあるんですけども、ほぼリアルタイムで位置情報とか画像を見ることができます」
●送られてきたデータで、これまでにどんなことがわかってきたんでしょうか?
「やはり位置情報と画像がセットになっているので、ハクチョウがいつどこで何をしているかっていうのが非常によく理解できます。レンコンを食べているとか、田んぼにいるとかっていうこともわかります。それから、飛んでいる画像がありますので、飛行場所の特定できるんですね。どう飛んでいるかっていう、そういったこともわかります。
さらには、当然ハクチョウは群れで暮らしていますので、同じハクチョウの仲間ですとか、同じガン科の仲間を(カメラが)写します。そうすると、ほかの種や、ほかの個体も映るので、時期とか地域に応じて、異なる鳥同士の関係性が見えてきます。非常に面白いです!」
●ハクチョウが見た景色を画像で見られるってすごいですよね?
「はい、私もやってみて、こんなにすごいとは思ってなくてですね・・・私自身が感動しているところがあります。きっとそれを見ている多くの市民のかたも感じておられると思います」
●私も見せていただいたんですけど、雄大な自然の中を飛んでいる時の画像がありましたよね?
「あれはびっくり! びっくりです!」
●すごいですよね~! ハクチョウの羽も映っていますし、一緒に飛んでいる6羽の仲間たちも映っていて、本当に感動しました!
「なかなか見られないですよね! 私も感動しました!」
●すごい写真ですよね~。実際、最初に送られてきた写真を見た時は、どんなお気持ちでした?
「思わず声が出ましたね! おぉ~って!(笑)」
●人間じゃ撮れない写真ですからね~。
「そうです! その通りです!」
一般のかたも追跡調査!
※嶋田さんが進めている「スワン・プロジェクト」のサイトにアクセスすると、どなたでも、ハクチョウの位置情報や画像が見られるようになっています。このプロジェクトには、一般のかたも参加できるんでしょうか?
「はい、もちろんです。そのためにX、旧twitterでスワン・プロジェクトを立ち上げています。Xでは、“スワン・プロジェクト”と検索すると、そこのページに行くんですけれども、多くのかたが位置情報を頼りにハクチョウを探しに行っています。探しに行って写真を撮って、その写真を投稿いただいたりとかしているんですね。
そういったことは観察記録にもつながってくるんです。ですので、多くの市民のかたに関心を持っていただいて、近くにいれば行っていただいて、写真を撮って投稿いただくっていうのは、非常にありがたい話です」
●「スワンアイズ」をつけたハクチョウを見つけました! っていうふうに、Xに写真を投稿するのは積極的にやってほしいっていう感じですか?
「できればやってほしいです。というのはハクチョウ目線の写真はわかるんですけど、全体像がわかんないんですよね、逆に言うと・・・。それを撮っていただくことによって全体像、こういう田んぼにいるんだとか、こういうところにいるんだっていうのがわかるので、とても助かるんです」
●カメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」をつけたオオハクチョウたちは、いずれは(越冬を)終えて極東ロシア方面に戻っちゃうんですよね。戻っちゃったらこのデータっていうのはどうなるんですか?
「携帯電話通信を使っていますので、当然圏外だと通信できなくなります。北へ戻ってロシアの繫殖地にいると当然、通信網がないので一定期間通信できなくなります。今年の場合で見るとだいたい6月から9月までは一切通信が入ってきませんでした。だけども日本に帰ってきて携帯電話通信網に入ればまた回復します。そうするとそれまでの間のデータが全部取得できるんですね」
●なるほど・・・。
「それによって、ロシアでの素晴らしい繁殖地の景色なども見ることができました」
鳥の世界を楽しんで!
※去年から始まった「スワン・プロジェクト」、今後はどんな展開になりそうですか?
「今年も(オオハクチョウなどの)捕獲と装着をやります。このスワン・プロジェクトに関心を持っていただくために、捕獲地なども少し広げたいと思っていますし、これからも続けていきたいなと思っています」
●今後、何年ぐらい続ける予定ですか?
「そうですね・・・まず今年はやります! 今年の様子とか去年の装着した状況とか、今年これからやることは状況を見ながら、いろいろ検討していきたいと思います」
●この「スワン・プロジェクト」でどんなことを伝えたいですか?
「お陰様でXの投稿数ですとかフォロワー数が増えているんですね。これは多くの市民の方に関心を寄せていただいているからだと思っております。位置情報や画像をもとに多くの市民の方がハクチョウを追跡して、Xに投稿していただいている、こういったことは鳥に関心を持つことにつながりますし、または生態の面白さの気づきになると思うんですね。ゆくゆくはそういった研究につながっていって、鳥の世界をお楽しみいただければなっていうふうに思っています」
INFORMATION
「スワン・プロジェクト」にぜひご注目ください。オフィシャルサイトにアクセスすると、ハクチョウに装着されたカメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」から送られてくる位置情報や画像を見ることができます。
また、嶋田さんもおっしゃっていましたが、一般のかたも調査に参加することができます。特に東北や北海道にお住まいのかたは、位置情報を頼りにハクチョウを探して、その個体がいるフィールドの写真を撮って投稿いただくと、観察記録になるということですので、ぜひご協力をお願いします。
◎スワン・プロジェクト :https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/
◎スワン・プロジェクト「 X」アカウント:
https://x.com/swaproj?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
「宮城県 伊豆沼・内沼 環境保全財団」のサイトもぜひ見てくださいね。
◎http://izunuma.org
嶋田さんは3年前に緑書房から『知って楽しいカモ学講座』という本を出されています。ぜひチェックしてください。
2024/12/1 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、漁港で魚の赤ちゃん 幼魚を、網で採って研究されている岸壁幼魚採集家の「鈴木香里武(すずき・かりぶ)」さんです。
金髪に白いセーラー服というトレードマークの香里武さんは、魚の研究者、経営者、プロデューサー、タレント、番組パーソナリティ等々、幅広い分野で活躍中。
そんな香里武さんに、漁港で採取する幼魚や、館長を務めている「幼魚水族館」、そして先頃出された本『水の世界のひみつがわかる! すごすぎる 海の生物の図鑑』から、変態するお魚、農業をするお魚など、魚に関連する面白いお話をたっぷりうかがいたいと思います。
☆写真協力:鈴木香里武、幼魚水族館、KADOKAWA
名付け親は「明石家さんま」!?
●今週のゲストは、岸壁幼魚採集家の鈴木香里武さんです。鈴木香里武さんは先頃『水の世界のひみつがわかる! すごすぎる 海の生物の図鑑』という本を出されています。後ほどそのお話もうかがいます。よろしくお願いいたします。
「よろしくお願いします。ごきげんようぎょ! これを言わないと始まらない(笑)」
●ごきげんようぎょ!(笑) よろしくお願いいたします! まずはプロフィール的なお話から。どうしても気になるのでお聞きしたいんですが、鈴木香里武さんというそのお名前は本名でいらっしゃるんですか?
「はい! 芸名だとよく思われるんですけど、これ本名なんですね。“スズキ”も魚の名前ですよね」
●確かにそうですね~!
「“香里武”がカリブ海からとられた名前で、3月3日生まれの魚座なので、全部揃っているという(笑)、作ったような話なんですよね」
●海のために生まれてきたみたいな感じですよね!
「ちなみに“香里武”って名前をつけてくださったかたも、魚にまつわる人なんですよ」
●どなたなんですか?
「明石家さんまさん! “さんま”、やっぱり魚ですね!」
●え~~〜っ! どういう経緯で?
「これは、うちの両親が当時さんまさんに仕事ですごくお世話になっていまして、(両親が)新婚旅行でカリブ海に行ったんですね。そのお土産を持って、さんまさんのところにお届けに行った時に、子供の話が出たらしくて、“名前はどうするんだ?”みたいな話が出たと・・・。
両親は海が好きなので“、海にまつわる名前をつけたいです!”って言ったら、さんまさんなりにいろいろ考えてくださるわけですね。“オホーツク”とか“エーゲ“ “カスピ”とかいろいろと出るわけです。でもふと(さんまさんが)思い出して “カリブ海に行ったんやろ? だったらカリブでええやん“って、その”ええやん“の一言で決まったのが僕の名前でございます」
●そうだったんですね~。名付け親は、さんまさんだったんですね!
