2020/8/29 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、気象予報士の「菊池真以(きくち・まい)」さんです。
菊池さんは茨城県竜ヶ崎市出身。慶應大学在学中に民間の気象会社でお天気キャスターを務め、気象予報士の資格を取得。その後、NHKの気象キャスターとして活躍。現在はお天気関連の本の執筆、講演活動のほか、自分で撮影した空や雲の写真展を開催するなど、幅広い活動をされています。先頃出された新しい本『ときめく雲図鑑』は掲載写真のほとんどが菊池さんが撮影した写真なんです。
そんな気象予報士・菊池さんにきょうは雲のことをいろいろ教えていただきます。
☆写真協力:菊池真以、山と渓谷社
雲の名前に法則!?
※まずは雲の名前について。たくさん名前があると思っていたんですが、雲は10種類に分類されるそうですね。
「そうなんです。空に浮かんでいる雲って、よく何種類あると思う?って聞くとみんな、無限にあるんじゃないの?っていう風に言う方が多いんですけども、基本的にはほとんどの雲は10種類に分けることができるんですね。それで大きく10種類に分類された中から、さらに細分化されて何種類もあるっていうことになるんです」
●どうやって分けられているんですか?
「雲が浮かんでいる高さ、あとは形、それによって10種類に分けられています。正式名称で言うと巻雲とか巻積雲とかちょっと難しい言葉に聞こえるかもしれないんですけども」
●名前に使われる漢字によっても、雲の高さとか形を知ることができるという風に本に書かれていましたけれども。
「そうなんです。さっきいちばん初めにお伝えした正式名称のほうですね。例えば巻雲とか巻積雲、巻層雲、高積雲、乱層雲とか、そういった漢字が並んでいるのが正式名称のほうなんですけども、それに付いている漢字を見ると雲の形とか高さが分かるようになっているんですね。
小学生とか、覚えなきゃいけないな〜って学生さんにちょっとアドバイスをお伝えしますと、”乱”っていう漢字が付くと雨を降らせる雲なんですね。例えば積乱雲、積乱雲はご存知ですよね? 積乱雲にも乱が付いていて、それも雨を降らせる雲で、他には乱層雲。乱が付くので雨を降らせる雲だなっていう風に分かるんですよね。
他には”積”、積み重ねるの“積”っていう漢字なんですけども、それが積雲、俗称で言うとわた雲、丸い雲ですね。その雲ってどんどんと積み重なるようにして大きくなっていくので、積っていう漢字が付きます」
●積乱雲もそうですよね?
「積乱雲も積ですし、積雲も積、ちょっと漢字で難しい話になりましたね(笑)」
●いろいろ法則があるんですね〜。
「そうなんです! 最初に10種類全部覚えてくださいって理科の授業とかであるとすると、最初は漢字が並んでいて難しいなって思うと思うんですよ。なのでその時は漢字を見て少し法則を考えると分かりやすいかと思います。 あとは昔から呼ばれてきた俗称のほう、すじ雲とかうろこ雲とか、そういった俗称で覚えるのも1つの手かなという風に思います!」
<基本の雲10種類のまとめ>
さて、気象予報士の菊池真以さんに教えていただいた、高さや形から10種類に分類される雲をまとめると・・・大きく分けると、空の高いところにある順に「上層雲(じょうそううん)」、「中層雲(ちゅうそううん)」、「下層雲(かそううん)」の3つになります。
地上5000メートル以上の最も高いところにできる上層雲に分類されるのは、「すじ雲」とも呼ばれる巻雲(けんうん)と、「いわし雲・うろこ雲」などの巻積雲(けんせきうん)、そして空一面に薄く広がる巻層雲(けんそううん)です。
続いて、高度2000メートルから7000メートルあたりに広がる中層雲には、「ひつじ雲」と呼ばれる高積雲(こうせきうん)と、空全体が灰色っぽくなる高層雲(こうそううん)があります。
一番低い高度2000メートル以下のところにできるのは層雲(そううん)、別名「きり雲」と、丸みのあるかたまり状の層積雲(そうせきうん)、そして「雨雲・雪雲」でおなじみの乱層雲(らんそううん)です。
ここまで挙げた雲は8つ、いずれも水平に広がるタイプです。残りの2つは「対流雲(たいりゅううん)」という、もくもくとした厚みのある雲になります。「わた雲」で知られる積雲(せきうん)と「入道雲」でおなじみ積乱雲(せきらんうん)で、上へ上へと成長し、地上2000メートルから1万メートルの高さまで発達するものもあるんです。積乱雲を見るとザ・夏!という感じがしますが、冬に日本海側に大雪を降らせるのも積乱雲のしわざなんだそうです。
これからの季節は、すじ雲やいわし雲、つまり地上5000メートル以上の最も高いところにできる雲がよく見られるようになります。ぜひ菊池さんの本『ときめく雲図鑑』を参考に、観察されてみてはいかがでしょうか。
雲の基礎知識
※続いて、雲の定義について教えていただきました。
「雲って地面から少しでも離れていたら雲なんです!」
●え!? そうなんですか?
「霧と雲の違いってご存知ですか? 」
●教えてください!
「霧と雲の違いは地面から少しでも離れているかどうか」
●空に浮かんでいるとかそういったものは関係ないんですか?
「地面から少しでも離れていたら雲です。例えば霧が出ているとするじゃないですか、で、霧が地面にくっ付いていたら霧です。それが少しでも離れたら雲になります。層雲っていう、きり雲って言ったりもするんですけども」
●逆に高い雲はどれくらいの高さになるんですか?
「飛行機に乗るとよく窓から雲をご覧になることがあると思うんですけども、飛行機が飛ぶ高さ、それぐらいがいちばん高い雲、もう少し高いところかな? 飛行機が飛ぶ高さか、もう少し高いところが雲ができる限界です。
大体地上から13キロメートルくらい、季節によって雲ができる限界の高さは変わってくるんですけど。雲は、例外もあるんですけども、ほとんどが地上からおよそ13キロメートルのところ、対流圏って言うんですけど、そこの間でできるんですよ。
13キロメートルくらいがてっぺんの部分で、よく入道雲をご覧になること多いと思うんですけど、よく見ると、てっぺんが平らになっているのって見たことありませんか? “かなとこ雲”って言ったりするんですけど、入道曇ってどんどん大きくなっていきますよね。大きくなっていって限界にきたってところで、もうそれ以上上にいけないから、今度は横に広がるしかなくなるんですね。
なので上だけ横に広がって、“かなとこ”っていう昔よく大工さんが使ったものがあるそうなんです。加工する時の金属が“かなとこ”って言うそうなんですけど、その形に似ていることから、“かなとこ雲”って言うんです。なので入道雲のてっぺんが平らになっているのを見たら、あそこが雲ができる限界だ!っていう風に分かるんですよ」
●すぐに消えてしまう雲と、雨を降らす雲の違いっていうのは、どういったところにあるんですか?
「雨を降らせる雲って黒っぽくないですか? 怪しげな色をしていますよね(笑)。黒い雲ですよね。それって雲に厚みがあるからなんです。空を見ている時に雲が白く見えるのって、太陽の光が当たって、それで白く私たちに見えているんですけども、雲がどんどん厚くなってくると底のほうまで光が届かないんですよ。なので下から見ると黒っぽく見えるんです!」
●そういうことなんですね!
「はい。それで厚みのある雲っていうのは、いっぱい水分を蓄えているわけですから、そこから雨が降ることが多いってことなんですね」
●なるほど〜。改めて、雲の発生のメカニズムっていうとどうなっているんですか?(笑)
「簡単に言いますと蒸発した地上の水が・・・空って冷たいじゃないですか、山とか登ると上のほうって寒いですよね。蒸発した地上の水が空で冷やされることによって、小さな雲つぶとしてまた現れるわけですね。その小さな雲つぶがいっぱい集まって雲になっているわけなんです」
ときめき、癒され
※雲を撮影するときのアドバイスをいただきました。
「今回、図鑑なので雲だけが写っている写真っていうのも多いと思うんですけど、是非周りの景色とも一緒に撮っていただくと、その時の気持ちとかその時の雲の出ていた状況とか、そういったものも分かりやすくなるので、風景も入れてみるといいかなっていう風に思いました。
その時に水平線、地平線とかをまっすぐにするといいと思います! ちょっと曲がっているとやっぱり見栄えはよくないので、まっすぐにするとちょっと上手くみえるかなっていう風に思います」
●分かりました、やってみます!
「はい!」
●いつも雲の写真を撮りながら、ときめいてらっしゃるんですか?
「基本的には、なんかここが可愛いなとか、ここが綺麗だなっていう風に思って。多分写真を撮る時ってそうじゃないですか?」
●そうですね!
「人を撮るにしても景色を撮るにしても、多分ここが綺麗だなって思ったらシャッターを切ることが多いと思うんですけども、基本的には雲でここが可愛いなとか綺麗だなって時に写真を撮っています。それがときめきかなっていう風に思っているんですが。
雲の名前っていうのも、やっぱり形とかその雲の特徴、可愛らしい部分とか綺麗な部分とか、特徴から名前が付いているものも結構多くって、例えば二重雲とかあるんですけども、それって本当に二重に重なり合う雲のことを言っているんですね。重なっていると綺麗だなって。他にも肋骨のような雲のことを肋骨雲って言ったりもするんですよ」
●面白いネーミングですね!
「そうなんです。なので写真を撮る時、その雲がいいなってときめく瞬間と、その名前の付け方がたとえたものに似ているな〜と思う瞬間があるんです」
●空に浮かぶ雲を見ているだけでもすごく癒されますよね。
「私はもうすごく癒されて(笑)、本当に家事の合間とかでも空を見て癒されております!」
●ゲストの方もいちばん身近な自然が空だっておっしゃっていた方もいたんですけれども、本当にその通りですよね。誰もが見上げれば見ることができるというか。
「家からでも窓があれば見ることができるので、空はいつでも楽しめるのかなっていう風に思っています。私がいちばん好きなのはやっぱり夕方の時間の雲でして、時間によって結構雲の色とか表情が変わってくるので夕方の空はお勧めです」
空の変化を見逃さない
※気象衛星やコンピューターの発達によって、気象予報の精度は格段にあがりましたよね。でも、局地的で急激な変化にはなかなか追いつかないようにも思うんですが、自分や家族を守るために、何か心がけておきたいことはありますか?
「よくお伝えしているのが2つありまして、1つは自分は大丈夫だと思わないこと。どこが危険かとかどんなことが起きるのかっていうのを、想像する力っていうのがすごく大事だなっていう風に思っています。
よく災害が起きてしまったりすると、まさか!っていう風に思うじゃないですか。なのでそのまさかが減っていくといいなっていう風に私は思っています。それを減らすためには大雨が来そうだとか、大雨が来たらここにはどんな危険があるのかなとか、そういったことを想像できる力っていうのは大切になってくるかなって思っています。
もう1つはやっぱり空の変化を見逃さないことだと思いますね。昔は空とか雲の様子を見て危ないって感じることが多かったっていう風によく聞くんですけども、今は天気予報が便利に、どこでもスマートフォン1台あれば見られるので、本当に便利になったのはいいことですけど。
その反面、極端な自然現象に対して少し察知するのが難しくなってきているのかなっていうことは感じていますね。なので”ときめく雲図鑑”では雲を楽しんでもらいたいと思って作っているんですけども、一方で空からのメッセージに対して、日頃からアンテナを広げていただけるきっかけになったらいいなと思っています」
INFORMATION
菊池真以さん情報
『ときめく雲図鑑』
菊池さんが専門的な言葉をなるべく使わないように心がけて書いた本です。とにかく写真が素敵で、食べ物にたとえた表現なども面白く、ほかにも雲を楽しむための情報が満載!
山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、以下のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:
https://www.yamakei.co.jp/products/2820202460.html
菊池さんの活動についてはオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎菊池真以さんのHP:https://www.maisorairo.com
2020/8/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、世界157カ国を、およそ8年半かけて旅をした自転車冒険家「小口良平(おぐち・りょうへい)」さんです。
☆写真提供:小口良平
小口さんは1980年生まれ。長野県岡谷市出身。2007年から1年かけて、自転車で日本一周。2009年3月から2016年10月にかけて、世界157カ国を自転車旅。移動した距離はおよそ15万キロだそうです。そして先頃、世界一周の旅をまとめた本『果てまで走れ! 157カ国、自転車で地球一周 15万キロの旅』を出されました。
きょうはそんな小口さんに、世界一周の旅で出会った人々や忘れられない出来事、そして自転車の魅力などうかがいます。
3つの魔法の言葉
※世界一周の旅に出ると決意した小口さんは大学卒業後、建設会社で働きながら、一日2食の節約生活を5年近くも続け、旅の資金を貯め、そしてついに世界一周の旅に出たそうなんですが、どんなルートで世界を巡ったのでしょうか。
「日本からいきなり飛行機でオーストラリアに飛びました。で、オーストラリアのからオセアニア諸島ですね、ニュージーランドとか走りながらインドネシア、インドネシアからずっと東南アジアを上がって、インドのほうまで上がりました。そのあとシルクロードをずーっと東のほうから、アジアから中央アジアを超えて、中東を超えて、ヨーロッパを周ったあとにアフリカ。で、東アフリカを走ったあとに、今度はヨーロッパの北欧と西欧、で、西アフリカに南下しました。最後は2年ちょっとかけて北中南米大陸を、北のアラスカのほうからぐーっと南のほうに下がってゴールがニューヨーク。アメリカのニューヨークから最後、日本に戻ってまいりました」
●言葉はどうされていたんですか? 勉強されていたんですか?
「それが恥ずかしながら、英語もまともに喋れなかったんです(笑)。最初に行ったオーストラリアでカタコトな英語発音だけは覚えて、一応ブロークン・イングリッシュを使って、世界の人とコンタクトしていたんですけども、やっぱり人間なのでジェスチャーがある程度通じていました。ただ、世界を周るにおいて、現地の言葉を3つ覚えていたらコミュニケーションがとれるっていうのを発見しまして、私はそれを魔法の言葉と呼んでいるんです」
●へー! その3つはなんですか?
「1つ目が“こんにちは”、例えば英語だとハローとかスペイン語だとオッラー、フランス語はボンジュールとかなんですけども、それで相手の警戒心を解くことができたんですね。
2つ目が“ありがとう”、センキュー、メルシー、グラシアスとかなんですけれども、やっぱり自分が感謝を示すっていうことでオープンマインド、仲良くしたいですっていうメッセージが届いていたので、向こうもありがとうって言われて嫌な気分になる人はいないと思うんですよね。話を聞いてくれるような親身な状態になってくれていましたね。
最後が“うまい”“おいしい”、英語だとヤミーとかスペイン語だとサブロッソとか言うんですけども、やっぱり人間なので食べ物を食べて生きています。同じ食べ物を食べて共感してくれるっていうことが非常に相手の、やっぱり文化を尊重してくれているっていうように多分思ってくれたと思うんです。食っていう字を分解すると“人を良くする”って書いてあるんですね」
●おー! 確かにそうですね!
「はい、まさに私もそうです。この間も海外の友達が来て、納豆を食べておいしいって言ってくれて、何か納豆を褒めてくれる=日本を褒めてくれるような気になっていました。私も同じように現地のものを、現地の言葉でおいしいって言ったら、すぐに仲良くなって家に泊めてくれたりとか、優しくしていただいていました」
●そうなんですね! 本当に魔法の言葉ですね!
「そうですね! ちょっと言葉に自信のない方はとりあえず、この3つの言葉を現地語で覚えていくことをお勧めします!」
車の接近が鼻で分かる大自然!?
