2026/9/27 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、中禅寺湖の環境保全などを行なうNPO法人「レイクサイド・ストーリーズ」の理事「ショータ・ジェンキンス」さんです。
このお名前は活動名で、本名は今野祥太さん。イギリスに住んでいた頃の親友のファミリーネームを借りて、ショータ・ジェンキンスという名前で活動していらっしゃいます。
出身は千葉県。いちばん長く住んでいたのが梨の生産で有名な白井市。4、5歳の頃に父親に近所の池に連れて行ってもらったのがきっかけで釣り好きに。大人になってからはイギリスのほか、南米や北米、モンゴルや東南アジアなど、旅をしながら大好きな釣りを楽しみ、その模様をYouTubeにアップされています。
そんなショータさんは現在、地元の仲間たちと中禅寺湖の環境保全やヒメマスの復活を願う活動などに取り組んでいます。
きょうはその活動のほか、以前住んでいたロンドンの釣り事情についてもうかがいます。
☆写真協力:NPO法人「レイクサイド・ストーリーズ」

イギリスの釣り事情
※現在、中禅寺湖をメイン・フィールドに活動するショータさんは、栃木に移住する前は、ワーキングホリデーのビザを取得して、働きながらロンドンに住み、中心部の古い運河に日本にはいない肉食魚ノーザンパイク。中には1メートルを超える大物もいることを知り、毎日のように運河で釣りをしていたそうです。

ショータさんによると、街中での釣りのことを最近は「ストリート・フィッシング」と呼び、ヨーロッパで親しまれているそうです。ロンドンの運河には、家として活用している船「ナローボート」が停泊していることも多いそうですが、そんな場所にもパイクがいるそうですよ。
●ロンドンで魚釣りをする時は、日本でいう「遊漁券」のようなものを買うんですか?
「そうですね。なりましが日本とはちょっと違うんです。日本でいう環境省のようなところが発行しているフィッシング・ライセンス、釣り人として釣りをするんだったら、まず必ず買わなきゃいけないライセンスが決まっています。
その後、日本でいう遊漁券みたいなものは場所によって、フィッシング・クラブだったり、その川を管理している個人とかに払うっていう形になるんですね。ライセンスの制度は日本に比べるとかなり厳しかったりします」

●へぇ〜! イギリスの釣り事情をもう少し詳しく聞きたいんですけれども、課せられたルールとかマナー、河川の保全や魚の保護というのは、日本と比べて、どうですか?
「長年、釣りはしているとはいえ、今みたいな視点でイギリスのその仕組みをずっと見ていたわけではないんですけど、まず明確に違うのが、基本的に例えば、カナル=運河にいる動物というのはイギリスの女王の持ち物として、そこにあるものなので、勝手に持って帰るとか基本的にできないんですね。
それこそ街に飛んでいるハトも、あれは女王様の持ち物で食べるとかっていうのはできないんです。なので、法律でしっかり守られているのと・・・。
あとは(遊漁)券を持っているかどうかっていうのをチェックするのは、普通に警察の人もやるんですね。日本の場合、いわゆる漁協が発行している遊漁券を、持っているか持っていないかを警察がチェックするとか、持っていなかったら何か罰を課せるとかというシステムがたぶんないと思うんです。
海外では当たり前のように、一応きちんと罰則を含めて決まっているので、釣りをするんだったら、基本的にはそれに則ってやっているっていうのはありますよね」

●日本よりも厳しいイメージがあるんですね。
「そうですね。あとは仮にどこか有名な河川で、こういうふうにお金が使われていますよ〜とか、その川のシャケのDNAがほかの河川から持ってこられた魚と混ざったりしないように、その川独自の孵化場みたいなのを設けたりとか・・・。
今でいうサステナブルじゃないですけど、その川の魚を守っていこうみたいな仕組みは、たぶん日本よりは先をいっていたんじゃないかなと思います」
中禅寺湖、狙うは「レイクトラウト」
※栃木県・奥日光の入り口に位置する中禅寺湖は、日光国立公園内にあり、約2万年前に男体山の噴火による溶岩で渓谷が堰き止められてできた、せきとめ湖。
周囲は約25キロ、最も深いところで163メートル、そして標高1,269mに位置する日本一高い場所にある自然の湖です。そんな中禅寺湖は「マス釣りの聖地」と呼ばれていて、釣り人にも人気のスポットです。

●ショータさんは現在、「レイクサイド・ストーリーズ」のメンバーとして活動されていますが、ロンドンから帰国後、どういう流れで中禅寺湖に来て、さらに栃木に移住して、NPO法人の活動をすることになったんですか?
「最初のきっかけは、僕の友人が働いていた釣り具屋というかアウトドア・ショップ、栃木県とかに『ワイルドワン』というアウトドアの店があるんですね。そこで中禅寺湖の釣りを紹介している様々な写真とかポップを見て、たぶん帰国する前、一時帰国で帰ってくる時から、その魚の存在は知っていました。
ロンドンで釣っていたパイクによく似ているんですね、顔つきとか色とかが・・・。いつか釣ってみたいななんて思っていて、日本に本帰国していざ日本でいろいろ釣りをするってなった時に、釣ってみたいなって行ったのがきっかけですね」
●中禅寺湖のトラウトにはどんな魅力がありますか?
「こればっかりはどの釣りを好きになるのかとか、釣り自体好きになるのかを含めて、非常に先天的な面もあるかもしれないんですけれども、気づいたら中禅寺湖に僕はドハマりしてしまって・・・。

中禅寺湖で釣る魚は、レイクトラウトっていう魚がメインで、オフィシャルには中禅寺湖でしか釣れない魚なので、そういった面でもすごくプレミアムというか、釣り人としてはいろんな価値が中禅寺湖にはありますね。
個人的にはヨーロッパで見てきた、スコットランドだったりとか、そういうところの湖によく似ているんですね、見た目も気候も・・・。そういうのもあって、すごく勝手に縁を感じて、気づけばハマってしまったみたいな感じです。
メイン・フィールドと言っても、釣りをするのは年に2〜3ヶ月の話なんです。期間も決まっていますし・・・でもまあ、そうですね、ホームと呼んでいいのかわからないですけど、中禅寺湖ではずっと活動していますね」
●私は釣りに詳しくないので、いろいろ教えていただきたいんですけど、中禅寺湖はマス釣りの聖地と言われていますよね?
「そうですね。マス釣りの聖地とも呼ばれますし、あとはフライ・フィッシングの聖地という名前も、奥日光というふうに括るとあるんですね。
明治時代に初めて日本で西洋人がフライ・フィッシングというカルチャーと、あとは魚も海外から持ち込んだという経緯があって、奥日光の釣り文化が盛り上がったという歴史があります。それで聖地というふうに呼ばれるようになっていると思います」
●そういった背景があるんですね。中禅寺湖には何種類ほどの魚がいるんですか?
「本当に文字通り、マスなんですけれども、いま中禅寺湖にはたぶん7種類のトラウト、マス類がいます。ヒメマス、ホンマス、あとニジマス、イワナ、レイクトラウト、ブラウントラウトっていう種類がいるんですね。
基本的には120何年前までは、中禅寺湖には魚は一切いなかったと言われていて、下流の川からイワナを持ち込んだのがきっかけで、魚が棲むようになった場所です。歴史自体は非常に新しいというか、まだ100年ちょっとという感じなんですね」
(編集部注:中禅寺湖で釣りができる期間は、例年4月1日から9月19日まで。年間2万人以上の釣り人が訪れ、リピーターも多いそうですよ。まさに「マス釣りの聖地」なんですね)
ヒメマスの復活を願う
※ここからは「レイクサイド・ストーリーズ」の活動についてうかがっていきます。現在、おもにどんな活動をしているのか、教えてください。
「お陰さまで注目していただいているアップサイクル・プロジェクトは、最初は湖底清掃っていう名前で始めることになるんですけれども、今年でたぶん(湖底清掃は)4回目の開催になりますかね。
NPOができたのが4年前か5年前くらいで、その時に僕だけじゃなく、代表をやっている人間も含めて、それぞれ中禅寺湖でやりたいことだったりとか、中禅寺湖のために何かできないかなって思っていた人間がたまたま出会い、いろいろ人を紹介してもらったりで、ダイバーさんと出会ったりしながら、こういうことできるね、みたいになって、加速度的に動き始めたっていうところです。
最初は100年後とか、2100年を掲げたりとか・・・要は未来に今のマス釣りを残していこうっていうのがスローガンです。
意外と環境を守ろうというよりかは、もちろん環境を守っていくんですけれども、それ以上にあそこに根づいている釣りの文化だったりとか、地元の人たちと魚との関係みたいなのをまるっと残していきたいっていうところで、今行なっている湖底清掃で回収したルアーをアップサイクルするっていうプロジェクトと・・・。
あとは『ヒメマス・アクション』っていう、地元の人にとっては特産品というか、地元ではずっと親しまれてきた魚ヒメマス、その漁をやる人間たちからすると、その魚がここ何年か急激に減っているということで、その魚の発眼卵放流とかも含めて、今はそのふたつが二本柱で活動をしていますね。
●ヒメマスは、今は急激に減っているっていうお話ですけれども、ほとんどいないんですか?

「そうですね。昔は毎年秋になると、流入河川に真っ赤になったヒメマス・・・紅ジャケみたいな魚で、秋になると真っ赤になる魚なんですけど・・・その魚が遡上してくる姿が風物詩だったんですけど、ここ6年7年は数匹の年もあれば、数十匹みたいな時もあったりで明らかに減っています。
いろいろ原因は考えられるんですけど、まだ明らかにはなっていなくて、それを明らかにしていくっていう観点からっていうのと・・・。
あとは漁協さんが行なっている方法とはちょっと違う形で、卵を放流することでプラスに働くんじゃないかなとか、いろんな試験的なところも含めて、冬になるとだいたい11月・・・今年はちょっとできないんですけど、毎年秋になると流入河川の1本をみんなでちょっと掘ったりして、卵を埋めてヒメマスが孵化して、遠くのほうに下っていくのを見守るみたいなこともやってるんですけど・・・」
●釣り人としては、やはり天然のヒメマスをたくさん釣り上げる未来を想像されていますよね。
「そうですね。ヒメマスに関しては釣りだけじゃなくて、やっぱり地元の漁協の組合員さんたちが・・・そもそもヒメマスをみんなで獲ってそれを食べたりとか、お店に出したりっていうことをするために集まった組合が漁協なので、昔のようにヒメマスがいっぱい獲れるようになるのが、いちばん地元の人にとってはいいことで、栄華を取り戻せるんじゃないかなっていうのは、ひとつ大きなテーマでやっていますね」

(編集部注:先ほどお話に出てきた「ヒメマス」の発眼卵放流(はつがんらんほうりゅう)、これは受精後に、卵の中で黒い目が確認できるほど成長した卵を放流すること。「レイクサイド・ストーリーズ」では3年前に初めて放流し、今年その成果が見られるかもしれないということで期待していましたが、今のところ、今年は確認できていないそうです)
ルアーを「クマ鈴」にアップサイクル
※先ほど話していただいたアップサイクル・プロジェクトの清掃活動は、湖に潜ってゴミを回収するんですか?
「そうですね。まさにその通りで、ダイバーさんに潜っもらって、”根掛かり”て言って、しょうがないで片付けてもいけないんですけど、やっぱり釣りをしていると、どうしても障害物だったり、水の底にルアーとか糸が引っかかって切れてしまうっていうことがあるんですね。

そういった形で水中に放置されてしまったルアーと釣り糸を回収するのが湖底清掃で、ダイバーさんに潜ってもらって、絡めて引っ張り上げてまとめたのを、今度は船の上の回収班がそれをどんどん引き上げていくっていう形でやっているんです」
●具体的にはどんなゴミが多いんですか? やはりルアーとかですか?
「我々はやっぱり釣り人の力で、まずはアップサイクルをしなきゃいけないっていうのもあってやっているんですけれども、正直9割ぐらいは一般のゴミです。ビニール袋とか空き缶とかビンとか・・・。
中禅寺湖って実はゴミが本当に少ない湖で、陸地のゴミってほとんどないんですね。ただどうしても、雨とか風で湖に流れて沈んでしまったゴミは、これまで回収しようがなかったと思うので、かなりの量が沈んでいます。
本当に目につくものとか、釣りゴミに絡めて取れるものはいろいろ回収しているんですけれども、そういった一般ゴミもゼロにできるのは、もうちょっと先の話かなって感じです。今はまずは釣り糸とか根掛かりをメインに掃除しています」
●回収したゴミの何をどうアップサイクルされるんですか?
「アップサイクルしやすいと言いますか、いちばんよく使われているルアーの種類に”スプーン”というルアーがあります。その名の通りアイスクリームを食べたりとかするスプーンに形状が似ているカップ状の金属なんです。
その素材がほとんど真鍮でできていて、それを集めて分別して溶かして、”クマ鈴”に替えるっていうのが、今のいちばん大きなアクションというかプロダクトにしていますね」
●アップサイクルにする狙いっていうのは?
「ボランティアが集まって掃除しようっていうのは、すごくいいことで、ちょっとはやれるとは思ったんですね。でもやっぱりそれって、やれるボリュームとか期間とかには限界があると思っています。
自分たちの力だけで(活動を)回していくためには、やっぱり何かを作って販売するとか、NPOの補助金とか寄付金だけじゃなくて、自分たちで仕組みを作っていきたいねっていうのを最初から考えていたんですね。
今後何か販売していけるプロダクトにしたいなっていう時に、まず最初にやってみようってなったのが”クマ鈴”です。理想はそのクマ鈴を今後販売して、販売した利益を元手に、ダイバーさんに潜ってもらったり、次のクマ鈴の制作費に回したりっていう形で回っていけば、本当の意味でサイクルが生まれるのかなっていうのを目指してやっています」
(編集部注:湖底清掃の頻度は、今年は3日間の日程で4回の開催、計12日間。このあとは10月初旬に2回開催する予定だそうです。湖底清掃の模様は「レイクサイド・ストーリーズ」のオフィシャルサイトをご覧ください)
仲間をもっともっと増やしたい
※3年ほど活動されてきて、課題として感じていることは、どんなことでしょうか?
「もっともっとやっぱり関わる人は増やしていって、規模を大きくしなきゃいけないなっていうところが、まずはいちばんの課題なのと、あとは湖底清掃とヒメマスに関することが二本柱だと言ったんですけど、中禅寺湖が抱える釣り人とか水辺、あとは川にまつわるさまざまな問題はまだいろいろあります。
最近で言うと、中禅寺湖に流れ込む湯川っていう川で、外来植物の『オオカワヂシャ』とか『コカナダモ』っていう植物が増えて、在来の水草が減ったり・・これが影響しているのかはわからないけど、すごく泥が溜まってしまうようになったりとかっていうのもあるんですね。
我々も中禅寺湖に流れ込む川の問題なので、ゆくゆくは湖の問題だなっていうことで、そういった外来植物の駆除活動も、環境省さんとかと一緒にやらせてもらったりはし始めているので、今後はたぶんやりたいことはどんどん増えると思うので、どんどん仲間が欲しいなと思っています。
あとは今は根掛かりを回収するほうに、ベクトルがずいぶん向いているんですけれど、根掛かりを回収することで、次の根掛かりを減らしているっていうことにもなっています。
湖の底に残った釣り糸にまた引っかかって、また根掛かりが生まれているので、未来の根掛かりを外すって言う意味では、今の湖底清掃プラスさまざまな発信とか少しルールとかを設けることで、今度は新しい根掛かりもどんどん減らしていくっていう取り組みも、やっていかなきゃいけないなっていうのは感じています」

●では最後に「レイクサイド・ストーリーズ」の活動を通して、どんなことを伝えていきたいですか?
「やっぱりこれって好きじゃなきゃできないというか縁があって、我々のメンバーはみんな中禅寺湖に特別な愛とか思いを描いてやっていると思うのですけど、どこの湖でも起こりうる問題だし、たぶんどの湖にも我々みたいに、その湖のことが好きでしょうかない人たちがいっぱいいると思うんですね。
僕たちがほかの湖にも行こうなんていうのは時間的に無理な話なんで、”こういうことをやっている人いるんだ”とか、”うまくいっているんだ!”っていうふうに僕らが何かいい影響を及ぼして、こういうことをする人たちがほかの湖とか川でも増えてくれたらいいな〜っていうのは常に思っています」
INFORMATION

中禅寺湖のより良い未来を創ろうとしている「レイクサイド・ストーリーズ」の活動に共感されたかたはぜひご支援ください。寄付もちろんなんですが、ショータさんは、仲間を増やしたいという思いから、サポーター登録を希望されています。サポーターになると活動報告やオリジナルのステッカーが届きますよ。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎レイクサイド・ストーリーズ:https://lakesidestories.jp/
ショータさんの国内外での釣りの動画はYouTube「ジェンキンス・チャンネル」を見てくださいね。
◎ジェンキンス・チャンネル:https://www.youtube.com/@Shota_jenkins
ショータさんは、釣りのウエアやルアーなどを取り扱うオンラインのブランドショップPIKE STREET MARKETを運営されています。そのオフィシャルサイトもぜひご覧ください。
◎PIKE STREET MARKET:https://store.pikestreetmarket.com/
2026/9/20 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「農研機構 遺伝資源研究センター」の上級研究員「内藤 健(ないとう・けん)」さんです。
内藤さんは1978年、滋賀県出身。京都大学大学院で農学の博士号を取得。現在、農研機構での研究のほか、東京大学大学院で客員教授として講義も担当されています。
茨城県つくば市にある「農研機構」は、食料・農業・農村に関する研究開発を行なう国立の機関です。その農研機構で遺伝資源の研究などに取り組んでいる内藤さんは、日本人には馴染みのあるアズキの研究で世界からも注目されている研究者です。
そんな内藤さんがこの春『アズキの起源』という本を出されたんですが、この本が先頃「第42回 講談社科学出版賞」を受賞。そのタイミングで番組にお迎えすることになりました。
実は内藤さんによると、最終候補となった5作品の中からの受賞だそうです。ほかの作品は、宇宙や生命といった壮大なテーマの本だったのに対し、アズキは最初から名前負けしているから、これは選ばれないと思っていたら、受賞の知らせが届き、びっくり! とても嬉しかったそうですよ。
きょうは、アズキがいったいいつ頃、どこで生まれたのかを突き止めた研究のほか、聞いて面白いアズキの雑学についてもうかがいます。
☆写真:内藤 健

「ジーンバンク」=作物版「ノアの箱舟」
※受賞作『アズキの起源』に沿ったお話の前に、内藤さんが勤務されている「農研機構 遺伝資源研究センター」は「農業生物資源ジーンバンク」と言われる事業をメインに行なう研究機関だそうですね。このジーンバンクとは、どんな事業なんですか?
「ひとことで言ったら“ノアの箱舟”の作物版とか食べ物版というか、そういう施設なんですよね。イネとかムギとかダイズとか、そういういろんな作物を世界中のいろんなところから集めてきて、整理して保存しておく施設になります」
●保存している農作物の遺伝子資源の内訳は、どんな感じなんですか?
「イネが4万点、ムギが6万点、ダイズも1万点で、僕がやっているアズキだと3千点とか、そんな感じの内訳になっていますかね」
●すごい数ですね?
「すごい数ですよね」

●保存しているのは、タネってことですか?
「まあそうですね。いちばん多いのはタネなんですけども、タネでは置いておけないジャガイモとかサツマイモとかは、イモで保存します。
ウシ、ブタ、ニワトリなど家畜の精液なんかも保存しますし、あと害虫とか、人間の生活に関係のありそうな動植物は、だいたい保存するというのが目的の機関ですね」
●このジーンバンクというのは世界各国にあるんですか?
「すべての国にあるかというと、そうでもないかもしれないですけど、持っている国は多いんじゃないんですかね」
●日本のジーンバンクは規模的に世界から見ると、どんな感じなんですか?
「まあ有数ですかね。アメリカ、中国、ロシア、インド、この4つは(遺伝資源を)むちゃうくちゃたくさん持っていて桁違いなんですけど、その次を争う国のひとつが日本という感じです」
●遺伝資源を集めてくるのは、ジーンバンクの研究者のみなさんということなんでしょうか?
「基本的にはうちの研究所で探索隊みたいなのを結成して、日本国内だったり、たまには世界の果てみたいなところに行ったりと、そんな感じです。そこら辺に植わっている作物をとにかく集めてこよう! というそういう感じで集めてきます」
●内藤さんも実際に行かれたことはあるんですか?
「はい、何回か行ったことありますね。行くときは頑張って集めてきます」
●どちらに行かれたんですか?
「いちばんきつかったのはミャンマー・・・とんでもない山奥に派遣された時ですね」

●何がどうきついのでしょうか?
「最初に“行ってこい!”って言われた時に、まず“電気も水道もないところやから、ちゃんと準備していくように!”って言われたんですよね。ちゃんとって何? みたいな・・・(笑)。
すごく大きいカバンに3週間分の着替えと、あとは険しい山道でも歩けそうな靴とかテントに寝袋に、そういうのも全部買い揃えて行くっていう・・・行ったところは、ほんまに電気もガスも水道もない。水は雨水を貯めたようなのを使うとか、そんな感じでした」
●そのミャンマーからは、どれくらい持って帰ることができたんですか?
「150点くらい集めてきたんですけど、見たこともないような珍しいトウガラシだったり、お米もたくさん集めましたね。

