2021/10/31 UP!
◎スズキサトル(イラストレーター/ブッシュクラフター)
『生きる知恵「ブッシュクラフト」〜古い道具や技術を見直す〜』(2021.10.31)
◎ナオト・インティライミ(シンガー・ソングライター)
『旅の一期一会が生んだ「今のキミを忘れない」〜ナオト ・インティライミの旅と音楽〜』(2021.10.24)
◎根本かおる(国連広報センター 所長)
『「世界は目覚めなければいけない」〜第76回 国連総会〜SDGsの行方』(2021.10.17)
◎青栁貴史〔硯(すずり)の職人、製硯師(せいけんし)〕
『書道具は自然由来の宝物〜子供たちに伝えたい毛筆文化』(2021.10.10)
◎藤木庄五郎(いきものコレクションアプリ「バイオーム」の開発責任者)
『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第5弾! 生物多様性を守ろう!〜アプリ「バイオーム」の可能性!』(2021.10.3)
2021/10/31 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストレーターでブッシュクラフターの「スズキサトル」さんです。
スズキさんは1973年、山形県生まれ。京都造形芸術大学を卒業。絵本制作とブッシュクラフトワークの活動をするために、東京から長野県・松本に移住。現在はイラストの制作ほか、ブッシュクラフトや野営のアドバイザーとしてワークショップを行なうなど幅広く活動中。絵本などの著作も多く、新刊としては先頃『森のブッシュクラフト図鑑』の新装改訂版を出されています。
この本は、野外でナイフなどの道具を使って必要なものを作る、その技術や知恵をイラストや写真でわかりやすく解説していて、とても好評なんです。
きょうはそんなスズキさんに究極のアウトドアスキルといわれる「ブッシュクラフト」の極意や、必要な道具についてお話しいただきます。
☆写真協力:スズキサトル
野営とキャンプ
※まず、ブッシュクラフトとは何かご説明しておきましょう。ブッシュは「やぶ」、クラフトは「工作」ですよね。でも、ふたつの言葉が合体すると、「生きる知恵」という意味合いになるそうです。
必要最小限の道具を持って、自然の中に出かけ、足りないものは自分で作ってキャンプをするなど、慣れれば、誰でも楽しくできる「自然遊び」と言っていいかも知れません。そんなブッシュクラフトは、自然の中で生きる知恵を身に付けられる、ということで、ここ数年、特にキャンプ好きに注目されています。
スズキさんは、新刊『森のブッシュクラフト図鑑』新装改訂版の第1章で、「野営とキャンプ」の違いについて書いていらっしゃいます。改めて説明していただけますか。
「キャンプは、要するにキャンプ場という場所がちゃんと提供されていて、車でそこまで行って、そこでテントを張って一夜を過ごすのがキャンプですけど、ブッシュクラフトはひとりでバックパックを背負って、その背負っている道具だけで山の中に入って、焚き火して野営して帰ってくるみたいな、そういう感じですね。
ただ、日本だとやっぱり土地の所有者の関係で、そういうことは難しいので、ある意味、ブッシュクラフト風キャンプみたいな感じだと思うんですよね。ソロキャンプに近いかもですね。みんなで大勢集まって、道具を持ち寄ってやるのも楽しいんですけど、ブッシュクラフトってひとりとか少人数で焚き火して、限られた道具で・・・だから誰でもできるんです。お金もかけようと思えば、すごくかけたりできますけど、お金をかけないようにしようと思えば、全然かけなくてもできるし、幅が広いですね」
●野営に必要な道具を自分で作るっていうのも醍醐味なんですか?
「そうです。例えば、売っている製品を使ってもいいですし、自分でナイフ1本でそれを作って代用するっていうのも、ブッシュクラフトの面白さですね」
●サバイバルに近いですよね?
「サバイバルは危機的状況、例えば自然の中で困難に陥った時にそこから脱出するのがサバイバルなんですよね。サバイバルの火起こしとか、野営する技術を使って。で、ブッシュクラフトは全く真逆で、自分から自然の中に入って、自然と共に時間を過ごして、楽しく帰ってくるアクテビティに近いかも・・・遊びに近いですよね(笑)。
そんなこと言っている僕も実はマンションに住んでいるんですね。だからずっと自然の中にいることって難しいんで、遊びっていう風に考えてもらえるといいかもですね。何がなんでもブッシュクラフトっていうんじゃなくって、例えばキャンプでブッシュクラフトの技を使ったりとか、そういう程度でいいんじゃないかなと思います」
●日常とはまた違った空間で過ごせそうですね。
「女の子も結構、最近そういうのを好きなかたがたくさんいらっしゃいますね。意外と女の子のほうが多いかもしれないですね。さばいどるの“かほなん”さんとか、あのかたがやっていることって、結構ブッシュクラフトに近いところがたくさんあるんですよね。お笑い芸人さんでいうと、ヒロシさんのキャンプもブッシュクラフトのそういう技をたくさん使っていますね。とても素晴らしいと思います」
ナイフ、ノコギリ、メタルマッチ
※ブッシュクラフトや野営に最低限、必要な道具を教えてください。
「まずナイフですね。これちょっと専門のナイフなんですけど、スカンジグラインドっていう刃が直刃になっているやつなんですけど、刃厚も4ミリくらい。これだと薪が割れるんで、このぐらいのナイフがあるといいですね、フルタング(*1)で。
あとノコギリ。僕がいつも持っていくノコギリは、枝挽ノコギリで(長さは)30センチくらい。この鞘は僕が作ったんですけど、丸太を伐ったりとかできるんで、とりあえずこのノコギリと、あとはメタルマッチ(*2)ですかね。これA&Fさんのメタルマッチなんですけども、こういうものが売られているんですね」
(*1 刃がハンドルの後ろまで貫通しているタイプ)
(*2 火を起こす道具。ロッドというマグネシウムなどの
金属の棒を、ステンレス鋼などのプレートで
削って火花を飛ばし、火を起こす)
●(メタルマッチで火花を飛ばす実演)
おお! 火が出ました!
「これでこのフェザースティックに火を付けると」
●木を細かくしておくと、すぐに着火がするっていうことなんですね。
「メタルマッチは水に濡れても使えますしね」
●カギかな? って、一瞬思ったくらい、それくらい小さいんですね。
「そうですね。特にA&Fさんのメタルマッチがいいのは、持ち手のところがオレンジになっていて、普通だいたい黒っぽいものなんですけど、それだと結構落としたりとかして外で失くすんですよね(笑)。落とした時に森の中だと落ち葉とかで隠れて、(持ち手が)黒や緑色だと見えなくなっちゃうので、このオレンジのほうがいいかもですね」
●なるほど〜!
「特に初めてのかたは失くしやすいんです。僕も何回も失くしているんで、(持ち手は)オレンジがいいと思いますね。
で、このナイフ、僕がデザインしたやつなんですけど、ちょっと高いんですね。こういうものじゃなくても、例えばモーラナイフっていうメーカーさんがすごくリーズナブルなお手頃価格のナイフを作っているんですよ。2000円くらいの、ロバストって種類なんですけども、これでもいいですね。
カスタムナイフは何万円もするんで、なかなかそれを買うのは難しいんで、こういうモーラナイフさんのロバストはおすすめですね。あとノコギリも先ほどのような長いものじゃなくて、(長さが)12センチくらいの、ホームセンターで売っているようなノコギリでも大丈夫ですね」
●折り畳みもできて、コンパクトになるんですね?
「このノコギリがいいのは、刃の背のところ、これも実はこういう・・・」
(火花を飛ばす実演)
●おお! また火花が出ました! (笑)
「これもストライカーみたいに(マグネシウムの金属棒を)削ることができるんで、こういう方法もできますね。だから道具は多ければ多いほどいいっていうものでもなくて、本当に必要なものだけ持っていくっていうのがいいのかもですね」
山で培われた日本のブッシュクラフト
※日本にはクマやシカなどの狩猟をなりわいにしている「マタギ」や、山で木を素材にお碗などを作る木地師(きじし)というかたがちが、いまは少なくなっていますがいらっしゃいます。そんなかたたちの技術や知識はブッシュクラフトに通じますよね?
「そうです、そうです! ブッシュクラフトは西洋のものなので、どうしても北欧や北米、イギリスやロシアとかのブッシュクラフトが今すごく人気で流行っているんですけど、僕たち日本人の、またはアジア人のブッシュクラフトも実はすごいんだぞ! っていうのを、僕はお知らせしたいなっていう感じなんです」
●何か大きな違いとかはありますか?
「そうですね。大きな違いはやっぱり、特に日本人は山岳民族だと思うんですよね。国土のほとんどは山、特に険しい山に囲まれて、僕が今生活している信州もそうですけど、山岳地帯が多いんですよね。だから傾斜が多い(場所で培われた)ブッシュクラフトなんですよね。
カナダやフィンランドなどの北欧は大雪原やツンドラ、あとはすごく背の高い木がたくさん生い茂っているところとか、高い山はそんなにはないんですよね。どっちかっていうと平原をスノーシューで渡って移動したりとか、犬ゾリとか、イヌイットもそうですけど、そういう文化。日本でいうと北海道に近いのかもしれないですけど、日本の場合はやっぱり山ありきなんで、山で移動するっていう、そういう野外技術が多いと思うんですよね」
羽根ペンで風景画
※スズキさんは絵をかくために山によく出かけるそうですが、山の絵を描いているときはどんな気持ちなんですか?
「山の絵は、僕は風景を描いているっていう感じじゃなくて、生き物を描いている感じですね。僕、山の絵を描く時はこの羽根ペン、これ“鳶(とび)”の羽根ですけど、この羽根ペンを使って絵を描いています」
●ハリーポッターに出てくるような(笑)
「そうそう、丸眼鏡でね!(笑)。笠かぶってね、そうハリーポッターみたいな・・・」
●へえ〜!
「やっぱり、画材も自分で作るのがブッシュクラフトなのかなと」
●いいですね!
「何かしら作るのが好きなんですね」
●山や森で野営をしていて、どんな瞬間がいちばんお好きですか?
「やっぱり自然、同じ山も何回も登りますし、毎回ちょっと自然って勉強させられることがたくさんあるっていうことですね。気付くというか気付かされるところがありますね。それが楽しいですね」
●例えば、どんなことを?