※およそ8年半の世界を巡る旅では、とんでもないハプニングがたくさんあったと思いますが、その中から、いろんな「いちばん」を聞いていきたいと思います。まずは、いちばん嬉しかった出来事はなんですか?
「そうですね。世界中で会った人と再会の場面がありまして、例えば、他に私と同じように自転車旅をしているスペインの友達がいて、たまたま一度会ったあと再会をしたりとかしていました。その中で実は私、旅の最中に出会った日本人の女性、エジプトのラハブっていうところで会ったんですけども。で、帰ってきて2016年、5年半ぶりに再会して、その女性と少し仲良くなりまして、実は2年前に結婚して、先々月、子どもも生まれました(笑)」
●わあ! おめでとうございます!
「ありがとうございます! それこそ多分、旅をしてなかったら日本でも絶対出会ってなかったので、そういう意味ではトータルすると、旅で嬉しかったことは再会かなと、そして妻との出会いかなっていう風に今では振り返りができました」
●そうなんですね〜! では、いちばん美しいと思った景色はどこですか?
「中央アジアのタジキスタンにパミール高原と呼ばれているところがありました。標高が4000メートルを超えているような場所なんですけれども、政治的な理由もあってちょっと内乱をしばらくしていましたので、割と観光で入れるようになったのは最近になります。
私が行った時も全然人に会わないようなところで、峠をいくつも越えて行って走っておりました。そしたら、何か鼻につんざくような匂いが感じられたんです。何の匂いかなと思った時に、ガソリン? って思った瞬間に、次は目で視覚として2キロ〜3キロ先に車がやってくるのが分かりました。そして近づいてくると音でようやくそれが車だって分かったんです。
つまりはですね、そこに人が全然いないので空気が非常に澄んでおりまして、車の存在が目や耳よりも、先に鼻で分かるような大自然が残されているような場所でした。夜空の星なんかも流星が降ってくるような、本当にロケットが落ちてきているんじゃないかって思えるような大自然があって、まだまだ地球にはこんなところが残っているんだ! ってワクワクした景色が本当にいちばん美しかったかなと感じました」
●素敵ですね〜。では、いちばん美味しかったご飯は何ですか?
「中東料理なんですけども、イランという国に行った時に食べさせてもらった “ドンドルマ“っていう料理がありました。田舎料理みたいなんですけれども、トマトとかナスとかの中をくりぬいて、そこにお肉を詰めたりお米を詰めたりとかして。
イランはオリーブオイルが非常に有名で、純度の高いオリーブオイルがありまして、その肉詰めしたもの、米詰めしたものの野菜をオリーブオイルで1日中煮込みつつ、次の日になったらそれを取り出してお皿に並べて最後に乾燥ローズ、バラのチップをふわーっと振りかけて、なんとも優雅な、エクセレントな食べ物をいただきました。
味はどこか日本の煮込み料理にも非常に似てて、そういった意味もありまして美味しくいただいていました!
この料理がですね、実はあんまりレストランに並んでいなくて、仲良くなったご褒美の証に家に招いてもらっていただいていたので、そういったことも含めて、本当にいちばん美味しかったご飯かなって思います」
カンボジアの恩人、無償の愛と約束
※世界を巡る旅では、たくさんの人に出会い、助けてもらったことも多いと思うんですが、特に記憶に残っている人はいるのでしょうか。
「カンボジアで出会った家族になります。私の中で今でも約束と思って活動をしているんですけれども。カンボジアに行った時にカンボジアの現地通貨が切れてしまって、銀行で両替しようと思ったんですけど、土日で空いていませんでした。お金が一切なくて、川を渡らなくてはいけないんですけれども、その渡し船のお金も払えなくて。
ひとまずキャンプをしようと思って、地域の人たちにキャンプをさせてくれって言ったんです。普段だったらキャンプをさせてくれるんですが、小さい村だったので、ダメだって追い払われてしまったんですね。
体調も非常に悪かったので、泣く泣く学校の裏に隠れて張ったんですけども、やっぱり見つかってしまって、出てけ!って、みんなに追い払われた時にある人が近づいてきてくださって、その人がこっち来いよと言ってくれたんです。ついていくとその人が渡し船のお金を払ってくれて、対岸のですね、屋台があったんですけども、その屋台に連れて行ってくれました。で、ご飯をご馳走してくれて、結果その彼の家に招いてくれて、一泊させてもらいました。
次の日の朝になると当然のように朝ごはんが出てきて。私もそれだけ優しくされて体調も徐々に良くなって、じゃあきょう出発できる!って思って、出発しようとした時に彼が私の手の上に置いたのが現地のお金だったんです。
それも多分、今で換算するとカンボジアの、一般の人の平均給料の半分くらいのお金、日本円だと10万円とかそのぐらいの大金を彼が家族を振り切って渡してくれたんですね。彼には小さい子どももいるので、さすがにこれは受け取れないよって返したんですけれども、彼がそれは絶対持っていけと、世界一周するっていう人間が、日曜日だし、きょうも食べられなかったら、世界一周なんかできないと、きょう君が来てくれたから家族みんなが笑顔になっていると、またしばらくしたら、変な日本人、今頃どこにいるのかな、なんて言ってまた家族がハッピーになってスマイルになる瞬間があるから、これは感謝の証だ、って言ってくれて渡してくれたんです。
本当に世界中いろんな人が優しくしてくれましたけども、本当に無償の愛をたくさん受け取って、いつか私がこの家族を私の故郷の長野県に呼びたいなっていうのと、私自身も新しくできた家族を自転車でまたカンボジアに、この町に行きたいなっていう風に思って、彼との約束を今も、まあ果たせずにはいるんですけども、それを果たしたいなと思って今の活動をしています」
●この本を読んでいると、いろんなハプニングがあって、どうしてそこまでして旅を続けるんだろう?っていう風に思ってしまったんですけれども、旅を続けることのモチベーションってどこからきたんですか?
「やっぱり人に優しくされたっていうのがいちばん大きかったなと思います。応援してくれている人の気持ちを裏切れないな、応えたいなっていう思いがあったと思います。多分自分だけの約束であれば、変な話、弱い人間なので途中で帰っていたかもしれないんですけれども、やっぱりこれだけ優しくされて、次に再会した時に世界一周できなかったって言ったら、ガッカリさせちゃうなとかって思うと、頑張って世界一周して再会した時に、君のおかげで世界一周できたんだよ、ありがとう!って言いたいなっていうのが、本当に最後の最後までモチベーションになっていました」
サドルの上の原風景
※ところで、小口さんが自転車の魅力にハマったのはいつ頃だったのでしょうか?
「いちばん最初に自転車って楽しいな〜って思ったのが、兄がいるんですけども、兄と一緒に、私の故郷には諏訪湖という一周16キロぐらい、当時は道路が綺麗じゃなかったので22〜23キロあったんですけど、その諏訪湖一周を8歳の時にしました。
その時にお腹を空かせながらも走っていると、普段車でばーっと過ぎていた風景がしっかりと全部自分の頭の中に入ってきていました。例えばこんなところにお店があったんだなとか、親戚のばあちゃんの家ってこんな遠くにあったんだとかですね、鳥とか草花の音が聴こえたり、車では感じられなかったものがサドルの上ですごく良く感じられて、その一周が私にとっての大冒険だったんです。それがなんか原風景として心の中に残っています」
●小口さんにとって最初の冒険なんですね。
「そうですね、はい」
●現在、小口さんはジャパン・アルプス・サイクリング・プロジェクトの副代表を務めてらっしゃいますけれども、これはどんなプロジェクトなんですか?
「はい、長野県の県知事のもとに官民連携の協議会を作りまして、私はそこで副代表をさせてもらっているんです。長野県をサイクリングで、その魅力を伝えていこうということで、今大きく観光プロモーションをしていて、長野県を一周するサイクリングロード800キロを今作っているところです。
自転車乗りの人にとっては坂とか峠、山が実はご馳走のような場所になるんです。これを登るために一生懸命汗をかいたりとか。標高2000メートルを超えると森林限界、植生が変わってくるので、そこにいる動植物も変わってきます。そして長野県ならではの温泉であったり、食文化、海こそないけれど、山菜やそば、そういったものを楽しんでもらえるようなものを周遊観光として今みんなで作っているところです」
●平坦な道のりじゃダメなんですね(笑)
「そうですね! 平坦は平坦でいいんですけど、やっぱり初級者から中級者、上級者までが楽しめるのが長野県の魅力かなっていう風に思っています。そして今だと電動アシスト付きの自転車、Eバイクがありますので、この登場によって今、老若男女の方が楽しめるような環境が整ってきています」
南極大陸、そして月へ
※小口さんは地元長野でバイク・パッキング・ツアーのガイドもされています。どんなツアーなんでしょうか。
「自転車に荷物を載せまして、そこにテントであったりとか食料、寝袋とか、そういったものを付けて1泊2日。もしくは来年、本格的にやろうとしているのが子どもたちを、今私がいる日本のど真ん中と呼ばれている辰野町から海を目指して、5泊6日で行くようなツアー、そういったもののガイドをしています」
●へー! 初心者でも大丈夫ですか?
「そうですね。それこそ今私たちの辰野町というところを、ゆっくりのんびり走ってもらおうということで、主にちょっと都会とかで仕事に疲れてしまった30〜40歳くらいの女性をターゲットに可愛らしいマップを作ったりとか、そういった方々が楽しめる、おいしくてお洒落で綺麗な、インスタ映えするようなコースとか、そういったコンテンツを作ったりしています」
●車では感じられないことが感じられますね。
「そうですね。時速15キロで走ると全然今までと違った時間軸で見えてきます。汗をかいたりとかすると頭の中もスッキリしだして、本当に、自分の人生の中で大切なものってなんだったかなーっていう風に見返りの時間になるので、是非こういった速度を変えるアクティヴティをしてもらえたらなと思っています」
●小口さんが今後、自転車で行きたいところはどこですか?
「いろいろあるんですけれど、今実は157ヶ国のあとに1年に1ヶ国ずつ行っておりまして、死ぬまでに全ての国を行こうと思っていて、196ヶ国あるので76歳くらいになったら全ての国を走りきれると思っています。
それとあとは南極大陸、こちらも自転車でチャレンジしてみたいなと思って、今少しずつ練習とかしているところです。今年も、新型コロナウイルスの関係はありますけれども、もし状況が芳しくなったら、モンゴルのウランバートルからロシアのイルクーツクっていうところまで800キロくらい、冬場をカットバイクっていう冬を走れる自転車で練習をしていきたいなという風に思っています」
●すごいですね!
「そして最後にはいつか、まあ『ET』っていう映画の影響もあったんですけど、月を自転車で走ってみたいなっていうのもあります。多分30年後には叶うんじゃないかなと思っています(笑)」
●夢が広がりますね〜。では最後に自転車の魅力を一言で言うならば!
「日常を冒険や旅に変えられる、身近な場所をそういった場所に変えられるかなっていう風に思っています!」
INFORMATION
小口良平さん情報
『果てまで走れ! 157カ国、自転車で地球一周 15万キロの旅』
現地の人たちと触れ合いながら世界を走破。その自転車旅の全貌が綴られた感動の冒険エッセイです! ぜひ読んでください。詳しくは、河出書房新社のサイトをご覧ください。
◎河出書房新社HP:
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309417660/
小口さんは10月17日から地元長野県上伊那郡辰野町で、世界一周したサイクリスト13人の写真と言葉の企画展を開催する予定です。詳しくは小口さんのオフィシャルブログを見てください。
◎小口さんのHP:https://ameblo.jp/gwh175r/
◎小口さんが副代表を務める
「ジャパン・アルプス・サイクリング・プロジェクト」のHP:
https://japanalpscycling.jp
2020/8/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストはニホンザルの研究者、石巻専修大学・准教授の「辻 大和(つじ・やまと)」さんです。
辻さんは1977年、北海道生まれ。東京大学大学院・修了後、京都大学霊長類研究所を経て、今年から石巻専修大学の准教授としてご活躍されています。辻さんは大学生の時に、上野動物園のボランティア活動で担当したニホンザルに興味を抱き、研究をスタート。石巻市の沖合にある「金華山島」に生息する野生のニホンザルを20年にわたって観察・研究し、その成果を一冊の本、『与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学』にまとめ、先頃出版されました。
きょうは「ニホンザルの新常識」! 知られざる生態について辻さんにうかがいます。
☆写真提供:辻 大和
実はボス猿はいない!?
※ニホンザルは、群れを率いるボスがいて、そのボスを中心にサルの社会が成り立っているとよく聞きますが、辻さん、それは本当なんですか?
「それはよく誤解されている点なんですけれども、実は野生ではボスザルっていうのはいないっていう風に今、私たちは理解しています。群れの中でケンカの強いオスっていうのは確かにいるんですけれども、ただそのケンカに強いオスっていうのが人間の社会で言うところのボスの役割、例えばケンカを仲裁したりとか、争いが起きた時に最前線で戦うとか、あるいは群れの行き先を決めるといった役割は野生状態では確認されていないんですね。それで私たちは野生のサルにはボスはいないという風に理解しています」
●そうだったんですね! サルたちって家族単位で生息しているんですか?
「そうですね。サルのオスは大きくなると生まれた群れを出て行くんですけれども、メスっていうのは基本的に生まれた群れで生涯過ごします。ですからサルの家族っていうのはメスとその子どもたちっていうことになりますね。群れの中でお母さんと娘、あるいはお姉さんと妹っていうのはとても仲がいいですね」
●子育てをするのはメスだけってことですか?
「そうです。ですからサルの群れにはオスはいるんですけれども、お父さんはいないっていう風になります」
●ニホンザルって何を食べているんですか?
「サルはなんでも食べる雑食性の動物ですけれども、でもいちばん好きなのは果物とかドングリの仲間ですね。他には葉っぱですとか花とか、あとはキノコとか虫なんかも食べます」
●サルたちの行動のどんなところに注目して研究されるんですか?
「私は専門が“食べ物“ですから、サルたちがまず何を食べているか、どこで食べているか、あと誰と食べているかっていうところに注目しています。群れの中にはやっぱり順位関係ですとか性別とかいろんな状態、ステータスがありますよね。そういう社会的な要因がそのサルたちの”食べる“っていう行動にどう影響しているのかっていうのを調べるのが、私の専門としてそういうことに注目しています」
サルの役割、種子散布
※続いて「ニホンザルの新常識」その2!
野鳥は植物の実を食べて、そのタネを遠くに運んで、植物の分布を助けているという話を聞いたことがありますが、野生のニホンザルもそんな役割を担っていたりするのでしょうか。
「はい、そうですね! 自然界におけるサルの重要な役割のひとつが種を運ぶ、種子散布と言うんですけれども、そういう役割です。私はサルの行動観察と一緒にサルたちのウンチを集めて分析をしたことがあるんですけれども、サルの糞からはなんと36種類の植物の種が出てきました。サルは鳥に比べて体も大きいですし、また動き回る範囲も大きいですから、より広い範囲にいろんな植物の種をばらまいていると考えられます」
●森にとってはサルの影響っていうのはすごく大きいんですね。
「はい、私はそう考えています」
●秋口になるとサルたちが里へ降りてきて、畑の作物を荒らしちゃうっていうようなニュースもありますけれども、気候変動とかによってサルたちの環境とかには影響はでているんでしょうか?