「そうなんですね。ここまで魚と海に囲まれたら、もう魚のことをやるしかないですよ」
●運命ですね! では子供の頃から海とか魚には興味があったんですか?
「そうですね。生まれた時から家には魚を飼う水槽がありましたし、両親も海が好きなので、休みの日になると僕を連れて海辺によく遊びに行ってくれていたんですね。なので、魚のいない生活は逆にしたことがないです」
●なるほど。魚のことをどなたかに教わったりはしたんですか?
「当時はね・・・今32歳なので、32年前は今ほど魚の情報ってなかったんですよね。もちろん魚図鑑で勉強したりはしましたけれども・・・。いちばん衝撃的だった先生との出会いは、“さかなクン”かなぁ~と思います」
●お~〜、そうなんですか?
「小学校3〜4年生の頃かな、初めてお会いしたのが・・・その時に衝撃を受けました。それまで魚の先生と言えば、白衣を着て顕微鏡を覗いているような大学の教授、もしくは水族館の職員さん、そんなイメージだったんですよね。でもご本人がそのまま、魚の使者みたいな人が登場して、すごくびっくりして、もう嬉しくなっちゃって、こんな人いるんだと思って憧れて、(さかなクンの)あとをくっついて歩いていた時期がありました」
(編集部注:実は香里武さん、学習院大学大学院で心理学を専攻し、「観賞魚の癒しの効果」というテーマで、魚を見たときの人の心理を研究。そして現在は、北里大学大学院の海洋生命科学研究科に籍を置き、魚の一生、特に幼魚が漁港で人工物をどのように利用して生き抜いているかを研究されています)
「岸壁幼魚採集家」とは?
※ところで、肩書きの「岸壁幼魚採集家」も気になりますよね。この肩書きにしたのは、どうしてなんですか?
「聞き慣れない言葉ですよね~」
●漢字がたくさん並んでいる感じ(笑)
「これを本業だと言い張っている人は、たぶん世界でも僕しかいないと思うんです。やっていることはものすごくシンプルで、”タモ網”っていう柄のついた網を持って、それで漁港に行って・・・岸壁っていうのは漁港の壁面のことですね。そういう港で這いつくばって、上から海面にいる魚たちを覗いて、そこにいる幼魚をすくうと・・・壮大な金魚すくいみたいなもんですね。
それをやる人のことを『岸壁採集家』っていうふうに一部のジャンルとしてあったんですよ。趣味としてやっている人がいたんですね。その中でも幼魚に特化して本業にしよう! っていうことで、こんなまどろっこしい肩書をつけております」
●インパクトがありますよね~! 漁港に魚の赤ちゃんっているんですか?
「そう! これもね~結構灯台もと暗しっていう感じで、漁港だけに灯台もと暗しですけど・・・そんなことはどうでもよくて(苦笑)。みなさん、釣り糸を垂らしたりしていますよね。その足元に実はいるんですよ、幼魚って・・・」
●たくさんいるものなんですか?
「たくさんいるんです。ただあまりにも小さかったり、透明になって身を隠していたり・・・。あとは擬態と言って、枯れ葉そっくりだったり岩そっくりだったり、生き物らしからぬ、いろんな姿で身を潜めているんですね。それは大きな魚に食べられないためだったり、上から狙っている海鳥のカモメとかに食べられないためだったり、身を守るために見えなくて当然な姿しているんですね」
●へ~〜っ!
「だから言われないと気づかないですね」
●そうなんですね~。今まで何種類ぐらいの幼魚に出会えたんですか?
「どうかな・・・700(種類)は超えていると思うんですけど、もはや数えられないですね」
●季節的にはいつ頃がいいとかあるんですか?
「春夏秋冬、朝昼晩いつでも面白いんですよ。魚がいちばんたくさん見られるのは夏から秋にかけて、南のほうからもカラフルな幼魚がやってきたりするので、とても楽しいんですね。
でも今の季節、冬12月ですね。冬になると深海魚の赤ちゃんが上がってきたりもするんですね。水温が低くなるので、冷たい海に暮らしている深海魚も浅いところまで上がってきて泳げるようになってしまう・・・そうすると普段はなかなか生きた姿を見られないような、幻の深海魚たちに足元で出会えるっていう、これまた興奮の連続の季節がやってきます」
●これまで採集した幼魚で、特に印象的だった幼魚っていますか?
「う〜〜ん・・・『リュウグウノツカイ』かな~。深海魚で体長5メートルぐらいある、ものすごく長い体を持った深海魚がいるんですね。時々成魚が砂浜に打ち上がったりして・・・。そうするとあまりにも珍しいので全国ニュースになったりする、それぐらいの魚なんです。
そのリュウグウノツカイの幼魚、最初に出会ったのは7センチぐらいのちっちゃい子だった・・・その子に漁港で初めて出会ったのが、僕はたぶん人生の中でちゃんとした深海魚の赤ちゃんに、足元で出会った最初の経験だったんですね」
●へ~~〜っ!
「その時に衝撃を受けて・・・僕は幼少から深海魚が大好きだったので憧れていたんだけど、いつも僕が見ている水深0メートルの世界では到底出会えない、本当に遠い世界の存在っていうイメージだったんです。それが実は0メートルにも現れる、それを体感した時に、海って横にも繋がっているし、縦にも繋がっているんだっていうことをすごく感じて、感激した瞬間だったんですね」
変態する魚!? 農業をする魚!?
※香里武さんは先頃『水の世界のひみつがわかる! すごすぎる 海の生物の図鑑』という本を出されています。この本には、可愛いキャラクターが登場したり、イラストや写真もたくさん載っていて、お子さんを意識した作りにはなっているんですが、専門用語もまじえ、魚の生き様を紹介。香里武さん的には、すべての世代のかたに「海の世界へのパスポート」として読んでほしい、そんな思いを込めたそうです。
それでは、本に載っている75のトピックから、いくつかピックアップしてお話をうかがっていきます。まずは「美しき変身ヒーローと、愛すべき変態たち」という見出しのトピックがありますが、これはどういうことなんでしょうか?
「これは、海の生き物って卵から生まれて、そして一生を終えるまでの間、ずっと同じ姿をしていることって少ないんですね。それは生活のスタイルを変えるので、それに合わせて姿もガラリと変わるんです。それが変身ぐらいだったらまだしも、昆虫と一緒で体の構造を全く変えてしまう、変態をするような生き物もいるので、ドラマチックな変わりっぷり! これをぜひ知っていただきたいなと思って書きました」
●幼魚から成魚になる時に大変身するってことなんですね?
「そういうのもいますね」
●たとえば、どんな魚が・・・?
「たとえば、渦巻き模様のお魚で『タテジマキンチャクダイ』いうお魚がいるんですね。とっても見た目が可愛らしくて水族館でも人気の幼魚なんですけれども、このウズマキちゃんが成長すると名前の通り、縦じま、縞々模様に大変身しちゃうんです」
●模様が変わっちゃうんですね?
「色もディープブルーな色だったものが、黄色と青のストライプになっていくんですね」
●全然違いますよね?
「全然違います! たぶん言われないと同じ魚だとは思えない。これもちゃんと意味があって、彼らは親同士の縄張り争いが激しいんですね。なので、同じ柄の別の個体を見ると攻撃を仕掛けるわけです。
でもその攻撃を幼魚にまで仕掛けてしまうと、幼魚はまだデリケートな存在なので、種の保存っていう意味ではよろしくないわけですね。やっぱり自分たちの種類を繁栄させなきゃいけないから、子供は守んなきゃいけない。そこで一目瞭然で喧嘩の対象外だってわかるように、親子で全然柄が違うんじゃないかっていうのが、今の主流で言われている説です」
●面白いですね!
「本当かどうかは、本人に聞かなきゃわかんないです(笑)」
●それから「地道に農業をする魚」!