自分がやっているのは野生のアズキの仲間なんですけど、車で移動している間、ず~っと道端を見て、僕の研究対象になっている植物が生えていないかって、ず~っと見ながら旅をしていたりという、そんな感じでしたね。
すごく景色が綺麗で、珍しい食べ物もいっぱいあって、それは楽しかったんですけど、まあしんどい(苦笑)・・・日没と共に寝て夜明けと共に起きるみたいな生活を2週間しなきゃいけないっていうは、なかなかしんどかったですね」

(編集部注:農研機構では、およそ24万点の農作物の遺伝資源を保存してあるそうです)
アズキと運命的な出会い
※内藤さんは、本のタイトル通り「アズキの起源」を明らかにした研究者として権威ある科学雑誌「サイエンス誌」にその論文が掲載されるなど、世界的に注目されています。
もともとアメリカの大学でイネの研究をされていた内藤さんがアズキの研究をすることになったのは、いまの職場「農研機構 遺伝資源研究センター」に入ったことが大きかったですか?
「そうですね。ここに就職しなかったら絶対やらなかっただろうと思いますね。イネの研究でほかの大学のポストを狙っていて、そこを落とされて、滑り止めで受かったのが今の職場なんですよね(苦笑)。
たまたま入ったところの上司がアズキの研究者だったという縁があってアズキの研究することになったと・・・きっかけはそんな感じですね。
(農研機構に)入ってその上司がやっていたのは、アズキっていうよりは野生のアズキの仲間なんですけども、入った初日にその上司のコレクションをパッと見せられて、ものすごい多様性だったんですよね。
“ここに今植えられている植物は、全部同じ種だ!”というふうに言われたんですけど、見た目がもう全部、全然違うやんけ! ってなったんですよね。
葉っぱが丸いのもあったら、針みたいにすごく細いのもあったりして、見た目がまず全然違うと・・・見た目の違いはその環境ですかね。それぞれの系統が生えている環境の違いで、自然選択というか、その環境に合わせて進化してきたようなものだと思ったんですよ。
こんだけいっぱいあって、それぞれいろんな異なる環境に生えていて、異なる進化を遂げている。でもみんなアズキの仲間っていう、バックグラウンドは共通しているのに、その末端のところが全然違うっていうのが、“これは面白い!”って思ったんですよね」
●アズキだけで、どれくらいの種類だったんですか。
「え~っと106種、上司の友岡さんが集めていたのが、アズキだけで3千種、アズキの仲間まで入れると7千500種とかそれくらいやったかな。すごい数ですよね!
おもに友岡さんがひとりで集めていたっていうような感じで、“俺、これ使って研究していいんや!”みたいな、第一希望を落ちてよかったなとさえ思うくらい、ほんま運命感じるくらいの出会いでしたね」

縄文人がアズキを栽培!
※その後、内藤さんはアズキの研究に心血をそそぎ「アズキの起源」を明らかにされたわけですが、具体的にはどんなことを明らかにされたんですか?
「アズキってたぶんだいたいの人は、中国から朝鮮半島を経て日本に入ってきたというような、イネもそうですし、ムギもそうですし、そういうほかの作物と似たような経緯で日本に入ってきたやろうなと思っている人が多かったでしょうし、僕自身もそう思っていたんですね。
でもそうじゃなくてアズキは、稲作が日本に入ってきて弥生時代が始まるんですけど、それより前の縄文時代に縄文人が日本列島でアズキの栽培を始めていた! っていうことですね。
その日本生まれのアズキが逆に中国に広がっていったんだよ! という、ほかの作物とは起源も伝わった経緯も逆っていう、それを明らかにしてしまったんですよね、僕が!(笑)。いや〜もうびっくりでしたけど、“そんなことあるんや!”みたいな・・・」
●アズキの起源を、どんな手法を使って明らかにされたんですか?
「ゲノムというDNA分析というやつですね。僕が所属する農研機構ジーンバンクには、アズキのコレクションがありますので、アズキの祖先のサンプルも、今栽培されているアズキのサンプルも、全部DNAを抽出して、そのDNAの配列をお互い比べるっていうことをするんですよね。
DNA配列は、ひとりひとりの個性を決めるような設計図みたいな働きをしていますんで、みんな少しずつ配列が違うと・・・親子関係みたいな近縁の者同士だと。すごく配列は似ているし、遠くの親戚とはだいぶ違うっていう、そういう配列がどれくらい似ていて、どれくらい違うかを総当たりで比較して、こいつとこいつは近い、こいつとこいつは遠いみたいなところから祖先をたどっていう、そういうことをします」
●研究でいちばん大変だったことって、どんなことですか?
「いちばん大変だったのは、最初にDNA解析をした時にパッと見、どう見てもアズキの起源は中国やん! っていう、そういう結果が出てきたんですね(笑)。普通の人が解釈したら、これは中国起源としか考えられないっていう結果が出てきたんですけど、でもそれをよく見るとちょっと怪しい・・・この結果をこのまま信じたらあかんのちゃうか? っていう結果になっていたんですよね。
そこから一回疑って、もうちょっとディープな解析をしたほうがいいじゃないかっていう流れになって、やってみたら、すごい大逆転ですよね。やっぱり日本起源やん! っていうことが明らかになって、あの瞬間がめちゃくちゃ気持ちよかったというか・・・」
※大逆転のきっかけはなんだったのか・・・それは「葉緑体・ミトコンドリア」! 内藤さんによると、当初は細胞の中の、核のゲノムだけを見て研究していたそうですが、核のゲノムは、父親と母親から半分ずつ受け継がれるのに対し、葉緑体のゲノムはお母さんから丸ごとコピーしたものが受け継がれ、交雑をしても混ざることはない。これに着目したこと。
では、具体的に説明をお願いします。
「同じ畑に植えて、そこから収穫したタネを植え続けるということは、結局、現代のアズキにも、いちばん最初に栽培され始めたアズキの葉緑体・ミトコンドリアが受け継がれているんじゃないか、という事実をハッと思い至って、実際調べてみると本当にそうだったと。
日本のアズキも中国で栽培されているアズキも、果てはネパール、ブータンまでアズキって広まっているんですけど、そのネパール、ブータンまで運ばれていったアズキも、みんな葉緑体を見ると日本のヤブツルアズキ、日本の祖先種と同じ葉緑体を持っていたということだったんですよね。

ということは、日本の祖先種から最初のアズキが生まれて、そのアズキを誰かが中国に持って行き、それがさらに果てはネパール、ブータンまで運ばれていったという、そういうことになるということだったんです。100%の証明じゃないんですけど、これが個人的には決定的な決め手になったといいますか、それが逆転の一発目だったわけですよね」
(編集部注:アズキの研究を2019年に始めた内藤さん、2025年に論文を発表されていますので、アズキの起源を明らかにされるまでに約6年を費やしたということです。
内藤さんによると、縄文時代はクリやドングリのほかに、原始的なアズキやダイズも食べていたことは、考古学の研究者の間では、いまや常識だそうですよ)
アズキにまつわる内藤家の因縁
※内藤さんは番組の最初のほうでアズキの研究をすることになったのは、運命的だとおっしゃっていましたが、アズキとの因縁は、内藤さんのご先祖様までさかのぼるそうですね?
「そうなんですよね(笑)。僕、全然知らなかったんですけど、”内藤家は徳川家康の重臣やった人の末裔なんやでと。今、田舎ですごく貧乏しているけど、それは江戸時代から明治時代に変わった時に、あんたのひいひい爺さんがアズキの先物取引に手を出して、すってんてんになったからや!“ってことを言われまして、えっ! ってなって・・・なんか財産運用に失敗したっていうのは聞いていたけど、アズキやったん! みたいな感じですよね(笑)」
●運命ですね(笑)
「ほんまですよね(笑)。最近さらに知って怖くなっているのが、徳川家康の重臣だったいう『内藤正成』っていう武将がいるんですけど、その人が最初に名を挙げた戦いっていうのが『小豆坂(あずきざか)の戦い』っていうらしいんです(笑)」
●すごいですね~!(笑)
「因縁深いにもほどがあるやろうと! いう感じで、ちょっと怖くなっていますね、はい・・・」
●話は変わるんですけれども、大豆は漢字で書くと、大きな豆と書いて “だいず”ですよね。小豆は小さな豆と書いて“あずき”と読みますけど、これは“しょうず”とは読まないじゃないですか?
「そうですよね」
●これはどうしてなんですか?
「不思議ですよね。確かに小豆業界の人たちは“しょうず”って読むんですけど、自分の扱っている商品のことを。でも“アズキ”って言うじゃないですか。アズキっていう言葉自体は『やまとことば』というか、漢字が日本に入ってくるより前から、日本に住んでいた人たちは、小豆のことを“アズキ”と呼んでいたということなんですよね。
その語源は諸説あるんですけど、どの説を見てもアズキの“あ”は、赤から来ていると、赤色の“あ”やと・・・“ずき”っていうのが、火が通りやすい、火が通って煮崩れしやすいとか、柔らかくなるとか・・・あとは赤い粒がなる植物『アカツブキ』から転じて、“アズキ”になったとかはあるんですけど・・・。
なんにせよ、アズキの“あ”は赤から来ていると・・・なので、アズキっていう言葉が成立したころにはアズキって赤かったと、そうとう昔から赤かったんちゃうか! みたいなことは、アズキの名前からも想像できるというか、そんな感じがしますよ」
(編集部注:内藤さんたちの研究チームは、赤いアズキはおそらく1万年前から存在していたことも明らかにしたそうです)本には、このワカケホンセイ インコの解説も詳しく載っていますので、ぜひ読んでみてください)
アズキもクリも日本オリジナル
※今後の研究対象や、明らかにしたいことはなんでしょう?
「今ひとつちょっと面白そうだなと思っているのは、アズキって日本や中国とか東アジア一帯で栽培されているんですけど、日本のアズキだけ、やたらでかいんですよね。
でかくなった変異というか原因の遺伝子は何か? とか、日本人が大きいアズキばかりを好んでより分けていったのは、いつ頃からそういうプレッシャーをかけてきたのか? みたいなのを明らかにできると、面白そうかなというのはあります。
あと、考古学関連だとアズキだけじゃなくて、クリも縄文時代からの作物としては結構有力どころで、日本のクリが少なくとも日本起源というのは間違いないんですよね。
中国にもクリはありますけど、日本のクリと中国のクリは種として別種なので、中国のクリは中国で栽培化されているし、日本のクリは日本で栽培化された、日本に起源があるというのは間違いないと言えます。
ただそれが日本のどこで、いつ頃かっていうのはちょっと面白そうではあるので、その辺も追々っていうか、もうそろそろ発表できるかなというところですけどね。
まあなんにしても和菓子の二大プレイヤー、二大エースみたいな存在がどっちも日本起源っていうのが面白いというか、そんなところに日本オリジナルが残っているんや、みたいなっていうのはちょっと面白いですよね」
●研究者として大事にしていることってなんですか?
「研究者として大事にしていること・・・ワクワク感ですかね。自分だけじゃなくて、自分の周りに話しても“それ、おもろいな~!”って言ってもらえそうみたいな、そういうのはやっぱ大事にしたいですよね」
●最後にこの本『アズキの起源』に込めた思いを教えてください。
「この本はとにかくやっぱり、みなさん基本的にアズキもほかの作物と同じ中国起源だと思っていらっしゃるかたが多いと思うので、その常識をとりあえず壊したい。なるべく多くの人にアズキは日本の作物なんだよっていうのを知ってほしいと思って書いた本です!」
INFORMATION
「講談社科学出版賞」を受賞した、科学的な研究本としての充実度に加え、内藤さんのプライベートなことも散りばめられていて、人となりを垣間見られる読み物としての面白さも秀逸です。ぜひ読んでください。
東京書籍から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください
◎東京書籍:https://www.tokyo-shoseki.co.jp/product/books/81888/
農研機構のオフィシャルサイトもぜひ見てください。
◎農研機構:https://www.naro.go.jp
2026/9/13 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。
「柴田」さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球・ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く手掛け、2005年からはフリーランスとして、本や雑誌の執筆、講演活動など、幅広く活動されています。
鳥の専門家で、特に都会に暮らす野鳥「都市鳥」の観察や研究を続けている柴田さんには、私、小尾がこの番組を担当して間もない2019年11月にベイエフエムのすぐ近くにある公園でロケを行ない、バードウォッチングの手ほどきを受けた野鳥観察の先生なんです。
そんな柴田さんが先頃、新しい本『鳥たちはなぜ都会を選んだのか〜都市鳥ウォッチング図鑑』を出されたということで、改めて、番組にお迎えすることになりました。
きょうは、都市鳥と言われる野鳥の実態や、なぜ都市という環境を選んで生きているのか、その背景についてもうかがいます。
☆写真:柴田佳秀、協力:山と渓谷社

表紙に注目! 象徴的な都市鳥
※新しい本『鳥たちはなぜ都会を選んだのか〜都市鳥ウォッチング図鑑』は、バード・ウォッチングの専門誌『BIRDER』に連載されている記事をまとめた本なんですよね。カラーのイラストがリアルで素敵ですね。
「表紙がいいんですよ。帯でちょっと隠れちゃってるけど、帯を取るといろいろ出てくるんですよ。ここに象徴的な鳥が並んでいます。人は僕ですけどね」

●柴田さんがいますね!
「街の中でバード・ウォッチングをしているというところですね。いちばん大きく描いているのが都会の、都市鳥の帝王というハシブトカラス。で、ツバメがやっぱり人のそばにいちばんいる鳥ですね。下にスズメがいて、横に最近、コンビニの鳥と言われているハクセキレイがいて、あと森の鳥が増えているので、シジュウカラとかエナガとか、上でイソヒヨドリが・・・」
●あ、鳴いていますね!
「で、ドバトをハヤブサが襲っていると、これはまさに象徴的なシーンですね」
●都会で、こんなに様々な鳥たちを見ることができるんですね!
「そうですね」
●柴田さんは都会に暮らす鳥、都市鳥の研究をされていますけれども、都市鳥に注目されるようになったのは、どうしてなんですか?
「子供の頃、小学校5年生から鳥を見ているんですけど、最初はやっぱり普通のバード・ウォッチングをして、珍しい鳥を見たり、きれいな鳥を見たりとか・・・あと1日に何種類見られるかとか、そういうことに興味を持ってやっていたんですけど、大学生の時かな・・・家の庭の戸袋のところにキジバトが巣を作ったんですよ。こんなとこに巣を作るんだなと思って観察していたら面白くなって・・・」
●都市鳥を観察するようになって、何年ぐらいになるんですか?
「だから40年ぐらい」
●すごいですね! 都市鳥の定義っていうのはあるんですか?
「都市鳥の定義っていうのは、あってないようなもので、いちおう都会の中で暮らしている鳥、都会の中でいろいろなものを利用して暮らしている鳥を都市鳥という呼び名にしています」
●都会といっても、ビルがあったり公園があったり、住宅街、雑木林とかいろいろあると思うんですけれども、環境的には多様ですよね。
「そうですね。そこに実はあやふやな部分があって、何を都市というのか、また都会というのは何というか難しい問題で、23区の山の手の中は大都会で異論はないと思うんですけど、例えば地方都市とかいろいろありますよね。
そういうところは意外と山が近かったりするから、山の鳥が都市部に出張に来たりすることもあるので、それを都市鳥というかどうかというのは判断が難しい。
もうひとつ、23区の中でも皇居とか明治神宮とか、すごく大きな森がありますよね。あれを都市環境と言うかというのは、いろいろ異論はあると思うんですけど、今回は都市の中にある緑ということで、人工的に作った緑ということで含めています」
●都市鳥といえる野鳥は、何種類ぐらい確認されているんですか?
「本当に純粋な、都市で暮らす鳥というのは大体50種類ぐらいです。その中の代表的な45種類を今回(本で)紹介しています」
都市鳥と、人と社会の変化

※柴田さんが観察を始めたころに比べると、都市鳥は増えているんでしょうか?
「増えた減ったって結構、難しいんですね。種類によっては増えているのもいるし、減っているのもいます。
よくスズメが増えたとか減ったとかって言いますよね。あれはスケールによって変わるので・・・スズメの場合は全国的に見ると減っているんです。それは資料統計とかそういうデータを使って調べると、1960年代とかに比べれば、激減しているというデータがあって、それで減っているって言われるんですけど、都心部に限ると実は今増えているんですね。
みなさんの減った増えたっていうのは、まさに印象なんです。それは自分の生活している範囲だけの話なので、そこはスケールが、分母が違っちゃうと変わるので、増えた減ったって判断が難しいんですね。ただ、種類で言うとやっぱり40年前に比べると、だいぶ(都市で)いろんな種類が見られるようになっています。
この都市鳥という言葉は1982年にできたんですけど、70年代から82年っていろんな鳥の動きが都市で見られるようになったんですね。その時に都市って生き物はいないんだよねという常識の中で見てたら、意外といろんな鳥がいるよねって気がついた人たちが何人かいて、その人たちが情報を集めようとして『都市鳥研究会』という、僕が今所属している研究会を1982年に作ったんです。

その頃、ほかの研究者から、スズメとカラスぐらいしかいないのに何を研究するのって言われたらしいんです。でも意外と調べてみるといろんな鳥がいるし、都市鳥研究会を作った人たちですら、想像できない鳥たちが結構現れ始めたという流れがあるんですね。
40年前ってそんな前じゃないような気がするんですけど、考えてみたら40年経ってんのかっていうのが最近の感想です」
●本当に(都市も)多様な環境ですから、今後10年とかで、さらにいろいろ変わっていきそうですね。
「そうですね。それで何で変わっていくかというと、ひとつに社会が変わっているんです。同じ都会、都市でも我々の生活の仕方がだいぶ40年前から変わっていますよね。街にいろんなものができたりとか、例えばここ(海浜幕張)も80年代は埋め立て地で空き地で、このビルもたぶんなかったと思うんです。
幕張メッセはできたぐらいで、空き地がいっぱいあって・・・僕は80年代から90年代ぐらいに、ここで調査をしたことがあるんですけど、ここにはいっぱい鳥がいたんですよ。シギやチドリとかコアジサシとか・・・。
千葉市の鳥のコアジサシはここにたくさんいて、僕が千葉市の鳥のコアジサシのプロモーション・ビデオをここで撮っているんです。そこのメッセとか、その辺の打瀬とかはコアジサシの繁殖地だったんですよ」

●そうですか。今はそれほどは見られない・・・?
「コアジサシは繁殖地がすごく少なくなって、今は絶滅危惧種です」
●変わってきちゃっていますね。
「だから人の振る舞いというか社会の構造の変化で、鳥たちは追い風になる時もあるし、向かい風になる時もあるんですね」
「コンビニの鳥」ハクセキレイ

※それでは、新しい本『鳥たちはなぜ都会を選んだのか〜都市鳥ウォッチング図鑑』の中から、いくつかピックアップしてお話をうかがっていきます。
ここ海浜幕張でもよく見かける「ハクセキレイ」という小型の野鳥、本では「コンビニの鳥」という表現をされています。それはどうしてなんですか?
「僕が命名したわけじゃないんです。コンビニの鳥ってなんで言うようになったか、SNSを見るとそう書いてあるんです(笑)。『#コンビニの鳥』とか、あと『駐車場の鳥』とかね。
おそらくコンビニの駐車場に行くと、白いテケテケ走る鳥がいて、みんな、何これ?って・・・で、逃げないのでスマホで写真を撮れるんですね。結構かわいいんですね。それでコンビニの鳥というふうなキャッチフレーズがついたらしいです」
●あのトコトコ歩いている小型の鳥ですよね。どんな習性の野鳥なんですか?
「セキレイの仲間ですね。セキレイと言うと、だいたい昔のイメージで言うと川にいる鳥というイメージがあって、それはキセキレイという鳥なんですけど、ハクセキレイはどちらかというと乾いたところでもいる鳥なので、街の中の環境でも結構柔軟にいろんなものを捕れるみたいですね。
で、面白いのは寝るところが繁華街なんですね。僕は千葉県の柏に住んでいるんですけど、柏のデパートの前の街路樹に500羽ぐらい寝ているんです。それもわざわざ人がいっぱいいるところで寝るんです。こうこうと電気が点いていて・・・」
●明るくて騒がしいですよね?
「そう、そういうところのほうがおそらくフクロウとかそういう天敵が来ないので・・・人は危害を加えないってわかっているんですね。
わかっているというより、今都会の人たちって生き物のセンサーが非常に鈍いので、生き物がいても気がつかない人たちがほとんどなんです。僕みたいな気がついちゃう人っていうのは、(彼らにとっては)非常に迷惑らしいんですけど・・・(笑)
ですから、どちらかというと人間がいても空気なんですね、鳥にとって。気にならないんですよ、関心を示さないから。ひとたび関心を示すとバッと逃げますから。だからそういった無関心のところをうまく利用しているのが、都市の鳥のひとつの特徴です」
野鳥界のアイドルが電線に!?
※野鳥界のアイドルといわれている「エナガ」も都心に進出しているんですね。もともとは森にいる野鳥ですよね?

