2024/1/28 UP!
◎諏訪晴美(ハーブ研究家/日本メディカルハーブ協会のハーバルセラピスト)
『気軽に楽しくハーバルライフ〜「ハーブのある暮らし」をご提案』(2024.1.28)
◎『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第18弾!〜「つながる」ウエブメディアとアップサイクル ・ブランド〜』(2024.1.21)
◎佐藤 尚(風景写真家)
『47都道府県、里山・里海に魅せられて〜人の温もりを感じる風景写真』(2024.1.14)
◎保坂直紀(サイエンスライター・気象予報士/東京大学大学院の特任教授)
『地球沸騰!? 2024年の夏も暑いのか!?〜地球規模の大気の循環を紐解く』(2024.1.7)
2024/1/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ハーブ研究家、そして日本メディカルハーブ協会のハーバルセラピスト「諏訪晴美(すわ・はるみ)」さんです。
東京・渋谷生まれの諏訪さんは、広告代理店そして出版社に勤務していた頃、多忙を極め、あまり健康的ではない生活を送っていたそうです。そして20年ほど前に食生活にハーブを取り入れるようになって、体調がどんどんよくなっていったそうです。そんなハーブの魅力を伝える仕事がしたいと思い、2007年に独立。その後「ハーブと私」を設立。ハーブ料理のレシピ開発や講座なども開催し、ハーブの魅力を伝えるために幅広い活動をされています。そして先頃『ハーブの癒し』という本を出されました。
きょうはそんな諏訪さんに「ハーブのある暮らし」をテーマに、この時期に飲みたいハーブティーや、ハーブを使ったおすすめレシピ、そして、ベランダでも育つお手軽ハーブのお話などうかがいます。
☆写真協力:ハーブと私
ハーブの力を人間に
※ハーブの勉強はどうやってされたんですか?
「最初は独学で、いろいろ(ハーブを)使っていたんですけど、やっぱりちゃんとした知識を学びたいと思って『日本メディカルハーブ協会』のメディカルハーブ検定っていうのがあって、最初それを勉強して、そこから検定とか資格とかを取っていくようになりました」
●スクールに通ったりとかされたんですか?
「そうですね。私は『生活の木』っていうハーブショップがやっているスクールに行ったんですね。日本メディカルハーブ協会が提携しているスクールのひとつで、面白かったです。なぜハーブが体にいいのか、植物が植物自身のために持っている力を人間が利用させてもらっているっていうことが、勉強していくとだんだんわかって、だからいいんだっていうのが納得できて、すごく面白かったです」
●ひとくちにハーブと言っても、選び方とか使い方に注意しなければいけないことがありますよね。具体的な例で何かございますか? 使い方によっては健康を害したりとか、個人差もありますよね?
「まず植物なので、例えばスギ花粉症の人ってスギ科のアレルギーだったりすると思うんですけど、ハーブも例えばキク科の植物とか、いろいろあるので、そのアレルギーを持っている人はまず控えたほうがいいっていうことと、それから書店で売っているいろんなハーブの辞典を見ると、例えば妊娠中の人は控えたほうがいいもの、授乳中の人が控えたほうがいいものとかが載っています。
それから薬の相互作用、飲み合わせですね。この薬を飲む時にはこのハーブは一緒に飲まないほうがいいですよっていうのが、ハーブの辞典にも書いてあります。見落としてしまう人いるかもしれないんですが、実は医薬品のほうにも必ず明記されているので、そのあたりをちゃんとチェックしていただければと思いますね」
(編集部注:諏訪さんの本『ハーブの癒し』にも、ハーブそれぞれの説明のところに、使用を控えたい人という注意事項などがあったりします。ぜひ参考にしてください)
喉のケアにはマロウブルー
●実は私もハーブに興味があって数年前に「ハーブティー・ソムリエ」っていう資格を取ったんですけど、きょうのテーマ「ハーブのある暮らし」はビギナーのかたがたには、ハーブティーから入るのもいいのかなって思ったんですけど、どうですか?
「いいと思います。ハーブティーはすごく手軽で誰でも作りやすいですし・・・。あとはお料理、ハーブティーのハーブショップに行かれたことがある人は多分ハーブティーが作りやすいかなと思うんですけど、お料理に使うハーブは、実はスーパーに普通に売っているので、お料理のほうが入りやすいかたと多分、両方いらっしゃるかなって思います」
●例えば、寒くて乾燥するこの時期におすすめのハーブティーって何かありますか?
「体が温まるハーブがたくさんあるんですけれども、私が好きなのはローズマリーですね。おうちでハーブを育てたことある人の中では、多分ローズマリーがいちばん多いのかなって思うんですけど、枝を5センチぐらい切って、冬だったら例えば柑橘系のものがたくさんあると思うので、柚子の皮とかレモンの輪切りでもいいですし、ミカンの皮とかを一緒に入れて、熱湯を注ぐだけでも美味しいハーブティーになります」
●想像しただけで、いい香りがしそうですね!
「ちょっと生姜のスライスとかも入れると、さらにポカポカしてきますね」
●温まりそうですね〜。
「温まりますね」
●花粉症のかたにおすすめのハーブティーってありますか? そろそろスギ花粉が気になる季節になってきましたけど・・・。
「花粉症は、もうなってしまった時は、例えばペパーミントみたいにスッとするものだと鼻が楽になるとか・・・。あとエルダーフラワーっていうハーブがあるんですけど、ちょっと症状を緩和するのにおすすめのハーブだったりするので、混ぜて使ってもいいです。
あとは、ハーブを勉強されているかたがよく使われるネトルっていうハーブもあるんですけど、本当はネトルは花粉症が始まる3か月ぐらい前から使うといいんですけどね。ちょっと間に合わないかもしれないんですが、徐々にやって・・・1年中使っていてもいいハーブなので、来年のためにも(笑)」
●予防のためにも。
「そうですね。使えるといいかなと」
●それらのハーブは、すべてハーブのショップで手に入りますか?
「そうですね。ハーブショップであれば、どこでも手に入るハーブです」
●私は声を出す仕事なので喉の状態もすごく気になるんですけど、喉のケアにいいハーブはありますか?
「マロウブルーって聞いたことあります? ウスベニアオイとも呼ばれるマロウブルーは、粘液質を持っていて喉の粘膜の保護になるのでおすすめですね。あまり味があるハーブじゃないので、自分の好きなハーブティーにちょっと混ぜて使ってもいいかなと思います」
●ブレンドするっていうことですね。見た目もすごく綺麗な青ですよね。
「そうですね」
●なるほど! 使い方としてはハーブティーとして、ですね。
「はい、喉のケアの場合はハーブティーがいいですね。水筒で、できればちょっとずつ飲むのがいいかなと・・・」
●持ち歩くっていうのもいいですね。
「あとは、例えばカモミールとか一緒にブレンドすると、ケアにとてもいいかなと思います」
●ブレンドする時、割合はどのようにしたらいいんですか?
「カモミールとマローブルーだったら、1対1とかでもいいかなと思います」
●やってみます。ありがとうございます!
(編集部注:先ほど、諏訪さんからもお話がありましたが、ハーブは体質や薬との飲み合わせによっては、影響が出てきたりすることもありますので、ハーブ辞典などを参考に体調に合わせて、安全に使っていただければと思います)
美味しい香りのローズマリー・チキン
※キッチンに備えておきたいハーブは、どんなものがおすすめですか?
「ローズマリーとそれからタイム。タイムを買うかたは普通のタイムなんですけど、育てるかたはレモンタイムっていう種類があって、それがすごく香りがいいので、育てやすくておすすめです。それからオレガノ、ローリエ、あとはイタリアンパセリ、この5つぐらいがあるといろいろ使い回せるかなって思います」
●どんなお料理にそれぞれ合わせるのがいいですか?
