2020/6/27 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、伊豆大島在住のネイチャーガイド「星野修(ほしの・おさむ)」さんです。
星野さんは1966年、新潟生まれ。都内でデザイナーとして勤務後、93年にダイビング・インストラクターのトレーニングのため、通っていた伊豆大島へ移住。水中ガイドとして勤務したあと、2004年に独立し、現在はネイチャーガイドとして活躍中。毎日フィールドに行き、年間500本以上の潜水観察と撮影。これまでに2万本は潜っているそうです。ご本人曰く“ほとんど塩漬け状態”だそうです。
そんな星野さんが先ごろ『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』を出されました。この図鑑には伊豆大島の海で撮影した、ほんとに小さな生き物たちの写真が満載です。
きょうはそんな星野さんに、風変わりな生き物やとても不思議な生態を持つ海洋生物のお話などうかがいます。
*写真協力:星野 修
毎日が発見! だから楽しい!
※海の中で、小さな生き物の写真を撮るのは大変じゃないですか?
「そうですね。生物自体はそんなに珍しいものを撮っている訳ではないんですね。小さいのは3ミリとか3ミリを切るような生物たちが多いので、なかなかみなさん、目に入らないとは思うんですけども、普段目の前で生活している生物ばかりなので見つけること自体は全然大変じゃないんです。逆に撮影し始めると、ものすごくピントというかフォーカスが難しいんで、そこはきちんと撮らないと、と思っているんですけれども」
●これだけ多くの生き物たちを撮影するって結構時間もかかると思うんですけれども。
「けっして珍しい生物ではないので、ものすごくたくさんいる生物はもう数千匹はいます。見つけるのはそんなに難しくないんですけど、3〜4年くらいはかかったと思います」
●この図鑑には何種類、載っているんですか?
「250種類くらい紹介しています」
●250種類を3〜4年かけて撮影された訳ですね!
「それでも、大島には認識しているだけで1000種類以上の生物が見られるんですね。毎日潜っていますけれども、毎日新しい生物に出会っているって言ってもおかしくないぐらいで、まだまだ見てない生物のほうが多いので、そこはもう毎日が楽しくてしょうがないですね!」
●へー! 毎日が発見ですね!
「そうですね」
●そもそもどうして、この小さな生き物たちにフォーカスするようになったんですか?
「海洋生物って1割くらいしか分類されていないっていう意見が多いんです。生物の9割以上は小さいって言われる生物なんですね。そう考えるとほとんど小さい生物って言ってもいいくらいだと思うんですよ。
これは最近気づいたことですけど、大きい魚や綺麗な魚を見ているのも楽しいですけど、どんどん新しい生物に出会って、人間では考えられないような生態とかそういうのに出会うともっともっと知りたくなりますね」
海の中のお花畑
※続いて「星野」さんが先ごろ出された『海の極小!いきもの図鑑』に載っている海洋生物について。
●私がこの図鑑を見て気になったのは10ページにあります“岩壁を彩る生物”ということで、本当にカラフルなんですよね! サンゴにカラフルなゴカイの仲間が点在していて、お花が咲いているのかなーって思うようにぎっしりと埋め尽くされていて、これもすごく素敵でした。ポップで可愛らしいなと思ったんですけど。
「みなさんお花畑って言っていますよね。ただこれゴカイなんですよね(笑)。ゴカイって魚の釣りの餌にするゴカイと同じグループですけど、あんまりみなさん可愛らしい印象ないですよね」
●そうですよね! この赤とか黄色とか青とか本当にポップでカラフルな色なのがゴカイなんですか?
「そうですね。あとはこのサンゴの中に巣を作って本体は中にいるので、一部分しか見えていないんですけれども、面白いのが赤とか黄色とか青とか、いろんなカラフルな色彩がありますけれども、同じ種類って言われているんですよね。それもまた不思議のひとつですよね」
●同じ種類なのに色がこんなに違うんですね!
「カラーバリエーションだけ集めていっても尽きないというか、もう楽しさが倍増ですね」
●同じ種類なのにどうして色がこんなに違うんですか?