「これも面白いですよね~」
●「クロソラスズメダイ」という魚ですけど、農業するってどういうことなんでしょうか?
「いるんですよね~、草食で草なんかを食べるお魚なんですけれども、お気に入りの海藻があるわけですね。イトグサっていう海藻が大好き! そればっかり食べる。
でもイトグサは放っておくと、ほかの海藻のほうが強いので負けちゃって、ほかが生えると、雑草がいっぱい生えちゃうと、本物のイトグサさんが枯れてしまうっていう問題がある。そこで、このクロソラスズメダイは岩の表面をせっせと手入れして、イトグサ以外の雑草むしりを常にやっている。イトグサがたくさん生える環境を整えて、自分の畑を耕して、それで大切に育てたイトグサを最終的には食べちゃうわけなんです」
●食べちゃうんですね!
「それもすごく面白い関係だなと思いますね。イトグサはイトグサで、クロソラスズメダイが面倒を見てくれないと育たない海藻なので、ある意味ではwin-winの関係・・・結局食べられちゃいますけどね(笑)」
サメのために、あのKISSが洋上ライヴ!?
※では、本に載っているトピックのお話を続けましょう。
●おしまいは、ホホジロザメのためにライヴをしたロックバンドということで、これはどういうことですか?
「意味がわかんないですよね(笑)。世界的に有名なロックバンドのKISSっていう、あのメイクしているKISSが2019年に船の上でライヴをやったことがあるんですね。オーストラリアの海かな・・・。そのライヴは人に向けてのライヴではなくて、実はサメを呼び寄せるためのライヴだったんですよ」
●面白いことをしますね!
「船の下から水中に音が出るようにスピーカーつけて、それでハードロックをオーストラリアの海に響かせたわけですね。なんでそんなことやったかっていうと、ホホジロザメをはじめとするサメの仲間は、低周波の音に反応する習性があるんですね。重低音と言えばロックだろう! それで本当にサメが来るんだろうかっていうこの面白い企画をやった人がいて・・・結局(サメは)来なかったんです(笑)」
●来なかったんですね~。
「来なかったんですけど、でもこの企画に乗ったKISSのメンバーのロック魂には拍手です」
●確かにサメに向けてライヴするって、すごいことですよね!
「面白い発想ですよ〜。でも、お笑いでやっているわけじゃなくて、ちゃんとそこにはサメという生き物ならではの習性があって、彼らが海のハンターと呼ばれるゆえんは、そういう周波数とか、ちょっとした電波みたいな、電気みたいなものとかを感じ取る器官がすごく発達しているから、だからああやって、かっこいい姿で海の王者になっているわけなんですよね。そんなことを感じられるエピソードかなと思います」
幼魚に特化した水族館
●2022年7月に静岡県駿東郡清水町に「幼魚水族館」がオープンして、香里武さんはそこの館長さんでもいらっしゃるんですよね?
「はい、そうです!」
●この水族館では、香里武さんが採集された幼魚が見られるそうですね?
「僕をはじめとするスタッフたちが、夜な夜な近くの漁港まで行って、その季節に出会える幼魚をすくってきて展示しているので、どの季節に行っても今の駿河湾を見ることができるんですね」
●現在どれぐらいの数の魚を飼育・展示されているんですか?
「大体100種類、150匹ぐらいは泳いでいますね」
●オフィシャルサイトを見ると、魚の展示だけじゃなくてユニークな展示もされているんですね?
「そうですね。いろいろ海で僕がいつも上から海面を覗いているので、横からだけじゃなくて上から覗くことができる水槽を作ってみたりとか・・・。
あとはどうしても、一生懸命育てていても死んでしまう幼魚もいるので、そういう死んじゃった子たちも、もう1回見てもらいたいっていうことで透明標本という形で・・・、中部大学の武井(史郎)先生というかたが作られているその特殊な技術で、生きたままの姿で透明化することができるんです。そうすると生きている時は見えなかった体の中の構造も間近で見ることができるので、新しい形でまた“第2の魚生”を歩んでいただいています」
●ほかの水族館と比べて、いちばんの違いってどんなところですか?
「そもそも魚の赤ちゃん、幼魚に特化した水族館は世界で初めてなので、これはほかではなかなか幼魚って見られないと思います」
●確かにそうですよね~。
「あとは、幼魚ならではのこととして、どんどん成長していくんですね。成長すると姿形がさっきの変態のように変わっていくので、その様子を飼育員だけじゃなくてお客さんも一緒に見届けることができる。そして成長して幼魚ではなくなったら『卒魚式(そつぎょしき)』っていうのをやります。今度は、別の水族館に成魚として無償提供するんです。ちゃんと式典をやるんですよ、1時間の!」
●そうなんですね~。
「来た時はこんなだった子がこんなに大きくなりましたっていう成長記録を発表したりとか、ちゃんと町長さんまで来て祝辞をいただいたりとかですね。そうやってお客さんと一緒に育てた幼魚たちを、お客さんと一緒に見送って、別の場所で今度は成魚として別のお客さんに感動を届けてもらいたいと、そういうふうにストーリーを繋げています」
海の変化、海洋ゴミ〜自発的なSDGsに
※日頃、岸壁幼魚採集家として活動されていて、海の変化を感じたりすることはありますか?
「あ~〜ものすごく感じますね。ここ10年ぐらいだけでも、かなり変化したかなと思っています。たとえば、ちっちゃい頃だったら、春先になると漁港の足元には海藻が青々と茂っていたんですね。それが最近暖冬が続いて、温暖化で海水温が下がらなくなって海藻が育たなくなってしまったんですね。
そうすると、春先にもう海藻はないし、その海藻に身を隠していた幼魚たちも忽然と姿を消してしまう。逆に夏になると昔は見られなかったような、沖縄あたりに暮らしているカラフルな魚たちが黒潮っていう海流に乗って、こっちまでやってきて、それが秋、冬とずっと生き延びている姿を見るようになりました。
昔だったら冬を越せなかった子たちが、今は暖冬で冬を越すようになっている。新しい魚が来たってことは、もともといた魚がいなくなっているってことなので、そういう足元で出会える魚の種類の変化からも温暖化は感じますね。
あと、漁港の隅って海洋ごみがたくさん打ち寄せられるんですよ。風に乗ってゴミが流されてきて結構汚いんですね。いかにゴミが海に多いかを知る場所としても漁港はいいのかなと思っていて・・・年々ゴミの量も増えています。でもそのゴミさえも、敵から身を守るために利用して、ゴミの下に隠れている幼魚がいたりなんかするんですね。
そういう姿を知ると、ゴミを拾いに行きましょう! っていうのと、ちょっとまた違った入り口が広がると思っています。そのゴミの周りにいるたくましく健気な幼魚たちの生き様を見て、彼らの暮らしている海を汚してはいけないなと、綺麗にしたいなっていう気持ちがわいてくれば、義務としてのSDGsではなくて、自発的なSDGsに繋がっていくのかなと思っています」
●幼魚たちの調査や研究をされていて、ワクワクするのってどんな時ですか?
「まだ出会ったことがない幼魚に出会った時ですね。32年やっていてもあるんですよ、初めての出会いが・・・。今年も8月に『イシガキフグ』っていう、世界で誰も幼魚を見たことがない(その幼魚を)すくったことがあって、成魚はいっぱいなのに幼魚を誰も見つけたことがない・・・。でもそうやって、毎年のように新しい出会いがあるから、これはやめられないですね」
●「岸壁幼魚採集家」として、いちばん伝えたいことはどんなことですか?