「ここにこんな虫がいたのか! とか、例えば写真で見るようなものとはまたちょっと違う、そういう面も見られるという感じですね。今はインターネットとかで検索すれば何でも知ることができるんですけど、例えば蜘蛛の裏側とか、そういうのってやっぱり見てみないと分からない。
あとキノコなんかもそうですね。実際見てみないと分からない。その状況によって違いますしね。そういうのもやっぱり自分の目で見て確かめたほうがいいというか、楽しいですよね! 」
●カメラがなかった時代は、全部絵に描いて残していたってことですよね?
「そうです! やっぱりそれは凄いなと思いますよ。昔の画家っていうか絵描きはみんなある意味アスリートというか、探検家と同じくらいのレベルだったのかなと思って、あんな画材を背負って探検家と一緒に冒険に行くって、凄いですよね!」
忘れ去られた技術にしたくない
※スズキさんの新しい本は、伝統的な道具や技術を、次の世代に伝えるという意味もあると思うんですけど、その辺は意識していらっしゃいますか?
「そうですね。やっぱり誰かがこういうのを書き残したりとかしないと・・・。僕がよく言ってるのは“ロストテクノロジー”と、もうひとつ“ロストカルチャー”。道具自体は残っていたりするんですけど、それの本当の使い方って実際にもう分からなくなってきてるんですね。日常で使うことがないんで、もう本当に博物館に飾っていたりとか、そういうレベルになっちゃうのがたくさんあるので。昔の人は当たり前にやっていた“火打石”とかもそうですね。ああいう方法なんかは、ほとんどみかんの皮を剥くみたいな感じでやっていたと思うんですよね。
今はほとんどそんなことをやる必要もないんで、もう多分忘れ去られた技術になってきちゃうのかなって。でも最近、ブッシュクラフトを通して結構できるかたが増えてきたんですよね。火打金で火起こしできるのが、それはすごくいいなと思いますね」
●人間が本来もっている本能みたいなものですよね。
「そうですね。そうするとまた今度、鍛冶屋さんで火打金を作ってみようかなっていうかたも現れてきますし、またそれで、ひとつの産業が増えるので、いいかなと思いますね」
●この本『森のブッシュクラフト図鑑』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか?
「そんなに難しいことじゃないですね。みなさん、是非一度ブッシュクラフトをちょっとやってみよう! みたいな・・・まさに全然知らない、やったことない人がやってみるっていうのが僕、すごくいいことだと思うんですよね。
できる、できないは別にして、知るっていうのがすごく最初に必要かなと。こういうものがあるんだよっていうのをちょっと知ってもらいたいなと。分かりやすく、できれば絵でみなさんにお伝えできればいいなっていう意味で、今回また描いてみました。
ただ、前回の『森の生活図集』で載っていたものが、マニアック過ぎた部分がたくさんあって、それで今回、改訂版で普通のかたたちがキャンプでも使えるようなものに、別のクラフトにちょっと差し替えました。
だから例えば、タヌキの“尻皮(しりかわ)”っていうのがあるんですけど、猟師さんが腰に巻いているものとか、そういうのを知りたい人は、『森の生活図集』を是非購入していただいて、キャンプで椅子とかスプーンとか作ってみたいなというかたは『森のブッシュクラフト図鑑』のほうがいいかもですね」
INFORMATION
『新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』
この新装改訂版には道具の選び方や使い方、野営と焚き火のコツなど、ブッシュクラフトの基本となるような技術と知識を、イラストと写真でわかりやすく解説。スズキさんは本の中で「最新のものが最善とは限らない。古い道具や技術を見直してみよう」と書いています。その思いが込められたブッシュクラフトの入門書ともいえる一冊です。ぜひ読んでください。笠倉出版社から絶賛発売中です。
詳しくはスズキさんのオフィシャルサイト、または出版社のサイトをご覧ください。
◎「スズキサトル」オフィシャルサイト:https://suzuki-satoru.com/
◎笠倉出版社HP:https://www.kasakura.co.jp/esp.php?_page=detail&_category=general&idItem=4648
2021/10/31 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. TOGETHER AGAIN [TONY MORAN 7” EDIT WITH JANET VOCAL INTRO] / JANET JACKSON
M2. SURVIVAL / MARC JORDAN
M3. FIRE / BABYFACE & DES’REE
M4. LIGHT MY FIRE / MINNIE RIPERTON feat. JOSE FELICIANO
M5. ADVENTURE OF A LIFETIME / COLDPLAY
M6. EVERY PICTURE TELLS A STORY / ROD STEWART
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/10/24 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、太陽のお祭り男、シンガー・ソングライターの「ナオト ・インティライミ」さんです。
先月、デビュー10周年記念のベスト・アルバムをリリースし、現在ツアー! そんな忙しい合間をぬって、この番組に来てくださいました。ナオトさんといえば、旅好き、それも世界を66カ国も巡った旅人としても知られていますよね。
きょうはそんなナオトさんに旅への思いや、あのヒット曲に隠された切なく暖かいエピソードなどをたっぷり語っていただきます。
アフリカのディープな旅
※ナオトさんと言えばやっぱり旅! ということで、今回は旅にまつわるお話を色々とおうかがいしたいなと思うんですけれども、いちばん最近の旅というと、いつになるんですか?
「そうか、旅しばりね。最近はね、旅っていうよりは世界の活動をするために、LA、マイアミ、メキシコに行くことが多いんですよ。それは旅とは呼んでいないというか」
●活動というのはどういう?
「向こうでデビュー(*)をしまして、向こうで歌っているという、これは旅カウントじゃないので、旅でいくと2017年の19ヵ国、旅したやつでしょうかね」
(*2019年に世界三大レーベルのひとつ「ユニバーサルミュージック ラテン」から世界デビュー!)
●19ヵ国! 例えばどの辺りを旅されたんですか?
「モザンビーク、タンザニア、ジンバブエ、ボツアナ、ザンビア、マダガスカル、南アフリカ・・・西に飛び、ダカール、セネガル、カーボベルデ、ギニアビサウ、ガーナ、トーゴ、べナン、ルーマニア、スウェーデンを旅しましたね」
●すごい!
「今これ、手で地図を描きながら答えてるっていう(笑)」
●旅人っぽかったです! この旅はどんな思いで19ヵ国を周わられたんですか?
「これは本当に久しぶりの長旅で、1年半日本の活動を止めさせていただいて、もうスタッフと何度も話をしてそうなるんですけど、世界の挑戦も始めていきたい・・・ただその前に、もう1回最後の長旅に出たいということでしたね」
●原点に戻るための旅って感じですか?
「そうですね。本当にありがたく、デビューして6年間、2010年にデビューして2016年までの6年間、ファンのかたが応援してくださった、スタッフのかたが支えてくださったおかげで、色んな景色を見せてくださって。ただそこから、ちょっとアウトプットが増えていて、インプットすることが必要だろうと、そういうことでしたね」
●19ヵ国のインプット、すごかったんじゃないですか?
「すごかった! すごかったね〜。特にアフリカはかなりディープな旅になりましたね。しかも行く国も決めず、本当にその時その時の相変わらずの放浪っぷりで、ここで何か起きそうだから、もうちょっと長くいるとか、ここは何も感じないから次に行こうとかっていうのは、感じたままにやっていましたね」
●特に印象に残っている国ってありますか?
「そうだなぁ・・・タンザニアのザンジバル島っていう、アフリカなんだけど、イスラムとか東南アジアの影響や、インドの影響もすごく受けているような、クイーンのフレディ・マーキュリーが育ったと言われている島があるんだけど、そこで『サウティ・ザ・ブサラ』っていう、アフリカ中の200組以上のバンドやアーティストが参加するフェスが4日間行なわれて、あれはくらったな〜。何かもう色んなアフリカ(の音楽)がそこで奏でられていて、すごかったね〜、トランシーでしたね」
サッカーは100の情報を飛び越える!
※旅に出る前に、事前に現地でどこに行こうかなど、計画を立てていかないそうですね。それはどうしてなんですか?
「だって決めちゃうと、何かここから起こりそうなのにその場を立ち去らなきゃいけないわけじゃん」
●確かにそうですね。
「旅人としては何か起きそうだったら、それに従おうよ、直感にっていう」
●見知らぬ国で不安みたいなのはないんですか?
「あるさ〜! 相田みつを、人間だもの、あるけどね! もちろんだから身の危険とか、ここからこう行ったら、ちょっと危ないだろうなとか、崖の感じとか、自分の命に何か危険があるようなことは絶対しないし、そこのアンテナはすごく立てているよね。
人に対しては、これはちょっと難しくて、甘えちゃいけないんだけど、ちょっと飛び込んでみるっていうのが結構大事で・・・男性女性でまた危険な度合いが違うからおすすめってわけじゃなくて、僕の場合の話だけでいうと、例えば現地の人と仲良くなって何かに誘われたと、全部断っていたら面白くない、全部乗っかっていたら騙されると。
ここのさじ加減というか、警戒しながらちょっと乗っかっていって、そいつが本当にいいやつかどうかとか、“ん〜?”って思ったらすぐそこから立ち去るとか、常に危険察知をしながら。でも、その現地の文化を体感するためにはちょっと飛び込んでみるっていう・・・だからもう3秒とかで、いいやつか悪いやつかを見抜くスカウターが付いているんでしょうね(笑)」
●そうなんですね(笑)。そういった力がもう身に付いているんですね!
「だって生きなきゃ! 生きてこそ!」
●そうですよね。でも言葉はどうされているんですか?
「言葉は、できる限りやっぱり寄り添ったほうがいいんだわ。覚えたほうがより深く現地の人と話せるし、より深くその国やその町の文化や歴史に触れられるっていうのはあるから、頑張って覚える。頑張って覚えて、すぐ忘れるっていう。でもまた行くとスッと、次はリロードすればいいだけというか、もうインストールされているものをもう1回入れ直す作業というか・・・」
●へ〜! 先ほどもフェスっていうお話がありましたけれども、やっぱり音楽が言語の壁を壊してくれるみたいなのはあるんですか?
