毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

環境先進国ドイツで暮らす、アウトドア派のシンガー・ソングライター「NILO」さん登場!

2024/9/22 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ドイツ・ミュンヘン在住のシンガー・ソングライター「NILO」さんです。

 2007年にボサノヴァ・シンガーとしてメジャー・デビューしたNILOさんは、関西を拠点に音楽活動をしながら、ふるさと札幌でラジオ番組のDJ、さらには趣味の自転車やトライアスロン、アウトドアの体験を雑誌に寄稿するなど、マルチに活躍。

 また、元バックパッカーで世界をひとり旅。その後、サイクリストとしても活動していたアクティヴ派で、以前この番組が女子チームを組んで、モンベルの環境スポーツイベント「SEA TO SUMMIT」に出場したときに、自転車のパートを担っていただき、10数キロを激走していただきました。

 その後、ひとり旅でハワイの山をトレッキングしていたときに、ドイツ人の男性と知り合い、電撃結婚! 2011年からドイツで暮らしていらっしゃいます。

 最初はドイツ語がうまく話せず、また、すぐにお子さんを授かったこともあり、子育てに追われ、慣れないドイツでの生活は毎日大変だったそうです。また、日本にいた頃は、仕事人間だったNILOさん、ドイツではゼロからのスタートとなり、なかなか仕事が見つからず、それもつらかったそうですよ。現在はドイツと日本を行き来しながら、精力的に音楽活動に取り組んでいらっしゃいます。

 今回は、現在ミュンヘンで暮らしていらっしゃるNILOさんにリモートでご出演いただき、環境先進国といわれるドイツでの暮らしや、人気のアウトドア・アクティヴィティのほか、ライヴ活動のお話などうかがいます。

☆写真協力:NILO

NILOさん

本場ドイツのビール・フェス!

●NILOさんが暮らしているミュンヘンは、ドイツでは3番目に大きな都市なんですよね。

「結構大きいです。私ふるさとが北海道の札幌なんですよ。同じくらいの大きさで、札幌と似たような感じですね。ここは仕事があるので、以前はたぶん120万人くらいの都市だったんですけど、今は200万人に近いくらい人が増えていますね」

●NILOさんが暮らしていらっしゃる街は、中心地に近い感じなんですか?

「そうですね。去年引っ越しをしたんですけど、その前までは本当に中心地に歩いて行けるぐらい街中に住んでいました。でも今も、自転車でも地下鉄でも20分圏内っていう感じなので、まあ中心地って感じだと思います」

●公園とかはあるんですか?

「ものすごくありますよ。ミュンヘンって、ドイツ全体がたぶんそうなんですけど、緑地面積の広さが結構有名で、緑がとっても多いんですよ。海があまりない分、緑が大事っていうか、みんな自然が好きなんで、緑はものすごく多いですね」

写真協力:NILO

●素敵な場所ですね〜。

「そうですね。特にミュンヘンは治安もとってもいいので、ファミリーには向いているかなと思います」

●この時期は季節的には秋っていう感じですか?

「そうですね。最後ちょっと暖かくなって、9月の終わりぐらいに毎年オクトーバー・フェストっていうのがあるんですけど、それが終わると寒い冬がやってくるって感じで、そこから長いんですよ(笑)。3月ぐらいまでなかなか暖かくならないんで、厳しい冬が来るって感じですね」

●オクトーバー・フェストって、あのビールのフェスですよね?

「そうです!」

●私、ビールが大好きで、日本で開催されているオクトーバー・フェストはよく行くんですけども、いつか本場のオクトーバー・フェストに行ってみたいっていう夢があるんですよ〜。

「もうね、すごいお祭り騒ぎなんで、まあでも1回は来たらいいよって、みんなにお勧めしています! 2週間、開催されるんですけど、その2週間はミュンヘンはエラいことになっていますね。道を酔っ払いの人が歩いているみたいな感じなので、フラ〜フラ〜ってしている人が多かったりして・・・(笑)。

 本当の地元の人はあまり行かなかったりもするんですよ。”もうあれはいいわ。疲れるから〜”みたいな、人混みがすごいので・・・でも2週間で一応、毎年600万人くらいの来場者があるらしいですよ」

●ドイツといえば、やっぱりビールってイメージはすごくありますよね〜。

「ええ、美味しいですよ。地元地元のいろんなビールが楽しめるようになっていて、あまり外に出さないんですよね。輸出したりするビールはすごく少ないので、来ないと飲めないっていう感じのコンセプトがあるんですよ。なので、そのビール巡りとかをするのも結構楽しいですね」

●いつか絶対行ってみたいです!

「ぜひ! ぜひ来てほしいです! ビール好きは本当に楽しめますよ」

クロアチアでアイランド・ホッピング!?

●NILOさんは、とにかくアウトドア派なんですよね?

「そうです。気がつけば(そうなってましたね)。ミュージシャンって結構インドアが多いんですよ。私もインドア生活がすごく長いとそうなっちゃう・・・やっぱりずっとものを作ったりすると、全然外に出なくなっちゃうので、若い頃から意識的に体を動かしたりするように気をつけていて、それでアウトドア(活動を)するようになったのかなっていう感じはしますね」

●山登りもそうですけれども、サイクリストでトライアスロンにも挑戦されていたということをお聞きしたんですが・・・?

「そうですね。最近は大会はなかなか出られないし、モチベーション的にもちょっと難しくて・・・早く走るとか競うっていうのが、モチベーション的に最近はあまりないんですけどね。トライアスロンは変わらず、長い間一緒に練習している仲間がいるので、まあゆっくりですけど、走ったり自転車に乗ったり泳いだりというのはコンスタントにやっていますね」

●ドイツでもアウトドアは結構楽しんでいらっしゃいますよね?

「そうですね。こちらは休暇がすごく多くて、子供がだいたい2ヶ月おきぐらいに2週間、学校の休暇あるんですよ。暦でちゃんと祝日があるんですけどね。休暇が多いので、やっぱりどこかに連れて行くっていう感じになっちゃうから、キャンプに行ったり、山に行ったり、川に行ったりとか、いろいろアウトドアしていますね」

●具体的にNILOさんのお気に入りのフィールドはありますか?

写真協力:NILO

「家族で毎年同じ場所にキャンプに行っているんです。クロアチアにキャンプに行っていまして、結構クロアチアってドイツ人に人気あるんですよ。日本からはあまり想像がつかないと思うんですけど、意外と近い、そんなに遠くなくて、車で6時間ぐらいなんですね。で、海があって、島がいろいろあって、私たちは船に乗るのが好きで、私、船舶免許を、いつだったかな・・・それこそコロナの時に取ったんですよ」

●ええっ!? すごい〜!

「コロナで仕事がなくなって、ぽっかり時間ができたんで、なんかやろうかなと思って、その何年か前に旦那が先に取っていて、そのうち私も取ろうと思っていたので、船舶免許を取ったんですよ。
 なので、クロアチアにキャンプに行って、クロアチアはあまり波がないんで、たまに揺れる時もありますけど、まあまあ凪いでいるので、船でちょこちょこっと島をホッピングするっていうのが楽しみです。

写真協力:NILO

 ギリシャも結構近いし、イタリアとかも近いので、船に乗る人がヨーロッパってとっても多くて・・・なので、その辺の島をホッピングしている人たちもいっぱいいて、そういう人たちと交流したりとか、そんな楽しみを毎年やっていますね」

(編集部注:NILOさんによると、ドイツのかたはアクティヴな人が多くて山登りに、スキーやスノーボード、そしてミュンヘンには川や湖がたくさんあって、ウインド・サーフィン、さらには、フランスまで行ってサーフィンをやるかたもいるそうですよ)

写真協力:NILO

環境先進国ドイツの環境教育

●NILOさんの好きな自転車は、ドイツではどうなんでしょう?

「自転車はすごいですよ、本当に! ここ2年ぐらい、すごくロードバイクが流行っているみたいです。もともと(自転車は)少なくなかったんですけど、最近ちょっと溢れ返るぐらい増えていて、ドイツには自転車専用道があるんですけれど、それじゃ足りないぐらいになってきているので、自転車専用道を増やしたりとかしているぐらい盛んですね」

●ミュンヘンの街も自転車は走りやすい感じなんですか?

「基本的にはとっても走りやすいです。ちゃんと左右の方向とかもはっきりしているし、看板もちゃんと出ていて、“ここは走行、自転車はオッケー”とか“車はダメ!”とかもはっきりしているので、走るところがわかりやすいというか、そういう意味ですごく走りやすいですね」

●NILOさんの好きなサイクリング・コースはあるんですか?

「やっぱりあまり車がないところのほうが走りやすいし、サイクリング・ロードは本当にたくさんあるので、半分オフロード的な、そんなに激しくないですけどね(笑)。半分オフロードっぽい感じのサイクリング・コースで、川沿いとか目指していたりとか、湖を目指したりして走ったりとか、そんな感じですかね」

●環境先進国と言われているドイツですけれども、実際に暮らしていて、エネルギー面だったりとかゴミの削減だったりとか、これはいいなって思うような取り組みってありますか?

「最近の日本も似たような取り組みをしているんじゃないかなと思うんですけど、たぶんドイツのほうがそういうのは早くて、たとえばレジ袋とか、かなり昔からなかったんですよ。自分で袋を持って行く、袋を再利用したりとか、もともと袋は有料だったので、10年以上前、私が住み始めた頃からレジ袋とかなかったですね。

 あとは、やっぱり子供の教育が、学校での環境に対する意識を持たせる教育がすごくて、小さい子どもがゴミをあまり出さないように意識したりとか、プラスチック(ゴミ)をあまり出さないようにっていうことを考えていたりとか、子どものレベルで、学校で教えていることがちょっと違うのかなっていうのは、すごく思いますね」

●学校で環境教育の授業があるっていう感じなんですか?

「そうですね。授業の一貫で、たとえばゴミを使って工作をしたりとか、社会見学的なことをして、ゴミがどういうふうに処理されているのかを、日本でもあると思うんですけど、ドイツはそういうのを頻繁にやっているって感じですかね。だから、ちっちゃい子がそういうのを意識した発言をすることに、びっくりする時がありますね」

日本の80’s、ドイツで大流行!?

写真協力:NILO

●NILOさんは、現在ドイツと日本でライヴ活動をされています。ドイツでは、どんなところでライヴをやることが多いんですか?

「私今、二本立てというか、ふたつの違うジャンルを同時進行で活動していて、ひとつはずっと昔からやっているボサノヴァのフィールドで、ジャズ・バーとかを中心に、あとはビーチ・イベントとか、そういうところで歌ったりしています。

 で、もうひとつは今ヨーロッパで若い人を中心になんですけど、日本の80’sの曲がすごく流行っているんですよ。私世代は逆に知らなくって、それよりも若い人たちが、10代とか20代の人たちを中心に、80年代の日本の曲が流行っているという、そういうフィールドがあるんですよね。

 “アニメ・コンベンション”っていって、アニメとかゲームが好きな子たちが集まるようなイベントとかで、日本の歌を80’sとかを中心に歌って、自分もそれで(曲を)書くようになったんですけど、ちょっと懐かしい感じの日本の歌、歌謡曲とか、シティ・ポップを歌って、あとは今、日本のイベントも、日本自体がすごくブームで、たぶんフランスもちょっと早めにそのブームが来ていて、ドイツにその後、日本ブームが来たっていう感じですね。

 私が昔から出ていた日本系のイベントも、昔はもっとちっちゃかったんですよね。でも今は本当に何千人っていう人が来るようになって、イベント自体が大きくなって、私もやっぱり歌う機会が増えて、日本の歌とか80‘sの歌を歌ったりする機会が今年は特に多くなりましたね」

●80年代の曲をカヴァーしたりとかされるそうですね?

「そうです、そうです! 私が子供の頃ってインターネットとかなかったので、私の世代は・・・(笑)。だからまさか外国の人が日本の曲を聴くようになるなんて思っていなかったんですよね。それを叶えたいというか、外国の人が自分の母国語の歌を聴いてくれたらいいなっていう気持ちはずっとありましたけど、そういうふうになるのは難しいんだろうなと思っていましたね。

 でもいつの間にか、インターネットでこういうふうになって、今本当にいろんな人が、どこに住んでいても別に言葉がわからなくても、好きだったら聴けるっていう環境ができて、まさかこんなふうに自分の母国語でドイツで歌って喜んでもらえる日が来るとは思っていなかったから・・・それはなんかすごく感動的なことだし、半分ぐらいはやっぱり起こらないと思っていたことだったから、すごく奇跡的に感じている部分もあって、でも本当に嬉しく思っているっていうことをいつも(ライヴの時に)伝えています」

●カヴァーする時は日本語のままで歌われるんですか?

「はい、日本人がちゃんとネイティヴの日本語で歌うのが、彼らにとってはすごく珍しいことなんですよね。なのであえて、やっぱり“日本語でぜひ歌ってほしい!”っていう要望もあるので、日本語で歌っていますね」

写真協力:NILO

ジャパン・ツアー、コンセプトは「懐かしさ」

●日本でのライヴ・ツアーが決定しているそうですね。いつからいつまでのツアーなんですか?

「9月25日、札幌からスタートして、今回あっという間なので9月30日まで。本当にぎりぎり9月最後まで歌って、その翌日にドイツに帰るって感じです」

●場所は札幌から始まって、その後は・・・?

「札幌で2回やって、その後、大阪、名古屋、湘南、東京と来て、帰ります」

●そうなんですね。今回のツアー・メンバーはどんな感じなんですか?

「私が日本に来たら同じメンバーでやっているんですけど、大体同じかな・・・ 北海道だけ、伝統楽器をやっているメンバーがいて、彼らは伝統音楽だけじゃなくて、ジャズとかポップスとかにも果敢に挑戦して、即興演奏をしたりする人たちなので、尺八と三味線を入れて札幌ではやったり・・・。
 大阪、名古屋はこじんまりとベースとギターとボーカルだけで、デュオで回すんですけど、湘南、東京はバンドで、あとパンデイロとギターが入るので、結構派手にバンド演奏できる感じになるかなと思います」

●場所によって、いろいろ(ライヴの)カラーが違うんですね?

「そうですね。なので、プログラムもちょいちょい変えつつ、あとはメンバーが違うので、聴こえ方はその会場会場で違うかなと思います。お近くのかたにはぜひ楽しんでいただきたいです」

●今回のジャパン・ツアー、ここに注目してほしいというのがあれば、ぜひ教えてください。

「今回、私がヨーロッパで80年代の曲を中心に歌っていることで、自分もそういう80年代テイストを出した『懐かしさ』をコンセプトに曲作りしているんですね。で、私のオリジナル曲もやりますし、ボサノヴァだけじゃなくて、80’sの曲も少しやろうと思っているんです。

 特に私の上世代とかは懐かしい感じもあると思うんですが、コンセプトが『懐かしさ』なので、ぜひ一緒に、“あれっ! これ懐かしいな~”みたいな、ちょっと自分の若い頃を思い出したりとか(笑)、そんな感じで来ていただいたりしても嬉しいなと思っています。特にこのベイエリアの近くのかたがたは東京、湘南あたりに来ていただけるかなと思うので、ぜひチェックしていただければ嬉しいです!」

(編集部注:実はNILOさん、コロナ禍でライヴ活動ができない時期に、ドイツの大学でオーディオ・エンジニアの勉強をされ、専門用語と格闘しながら、コンソールや機材の使い方、そして録音のノウハウなどをマスター。その集大成ともいえるのが、作詞・作曲・編曲はもちろん、レコーディング、ミキシング、そしてマスタリングまで全部ひとりでこなして完成させた、7月リリースの新曲「フィール・ザ・フロー」で、この日のラスト・ソングとしてオンエアしました)


INFORMATION

 NILOさんの今月9月のジャパン・ツアー、日程と会場をおさらいしておくと・・・

9月25日(水)「札幌D-BOP (ディーバップ)JAZZ CLUB」
9月26日(木)同じく札幌の「純喫茶オリンピア」
9月27日(金)大阪・東心斎橋「真心場(まほろば)」
9月28日(土)名古屋・今池「imago(イマーゴ)」
9月29日(日)江ノ島・虎丸座(とらまるざ)
9月30日(月)表参道・ZIMAGIN(ジマジン)となっています。

 ぜひライヴ会場にお出かけください。会場によってはソードアウトになっているところもありますので、詳しくはNILOさんのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎NILO:https://officenilo.com

「キラキラとした自然体験を子供たちに」〜自然とのつながりを大切にする長沢 裕さんの思い

2024/9/15 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、女優、そしてタレントとして活躍されている「長沢 裕(ながさわ・ゆう)」さんです。

 長沢さんは、日本テレビの「ZIP!」でお天気キャスター、そしてNHK Eテレの「趣味の園芸 やさいの時間」にもレギュラーで出演されていましたよね。現在はYouTubeの人気ドラマ「おやじキャンプ飯」シリーズでもお馴染みです。

 きょうはそんな長沢さんに、農作業体験や東京湾での釣り、そしてソロキャンプのお話などうかがうほか、番組後半では「日本シェアリングネイチャー協会」の事務局長「渡辺峰夫(わたなべ・みねお)」さんに加わっていただき、長沢さんの地元福島で開催するキッズ向けネイチャーゲーム・イベントについてもうかがいます。

長沢 裕さん・「日本シェアリングネイチャー協会」の事務局長「渡辺峰夫」さん

もう一度、自然の近くに

※テレビの情報番組やドラマ、舞台、CMなど、幅広い分野で活躍されている長沢さん、出身は福島で高校卒業後、大学進学のために上京。私と同じ立教大学の同窓生なんです。

 そして、大学在学中に初めて受けたオーディションで合格したWEB版「電波少年Tプロデューサーと行く 海外!究極アポなし旅」でデビュー。Tプロデューサーと一緒に世界を巡ったそうですよ。いきなり海外へ連れて行かれて、さぞかし大変だったんだろうな〜と思ったんですが、ご本人は楽しいロケだったとおっしゃっていましたよ。

●長沢さんは、生まれ育ったのが福島県伊達市、なんですよね。どんなところなんですか?

「伊達市は中通りのいちばん北部に位置する、宮城との県境の場所にあるんですけど、やっぱり第一次産業がすごく盛んです。
 私が幼い頃から、祖父母が農業をやっておりまして、春になるとサクランボから始まって夏に桃が獲れて、最後はあんぽ柿という伊達市名産の果物があるんですけれども、そちらを生産していて、本当に季節の移り変わりを食だったり、果物で感じているような幼少期でした」

●素敵な場所ですね~。ということは、子供の頃は自然いっぱいの中を駆けまわるような、そんな少女だったですか?

「そうですね。それこそ家の前が小さな里山みたいな感じだったので、裸足になってフキノトウを採りに行ったり、山菜を採ったり、あと秘密基地を山の中に作って遊んでいました」

●すごく自然と距離が近い場所にいたわけですね?

「そうですね。はい!」

●で、高校を卒業されて、東京の大学に進学されたんですよね。東京での生活はすぐ慣れましたか?

「そうですね。すごく刺激的で楽しかったんですけれども、やっぱり自分が田舎が好きっていうのがあったので、ちょっと息苦しさを感じたと言いますか・・・、食生活とかもすごく荒れてしまって、そしたらお肌とかも荒れてしまったので、そこでやっぱり自然が近くにあった生活が、いかにありがたかったのかを感じるようになりました」

●離れてみて気づく、地元の良さというか・・・。

「そうなんですよ~。お野菜とかも安いお野菜ばっかり買うようになっちゃって、目の前の食卓がすごく白いお野菜ばっかりっていうか、もやしとか水菜とか大根とかばっかり買っていたら、あれっ!? 旬とかその時々に食べていた季節を感じる野菜がいつの間にか自分の食卓からなくなってしまったっていう感覚がすごくありました。そういうところからも、やっぱりもう一度、自然の近くに行きたいってすごく思うようになりましたね。

 自然にすごく興味があったので、農家さんのところに行ってみようだとか、あと漁師さんのところに行ってみようっていうことで、岩手県釜石の漁師さんの、その当時はまだ仮設だったんですけど、泊まらせてもらって、ワカメ漁を手伝ったりとか・・・。あとは三重県美杉町にある農家さんのところに行って、1日中、芋掘りをするっていう体験をしていました」

●すごいですね~! 子供の頃の、伊達市の経験が役に立ちそうな感じもありますね?

「そうですね。やっぱり自然とのつながりを感じるっていう部分では、“食”ってすごくわかりやすいなって思っています。自分も今一度、自然とのつながりを思い出したいなって思った時に、やっぱり目の前にある食べ物がどこから来て、誰がどんなふうに作っているのかっていう、その現場を見たいなって思っていました」

長沢 裕さん

農作業に釣り、自然とつながる

※長沢さんのプロフィール欄に、趣味として「農作業、釣り、キャンプ」などが書いてありました。ここからは、そんな趣味についてうかがっていきたいと思います。まず、農作業なんですが、大学時代に経験されたそうですね?

「そうです。はい!」

●大学時代に農作業って、どういう経緯で、そういう経験につながったんですか?

「上京してから食生活が乱れてしまったっていうのがあって、もう一度目の前にある食がどこから来ているのか、誰が作っているのかを知りたいっていうふうに思って、よし! これは農家さんのところに行ってみようって考えていた時に、ちょうどゼミの先生からご紹介があって、三重県美杉町にある農家さんのところへ行ったんですね。

 そこが、すごくニッチの話になってしまうんですけど、自然農を営んでいたかたで、その考え方とか、単に農産物を作るというよりも生き方として(農業を)やっているかただったので、その考え方に触れられたというのも、すごく衝撃を受けたとともに面白い体験でした」

●なんでそもそも農作業体験を? そういうつながりがゼミであったんですね?