「お肉の下味とかお魚も漬け焼きにしておくのもいいですし、スープ、ハーブで出汁をとって、ブーケガルニって聞いたことがあるかたもいるかもしれないんですが、ハーブを束ねてポトフとかカレーとか作る時に一緒に煮出したりしても美味しいです」
●見た目もお洒落ですしね。いいですよね〜。諏訪さんの新しい本『ハーブの癒し』にはレシピもいろいろと載っていましたけれども、私が気になったのがやはり”食欲をそそるローズマリー”ということで、「美味しい香りのローズマリー・チキン」が写真付きで載っていて、これは絶対美味しいやつだ! って思いました!
「すごく簡単に作れます」
●これはどうやって作るんですか ?
「お肉にいつも通常通り、塩コショウして、ローズマリーだけでもいいですし、あとタイムとか一緒に寝かしてもいいんですけど、そこに例えばニンニクのスライスとか・・・。あとオリーブオイルで全体を馴染ませて、ジップロックとかに入れておいてもいいですね。
バットとかにとっておいて冷蔵庫で寝かして、本当はできたら買ってきてすぐやって、食べる日に取り出して焼くっていうのがいいかなと思います」
●放置しておけばいいって感じですね。楽ちんですよね〜。
「そうなんですよ。前の晩でもいいですし、時間がない時はすぐ焼いちゃっても香りは移るので・・・」
●パーティー・メニューにも使えそうですね。
「いいですよ! 私、バーベキューとかに持っていくの。お肉をつけてそのまま冷凍庫に、ジップロックに入れて冷凍して、凍ったままバーベキューに持っていくんですよ。(着く頃に)いい感じになっています」
●いいですね! ローズマリーがあるとないのでは全然違いますよね。
「そうなんですよね〜。子供たちにも大人気のメニューです」
お粥の出汁にハーブティー!?
※諏訪さんの本『ハーブの癒し』を見ていて、ほかにも特に気になったのが、ハーブティーの出汁で作るお粥なんですけど、ハーブティーを出汁にするんですね?
「これは私が考えた方法なんです。いろんなハーブで出汁を作ることができて、お粥とかお味噌汁とか、あとお茶漬けとかにしてもいいんですね。
この本には、風邪の予防にもなるようなレシピを載せたんですけど、エキナセアっていうメディカルハーブ、(ハーブを)ちょっと勉強したかたなら誰でも知っている、風邪の時に飲むハーブティーです。免疫力を高めたい時に使うハーブなんですけど、私はエキナセアにカレンデュラ、キク科のハーブなんですが、菊の花みたいな黄色い花びらを入れるんですね。抗菌とかにいいと言われているハーブです。
そのふたつを合わせると香りも良くなりますし、そこに鰹節の出汁を一緒にするんですね。これがすごく美味しくて・・・実はエキナセアってちょっと草っぽい香りっていうか味がするので、万人受けするハーブティーじゃないなとは思っています。
私は高校でも週に1回ハーブの授業を行なっているんですけども、熱いハーブティーはそんなに高校生に人気じゃないんですね。エキナセアもそんなに美味しいとは言わないんですが、ここに鰹節を入れて飲んでもらったら、全員美味しいって言ってくれて・・・」
●ハーブティーと鰹節って、なんか合いそうじゃない気がしますが、合うんですね?
「合うもの合わないものはあるんですけど(笑)。子供が風邪を引いた時とか、まだ小学生なんですけど、普通のお粥より食べやすいって言っていて、体にスーって入っていく感じがするんです」
●香りもいいですよね〜。
「そうなんですよね。なので、子供が風邪を引いた時にこのお粥を作ってあげるとすごく喜びますね。あとは消化にいい白いお野菜、カブとか大根とか、胃腸にいいものを一緒に入れて作るレシピになります」
(編集部注:ハーブティーをお粥の出汁にするというのはびっくりしましたが、鰹節を加えたりすると食べやすくなるということで、まさに和と洋のコラボレシピなんですね。
ハーブと聞くと、海外のものというイメージがあると思いますが、考えてみたら、日本人と、薬味や薬草は古くから深い関係があって、食卓を見ても、シソや山椒、柚子などがありますよね。まさに暮らしの中の、日本のハーブですね)
アロマでリラックス。濃度に注意!
※ハーブをアロマとして楽しんでいるかたも多いと思います。おすすめのアロマはありますか?
「アロマってなんなの? っていうかたも多いかなと思うんですね。植物の、ハーブティーにする成分は主に水溶性の成分がなんですけども、ハーブには脂溶性の成分もあって、それをぎゅーっと濃縮したものがアロマオイルとして売られているんですね。アロマオイルは香りの成分だったりとか、あとは虫よけに使われたりしますよね。あれは植物が虫の害に遭いづらくするための、忌避効果が強い成分を使っていたりします。
アロマオイルは気持ちを穏やかにしたり、虫よけだったり抗菌だったりっていうのがありますが、例えば小さなボールに熱湯を入れて、そこにアロマオイルを2〜3滴加えてお部屋に置いておいたりすると、お部屋全体が優しく香ってきてリラックスする時にもいいかなと思います。一般的には、ラベンダーとかがすごく人気かなって思うんですけどね 」
●いいですね。手軽にできますしね。
「そうですね。あとはローズゼラニウムも結構人気かなと思います」
●ローズゼラニウム? バラの香りがしますか?
「バラの香りに似ていますね。私は個人的に好きなのはジャスミンとかイランイラン、ああいうのが結構好きですね」
●どんな香りがしますか?
「なんかちょっと南国の香りなんですけど・・・。私は父がずっとインドネシアに住んでいて、懐かしい香りがするなと思って・・・日本ではなかなか育てられない植物なのでアロマでしか嗅げないんですけど、使ったりしています」
●アロマオイルを購入するときに、何か気をつけることとか、注意点ってありますか?
「ちゃんとしたアロマショップで売っているものであれば、大丈夫だと思うんですけど、時々ちょっと安めの、雑貨屋さんとかで売っているのは、芳香浴には大丈夫かもしれないんですが、肌につけたりとか入浴とかに使うのは、やめたほうがいいかなというのはあります。
あとは使う時の注意点としては濃度ですね。たくさん入れるといい香りがするんじゃないかなと思って、つい多めに入れちゃったりとかっていうのがすごくよくなくて、それぞれの適した濃度って、本だったりとかにいろいろ書いてあると思うんですが、それをしっかり守って使うことがとっても大事です」
ベランダのハーブを摘んでお料理に
※諏訪さんは、ご自宅でハーブを育てているそうですね。何種類くらい育てているんですか?
「あまり数えてないんですけど、20〜30種類は育てているかなと思います」
●すごいですね〜。普通のマンションのベランダとかでも育てられますか?
「渋谷区に住んでいてベランダがメインで育てているので、プランターで・・・」
●プランターで?
「はい、育てています。キッチンが2階にあるので、ちょうどベランダも2階にあって、お料理しながら摘みに行けるのがすごく使いやすくて・・・。(お料理の)途中で摘みに行く・・・だから塩コショウを取る感覚で摘みに行けるっていうのにしたくて、そうしているんですけど、プランターでいろんな種類を育てることができます」
●初心者にも育てやすくて、使いやすいハーブがあれば、教えていただきたいんですけど・・・。
「初心者は一年草のものが割と育てやすいので、イタリアンパセリとか・・・イタリアンパセリは、ごめんなさい二年草ですね。まあでも割と早く育つもの・・・チャービルとかお料理の飾りにも使えるので使いやすいかなと思います。
あと、樹木にはなるんですけど、ローズマリーとか、あと、そうですね・・・タイム、タイムも結構丈夫なので育てやすいかなと思いますね。そうだ! もうひとつおすすめのハーブ、育てやすいのがあって、さっき出てきたローズゼラニウムって緑色の手のひらみたいな葉っぱの形のハーブなんですけど、水やりが本当にいらなくて、これはすごく育てやすくて、いいですよ」
●楽ですね!