「これはあるね〜。音楽とスポーツ、これはやっぱり言葉のいらない2大コミュニケーション・ツールだなと思っていて、しかもスポーツの中でも世界中で人口が多かったりとか、すぐそこでやっているのってサッカーだよね。ここはやっぱり千葉・柏レイソル・ジュニアユース出身としては、こんな強い武器、ありがとうレイソル!(笑)。それだけでやっぱりすぐ打ち解ける、一緒にボールを蹴るだけで100の情報を飛び越えるね。
肌の色も宗教も、社長さんなのか平社員なのかどうでもいいと。そういうことじゃないっていう、100の情報を飛び越えられるのがサッカーだし、音楽も然りで、あっという間に心の距離が縮まる。その共通言語がふたつ、もうすでに備わった時点での旅だから、これはもうありがたいなって本当に素直に思います」
「今のキミを忘れない」に込められた思い
※ナオトさんは世界を巡る旅で、体験を通していろいろなものを吸収していると思うんですけど、曲作りをするうえで、旅はどんな影響を与えていますか?
「迫るねぇ〜! ティライミの奥のほうをくすぐるね! 旅と作り手としての関係性ね〜?」
●はい!
「これはですね、何か嬉しい〜、なかなか人にこういうことを話さないような、質問で奥の引き出しを開けてくれて、何か嬉しい! 喜びがすごいね。
あのね、ナオト・インティライミ、世界中を旅している割にめっちゃJポップじゃねぇ〜!? っていう(かたもいるんです)。別に僕は中傷とは思っていないですよ。それはそれでJポッパーとして嬉しいわけですよ、めっちゃJポップじゃねぇ〜!? って。でもちょっと悪口なんですよ。あんな旅しているのにめっちゃ普通のJポップじゃねぇ〜!? の言いかたなんです。
でも俺は嬉しいわけですよ。これは旅してきたことを、世界中の色んなジャンルやリズムが体内にはあるものの、ひけらかすつもりも別にないし・・・でもJポッパーとしてね、やっぱりそれはありがたく受け止めているんだけど。
でも自分の中のひとつ芯みたいなところでいうと、めっちゃJポップに昇華しているけど、その中に色んなエッセンスや色んなシーンが入っていて、例えばパッと今思い付くのが『今のキミを忘れない』っていう曲があって、”今キミを、今のキミを、いつまでも忘れないから”っていう歌詞がある・・・。
これも普通のJポップじゃねぇ〜!? なんだけど。でもこれって僕のシーンの中では、旅をしていて、例えば地球の裏側の南米で一緒にサッカーをして仲良くなった少年と、“ナオト、明日も来てね!”って、“来れたら来るぜ!”って。でも俺は明日違う町に行こうと思っていて、この子は名前は分かるけれど、住所は分からなくて、ラインやメールもつながっていないから、もう一生会わない可能性のほうが多いことを知っていると。だがら今[の]キミを、この[の]を入れたことにより、その瞬間を切り取ったんですよ。
この曲はもちろん恋人との別れの歌だったり、日本だったら卒業ソングとして使われたりとかもしてくださっている。でも何気ないことだけど、自分の中ではあの旅のあの瞬間を楽しんだけれども、二度と会えないかもしれないキミに捧げる歌でもあるというか・・・。
こういうところが実は色んな曲に散りばめられていて、そういう『今のキミを忘れない』だったりとか、だからその瞬間瞬間を、もう二度と会わないことを分かっている。だからこそ今[の]キミを、この時間を何気なくじゃなくて、本当に幸せな瞬間なんだっていうことを噛みしめたいっていうか・・・」
●グッと来ました。そういう背景があったんですね。
「そういう聴きかたで、もしかしてティライミ・ソングを今一度、10周年ベストを今の話を聞いたうえで聴いていくと、ただのJポップじゃねぇ〜!? でもちょっと違うかもねぇ〜!? っていう何か備考欄が付くのかなという・・・」
ザ・旅人ソング「Catch The Moment」
※ナオトさんは先月末にデビュー10周年記念のベスト・アルバム『The Best-10th Anniversary-』をリリースされました。このベストはCD2枚組で、DISC 1が「BEST」で20曲、DISC 2が「MUST」で22曲、全部で42曲! 新曲も収録された大ボリュームのアルバムになっていますが、ナオトさんご自身で曲を2枚にふり分けたんですか?
「これ、難しかったんですけど」
●ナオトさんが選曲されてるんですね?
「もう、大至急させていただきましたね」
●おお〜!
「ベストを出すと、色んなベストの形態がある中で、シングル曲をやっぱりベストで出すことが多いと思うんですよ。僕も5周年の時のアルバムはシングル集だったんです。
ただ、シングル曲はシングル曲で聴いて欲しいんだけど、それ以外のいわゆる”旅人ミュージック”だったりとか、色んなジャンルの音楽って、実はアルバムに入っていたりとかするので、そういったティライミの、誰も知らないようなアルバム収録曲やカップリング曲だけど、あるいは売れなかったけど、この曲は聴いて欲しいな〜の曲を『MUST』のほうで。他にもライヴでの定番曲とか、ファンのかたのアンケートをもとに選んだ曲とか。
ティライミのことを初めて知ってライヴに行きたいと思ったけど、コロナ禍で行けなくて、今度初めて行くよっていうかたもいらっしゃると思うんです。この『BEST』と『MUST』の42曲を聴いてくださると置いていかないよっていう、その予習にもなるというかね」
●へ〜〜いいですね!
「そんな2枚組になっておりますね」
●旅をイメージされたというのは例えば、どの曲になるんですか?
「そうだね・・・ちょこちょこ散りばめはられてはいるが、ザ・旅人ソングっていうのが1曲ありまして、こちらは、2枚目の『MUST』のほうの”Catch the Moment”という曲ですね!」
●世界中の言語が出てくるという曲ですね。
「そうなんです。”シェイシェイ、カムサハムニダ、コップンカップ、トゥリマカシー”みたいな、世界十数カ国の“ありがとう”がまず歌詞に入っていて、これもね、さっきの理論でいうと、『今のキミを忘れない』の話とつながるんですけど、サビで”シャララララ♫ シャララララ♫ ハロー、ナイス・トゥー・ミート・ユー、グッバイ、シー・ユー・アゲイン”っていう、ものすごく簡単な、中1で習うような英語が4つ並んでいるんです。これって旅人の中の、すごく切ない想いが詰まっていて、旅人ってやっぱり色んなかたに現地で会うでしょ?」
●ええ、そうですね。
「その時に、すれ違うだけの人もいるけど、その瞬間に目が合って”イェイ〜!”って。で、その人とはきっと二度と会わないんだけど、明らかに心が通じ合う瞬間があると。そのすれ違う3〜4秒の中に” ハロー、ナイス・トゥー・ミート・ユー、グッバイ、シー・ユー・アゲイン”っていうのが凝縮されているというか・・・それも全部出会いだなっていう。でも”シー・ユー・アゲイン”がないことも分かっているけど、そう呼ばせてっていうかね。なんか旅人のセンチな部分であり、でも”シャラララ♫”みんなで歌おうって。
『旅歌ダイアリー2』のドキュメンタリーにも収められているシーンなんだけど、線路沿いを歩いていたら、たまたま村にたどり着いて。線路沿いと言っても、日本では危ないですよ、みなさん。でもそのアフリカの、1日に1台(列車が)通るかわからないような、安全なというか、(そんな線路沿いを)気にしながら歩いていたら町に着いて、子供たちがぶわぁ〜っと30人くらい集まってきて取り囲まれて・・・日本人なんか来やしない、マダガスカルの奥地の村だから。
そこで、なんかわぁーっと囲まれて、じゃあ遊ぼうぜって。サッカーやったり、ギターを持ってるから、歌え歌えになるじゃない? じゃあ歌おう! って。どの曲を歌おうかなって、そんな時にこの曲は子供たちも歌えるんじゃないかと思って、”シャララララ♫”で一緒に歌ったんですね。
そのあと、またその村に戻った時に、その子供たちが覚えていてくれて、それを子供たちから歌ってくれるみたいな・・・自分にとってはやっぱこの”Catch The Moment”という曲は、旅人として一生歌い続けていくんだろうなという特別な曲です」
横一線で歩んで行く
※では最後に、デビュー10周年記念のベスト・アルバム『The Best-10th Anniversary-』を、どんな感じで聴いて欲しいですか?
「そうですね・・・あの〜CDは買わなくて大丈夫です。みなさん(笑)」
●あれ〜〜?(笑)
「CD高いですし・・・もちろん、家にCDプレイヤーがあるよと、CDが好きなのよというかたはぜひ! この時代だからこそ嬉しい形っていうのもありますから、お手に取っていただけたら嬉しいですし、CDがないよ! っていう家もございます。そして世代的にはもうサブスクで聴いているよっていう・・・いいんですよ! 逆にCD屋さんに行ってナオト・インティライミのCDを手に取って、家に帰って封を開けて聴く、それって結構好きじゃないと行なわない作業なんですよ。
でも、今だったら、この番組をたまたま、この夜に家族で、お父さんが運転していてね、ラジオでベイエフエムをかけて、ティライミが出てきて、こんな話を聞いたと。そしたらもう後ろの席で娘さん、あるいは息子さんは、サブスクでいいんですよ。アップル・ミュージックでもライン・ミュージックでもスポティファイでも何でもいいんですけど、ナオトで検索して、ベスト・アルバムに7秒後にはそこに辿り着けるという、これはこれでやっぱりありがたい時代なんですよ。今一度、これがきっかけになってナオト・インティライミの音楽に、改めて触れていただく機会にしていただけたらなと思います」
●コロナ禍はまだまだちょっと続きそうですけれども、ミュージシャンとして発信したいこととか、伝えたいことっていうのはありますか?
