毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

2024年10月のゲスト一覧

2024/10/27 UP!

◎清水国明(アウトドアズマン)
清水国明さんの定点観測29回目!〜災害時に助け、助け合う「日本セルフレスキュー協会」』(2024.10.27)

◎高田千鶴(牛写真家)
牛から教わること〜食とは!? 命とは!?』(2024.10.20)

◎奥薗和子(ハーブ農家)
ハーブの香りに包まれて〜あなたを癒すハーブのある暮らし』(2024.10.13)

◎川島逸郎(標本画家)
繊細で緻密、美しい標本画の世界』(2024.10.6)

清水国明さんの定点観測29回目!〜災害時に助け、助け合う「日本セルフレスキュー協会」

2024/10/27 UP!

 

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、アウトドアズマン「清水国明」さんです。

 清水さんは、1970年代から80年代にフォークデュオ「あのねのね」、そして芸能界で大活躍! 90年代からはアウトドア活動に夢中になり、その後、河口湖に「森と湖の楽園」、瀬戸内海の無人島「ありが島」に自然体験施設を開設。そして去年は茨城県にキャンプ場「くにあきの森」を整備するなど、実業家として、いろいろなプロジェクトを手がけていらっしゃいます。

 今回は、先頃立ち上げたばかりの団体、災害時に助け、助け合う「日本セルフレスキュー協会」について、じっくりお話をうかがいます。

清水国明さんの定点観測29回目

日本セルフレスキュー協会 JSRA

●今週のゲストはアウトドアズマン、清水国明さんです。毎年ご出演いただいて行なっています定点観測、今回で29回目となります! 長いお付き合い、ありがとうございます!

「よろしくお願いします。まあそんなに長いことね・・・どこにもないですよ! 私の関係でね、29年も・・・。実は29年間付き合っている人も少ないですよ。嫁さんも取り替えているしね」

●あははは(笑)。きょうもよろしくお願いいたします。

「はい、よろしくお願いいたします」

前回は、結成50周年を迎えた伝説のフォークデュオ「あのねのね」のツアーですとか、茨城県常総市のふるさと大使に就任されて、常総市にキャンプ場「くにあきの森」を整備されたりだとか、あとは笑顔食堂プロジェクトのお話など、うかがいました。
 今回のメインの話題は先頃、清水さんが創設されました、災害時には助け合いましょうという「日本セルフレスキュー協会」JSRAについてなんですけれども、この協会を作ったのは何かきっかけがあったんですか?

「阪神淡路大震災の時から今日まで、災害が起きると、のこのこ出かけて行って、あまり役に立たないかもしれないけれども、支援物資を運んだり、あとその町の賑わいを取り戻すまでのことに、ずっと関わってきたんですね。それの延長で、東京都知事選にも出て、そういうことをみなさんにアピールして・・・つまり、つながることが安全になると・・・。

 いろいろ支援をやらしてもらったんだけども、何しに来たの? っていうか、余計なおせっかいみたいなこともあるのよ! ですから、いちばんいいのは友達から助けてとか、支援物資をちょうだいって言われた時に、よっしゃ! って言って出かける時があるんですけど、その時がいちばんモチベーションも高いんですね。で、やったかいもあるし、向こうも喜んでくれる・・・。

 だからね、支援の仕方もすごく難しい・・・ですから、先ほど言った、知り合いを助けるという、知り合いからのSOSで動ける、動き始めるというか・・・。だから助けますけども、助けてももらうという、つながりを全国ネットで広げたいというのがいまの取り組みなんですよ。
 この日本セルフレスキュー協会は、自分で自分の命を救うと同時に、自分たちで友達を助けるというような、そういう協会を立ち上げたわけです」

(編集部注:「日本セルフレスキュー協会」JSRA(https://www.jsra.life)には、理念に共感されたかたならば、どなたでも入会できるとのことです。月会費は税込1920円。会費は、災害時の出動経費、コンボやショベルカーなどの重機や支援物資の備蓄などに使われるそうです)

誰かの役に立ちたい

※清水さんは阪神淡路大震災から、直近の能登半島地震まで災害時の救援活動にこの30年来、取り組んでいらっしゃいます。その原動力になっているものは、なんでしょう?

「自分でも分からないんですけれども・・・この間の能登半島(地震)の時ね、1月1日、元旦じゃないですか・・・いろいろ東京でごちゃごちゃした仕事があって(終わって)、そのまま無人島に行ったんです。

 瀬戸内海の『ありが島』って島を持っているんですけど、そこで船から釣り糸を垂れてゆっくり魚釣りしてたら、”地震があった! すごい被害だ!”ってニュースが携帯に入って、その瞬間に釣り道具をばたばたって片付けて・・・。31日に(ありが島に)着いて、正月に食べるための餅とか、てんこ盛りに持っていたのにひとつも食べないうちに、気が付いたら能登半島に向かっていて、30時間かかったけどね、車で行くのにね。

 そういう意味では気が付いたら、やっていたみたいなところもあるんですけどね(笑)。まあ日頃ろくなことをしてないっていうのもあるんだけど、誰かの役立ちたいっていうか喜んでもらいたいっていう・・・。
 基本的には褒められ育ちだから、人に褒めてもらってなんとかしている人生なんで、そういう意味では誰かが困っている時に、何かをできるということは、自分の根本なのかな。そういうふうに生きたいなと思っているんじゃないか・・・そんな大した人間じゃないけどね」

●いやいや・・・でもそういった30年の救援活動の知見とか経験が、この日本セルフレスキュー協会に活かされているってことですよね。

「確かにそうですね。いろんなことをやってきて、結局、民間と行政っていうか、公(おおやけ)が協力をしないと災害ってのは復興、復旧しないと・・・。この間の台湾の災害の時に、国とか地方自治体と民間のボランティアがものすごく上手くやっていた。
 日本は特に石川の時なんか、行っている最中に、ボランティアは来ないでください、みたいな風潮になってきたもんだから、行っている俺らがなんか悪いことしてんのかよ、みたいな後ろめたさを感じるくらい・・・。