「その点については、はっきりしたことは申し上げられないんですけれども、ただサルたちが畑を荒らす行動っていうのが山の実りと関係があるっていうことはよく言われています。サルたちが大好きな木の実の実りには、年によって大きな違いがあるんですね。山の実りが乏しい年にサルたちが食べものを求めて畑にやって来ちゃうんです。その結果多くのサルが有害獣として駆除されてしまうっていう、そういう現象があります」
●それはどうしたら対策できるんでしょうか。
「例えばですね、山の実りはどれくらいかっていうことをモニタリングするっていうのがひとつ方法かもしれません。今年は山にドングリがあんまりないなっていうことが分かれば、今年は畑にやって来そうだぞっていうことを、あらかじめ予想して対策が打てるかもしれませんね。そしたらむやみに殺さなくても済むんじゃないかっていう風に私は思っています」
●今、辻さんがいちばん気になっていることってなんですか?
「そうですね。1年間に2万頭を超えるサルが有害駆除されてしまっているって現象はとても心が痛いですね。実際、駆除に科学的な根拠があるわけでは必ずしもないんです。ですから山の実りをモニタリングして、サルたちが畑にやってくる時期を予測したりとか、あとはさっき種子散布の話をしましたけれども、サルたちが山の中でこんな大事な働きをしているんだよっていうことを、多くの人に知ってもらうことによって、サルたちに対するネガティブなイメージを改めていただければなという風に思っています」
サルの楽園「金華山島」
※「辻」さんの研究のメイン・フィールド「金華山島」は、いったいどんな島なんでしょうか。
「島の大きさは10平方キロメートルくらいで、そんなに大きな島ではないんですけれども、東北地方の三大霊場のひとつになっています。島の中には大きな神社がありまして、昔から信仰を集めています。ブナとかモミの林で覆われたとても美しいところです」
●ニホンザルは何頭くらいいるんですか?
「はい、現在は200〜250頭ぐらいいまして、6つの群れに分かれて暮らしています」
●その島は人は多いんですか?
「神社の関係者と参拝客、そして私たち研究者以外には実はいません。それに昔から狩猟が禁じられていますので、サルたちはとてものんびりと暮らしています」
●人よりもサルのほうがのびのびとたくさんいるようなイメージなんですね!?
「そうですね。サルの楽園と言ってもいいと思います!(笑)」
●それってわんぱくに育っちゃったりしないんですか?
「金華山のサルは他の場所に比べて性格が穏やかで、顔もとても美人というか可愛いサルが多いですね」
●具体的に注目しているサルはいるんですか?
「はい、学生時代は対象の群れの1個体ずつ、17個体いたんですけれども、それぞれマークして3カ月くらいぶっ続けでそいつらを、1日3個体ぐらいずつ決めて追っ掛けていました」
●素人からすると違いが分からないような気もするんですけども(笑)、どうやって見分けるんですか?
「サルたちは比較的表情が豊かで、しかも個性的なんですよね。ですから他の動物に比べると、これは誰かっていうのは非常に分かりやすいと思います。私は人間の識別よりもサルの識別のほうが楽だと思います(笑)」
●本当ですか!?(笑)サルに名前を付けたりしないんですか?
「付けていますよ。アテナちゃんとかビーとかシフとか、そういう名前はずっと代々先輩たちから受け継いだ名前を付けています!」
●辻さんも名前を付けることはあるんですか?
「一度付けたことがあります(笑)。オトハちゃんとかネネちゃんとか付けました。今元気かなぁ」
サルとシカが共生!?
※ラストは「ニホンザルの驚くべき新常識」その3です。「サルの楽園」ともいえる「金華山島」には、ほかにどんな動物がいるのでしょう。そしてその動物との関係は!?
「サルの他には大型の動物としてシカが500頭くらいいます。あとはモグラですとかネズミ、そして鳥とか虫の仲間なんかもたくさんいますね」
●へ〜! じゃあ本当に動物たちの楽園ですね。この“与えるサルと食べるシカ”というタイトルですけれども、この本のタイトルにもなっているサルとシカの珍しい行動を目撃されたということですね。それはどんな行動だったんですか?
「サルが木の上で葉っぱとか果物を食べている時に、サルたちが一部をぽろっと落とすんです。その木の下にシカがやってきて、サルが落とした葉っぱや果物を食べるという関係です。私たちはこれを“落穂拾い”と呼んでいます」
●木の上で暮らすサルと地上で暮らしているシカって、なかなか関わりがなさそうなイメージがありましたけど、関わっているんですね。
「はい、私も初め見たとき、すごくびっくりしました。無関係だと思っていたのに、実はこうやって食べ物を通じて結びついていたんだなと分かって、とてもびっくりしました」
●シカはサルの行動を分かって集まってくるってことですか?
「私は多分シカはサルの出す音を聞きつけて、集まってくるんだと思っています。例えばサルが木に登って食べる時に枝をガサガサと揺らしたり、あるいは大きな声で鳴いたりするんですね。多分ご馳走を見つけて嬉しいのかなと思うんですけれども、シカたちはそういう音を聞きつけて集まってくるのかなと思います」
●逆にサルはシカたちによって何かプラスなことはあるんですか?
「金華山では、私はサルがシカから何か利益を得ているっていうのは、まだ見たことはありません。ただ他の国ではですね、例えばこれはインドの例なんですけれども、外敵が近づいてきた時にシカが警戒音をピーって上げるんですね。それを聞いてサルたちが逃げるっていう関係も知られています」
●そういった動物たちの関係性って他の動物とかにもあるんですか?
「そうですね。これは共生関係って言うんですけれども、例えばイソギンチャクとヤドカリのように、ヤドカリが住処を提供してあげる、イソギンチャクは食べ物のおこぼれに預かるとか、そういう関係は古くから知られています。ただ大型の動物でこういう共生関係っていうのが見つかったのは、多分私たちの研究が初めてじゃないかなと思います」
●そうだったんですね〜。もし島のサルと話ができるとしたら何を聞いてみたいですか?
「そうですね。私が気になっているのは、木の上からサルたちが葉っぱを落とす時に、それは本当に私たちが思っているようにたまたまなのか、それともシカのことを考えて、わざと落としてあげているのかなって可能性もありますよね。それはやっぱり彼らに聞いてみたいと思っています(笑)」
●確かに!
INFORMATION
辻大和さん情報
『与えるサルと食べるシカ〜つながりの生態学』
「金華山島」に生息するニホンザルの、20年にもおよぶ観察・研究の集大成。山小屋に寝泊りしながら、長い時には3〜4ヶ月も観察していたそうです。そんな地道な研究がサルとシカの共生関係を明らかにしたんですね。ニホンザルに関する“新常識”が満載の本です。ぜひ読んでください。 詳しくは、地人書館のサイトをご覧ください。
◎地人書館のHP:
http://www.chijinshokan.co.jp/Books/ISBN978-4-8052-0942-4.htm
辻さんの活動については研究室のサイトを見てください。
2020/8/8 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、発酵デザイナーの「小倉ヒラク」さんです。
小倉さんは1983年、東京都生まれ。早稲田大学卒業。その後、東京農業大学で発酵学を学んだあと、山梨県甲州市に発酵ラボを作り、微生物の世界を探求。現在、発酵デザイナーとして、多方面で活躍されています。そして先頃、『発酵文化人類学〜微生物から見た社会のカタチ』が文庫本となって発売されました。
きょうはそんな小倉さんに、私たちの食生活や健康を支えている発酵食品について、たっぷりお話をうかがいます。世界的にも珍しい日本の発酵食品のお話もありますよ。
☆ 写真提供:小倉ヒラク
微生物に呼ばれている!?
※それではまず、発酵デザイナーというお仕事について。どんなことをする人なんでしょうか。
「発酵デザイナーは現在、世界で名乗っているのは僕だけで、端的に言うと見えない微生物、発酵菌の働きをデザインを使って可視化するという職能であると定義しているんですね。
元々僕はデザイナーだったんですけれど、20代の半ばくらいの時に働きすぎ遊びすぎで身体を壊しまして、たまたまその時にお味噌屋さんの末娘と発酵の先生に出会って、お前は身体が弱いから発酵食品をいっぱい食べろと、そしたらもうちょっと元気になるぞって言われて、発酵食品を食べるようになったんです。それから発酵のことがすごく面白いなと思い始めて、気がついたら発酵の仕事ばっかりやっているデザイナーになっていました。
もうこれは微生物に呼ばれているとしか思えないから、っていうので、30歳手前くらいで東京農業大学の研究生で大学に入り直して微生物学の勉強をして、普通のデザイナーをもうやめて、微生物とか発酵文化に関わるものしかやらないぞと決めて、発酵デザイナーと名乗るようになりました」
●へ〜! 『発酵文化人類学』という本も読ませていただいたんですけれども、微生物と人間ってこんなに深い関わりがあったんだっていう風にすごく驚きました!
「そうですよね。結構奥が深いお話なんですよね。微生物と人間が相互に影響しあいながら、文化を作っていくっていうことなんですけれども」
●このタイトルの“発酵文化人類学”というのも初めて聞いたんですけれども、これはどんな学問なんでしょうか?
「これも僕が勝手に提唱した学問なんですけれども、これは微生物の視点を通して人間の社会を見るということをやっている本なんですね。実は僕は2回大学に行っているわけですけど、1回目の大学の時に文化人類学という学問をやっていたんですね。僕はデザインの仕事だったんですけど、いろんな土地へ行って調査をするわけです、デザインを作る前に。その調査をしていると文化人類学のフィールドワーク調査が、まるで発酵をテーマにしてやっているようだなって思えてきたんですね」
●どんな調査をしていたんですか?
「蔵(くら)がある土地の歴史をそこの長老の人とかに会って聞いたりするんですよ。だから200〜300年前はうちはこういう土地で、ここは今もうコンクリートで埋め立てられちゃっているけど河川があって、ここに船を通してどこどこで作ったお醤油を運び出して、それはどこどこのお殿様に献上されて、みたいな話とかがいっぱい出てくるんですよ。
今見えているものと全く違うその社会の形というか、そういうものが見えてくるんですね。要は文化人類学ってテーマをなんとか族みたいな、民族でやっているんですけれども、そのなんとか族みたいな話を発酵という世界、だから人の代わりに微生物を見ることで文化人類学と同じようなことをやっているっていうことを思うようになって、それでこの本の名前になっているんですね」
食の美意識は気候と微生物が作る
※続いて、発酵に関するこんな興味深いお話をしてくださいました。
「日本と中国って発酵食品のバリエーションがものすごく多い国なんですけれども、それのキーポイントになっているのが麹(こうじ)っていうものなんですね。甘酒とか塩麹とかを作る元になるものなんですけど、この麹という文化が中国にも日本にもあるんですけど、中国と日本だとその麹の微生物の種類が違うんですよ」
●どう違うんですか?
「日本だと“コウジカビ”っていう、結構もこもこになる毛足が長い、空気を大量に呼吸して甘みを結構いっぱい作ってくれるカビが麹を作るんですね。それに対して中国の麹は“クモノスカビ”っていう、毛足が長くない代わりに根っこをすごく張る、酸を結構いっぱい出す、空気があまりなくても生きていけるカビっていうのが麹を作るんですね。そのことによって同じような発酵食品を作る時でも全然、味の指向性が変わってくるわけです。
例えばお酒、この麹ってお酒を作るのに使うんですけど、日本だと日本酒になるんですね。中国だと日本酒によく似たものだと、例えば紹興酒になるんですよ。日本酒ってやっぱり新酒が美味しいってイメージがあるじゃないですか、搾りたてとか美味しそうって思うじゃないですか。紹興酒って搾りたてはあまり美味しくないんですよ、ちょっと苦くて酸っぱくて。なので紹興酒は、大体5年とか10年とか熟成させているじゃないですか。熟成させる中で味がまろやかになって美味しくなって高級品になっていくんですね。
一方、日本酒っていうのは、古酒が最近流行っていますけど、基本的には結構フレッシュに飲むのが美味しいとされていて、それって微生物の違いで出てくるんですね。そういうものが積み上がってくると、例えば日本の発酵食品は、実は中国ほどあまり発酵させなくて、みんな数ヶ月とか数週間とかで終わりにするわけですよ。それに対して中国って10年、30年とか発酵させてすごくどっしりしたものを、重厚なものを作り上げていくっていう、なんか食の美意識みたいなものが変わってきちゃうんですね。
ある意味でいうと、その土地の美意識って人間が作っているっていう風に思っていたんですよ。ところが今のこの麹の話とかを突き止めていくとそうではなくて、その土地の気候と微生物が人間の美意識を形作っているとも言えるわけですね。だからもし中国に“コウジカビ”が棲んでいたらまた違っていたわけですよ」
●そうですね〜!
「日本に実は“クモノスカビ”は棲んでいるんだけど、もっと“クモノスカビ”を使いこなす技術を持っていれば、多分日本も違ったものになっていたんですよね」
不思議なお漬物“すんき”!
※続いて、世界でも珍しい、日本の発酵食品を紹介してくださいました。
「長野県木曽町っていう、御嶽山の麓の町があるんですけど、山の関所町なんですが、そこに“すんき”っていうちょっと不思議なお漬物があるんですよ。そのお漬物は塩を一切使わないお漬物なんですね。世界でも結構珍しいお漬物で、カブの葉っぱにお湯をくぐらせて、冬になるギリギリ手前の時にちょっと室温でカブの葉っぱを発酵させておくと、その土地にしかいない特殊な乳酸菌が発酵して、それでちょっと不思議な旨みのあるお漬物ができるんです。塩が入っていないから全然しょっぱくなくて、酸っぱいだけっていう、酸っぱうまいみたいなものができてくるんですね。
やっぱり塩を入れると雑菌汚染が起こらなくなって、発酵菌だけ呼び込めるので、塩を入れたほうがいいわけですよ。ところがその木曽という町は、山の関所町でどんな海からも遠いんですよ。新潟も遠いし北陸も遠いし静岡ももちろん遠いしっていう状況なので、塩がないんです。塩を持ってこられない、だから如何に塩を使わずに食べ物を保存するかってことをみんな考えるわけですよ。その結果、他の土地にはないような不思議なお漬物ができてくるんですね。
このお漬物、僕の農大の先生の一人が研究したんですけど、何故かこのカブの葉っぱを発酵させるとカブの葉っぱの中からコハク酸っていう、シジミとか魚介類の旨みが菌によって生成されるらしいんですね。だからみんなこの“すんき”をどういう風に使うかっていうと、お味噌汁とか蕎麦とかに入れて、ちょっと出汁みたいにして使うんですよ。だから魚介類が手に入らない土地なのに魚介類の旨みを、何故か微生物の力を使って作り出してしまうっていう不思議なことをするわけですよ。こういうことも海の近くだったらする必要ないんですよね」
●微生物のパワーってすごいですね!
「そう、それで不思議な微生物がいるっていうことと、この木曽の土地の特性っていうものが合わさった時に他の土地にはないような、木曽のすごく不思議な食文化っていうのが生まれてくるわけなんですよね」
古代エジプト、ビールが給料代わり!?