「楽です。そうそう!」
●ではこの放送を聞いて、私もハーブのある暮らしを送りたい! と思ったリスナーさんにぜひアドバイスをお願いします。
「はい、『ハーブのある暮らし』って本当に簡単に始められるんですよね。(ハーブを)育てたいって思ったら、最初に5種も6種類も育てないで、まずは ひとつ、ふたつ、3つぐらいでいいと思います。ローズマリーひとつでも使い方がたくさんあるので、それを楽しんでやると、ハーブのある暮らしに自然に入っていけるかなと思います。
あと、お子さんがいるかたとかも、うちの子も一緒にハーブを摘んできて、お風呂に入れたりとかっていうのをやったり、お料理に散らしたりとかして楽しんでるので、そういうのも(お子さんと)一緒にやると楽しいかなって思います」
INFORMATION
諏訪さんの新しい本では、衣食住にまつわるハーブのたくさんの使いかたを紹介。朝昼晩、春夏秋冬、それぞれのシーンにあわせた活用術がわかりやすく載っています。ハーブ選びや使いかたの注意も掲載。また、知って楽しむハーブとアロマ、全54種が繊細で美しい植物画とともに紹介されています。
翔泳社(しょうえいしゃ)の「暮らしの図鑑」シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎翔泳社 :https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798178080
諏訪さんは、代々木上原のサロン「ハーブと私」で「ハーブクッキングレッスン」を3月から7月まで月一回開催する予定です。コース料理のようなメニューを考えているそうですよ。ほかにも植物画の教室などもあります。参加方法など、詳しくはオフィシャルサイトを見てください。
2024/1/28 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. LAVENDER HAZE / TAYLOR SWIFT
M2. LAVENDER / MARLLION
M3. ROSEMARY / SUZANNE VEGA
M4. LEAVING ON A JET PLANE / CHANTAL KREVIAZUK
M5. ペパーミント・ブルー / 大瀧詠一
M6. CINNAMON GIRL / NEIL YOUNG & CRAZY HORSE
M7. SCARBOROUGH FAIR / SIMON & GARFUNKEL
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/1/21 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第18弾! 今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「住み続けられるまちづくりを」「質の高い教育をみんなに」「貧困をなくそう」そして「つくる責任 つかう責任」に関係する事例をご紹介します。
今回は業態の異なる、ふたつの会社の取り組みをクローズアップ! 前半はウエブメディアを運営するメディア・カンパニー「ハーチ株式会社」。そして後半は、アップサイクル・ブランドを展開する「ココロインターナショナル株式会社」の、それぞれの事業について、ご担当のかたにお話をうかがいながら、社会や環境に対する思いに迫ります。
まず、お話をうかがうのは、メディア・カンパニー「ハーチ」の「室井梨那(むろい・りな)」さんです。
2015年、創業の「ハーチ」はウエブメディア事業を展開している会社で、スローガンは「パブリッシング・ア・ベター・フューチャー」=「よりよい未来をみんなに届ける」、ということで、サステナビリティ、サーキュラー・エコノミー、教育など幅広い分野でウエブメディアを企画・運営しています。
社名の「ハーチ」は、「ハート」と「アーチ」を組み合わせた造語で、人の心と心をつなぐ 架け橋になりたいという思いが込められているそうです。
☆写真協力:ハーチ株式会社
サステナブルでユニーク!?
●「ハーチ」が運営しているウエブメディアの中から、まずは「IDEAS FOR GOOD」について。これはどんなコンセプトのメディアなんでしょうか?
「コンセプトとしては、社会をもっとよりよくするっていうのが、テーマになっています。例えば、気候変動ですとか海洋プラスチックの問題みたいな、総称して社会課題と呼ばれるようなものを解決するための、ユニークなアイデアを紹介するウエブマガジンになっています」
●拝見させていただいたんですけれども、アートとかファッションとかフード、建築とか、いろんなジャンルに分かれているんですね。具体的にどんな記事があるのか教えていただけますか?
「私たちは、ユニークに解決するアイデアっていうところをすごく大事にしているんですね。例えば、先ほど海洋プラスチックの問題に触れたんですけど、河川の汚れをきれいにしたいってなった時に、ただゴミを拾いましょう、ではなくて、オンラインゲームの仕組みと合わせて、遠隔で河川の汚れを掃除できるロボットをゲーム感覚で操作して、川をきれいにできるシステムとか。
使い捨てのビニール袋が有料になって、マイバッグを持ちましょうねって世界的になっていると思うんですけど、それもあえてお店で配るビニール袋をすごくダサいデザインにして、そうしたらみんな持ちたくないから、自分の家からかっこいい好きなマイバッグを持ってくるようになるんですよねっていう、ちょっとデザインと掛け合わせているとか、そういう形でワクワクだったりとか、楽しいって気持ちになるようなアイデアをいろいろ紹介しています」
●では、続いて「Livhub(リブハブ)」というものもありました。こちらもウエブマガジンですか?
「はい、“サステナブルな旅”をテーマに情報発信していて、“トラベル・ライフスタイル・マガジン”と呼んでいるんです。どうしたら自分の旅が、よりサステナブルになるかとか、あとそもそもサステナブルな旅ってなんだろう、みたいなものを問いかけて一緒に考えていくような、そういうメディアになっています」
●旅情報を発信するウエブマガジンっていうことになるんでしょうか?
「そうですね。大きく言うと旅情報の発信にはなるんですけれど、Livhubの編集部員は旅を通して、人と自然の関係とか、人同士の関係とか、自分と自分自身との関係、そういったいろんなものとの関係が、バラバラになってしまっているものがつなぎ直される、そういう力が旅にはあると信じて、ウエブメディアを運営しているメンバーなので、世界がよりそういう方向に向かっていくために、旅は何ができるかっていう、そういうことを発信しています」
●具体的にはどのような記事があるんですか?
「いちばんわかりやすいところで言うと、例えばホテルで、コンポストを導入しているホテルはこんなところがありますよっていう紹介とか、サステナブルに旅するためにどうしたらCO2をより少なくできるかとか、そういう具体的な方法を説明している記事もあります。
あと文化的なところに触れて、編集部員が世界各地を旅して、感じたこと、触れたことをコラム的にご紹介しているものとか、あとはサステナブルな活動をしている、例えばホテルとか、実際にサステナブル・トラベルを自分で体現しているかたに取材をして、インタビュー記事を載せたりとかもしています」
(編集部注:紹介する情報は、世界各地にいるスタッフが集めて、それを日本語に翻訳して発信しているそうです)
Circular Yokohama〜横浜を循環型に
※続いて、「Circular Yokohama」について教えてください。
「これは“サーキュラー”と“横浜”、ふたつの言葉がついている通りなんです。サーキュラーは日本語で言うと循環ですね。横浜は神奈川県横浜市の横浜で、横浜という町をより循環型にしていくためのプラットフォームになっています」
●室井さんはこの「Circular Yokohama」を担当されていらっしゃるんですよね。どんなプラットフォームなんですか?
「プラットホームっていうと、結構わかりづらいなと思っているんですけど、テーマが『プレイフル・サーキュラリティ、循環を遊ぼう』っていうふうに言っています。サーキュラーとか循環、最近だとサーキュラー・エコノミー、循環経済とかってニュースでよく聞くと思うんですね。
エコノミーって言葉を聞いた時に、みなさん何を思い浮かべますか? って言うと、どうしても固いイメージとかで、自分の生活に結びついている感覚があるかたは少ないと思うんですね。でも、循環とかサーキュラーって、本当はもっと楽しくかっこよく体験できるものなんだよ! っていうのを訴求したくて、このプラットホームを運営しています」
●どんなことに取り組んでいらっしゃるんですか?