 でも、行ったことによって多くの人に喜んでもらえたし、“お腹すいたよ〜”って言いながら支援物資の倉庫に、おばあちゃんと小っちゃい女の子が来たんだけど、“いや、これは渡せないんです。ここは倉庫だから、体育館で配りますから、それまで待ってください”って・・・けど、女の子はお腹がすいて、うえーんとか泣いているから、俺らボランティアが用意したお弁当を食べてもらったの、それで解決ですよ、それは。

 そういうルールとか平等とかね、そういうのはやっぱり、公の人は仕方ないですよ、その人が悪いわけじゃなくて、ルールはルールだから・・・けど、民間だったら目の前の子が泣いていたら、できるじゃないですか。そのフレキシブルというか柔軟性が、やっぱり民間の力が必要になってくると思ったから、我々は民間で救うとこまで、救助から延命、そういうところまで関わるべきだなという・・・これは長いことやってきた結論ですけどね。それでそういう組織でとりあえず、つながりましょうということをいまやっています」

(編集部注:清水さんとしては、自分で自分の身を助ける「自助」、共に助け合う「共助」、国や地方自治体の「公助」に加え、友達同士で助け合う「友助」を担おうとされている、ということなんですね)

清水国明さんの定点観測29回目

技術者の集まり「災害友助隊」

※先ほどからお話をうかがっていると、「つながり」というのが、ひとつのキーワードになっていますよね?

「だから、つながりがあるか、ないかだけが非常に命にも関わるし、安心にもつながることなので、ぜひ友達になってくださいと。で、いつでも助けに行きますよっていう人が全国におるわけですよ、助けに行きますよ! って言っている人が・・・。地震とか洪水とかでやられた時に“うわ~、やられちゃった”ってことを本部に言ったら、すぐに近くの人が駆けつけるわけです! 

 公的な体育館とかで避難していると、支援物資はいっぱい届くんですけど、自分のちょっと崩れた家とか納屋とか、ビニールハウスとかに避難している人も結構、災害の時は多いんですね。そこには支援物資って届かないわけですよ、公的なとこじゃないんでね。

 そういうところに友達として、ビニールハウスにいまいるんや~っていうことになったら、よっしゃ!って・・・。そこにドコドコドコっていっぱい全国から届く、“なんであの人ばっかりあんなに支援物資が届くねん?”って近所で話題になるぐらい・・・“それは日本セルフレスキュー協会に入っているからですよ!”っていうような現象が起こると思いますね」

●心強いですね~。「災害友助隊」っていうのが相互救助チームですよね?

「そういうことですね」

●つながっている仲間たちと組んでいるチームっていうことですよね?

「はい。もしね、小尾さんが災害でひどい目に遭った時に、家が潰れたり流されたり、今夜どうしようっていうような時には、思い浮かぶでしょ、あの人とこの人に電話しようと・・・ガーっと駆けつけてくれる人は何人いますか? そういう人?」

●そうですよね・・・いざという時に・・・。

「いざという時に、親戚も遠くだったり高齢だったりしたら、助けに来てくれないけど、ピチピチしたやつ、そういう人助けが趣味みたいなやつが、ムキムキだとしたらね(笑)、それのほうが会員同士だから、仲間同士だから、気兼ねなくしてもらえるんじゃないかな~と思いましたね」

●しかも、災害友助隊には、いろんな職種のかたがいらっしゃいますよね?

「そうなんです! うちはね・・・いま私のメインの仕事はキャンプ場作りなんですけど、重機で木を伐採したり、道を作ったり、高いところにツリーハウスを作ったりとか、そういうことばっかりなんです。
 そうすると設備屋さんもいるし、水道工事もできたりトイレも作れたり、そういう工作隊なんですけどね。それがほとんど家を作ったりビルを建てたりする時の、ひと通りの技術者が集まっているわけですよね。それプラスやる気ですよ。そんな人が集まっているチームなんで結構心強いですわね」

自分の生存力を高める

※清水さんが茨城県常総市に整備したキャンプ場「くにあきの森」で、災害友助隊のキャンプ・イベントを行なったんですよね? どんなイベントだったんですか?

「結局100回、防災訓練するよりも1回サバイバル・キャンプをしたほうが身につくと、私は日頃から言っていて、そんな本も出したりしているんですね。
 火を起こしたり雨、風、寒さ、暑さから身を守ったり、それからそこで食べ物を調達して作るという、基本的に衣食住とかね。体温を上げても体温を下げても死んじゃうわけですから、保温という基本をキャンプで学んでもらったり・・・。

 それからどんな状況でもたくましい生きる力、その生きる根性を失わない体験というのが、非常に重要だと思うんですね。これが自分で自分の命を救う、そして自分にとって大切な人の命を守るということにつながりますので、自分の生存力を高めていくっていうことが、安全な強靭な日本になる術だと思っていますよ」

●そのイベントで「国明式 災害生存術」という冊子を配布されたということですけれども、どんな内容なんでしょうか?

「これ、いま手元にあるんですけど、ペラペラのもんですが、結構いままでの災害の時に学んだことを自分のエピソードとしていっぱい書いているんです。“いまいずみひろみ”っていう漫画家がうちの工作隊の仲間におりまして、そいつが漫画を描いてくれたわけです」

●カラーの漫画で、すごく読みやすいですね~!

「4コマ漫画で、私の文章に漫画をつけたという前提でスタートしたんですが、いまやこの漫画に文章もついているという主客顛倒っていうのかな(笑)。けどね、それぐらい面白いように一生懸命(漫画を)描いて、僕も一生懸命、文章は書きましたけども、いまいずみも命かけてやってくれましたから、これは一家に一冊、生存するための術として、ぜひ備えていただきたいなという、そういうものでございます」

(編集部注:清水さん書き下ろしの冊子「国明式 災害生存術」は、「日本セルフレスキュー協会」に入会すると、いただけるそうです)

「体験家」としてチャレンジ!?

●清水さんは今月10月15日に74歳になられました! おめでとうございます~!

「わ~お! めでたいのかどうか、わかりませんけれども(笑)」

●いやいやいや~! 若々しくって、これまでにいろんなことに全力で挑戦されてきたイメージあるんですけれども、今後新たに挑戦してみたいことは何かありますか?