「思っているより魚たちは身近にいるっていうことですね。海に潜っていかなくても沖に出なくても、足元をちょっと覗くだけで魚に出会える。これは日本の豊かさでもあるし、海全体の豊かさなのかなと思います」
INFORMATION
香里武さんの新しい本をぜひ読んでください。香里武さんの視点で取り上げた、魚や海に関する75のトピックを掲載。イラストや写真がたくさん載っていて、見開き2ページでひとつの話が完結しています。見出しを見て、面白そうなページから読めますよ。おすすめです!KADOKAWAから絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎KADOKAWA :https://www.kadokawa.co.jp/product/322404001466/
鈴木香里武さんのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。
◎鈴木香里武:http://karibu-collabo.main.jp/top/?page_id=7
静岡県にある「幼魚水族館」にぜひお出かけください。展示内容やアクセス方法など、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎幼魚水族館:https://yo-sui.com/
2024/11/24 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、鹿児島市にある平川動物公園のコアラ飼育員「落合晋作(おちあい・しんさく)」さんです。
落合さんはもともと生き物好きで、子供ころから釣りに明け暮れ、九州の大学で魚の勉強をしたあと、水族館に勤務。その後、ご両親が鹿児島に暮らしていることもあって、平川動物公園に転職。ゾウやカワウソなどの飼育を7年ほど担当したあとにコアラの飼育担当になっています。
コアラを5年ほど担当されている落合さんは、日々コアラに接する中で、可愛いという感情より、コアラはすごいぞ!と思うことが多く、そんな思いが込められた本『すごいコアラ! 〜飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる 不思議とカワイイのひみつ』が先頃出版されました。
きょうはコアラの知られざる生態や、赤ちゃんの秘密、そしてエサになるユーカリ栽培への取り組みなどうかがいます。
©新潮社 写真協力:鹿児島市平川動物公園
コアラは北方系と南方系!?
※コアラが日本に来たのが1984年10月25日、今年で来日40年! ちなみに10月25日は初来日を記念して「コアラの日」となっています。
日本では現在、7つの施設で飼育されています。首都圏では東京都日野市の「多摩動物公園」「埼玉県こども自然動物公園」そして横浜市の「金沢動物園」の3つの施設で見ることができますが、コアラの飼育頭数で日本一を誇るのが、鹿児島市にある「平川動物公園」。現在はオス8頭、メス10頭、合わせて18頭を飼育。コアラの初来日から飼育が始まり、通算105頭の飼育実績があるそうです。
2021年には新しいコアラ館がオープン! ガラスなど遮るものがなく、高さがおよそ8メートルある館内のガラス窓からは日の光が降り注ぎ、またユーカリも植えられていて、より自然な感じでコアラを見ることができる、ということで、とても人気なんだそうです。
●まずはコアラがどんな動物なのか、基本的なことをいろいろうかがっていきます。コアラはオーストラリアの固有種ですが、どのあたりに多くいるんですか?
「オーストラリアという国は、だいたい日本の21倍の面積があるんですね。おそらくコアラはオーストラリアのどの地域にもいると思われているかたが多いと思うんですけど、オーストラリアの地図を正面から見た時に、右の海岸線のふち側・・・ケアンズがあって、下にシドニーやメルボルンがあるんですけれども、このふちの辺りの森とか林があるところにいるんです。
言ってみれば、国土の20分の1ぐらいのところにしか生息していないんですよね。そういうところにいる動物ですね」
●何種類かいるんですか?
「みなさん、コアラ、コアラとおっしゃっていますけど、コアラという動物は1種類なんです。厳密に言うとふたつの系統、グループに分かれています。シドニーの少し下ぐらいからを境に、北のほうにいる北方系のコアラ、ちょっと小柄でグレーの色が強いコアラですね。
南半球なので、南のほうに行けば行くほど寒い国ですから、寒いところにいるのが南方系のコアラ、通称『ビクトリア・コアラ』って言われているんですけど、これがちょっと大きくて濃い色をしていますね。
見た目は2種類を並べると全然違うコアラということになりますね。当園では北方系、ちっちゃいほうのコアラ、あったかいところにいるコアラを飼っています」
●サイズ感も色も違うんですね〜。
「そうですね。オスの体重で言うと1.5倍ぐらい違います。北方系がだいたい8キロから9キロ、南方系が最大で15キロぐらいになりますから、すごく大きいですよね」
●へ〜! 体全体は灰色ですよね?
「そうですね。頭から背中にかけて灰色、お腹側、お尻が若干白く見えますよね」
●そういう毛の色にも何か意味ってあるんですか?
「はい、みなさん、コアラの餌っておそらくユーカリっていうのを知っているかたは多いと思うんです。ユーカリは、ホームセンターとかお花屋さんに行くと売っていますよね。で、だいたいグレーがかったシルバー色したユーカリが多いと思うんですね。
で、ユーカリってだいたい1000種類ぐらいあるって言われているんですけど、ユーカリの森はグレーの葉っぱがあったり、木の樹皮が白っぽいんですよね。そういったところにグレーの色の動物が木に乗っかっていると、いわゆる擬態、周りの風景と溶け込んで見えるので、こういう色をしていると言われています」
●意味があるんですね、色にも!
「そうですね。で、お腹側が白いのは木の下から上を眺めたときに、白っぽいと太陽の光とかと同化しちゃうんですよね。こういう動物、魚も多いんですけど、こういうことを彼らは生きていく中で獲得した、ありのままの彼らが暮らしやすい姿、色になっていると思います」
(編集部注:落合さんによると、基本的に野生のコアラは単独で生活していて、一頭のテリトリーは狭くて100メートル四方、広いとなんと10キロ四方。
オスは自分のテリトリーにほかのオスが侵入すると、食べ物のユーカリやメスを奪われまいと、可愛い姿からは想像できない猛獣のような声「テリトリー・コール」をして威嚇するそうです。
*コアラの鳴き声は、平川動物公園のサイトで聴くことができますよ。
https://hirakawazoo.jp/wp/wp-content/uploads/2022/09/koala1.wav
また、マーキングをするオスは、胸にある「臭腺(しゅうせん)」からとても臭い液を出して木にこすり付けます。そのため、オスの胸のあたりはいつも汚れているそうですよ)
鋭い爪、大きな耳と鼻
※コアラの体の特徴でいうと、木の上で生活していますから、手や足のツメが鋭かったり、筋力が強かったりして、可愛いコアラのイメージとは違いますよね?
「そうですね。よくお客様にもコアラってどうですか? って聞くと、可愛いっておっしゃるんですね。で、可愛くないところってあるのかなっていう話をするんですけど、その代表的なところはやっぱり爪なんですね。
指の本数は我々人間と一緒です。前も後ろも5本指なんですけど、本当に爪が長くて、鎌のように曲がっていて先が尖っています。爪が1本でも木に引っかかっていれば、落ちることはないですね。その爪を立てながらひょいひょい登っていくんですよ。
当然握る力もやっぱり強いです。で、ラジオ番組なのでお見せできないんですけど、私の腕は本当にコアラの爪の跡、服を着ていても服の上から爪が刺さっちゃうので、もう傷だらけです」
●鋭いんですね〜! 耳とか鼻も大きいですよね?
「そうですね。耳は特徴的な可愛らしい大きな耳をしています。先ほど縄張りの話をしましたけど、コアラって鳴くんですよね。寝てばっかりのイメージですけど、結構大きな声で鳴くんですよ。猛獣のような鳴き声、本の中には”ゲップ”とか”ゴゴゴ〜”とか、そういう音で表現しているんですけど、すごく大きな声で鳴いて、数キロ先まで届くって言われているんですね。ほかのコアラがいるかいないかを、臭い以外、音でも聴かないといけないので、やっぱり大きな耳をしているんですね。
で、もうひとつの特徴として大きな鼻がありますよね。体重は8キロ前後とお伝えしましたけど、鼻の大きさで言うと我々人間と変わらないです。で、やっぱりこの鼻も非常に重要で、ほかのコアラの臭いを嗅ぐにしてもすごく大事なんですけど、いちばんは彼らが食べているユーカリの葉っぱの好き嫌い、選り好み、どれが美味しいのか美味しくないのか、食べられるのか食べられないのかも鼻ですべて感知していると思います」
長い睡眠時間には理由がある
※コアラは木の上でじーっと動かないイメージがあるんですけど、寝ている時間が長いということですよね?