「ウエブの会社なので、ウエブメディアは作っていて、先ほどご紹介したようなほかのメディアと同じように、インタビュー記事とか横浜市内のサーキュラーな情報発信ももちろんしているんですけど、会社の中ですごくユニークなのが、Circular Yokohamaは実際に活動拠点を横浜市内に持っているんですね。
なのでウエブ、いわゆるインターネット上の活動だけじゃなくて、実際に市民のかたがたにサーキュラーなものを見ていただいたり、触れていただいたり、そういう展示会をやったりとか、あとはものづくりするイベントを開催したりとか、顔の見える関係性を保って活動しています」
(編集部注:「Circular Yokohama」では「めぐる星天(ほしてん)」というイベントで、新しく英会話カフェが始まったそうです。興味のあるかたはぜひ、ハーチのサイトをご覧ください。https://circular.yokohama/2023/12/11/englishcafe_circularoctober/)
3つのP〜 PEOPLE. PLANET. PROSPERITY
※「ハーチ」はメディア・カンパニーとして大切にしているテーマがあるそうですね。
「私たち3つのPを大事にしています。それが「PEOPLE(ピープル)PLANET(プラネット)PROSPERITY(プロスペリティ)」の3つですね。日本語で言うと、「人・環境・繁栄」の3つを大事にしています」
●具体的にそれぞれ簡潔に教えていただけますか?
「はい、まずPEOPLE、人っていうのは、やっぱり人がつながり合うことで、個人としての幸せ、あとは組織社会全体としての幸せだったり、その幸せがあるから社会全体、地球全体が持続可能性になるよね、持続可能サステナブルだよねっていうところで、まず人を軸にすごく大事にしています。
その上でやっぱりPLANET、つまり環境とかこの地球上っていうもの・・・人間というと、どうしても人間と自然って別のものみたいに考えがちなんですけど、私たち人間もこの自然の循環の一部だよねっていうことです。
私たちが活動するってことは、まさに自然が循環していくってことなので、自分たちが活動することで生態系とか、地球の循環全体をプラスにしていきたいよねっていうような思いで、PLANETがふたつ目に置かれています。
最後にPROSPERITYってちょっと難しいんですけど、繁栄っていう意味で、人が幸せで、それによって地球も持続可能になって、そうすることで人と自然は分断を起こさずに、お互いがつながり合った状態で持続可能に繁栄できる、つながり合って栄えるよね! っていうことで、最後にPROSPERITYを大事にしています」
●番組としては「PLANET」に関して、どんな活動をされているかをお聞きしたいんですけれども、具体的にご説明いただけますか?
「メディアとしては情報発信を通して、今ご紹介したように、自然と人を切り離すんじゃなくて、あくまで人は自然の、生態系の一部だよねっていうところを軸にして情報発信をしているんですね。それによってどうしたらサステナブルになるかっていうのは、私たちのメディア全体としてのテーマにあります。
実際の行動として、私たち、どんなことしているんですか? っていうところに関しては、オフィスで出てしまうゴミを減らすために、コンポストをもちろん置いていますし、あと捨てるゴミも毎回計量しています。どのぐらいゴミが出てしまっているかを、重さを測って、みんなで改善できるところしていくっていうこともしています。
あと仕組みとして、私たちのメディアに訪れてくださったかたの人数、PVプレビューの数なんですけど、その数、人が訪れるごとに1円とカウントして、毎年訪れてくださったかたの人数分×1円を、社会とか環境に対して働きかける活動をしているかたがたに寄付をしたりとか、そういった形で実際に我々も何か行動を起こす、発信するだけじゃなくてっていうことを意識しています」
●そうなんですね! ゴミを計るっていうのもいいですね。
「実際にやってみると、思ったよりゴミが多かったりとか、あと(ゴミを)計るために一回全部、ゴミ箱に入ったものを出して広げたりするんですね。思いのほかプラスチックが多いねとか、逆にあれ? なんでこんなものが捨てられているんだろうってものが出てきたりだとか・・・ただ計るだけと思うんですけど、侮るなかれで、結構いろんな気づきがあります」
後半はアップサイクル ・ブランド「Coco&K.」を展開されている「ココロインターナショナル」の代表「井上伸子」さんにご登場いいただきます。
「Coco&K.」は、井上さんが2006年に立ち上げたブランドで、製造の拠点はフィリピンにあります。原材料は、捨てられたジュースのアルミパッケージで、それをアップサイクルして、カラフルで可愛いバッグやポーチ、財布などに生まれ変わらせています。井上さん曰く「作る人、使う人、そして子供たちに笑顔と幸せを運ぶ」ハッピーなプロジェクトのブランドだそうです。
☆写真協力:ココロインターナショナル
フィリピンで運命の出会い!?
※そもそもなんですが、フィリピンに行ったのは、どうしてなんですか?
「もともとアジアンテイストの雑貨が好きで、アジア版ソニープラザみたいなのをやりたいなっていう夢が漠然とありました。日本の展示会にも行っていたんですが、フィリピンでも面白い展示会があるよっていうことを聞いて行ったのが、運命の始まりでしたね」
●フィリピンのどのあたりに行かれたんですか?
「フィリピンのマニラの市内で展示会はあったんですね。マニラには初めて行ったんですが、マニラに着いた時、すごくショックを受けたんですね。道路を歩きますとボロボロの服だったり、靴を履いていない子供たち、あと物乞いをしている子供たち、そんな子にたくさん出会ったんですね。
私も当時同じぐらいの子供がいたので、ものすごくショックで、フィリピンっていう国のことは少しは想像していたんですけれども、本当に想像をはるかに超えていて、ショックで悲しくなってしまって・・・。
そんな気持ちのまま、翌日、展示会に行って、そこでこのカラフルなバッグと出会って、一目惚れして、話を聞いてみたら、これは廃材を使って作っている、あと女性の雇用、女性のためになるもの、あと子供たちのためになる活動をしている、そんな話を聞いて、すごく感動したんですね。その時にこれだ! これを日本に連れて帰りたい! って思ってしまったんです」
※井上さんがマニラの展示会で一目惚れしたカラフルなバッグは「キルス・ファウンデーション」という地元のNGOが作ったものだったんです。団体名にある「キルス」には、どんな意味があるんですか?
「キルスっていうのは、KILUSって書くんですが、これはフィリピンのタガログ語で、それぞれの頭文字の意味が込められていて、『愛国心・ひとりひとり・目的・発展・ふるさと』というタガログ語の頭文字を取って付けられているんですね。
自分たちの住む街を世界一美しく緑あふれる街にしようっていう、そんな合言葉で生まれたボランティア団体でした。当時は川の汚れで悪臭もひどくて、そんなことで地区長さんが立ち上げたのがこのボランティア団体だったんですね。
川のゴミを拾って街をきれいにしようということを呼びかけて、それと同時にやっぱり子供たちを学校に行かせる必要性があるよっていうことも呼びかけて、それだけじゃなくて、女性の収入になるためにっていうことで、自宅の脇に小さな工場を建てて、リサイクルバッグを作り始めたっていうのがジュースバッグの始まりでしたね」
(編集部注:マニラの展示会で一目惚れした井上さんは、その場で200個注文したそうなんですが、当時「キルス・ファウンデーション」は小さな団体で、連絡方法もファクスしかなく、注文したものが届かないとか、やっときた商品もサイズがバラバラで汚れていたりなど、日本の市場で販売できるような状態ではなかったそうです。
そこで井上さんは、現地の工場に何度も足を運んで、働いている女性たちにメジャーの使い方を教え、何度もやり直してもらって、やっと商品づくりと仕入れを軌道に乗せることができたそうです。
現在は、廃棄されたアルミのジュースパックの回収、洗浄など、生産工程がしっかり組まれているとのことですが、実は商品づくりは全部手作業なんです。工場では50人ほどが働き、自宅で作業する女性たちを含めるとトータルで200人くらいのかたがバッグやポーチなどを作る仕事についているとのこと。
また「キルス・ファウンデーション」の地道な活動が功を奏し、川も街もきれいになり、工場で働く女性の子供たちは学校に通えるようになっているそうです。「キルス・ファウンデーション」は未来のために子供の教育にも熱心に取り組んでいるとのことです)
丁寧に愛を込めて、使う人も幸せに
※井上さんが現地のスタッフのかたがたを見ていて、いちばん感じることはどんなことですか?