「挑戦だな、挑戦するんだろうな・・・俺はね、基本的に冒険家ではないんですよ。冒険しないで、チャレンジはしますけども、つまりね、体験したいだけなんですよ。だから冒険家ではなくて、今後は“体験家”という、そういう名前でいこうかな〜(笑)。

 誰かに評価してもらいたいわけじゃなくてね。たとえば芸能界の界でしょ、それからレース界とかアウトドア界とか、ビジネス界もやっているんですよ。この前は政界までやりました。そしたらその界を渡り歩くごとにいろんな物差しがあって、いろんな発見があって・・・新たに体験したいことがあったら、またやろうかなと思っています。やりたいことは、これ、突然現れるからね!」


INFORMATION

 「日本セルフレスキュー協会」以外の近況としては、瀬戸内の山口県・周防大島町に準備していた5Gを導入したワーケーション施設の運用が試験的にスタート。町とタッグを組んで、島全体をデジタルアイランドにする構想もあるとか。

 また、まだ決まっているわけではありませんが、日本全国にキャンプ場を作る事業に参入するかもしれないとのこと。さらに歌とおしゃべりのライヴツアーも計画中。清水さんのチャレンジは、まだまだ続きそうです。

 次回の定点観測も楽しみですが、その前に「日本セルフレスキュー協会」JSRAにご注目いただければと思います。入会方法など、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

◎「日本セルフレスキュー協会」JSRA :https://www.jsra.life

 清水さんのFacebookもぜひ見てくださいね。
https://www.facebook.com/kuniaki.shimizu2/?locale=ja_JP

オンエア・ソング 10月27日(日)

2024/10/27 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. AIN’T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH / MARVIN GAYE & TAMMIE TERRELL
M2. STAND BY ME / BEN E. KING
M3. THE POWER OF LOVE / HUEY LEWIS & THE NEWS
M4. YOU’VE GOT A FRIEND / CAROLE KING
M5. LEAN ON ME / BILL WITHERS
M6. その先にあるもの / 小田和正
M7. 生きるチカラ / 清水国明
M8. ADVENTURES IN THE LAND OF MUSIC / DYNASTY

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

牛から教わること〜食とは!? 命とは!?

2024/10/20 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、牛写真家の「高田千鶴(たかた・ちづる)」さんです。

 大阪府泉大津市に生まれた高田さんは、子供の頃から動物が大好きで、小学4年生のときに、引っ越した先の近くに農業高校があり、そこで牛との運命の出会いがあったそうです。

 ある日、友人の家に遊びに行こうと、たまたま農業高校のそばを通ったら、牛の「モー」という声が聴こえ、牛がいる学校は楽しそう、中学を卒業したら、その高校に進学すると決めたそうです。そして大阪府立農芸高校に入学。農業の基本を学びながら、畜産を専攻し、「大家畜部」通称「牛部(うしぶ)」で3年間、牛舎の掃除、堆肥作り、餌やり、乳搾りなど、まさに牛まみれとなって、大好きな牛の世話に取り組んでいたそうです。

 卒業後は、酪農ヘルパーとして、2年ほど活躍。365日、休みなく働く酪農家さんの仕事を手伝っていたそうですが、日々、一袋10キロもある餌を運んだり、一輪車で重い牧草を運ぶなどの作業で腰を痛めてしまい、泣く泣く、酪農ヘルパーを辞めることになってしまったとのこと。

 大好きな牛から離れて、心にぽっかり穴が空いたような状態だった高田さんは、ある時、たまたま牛好きな友人が発した「牛の写真集があったらいいのに」というひとことに、それだ! と思い、高校生の頃から、ずっと牛の写真を撮っていたこともあり、作品として牛の写真を撮るために、一眼レフを購入。

 牛の写真集を作ることを目標に、ついには牛写真家として歩み始め、現在は全国の牧場をめぐり、牛の写真を撮り続け、酪農や牛、食と命などをテーマに写真や文章で発信されています。そして先頃、新しい本『牛がおしえてくれたこと』を出されました。

 きょうはそんな高田さんに「食と命」をテーマに酪農のこと、経済動物といわれる牛のこと、そして東京の郊外にある、高田さん憧れの牧場のお話などうかがいます。

☆写真協力:高田千鶴

高田千鶴さん

牛乳は、子牛が飲むはずのお乳

※私たちは牛のお乳を「牛乳」としていただいているわけですが、牛がお乳を出すためには、妊娠と出産が必要なんですよね? 普段私たちは、そのことを忘れてしまっている、そんな気がしているんですが・・・。

「ホルスタインは白黒の、いちばんよく見かける牛だと思うんですけれども、オスでもメスでも、お乳が出るって思っているかたもいらっしゃるんですね。でも、本当に人間と同じで、牛が出しているお乳も子牛に飲ませてあげるためのお乳なので、出産しないとお乳も出ません。

 そういった意味では、私たちは子牛が飲むはずのお乳を分けていただいているっていうのを、改めて酪農と関わるようになって感謝の気持ちと言いますか、やっぱりすごいことだなと思っています」

写真協力:高田千鶴

●すごくありがたみを持っていただかないといけないですよね。牧場で飼育されている牛ってほとんどが人工授精なんですね?

「そうなんです。私は人工授精の資格も実は持っているんです。オスって本当に大きいと1トンぐらいになるんですね。とても扱いが難しいですし、酪農家さんはオスをいっぱい飼うということもできないんですね。それで人工受精っていう形が取られているんです。

 中には牧場の中でオス牛を飼って自然交配しているところもあるんですけれども、やっぱり近親交配が続いてしまうのもいけないので、そういった意味でも人工授精を取り入れながら飼育しています」

●妊娠してから子牛が生まれるまでは、どれぐらいの日数がかかるんですか?

「それも人間と同じで280日、約10ヶ月間なんですね。お腹の中に10ヶ月間いて、人間だと3〜4キロぐらいで生まれてくるところ、牛だと30〜40キロぐらいで生まれてくる、本当に10倍ぐらいの大きさで生まれてくる感じですね」

(編集部注:高田さんは酪農ヘルパー時代に、より深く酪農の仕事に関わりたいと思い、「家畜人工授精師」という資格を取得されています)

乳牛の一生

※酪農家さんにとっては、生まれてくる子牛がオスなのか、メスなのか、そこがポイントになってきますよね?