「そうだな〜、これは自分とファンの方の関係値もそうなんだけど、よっしゃ〜行くぞーっていう、先頭を切って、お前らついてこーい! みたいなリーダーではなくて、横一線になって、みんなで歩んで行くような感覚をずっとやっぱり思っていて・・・。
それはやっぱりコロナも、コロナじゃなくとも、生きていれば大変なこと、いいことばかりじゃない、むしろいいことじゃないほうが、嫌なことのほうが多いと思うんですよ。でも、あなたの人生に、どこかしらで、なにか一言でも、いちメロディでも、ナオト・インティライミの何かが横にいられたら、それは僕の作り手としての本望です」
INFORMATION
『The Best-10th Anniversary-』
(初回限定ファンクラブ盤:2CD+2DVD+BOOK)』
『The Best-10th Anniversary-』
(通常盤:2CD)』
先月末にリリースされたデビュー10周年記念のベスト・アルバム、CD2枚組の『The Best-10th Anniversary-』をぜひ聴いてください。ナオトさん自身が選曲したヒット曲や名曲が全部で42曲収録されています。
2017年の旅のドキュメンタリーはDVD『ナオト ・インティライミ冒険記:旅歌ダイアリー2』に納められています。
今月初めに千葉の松戸から始まった「10TH ANNIVERSARY LIVE TOUR 2021」。
11月11日は神奈川、11月20日は東京、12月2日は千葉の柏、そして最終は
12月10日の東京公演の予定となっています。ソールドアウトの公演も多くありますので詳しくは、ナオトさんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「ナオト ・インティライミ」オフィシャルサイト:https://www.nananaoto.com
2021/10/24 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. コンドルは飛んでいく / Simon & Garfunkel
M2. I Was Born To Love You / Freddie Mercury
M3. One Moment In Time / Whitney Houston
M4. 今のキミを忘れない / ナオト ・ インティライミ
M5. Catch the moment / ナオト・インティライミ
M6. タカラモノ〜この声がなくなるまで〜 / ナオト・インティライミ
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/10/17 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは先月、ニューヨークの国連本部で開幕した「第76回 国連総会」を特集! ゲストは、国連の活動全般に関する広報活動を行なっている国連広報センターの所長「根本かおる」さんです。
根本さんにご登場いただく前に、国連とSDGsのおさらいをしておきましょう。
国連は国際の平和と安全の維持、人権の擁護と推進、経済社会開発 の推進の三本柱に沿って、多岐にわたる活動を世界中で行なっています。そして国連総会は、すべての加盟国によって構成される国連の主要な機関のひとつで、現在の加盟国数は193カ国となっています。
国連サミットで2015年に採択されたのがSDGs。「SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(サステナブル・デベロップメント・ゴールズ)」の頭文字を並べたもので、日本語では「持続可能な開発目標」。
私たちがこれからも地球で暮らしていくために、世界共通の目標を作って、将来世代のことも考えて、地球の資源を大切にしながら、すべての人にとって、よりよい社会を作っていこう、そのための約束と言えるのがSDGsなんですね。
設定されている目標=ゴールは全部で17。その範囲は飢餓や貧困、気候変動対策、経済成長、そしてジェンダーに関することまで、いろいろな課題が入っています。
SDGsの前身MDGs「ミレニアム開発目標」との大きな違いは、SDGsの場合、国や自治体に加え、民間企業や一般の人々も取り組むこと。そして開発途上国だけでなく、先進国の課題解決も含まれていることなんです。
そんなSDGsの17の目標は2030年までの達成を目指していますが、世界各国の状況は、果たしてどうなんでしょうね。きょうはおもにSDGsの動向、気候変動、そして食料問題について、根本さんに解説していただきます。
「警鐘を鳴らすためにここにいる」
※それでは根本さんにお話をうかがっていきましょう。今回、国連総会の一般討論の冒頭で、グテーレス事務総長がかなり強い口調でスピーチをされたと聞いたんですが、そうだったんですか?
「国連総会、第76回の会議は9月14日から始まりました。そしてその1週間後の21日からのおよそ1週間が、世界の首脳が国連に集結して演説合戦をするというハイレベル・ウィークだったんですね。日本の国会で言えば、所信表明演説があって、代表質問があってということになりますけれども、そういった国連外交の花形的な1週間でした。
その一般討論演説の冒頭、国連事務局のトップ、アントニオ・グテーレス国連事務総長が演説をしたんです。世界の動向について、”私は警鐘を鳴らすためにここにいるんだ。世界は目覚めなければいけない。世界は誤った方向にいっている”と言って、非常に強いメッセージを投げかけたんです。
その背景には、新型コロナウイルス感染症の世界的な大流行があって、物凄いスピードでワクチン開発があって、ワクチン接種が始まっていますけれども、蓋を開けてみるとそのほとんどが豊かな国、あるいはワクチンを製造・開発している国々での接種であって、途上国を中心とした低所得国に回っているワクチンの割合というのは、全体の0.3%にしか過ぎないという現状があるんですね。物凄い格差です。
また、貧富の格差も拡大しています。気候変動も人類存続の危機というレベルぐらいに脅威が高まっています。そして紛争も増えて長引いていると。そういう状況の中で、世界は目覚めなければいけないと警鐘を鳴らしたんですね」
●このままいくと、ますます誤った方向にいってしまうということですよね。
「千葉県も2年前に大きな台風被害がありましたよね。そして毎年のように、非常に大きな規模の風水害が日本でも起こっています。これは明らかに気候変動由来で、ここまで強くなって、そして頻度が上がっているわけなんですね。こういった大きな気候災害が起きると、それまで積み上げてきた、経済活動であったり、人の営みというものがいっぺんに吹き飛んでしまいます。
余裕のある人たちは、自分の足で立っていられますけれども、非常に弱い立場にあるギリギリの生活をしている人たちは、ひとたまりもありません。それからこういった風水害が起きた時にスラムなども直撃を受けます。そこに住んでいるのはやはり弱い立場の人たちです。そういったことは日本も他人ごとではない、まさに自分ごとだと捉えなければいけないと思いますね」
SDGs報告書が示す危機的状況
※先日、SDGsに関する国連の報告書が公開されました。17の目標ごとに進捗状況がイラストや図などをまじえ、表示されていますが、新型コロナウイルスの感染拡大が多くの目標に深刻な影響を与えていることがわかりました。根本さんはこの報告書をご覧になって、どう思われましたか?
「新型コロナウイルス感染症の大流行が始まる以前から、SDGsの2030年までの達成の目処というのは全く立っていなかったんですね。それが新型コロナウイルス感染症がここまで流行してしまって、さらに達成が遠のいてしまったという現状があります。
わかりやすい例が飢餓だと思います。世界の飢餓人口というのは2010年代に入って、ずっと減ってきたんですね。それが後半に入ってから、残念ながらまた増えてきています。
その背景には、紛争が長引いている。それから気候危機の影響で干ばつや洪水があって、その直撃を受けている。そういったことがあったんですが、新型コロナウイルス感染症が大流行して、人が思うように(畑を)耕せなくなった。あるいは、物が実ってもそれを収穫できない。あるいは物流という形で運べない。色々な要因があって、飢餓人口が2019年から20年にかけて1億人以上、一気に増えてしまったんです。
これで、世界で最大8億人を超える人たちが飢餓に直面しているという状況になりました。飢餓人口の増加率というのは1年間で20%も増えたんですね」
※この番組としてはやはり気候変動に関する目標が気になりました。SDGsの報告書に「気候変動は続いていて、ほとんど収まっていない」と書かれていたんですが、そうなんですか?
「8月に、”IPCC”という世界の第一線で活躍している気候科学者による、国連の気候変動に対する政府間パネルというネットワークが報告書を出しました。アントニオ・グテーレス事務総長に言わせると、人類に対しての赤信号だと称しているんですね。
パリ協定が最大限の努力目標としている(世界の平均気温上昇を)1.5℃上昇未満に抑えるということは、残念ながらできなくなっていると。どんなに頑張っても一度は1.5℃上昇を超えてしまうんですね。しかしながら、あらゆる国が温室効果ガス削減に取り組めば、この1.5℃上昇を超えた時期というのを短く抑えて、1.5℃上昇未満に抑えることができる。手をこまねいていれば、4度上昇まっしぐらと。
9月には、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が、これまでに表明されている温室効果ガス削減目標を足しこんで、どれくらいに抑えることができるのかを割り出しました。残念ながら、本来減らなければいけない温室効果ガスが、2030年に今と比べて16%増えてしまうという状況となっています。このままでは2.7度上昇の道をまっしぐらに進んでいます。
これは個人的な努力を積み上げるだけではもう間に合いません。社会の仕組みを根本的に変える。エネルギー構成、それから建築物の建築方法、あるいはその食のあり方、交通手段、こういった社会の仕組みを根本から変えることをしなければ間に合いません」
COP26〜今こそアクション!
※今月末からイギリスのグラスゴーで気候変動に関する国際会議が開かれます。正式名称は「国連気候変動枠組条約締約国会議」通称COP(コップ)。26回目を迎える「COP 26」に根本さんが期待されていることはなんでしょうか。
「やはり危機感を持って、2050年の脱炭素(社会の実現)、そして2030年の(温室効果ガス)45%削減、それを確かなものにする。美辞麗句、そして美しい演説はいりません。欲しいのはアクションです。
そして、豊かな国は自国で対策を取ることができますけれども、温室効果ガスの排出にほとんど寄与していない小さな島国などは、地球温暖化で北極圏、南極圏の氷が大きく溶けて海面上昇が起こると、その影響をまず受けることになります。
温室効果ガスを排出している大国のしわ寄せを受けるのはこうした国々です。自分たちの国力だけで対策を取ることができない国々に対し、国際協力として、そして排出をしてきた大国の責務、責任として、気候変動対策への資金的な援助、それが必要とされています」
BTS、国連総会でスピーチ!
※今回、国連総会で「SDGモーメント」という会合がありました。根本さん、これはどんな会合だったんですか?
「SDGモーメントは国連総会のハイレベル・ウィークの期間中に、SDGsの推進の気運を高めようということで、SDGsに特化した会合です。
今年は韓国の人気アイドルグループのBTSが、若者代表としてスピーチをしました。
若い人たちが、新型コロナウイルス感染症の影響を非常に深刻に受けていると。学校に行きたくても行けない。健康な生活が送れない。メンタルへのダメージも受けてしまう。様々な打撃を受けているわけなんですけれども、決して若者たちは”ロスト・ジェネレーション”ではない。未来を切り開く可能性を持った”ウェルカム・ジェネレーション”なんだと。そういった若い人たちに向けた前向きなメッセージを(BTSのメンバーは)スピーチで伝えてくれました。
そして彼らの大ヒット曲で『Permission to Dance』という曲がありますけれども、これを国連本部の敷地内で撮影をし、披露してくれました」
●私もBTS大好きなんですけれども、若い方々がSDGsなどに興味を持ってくれる、いいきっかけになったんじゃないかなって思ったんです。
「そうですね。#国連総会、#SDGmoment、こういった言葉が、日本でもTwitter、それからYahooのトレンドワードに入ってました。こういったことは私の知っている限りありません。日頃、国際的な課題、あるいは国連に関心を持ってくれている人たちだけではなくて、そういったことに日頃は振り向いてくれなかった人たちも、BTSがきっかけになって関心を持ってくれたというところがあります」
●国連本部で撮影された「Permission to Dance」の動画も、少なくとも私5回は見たんですけれども、スーツ姿ですごくかっこよかったです。なかなか国連本部の中を見る機会もないですし、改めて日本でもこういった方々がいらっしゃると、もっと広まるかなと思うんですけれども・・・。
「ピコ太郎さん来ましたよ」
●あ〜! そうですね!