「そうです。ゼミがもともと埼玉県の小川町って有機の里で有名な、『オーガニックタウン』っていう形で、今すごく移住者も増えている場所なんですけれども、そこで活動していて農家さん、それこそそこでも農家さんの田植えを手伝ったりだとか・・・。あと『小川町オーガニックフェス』っていうフェスの実行委員などもさせてもらっていて、そこでそういう世界にさらに興味がわきましたね」

●今でもつながっていたりするんですか?

「つながっていますね。その『小川町オーガニックフェス』で出会ったのがご縁で、そのイベントが環境省さんも後援に入ってくださっていたんですね。そのつながりで今でも、環境省さんの『つなげよう、支えよう 森里川海プロジェクト』というのがあるんですが、そこでアンバサダーをさせてもらっています」

●すごい! そうなんですね~。

「はい!」

●長沢さんのブログなどを見ると、最近は釣りにもハマっているんですよね?

「そうですね。釣りは全くの素人だったんですけども、番組の中で体験させていただくようになったので、本当に初めての釣りから、ひとつひとつ積み重ねていく模様を、まさにその番組の中で見ていただけているというか、そういう感じですね」

●私も一度だけ船に乗って、東京湾で釣りしたことがあるんですけれど、改めて釣りにはどんな魅力があると思われますか?

「東京湾は、すごく豊かな漁場が広がっているんですけど、どっちかって言ったら、私は東京湾で釣りってイメージがあんまりなかったんですね。でも、フグだったり、キスだったり、アジだったり、いろいろ釣ったんですけれど、自分たちが食べている魚が、こんなに近くの海から獲れているんだっていう実感もわきましたね。

 自分のキーワードの中で、自然とのつながりって、やっぱり人間が生きている上で、みんな外せないものだけど、それってちょっと忘れがちになっちゃうことだとも思うんですね。そのつながりを取り戻していくことが、私は生活の豊かさとか自分の中身の豊かさにもつながっていくんじゃないかなって考えています。

 やっぱり釣りは“釣って自分で料理して食べる! あのキラキラした海から獲れた魚!“、それが自分の体の一部になっていくみたいな、その流れをすべて体験できるのがすごく魅力だなって思っていますね」

友達と行くソロキャンプ!?

※長沢さんは、YouTubeドラマ「おやじキャンプ飯」シリーズにレギュラーで出演されていますが、以前からキャンプはやっていたんですか?

「そうですね。子供の頃から父と一緒に家族みんなで(キャンプに)行っていました!」

●キャンプ用のグッズも、ひと通り揃えていらっしゃるんですね?

「そうですね。実家には父が昔から集めてきた年季の入ったキャンプ・グッズがありますし、あと自分ではソロキャンプしたいなって思って、ひとり用のテントを買って・・・」

●そうなんですね~。

「はい、リュックの中にすべて詰めて行くぞ! っていう感じのキャンプ用品を買いました」

●まだソロキャンプはされてはいないんですか?

「2回行きました! なかなか行けてなくて、まだ2回なんですけど・・・」

●もう行かれたんですね! どうでした、ソロキャンプは?

「ソロキャンプは2回行って、友達と行くんですけど、でもソロなんですよ。行くまでは一緒なんですけど、キャンプ場で別れて、ひとりひとりテントを張って、ご飯を食べてっていう感じなんですね。今は“グループキャンプ”って言うんですかね? それなんですけど、すっごく楽しいですよ! やっぱり夜空を眺めながら食べるご飯とか、あと夜の静けさとかはやっぱりキャンプ場じゃないと感じられないなと思いますね」

●そうですよね~。お友達といろいろ喋りながら見るわけじゃなくて、ソロキャンプそれぞれのキャンプだから・・・。

「そうです!」

●自分で見たい時間に星空を見て・・・。

「そうです! もうひと言も喋らないですね (笑)。次の朝、荷物をまとめるまでひと言も喋らなかったです(笑)」

●キャンプのどんなところに魅力を感じますか?

「やっぱり『おやじキャンプ飯』を観ていただくと、特に感じられると思うんですけれども、焚き火のはぜる音だったり、ただ無心で焚き火を眺める瞬間だったり、星を見上げる瞬間だったり、風の音を聴く瞬間だったり・・・キャンプを始めて時間が経つにつれて、五感が解放されていく感覚ってすごくあって、それは体験しないとわからないですし、体験すると病みつきになっちゃうなって思います」

●おすすめのキャンプ飯とか、定番のキャンプ飯っていうのはあるんですか?

「これはやっぱり友達と行った時にやるのが楽しいんですけれど、ちっちゃいスキレットを持っていって、アヒージョをするのがすごく好きですね。アヒージョって何入れても美味しいじゃないですか! なので、その土地のお野菜とか直売所で見つけたお野菜だったりを買って、アヒージョを作るっていうのがすごく好きですね」

『シェアリング・ネイチャー・ウィズ・チルドレン』

※ここからは「日本シェアリングネイチャー協会」の事務局長「渡辺峰夫」さんに加わっていただきます。

 長沢さんは地元福島で、キッズネイチャー倶楽部のプロジェクト・リーダーを担っていらっしゃいます。その倶楽部を始めたきっかけや、活動内容などをお話いただきました。

長沢 裕さん

長沢さん「もともと私が日本シェアリングネイチャー協会さんのリーダー養成講座を受けさせていただきまして、それがすごく楽しかったんですよね。自然の中で様々な体験を、ということで、ちょっとしたゲームをするんですけれど、それをぜひ福島にも広めたい! もともと福島にもあるんですけど、もっと活発に子供たちと一緒にネイチャーゲームで遊べたらなって思って、こういう活動をしたいんです! っていうような話をいろんなところでしていたんですね。
 その中で昔から私のことをすごく応援してくださっていたかたが手を挙げてくださって、福島テレビさんとも組んでやらせていただくことになりました」

●何かコンセプトのようなものはあるんですか?

長沢さん「これはちょっと個人的な思いにもなってしまうんですが、やっぱり私自身小さい頃、自然の中で遊んでいた体験が、大人になってからもすごくキラキラした思い出として残っているんですね。

 それって子供の頃は当たり前にあった風景、たとえばフキノトウを採った思い出とか、すごく暑くて、でも秘密基地を作っていたら、すごく爽やかな風が吹いていったとか、そういった体験が大人になってからも素敵だったな~って思うので、そういうのを子どもたちと一緒に、子どもたちの中にも共有できたらなって思って始めました」

※ネイチャーゲームという名前を初めて聴いたというリスナーさんもいらっしゃると思いますので、改めて、ネイチャーゲームとは何か、ご説明いただけますか?

渡辺さん「ネイチャーゲームは、1979年にアメリカのナチュラリスト、ジョセフ・コーネルが書いた書籍『シェアリング・ネイチャー・ウィズ・チルドレン』、これは“子どもたちと自然を分かち合おう”というタイトルの書籍なんですけども、その中で発表された自然遊びのプログラムになっています」

『シェアリング・ネイチャー・ウィズ・チルドレン』

●具体的にネイチャーゲームは、何種類ぐらいあるんですか?

渡辺さん「今、登録されているゲームは166あるんですね。これはいちばん最初に書かれた本に入っていたものが166なのではなくて、その後に、たとえば日本で“これ、ネイチャーゲームにならないかな?”っていうのを応募してもらって、いろんな段階を経て“これはいいぞ”というやつをネイチャーゲームとして新しく登録しているので、166のうちの半分ぐらいが日本で生まれたネイチャーゲームになっています」

オリジナルのネイチャーゲーム「いろいろ鬼」

※長沢さんがプロジェクト・リーダーのキッズネイチャー倶楽部で、もうすぐイベントを開催するんですよね?

長沢さん「これは子どもたちと一緒にネイチャーゲームを通して、自然の持つ様々な表情だったりとか不思議とか、あと自然の仕組みを学んで、普段気づかないような発見だったり、自然とのつながりを感じましょうというようなものなんですね。
 (イベントの)日程をお知らせしますと、9月28日に『ふくしま県民の森 フォレストパークあだたら』、10月6日に『国立磐梯青少年交流の家』そして11月2日に『福島県いわき海浜自然の家』で行ないます。詳しくは『福島キッズネイチャー倶楽部』で検索していただきたいと思います」

●どんなネイチャーゲームをやるのかっていうのは、もう決まっているんですか?

長沢さん「はい、決まっていますね」

●ちょっと教えていただいてもいいですか?

長沢さん「はい、大丈夫です! 何がいいですかね・・・今回『生き物ビッグパズル』というものをやるんですけれども、これは大きなパズルがひとり1枚配られて、それをみんなで完成させるっていうようなものなんですね。

 あとは『カモフラージュ』っていうものもやるんです。これは自然の中にちょっとした人工物だったり、自然の中にもいるようなカマキリのフィギュアみたいなものだったりを隠しておいて、それをみんなで列になって、静かに目を凝らしながら探していくようなゲームもやったりします」

長沢 裕さん

●渡辺さんも、そのイベントのサポートをされるんですか?

渡辺さん「はい、私はプログラム作りのサポートをさせていただくんですけど、福島県にいるネイチャーゲームの仲間が長沢さんと一緒にプログラムの指導をすることになっています」

●長沢さんが考えたオリジナルのネイチャーゲームもあるんですか?

長沢さん「基本は(日本シェアリングネイチャー協会の)ネイチャーゲームから選ばせていただいて、アレンジは渡辺さんと一緒に考えさせていただいたんですね。今回はその中でもあれですね・・・『いろいろ鬼』!」

渡辺さん「ああ~!」

長沢さん「これは渡辺さんと話している中でできた遊びで・・・いいですかね?」

渡辺さん「そうですね、はい! いいですね!」

●いろいろ鬼?

長沢さん「はい! これは昨年(イベントを)実施させていただいた時に、最後に子供たちが、最初はみんなちょっとよそよそしいんですけど、ネイチャーゲームを体験していく中で、最後はもう友達みたいになって、いつの間にかみんなで遊び始めるんですよ。その時に“色鬼”を始めたんですよ。

 その体験がいちばん、私の中ではやってよかったなというか、こうして人が自然につながって、最後はみんなで遊ぶってすごく素敵だなっていう話を渡辺さんにした時に、“その色鬼、いいかもね!”っていう話をしてくださったんですね。

 色鬼ってみなさんご存知だと思うんですけれど、鬼が色を言って、鬼に捕まる前にその色にタッチしたらセーフっていう遊びじゃないですか。その色を言うだけじゃなくて、いろいろなもの、たとえば・・・“チクチクしたもの”とかでもいいかもしれませんし、秋口にやるんであれば、“黄色い葉っぱ”とかでもいいと思うんですけね。そういったいろいろなものを鬼が言って、それを鬼に捕まる前にタッチしてもらうっていうような『いろいろ鬼』を考案させていただきました」

「心の自然」を豊かに

※では最後におふたり、それぞれお聞きします。これまで自然の中に身を置いて、どんなことを感じ、何か気づいたことはありましたか?

長沢さん「私は悩んだ時とか、ちょっと心がモヤモヤした時に自然の中に行くんですよ。それは家の近くで、ただ空を見るでもいいですし、温泉に入りに行くとかもそうなんですけれども、なんて言うんでしょう・・・やっぱりゆっくり自然の中に浸っていると自分を取り戻すことができるんですね。

 日々から離れてちょっとゆっくり考える時間を持つとか、それこそ自分の感覚を研ぎ澄ますこととか、それってすごく豊かになるなって思っていて、私は『心の自然』っていう言い方をしているんですね。

 やっぱり心の自然が豊かになればなるほど、何か自分が疲れてしまった時とか、あと大変な時にちょっと思い出すだけで、すごく“心の栄養”になると言いますか、自分を支えてくれるものになるなと思っているので、これからもたくさんいろんな経験を自然の中でしていきたいなと思っています」

●渡辺さんはいかがですか?

渡辺さん「はい、自然って言うと大自然みたいなことをイメージするじゃないですか。なので、そういった大自然の中に行って、すごく安らぐなって思われるかたはたくさんいらっしゃると思うんですね。でも、実は自然って大自然ばかりじゃなくて、植木鉢の花とか、あとは車がたくさん通っているところの横に生えている街路樹とか、そういったものも自然なんですよね。

 そういう自然に気づけた時に、自然からも安らぎを得られるみたいな、そんなふうになってもらうといいなと思っていて、私自身が昔はそういうことは感じなかったけども、ネイチャーゲームを知って感じられるようになったので、そう思っています」

長沢 裕さん

INFORMATION

<福島キッズネイチャー倶楽部>

 長沢さんがプロジェクト・リーダーの、福島の未来を作るプロジェクト「キッズネイチャー倶楽部」のイベント、日程や場所などをおさらいしておくと・・・

 9月28日(土)「ふくしま県民の森 フォレストパークあだたら」、
 10月6日(日)「国立磐梯青少年交流の家」、
 11月2日(土)「福島県いわき海浜自然の家」、

 いずれも午前10時から。各回・定員は80名、参加費は無料です。参加ご希望のかたは、締め切り間近の回もありますので 早めにチェックすることをお勧めします。参加方法など、詳しくはキッズネイチャー倶楽部のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎キッズネイチャー倶楽部:https://kidsnatureclub-ftv.jp

<日本シェアリングネイチャー協会>

 「日本シェアリングネイチャー協会」主催のイベントも来月開催されます。毎年10月の第3日曜日は「全国一斉シェアリングネイチャーの日」で、今年は10月20日(日)の開催となっています。今年のテーマは「はっぱで遊ぼう!」。はっぱや落ち葉を使った遊びが、順次サイトで紹介されていますよ。

 参加方法など、詳しくは公益社団法人「日本シェアリングネイチャー協会」のオフィシャルサイトを見てください。

◎日本シェアリングネイチャー協会:https://www.naturegame.or.jp

国立科学博物館で開催中の特別展「昆虫 MANIAC」の見所を大紹介!

2024/9/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、特別展の総合監修を担当された国立科学博物館の研究員「井手竜也(いで・たつや)」さんです。

 井手さんは1986年、長崎県出身。昆虫少年というよりは野球少年だった井手さんなんですが、生き物は好きで、九州にいるクマゼミをたくさん採っては家の中に放つような子供だったそうですよ。
 そして高校生のときに生物部に入部、そこで昆虫研究の面白さに目覚め、宮崎大学農学部に進学し、昆虫の研究室に所属。おもにキャベツ畑に発生する「蛾(が)」を研究していたそうです。その後、九州大学大学院、森林総合研究所の研究員を経て、現職の国立科学博物館・動物研究部の研究員として活躍されています。

井手竜也さん

 今週は特別展「昆虫 MANIAC」をクローズアップ! マニアックとタイトルづけされた特別展の見所や、井手さんの専門ハチの研究から、香りを運ぶハチや、寄生するハチの戦略など、興味深いお話をうかがいます。

☆写真協力:国立科学博物館

5人の研究者、五人五様のマニアック!?

※今回の特別展、タイトルに「マニアック」とあるのがポイントなんですよね?

「はい、そうですね。虫の色や形、生態とかの多様性にマニアックな視点で迫るっていうのが今回の特別展のポイントになっていて、研究者が監修しているんですね。
 夏は昆虫展がいろんなところで行なわれていて、その中には研究者が監修に関わっているものもあるんですけれど、今回は本当に第一線でやっている、国立科学博物館の昆虫研究者が5人揃って監修していることもマニアックなところです。滅多に見られない昆虫とか、知っている虫でも全然知らないポイントがいろんなところで紹介されているような展示になっています」

特別展「昆虫 MANIAC」

●「トンボの扉」「ハチの扉」「チョウの扉」「クモの扉」「カブトムシの扉」など、いろいろありましたけれども、厳密には昆虫ではないクモとか、ムカデなども展示されていますよね。それは昆虫ではなく、ムシっていう扱いなんでしょうか?

「そうですね。昆虫には定義があるんですよ。ただ“ムシ”っていう言葉には実は定義がなくて、小さな生き物を総称して“ムシ”って呼ぶこともあるんです。なので、ムシの中に昆虫が含まれているっていうことになりますね。クモとかムカデは昆虫ではない、大きくいうとムシだというところですね。

 昆虫の定義は頭、胸、腹に体のパーツが分かれていて、その胸の部分から6本の足が生えているのが、昆虫のいちばんの基本的な定義になるんですね。一方で、クモだったら足が8本で、ムカデだったらもっとあって、多足類って呼ばれていて、たくさんの足が生えているんです。
 ただ、昆虫とかムカデやクモは全部、ひとつの節足動物っていうグループに入るんですね。この特別展では、昆虫と昆虫以外の陸上に生息する節足動物類を、ムシと定義して扱っています」

●展示してある標本などは、すべて国立科学博物館で所蔵しているものということですか?

「そうですね。大部分は国立科学博物館の収蔵庫から、筑波に収蔵庫があるんですけれど、そこから選び抜いて持ってきたもので、いくつかほかの博物館だったり大学だったりからお借りしているものとか・・・。さらには今回の特別展のために研究員が自ら野外で採集してきて、標本を作ったものなんかも展示していたりしています」

●巨大な模型も目を引いて、思わず写真を撮っちゃいましたけど、この精巧な模型にもこだわりを感じたんですが・・・。

特別展「昆虫 MANIAC」

「そうですね! あれは研究者が5人いまして、五体全部、それぞれにこれだ! っていうのを選んで作っているものになるんです。職人のかたがちゃんと一個ずつ作っていて、それを研究者が細かい部分、この部分の形が違うとか、この色が違うとか、そういうところを細かく監修して作ったものなんですよ。

 本当に顕微鏡で覗いた時に感じる、その虫の面白さとか、あと野外で近づいてよく観察した時に見える、その虫のちょっとした動きみたいなところも表現していて、それを大きなもので見ることができるっていう模型になっています」

●ただ単に大きな昆虫の模型っていうよりは、マニアックな視点で見る模型っていう感じですよね?

「そうですね。細かいところを見れば見るほど、ここはこういうふうになっていて、こういう動きに役立っているんだとか、そういうのが見えてくるようなものになっています」

ミツバチはハチ界では珍しい!?

※井手さんの専門は、ハチだそうですね。今回の特別展でも、もちろんハチの展示を担当されていますが、なぜハチを専門に研究することにしたんですか?

「ハチと言っても、実は自分の専門は、タマバチっていうごく小さな、2〜3ミリくらいしかないようなハチなんですね。タマバチからハチの世界に入ったというところで、タマバチの研究をしていく上では、ほかのハチのことを比較対象として知らなければいけないっていうところで、徐々にハチ全体にという感じで、ハチの研究を始めたという感じです」

●タマバチには、どんな特徴があるんですか?

「タマバチは植物に寄生する寄生バチなんですね。要は植物に卵を産みつけて、その部分を“虫こぶ”と呼ばれる、植物の一部が膨れたような巣に変形させるっていう特徴を持っています」

●そもそも井手さんは、どうしてタマバチを研究することになったんですか?

「やっぱり“虫こぶ”を作るっていう生態の面白さから、タマバチの研究をやってみたいって思ったんですけど、タマバチってそもそもほとんど名前が知られていないというか、図鑑にもほとんど載ってないような昆虫です。いわゆる分類学っていう、新種とかもまだまだたくさんいるような、名前がついていないようなハチがたくさんいるようなグループだったんですね。だからそのタマバチの分類学という分野を専門に研究することにしました」

●ハチっていうと、ミツバチとかスズメバチっていうイメージがあったんですけれども、世界的にはハチってどれぐらいいるんですか? 種類でいうと・・・?

「種類でいうと、ハチは名前がついているだけで、いま世界で約15万種って言われています。15万種ってどれくらい多いかっていうと、哺乳類だと世界で約6500〜6600種くらいと言われているので、ハチだけでも圧倒的に哺乳類の全種数を上回るほどです」

●すごい! 日本だと何種類ぐらいのハチがいるんですか?

「日本で、大体6500種以上が知られていますね」

●そんなにいるんですね!

「はい、ただ多分みなさんが知っているのは、ミツバチとかアシナガバチとか
スズメバチとか、そのあたりの名前しかあまり知られてないっていうところがあったりします」

●ミツバチは花粉を運んで、いろんな果実とか野菜などを作ってくれているっていう、人間にとってありがたい存在かなって思うんですけれども、ミツバチ自体の種類は多いほうなんですか?

「いや、これがですね〜、ミツバチっていうのは、ミツバチ族っていうグループがあるんですけど、ミツバチ族は世界で9種しか知られてないですね。しかも日本でいうと2種なんですね。ニホンミツバチとセイヨウミツバチ。もともと日本にいたミツバチはニホンミツバチのたった1種しかいないくらい、実はミツバチってハチ界でいうと、ものすごく珍しい存在と言えるかもしれない昆虫なんですよね」

香りを運ぶハチ、寄生するバチ

※今回の特別展で「香りを運ぶ」ハチのパネルがありました。この「香りを運ぶ」ハチとは、どんなハチなんですか?

シタバチ
シタバチ

「その香り運ぶハチって、中南米だけに生息するシタバチっていうハチなんですね。中南米のシタバチは、ベロが長いようなストロー状の長い口を持ったハチなんですけど、これのオスが、花の香りを集める習性を持っているんですね」

●オスだけなんですか?