「そうですね、酪農に関して言えば・・・。やっぱり酪農ってお乳を絞るっていう仕事ですので・・・。メスだと大きくなってから、人工受精して出産して、初めてお乳を出してくれるようになるので、メス牛が生まれると、そのまま牧場で育てていくということになりますね。

 でも、メスばっかり生まれて欲しいっていうわけでもなくて、(メスばかりだったら)だんだん牧場も牛が増えすぎてパンクしてしまいます。なので、オスもメスも生まれてくるんですけど、酪農家さんとしては、いい牛の遺伝子を継いでいるメスの子牛が生まれてきたら、やっぱり嬉しいというのはありますね」

写真協力:高田千鶴

●お母さん牛って毎年、子牛を出産するんですか?

「そうなんです。本当にこれも人と同じなんですけれども、やっぱり赤ちゃんが生まれて2〜3ヶ月ぐらいで、乳量のピークと言いますか、お乳がいっぱい出るようになって、そこからはだんだん減っていきます。

 牛だと1年ぐらいしかお乳は出ないので、また1年後に出産して、お乳を出してもらうというサイクルが理想的とされていますね。そのために出産のあと、しばらくしたら人工授精して、10ヶ月後に生まれるようになって、それがちょうど1年、12ヶ月くらいになるようなペースで考えられています」

●メスは乳牛となってお乳を出してくれますけれども、生まれた子牛がオスだった場合はどうなっていくんですか?

「オスの子牛は肥育農家さんで飼われて、そこで2年ぐらいですかね・・・大きくなるまで育てられて、そのあと出荷っていう感じになりますね」

●乳牛となったメスでも年を重ねると、お乳って出なくなっちゃうものですよね?

「そうですね」

●だいたいどれぐらい・・・平均で何年とかってあるんですか?

「初めて出産するのが成牛、成人みたいな感じで、大人の牛として出産するのがだいたい2歳ぐらいなんです。そこから1年に1回産んでいくペースで3〜4回、多くて5〜6回、もっと長く生きる牛もいるんですけれども、だいたい5〜6回ぐらい出産したとしたら、それプラス2年で7〜8年ぐらいですかね。で、出荷されるっていうのが多いかもしれないです」

●最後はメスでもお肉になっちゃうということなんですね。

「そうですね」

牛との別れ、葛藤

※高校生の頃や酪農ヘルパー時代、牛を可愛いと思って世話をしていても、いずれはお肉になってしまう・・・何度も葛藤があったんじゃないですか?

「そうですね。それは本当にすごくあって、私もやっぱりお肉を食べることに躊躇していた時期もあったんです。(私が通っていた)農業高校も乳牛が多かったんですけれども、肉牛がその時は1頭だけいて、それを先輩から引き継いでお世話をしていたんです。2週間ぐらいしかお世話はしていなかったんですけれども、出荷される日に最後、見送りたいと思って、その子がいるところまで行ったら、もうトラックに乗っていたんですね。

写真協力:高田千鶴

 今まさに屠殺場に向かうトラックに乗っていて、私が聞いたことないような声で鳴いていたんですね。私がトラックの荷台に足をかけて、ほっぺたを撫でてあげると、すごく静かに私のことを見返してきて・・・本当に今でも思い出すと、ちょっと泣いてしまうんです・・・それで撫でて落ち着いて、でももうトラックが行くっていうんで、私も降りて、そうしたらまた大きい声を出しながら遠ざかっていく和牛を見送ったんですけれども、その時に可哀想だから食べられないとか言ってられないなと思って・・・。

 出荷された先でお肉になって、みんなが食べてくれるならいいですけど、余ってどこかで捨てられるぐらいだったら、全部自分が食べたいぐらいに思って・・・何て言うのかな・・・最後にできることって、その命に責任を持って大切に食べるっていうことしかないなと思ったので、可哀想だから食べないっていうよりかは、自分はちゃんと食べようって思ったっていうのがありますね。

 やっぱり消費者としてはスーパーに並んでいる状態が、初めて会うところっていうのが多いと思うんですけれども、その前に生きている牛っていうのも知ってもらいたいというか、もっと身近である存在なのになんか遠い存在、みたいなところを埋められたらなっていう思いはありますね」

牛と人の幸せな牧場

※東京都八王子市に、高田さんが特にお世話になっている牧場があって、今回の本には、そこで撮った写真が多く載っているそうですが、どんな牧場なのか、教えていただけますか?

写真協力:高田千鶴

「磯沼牧場っていう磯沼正徳さんっていうかたがオーナーとして(運営)されているんです。磯沼さんが『牛と人の幸せな牧場』っていうのを大切にされていて、放牧とかもしていたりして、牛も本当に幸せそうで、そこに来る人たちも笑顔になれるような牧場ですね。
 観光牧場ではないんですけれども、オープン・コミュニティーファームとして開放していて、誰でも来て見学することができるっていう、本当に東京になくてはならない牧場だなっていうのをいつも感じていて、すごく家族でもお世話になっているところです」

●その磯沼牧場では、何頭ぐらいの牛が飼育されているんですか?

「子牛とか全部合わせると100頭ぐらいいるんです。磯沼牧場の、私のいちばんの推しのポイントは、7種類の牛がいることなんですね。日本で言うと、99%以上はホルスタインっていう白黒の牛が乳牛としては多いんですね。それに加えて、ジャージーとブラウンスイスとエアシャー、ガーンジー、ミルキングショートホーン、モンペリアルドっていう牛7種類を飼っているんです。

 それってすごいことで、ひとつの牧場で7種類も飼っているのは、本当に磯沼牧場だけで、それが酪農の盛んな北海道ではなく東京にあって、消費者に近いところにあるっていうのが本当にすごいなって思っています。

 私はいつも、もっとこのすごさを伝えたいってすごく思っているんですね。本当にここ東京なのかな? っていう・・・今はカフェができて(牧場の)上のほうまで牛は来ていないんですけれども、カフェができる前はいちばん上まで牛が来ていて、(道路を)車で走っていると、“えっ!? 牛?(笑)”みたいな、信号待ちしている人がみんなびっくりして、え~! って見るぐらい・・・八王子なので都会とは言えないんですけれども、ここが東京なのか! っていう、すごくいいところなんです」

写真協力:高田千鶴

(編集部注:磯沼牧場のサイトを見ると、里山の緑の中に牛が放牧されていて、ほんとにここが東京!? と思ってしまう、のどかな風景が広がっているんです。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。
☆磯沼牧場:https://www.isonuma-milk.com

カウボーイ・カウガール

※磯沼牧場では、子供たちが酪農の仕事を体験する「カウボーイ・カウガール」というスクールをやっているそうです。そのスクールに高田さんのお子さんが小学校3年生の時に友達と一緒に参加したそうですね。牛の世話をしているお子さんを見て、どんなことを感じましたか?