「みんな(私が)行くとすごく笑顔で迎えてくれて、お仕事も楽しそうにしていますね。この仕事にみんな誇りを感じているし、今ではもう私が及ばないぐらい上手に作ってくれる、みなさん素晴らしい技術者になっています。
丁寧に大切に愛を込めて作ってくれているのが感じられるので、だからこのバッグは、使う人も幸せにしてくれているなっていうことをすごく感じます。使っている人から、これを使うと本当に元気になれるよとか、明るい気持ちになるって言ってくださるんですよ。みんなにプレゼントしたくなるわって言って、プレゼントされた人がまた大好きになって、どんどんご縁がつながっていく感じが素晴らしいなって感じています」
●日本でもエシカルっていう考え方がどんどん広まってきていると思うんですけれども、今後特に取り組んでいきたいことってありますか?
「そうですね・・・エシカルとかサステナブルとか、難しいことはわからないですけれども、やっぱりこの活動を長く続けていくことがいちばん大切だなと・・・。一時の流行り廃りで終わらせたくないっていうことはずっと思っていて、長く続けることですね。
あと、若いかたの意識がエシカルとか、昔の私たちよりずっとずっと素晴らしくなっているので、逆に教えてもらいたいこともたくさんあります。このアップサイクルのバッグも、もっともっと可能性があると思っていて、若いかたの力を借りてデザインの面でも、デザインを勉強しているかたのアイデアをお借りしたり、もっともっと新しいものが作り出せたらいいなと思っています」
●最後に今いちばん伝えたいことを教えてください。
「今いちばんは、やはりこのCoco&K.のバッグを日本中のみなさんに使ってもらいたい、手に取ってほしいということですね。まずは可愛いと思ってもらって、それから作られている背景や、環境問題、雇用問題、教育問題にも貢献できるかな、なんてことにも目を向けてもらえたら嬉しいですね。
あとは最後に、私自身もこのバッグのおかげでたくさん素晴らしいご縁をいただいてきました。ハーチさん始め多くの人が支えてくださって、そして長く続けてくることができました。このバッグとこれを始めてくれた『キルス・ファウンデーション』のエルサさんと、キルスのメンバーのみんなに感謝の気持ちを伝えたいです」
INFORMATION
メディア・カンパニー「ハーチ」はきょうご紹介した以外にもユニークなメディアを展開しています。ぜひオフィシャルサイトにアクセスして、体感していただければと思います。
◎ハーチ :https://harch.jp
「ココロインターナショナル」のアップサイクル・ブランド「Coco&K.」では、カラフルで可愛いバッグやポーチなどを販売しています。ほんと気分が上がるし、オフィシャルサイトを見ていると、誰かにプレゼントしたくなるようなアイテムがたくさんあります。ぜひご覧ください。商品は、オンライン・ショップで購入できますよ。
◎Coco&K. :https://www.coco-k.jp
◎Coco&K. オンライン・ショップ:https://www.coco-k.jp/onlineshop/
2024/1/21 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. THIS LOVE / MAROON 5
M2. TRIPPIN’ UP / JAMIE CULLUM
M3. HIGHER LOVE / STEVE WINWOOD
M4. HAPPINESS / ROBERT PALMER
M5. HANDBAGS AND GLADRAGS / ROD STEWART
M6. THANK YOU / ALANIS MORISSETTE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/1/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、風景写真家の「佐藤 尚(たかし)」さんです。
佐藤さんは1963年、福井県生まれ。1984年、東京写真専門学校を卒業後、山岳写真家・風見武秀(かざみ・たけひで)さんに師事。1990年からフリーランスとして活動。日本全国を車で旅しながら、農村や自然などを撮影し、作品を写真集などで発表する傍ら、地元埼玉県の見沼(みぬま)たんぼで写真ワークショップ「里ほっと」を主宰するなどの活動もされています。
きょうはそんな佐藤さんに、日本全国の里山・里海の魅力や、房総半島のお気に入りスポット、そして人と自然が織りなす風景についてお話をうかがいます。
☆写真:佐藤 尚
自分らしさが出る里の風景写真
※風景写真を撮るために、現在も日本全国、津々浦々を巡っているんですか?
「はい、47都道府県を巡るのを自分のライフスタイルにしているので、一箇所ばっかりに行くというんではなくて、旅をしたら、なるべく多くの都道府県を周れるようにしています。昨年に行ったところは今年は行かないとか、来年は今年行ってないところに行こうとか、そういうふうにリストアップをして47都道府県を周れるようにしています」
●佐藤さんの主な被写体は里山なんですよね。佐藤さんのお写真って、本当に見ていてホッとする感じがするんですけれども、風景写真として里山を撮るようになったのはどうしてなんですか?
「風景写真って、一般的に広い自然風景などを捉えるかたがいたり、観光地に行って目の前にある景色を捉えるかたが多いかと思うんですけれど、私自身はいつの日からか、そっちのほうよりも里のほうに(目が)いくようになりましたね。
その理由というのはふたつあるかと思うんです。ひとつが深い森だったり、険しい山だったり、神秘的な海だったり、そういう大自然よりも・・・なんか大自然って見本みたいなのがあって、そこに行ってそれを撮るみたいになってしまって、やっぱりパターンが似てきちゃうと思うんですよね。
それが里の風景だと(世の中に)出ている写真が少ないというのかな、自分の感覚で探せるっていうのかな、そこが好きで里のほうに行っているのがありますね。
で、もうひとつが、里のほうに行くと人の気配ってあるじゃないですか。人が暮らしていたり、人が漁をしていたり、人が農作業をしていたり、そのかたたちの近くに行って会話ができるのが好きだな〜。
会話は実は得意じゃないんですけれど、田舎の人ってすごく優しくって、会話は難しくないよって教えてくれて、挨拶すると向こうから、おまえさん、どっから来たんだって言われて、埼玉県からだって言うと、自分の息子が娘が甥っ子がとか、昔自分が埼玉で出稼ぎしていたとか、いろんな話が出てくるんですよね。土地の人の話をするのはすごく好きで、それで里のほうに行っているっていうのがありますね」
●やっぱり人の営みを感じられるような風景がいい、ということですよね。
「はい、要するに大自然はどなたでも、もしかして撮れるかもしれない。撮るのは大変だと思うんですけれど、でもそんな中で自分の個性、自分らしさが出るのが里の風景かなと思って里山、里海に向かうようになっています」
●だから佐藤さんの撮る写真には暖かさがあるんですね。
「嬉しいじゃないですか(笑)。ありがとうございます」
(編集部注:佐藤さんは47都道府県を、改良したワンボックスカーに寝泊りしながら巡っていて、一回の撮影旅は長くて1ヶ月くらい、短くても2週間ほどと、時間をかけて、じっくり、ゆっくり移動しながら撮影を続けています)
旅の最初に魚沼、旅から帰る時に魚沼
※これまでの撮影で、特に印象に残っている場所はありますか?
「新潟県の魚沼、魚沼コシヒカリの産地、日本有数の雪国、その魚沼が好きで長く行っているんですね。魚沼になんでそんなに行くかと言ったら、魚沼って風景もいいんですけど、人が暖かいんですよね。それで魚沼に通っているうちにいっぱい友達もできたし、だから魚沼に何かと寄る、旅の最初に魚沼、旅から帰る時には魚沼、寄ってから家に帰ってくるみたいな、そんな雰囲気で終わるのが大好きです」
●どんな出会いがあったんですか?
「やっぱりいろんな人に出会えるっていうのが、魚沼っていいなって思うんですよね。それは出会いだけではなくて、(宿で)お風呂に入っていてもその中で会話を聞くのもなんか楽しいし・・・。
そうそうあとやっぱり魚沼って、どういうところって教えてくれるんですよね。魚沼は雪深いところとか、山菜がおいしいところとか、そういうのをちょっと家に寄ってけって言われてご馳走になって体験したり・・・。または畑で採れたものをくれたりとかって、そういう本当のコミュニケーションをとれるのが、私にとってもすごく財産になっているなって思います」
房総半島のおすすめスポット
※千葉県・房総半島で、よく撮影されているエリアはありますか?