「森の鳥で基本的に森がないところには、今でもいないです。だけど、それでも明治神宮とか孤立した大きな森に、かつてはいなかったんですが、今はいるようになって繁殖もしているんですよね。新宿御苑なんかも人がすぐいるところに巣があったりとかしています。郊外の都心部じゃなくて近くに山があるようなところの住宅街なんかも結構出てきます」
●そうなんですか!
「うちなんかもそうなんですけど、(本にも)書いてある通り、自宅で窓を開けて原稿を書いていたりすると、エナガが・・・“ジュリジュリジュリ”って鳴くんですけど、その声が聴こえてくるんです。
“あっ、エナガが来た!”って見に行くと、ちょうど今頃9月ぐらいだと、特に多くて、なんでなんだろうなと思ったら、サルスベリって木がありますよね。サルスベリにしかつかないカイガラムシっていう害虫がつくんです。
カイガラムシって小鳥が大好きなんです。なぜかというとカイガラムシの“カイガラ”って蝋物質なんですね。あれは脂質なんですよ、油なんです。で、すごくカロリーが高いんで(エナガが)大好きなんですね。それを狙ってくるんです。見ていると庭にあるサルスベリを(エナガが)点々としているんです。どっかでわかったんでしょうね」
●でも家のお庭で見られるようになるとはすごいですね。
「すごいですよね。びっくりしましたよ」
●森の中にいた鳥なのに!
「エナガが目線に・・・うちはマンションなんですが、電線にみんな並んだりとかして・・・(笑)」
●猛禽類のハヤブサが都市のビルに棲んでいるのは、どうしてなんですか?
「ハヤブサって、もともと崖の鳥なんですね。どういうところに多かったかというと、日本で崖があるところって結構、海岸線が多いんですね。なんで海岸線の崖にいるかというと、そこは獲物を獲るための見張り場です。
どういう鳥を獲るかというと、ハトとかヒヨドリとか、そういう鳥専門なんですね。そこで見張って、近くを飛んだやつをものすごいスピードで追っかけて獲るっていうのが、ハヤブサの生活の仕方なんですね。
そのやり方を実は都市でも応用できることに気がついちゃったハヤブサがいて、都市にはハトがいっぱいいますよね。あれがいちばんぴったりな獲物なので、それで崖と同じビルの上に留まって、近くでハトが飛んだらピューって(飛んで)獲る・・・ハヤブサは行動範囲がすごく広い鳥なので、神出鬼没なんですね。
だから必ずそのビルにいるってわけではなくて、駄目だったらどっかにいっちゃうんです。今けっこうタワー・マンションがあるところは(ハヤブサが)います」
(編集部注:柴田さんによると、猛禽類のハヤブサは海外でも同じように高いビルのある都市に暮らしているそうです。

また、本来はインド南部やスリランカに分布している大型の緑色のインコ、日本では外来種になる「ワカケホンセイ インコ」が東京以外にもロンドンやベルリン、LAなど世界の大都市に定着しているとか。
その理由として、これは柴田さんの仮説ですが、1970年代にインコを飼うブームが世界的にあり、逃げ出した個体が寒さにも強い性質があったため、繁殖したのではないかということでした。柴田さんの本には、このワカケホンセイ インコの解説も詳しく載っていますので、ぜひ読んでみてください)
注目株はイソヒヨドリ
※柴田さんが以前から注目している「イソヒヨドリ」。本の「はじめに」に写真も載っています。頭が青くて、胸から下がオレンジ色の綺麗な鳥ですよね。このイソヒヨドリ、「都市鳥研究の注目株」と書かれています。改めて、どんな鳥なのか、教えてください。

「名前からわかると思うんですけど、磯にいる鳥なんです。ヒヨドリという名前が付いていますけど、ヒヨドリではなくてヒタキの仲間なんですね。ちょっと見た目がヒヨドリっぽいので、磯にいるヒヨドリみたいな鳥で『イソヒヨドリ』という名前が付いて・・・(以前は)海辺に行かないと見られない鳥だったんですよ。海辺に行くと、いい声で鳴くんですね。海辺でイソヒヨドリの声を聴くと、“ああ~海辺に来たな”と思うんですね。
それが1990年ぐらいになって、特に大阪から始まったんですけど、海じゃないところにいるよねって、誰か気がついた人がいて、大阪でそういう傾向があって・・・“へえ~そうなの?”って。それからいろいろ調べ始めたら、だんだん“あれっ? うちのほうにもいる”と・・・神奈川が最初だったんですけど、うちのほうにもいてとかって、あと八王子とかも・・・今もう全然、海と関係ないようなところにいます」
●磯じゃないところに!
「だからもう磯でもないし、ヒヨドリでもない。“『ビルヒタキ』という名前にしよう!”(笑)とかっていう話になって・・・。
なんでなんだろうな~っていうのがまだわからないんですね。ここ15年ぐらいで特に内陸進出が顕著になって、今結構どこでもいる鳥で、いちばん多くいるのはニュータウンなんですよ」
●へえ〜!
「新線開発されたようなところの、つくばエクスプレスとか京葉高速鉄道とか、ああいうところの駅前のビルにいるんです」
●なぜなんですか? 新しいところが好きなんですか?
「そう! なぜかと言うと、崖にいたっていう理由がひとつあるんですけど、なんで崖にいたかと言うと、イソヒヨドリって縄張り意識がすごく強い鳥なんですね。イソヒヨドリってイソヒヨドリが嫌いなんですよ!ライバルだから。だから縄張りをがっちり守るんでいっぱい鳴くんですよ。
縄張りに侵入されないために宣伝のために鳴くのが、さえずりの重要なひとつなので、それをどこで鳴くかっていうと、いちばん高いところから鳴いたほうがいいですよね。それで崖の上で鳴くと効果的に“俺の縄張りだ!”っていう宣伝ができるので、その代わりをビルがしているんです」
●へえ〜!
「で、縄張りを守りやすいというひとつと、もうひとつ、イソヒヨドリの食べ物って虫なんですね。虫がいないとだめなんです。郊外ってビルはできているけど、まだ駐車場があったりとか空地があったりとか、まだ開発してないところに草地があるんですよね。そういうところの餌場はあるんです」
●なるほど!
「だから海岸と似たような環境を人間が作ってくれたんですね。森の中だとそれをできないので、ニュータウン開発したところをうまく見つけて・・・よくこういうのって、都市の鳥ってもともと棲んでいたところの環境が破壊されたから、引っ越して移住したっていう話をよくされるんだけど、きっとそんなことは全然なくて、そんな消極的な理由じゃないんですね。
今、海辺に行ってイソヒヨドリは普通にいるんですよ。じゃあ、あいつら何なんなのか? おそらく若い個体です」
●そうなんですか?
「たぶんもう磯がいっぱいなんですね、先住者で。そうすると巣立った子供たちはどうするかって言ったら、いろんな鳥もそうなんですけど、自分の新天地を求めて分散をするんです。渡りじゃなくて・・・。
そういったフロンティア・スピリットがあるやつがいて、おそらく昔からね。秋はイソヒヨドリっていろんなところ、全国の内陸のダムとかに出現しているってのは昔からあったんですね。
そういった鳥がどこかで、“あっ! ここはやっていけるんじゃないかな”、そこで生まれた子孫が、おそらく20年ぐらい前からそういう傾向があって、先駆者がいて、その子孫の子供たちが今度分散しますよね。
おそらく故郷はそういう環境の都市だから、隣の駅に行ってみようかと・・・そうするとライバルがいないから、そこでうまくいってまた子供が増えますよね。また子供がライバルになるので、そうすると人間が新線開発をしていったりとか・・・。あともうひとつ(イソヒヨドリが)よくいるのはショッピング・モールです」
●えええっ!
「ショッピング・モールはだいたいいます」
●そうなんですか?(笑)
「そういうところも満員になってきて、最近は都市の何でもないようなマンションにも現れ始めています」
●どんどん開拓していっているんですね!
「そうですね。それが手に取るように見えたので、もう注目株なんですよ」
●面白いですね!
都市鳥は「写し鏡」!?
※長年「都市鳥」を観察し、研究されてきて、今どんなことを感じていらっしゃいますか?
「鳥って都市というか人間の生活の写し鏡になっているなと思います」
●写し鏡?
「鳥の行動を見ていると、都市ってこういうふうに人間がやっていることの裏返しみたいなものになっているなというのは、非常に感じますよね。思いもよらぬことがよく起きるのが、都市鳥観察の面白さというか、感じることですね」

●では最後にこの本『鳥たちはなぜ都会を選んだのか 都市鳥ウォッチング図鑑』に込めた思いを聞かせてください。
「はい、ここに出てくる鳥たちって基本的にバード・ウォッチングをする人たちが喜ばない鳥なんですよ」
●喜ばない?
「はい、珍しくないから。カワセミとか、そういうのはみなさんは好きです。綺麗だからね。だけども、そうやって人のそばに棲んでいる鳥も、ちゃんと見ると実に面白いと思う。
で、もうひとつ面白いのは、わざわざバード・ウォッチングに行かなくてもいいんですよ。普段の生活で見られる鳥なので・・・。いちばんおすすめなのは、通勤通学の時に気をつけて、生き物センサーを少し研ぎ澄まして、“なんか鳴いているな”とヘッドホンを外して、鳴き声を・・・。
イソヒヨドリなんかすごく綺麗な声なので、“ああ~なんか全然聴いたことのない鳥が鳴いているな”とか、そういう感性を磨いて通勤をすると、1日1日違うんですね、その日その日で・・・。
1年かけると、また何年か経つと、“去年これ鳴いていたけど、今は鳴いてないな”とか“今年はなんかやたらハトが多いけど、何でなんだろうな?”って、そうふうに見てくると、自分の生活の中の、街の解像度がすごく上がるんです。
それってすごく人生が豊かになるので、ただぼ〜っと、苦痛の通勤だけども、そういったいろんな、今まで知らなかった情報が入ってくるので、絶対に人生が楽しくなります」
(編集部注:時間の関係でご紹介できなかったんですが、街中でもよく見かけていたスズメが、どうして減ってしまったのか、茂ったやぶを好むウグイスと、住宅地に残る空き家との関係、そして森にしかいないと思っていたフクロウが都市に進出してきた話なども柴田さんの新しい本に載っています)
☆この他の柴田佳秀さんのトークもご覧ください。
INFORMATION
柴田さんの最新作には全部で45種の都市鳥が、生態を見事に再現したリアルなイラストとともに、一種を見開き2ページで解説されています。生き物センサーを磨くためのきっかけになるかもしれません。おすすめです! 山と渓谷社から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください
◎山と渓谷社:https://www.yamakei.co.jp/products/2826230310.html
柴田さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。
2026/9/6 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、YouTubeチャンネル「週末縄文人」の「縄(じょう)」さんこと、「相馬皓介(そうま・こうすけ)」さんです。
この番組では、以前から週末縄文人の「縄」さんと、相方の「文(もん)」さんの活動に注目していて、2023年11月におふたり一緒にご出演いただきました。
その当時は会社に内緒で活動していたので、顔も名前も明かさないことになっていたんですが、その後、おふたりとも会社を辞めて、活動自体もそれぞれのフィールドで自分のやりたい物づくりなどに取り組むようになったそうです。
これまで明かされなかった相馬さんのプロフィールについて、少しだけ触れておくと、一橋大学を卒業後、2016年にNHKに入局。数々の人気番組を手掛け、退職後は動画プロデューサーとしても活動されています。
そんな相馬さんが5年ほど前に相方の「文」さんとYouTubeチャンネル「週末縄文人」を開設。コンセプトは「自然にあるものだけを使って、ゼロから文明を築く」。文字通り、平日はサラリーマン、週末だけ縄文人として活動。
現代の道具を一切使わず、必死に火を起こし、手作りの石斧(いしおの)で木を伐り、試行錯誤しながら竪穴住居を建てる様子などがアップされたYouTubeチャンネル「週末縄文人」は登録者数がなんと、21万人を超えるほどの人気なんです。
今回はスタジオにお迎えし、相馬さんの新しい本『縄文力』をもとに、さらに進化した縄文の手仕事や技術に迫るほか、人生をかけてチャレンジする縄文暮らし構想についてもうかがいます
☆写真協力:産業編集センター

あるものでなんとかする知性
※相馬さんが先頃出された本が『縄文力』。この本を読んで以前の活動より、さらに進化した、まさに縄文力を感じました。この本のテーマとも言えるのが「縄文人の知性」ではないかと思ったんですが、どうでしょう?
「そうですね。『縄文力』ってつまり何? みたいなところで、たぶんいろんな表現があると思うんです。僕はやっぱり自然のものだけでやることで知った縄文人の強さ、身近な自然で何とかする、あるもので何とかする力が、すごくあったなと思っています。(きょう)持ってきたものに石があるんですけど・・・」

●スタジオに(いろんなものを)お持ちいただきました!
「これ、触っていただけるとわかるんですけど、結構ツルツルの小石です」
●よろしいですか、触っても・・・。
「触って全然、大丈夫です」
●ツルッツルですね!
「ツルツルで気持ちいいですよね」
●気持ちいいです! 全くゴツゴツしてなくて、まん丸いツルツルな石です!
「こういうツルツルな石も、“ツルツルでひんやりして気持ちいいな~”みたいな感じに現代の人は思って、たぶんこれを何か役に立てたりはできないと思うんです。
これはツルツルゆえに土器の内側をピカピカに磨いて、水が溜まるようにするために『目止め』という作業があるんですけど、その目止めの作業にこのツルツルの石がすごく役に立つので、これはちゃんとした道具なんですよ、僕とか縄文人にとっては・・・。
(週末縄文人の)活動を5年ぐらいやっていると、そういういろんなことがすごく増えてきて、石ころであってもツルツルだと土器の目止めになったり、細長いっていうだけで、その真ん中に糸を固定して、布を作るときの重りになったり・・・・。
あとは、割って薄く剥がれるやつを刃物にすることで、矢尻とかナイフになるみたいな、そうやって身近な自然が、生きるために必要な資源や素材になっていくのがすごく楽しくて、そのパワーが縄文人はすごく高かったんだろうな、ということで、身近なもので何とかする力を『縄文力』っていう言葉にして、今回本を出させていただいたっていう次第です」
●(本の)序章に「ブリコラージュ」という言葉が出てきました。これがまさに“あるもので何とかする”っていうことですよね?
「そうですね」
●改めて「ブリコラージュ」についてご説明いただけますか?
「ブリコラージュは、クロード・レヴィ=ストロースというフランスのすごく有名な文化人類学者が提唱した言葉で、“あるもので何とかする”というよりは、フランス語で日曜大工、DIYみたいな意味なんです。
縄文人とかじゃないんですけど、その当時、アマゾンとかそういう奥地に住んでいる先住民の暮らしを見て、現代の人たちは技術も人も素材も足りないものをよそから持ってきて、計画的にスケジュールを組んで、目的に向かって逆算してやる知性みたいなものがすごく発達していたんですけど、それとは違う原始の知性が先住民にあって・・・。
それをブリコラージュと言って、さっき僕が言ったことと、ほぼ同じなんですけど、刃物とか狩猟道具とか服になる糸とか、あとは家の屋根材とか、絶対になくてはならないものを、身近なものから目ざとく見つけて特性を見極めて、うまく活用する知性だっていう話で、まさに縄文力はレヴィ=ストロースの言うブリコラージュだなっていうことで紹介させていただいています」
(編集部注:お話に出てきた「ブリコラージュ」をおさらいすると、フランスの文化人類学者「クロード・レヴィ=ストロース」が名付けたもので、もともとはフランス語で「DIY」や「ありあわせのもので何かを作ること」を意味するそうです。
相馬さんによると、縄文人は 数十人ほどの限られた人数で暮らしていたので、現代と違って、人間も資源もよそからは持ってこれない。そのため、自分たちでなんとかするしかなかった。そんな縄文人の「閉じた世界での知性がかっこいい」と相馬さんはおっしゃっていました。
ちなみに、縄文時代は石を割って刃物などの道具を作る、まさに石器の時代。縄文人にとって、石がたくさんころがっている河原は「宝の山」だったと言えるかもしれませんね)
「火起こし」から「火残し」へ

※この本『縄文力』に書かれていることから、縄文人の知性を感じるような具体例をいくつかうかがっていきます。
摩擦によって火を起こす「きりもみ式」を、相方の「文」さんと試して、火を起こすまでに3ヶ月もかかったというお話は以前うかがったんですが・・・この本に一度起こした火をたやさない方法が記されていて、驚きました。そのあたりの説明をいただけますか?
「文とふたりでよくやっていた頃に、いちばん最初にやったのが火で、ゼロから火を起こすというのも、ふたりで週末だけですけど、3ヶ月かかって、“やっと火が起きた!”となって、そこから火ってやっぱり使うんですよね。
自分を暖めたいとか、料理を作る時も使うし、土器で物を煮るとか調理系が多いんですけど、ほかにも道具にちょっと穴を開けたいとか、いろんな素材を柔らかくしたりとかする時にも火ってすごく大事でなんですね。毎日絶対火を起こせるかと言われると、どんだけ習熟してもできない時があるんですよ。
例えば、梅雨の時期で大雨になって湿気が凄まじいとか・・・。あと僕がいちばん思ったのは、真冬の朝、雪に覆われた時とか、全部が湿っていて・・・超寒いから寒すぎて火を起こさないと死ぬ! と思って火起こしをして、その時、火はボッ! って起きたんですよ。でも薪がないんですよ。雪の中に全部薪っぽいのが埋まっていて、ビッシャビシャで・・・。
最初は頑張って空気を送れば、ギリギリちょっと火になるんだけど、またスンって消えちゃうみたいな・・・火は毎日いるんですよ、やっぱり・・・。でも縄文人って毎朝、火起こししていたのか、そうじゃないなとすごく感覚的に体で感じて・・・。
縄文時代まで遡らないで、柳田国男の『火の昔』っていう本を読んだ時に、やっぱり火を残す技術というのが、マッチやライターが生まれる前に明確に、江戸時代とか明治時代とかくらいまであったんですね。
それは前の晩の火を灰の中に、今(活動拠点の竪穴住居に)いろりがあるんですけど、いろりの灰にちょっと厚くかぶせて、そうすると灰って完全に密閉しないので、火が消えずにちょっとずつ燃焼が進む、燃焼がゆっくりになる効果があるんです。
次の朝まで(火を)灰の下で寝かせて、次の朝、灰を(横に)寄せるとまたポッって赤くなって、それを種火に薪を入れたら火が起きて、それで朝ご飯が作れるっていうのが、マッチやライターが生まれる前に普通の家庭で一般的にやっていた暮らしで・・・。
あっ! これがあれば、縄文時代も火を絶やさずに済むから、めっちゃ周りがビチャビチャでも火を起こせるし、ずっと火が消えないっていうことは、家の周りに濡れた薪を置いとけば、2〜3日したら乾くんですよね。
だから、今、薪ストーブとかやっている人の暮らしみたいに、めちゃくちゃでかい薪棚とかを外に作らなくても、火を絶やさなければ、火はずっと手元に残せるみたいなことがわかって、“火起こし”じゃなくて、“火残し”の話をこの本の中でもさせてもらっていますね」
●初めて、火が残っているのを見た時ってどうでした?
「めちゃくちゃきれいでした!(笑)。それは朝焼けが出る前、ちょっと薄ぐらい朝の4時半とかそのぐらいの時に、最初は灰に包まれているから何も光っていないんですけど、灰を(横に)寄せた瞬間、空気に触れて、ポッってホタルみたいな赤くなって、“あ~生きてる、生きてる! きれい”みたいな・・・(笑)
そこに小枝を乗せて、空気を送ったらボッとなって・・・火起こしをいちからやろうとすると、絶対に10分はかかるんですけど、灰を寄せて、ちょっと小枝を入れてふうふうしたら、本当に1分とたたずに火がついたんで、火が蘇ったように見えてすごくきれいでしたね」
土器づくりの極意は、5日間こねる!?
※相馬さんが取り組んできた縄文時代の道具づくりで、特に弓矢と土器の完成度の高さと、その美しさに惚れ惚れしたんですけど、まず、弓矢は狩猟にも使えるものができたんじゃないですか?
「去年、半年くらいかけて作りました。弓矢って素材がいっぱいいるんですよ。弓になるしなりのある木、どんだけ強く引っ張っても切れないツル、矢も真っ直ぐでほどほどに重みのある、先につける黒曜石みたいな打製石器の鏃(やじり)と、あと石と柄をくっつける接着剤と、まっすぐ飛ばすための鳥の羽とか、素材がいっぱいあって・・・(笑)
それもひとつひとつの加工法とかもよく考えられていて、(作り方を)身につけるまでにすごく時間かかったんですね。素材を厳選するために、縄文時代にあったとされる素材を、わざわざいろんなところに取りに行かせてもらって、ようやくこれならば、やっちゃいけないけど、鳥ぐらいだったら捕れるかな? くらいの威力の弓矢が作れましたね」
●縄文時代と言えば、土器を思い浮かべるかたも多いと思うんですが、スタジオに大きくて立派な土器を用意していただきました。
「これは僕が作った10号土器、10番目の土器ですね」