「私は高校で酪農を、というか畜産を学んでいたんですけれども、子供に関しては大事なことを牛から教わっているなっていうのをすごく感じましたね。私たち大人が“食べ物を大事にしなさい”とか“命を粗末にしてはいけないよ”とか、口で言うことよりも、牛と触れ合って自分自身で命の大切さを、牛から教わって学んでいるなっていうのをすごく感じました」

写真協力:高田千鶴

●高田さんご自身も、磯沼牧場から学ぶことっていうのは多いですか?

「そうですね。磯沼さんがおっしゃっていた、私の好きな言葉があって、“同じ釜の飯を食った牛は、やっぱり仲間のことをよく覚えている”っておっしゃっていたんです。
 息子がカウボーイ・カウガール・スクールに入って、名前をつけた子牛がいるんですけれども、同時期に生まれた牛にお友達が名前をつけて、その子たちを見ていると、やっぱりいつも寄り添っているというか、ずっと一緒にいて、生きている牛には感情があるんだなっていうのを改めて思い出させてくださったというか・・・。

 あと磯沼さんは、すごくチャレンジ精神の旺盛なかたで、そういうところは本当に見習いたいなっていうのをいつも感じています」

(編集部注:磯沼牧場の「カウボーイ・カウガール・スクール」は現在、磯沼さんのご都合で開催していないそうです。

 高田さんによると「酪農教育ファーム」という活動があって、これは一般社団法人「中央酪農会議」という団体が認定した全国各地の牧場で、地域の子供たちに酪農を体験してもらったり、牧場から小学校へ牛を連れて行き、乳搾りなどで触れ合ってもらい、子供たちに食や命の大切さを伝える、そんな取り組みだそうです。「酪農教育ファーム」については、高田さんの新しい本に詳しく書かれていますので、ぜひ読んでください)

牛が笑っている!?

●高田さんが撮った牛の写真を、この本でもたくさん拝見しました。本当に可愛い顔をしていますよね~。

「そうですよね~(笑)、ありがとうございます! そうなんです。私、酪農家さんに言っていただいた言葉で、ちょっと嬉しかったなって思うのが、“高田さんが撮った牛は、すごく笑っているように見える”って、“自分たちが毎日見ている牛とは、また違った顔をしている”っておっしゃっていただいたんです。“それは多分、写真を撮っている時に高田さんが笑っているからなんだろうな“っていうのを言っていただいて・・・。

写真協力:高田千鶴

 思い返してみれば、やっぱり可愛い! と思っている瞬間を切り取っているので、それを見て可愛いと思っていただけたら、すごく嬉しいなっていうのを思いながらいつも撮っています」

●牛の写真を撮っている時に、どんなことを牛から感じますか?

「本当に牛って表情が豊かだなっていうのを感じるんですね。私が撮った牛を可愛いって思ってくださるとしたら、その可愛い表情になるのは、牛がやっぱりリラックスしていて、穏やかな気持ちでいられるっていうことなので、酪農家さんが大切に育ててくださっているんだろうなっていうのを感じながら撮っていますね。

 あと本当に酪農家さんがいなければ、私の仕事も成り立たないですし、大好きな全国の牛に会いに行けるのも、酪農家さんが本当に大変な思いをされながらも(牛に)向き合って、頑張ってくださっているからだなっていうのをいつも感じながら撮影しています」

『牛がおしえてくれたこと』

●では最後に、新しい本『牛がおしえてくれたこと』を通して、いちばん伝えたいことはなんでしょうか?

「そうですね・・・私、農業高校に入学したのがちょうど30年前なので、本当に30年間、牛と向き合ってきて、自分自身もそうですけれど、やっぱり息子が体験しているのを見て、本当に牛から教わることってすごく多いし、すごく大事なことを、『食と命』っていう、人間が生きていく上でどうしても必要な部分を・・・それを牛は教えてくれているつもりはないかもしれないですけれども、すごく教わることが多いなって思います。

 この本をもし読んでくださったかたがいらっしゃったら、牛に興味を持って、じゃあちょっと家族で牧場に行ってみようかとか、その行った先でたくさん牛と触れ合って、酪農家さんとお話されたりとか・・・そういった意味で、牛乳を飲んでいただいたりとか、酪農のファンになってくれたらいいなっていうのを思っています」

(編集部注:私たちの食と健康を支えてくださっているといっても過言ではない酪農家さんたちなんですが、全国の牧場をつぶさに見てこられている高田さんによると、今年2月の時点で、全国の酪農家さんは約1万2千戸、それがどんどん減っていて、もしかしたら年内に1万戸を切るかもしれないそうです。

 そのおもな原因は、ロシアのウクライナ侵攻による世界的な餌不足や円安など。飼料価格の高騰が酪農家さんを直撃しているとのこと。酪農家さんの減少は、酪農発祥の地、千葉県でも例外ではなく、ここ数年、全国的につらい状況が続いていると心配されていました)


INFORMATION

『牛がおしえてくれたこと』

『牛がおしえてくれたこと』

 高田さんの新しい本をぜひ読んでください。高田さんの牛への愛情や、酪農家さんへの思いに溢れた本です。牛の可愛い写真が満載! ほんとに笑っているように見えるから不思議です。漢字には全部、ふりがながふってあるので、ぜひお子さんと一緒に見ていただければと思います。緑書房から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎緑書房 :https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1644.html

 高田さんのオフィシャルサイトも見てくださいね。

◎高田千鶴:https://ushi-camera.com

オンエア・ソング 10月20日(日)