※私も毎日、お味噌汁をいただいているんですが、発酵食品は私たち日本人には欠かせないものですよね。
「定番の食卓を見てみるとお分かりになると思うんですけど、納豆かけご飯にお味噌汁を食べるじゃないですか、ご飯はさすがに発酵していないけれども、ご飯にかける納豆は大豆に納豆菌っていうバクテリアを付けて発酵させているんですね。納豆にかけるお醤油は大豆と麦を塩水と混ぜて、乳酸菌とか麹菌とかで発酵させた液体調味料なんですよ。お味噌汁のお味噌はやっぱり大豆と米とかを混ぜて発酵させた固体の調味料で、出汁を取る時に鰹節とか入れるじゃないですか、鰹節は鰹の身をカビで発酵させて硬くカチンコチンにしたものなんですよね。だからどんだけ発酵しているものを入れているんだということになるわけですよ(笑)」
●そうですよねー! 私、ビールも大好きなのでビール酵母とかもまたそういったものですよね。
「そうですね。ビールも非常に古い発酵食品で、古代エジプトの時代の、もっとさらに昔のシュメール文明でも、もうすでに作られていることが記録されているんですね。これは元々は備蓄していた麦が例えば、ナイル川の氾濫で水浸しになった時に麦が発芽して、それが甘い麦汁を作る感じになるわけですよ。その甘い麦汁を発酵させていくとビールになるっていう、これも結構原始的なものですね。で、すごく面白いのが、これも古すぎて本当にそうかっていうのが諸説あるんですけど、公共事業に使われていたんですね」
●公共事業?
「はい、ピラミッドとかを作る時に給料になっていたわけですよ。だからお前はきょうこれくらい働いたからビール何リッターな、みたいな給料代わりで使われていて、古代エジプトの壁画にはビールを調子に乗って飲みすぎて酔っ払って、それを他の人が担ぎ上げているっていうような壁画が残っているんですね」
●へー! そうなんですね!
アジアとヨーロッパ、発酵文化の違い
※小倉さんは去年、ヨーロッパを回って、日本の発酵文化を伝える講演を行ないました。どんなお話をされたのでしょうか。
「実は発酵と言ってもヨーロッパとアジアでかなり世界観が違いまして、ヨーロッパの発酵ってワインとかパンとかになるんですけど、あとヨーグルトとか。でも日本で発酵っていうとお味噌とかお醤油とか、日本酒とかになるでしょ、発酵する原理が結構違うんですよ。
ヨーロッパの発酵って結構、単体の微生物で成り立っているというか、あんまり関与する微生物が多くないんですね。ヨーグルトだと乳酸菌、パンだと酵母、ビールもそうですね。ワインも酵母なんですけど、それに対して日本って例えば日本酒には乳酸菌、酵母、麹、あと硝酸還元菌とか結構いろいろいるんだけど、何種類もの菌が関わってできていくわけです。
お味噌も一緒でやっぱり麹菌、乳酸菌、酵母みたいな、しかも複数種類の酵母、複数種類の乳酸菌とか、アジアってなんかいっぱい菌が関わってできているんですね。
だから一神教と八百万の神みたいな違いがあって、そこの原理の違いみたいなものを結構話したりしたら、すごく面白いって言ってもらえて。で、その中でもいちばんキーポイントになるのがコウジカビっていうカビなんですね。
僕は大学ではカビのことを勉強していたんですけれども、まさにヨーロッパにない、アジアですごくファクターになっているのが、発酵のスターターになる発酵カビの存在なんです。ヨーロッパにも一応カビを使う発酵食品はあるんですけど、チーズとか、ただスターターではなくてどっちかって言うと、またちょっと違う、あとのほうの行程で出てくるやつなんですね。
アジアの場合は、発酵のいちばん最初のスターターになることが非常に多いんです。アジアって湿潤、暖かくて湿っているのでカビが多くなるんですよ。このカビって発酵の最初にくっ付くと、いろんな食べ物をいろんな形に分解するんですね。分解する力がすごく強いんです。それでいろんな形に分解すると、カビが分解したものにまた別の菌がくっ付いてくるんですね。だから発酵がすごく複雑になるんです。
なのでアジアの発酵ってカビが介在することによって、ものすごく複雑性を帯びるわけですよ。それでお味噌!みたいな、紹興酒!みたいな原料は、シンプルなんだけど複雑な味わいのものが出て、独特な旨みみたいなものが出てくるっていう。そこのキーポイントになっているのは、このカビの存在だよ、みたいな話を(講演では)結構したりしていましたね」
INFORMATION
小倉ヒラクさん情報
『発酵文化人類学〜微生物から見た社会のカタチ』
同書は先頃、文庫本となって発売されました。発酵の奥深い世界、微生物の働き等々、発酵と文化人類学を結びつけた興味深い本です。ぜひ読んでください。角川文庫の一冊として絶賛発売中です。詳しくは角川書店のサイトをご覧ください。
◎角川書店のHP:
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000315/
写真集『発酵する日本』
小倉さんが47都道府県の知られざる発酵文化を訪ねた旅が写真集となって発売されています。 青山ブックセンターのみの限定販売。詳しくは青山ブックセンターのサイトをご覧ください。
◎青山ブックセンターのHP:
https://aoyamabc.stores.jp/items/5e97c40634ef01783a3bdd1b
今年、小倉さんは下北沢に「発酵デパートメント」というお店をオープンさせました。
“世界の発酵、みんな集まれ”を合言葉に、小倉さんが集めた多種多様な発酵食品を販売しているそうですよ。
また、毎月定額で発酵調味料を届けるECサイト「発酵サブスク」も運営されています。詳しくは小倉さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎小倉ヒラクさんのHP:https://hirakuogura.com/
2020/8/1 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、高知大学・農林海洋科学部・准教授で、進化生態学者の「鈴木紀之(のりゆき)」さんです。
鈴木さんは1984年、横浜市生まれ。京都大学・農学部から大学院を経て、2016年からカリフォルニア大学バークレー校に特別研究員として在籍。2018年から現職の高知大学・准教授として活躍されています。2017年に出版した『すごい進化』という本が話題になり、そして先頃、岩波書店から出た本『博士の愛したジミな昆虫』に原稿を寄せるとともに編集にも携わっていらっしゃいます。
きょうはそんな鈴木さんにテントウムシの、あまり知られていない生態や、生物の多様性を保つ「すみわけ」についてうかがいます。
☆写真提供:鈴木紀之
昆虫少年が学者に進化!?
※それでは、進化生態学者の鈴木さんにお話をうかがいましょう。進化生態学とはどんな学問なんでしょうか。
「生態っていうのは分かりやすいと思いますけれども、生き物がどういう風にして暮らしているか、何を食べてどういう風に行動しているかということなんです。全ての生き物は進化の産物として今ここにいるんで、生態と進化っていうのはすごく密接に関わっているんですよね。そういう意味で進化生態学という研究分野になります」
●昆虫の分野に限定した進化と生態の研究ということですか?
「そうですね。僕は昆虫が好きなので昆虫を対象に進化と生態の研究をしています。他に魚の研究している人もいるし、植物とか哺乳類の進化とか生態の研究している人もいて、学会とかでよく情報交換しているんです。虫で分かったことが他の生き物にも通じていたら、面白いなと思って研究しています」
●なるほど、もともと小さい頃から昆虫がお好きだったんですか?
「そうですね。いわゆる昆虫少年だったんですけど、それがそのまま大人になった感じです」
●すごい! 好きなことが仕事に繋がるわけですね。
「そうですね。夏休みの自由研究とか中学校のときとかしていましたけど、それを未だに続けているような感じです」
●実際に虫を捕りに行ってたんですよね?
「そうですね。虫を捕って標本もよく作りましたし、あとは調べるのが好きだったので、そういった自由研究とか本当に中学校の頃は大好きでした」
●ちなみに好きな昆虫はなんですか?
「いちばん好きなのは蝶々なんですけども、よく蝶々を捕りに行って、大学生、大学院生になってからも蝶々の研究は少ししていて、今も継続中です」
●昆虫学者になって今の研究のメインというのは何になるんですか?
「好きなのは蝶々なんですけど、メインはテントウムシの生態について研究していて、特に2種類のテントウムシの種類同士の関わり合い、関係について研究しています」
●どうしてテントウムシなんですか?
「生態の研究は何よりたくさん観察しないといけないんで、身近にしっかり分布していてデータを取りやすい、そういった昆虫の特徴も必要です。そういう意味でテントウムシがすごく扱いやすかったんで、研究の対象として選びました」
●進化生態学ということですから、テントウムシも進化しているということなんですか?
「進化っていうと、今もう進化の結果として生き物が地球上にいるので、進化はもうしきった感じなんです。その一方で最近ですと地球温暖化とか環境変動とかあるんで、それに応じてテントウムシが、例えば赤い色をしているとちょっと涼しいとか、黒い色をしていると暑苦しいとか、そういうことがあるかもしれません。テントウムシの生態が年を追うごとに変化している、そういった報告もあります」
●え、色ってそういう感じで変わっていくんですか?
「そうですね。1匹のテントウムシが赤から黒に変わることはないんです。進化っていうのは世代を追うごとに、去年出てきた虫はこういう色が多かったけど、今年はこういう色が増えて次の年はどうなるとか。世代を超えて、どんどん生き物の形とか行動が置き換わっていくというプロセス、それが進化になります」
多種多様なテントウムシ!
※鈴木さんが研究されているテントウムシ、日本には何種類くらいいるのでしょうか。
「実は結構いて200種類近くいるらしいんですけれども、僕もほとんど見たことがなくて、本当に小さい種類がたくさん生息しています。普段はなかなかお目にかかれない種類もたくさんいます」
●へー! どんな生きかたをしているんですか?
「基本的にテントウムシは、多いのはアブラムシとか他の昆虫を餌として食べるような虫です。それで幼虫もハンター、捕食者なんで、そういった餌を食べて成長するし、成虫になってからも同じような餌を食べて生活をしています」
●模様は水玉模様のイメージがありますけど、水玉じゃない模様もあるんですか?
「そうですね。本当に種類によって様々で黒だけの地味な種類もいるし、水玉模様もいろいろあって、本当に点々が丸いやつとか、ちょっと三日月というかクロワッサンみたいな、いろんな形があります」
●どうしてそんな多種多様なんですか?
「それは実はよく分かっていなくて、例えばナナホシテントウっていうのがよくいるんですけど、ナナホシって赤地に黒い点が7個あるからナナホシっていうんですね。それは黒い点が7つだけの種類なんですけども、同じ種類でも点の形とか数が様々、個体によって個性と呼んでいいんでしょう。本当に多種多様で、それが何故かと言われると、結構分かっていないことが多いので、僕みたいな研究者が頑張って調べていると、そういう感じですね」
●奥が深いんですね! テントウムシって。
「そうですね。色とか模様は見れば分かるんですけども、それが何故多様なのか、そういった模様にどういう役割があるのか、というのは調べてみないとまだまだ分からないと、そういう状況です」
●アブラムシを食べてくれる益虫のイメージが、テントウムシってすごく強いと思うんですが、種類によって食べるものとかも違うんですか?
「アブラムシが害虫なんで、それを食べるテントウムシはおっしゃったように益虫と言われることが多いんですが、その一方で葉っぱを食べるテントウムシの仲間もいます。ジャガイモとかを育てていると、よく害虫として別の種類のテントウムシがくるんですけど、それは人間にとっては害虫ということになって、種類によってアブラムシを食べるものと葉っぱを食べるもの、そういう風に分かれています」
<テントウムシの雑学>
テントウムシの名前の由来をご存知でしょうか。テントウムシの語源は「お天道様(てんとうさま)の虫」、枝などに登って、先まで行くと上に飛び立つ習性があるため、「太陽、つまりお天道様に向かって飛ぶ、天道虫」となりました。
英語では「ladybug」や「ladybird」と呼ばれ、このladyは「聖母マリア」を意味するため「縁起の良い虫」とされてきました。日本でも海外でも、古くから人々に「好かれてきた虫」ということが分かります。「テントウムシが体に止まると幸せになる」などポジティブなジンクスも多く、そのためテントウムシをモチーフにしたアクセサリーなどは有名ブランドからも多く発売され、人気です。
そんな「みんな大好き、テントウムシ」は、実際に人間の役に立ってくれています。鈴木さんのお話にも出てきましたが、花や野菜に付いて栄養を吸い取ったり、病気やカビを媒介する厄介な害虫・アブラムシの天敵がまさにテントウムシで、アブラムシをもりもり食べてくれる益虫なんです。
最近では、テントウムシの背中に特殊な接着剤を塗り、一時的に飛べなくしてアブラムシの駆除をする方法もあるそうで、接着剤は2カ月ほどで取れてしまうため、役目を果たしたあとは自然に帰っていきます。
さらに、もっと壮大な分野で人間の役に立つことが期待されているんです。それは、なんと宇宙! テントウムシが柔らかい「後ろ羽」を折り畳んで、硬い「さや羽」の中に収納するメカニズムを東京大学が解明し、人工衛星のアンテナの展開方法に応用できるのではないかと期待されています。ほかにも、身近なところでは折り畳み傘や扇子の構造の改善にも活かせそうとのことなんです。
「ジミ」にこめられた想い!?
※鈴木さんも寄稿し、編集なども担当された新刊『博士の愛したジミな昆虫』、私も読ませてもらったんですが、まず、タイトルが面白いな〜と思ったんです。そこで、本のタイトルに込められた想いをお聞きしました。
●ジミな昆虫っていうこのタイトル、地味な昆虫がいるということは派手な昆虫もいるんですか?
「そこがいいポイントなんです。地味というのはタイトルを見て欲しいんですけど、実はカタカナで“ジミ”と書いてあって、そこに一応想いを込めています。色の派手とか、ちょっと茶色っぽかったら地味とか、地味にはそういう意味もあると思うんですけども、そうじゃなくて。
昆虫採取とか昆虫の研究というと、夏の時期ですとクワガタムシとかカブトムシとかオニヤンマを捕りたいとかあると思うんですけども、いちばん最初に言った昆虫の生態とか進化の研究をしようとすると、やっぱり数をたくさん集めてデータを取って、そういったプロセスが必要なんですね。
そういう意味では昆虫界のヒーローとかではなくて、本当に足元にいるような、身近な自然の中に暮らしているような昆虫を研究するのがやっぱりやりやすい。まだまだ分かっていないことが身の周りにたくさんあるんだよという意味で、カタカナで“ジミ”と、そういう風に表現しています」
●なるほど。この本の中には10人の昆虫学者の方々がそれぞれ愛した昆虫のお話を書かれていますけれども、鈴木さんはテントウムシの“すみわけ”について書かれていますよね? 登場するのがナミテントウとクリサキテントウというテントウムシなんですけれども、初めてこの名前を聞いたんですが、それぞれどんなテントウムシなんですか?
「ナミテントウの“ナミ”っていうのは普通っていう意味ですね、牛丼並盛りの“並”と同じ意味なんですけど」
●あの並ですか?
「そうですね。身近によくいるという意味でナミテントウという名前が付いていて、春先とかですと、いろんな木にいるアブラムシを食べています。よくいる身近な昆虫なんですが、その一方でクリサキテントウっていうのはちょっと珍しくて、栗崎さんっていう方がかつて発見した種類だから、クリサキテントウっていう名前になっているんですけども、ナミテントウが100匹捕れるとしたら、クリサキテントウは1匹くらいしか捕れない、そのくらいの差があります」
●写真で見ると見分けがつかないくらいそっくりなんですけれども、レア感が違うんですね?
「そうですね。全然レア度が違います」
●では棲んでいる場所とかも違うということですか?
「ナミテントウのほうはいろんな環境にいて、いわゆるジェネラリストと呼ばれているんですけれども、クリサキテントウは松の木にしかいないんですね。松の木っていうと赤松とか黒松っていう木があるんですけど、その松の木にだけ生息しているのがクリサキテントウです。特定の環境にしかいないということで、スペシャリストと専門的には呼ばれています」
●私たちがよく見るテントウムシと言ったらナミテントウになるんですか?