「こればっかりは、もう本当に(睡眠時間が)すごく長くて、ほとんど動かないんです。だいたい20時間から22時間ぐらい、睡眠・休息に費やしていると言われていますね。本当に動かないです」
●なんでそんなに寝るんですか?
「なまけているんじゃないのとよく言われるんですけど、実はそうではなくて、寝るにはちゃんと理由があるんですね。先ほどからコアラの餌はユーカリと何度もお伝えしていますけど、このユーカリって植物が実はポイントになっています。
葉っぱは、新芽と言われる柔らかいところ以外は硬くて繊維が多いんですね。こういったものを食べると、消化にすごく時間かかるんですよ。で、極めつけは毒が入っているんですね。この毒の分解にも時間がかかります。
ただでさえ栄養価の少ない葉っぱを食べていて、極めつけに毒も入っているってことなので、一生懸命動いてしまうと、お腹を動かすためのエネルギーもなくなるんですね。動けば動くだけどんどん痩せます。ですから、じーっと動かないようにしてユーカリの消化吸収に全力を注いでいると思ってください。そういうふうに進化してしまったので、寝ざるを得ない動物になってしまいました」
●木から降りて地面を歩き回ったりすることもあるんですよね?
「もちろん歩くんですよ。で、地面っていうか地上にはやっぱりコアラの外敵となる動物もいたりしますから、基本的に木から木へはジャンプして移動することが多いんですけど、どうしても移動できない距離だと地面に降りて歩くんですね。でもそんなに走ったりすることは、できるんですけど、そこまで長続きしないっていうか、やっぱり歩いているときは危機感を感じてるような気がしますね。早く木に登らないとっていう、そういう仕草を見せてくれます」
妊娠期間は35日!
※平川動物公園でのコアラの繁殖に関してうかがいたんですけど、発情期は一年に何回かあるんでしょうか?
「野生の動物ってだいたい年に1回とかが多いんですけど、コアラの場合は、基本的に通年発情はするんですよ。ただメスがオスを受け入れるタイミングってだいたい春と秋が多いんですよね。この時期に我々もコアラの様子を見ながらペアリング、繁殖させるようにはしています」
●平川動物公園では積極的にペアリングに取り組んでらっしゃるそうですね。相性とか発情期間とか、いろいろ見極めるのも大変なんじゃないかなって思うんですけど・・・アプローチするのはオスなんですか?
「そうですね、基本的に・・・。メスは結構受け身が多いんですけど、言ってみれば発情してないのにオスとペアリングしても、オスもメスにあまり向かわなかったり、メスは当然受け入れないんですよね。
その発情の見極めってすごく大事で、しかも個体によって差があるんですよね。人と一緒で性格があるので、ガツガツしている女の子は、言ったら肉食系の女の子はすごく積極的にオスにもアプローチするんですよ。
逆にオスがそれを受け止めきれない(笑)、草食系って言ったらおかしいんですけど、ちょっとガツガツしている女の子は、苦手だなっていうオスもいたりするので・・・。本当にガツガツしている女の子でも、ちょっと大人しそうなタイミングで、草食系の男の子と一緒にしてペアリングしてみたりとか、ガツガツしている女の子でも大丈夫な男の子をペアリングにあてがったりとか、相性を見ながら繁殖っていうかペアリングさせていますね。
ここは長年の経験とか勘がだいぶ頼りになってくるので、本当に飼育の醍醐味でもありますよね。今だったらいけるんじゃないかとか、そういったのを日々見極めながら見ていますね」
●ペアリングが見事うまくいってメスが妊娠すると、出産はどれぐらいあとになるんですか?
「我々人間の妊娠期間は10ヶ月程度って言われていますけど、コアラの妊娠期間はわずか35日なんですよ」
●え~っ!
「担当者の目の前で交尾させますから、そのあと35日後に生まれてきます。ずれても1日ぐらいなんですよ。この間、コアラの様子を見ながら出産するかしないかを見極めたりするんですよね。ただストレスを与えることはできないので、出産のタイミングに立ち会うことはほぼありません。っていうか、できないですね、なかなかできないです、これは」
赤ちゃんは一円玉!?
※生まれてくる赤ちゃんの大きさは、どれくらいなんですか?
「例えるなら、大きさは1円玉です」
●え~っ!
「1グラム1センチって表現するんですけど、本当に1円玉の大きさです。ただ形は、実はコアラの形をしていなくて、夏休みにカブトムシを飼うお子さんもいらっしゃると思うんですけど、カブトムシの幼虫とよく似た形です。本当にちっちゃくて一見すると何の動物かもわからない、そういう赤ちゃんが生まれてきます」
●そういう状態の赤ちゃんが、いわゆるコアラの形になるにはどれぐらい時間がかかるんですか?
「はい、まず生まれてすぐ、そのままだと毛も生えていませんし、目も見えてないので、すぐ干からびて死んじゃうんですよね。ですから、生まれた赤ちゃんは5分から10分かけてお母さんのポケットに移動するんですよ。
ポケットは後ろ足の付け根についています。そのポケットに自分の力だけで這いつくばって進んでいきます。先ほど紹介した通り、爪が鋭いので、お母さんがつまむと赤ちゃんは亡くなっちゃうわけですよね。ですから、お母さんもじっと我慢しているんですね。
ポケットの中に入ると、中におっぱい、乳房がふたつついていますから、この乳に吸いついてどんどん大きくなっていきます。で、コアラっぽくなるにはだいたい4か月ぐらいかかります。4ヶ月経ってもまだ毛は生え揃ってないので、なんとなくこれコアラの赤ちゃんじゃないの? っていう感じになるんですね。
だいぶ時間はかかりますね。おっぱいに吸いついて簡単に離れてしまうと、また乳房を探さないといけないので、お母さんの乳房に子供がくっつくと抜けなくなるんですよ、取れなくなるんですよ。これがだいたい3〜4か月取れない時期が続いて、そこからは自分のタイミングで(ミルクを)飲めるようになるんですね。それがだいたい4か月ぐらいから始まるって感じですね」
(編集部注:落合さんによると、コアラの赤ちゃんは半年ほどで、お母さんのお腹側にある「育児のう」と言われるポケットから出てくるんですが、子育ては1年くらいは続くそうですよ。
赤ちゃんにとって、ポケットから出るタイミングで、その後、生きていくために必ずやらなければいけないことがあるんです。それはお母さんのフンを食べること。フンに含まれている腸内細菌を獲得し、繊維が多くて毒のあるユーカリを消化できる体を作るためで、落合さんは、コアラの世界では当たりことだとおっしゃっていました。なんでもコアラのコロコロとしてフンはユーカリの匂いがするそうですよ)
ユーカリは1日100キロ、年間34トン!?
※野生のコアラはユーカリしか食べないそうですが、平川動物公園では何種類のユーカリを与えているんですか?
「ユーカリはたくさん種類があるんですけど、コアラが食べているのってだいたい80種とか90種ぐらいって言われているんですね。登園ではそのうちの13種類から14種類ぐらい栽培していますかね」
●本に、平川動物公園で飼育しているコアラ18頭が、年間に消費するユーカリの量がおよそ34トンと書かれていましたけれど(笑)、本当なんですか?
「そうですね。だいたいイメージとしては毎日100キロのユーカリの枝と葉っぱを使っています」
●凄い! 「ユーカリを制するものはコアラ飼育を制す!」と、本にも書かれていましたけど、大事なんですね!
「そうですね。もうこれしか食べませんから、ユーカリの供給が滞ると(コアラの)食べ物がなくなってしまうことになるので、ユーカリの栽培と供給態勢にはすごく気を遣っていますね。
八百屋さんとかで(ユーカリが)売っていればいいんですけど、売ってないんですよね。だからコアラを飼っている動物園はすべて、コアラのユーカリは栽培して供給できる態勢にしています。ないと終わってしまいますからね、すごく大事にしています、ここは」
●敷地内にユーカリ畑があるんですか?