2024/10/20 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. EVERY BREATH YOU TAKE / THE POLICE
M2. I WAS BORN TO LOVE YOU / QUEEN
M3. VIVA LA VIDA / COLDPLAY
M4. LOVE’S IN NEED OF LOVE TODAY / STEVIE WONDER
M5. SAME BLUE / OFFICIAL髭男DISM
M6. COWBOY / LILY MEOLA
M7. SMILE / ELVIS COSTELLO

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

ハーブの香りに包まれて〜あなたを癒すハーブのある暮らし

2024/10/13 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東京都青梅市で「lala farm table(ララファームテーブル)」という農園を営むハーブ農家の「奥薗和子(おくぞの・かずこ)」さんです。

 奥薗さんはドイツのお花屋さんで働きながら、専門の学校に通い、「マイスター・フローリスト」の資格を取得。その後、日本に戻ってからは有機農業を学び、2019年に青梅市にハーブ農園を開園されています。そして先頃、『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事〜育てる、味わう、丸ごと生かす』という本を出されました。

 きょうはそんな奥薗さんに、ドイツのマイスター・フローリストの資格やハーブを使った意外なレシピ、そして里山にあるハーブ農園のお話などうかがいます。

☆写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

奥薗和子さん

マイスター・フローリストの専門学校へ

※奥薗さんは、日本でフラワーアレンジメントの教室に通っていたそうですが、理論がしっかりしている本場ドイツで、アレンジメントを学びたいと思い、2002年にドイツに渡ります。

 そして、ご本人曰く、チンプンカンプンだったドイツ語を習得するために、半年ほど語学学校に通い、その後、フローリストとして、ドイツ国内3つの街のお花屋さん、いちばん長く働いていたのは、ベルリンにあるお花屋さんで7年ほど、2014年に帰国するまで働いていたそうです。

 そんな奥薗さんは「ドイツ・マイスター・フローリスト」の資格を持っていらっしゃいます。

●これはドイツの国家資格ですよね?

「はい、ドイツの国家資格です。ドイツ人がドイツでお花屋さんを開きたい時に、その資格がないとお店を開けないんですね。そのマイスターの資格になります。私たち日本人とかは、そこで学べる実技だったり理論が、より高度なものなので、それを求めてマイスターの資格を取りにドイツの学校に行きました」

●マイスター・フローリストの資格を取るための、専門学校のようなスクールがあるんですか?

「マイスター学校も各地に何校かあるんですけれども、そこで教えてくださる先生がたが違いまして、その先生の作風だったりとか、教え方とか、どういうものを教えてくれるかで、その学校に通って学べることが全然違ってくるんですね。

 理論とか基本的なものは統一されているんですけれども、私はやはり自然素材を使ったアレンジメントがすごく好きだったので、そういうナチュラルなアレンジメントが得意な先生がいる学校を選んで、そちらに通いました」

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

●何年ぐらい通われたんですか?

「1年半から2年間ぐらいの間になりますね。そこで寮生活を送りながら、授業がある時期はマイスター学校に通って、授業がない時期はお花屋さんで働いていました。働きながら通える学校だったので、そこに通いながら1年半から2年ほどの間で資格を取りました」

●どんな勉強をされたんですか?

「科目が結構いろいろありまして、基本的なドイツのフラワーアレンジメントの理論だったり、お花の素材についてとか、色彩学だったり・・・。あと作品を作るためのデッサンも必要になってくるので、スケッチの授業があったり・・・。あとは実務的なところで、経営学や簿記、お店のレイアウトを考えたり、デザインするとか、そういう授業などがありました」

●すごい! 多岐にわたっていろいろ学べるんですね?

「そうですね。お花屋さんを開くための学校なので、実際に開くときに、必要なことをすべて教えていただけるっていうことで・・・そう! 農薬の扱い方も学んだりとかして、その資格も取りに行きました」

(編集部注:ドイツの国家資格マイスター・フローリストの試験は2日間にわたって行なわれ、花束やリース作り、空間装飾などの実技と、法律や簿記などに関する筆記試験があり、とても難しかったそうです。奥薗さんは過去に出された筆記試験の問題を、ドイツ語と格闘しながら、必死に暗記し、なんとか乗り越えたとおっしゃっていましたよ)

ハーブが身近にある暮らし

※ではここからは、奥薗さんが先頃出された本『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事〜育てる、味わう、丸ごと生かす』をもとにお話をうかがっていきましょう。

『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事〜育てる、味わう、丸ごと生かす』

 この本には、ハーブやお料理のレシピのほか、ドイツでの日々の暮らしで体験したことなども書かれています。ドイツのかたは、暮らしの中にいつもハーブがある、そんな感じなんですか?

「そうですね。やはりいちばんよく感じたのは、お花屋さんでお花と一緒に鉢物も一緒に販売するんですけれども、ハーブの季節になるとお花屋さんの店頭でもハーブをいろいろ売ったりします。あとスーパーとかマルシェとかに行きますと、お野菜と一緒にハーブがたくさん売られていて、みなさん、週末に作るお料理のお野菜を買う時に一緒にハーブを買いに行くっていう光景をよく見ておりました」

●ドイツのみなさんは、暮らしにハーブを取り入れているっていう印象が強いっていうことなんですね?

「そうですね、はい。職場やお花屋さんでも給湯室にハーブの苗が置いてあって、お仕事しながら休憩時間に給湯室に置いてあるハーブをちょっと摘んで、それをマグカップに入れて、お湯を注いでハーブティーを飲んでいたりとかしていましたね。
 朝は目覚めのコーヒーを飲み、午後からはハーブティーを飲んだりとか・・・。カフェインで夜眠れなくなるから、その代わりにハーブティーを飲んでいますっていう同僚も多かったですね」

●へぇ~いいですね。職場の給湯室にハーブってすごくおしゃれですね!

「そうなんですよ!(笑)」

●ぜひ日本の職場にもそれが普及したらいいですね~。

「すごくいいと思います!」

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

●この本では代表的なハーブ20種類の説明、育て方、そしてそのハーブを使ったお料理のレシピなどが紹介されていますけれども、レシピ本としても楽しめる本だなというふうに感じました。

「ありがとうございます」

●初心者がベランダなどでも育てられるおすすめのハーブってありますか?