「房総半島、好きですよ! 暮れに千葉県に行きましたよ! どこに行ったかというと九十九里海岸と南房総、結構千葉県って大きいですね、縦長ですよね。あの距離、すごく移動は大変だった感じはしたんですけど・・・」
●千葉県も車中泊で行ったんですね?
「もちろんそうです。九十九里に行ったのは夕陽を撮るためでした。いちばん日が短い年末は、太陽がいちばん南に寄っていくので、太平洋に面している九十九里でも夕陽が撮れるんですね。普通太平洋に面していると、日の出だけと思われがちですが、夕陽も撮れるんですよ。
あと南房総に行くと、夕陽と絡めて富士山が撮れるというイメージを持っているので、房総半島の先端から富士山を、大波が来ているところをいつか撮ってみたいと思っているんだけど、なかなかうまくいきませんが、年末になると九十九里から房総半島を巡る旅を毎年のようにやっていますね」
●季節的には冬がいいですか?
「冬の千葉県の海、最高です!」
●そうなんですね。地形的に高い山がなくて、低い山を歩く低山ハイキングも盛んだったりしますけれども、そういった風景も撮ったりはされますか?
「山歩きはそれほどしないですけれど、内陸のほうに行くと千葉県って田んぼとかもあるし、里の風景がいっぱいあるなっては思っていますね。だから千葉県は海・山・里、本当にすべてが揃っているところだなって感じているので、なにかと来ます。冬の話を先ほどさせていただきましたが、5月の九十九里が超おすすめです!」
●どんなところがおすすめですか?
「ご存知かどうかわかりませんが、砂浜に植物がいっぱい育っているところがあって、その植物でコウボウムギというのがあります。麦みたいな形のちっちゃい植物なんですけど、そのコウボウムギが砂浜いっぱいに群生しているところが5月に見られるんですが、それがまた可愛いんだ! ぜひ見ていただきたい!」
●5月ですね。
「5月です。5月から6月、7月、いつまで咲いているかわかりませんが、私が見たのは4月末だったんで・・・すごくいい景色です! 可愛いですよ」
●5月頃にそこに行けば、いい景色が見られるということですね。
「そうですね。房総半島、九十九里、本当に海岸線の多様な風景があるので、ぜひぜひ地元のかた、いや遠くからでも、みなさん、行っていただけたらなってすごく思っています」
写真を楽しみましょう!
※佐藤さんは、一般のかたに風景写真の撮り方を教える撮影会やオンラインでの教室をやっていらっしゃいます。どんなことにポイントをおいて教えているんですか?
「写真を楽しみましょう! まずそれですね。もちろんみなさん、写真が上手になりたいとかコンテストでトップになりたいとか、また向上意欲があるかたもたくさんいるんですが、その前にカメラを持って散歩して、友達と和気あいあい、会話するのが楽しいぜ! っていうのを伝えたいと思っています」
●撮り方のコツっていうよりは、周りの人たちと喋りましょう、お話ししましょうみたいな感じですか?
「まさにその通り。やっぱり写真は撮って楽しい、プリントして楽しい、発表して楽しい、そして形にして楽しいとかっていろんな楽しみ方があると思うんですね。
最近、エンターテイメントとして人と通じ合えるところもすごく感じるので、そのようなことをやりながら、人たちの集まりを作っていけたら、写真に対しての恩返しではないんですけれども、そんなことをやっていきたいと思っています 」
●ビギナーのかたに最初に教えることは、どんなことになるんですか?
「写真を楽しみましょうとは言っても、何を撮っていいかわからないかたって結構いると思うんですよね。ですので、まず1枚撮ろう、そういうアドバイスだけ送っていますね。
だから何を撮ろうとかってわからなくても、まずカメラを出して撮るという行為をすることから、1枚目が始まるっていうふうに伝えているんですが、そうすると意外に1枚目って、シャッターを切れたりするんですよ。何を撮ろうって気張っちゃうから多分ダメで、まず1枚を撮っちゃえみたいな感じ、それで1枚を撮っていただく。
そしてそのあとは、歩く・動く・観察する! 体を動かすってこと、よく見るってこと。そして被写体の探し方としては色・形・線、これを気にしながら風景などを見ていると意外に、あそこに赤色があって、あそこに線があって、あそこに丸い形があったとか、なんか見えてきたりするので、そういうふうにして楽しく撮ってもらえるようにお話をしていますね」
●いい1枚を撮るには色・形・線が、どういう組み合わせだったらいいんですか?
「なるほど、じゃあお伝えしましょう! 色という部分で言いますと、例えば遠くのほうに赤い花があったとします。その赤い花の隣に赤いトラクターがあったとします。そうしたら、ふたつの赤と赤でまとめるだけで、写真にストーリーというか、赤色がふたつあるなっていうのが、撮った本人もわかっているけれど、それが人に伝わるようになっていくんですよ。
線で見ていった時に、縦の線ばっかりで整えていくと構図がすごく整ったりしますよね。それがごちゃごちゃしていると構図が甘くなるんですが、線ばっかりで整えると面白いし、またそこにイレギュラーな1本だけ違う線が入った時に、協調性っていうのかな、気持ちがそこに入っていくので、線、形もそうです。同じようにそれを色・形・線を混ぜ合わせていって、構図を作っていくと意外とできていきます。
でもこれは量が必要なんですよ。やっぱり数を撮ることが、いちばん成長するために必要なので量が必要だということ、それを伝えていますね。いっぱい撮りましょう、楽しく撮りましょうっていうふうに」
(編集部注:いまはスマートフォンで写真を撮るかたが多いと思いますが、佐藤さんは、できれば、レンズ交換ができるカメラを使うと、表現が変わっていくので、そんなカメラで写真の新しい世界に入ってきてくれたら、嬉しいとおっしゃっていましたよ)
写真展『僕の散歩みち』『nukumori』
※近々写真展を開催されるそうですね。どんな写真展なのか、教えてください。
「はい、東京とさいたま市の2カ所でやります。東京でやるのは青山にあります『ナインギャラリー』というところで、1月16日から21日にかけてやるんですけど、もうすぐです! ぜひみなさまに足を運んでいただけたら、とっても嬉しいです。
この写真展の内容はと言いますと、コロナ禍で私自身が苦しんで、もがいていた、その思いというものを脱ぎ捨てるような感じで発表させていただきたい。
やっぱり私は人が好き、風景が好き、暖かいものを感じ取って、その写真をみなさんにお届けするのがどうやら好きなので、このコロナ禍でやってきたことをしっかりとまとめあげて発表しようと思った写真展になっています。自然風景ばっかり、30点ほど展示します」
●すでに開催中の写真展もあるんですよね?