「そうですね。木の上にいるのはナミテントウが多いですね」
●別々の環境で暮らしているっていうことですよね。
「そうです。そういう風にして生息している環境が違うことを、“すみわけ”と呼んだりしています」
●よく似ているからこその“せめぎあい”とかもあったりするんですか?
「そうですね。私の考えだと似ているからこそケンカをしやすいと。ケンカが起きやすいので、だから実際にはお互い出会わないようにすみわけをしているところなんですけれども、その昆虫でいうケンカっていうのは具体的に別に殴りあうわけでもないんで、どういうことをしているかっていうのは是非本を読んで参考にしてほしいと思っています」
虫が教えてくれる!?
※鈴木さんは、「すみわけ」が生物の多様性が保たれているひとつのメカニズムだともおっしゃっていたんですが、生き物の世界では「すみわけ」していることが多いのでしょうか。
「“すみわけ“という現象はテントウムシ以外でも知られていて、例えば蝶々では、モンシロチョウの仲間とかでよく似ている種類が実は何種類かいて、それぞれの種類によって食べる餌、青虫が食べる葉っぱの種類が実は違うんですね。
そういった”すみわけ“っていうのは昔から知られていたんですが、どうしてそういった”すみわけ“しなきゃいけないのかというのが極最近、研究成果で分かってきていて、それも先ほど紹介していただいた本に、私とは別の研究者の方が調べた成果が載っているので是非読んでいただければと思います」
●虫たちがお互いに影響しあいながらバランスよく生きているっていう感じなんですね!
「そうですね。まさにそれが生態学の研究テーマの大きな部分です」
●テントウムシですとか昆虫の研究を続けられてきて、日々どんなことを感じられていますか?
「研究って簡単じゃない面もあるんで、なかなか研究が進まなかったりですね。自分の思い通りにいかないことっていうのは、研究だけじゃなくて人生そのものもそうかもしれませんけれども。でも、虫を観察していくうちに虫がアイデアのきっかけを教えてくれるというか、やっぱり人間の想像を超えた行動とか生態を虫が見せてくれるんですね。それがやっぱり研究の突破口というか、大きな新しい研究をスタートする大切なきっかけになって、そういう意味でもじっくり観察したいと思っています」
●例えば虫はどんなアイデアをくれるんですか?
「先ほどテントウムシの色の話をしていましたよね。僕もいろんな地域でテントウムシ、ナミテントウとクリサキテントウを捕ってきて、どういう模様をしているのかなと調べていたんですけれども、沖縄に行った時にある島で全然、他の地域と違う模様をしているテントウムシが同じ種類なんですけど、見つかったんですね。そういうのがきっかけで新しい研究のプロジェクトがスタートする、そういう風に進めています」
●同じ種類でも模様が違うことがあるんですね!?
「そうですね。所変われば品変わるみたいな感じです」
●へ〜! 面白い! 子どもたちも昆虫にどんどん興味を持ってもらえたらいいですね!
「そうですね。僕自身が昆虫少年だったんで、次世代の研究者、昆虫が好きな人が増えてくれれば嬉しいです!」
●私、正直、虫は苦手だったんですけれども、こうやって生きているんだ! っていう風に、この本を読んですごく虫に興味をもてました(笑)
「ありがとうございます」
●なので、是非女性にも読んでもらいたいなって思うんですけれども、今後の研究ですとか解き明かしたい昆虫の謎とかって何かありますか?
「僕は今高知県に住んでいるんですけども、本当に自然が豊かな場所なんで、地元のローカルな自然、足元の環境にいるようなそういった生物、虫たちを対象に研究したいと思っています。 でも別に、高知みたいな自然豊かな場所じゃなくても、都会のど真ん中でも昆虫って本当にいろんな環境にいろんな種類が生息しているんですよね。皆さん都会に住んでいる方も地方に住んでいる方も、そういった足元の自然、虫とか植物とかに目を向けて、是非自然観察を楽しんでほしいなと、そう願っています」
INFORMATION
鈴木紀之さん情報
『博士の愛したジミな昆虫』
鈴木さんも寄稿されたこの本をぜひ読んでください。鈴木さん含め、10人の昆虫学者がそれぞれの研究をもとに書いた面白い話が満載です。タイトル通り、ジミな昆虫かもしれませんが、想像を超える摩訶不思議な生態にきっと驚くと思います。岩波ジュニア新書シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは岩波書店のサイトをご覧ください。
◎岩波書店のHP:
https://www.iwanami.co.jp/book/b505831.html
鈴木さんの活動などはオフィシャルサイトを見てください。
◎鈴木紀之さんのHP:http://noriyuki.moo.jp/home/
2020/7/25 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「ふなばし三番瀬(さんばんぜ)環境学習館」の副館長「和田孝志(わだ・たかし)」さんです。
ふなばし三番瀬海浜公園の中にある環境学習館は三番瀬の魅力を体感しながら、干潟や環境について楽しく学べる施設だそうです。
きょうは副館長の和田さんに東京湾に残る貴重な干潟「三番瀬」の生き物や生態系、そして、工夫を凝らした新しいタイプの参加型ワークショップについてうかがいます。
☆写真提供:ふなばし三番瀬環境学習館
生き物たくさん、三番瀬!
※それではまず、どんな施設なのか、和田さんにうかがいました。
「当館は2017年からですから、3年ちょっと前に開館したばかりのまだまだ新しい施設なんですが、この施設がある三番瀬という場所、東京湾のいちばん奥にある一般の方が入れる干潟で、それが目の前に広がっている、海と環境について学べる学習館でございます。特に三番瀬という干潟と、そこに生きているいろいろな生き物についての展示がたくさんございます」
●屋外でのイベントですとか、ワークショップもされているんでしょうか?
「すぐ目の前が海でございますので、干潟に出て生き物を探したり、干潟に集まる野鳥ですね、たくさん野鳥が集まりますので野鳥を探したり、干潟ならではの植物を探したり、あとは夜になると東京湾、南のほうが開けていますので、星もよく見えるんですね。なので観望会なんかもやっています」
●日本の重要湿地500に選定されているんですよね?
「東京湾全体で湿地として登録されているんですが、この近辺は絶滅の恐れのある野生の動物が結構いますので、例えばコメツキガニであるとか、オサガニであるとかマメコブシガニですね。そういうものがこの干潟では結構普通に見られるんですね。
あとはシギやチドリといった渡り鳥なんかもたくさん来ますので、そういう意味でもかなり重要な場所だという風に考えています」
●ホームページを拝見したら三番瀬図鑑ということで、たくさんの生き物たちが載っていました。本当に様々いるんですね!
「そうですね。いちばん目につくのは鳥なんですけど、それ以外にも、干潟の砂の中にもたくさん生き物がいます。先ほどご紹介したカニの他にも貝、例えばアサリやマテガイなどの二枚貝、あとはよく釣りの餌に使われるゴカイの仲間、それからヤドカリやエビの仲間などもいますね。
そして冬になりますと、そういう生き物を食べるために渡り鳥がたくさん渡ってきます。東京湾の中でも野鳥観察で結構有名な場所で、特にミヤコドリと呼ばれる鳥は日本では三番瀬がいちばん多く見られるんじゃないかと思います」
●じゃあ1年中、いろいろな生き物を見ることができるということなんですか?
「そうですね。夏は干潟の生き物、そして冬は鳥の渡りが楽しめると、そういう場所になっています」
一度は消えた三番瀬!?
※いろいろ生き物が生息する貴重な干潟「三番瀬」には今の私たちがあまり知らない、こんな歴史があるそうです。
「随分昔、江戸時代の頭に、江戸幕府から特別に御菜浦(おさいのうら)という免許をいただきまして、ここで採れたお魚の類は全て江戸幕府に献上されていたという時期もありますね。
そのあとはやはり高度成長期に入って、海は一旦ちょっと汚れてしまうわけなんですが、実はこの三番瀬も一度干潟がなくなってしまったんですね。船が通るための航路を作るために掘り返されてしまいまして、なくなってしまったんですが、そのあと改めて埋め戻されて、野生の生き物たちが戻ってきたと、そういう状況です」
●本当に高度成長期に東京湾の干潟がどんどんなくなってしまっていますけれども、そういう意味でも三番瀬って本当に貴重な場所なんですね。
「そうですね。多分、東京湾の中で人が自由に出入りできる干潟としてもかなり珍しいと思います。三番瀬全体、広さとしてはだいたい1800ヘクタールぐらいあるんですが、この中に生きている生き物たちが、例えば貝類とか、そういう生き物が東京湾の水をろ過して、綺麗にしていますので、そういう意味でも東京湾の中で三番瀬の重要性というのは大変大きいものだと思います」
<干潟とは&日本最大、世界最大の干潟>
きょうは、ふなばし三番瀬環境学習館の副館長・和田孝志さんに、東京湾のいちばん奥に残る貴重な干潟「三番瀬」についてお話をうかがっていますが、そもそも干潟とは、干潮時に潮が引いて海底が露出する浅瀬で、河川などが運んできた土砂が、海岸や川の河口部などに堆積してできます。
日本の干潟の90%以上は千葉県より南の本州の太平洋側と四国、九州に分布し、沖合まで広がる「前浜干潟」と、河口内の静かな水域周辺にできる「河口干潟」、そして湾状の水域に形成される「潟湖(かたこ)干潟」の3つのタイプに分類されます。干潟には多くの水生生物が暮らし、魚の産卵場所になったり、孵化した稚魚が育つ場となっているほか、水中の有機物を分解するなど、水の浄化にも大きく役立っています。
川から有機物が運ばれ、海からはプランクトンが供給されるため、それを栄養に貝や小さなエビが育ち、それらは魚や海鳥の獲物になる、まさに「海のレストラン」状態、そして、この食物連鎖の過程で水や砂、泥に含まれる余分な有機物も分解され、「巨大な浄化槽」とも言うべき役割を果たしているんです。
ちなみに日本最大の干潟があるのは、ご存じ九州の有明海。福岡、佐賀、長崎、熊本の4県にまたがる大きな湾の沿岸部は、海苔の養殖やムツゴロウ、ワラスボといった珍しい生き物で知られています。先日の九州の豪雨で有明海にもかなりの流木やガレキが流れ込んでいるそうで、生態系や漁業への影響が心配されます。
一方、世界で最も広大な干潟があるのはドイツ、オランダ、デンマークの3カ国にまたがるワッデン海。総面積は有明海がおよそ188平方キロメートルなのに対し、こちらは1万1000平方キロメートルといいますから、ケタ違いです。
3200種類もの生き物が生息する自然の楽園で、干潮時には干潟の奥まで歩いて行ってアザラシの群れにも出会えるそうですよ。これは行ってみたいですね。
新しいワークショップ
※新型コロナの影響で、以前のようなワークショップは残念なんですけど、できなくなってしまいました。そんな中、環境学習館のスタッフの方たちのアイデアによる、工夫を凝らした新しいワークショップを今月からスタートさせるそうです。いったいどんなタイプのワークショップなんでしょうか。
「私たちは新しいワークショップの形として3つの提案をしております。ひとつはリアルタイム型のオンラインのワークショップですね。テレビ会議のシステムを使いまして、参加者の皆さんと私たちが直接、リアルタイムで繋がってやりとりをするという形のワークショップが、まずひとつございます。
当館は生き物の仕組みを知るためのワークショップなどをやっているんですが、お客さんはお客さんでお魚やエビや貝、そういうものを用意していただいて、私たちも同じものを用意して、手元で一緒に生き物に触りながら、その仕組みについて学ぼうというワークショップですね」
●リアルタイムだったらその場その場で質問なども受け付けていただけるんでしょうか?
「はい、もちろん途中途中に質問コーナーも挟みますし、お互いに相手の顔を見ながらワークショップができますので、ちょっと疑問に思ったこととか、あとは参加者の皆さんが“ちょっと見てみて〜!”っていう感じで、自分の、例えば魚やエビを画面上でアピールしたりだとか、そういうのを私たちが見ながら、それにお答えすることもできます。
その他にもオンデマンド型ワークショップという形で、これはYouTubeなどで動画をよく公開されているんですが、それと同じように私たちも、こちら側であらかじめ準備したコンテンツをYouTubeなどの動画サイトにアップロードして、それをご覧いただきながら工作などを楽しんでいただくというようなワークショップがございます」
●どんな内容なんですか?
「そうですね。この7〜8月は工作が多いんですが、レジ袋が有料化になりましてエコバッグが話題になっていますので、古着を使って簡単にできるエコバッグ作りを、まずはやろうと考えています。そして3つ目が野外ワークショップですね」
●それはどういったものなんですか?
「やはり三番瀬ですから生き物の観察をしたいわけなんですが、このコロナの環境の中でやはりたくさん参加者が集まってっていうのはなかなか難しいので、参加者にグループごとにトランシーバーを貸し出して、少し距離を保ちながら解説員がしっかりと解説をするという形で、自然観察を続けていこうという風に考えています」
●無線でやりとりをするっていうことなんですね?
「はい、そうです! 」
●確かにそれは距離も保たれながら、ちゃんと観察もできますね!
「やはり三番瀬に来ていただきたいという気持ちは、(当館のスタッフ)みんな持っているんですけど、不安なところもありますので、それを解消しながら、かつ今まで通り学びのチャンスを皆さんに差し上げたいなという風に考えています」
学びの提供、さらに
※新しいタイプの参加型ワークショップを作り上げるまでには、いろいろ苦労もあって、きっと大変だったのではないでしょうか。
「そうですね。当館も実は今年の2月の末から6月の頭まで施設を全部休館、職員も全員テレワークということで、(施設等の)管理に出てくることができませんでした。その間、やはりいろいろ私たち自身が干潟に出ることができないっていうストレスもあったんですね。そんな中で、ではどうやってこの環境の中でも、今までになるべく近い形でサービスを提供できるかと、打ち合わせを重ねまして、最終的にまずはこの3つでスタートしてみようという形になりました」
●いちばん心がけていることですとか、注意すべきところっていうのはどんなところですか?
「いちばん大切なのは、やはり私たちの施設の目的である学びの提供ですね。干潟について学んでいただくということを決しておろそかにしないこと。これを今まで通り、環境がどのように変わっても同じように提供していくと、それをいちばんの注意点としてみんな心がけております」
●自宅にいながら家族みんなで学べますよね!
「そうですね。特に今まで干潟って、海のそばですのでバスなども本数が少なく、なかなかお越しいただけなかった遠方の方からも、今回の新しいワークショップについてはお申し込みたくさんいただいています。距離に関わらず、海について、それから三番瀬について、環境について学べるような新しいチャンスが、ここに生まれたんじゃないかなという風に考えています」
●今後もっともっと新しい展開がいろいろと期待できそうですね!
「はい! これからもアイデアを尽くして、できるだけ元の環境よりもさらに進んだ形で皆さんにいろいろなサービスを提供できるように工夫していきたいなと思っています!」
INFORMATION
ふなばし三番瀬環境学習館 情報
「ふなばし三番瀬環境学習館」では、今月から新しい3つのタイプのワークショップを始めました。WEB会議のツールを使った「リアルタイム・オンライン・ワークショップ」、YouTubeに動画を公開する「オンデマンド・ワークショップ」、そしてトランシーバーを使った「野外ワークショップ」の3タイプ。
「クラゲランプを作ろう」や「生きもののしくみを知ろう」、「干潟の生きものを探そう」そして「天体観望会」など面白そうなワークショップが盛りだくさんです。参加方法など詳しくは「ふなばし三番瀬環境学習館」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ふなばし三番瀬環境学習館のHP:https://www.sambanze.jp/facility/museum/
2020/7/18 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、銚子海洋研究所の「宮内幸雄(みやうち・ゆきお)」さんです。
銚子生まれの宮内さんは、犬吠埼マリンパークの元スタッフで生物飼育のエキスパート。イルカやアシカのショーなども行なっていたそうです。在職中に地元の漁師さんから、銚子の海にはたくさんのイルカやクジラがいると教えてもらい、初めて漁師さんの船で沖に出たところ、800頭ほどのカマイルカに遭遇し、大感動! その後、休みをもらっては沖に出て、イルカやクジラの調査を続け、その種類と数に驚き、当時としては珍しいウォッチング・ツアーをマリンパークの仕事として始めたそうです。その後、独立し、22年前に銚子海洋研究所を設立。現在は奥様と二人三脚で、イルカやクジラを見るツアーを行なっていらっしゃいます。
きょうはそんな宮内さんに銚子沖で見られるイルカやクジラのお話ほか、来月から始める漂流ゴミの回収活動についてうかがいます。
☆写真提供:銚子海洋研究所
銚子の海はイルカ、クジラの楽園!?