「ピコ太郎さんは“PPAP SDGバージョン”を国連で披露しました。それからハローキティも国連とSDGsを広めるキャンペーンに協力してくれていまして、国連でお披露目のパフォーマンスをしてくれましたよ」
(*ピコ太郎さんは2017年の国連総会に登場し、話題になりましたね)
人と地球の健康はひとつ!
※今回、国連総会で「食料システムサミット」がありました。これはどんな目的で開催されたんですか?
「食料というのは生産から、加工、流通、消費、廃棄と非常に裾野の広い産業ですよね。この裾野の広い”食”をテーマにして、すべてをシステムとして捉えて、これを見直す。SDGsの2030年までの達成に拍車をかけようと、そういう目的で開かれたサミットなんですね」
●フードロスの問題も絡んできますよね?
「もちろんです。それは消費のところですね。消費ももちろん大切なんですけれども、生産、加工、流通、消費、そして廃棄と全部を見る。そして気候変動にも非常に関わっているんです。
食は生産部門だけで、世界全体の温室効果ガス排出の4分の1を占めています。そして、川上から川下の全部を見ていくと、温室効果ガス排出の3分の1を占めています。食のシステムのあり方を変えるということは、気候変動対策にもなるわけです」
●どのように変えたらいいのでしょう?
「それはやはり環境負荷の少ない生産の仕方、加工の仕方、流通の仕方に変えていく。それから途上国などでは、生産してから流通に回るまでのところで、多くの食料が無駄になっているんですね。効果的な倉庫のシステムがないとか、そういったことも関係しているんですけれども、そこを改善していくと。
先ほど私は、饑餓人口が8億人を超えたと申し上げましたけれども、実をいうと、世界人口78億人の胃袋を満たすだけの食料はあるんです。あるんですが、豊かなところにいき過ぎて、必要としているところにはいっていない。無駄もたくさんある、ということで、饑餓人口が生まれてしまっているんですね。
それから、気候変動と食料不安というのは、負の循環でつながっています。気候変動があって干ばつがある、あるいは洪水がある、あるいは水不足がある。そうすると十分な収穫がない、それが人々をさらに貧困化させる、食料が手に入らない。そして食料がなくなると、食料価格が上がる、貧しいと買えない。ということで、負のスパイラルになるんです。
それをポジティブなスパイラルに変えていかなければいけないと。そのためには人の健康、地球の健康を別々に考えるのではなく、それは”ひとつの健康”なんだと。人と地球の健康をつなげて考えて、人と地球は一蓮托生だと考えて、両方の健康を考えていくことが必要なわけですね」
自分ごととして取り組む
※根本さんは日本国内でSDGsの普及活動を行なっていらっしゃいます。今はどんなことにいちばん力を入れてるんですか?
「SDGsの認知ですけれども、おかげさまで今、平均で半分以上の人たちが何らかの形でSDGsのことを聞いたことがある、そういう段階に達しました。また、小学校、中学校の学習指導要領にSDGsが盛り込まれています。それから大学などでも教えるようになっていると。そういったことを受けて、若い世代では認知度はもう7割を超えているんです。認知拡大のレベルは過ぎたと言えます。
これからは認知拡大ではなくて、アクション! アクションを加速、そして拡大していくと。そしてSDGsの実現に効果、インパクトの大きいアクションって何なのか。やはり社会の仕組みを根底から変えることで、達成につなげていくということが、今私たちのいちばんの課題ですね」
●SDGsの17の目標達成は2030年までですよね。
「あと9年しかないです」
●そうですよね。私たち一般市民が出来ること、やるべきことはどういったことですか?
「まずは知ることですよね。こうして番組で取り上げてくださること、大変ありがたいと思っています。知ったからにはアクションを起こし、そのアクションをもっと広げていく。そして、周りの人たちにも働きかけて、広げていく。ただ、個人で積み上げても、残念ながら限りがあります。
やはり社会の仕組みを変えられるように、選挙に行きましょう。それからエネルギーとか食のあり方とか、消費、廃棄の仕方、そういった影響の大きい分野に対して、“物を言いましょう! 働きかけましょう!”ということで、どうやったらその範囲を広げていけるのかを、地域の方々と一緒に考えてもらえればと思います」
●ベイエフエムは、千葉県のメディアとしては初めて「SDGメディア・コンパクト」に加盟しました。今後、SDGsの目標達成のために、根本さんがメディアに期待されることはどんなことですか?
「メディアとして、やはりSDGsを多くの人たちに知ってもらって、自分ごととして考えてアクションを起こしてもらう。これをひとつの幹として考えていただきたいんですね。どうしたら効果、そしてインパクトの大きな運動にしていくことができるのか。旗ふり役になれるのもメディアだと私は思うんですね」
●では、最後に改めてリスナーのみなさんに伝えたいことを教えてください。
「リスナーの方々は、環境というアングルからSDGsに関心を持ってくださった方が多いのかなと思うんですけれども、SDGsというのは環境、社会、そして経済、この3つの分野を統合的に捉えて、私たちの暮らし、そして権利をぐいぐい引っ張っていってくれる、2030年までに、より持続可能で、より平等な、包摂的な社会を一緒に目指そうという、大変野心的な世界目標です。
環境の入り口で関心を持っても、それは例えば格差であったり、あるいは人の権利であったり、ジェンダー平等であったり、子どもに対する暴力の課題であったり、そういった社会的な側面、それから貧困というような経済に関する側面につながっていきます。
環境を入口に、でもそこで止まらずに社会、及び経済まで考えながらSDGsを見守って、そして自分ごととして取り組んでいただければと思います」
INFORMATION
国連広報センターのオフィシャルサイトをぜひご覧ください。
SDGsの進捗状況に関する報告書は、どなたでも見られます。トップページのお知らせ欄に「持続可能な開発目標(SDGs)報告2021」という見出しがありますよ。日本語版でイラストや図も多くあって見やすくなっていますので、ぜひ確かめてください。
◎国連広報センター:https://www.unic.or.jp
◎持続可能な開発目標(SDGs)報告2021:https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_report/
2021/10/17 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. WHAT A WONDERFUL WORLD / LOUIS ARMSTRONG
M2. I NEED TO WAKE UP / MELISSA ETHERIDGE
M3. WAITING ON THE WORLD TO CHANGE / JOHN MAYER
M4. PERMISSION TO DANCE / BTS
M5. LATELY / STEVIE WONDER
M6. I WAS HERE / BEYONCE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/10/10 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、硯(すずり)の職人、製硯師(せいけんし)の「青栁貴史(あおやぎ・たかし)」さんです。
青栁さんは1979年、台東区浅草生まれ。浅草にある書道用具専門店「宝研堂(ほうけんどう)」の四代目。20代から中国の硯の作家との交流を経て、伝統的な硯を研究。その後、中国や日本の石材を使って硯を製作、また、文化財の修復や復刻も行なっていらっしゃいます。
青栁さんが創る硯は美しく芸術的で、月の石で硯を創るなど、若手のクリエイターとして注目されています。また、書道にも造詣が深く、大学の書道学科の講師も務めていらっしゃいます。そんな青栁さんが先頃『すずりくん〜書道具のおはなし』という絵本を出されました。
きょうは、宝物といわれる書道の道具、そして硯製作にかける思いなどうかがいます。
☆写真協力:青栁貴史
日本の石は寡黙!?
※2年ほど前に浅草の工房にお邪魔してお話をうかがったことがありますが、硯になる石って、どんな石がいいのか、興味ありますよね。まずは青栁さんに、改めて、硯に向いている石についてお話しいただきました。
「硯に向いている石、これはもう硯が何たるかっていうところから始まりますけれど、墨がよく擦れる石が硯に向いているんですね。この石は日本と中国ではもう採れているところが分かっているんです。毛筆文化圏では、この辺りは硯に向いている石が出るよって分かっている、そういった場所から採石しているんですね。
主に”堆積粘砂岩”(たいせきねんさがん)だったり、”粘板岩”(ねんばんがん)とか、そういったものが硯に向いている石になるわけですけれど、その中からひび割れが少なくてキメの細かい石を私たちは探してくるんですね」
●ちなみに日本だと、どの辺りになるんですか?
「日本では、有名なところだと宮城県の雄勝町(おがつちょう)の”玄昌石(げんしょうせき)“ですね。あとは山梨県に南巨摩郡(みなみこまぐん)っていうところがあるんですけれど、その辺りから採れている“雨畑真石(あまはたしんせき)”っていう石ですね。あと山口県に赤い石があるんですけれど、この”赤間石(あかまいし)“も非常に硯に向いている石ですね。この3種類は有名ですよね」
●本場は中国っていうことになるんですよね?
「そうですね。日本より中国のほうが大陸が大きいですから、採れる石材の種類も多いので、硬い、柔らかい、細かい、荒い、色んな模様が出るとか、すごく様々な表情の石が中国には眠っているんですね。日本の石は基本的には寡黙なものが多くて、静々と黒い、静々と赤い、そういう石ですね」
●中国の石となると具体的にどんな石になるんですか?