「動物園の中にもユーカリの畑は何か所かあるんですけど、実は賄い切れないんですよ、動物園の畑だけだと・・・。当園では2万本ぐらいのユーカリを管理していまして、畑の数が40か所ぐらいあるんですよね。当然、動物園だけじゃなくて、遠くは鹿児島のロケットの発射基地がある種子島にあったり、温泉で有名な指宿にもあったりします」
●分散させているんですね。
「そうですね。これには理由があって、ひとつは台風が来た時にユーカリの葉っぱが飛んでしまったり、枝が折れてしまったりするんですよね。1か所にすべて植えていると、その畑が集中的に被害に遭ってしまうと、(コアラに)あげるユーカリがなくなってしまうので、リスク分散も込めて、たくさんの所、住宅地の中にある畑もあれば、山の中にある畑もあって、風の当たり方が違ったりするので、リスク分散で分けているっていうのもあるんです。
あと、今からどんどん寒くなりますよね。やっぱり温暖な場所を好むユーカリを栽培していますので、いくら鹿児島と言えども、たまに雪が降ったり霜が降りたりするんですよ。そうなるとやっぱりいい状態の葉っぱが手に入らないので、あったかい種子島や指宿といった、あったかい地域にもユーカリを植えています」
(編集部注:落合さんいわく、コアラの飼育でいちばん気を使うのは、健康管理。寝ている時間が長いコアラは体調の変化がわかりにくいため、寝ている姿勢やユーカリの食べ方、そしてフンの観察など注意深く見て、ちょっとしたことでも「疑って」かかるそうです)
尊いコアラに学ぶ
※日本では、コアラの繁殖のためにどんな取り組みがありますか?
「コアラっていう動物は、やっぱりユーカリの管理とか供給がすごく大変というか、ほかの動物と違うので、どこの動物園でも飼える動物ではないんですよね。今(国内では)7つの動物園で飼育しているんですけど、ひとつの血統だけ残してしまうと、仮にその血統が病気に弱かったりとか、小型な血統だったりすると、本来のコアラっていう動物を残せなくなるんですよね。
ですから、いろんな血統、血筋、遺伝子を取り込みながら増やしていきたいなと思っているんです。それには実を言うと100頭ぐらいの個体がいたほうが、20年30年先を見据えると、それぐらいいたほうがいいよねっていう話になっているんですね。
そうなってくるとやっぱりある程度、ほかの動物園さんと協力しながら、いきなり100頭は無理なんですけど、現状54頭ぐらい国内にいるので、これがまずは70頭ぐらいに増やして、そこから先はいろんな飼育園とか飼育施設を拡充して、コアラという動物を安定的に未来に向かって残していけるような態勢を協力して残していけたらなとは思っていますね」
●コアラの飼育を担当されて5年ということですけれども、日々コアラと接して何かコアラから教えてもらったみたいなことってありますか?
「毎日コアラを見ていて、彼らって、可愛いイメージが先行していますけど、やっぱり生きることにすごく貪欲なんですよね。ユーカリひとつ食べる仕草にしてもそうですし、繁殖する時のオスの猛々しい鳴き声とか、そういった姿を見ていると、挑戦しているじゃないですけど、彼らってやっぱり日々当たり前のように必死になって生きているっていうのが感じるんですよね。
で、可愛いんですけど、そのひとつひとつの仕草が非常に尊いというか尊敬できるなと思うんですよね。そういった仕草とか、コアラっていう動物を日々見ながら、(私たちも)一生懸命生きていかないといけないっていうわけじゃないんですけど、もっと挑戦的、チャレンジしていかないといけないのかなっていうのは、本当に感じるかな、っていうか、感じていますね」
●将来の夢があったらぜひ教えてください。
「今、動物園でコアラを多くのかたにご覧いただいているんですけど、当園の特徴としてコアラがいる空間に入っていける施設があるんですね。ガラスがなくてそのままの空間でコアラをご覧いただけるんですよ。
そこには、コアラが暮らしている現地の植物を植えていたりとか、当然ユーカリも植えているんですけど、動物園に来てコアラが暮らしている現地の森を、来園者のみなさんに体験してもらえるような施設にできたらなと今思っているんです。
まだまだその時点には達してないんですけど、そういった空間でコアラを見てもらって、野生のコアラを少しでも感じていただけるような場所にできたらなと思っています」
(編集部注:オーストラリアの固有種コアラは現在「国際自然保護連合IUCN」の絶滅危惧種に指定されています。減っているおもな原因は、気候変動や森林火災による生息地の減少で、市街地にまで進出し、交通事故で命を落とすコアラも数多くいるとのことです。
落合さんは以前、オーストラリアの施設を視察したことがあって、その時に感じたのは、平川動物公園の飼育態勢は、晴らしいといえるレベルにある。やってきたことは間違っていなかったと自信にもつながったそうです。平川動物公園のコアラ館、ぜひ行って見学したいですね)
INFORMATION
『すごいコアラ! 〜飼育頭数日本一の平川動物公園が教えてくれる 不思議とカワイイのひみつ』
動物園のアイドル的なコアラの可愛い写真が満載。一頭一頭、名前がついているのでそれを見て、コアラ館に行くと、推しが見つかるかも知れません。コアラの生態がわかりやすく解説されているほか、なにより、飼育員のみなさんの奮闘ぶりやコアラへの想いを感じる一冊です。
新潮社から絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎新潮社:https://www.shinchosha.co.jp/book/355861/
鹿児島市にある平川動物公園のサイトもぜひ見てください。
◎平川動物公園:https://hirakawazoo.jp
2024/11/17 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、石川県立大学・生物資源環境学部の准教授「北村俊平(きたむら・しゅんぺい)」さんです。
北村さんのご専門は植物生態学で、植物と動物のつながりを「種子散布」の視点で研究。調査のメイン・フィールドはタイの熱帯の森で、果実と動物たちのつながり、おもにクチバシの大きな「サイチョウ」という鳥が植物のタネまきに、どんな役割を果たしているのかを調べていらっしゃいます。
そして先頃、『タネまく動物〜体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで』という本を出されました。
この本は、ツキノワグマの研究で知られている東京農工大学大学院の教授「小池伸介(こいけ・しんすけ)」さんと北村さんのおふたりが中心となって編集・執筆。
おもに今後の研究を担う学生のために「種子散布」の最新研究や知見がまとめられています。原稿を寄せているのは、北村さん、小池さんを含め、その道の研究者、総勢18名。
このように説明すると、難しい本なのかなと思われるかも知れませんが、タネをまく哺乳類、鳥、そして昆虫などの小さな生き物、その3つのカテゴリーに分けて、それぞれの最新研究などをわかりやすく解説してあるので、手軽に読めますよ。
また、以前この番組にご出演いただいたイラストレイター「きのしたちひろ」さんの、可愛くて親しみやすいイラストが添えられていて、そのページで伝えたい内容がひと目でわかるようになっているのも特徴です。
きょうは北村さんに「種子散布」の最新研究を含め、植物と動物のディープな関係についてうかがいます。
☆写真協力:北村俊平、イラスト協力:文一総合出版
種子散布〜「動物散布」
※この本では種子散布でも、いろんなタイプがあると書かれています。改めて、教えていただけますか?