「オスだけなんです。オスの後ろ足が太くなっていて、その後ろ足の中がスポンジ状になっているんですね。シタバチのオスは花を見つけると、その花の表面を前足で撫でて、口から出した分泌液と香りを混ぜて、香り成分をその液体の中に閉じ込めるんですね。それをスポンジ状になった後ろ足の中に、後ろ足に隙間が空いていて、そのスリットから分泌液を押し込んで、香りを足に溜め込むっていう習性を持っています」

●その香りがあることで、どうなるんですか?

「香りを集めるオスほど、メスに選ばれやすくなるのが知られていますね。だからメスへのアピールとして使われているっていうところです」

●そのために香りを運んでいるんですね! 特別展の会場でその香りを再現していますよね?

「そうですね。シタバチを採集したり調査する時に、香り成分をぶら下げて、ハチが寄ってくるのを捕まえるんですけど、捕まえる時に使う香り成分を実際に(会場に)置いています。2種類置いていまして、ちょっといい香りとちょっと嫌な感じの香りと、ふたつ置いてあります」

※ほかにも寄生するハチの展示がありました。ほかの虫の幼虫に寄生するハチがいるんですよね?

「そうですね。さっきハチが世界で15万種いるって言ったんですけど、実はその半分以上は“寄生バチ”って言われていて、ハチの中ではいちばんメジャーなグループが寄生バチなんですね。特にいちばん種類が多いのがヒメバチって呼ばれているグループで、ヒメバチって名前がついているだけで約2万5000種、全生物の中でもそのグループの種数が多いものとして知られています。

 ヒメバチって英語で『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれていて、ダーウィンは進化論で有名なチャールズ・ダーウィンなんですけど、ダーウィンが手紙の中で『神がこんな残酷な生物を作るはずがない!』っていうメモを残していて、だから進化論を考えるに至ったみたいなことが言われています。それに由来して『ダーウィン・ワスプ』って呼ばれているのが、このヒメバチっていうグループがいる寄生バチの仲間ですね」

●ヒメバチは、どんなハチなんですか?

「ヒメバチは今回実は、巨大模型として作ったエゾオナガバチがあるんですけど、それもヒメバチの仲間なんですね。ほかの昆虫に卵を産みつけて、寄生した相手を幼虫が食べて育って、体を突き破って出てくるっていう習性を持ったハチです」

エゾオナガバチ
エゾオナガバチ

●なんかすごいですよね・・・エイリアンみたいな・・・寄生するってすごい!

「そうですね。本当にリアル・エイリアンみたいですね」

●ヒメバチって可愛らしい名前なのにすごいですね(笑)

「このヒメバチにすごく近い仲間で、コマユバチっていう寄生バチがいるんですけど、その仲間だと『寄主操作』って言われていて、寄生した相手を操るっていう現象も知られています。実際展示ではコマユバチがシャクトリムシ、シャクガっていう蛾の幼虫なんですけど、寄生したシャクトリムシを操っている様子の動画も見ていただくことができるようになっています」

刺すのはメスだけ?

※ハチは「刺す」昆虫のイメージもありますよね。刺すのはメスだけなんですよね?

「はい、そうですね。おもに毒針を使って刺すのは、メスだけっていうことなんですけど、これって実はいろいろ話があるんです。まず、なぜメスが刺すのかっていうと、メスの毒針はもともと産卵管って呼ばれる、卵を産みつけるための針だったんですね。なので、それを進化させたため、毒針を持っているのはメスだけだからメスしか刺さない、オスは刺さないっていうのが一般的なハチとして知られているところなんですけど・・・。

 もう一歩先に行くと、実は刺すオスも見つかっていて、それは毒針で刺すのではなくて、交尾器って呼ばれる、メスと交尾するための部分が針状に変化していて、それで刺すっていうものも見つかっていたりします。

 一方でメスであっても毒針を退化させて刺さないハチもいて、それはハリナシバチっていうハチがいるんですけど、そんなものもいるとか・・・例外だらけでひと言で語れないっていう、この面白さを伝えたいっていうのが、今回の『昆虫 MANIAC』のポイントでもあるんですね」

●へぇ~面白いですね~。なんかハチとハエって似ていますけど、近い種だったりするんですか?

「ハチとハエはどちらも『完全変態昆虫』って呼ばれる、さなぎを経て成虫になるタイプの昆虫って意味では近くて、あと、 どちらも翅(はね)が薄い膜状で透明になっているっていうところは共通しているんですけど、ハチとハエ自体は昆虫の進化の流れでいうと、少し離れたところにはいるものになります」

昆虫は多様で面白い

●今回の特別展「昆虫 MANIAC」では、子供たちにも大人気のカブトムシなどの甲虫から、とても美しいチョウだったり、あとパンダのようなアリ、バイオリンのようなカマキリなど、本当にマニアックな標本が展示されていて、昆虫好きにはたまらない特別展だと思うんですけれども、昆虫の世界って本当に多様性に富んでいるんですね?

(左)パンダアリ (右)バイオリンカマキリ
(左)パンダアリ (右)バイオリンカマキリ

「そうですね。名前が付いているだけで100万種で、付いてないものも含めると約500万種くらいいるって言われていて、だからもう本当に形にしろ生態にしろ、いろんな多様性が見られるっていうのが面白さですね」

●世界にはもう昆虫だらけってことですよね! 特別展の総合監修を担当された井手さんから今回の特別展のここを見てほしいとか、こんなことを感じてほしいなど、何かありましたらぜひ教えてください。

「会場にはたくさん標本があるんですけれど、標本と一緒に解説パネルがいっぱい用意されているんですよね。全部読まなくてもいいとは思うんですけれど、その解説パネルを読んで、その標本を見ると、なんでこの標本が展示されているんだろうっていうのが見えてきて、それ読んだ上でまた昆虫を見ると、すごく面白く感じていただけると思います。

特別展「昆虫 MANIAC」

 研究としては標本を基本的に扱っているんですけど、やっぱり生き物なので、自然の中で生きている姿を見てもらうのがいちばんだと思うんですよね。だから博物館でまずは、逆に標本じゃないと細かいところは見られないので、そういうところでいろんなことを知った上で、改めて身近な環境でたくさんの種類に出会うことができる、多様性の面白さを感じられるのが昆虫だと思うので、そういったものになればいいなと思います」


INFORMATION

国立科学博物館 特別展「昆虫 MANIAC」

国立科学博物館 特別展「昆虫 MANIAC」

 井手さん始め、5人の研究者がそれぞれの得意分野を存分に発揮して、マニアックに攻めた展示をぜひご覧ください。「トンボ」「ハチ」「チョウ」「クモ」そして「カブトムシ」の5つの扉があなたを待っていますよ。標本、写真パネル、動画、そして精巧に作られた巨大模型にもご注目ください。

 音声ガイドナビゲーターは声優の江口拓也さん、公式サポーターはアンガールズで、山根さんが発見した新種の昆虫標本も展示されていますよ。特別展のオリジナルグッズにも注目です。

 現在開催中の特別展「昆虫 MANIAC」は10月14日まで。尚、9月9日(月)は休館日となっています。開館時間は午前9時から午後5時まで。入場料は一般と大学生2,100円、小・中・高校生は600円。9月中は、ほかにも休館日がありますので、ご注意ください。詳しくは、オフィシャルサイトをご覧ください。

◎昆虫 MANIAC:https://www.konchuten.jp

 井手竜也さんの研究サイトも見てくださいね。

https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=ide

「山小屋は非日常を味わえる究極の宿」by シェルパ斉藤

2024/9/1 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、バックパッカーそして紀行家の「シェルパ斉藤」さんです。

 斉藤さんは1961年、長野県生まれ。本名は「斉藤政喜」。学生時代に中国の大河、揚子江をゴムボートで下ったことがきっかけで、フリーランスの物書きになり、1990年に作家デビュー。

 現在もアウトドア雑誌「BE-PAL」の人気ライターとして「シェルパ斉藤の旅の自由型」という連載を30数年続けています。また、1995年に八ヶ岳山麓に移住、自分で建てたログハウスで自然暮らしを送っていらっしゃいます。

 今回は、斉藤さんらしい旅のお話として、まずは、新しくなったお札をモチーフにしたユニークな旅、そして新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をもとに、温泉や食事が抜群の、個性的な山小屋のお話などうかがいます。

☆写真:シェルパ斉藤、イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

写真:シェルパ斉藤、協力:山と渓谷社

1万円札の旅!?

※今回、斉藤さんにお話をうかがったのは先月で、実は前日まで旅をされていて、ご自宅に戻る前だったんです。そんな斉藤さんが、東京に立ち寄った際に時間をとっていただき、まずは最新のユニークな旅のお話をうかがいました。どんな旅だったのか、今回はほんのさわりだけ、ご紹介します。

「行っていたのは九州なんですよね、大分県の中津ってところにいて・・・。で、きのういたのが埼玉県の深谷。まだ家に帰ってないから、旅の途中なんですよ」

●きょうも大きな荷物を持っていますよね。

「ええ、それで中津、深谷でピーンときた人は、相当アンテナを張り巡らせているかただと思うんですけど、最近の日本での大きな出来事でいうと、オリンピックは日本の話じゃないので、その前に1万円札が変わったんですよね」

●新紙幣に!

「はい、それで僕、たまたま3月に九州を旅して、その時は野田知佑さんが亡くなって、追悼する自転車ツーリングに出かけていたんですよ。大阪から自転車で走って、大分県の国東半島に入って、そこからずっと走ったら中津を通ったんですね。で、中津を通ったら、“1万円札、さようなら”みたいな感じで、福沢諭吉の生誕地なんですよ。駅にいろいろとちょっとしたメモリーっぽいものがあったりして・・・。

 それを見たあとに、5月かな、今度は旧中山道を旅していて、下諏訪のほうから江戸日本橋を目指して、いろいろ宿場町に寄って深谷に着いたら、新1万円札で、渋沢栄一でガッと盛り上がっているから、それでピーンときて、このふたつを結びつけてみたら面白いなと。だから福澤諭吉の生誕地から渋沢栄一の生誕地まで旅をしようと。で、1万円札の旅なので1万円だけでやってみようと思ったんですよ」

●1万円で、ですか!?

「うん、だから予算1万円の旅。普通はヒッチハイクとか使わない限りできないんですよ、物理的に」

●大分から埼玉ですよね。

「そうなんですよ。いろいろ交通機関を調べても(1万円では)できないんだけど、今この時期、7月から9月10日まで『青春18きっぷ』っていうのが使えるんですよね。あれは12,050円で5枚つづりで、1日あたり乗り放題、だから1枚あたり2,500円くらいになるんですよね。

 で、これを使えば、2日で行けたとしたら5,000円分くらいのはずだから、残り5,000円だと多分食事を1日500円を3回としても1,500円、2日間で3,000円で、2,000円くらいだったらネットカフェか、あとベンチに泊まればなんとかなるんじゃないかっていうことで始めたのが・・・ってか、きのう終わったんですけどね」

(編集部注:1万円札リレー旅の結末、気になりますよね〜。果たして、費用が1万円以内で収まったのか・・・「青春18きっぷ」だけで1万円を越えちゃってますからね〜。どうしたんでしょうね〜。

 ほかにも、列車の移動はうまくいったのか、福澤諭吉、渋沢栄一、それぞれの生誕地で何を感じたのかなど、旅の顛末は、9月9日発売の「BE-PAL」10月号の連載記事「シェルパ斉藤の 旅の自由型」で明らかになります。ぜひチェックしてください)

山小屋の間取りをイラストに

※ではここからは、斉藤さんの新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をもとにお話をうかがっていきます。この本は山岳雑誌「PEAKS」に連載していた記事を、大幅に加筆修正してまとめた本ということで、まずは、連載が始まったいきさつについてお話しいただきました。

シェルパ斉藤さん

「僕は実は山小屋、あんまり詳しくなかったんですよ。いつもテントを張ってどうこうしているっていうのがあって・・・。それと、なんか山小屋は泊まりにくかったんですよね、なんとなく気分的に。
 まずひとつはお金がかかるっていうのがあるし、僕は63歳になったんですけど、若い頃って山小屋はなんか嫌だったんですよ、怖くて親父さんが・・・。すごく怒られるみたいな、”山はそんなもんじゃねえ!”みたいなイメージがあって、頑固親父のイメージがあったんですよね。

 それもあって、なかなか山小屋を実は避けていて、これが50歳過ぎてから、とりあえず山小屋に対する抵抗感がなくなってきてというか、やっぱり代も様変わりしていますし、それもあるけど・・・。
 僕が住んでいるのは八ヶ岳のふもとなんですよ。ふもとに住んでいるのに地元の山小屋は実は泊まったことがあんまりないなって気づいて、それで『PEAKS』って山雑誌が、なんか連載してくれないかって頼んできて、提案したのが山小屋をやりたい、泊まったことないから。

 それでまず八ヶ岳の山小屋を片っ端から泊まってみたいと・・・その時に僕がひとつ提案したのが、この本の売りにもなっている間取りですよね。山小屋ってその地形に合わせて作っているし、自然環境に合わせて作っているので、例えば平地の建売住宅のような同じ建物って絶対作れないんですよ、限られた条件の中で工夫して作っているもんですから。で、さらに建て増し建て増しとかってやっていくと、すごく複雑になっているんですよね。

 で、一軒として同じ建物がないこの山小屋の間取りとかをイラストで描いたら面白いんじゃないですかっていう提案をして・・・。で、普通、山小屋ってだいたいご主人とかそこの歴史とかをフィーチャーしていくんだけど、やっぱり建物だけでも面白いから、僕は当然、人物の話を書いたりいろいろしていくんだけど、建物が一発でわかるイラストを載っけたら面白いんじゃないかと・・・。僕が自分で家を作っているってこともあって、ちょっとした建築のことなら少しわかるので・・・。で、編集長に提案して、間取りを描けるイラストレーターを誰か紹介してって頼んで、紹介してもらったのが神田めぐみさん。

 ただ、彼女は当時25〜26歳だったかな。まだ駆け出しのイラストレーターだったんですけど、(神田さんは)山に登れるっていうのは聞いていたんですよ。で、その時、僕が“間取りを描けますか?”って聞いたら、”はい、描けます!”って力強く言ってくれたんですけど、あとで聞いたらほとんど描いたことがなかった(笑)」

●そうだったんですね(笑)

「駆け出しだったからやっぱり連載を持てるっていうのに喜んで、それが始まりだったけど、本当に初っ端からかな、すごく上手く描いてくれて、それからコンビでずっと一緒に(山小屋取材に)行くようになりましたね」

(編集部注:イラストレーター神田めぐみさんと山小屋の取材を行なうようになった斉藤さん、年齢的には二回りも違うということで、最初はいろいろ気を遣っていたようですが、神田さんが斉藤さんの話にのってくれるし、同じ視点で見ていることに気がつき、手応えを感じたそうです。また、神田さん自身も山旅を楽しんでいたそうですよ)

「滞在記」がポイント

※取材する山小屋は、どんな基準で選んだんですか?

「この本は全部で4章に別れているんですけど、最初は八ヶ岳編、次は奥秩父編、これは僕の家から近いからっていうか、僕の地元だからっていうことなんですけど(笑)、最初はエリアごとに区切って、奥秩父が終わった段階で全国に足を伸ばそうと。ですから八ヶ岳編、奥秩父編の時には一応全部(山小屋を)選ぶことなしに片っ端から行くっていうのがあったんですね。

 で、全国編になってからどこでも行きたいと思ったところに行こうと。その時の基準は・・・基準というか、できない山小屋があるんですよ。それはでかい山小屋、大きな山小屋。これはやっぱりイラストを描くっていう売りなので、大きすぎると描ききれない、ページに収まりきれない。それと僕がいろんな人と話をするのにスタッフが多いとやっぱり無理なんですよね。

 僕は普通の宿泊記ではなくて(タイトルを)滞在記にしているのは、そのスタッフのかたと仲よくなる。いろいろと話を聞いたりとか、それにはやっぱり顔と名前を覚えられなければいけないっていうのが僕の中であって、10人くらいまでならまだいいんですけど、大きな山小屋って30人40人、全員と話ができないって状況になると、ちょっとそれは本当にただ宿の紹介だけになっちゃうから・・・。

 だからこの滞在記っていうタイトルも、24時間滞在記ってなっているんですけど、要は宿泊じゃなくて滞在したからこそ仲よくなれたりとか、滞在しているからこそ、普段だと聞けないような話も聞けたりとか、ということができたっていうのもあるので、そういう意味では話ができる山小屋というのを前もって、僕も神田さんも山業界にいろいろと知り合いがいるから、あそこはいいよとかっていう情報が回ってくるから、それで選んでましたね」

飲ませ上手な花ちゃんと、しのぶさん

※この本には、唯一無二の個性的な山小屋が145軒、立体的なイラストとともに紹介されているんですが、山小屋のご主人や小屋番、そしてスタッフがこれまた個性的なんです。その中から、南アルプスの「光岳(てかりだけ)小屋」の管理人になった花ちゃんのお話をしていただきました。

写真:シェルパ斉藤、協力:山と渓谷社

「そもそも知り合ったのは、この山小屋の取材で知り合ったんですけど、その時は南アルプスの『鳳凰(ほうおう)小屋』ってところにいたんですよ。そこで知り合って、当時はまだ(彼女は)26歳くらいだったのかな。

 で、知り合ってからいろいろと、うちにも遊びに来るようになって・・・そう! 彼女と僕、結構、山に行ったり、いろいろしているんですよね。一緒に東北の山へ、たまたま僕が避難小屋で薪を使ったから、“薪の恩返しに行こう! 付き合う?”って言ったら、わざわざ薪を運んでくれて、東北の山に行ったりとか・・・」

●花ちゃんは、山小屋を転々として管理人さんになったんですよね?

「そうなんですよ。最初は『鳳凰小屋』にいて、それから順番もバラバラなんだけれども、『広河原(ひろがわら)山荘』とか『こもれび山荘』とか、と言っても多分みんなピンと来ないと思いますけれども、『金峰山(きんぷさん)小屋」とか、いろんな小屋を転々と渡り歩いて・・・。
 やっぱり山小屋をやっているかたって、自分の山小屋をやってみたいっていう憧れのようなものがあって、要するに雇われているんだけど、管理人としてね。でもやっぱり管理人さんって自分のカラーを出せるわけです、自分の山小屋っていうのは・・・。

イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

 その募集があったのが静岡県の『光岳』で、みんな『ひかりだけ』って呼んだりとかするんだけど、すごくマイナーな山なんですよ。一応、深田久弥の『日本百名山』には入っているんですが、みんなここには行きたくないっていうくらいに、“絶望のてかり”って言われていて、それは字で書くと“絶望の光”っていうふうになるんだけど・・・。
 普通、山って登ると“やった~、こんな景色が開けていて”っていうのがあるんだけれど、光岳は登っても大して絶景でもないし(笑)、だから“絶望のてかり”って呼ばれているんですけどね。

 行くのは遠いんですよ。そこで(花ちゃんが)管理人をやるっていうのがちょうどコロナ禍の時だったのかな、募集があって・・・。だけどコロナ禍になったもんだから、山小屋を開けなくて、準備をコツコツと進めて、ようやく2年前に自分の山小屋として開いたんですよ」

●女性の管理人さんって珍しいですよね? 

「最近ちょっと増えているんですよ。光岳の花ちゃんもそうですし、それから南アルプスに『馬の背ヒュッテ』ってあって、そこをやっている斎藤しのぶさんってかたも管理人としてやっているんですね。で、しのぶさんも花ちゃんもどっちも酒を飲ますのがやたらうまい!」

●そうなんですね(笑)

「花ちゃんも自分でいろいろ酒を置いてあるし、特にしのぶさんは本当にお酒が大好き! 自分も好きだし、飲ませ上手なんで、いろんな銘柄を置いてあって、好きに飲めるっていうようなバータイムが始まるんですよ。

 特にしのぶさんのところは日本酒なんですけど、飲ませるのがうまいんですよ! 僕は“スナックしのぶ”って言っているんですけど、山の中で気が付けばガンガン飲ませる! でも心地よい飲み方なので・・・ですから、女性ならではの細かいもてなしがあったり。

 花ちゃんも(山小屋に)着いたらちゃんと、静岡だから静岡茶のサービスがちょっとあったりとか、そういうきめ細かいサービスがあるところって、ありますよね。なんかそういう意味では(山小屋が)昔のイメージとは全然変わってきて、いいですね」

温泉、混浴、星明かり

※続いては、温泉のある山小屋の、ドキッとして神秘的なエピソードです。

●北アルプスの「白馬鑓(はくばやり)温泉」は男女混浴なんですね?

「だいたい混浴が多いですよね。ほとんど女性は水着を着ているし、男はちょっとね、別にっていう感じで、裸で入ったりしていて、別に決まりじゃないんですよ。女性が水着を着なきゃいけないとかってわけじゃなくて、でも着なきゃ入れないよねっていう・・・。

イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

 ただ白馬鑓温泉に行った時は、営業がもうすぐ終わりだったんですよね。白馬鑓温泉って、ほかにも『岳沢(だけさわ)小屋』とか『阿曽原(あそはら)温泉』がそうなんですけど、山小屋ってすごく雪崩が多いところもあるんです。そういうところだと建物も毎回シーズンが終わると撤収するんですよ。撤収してまたシーズンが始まると組み立てる、ですからテントみたいなもんで、それをずっと繰り返すんですね。

 それで白馬鑓温泉もそういうふうにシーズン終了に近かったので、全部撤収してっていうので、スタッフが来ていたんですよね。夜、飲んでいるうちにスタッフたちと“お風呂に入ろうよ!”って話になって、それまでは女性もみんな水着とかで入っていたのに、その時はみんなして、すっぽんぽんで!」

●あらっ!!