「分からないです(笑)」
●謎が深いですね(笑)
「そうですね。本当に発見ばっかりなんですよ」
●それからこの156ページにあった“ライトに集まる甲殻類たち”という真っ暗な中で、小さな白い生物がぶわーっと無数に集まっている写真がありましたけれども、これはカイアシ類とクラゲノミ類という風に書かれていますが・・・。
「甲殻類はとても大きなグループなので説明が難しいんですけど。カイアシ類っていうのはなかなか聞かない言葉ですけれども、プランクトンってみなさんおっしゃる中のかなりの割合を占めるグループなんですね。小魚とかはカイアシ類を食べているって言ってもいいくらいです」
●へーーー!
「そういった生物たちが水中に設置したライトの前に何百、何千、もうそれ以上集まってきたり。集まってくる生物だけではないので、もちろん光を嫌う生物たちもいるので、その辺は棲み分けていると思います」
<「海の昆虫!?」カイアシ類!>
さて、星野修さんのお話にも出てきた「カイアシ類」は「極小のいきもの」の中でも特に小さな生き物なんです。
エビやカニと同じ甲殻類(こうかくるい)の仲間で、大きさは1ミリから3ミリのものが多く、甲殻類なので体は殻(から)に覆われ、舟をこぐ「かい」のような脚(あし)をもつことからカイアシといい、専門的には「コペポーダ」と呼ばれています。『ケンミジンコ』や『ヒゲナガミジンコ』と言われることもあるので、ミジンコの形を想像していただければイメージしやすいかもしれませんね。
「見たことも聞いたこともない」という方がほとんどだと思いますが、小さすぎて見えない、または意識して見ていないだけで、海や湖に普通に生息しているし、1万を軽く超える種類が確認され、今でも新種が発見されているそうです。
海では動物プランクトンの中で最も量が多く、海水1リットルから100匹以上見つかることもあり、「海の昆虫」とも呼ばれているんだそうです。
陸の昆虫と同様、食物連鎖のベースを支える存在で、イワシやサンマなど小型・中型魚のエサとなるほか、マグロなどの大きな魚も稚魚の頃はカイアシ類を食べて成長し、クジラや海鳥にも食べられています。つまり人間にとっても食文化を間接的に支えてくれている大切な存在なんです。
「カイアシ類」は動物の中で最も広い生息域を誇るもののひとつで、世界中の海を漂い、水深1万メートルの深海や、標高5000メートルを超えるヒマラヤの氷河からも発見されていて、他の動物に寄生している種類もいます。
日本では三陸沿岸で特に多種多様なカイアシ類が生息しているそうなので、訪れる機会があったら、じっくり観察してみたいですね。
摩訶不思議な生態
※伊豆大島の海に生息する生き物について、こんな興味深いお話をしてくださいました。
「例えば、水中の壁に向かって30センチ四方ぐらいで切り取って観察してみると、多いところでは多分そこに数百、もしくは千を超える生物たちがぎっしり付いているんですね。動かない生物たちももちろん多いですし、触手っていう花のようなものを広げてパクパクと、水中に漂っているものを食べている全く動かないような生物もいますけど、その上を3ミリくらいの甲殻類たちが動き回っていたり、ゴカイの仲間だったり、だから全部集めるとものすごい数になりますよね」
●へーー!
「それが結構、通常の世界っていうか、この部分だけが生物が多いとかじゃなくて、目の前にある壁って何もないように見えるんですけれども、実はものすごい数の生物がいて、それぞれがそれぞれの異なる生態を見せてくれるっていうか、そういうのが面白いですね」
●そういった小さな生き物たちっていうのは共に助け合いながらというか、共生とかをしながら生きているんですか?