「今回、本で特に取り上げているのは、動物の助けを借りてタネをまくグループで、それをまとめて『動物散布』と呼んでいます。で、大きく3つグループがありまして、『被食散布』『貯食散布』、それから『付着散布』に分けられます。
順番に説明すると、最初の被食散布は、タネの周りを例えば甘い果肉なんかで覆って、タネを運んでもらう報酬として、魅力的な食べ物を動物に提供するような仕組みになります。私たちが普段、果物として食べている果実をイメージしていただけるといいかなと思います。これがひとつ目です。
ふたつ目の貯食散布は、哺乳類だとネズミやリスの仲間、鳥だとカケスとかホシガラスっていう鳥が含まれるんですが、タネを食べ物として利用する動物の行動を利用した仕組みになります。
ネズミやリスはあとで食べるために、食べ物を蓄える行動をとるんですが、隠したものを全部食べるわけではなくて、一部のタネが食べ残されるようなこともあります。この食べ忘れたタネから発芽することによって、タネまきを成功させるような仕組みになります。
最後の付着散布は、ちょうどこの時期だと、みなさん野山を歩くとズボンとか靴下に植物のタネがいっぱいくっつく経験をしたことがあると思いますが、こういった動物が気がつかないうちにタネをその動物の体にくっつけて、要はただ乗りしてしまうような仕組みを持ったものになります。
で、最初に紹介した被食散布と2番目の貯食散布は、動物にとっても植物にとってもメリットがある、ウィンウィンの関係になるわけですが、最後の付着散布は動物側はただタネを運ぶだけなので、そういったメリットはないです。
今説明したのは動物が絡む話なんですが、もうひとつ動物の助けを借りないグループもあって、ひとつは風の力を利用してタネを飛ばすようなグループで、多くのタネは風に乗るわけで、ちっちゃくて軽い特徴があります。
風を捉える仕組みとして、タンポポの仲間みたいに綿毛が発達しているものだったり、モミジの仲間みたいにタネに翼がついたものとか・・・あとはランの仲間はすごく小さいタネを作るので、何も仕組みがなくてもふわふわっと風で飛ぶようなものになっています。
あとは水の力を利用するようなグループもあって、例えば雨粒が当たった衝撃でタネをばらまくようなものだったり、川の水の流れとか、ヤシの実のように海の流れ、海流によって運ばれるようなものもあります。
最後にホウセンカっていう植物がいるんですけど、ああいう植物では果実がぱっと割れる時に、その時の勢いでタネが弾き飛ばされる、『自動散布』と呼ばれるような仕組みなんかもあります」
タネまく動物の代表、ツキノワグマ
※大きな動物というと、日本にはツキノワグマがいますよね。クマはやはり「種子散布」に貢献しているんですよね?
「そうですね。日本の森でタネをまく動物の代表選手で、この本の編集者でもある小池さんが長年にわたって研究しています。
クマというと、肉を食べている肉食動物のイメージを持っている人が多いんじゃないかなと思うんですが、実際は食べているものの大部分は植物です。特に夏以降になると果実がほとんどを占めていて、それらの果実のタネをまくことが知られています」
●冬眠前にたくさん食べるイメージがあるんですけど、主食は何になるんですか?
「今の時期、ちょうどこれくらいの季節になってくると、やっぱりドングリが主食と言われていて、ツキノワグマは冬眠前にたくさん脂肪を蓄える必要があるんですが、秋にはそのドングリをおもに食べているようです」
●ドングリ以外だと、どんなものを食べるんですか?
「クマは多分ドングリをいちばん食べたいんですが、実はドングリの仲間は、年によってたくさん実る年とそうじゃない年、よい年と悪い年があることが知られていますね。ドングリの実りのよい年にはドングリを食べまくっているんですが、実りが悪いと、本当はドングリ食べたいんですけど、ドングリがないので、ほかの果実をたくさん食べるようなことになります。
ドングリの実りのよい年に、クマのフンを拾ったりすると、中にはクマに噛み割られたたくさんのドングリが入っているんですが、今年はたまたま私のいる石川県では、ツキノワグマの主食になるブナのドングリの実りが、あまりよくない年になります。
で、数日前にも調査地のイチョウの木の下に(フンが)いくつかあったんですけど、それを見てみるとドングリは全く入ってなくて、イチョウの木の下で多分イチョウ(の実を)食べたんでしょうね。たくさんの銀杏ですよね。
それからあと、山の中にキウイフルーツの仲間でサルナシっていう植物が、ちっちゃいキウイフルーツみたいなものなんですけど、その小さいタネがたくさん入っていました」
●クマの種子散布で特徴なことっていうと、どんなことになるんでしょうか?
「ひとつは、クマってやっぱり大きな生き物ですので、大きな体を維持するためにたくさん食べるっていうことがあります。で、野生のサクラの仲間だと一度に数千個、人間が食べるサクランボほど大きくはないですけど、野生のサクラの仲間も小さなサクランボみたいな実を付けます。そういうのを数千個、一度に食べたりします。
野生のサクラの果実ってクマだけではなくて、ニホンザルとかヒヨドリみたいな鳥も食べたりしますけど、植物からするとクマがやってくると、実らせた果実を非常にたくさん食べてくれる、だからクマが来てくれるかどうかで、たくさんのタネが運ばれるかどうかが決まってくるので、結構大事な存在になりそうですね」
(編集部注:北村さんによると、クマの糞に含まれている数百から数千のタネは、ネズミにとってはとても魅力的で、ほとんどネズミが食べてしまうそうですよ)
※ニホンザルも森の世代交代に関係しているそうですね。このあたり、ご説明いただけますか?
「リスとかネズミは、先ほど貯食散布っていう、タネを隠したりすることでタネまきに貢献している話を少ししたんですが、ニホンザルも実はいろんな果実、果実が非常に好きな動物のひとつですね。先ほど紹介したツキノワグマと比べると、やっぱり1頭あたりの大きさはずっと小さいわけですけど、サルはクマと違って群れで行動する生き物です。
30頭から50頭くらい、きっとそれぐらいの数がひと群れになって移動しているわけです。サル1頭自体が食べてタネをまく数はクマと比べれば、ずっと少ないんですけど、群れ全体にするとそれが 30倍とか50倍っていうことになるので、一度にたくさんの個体がやってきて、結果的にたくさんの果実を食べてタネをまく点では、ツキノワグマに匹敵、もしくはそれ以上の果実を食べてタネをまくようなことになっているのかもしれません」
「日本中でタネをまく」ヒヨドリ
※鳥がタネを運ぶことは知られていると思いますが、都会の公園や住宅地でもよく見るヒヨドリ、この本では「日本中でタネをまく」と書かれていました。そうなんですか?
「ちょっとオーバーな表現でもあるんですけど、ヒヨドリは多分みなさんどこかで姿を見たことがあるだろうし、今ちょうど外でもヒヨドリが鳴いているんですけど・・・ひとつの特徴としては、日本国内で木があるところだったら大体どこにでもいて、そこの自然環境を利用していて、そこに生えている植物の、非常に多くの植物のタネをまいている点がひとつの特徴だと思います。
ヒヨドリが実際、どれぐらいの数の植物のタネをまいているのかを調べた研究があるんですけど、少なくとも200種類以上の果実を食べていて、そのタネをまいていることが知られています。
でももっと狭い範囲、大学のキャンパス内とか、そういった狭い範囲で見ても少なくとも50種から80種ぐらいの果実を食べていることが知られていますので、一種類の生き物が食べる種数としては、すごく多い種類の果実を食べています」
●植物側からしたらヒヨドリって、やっぱりありがたい存在っていうことなんですか?
「そうですね。すごくいろんな果実を食べている理由としては、ひとつはヒヨドリは1年中日本にいる鳥で、春から冬までずっといるので、年間を通して果実を食べている、それからヒヨドリは果実をすごくよく食べるんですけど、日本で果実を食べる鳥の中では比較的大型のほうになります。
鳥の場合は、先ほど話したクマとかニホンザルみたいに、手を使って果実を食べることができずに、くちばしでついばんで、それをぐっと飲み込むしかないんですね。だから口の大きさがすごく大事になってきて、大きな鳥のほうがいろんな大きさの果実を食べることができるっていう点がひとつ特徴です。
飛び方もヒヨドリってすごく器用で、“ホバリング”って言って少し羽ばたいて空中で止まるような飛び方もできるので、普通の鳥だと枝先でつかめないような果実までしっかり利用することができたりします。
多分ヒヨドリは日本にいる鳥の中で、いちばん果実が好きな鳥なんじゃないかなと思います。ちょっとしか実ってないような果実でも、”それを食べに行くんだ!” っていうような形でやってきて、しっかり食べていくこともあります。
今の時期、秋から冬にかけて、森の中はすごくいろんな植物が果実を実らせているわけなんですけど、地面の近くの、すごく小さな木だったりすると、数個しか果実が実っていないような場合があるんです。そういった果実でも、自動撮影カメラを設置しておいて、どんな動物が食べに来るのかなって調べてみると、ずっと誰も来ないなと思っていたら、ある日突然ヒヨドリがやってきて、残っていた果実を全部食べて飛んでいく姿が写ったりします。
住宅地の庭なんかにも、お正月の縁起物で使われる、赤い実をつけるマンリョウとかオモトっていう植物があるんですけど、そういった果実にも、カメラ置いといてみると、やっぱりヒヨドリがやってきて果実を食べて、タネを運んでいたりするような姿が撮影されたりしています」
(編集部注:ヒヨドリのほかにも、身近な鳥としてメジロやカラスも果実を食べ、結果的に種子散布に協力していることになるそうです。
植物にとって、空を飛べる鳥は遠くまでタネを運んでくれる、ありがたい存在だと思いますが、アホウドリやカツオドリなどの海鳥も、陸地に降りた時に羽毛にタネがつくことがあるので島から島へタネを運ぶ、これも「付着散布」になるんですね)
カタクリのタネを運ぶアリ
※昆虫と植物の関係でいうと、この番組のスタッフからアリがカタクリのタネを運ぶという話を聞きました。アリには何かメリットはあるんですか?