※銚子沖ではどんなイルカやクジラが見られるんですか?
「今のところは20種類のイルカ、クジラは確認できているんですけども、特に銚子の場合はですね、種類から言ったらカマイルカとか沿岸性のスナメリという本当に小さなイルカとか、後はスジイルカとかマイルカとか、結構な種類が見られるんですね。大きなクジラになってきますとマッコウクジラ、ザトウクジラ、ツチクジラがだいたいメインですね」
●どうして銚子沖にそんなたくさんの種類のクジラやイルカが見られるんでしょうか?
「カマイルカとかスナメリとかマッコウクジラもそうなんですけども、銚子の海で出産して育児して、なおかつ基本的に銚子の海ってのは餌となる魚が多いんですね、豊かな漁場ですので。ですから出産した後、子育てをするにも、基本的にはイルカやクジラは母乳ですので、お母さんの母乳にも困らない、餌が豊富ですから。出産と育児の場でもあるということですね」
●ほかの海に比べて銚子の海は居心地がいいというような感じなんでしょうね?
「そうだと思うんですけどね。銚子っていうのは北からくる親潮、南からくる黒潮が向かい合っている場所なんですね。ですから極端にそんなに水温は高くないし、極端に低くもない温暖な海域ですので出産には適していると。なおかつ餌がそこは集まる場所ですので、餌も豊富だということで、結構彼らにとっては居心地のいい場所だと思うんですけどね」
1年中、出会える!?
※銚子海洋研究所で行なっているクルーズ船によるツアー、具体的にはどんなウォッチング・ツアーなんでしょうか。
「ウォッチングってひとくちに言いましても、イルカを見る場合と、大型のクジラをウォッチングする場合があるんですね。ですからイルカウォッチングとホエールウォッチングは期間が決まっているんですね」
●例えば、イルカだったらどんな感じですか?
「イルカですと、例えば今7月ですけども、6月から10月までは本当に目の前にスナメリというイルカがいるんですね。スナメリは沿岸性のイルカで、ご存知の方は結構います。例えばサーファーの方も結構見ているし、すごく近い場所にいるんですよ、定住しているんですね。
そのスナメリたちがほかの海域から集まってきて、銚子の海で出産するんですね。で、出産と育児に入るもんで、結構の頭数がここで見られるんですよ。特にこれから7月、8月はピークですね。そういう風にして今の時期だとスナメリを見ています。
11月から年明けの2月までは大型のクジラ、ホエール・ウォッチングに今度は変えるんですね。マッコウクジラとかザトウクジラとかツチクジラ、そういうのを見ているんですね。それがだいたい2月頃までで彼らも移動するんで、移動すると次に来るのがカマイルカというのが北の方から来ます。途中で出産したり銚子で出産したりします。そうすると3ヶ月は沖にいるカマイルカのウォッチングに入るんですよ。ですから1シーズンでだいたい今言ったように3パターンのウォッチングのシーズンがあります」
●ほぼ1年を通じて、クジラやイルカを見て楽しむことができるんですね!
「そうですね。特に2月、3月はイルカだけじゃなくて、キタオットセイが北のほうから越冬に来るんですね、子連れで。カマイルカと一緒にいます。ですから、そういうシーンもウォッチングすることができるし、2月、3月は寒そうなイメージがありますけどね。やはり自然の海ですから、我々もこの自然の海にお邪魔するわけですから、多少寒くても楽しいですよ!
今言ったカマイルカって種類、北から来るのがだいたい毎年3月あたりから始まるんですけども、多い時には1,000頭います。この銚子海洋研究所を始めてもうかれこれ22年経つんですが、当初の頃は結構多かったですね。多い時は3,000頭くらいいました。もうね、凄いですよ(笑)。海にバーッと船で出て“あ、いた!”って言うじゃないですか。で、(船で)バーって行くともう群れに入っちゃう、群れに囲まれちゃう感じですね」
<イルカ・クジラの基礎知識>
突然ですが、イルカとクジラの違いって、ご存じですか? どちらも海で暮らす哺乳類ですが、全長がだいたい4メートルより大きいものがクジラで、それより小さいのがイルカ、そう、違いは体の大きさだけ、なんです。
クジラもイルカも「クジラ目(もく)」に属し、「ヒゲクジラ」と「ハクジラ」に分けられて、ハクジラのうち全長4メートル未満のものがイルカなんです。ただ、4メートルより大きいシロイルカやシャチもいるので、そこまで厳密に決まっているわけではないみたいです。
ヒゲクジラは口の中のヒゲ状のものでプランクトンなどをこして食べていて、地球上最大の生き物とされるシロナガスクジラなどがいます。一方、ハクジラはその名の通り歯があり、魚やイカなどを食べます。現在、確認されているクジラ目は84種類で、日本周辺の海にはこのうち40種類ほどが生息しているようです。
きょうのゲスト、銚子海洋研究所の宮内幸雄さんのお話に出てきた、銚子沖でよく見られるザトウクジラ、マッコウクジラ、ツチクジラ、スナメリ、カマイルカのうち、ザトウクジラ以外はハクジラです。
ザトウクジラは胸ビレが特に大きいのが特徴で、「ブリーチング」と呼ばれる大きなジャンプをします。マッコウクジラは潜水が得意で、水深1000メートルくらいは平気、およそ1時間も息つぎせずに潜っていられるんだそうです。
ツチクジラは口の部分が比較的長く、ふくらんだ頭部と小さな背びれが特徴。スナメリは背びれがなく、なめらかな体つきの白っぽいイルカ。そして、背びれが草を刈る「鎌」の形に似ていることから、そう呼ばれるカマイルカは群れで生活し、ジャンプなどアクロバティックな動きをよくするそうです。
水族館で見るイルカたちも本当にかわいくて大好きですが、実際に銚子の海でイルカやクジラを見ることができたら、きっと感動するでしょうね〜。
クジラに赤いロープが・・・
※宮内さんは来月から海に漂うゴミを回収する活動を始めるそうです。何かきっかけがあったのでしょうか。
「今までは確かに海に出ても、ちらほらとゴミははっきり言ってよく目にしていました。その時は目の前にイルカやクジラがいると、どうしてもチラってゴミがあったとしても、目の前にクジラやイルカがいると、ドーッて船で行っちゃうわけですね。ついついそういうことを見過ごしたっていうか、そういうことだったんですけども。
実は去年の11月、ホエール・ウォッチングが始まるっていう時に、ウォッチングに出たんですよ。お客さん何人かいましてね、普通に(船で)バ〜ッて行ってその海域に着きました。その時に、プシューってご存知のようにクジラですからブロー(息継ぎ)をするのが見えたんですね。あ、クジラだ! っていうことで船を近づけたところ、なんかそのクジラがおかしいんですよ。
おかしいっていうのは頭から首にかけて何か赤いんですね。ツチクジラっていうクジラなんですけども、何かいつもの彼らの動きじゃないんですね。どうも変だなってことで、船をどんどん近づけていくと、おっと待てよ、ロープじゃないかと、本当にもう太いロープですね。ツチクジラって大きさが10 メートルから 12 メートルあるんですよ。それを首に巻いているもんで、相当太いロープなんですね。
それを見て肝心のクジラもね、泳いではいるんですけども、潜ってはすぐ浮上、潜っては浮上、もうゆらゆら泳いでいるわけですよ。どう見てもちょっと泳ぎがおかしいと。俺も22年、海に出て水族館時代から入れたら、かれこれ30年近く見ていますけども、初めてですね。人間の出したものが動物に付いているとか、なんか不都合なことを起こしているっていうのを初めて見たもんで、これはちょっとなぁってことで、本当にショックでしたね。
その帰りの道中に思いましたね、これじゃいけないなと。本当にあんな大きなロープは別にして、よく見たら昔からゴミ浮いてんじゃねえかと。自分はこれまで海に生かしていただいていますので、イルカやクジラをウォッチングして、自分だけいい気持ちになって帰ってきていいのかな? っていうことをしみじみ考えながら帰ってきました。
よしこれはもう何かしないといけないということで、自分たちでできること何かなって考えたら、浮いているゴミすくえばいいじゃん。少しでもすくえば、少しでもね、微々たるもんですよ。ただそうすることがやはり陸上にも流れ着きますからね。ですから、そのクジラのロープの一件以来、自分を本当に思いっきり起き上がらせてくれましたね。
22年、水族館時代からいれたら30年、自分は本当に海にお世話になって、海でずっと生かしてもらっています。ですから、その思いだから今度は逆に少しは恩返しじゃないですけども、できることはこれからやっていこうと、自分のこれからのライフワークです」
見る、知るは大事!
※最後にゴミの回収活動の具体的なお話をうかがいましょう。今後、どんな風にやっていくのでしょうか。
「まず月に1回はゴミの回収日っていうのを決めます。その回収日に事前に参加者を募集して、特に考えているのは親子ですね。お父さんと子供さん、お母さんと子供さんっていうような親子を対象にしているんですね。
やはり子供たちにも実際、海に出てこんなゴミがあるっていうことを知ってもらうことも大事だし、このゴミがどこから来たのかっていうことを子供たちが考えてくれればいい。またお父さんお母さんが一緒に(ゴミを)すくうっていうことは、とても大事なことなのかなと思います。月に1回のペースでだいたい回収日を決めてあります。イルカ・ウォッチングとかクジラ・ウォッチングの時でもゴミがあったらすくうということですね」
●ゴミをどのようにしてすくうんですか?
「すくいかたっていろいろ考えたんですけど、最終的に行き着いたのはオーソドックスな玉網ですね。よくあるじゃないですか、普通の網。あの網も地元にそういう魚網の会社があるんですね。それを作って販売しているところもあるもんで、相談かけに行きまして、結局ちょっと大きいんですけども、それを決めて10本ほど用意しました。
親子で一組という風にしてだいたい20人、本当はもっと乗せたいんだけども、やっぱり網を使ったりゴミを拾いますのでスペースの問題もあるし、ちょうど今やはりコロナの問題で船を満船状態にできないもんですから、あくまで20人っていうのを目処にやっております。
もちろん支援してくださった方々にも投げかけます。もうこれは長いスパンでやりますので、機会があったらそういう支援者の方々も来ていただいて、実際見てもらうということも考えています。
見る、知るっていうことは大事ですね。陸上でよくみなさんゴミを出さないようにしようとか、ポイ捨てをしないようにしようとか、もう基本ですよね。みんなができることっていうのは、やっぱり今言ったゴミをぽい捨てしないとか、必ず処分するとかっていうことが基本なんですけども、やはりそういうことしていてもゴミって出るんですね。その出たゴミっていうのは陸上で処分される場合もあるし、中には回り回って海に出ちゃう場合があります。その出た場合のゴミっていうのはこんなもんだよと、みんなが気をつけているゴミでもこういう風に出ているよってことで、より一層みんなが考えて感じてくれればいいなと思っています」
●ひとりひとりが意識するだけでだいぶ変わりますよね。
「だいぶ違うと思いますね。今世の中の風潮がそうじゃないですか、やっぱり環境ってなってくるとみなさん本当に真剣に考えていますし、自分だって遅いくらいですよ。気がつくのが遅いくらいです。海に散々出ていて、なんだ今更ですけども、でもやっぱり気がつかしてくれましたね。クジラが」
INFORMATION
銚子海洋研究所 情報
銚子海洋研究所では、休止していたウォッチングツアーを再開。感染予防のために、乗船する人数を減らして行なっているそうです。この時期はすぐ近くで見られるイルカのスナメリを見るツアーを主に実施しています。
ウォッチング船の運航情報や料金、そして漂流ゴミの回収活動など、詳しくは銚子海洋研究所のオフィシャルサイトをご覧ください。
また、銚子海洋研究所には宮内さんが「世界一ちっちゃい」とおっしゃっている水族館があります。銚子の海で採取したクラゲや小さな海洋生物を展示、そしてタッチング・プールにはヒトデやナマコなどを飼育し、触ってもらっているそうです。マンツーマンで生き物の解説をしてくださるそうなので、子供たちにも大人気だそうですよ。
◎銚子海洋研究所のHP:https://choshi-iruka-watching.co.jp
2020/7/11 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、エッセイストの「森下典子(もりした・のりこ)」さんです。
森下さんは神奈川県生まれ。日本女子大学・文学部卒業。週刊誌の記事を書く仕事を経て、1987年に作家デビュー。2002年に出版した『日日是好日』が大ヒット! 2018年に映画化され、森下さんの役を黒木華さんが演じ、また、茶道教室の先生を演じた樹木希林さんの遺作となったことでも記憶に残る作品となりました。
きょうはそんな森下さんに茶道と自然、そして茶室で感じる季節の移り変わりのお話などうかがいます。
イメージは絵巻物!?
※森下さんが『日日是好日』、その続編『好日日記』に続く、第3弾『好日絵巻〜季節のめぐり、茶室のいろどり』を出されました。前2作との違いは、どういうところなんでしょうか。
「視覚的にお茶の魅力をお伝えしたかったんですよ。本当にお茶室って美しいものがたくさんあるので、是非それを皆さんにお伝えしたいと思って。それと私、子供の時から絵を描くのがすごく好きだったので、それで絵を描いてみたかったんですね」
●ではやはり、タイトルが示すように“絵で読ませる”というのが特徴なんですか?