「僕は男だから当然だけど、女性もすごく気持ち良さそうに(お風呂に)入るんですよね。その時はたまたま、本当に新月で、月明かりもなくて星明かりしかない、だから電気さえつけなければ、本当に真っ暗けなんですよ」

●なるほど~。

「本当にすっ裸で解放感、しかも空を見上げると満天の星だし、その満天の星がたまに湯船に映ったりもして、宇宙を素っ裸でみんなして、仲間になりながらバーっと見上げているっていう感覚は・・・あの感覚はすごくよかったですね」

(編集部注:ほかに苗場にある「赤湯(あかゆ)温泉山口館」は歴史があり、温泉としても旅館としてもよくできているとおっしゃっていました。気なるかたはぜひ、本を見てくださいね)

本格的なフランス料理!? 一流の料亭の味!?

※霧ヶ峰の「鷲ヶ峰(わしがみね)ひゅって」はフランス料理が食べられることで有名なんですよね?

イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

「あそこはちょっと特別ですね。だから山小屋っていう概念じゃなくて、でもペンションでもないし、民宿でもないし、ホテルでもないしっていう独特な世界観がありますね。
 ご主人が東京の超一流のシェフから直伝でいろいろ教えてもらって、3年ぐらい修行したとか言ったかな・・・その料理を提供するんですけど、雰囲気もいいから美味しいんですよ。オードブルから始まって本格的なフランス料理が次から次と出てくる!」

●山小屋でフランス料理が食べられちゃうって、すごいですよね~!

「うん、あそこは料理だけでも本当に行く価値があるかなって思いますね。
 あとは、おすすめで言うと 『山楽荘(さんらくそう)』って御岳山にあるんですけど、ここはちょっとびっくりするくらいの料理、料亭のように次から次へといろんなものが溢れんばかりに出てきて、しかも一流の料理人のかたが作っているんですけど、そこ自体がもう本当に神の領域なので・・・。
 次から次とちっちゃい料理がたくさん出てくる、だから料亭気分ですよね。それを山小屋と言っていいのかっていう感じにはなってしまいますが、あそこもよかったですね~、そういう意味では」

●旅の疲れを取るための山小屋っていうよりは、わざわざ行きたくなる山小屋がいっぱいありますね。

「そうですよね。山小屋は料理もそうですし、それからやっぱりあと場所ですよね。景色はやっぱり行かなければ、見えないものはかなりあるので・・・。

 なんでこんなに山小屋がいいのかなって考える時に、日帰りだと多分見えない景色があって、それは山で一日が暮れる、暗くなるまでそこにいられるっていうのは、しかもご飯がちゃんと出てくる、そのあとはそこに暮らしてる仲間たちとお話ができる、夜になると星が出てきて夜明けを迎えられるっていうのは、やっぱりこれ、山小屋の魅力だなっていうのを、山小屋を全然知らなかった人間が言うのはなんですが、それは感じますよね」

イラスト:神田めぐみ、協力:山と渓谷社

(編集部注:ほかにお料理が素晴らしい山小屋として三重の御在所岳にある「日向小屋(ひなたごや)」をあげてくださいました。海の幸、山の幸がテーブルに載らないほど出てきて、どれも美味しい、それでいて、宿泊費が一泊2食付きでなんと4,000円! ご主人の人柄もよく、斉藤さんいわく、山小屋の概念を超越し、知り合いのうちに遊びに来たような感覚になったそうですよ)

映画で言うなら予告編!?

※改めてなんですが、山小屋の魅力とはどんなところでしょう?

「山小屋って、山頂に登るために泊まる施設なんですよね。それから帰りが遅くなった場合とか、山に登るための補助施設みたいな感じなんですけど、僕はそこを旅の宿として、究極の旅の宿というふうに僕は思っているんですよ。旅ってやっぱり非日常を味わうために行くっていう意味では、あんな非日常の宿はないなと・・・。

 まず行くのも、大体のところは車で行けないわけだし、歩いて汗をかかないといけないし、そこには電気がなかったり水もなかったり、限られた中で一生懸命みんな工夫しているんですよね。だから人間の生きる知恵も見える、その中で一生懸命もてなしてくれるっていう意味では、非日常を味わえる究極の宿かな、それが山小屋じゃないかなって僕は思っています」

●最後にこの新しい本『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』をどんなふうに活用してくれたら、著者としては嬉しいですか?

「正直ね、これ(「PEAKS」に)連載の時は4ページで、結構大きく割いていたんですよ。で、いろんな写真も載っけていたりとか、僕も文章をしっかり載っけていたんですけど、この本は各山小屋を2ページずつで145軒だから、300ページ以上の本になって、文章をかなり削っちゃったんですよね。

 ですから、ワンショート・ストーリー、この山小屋はこういう話だってことで、ショート・ストーリーをずっと綴ったつもりなんですね。神田さんのイラストはそのまま載っけているんだけど、僕の文章に限って言うならば、大幅にカットせざるを得なかった。だから最初は、文章を書く人間としてはそれはすごく辛かったし、いいのかなこれでと思ったんだけど、ある時書いているうちに、これは映画で言うなら、予告編の集まりなんだなっていうふうに思って・・・。

 やっぱり面白そうな映画って予告編を見たら本編を見たい!と思って、映画館に行くように、だからこの本を読んで、この山はこういうふうになっていて、こんな感じなのかって思ったら、この山小屋に行ってもらいたいな。だから山小屋へ行くための導きになったらいいな、きっかけになってもらいたいなっていう、そういう意味ではパラパラ見ると大体わかるし・・・。

 それから詳しいデータは一切載っけていません! っていうのは、ホームページとか見れば大体わかるから。だから誰もがわかることではなくて、僕が感じたこと、滞在してわかったことを書いているんですね。だけど多分行けば、全然違う体験になるだろうから、それを味わうためにあくまでもインビテーションっていうか、きっかけとしてこれを使ってもらえればなと思います」

(編集部注:今回の本は“24時間滞在記”ということで長く滞在することで、山小屋のスタッフと過ごす時間も増え、お互いに心を開いて話すことができたそうです。なので、山小屋をあとにするとき、スタッフがいつまでも手を振って見送ってくれたそうです。斉藤さんはとてもじーんとしたとおっしゃっていましたよ)

☆この他のシェルパ斉藤さんのトークもご覧ください


INFORMATION

『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』

『シェルパ斉藤の山小屋24時間滞在記』

 斉藤さんの新しい本をぜひチェックしてください。全国の山小屋から、実際に訪れた145軒を掲載。オールカラーで、ひとつの山小屋を見開き2ページで紹介。斉藤さんの、エピソードを交えた簡潔な文章を読み、神田めぐみさんの、間取りを立体的に描いたイラストを見る、それだけで山小屋に行きたくなると思いますよ。
 山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社:https://www.yamakei.co.jp/products/2824330810.html

 本の発売を記念して、イラストの原画展がモンベルストア渋谷店5階のサロンで開催されます。期間は9月13日から20日まで。初日の13日には、夜7時から斉藤さんのトークショー&サイン会が予定されています。詳しくはモンベルのサイトをご覧ください。

◎モンベル:https://www.montbell.jp

 斉藤さんのオフィシャルサイトも見てくださいね。

◎シェルパ斉藤:https://team-sherpa.wixsite.com/sherpa

私たちの心や体を元気に! 「植物療法」の可能性

2024/8/25 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アロマセラピストの「中村姿乃(なかむら・しの)」さんです。

 中村さんは子供の頃から植物好き。自宅の近くに大きな公園があり、お母さんやおばあちゃんとよく出かけ、植物の香りを嗅いだり、落ち葉を拾ったり、また植物図鑑も好きな、そんな子供だったそうです。

 大学卒業後は、一般企業に就職。そんな中、30歳を過ぎた頃に、蚊に刺されると、熱が出たりするようになり、蚊の唾液によるアレルギーが判明。常に虫除けスプレーを持ち歩く生活になってしまったそうです。そんな頃、精油を使って自分で虫除けスプレーを作れることに気づき、会社勤めをしながら、週末、アロマの学校に通うようになったそうです。そしてアロマの素晴らしさを人に伝えたいと思うようになり、徐々にアロマにシフトしていったそうですよ。

 そしてフランス・リヨンの専門学校でアロマテラピーなどの植物療法を学び、現在は都内でアロマテラピースクール&サロンを運営していらっしゃいます。また、先頃、新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』を出されました。

 きょうはそんな中村さんに、植物療法の基礎知識のほか、香りを権力の象徴として使ったクレオパトラの逸話、そして音楽や絵本に登場するハーブのお話などうかがいます。

☆写真協力:関 純一

写真協力:関 純一

学びは「リヨン植物療法専門学校」

※専門の知識はフランスのリヨン植物療法専門学校というところで学んだそうですね?

「そうですね。最初は会社員時代は東京の学校でアロマの勉強して、日本のアロマの資格はいくつか取ったんですね。
 会社員時代に何をしていたかというと結構面白い仕事をしていて、ジュエリーの仕事だったんですけれども、そのジュエリーのもとになる原石を売っている人たちに、世界中に行って取材をするっていうような仕事をしていたんです。

 なので、アロマテラピーを始めた時も、エッセンシャルオイルのボトルの中に入る前の、植物を育てている人に取材してみたいって思うようになって、アロマテラピー発祥の地がフランスだったので、2014年ぐらいから定期的にフランスに行って農場とか精油メーカーを取材するようになったんですね。

 で、そこのかたがたにお会いしたりすると、やっぱりフランスの植物学校ってすごくいいよとか楽しいよっていう話をうかがって、リヨンの植物学校に行き着いて勉強したいなっていうふうになりました」

●フランスにいろんな学校がある中で、そのリヨン植物療法専門学校を選んだのは何か理由があったんですか?

「そこはアロマテラピーだけじゃなくって、ハーブとかフラワーエッセンスとか、ペットのために植物を使うこととか、総合的に植物療法を教えている学校で、かなり規模も大きかったのと、私がお世話になっている農場のかたがたの何人かが、そこの学校の卒業生だったりとか講師をされていたりしたこともあったので、ここだったらいいかもっていうふうに思いました」

(編集部注:リヨンの専門学校は、実はコロナのパンデミックで、リアルな授業ができなくなり、それまでやっていなかったオンライン授業をスタート。中村さんはアロマテラピーの学科を1年間受講。授業はもちろんフランス語で、辞書を片手に格闘する日々が続いたそうです。それでも、日本で勉強するアロマテラピーの内容とは異なり、すごく面白かったそうですよ)

写真協力:関 純一

※どんな違いがあったんですか?

「例えば日本だと、『腕の痛みにおすすめの精油は何ですか? 理由とともに書きなさい』みたいな、そういう問題が多いと思うんですけど、なんかフランスだからか、すごく物語性があって、『62歳のモーリスさんは絵画をやっていて手を痛めてしまいました。彼はこの秋には個展を開くので、また絵画を再開したいと思っているんですが、お医者様に行ってもお薬では治らず困っています。あなただったらどんな精油をどんなふうに使うように、彼に総合的にアドバイスしますか』とかそんな感じで(笑)、情景が浮かぶようなレッスンとか・・・。

 あとは植物について書かれたポエムが載っていたりとか、学習だけじゃなく感性も磨かれるようなレッスンで、それがすごく楽しかったですね」

●好きなことだからワクワクしそうですよね。

「本当にそうですね。フランス語つらいっていう思いもありつつ、やっぱり内容がわかると本当に楽しいっていうのがありました。終わったあとは本当に益々アロマとか植物のことが好きになれたかなっていう感じです」

まるごと一冊、植物療法

中村姿乃さん

※ではここからは、中村さんの新しい本『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』をもとにお話をうかがっていきます。

 この本は装丁が百科事典のように立派で、内容は植物療法の基礎知識から歴史、人物、物語など幅広く、読み応えがある、まさに教科書のような本なんです。中村さんはこの本を2年ほどかけて書き上げたそうですが、参考文献をたくさん読み込む日々でもあったそうですよ。

●こんな本にしたいというコンセプトのようなものはありましたか?

「この本のコンセプトというか、いちばんしたかったことがアロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンスとか、植物療法の中にもいくつかのジャンルがあるんですけれども、そのジャンルを敢えて分断しないで、横断的に見ていくっていうのがまずひとつのコンセプトだったんですね。

 かつ、ハウトゥー本みたいな感じではなくて、植物療法全般の歴史とかそれに関わってきた人たちとか物語とか、背景の部分も楽しく読んでいけるっていうのがコンセプトでしたね。
 私ももともとそういう本が欲しいなって思っていたところもあったので、それができるっていうのはすごく嬉しかったんですけど、結構プレッシャーもありました(笑)」

●勉強しながら作り上げていったっていう感じなんですね。

「そうですね。終わった今となっても本当にたくさんの学びがあったなっていうふうに思っています」

●すごく分厚くて難しそうな本かなって一見思ったんですけど、読み始めるとスラスラっと読めて楽しかったです!

「ありがとうございます! カラーで写真やイラストも入っているので・・・。4つの章に分かれているんですけれども、基本的にはどこから読んでいただいても大丈夫です。植物療法が初めてのかたは、パート1から読んでいただくといいかなと思うんですけれども、どこからでもお好きなところから読み進めて、ちょっとずつ読むっていうのでも全然大丈夫な本にはなっています」

写真協力:関 純一

植物療法の基礎知識

※では具体的に、本に載っていることをいくつかうかがっていきます。
 まずは「植物療法の基礎知識」ということで、植物療法とは何か、教えていただけますか。

「植物療法って簡単に言うと、植物の力を使って、私たちがもともと持っている自然治癒力を高めて、病気の予防とか心や体のケアに使っていく。で、健康に導いていくっていうことなんですよね。

 だから植物療法って聞くと、ちょっと難しく感じるかもしれないんですけれども、普通にお部屋の中でアロマ・ディフューザーで精油の香りを楽しむとか、ハーブティーを飲むとか、あとは森林に行って深呼吸するとか、植物を育ててすごく癒されるとか、そういうのも全部、植物療法のひとつになっていると思います」

●なぜ植物って癒す力があるんですか?

「細かく見ていくと、理由はちゃんとあるんですけど、植物って基本的には生まれてきた場所から自由に動くことができないので、そこで一生、生きていくために、長い歴史の中で、すごくたくさん進化をしてきているんですよね。

 で、植物って常に有害なものから身を守る成分と、これからも地球上から絶えないようにするために、子孫を残す成分っていうのを作り続けているんですね。それが最近でも話題にはなっているんですけど、『フィトケミカル』っていうような成分もそれに含まれていて、それは植物の香りとか苦味とか色素とかを作っているような成分でもあるんですね。

 なので、そういった成分に抗菌とか抗ウイルスとか抗真菌の作用があって、植物自身も守られるとともに、それを使った私たちも抗菌とか抗ウイルスの作用で感染症のケアができたりとか・・・。

 あとは、そういう植物が作る成分って、紫外線をずっと植物は浴びているので抗酸化作用っていうのがあって、細胞が老化したり酸化したりするのを防ぐような成分が結構あるんですよね。そういうのを私たちが使うことで、ひいては老化の対策ができたりとか、そういったいろんな一面を植物は持っています」

写真協力:関 純一

●ひとくちに植物療法と言っても、本当にいろんな療法があるんですよね。

「そうですね。この本の中でもアロマテラピーだけじゃなくて、ハーブ療法とかフラワーエッセンス、森林療法 、園芸療法、ジェモセラピー、ホメオパシーなどなど、たくさんジャンルがあって、本のパート1では、それぞれの特徴もわかりやすく説明をさせていただいているので、ひとつかふたつは自分は知っているけど、ほかのはまだ聞いたことがないっていうかたも読んでいただけると、その違いがわかるかなと思います」

クレオパトラの香り!?

※中村さんの新しい本から、続いては、植物療法の歴史に少し触れたいと思います。本には紀元前3000年頃にはメソポタミアやエジプトで、すでに植物療法が用いられていたと書いてありましたが、どんなものが何に使われていたのでしょう?

「その頃はどちらかというと、もちろん治療的に使われていたこともあるかもしれないんですけれども、宗教とか儀礼的な舞台で植物の香りが利用されることが多かったみたいです。その頃の遺跡からはペースト状になった油に植物の香りがついた軟膏を入れていたような容器が、すごくたくさん出土しているんですよね。

 なので、身分が高いかたが亡くなった時に一緒に棺の中にそういったものを納めたりとか、どちらかというと、暮らしの中で庶民が、っていうよりは、おそらく特別なかたがたが香りを重用していたのかなっていうような痕跡がみられるみたいです」

●歴史上の重要な人物も植物療法に関わっていたということで、例えば古代ギリシャの医者で、医学の父と言われているヒポクラテスは、植物療法の歴史においてどんな役割を果たしたんですか?

「ヒポクラテスが生きていた時代は、病気が神様の怒りに触れたりすることで、みんなに起こってしまうものっていうふうに信じられていたので、基本的に治療は神様の教えに従って神殿の中とかで行なわれていたらしいんですね。

 で、ヒポクラテスはそういう呪術ありきの治療法に疑問を呈した人で、病気とか治療法は神様から与えられるものではなくて、理性に基づいた合理的で科学的な説明ができるはずなんだって考えて、彼は環境とか食事とか生活習慣とかが、人々の健康に大きな影響を与えるっていうふうに考えたようなんですね。

 そんな中、彼は排泄を促すために下剤とか嘔吐剤とか利尿剤を薬草で作って、それぞれの人にアドバイスをしながら、それを渡したりとか、あとは生活習慣の中で薬草とか野菜とかオリーブオイル、ワイン、蜂蜜を積極的に食事の中に取り入れるといいよっていうようなアドバイスもしていたようなんですよね。

 なので、今の私たちからすると生活習慣が健康を左右することになるっていうのは、もう当たり前って感じだと思うんですけれども、やっぱり当時のように長きに渡って病気と迷信がセットになっていた時代に、それを大きな声で発信していったっていうのは、すごく先進的な人だったのかなって思います」

写真協力:関 純一

※あのクレオパトラは、権力の象徴として香りを使っていたそうですね?

「彼女もすごく魅力的で頭が良くて、政治的手腕に長けたかただったようなんですけれども、彼女はとっても高価な香りのついた油とか香料をたっぷりと全身に塗ったりとかして、人々を魅了していたみたいなんですね。

 特にバラとかジャスミンのお花がすごく好きだったみたいで、権力のある政治家とか軍人を晩餐会に招いた時には、くるぶしぐらいまでバラの花を敷き詰めて招待客を圧倒して、政治的な力を見せつけたっていうようなエピソードもあるみたいです」

●すごいですね〜! バラとかジャスミンのお花を浮かべたお風呂にも入っていたって、本に書かれていましたけれども・・・。

「本当に高貴なかたならではの、香りを使った処世術というか、すごいなと思いますね」

●華やかな香りがしたんでしょうね〜。

「香りがちょっと想像できるような、浮かんできますよね」

(編集部注:日本では、あの聖徳太子が医学や薬草の利用を広める重要な働きをしたそうですよ。興味のあるかたは、ぜひ中村さんの本を読んでくださいね)

ハーブは音楽や絵本にも登場!?

※この本では、植物と人の関わりが記された古典や文学、絵画や絵本、小説や映画、さらにはマンガやアニメなども紹介されていますが、実は音楽にも植物が登場するんですよね?

「そうですね。この本の中でもいくつか、音楽の中に紹介されている植物たちっていうのがあって、例えばサイモン&ガーファンクルの『スカボロー・フェア』っていう曲の中に、パセリとセージとローズマリーとタイムっていう4つの植物が出てくるんですけど、これが何を意味しているのかっていうのを考察してみたりとか・・・。

 あとはエディット・ピアフの『バラ色の人生』とか、エド・シーランの『スーパーマーケット・フラワーズ』とか、いろいろな曲の中に出てくる植物と、それがいったい何を象徴しているのかなって、ちょっと考察してみたりしています」

●具体的な植物の名前を出すことで、歌の世界観がやっぱりググッと広がりますよね。

「そうですよね。植物って誰でもなにかしらの思い出があると思うんですよね。なので、植物の名前が出てくることで、自分の中の思い出スイッチみたいなのがちょっと刺激されて、きっとみなさん、心が動くところがあるんじゃないかなって思います」

写真協力:関 純一

●親近感にもつながりそうですね! 絵本でいうと「ピーターラビット」のシリーズにはいろんなハーブが出てきますよね。

「そうですね。ピーターラビットってすごく絵が可愛くて、みなさん多分、絵柄はご存知だと思うんですけど、結構、家庭環境が複雑なうさちゃんたちなんですね。 
 お母さんがひとりで4匹の子うさぎたちを育てていて、生計を立てるためにハーブをすごく使って、例えばハーブのお薬とかローズマリーのお茶とかを販売したりとか・・・。あとはうさぎタバコって言われるラベンダーを乾燥させたものを、みんなに分けたりとかして生計を立てているので、そもそもがハーブがベースになっている暮らしっていうのが描かれているんです。

 そのピーターラビットのエピソードの中でも、ピーターがすごくいたずらっ子なので、畑に行ってどんどん野菜を勝手に食べちゃったりするんですけど、そこでピーターは自分で消化にいいハーブをちゃんと食べてケアをしたりとかしているんですよね。

 なので、読んでいるとこれにこういう作用があるんだっていうのもわかるんですけど、すごく可愛らしくて、ハーブの情景も浮かんできて、とってもワクワクします」

スクール&サロン「野枝アロマ」

※中村さんが主宰されている都内・西荻窪になるアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」では、どんなレッスンをされているんですか?