●すごいですね! 博物館に展示されているような土器ですよね。
「ありがとうございます! そう言っていただけて・・・結構上手くなりました。手前にあるのがいちばん最初に僕が作ったコップサイズの、土器って言っていいのか、ちっちゃい小器(こうつわ)で、そこから5年経って、だいぶ背が高く形状も下から上に向かって、ちょっと開いていくような縄文土器っぽいのができるようになりました」
●すごい! この土器、教科書に載っていますよ!
「さすがにそこまでは・・・いやいや(笑)でもありがとうございます。だいぶ土器はね・・・僕もいろんな博物館に行って、作り方とかわかんないけど、いろんな土器を見て参考にして、ようやくここまでできるようになりましたね」
●これ、どうやって作ったんですか?
「たぶんいちばんブレイクスルーというか、自分の中でそもそもあったのが、今、手前にお見せしているコップサイズの土器は、その日採った粘土をその日に水に混ぜて、こねて作ったんですよ。
正直このくらいのコップサイズの器だったら、その日採れた多少、質が低い粘土でも簡単に作れるですけど、でかい土器、土器って鍋なんでお鍋として縄文人は使っていて、コップサイズでは意味ないんですよ。
家族みんなでご飯を食べようと思ったら、20センチか30センチの高さが必要です。粘土って結構重たいので、採れたての粘土だと粘りがなさすぎて、上に積み上げていくと、下の部分が自重でベタって潰れていくんですね。だからスッと立っていかないんですよ。
だから粘りが天然の粘土だと、そもそも足りないっていうので、いろんな学芸員の方に話を聞いたりして、5日間こねるっていうことを言われて、“えっ!? 5日間?”ってなりましたね。
毎日こねて寝かせ、こねて寝かせを5日間繰り返すと、とんでもなくグニャ~って、いくら伸びてもちぎれないような、すっごい粘りの粘土になって、このぐらいの高さまで積めるようになって、そこから砂を入れたりとか、模様を入れる時に気をつけたりとか、いろいろあるんですけれど、このサイズの土器ができるようになったきっかけで、でかかったのは5日間こね続けるっていうことでしたね」
●粘り気のある粘土を!
「そう、粘りのある粘土を! 粘土に粘りを出す! っていう」
●縄文人はそういうふうにして、粘土を使っていたんですよね?
「そうですね。縄文時代は、粘土が採れない土地以外では、ほぼどのコミュニティでも粘土で土器を作っていたんですね。有田焼とかの産地の、一流の一級品の粘土が採れる場所って限られています。
でも粘土ってすごく重いから、交易の品にもならなかったと思うし、縄文人は大して質がよくない粘土でもなんとか土器にするために、僕みたいに5日間こねるとか、粘りが弱いんだったら藁を入れてみるとか、動物の毛を入れてみるとか、あの手この手で粘りを強くして、大きい鍋の土器を作ったみたいなのがたぶんあったんだろうなと思いますね」
(編集部注:相馬さんによると、鹿の角はやじり作りの道具としても、縫い針やかんざしの素材としても優れていて、木のように柔らかすぎず、石のように硬すぎず、細長く加工できたりと、なにをするにもちょうどいいそうです。実際に使ってみたからこそ、わかることなんですね)

「平日縄文人」「生きた博物館」
※この本『縄文力』を読んで、相馬さんが益々、縄文時代や縄文人に深く傾倒している様子がうかがえるんですが・・・先頃、YouTubeチャンネル「週末縄文人」で重大発表をされました。改めて、この番組でもお伝えいただけますか?
「僕は平日会社員をして、週末に山に行って、縄文人みたいな暮らしをしているっていう活動を5年ぐらい続けてきたんですね。それだけでもすごく楽しかったんですけれども、自分の活動をもう少し深めたいなと思って、いろいろ考えて、平日の会社員の仕事を一回離れて、平たく言うと平日に縄文人をやって、週末に休み的な感じで現代人になるみたいな(笑)、平日と週末をひっくり返そうとしています。
それも動画だけでやるんじゃなくて、僕らがやっている自然のものだけで文明を築く活動・・・土器とか弓矢を作ったり、かんざしを作って髪を留められるようにしたりとかっていうのを博物館にして、誰もが来てその様子を見て、“あっ、土器ってこうやって料理に使っているんだ”とか、”石斧ってこうやって木を伐るんだ“みたいなのも見られるし、もし興味がある人、自分も土器を作ってみたい人がいれば、一緒に粘土をこねて土器を作れるみたいな、そういう博物館を『生きた博物館』っていう名前にして来年やろうと思っております」
●文さんには相談したんですか?
「あっ、文さんとも相談をして動画にも出しました。文は平日、仕事があって自分のやりたいところを大事にしたいということだったので、基本はこの博物館は僕ひとりで、っていうのを考えています」
●サラリーマンに区切りをつけてっていう、すごい決断ですよね!
「そうですね。本当にやってしまったな〜っていう感じではあるんですけれども(笑)、もう会社にも言っちゃったんで・・・」
●「生きた博物館」は、実際にはどんな博物館になりそうですか?
「普通の博物館は、過去の時代に生きた人たちの大事な道具だったり、芸術品みたいなものを、現代とか後世に残していくっていう役割を持っているので、基本やっぱり(展示物は)大事に守られなきゃいけないから、そこで例えば、縄文土器とかは実際に触ったりって大体できないし、何なら持ってみるとかできないんですけど、『生きた博物館』はどっちかっていうと僕が見せ物で、僕が縄文土器を使って生きている! みたいな・・・。
四季もいろんな暮らしがあるので、自然の流れに身をゆだねて、春には山菜を採ったり、カラムシとか繊維になるものが採れやすくなっているので、樹皮とかカラムシを採ったり、来る冬に向けて、秋にはいっぱい恵みが山にはあるので、木の実を集めて乾燥させて保存食にしたり、捕った魚をスモークしたりとか、冬越えのための備えをするっていう・・・そういう自然の中で縄文的に生きるっていうことは、こういう景色なんだっていうのを再現する場所にしたいと思っています」
●相馬さんの生活をそのまま見せるっていうことですか?
「そうですね。もしものちのち(縄文生活を)やりたいっていう人が出て、あとそれでなんとか生計を立てられるみたいなのができたら、僕以外の縄文人もできるかもしれないんですけど、まずは僕ひとりが自然にあるものだけを使って、縄文の暮らしをして、それを基本的には見ていただくっていう、やりたい方は体験していただくっていう場所にしようかなと・・・」
●周りの自然環境も作るっていうことですね?
「そうですね。この活動『生きた博物館』をやりたいなと思ったいちばんの理由はそれで、週末だけの活動で作った、褒めていただいた土器が“すごく本物みたい!”って言っていただいて、すごく嬉しいんですけど、週末だけだと“本物みたいな道具を作る”で終わっちゃうんですよ。
縄文人のクオリティに近い土器を作る、縄文人の本物に近い弓矢を作るで精一杯っていうか、その土器を使って実際に煮炊きをして三食食べてみるとか、暮らしに縄文のものを入れるってことが結構難しいので、それだったら博物館で縄文人として生きる! っていう暮らしをすれば、ちゃんと土器を使って料理をして、それが美味しいのか不味いのか(笑)、美味しくしようと思って、こういう工夫をしてみた! みたいな・・・。
現代の技術を入れたら、その先の時代の技術をやったらだめなんで、できるだけ当時の技術だと言われているもので、でも暮らしを一歩一歩豊かにしていくみたいなことをやっていくのは、もっと活動を深められるし、違う世界が見られる気がするので、それを目指しています」
(編集部注:「生きた博物館」の候補地は、八ヶ岳の麓、長野県諏訪郡富士見町になる見込みで、「井戸尻(いどじり)考古館」から徒歩5分ほどの場所。土地の購入や活動の資金として、先頃クラウドファンディングを実施、目標額を上回る資金が集まったそうですよ。
また、このプロジェクトでは縄文時代の自然環境を作るため「縄文の森」を整備し、ドングリやクリ、トチやクルミの木を植え、畑も耕すことにしているそうです)
あるもので何とかする力
※週末縄文人の活動を5年ほど続け、縄文人が使っていた道具づくりなどに挑戦されてきて、いま、どんなことを感じていますか?
「すごく感じているのは、やっぱりこの活動をやっているのは、人間として強くなりたいなっていう気持ちが漠然とあって、この活動をやっていると強くなれるような気がしていて・・・。
強くなるっていうのは・・・筋トレでムキムキの筋肉をつけるとか、トライアスロンに出るとか、あるいは経済的に裕福になってお金持ちになってとか、いろんな強さがあると思うんですね。
縄文人とか、縄文時代まで遡らなくても、つい100年前までの日本の農村地域のような、限られた人数で衣食住を、自分たちの生活に必要な物を自給できることのほうが、僕が思うカッコいい強さだったりするので・・・。
そこまで考えると理想の強さは、縄文時代は鉄とかもないので、ナイフもその辺の石から作ることを考えると、縄文人は本当に少ない人数で生きるっていうことに長けていると思うんですね。
その強さみたいなものは、別に縄文時代が好きとか、そういう人だけじゃなくても普遍的に大事な気がするので、改めて“あるものでなんとかする!”っていう、縄文人が磨き上げてきたものを、これから自分もより感じられるようになりたいなと思っています」
●この本『縄文力』は、あるもので何とかする力のことと言い切っていいですか?
「そうですね。僕が書いた『縄文力』っていうのは、あるものでなんとかする力そのものだと思っています」
●きっと縄文人の遺伝子は、私たち現代人も受け継いでいますよね。なので、現代人の中にもその遺伝子はあるというか、「あるもので何とかする力」はあるっていうことですよね。
「あると思います! 自分でやっていてすごく思ったのは、現代の暮らしをしていると、誰かが作ってくれた野菜を食べて、誰かがどこかで遠くで作ってくれた電気で夜も明るくって、すごく真面目に考えれば、自分の力で生きたものって何もないなって思っちゃう時がちょっとあるんですよ。夕暮れ時とか、なんかふと・・・すげえ無力感みたいな・・・。
でもこの活動を自分でやると、僕は決して器用な人間ではないんですけど、やっていると針を作れたりとか土器作れたりとか・・・。全部そんな難しい技術じゃないんですけど、それをやると、僕はたぶん信州のフィールドの自然環境で火を起こしたり土器を作ったりという技術を磨いたので、その土地に特化した知性にはなっています。
おかげで質のいい粘土はどの辺にあるかとか、糸に耐えうる繊維の硬さってどれくらいかわかるから、僕が無人島にひとりで放り出されたとしても、ほかの人よりは早く火を起こせるだろうし、僕が普段使っている黒曜石がなくても、貝殻かその辺の石を砕いたりとかして、たぶんほかの人よりは早く刃物は作れると思うし、糸も作って服も作れるかもしれない・・・。
どんな自然環境でもどんなに困難な状況でも、たくましく生き延びられるみたいなものは(縄文人の)血が入っているとは思いますし、大なり小なり強い血を受け継いでいる・・・受け継いでいないかもしれないけど、やっていればちゃんと(技術を)身につけられるので、それはすごく僕にとって救いだったと思います」
(編集部注:来年から取り組む活動「生きた博物館」についてはこの番組でもわかり次第、近況をお伝えしつつ、現地での取材も行ないたいと思います)
INFORMATION
相馬さんの新しい本『縄文力』には、火起こし、紐や布、鏃や弓、そして土器作りなど、生きていくために欠かせない道具を、試行錯誤の上、作り上げていく過程などが記されています。なにより、縄文人の技術への探究心と、尊敬の念が溢れた優れた本だと思います。数々の失敗と、数えきれない体験から導き出した「縄文力」にぜひ触れてください。
産業編集センターから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください
◎産業編集センター:https://book.shc.co.jp/24307
YouTubeチャンネル「週末縄文人」もぜひ見てください。
2026/8/30 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、気象予報士そして防災士の「菊池真以(きくち まい)」さんです。
菊池さんは、茨城県竜ヶ崎市出身。慶應大学在学中に気象予報士の資格を取得し、気象予報士として活動。その後、NHKやTBSの気象キャスターとして活躍。現在は、お天気関連の記事の執筆や講演活動のほか、空の写真家として、空や雲の写真を発表されるなど、幅広く活動されています。
今回は9月1日の「防災の日」を前に、菊池さんの新しい本『自然災害・地震・異常気象からこどもを守る〜「もしも」のときの防災ずかん』をもとに、防災士の視点で子供を守るための対策やポイントなど、お話しいただきます。
☆写真協力:菊池真以、イラスト協力:オレンジページ

4つの危険を覚えておこう
※『自然災害・地震・異常気象からこどもを守る〜「もしも」のときの防災ずかん』は、自然災害が増えている昨今、子供の頃から身を守る術を知っていてほしい、という思いで小学生のお子さんひとりでも読めるように、難しい表現は避け、わかりやすくを心がけ、執筆されたそうです。
漢字にはふりがながふってあり、絵本のようなイラストを見るだけでも、内容を理解できるようになっています。

この本は「天気の現象編」「地震編」「自宅避難・避難所編」「猛暑編」「アウトドア編」と5つの章に分かれていて、ひとつの項目が見開き2ページで解説されています。その中から、いくつか具体的な対策について、うかがっていきたいと思います。
●まずは、第2章の「地震編」です。学校への行き帰りで、もし大きな地震が起きたとしたら、日頃、子供にはどんなことに注意しなさいと言っておけばいいですか?
「地震の時はとにかく命を守ること、ケガをしないといったことが最優先になってきます。
4つの危険を覚えておいてください。上から落ちてくるもの。ブロック塀など倒れてくるもの。窓ガラスやお皿など割れるもの。あと、車ですとか物を運ぶ荷台など動いてくるもの。こういった4つのものの危険から身を守ることが大切になってきます。
通学路を親子で一緒に歩きながら、こういったものが落ちてくるよねとか、割れそうだよねとか、一度、親子で確認してみるといいかなと思います」
●なるほど。一緒に歩いて事前に把握しておくのは大事ですね。あとは、これは大人もそうなんですけど、災害用伝言ダイヤル171のことは知っていても、実際どうすればいいのか、意外とわかっていないっていうかたも多いと思うんです。いかがでしょうか。
「大きな地震の時に(家族の)安全を確認する手段のひとつです。電話がつながりにくい時に声の伝言版として残せます。
171にかけまして、音声ガイダンスに沿って声を録音したり、または再生したりすることができるんですね。171のあと、ガイダンスに沿って1が録音、2が再生みたいな感じになっているんです。その後、電話番号を入れなきゃいけないので、家族でひとつ、この電話番号にしようねって決めておくことが必要になってきます。
で、毎月1日と15日など、練習できる日もあるので、実際にやってみるといいかもしれません」
●確かに。
「で、今の子って公衆電話から電話をかけたことがない子が多いと思うんですよ。うちの子は小学2年生なんですけども、公衆電話を見て”あれ、何?”って言ったんですよ。電話が外にあることや、固定電話を知らなかったりもして・・・(いまは)スマートフォンなどですよね。
なので、公衆電話ってこういうところにあって、こうやってかけるんだよということを、1回ぐらい練習してみたほうがいいかもしれませんね」
●そうですね。171にしても公衆電話にしても事前に試しておいたほうがいいですね。
そして第3章の「自宅避難・避難所編」を読んでいたら、ビニール袋がいろんなものに活用できると感じたんですけれども、いくつか使い方を教えていただけますか?
「まず、リュックサックで水を運ぶ時にも使うことができます。水を運ぶ時にポリタンクなどを想像すると思うんですけども、もしポリタンクがない時でも、ビニール袋の中に水を入れて、リュックサックの中に入れれば、持ち運ぶことができますよね」
●手で持つよりも楽に運べますよね。
「あと、洗濯にも使うことができます。ビニール袋の中に入れれば、少量の水でも洗うことができます。入れて、おし洗いとか、つけ洗いとかしていただければ、少しの水でも洗うことができたりします。
あと、ポリ袋クッキングなんていうのもありまして、ビニール袋を使うことで調理をすることもできます。温度に強い専用のポリ袋も売っていますので、お家に1セットあるといいと思います」

首、脇の下、足の付け根を冷やす
※続いて、第4章の「猛暑編」です。この夏も40度超え、熱中症警戒アラートがたびたび発表されたりと、夏の気温が益々危険な温度になっているな〜という実感がありますが、夏の猛暑は「自然災害」と言ってもいいですよね?
「毎年のように40度以上といったことを天気予報でも言うようになってきているなと思いますし、今年から40度以上の日を『酷暑日』と正式に制定されました。
ということで、酷暑日といった言葉を私も使っているんですけども、毎年この暑さでたくさんのかたが熱中症で亡くなっています。台風ですとか大雨と同じ、もしくはそれ以上の自然災害というように、私たち気象予報士も考えるようになってきました」
●子供は背も大人と比べて低いですし、地面に近いというのもあります。大人よりも体感温度は高くなりますよね?
「そうですね。やっぱり地面に近いほうが照り返しですとか、そういったものもありますので、やっぱり子供のほうが暑いですね。物理的にもそうですし、あと子供のほうが汗をかく機能がきちんと発達していないので、大人よりも汗で温度調節をしにくいってこともあります」
●子供だからこその熱中症対策としては、どんなことが挙げられますか?
「本当に我慢しないこと! これがいちばんです。大人もそうかもしれないんですけども、特にお子さんは熱中症の経験がまだないといった子も多いかなと思うんですね。
なので、なんだかいつもと違うなとか、気分が悪いなっていった時に熱中症ってわからないかもしれないじゃないですか。とにかくなんかちょっと違うなと感じたら、先生に言うとか、無理をしない我慢をしないようにしていただけたらと思います」
●確かに熱中症かもしれないって、気づくことは難しいかもしれませんね。
「そうなんですよ、特にお子さんはね」
●子供たちだけで遊んでいる時に、自分が熱中症かもしれないって気づいてくれたらいいんですけど、何かサインとかってありますか? こういった症状が出たら危険だよっていうのは・・・。
「足がつったですとか、ボール遊びをしていて、いつもはボールを取れるんだけど、そのボールが取れなかったりとか、なんかちょっと気持ち悪いなとか、頭がぼーっとするなとか、そういったことも熱中症の体からのサインですので、大丈夫だと思わず、無理をせずに、大人に助けを求めるようにしていただきたいと思います」
●熱中症の症状が実際に出てしまったら、どうしたらいいんですか?
「本当になるべく涼しいところに行く。これ鉄則なんですよね。できれば室内がよくて、学校の中ですとか、近くにコンビニエンス・ストアとかお店がありましたら、そういったところにまず行って、水分補給、できればイオン飲料水などを飲んでいただきたいと思います。
で、体を冷やす3つのポイントを覚えておいていただきたいと思います。首、脇の下、足の付け根、この3つなんですけども、ここには太い血管があるんですよね。太い血管があるので、そこを冷やすことで、冷やされた血液が全身を巡ってくれるので、体を効率よく冷やすことができると言われています」
●なるほど。
「涼しい場所で休みつつ、この3つのポイントを重点的に冷やすようにしてください」
暑熱順化は5月から
※この本に「熱中症対策は5月から始めよう」という項目があります。これについて、ご説明をお願いします。
「これは本格的な暑さが来る前に、体を暑さに慣らしておくことなんですよね。なので、できれば真夏の前、5月とか、それぐらいから暑さに体を慣らしておこうということなんです。
人は汗をかいて体を冷やしているんですよね。お風呂から上がった時に濡れたままにしておくと体が冷えていきますよね。それは水が体から熱を奪っているからなんです。それと同じように汗が蒸発する時に体の熱を奪ってくれるので、汗で人は温度調節ができるんですね。汗をかけるようにしておこうっていうのが『暑熱順化』です。
暑い時にしっかりと汗をかける体を作っておくということで、具体的には1日30分程度のウォーキングですとか、15分程度のジョギング、これを週5回が推奨されているんです。定期的な運動が難しいといったかたは、お風呂に入る時にシャワーだけじゃなくて、ちゃんと湯船に浸かる。これだけでも暑熱順化の効果あると言われているんですよ。
夏本番でも、一旦涼しくなってしまいますと、体がリセットされると言われているんですね。なので、一旦涼しくなった後は、熱中症にかかりやすくなってしまうので、その涼しい時期に暑熱順化、夏でもやっておくといいかと思います」