「中国の石は、みなさんがご存知なところだと大理石も硯の石に使われるんですね。あとは北方のほうから採れる石で、舐めるとしょっぱい石なんかもあるんですけれど、こういう石も硯として使われていたり・・・。
あとは”紅糸石(こうしせき)”っていう、これも中国の北方の石ですけれど、珍しい石で、紅い糸が走っているような模様から紅糸石っていうんですね。日本人にとっていちばん馴染みがあるのはコンビーフかもしれないですね(笑)。コンビーフを敷き詰めたような模様が出るような石とか、色んな石が中国では出ているんですね」
墨を擦ることを知らない子供たち
※青栁さんが先頃出された絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』。ストーリーはもちろん青栁さんなんですが、絵は青栁さんがその作品を見て、惚れ込み、毛筆の手紙でラブコールを送って実現した、京都在住のお坊さんであり、イラストレーターの中川学(なかがわ・がく)さんが担当されています。
「硯」や「筆」などの書道の道具が擬人化され、平安時代の衣装を身にまとい、登場しているんですが、絵が可愛いくて、色使いが和風な感じでとても素敵なんです。実は、語り部として青栁さんも登場しています。
ところで、なぜこの絵本を出そうと思われたのか、お話しいただきました。
「本のことは3年半前から考えていたんです。僕が様々なメディアで硯の話とかをする時に、やはり毛筆文化では、毛筆は人の生活に密着していると必ずお話をするんです。
非常に考えさせられる出来事が小学生との間では多くて、小学校に硯の授業をしに来てくださいという特別授業のご依頼をいただいた時に、小学校に行ってみて、まずお兄さんは何を作っている人か分かりますか? って話をしてみるわけですね。
そして硯職人だよって話をした時に、硯っていう漢字を書いてみても、もちろん子供たちは分からないんですね。“しじみ?”とか言われますね(笑)。硯は書道の時に、習字の時に、字を書く時に使うでしょって話をすると、今の子供たちは硯は溶けるものだと思っている子が多いんですね。
墨汁を普段使っているじゃないですか。今の子供たちは墨を擦ることがスタンダードではないんです。僕たち子供の頃は擦ったと思うんですよ。今の子供たちはほとんどの子が墨液ですね。擦る固形木の墨は、(書道)セットの中に入っているんですけど、ほとんどの子が使っていないんですね。授業では墨汁を開けて、それをかき混ぜる棒になっているんですね。
プラスチックの硯、かき混ぜる墨という棒、墨汁っていう、本来の使いかたと違う方法で覚えてしまっている子供たちも多かったんですね。これは大人になってから違うんだよとお話をするんじゃないなと思って、僕、全国の小学校に教えに行きたいな、授業しに行きたいなっていう気持ちがその時ものすごく芽生えたんです。
(全国の小学校に行くのは)もう現実的じゃないですね。難しいですね。なので本をお作りして、学校で45分の授業で1回この絵本を読んでいただければと。
みんなが使っている今の書道セット、大筆が入って小筆が入って、プラスチックの硯が入って、そしてみんなが使っている硯のセットっていうものは、プラスチックの硯だけれど、元々はこういうもので出来ていて、こういう歴史があるんだよっていうことを知った上で、今のものを使ってもらい、今の道具は現代の硯セットなんだ、今私たちが使っているのは現代の便利な道具なんだっていうのを知って欲しかったんですね。
プラスチックの硯がダメって言っているわけではなくて、時代に合わせた道具、時代に求められた便利さを子供たちに知ってもらいたいっていう、自分の頭で考えられるそういうものになってほしいなって思っていますね」
書道具は宝〜文房四宝
※青栁さんの絵本には、紙、筆、墨、そして硯が、文房具の文房に、四つの宝と書いて「文房四宝(ぶんぼうしほう)」として登場しています。
文房具の中でも宝物される書道具は、考えてみれば全部、自然由来のものなんですよね?
「そうですね。全部自然から出来ているって、意外と知らないかたが多いんじゃないかなと思うんです。この本を見ていただくことで、硯(の石材)は山から出てくるんだな。筆はイタチとかウマとかヤギとか、そういった毛を束ねて作られているんだな。紙も山に自生している植物を使って、人が1枚1枚すいて作っているんだな。墨なんかも植物ですね。そういったことを伝えることも大事でしたね。
”文房四宝”っていうちょっと難しい言葉を使いましたけれど、元々、筆、墨、硯、紙、この4つをまとめて、我々の毛筆文化圏では文房四宝って呼んだんだよっていうことを、言葉を覚えてもらおうと思って、ちょっと難しいですけど使ったんですね」
●すごく勉強になりました! 改めてそれぞれ解説していただきたいんですけれども、まず紙から教えていただけますか?
「紙も面白いですよ〜。僕、実は10年以上前ですけれど、中国に長期滞在して紙の研究をしていたんです。硯を作っている人ですけれど、実は紙のコーディネートをずっとしていまして、色んな紙を作っていたんですね。中国の紙を主に作っていましたけれど、紙に関しては論文も書いたことがあるんですね(笑)。
そんな紙、僕が夢中になった紙、これどういったものなのかっていうと、石で出来た硯が出来上がる前から、紙はあったとされているんですね。今漫画で有名な『キングダム』、その中に登場している蒙恬将軍(もうてんしょうぐん)っていますけれど、彼が筆を作った人っていう風には言われているんです。史実とちょっと異なるところがありそうですけれど、その辺りから紙が開発され始めていたということが分かっているんですね。
2000年以上前にはなっていますけれど、実際に現存している紙なども1000年とか2000年、普通にもつ素材なんですね。紙は中国と日本ですきかたがちょっと違うところもあるんです。原料も違いますね。
主には日本だと“雁皮(がんぴ)”とか、お札の原料の“みつまた”とか、ちょっと郊外に行ってみると“楮(こうぞ)”なんかもありますね。あとは竹、ほかには木材パルプなんかも使いますね。カナダから輸入されている木材を溶かしたものですね。
そういったものを混ぜて、工程を話してしまうとめちゃめちゃ長いんで、そこは絵本を読んでいただく形になりますけれど、植物を紙の原料にするんですね」
●ひとくちに和紙といっても色んな種類がありますね。
「そうですね。民芸紙などもあれば、あとは書道用紙、あと障子紙みたいなものもありますし、様々ですね」
●国内だと和紙の生産地はどの辺りになるんですか?
「有名なものは甲州(こうしゅう)と因州(いんしゅう)、山梨、鳥取ですね。あとは四国なんかも有名ですね。それぞれに特徴がありますけれど、白さが際立っているとか、柔らかいとか、にじみがあるとか、それぞれの産地が特徴を持っているので、(和紙を)使われるかた、書道の先生だったり、水墨画のかた、絵手紙のかた、お手紙を書くかた、色んな人がいますけれど、あそこの産地の紙がいいんだよ〜っていう風に自分で選んでお使いいただけるわけですね」
墨の原料は自然だらけ!?
※絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』に文房具の4つの宝「文房四宝(ぶんぼうしほう)」として登場する紙、筆、墨、そして硯、その4つが全部、自然由来のものということで解説していただいています。
ちなみに筆は、小筆はイタチやタヌキ、シカなどの毛、大筆はウマ、ヤギなどの毛を使って作るそうです。青栁さんは知り合いの筆職人さんに頼んで、毛を揃える作業をやらせてもらったそうですが、まったくうまくいかず、筆職人さんの技に改めて感心したとおっしゃっていました。
続いて、あの黒くて長方形の「墨」について解説していただきました。
「墨は主に今、奈良と三重の鈴鹿で作られているものがほとんどというか、それで全部だと思うんです。日本では(原料は)主には植物です。たとえば、菜種、ごま、椿。ほかにも重油なんかもありますけれど、タイヤの原料になっているものですね。真っ黒を求めた時に使われる煤(すす)は、そういった重油などですね。
昔の話をちょっとしちゃうと、面白い話があって、江戸時代はどんな墨だったのっていう話なんですけど、時代劇を観ていると、お侍さんが夜、和とじの本を読んでいるシーンありますよね。あの時に灯りを炊いていますね。あれが”菜種の油”だったらしいんですね」
●へぇ〜〜!
「菜種の油を炊いて、その時に出た煤を集めて作ったっていう話もあるんですね。なので、江戸時代の墨は、菜種の油を燃やして出た煤を集めて、そこに動物のタンパク質、要するに骨とか皮を煮て出来たコラーゲンです。それを混ぜて、それだけだと臭いものになってしまうので、墨って擦るといい香りするじゃないですか。そこで竜脳(りゅうのう)とか麝香(じゃこう)、麝香というとムスクですね。そういった香りを中に入れて練ることで、いい香りの墨が出来るわけですね。
植物の油、あとは動物の骨や皮、そして竜脳だったら植物の木ですけれど、麝香だったら動物のものなので、本当に(墨は)もう自然だらけで出来ているものですね」
「硯」は王様!
※絵本に登場する「文房四宝」の中で、王様と表現されている「硯」について。硯が王様と言われるのは、どうしてなんですか?
「これは、僕がひいきして付けたわけじゃないですよ(笑)、先に言っておきますけど。これは僕が生まれる前から言われていたことです。なんで王様って呼ばれ始めたの? っていう話なんですけど、ここから、王様になりましたっていう記述はないんです。なんとなくそう言われていったっていうのが答えなんですね。
じゃあどうしてなんだろう? っていうのを我々も含め、文房四宝全般を研究した人や、携わった人はそこを考えるんですね。その結果、今、行きついている説がありまして、この文房四宝の中で唯一、消耗しないもの、なんですね」
●ほ〜〜! 消耗しない。
「ほかは消耗品、使って朽ちていくものですね。なくなっていくもの、形を変えていくもの。硯だけは形を変えずに手元に残り続けるものなんです。そういう理由があることを踏まえて、過去を振り返ってみるんです。
そうすると、例えば、時の中国の皇帝なんかもそうですけれど、書斎が自分の象徴のようなものに使われていたんですね。私はこういう書斎に囲まれて生活している、私はこういったものを愛でていると。中国の歴代皇帝たちは、そういった文房を作ってきたわけなんです。そこの中心地に置いたものが硯なんです」
●へぇ〜〜!
「硯を中心に、ほかの調度品をどうしようかって考えたわけなんです。そういった記述があることから、中国では硯が文房四宝の王様的な位置づけにあったとされています。実際のところ、皇帝たちが使っていた硯は色々な美術館に入っていますけれど、一時オークションなどで、本当に何千万以上の値段が付いて流通したことがあったんですね」
地球最古の石「アカスタ片麻岩」!
※では最後に、今後この石で硯を創ってみたいというものはありますか?
「それも一択しかなくて、地球最古の石ですね」
●地球最古!?