「アリは基本的には雑食性で虫を食べたり、ほかの生き物を捕まえて食べたりするんですけど、花の蜜に来たり果物の果肉も食べたりするのと同じような形で、地面に落ちているタネも食べ物として巣に運ぶことがあります。
その場合はタネそのものを食べてしまうので、ほとんどアリに食べられてしまって、あまり植物にとってはいいことはないんですけど、今話に出てきたカタクリは、実はちょっと変わった植物です。カタクリみたいな植物、一部の植物なんですが、小さなタネに“エライオソーム”って呼ばれている、お弁当みたいなものがついているんですね。
そのエライオソームの成分を調べてみると、動物性の脂肪分みたいなものが入っていて、アリにとっての栄養分になると同時に、なぜかわからないんですけど、アリがそのタネを運びたくなるような成分が入っているみたいです。
たからアリさんは、エライオソームに惹かれてタネを持って巣まで運んでいって、このエライオソームだけを食べて、残ったタネの部分は巣の中とか巣の外のゴミ捨て場みたいなところに捨てられることで、タネまきが完了するような仕組みになっています。
エライオソームを実際食べることができたアリと、できなかったアリを比べると、アリの巣で生まれてくるアリの数がどうも増えたような事例もあるみたいですので、栄養として十分そのアリにとっても役立っているみたいです」
●メリットはあるんですね~。
「そうですね~。アリがちゃんと食べることでアリ側も増えているんだよっていうことがわかっている、こういう例はすごく珍しいですね。動物側が果肉を食べてどれぐらいメリットがあるのかは、実はよくわからないことが多いんですけど、アリの例ではそういうふうな形で、ちゃんとアリの数が増えていることが示されているようです」
●この本に、カタツムリとかナメクジもタネを運ぶって書かれていましたけれども、本当なんですか?
「一見するとそんな感じはしないんですよね。もともと研究が進んでいるヨーロッパの事例になるんです。先ほどアリがタネを運ぶ事例で紹介した、エライオソームがついた植物のタネ、それを大型のナメクジ、10センチぐらいあるナメクジの仲間がタネとエライオソームを食べて、タネだけ排出するっていうふうな形でタネをまいているそうです。
で、私、日本でもそういう事例ないかなと思って調べていて、日本の事例だと、うちの近所に“ノトマイマイ”っていう大型のカタツムリがいるんですが、その一種がヘビイチゴとか、ヤブヘビイチゴっていう植物のタネを、どうも運んでいる可能性はありそうです」
(編集部注:北村さんによると、研究室での実験では、カタツムリがヘビイチゴのタネを食べ、糞として出されたタネをまくと発芽したそうです。実験的にはタネを運んでいる可能性はあるだろうとのことでした)
温暖化でタイミングがずれる!?
※今年の夏も、酷暑といえるような日が続きましたね。地球温暖化は当然、植物にも影響を与えていると思いますが、種子散布にも影響は出ていますか?
「今年の夏とても暑くて、その影響がどういった形でこの種子散布に影響するのかっていうのは、すぐにはわからないんですが、少なくとも地球温暖化で平均気温は徐々に上がっているのは間違いないわけです。
例えばその結果として、日本だと秋とか冬にたくさん果実が実るようなことになっているんですが、そういった秋に実る果実の数とか、あと果実が熟すタイミング、気温によって早く熟したり、遅く熟したり、もしくは気温が下がらないと熟さないパターンがあったりするんですけど、そういったタイミングが変わってくることは予想されます。
そうなるとその果実をたくさん食べていた鳥たち、渡り鳥、今ちょうど夏鳥は南に帰って、冬鳥が北からやってくるような時期になるんですけど、そういった渡り鳥の移動パターンとか、そもそも通っていた所が変わったり、タイミングも変わってくるんじゃないかってことは考えられます。
今まで秋の果実と渡り鳥の間で見られていたつながりが変化していくことは考えられるんですが、じゃあどう変わるの? って言われると、なかなかすぐには予測ができないのが今のところの現状です」
●今回この本のおもなテーマになっている「動物散布」で、世界の研究者が注目していることってどんなことなんでしょうか?
「ひとつは、先ほどもあったような地球温暖化との関係で、温暖化することによって、そのスピードについていける速さで、自ら動くことのできない植物が移動することができるのか? だから動物がタネを運んでくれるのか? っていうことになります。
植物は動けないので、今までよりも生息環境の気温が上がると、より涼しい場所、例えば標高の高いところとか、あと日本であれば、より北のほう、そういった方向に向かって移動する必要があるんですけど、地球規模の環境変動に植物側なり、そのタネを運んでいる動物が対応していくことができるのかっていうところになると思います。
もうひとつは、私がタイでやっている研究とも少し関係するんですけど、タネを運ぶ動物がいなくなってしまうことで、生態系にどういった影響が及ぶのかっていうことの評価になります。具体的にいうと、タネをまく動物が絶滅していなくなると、その動物にタネまきを依存していた植物にも影響が及ぶんじゃないかっていうことが心配されています。
私が研究していたサイチョウっていう大きな鳥もそうなんですけど、大型の動物は私たち人間の、例えば狩猟対象になったり、あと森林伐採みたいな生息環境が破壊されることで絶滅しやすいグループになります。
こういった動物がおもにタネをまいていた植物は絶滅せずに、残っている動物が絶滅した動物と同じようにタネをまくことができるのか。それともやっぱりタネをまくことができずに、その植物が絶滅していくのか・・・で、そういった植物がいなくなると、結局その場所の植物の種類も多分変わっていくことになると思うんですけど、そういったことが起きていくのかが、多分興味を持たれているところじゃないかなと思います」
(編集部注:植物と動物の関係を、種子散布の視点で20数年研究している北村さんですが、それでもわからないことが多い、だからこそ、やりがいのあるテーマだとおっしゃっていましたよ。今後は今までタネをまく動物と考えられてこなかった生き物たち、例えばカメやトカゲなどの爬虫類、ナメクジやカマドウマなどの無脊椎動物などを調べてみたいそうです。
最新の研究では、ワラジムシやダンゴムシもタネをまいていることがわかってきているそうですよ。植物と動物の関係を明らかにすると、生物の多様性を理解するのにもつながる、そうおっしゃっていました。今後の研究に期待したいと思います)
INFORMATION
『タネまく動物〜体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで』
植物がタネをまく「種子散布」の中から、おもに「動物散布」に焦点を当てた一冊。原稿を寄せているのは北村さん、小池伸介さんを含め、その道の研究者、総勢18名。タネをまく哺乳類、鳥、そして昆虫などの小さな生き物、その3つのカテゴリーに分けて、それぞれの最新研究や知見をわかりやすく解説してあるので手軽に読めますよ。イラストレイター「きのしたちひろ」さんの、可愛くて親しみやすいイラストにも注目です。ぜひ読んでください。
文一総合出版から絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎文一総合出版:
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-7255-7/Default.aspx