雷が鳴ったら、すぐ建物の中へ
※続いて第1章の「天気の現象編」からお聞きします。子供たちが外で遊んでいたら、急に暗くなって雷が発生、という時は、どう対処するのがいいですか?
「とにかく安全で頑丈な建物の中に逃げることが大切になってきます。これはよくやってしまいがちなんですけども、木の下に逃げてしまったりするんですよ。本当に恥ずかしいんですけども、私こんなことを言っていながら、一回だけ木の下に慌てて行っちゃったことがあるんですよ」
●とっさに行きがちっていうのもわかります。
「というのは、雷が鳴っている時って、だいたい雨がすごく激しく降っているじゃないですか。なので、ちょっとどこか雨で宿りしなきゃ! って逃げたら、意外と木の下だったということはあるんですよね。本当に恥ずかしい話なんですけども・・・。
木の下は雷が落ちやすい場所ですので、絶対にやめていただきたく、頑丈な建物の中に避難してください。軒の下も結構ダメで、ちょっと出ている軒下とかに隠れても、雷の電気がやってきてしまうことがあるので、建物の中に入ることが大切になってきます」
●雷が鳴った時って、どのタイミングで移動というか、“ゴロゴロゴロ”って鳴った時点で、子どもたちは避難したほうがいいんですか?
「(雷が)鳴った時点で、積乱雲の下にいると思っておいてください。雷を鳴らすような入道雲、積乱雲はとっても大きいんですよ。いつどこに雷が落ちてもおかしくないので、聞こえたらとにかく建物の中に逃げるようにしてください。
もし建物が近くにない時、『雷しゃがみ』っていうのがあるんですね。しゃがんで手を耳に当てて・・・これは雷がもし近くに落ちた時に、鼓膜が破れないようにするためなんですけれども・・・そしてちょっと、かかとを浮かせて、つま先立ちになる。これが雷しゃがみと呼ばれるものなんですけども、これは非常事態です!
建物が近くに何もない時に、そうすると、地面との接地面積、地面についている足の面積が狭くなるので・・・」
●つま先だけってことですよね。
「なるべく地面に触れる場所を狭くしたいので、つま先立ちってことになります」
●雷が鳴った時に家の中にいても、油断してはいけないとも書かれていました。これはどういうことなんでしょうか?
「雷が鳴った時に“パソコンのコンセントを抜いておきましょうね”なんていうふうによく言いますよね。コンセントなどを伝って雷の電気が入ってくることがあるので、なるべく電化製品から離れて、もちろん電化製品のコンセントなどは事前に抜いておく、そういったことも大切です」
(編集部注:お話に出てきた「雷しゃがみ」はあくまで最終手段。屋外にいて、近くに建物がない時に雷が直撃するリスクを下げるためなんですが、どんなポーズなのか、ぜひ菊池さんの本でお確かめください)
日頃の防災意識が重要
※気象庁が発表する「防災気象情報」が改正され、今年から運用が始まりました。一般のかたに向けて、ここに注目して、というポイントを教えてください。
「今回の大きなポイントというのが、大雨などの情報に警戒レベルがついたということ。例えば『警戒レベル4氾濫危険警報』ですとか『レベル3氾濫警報』ですとか、このレベルに数字がついたことがポイントです。
レベルは1から5まであるんですけれども、数字が大きくなるほど災害の危険のレベルが上がるというふうに考えておいてください。このレベルの数字を覚えておくだけ、それだけでも十分に役に立ってきます。
まずはレベルに数字があって、5段階あって、数字が大きければ大きいほど、危険のレベルが上がる、こういったことを覚えておいていただきたいです。
レベル5になってしまうと、災害が発生してしまっているパターンがあるんですね。なので、レベル4ですとかレベル3、この段階で避難を始めて完了しておくことが大事です」
●ここ数年、経験したことのない暑さですとか、大雨、大型台風の発生など極端な現象が起こるようになっているなと感じているリスナーさんも多いと思うんですけれども、気象予報士の目線でどのように感じてらっしゃいますか?
「私、気象予報士になって20年ぐらい経つんですけれども、始めたての頃よりも体感として多くなってきているなと感じています」
●そうですよね。やっぱり温暖化の影響っていうこともあるんですよね?
「そうですね。実際に例えば1時間に50ミリ以上の雨を“非常に激しい雨”って言ったりするんですけれども、そういった非常に激しい雨の起こる回数も数字として増えているんですね。
都市のコンクリートに覆われている道路などは、1時間に50ミリ以上の雨が降ってしまうと、排水機能が追いつかなくなって、浸水してしまったり、冠水してしまうと言われているんですね。そういった雨が短い時間でザっと降るパターンも増えています」
●極端な現象によって大きな自然災害が発生していますよね。日頃の防災意識ですとか、防災対策が益々重要になってきますよね?
「そうですね。私『防災力は想像力』だな~って思っています。“もしもこんなことがあったら、どうしようかな”といったことを、普段から考えておくと、いざという時に慌てないと思います」
未来を生き抜く防災力
※気象予報士で「空の写真家」でもある菊池さんとしては、子供たちが日々のお天気に興味を持ってくれたら、いいですよね?
「これは本当に嬉しいですね。空を見ることは、もちろん空の異変に気がつくことにもつながりますので、防災につながると思っています。実際に空ってすごく面白いし、びっくりするようなきれいな光景が見られたりするので、いいですね。
今の季節、よく積乱雲、入道雲が発達して、その積乱雲は大きくなると(雲の)頭の部分が平らになることって、ご存知ですか? それは(積乱雲が)大きくなってもうこれ以上、雲ができないっていうラインがあるんですよ、空に。

上に行けないと、どうしようってことになって、横に広がるんですね。それを頭が平な『かなとこ雲』って言うんですね。そこが雲ができる限界だなって、普段から思ったりできます。空って面白いこともたくさんあるので、ぜひたくさん見ていただけたらと思います」
●季節によって雲っていろいろ変化しますよね。
「そうですね」
●では最後に、この本を通して、特に伝えたいことはどんなことでしょうか?
「先ほどもお伝えしましたが『防災力は想像力』だと思っています。普段から“もしもこういった時はこうしよう! ああしよう!”って、例えば何パターンも考えておく。そのパターンが多ければ多いほど、防災力になっていくと思うんですよね。
危険から身を守るためのヒントをたくさん書いた本ですので、未来を生き抜く防災力を、お子さんはもちろん大人のかたにも身につけていただけたらと思います」
☆この他の菊池真以さんのトークもご覧ください。
INFORMATION
『自然災害・地震・異常気象からこどもを守る〜「もしも」のときの防災ずかん』
この本は「天気の現象編」「地震編」「自宅避難・避難所編」「猛暑編」そして「アウトドア編」と5つの章に分かれていて、ひとつの項目が見開き2ページで、わかりやすく解説されています。
絵本のようなイラストがたくさん載っているのでお子さんが興味を持ってくれると思いますし、漢字にはふりがながふってあるので、ぜひ親子で読んでください。読み聞かせにも、うってつけの一冊だと思います。オレンジページから絶賛発売中。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください
◎オレンジページ:https://www.orangepage.net/books/2049
菊池さんのオフィシャルサイトやSNSもぜひ見てください。
◎https://www.maisorairo.com/
◎Instagram:https://www.instagram.com/mai_sorairo/
菊池さんが監修の新刊が、総合出版すばる舎から出ました。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
2026/8/23 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サイエンスライターの「ほりかわあきな」さんです。
ほりかわさんは新潟県生まれ。国立の長岡工業高等専門学校(長岡高専)から東京工業大学大学院を経て、農薬と、タネや苗を生産する種苗メーカーに就職。新入社員の研修時に、茨城県にある研究所の田畑で、一連の農作業を体験し、体力的にも厳しい農業の大変さを痛感。
その一方で、農薬に対して世間では、食の安全や環境への影響を危惧する声があることも知ったそうです。
農薬も科学技術の産物であることに変わりはないと思ったほりかわさんは、大学院まで科学や研究を通して、世の中の役に立ちたいと思っていたので、科学の架け橋になりたいと思い、会社を辞めてお台場にある日本科学未来館で科学コミュニケーターに。

その後、WEBメディアの記者や編集者を経て、現在はサイエンスライターとして、いろんなジャンルの研究者への取材を通して、科学の魅力をわかりやすく伝える活動を幅広くされています。
きょうは私たちが普段食べている野菜や果物の、びっくりするような昔の姿、そして意外に知らない品種改良のお話もうかがいます。
☆写真協力:『こんなにかわった! やさいくだもの むかし・いま』ほりかわあきな・著/農研機構・監修/講談社

サイエンスにワクワク!?
※サイエンスライターとして、大事にしていることって、なんですか?
「ちょうど独立して10年に今なるところなんですけど、みなさんからは、科学の難しいことをわかりやすく伝えてくれる人というふうにイメージを持っていただいています。それもひとつの役割だとは思うんですけれども、今これだけ人工知能AIが発達してきていると、わかりやすく要約するだけだったらAIでもいいんですよね。
なので、やっぱり自分というフィルターを通して、何か物事を伝えるんだったら単なる解説ではなくて、私もいろんな分野の研究者のかたに取材させていただくので、そのたびに大変ではあるんですけど、毎回新鮮な知的好奇心が刺激される面白さや喜びっていうのがあるんですね。
そのワクワク感とか、ちょっと今までと世界が違って見えるような感覚っていうのを、知識を伝えるだけでなく、そういったものもサイエンスの魅力として、またサイエンスに関わるかたたちの魅力として伝えられたらなと思っております」
品種のご先祖様!?
※ほりかわさんの新しい本が初の絵本『こんなにかわった! やさいくだもの むかし・いま』。リスナーのかたに向けて、どんな本なのか説明していただけますか?

「この本では14種類の野菜や果物の昔の姿と今の姿を比べています。すべて写真で紹介している写真絵本になります。昔の姿には実は2つのパターンがあるんですね。
ひとつは品種改良の出発点になった祖先種と呼ばれるもので、例えばこの本だと、ナシとかサツマイモやトウモロコシなどは、“ご先祖様”というふうに書いているんです。ご先祖様はこんな姿だったよという形で紹介しています。
もうひとつは日本を基準に考えた時に、近代化するより前の明治時代より前の日本で親しまれていたもので、例えばリンゴとかメロンなんかは西洋から入ってくる前は、こういうのが日本では主流でしたよという形で紹介しています」
●この本は食育絵本と言ってもいいんでしょうか?
「そうですね。普段食べているものの来歴を知るっていうのも、大事な食育だと思います。私もちょうど今、子育て中なんですけど、テキストを考えるときに子供と一緒に音読したりとか(笑)、“こういう言い回しって、どう?”とかって(子供に)相談に乗ってもらっていたんですけど、そうすると自然と、やっぱり子供も普段スーパーに買い物に行った時に興味を持つようになってくれたので、食育絵本というふうに言えるかなと思います」
●そもそもこの本を出そうと思われたのは、どうしてなんですか?
「きっかけになったのはSNSに作物のいろいろな品種の過程というか、並んだ画像が流れてきて、やっぱり写真で伝えると品種改良のすごさ、人類がこんなに変えてきたんだなっていう努力の賜物を見せつけられているというか、そのインパクトに驚いたっていうのもひとつなんです。
私自身の経験としてもやっぱり農業の実習をしている時に、美味しいとかたくさん採れるっていうのはもちろんなんですけど・・・。
例えば、段ボールに入るサイズ感、“大きければ大きいほど、いいわけじゃないんだよ”とか、流通させる時に潰れやすくないように“適度な硬さがある実がいいんだよ”とか、いろんなポイントがあるということを、普段、消費者からはなかなか見えにくいけれども、いろんなこだわりがあるというのを感じていたので、それも伝えたいなと思ってこの本を作ろうと思いました」

●野菜や果物の昔の姿と今の姿を写真で比較されていますけど、写真で見せられるとその変化に驚きますね。
「そうですね。写真はすべてひとつひとつ監修者の先生、作物ごとに監修してくださった専門家の先生がいらっしゃいまして、先生がたから画像を提供していただいたんですね。なので、ひとつひとつ画像をメールでいただいて見せてもらった時に、やっぱり私も初見の時は“えっ、これってあってます?(笑)”って・・・・。
例えば“これ、リンゴの写真? サクランボじゃないですよね? 間違っていませんよね?”って思うくらい小さかったりとか、サツマイモは“えっ? 根っこ? (笑)”、思わず二度見してしまうような昔の姿の写真もあって、本当に私自身も驚きながら(本を)作っていました」
トウモロコシは接着剤にもなる!?
●本の中から具体例として、いくつかピックアップしてうかがっていきます。やはりサツマイモですね。いちばんインパクトがあります。(写真を見ると)根っこですよね? 長くてひょろひょろした根っこですけど、これが昔の姿、サツマイモのご先祖様なんですか?
「そうなんですよ。“根菜”って言いますけど、ほんとうに“根っこの野菜”って書いて根菜だなって(笑)改めて思いました。
メキシコアサガオという植物が祖先種というふうに言われています。メキシコアサガオという名前からわかるように、サツマイモはヒルガオ科の植物なんですね。なので、条件が揃うとサツマイモでも花が咲くんです。朝顔のようなお花が咲くそうなんですね。
根っこにも実は二種類あって、水や肥料を吸い上げる『吸収根』と呼ばれる根っこと、あとは太くなってお芋になる部分の根っこ『不定根』と呼ばれる根っこがあるそうです。
実はこれも小学生の自由研究で調べているお子さんもいて、そういう探求のきっかけに驚いて、その先を知りたくなるっていうふうになればいいなと思いますね」
●根っこ!? これを食べていたんですか?
「そうなんですかね・・・? 私もこれをどうして食べてみようと思ったのかな~?と、私もその部分は不思議に思ったんですね。どうなんでしょうね? どうしてこれを・・・?
例えば、これは完全に私の仮説ですけど、動物が食べていたりすると美味しいのかなと思ったのかなとか・・・。でもやっぱり昔の人って必ずチャレンジャーがいますよね(笑)。いろんな作物とか動物もそうですけど、植物もやっぱりこれをよく食べてみようと思ったな~っていうのがありますよね」
●そうですよね。このひょろひょろとした根っこがどんどん太くなって甘くなって、今のサツマイモになったわけなんですよね。面白いですよね!
「驚きますよね」
●続いてトウモロコシは、いかがでしょうか?
「トウモロコシは『テオシント』っていうイネ科の植物が、ご先祖様とされているんですけれども、これも見た目だけだと、とてもトウモロコシとはリンクしないぐらいギャップがありますよね」

●草!っていう感じですよね(笑)。
「草ですよね(笑)。粒が本当に両手で数えられるぐらいの数、10数粒から、今のスイートコーンって平均で600粒くらいあるというふうに言われています。単純に量が増えただけじゃなくて、一粒一粒も大きくなってみっちり詰まっています。そしてやっぱり甘さもどんどん糖度も高くなっていってということです。
この本で紹介している中でも品種改良の始まりもかなり古くて、7000年以上前から品種改良されていたんじゃないかというふうに言われている作物ですね」
●この本には興味深いコラムが三編載っています。そのひとつに“接着剤にもなるトウモロコシ”ということで、トウモロコシは接着剤になるんですか?
「そうなんです。実は段ボールの接着剤とかに使われています。トウモロコシにも実は用途によっていろんな品種が使われていて、普段私たちがいちばん食べているのはスイートコーンなんですけど、今ご紹介いただいた接着剤として使われているのはワキシーコーンという品種。
ワキシーコーンは加熱すると、すごくもちもちになって、食べるとちょっと甘さ控えめなんですけど、もちもちで・・・コーンスターチって聞いたことありますか?
あのとろみはワキシーコーンの澱粉(でんぷん)から作られていて、おそらく段ボールの接着剤としてちょうどいいでしょうね。手でグッとやった時に剥がせる、でもついている間はしっかりくっついているっていう、ちょうどいい粘り気というか接着の具合を実現してくれているんだなと・・・」
●トウモロコシって奥深いんですね。
「やっぱり(トウモロコシは)食べて、私たちの食料として世界中で支えてくれているというのももちろん大きいですけれども、工業用途でもいろんなところで使われています。
あと家畜の餌としてももちろん使われていますし、あとお子さんたちもよく知っているポップコーンもそのままポップコーンなんですよね(笑)」
●確かにそうですね。
「いろんな品種がある作物ですね」
大人向けに「品種改良」の解説
※この絵本の巻末に、大人向けに「品種改良」の解説が載っています。この解説を載せようと思ったのは、どうしてなんですか?
「実はこの絵本のタイトルにも品種改良という言葉は登場していなくて、なるべく本文のテキストにも“品種”という言葉は多用しないように、使い過ぎないようにしていたんですね。それはやっぱりお勉強の本だと思ってほしくなかったっていうのもあるんですね。
でも一方で、品種や品種改良というものに、興味を持ってもらうきっかけにはしたかったので、ひと通り読んでいただいた最後のところで、大人のかた向け、あるいは大人のかたじゃなくても、興味を持ってくれたかたに向けて、“品種改良ってこういうものですよ”と・・・。
解説といっても技術的にひとつひとつの手法を、詳しく解説しているわけではなくて、長い人類の営みとして品種改良には、こういう側面がありますよということを、“おわりに”のところでメッセージとして書かせていただきました」
(編集部注:ほりかわさんによると、品種改良にかかる時間は、交配・かけあわせの場合、目指す品種ができるまでに7、8年。さらにその後、国に出願し、品種として登録されるまでに1年から3年くらいはかかるとのこと。
果物の品種改良はもっと時間がかかって、10年から15年くらいだそうです。実際に農家さんが生産して消費者のもとに届くまでには、もっと時間がかかりますね)
※農家さんの仕事は自然が相手ですから、特に繁忙期は休む暇もないと思います。農作業の手間を少しでも省くために改良された品種があるそうですね?
「最近そういった品種も登場しています。例えば、この本ではイチゴの『恋みのり』という品種を、今のイチゴの品種の代表として紹介しているんですね。これを敢えて選んだ理由は、美味しいとか甘いとかっていうのはもちろんなんですけど、作業の手間をすごく省ける品種なんです。
具体的には余分な花や実を摘む、剪定する作業が必要ないので、そのステップを省けるだけでも、大量に大規模に栽培する農家さんにとっては、とても省力化になるということで・・・。
あと、この本では紹介してないんですけど、最近、それも面白いな~と思ったのが、リンゴそのものの実の部分を改良したのではなくて、リンゴの木の形を改良した『ベニツルギ』っていう品種が新しく出たばかりです。
なんで木の形を変えたかって言うと、収穫しやすいようにするためなんですね。リンゴの木って普通、横に広がるんですけど、それをシュッと縦型にすると作業動線がすごく作りやすくなって、脚立を持って行くときにあちこち行かなくて、まっすぐ生産ラインが敷けるような・・・あとは機械で収穫する今後のスマート農業を見据えた品種が最近は登場してきています」
●すごいですね!

品種改良と伝統野菜
※品種改良も有益なことだと思いますが、その一方で、日本に古くからある伝統的な品種は、守っていく必要がありますよね?
「それもとても大事なポイントですよね。一度途絶えてしまったものは元に戻せないので、守っていくというのも重要ですし、財産として文化として守っていくというのも重要です。
昔からあるものですとか、特に野生種は、例えば暑さとか寒さとか乾燥とか、逆にすごく湿気が多かったりとか、そういう環境にタフなものや、病気に強いものが多いというふうに言われています。
なので、改良していくことも大事なんですけど、一方で昔からあるもの、自然にあるものも守っていく。どっちも両輪でやっていかなきゃいけないことで、この本のメッセージのところにも書かせていただきました」
●では最後に、初の絵本『こんなにかわった! やさいくだもの むかし・いま』を見る子どもたちが、どんなことを感じ取ってくれたらいいなと思いますか?
「はい、まずは純粋に驚いてほしいな! 楽しんでほしいな! というふうに思います。
もし周りに大人のかた、おじいちゃんやおばあちゃん、親御さんや先生とかいらっしゃれば、その世代のスタンダードもだんだん変わってきていると思うので、“昔のニンジンはこうだったよ”とか、“昔のトマトはこうだったよ”っていうふうに世代間で盛り上がってもらえたらなと思います。
読者のかたには普段、何千年前とか何百年前とかってスケールで考えることってなかなかないと思うんですけれども、そういった長いスパンで品種改良っていうものが、今まで脈々と続いてきているということを感じ取っていただいたうえで、ここから先の未来、どんなふうに私たちは食を守っていくんだろうとか、新しく作っていくんだろうとかを考えるきっかけになれば嬉しいと思います」
●親子で楽しめますね!
「そうですね。ちょっとダジャレっぽい(笑)小見出しも入れたりして、声に出して読んでも面白く楽しく読めるようにという気持ちを込めて作りました」
INFORMATION
ほりかわさんの思いがこもった写真絵本をぜひチェックしてください。お馴染みの野菜や果物、全部で14種の、昔の姿に驚くと思いますよ。お子さんと一緒に見てほしい食育絵本です。巻末には、大人向けに品種改良の解説が載っています。
講談社から絶賛発売中。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎講談社:https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000426983
この絵本の出版を記念して茨城県つくば市の農研機構「食と農の科学館」で、現在、企画展が開催されています。会期は来年1月30日まで。入館は無料です。詳しくは農研機構のサイトを見てください。
◎農研機構:https://www.naro.go.jp/tarh/information/event/176719.html
2026/8/16 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海あそびナビゲーターの「茂木(もてき)みかほ」さんです。
子供たちからはキャンプネームの「モッキー」と呼ばれている茂木さんは、群馬県出身。小さい頃から山や川でいろんな生きものと遊び、小学校に入った頃からは、インコやカメレオン、リスやウサギなどを飼う生き物大好き少女だったそうです。
そんな茂木さんが新卒で入社したのは「アクアマリンふくしま」。水族館を選んだ理由は、海のない地域で育った茂木さんにとって、知らない生き物がたくさんいるという好奇心から。その後、ダイビング雑誌の仕事をはさんで「横浜・八景島シーパラダイス」で働き、6年前には「高知県立足摺海洋館SATOUMI」のリニューアルに参画。
そして20代後半に、磯や干潟が好きになって、通うようになったそうですが、そのきっかけのひとつが師匠である「海野義明(うんの・よしあき)」さんが立ち上げた「オーシャンファミリー」の、自然体験の指導者を養成するスクールに1年通ったこと。おかげで本格的に海に向き合うようになったそうです。
現在、茂木さんは逗子や葉山をメイン・フィールドに、子供たちと一緒に生き物観察や、海での遊びを楽しむ活動をされています。
そんな茂木さんが『子どもと海あそび』という本を出された、ということで番組にお迎えすることになりました。
きょうはおもに磯や砂浜での遊び、海あそびの注意事項、そして茂木さんが主宰されている「おかさなラボ」のお話などうかがいます。
☆写真協力:茂木みかほ