「はい。これはカナダの北東、北側から出ているものなんですけど、”アカスタ片麻岩”(へんまがん)」と言います。地球がまだドロドロしていて、色んなものがぶつかって固まっては溶けて、固まっては溶けてを繰り返していた時期がありますね。その間が6億年あるんですね」
●6億年!
「6億年の間、そういった時期があって、ようやくひとつの岩盤が出来たんです。それがアカスタ片麻岩っていう40億年前の石。この石が今の地球の表面を突き破ってオーロラの下に出ている場所があるんですね。
実はこの石に関して僕、どんな石か分かっていて・・・国立極地研究所でその石を触らせてもらったことがあるんですけど、大きさとして、シーズーくらいの大きさです。マルチーズとか、5歳くらいのシーズーくらい(笑)」
●子犬とか、赤ちゃんのような!(笑)
「そうですね。10何キロありましたけれど、実際に抱っこさせてもらって、この重み、この質量感・・・実際に自分でその場所に行って、地球の中に手を差し込んで、その産声を聴きたいと思いましたね」
●そのアカスタ片麻岩はどんな色なんですか?
「これ複雑な色なんですよ、一言で何色って言えないような色で。僕がアカスタ片麻岩を抱っこさせていただいた時から、もう1年以上経ちますけれど、今、覚えている色はピンクですね。ピンクを帯びた青と灰色が混ざったような色ですね」
●へぇ〜〜!
「あちらこちらにピンクが点在していて、素石としては青、灰色、そういったものが中心になっていて。ただ、この石は硯には向かないです」
●あ、そうなんですか!?
「固すぎると思います。でもね、向く、向かないじゃないですね。僕たちが硯を創る時に、様々な石で硯を創ります。中国の石、日本の石、色んな石を使って創ってはいますけれど、”母なる石”はその石ですね。
いちばん最初に地球を作った石、地球の石のルーツがそこにありますね。やはり、2000年以上、我々の生活を支えてきてくれた、最古の筆記用具を創っている者として、そのルーツのいちばん最初の部分に触れてみたいんですね。だからコロナが少し落ち着いたら行って来ます!」
●楽しみです! またお話を聞かせてくださいね! では最後に、この絵本『すずりくん〜書道具のおはなし』を手にする子供たちに伝えたいことを改めて教えてください。
「そうですね。一言でまとめてしまうと・・・今はやはり文字に心を込めることが非常に少なくなっていますね。字を書くことが少なくなっています。入力するってことが多くなってしまっていますね。
この絵本を読んでいただいて、僕たちが”書く”っていうことは、こんなに昔から大事にされてきていて、色んなものが伝わるんだなって、本当はとっても便利な道具なんだなって、しかも愛せる道具なんだなっていうことに、触れてもらえるきっかけになるような本であってもらいたいなと思いますね。ぜひ読んでみてください」
INFORMATION
『すずりくん〜書道具のおはなし』
文房具の四つの宝といわれる紙、筆、墨、そして硯のルーツや歴史が分かります。擬人化された道具の絵が可愛いくて、和風な色使いが素敵です。青栁さんの書道具や毛筆文化に対する思いに溢れた絵本を、ぜひお子さんに読み聞かせてください。
「あかね書房」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧くださいね。
◎あかね書房HP:https://www.akaneshobo.co.jp/search/info.php?isbn=9784251099457
書道用具専門店「宝研堂」
青栁さんの書道用具専門店のサイトもぜひ見てください。コロナ禍のため、個展の開催が難しくなったということで、サイト上に「在宅美術館」を開設し、これまでに製作した代表作が掲載されています。
硯という字は「石」を「見る」と書きますが、青栁さんは製作するときに、とにかく「石の表情」にこだわって硯を創っているとおっしゃっていました。作品の精密な写真から、その表情を感じ取ることができます。何時間でも見ていられる、そんな魅力に溢れています。ぜひサイト内にある「在宅美術館」もご覧ください。
◎宝研堂HP:http://houkendo.co.jp
◎在宅美術館:https://home-museum.net
2021/10/10 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. FEEL THAT YOU’RE FEELIN’ / MAZE FEAT. FRANKIE BEVERLY
M2. STONED LOVE / DIANA ROSS & THE SUPREMES
M3. FOR THE SAKE OF THE CHILDREN / NA LEO PILIMEHANA
M4. Wasted Nights / ONE OK ROCK
M5. I JUST CAN’T STOP LOVING YOU / MICHAEL JACKSON
M6. TIME IS ON MY SIDE / THE ROLLING STONES
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2021/10/3 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第5弾! 今回は「サステナブル ・ディベロップメント・ゴールズ」=「持続可能な開発目標」の17のゴール中から、ゴール15の「陸の豊かさも守ろう」ということで「生物多様性」について考えていきたいと思います。
ゲストは、いま大人気のいきものコレクションアプリ「バイオーム」の開発責任者「藤木庄五郎(ふじき・しょうごろう)」さんです。
藤木さんは1988年生まれ、大阪府出身。京都大学大学院を経て、2017年5月に大学院の仲間と株式会社バイオームを創業し、CEOに就任されています。在学中にボルネオ島で長期にわたり、キャンプ生活をしながら、熱帯雨林の、特に樹木を調べ、その調査結果をもとに、人工衛星の画像解析などをもちい、多様性を可視化する技術を開発されています。
人工知能AIが生き物の名前を判定してくれる「バイオーム」は、生き物好きなユーザーだけでなく、企業や自治体も注目しています。
きょうは藤木さんに「バイオーム」が持つ機能と、その可能性、そして制作の原点となったボルネオ島での体験についてうかがいます。
☆写真協力:株式会社バイオーム
ワクワクを伝えたい!
※それではまず、藤木さんに「バイオーム」の基礎知識として、どんなアプリなのか、お話しいただきました。
「生き物の名前を判定できるっていうのは、面白い機能かなと思うんですけど、生き物の写真を撮って、それをAIが判定してくれて、どんな生き物なのか名前が分かる機能があるんです。それだけじゃなくって、見つけて写真を撮った生き物をどんどん図鑑に登録していく、コレクションしていくことができるっていうような、そういうアプリになっています。
その際にどんどん投稿してもらうと、レベルが上がったりとか、ポイントが貰えてバッチが貰えるとか、ゲーム感覚で生き物を楽しみながら見つける、そういう体験を生み出したいっていう思いで作っています」
●確かに、私も使わせていただいたんですけれども、次のレベルまで何ポイントとか出ると、どんどん投稿したくなるような・・・ワクワクしますね!
「そうですね。そのワクワクを伝えたいなと。生き物好きな人って、こういうアプリがなくてもワクワクしながら、生き物を探して見つけることをやっているんですけど、それをみんなにも伝えていきたいなっていうことを考えています」
●ほかの人が投稿した写真も見ることができますよね。
「そうですね。みんなで共有していって、生物多様性、生き物の豊かさの情報をみんなで集めていこうっていうのが裏コンセプトになっています。そういう形でみんなの情報が、地図上や図鑑で見られたり、色んな形で見られるように工夫しています」
●綺麗なお花とか綺麗な蝶々とか、この生き物はこういう名前なんだ!とか、ほかの人の投稿を見て学ぶこともできるっていうのは面白いなと感じました。
「僕も(バイオームを)使っていると、何だこれ!? みたいなものが、いっぱい投稿されていてめちゃくちゃ面白いですね(笑)」
●ユーザーのかたがたが投稿した写真などのデータが、将来的には膨大な生物のデータベースになっていくっていうことなんですか?
「はい、おっしゃる通りです。このアプリでは写真を登録する時に位置情報を使ってまして、どこにどんな生き物がいるのかっていう基礎的な生物の情報を、どんどんみんなで集めていくっていうところで、そういうデータベースを作るのがひとつの目的になっています」
●いまユーザー数ってどのくらいいらっしゃるんですか?
「 ユーザー数でいうと、いま32万人ぐらいのかたが使ってくださっています」
●ということは、どんどんデータベースも増えていきますよね。
「そうですね。人数がとにかくいっぱいいるので、もう既に(バイオームを)リリースしてから2年ちょっとくらいですけど、200万個体ぐらいの登録はされている状況です」
●本当にゲーム的要素もたくさんあって、すごく楽しみながらできるなって感じるんですけれども、やはりゲーム的要素を取り入れようというのは心掛けているところなんですか?
「生物多様性のデータベースを作るぞって言って、それに賛同してくれてやってくれるかたって、もちろんいっぱいいると思うんですけど、そうじゃなくって、別にそこは興味ないけど楽しいからやるんだって言ってくれるような、そういう参加の仕方っていうのもあるんじゃないかなと思っています。楽しいからやってくれるようなアプリを目指すためにも、ゲーム要素、ゲーミフィケーションみたいなものが必要なんじゃないかっていうことは考えて作りました」
※バイオームの制作にあたっては、当初は創業メンバーだけで生物の情報を独学で打ち込んでいたそうですが、自分たちだけでは限界があると思い、大学の先生や研究機関に協力してもらい、作っていったそうです。
原点はボルネオ島!?
※藤木さんは京都大学在学中に、およそ2年半にわたって東南アジアのボルネオ島で植物の調査を行ない、それが「バイオーム」の開発につながったということなんですが、いったいなぜ、ボルネオ島だったのでしょうか。
「僕自身、元々そういう生態系とか生物多様性を保全していくことにめちゃくちゃ興味がありました。というか“やらなきゃヤバイな”っていう思いがありましたので、そういうことができる研究室で、そういう研究をしたいなっていう思いで大学に入ったんです。
その中で色々調べていくと、生物多様性がまだ残っていて、それがすごく急速に失われている場所が、ボルネオ島がトップ級に、世界でも有数の環境破壊の最前線みたいな場所だということを聞いて、是非とも行ってみたいということで、志願して行かせてもらった経緯があります」
●具体的に現地ではどんな研究調査をされていたんですか?
「すごく過酷な調査ではあったんですけど、リュックを背負ってキャンプをしながら毎日歩き続けて、熱帯雨林のジャングルの中の特に樹木ですね。木を1本1本調べて、どんな木が生えているのかを調査して、転々と色んな場所に移動することをずっと繰り返していました」
●過酷ですね!
「そうですね(笑)。すごく大変でしたね」
●アウトドアスキルも問われそうな感じですね。でも1本1本、樹木を調べるのはすごく時間もかかるようなことなんじゃないですか? 地道かつ過酷というイメージですけれども。
「はい、おっしゃる通りだと思います(笑)。ものすごく時間もかかりますし、なので2年半、向こうにいたんですね。本当に過酷で大変なので、現地のかたを雇って手伝ってもらってやっていたんです。最初は10人ぐらい雇って行くんですけど、過酷過ぎてみんな途中で逃げ出しちゃって、最後は半分以下になって、4人くらいで作業をやったりして大変でした(笑)」
●そんな過酷な日々の中で何が楽しみでした?
「どうですかね・・・あんまり楽しめていなかったんですけど、現地のかたの入れてくれるコーヒーがめちゃくちゃ楽しみでしたね。毎朝入れてくれるんですけど、あれだけが楽しみで(笑)」
●そんな過酷な中、大変な思いをしながら取った調査データは、どんな研究成果に結びつくんですか?
「僕の場合は樹木を通して、その森林の生物多様性を数字で評価することをテーマで研究しておりました。現地で集めた現場データみたいなものと、衛星から撮影された広い面積の森林画像データを組み合わせて、点で集めたデータをすごく広いエリアに面的に評価し直すことで、例えば、東京都1個分ぐらいの非常に広いエリアの森林の状態を、一斉に一気に調査というか観測する技術を開発して、生物多様性の状況をかなり広いエリアで知ることができるようになったっていうような、そういう成果を出すことができました」
スマホを生物の観測拠点に
※ボルネオ島での調査で生物多様性について、一定の成果を出すことができた藤木さんなんですが、そのまま研究者の道に進まず、アプリを作る会社を起業したのは、どうしてなんでしょうか。
「色んな理由があるんですけど、ひとつは生物多様性を守るっていうことをやろうと思った時に、どうやったら守れるのかなって、すごくずっと考えていたんですけど、やっぱり突き詰めていくと結局、経済の問題、お金の問題がやっぱり原因っていうかドライバーになっているんじゃないかなっていうことを感じるようになって、生物を守るっていうことは経済と切り離せないなっていう、そういう感触を強く持ちました。
こういう研究活動ももちろん大事なんですけど、そうじゃなくって、ちゃんと会社として経済の中で生物多様性を保全するっていう活動をしないと、この問題って解決に向かっていかないんじゃないかっていうことを考えるようになったんです。なので、研究をやめて、会社としてこの活動を継続していこうと決めたという経緯があります」
●確かに昔からエコロジーとエコノミーはどちらかを優先すれば、どちらかがダメになるって言われてきましたよね。でも藤木さんがやろうとしている生物多様性の保全と経済活動の両立っていうのは上手くいくものなんですか?
「上手くいかないと、どうにもならないのが環境問題だと思うので、なんとか達成したいなって思ってずっとやっています。最近は社会の流れもだいぶよくなってきたなっていうのを感じていまして、企業さんは環境保全に力を入れることが、最近は普通になってきたので、だいぶ状況はよくなってきたなという風には感じています」
●藤木さんが起業するにあたって、どうしてアプリだったんですか?
「僕自身ボルネオ島で、ずっと現場で自分の足を使って調査していたんですけど、自分だけで集められる現地のデータって本当に限りがあって、限界があるなっていうのを2年半続けて分かったっていうのがあります。なので、上手く現地のデータを収集していく、観測していく仕組みを作らないといけないなっていうことを考えるようになったんです。
その時に世界各地にちゃんと散らばっていて、使える電子媒体が絶対いるなっていうことを考えるようになったんですけど、それを考えている時に、ボルネオ島のジャングルの奥地の、現地住民のかたがたって、みんなスマホは持っているんですよね。
テレビもないし冷蔵庫もないし、電化製品とかほとんどないんですけど、スマホだけは持っていて、それをみんな楽しみながらSNSとかやって使っているんです。それを見て、スマホがさっき言っていた世界中に散らばっている電子媒体として、めちゃくちゃ有用なんじゃないかなっていうことを考えるようになりました。
このスマホを通して生物を観察する、スマホを生物の観測拠点にすることができるんじゃないかなっていうことを現地で考えるようになりまして、スマホを使うことで、アプリを作って、そこからデータを登録してもらえるような仕組みを作れば、世界中の生物のデータを集められるんじゃないかなと考えるようになったっていうのが、元々のきっかけになります」
アプリというよりプラットフォーム
※実はアプリ「バイオーム」は無料で利用できるんです。ではいったい、株式会社バイオームとして、会社を維持するためにどうやって収益をあげているんでしょうか。
「うちのアプリはおっしゃる通り完全に無料で、課金もなくて広告もつかないというなんか不思議なアプリなんです。アプリの中で色んなイベントを開催したりとかしていて、うちのアプリでは“クエスト”と呼んだりしているんですけど、ユーザーさんにミッションを出します。例えば、外来生物の”ヌートリア”っていうねずみの仲間がいるんですけど、ヌートリアを探してみよう、みたいなミッションを出して、ユーザーさんがそれに参加して、ヌートリアのデータが集まるみたいな仕組みを作っています。
その仕組みを色んな企業さんとか省庁さんとか、自治体さんみたいな行政さんに、実際に使っていただき、そこで費用をいただくっていう構図を作っています。なので、企業とか行政というところから費用をいただいて、運営できているのがこのアプリの特徴になりますね」
●どういった企業に、そういうデータを使ってもらうというか、必要になっていくのですか?
「本当に色々ありますね。例えば教育のことをされているような企業さんは、教育のためのイベントをしたいので、アプリを使いたいという話があったりしました。
ちょっと変わったところでいうと、鉄道会社さんが自分たちの管理している鉄道の沿線の、駅周辺の生物の状態を知って、この駅は生き物が豊かですごくいい場所だ、みたいなことをちゃんと知っておきたいという話があって、鉄道会社さんからご依頼を受けて、生物の観測イベントをやったりっていうような、色んなパターンがありますね」
●膨大なデータベースってそういうところにも役に立つんですね。
「そうですね。企業さんが何らかの保全の取り組みをしていくにあたって、使っていただけるようにっていうのはかなり意識していますね」
●本当に、アプリというよりプラットフォームという感じですよね。
「おっしゃる通り、そこを目指しています。市民のかたも使えるし、企業のかたも参加できて、行政のかたも入れる、そういうプラットフォームになって、“産・官・学・民”みんなで連携して、生物のデータを集めて保全していこうっていうのが目標になっています」
●先日まで行なわれていた環境省とのコラボ「気候変動いきもの大調査」、これもすごく反響があったんじゃないですか?
「そうですね。ものすごく反響がございまして、参加者も1万人以上、既に参加してもらっていますし、データもすごくいっぱい集まっています。先月まで”夏編”というのをやっていたんですけど、その前の年には”冬編”を実はやっていたんです。
そこで集まったデータは既に解析も済んでいて、温暖化の影響を受けて、色んな生物が北に移動しているっていうことが、その結果からだいぶ分かってきました。かなり意義のあるデータが集まって、いい結果が出ているというのが、いいというのは微妙かもしれないですけど、温暖化の影響が生物に表れているという結果が、明確に出てきているという状況になっています」
海外版バイオーム
※生物の多様性を守るためには、地球規模での展開が必要だと思うんですけど、「バイオーム」の海外版は考えていないんですか?
「海外に関しては、もうアプリを作り始めた時から、海外に行くぞー! ということで考えています。なので、開発を少しずつですけど進めているという状況で、近いうちに”バイオーム世界編”みたいな形で、世界で使えるようなアプリにしていきたいなと思っています」
●それこそ、世界中のデータが集まったらすごいことになりますね!
「そうですね。特にやっぱり僕が行っていたボルネオ島みたいな、そういう環境破壊の最前線みたいな場所で、ちゃんとデータを集める仕組みを作らないといけないと思うので、熱帯とか、そういうところを中心にデータを集められると、ものすごく役に立つデータになるだろうなと思っています」
●具体的に、世界のデータをこういう風に使いたいっていうのはあるんですか?
「そうですね。さっき出たような熱帯林の破壊の現状みたいなことですね。そこが実際どれくらい生物がいなくなっているのか、研究者の間でもよくわかっていない状況なので、そこをまずははっきりデータとして出していけるというような状態を作りたいなと思っています。
あとは結局、熱帯林とか自然環境を破壊しているのが、その国の現地の人じゃなくて、先進国の大企業だったりすることって多いと思うので、そういう企業さんに、ちゃんとそういうデータを開示するように、(こちら側から)データを出していくみたいなことをして、ちゃんと産業の中で、そういうデータが活用されるような仕組みに繋げていきたいなと思っています」
●今後100年で地球に生息する生物の半分が絶滅するとも言われていますけれども、改めてバイオームというアプリで、どんなことを伝えていきたいですか?
「伝えたいというか、狙い自体は大きくふたつあると思っています。ひとつは、ユーザーのかた、使っていただいているかたに、生き物が豊かだっていうことはとっても楽しくて、自分の人生を豊かにしてくれるようなものだっていうことを肌で感じてほしいなと。そのためにアプリを使って、自分の周りにどんな生き物がいて、その生き物たちがどんなに面白いのかっていうことを、アプリを通して知ってほしいっていうのがひとつになります。
もうひとつは、このアプリを通してユーザーさんが登録してくれた生物のデータを使って、すごく大量のビッグデータになると思うんですけど、そのデータを企業さん行政さん、あるいは市民団体さんとか大学さんみたいなところに、ちゃんと保全活動に使っていただけるように、データをどんどん提供していくことに繋げていくという、そのふたつを達成していきたいなと思っています」
INFORMATION
藤木さんたちが開発した「バイオーム」は生き物の写真を撮って投稿するだけ。
でもすぐになんという生き物か答えを教えるのではなく、ユーザーに考えさせるのがいいですね。そして投稿した生き物が珍しいとポイントが多くもらえるため、ゲーム感覚でどんどん投稿したくなりますよ。
また、生き物に関するコラムもよく考えられています。
このコラムは「まねて学ぶ」をコンセプトに作られ、生き物に興味をもってもらい、保全につながるアクションにつなげるのが狙いだそうです。
随所に工夫がちりばめられた優れたアプリ「バイオーム」をぜひ試してみてください。
詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎株式会社バイオーム :https://biome.co.jp/
◎いきものコレクションアプリ「バイオーム」:https://biome.co.jp/app-biome/