「大きく分けると、フランス由来のアロマテラピーとか植物療法をお勉強していただけるレッスンと、あとは日本ならではのアロマテラピーを勉強することができるレッスンというのがあるんですね。

 で、フランスの植物療法については、フランス由来のアロマテラピーで使う専用の成分とか、使い方をすごくわかりやすく深く勉強することができるNARD JAPANという協会の認定コースもやっています。あとは私自身がリヨンの植物学校で学んだ内容とか、農場とか精油メーカーを取材してきた内容を、スライドを見ながら楽しく勉強していただけるオリジナルのコースなんかもあります」

写真協力:関 純一

●一度だけ体験したいとか、そういうこともできるんですか?

「そうですね。体験レッスンもやっていて、そこでアロマテラピーの最初の一歩のお話をさせていただいたりとか、ルームコロンとか入浴剤とか美容オイルを楽しく作っていただいたりすることもできます。

 あとはオンラインで説明会とかワークショップみたいなのをやることもあって、結構いろいろな地域から来ていただいたりもしているので、これからはもう少しオンデマンドの動画レッスンとかオンライン講座もちょっと充実させていきたいなと思っています」

●いいですね〜! フランスには今も定期的に行かれているんですか?

「はい、そうですね。1年に一回くらいは必ず行っています!」

●そうなんですね! で、精油とかアロマとかのメーカーだったり、ハーブの農場とかを周られているんですか?

「そうですね。必ず毎回訪れている農場とか精油メーカーもありますし、彼らに紹介してもらって、また新しい農場に行ったりすることもあります」

写真協力:関 純一

●近々行かれる予定はあるんですか?

「もうシーズンが一回終わってしまっているので、次に行くのはおそらく来年の5月6月ぐらいかなと思っていて、そこでは取材とともにリヨン植物療法専門学校で、私が日本のアロマテラピーについての授業もさせていただく予定です」

●そうなんですね、すごい! では最後にアロマテラピーを通して、どのようなことを伝えていきたいですか?

「とにかくアロマテラピーを始めとした植物療法は、私たちの心とか体を元気にしてくれる素晴らしい可能性を秘めているということと、やっぱり古代からずっと私たち人間に、一緒に寄り添っていてくれている植物のことを知ることは、とにかく楽しくて学び甲斐があることだっていうことですね。

 なので、そういうことをみなさんにお伝えすることで、今まで何の気なしに見ていた植物に対して、ちょっと興味が湧いたりとか、自分とかご家族の健康に興味が湧いて、自分とか周りの大切なかたがたを植物で癒して元気になっていくきっかけになったら、すごく嬉しいなと思っています」

中村姿乃さん

INFORMATION

『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』

『歴史や物語から楽しむ あたらしい植物療法の教科書』

 中村さんの新しい本をぜひ読んでください。アロマテラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンス、森林療法などの解説に加え、植物療法の歴史、人物、物語などなど読み応え、見応えがありますよ。フランスの農場などに行った取材レポートも写真入りで載っていますよ。おすすめです! 翔泳社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎翔泳社:
https://www.seshop.com/product/detail/26171?srsltid=AfmBOor-9sUkc1ADjn6RBxSfXBLg8hixg8bnYzAiQy7wu32Cs2hSjaW8

 中村さんが主宰されているアロマテラピースクール&サロン「野枝(のえ)アロマ」について詳しくは、ぜひオフィシャルサイトを見てくださいね。

◎野枝アロマ:https://noe-aroma.com

◎インスタグラム::https://www.instagram.com/noe_aroma/

知っておきたい! 自然や生き物に関する法律やマナー

2024/8/18 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「いきものデザイン研究所」を主宰するイラストレーター「一日一種(いちにち・いっしゅ)」さんです。

 一日一種さんは、主宰するサイト「いきものデザイン研究所」に掲載する、生き物に関する4コマ漫画がとても人気です。また、日本自然保護協会NACS-Jの会報誌「自然保護」にも連載されています。

 そんな一日一種さんには約3年前に、初心者向けのバードウォッチングの本を出された時にご出演いただいたんですが、今回は先頃、『いきものづきあいルールブック』という本を出されたということで改めて番組にお迎えすることになりました。

 きょうは、海、川、山、そして公園などで、自然や生き物と関わるときに、知っておきたい法律やマナーについてわかりやすく解説していただきます。

☆協力:誠文堂新光社

『街から山、川、海まで 知っておきたい 身近な自然の法律 〜いきものづきあいルールブック』

楽しくライトに

※一日一種さんは、環境アセスメントなどを行なう会社に勤務し、野生生物などの調査員として活躍後、独立。現在はフリーのイラストレーターとして、マンガやイラストを通して野生生物の魅力を伝える活動を行なっていらっしゃいます。また、生き物に関する本も数多く出版されています。

 そんな一日一種さんの新しい本が『街から山、川、海まで 知っておきたい 身近な自然の法律〜いきものづきあいルールブック』。

 この本を出そうと思ったのは、良かれて思って野生動物を助けたのに、実はそれが法律を犯していた、そんなケースもあるので最低限、生き物や自然に関する法律は、知っておいたほうがいいのではないか、そんな思いがあったからだそうです。

 法律やマナーというと、ちょっと難しいイメージがありますが、この本はマンガやイラストでわかりやすく解説。登場するキャラクターは、人間に化けて街中で暮らすキツネやタヌキ、そして架空の自治体の環境課に勤める、生き物好きの女性の課長というラインナップで、とても親しみやすくて、楽しく学べる本になっています。

協力:誠文堂新光社

●自然や生き物に関する法律などは、以前、一日一種さんがお勤めになっていた、環境アセスメントを行なう会社で、仕事の一環として学んだという感じなんですか?

「そうですね。仕事でもやっぱ調査業をやっていますと、動物を捕獲するために鳥獣保護管理法の許可が必要だったりとか、私有地に入って調査する時とかもあって、そういう時に許可が必要だったりとか、そういうことは確かにあって勉強にはなりましたね。ただ、本を見ていただくとわかるかもしれないですけど、網羅的に山から川、海までなんでも扱っている感じなので、結局新しく勉強したところが大きいですかね」

●この本を出すにあたって、いちばん苦心したのはどんなところですか?

「法律の解説は割と淡々と行なってはいるんですけれども、いちばん気を遣ったのはお説教みたいな感じにならないようにっていうところですかね。法律の本で、しかもマナーの話もするってなると、どうしてもお説教っぽくなってしまいがちだと思うんですね。

 僕自身もそういう生き物警察みたいな絡み方はしたくないというか、そういうのが嫌なので、漫画を読んでいただくとわかるかもしれないですけど、できるだけ楽しくライトに、幅広い人に気軽に知ってもらえればな~っていう思いを込めて、なるべく説教臭くならないようにっていうところが、いちばん苦労したところかなって思いますね」

●本の最初にチェックするべき法律の内容は、大きく分けると「種」と「場所」そして「方法」の3種類があると書かれていました。どういうことなのか具体的に解説していただけますか?

「便宜的にそう分けるとわかりやすいかなと思って分けたんですけれども・・・というのは法律って結構たくさんあるじゃないですか。自然の法律もそうなんですけれども、いろんな法律があって、法律ごとにその目的とか規制している範囲っていうのがかなりまちまちなんですよね。

 ある法律では種を対象に保護している、ある法律では面的に保護していると・・・。あと、ある法律では方法について、例えば漁業関係だったらこの用具を使って獲っちゃダメとか、これならいいとか。そういう方法についても規制している、それぞれの規制しているものが、種と場所と方法で分けるとわかりやすいかなって思って、そういうふうに分けましたね」

山は誰かのもの!? 海は密漁!?

※では本の中から、いくつか事例を挙げて、お聞きしていきたいと思います。

 この本『いきものづきあいルールブック』ではフィールドを、例えば「街中と身近な自然」とか「山」「河川や湖」そして「海」など、いくつかに分けて解説されています。

 夏休みということで、まずは「山」に関する事例から。初歩的な質問なんですが、山はどこでも入っていいんでしょうか?

「特に規制しているものがなければ、結構するっと入っていけちゃうし、入っていっていいと普通の人は思っているとは思うんですけれども、原則としてはそこは誰かのものではあるんですよね。国が持っているものにしろ、私有地にしろ・・・。

 だから入ったことで即、法律違反とはならないんですけれども、例えば私有地だったら入っていった時に、そこで出てってくれって言われたら、もちろん出ていかないといけないですし、規制をしていたら、そこにロープとかで立ち入り禁止とかちゃんと表示がされていたら、それを乗り越えて入ることは不法侵入に確実にあたってしまいます。そういうところは注意しないといけないですね。

 最近は“バリエーション・ルート”とか言って、いろんな場所を道なき道を行くような山歩きの楽しみ方とかもあるんですけれども、原則としてはそこは誰かの所有地であるので、歩くこと自体は基本的には問題ないけれども、いろいろと気を付けないといけないっていうのはあります」

協力:誠文堂新光社

●山は誰かのものなんだ! っていう意識を常に持っておかないといけないですね。

「はい、そうですね。それがないと歩いていって、そこの自然を傷つけちゃったりとか枝を折っちゃったりとか、勝手に何かを採っちゃったりとか、そういうことをしかねないので、どこを歩くにしろ、そこは誰かの所有地っていう意識があるとトラブルは少ないかなと思います」

(編集部注:山で見つけた山菜やキノコは原則としては採ってはいけないということです。個人で楽しむ程度なら、まだしも、大量に採って販売したりすると、「森林法」に触れて、森林窃盗になることもあるそうです)

※続いて「海」にいってみましょう。夏ということで、家族で磯遊びに行くかたも多いと思います。潮だまりにいろんな生き物がいて、観察するのも楽しいと思うんですけど、法律的に特に気をつけることはありますか?

「磯遊びとか、海辺で生き物を捕まえたりする時に気をつけたいのは、やっぱり漁業関係の法律ですかね。アワビの密漁とかアワビに限らず海産物ですね。ナマコだったりサザエだったりタコだったりとか、細かい種類はそこの地域地域によっても分かれていたりはするんですけれども、今言った海産物は、例えば自然観察のためにちょっと獲るぐらいでも、割とそれでアウトになってしまうこともありますので、基本的に気をつけたいですね。

 持って帰るのはまず基本的にはやらないほうがいいっていうのがあるのと、あとはそこの海辺で特に厳しく規制されているものは何かっていうのは、事前に知っておいたほうがいいと思います。有名な磯遊び場だと看板がちゃんとあるので、それを見ておけば問題はないですね。「サザエ、タコ、アワビ 密漁ダメ!」みたいな看板が大抵あるので、それさえ気をつければ基本的には大丈夫ですね」

協力:誠文堂新光社

●釣り好きのかたは、夏に限らず海釣りに行くことも多いと思うんですけれども、特に守らなきゃいけないマナーとかって、どんなことがありますか?

「海釣りについて、よく問題視されているのは、立ち入り禁止の場所に勝手に入っちゃうっていうやつですね。川と違って、あんまり遊漁券とかないんで、割とどこでも自由に釣りができるっていう側面があるんですね。釣れる場所が堤防の先端のほうだったりして、そういう場所って大抵危険な場所なので、波に飲み込まれてしまったりとか、立ち入り禁止になっている場合が多いんですけれども、でも釣れるからって結構入っていっちゃう人が多いんですよね。

 夏になるとニュースによく取り上げられて、“柵を乗り越えて勝手に侵入!”みたいなニュースになっていたりもするんですけれども、基本的に法律違反にはなってしまいます」

河川敷は自由に使える!?

※本に「河川敷は誰のもの?」とありました。これはどういうことなんでしょう?

「河川敷って割と誰でも自由に使える場所っていう認識があるかなって思って、そういうふうにタイトルをつけたんですけども、実際には法律もやっぱりちゃんとそこにあるし、やっちゃいけない行為もあるっていうのを知ってもらいたいなと思って、“誰のもの?”っていう言い方をしました」

●確かにジョギングしたりとかバーベキューしたりとか、河川敷って自由に使えるものだという印象もありましたけれども、そうではないってことですか?

「割とみんなのものっていうイメージもあって、自由にみんな使っているっていうのと、あと『自由使用の原則』っていうのが河川敷ではよく言われていて、誰でも自由にいろんなことができますよ! っていうのはあります。

協力:誠文堂新光社

 その中でもやっちゃいけないことは河川法とか、そのほか生き物関係の法律とか、あと漁業関係の法律とかで規制されている部分はあるので、一般常識の範囲内であれば大丈夫と思っていただいて、今おっしゃったようなジョギングしたりとか運動したりとか、場所によってはバーベキューとかも許可が必要だったりするかもしれませんけれども、そういう細かいところは自分の住んでいる自治体の情報をチェックすれば大丈夫だと思います」

●河川での釣りはどうですか?

「川の釣りは大抵の場合は遊漁券が必要になっちゃいますね。なくてできる場所もあると思いますけども、大体釣りをやっている人は遊漁券を買って釣りをしています。
 遊漁券っていうのは、全然釣りを知らない人には馴染みがないかもしれないですけども、生業としての釣りじゃなくて、遊びとしての釣りをやるための権利を漁業組合さんとか管理をしていらっしゃる人たちに一定のお金を払って、そこで釣りをさせていただくための権利っていうものですね。なので、河川で釣りをやる場合は一応法律に気をつけるべきっていうのは、あらかじめ知っておいたほうがいいと思います」

野鳥のヒナを見つけたら・・・

※街中でもいろんな生き物が暮らしています。以前、スタッフが公園で巣だったばかりのヒヨドリのヒナを見つけたことがあったそうです。親鳥と、はぐれたようだったということなんですが、そんな時はどうすればいいですか?

「結構ケース・バイ・ケースなところもあるんですね。原則としては見守るっていうのが大前提ではあるんですけれども、自然の摂理なので・・・。

 まず、親とはぐれてしまったっていうことは、ほとんど人間にはわからないと思います。ヒナが落ちているとして、周辺に親がいないかを探してみて、見つかるっていうことはほぼないと思いますね。親鳥も人間に見つからないようにどこかに隠れていると思いますし、ちょっと距離をとっているかもしれないですし、それが親鳥ってわかるケースはほとんどないんじゃないかなと思います。親鳥は近くにいるだろうっていう前提で考えたほうがいいと思いますね。

協力:誠文堂新光社

 あとはケガをしていたとしたら、それがなんでケガをしていたのかにもよって対応は変わると思いますね。人間のせいで交通事故にあってとかバードストライクにあってとか、人間活動が原因でケガをしていたのならば、自治体さんによってはそれを助けている、『傷病鳥獣救護』って言うんですけども、救護している場合もあります。そういう場合は自治体にまず連絡をしてみるっていう対応になりますね。

 一方、野生動物同士の闘いとかでケガをしていたっていうのがあれば、かわいそうっていう人もいるんですけども、う~ん・・・自然の摂理ではあるので、基本的には、見守るだけ、何もしないっていうのが、いちばんいいんじゃないかなとは個人的に思いますね。

 この本全体としても言っているんですけれども、野生動物にはむやみに人は関わらないっていうのが、まずいちばんの大前提になりますね。かわいそうだからとか、そういう理由で手を差し伸べてしまうと自然にとってよくないこともあるし、法律に触れてしまって自分自身の身も危ういこともあるので・・・まとめると、結構ケース・バイ・ケースであるんですけど、基本的には見守ろうっていうことですね」

(編集部注:公園でたまにハトにエサをやっているかたを目撃することがありますが、ハトの餌やりは、フンの害などもあって、大田区など、条例で禁止している自治体も増えているそうです。

 そして、夏休みということで、近くの公園に出かけ、お子さんと一緒に昆虫採集をしている、そんなかたも多いと思いますが、禁止している看板などがなければ、基本的には大丈夫だそうです。ただし、東京都内の都市部の公園、新宿御苑や明治神宮の杜、国営昭和記念公園などは禁止です。お出かけになる前に昆虫採集が禁止されていないか、ホームページなどでチェックすることをお勧めします)

自分を守るためにも

※私たちが暮らしていく中で、最低限知っておいたほうがいい自然や生き物に関する法律はなんでしょう?

「やっぱり書籍の最初のほうに書いたやつがそうなんですけれども、普通に街で暮らしている人でも『鳥獣保護管理法』と『外来生物法』の、ざっくりした概要ぐらいは知っておいたほうがいいんじゃないかなって、個人的に思いますね。そのふたつだけは本当に生き物に興味なくても関わっちゃうことがありますし、特に外来生物法は最近結構、罰則が厳しいので、気をつけたほうがいいと思います」

協力:誠文堂新光社

●では最後に新しい本『いきものづきあいルールブック』で、いちばん伝えたいことはどんなことでしょうか?

「いろいろと厳しい法律はあるし、細かい法律をすべて覚える必要はないんですけれども、生き物を獲ったりとか、生き物に関わる場合はいろんな法律があって、自分が行動したことによって、割と重い罰則になってしまうこともあるっていう認識だけは、持っておいたほうがいいかなって思います。

 自然を守るためというよりは、なんでしょうね・・・普通に優しい人が生き物に関わって、よかれと思ったことで(SNS で)炎上したりとか、本当に見ていて辛いので、そういうことがないように、生き物と関わる法律はいろいろあるんだよ! っていう認識だけは持っておいてほしいな~とは思います。それがいちばん伝えたいことですかね」


INFORMATION

『街から山、川、海まで 知っておきたい 身近な自然の法律 〜いきものづきあいルールブック』

『街から山、川、海まで 知っておきたい 身近な自然の法律 〜いきものづきあいルールブック』

 一日一種さんの新しい本をぜひチェックしてください。生き物に関する法律やマナーがマンガとイラストでフィールド別にわかりやすく解説、生き物を飼うときのルールも載っていて、気になるところから読めますよ。誠文堂新光社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/85729/

 一日一種さんが主宰している「いきものデザイン研究所」のサイトもぜひ見てください。

◎いきものデザイン研究所:http://wildlife-d.xsrv.jp

生き方はいろいろ〜自転車一人旅 アイスランド編

2024/8/11 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自転車旅のエキスパート
「鎌田悠介(かまた・ゆうすけ)」さんです。

 鎌田さんは1987年生まれ、福島県会津若松市出身。新潟大学在学中に総合格闘技を習い始め、ほかにも日本国内を自転車で旅するようになったそうです。卒業後は新潟の企業に勤め、その一方で28歳の時に総合格闘家としてプロデビュー。2016年には新人王を獲得。

 そして2019年31歳でオーストラリア、2023年36歳でアイスランドを自転車で旅をされ、その時の紀行文が先頃『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』として出版されました。

 きょうはそんな鎌田さんに白夜の国アイスランドの旅や、自転車旅の醍醐味のほか、愛用している宙に浮くテントのお話などうかがいます。

☆写真協力:鎌田悠介

鎌田悠介さん

自転車旅、きっかけはお遍路!?

※アイスランドの旅のお話の前に、大学在学中に始めた日本国内の自転車旅について。旅に出る、なにかきっかけがあったのでしょうか?

「ひとつの本と出会いまして、それは四国でお寺を八十八箇所まわる、お遍路をするというような本でした。そういったものがあるんだなと気付いて四国まで(行きました)。当時新潟にいたんですけれども、四国まで何で行こうかと考えた時に、自転車で行こう! と考えまして、そこから自転車旅が始まりました」

●なんでまた旅の手段を自転車にしようと思われたんですか?

「単純に車がなかったのと、あと大学生らしくていいかなと思ったのと、夏休みを利用してというような形でしたね」

●実際に自転車で旅をされて、いかがでしたか?

「やっぱり車や公共交通機関では訪れることができないような町を訪ねることができて、普段は気づけないような景色とか出会いとか食べ物とか、そういったものに触れられるっていうのは、自転車旅のいいところなんじゃないかなと思っています」

写真協力:鎌田悠介

●寝泊まりはどうされていたんですか?

「テントと寝袋を持って旅していましたので、野宿というような場合も多かったです(笑)」

●そういうアウトドアスキルみたいなものって、鎌田さんはどうやって身につけたんですか?

「それこそ自転車旅を通して身につけていきました。最初はわからずに、余計な物もたくさん持っていったりしていたんですけれども、やっぱり旅を進めていく中で、どうすれば外で生活できるかなっていうのを考えながら、必要なものを買い足してトライ・アンド・エラーしていったというような形で、最終的にアウトドアスキルが身についていったと考えています」

●暑かったり寒かったり、雨が降ったり風が吹いたりって、いろいろ天候にも左右されると思うんですけど、経験から身につけた対処法とかってあるんですか?

「え~っと、対処法というのはほとんどなくて、(自転車旅は)雨や風にさらされるしかないので、どちらかというと心構えを変えるとか、そういったことで対処していましたね。

 はっきりと意識が変わった瞬間というのを覚えていまして、島根県の日本海側を走っていた時に、私、雨の日を走るのは嫌がっていたんですけれども、ほかに自転車で旅しているかたがいて、その人は“雨でも走るよ!”と言っていたので、その時に心境が晴れて、日本で旅している以上半分は雨なので、雨の日を嫌っていてもしょうがないなっていうふうにその時に思いました。それからは関係なく雨も楽しむようになっています」

(編集部注:大学生の時の最初の旅「四国」は、仲の良い友人とふたりで行ったそうですが、その後は日程などが合わず、一人旅になったとのこと。旅に出るときは、自転車にキャンプ道具のほか、自転車用工具なども積むことになり、なるべく軽くしたいけれど、そうもいかず、悩みどころだそうですよ)

アイスランド自転車旅

※ここからは、先頃出された本『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』をもとにお話をうかがっていきます。この本は、去年の6月末から8月にかけて行なった旅を日記形式で綴ったものです。

『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』

 アイスランドは日本と同じ島国で、火山があったり、温泉に恵まれていたり、水資源が豊富で漁業も盛ん、ということで、日本との共通点も多い国なんですね。自転車旅の行き先をアイスランドにしたのは、どうしてなんですか?