「そうですね! 絵巻物を描きたいというのが最初のイメージだったんですね。それで、絵巻物をさーっと広げると、お正月から春になって、夏になって、秋になって、だんだんと季節が変化していく・・・お茶の花もそうなんですけど、お菓子とかお道具って、その季節によって色合いが変化していくんですね。その色合いの変化を絵巻物にしたら、1年の色の変化っていうのが見えてくるんじゃないかと思ったんです。でも流石に巻物だと本屋さんに置けないでしょ(笑)。だからそれで本にしたんです」
●まさに絵巻物のようでした。本当に美しくって! 先ほどお話にもありましたけれども、季節ごとに描かれていまして、春は光から始まる、夏は水の美しさ、秋は透き通った風を聴く、冬は火を見つめるということで、本当に茶室の中の移りゆく季節っていうのを感じることができました。
「ありがとうございます! 小尾さんはお茶をなさったことはあります?」
●高校の時に少しやっていました! こんなに季節を感じられる場所ってなかなかないですものね。
「そうなんですよ。お茶室っていうのは本当に広くても8畳、それから小さいところでしたら、4畳半くらいのお部屋だったり、中には2畳くらいのところもあるんです。とっても小さいお部屋なんですけれども、小さいからこそね、さっと小窓を開けた時とか、障子戸を開いた時とか、そこから見える、本当に切り取ったような茶庭の小さな景色の中に季節感が本当に見えるんですね」
茶道から学べること
※森下さんは20歳の時に、お母さんの勧めで茶道を始めました。最初は、気乗りはしなかったそうですが、お稽古に行ってみたら、こんな発見があったそうです。
「私はお茶っていうのは日本のとっても古臭い行儀作法なんだろうって想像していたんです。ところが行ってみたら、なんて言うのかな? そこに私の知らない日本があったというか、日本じゃなかったというかね、本当に知らない日本があったんですよ。知らない世界ばかりで、お道具もそうですし」
●やはり茶道で学べることってお作法だけではないですものね。
「まさにそうで、私は茶道っていうのはそもそもお茶のたてかたを教えてもらう場所だと思っていたんですね。あと行儀作法とか、そういったものを教えてもらう場所だと思っていて。ところが実際習ってみたら、茶っていうのはそういうことじゃなくって、季節の移り変わりの中に身を置くっていうことの訓練。それから日常から自分を切り離して、今の瞬間を味わうという訓練。実はそういうことだった気がするんですね。
あともうひとつね、ものを習うということはどういうことかっていうことをすごく最初に感じました。つまり学校で何か習う時の習いかたとは違う、分からないことがあったら質問しなさいって、私たちは教育されてきたわけですけど、そういうことじゃなくって、とにかく自分を相手に対してオープンに開いて、言われることを受け止めて、そして繰り返していくんですね。それがなぜそうするのかっていう質問はできないんですよ。しても答えが返ってきても分からないんですよ(笑)。長い間やっていくうちに、本当に長い時間をかけて、こういうことだったのか!ってことが分かってくるんですね。
そうなって初めて、ものを習うって結局何も知らない自分を知ることなんだなと思って、それがとっても気持ちいいんですよ。大人になってこんなに何も知らない自分を恥ずかしげもなく人前にさらせますか? だって歩きかたから何もかも教えてもらって、左の足から入りますとかここで一礼しますとか、そこはお隣に先にお辞儀しなさいとか、もういちいち言われるんですよ(笑)」
●そうですよね!(笑)茶道をやっている時って、本当に茶道以外のことは何も考えられないというか、悩みごとがもしあったとしても、その時は何も考えられないというような、夢中になれますよね。
「そうですね。他のことを考えられないように作られていると思います。何でこんなにまで細かい決まりがあるのかなと思うんですけど、それって結局、他のことに心がいかないようにわざわざ、がんじがらめにされているんじゃないかなと思うんですよ。
そうすると何がいいかっていうと、私たちは生きている間にものすごくいろいろな、不安であるとか心配であるとか、そういうことで心が揺れますよね。何かに心を集中しようと思っても集中って難しいんですよね。だけどお茶をやっている時って、そういう細かい決まりがあまりにもたくさんあるので、集中せざるを得ないんですよ」
おぼんの上に天の川!
※新刊の『好日絵巻』には、森下さんが七夕というテーマで描いた「星のしずく」という、サイコロ型のとても可愛いお菓子の絵が載っています。その絵にまつわるエピソードを話してくださいました。
「その絵を描く時に、その“星のしずく”っていうね、銘もすごく可愛い銘なんですけど、小さいサイコロみたいな形でしょ。で、いろんな色が入っていて、ちょうど七夕の短冊の色みたいで本当にこの季節って薄ぼんやりと空が霞んでいて、その向こうに天の川が見えるでしょ。そこに星があって、らくがんで作ってあるんですけども、お菓子の淡い色合いがすごく綺麗だなと思うんです。
実は私、色が綺麗に映えるようにと思って、黒いおぼんに絵を描いたんですけど、そのお菓子が出てきたおぼんが素晴らしかったわけ。黒い塗りもののおぼんの真ん中に金粉でふわーって天の川が!」
●えー! 素敵〜!
「そうなんですよ〜! もうね、そういうところがね、お茶の素敵なところなんですよ」
●やはり季節感も和菓子から感じとれるっていうことですよね。
「そうなんです!」
●目で楽しめますね!
「いちいちね、菓子器の蓋を開けた時とか、それからお茶をたてる時、なつめ(*)の蓋を取った時、それからお茶が出てきて、お茶をいただいて最後まで飲みきって前に置いた瞬間に、そのお茶を飲み終わったお茶碗の底に、例えば秋だったら落ち葉が一枚とかね、それから春だったら舞い散った桜の花びらが一枚とか描かれていたりするんですよ」
(*)抹茶を入れておく容器
●いや〜素敵ですよね、いいですね〜。
「そういうところがね、魅力なんです〜!」
匂いや音も楽しむ
※お茶室に入って、お茶をたてる一連の流れの中で、いちばん好きな瞬間はどんな時なのでしょうか。
「私すごく好きなのは、茶筌(ちゃせん)通しっていうところがあるんですね、お茶碗の中にお湯を少し注いで、その中に茶筌を浸して、中で茶筌を動かして。ひとつにはお茶碗を温めること、もうひとつは茶筌の穂先を柔らかくすること、そういう意味があると思うんですけども。
茶筌通しをして、その茶筌をちょっとお茶碗からぐるーっと回しながら、穂先が折れていないかをチェックするんですけど、上に回してあげながら目の前まで持ってくるシーンがあるんですよ。茶筌って竹でできていて、私が習っている流派は黒竹でできているんですね。その黒竹の茶筌はお湯で湿っているでしょ。竹の匂いがするんです。その瞬間が何かすごく好きですね。
あとね、ちゃんとお点前(おてまえ)できるかなーって思いながら(お稽古に)行って、座って最初に蓋置を置いて、それで柄杓(ひしゃく)を構えるんですよ。その竹の柄杓を置くときに、コトンって小さい音がするんですね。そのコトンって音がした時に、“大丈夫、ずっとやってきたじゃないか“って言われた感じがするんですよ。自分を信じなさい、みたいなね、そんな感じがするんですね。すごくその時が好きですね」
●茶道って本当に目でも耳でも、五感すべてを使っている感じがしますよね!
「そうですね! 私たちも日常的にお湯を沸かしてお茶を入れてますけど、茶道は本当に火を起こすっていうところから始まって、お湯を沸かしてお茶をたてるわけです。いちいち火の起こり具合とか、茶碗の温まり具合とか、そういうことに五感を使って確かめながらやっていくんですね。今の現代人の日常生活の中ではそれもうないでしょ!? うちとかはIH(コンロ)なのでピピピってやって火加減とか(笑)。でも昔の人はそれを全部肌で感じながらやっていたんですよね。それをお茶をやることで、そういう人間の皮膚感覚で何かを確認しながら、お茶一杯でも入れていく、そういうことを取り戻せるような感じがしますね」
野の花一輪で部屋に季節が!
※茶道を始めて、日々の暮らしの中で、いろんな変化があったのではないでしょうか。
「私がすごくそれを感じるのは、野の花をたくさん覚えたんですね、茶花っていうのは山野草なので。今まで私はお花はすごく好きでお花屋さんに行って、よくお花も買いましたし、知っているつもりだったんですよ! ところがね、お茶を始めて何も知らないっていうことが分かったの、もうね、全然違う花の世界なんですよ!
生け花とも違うんですね。生け花だと枝を溜めたりするでしょ。そういうことはなくて、本当にただ野に咲いているままに見えるように、採った花を花入れに入れる。本当にもう投げ入れたように入れるっていうのが茶花なんですね。
それによって毎週、今まで知らなかった花の名前、そういえばこんな雑草が生えていたな〜みたいな感じの花まで全部名前を覚えたんですね。そしたら道を歩いていても、たくさんのいろんな花が目に飛び込んでくるんです! だから自分の足元の世界が変わりましたね。
実は『好日絵巻』の中にヒルガオの絵があるんですけども、あれも実は籠(かご)は人に頂いた和菓子が入っていた籠なんですよ。その竹籠の中にヒルガオを採ってきて挿して、ツルをグルグルって巻いたんですけど、そのヒルガオなんて本当にどこにでもある花なんだけれども、それを花としてそこに入れてみると、部屋の中に季節が入ってくるんですよ。他に何もない部屋の中でも花が一輪あるだけで本当に季節が入ってくる」
●そうかもしれませんね!
「だから私、本当によくお勧めはありますかって言われるんですけど、お茶をやってみたいと思ってもなかなかお仕事が忙しかったり、すぐにお茶を始められない状況にあるってことあるでしょ? それだったら例えば、お茶を買って茶筌1本だけ用意して、後はカフェオレボールでもなんでもいいです。それでお湯を沸かしてお茶をたてて飲んでみてください。そこに是非! 野の花を一輪、それをテーブルの上に飾ってくださいってお話しているんですよ。それだけで季節が入ってくるし。
で、和菓子ね、和菓子はまさに今の季節というものが描かれているわけなので、そうするとこの季節ってこんな綺麗なものがあったんだって思えるんですよね〜」
●日々ワクワクが増えそうですね。
「よく私たちは簡単に日本には四季があるからって決まり文句のように言いますでしょ? だけど“四季“じゃないんですよね、4つじゃないんですよ。本当にたくさんの季節があるんですね。季節に詳しくなるってことは日本に詳しくなるってことですよね」
●では最後に改めて、森下さんにとって“茶道”とはなんでしょうか?
「自分に会いにいく時間みたいな感じ。お点前中にそっと何か自分に話しかけてくれる自分が寄ってきたりする時があるので、そういう自分と対話のできる時間を持つためにお茶にいくって感じですね」
INFORMATION
『好日絵巻〜季節のめぐり、茶室のいろどり』
『日日是好日』、その続編『好日日記』に続く、第3弾。視覚的にお茶の魅力を伝えたかったという森下さんご自身が描いた、茶室の中のお花、道具、お菓子など、73のイラストと心に染みる言葉がとても素敵です。ぜひ見て、そして読んでください。
パルコ出版から絶賛発売中です!
2020/7/4 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、北海道大学大学院・教授の「増田隆一(りゅういち)」さんです。
増田さんは1960年、岐阜県生まれ。北海道大学大学院からアメリカ国立がん研究所を経て、現職の北海道大学大学院・理学研究院・教授としてご活躍中です。先頃出版された『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』という本では全体の構成なども手掛けていらっしゃいます。
きょうはそんな増田さんに北海道に生息するヒグマの生態や森との関係性、そして私たち人間がヒグマを通して考えるべきことなどお話いただきます。
*写真協力:知床財団・山中正実、増田隆一
隔離された島に数千頭!?
※ヒグマは北海道には何頭くらいいるのでしょうか?
「正確には推定できていません。しかし毎年、有害獣駆除、町の中に出てきて人に危害を加えるのではないかということでハンターによって捕獲されることもありますし、農作物の被害で駆除されることもありますし、狩猟獣ですのでハンティングされることもありますけれども、そういうものを含めると去年ですと900頭以上捕獲されています。実際にはその数倍以上は北海道に生息しているのではないか、という風に考えている研究者もいます。ですから数千頭ですね。
北海道って言いますと北の大地ということで、日本では広大な地域だという風に思われていますけれども、世界地図を見てみますとヒグマは北半球に広く分布していまして、大陸から見ると狭い分布域なんですけれども、その中に、隔離された島の中に数千頭のヒグマがいるということは世界的に見ても非常に密度の高い地域になります」
●ヒグマって1年をどのように過ごすのですか?
「夏の間は山を巡ってですね、しょっちゅう食べ物を食べています。だいたい冬の12月から3月ぐらいまで北海道は雪で覆われるんで、その間は餌を捕るのは非常に難しい時期になりまして、穴を掘ってヒグマは冬眠をします。他の動物は冬眠をしない動物もいるんですけれども、ヒグマは冬眠をするという、そういう道を選んだ動物です」
●繁殖行動は夏になるんですか?
「そうですね。交尾をするわけですけれども、オスとメスは単独で生活しているんですが、オスはメスを求めて6月から7月くらいに交尾行動をとります。その後ですね、オスとメスは分かれて生活しまして、オスもメスも冬眠するんですけれども、この冬眠中の2月くらいにメスは穴の中で出産します。ですから完全に眠っているわけではなくて、穴の中では起きて出産と子育て、母乳を与えているので、冬眠というよりかは冬籠りという風に言ったほうが正確かもしれません」
ヒグマの食生活!?
※写真や映像でヒグマが川に入り、サケを捕まえているシーンを見たことありますよね? やはりヒグマの好物はサケなんでしょうか。
「そうですね。もちろんサケがいるところじゃないとサケを食べることはできないですけど(笑)。北海道でもサケとかマスが秋になると川を遡上してくるのは、北海道の東部に限られることが多いんですけれども、そういうところでは自然環境も保護されていますし、人もほとんど立ち入らないような、国立公園とかそういう地域では浅い川をサケが産卵のために遡上してきますので、それをヒグマが捕獲して食べるという、そういう光景があります。
それはそういう地域で、かつ、夏の終わりから冬の初めにかけて、秋を中心とした時期ですけれども、それ以外の地域とかそれ以外の時期にはサケはいません。実はクマは肉食性の食肉類って分類されているんですけれども、肉だけではなくてアリとか、それから土の中にいる小さな昆虫を食べたり、それからドングリとか、それからふきですね。ふきのとうのふき、そういうものを食べたり、秋には山ぶどうとかありますので、そういう木の実を食べたりしています」
●そうなんですね! もうサケのイメージが強すぎて、(笑)そういったものも食べるんですか。
「だから平均的に見ると植物性のものを食べていることのほうが多いと思います」
●ヒグマが生活できているということは、そこの場所はすごく豊かな自然があるということなんですか?
「まさにそうです。ヒグマが食べることのできる植物が多様に繁殖していたり、それから昆虫がたくさん見られるような環境、それからサケとかマスがたくさん遡上してくるような、そういう環境がないとヒグマも生活できないということです。
ヒグマが生活できる環境があるってことは非常に自然豊かで、その下ではいろんな生物が多様に生活することができるということで、傘種。種っていうのは生物の種っていうことですけども、英語では傘のことはアンブレラ、種のことはスピーシーズって言いますので、アンブレラ・スピーシーズという風に生態学では呼ばれることがあります。
それはヒグマに限ったことではなくて、この『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』の中にも書かれていますけれども、北海道にシマフクロウという大型のフクロウがいるんですが、そのシマフクロウが生活できるような環境では、いろんな生物が生息できるっていうことで、シマフクロウもアンブレラ・スピーシーズという風に呼ばれています」
<世界のクマ>
さて、日本にはヒグマとツキノワグマの2種が生息しています。ヒグマは北海道のほとんどの森林にいて、大人になると体長2メートル前後、体重は200キロ以上ということで、その巨体を維持するために、とにかくよく食べる! 冬眠前の秋には1日40キロも食べるそうです。
一方、本州と四国に生息するのはツキノワグマ。かつては九州にもいましたが、絶滅した可能性が高いとされています。こちらは体長が1メートルちょっとで、平均的な体重はオスが80キロ、メスは50キロ程度です。毛の色はヒグマが茶色に対し、ツキノワグマは黒。胸に三日月のような白いマークがあるのが特徴です。主食はヒグマと同じく植物で、昆虫や蜂蜜、魚や動物の死骸も食べます。
世界には、日本にいるヒグマとツキノワグマを含め、全部で8種類のクマが確認されています。最も大きいのは北極圏に生息する地上最大の肉食動物・ホッキョクグマで、次に大きいのがヒグマ、そして最も小さいのは東南アジアにいるマレーグマです。
そして、忘れちゃいけないのがジャイアントパンダ、現在は中国南西部・四川省などの標高の高い地域に生息していますが、かつてはベトナムやミャンマーにもいたとされています。竹やタケノコばかり食べているイメージがありますが、野生では鳥や小型の哺乳類なども食べるんだそうです。
このほかには、北米大陸のアメリカクロクマ、インド東部やスリランカに生息するナマケグマ、そして南米大陸にはメガネグマがいて、これら全て日本の動物園で見られます。「クマのいる動物園」をまとめたサイトもあるので、気になるクマがいたら、会いに行ってみてはいかがでしょうか?