「そうですね。どういう状態を共生っていうかちょっと私にも理解が不足していますけど、そんな小さな世界で、例えば動かない生物の上にまた様々な生物が暮らしていたり、ひとつの生物の上にまた違う生物が住処を作っていたり、毒を持つ小さな生物に寄り添っていたり、いろんな方法をとって集団で過ごしていたほうが捕食されるリスクも少ないですしね。
イノチズナアミヤドリっていう生物がいるんですけど、その生物は小さな海老ようなアミ類っていう甲殻類の背中に寄生するんです。寄生した時に最初は雌になって、その後に雄になる若い個体が近寄ってくるんです。
で、その若い個体が雄になって今、雌と繁殖を行なう時に雌のお腹が糸のように伸びているんですけど、それを掴んだまま外出したりするんですね。だから、雌にぶら下がっていたりして離れることはないんです。全く雄と雌の形が違いますし、とても面白い生態を持っている生物なんですね」
●それは伊豆大島で見ることができるんですか?
「そうです。伊豆大島で私が見つけた生物です」
●星野さんがいちばんお好きな生物ってなんですか?
「ユニークな生物にウミクワガタっていう生物がいるんですけど、みなさんご存知のクワガタそのものの形と言っていいほど似ているんですね」
●え? あの形で海にいるんですか?
「ただあの形で7ミリくらいしかないですけど(笑)」
●小さい(笑)
「細かいことを言えば異なる部分もあるんです。面白いのが親になるまでに3回脱皮をするんですけれども、各それぞれのステージの時にサメに寄生をして、吸血して離れて脱皮して、また取り付いて吸血して離れて脱皮して、っていうのを繰り返して、最後にみなさんご存知のクワガタの形になるんですね」
多彩な手段で生きている
※星野さんは伊豆大島の海に20数年、毎日のように潜っていらっしゃいますが、海の中の変化を感じることはあるのでしょうか。
「生物に関しては毎年特定の生物がものすごく増えたり、またいなくなったり、結構1年単位で海草ひとつにとっても違うんですね。(日々の変化は)正直あまり感じないんですけれども、1年1年違う海に変わっているっていうか、それがいいのか悪いのか分からないですね。もちろん見られなくなった生物たちも多いですし、新たに定着した生物たちもいますし、なかなか難しいんですね。
水温に関して言うと高くなったっていうよりは安定しない。陸の天気と一緒ですよね。こんなに冷たいんだとか、こんなに水温が上がるの早いんだとか、年によってバラバラというか、1カ月の中でも結構上下が激しかったり、あんまり20年前の海ではそういったことを感じたことがなかったんですけれども、今はそう感じることが多いですね」
●撮影する上で何か気をつけている点はありますか?
「ひとつの生物に時間をかけて撮ることが多いんですね。周りにもすごくたくさんの生物がいるので、ひとつ手を付いちゃうと、それだけダメージを与えているなって気持ちじゃないと、なかなか続けていけないっていうか、なるべくほかの生物にダメージを与えないようにその生物を撮影していくっていうのをいちばん気をつけていますね」
●星野さんが海から学んだことはなんでしょうか?
「大したことは言えないんですけど、水中って人間が想像できないような形の生物ばっかりなんですね。で、それぞれがそれぞれの手段で捕食したり、繁殖していたりするんです。
例えば自らの形を変えたり、繁殖する手段をいくつも持っていたり、産卵する生物もいれば、クローンを作ったり分裂できる生物もいるんですね。そういったことって人間できないじゃないですか(笑)。だからそういう小さい生物っていろんな手段を持って強く生きているんだなっていうのを見ると、とても感動します」
INFORMATION
星野修さん情報
新刊『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』
星野修さんの新刊『海の極小!いきもの図鑑〜誰も知らない共生・寄生の不思議』には伊豆大島の海で撮影した小さな海洋生物が250種ほど掲載されています。見ているだけで楽しい図鑑です。ぜひお買い求めください。築地書館から絶賛発売中です!
◎築地書館のHP:http://www.tsukiji-shokan.co.jp
星野さんがガイドするネイチャーツアーについては、ダイビングサービス「チャップ」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ダイビングサービス「チャップ」のHP:http://www.chap.jp/diving2009/
星野さんのフェイスブックとブログもぜひ見てください。
◎https://www.facebook.com/chap.dive
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