「そうですね。新年からやっている『僕の散歩みち』というのをカメラ屋さんでやっているんですけど、カメラの光盛堂Ⅱさんなんですが、コロナ禍でやっぱり苦労をしていて、その時に集客というか、店の整理をして人たちが集まれる場所として、ギャラリーを新しく作ったんですね。
そのギャラリーで私がコロナ禍で苦しんで撮っていた、散歩の中で撮っていた写真を今回、青山のナインギャラリーでの『nukumori』写真展に合わせて、同時開催をするっていうリバイバル展示になりますかね。
これは本当に気軽に撮ろう、まず1枚。歩く・動く・観察する、色・形・線の写真を10枚ほど並べております。同時に『里ほっと』の活動も展開しているので、それを楽しんでいただけるんじゃないかなというふうに思います」
INFORMATION
佐藤さんは、地元埼玉県の南部にある緑地「見沼たんぼ」で「里ほっと」という写真ワークショップを定期的に開催されています。ワークショップを始めた理由は、地元に飲み友達が欲しいということで、おしゃべりしている時間が多いとのことですが、みんなで写真を撮り、見沼たんぼにこだわった写真展をそれも、さいたま市で、これまでに3回開催されたそうです。「里ほっと」の活動について詳しくは、佐藤さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
佐藤さんの写真展情報です。
現在、写真展「ぼくの散歩みち」がJR南浦和駅から徒歩4分の「カメラの高盛堂II(コウセイドウ・ツー)」の「つながるギャラリー」で開催中です。会期は今月27日まで。
◎写真展「ぼくの散歩みち」:http://www.satophoto.net/2023/12/12/
写真展「nukumori」があさって16日から21日まで、地下鉄・外苑前駅から徒歩3分の「ナインギャラリー」で開催されます。初日の16日には佐藤さんによるギャラリートークが予定されていますよ。
◎写真展「nukumori」:http://www.satophoto.net/nukumori/
ぜひお出かけください。
ほかにも佐藤さんは撮影会やオンラインサロンなども開催されています。いずれも詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎佐藤 尚オフィシャルサイト:http://www.satophoto.net
2024/1/14 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. PHOTOGRAPH / DEF LEPPARD
M2. EVERYBODY’S TALKIN’ / NILSSON
M3. YOU’VE GOT A FRIEND / CAROLE KING
M4. SEASIDE WEEK END / ANTENA
M5. 光の跡 / 星野源
M6. HAPPY FACE / DESTINY’S CHILD
M7. AS / GEORGE MICHAEL & MARY J. BLIGE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/1/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、サイエンスライターで気象予報士、そして、東京大学大学院の特任教授でもいらっしゃる「保坂直紀(ほさか・なおき)」さんです。
保坂さんは、東京大学大学院で海洋物理学を専攻。その後、読売新聞社に入社し、長年、科学報道に携わります。そして1994年、気象予報士の第1回目の試験に合格。これまでに海洋や大気、地球温暖化などに関する本を数多く出版、そして先頃『地球規模の気象学〜大気の大循環から理解する新しい気象学』という本を出されています。
きょうは、そんな保坂さんに、去年と今年の気候についてうかがうほか、地球規模の大気の循環や、偏西風についてもお話しいただきます。
春と秋がなくなる!?
※保坂さんは先頃『地球規模の気象学〜大気の大循環から理解する新しい気象学』という本を出されています。そのお話をうかがう前に2024年最初の放送ということで、やはり気になっているのが地球温暖化の影響とされる異常気象が、今年も多く発生するのかどうかなんですけれども、まずは去年の状況を振り返っておきたいと思います。
「去年はとにかく暑い夏でしたよね」
●でしたよね〜。
「いつまでも、いつまでも暑くて、ちょっと昔は、夜の気温が25度以下に下がらない熱帯夜が何日続いたなんていうのが、10年ぐらい前でしょうか、ニュースになったけど、今は当たり前になっちゃっているので、もうニュースにすらならなかったですよね。暑い夏でした」
●本当に暑かったです。2022年11月から2023年10月までの12カ月が観測史上最も暑かったという分析結果を、アメリカの研究機関が発表したんですよね?
「そうですね。アメリカの研究機関もそうですし、あと世界気象機関というところなども、使っている元データが違うので、数字は少し違うんですけれども、いずれも一昨年から去年にかけて、その辺りは過去最高の気温だったということですね。日本の気温も去年の夏の気温、6、7、8月の気温は非常に高かったっていうのを気象庁が発表していますよね」
●夏も暑かったですけれど、先月12月も20度前後まで気温が上がったりっていう日もありましたよね。それはやっぱり地球温暖化の影響なんですか?
「ありましたよね〜。我々、地球温暖化の影響でしょうか? って聞きたくなりますよね。ですがこの問いに科学者が答えられるようになったのは、比較的最近のことで、ここ10年ぐらいのことなんですよね。 それまではそうかもしれないし、そうでもないかもしれませんって曖昧な答えしかできなかったんです。
この本には書いたんですけれども、『イベント・アトリビューション』という新しい手法を使って、きちんと研究されているのは、例えば日本だと2018年の夏も暑かったんですよ。
その2018年の夏は、もしも地球温暖化がなければ、あんなに暑い夏はまず来なかった、確率ゼロだったはずである。でも地球温暖化していると、あのくらいの夏は発生確率が20%・・・20%っていうのは5分の1ぐらいの確率で、ああいう夏が来ることもあるんですね。
去年の暑い夏についてはまだはっきりしませんけれども、そもそもが5回に1回くらいは、5年おきというわけではないですけれども、5回に1回ぐらいの確率で、あのぐらい暑い夏が来る可能性があるということがわかってきています」
●もうそういう現状になっているっていうことなんですね。
「そうですね」
●気象予報士として、保坂さんが2023年の気象を振り返って、最も気になることってどんなことですか?
「やっぱり今お話しましたけれども、暑かった夏ですよね。 昔は暑い夏もあれば、冷夏もあるというふうに、たまたまなのかなと思ったけれども、今お話ししたように2018年の夏は暑かったですし、また去年もものすごく暑かったですよね。
こういうふうに立て続けに来ると、やっぱり地球の気候のシステムが変わってきているんじゃないか・・・昔は地球温暖化っていうと、みなさん気温が高いことだけを考えていたかもしれないけれども、最近日本でも豪雨による災害は、毎年のように日本のどこかで起きていて、やっぱりこれは変だぞ! っていうことを、だんだん強く印象づけられてきたような、去年はそういう1年だったなって思います」
●そうですよね。日本は春夏秋冬、四季があって季節の移ろいを感じていましたけど、去年は秋がなかった感じがします。
「そうですね。一瞬で通り過ぎましたよね。去年の夏はしばらく9月になっても、私たちの住んでいる関東の辺りは暑くて、暑い暑いと思ったら、本当に1週間くらいの間にストンと気温が下がったような印象がありますよね。 地球温暖化が進むと夏の気温も上がるし、それから冬の気温も少し上がっていくだろうと、平均的にはそういうふうに言われています」
●今後益々、春と秋が短くなっていくこともあり得ますか?
「そうですね。去年の夏みたいに暑い夏があって、冬は少し暖かくなるんだけど、これは平均の話で、冬の寒さは上空を流れているジェット気流だとか、その流れ方にもよるので、それによっては相変わらず、ものすごく寒くて大雪が降る冬もあるわけですよね。そういうところで、今度は一気に気温の高い夏にいくと、春は一瞬のうちに過ぎて、夏がやってきて、秋も一瞬のうちに過ぎて、冬になるということは、大いに可能性としてはあるんじゃないかと思います」
豪雨も増える可能性!?
※2024年の予測について、わかる範囲で構わないのですが、今年前半はどうなんでしょう?
「これは本当に気象って難しいんですよね。この先を予測するっていうのがね・・・。ちょっとした条件の変化が、その後に影響してくるという難しさがあるので、これはわからないんですけれども・・・。地球温暖化が進んできているということは確かなので、そうすると豪雨だとか、それから極端な暑さ、季節外れの暑さみたいなのが増えてくるっていう予測はあるんですね。やっぱりその方向で、今年の春あるいは夏がやってくるんじゃないかなと思いますけど・・・」
●今年の夏も異常に暑かったりっていう可能性はありますか?
「可能性はあります。今の地球温暖化の状況だと5分の1の確率で、ああいう夏がやってくるかもしれないですけど、あれほど暑いのはちょっとしんどいので、残り5分の4のほうをお願いしたいという感じはしますよね」
●『線状降水帯』という気象用語をよく聞くようになりましたけれども、今年2024年は発生する確率っていうのも増えそうですか?