おさかなラボ、地元の海を知る
※茂木さんは現在「海あそびナビゲーター」として活動されています。その活動を始めたのは、どうしてなんですか?
「実はその“海あそびナビゲーター”という肩書きは、最近言い始めたんですけれども、もともと海の自然体験を子どもたちにしてもらいたいなっていうので、そういった活動を15年前くらいからコツコツ始めていました。それがやっと仕事として形になってきて、何か肩書きが必要だなと思った時にポンと(思いついて)こういった肩書きを使わせていただいているんですけれども・・・。
もともとは逗子にある『黒門とびうおクラブ』という放課後、自然活動を体験させるクラブみたいなのがあって、そこに私もコーチとして関わらせていただいていたんですね。その関係で子どもたちが放課後、学校を離れてのびのびと遊んでいる姿がすごくよくて、私もこういう活動していきたいなと思った時に、特にその中でも生き物好きな子たちがいて、そういった子に何かできないかなと思ったんですね。
今やっている『おさかなラボ』の原点なんですけれども、そういった生き物クラブみたいなものをやりたいと思って、ナビゲーターという肩書きを使いつつ、おさかなラボ以外の一般のかたたちにも、そういった活動をしているということです」
●茂木さんが主宰されている「おさかなラボ」、これは改めてどんなラボなのか、教えてください。
「活動としては1年を通じて、地元の海のことを知るといった目的で、海だけじゃなく、川も入ってくるんですけれども、子どもたちと一緒に、春でしたら磯遊びがメイン、夏でしたら素潜りで水中観察を行なったりですとか・・・・。
秋は釣りとか、岩壁採取って言って堤防から網で生き物を捕まえて観察することもやっていたりですとか、冬はビーチコーミングと、室内で活動する、例えば顕微鏡を使ってプランクトン観察をしたりですとか、あとは魚の解剖をしたりですとか、そういった活動を行なっております」
●観察と言っても、季節によっていろんな観察ができるんですね。
「そうなんですね。やっぱり見られるものも違いますし、それを子どもたち自身に肌で感じてもらいたいなと思って続けています」

●本に「おさかなラボ」に所属する子どもたちの観察記録が載っていました。スケッチだったり、メモがびっしり書いてあったりして、いいですね! すごいですよね!
「そうなんです。みんなすごく集中して書いてくれています。生き物を実際にフィールドで見ると、やっぱりすごく感動するんでしょうね。
そのテンションで、こちらが言わなくても自分たちで書き始めたりして、それがすごく”よくこんなところに気づくね!”みたいなところもあって、私も日々それに感化されて勉強させてもらっています」
(編集部注:茂木さんは、神奈川県三浦市三崎にある「日本さかな専門学校」の講師としても活躍されています。今年は、自然体験の指導者やネイチャーガイドなどを目指す3、4年生を対象に、一般のかたたちにどうやって自然や生き物のことを伝えるかなど、インタープリテーション的なことを学生と一緒に勉強しているとおっしゃっていました)
カニを釣る!?
※ここからは茂木さんの新しい本『子どもと海あそび』をもとにお話をうかがっていきます。背表紙の説明に「親子で楽しく知る海と生き物の本」と書いてあります。改めて、どんなコンセプトで書いた本なのか、教えてください。

「本書は磯遊びと砂浜遊びの2本立てがメインの内容となっています。ここ最近、海が近くても海に行かないとか、やっぱりちょっと海離れじゃないですけど、気持ちが海から離れてしまっているお子さんとか大人のかたの話も聞こえてきています。
そういったかたにやっぱり海を知ってほしいっていう気持ちもありまして、そのきっかけになる本として、本書がなってくれたらいいなという思いで書き始めました」
●本の初めのほうに「海に挨拶しよう」とありました。その心は・・・?
「私自身が自然と向き合うときは謙虚でありたいと思っています。海に入っていく前の段階で、自分自身の気持ちを海に向かわせる意味でも、ちょっと落ち着けてリラックスをして入っていくということで・・・。
海に入ってからも、もしかしたらちょっとした危険を退けられるかもしれないですし、あとは海にいる生き物たちに対しても、お邪魔しますみたいな気持ちで入っていくことで、海にもそこまで負担をかけないで、自分も楽しめるっていう思いで、挨拶をしてから入るといいよっていうので、冒頭に入れさせていただいています」
●「海あそび」と一口に言っても、磯だったり砂浜だったり、観察する対象も海の生き物から砂浜に打ち上げられた貝殻だったり、海辺にいる野鳥に植物に、いろいろありますよね。
「そうなんですよね」
●茂木さんのおすすめのフィールドとしては、やはり磯になりますか?
「そうですね。やっぱり磯がいちばん生き物が、多種多様な生き物が身近に見られるっていうところで、おすすめではあります」
●でも磯の中でも岩肌とか潮だまりとか、どこを見るかによって生き物も変わってきますよね?
「そうですね。例えば潮だまりですと、スズメダイとかギンポとかっていうお魚がいるんですけれども、そういったお魚が限られたスペースに閉じ込められている状態なので、網で捕りやすいんですね。

岩肌を見ると、その隙間に大好きなかたも多いと思うんですけど、ウミウシが隠れていたりですとか、ヒトデとかカニが隠れていたりとかっていうのがあったり、それぞれ棲む環境によって、そこにいる生き物も違ってはきます。
いちばん探しやすいポイントとしては、やっぱり石をひっくり返して裏を見るっていうのがいいのかなと、やりやすい方法かなと思います。ひっくり返したら、その石は必ずもとに戻してあげるっていうのを、マナーとしてやっていただくっていうのがいいと思います」
●本にカニを釣る方法が載っていましたよね。
「そうですね」
●たこ糸と石とスルメを使ってカニを釣るということで、改めてどんな釣り方になりますか?
「本当に簡単なんです。割り箸とか棒切れでいいんですけれども、釣りのミニチュア版みたいな道具を作って、それでカニを釣るという形なんです。棒はなくてもいいですよね。

紐の先に石の重りと、餌のサキイカとかそういったものをつけて、カニがいそうな堤防とかの隙間、そういうところに糸を垂らすとカニが貪欲に餌に食いついてくるんです。“チョキチョキ、チョキチョキ”って食べようとするのが見えるので、とても面白くて・・・。
タイミングがちょっと難しくて、挟んでチョキチョキ食べ始めて、がっつり挟んだ時に引き上げるみたいな・・・そうすると綺麗に釣れるんですね。網とか手だと、隙間に入ってしまって捕れなかったカニが、釣り道具をちょっと作ることによってスッと釣れるっていう・・・」
●そんな簡単に釣れちゃうんですね!
「結構簡単に釣れますよ。大人のかたもすごく楽しいと思います」
砂浜での楽しみ方

※磯に続いて、砂浜でのおすすめの「海あそび」を教えてください。
「砂浜ですと、生き物に関してはやっぱり砂に隠れるような生き物、例えばアサリの仲間のニマイガイとか、あとはツメタガイっていう大きい巻き貝がいるんですけれども、それは砂に潜って生活していたりとか・・・。
あとは砂に潜るカニもいるので、砂浜を見てみると、“あれ? なんでこんなところに穴が空いているんだろう?“みたいなことがあるんです。それはスナガニっていうカニの巣だったりっていう感じで、うまく砂に隠れている生き物がいるので、そういった生き物を波打ち際で探すっていう楽しみもあると思うんですよね」
●そうですよね。貝殻を拾ったりするビーチコーミングも楽しそうですよね?
「そうですね。本当にいろんな貝や貝以外のものも拾えるので、やってみるとハマるかたが多いですね」
●アート作品とかを作っているかたも多いですよね?
「そうですね。例えばフォトフレームに貝殻を付けてみたりですとか、あとビーチグラスをイヤリングにしてみたりですとか、いろんな発想があって面白いですよね」
●本には砂浜に転がっている石や貝殻を笛にする方法も載っていました。あれはどうやって音を出すんですか?
「(音を出すのが)結構難しいんですよ。石笛と貝笛を今回(本に)掲載しているんですけれども、師匠である海野さんは、両方ともすごく綺麗に音を奏でられるんですが、私は石笛に関してはまだ修行中です(笑)。
なかなか難しくて、貝笛に関しては指に貝を挟んで、巻き貝なんですけど、その穴にフューっと息を吹き込むと、角度によって “ピーー”っとすごく綺麗な音が出たりしますので、海辺で拾ってお子さんと一緒にやってみると、すごく楽しいかなと思いますね。子供たちは大人がやって見せるとこぞって、“自分もやる、自分もやる!”ってやりたがると思うので・・・」

●本を読んでいて、何でも遊び道具になっちゃうんだな~って思いました。
「そうですね。本当に子供たちは自然のものから道具を作り出す天才だと思っています。道具とはちょっと違うんですけど、この前、雨がザーザー降っていた日に(子どもが)大きな葉っぱを取って、それを傘代わりに、全然傘になってないんですけど(笑)、頭に傘みたいにさしてる子がいて、そういうのもすごくいいな~と思ったり、何でも道具として使う発想がわいてくるのは、子供ならではで、すごくいいと思います」
●そうですよね。砂浜でも陸に近いほうでは植物も観察できますよね?
「そうですね。植物も “海岸植物”と呼ばれている、体の構造が塩分とか風に強かったりとか、そういった特殊な構造を持っているような植物が結構見られるんですよね」
●葉山とか逗子ですと、どんな植物が見られますか?
「種類で言うとハマヒルガオとか、あとはハマダイコンっていう、実を食べると辛い大根の味がしたりですとか、“ハマ(浜)”ってつくものがやっぱり多いですね(笑)」
●なるほど。
「あとは綺麗な色だと、黄色い花を咲かせるミヤコグサとか、季節によって色とりどりいろんな植物を見られますね」
(編集部注:海辺で遊び時の服装は、茂木さんによると、特に夏は肌を露出させないこと。例えば、水着の上に長袖・長ズボンを着用。紫外線だけでなく、フジツボやカキガラ、クラゲなどから肌を守るためです。もちろん帽子や手袋、足元はマリンブーツか運動靴。そしてなにより、ライフジャケットをお忘れなく。
生き物を採取して観察するための道具としては、網やバケツのほかに、透明なプラケース、白くて平らな、バットと呼ばれる容器、そしてスケッチブックなどがあるといいそうです。服装や道具について詳しくは茂木さんの本『子どもと海あそび』をご覧ください)
海あそびの注意事項
※海辺で遊ぶ時の注意事項を教えてください。
「やっぱりこの時期だと熱中症と、あとは(磯で)滑って転んだりとかっていうのがあると思うので装備と、あとは今の時期でしたら塩分と水分をしっかり摂るみたいな意識を持ってもらうっていうことと・・・。
あと大事なのが事前に行く場所の情報を得ておく。例えばこの時期だったらライフセーバーがいる場所なのかどうかとか、シャワーがあるのかどうかとかも含めてなんですけれども、まったく情報なしで行くと、何かあったときの対処が遅れてしまうので、事前に現地の情報と、あとは天気と潮まわりも調べていくのが大事かなと思います」
●海あそびは夏のイメージがありますけれども、暑い夏を避けて春とか秋でもいいのかなって思ったりもするんです。いかがですか?

「そうですよね。春はすごくベストシーズンですね。磯遊びをやるのに暑すぎず、いちばんいいシーズンなんですが、秋はちょっと潮まわり的にだんだん夜に引くリズムになってくる時期なので・・・。
みなさん昼間に行きたいじゃないですか。だけど、そこの時間帯に潮が引かないっていう問題があるので、そういった関係であまり秋は磯観察としては、おすすめではないかなってなりますね」
(編集部注:海には危険な生きものもいます。茂木さんによると、夏から秋は特にアンドンクラゲやカツオノエボシなどに要注意。
クラゲに刺された時の対処法は、目に見えない触手が残っているかも知れないので、まずは海水でよく洗い流す。触手が取れない時はピンセットなどで取り除き、42度くらいのお湯で温めると痛みが和らぐとか。
その後、ミミズバレになったりと、炎症を起こしている場合は冷やすといいそうです。危険な生き物、そしてケガなどの対処法は茂木さんの本に載っていますので、ぜひ参考になさってください)
子供たちの発見が日々楽しくて
※茂木さんは「海あそびナビゲーター」として、子どもたちと過ごしている時間が長いと思いますが、子どもたちの遊ぶ姿や、何か見つけた時の反応などを見て、どんなことを思いますか?
「私が関わっている『おさかなラボ』の子供たちの話がメインになってしまうんですけれども、初めての経験を目の当たりにすることが多くて、例えばつい最近ですと、初めてウミウシを自分で見つけられた子の反応っていうのが面白くて・・・。

すごく控えめに“これ~、ウミウシってやつだと思うんだけど・・・“って自信なさそうにひとりで呟いていたので、”えっ、どれどれ?“って言って、“これ、立派なウミウシだよね!”って言ったら、“え~~~!”って漫画みたいに目を丸くしてキラキラさせて、“初めて自分で見つけられた!”とかって嬉しそうにしているのを見ると、私ももともと磯遊びで初めて見るものがたくさんいたな~と思って・・・。
子供たちとそうやって海辺で遊んでいると、私も初心に帰ったような気持ちにもなりますし、本当に子供たちの発見が日々楽しくて、一緒に遊んでいるっていうところもあります」
●本の巻末には茂木さんの師匠、海野さんとの対談も載っていました。そこに茂木さんの思いが込められているのかなって感じたんですが、いかがですか?
「そうですね。私のフィールドでの活動のベースになっているのが、やっぱり海野さんとの出会いというか、海野さんから学んだことが多くて・・・。
海だけではなくて自然全体、山・川・海って感じで、一連のつながりを本当に体験的に知っているかたなので、学ぶことが多くて、“あっ、この人みたいになりたいな”っていうところの憧れもあって、私自身もそういった自然体験活動を始めたところがありますので、伝わって嬉しい(笑)」

●では最後に、茂木さんが海から教えてもらったことを教えてください。
「そうですね・・・何かな~と思ったんですけど、ひとことで言うと“一生懸命生きること”。
海にいると、みんなそれぞれ生き物たちが必死に、食べたり隠れたりケンカしたりみたいに生きていて、私自身も海に行くとすごく力をもらえるんですね。そういった生き様みたいなものを見ていて、“あっ、私も生きよう!”って思ったりするので・・・。
日々、普通に生きていると、あまり死を間近に感じたりすることって少ないと思うんですけれども、生き物と対峙する中で、やっぱり“命ってなんだろうな”とか“生きるってなんだろうな”みたいなことを日々教えてもらっているので、そういったところで『生きる』っていうことですかね」

INFORMATION
磯や砂浜で生き物を探すコツや、よく見かける生き物、さらには海辺の植物や野鳥など、写真入りでわかりやすく解説。海あそびの服装や注意事項、そして海のルールや安全対策も載っています。
子供たちを海辺に連れて行く時に知っておきたい、大人の参考書にもなると思います。おすすめです。グラフィック社から絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎グラフィック社:https://www.graphicsha.co.jp/detail.html?p=63938
茂木さんが主宰する「おさかなラボ」、そして講師を務める「日本さかな専門学校」について詳しくは、SNSやオフィシャルサイトを見てください。
◎「おさかなラボ」Instagram:https://www.instagram.com/osakanalabo_zushi/
◎日本さかな専門学校:https://www.sakana-n.jp
2026/8/9 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「国立科学博物館」動物研究部の研究員で「クジラの先生」として知られる「田島木綿子(たじま・ゆうこ)」さんです。
現在上野の国立科学博物館で開催されている「いきもの超ワールド展」、夏休みということもあって、お子さんを連れたご家族もたくさん来場され、賑わっているようです。
今回の特別展は、NHKの自然番組「ダーウィンが来た!」との共同企画で、国立科学博物館が所蔵する標本や資料などに加え、「ダーウィンが来た!」の迫力ある映像が見られます。
また、公式ナビゲーターに相葉雅紀さんが起用され、館内で聴ける音声ガイドにも登場、話題になっています。
きょうは、そんな「いきもの超ワールド展」の見どころのほか、田島さんのご専門、イルカやクジラが座礁するストランディングについてもうかがいます。
☆写真協力:いきもの超ワールド展 国立科学博物館×ダーウィンが来た!

いきものの生存戦略
※今回の特別展のテーマが「いきものの生存戦略」ということなんですが、改めて、どんな展示になっているのか、教えていただけますか?
「生き物の生き残り戦略は、みなさんご存知の通りたくさんあります。ただそれを展示に落とし込むとなると、すべてを語ることはとても無理なので、そこからお客様とか我々研究者、スタッフ一同が面白おかしく展開できるテーマを設定するのに少し時間がかかりましたが、それを通して彼らが地球上でどうやって生き残ってきて、これからどうやって生き残っていくのだろうということが、わかっていただけるといいなという展示になっています」
●今回の特別展では、田島さんを含め5人の研究者の方々が監修として携わっています。展示のテーマや内容についてアイデアを出し合いながら、みんなで進めていったという感じなんですか?
「そうですね。企画会議は3年前ぐらいからスタートしていますので、そこからだんだんと絞り込んでいったということですかね」
●それぞれにみなさん専門がありますから、お互いの刺激になるような話も多かったんじゃないですか?
「そうですね。結局テーマを決めた段階では、そのテーマに合う標本なり、トピックだったり、研究成果なりということをそれぞれ出し合って、逆にそっちがあるんだったら、こっちもそれに関係して、うちのほうも出せるよとか、テーマが決まってしまうと研究者あるあるですけど、面白おかしくどんどん進んでいったというのはありますかね」
●「ダーウィンが来た!」のスタッフのみなさんも参加してのミーティングですか?
「もちろん、もちろん」
●会場で上映している映像については、国立科学博物館側からのリクエストというのもあったんですか?
「う~ん、どうでしょう・・・あまりうちが“こうしてください!”というのはなくて、その企画会議の中で自ずと、どんなテーマでどんな標本、どんな生き物が出るというのはわかってきますので、ダーウィンのかたたちに任せて、“ここではこういうのを出そうね”というのは普通にわかってくるので、ほとんどお任せでしたね」
(編集部注:今回の展示は生き物たちの生存戦略を、6つのチャプターに分けて解説。その6つとは、「いきもので異なる五感」、「いきもので異なるエネルギー補給」、「いきものの挑戦“サイズ”適応術」、「いきもので異なる移動のかたち」、「いきものに学ぶ集団の意義」、そして「いきものが紡ぐ命のバトン」となっていて、それぞれのコーナーで、貴重な標本や資料の展示に加え、迫力のある映像を体験できます。詳しい展示内容については、ぜひオフィシャルサイトをご覧ください)
☆いきもの超ワールド展:https://ikimonoworld.jp

イルカやクジラの視覚、聴覚、嗅覚、味覚
※ここからは「クジラの先生」として知られる田島さんに、今回の特別展にちなんで、イルカやクジラの五感について、初歩的なことをうかがっていきます。イルカやクジラは、視力はどうなんでしょう? いいほうなんですか?
「“いいほう”という基準が難しいですが、海洋環境というのは全体のわずか2%しか太陽の光が届きません。視力というのはどうしても太陽の光がないと、ほとんどの生物は見るという行為ができません。
わずか2%にいる間は視力を使っていますが、光が届かないところだと使いたくても使えないとは思うので、難しいですが、まったく悪いわけではなくて、視力は哺乳類としては普通に使える機能や構造は持っています」
●いちばん発達している感覚とは何なのでしょうか?
「鯨類の場合は、大きく“ハクジラ”と“ヒゲクジラ”に分かれますけれども、ハクジラは特殊でいわゆる“エコロケーション”超音波を使って周囲を確認していますので、それは聴覚になるんですかね。エコロケーションだと聴覚になるので、彼らはほとんど聴覚という感覚ですかね。
ヒゲクジラの場合は難しいですけど、あまりどこがというのはなく、やはりその場その場の環境によって嗅覚だったり触覚だったり視覚、ただ鯨類の場合は嗅覚が発達していないと言われていて、ヒゲクジラの場合は逆に嗅覚はまだ使っているということなので、それぞれの分類群によって違います」
●匂いを感じる嗅覚はないということなんですか?
「ハクジラはないと言われていて、結局、解剖学的にその部位がないので使っていない、または進化の過程で退化してしまったのだろうと言われています」
●イルカやクジラは魚など、そしてシャチはほかのクジラなどを食べますよね? ということは肉食になるのかなと思いますけれども、舌で味を感じたりというのはあるんですか?
「う~ん、彼らはほとんど丸呑みなので・・・いわゆる味覚というのは人間社会だと味わったりグルメだったり、美味しい美味しくない、なんて言いますよね。生き残るための味覚ではなくて嗜好性に偏っていますが、クジラ含めた生き物にとっての味覚というのは、そういうふうに発達したわけではなくて、例えば毒成分なものを食べないようにとか、腐っているものを食べないように、またはうま味成分としては例えば糖質、グルタミン酸みたいなものを舌とかいろんな場所でかぎ分けてはいるそうですけど、いわゆる人間社会で言う、味わうという感覚ではないそうです」
●胃はひとつなんですか?
「胃はひとつですよ。ただそれが複数の部屋に分かれているという言い方をしますね」