「理由としては、子供の時に地理の教科書とか資料集で見たアイスランドの写真が印象的で、こんな綺麗な場所があるんだなと思っていました。そんなちょっとくすぶっていた気持ちが大人になって、(アイスランドに)行ってみようっていうふうになって、ようやくこのタイミングで行けたというような形ですね」

⚫️ちょうど白夜の期間に旅をされていましたけれども、白夜に慣れるまで眠れなかったりとかしませんでしたか?

「はい、おっしゃる通り眠れませんでした。窓から差し込む日光の明かりが、顔に当たるとやっぱり眠れませんので、そういった時は服とか、着ていたダウンとかを顔にかけて、なんとか暗さを確保して寝るというので、慣れるのにちょっと時間がかかりました」

⚫️反対に白夜でよかったっていうこともありますか?

「やっぱり暗くならない! 見える! っていうところですね。自転車で走っていても、街灯とかはもちろんないんですけれども、日が沈まなければ視界が確保できるので走行できるというのと、あとテントとか設営する時も周りにどういったものがあるのかとか、地面に何があるのかとか、動物の気配があるのかないのかも確認できますので、そういった意味では非常によかったです」

写真協力:鎌田悠介

⚫️アイスランドは、北海道よりもちょっと大きいくらいということですけども、本に載っていた地図を見てみると、(島内を)時計周りにぐるっと回られたんですね。このコースにしたのはどうしてなんですか?

「まず、首都レイキャビークは南西のほうに位置していまして、最初に北に向かいたいなと思いまして時計回りを選択しました。あと過去に北海道を一周した時に、私は反時計回り選択したんですけれども、ちょっと風向きが辛かった気がしたので、もしかしたら北半球だと時計回りのほうが楽なのかな〜というような仮説があって時計回りを選択しました。結果あまり関係なかったです(笑)」

(編集部注:アイスランドで、1日に走った距離は平均80キロから100キロ、全走行距離は2000キロを超えたそうですよ)

写真協力:鎌田悠介

フィヨルド地形、厳しいアップダウン

※アイスランドは地形的にはどんな感じなんですか?

「私は海岸沿いをよく走っていたんですけれども、やっぱり氷河で作られたフィヨルド地形が多くて・・・落差がありまして、アップダウンがとてもあるコースとなっていましたので、毎日泣かされていました」

⚫️わ〜! アップダウンが激しいとなかなか厳しい旅でしたね?

「とても厳しかったです。せっかく登ったのにすぐに海抜0メートルまで降りて、またすぐに登るというような・・・ちょっともったいないなと思いながら(笑)」

⚫️そうなんですね。ため息が出るほど美しかった景色とかはありました?

「やっぱり毎日見ていましたけれども、フィヨルド地形は綺麗だなと思いながら見ていました」

写真協力:鎌田悠介

⚫️どんな景色なんです?

「やっぱりまず、山なんですけれども、日本と大きく違うのは木がない点ですね。なので、日本の景色からは想像できないと思いますけれども、山肌がそのまま見えて、そこに川がどういう形でうねっているのかも遠目で見て分かりますし、こういうふうになっているんだと思いながら毎日感銘を受けて(自転車で)走っていました」

⚫️いいですね。あと氷河の湖の写真も本に載っていましたけど、氷の色が水色でしたよね?

「はい、あれは高圧で氷を作ると、あのような色になるとのことです」

写真協力:鎌田悠介

⚫️氷河が溶けて湖になっていたっていうことですか?

「はい、氷河の後退で削られた地形に真水が溜まったものが氷河湖であると思います。海沿いだとそれが海水で満たされて、フィヨルドになるというようなところだと思っています」

⚫️立ち寄った町で思い出深い町ってありますか?

「やっぱり北西にあった『イーサフィヨルズル』という町がとてもコンパクトで印象的でした。二日間しか滞在はできなかったんですけれども、小さな町ながら、パン屋とかカフェとかスーパーとかまとまっていて、とても過ごしやすそうだなと思っています。また行く機会がありましたら、滞在してみたいなと思っています」

(編集部注:アイスランドは世界最大の露天風呂「ブルーラグーン」があることでも有名ですよね。鎌田さんが利用したキャンプ場なども、隣りに水着着用で入る温泉があったそうですよ。また、レストランで食べたお料理では、ラム肉がとても美味しかったとおっしゃっていました)

自然エネルギー大国「アイスランド」

※アイスランドは電力を100%自然エネルギーで賄っていて自然エネルギー大国と言われているそうですが、旅をしていく中で、そういうことを感じたりしましたか?

「はい、やはり地熱を利用しているという点がすごく賢いなと思っていました。地熱発電ではなくて地熱を利用してお湯を作って、そのお湯をそのまま建屋に引いて、暖房だったりそのまま調理用の水として使うというような場所もありました。これはわざわざ電気を介さないで使えますので、すごく賢いなと思っていました。蛇口から80度のお湯が出ますので、そのままコーヒーを作れるというような場所もありましたね」

●え~すごい~! アイスランドのかたがたの自然や環境に対する意識の高さみたいなものは感じました?

「特別に意識が高いかというと、そういうところはないのかなと思いますけれども、やっぱりとても自然が厳しい場所ですので、そういった意味で当たり前のように(自然に対して)敬意なり畏怖なり、そういったものは持っているんだろうなっていうのはなんとなく読み取れます」

⚫️宿泊先などで、環境に負荷をかけないような取り組みは何かありましたか?

「やっぱり“エネルギーは大事にしましょう!”というような張り紙があったり、“このお湯はガスで沸かしているから大事にしてください!”みたいな、そういった掲示はありました」

⚫️鎌田さんのYouTubeも拝見しましたけど、旅先でのゴミ拾いを心がけているんですね?

「はい、自転車で旅している中でまったく人がいないような場所にも、人工物のないような場所にも空き缶でしたりペットボトルが落ちていますので、そういったものを拾おうと心がけています」

⚫️ゴミから何か見えてくるものとか、感じることはありました?

「ちょっと大きな話になりますけれども、大自然の中に人工物があるのはやっぱりちょっと違和感がありますね。なので、ゴミっていうのはどうしても広がってしまうんだなっていうふうに感じてしまいます。捨てる人と拾う人がいるのかなと・・・それだったら拾う側になろうと」

宙に浮くテント「テントサイル」

※鎌田さんはアイスランドの旅で、宙に浮くテントを使っていました。また、YouTubeで使い方などを説明されています。この宙に浮くテントは、どこのメーカーのテントでどうやって設営するんですか?

「イギリスのメーカーの『テントサイル』と呼ばれるテントです。簡単に言いますと3支点型のハンモック状のテントになります。設営の仕方は、まず三角形になる支点となる木でしたり、まあ木が多いですね。木を探すというところから始まりまして、木がなければ固定できる三角形の支点をまず探すところから始めまして、そこにロープをくくりつけてテントを張っていくというような形です」

⚫️今は公認のマスターでもいらっしゃるんですよね?

「はい、公認のテントサイル・マスターとして・・・以前オーストラリアの自転車旅をした時に、このテントを使わせていただいて、大体60泊ぐらいしたと(SNSで)つぶやいたら、公認を受けました(笑)」

⚫️そうなんですね~! でも柱になるような木とかがないと設営できないってことですよね?

「はい、支点がないと設営できません」

⚫️結構(設置場所が)限られませんか?

「そうですね。そういった意味では若干、設営場所は制限をされます。支点になるものがある場所でないと建てられませんので・・・」

⚫️あと、宙に浮いているってことは、(テント内で)動くたびに揺れちゃって不便じゃないかなって思っちゃうんですけど、実際はどんな感じなんですか?

「揺れないってことが、私は最大のメリットだと思っています。二支点のハンモックだと横に揺れるような気はするんですけれども、これがやっぱり三角形で支えますので、どうしても中に入る時に多少は揺れるんですけれども、揺れとか風などにはとても強くて安定しています」

写真協力:鎌田悠介

⚫️そうなんですね~。改めて宙に浮くテントの利点は、どんなところにあると思いますか?

「いま申し上げた、まず風に強いっていうのが最大のメリット、筆頭としてありまして、次に床の状況の影響を受けないことですね。岩場でしたり木の根っこがありましたり、あと水たまりができていたりしても関係なく設営ができます。また、斜面であっても水平が取れるので、そういった意味で床敷きのテントよりもメリットはあるかなと思っています」

(編集部注:「テントサイル・ジャパン」のサイトによると、宙に浮くテントサイルは、もともと災害用のポータブルテントとして日本に持ち込まれたそうです。テントを張るための支柱さえ確保できれば、地面がデコボコでも水たまりでも設営できるのはいいですね。詳しくは「テントサイル・ジャパン」のサイトをご覧ください)

☆テントサイル・ジャパン:https://tentsile-japan.com

※では最後に、新しい本『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』を通していちばん伝えたいことはなんですか?

「やっぱりいろいろな選択肢があるんだっていうのをいろいろな人に伝えたいですね。私は格闘技をやっていたり、サラリーマンであったりと、いろんな経験があるんですけれども、そこからいろんなことをやってもいいんだ!と・・・で、そのためには本を通して、いろいろな場所があって、いろいろな人がいて、いろいろな生き方をしているっていうのを、読みながら感じてもらえればいいかなと思っています」

写真協力:鎌田悠介

INFORMATION

『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』

『白夜疾走〜アイスランド自転車一人旅』

 鎌田さんの新刊は初めての国、初めての白夜に戸惑いながらも、およそ1ヶ月半、自転車で走り抜けた旅の記録が日記形式で綴られています。鎌田さんの目を通して、アイスランドという国を知ることができる、そんな本でもあると思います。ぜひ読んでください。文芸社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎文芸社 :https://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/detail/978-4-286-25350-3.jsp

 鎌田さんのSNSや、宙に浮くテント「テントサイル・ジャパン」のサイトもぜひご覧ください。

◎インスタグラム:https://www.instagram.com/yusuke.kamata_/

◎テントサイル・ジャパン :https://tentsile-japan.com

木村啓嗣の「231日52,000キロの大冒険!」〜ヨットによる単独 無寄港 無補給 世界一周!

2024/8/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ヨットで単独 無寄港 無補給による世界一周の日本人最年少記録を樹立した「木村啓嗣(きむら・ひろつぐ)」さんです。

 木村さんは、大阪府高槻市にある環境ソリューション企業「浜田」の社員で、ヨットによる世界一周は「Go around Re-Earth~Renewable Challenge for the Earth.~」というタイトルが掲げられた会社のプロジェクトでもあったんです。木村さんは、ひとりで操船できるように改造した大型のヨットに乗り、去年10月22日に新西宮ヨットハーバーを出港、そして今年6月8日に無事に戻ってこられました。

 世界一周にかかった日数は231日! 走った距離はおよそ52,000キロ! という、とんでもない大冒険だったんです。

 今週は、そんな木村さんをお迎えし、およそ7ヶ月半にも及ぶたったひとりの航海や、大海原で目撃した絶景、そして今後のチャレンジについてうかがいます。

☆写真:(株)浜田 提供

写真:(株)浜田 提供

日本人最年少記録を樹立!

●今週のゲストは、ヨットで単独 無帰港 無補給による世界一周を成し遂げた木村啓嗣さんです。きょうはよろしくお願いいたします!

「よろしくお願いします」

●木村さんは世界一周を24歳9ヶ月で成し遂げて、それまで海洋冒険家の白石康次郎さんの持っていた26歳10ヶ月という記録を塗り替えて、日本人最年少記録を30年ぶりに更新されました。すごいことですよね。おめでとうございます!

「ありがとうございます」

●そしてお帰りなさいませ!

「はい、ただいまです」

●無事に日本に帰ってこられて本当によかったです。出港地の新西宮ヨットハーバーに戻ってこられたのが今年の6月8日ということで、2ヶ月ほど経ちましたけれども、今の心境はどんな感じですか?

「帰ってきた瞬間はあまり実感がなかったんです。達成した、やりきったっていうのはなかったんですけど、その日、揺れないベッドで寝て、みんなからお祝いのメッセージや連絡がいっぱい来て、徐々に実感し始めて、雑誌やテレビの取材を受けて、徐々に実感がわいてきて、きょうここにいるっていうイメージなので、実感をかみしめているきょうこの頃です」

●231日間、およそ7ヶ月半ですね。

「長かったです」

写真:(株)浜田 提供

(編集部注:実感を噛み締めている木村さんなんですが、なぜヨットで世界一周に挑戦しようと思ったのか、気になりますよね。木村さんによれば、偶然の重なりだったということなんですが・・・

 大分出身の木村さんは、たまたま進学した高校にヨット部があって入部。ヨットの競技にのめり込み、選手として活躍。17歳の頃に海洋冒険家の白石康次郎さんが世界一周のヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に挑戦することを知り、憧れたそうです。

 その後、海上自衛隊に入隊。木村さんが乗る船が神戸の造船所で修理、その期間が延び、休みの日に再びヨットに乗るようになり、ヨット愛が再燃。

 当時20歳前だった木村さんは、結婚するまでに伝説になりたい! 何者かになりたい! そんな思いを抱き、当時の最年少記録保持者だった白石さんの、26歳の記録を塗り替えるなら、あと6年ある。何者かになるなら、ヨットで世界一周だ〜! と思い立ったそうです。

 そして、まずは資金集めだと思い、セイリング・クルーザーのオーナーが集まるコミュニティに相談に行き、そこで、現在木村さんが所属する株式会社浜田の社長さんに出会い、ヨットで世界一周をしたい! そんな思いをぶつけ、ついには、会社をあげてのプロジェクトになったそうです)

木村啓嗣さん

持続可能なチャレンジ

●株式会社浜田の社内には、木村さんをサポートするチームがあるんですよね?

「ヨットの世界一周のプロジェクトチームがあって、だいたい社内外含めたら23人ぐらいだったと思うんですけど、あります。
 専門の気象のチームだったり、いちばん多いのがロールコールって言って、定時連絡を受け取る人、朝の9時、夜の9時に連絡を受け取る人たちがいるんですけど、その人たちだったりとか・・・。あとはメカニカルなところをアドバイスしてくれる人だったり、そういったチーム体制があって、ひとりで行くんですけど、ひとりではできないプロジェクトです」

●すごく心強いですよね。プロジェクトに掲げられていたタイトルが「Go around Re-Earth~Renewable Challenge for the Earth.~」ということで、これにはどんな思いが込められているんでしょうか。

「株式会社 浜田自体がスクラップ だったり産業廃棄物を取り扱う会社なので、やっぱり環境に非常にフォーカスしたプロジェクト名にしています。本来であれば『Go around Re-Earth』は、『Re』じゃなくて『The』のほうだと思うんですけど、あえて『再び』だったりとか『循環』をイメージするReという言葉を使っています。

 地球を船に見立てて、環境をそのひとつの船に集約して、その中にある限られた食料、燃料だったりとか資源を含めて、それを使って地球を一周すると・・・。持続可能なチャレンジ、何度でもできるチャレンジであって欲しいよねっていう願いを込めて、プロジェクト名がそういうふうなっています」

●木村さんが伝説になりたい、何者かになりたいっていう20歳ぐらいの時にプレゼンをして、会社をあげてチャレンジしましょうっていうことになって、チャレンジが決まったところで、まず取り掛かったのはどんなことなんですか?

「まず普通に働きました。やっぱり社内の応援がいちばん大切なので、僕は営業部に所属して働いて・・・で、実際の船は1月に入社して4月ぐらいに中古艇を買うことになるんですけど、まずは普通に働いて、木村啓嗣がどういう人なのかっていうのをみなさんにわかってもらうために働きました」

写真:(株)浜田 提供

最初は機器のトラブル!?

●最初のチャレンジは、一回断念した経緯があるんですよね?

「実はですね・・・一昨年、2022年11月に一回出発しているんですけど、結果的に帰ってくる形になってしまって・・・で、より強固なプロジェクトチーム、より強固な船、より柔軟なシステムで、僕自身の自信付けも含めて、かなりの練習を行ないました」

●2年前は何かのトラブルだったんですか?

「出航してからずっと荒天が続いて、水力発電に不具合が生じたんですけど、実際スペアを持っていたので、必ずしも戻る必要はなかったんです。

 ただ200日以上を想定している航海で、最初の10日でスペアを使い切ってしまうことのメンタル的な負担だったりとか、いろいろ加味した時に、一度戻って、もう一度(物資を)乗せて行ったほうが最初の10日であれば、100日200日近く経ってきた頃にそういう状態になるのとはちょっと違うので、戻って再出発しようというふうに考えていたんです。

 その時はコロナ禍ということもあって全然物が手に入らない、海外からの輸入品だったので・・・で、1年延ばすっていう苦渋の選択を迫られたわけです」

●葛藤とかはなかったですか?

「戻るにも僕の中で条件があって、誰かに助けてもらうことになると、自分がやりたいことをやっているのにもう一度行きたいなんて、関西人っぽく言うと“よう言わんなぁ”っていう状態になりまして・・・僕はそう考えるんですね。自力で戻れば必ず私はこの場所に戻ってこれると・・・伊豆諸島を越えたあたりの太平洋上で思ったんですけど、ここに戻ってくるには必ず自力で戻る必要があると思って、一度戻るんであれば、今戻るしかないと・・・。

 ちなみにプロジェクトチーム内で協議があったんです。このままハワイまで行って、ハワイに到着するまでに物資を調達して、ハワイで補給をするかっていう話もあったんですけど、このプロジェクト、単独無帰港で無補給、何も補給せずにどこにも寄らずにひとりで世界一周にするプロジェクトだったんで、これをどうにか達成すべくハワイで(物資を)乗せるのはなしだということで一度戻りました」

●そうだったんですね・・・。で、船を修理して再チャレンジするっていうことになったわけですよね。モチベーションはずっと持ち続けていたっていう感じですか?

「そうですね。下がることは一切なかったです」

●その奮い立たせるものって何だったんですか?

「僕の中で世界一周というものは、浜田社長と出会ってから必ずや成功させるものという認識だったので、所詮4日間の荒天で船と私がダメになるはずがないという気持ちでしたね」

●かっこいいですね! 

「かっこいいのかはちょっと・・・」

●いや〜すごいです!

(編集部注:木村さんと一緒に世界一周を果たしたヨット「ミランダ号」はデンマーク製の中古艇で、全長およそ13メートル、高さ20メートル、重さは8トンほどの船で、もともとは10人以上で乗る船なんですが、それをひとりで操船できるように、自分自身で改造。

写真:(株)浜田 提供

 これは海上自衛隊時代の、「KNOW YOUR BOAT」=「自分の船を知りなさい」という教えに従い、船の状態を隅々まで把握しておくために、機器の取り付けなどは自分で行なったそうです)

トレーニングは船で生活すること!?

※船が仕上がったところで、トレーニングをされたそうですが、どんなことをやったんですか?

「トレーニングでいちばん大きなトレーニングが、ハワイ・トレーニングというのがあったんですけど、ハワイを往復してくるトレーニングなんですね。いちばん重要なのは船に乗るというイメージよりも船で生活するということなんです。何もなかったように、陸上と同じようにご飯を食べる、歯を磨く、トイレに行く、船で寝るっていうのをやらないと、必ず体が耐えきれなくなって不調を起こしてしまうと。なので、いかに船に住めるか、というのが重要になってきました」

●確かに航海中でも生活しなければいけないんですよね。食事ってどんなものを食べていたんですか?

「佐藤食品さんにご提供いただいた“サトウのごはん”だったりとか、ほかはレトルト食品がほとんどです」

(編集部注:どこにも帰港しないので、食糧は多めに280日分を用意。もちろん飲料水と、海水を濾過する装置も積んでいったそうです)

ネガティヴ思考が最も大事!?

●2022年に一度チャレンジし、機器のトラブルで断念、そして再チャレンジ、ということで、去年10月22日に新西宮ヨットハーバーから出港しました。その時の気持ちはどうだったんですか?

「自信に満ち溢れていましたね」

●不安とか恐怖みたいなものは?

「僕は基本的にびっくりするぐらいポジティヴな人なので、そういうマイナスなイメージは(トラブルに)直面しないとないんですけど、これも出航してから心境の変化っていうのが起きるんですね。基本的にはポジティヴな根拠のない自信大得意なタイプなので、イメージ的にはもう男子中学生です」

●何があったんですか? 心境の変化っていうのは・・・。

「まず僕が世界一周から帰ってきて大事だなと思ったことは、ネガティヴ思考が最も大事なんです」

●そうなんですか!?

「はい、ポジティヴが最強だと僕は思っていました。なんですけど、ネガティヴ思考があることで、思いつくマイナスな状況っていうのは、すべて対策ができるようになるんですよね。

 ネガティヴ思考でこれ起きたらどうしようって思うから、その不安材料を消すためにこんな対策をしよう、こんな準備をしようと・・・で、その準備をして対策ができて納得がいったら不安は消えるってなったら、ネガティヴ思考があれば、どんな不安定で危険な状況でも想像して対応することができる。

 ネガティヴ思考は言ってしまえば、ポジティヴ思考の一個手前っていう、両極端な反対のものじゃなくて、ポジティヴ思考の一個手前がネガティヴ思考なんだなっていうイメージが、非常に僕の中で作られて世界一周から帰ってきました」

●なるほど。確かにネガティヴだと暗くなっちゃうってイメージがありますけど、ネガティヴ思考があるからこその準備ができるっていうことですね。航海中にそういうのが大事になったことがあったんですか?