ヒグマに遭遇したら・・・!
※北海道の知床半島では、ヒグマとの共存・共生がうまくいっているそうです。それはどうしてなんでしょうか。
「行政の環境省とか、それから知床には知床財団という財団がありまして、そこにクマの生態に詳しいスタッフがいます。一方で知床半島は観光地にもなっていまして、観光客も毎年大勢が訪れます。で、自然の中に入っていくわけですけれども、その時にクマに出会わない対策を事前にレクチャーして、それを学んだ後、自然の中に入っていくというエコツアーもあるんです。
ただ単に自然の中に入っていくだけではなくて、事前に自分は自然の一部なんだっていうことを学んで、そして自然の中に入っていって、自然を観察すると、そういう学習がしっかりされているということで、ヒグマと出会っても事故が起こらないと」
●なるほど! 学んだ上で自然の中に入るんですね。ちなみにもしヒグマに遭遇したらどのようにしたらいいんですか?
「私も遠くから見たことはあるんですけども、近くでは出会ったことないので、出会わないってことがいちばん大切です。そのためには鈴を鳴らしたり、時々大声を出したり、それからラジオを大きな音量でかけて、私がここにいるということをクマに知ってもらうために音を出して対応するということが重要であるっていう風に考えられています。
で、もし出会った場合は慌てて走って逃げることは絶対しないという風に言われています。少しずつクマの目を見ながらクマからゆっくり離れるということが重要です。で、自分が思っているものを、例えばタオルとか帽子とかリュックサック、そういうものを自分の身から離して、タオルは置き去りになりますけれども、そのタオルにクマが気をとられている間に自分自身は少しずつクマから離れていくということが大切であるという風に言われています」
ヒグマとサケが森を育てる!?
※ヒグマがサケを食べることで森が育つという話を聞いたことがあるんですが、どういうことなんでしょうか。
「サケは元々は川で産卵して、その卵が孵化して海に戻っていって、数年かけて海で生活して成長してまた川に戻ってきます。だからサケは海の恵みを受けて成長するんですけれども、その成長したサケが川へ遡上してきた時に、今度はヒグマがサケを捕獲して食べることになります。
そのサケの肉なり消化物が、クマによって山の中に運ばれて、それが排泄されると、その排泄されたものは山の中で分解されて、それが植物の栄養素になっていきます。それによって木とか草がまた成長していくということで、海の栄養素が山に移動するんです。
それがサケとヒグマ、食べる食べられるの関係にありますけれども、それによって物質循環が海から陸地の山に循環していくということで、ヒグマの存在、それからサケの存在は非常に重要であるということになります」
●今後、私たちはヒグマとどのような付き合いかたをしていくべきでしょうか?
「クマとの付き合いっていうのは自然との付き合いと言い換えることもできるんですけれども、ヒグマとはなにかっていうことを考えることが重要という風に思います。ヒグマだけではなくて自然とはなにかということを考えることによって、私たちが自然の中でいかに生きていくか、いかに共存していくかという道が開けてくると思います」
INFORMATION
増田隆一さん情報
『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』
増田さんが編集も手掛けた新刊『ヒグマ学への招待〜自然と文化で考える』は、ヒグマを学問ととらえ、動物や生物の視点だけではなく、歴史や文化などあらゆる側面からヒグマを探求していて、その道の専門家が原稿を寄せた、まさに「ヒグマ学」といえる充実した内容になっています。
北海道大学出版会から絶賛発売中です! 詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎北海道大学出版会のHP:
http://hup.gr.jp/modules/zox/index.php?main_page=product_book_info&products_id=992
2020/6/27 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、伊豆大島在住のネイチャーガイド「星野修(ほしの・おさむ)」さんです。
星野さんは1966年、新潟生まれ。都内でデザイナーとして勤務後、93年にダイビング・インストラクターのトレーニングのため、通っていた伊豆大島へ移住。水中ガイドとして勤務したあと、2004年に独立し、現在はネイチャーガイドとして活躍中。毎日フィールドに行き、年間500本以上の潜水観察と撮影。これまでに2万本は潜っているそうです。ご本人曰く“ほとんど塩漬け状態”だそうです。
そんな星野さんが先ごろ『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』を出されました。この図鑑には伊豆大島の海で撮影した、ほんとに小さな生き物たちの写真が満載です。
きょうはそんな星野さんに、風変わりな生き物やとても不思議な生態を持つ海洋生物のお話などうかがいます。
*写真協力:星野 修
毎日が発見! だから楽しい!
※海の中で、小さな生き物の写真を撮るのは大変じゃないですか?
「そうですね。生物自体はそんなに珍しいものを撮っている訳ではないんですね。小さいのは3ミリとか3ミリを切るような生物たちが多いので、なかなかみなさん、目に入らないとは思うんですけども、普段目の前で生活している生物ばかりなので見つけること自体は全然大変じゃないんです。逆に撮影し始めると、ものすごくピントというかフォーカスが難しいんで、そこはきちんと撮らないと、と思っているんですけれども」
●これだけ多くの生き物たちを撮影するって結構時間もかかると思うんですけれども。
「けっして珍しい生物ではないので、ものすごくたくさんいる生物はもう数千匹はいます。見つけるのはそんなに難しくないんですけど、3〜4年くらいはかかったと思います」
●この図鑑には何種類、載っているんですか?
「250種類くらい紹介しています」
●250種類を3〜4年かけて撮影された訳ですね!
「それでも、大島には認識しているだけで1000種類以上の生物が見られるんですね。毎日潜っていますけれども、毎日新しい生物に出会っているって言ってもおかしくないぐらいで、まだまだ見てない生物のほうが多いので、そこはもう毎日が楽しくてしょうがないですね!」
●へー! 毎日が発見ですね!
「そうですね」
●そもそもどうして、この小さな生き物たちにフォーカスするようになったんですか?
「海洋生物って1割くらいしか分類されていないっていう意見が多いんです。生物の9割以上は小さいって言われる生物なんですね。そう考えるとほとんど小さい生物って言ってもいいくらいだと思うんですよ。
これは最近気づいたことですけど、大きい魚や綺麗な魚を見ているのも楽しいですけど、どんどん新しい生物に出会って、人間では考えられないような生態とかそういうのに出会うともっともっと知りたくなりますね」
海の中のお花畑
※続いて「星野」さんが先ごろ出された『海の極小!いきもの図鑑』に載っている海洋生物について。
●私がこの図鑑を見て気になったのは10ページにあります“岩壁を彩る生物”ということで、本当にカラフルなんですよね! サンゴにカラフルなゴカイの仲間が点在していて、お花が咲いているのかなーって思うようにぎっしりと埋め尽くされていて、これもすごく素敵でした。ポップで可愛らしいなと思ったんですけど。
「みなさんお花畑って言っていますよね。ただこれゴカイなんですよね(笑)。ゴカイって魚の釣りの餌にするゴカイと同じグループですけど、あんまりみなさん可愛らしい印象ないですよね」
●そうですよね! この赤とか黄色とか青とか本当にポップでカラフルな色なのがゴカイなんですか?
「そうですね。あとはこのサンゴの中に巣を作って本体は中にいるので、一部分しか見えていないんですけれども、面白いのが赤とか黄色とか青とか、いろんなカラフルな色彩がありますけれども、同じ種類って言われているんですよね。それもまた不思議のひとつですよね」
●同じ種類なのに色がこんなに違うんですね!
「カラーバリエーションだけ集めていっても尽きないというか、もう楽しさが倍増ですね」
●同じ種類なのにどうして色がこんなに違うんですか?
「分からないです(笑)」
●謎が深いですね(笑)
「そうですね。本当に発見ばっかりなんですよ」
●それからこの156ページにあった“ライトに集まる甲殻類たち”という真っ暗な中で、小さな白い生物がぶわーっと無数に集まっている写真がありましたけれども、これはカイアシ類とクラゲノミ類という風に書かれていますが・・・。
「甲殻類はとても大きなグループなので説明が難しいんですけど。カイアシ類っていうのはなかなか聞かない言葉ですけれども、プランクトンってみなさんおっしゃる中のかなりの割合を占めるグループなんですね。小魚とかはカイアシ類を食べているって言ってもいいくらいです」
●へーーー!
「そういった生物たちが水中に設置したライトの前に何百、何千、もうそれ以上集まってきたり。集まってくる生物だけではないので、もちろん光を嫌う生物たちもいるので、その辺は棲み分けていると思います」
<「海の昆虫!?」カイアシ類!>
さて、星野修さんのお話にも出てきた「カイアシ類」は「極小のいきもの」の中でも特に小さな生き物なんです。
エビやカニと同じ甲殻類(こうかくるい)の仲間で、大きさは1ミリから3ミリのものが多く、甲殻類なので体は殻(から)に覆われ、舟をこぐ「かい」のような脚(あし)をもつことからカイアシといい、専門的には「コペポーダ」と呼ばれています。『ケンミジンコ』や『ヒゲナガミジンコ』と言われることもあるので、ミジンコの形を想像していただければイメージしやすいかもしれませんね。
「見たことも聞いたこともない」という方がほとんどだと思いますが、小さすぎて見えない、または意識して見ていないだけで、海や湖に普通に生息しているし、1万を軽く超える種類が確認され、今でも新種が発見されているそうです。
海では動物プランクトンの中で最も量が多く、海水1リットルから100匹以上見つかることもあり、「海の昆虫」とも呼ばれているんだそうです。
陸の昆虫と同様、食物連鎖のベースを支える存在で、イワシやサンマなど小型・中型魚のエサとなるほか、マグロなどの大きな魚も稚魚の頃はカイアシ類を食べて成長し、クジラや海鳥にも食べられています。つまり人間にとっても食文化を間接的に支えてくれている大切な存在なんです。
「カイアシ類」は動物の中で最も広い生息域を誇るもののひとつで、世界中の海を漂い、水深1万メートルの深海や、標高5000メートルを超えるヒマラヤの氷河からも発見されていて、他の動物に寄生している種類もいます。
日本では三陸沿岸で特に多種多様なカイアシ類が生息しているそうなので、訪れる機会があったら、じっくり観察してみたいですね。
摩訶不思議な生態
※伊豆大島の海に生息する生き物について、こんな興味深いお話をしてくださいました。
「例えば、水中の壁に向かって30センチ四方ぐらいで切り取って観察してみると、多いところでは多分そこに数百、もしくは千を超える生物たちがぎっしり付いているんですね。動かない生物たちももちろん多いですし、触手っていう花のようなものを広げてパクパクと、水中に漂っているものを食べている全く動かないような生物もいますけど、その上を3ミリくらいの甲殻類たちが動き回っていたり、ゴカイの仲間だったり、だから全部集めるとものすごい数になりますよね」
●へーー!
「それが結構、通常の世界っていうか、この部分だけが生物が多いとかじゃなくて、目の前にある壁って何もないように見えるんですけれども、実はものすごい数の生物がいて、それぞれがそれぞれの異なる生態を見せてくれるっていうか、そういうのが面白いですね」
●そういった小さな生き物たちっていうのは共に助け合いながらというか、共生とかをしながら生きているんですか?
「そうですね。どういう状態を共生っていうかちょっと私にも理解が不足していますけど、そんな小さな世界で、例えば動かない生物の上にまた様々な生物が暮らしていたり、ひとつの生物の上にまた違う生物が住処を作っていたり、毒を持つ小さな生物に寄り添っていたり、いろんな方法をとって集団で過ごしていたほうが捕食されるリスクも少ないですしね。
イノチズナアミヤドリっていう生物がいるんですけど、その生物は小さな海老ようなアミ類っていう甲殻類の背中に寄生するんです。寄生した時に最初は雌になって、その後に雄になる若い個体が近寄ってくるんです。
で、その若い個体が雄になって今、雌と繁殖を行なう時に雌のお腹が糸のように伸びているんですけど、それを掴んだまま外出したりするんですね。だから、雌にぶら下がっていたりして離れることはないんです。全く雄と雌の形が違いますし、とても面白い生態を持っている生物なんですね」
●それは伊豆大島で見ることができるんですか?
「そうです。伊豆大島で私が見つけた生物です」
●星野さんがいちばんお好きな生物ってなんですか?
「ユニークな生物にウミクワガタっていう生物がいるんですけど、みなさんご存知のクワガタそのものの形と言っていいほど似ているんですね」
●え? あの形で海にいるんですか?
「ただあの形で7ミリくらいしかないですけど(笑)」
●小さい(笑)
「細かいことを言えば異なる部分もあるんです。面白いのが親になるまでに3回脱皮をするんですけれども、各それぞれのステージの時にサメに寄生をして、吸血して離れて脱皮して、また取り付いて吸血して離れて脱皮して、っていうのを繰り返して、最後にみなさんご存知のクワガタの形になるんですね」
多彩な手段で生きている
※星野さんは伊豆大島の海に20数年、毎日のように潜っていらっしゃいますが、海の中の変化を感じることはあるのでしょうか。
「生物に関しては毎年特定の生物がものすごく増えたり、またいなくなったり、結構1年単位で海草ひとつにとっても違うんですね。(日々の変化は)正直あまり感じないんですけれども、1年1年違う海に変わっているっていうか、それがいいのか悪いのか分からないですね。もちろん見られなくなった生物たちも多いですし、新たに定着した生物たちもいますし、なかなか難しいんですね。
水温に関して言うと高くなったっていうよりは安定しない。陸の天気と一緒ですよね。こんなに冷たいんだとか、こんなに水温が上がるの早いんだとか、年によってバラバラというか、1カ月の中でも結構上下が激しかったり、あんまり20年前の海ではそういったことを感じたことがなかったんですけれども、今はそう感じることが多いですね」
●撮影する上で何か気をつけている点はありますか?
「ひとつの生物に時間をかけて撮ることが多いんですね。周りにもすごくたくさんの生物がいるので、ひとつ手を付いちゃうと、それだけダメージを与えているなって気持ちじゃないと、なかなか続けていけないっていうか、なるべくほかの生物にダメージを与えないようにその生物を撮影していくっていうのをいちばん気をつけていますね」
●星野さんが海から学んだことはなんでしょうか?
「大したことは言えないんですけど、水中って人間が想像できないような形の生物ばっかりなんですね。で、それぞれがそれぞれの手段で捕食したり、繁殖していたりするんです。
例えば自らの形を変えたり、繁殖する手段をいくつも持っていたり、産卵する生物もいれば、クローンを作ったり分裂できる生物もいるんですね。そういったことって人間できないじゃないですか(笑)。だからそういう小さい生物っていろんな手段を持って強く生きているんだなっていうのを見ると、とても感動します」
INFORMATION
星野修さん情報
新刊『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』
星野修さんの新刊『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』には伊豆大島の海で撮影した小さな海洋生物が250種ほど掲載されています。見ているだけで楽しい図鑑です。ぜひお買い求めください。築地書館から絶賛発売中です!
◎築地書館のHP:http://www.tsukiji-shokan.co.jp
星野さんがガイドするネイチャーツアーについては、ダイビングサービス「チャップ」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ダイビングサービス「チャップ」のHP:http://www.chap.jp/diving2009/
星野さんのフェイスブックとブログもぜひ見てください。