プランクトン食のほうが大きくなれる!?
※続いて、イルカやクジラの体の大きさについてなんですが・・・世界最大の哺乳類は、シロナガスクジラですよね。
「地球上に生きている最大の動物という枕言葉がつくと、シロナガスクジラになります」
●どれくらいのサイズなんですか? 今まででいちばん大きかったのは?
「記録的には南半球に、シロナガスクジラが33メートルっていう記録があったんじゃなかったかな・・・」
●なんでそんなに大きくなるんですかね?
「ふふふ、知りません(笑)。それはシロナガスに聞かないと(笑)」
●大きいことのメリットとデメリットがあると思うんですけど・・・。
「まあ、そうですね。いろんなところでお話をしていますけれども、結局大きくなれるというのは条件次第なので、本人たちが大きくなりたいと思ってなれるわけではなくて、ある一定の条件が揃わないと・・・。
大きくなれる条件って、やはり水の中にいると浮力を獲得しますので、自分で自重を支えなくていいっていうのと、あとは消費エネルギーと獲得エネルギーをいつも天秤にかけていて、消費エネルギーより獲得エネルギーが多くないと、餌をとるたびに疲弊していたら、そのうち衰弱してしまいますよね。
なので、彼らはなるべく要領よく楽をして餌をとりたいわけですね。そうするとプランクトンみたいに小さなオキアミを食べている動物のほうが、実は大きくなれるわけですよ。
シャチとか、陸上で言うとチーターとか、あと恐竜で言うとティラノサウルスみたいな、いわゆるチェイシング、追いかけ型、スピード型の捕食者は、結局自分で走らなきゃいけない、自分で追いかけなきゃいけないと、それだけ消費エネルギーが莫大ですよね。
あと大きすぎるとドスドスドスドス、自分でその体を持て余してしまう。特に陸上だと重力っていう最大の問題がありますので、だから陸上動物のいわゆる捕食者、トッププレデターはそんなに大きくなれないわけですよ。なれたとしてもスピード型では食べられない。一方、水の中だと浮力を獲得しますので、陸上よりは大きくなれると・・・。
で、もうひとつ、オキアミを食べる、一回の口を開けてパクって取り込む消費エネルギーに対して、一個一個は小さいオキアミですけれども、それをひとつの大きな塊として考えた時には、獲得できるエネルギーがものすごくあるわけですね。
そうすると確実に消費エネルギーより獲得エネルギーが増えます。実はオキアミとか群生の小魚を食べる動物のほうが大きくなれるという条件になるので、陸上より海の中のほうに大きい動物が多いし、海の中でもプランクトン食のほうが大きくなれるという条件になります」
●「歌うクジラ」として知られているザトウクジラについてもうかがいたいんですけど、歌うのはオスだけなんですか?
「と、言われています。メスも歌えなくはないと思いますけど、コミュニケーションのためには音は出しています。
いわゆる求愛アピールとしての、みなさんがよくおっしゃるラヴ・ソングはオスからメスへの求愛行動なので、基本的にオスしか出さないっていうふうに言われています」
●ザトウクジラは、その時にクジラ・ミュージック界で流行っている歌を歌うっていうのを聞いたことがあるんですけど、本当なんですか?
「みたいですね。それも研究の成果みたいですけど、ある一頭がその年に今まで聴いたことがないソングを歌い出すと、みんなそれに同調するように同じように歌い出すっていうのが研究成果とか、いろんなところで情報が集められているので、今のところ、それがいいとザトウクジラ界では思われているのかな~と・・・」
イルカやクジラの座礁は人間社会の影響!?
※田島さんは、イルカやクジラが陸にあがってしまう「ストランディング」研究の専門家でいらっしゃいます。6年前にご出演いただいたときにも、そのお話はうかがったんですが・・・その後の調査・研究で、なぜストランディングしてしまうのか、以前は、病気のせいではないかとおっしゃっていましたが、新たにわかったことはありますか?
「あまり人間にとってよくない話かもしれませんけど、やっぱりどうしても人間社会の影響がものすごく深く入り込んでいる事例を多く経験します。
最近だとみなさんご存知の通り、海洋プラスチック問題というのは、私たちも避けて通れない問題になっています。その海洋プラスチックを食べたことで衰弱死してしまうものもいれば、そこに吸着しているいわゆる環境汚染物質というのも、新たな脅威として注目されているので、私たちも細く長く研究を続けています。
あと最近、日本でも起こってしまっているのは、大型タンカーと大型クジラの衝突事故というのが、前よりも結構な頻度で発見されています。
大阪湾にマッコウクジラが打ち上がって、その時“ヨドちゃん”という名前がついたりもしましたけど、いつもいないところに迷い込む個体も見えてくると、ああいう場合は本当にどうしてかな? と思うしかないんですけど・・それらを含めてもやはり人間社会がちょっと影響しちゃっているかな・・・温暖化もまさにそうだと思いますけど、相変わらず病気とかは見つけていますけど、う~ん」」
●そうなんですね。生きたままイルカがストランディングしてしまうというニュースもありますけど、集団で座礁してしまうというのは、リーダーが方向感覚を失うといったこともあるのですか?
「う~ん・・・と言われる論文とか、いろんな書籍もあるんですけど、リーダーというよりは(イルカは)社会性が強いので、なんとなくみんな同じ方向に向かって行って、気づいた時にはあら~という感じだったり、リーダーだけのせいとはちょっと思えないところもあったりしますかね。
あとは、冷たい海域にトラップされちゃったりとか・・・だいたい春先に暖かい海が好きな種が千葉とかで打ち上がることが多いので・・・。
あと別の理由だと、いわゆるこれも人間社会の影響ですが、軍事演習ソナーがクジラの耳を攻撃してしまうので、それで死んでしまうというのも世界中で知られていることですね。ちょっと怪しいなというのは、日本でもパラパラ見えますけど、それを因果関係として証明するのはすごく難しくて、もどかしい事例もありますけどね」
●日本でイルカとかクジラがストランディングするのは、年間何件ぐらいになるのですか?
「報告例という意味でいくと、年間300件前後は報告されています」
●千葉県は多いほうですか?
「千葉県はものすごく多いですよ。やはり房総半島という大きな半島がありますし、南からは黒潮が流れて、銚子の沖から岩手県あたりまで親潮が流れてきて、ちょうど暖水と冷水が交わるところなんですね。
だからとてもいい魚場だと言われている通り、そこに海に棲んでいる生き物たちが餌を探して向かうわけなので、本当に千葉県はそういう意味では通り道だったりするので(ストランディングは)非常に多いです」
(編集部注:全国の浜にイルカやクジラが上がったというストランディング情報は各地の大学や水族館、博物館などと連携しているのでケースバイケースではあるそうですが、田島さんのところに連絡が来るそうです。
千葉は県立中央博物館やNPO、マリン関係者のほか、以前この番組にご出演いただいた「銚子海洋研究所」の「宮内幸雄(みやうち・ゆきお)」さんもいらっしゃるので、千葉県はとても連携がとれているとおっしゃっていました。
研究者としての田島さんの仕事は、「科捜研の女」のクジラ・バージョン、ということで、解剖して死因を解明すること。また、骨はいろんなことを語ってくれるともおっしゃっていました。
もし、浜に打ち上がっているイルカやクジラを見つけたら、地元の警察や消防、市役所などの公的機関のほか、同じく地元の水族館や博物館、大学などの研究機関に一報を入れてくださいとのことでした。そうすると、田島さんに連絡が入る場合もあるそうです)
人間も「いきものワールド」の一員
※ストランディングしてしまった大きな個体を前にして、どんなことを思いますか?
「生き物なので必ず死にますし、命が尽きるのは当たり前のことなんですけど、最近(調査研究を)やっていて思うのは、やはり死ななくてもいい個体もいたな~とか思うんですね。
それがいわゆる大型船にひかれちゃうとか、海洋プラスチックがお腹の中にあるとか、それはある動物、いわゆる人間ですけど、ある動物がほかの動物にちょっと迷惑をかけているわけじゃないですか。
それをあまり一方的に迷惑ばっかりかけちゃっていると、全体の生態系はいいほうには進まないので、人間のせいにしたいわけじゃないんですけど、そういうことをちゃんとみなさんにメッセージとして伝えるためにも、一頭一頭、これはどういうふうに亡くなってしまったのか、その原因は何だったっていうのを整理して、やっぱり人間社会、ちょっとだけ遠慮しようよとか、そういうことを含めて根拠のあるコメントを言えるように、一頭一頭に向き合っていくということを常に感じますかね」
●クジラの骨格標本も展示されている、現在開催中の特別展『いきもの超ワールド展』、今夏休み中ですのでお子さんも多く来場されると思います。総合監修の田島さんから、ここは逃さず見て! というところがありましたら、ぜひ見どころを教えてください。

「見どころは、いろんな人に質問されて考えたんですけど、おそらく今回6つのテーマに分けたっていうことが最大の見どころで、会場に来てくれたかたたちは、“なんでこっちのテーマをピックアップしてくれなかったのか“とかいうかたもいると思うんですよ。
ただ今回は、私が総合監修をさせていただく時に、やはり昆虫から海の無脊椎動物、脊椎動物、大きなものから余すところなく生き物をたくさんご紹介したかったので、その動物たちに当てはまるテーマ決めっていうのがいちばん大変で、それで6つにしたんですけど・・・。
そうすると、その6つすべて実は人間も当てはまることがすごく多くて、人間は全然、別のところから彼らを見るのではなくて、まさに特別展の中の、生き物のワールドの一員として、特にお子さんたちは“自分たちは、どれが当てはまるかな”とか、“自分たちにはないけど、逆に自分たちにしかない“とか、そういう自分と付き合わせたり、比べたりしながら彼らのこと、そして自分たちのことを知るきっかけ作りにしていただけたら、すごく我々一同嬉しいですね」
INFORMATION

上野の国立科学博物館で開催されている「いきもの超ワールド展」にぜひお出かけください。いきものの生存戦略に改めて驚くと思いますよ。展示のひとつに、体全体を迫力のある映像に包まれる空間があって、自分がアフリカの大地や海の中にいるような錯覚を覚えますよ。ぜひ体験してみてください。公式ナビゲーター相葉雅紀さんの音声ガイドもお楽しみくださいね。

開催は10月12日まで。開館時間は朝9時から夕方の5時まで。入場は4時30分まで。入場料は一般・大学生 当日券2,300円。小・中・高校生 当日券600円。詳しくは、特別展のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎いきもの超ワールド展:https://ikimonoworld.jp
2026/8/2 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、筑波大学大学院の助教で、管理栄養士そして日本スポーツ協会公認のスポーツ栄養士でもいらっしゃる「清野 隼(せいの・じゅん)」さんです。
清野さんは山形県出身。スポーツ栄養士として、森永製菓のトレーニング・ラボで、トレーニングや商品開発に携わったあと、筑波大学でコーチング学の博士号を取得。その後、日本オリンピック委員会のハイパフォーマンス・ディレクターなどを歴任。
現在は、栄養を理論から実践に落とし込み、スポーツ選手から一般のかたまで幅広くコンディショニングを支援する活動をされています。
そんな清野さんが監修された新しい本が、登山を栄養学の視点で解説した『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』。
きょうは登山の安全対策とも言える「食事と栄養」というテーマのもと、行動食や予備食、冷えや食欲がない時の対処法、熱中症対策、そして下山後のリカバリーについてもうかがいます。
☆写真協力:清野 隼

スポーツウエルネス学とは
※清野さんは筑波大学大学院で「スポーツウエルネス学」を研究されているんですよね。この「スポーツウエルネス学」とは、どんな学問なんですか?
「ひとことで言うと、スポーツを競技力とかパフォーマンスだけではなくて、人がよりよく生きるということに、どうつなげていくかということを考える学問になります。
健康ですとか地域、街づくりですとか、マネジメントとか、幅広く扱っておりまして、私はその中でもスポーツ栄養学やコーチング学を専門にしております」
●スポーツ栄養士のお仕事は、スポーツ選手の栄養管理を専門にされているということなんですか?
「そうですね。広く言えば、もっと一般のかたや健康増進をされているかたもサポートしたりはしていますけれども、主にはそういったスポーツ選手、アスリートを対象としています」
●選手のパフォーマンスにも影響してくる食事ですけれども、試合前と後では食事のメニューももちろん変わってきますよね。
「はい、目的が変わってきますので・・・例えば、試合前ですと力を出しやすい状態を作るために、糖質を中心にエネルギーを取りましょうとか、消化しやすく食べ慣れたものを食べましょう、そういったことが考えられます。
一方で試合後については、いかに消費されたものをリカバリーできるかとか、または水分や電解質などをしっかり早く補給できるかとか、そういった目的に応じてタイミングや食べるものも変わってきます」
●例えば、具体的な食べ物を食材で言うと、どんな感じなんですか? 試合前と試合後では・・・。
「日本人ならではで言えば、試合前も試合後もお米、主食ですね。非常に大事な食べ物になります。両方ともエネルギー源になります。または麺類ですとかパンなども大事になります。
一方でタンパク質源になりますと、終わってからなどは例えば、乳製品ですとか、または食べやすい肉など火を通したものですとか、そういったもので筋肉や疲労の除去、そういったところにつなげられるものを選んだりしています」
●清野さんが栄養士、しかもスポーツ分野の栄養士を目指そうと思ったきっかけというのは、何かあったんですか?
「もともと私も野球をやっていました。実際、肘をけがしたことがあって、リハビリテーションしていたんですけども、母親が非常にスポーツ栄養のことを考えて、台所にいろいろまとめたものを張り出していたんですね。
それを見て、とても興味を持って、支える側にもこういったスポーツの栄養の大切さっていうのがあるんだということを初めて知って、自分も目指してみたいなと思いました」
「食」は登山の安全対策

※ここからは清野さんが監修された本『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』をもとにお話をうかがっていきます。
●改めてなんですが、この本のコンセプトを教えてください。
「登山の食を安全対策のひとつとして、準備できるようにするということが、いちばん大きなコンセプトです。
例えば、靴ですとかレインウェアなど、地図や天気予報もそうなんですが、よく準備して登山に臨まれていると思うんですけども、なかなか体の中のエネルギー量ですとか、栄養面といったところまでは見えてきていないのではないかなと思いました。
そういう意味では、空腹ですとか脱水ですとか、足を止めるだけではなくて、思考力を鈍らせるようなコンディション、そういったところもしっかり準備して臨めるように、登山で試せるようにまとめてみたものになります」
●登山の安全対策として、レインウエアとか、そういった装備の準備だったり、天気予報のチェックなどと同じぐらい食事も大事だよということなんですね。
「そうですね。なかなか体内のエネルギーですとか、水分というのは見えにくいもので、気づかないうちに減っているということがあります。そういう意味で行動しながら、計画的に使うという意味では、雨具や靴などとも一緒かなと思います」
●清野さんご自身も登山はされるんですか?
「私は何度か登山やトレイルなどは経験しています。子どもたちと100マイルを歩くような冒険旅を行なったりですとか、自分自身もトライアスロンをよくしたり、そういった野外でのスポーツなどは定期的に行なっています」
●トライアスロンもされるんですか?
「そうですね(笑)。年に1回から2回はレースに出ようと思って頑張っています」

●登山と、ほかのスポーツでは、運動という点でどんな違いがありますか?
「非常に難しいんですけども、やはり何時間も一定の力を出し続けて歩くという登山の特徴があるかなと思っています。
さらに環境面の変化というのは非常に大きいのが特徴かなと・・・。例えば、標高差ですとか気温の変化ですとか、もちろん荷物や足場や、上りと下りなど、かなり環境面に応じて変化する特徴があるかなと捉えています」
●登山も日頃の食事が大事だと思うんですけれども、山に行く前は、特にどんな食事を心がけたらいいんでしょうか?
「書籍の中でもかなり強く書いているんですけども、前日とか、なかなか直前に何か変えようとして、やってしまうというかたもいらっしゃると思うんですね。やはりそうではなくて、普段から三食を整えておくということは基本中の基本かと思っています。
その中で例えば、炭水化物という栄養素は歩くための主要なエネルギーになりますし、タンパク質という栄養素は筋肉や血液など体を作る材料にもなります。登山前というのは、そういった意味でご飯やパン、麺類などの炭水化物を中心に卵や魚や肉や乳製品など、タンパク質源も組み合わせるといいと思います」
(編集部注:先ほどお話に出てきた、子どもたちと100マイルを歩く冒険旅、というのは、実はこの番組にも出てくださった北極冒険家「荻田泰永(おぎた・やすなが)」さんが計画し、子どもたちと一緒に100マイル(160キロ)を踏破する冒険プロジェクトのこと。
2012年から毎年、国内で開催されているこの「100マイルズ・アドヴェンチャー」に、清野さんは2017年と2019年に参加し、栄養士の視点で、子どもたちや荻田さんのコンディションを見ていたそうですよ)