「線状降水帯が(一般的に)使われるようになったのは、ごく最近の話で、実はまだ線状降水帯とは何かっていう定義もきちんと決まっていないんですよね。非常に激しい雨が降る地域が帯のように細長く、雨がしばらくの間降り続くものを線状降水帯って言うんですね。
ですから、今一生懸命、気象庁なんかでも、どういう時に線状降水帯が発生するのかを研究していますが、まだはっきりしてないんですね。
ただ注意しなきゃいけないのは、そもそも水蒸気の量が増えているので、ああいう豪雨は基本的に起きやすい状況にあるということ。それからもうひとつ注意しなきゃいけないのは、大雨が降って災害がもたらされるのは、線状降水帯だけではないということですね。
今申し上げたように、帯のように細長い地域に雨が降り続くのを線状降水帯というので、例えば丸っぽい形のスポット上に豪雨が降り続くものは、線状降水帯とは言わないんですが、これも大きな災害を、土砂災害なんかを引き起こすので、そういうところにも注意しなきゃいけないということですね。そもそも大雨が降りやすい状況になっているということです」
(編集部注:保坂さんによると、気温が1度上がると、大気中の水蒸気の量が7%増える。つまり、大気中に雨のもとになる水蒸気がたくさん含まれるので、それがなにかのきっかけで雨になると、これまで以上に大量の雨が降ることになるそうです)
地球は「風の惑星」
※ここからは、保坂さんが先頃出された本『地球規模の気象学〜大気の大循環から理解する新しい気象学』からお話をうかがっていきたいと思います。この本は、副題にもあるように「大気の大循環」という視点で気象を解説されています。この「大気の大循環」に目をつけたのは、どうしてなんですか?
「大循環っていうのは、地球を取り巻いている空気、大気は風として、規模の小さいものもあれば、大きいのもある、とにかく動いているわけです。その中で、例えば地球は、赤道の近くは暑くて、南極・北極は寒いですよね。なぜなんだろうと考えた時に、大規模な風の流れによって、そういうような地球上の気候が生まれてくるんですよ。
ですから、私たちに馴染みのある熱帯とか温帯とか、こういうような地球上の気候がどうして生まれてくるんだろうって考えた時に、地球を取り巻いて流れるような大規模な風、それをここでは大循環と言いますけれども、その大循環について説明してみようかなと思って書いたのがこの本です」
●前書きに地球は『風の惑星』であると書かれていました。風が吹くのは、やっぱりこの大気の大循環に関係しているんですよね?
「そうですね。いろいろな理由があって風っていうのは・・・私たち普通、風っていう時には身近な、規模の小さいものを指すことが多いですよね。大循環のようなものも大気の流れですから、風と言えば風なんですけれども、その風とイメージを区別するつもりで大循環っていう言い方をしているんですね。
それにしても地球の上に空気がある限り、小さな規模のものも大きな規模のものも流れる、そういう風が我々の生活に深く関係しているという意味でも、よく地球って『水の惑星』って言われますけれども、もうひとつ『風の惑星』でもあるんだよっていう気が私はします」
偏西風は、大気の循環そのもの
※初歩的な質問なんですが、なぜ大気は流れるのでしょうか?
「これはですね・・・もうひとつ地球上には流れるものがあって、海も『海流』は流れますよね。大気と海の共通点は流れる物体、空気が流れる、水が流れる・・・で、どんなものでもそうですけれども、何かが動く時は何かの力が加わっているんですよね。力が加わって、その大気なり、水の場合は流れて、いろんなところで形を、姿を変えながら流れていくというものですよね。だから何らかの力が加わっているから、大気も流れるわけです」
●何らかの力っていうのは・・・?
「これはざっくり言うと、太陽から来る熱なんですよね。いちばん最初の地球の大気を動かす、おおもとになるものは太陽からの熱です。 例えば、やかんの中に水を入れて、そのままほっとくと水は動かないんですけれども、キャンプに行って焚火を炊いて、上にやかんを乗せるとその中の水が動くんですよね。
下から熱せられて軽くなった水が上に行って、上の水が下のほうに回ってきて・・・こういう熱の伝わり方を対流って言いますけれども、これが現実に、地球でも熱帯のような熱いところでは、これと同じことが起きています」
●天気予報でもよく耳にする『偏西風』がありますけれども、これも大気の循環によるものですよね?
「よるものというか、その大気の循環そのものですよね。今申し上げたように熱帯の辺りでは、そのやかんの中でお湯が沸くような対流が、そういう熱の動き方をするんですけれども、私たちが住んでいる中緯度では、今度は地球の周りをぐるりと、例えば北緯40度なら北緯40度のところを、地球を一周するように西から東に向けて風が吹いていて、これを私たちは普通、偏西風と言うんですね。
ですから、熱帯の辺りではそういう対流のような動き方をして、それで中緯度では偏西風のような帯状に地球を一周するような流れになる、そういう特徴があって、それぞれのところで大気の動きって・・・なんて言うんでしょうね・・・別々のパーツでできているみたいな印象でしょうかね」
●ジェット気流も偏西風ですか?
「そうです。この偏西風は西から東に吹く風という意味ですけれども、その中で特に流れの強い部分をジェット気流と言いますね」
※天気予報でも「偏西風が蛇行したことが原因で〜」という解説を聞くことがあります。どうして蛇行するのでしょうか?
「それは本格的に説明するとなると結構難しくなります。ただ偏西風は、なぜああいうふうに地球をぐるりと一周して吹くかっていうと、詳しく細かい話はしませんけれども、ちょうど赤道側は暖かい空気、私たちが暮らす北半球で言えば、北極のほうは冷たい空気、その境目を流れているから西から東に一周するような流れになるんです。
で、その時に蛇行するわけなんですけれども、蛇行するのは結論から言うと、地球は自転していて、それから球ですよね、球状ですよね。この両方の条件が重なると蛇行が生まれることはわかっているわけで、それがどうしてですかっていうのはちょっと難しいと思います」
●蛇行すると、どうなるんですか?
「偏西風は、南側の暖かい空気と、北側の冷たい空気との境目を流れているので、例えば日本の辺りで、冬に南のほうに蛇行したとしますよね。そうすると北側が日本に近づいてくるわけです、冷たい空気が・・・。
そういう状態がそのまますぐに移動してくれればいいんだけれども、南への蛇行が日本の辺りで居座ったりすると、北側の冷たい空気が日本に近づいてきたのと同じことになるので、非常に冷たい寒い冬が続いたりすることになるわけです。
だから気温に対しては、どこでどのくらい蛇行するのかが非常に大きな影響を与えるわけです」
式よりも言葉で伝える
※保坂さんの新しい本から、大気の循環と偏西風に絞ってお話をうかがいましたが、最後にこの本で伝えたいことをお聞かせください。
「この本はとても気象が好きなかたで、どうしても理屈を知りたいというかたに向けて書いた本なんですよね。だから、このレベルの本だと式を使って説明するのが普通なんですけれども、これは式は使わずに、全部言葉で説明してあるんですよね。
日本の教育を考えると、私の周りの大人でも物理は大っ嫌い! いつも点が悪くて! っていう人がいるんだけれども、そういう人たちに話を聞くと結構物理的なものの考え方が得意な人っていっぱいいるんですよね。
ですから、ちょっと計算間違いしたから、×(ばつ)になってひどい点を取っちゃったみたいな、そういうのは日本特有で、アメリカやヨーロッパの物理の教科書は、言葉でなぜそうなのかっていうのを説明してあるものが多いんです。
ですから、私もそれに倣って、科学は細かいことは専門家に任せておけばいいので、我々としては要するにどういうことなのかを知れば、結構物理は面白いなって再認識してほしいなという思いも、この本の中には込めています」
INFORMATION
この本では「大気の大循環」を構成する偏西風、貿易風、ブロッキング高気圧ほか、大循環に大きな影響を与えている、地球の自転によって起こる力などを解説。気象学の基礎を学べます。特に気象に興味のあるかたにおすすめです。
講談社のブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎講談社 :https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000371643
◎東京大学大学院 保坂直紀:
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/people/k0001_02740.html
2024/1/7 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. BAD WEATHER / THE SUPREMES
M2. STRANGE WEATHER / GLENN FREY
M3. RAIN / SWV
M4. BLOWIN’ IN THE WIND / STEVIE WONDER
M5. 愛にできることはまだあるかい / RADWIMPS
M6. CANDLE IN THE WIND / ELTON JOHN
M7. WEATHER / NOVO AMOR
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」