「出航中はやっぱり怖いんですよ・・・もうめちゃめちゃ怖い! なんでかって言うと、10人乗っていたら対応できることでも、ひとりだったら全然できないです。風には太刀打ちできない、風を利用する立場ですけど・・・。なので、そうなった時にやっぱりこれ起きたらどうしよう、あれ起きたらどうしようって、いっぱい思うわけなんです。

 普段通りの時はひとりでも全然乗れます。全く問題ないです。なんですけど、大丈夫じゃないことをやっぱり想像しちゃうんですよね、人間っていうのは・・・。なので、そうなった時に不安に思わないようにしなきゃと思っていたんですけど、発想の転換っていうんですか、これはある意味ラッキーなんだと! これに気づけている自分がいるということに喜んだほうがいいというふうに、ふとした瞬間に思って思考が切り替わる感じですね」

世界一周の条件、そしてルート

※今回の世界一周のルートを、かいつまんでご説明いただけますか?

「世界一周の条件があります。すべての子午線を同一方向に越えるというルールがあります。ちなみに補足情報でパナマ運河、スエズ運河・・・運河はすべて港扱いなので通ることができません。
 出発した兵庫県西宮市の新西宮ヨットハーバー、場所としては甲子園球場があるところですね。そこを出発して、もちろん大阪湾がスタートですから、大阪湾を抜けて徳島県と和歌山県の間、紀伊水道を抜けてそこから太平洋に出ると・・・。

 そこからはどーんと行くんですが、ハワイの近くを通って、なので日本から見て真東に向かって、その後赤道を越えて、運河を通ることはできないので、南米大陸のいちばん南側のホーン岬、チリの先端を通って大西洋に出ます。

 で、世界一周中の最も難関と呼ばれているのがそのホーン岬、大体地球の半分に届かないところで迎えます。そこをなんとか乗り越え、地球の半分を走って、次はアフリカ大陸最南端の喜望峰を抜けて走って、それを抜けたら、その後はオーストラリアの南側を通過して、ニュージーランドとオーストラリアの間を通って北上が始まります。北上が始まった後、ソロモン諸島の島の間を抜けて、その後赤道を越えて日本まで戻ってくる、そんなコースです」

写真:(株)浜田 提供

(編集部注:どこの港にも寄らない世界一周は、このコースしかないそうです。お話にもありましたが、ほかのコースは運河を通ることになり、運河は港扱いになるからなんですね。

 ちなみに睡眠時間についてうかがったら、一回、15分から2時間くらいで、寝られる時は、それを1日何回も繰り返すとのこと。でも、風向きが変わったことを知らせるアラームが鳴ったりして、何度も起こされたそうです)

太陽と雲の共演!

●長い長い航海中の楽しみはなんでしたか?

「やっぱり普通に、陸と同じように生活するというイメージを持っているので、陸と同じご飯を食べる、トイレに行く、歯を磨く、寝る、歌を歌う、音楽を聴く、ウクレレを弾いてみるっていう、その日常生活に非常に楽しみを感じましたね」

●ウクレレなんてやる余裕があるんですね?

「最終的には全然なかったです(笑)。一応少しは練習しましたけれども・・・」

●そうなんですね~(笑)。航海中に見た景色で、忘れられない印象的な景色はありましたか?

「景色は雲と太陽の共演なので、基本的に同じ景色がほとんどないんです。全く雲がないところに太陽が沈んでいくのは、ほぼ同じ景色になるんですけれど、雲があると毎回全然違う感じになるんですよね。

 いちばん忘れられないのは帰りの赤道付近の時に見た、ものすごく雷と雨と突風が吹いた時の夜明け、その後の夜明けの朝日! 半端なく綺麗でした!」

●どういう感じなんですか?

「いつにも増してオレンジ色で、海も嵐が過ぎて落ち着いているんですよね。風がなくて船が進まなくて、徐々に空が明るくなって、雲ってすごく太陽に照らされるんですよ。地球が丸い関係で最初、雲に光が当たるんですよね。

 なんて言いますか・・・太陽があると影になって、自分のところはまだ明るくなっているだけだけど、雲はもう太陽に照らされているっていう状況があるんですね。それがめちゃめちゃ綺麗で、これを言葉にするのは難しいんですけれど、きょうはせっかくなので、僕の見た景色をちょっと言語化してほしいんですけど、これは非常に難しくてですね・・・」

●楽しみ!

「なので、(写真を)お見せすると・・・」

●ありがとうございます! あ、携帯電話に保存してある写真・・・うわぁ~!!

「こんな景色なんですね」

写真:(株)浜田 提供
写真:(株)浜田 提供

ヨットは人生が豊かになる乗り物

●今年6月8日に、無事に新西宮ヨットハーバーに戻って来られ、231日ぶりに陸にあがった時は、どんな気持ちでしたか?

「やっと終わった・・・というのも、世界一周の初日と最後の日がいちばん辛いんです。なんでかっていうと陸が近い、行き交う船舶が多い、特に帰りは疲れた状態でそれを迎えると・・・で、30時間ぐらい寝ないんです、最後・・・」

●え~~〜!

「オートパイロットの調子も悪くて、30時間ぐらいずっと舵を持っていないといけなくて、すごく疲れたので、世界一周してきた、っていうのは置いといて、その最後の30時間だけ見たら、やっと終わったっていう気持ちが非常に強いです」

●夢だったヨットで単独 無寄港 無補給による世界一周を成し遂げて、日本人最年少記録も塗り替えることに成功して、今後なんですが、夢や取り組みたいことは何かありますか?

「やっぱりこの世界一周というもの自体が、私ひとりで成し遂げられるものではなかったわけなんです。お金的にもそうですし、周りの人にも恵まれましたし、出航中も想定された嵐に出会うこともなく非常に運がよく・・・運がいいというと、一言で済ましちゃっている感じになってしまうんですけれど、とにかく運がよかった! 僕、去年、厄年やったはずなんですけど、逆に運がよかった人間なんですよね。

 この結果、この成績というか功績というかわからないですけども、自分のものだけにせずに、やっぱり若い人たちだったり、学生たちに夢を・・・成功体験を語るっていうのは、ちょっと上から過ぎると思うので、人生を楽しく生きるヒントの共有というか、それをやっていきたいなと僕は思います。

 夢を見ることの楽しさだったり、そのチャレンジングな人生の、チャレンジングな事柄に挑戦する楽しさというか・・・。なので、僕もヨットに限らず、自分なりにチャレンジしてみたいなと思います。

 ほかの人は取れて当たり前のような資格を僕が頑張って取ってみたりとか、そういう自分にとってチャレンジング、これいちばん大事なんですけれど、自分にとってチャレンジングみたいなことをみんなにやってもらいたいなと思います」

木村啓嗣さん

●白石さんが今年再びチャレンジすることが決まった、世界一過酷なヨットレースと言われている「ヴァンデ・グローブ」に出てみたい! っていう気持ちはおありですか?

「あります! ちなみに白石さん、今回成功すれば地球5周目なんですね。ということは10年以内に一回は一周しているタイプの人間ですよね! 半端ない! で、僕、白石さんの記録を塗り替えたんですけど、白石さんが達成した時の30年前の状況と、今の状況を比べたら、明らかに僕のほうが恵まれているし、成功しやすいんです。単独 無寄港 無補給 世界一周っていうのを条件で見れば一緒ですけれど、白石さんのほうがかなり難しいんですよね。

 なので、記録は塗り替えましたけど、白石さんを超えたなんて思いませんし、白石さんの尊敬・・・逆に地球一周するということがどんなことだったかを理解したので、より尊敬の眼差しは強くなったんですけど、恐れ多くも僕が今ここで喋っていいのであれば、僕もヴァンデ・グローブに出てみたいと思っています」

●改めてヨットという乗り物の魅力ってなんでしょうか?

「みなさんの中でいいものというのは、基本的に時間を忘れられると思います。美味しいご飯を食べている時、好きな人と過ごしている時、趣味をやっている時、基本的には時間を忘れられると・・・。僕にとってヨットは時間を忘れられる乗り物です。

 クルージングに行った時に時計なんて必要ないですし、お腹が減ったらご飯を食べる・・・自然の中でより原始的な生活ができるものです。かつ海に出る時、大体エンジンのかかっている乗り物にみなさん乗られると思います。フェリーだったり釣り船だったりもそうですけど、ヨットはエンジンがないので、海の波切り音と風の音だけ聴こえる静かな乗り物なので、時間を忘れられる、人生が豊かになる時間を過ごせる、とってもすごい乗り物だと思います」


INFORMATION

写真:(株)浜田 提供

 この番組では「伝説になりたいチャレンジャー」木村さんを応援していきます。
 世界一周の大冒険について詳しくは、株式会社浜田のオフィシャルサイトのほか、以下のSNSなどをご覧ください。

◎公式インスタグラム:木村啓嗣 Kimura Hirotsugu (@go_around_re_earth) – Instagram

◎公式ホームページ :株式会社浜田「Go around Re-Earth」

◎公式YouTubeチャンネル: 株式会社浜田「Go around Re-Earth」 – YouTube

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」第21弾:「コーヒーとサステナビリティ」〜スペシャルティ・コーヒーの専門店ONIBUS COFFEEをクローズアップ!

2024/7/28 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第21弾:「コーヒーとサステナビリティ」。今回はSDGsの17のゴールの中から「つくる責任 つかう責任」、そして「働きがいも 経済成長も」。

 お迎えするのは、スペシャルティ・コーヒーの専門店「ONIBUS COFFEE」を展開する株式会社ONIBUSの代表「坂尾篤史(さかお・あつし)」さんです。

 坂尾さんは、コーヒー・ビジネスを軸に、サステナブルな取り組みや、コーヒー豆生産地の支援活動などを積極的に行なっていらっしゃいます。

 ONIBUS COFFEEは、代表の坂尾さんが2012年1月に世田谷区奥沢に第1号店をオープン。開店当初は、なかなかスペシャルティ・コーヒーが浸透せず、苦戦していたそうですが、その後、しっかりと着実に店舗を増やし、現在は都内に6店舗、栃木県那須に1店舗。海外ではタイのバンコク、台湾のタイペイ、ベトナムのホーチミンにそれぞれ1店舗ずつ、展開されています。

 そんな坂尾さんを先日、「ONIBUS COFFE」の自由が丘店に訪ね、サステナブルな活動のほか、コーヒー専門店を始めたきっかけや、豆と挿れ方のこだわりなど、いろいろお話をうかがってきました。その時の模様をお届けします。

☆写真協力:ONIBUS COFFEE

株式会社ONIBUSの代表「坂尾篤史」さん

オーストラリア〜カフェが街の文化

※私たちが取材でうかがった自由が丘店は、自由が丘駅から徒歩4分ほどのところにあり、店内は白を基調にしたシンプルでウッディなしつらえになっていて、とても落ち着く空間でしたよ。

 まずは、コーヒー専門店を始めようと思ったのは、どうしてなのか、お聞きしました。

「僕が若い頃って東京にカフェブームみたいのがあったんですよ。お洒落なカフェがあって、古民家カフェだったりとか、古いビルの上にルーフトップ・カフェみたいなのが流行っていて、漠然とカフェっていいなって思っていたのが、いちばん最初のきっかけですね」

●いいな〜と思っていて、それを自分でやってみようと思ったのは、どうしてなんですか?

「その当時は建築の仕事をしていたんですよ。ゼネコンで働いていて、父親は大工さんだったので、ゼネコンで働いたあとに、父と大工さんを一緒にやっていたことがあるんですね。その時に自分の仕事はこれでいいのかな〜みたいな、若い時なりに思っていて、まずはいろんな世界をもっと見てみようっていうので、バックパック(の旅)に1年間くらい行っていた時期があったんですね。

 いちばん最初に訪れた国がオーストラリアだったんです。そのオーストラリアでカフェに行った時に、エスプレッソ・マシンが置いてあって、お洒落なバリスタがコーヒーをサーブしていて、お客さんとスモールトークをしていく中で、地域のコミュニティを作っていくみたいなのを見た時に、”あ、こういう世界ってあるんだ”みたいなことを感じたのが、コーヒーの仕事をしようって決めた時でしたね」

●それは、おいくつの時ですか?

「25歳だったと思います」

●オーストラリアのカフェの何が、そんなに魅力的だったんですか?

「まず、いちばんいいなと思ったのは、地域のコミュニティになっているんですよね。オーストラリアの人って毎日カフェに行くんですよ。朝必ずカフェに行って、ちょっとおしゃべりをして、たまたま隣に座った人ともちょっとお喋りをして、1日がスタートするみたいな・・・だからみんな顔見知りなんですよね」

●いいですね〜!

「そうやってカフェが街を作っている、カフェが街の文化になっているみたいなのを肌で感じた時に、すごく感動したっていうのがありますね」

●居心地よさそうですね〜。

「そうですね。なんて言うんですかね・・・自分の居場所みたいなのを、知らない街に行ったにも関わらず、顔見知りがそこでできていく感覚みたいなのは、本当に自分の居場所ができたなっていう、空間がただ居心地がいいだけではない、居心地の良さみたいなのがありましたね」

●バックパッカーとして最初に訪れたのがオーストラリアで、そこでカフェの魅力に気づき出会い、そのあともバックパッカーは続けられたんですか?

「そうです。そのあとはアジアを1年間くらいバックパックしていました」

●そのアジアの旅でもカフェにはよく行かれていたんですか?

「アジアはその当時2007年だったと思うんですけど、コーヒー屋さんって全然なかったんですよ。ただインドに行けばチャイを飲んだり、例えばバンコクに行ったらミルクティーを飲んだり、中国に行けばお茶を飲んだりっていう、その土地その土地のドリンクを飲みながら、カフェではないんですけど、お茶屋さんだったりとか、街角のチャイ屋だったりみたいなところに行ってましたね」

ONIBUSは「公共バス」!?

※「カフェ愛」が高まり、帰国した坂尾さんは、日本でカフェをやりたい! そのためにはまず修業だと考え、バリスタの世界チャピオンが手がけるコーヒーショップ「ポールバセット」で2009年から2年ほど本格的にコーヒーを勉強し、その後、独立されました。

写真協力:ONIBUS COFFEE

 ONIBUS COFFEEを創業したときは、どんなお店にしようと思ったんでしょうか?

「やっぱり自分のコーヒー店を始めようって思ったきっかけは、オーストラリアのカフェだったので、地域の人たちが来るような、地域のコミュニティの一端を担えるようなお店作りっていうのがいちばんの目標というか、そういうお店にしたいなっていうのがありましたね」

●暮らしの一部になるような・・・。

「そうですね。まさに本当にそうです」

●ONIBUS COFFEEには、どういう意味があるんですか?

「ONIBUS COFFEEのONIBUSがブラジルの、ポルトガル語なんです。公共バスっていう意味があって、ブラジルって国土がめっちゃ広いので、バスで12時間とか20時間とか、長い移動をする国なんですね。

 そういうバス網が発達しているので、バス停が地域の起点になっていたりとか、経済の起点になっていたりとか、僕の名前のお店も地域の起点になれるような、人と人とが集ってまた次に進めるようなお店を目指して、ONIBUS COFFEEっていう名前にしています」

果実のような味わい

※ONIBUS COFFEEで出しているコーヒーの特徴についてお話しいただきました。

「僕らの扱っているコーヒーの特徴がすべてスペシャルティ・コーヒー豆を浅煎りで焙煎しているので、まず苦さがないっていうのがひとつ大きな特徴かなと思いますね」

●コーヒーと言えば、苦いというイメージがありますけど・・・。

「コクとか苦さみたいなのがあると思うんですけど、そういったものよりはコーヒー本来の、ひとつひとつコーヒチェリーって言われるような果実からできているので、味わいを楽しんでもらえるようなものをお出ししていますね」

株式会社ONIBUSの代表「坂尾篤史」さん

●へ〜! では早速いただいてもよろしいですか? いろんな種類がありますけれども、今回は何を・・・?

「今回はホンジュラスとルワンダのお豆を、2種類ご用意しています」

●では早速、ホンジュラスからいただきます。見た目はいわゆる普通のコーヒーという色合いですけれども・・・。

「そうですね。ただ焙煎が浅いので深煎りのものと違って、濃い黒っていうよりは少し褐色的な色になっていますね」

●あ、そうですね! ではいただきます! う〜ん美味しいですね。確かに全く苦くないですね!

「そうですね。それよりも果実感だったりとか・・・」

●すごく優しい味がします〜。このホンジュラスのコーヒーには、どんな特徴があるんえすか?

「ホンジュラスは中米にある国で、甘さが特徴的ですね。僕らは、リンゴみたいな甘さだったりとか、果物の甘さに表現することが多いんですけど、ホンジュラスはまさに熟したリンゴのような甘さを持っているコーヒーだなと思います」

●美味しいです〜! で、こちらがルワンダですね。いただきます。あ、また違った柔らかさというか・・・。

「そうですね。ホンジュラスが中米なのに対して、ルワンダはアフリカの国で、アフリカって結構、酸味がぎゅっと凝縮したようなコーヒーになっていて、ベリー系の酸だったりとか、あとはシトラス系の酸みたいなのを感じるコーヒーとなっています」

●ちょっと紅茶みたいな感覚もありますね。

「そうですね。紅茶だったりとか、あとワインのような酸味を楽しんでもらえるようなものになっています」

写真協力:ONIBUS COFFEE

●美味しいです! 挿れ方にもこだわりがあるんですか?

「そうですね。挿れ方はドリップコーヒーでお出ししているんですけど、例えばグラインダーだったりとかお湯の温度だったりとか、お湯の注ぐ量みたいなのを細かくレシピで決められていますね」

●この味の決め手っていうのは?

「味の決め手は・・・農作物なので、やっぱり農家さんたちがどういう環境でどういうふうに育てているのかみたいなのがいちばん大きく影響してきます」

(編集部注:コーヒー専門店などで販売されているコーヒー豆、私たちは「豆」と呼んでいますが、正しくは、アカネ科の植物「コーヒーノキ」の実の中に入っている種子、タネなんですね。この実は、さくらんぼのように赤く熟すので「コーヒーチェリー」と呼ばれています。

 コーヒーの品種はたくさんありますが、飲むために栽培され、流通しているのは、「アラビカ種」と「カネフォラ種(通称ロブスタ)」のふたつだそうです。

 コーヒーノキは、苗木から2〜3年かけて成長し、ジャスミンのような香りがする白い花が咲くそうです。そして実が8ヶ月ほどかけて、徐々に大きくなり、完熟した赤いコーヒーチェリーになります)

スペシャルティ・コーヒーとは?

※初歩的な質問なんですが、改めて「スペシャルティ・コーヒー」というのはどんなコーヒーなのか、教えていただけますか?

「認証とかがあるわけではないんですけれども、アメリカを中心としたスペシャルティ・コーヒーの協会と言われるようなところで、厳しく審査されて点数付けされたものですね。通常のコーヒーの10%くらいしか流通していないものになっています」

●とても稀有なものなんですね。

「稀有っていう表現が正しいかどうかはわからないんですけど、最近この5〜6年、お洒落なカフェが増えて、エスプレッソ・マシンが入っていてドリップコーヒーも出しているみたいなお店だと、スペシャルティ・コーヒーを使っている傾向が高いです」

●特別な地域と気候が生み出すコーヒーっていうことですよね。

「まさにそうですね。特別な気候が複雑な味わいを生み出すコーヒーって言われています」

●具体的にはそのスペシャルティ・コーヒーの生産地っていうと、どのあたりになるんですか?

「スペシャルティ・コーヒーも通常のコーヒーも生産地域は一緒になるんですけど、中米、南米、アフリカ、あとアジアでもインドネシアとかタイとかでは生産されていますね」

●スペシャルですね〜!

「そうですね。農家さんへの対価の還元だったりとか、自然環境と長く、持続可能な農業をしていこうみたいな考え方を反映しているコーヒーになるので、本当に稀有なコーヒーであることは間違いないかなとは思いますね」

コーヒー農園が鬱蒼とした森!?

※ONIBUS COFFEEでは、どの生産地のコーヒー豆を輸入するのかを決めているのは、坂尾さんなんですよね?

「焙煎をするチームがあるので、その焙煎チームと僕とで決めていますね」

●コーヒーを仕入れる農園は何ヶ所か、決めてあるんですか?

「やっぱり(コーヒー豆は)農作物なので、なるべく継続して買うみたいなのは結構大切になってきますね。もう10年ぐらい使っている農園もあったりとか、それプラス、新規で数件、毎年開拓しているっていうような形ですね」

●現地に行って買い付けをするみたいな・・・?

「そうですね。そういうロットも多く揃えています」

●現在だと具体的にどの生産地から仕入れているんですか?

「直近でいうと、6月にルワンダに行ってきたり、4月にグアテマラに行ったりしていましたね」

●ブログで拝見したんですけど、定期的にコーヒー豆の生産地に出かけていらっしゃるんですよね?

「そうですね。僕だけではなくて、社内のチームで担当の国みたいのがあるので、それぞれなるべく、できる限り生産地域を訪ねるようにしています」

●グアテマラのコーヒー農園に行った記事も載っていましたけれど、鬱蒼とした森みたいな感じでしたね。

「そうですね。僕らが(コーヒー豆を)買っているグアテマラの農園は特に、特にというか、ほかでは見ることがないぐらい森です!」

写真協力:ONIBUS COFFEE

●森ですよね! コーヒー農園なんですよね?