行動食と予備食
※山の専門誌などにも「行動食」、つまり歩きながら食べられる食材の話がよく載っています。やはり行動食って重要なんですか?
「はい、とても重要だと思っています。これも書籍でかなり強く触れているんですけども、行動食というのはおやつではなくて、歩き続けるための補給計画の一部になります。
空腹を感じてから食べると、やっぱりその時点で集中力や判断力も落ち始めていることがありますので、少量をこまめに、できれば時間を決めて摂るというのが基本になるかなと思います。
選ぶ条件なども実はいくつかポイントがあって、もちろん携帯しやすさとか劣化のしにくさとか、あとはエネルギー密度ですね。小さくてもエネルギーがしっかり摂れるような密度の高いもの、あとは本当に自分が食べられる、食べやすいようなもの、そういったものが行動食としては適しているかなと思います」
●夏だと、どんな行動食がおすすめですか?
「夏は非常に食材の劣化も進みますので、傷みにくくないようなそういったものが向いていると思います。暑くても口にしやすいような、例えばゼリー状の栄養食であったり、飴や羊羹やエネルギーバー、それからナッツ、溶けにくい焼きチョコなんかは適しているかなと思います。
一方でおにぎりやサンドイッチといった、いわゆる先ほど行動食のエネルギー源にもなるようなものというのは、非常に便利ではあるんですけれども、保管や消費期限といったところに少し難しいポイントかなというふうにも思います。お腹を壊さないようなものですとか、保管のしやすいようなもの、そういったことも心がけていただくといいかなと思います」
●本に行動食とは別に予備食を持っていくこともお勧めされていました。その理由と、どんな予備食がいいのか教えていただけますか。
「行動食は先ほどお話しした通り、計画的に普段から食べてほしいものではあるんです。予備食というものは予定通り行なわれなかったり、例えば、悪天候になってしまったり、想定外のことが起こった時に備えるものとして捉えていただければと思います。
私も登山をしているときに、けがをしてしまったりですとか、道に迷ってしまったり、そういったこともあって、どうしても行動時間が伸びる可能性があるかと思いますので、軽くて高エネルギーで劣化しにくいようなものを選んでいただければと思います。
例えば、すぐ食べられるようなバーですとか、それこそ羊羹やナッツ、そういった持ち運びしやすいものに加えて、お湯や調理環境などを使える行程であれば、フリーズドライの食品や味噌汁、棒ラーメンなんかも選択肢としてあるかなというふうに思います」
登山もリカバリーが大事
※ここ数年、スポーツ選手の試合後のコメントで、「リカバリー」という言葉がよく出てくるようになったと思います。登山も山小屋に到着したあととか、下山後のリカバリーは大事ですよね?
「はい、とても大切になります。本書では下山直後から段階的に回復させるような流れというのを示しております。まず5分から15分ほどで水分を補って、スポーツドリンクですとか、ゼリーですとか、バナナなどの糖質をまず補給するということをお伝えしています。
胃が落ち着いてきたら、例えば、おにぎりにヨーグルトや牛乳など、糖質とタンパク質を組み合わせて、その後に主食や主菜、汁物などの食事につなげていただくというリカバリーが大事になるかなと思います。
食事だけでなくて入浴して軽いストレッチで整えたり、寝る前に水分と少量のタンパク質をとったりして、山小屋に宿泊するのであれば、翌日の行動まで考えて補給していくっていうことが大事かなと思います」
●いきなり、おにぎりというよりも、徐々に段階を経てっていうほうがいいんですね?
「そうですね。段階的なリカバリーっていうのは、トップアスリートも実施していることです。ファースト・リカバリー、セカンド・リカバリー、サード・リカバリーっていう形で、少しずつ少しずつ、摂るもの飲むもの休むことっていう、そういったものを計画的にやっていくのがポイントかなと思います」
栄養や水分補給の予行演習
※清野さん監修の本の第2章「栄養学の実践的活用術」に山の標高による登山のポイントが載っています。
標高が1000メートル以下のから、3000メートルを超える山までそれぞれ必要な技術などが解説されているんですが、標高に合わせた、事前の、おすすめトレーニングも載っていますので、これから山に行こうと思っているかたは、参考にされてみてはいかがでしょうか。
●事前のトレーニングで、栄養や水分の補給を、どのタイミングで取るかなどの予行演習もやっておいたほうがいいですか?
「そうですね。非常にこれは歩く練習と同じくらい大切になると思います。本番で使う装備、靴やザックや食品、飲料とかそういったものを使って、補給と休憩と、それからペース歩行、そういったものをセットで試していくっていうのが大事かなと思います。
例えば、美味しくても動いた後になかなか食べにくいっていう物もありますし、普段は食べられるのに胃が重くなってしまって、受け付けないっていったものもあります。
できれば、何時にいつ何を食べて、どれくらい飲んだのかとか、そういったものを簡単に記録していくと、自分に合うパターンなんかを見つけられて、本番で初めて食べて、こんなものを食べられない、みたいなことを体験することはなくなるんじゃないかなと思います」
●夏でも標高が高くなれば、気温は下がります。冷えとか食欲がない時の対処法はどうしたらよいでしょうか?
「はい、これはまず、ウエアの重ね着は大事かなと思います。私も体験したことがあるんですけれども、外からの冷えを防ぐのが、まず前提ではあると思います。一方で食べ物や飲み物は、体の内側から温めてくれるものでもありますので、温かい飲み物や食べ物は非常に大切になります。
例えば、インスタントの味噌汁ですとかフリーズドライの食品ですとか、固形のスープや温かい麺などは軽くて使いやすいですので、そういったものをどのように食べることができるかというのを本書でも詳しく説明しています。
よくあるんですけれども、味噌に粉末出汁とかネギやワカメを合わせて、“味噌玉”を作って、それを持って行って、簡単に食べることもできたりしますので、参考にしてみていただけたらなと思います」
●この時期は熱中症にも注意しなければいけないですよね?
「これは難しいですね。気温が高くなったり低くなったりする、とても変化の起こりやすい気候になりますので、水を飲んでいれば安心だというふうに思われるかも知れませんけど、決してそうではなくて(登山の前に)朝食を食べてエネルギーと水分を身体の中に入れて出発することが、まず最低限のポイントになります。
暑い時間帯を避けて計画したり、無理のないペースで日陰で休憩したりですとか・・・。もちろん帽子やウエアや水分、電解質など大切なポイントっていうのは多々あるんですけども、その予防のひとつとして、動いた後に体重の減少をしっかり2パーセント以内に抑えましょうということを本書では訴求しています。
気づきにくい脱水が起こったりしていて、結果的に体重がどんどん落ちているということもあります。それも熱中症につながってしまいますから、こまめに水分をとりながら体重も動いた後、トレーニングした後に測っていくような習慣を作っていけるといいかなと思います。
熱中症予防の観点で体重減少2パーセント以内に抑えるってことですけれども、もちろん登山中に体重を計ることはできませんので、下山後にお風呂に入った後とか、または寝る前とかに体重をしっかり計って、普段の自分の体重との変化というのを比べてほしいなというふうに思います」
山に行く前に、日頃の食事と睡眠
※清野さん監修の新しい本では「栄養学の基礎知識」もわかりやすく解説されています。栄養にはどんなものがあって、どんなふうに体に吸収されるのか、とても参考になります。
●登山に限らず、普段の生活でも栄養の知識を身につけておくことって、大切ですよね?
「もちろん大切です。ただ、選手にもよく話をするんですけれども、毎食の栄養素を細かく計算することは難しいことです。炭水化物やタンパク質などの栄養素がどんな役割を持つかということを知ることが一歩目かなと思います。
そうすると、自分で選んだりとか、自分の状態と対話しながら食事内容を考えたりとか、そういったこともできると思いますので、選択肢を増やすための知識として捉えていただけたらいいのかなと思います」
●この夏、山に行こうと思っているかたに、食事と栄養の面からアドバイスをお願いします。
「山で何を食べるかということだけでなくて、日頃の食事と睡眠から考えてみていただきたいと思います。そして、朝食を食べることですとか、何時ごろ何を補給するのかとか、そういったことも計画して、予備食や下山後のリカバリーまで考えていただけるといいかなと思います。
そういう意味で山に登る時の“食”っていうのは、あくまでも自分の準備のひとつで、身体とそれから装備や環境と一緒にセットで考えていただくものだと思っていただければなと思います」
(編集部注:登山のあとに冷たいビールを飲みたくなるというかた、多いと思いますが、アルコールは利尿作用があるため、脱水症状を招く可能性があったり、睡眠にも影響が出たりするので山では控えたほうがいいということです。
下山後の飲酒もリカバリーを阻害したりと、マイナスの側面があるので、自分の体と対話し、体調を確認してからにしましょう)
INFORMATION
『山に登るなら知っておきたい〜登山のための食事と栄養〜安全に山を楽しむための栄養学入門』
これから山に行こうと思っているかた、清野さん監修のこの本をぜひ参考になさってみてください。「山登りのための栄養学」に始まり、実践的活用術、基礎知識、そして「登山に適した食事メニューとトレーニング」と、4つの章に分けて写真やイラスト、図などでわかりやすく解説されています。
登山の食事と栄養を、安全対策のひとつとして、考えていただければと思います。メイツ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
2026/7/26 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは麹の専門家、麹文化研究家の「なかじ」さんです。
「なかじ」さんは千葉県香取郡にある、350年以上の歴史を誇る酒蔵「寺田本家」で、「蔵人」として日本酒づくりに携わり、醸造の技術や麹づくりを習得。
2018年からは、家庭の麹づくりを広める「麹の学校」を運営するなど、麹のスペシャリストとして活躍されています。そして先頃、『発酵を考えるヒント』という本を出されました。
そんな「なかじ」さんに日本人の食生活や健康には欠かせないと言ってもいい「発酵」と「麹」について、いろいろお話をうかがいます。
☆写真協力:なかじ

お米に白い毛がふわふわふわ
※「なかじ」さんは1979年、大分県生まれ。学生の頃にバックパッカーとして海外へ。旅に出たのは、地平線が見えない地域で育ったので、地平線とそこに沈む夕陽を見たいという理由で、まずはモンゴルを目指し、その後、中国、東南アジア、ヨーロッパなどを、あしかけ2年かけて巡ったそうです。
そんな「なかじ」さんが、どうして千葉県の酒蔵「寺田本家」で酒づくりに従事することになったのか。そこには不思議な巡り合わせがあったんです。
旅に出る前から民謡や民俗芸能に関心があった「なかじ」さんは、特に日本の各地に残る伝統的な「仕事歌」が好きで、覚えては歌っていたりしたそうです。海外の旅から帰国後、知り合いに連れて行かれたのが、なぜか、寺田本家。
日本酒を造る時の仕事歌を知っていた「なかじ」さんは寺田本家の先代の前で、その歌を披露したところ、先代がいたく気に入り、その冬に始まる酒づくりに誘われ、アルバイト感覚で参加したら、それが仕事になったということなんですね。
当時「なかじ」さんを含めて、日本酒づくりに参加した5人は、なんと、みんな素人。そこでお酒づくりの責任者「杜氏(とうじ)」が作業の合間の休憩時間に日本酒づくりのイロハを、まるで大学の講義のように黒板に書いて教えてくれたそうですよ。
●まずは「なかじ」さんに日本酒づくりの工程を教えていただきました。
「まず、お米を洗って浸漬(しんせき)して、水を吸わせて、そして翌日蒸して、蒸し米ができたら、それを麹にする。3日間、麹にして、そこから酒房(しゅぼう)に発酵する素であったりとか仕込みだったり、大きなタンクに仕込んだりとかっていうふうに割り振っていくって感じですね」
●麹と向き合う日々で、どんな思いが芽生えましたか?
「最初は蒸し米に対して、麹のタネである種麹(たねこうじ)っていう、ふわふわっと目に見えない小さな胞子なんですけども、それを振りかけて3日間、温かい所に置いとくと、蒸し米の表面に白い毛がふわふわふわ~っと付くんですよね。
それを夜、麹室の蓋を開けて覗いてみると、お米の全面に白い毛のような感じがふわふわ~っと生えていて、それを見た瞬間、やっぱり感動しましたね。これが麹なのか! って・・・」
●そうなんですね。で、麹にどんどん魅了されていったという感じなんですか?
「そうですね。もちろん麹だけではなくて、お酒づくりの現場なので、お酒のもろみであったりとか、酵母菌や乳酸菌の活動とか、いろんな菌が働くんですね。今まで菌が働くとか発酵とか、その歳までは人生で意識したことなかったんです。
発酵の現場に入って、目の前で目に見えない菌が動いているのを直に見せられて、お米に白い毛が生えることであったりとか、お酒のもろみ発酵、タンクであれば、お米と水を入れていたものがポコポコって泡が立ってくるとか・・・。
泡が立ってくる現象と同時に良い香りがしたり、フルーツのような香りがしたりとか、舐めてみたら甘くなっていたりとか、五感に入ってくる微生物の命の活動がダイレクトに堪能できるっていうか・・・。
微生物って本当に目の前にいて、こうやって人間に影響を与えるほど生きているんだっていうのをそこで改めて見て、麹やお酒の微生物の活動に感動したっていうのがきっかけですね」
●普段は、なかなか目の当たりにできないですよね?
「そうですね」
●結局、何年ぐらい寺田本家にいらしたんですか?
「8年ぐらいいました」
●麹専門家の原点ですね。

ありがたい「ニホンコウジカビ」
※初歩的なことになりますが「発酵」とはなにか、教えてください。
「発酵って実はその定義は非常に曖昧だったりして、一義的には微生物が有機質を分解代謝して、それが人間にとって有効的であれば発酵、それが人間にとって害があれば、腐敗っていうふうな分け方がありますね」
●確かに発酵と腐敗の違いって曖昧な気もしますけど、有益かどうかっていう違いなんですか?
「いちばん大きな視点としては、まずそこがありますね。でもひとことに発酵と言っても、例えば日本人にとって豆が腐る納豆は発酵と見ていて、日本人が納豆を美味しく食べたり、納豆の香りも日本人は“いい香りだな~”って嗅ぐことができますけども、それが欧米系の人にとっては、大豆が腐るのは腐敗なわけであって、かつ納豆の匂いというものも、なんか嫌な匂いだったりとかするわけですね。
このように文化的な背景とか、あとは知識とか、その人の胃腸の強さとか、許容範囲とかでも違ったりします」
●なるほど。発酵する微生物で、人間に有益なものの代表が麹菌っていうことなんですか?
「そうです。麹もカビなんですよ。麹の和名としての正式名称が『ニホンコウジカビ』っていうんですね。なので、コウジカビであってカビの仲間ですね。カビの仲間なんですけども、日本人とは非常に歴史が長くて、人間にとって有益ないろいろな代謝物を作ってくれるカビです」
●麹菌は何種類ぐらいあるんですか?
「現場でよく使われるのは大きくは3種類ですね。お米を分解するのは『アスペルギルス・オリゼー』、お醤油を造る『アスペルギルス・ソーヤ』、あとは沖縄とか九州で焼酎を造る麹菌があって『アスペルギルス・リューチューエンシス』っていう、この3種類がよく使われていると思います」
●確かにお酒や醤油、味噌を造るのに欠かせないものですよね。用途によって使う麹菌が異なるっていうことなんですね?
「そうですね。麹によって、お米を食べたり大豆を食べたりするときに、まずはお米が好きな麹菌とか、大豆が好きな麹菌とか、その麹菌によって繁殖しやすい環境があったり・・・。繁殖しやすい環境プラス、麹菌のいちばんの特徴としては酵素っていうのを出すんですよ。
酵素は、人間で言うところの唾液とか腸液とか・・・人間もご飯を食べて唾液で溶かして飲み込んで、腸液でご飯のでんぷん質を溶かして、ブドウ糖にして細かい単位にして、腸の壁から吸収することで栄養にすることができるんですね。
いろんな食べ物、ご飯だったりお肉だったりを分解して細かくしてくれるものが、酵素っていうものなんですね。生物はみんな持っているんですよ、この代謝する酵素っていうのを・・・。人間の体外で微生物が分解してくれる時に使うのが菌の出す酵素。
やっぱり麹菌はこの酵素をたくさん持っていて、人間の生活圏で必要な酵素を、だいたいほぼすべて麹菌は持っているって言われています。なので、麹菌はこの酵素が非常に豊富で、量の多い菌のひとつなんですよね」

「麹」から作られたものが和食
※「麹」は、日本の国の菌「国菌」に認定されているそうですね。それほど、日本人には重要な菌なんですね?
「そうですね。日本の和食、日本人たるアイデンティティとして、まず和食があると思うんですけれども、この和食の基本調味料があるんですね。
食文化は、日本だったり中国だったり、イタリア、フランスとか、いろんな民族のいろんな地域にその民族特有の食文化があって、その食をずっと小さい頃から食べていて、それで自分たちはこういう国の人間なんだなって認識していくと思うんです。
和食の場合はその基本調味料に味噌、醤油、お酢、お酒、みりんがあると思います。この基本調味料が全部、麹から作られているんですよ」
●確かに、そうですね。
「ということは、和食は麹から作られているんですね。麹から作られた基本調味料、それを海の魚とか山のものとか野菜に使って調理したものが、“和食”って定義できるわけですよね。
それを食べているのが“日本人”なので、日本人は和食の基本調味料、味噌、醤油を通して、ずっと麹を摂取し続けてきた民族と言えるんですね」
●なるほど。海外はどうなんですか? 麴菌は?
「カビ食文化はあるんですけども、麹菌はいわゆる単菌で、一種類の菌アスペルギウス・オリゼーだけを使うことはあまりなくて・・・。
もちろんアジアにもカビ食文化っていうんがあるんです。それが朝鮮半島だったり中国だったり、あと東南アジアにも多様なカビを培養して、それで味噌のようなものとか、お醤油やお酒を造るっていうカビの文化圏はあります。もっといろんな違うカビだったり、雑多なカビを使ったりするんですね。
ヨーロッパに行くとそれが酢酸菌だったり、ピクルスとかザワークラウトの酢酸菌だったり、ヨーグルトを作る乳酸菌だったり、あとはエジプトにもあるようなビールの酵母菌だったり・・・。
その民族の収穫した穀物の種類とか、あとはそこに住んでいる地域の環境温度や湿度によって、どういう微生物が優位に繁殖しやすいのかが変わってきて、それで民族ごとに使っている穀物と微生物がだんだん決まってきます」
●麹の発酵は、日本人の知恵と言っていうことですよね?
「そうですね」
●すごいことですよね。日本人が麹菌の存在に気が付いて、それを発酵させて食べるものに生かすようになったのは、いつ頃だったんですか?
「史実で残っている範囲で奈良時代700年代ですね。600年後半から700年代って言われていて、奈良の平城京の周りの木簡からお酒を造っていた記述が出てきたりとか・・・。
あとは、いろんな地方の風土記、その国の風土を書き残した文献があるんですけれども、『播磨の国』風土記にもお米を蒸して潰して、お餅にしたものを神様にお供えして、そのお供えしたものに自然に生えてきたカビ、そのカビを壺に投げ入れて発酵させてお酒を造って、それをみんなで呑んで楽しく酔っぱらって騒いだっていう記述があるくらいなので、700年代頃にはすでに記述としてカビを使っていたっていうのが残っています」
日本の発酵文化、膨大な情報量

※ここからは「なかじ」さんの新しい本『発酵を考えるヒント』について、お話をうかがっていきます。まずは、どんなコンセプトで書かれた本なのか、教えてください。
「僕は麹がすごく好きで、麴のことをいろいろ勉強してきたんですけれども、麹のことを知りたいなって思って、日本のいろんな麹、味噌屋さんとか酒屋さんとかいろんなところを訪ねていくと、実は麹であったとしても、日本酒の酒屋さんが作るる麹と、味噌屋さんが作る味噌の麹、醤油屋さんが作る醤油麹、焼酎屋さんの焼酎麹とか、麹でもたくさんあるんですよね。
なので、麹の世界もすごく膨大で、僕は酒屋から入ったので米麹を作るんですけども、別の専門家では麦を作る麦麹の職人さんがいたりとか、大豆で作る豆麹の専門家がいたりとか、それぞれの職人さんがいます。
その職人さんは一生かけて、その技術を磨いているわけですよね。またそれを研究している研究者のかたもいます。
麹菌の研究をする研究者とか、醤油の研究者とか味噌の研究者のかたがいて、それぞれがずっとそのことを研究していて、新しい技術や発見を発信し続けているんですよ。
すると、麹のことに限っても僕ひとりですべての、日本の麹文化を把握することが無理な情報量が毎年のように発信されているんですね。なので、自分だけで勉強したいとか、自分だけで勉強したりとか、自分の経験だけで知ろうと思っても無理だなって思っています。
最近、発酵がメディアとかSNSとかで注目されてきて、日本の発酵文化も世界的に注目されているんですね。これを発酵っていうふうに広げてみても、日本の中にはいろんな発酵文化があって、いろんな発酵の分野、それこそさっき言ったように職人さんもいるし、専門家もいるし、研究者もいるし、その周りの発酵系のメディアのかたとか情報発信されているかたもいて、膨大な情報量が日本の発酵文化の中にはあると・・・。
日本の発酵文化って何だろう? って思った時に、その全体像に触れられる人がいない、それぞれがその分野の専門家ではあるんですけれども、全体像を把握出来ている人は誰もいないんですよ」
●なるほど。
「なので、この本を通して、まずそれぞれの専門家にその専門の道の発酵を聞いていきたいと・・・ひとりではわからなかった知見や情報を長年研究されてきたとか、長年携わってきた職人さんに、その視点でその人の分野の発酵を教えてもらおうと・・・。
その情報を一冊に集めることによって、日本の発酵文化の輪郭をまず知りたいっていうのが、この本のきっかけです」
(編集部注:「なかじ」さんの本に登場する専門家9名のかたの中には、以前この番組にご出演いただいた発酵デザイナーの「小倉ヒラク」さんや土の研究者として知られる「藤井一至」さんのほか、600年続く種麹メーカーの29代目当主「村井三左衛門」さん、腸内細菌研究の第一人者「内藤裕二」先生も登場。
各分野の専門家との対話に、日本人の知恵や食文化、そして発酵や微生物の奥深い世界を感じ取ることができますよ)
麹をポケットで作る!?
※本に「ポケットで仕込む麹の作り方」が載っていました。そんなことができるんだ! とちょっと驚いたんですけど・・・どんな作り方なのか、かいつまんで解説していただけますか。
「これは蒸米に先ほどいった麹菌のタネをふりかけて、それを食品用のビニール袋で包んで封をして、自分のポケットに入れるんですよ。そして自分の太ももで温めて3日から4日で麹を育てるという方法ですね」
●すごいですね。人の体温は麹を作る上で、適温ってことなんですか?
「実は麹菌が成長する最も適温が約35度なんですよ。人間の体温は36度から37度なので、人間の体温で温めていくと、麹菌にとっていちばんの成長適温になるんですね」
●ポケットの中で育つって面白いですよね。
「結構よく育つんです」
●寝る時も寝床に持って行くって、本にも書かれていましたけれども(笑)
「そうですね。一緒に寝ます(笑)」
●夏休みの自由研究とかにもいいですよね。
「そうですね。ラジオを聴いているかたに補足をしておくと、ビニール袋に入れて温めるだけだと、酸欠になって(麹菌が)死んでしまうので、基本的には人間と同じような環境だと思っていただいて、たまに(ビニール袋の)口を開けて、新鮮な酸素を補給してあげるってことを3日間続ける必要がありますね」
●詳しい作り方は、本で確認していただきたいと思います。「なかじ」さんは普段の生活でも麹とか発酵に向き合っていらっしゃるんですよね。具体的には何か考え方とか生活の基準に発酵があったりするんですか?
「そうですね。寺田本家の先代に教わったことってすごく大きくて、いちばん衝撃だったのは、酒屋さんの技術的な発酵っていうよりも、先代の社長が会社経営に発酵的な視点とか、街づくりを発酵的な視点で考えていらして・・・。
会社っていうと、いかにビジネスとして、うまくやっていくのかとか、成功するのかとか、お金儲けってことを考えがちってあると思うんですけど、寺戸本家はお金を儲けるとか、ビジネス的にうまくいくとかっていう視点じゃなくて、いかに発酵させるかみたいな価値観で運営されているんですね。
その時に結構、衝撃を受けて、発酵は食品だけじゃなくて、人間が生きる方向性としてうまく活かせるとか、成功するとかじゃなくて、発酵するっていう言葉で考えて、どっちの方向に行ったら発酵するかなとか、どの選択が発酵するかなっていう言葉で考えるとうまくいくんだ! みたいなのを、まざまざと見せつけられて、それがすごく自分の中で価値観が変わりましたね」
●この本『発酵を考えるヒント』や今後の活動を通して、どんなことを伝えていきたいですか?
「まず生活の中に発酵を取り入れるっていうこと。それを通して見えない命が自分たちを活かしているんだってことを体感してほしいなって・・・そのきっかけに発酵がなれたらな嬉しいなって思いますね」
●では最後に「なかじ」さんにとって発酵とは?
「生きる指針、ですね」
INFORMATION
「なかじ」さんの新しい本をぜひ読んでください。私たち日本人の食生活や暮らしに根付く「発酵」を、いろんな視点で見つめ、その歴史や不思議を紐解いた「発酵のエンサイクロペディア」とも言える本です。先ほどお話にあった「ポケットで仕込む麹の作り方」も載っていますよ。ご家庭に一冊、この『発酵を考えるヒント』はいかがでしょうか。
エクスナレッジから絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767835600
「なかじ」さんが運営されている、ご家庭に麹を広める「麹の学校」についても詳しくは、オフィシャルサイトを見ていただければと思います。