「そうですね・・・例えば、チャイブだったり、あとミントだったり、そういった繁殖力が強いものは比較的、植えても育てやすいですね」

●この時期、10月頃に種まきして、年内に収穫できるハーブはあるんですか?

「寒くなる前までに収穫できるハーブを植えるといいと思うんですけれども、もしくは苗を買ってきて、それを植えてあげたほうが年内に収穫できると思います。
 例えば、ディルだったり、イタリアンパセリだったり、あとルッコラとか・・・ルッコラも一応ハーブとしてのカテゴリーに入るので、そういう葉物を育ててあげると、年末頃まで収穫できて楽しめると思います」

ハーブオイル、ハーブマヨネーズ、ハーブバターの作り方

※奥薗さんの新しい本に載っているお料理のレシピ、どれも美味しそうで気になったんですが、ハーブの活用法として、オリーブオイルにハーブを漬け込んだ「ハーブオイル」、お塩などと混ぜた「ハーブソルト」、さらには「ハーブマヨネーズ」に「ハーブバター」が紹介されていました。

 とっても興味があるので作り方を教えていただけますか。まずは、ハーブオイルからお願いします。

「これはとっても簡単です。今回本でご紹介しているハーブオイルは、本当にどんなハーブでもいいんですけれど、お好きなハーブを細かく刻んでいただいて、それにオリーブオイルを注ぐ、それでちょっと時間を置いてあげるだけで、ハーブの香りがオリーブオイルにしっかりつきます。

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

 それをドレッシングで使ったりだとか、パスタを作る時の仕上げにしてもいいですし、ペペロンチーノとか何かパスタを作る時にニンニクを入れてオリーブオイルに香り付けしますよね。そういう時にそれを使ってあげると、すごくおいしいパスタが簡単にできます」

●いいですね~。お肉とかお魚とか、なんでも合いそうですよね。

「ほんとになんでも合います。トーストに合わせても美味しいですし、食パンにそれが染み込む、バター塗るみたいな感じでハーブオイルを塗ってあげると、とっても美味しくなります」

●瓶に詰めておけば、保存もできますし、いいですよね~。

「1回仕込んでおくと、逆に忙しい時、お料理する時に、このハーブオイルを使うと、あっという間に美味しいお料理ができちゃうので、これはおすすめです」

●それからハーブマヨネーズなんですけれども、これはどうやって作ったらいいんでしょうか?

「はい、これも簡単で、本ではマヨネーズを作るところからご紹介しているんですけれども、それが大変だったりするので、市販のマヨネーズを使っていただいてもいいです。
 市販のマヨネーズに刻んだお好きなハーブ、これは本当にどんなハーブでも合うので、刻んだハーブを入れて、そこに少しレモン汁とか、ワインビネガー、お酢など入れてあげて、少し塩と胡椒で味を調節してあげると、それだけでとってもおいしいハーブマヨネーズができて、ワンランクアップしたお料理になると思います」

●ドイツのかたは、これを何につけて召し上がっているんですか?

「ドイツのかたもよくチャイブ、セイヨウアサツキっていうふうに日本名は言われているんですけれども、ちょっと小ネギに似たもので、そのチャイブを刻んだものをマヨネーズに混ぜてあげて、それをサンドイッチとかに塗ったりして、よく使われていますね」

●ハーブバターっていうのもありましたけど、これはどうやって作るんでしょうか?

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

「はい、これも簡単で(笑)、好きなバターを少し常温に戻していただいて、そこに刻んだお好きなハーブを入れていただいて、少しお塩とかで調整してあげてもいいですし、味を変えたいなっていう時には、レモンの皮を少し擦って入れてあげると、ちょっとレモンの香りがするハーブバターができるので、それを混ぜて冷やしてあげるだけで簡単にできます」

約7000平米のハーブ農園

※奥薗さんが2019年4月に開園されたハーブ農園「lala farm table(ララファームテーブル)」は、どんな農園なんですか?

「lala farm tableはハーブと、ハーブに合うお野菜もお作りしています。もともと青梅にありました里山を生かした農園なっていますので、栗林とか田んぼとか、そういったところもあるんですね。それを含めまして全体で約7000平米ぐらいの広さになります」

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

●スタッフは、何人ぐらいいらっしゃるんですか?

「今現状ひとりで、あとお手伝いしてくださるかたが来てくださったり・・・最近ですと研修で来られたかたもいらっしゃるので、そういったかたのお力をお借りしながらやっております」

●現在ですと、何種類くらいのハーブや野菜を育てていらっしゃるんですか?

「秋冬になるんですけれども、40〜50種類ぐらいはある感じになります」

●開園する前に有機農業の研修もされたということですけれども、どこでどんな勉強をされたのですか?

「有機農業は山梨県の上野原市というところで、ちょっと中山間地にある山あいの有機農家さんで研修させていただきました。そこではやはり自然に沿った形で野菜を育てる方法を学びました」

●なんかすごく有機農業って手がかかるイメージがあるんですけど、どうですか?

「はい、やはりかかりますね。農薬も使わないので除草作業をしたりとか、あとやはり害虫とか、そういうものがどうしても自然の中だと出てくるので、お野菜が食べられないように守ったりする作業をしたりとか、真夏はすごく暑かったりするので、そういった中でお野菜とかハーブが育ちやすいように草を抜いてあげる作業とか大変でした」

●奥園さんが育てたハーブや野菜を購入したいと思ったら、どのようにしたらよろしいんでしょうか?

「通常、私のほうはオンラインショップでハーブの定期購入をやっておりまして、そのほかにはお野菜やハーブの旬の時期に“お任せセット”みたいな形で販売をしております」

1日のスイッチにローズマリー

※農園で作業をされていて、いちばん好きな季節や時間帯はありますか?

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

「難しいですね〜。いろんなシーンやいろんな瞬間にやっていてよかったな~とか、すごく好きだなっていう時はあるんですけど、いちばんって言われますと、例えば5月や6月にハーブのお花だったり、野菜のお花が一斉に農園で開くっていう時があります。その時期はいろんな香りに包まれるので、作業していてもとても癒されますし、見た目的にも農園が素敵になるので、すごく気に入っている季節です」

●暮らしにハーブを取り入れるようになって、奥園さんご自身に何か変化ってありました?