「そうです、コーヒー農園です! たぶんみなさんコーヒー農園をイメージすると、ブラジルの広大な農園をイメージするかたが多いと思うんですね。僕らが買いつけているところは、グアテマラとメキシコの国境付近にあるんですけど、すごく切り立った石の山なんですよね。たぶん昔は海の底だったところが隆起してできた山になっているので、石がゴロゴロしていて、険しい山の合間にコーヒー(の樹木)が生えているっていうような感じですね」

●標高も高いんですか?

「そうですね。1800メートルから2000メートルぐらいの標高になっています」

●コーヒー栽培には適した場所っていうことなんですね?

「そうですね。クオリティの高いコーヒーを作るのには、適している場所になっていますね」

ルワンダ“堆肥”プロジェクト

※ONIBUS COFFEEでは、去年からアフリカ・ルワンダの生産地でプロジェクトに取り組んでいると、ブログにありました。これはどんなプロジェクトなんですか?

「ルワンダは森は全くないんですよ。アフリカだから自然いっぱいみたいなイメージだと思うんですけど、結構切り開かれていて、原生林みたいなのがなく多様性がないんですよね。
 そうすると土の微生物の量だったりとか、落ち葉が堆肥になるみたいなのがなかなかなくて、優良な有機肥料を自分たちで作ることが難しいんですよね。それを日本の農家さんたちの知見をルワンダに持っていって、自分たちで優良なオーガニックな肥料、堆肥を作るプロジェクトを一緒にやっています」

●プロジェクトを始めてどれくらいになるんですか?

「始めてまだ2年ですね。1年目はトライアルで少しだけやって、去年から(本格的に)やり始めました」

写真協力:ONIBUS COFFEE

●どうですか? 進捗具合は・・・。

「実際に(コーヒー豆の)クオリティに反映されているとか、例えばそこの土の微生物が増えたみたいなのって、まだまだわからないことなんです。今年から去年作った堆肥を使ったコーヒー豆ができ上がってきて、それが11月ぐらいに入ってくるんですけど、実際に販売できるっていうところまでは来ています」

●すごいですね~! 生産地の課題でいうと、今どんなことが挙げられますか?

「本当に国によって全然違うんですけど、ルワンダにおいては賃金の問題もありますし、教育ですね。コーヒーの教育っていうよりは全体的な教育の課題だったりとか・・・あと先ほどもお伝えした微生物の多様性の少なさっていうところですね」

(編集部注:農作物であるコーヒーは当然、環境の変化に影響を受けやすく、温暖化による気候変動が品質の低下や収穫量の減少につながり、このままいくと2050年頃には美味しいコーヒーが供給されなくなる恐れがあるそうです)

ONIBUS COFFEEとサステナビリティ

※ONIBUS COFFEEは、会社としての2023年の取り組みを「サステナビリティ・レポート」として、数字にしてブログで公開されていますよね。これにはどんな意図があるんですか?

「スペシャルティ・コーヒーを扱っていく上で、スペシャルティ・コーヒーの定義みたいなのがあるんですよ。その中に『サステナビリティ』と『トレサビリティ』の意識をもちましょう! みたいなのが書いてあるんですよね。

 それって本質的なことだな~と思っていて、東京でこういうカフェを営んでいく中でも、自分たちが何ができるのかみたいなのを考えていく必要があるなと思っています。ただそれってなかなか伝えるのって難しいじゃないですか。なので数字に落とし込めるものは落とし込んで、レポートとしてあげようみたいなのを昨年から力を入れてやっています」

●具体的には会社でどんな取り組みをされているんですか?

「取引の価格を公表したりしていますね。例えば農家さんの『FOB』って言われる、コンテナに積む前の金額って、コーヒーの原価に関わることなので通常だとなかなか知ることがないんですけれども、そういうのも公表したりしていますね」

●社内にサステナブル担当っていうかたがいらっしゃるんですよね? サステナブル担当のかたとは結構頻繁にアイディアの交換とかされるのですか?

「そうですね。実際にいろんな農園に行ったりもするので、その時にいろんな話をしますね。今年出た話でいうと、実現するかはわからないんですけれど、焙煎機のある店舗を、例えばソーラーパネルを付けて自分たちで電気を作れるようにしたりとか・・・。

写真協力:ONIBUS COFFEE

 あと今、力を入れているのは“援農”ですね。農家さんのところに行って農業をお手伝いするっていうのを会社の中のひとつの仕事として、月に1回何人かで行って土に触れるみたいな機会を作ろう!みたいなのを提案して、実際に動いているっていうのをやっています。

 ひとつは練馬のほうにある農家さんと、あとは東久留米にある農家さんですね。ブルーベリーを有機栽培で作っていたりとか、そこは自由が丘店で出た(食品廃棄物の)コンポストを肥料にしてもらって、カブにしてもらったりルッコラにしてもらったり、それをお店で出したり、みたいなのもしているので、そこにお手伝いしに行ったりしていますね」

●30年後のONIBUS COFFEEはどうなっていると思いますか?

「30年後・・・そうですね・・・たぶん今後もっと環境への意識はひとりひとりが高めていく必要があると思いますね。飲食店ってどうしても消費のカルチャーなので、そういったのをなるべく循環できるような仕組みを作りながら、ロールモデルになるようなお店作りをしてみたいなとは思いますね」

●改めて、坂尾さんはコーヒーを通してどんなことを伝えていきたいですか?

「そうですね・・コーヒーってめっちゃロマンがあるなと思うんですよ。きょう来ていただいている自由ヶ丘店のカフェで、いわゆるお客さんにサーブする、お客さんに提供するっていうところから、世界の裏側に行って買い付けてくる、その物流を自分たちでする、さらに土だったりとか、その土地の風土を理解するとかって、本当に多岐に渡るので、その全部をできる仕事ってなかなかないですよね。ひとことでは言えないですけど、本当にロマンがある仕事だなとは思いますね」


INFORMATION

 ONIBUS COFFEEは奥沢店、自由が丘店、中目黒店、八雲店のほか、道玄坂と渋谷一丁目にそれぞれ1店舗、そして栃木県那須に1店舗と国内には7店舗あります。お近くにお出かけの際は、ぜひ立ち寄って、美味しいコーヒーを召し上がってみてください。

写真協力:ONIBUS COFFEE

 ONIBUS COFFEEでは、もちろんコーヒー豆の販売も行なっています。ルワンダ、エチオピア、ケニア、コロンビア、そしてホンジュラスなどから輸入した豆のほか、オリジナル・ブレンドや、ギフト用にドリップバッグなども販売。オンラインでも購入できますよ。
詳しくはONIBUS COFFEEのオフィシャルサイトをご覧ください。

◎ONIBUS COFFEE :https://onibuscoffee.com

日々の健康や幸せのために〜信州信濃町「癒しの森」プログラム

2024/7/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、長野県上水内郡(かみみのちぐん)信濃町(しなのまち)認定の森林メディカルトレーナー「河西 恒(かさい・ひさし)」さんです。

 町の面積のおよそ7割が森に覆われている信濃町では、森を活かした「癒しの森」という事業を行なっていて、森林メディカルトレーナーの育成にも力を入れています。

 「しなの町Woods-life Community」の事務局も担当されている河西さんは1969年、東京都日野市出身。高校卒業後、将来は森で仕事をしたいと思い、東京環境工科専門学校で自然や生き物について学びます。

 卒業後は、野生のニホンザルの調査や富士山周辺を案内するガイドなどを経て、一般社団法人「C.W.ニコル・アファンの森財団」に勤務。そして、信濃町の「癒しの森」に関わるようになり、現在は町認定の森林メディカルトレーナーとして活躍されています。

 きょうは「癒しの森」や、森の中での体験プログラムが心身にもたらす効果について、活動の中心的な役割を担っている河西さんにお話をうかがいます。

☆写真協力:しなの町Woods-life Community

河西 恒さん

信濃町認定「森林メディカルトレーナー」

※まずは「森林メディカルトレーナー」とは何か、そのあたりのお話から。「信濃町認定」というご紹介になりましたが、これは町の事業として行なっている、ということなんですよね?

写真協力:しなの町Woods-life Community

「はい、そういうことなんです。約20年ぐらい前、2003年からスタートしているんですけれども、森林セラピーを主軸として地域活性の事業に取り組み続けています。 いらっしゃったお客様を森の中へご案内する、いわゆるガイドの役割を『森林メディカルトレーナー』と名付けて信濃町でお迎えをしています」

●信濃町が認定する資格制度があるっていうことですか?

「そうですね。信濃町が主催して養成講座を開き、受講いただいた面々が受講を終えてからもずっと研鑽を続けて、お客様がいらした時にそれを大いに発揮して、一緒に森の中に出かける、そんなふうにしています。

 ただ単に植物を紹介するような自然観察会でもないですし、環境学習ということでもないです。森林メディカルトレーナーというその名前からも想像できるかもしれないんですけれど、メディカルと付いているので、心身の健康のために森に入る意味についても、どういうふうに(お客様を)ご案内をしていくのがいいのか、ということをやったりとか・・・。

 あとは実際にご自身にもお客様の体験もしていただいて、”やっぱり森に入るのは、こんなふうにいいんだな” なんていうことも、実感していただくことも大事な講座のひとつですね」

(編集部注:現在、森林メディカルトレーナーは講座を受講して、認定されているのは140人ほどだそうですが、例年、お客様を森にご案内するのは20〜30人くらいだということです)

写真協力:しなの町Woods-life Community

C.W.ニコルさんの存在

※信濃町が「癒しの森」の事業を始める至った経緯を少し説明しておくと・・・
 1990年代後半から2000年代にかけて、市町村が合併する、いわゆる「平成の大合併」が進む中、もともと「観光」と「農業」の町だった信濃町は、東京農業大学の教授「上原巌(うえはら・いわお)」先生が提唱する「森林療法」に出会い、合併はせずに、町の7割以上を占める豊かな森を活用することで、町の活性化につなげる選択をしたそうです。

 それが「癒しの森」という取り組みにつながるわけですが・・・森には人を癒す力がある、これを活かしていこうとされたのは、信濃町に暮らしていた作家「C.W.ニコル」さんの存在が大きかったようですね?

C.W.ニコルさん

「そうですね。ニコルさんの存在は大きかったと思います。同じタイミングで、ニコルさんと長野県の林務部がどうやらお話をされていたそうなんですよね。

 ニコルさんがおっしゃるには、”欧米の方々は、日常的に森の中を散策しているよ”と。『ウッドパス』っていう小道が森の中に通っていて、気軽に散歩できるようになっているし、日常の周りにもやっぱり散歩している人が多いんだと・・・。日本は欧米よりもこれだけ豊かな森があるのに、”そうやって散歩している人、少ないよね?”って(ニコルさんは)おっしゃるんですよ。

 さらに、特に英国ではお医者さんが処方箋で薬を出すのと同じように、”あなた、こういう状態だったら、もうちょっと森に出かけて歩きなさい”みたいなことを言うんだそうです。

 そういう取り組みを日本でもやろうよと言って、当時、長野県林務部の担当者と話をしていて、林務のかたがたが補助金の事業を形にまとめて発信をしたと・・・。信濃町で当時、そんなことを考えていた住民8人のグループがその情報を見つけて、本来であれば町役場に相談をするんですけれど、それを飛び越して、いきなり県の発信元に”私たちにやらせてくれ!”って直談判をしたそうです。

 なので、ニコルさんの発想がきっかけになって、この癒しの森事業がスタートしているんだよっていうふうに聞いていますね」

●海外では、こういった癒しの森のような事業はあるっていうことなんですか?

「はい、ニコルさんの周りにはあったみたいです。処方するっていうお話もしましたけれど、ちょっと体調を崩したかたが森に出かけることも日常だったし、森の中で勉強をする、小学生が森の中に入って数学の勉強をしたりということもあったりとか、そんな取り組みは日常的にあったそうです。

 ドイツで参考にしたのは『クナイプ療法地』というところなんですが、1万2000人ぐらいの人口の町に保養のかたが、年間50万人以上訪れるんだそうです。ドイツでもそうやって自然環境の豊かなところに出かけることで、自分自身の心と体調を整えましょう、みたいな取り組みがあったようなんですね」

(編集部注:河西さんが「癒しの森」に深く関わるようになったのは、実は河西さんがスタッフとして関わった「C.W.ニコル・アファンの森財団」の「5センス・プロジェクト」の影響があるんです。

 このプロジェクトは、児童養護施設や盲学校に通う子供たちを森にいざない、いろんな体験をすることで、心と体を癒し、心身の健康を取り戻してほしい、そんな目的で行なわれているそうなんですが、ある時、河西さんは信じられない光景を目にします。

 それは全盲の子供が、なんとなく周りの様子がわかるからと、森の中を走ったんだそうです。おそらく、その子が持っているすべての感覚が、森の効果で研ぎ澄まされて、奇跡のようなことにつながったんでしょうね。

 そんなプロジェクトに参加して、心から笑顔になる子供たちの存在が糧となり、それが、河西さんの大きな原動力になっているんです)

閉じていた感覚を開く

写真協力:しなの町Woods-life Community

※ここからは、森林メディカルトレーナーが実際に森の中で、どんなプログラムを行なっているのかを聞いていきましょう。森林浴というのは以前からあったと思いますが、森林メディカルトレーナーが行なうプログラムは、森の中をただ歩くだけじゃないんですよね?

「そうですね。これまた難しいんですけれど、何か特別なことをしているわけでも実はないんです。 なんですけれども、一緒に森に出かけて、まず私たちがご案内をしているのは、例えば木の枝をポキって折った時に、ほわ〜って香ってくるその香りを嗅いでいただいたりとか・・・。あるいは水の音がしませんか? と言って、耳を傾けてもらったりとか・・・五感ですね・・・臭いとか音とか・・・食べられる野草なんかも生えているので、ちょっと味見してみません? ってご紹介したりとか・・・まず森の中で、感覚を使うものにアプローチをしているんです。

 特に都市部に住んでいる、とても忙しいかたは、その感覚が閉じてしまっていると僕らは思っています。実際にそうなんですけれど、(森に)ご案内することでなんか変わってきたみたいなことをおっしゃったりとか、半日ぐるっと森を回ったあとに、自分から鳥の声に気づけるようになったとおっしゃるかたは結構いらっしゃいます。まずは感覚を開いていただくことをやっています」

●具体的にどんな効果が見込めるんですか?

「森の中に出かけることの、ひとつの大きい効果だと思うんですけれど、『フィトンチッド』と言われているんですが、植物、木々、草花は動けないので、虫とか菌にやられないために、自分を守るための忌避剤(きひざい)として、そういう科学物質を製造して放っているんですよね。

写真協力:しなの町Woods-life Community

 それを人間が(森に)出かけて普通に呼吸することで、とても心と体の、ひと言で言えば、バランスが整うなんていう表現をしているんですけれど、ストレスホルモンの値が下がったりであるとか、いい睡眠につながったりであるとか、様々な効果がその香りを普通に呼吸にすることで得られるんですよって言われていますね」

●医学的にも効果が検証されているということですか?

「はい、エビデンスはたくさん出てきています」

●へぇ〜! 「癒しの森」プログラムを行なうエリアには、いくつかコースがあるんですよね?

写真協力:しなの町Woods-life Community

「信濃町では代表的なコースは3つありますね。あまりアップダウンがない池の周りにたくさん道がある『御鹿池(おじかいけ)』っていう池があるんですけれども、そこに出かけるコース。あとは野尻湖があるんですが、その野尻湖をちょっと見下ろせるような森の中を歩く『象の小径コース』というのもあります。

 で、もうひとつ新潟県境に『地震滝(ないのたき)』という日本の滝100選に選ばれているような立派な滝があるんですけれど、そこをゴールに目指す『地震滝コース』っていうその3つがあります。

 その滝コースは1日かけて、お弁当を持って出かけましょう! っていう場所なので、どっぷり1日森の中にいたいっていうかたには地震滝コースをご案内しています」

写真協力:しなの町Woods-life Community

森の中で、ひとりたたずむ時間

※森の中で行なうプログラムについて、もう少しうかがっていきましょう。森に入ったら、ほかにどんなことをやるんですか?

「森に入って、まず感覚を開いていただいたあとに、丁寧に呼吸してみましょうかと言って、胸式呼吸ではなくて腹式の呼吸を丁寧にご案内したりとか 、あとは素足になって”水の中に入りませんか?”と言って、(小川に)入って”きゃー!”って言ってもらったりとか・・・。

写真協力:しなの町Woods-life Community

 あとは感覚が開いて、そうやって体験をしていただいたあと、ひとりで森の中にいても大丈夫だな、安心だなっていうふうにお客様の様子が変わってきたら、ちょっとひとりたたずむ時間も取っていますね。レジャーシートをお渡しして、そうですね、15分とか20分、あるいは長いかただと30分ぐらい森の中でひとりで過ごしていただく時間を取るようにしています」

●リラックスできそうですね〜。

「そうですね。とてもその時間、ひとりたたずむ時間のあとは表情が変わるかたが多いです」

●参加者のみなさんの反応はいかがですか?

「様々なんですけれど、忘れかけていたものをちょっと思い出した気がしたとか、あとはこれ、女性なんですけれど、森の中に半日出かけて戻って、美容室に行ったそうなんですよ。そうしたら(美容師さんに)「どこに行ったんですか?」と言って、髪の毛を美容師さんに触ってもらって、髪がとてもツヤツヤしていたって言うんです。

 ”そんなことを言われたわよ”と言っていただいたお客様がいらっしゃったりとか、いろいろなかたがいるんですけれど、だいたいみなさん表情が柔らかくなって優しくなりますよね。人当たりが優しくなる、表情も言葉も・・・僕はそんな感じがしています」

●まさに河西さんがそんな感じがします。優しさが出ています。溢れ出ています。

「いやぁ〜、ははは、ありがとうございます。おそれいります(笑)」

●河西さん自身も仕事とはいえ、プログラムが終わる頃には変化を感じますか?

「私自身は終わった時は、とにかく何事もなく無事に終えられたなって、ちょっとほっとしている部分が大きいんですけど、必ずトレーナーはお客様を迎えることが決まったら下見をするんです。その下見の時にひとり、あるいは一緒に案内する仲間と下見するんですけど、その時間はとても自分にとっては気持ちいいですよね、リラックスできるなって・・・。

 やっぱりこのコースは、改めてこういうふうに回るのが自分には合っているなって実感して、お客様をお迎えするっていうふうになるんですけれど、私はやっぱりその下見の時間はいいなと思いますね。で、やっぱり眠くなります」

●癒されるんですね〜。

「はい、緩むっていう表現がいいですかね」

企業や団体がもっと活用すべき「癒しの森」

※河西さんが所属する「しなの町Woods-life Community」としては今後、どのようなことに取り組んでいく予定ですか?

「これまでもそうだったんですけれども、おもに企業で頑張っているかたがたをお迎えをして、なんて言うんでしょう・・・ちょっとバランスを崩しているようであれば、ご自身を取り戻していただいて、いつもの調子とあまり変わらない、大丈夫っていうかたは森に来ることで、より生産性が上がったりとか、コミュニケーションが活性化するっていうデータもあるので、企業にお勤めのかた、あるいは団体や組織で動いているかたに、もっと活用いただいて・・・。

 今『健康経営』なんて言われて久しくなりましたし、『ワークエンゲージメント』であるとか『心理的安全性』みたいなキーワードも出てきているので、従業員の心と体の健康プラス、従業員同士の関わりがもっと活性化していって、より組織であるとか企業が元気になるっていうところに貢献できればいいな、そんなことを意図してみなさんにいらしていただければいいなと思っています」

●確かに企業の福利厚生や社員の健康管理などにこの「癒しの森」プログラムを
活用したらすごくいいですよね?

「もうぜひぜひ! そう言っていただけると、とてもありがたいですね」

写真協力:しなの町Woods-life Community

●では最後に、森林メディカルトレーナーとしての夢や目標があれば、ぜひ教えてください。

「一緒に出かけていただいて関わるかたが日常に戻られた時に、森の中で表情が緩んで、いい表情になることはもちろんなんですけれど、そうなった時にその状態で日常に戻って、そのかたの日常がよりよくなる・・・健康っていう面もそうですし、幸せっていうことも言えるのかもしれません。そのかた本人が望んでいる人生が歩めるようなサポートができるといいなと思っています。

 そのために日々勉強することしかないのかなって、ちょっと実は思っていて・・・なかなかバタバタして仕事に追われる日々ではあるんです。森にいてもその事実は変わらないので・・・。でも時々、森のそばにいる人間もちょっと森に出かけて、新しい情報であるとか、学ばなくちゃいけないよなって思うことは少しずつ勉強しつつ、でもお客様と楽しい時間を過ごすっていう・・・すいません、答えになっているかどうかわかんないんですけれど、何かすごく大きな目標があるかっていうことよりも、日々研鑽し続けることが大事だな、なんて今思っています」

(編集部注:信濃町が取り組んでいる「癒しの森」は、日本初の事業で、ほかの市町村からの視察も多いそうです。提携している企業や団体は、現在39ほどあるとのことです)


INFORMATION

写真協力:しなの町Woods-life Community

 「癒しの森」のプログラムに参加してみたいと思ったかたは、「しなの町Woods-life Community」の事務局に、できれば、メールでご連絡くださいとのことです。

 宿泊は「癒しの森の宿」に認定されている宿を選ぶことができるそうです。宿泊プランやガイドツアーの料金など、詳しくは、信州信濃町「癒しの森」のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎「癒しの森」:http://iyashinomori.main.jp

1 2 3 4 5 6 7 8 27
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW