2021/10/31 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、イラストレーターでブッシュクラフターの「スズキサトル」さんです。
スズキさんは1973年、山形県生まれ。京都造形芸術大学を卒業。絵本制作とブッシュクラフトワークの活動をするために、東京から長野県・松本に移住。現在はイラストの制作ほか、ブッシュクラフトや野営のアドバイザーとしてワークショップを行なうなど幅広く活動中。絵本などの著作も多く、新刊としては先頃『森のブッシュクラフト図鑑』の新装改訂版を出されています。
この本は、野外でナイフなどの道具を使って必要なものを作る、その技術や知恵をイラストや写真でわかりやすく解説していて、とても好評なんです。
きょうはそんなスズキさんに究極のアウトドアスキルといわれる「ブッシュクラフト」の極意や、必要な道具についてお話しいただきます。
☆写真協力:スズキサトル
野営とキャンプ
※まず、ブッシュクラフトとは何かご説明しておきましょう。ブッシュは「やぶ」、クラフトは「工作」ですよね。でも、ふたつの言葉が合体すると、「生きる知恵」という意味合いになるそうです。
必要最小限の道具を持って、自然の中に出かけ、足りないものは自分で作ってキャンプをするなど、慣れれば、誰でも楽しくできる「自然遊び」と言っていいかも知れません。そんなブッシュクラフトは、自然の中で生きる知恵を身に付けられる、ということで、ここ数年、特にキャンプ好きに注目されています。
スズキさんは、新刊『森のブッシュクラフト図鑑』新装改訂版の第1章で、「野営とキャンプ」の違いについて書いていらっしゃいます。改めて説明していただけますか。
「キャンプは、要するにキャンプ場という場所がちゃんと提供されていて、車でそこまで行って、そこでテントを張って一夜を過ごすのがキャンプですけど、ブッシュクラフトはひとりでバックパックを背負って、その背負っている道具だけで山の中に入って、焚き火して野営して帰ってくるみたいな、そういう感じですね。
ただ、日本だとやっぱり土地の所有者の関係で、そういうことは難しいので、ある意味、ブッシュクラフト風キャンプみたいな感じだと思うんですよね。ソロキャンプに近いかもですね。みんなで大勢集まって、道具を持ち寄ってやるのも楽しいんですけど、ブッシュクラフトってひとりとか少人数で焚き火して、限られた道具で・・・だから誰でもできるんです。お金もかけようと思えば、すごくかけたりできますけど、お金をかけないようにしようと思えば、全然かけなくてもできるし、幅が広いですね」
●野営に必要な道具を自分で作るっていうのも醍醐味なんですか?
「そうです。例えば、売っている製品を使ってもいいですし、自分でナイフ1本でそれを作って代用するっていうのも、ブッシュクラフトの面白さですね」
●サバイバルに近いですよね?
「サバイバルは危機的状況、例えば自然の中で困難に陥った時にそこから脱出するのがサバイバルなんですよね。サバイバルの火起こしとか、野営する技術を使って。で、ブッシュクラフトは全く真逆で、自分から自然の中に入って、自然と共に時間を過ごして、楽しく帰ってくるアクテビティに近いかも・・・遊びに近いですよね(笑)。
そんなこと言っている僕も実はマンションに住んでいるんですね。だからずっと自然の中にいることって難しいんで、遊びっていう風に考えてもらえるといいかもですね。何がなんでもブッシュクラフトっていうんじゃなくって、例えばキャンプでブッシュクラフトの技を使ったりとか、そういう程度でいいんじゃないかなと思います」
●日常とはまた違った空間で過ごせそうですね。
「女の子も結構、最近そういうのを好きなかたがたくさんいらっしゃいますね。意外と女の子のほうが多いかもしれないですね。さばいどるの“かほなん”さんとか、あのかたがやっていることって、結構ブッシュクラフトに近いところがたくさんあるんですよね。お笑い芸人さんでいうと、ヒロシさんのキャンプもブッシュクラフトのそういう技をたくさん使っていますね。とても素晴らしいと思います」
ナイフ、ノコギリ、メタルマッチ
※ブッシュクラフトや野営に最低限、必要な道具を教えてください。
「まずナイフですね。これちょっと専門のナイフなんですけど、スカンジグラインドっていう刃が直刃になっているやつなんですけど、刃厚も4ミリくらい。これだと薪が割れるんで、このぐらいのナイフがあるといいですね、フルタング(*1)で。
あとノコギリ。僕がいつも持っていくノコギリは、枝挽ノコギリで(長さは)30センチくらい。この鞘は僕が作ったんですけど、丸太を伐ったりとかできるんで、とりあえずこのノコギリと、あとはメタルマッチ(*2)ですかね。これA&Fさんのメタルマッチなんですけども、こういうものが売られているんですね」
(*1 刃がハンドルの後ろまで貫通しているタイプ)
(*2 火を起こす道具。ロッドというマグネシウムなどの
金属の棒を、ステンレス鋼などのプレートで
削って火花を飛ばし、火を起こす)
●(メタルマッチで火花を飛ばす実演)
おお! 火が出ました!
「これでこのフェザースティックに火を付けると」
●木を細かくしておくと、すぐに着火がするっていうことなんですね。
「メタルマッチは水に濡れても使えますしね」
●カギかな? って、一瞬思ったくらい、それくらい小さいんですね。
「そうですね。特にA&Fさんのメタルマッチがいいのは、持ち手のところがオレンジになっていて、普通だいたい黒っぽいものなんですけど、それだと結構落としたりとかして外で失くすんですよね(笑)。落とした時に森の中だと落ち葉とかで隠れて、(持ち手が)黒や緑色だと見えなくなっちゃうので、このオレンジのほうがいいかもですね」
●なるほど〜!
「特に初めてのかたは失くしやすいんです。僕も何回も失くしているんで、(持ち手は)オレンジがいいと思いますね。
で、このナイフ、僕がデザインしたやつなんですけど、ちょっと高いんですね。こういうものじゃなくても、例えばモーラナイフっていうメーカーさんがすごくリーズナブルなお手頃価格のナイフを作っているんですよ。2000円くらいの、ロバストって種類なんですけども、これでもいいですね。
カスタムナイフは何万円もするんで、なかなかそれを買うのは難しいんで、こういうモーラナイフさんのロバストはおすすめですね。あとノコギリも先ほどのような長いものじゃなくて、(長さが)12センチくらいの、ホームセンターで売っているようなノコギリでも大丈夫ですね」
●折り畳みもできて、コンパクトになるんですね?
「このノコギリがいいのは、刃の背のところ、これも実はこういう・・・」
(火花を飛ばす実演)
●おお! また火花が出ました! (笑)
「これもストライカーみたいに(マグネシウムの金属棒を)削ることができるんで、こういう方法もできますね。だから道具は多ければ多いほどいいっていうものでもなくて、本当に必要なものだけ持っていくっていうのがいいのかもですね」
山で培われた日本のブッシュクラフト
※日本にはクマやシカなどの狩猟をなりわいにしている「マタギ」や、山で木を素材にお碗などを作る木地師(きじし)というかたがちが、いまは少なくなっていますがいらっしゃいます。そんなかたたちの技術や知識はブッシュクラフトに通じますよね?
「そうです、そうです! ブッシュクラフトは西洋のものなので、どうしても北欧や北米、イギリスやロシアとかのブッシュクラフトが今すごく人気で流行っているんですけど、僕たち日本人の、またはアジア人のブッシュクラフトも実はすごいんだぞ! っていうのを、僕はお知らせしたいなっていう感じなんです」
●何か大きな違いとかはありますか?
「そうですね。大きな違いはやっぱり、特に日本人は山岳民族だと思うんですよね。国土のほとんどは山、特に険しい山に囲まれて、僕が今生活している信州もそうですけど、山岳地帯が多いんですよね。だから傾斜が多い(場所で培われた)ブッシュクラフトなんですよね。
カナダやフィンランドなどの北欧は大雪原やツンドラ、あとはすごく背の高い木がたくさん生い茂っているところとか、高い山はそんなにはないんですよね。どっちかっていうと平原をスノーシューで渡って移動したりとか、犬ゾリとか、イヌイットもそうですけど、そういう文化。日本でいうと北海道に近いのかもしれないですけど、日本の場合はやっぱり山ありきなんで、山で移動するっていう、そういう野外技術が多いと思うんですよね」
羽根ペンで風景画
※スズキさんは絵をかくために山によく出かけるそうですが、山の絵を描いているときはどんな気持ちなんですか?
「山の絵は、僕は風景を描いているっていう感じじゃなくて、生き物を描いている感じですね。僕、山の絵を描く時はこの羽根ペン、これ“鳶(とび)”の羽根ですけど、この羽根ペンを使って絵を描いています」
●ハリーポッターに出てくるような(笑)
「そうそう、丸眼鏡でね!(笑)。笠かぶってね、そうハリーポッターみたいな・・・」
●へえ〜!
「やっぱり、画材も自分で作るのがブッシュクラフトなのかなと」
●いいですね!
「何かしら作るのが好きなんですね」
●山や森で野営をしていて、どんな瞬間がいちばんお好きですか?
「やっぱり自然、同じ山も何回も登りますし、毎回ちょっと自然って勉強させられることがたくさんあるっていうことですね。気付くというか気付かされるところがありますね。それが楽しいですね」
●例えば、どんなことを?
「ここにこんな虫がいたのか! とか、例えば写真で見るようなものとはまたちょっと違う、そういう面も見られるという感じですね。今はインターネットとかで検索すれば何でも知ることができるんですけど、例えば蜘蛛の裏側とか、そういうのってやっぱり見てみないと分からない。
あとキノコなんかもそうですね。実際見てみないと分からない。その状況によって違いますしね。そういうのもやっぱり自分の目で見て確かめたほうがいいというか、楽しいですよね! 」
●カメラがなかった時代は、全部絵に描いて残していたってことですよね?
「そうです! やっぱりそれは凄いなと思いますよ。昔の画家っていうか絵描きはみんなある意味アスリートというか、探検家と同じくらいのレベルだったのかなと思って、あんな画材を背負って探検家と一緒に冒険に行くって、凄いですよね!」
忘れ去られた技術にしたくない
※スズキさんの新しい本は、伝統的な道具や技術を、次の世代に伝えるという意味もあると思うんですけど、その辺は意識していらっしゃいますか?
「そうですね。やっぱり誰かがこういうのを書き残したりとかしないと・・・。僕がよく言ってるのは“ロストテクノロジー”と、もうひとつ“ロストカルチャー”。道具自体は残っていたりするんですけど、それの本当の使い方って実際にもう分からなくなってきてるんですね。日常で使うことがないんで、もう本当に博物館に飾っていたりとか、そういうレベルになっちゃうのがたくさんあるので。昔の人は当たり前にやっていた“火打石”とかもそうですね。ああいう方法なんかは、ほとんどみかんの皮を剥くみたいな感じでやっていたと思うんですよね。
今はほとんどそんなことをやる必要もないんで、もう多分忘れ去られた技術になってきちゃうのかなって。でも最近、ブッシュクラフトを通して結構できるかたが増えてきたんですよね。火打金で火起こしできるのが、それはすごくいいなと思いますね」
●人間が本来もっている本能みたいなものですよね。
「そうですね。そうするとまた今度、鍛冶屋さんで火打金を作ってみようかなっていうかたも現れてきますし、またそれで、ひとつの産業が増えるので、いいかなと思いますね」
●この本『森のブッシュクラフト図鑑』を通して、いちばん伝えたいことはどんなことですか?
「そんなに難しいことじゃないですね。みなさん、是非一度ブッシュクラフトをちょっとやってみよう! みたいな・・・まさに全然知らない、やったことない人がやってみるっていうのが僕、すごくいいことだと思うんですよね。
できる、できないは別にして、知るっていうのがすごく最初に必要かなと。こういうものがあるんだよっていうのをちょっと知ってもらいたいなと。分かりやすく、できれば絵でみなさんにお伝えできればいいなっていう意味で、今回また描いてみました。
ただ、前回の『森の生活図集』で載っていたものが、マニアック過ぎた部分がたくさんあって、それで今回、改訂版で普通のかたたちがキャンプでも使えるようなものに、別のクラフトにちょっと差し替えました。
だから例えば、タヌキの“尻皮(しりかわ)”っていうのがあるんですけど、猟師さんが腰に巻いているものとか、そういうのを知りたい人は、『森の生活図集』を是非購入していただいて、キャンプで椅子とかスプーンとか作ってみたいなというかたは『森のブッシュクラフト図鑑』のほうがいいかもですね」
INFORMATION
『新装改訂版『森のブッシュクラフト図鑑〜スズキサトルのクラフトワークブック』
この新装改訂版には道具の選び方や使い方、野営と焚き火のコツなど、ブッシュクラフトの基本となるような技術と知識を、イラストと写真でわかりやすく解説。スズキさんは本の中で「最新のものが最善とは限らない。古い道具や技術を見直してみよう」と書いています。その思いが込められたブッシュクラフトの入門書ともいえる一冊です。ぜひ読んでください。笠倉出版社から絶賛発売中です。
詳しくはスズキさんのオフィシャルサイト、または出版社のサイトをご覧ください。
◎「スズキサトル」オフィシャルサイト:https://suzuki-satoru.com/
◎笠倉出版社HP:https://www.kasakura.co.jp/esp.php?_page=detail&_category=general&idItem=4648