「やはりハーブ自身を触ってあげるとか収穫してあげるとか、そこにあるだけで気持ちや心がすごく豊かになれるんですね。で、それだけじゃなくてハーブティーにしてあげて、一緒に身体にも取り入れてあげる、そうすることによって、心も体もすごく優しくなれるというか、体がすごく優しい体になれたような感じがします」

●特に好きなハーブって何かありますか?

「そうですね・・・農園で育てているハーブは、自分の好きなハーブを植えているので(笑)、どのハーブも好きなんですけど、いちばん好きなハーブって言われましたら、やはり定番のローズマリーがすごく香りが好きなので、農園の入り口のところに植えて、毎回通るたびに少し手で触ってあげて、香りを楽しみながら、“よし! きょうも作業を頑張るぞ!”みたいな感じで(作業を)始めています」

写真:高木あつ子、協力:山と渓谷社

●いいですね。スイッチになっているんですね~。

「そうですね」

●では最後にハーブ農家として、今後やってみたいこと、または夢などがありましたらぜひ教えてください。

「もともとフラワーアレンジメントをやっていたので、ハーブ農家になったのも、やはり自分で育てたハーブやお花を使ったブーケとかアレンジメントを作りたいっていうことがありました。

 なので、もう少ししっかりハーブを育てて、それをブーケにしたりとか、農園に実際に来ていただいてお客様に摘んでいただいて、それをその場で束ねていただけるような、なんかそういうワークショップを、農園に漂うハーブの香りや空気を感じながら、そういう制作とか、農園で安らいでいただけるようなことをやっていけたらいいなというふうに思っております」


INFORMATION

『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事〜育てる、味わう、丸ごと生かす』

『ドイツ式 ハーブ農家の料理と手仕事〜育てる、味わう、丸ごと生かす』

 奥薗さんの新しい本をぜひチェックしてください。ドイツ流のハーブの使い方や活かし方のほか、人気ハーブ20種の育て方のコツや、お料理のレシピなどが豊富な写真とともに紹介。お話にもありましたハーブオイル、ハーブマヨネーズ、ハーブバターのレシピも載っていますので、ぜひ参考になさってください。山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎山と渓谷社 :https://www.yamakei.co.jp/products/2823450680.html

 「lala farm table(ララファームテーブル)」のオフィシャルサイトも見てくださいね。奥薗さんが育てたハーブや野菜などがオンラインで販売されています。

◎lala farm table:https://lala.farm

 奥薗さんは今月、丸の内や日比谷、有楽町、豊洲で開催される「東京味わいフェスタ2024」に出店される予定です。「lala farm table」のブースは日比谷に出店予定。開催日程は、10月25日から27日までの3日間。詳しくは「東京味わいフェスタ2024」のサイトをご覧ください。

◎東京味わいフェスタ2024:https://www.tasteoftokyo-ajifes.jp

オンエア・ソング 10月13日(日)

2024/10/13 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. 99 LUFTBALLONS / NENA
M2. WILDFLOWERS / RELISH
M3. TEA FOR TWO / BING CROSBY & CONNEE BOSWELL
M4. BUTTER / BTS
M5. Waltz / 家入レオ
M6. ベジタブル / 大貫妙子
M7. SCARBOROUGH FAIR / SIMON & GARFUNKEL

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

繊細で緻密、美しい標本画の世界

2024/10/6 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、標本画家の「川島逸郎(かわしま・いつろう)」さんです。

 標本画とは、科学的な裏付けのもとに描かれ、図鑑や科学論文に掲載される動植物の絵のこと。川島さんは、専門家たちが一目置く標本画の第一人者で、先頃新しい本『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』を出されました。

 きょうはそんな川島さんに、極細のペンを使って「点と線」だけで描く昆虫、まるでモノクロ写真のように見える精密な標本画についてお話をうかがいます。

☆協力:川島逸郎、亜紀書房

協力:川島逸郎、亜紀書房

必ず本物を見ながら描く

※川島さんが標本画を描くようになったのは、大学に入ってからで、かれこれ30年ほどになるそうです。標本画は例えば昆虫なら、その昆虫の標準的な姿を描くようにすることが大事で技法はいろいろあるものの、基本的に点描画が多いとのこと。

 川島さんも、点と線だけで描く技法に取り組んでいらっしゃいますが、点を打つにしても線を引くにしろ、細かい作業を強いられるので、さぞかし大変かと思いきや、ご本人曰く、根気はいるけれど、30年もやっているので慣れてしまったとか。

 心がけているのは、描くことに熱中し過ぎると実物から離れてしまうので、時々その標本に立ち戻ることだそうです。使っているペンは、漫画家さんが使う丸ペンと、製図用のペンでペン先の直径が0.1ミリから0.3ミリを使っているとのこと。

 また、標本画はモノクロが多いそうですが、何を伝える絵なのかによって、例え、色彩を伝えるためなら色をつけたり、形を示すのであれば、モノクロに留めておくなど、情報を詰め込まず、目的によって使い分けているそうです。

●川島さんが先頃出された本『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』にカブトムシのオスの標本画が掲載されています。体の黒い色や光沢、そして丸みがかったフォルムなどまるでモノクロ写真のようなんですが・・・これは標本を見ながら描いたんですよね?

協力:川島逸郎、亜紀書房

「そうですね。標本、実物ですね。それ以外から描くってことは、まず、ほぼないですね。必ず本物から描きます」

●細かい部分は顕微鏡で見ながら描くんですか?

「カブトムシは、そうは言っても昆虫の中では巨大なもんですから、顕微鏡も使うんですけれど、そういった場合には触覚だけを見るとか、口の先っちょだけを見るとか、爪の先だけを見るとか、そういった時には使います。全体的には普段私、巨大な虫あまり描かないもんですから・・・。

 カブトムシの場合は、測る道具があるんですけども、コンパスみたいな道具があるんです。それであちこち測っといて、大まかな形を描いといてから、細かな部分は顕微鏡で確認してからということになりますね」

●なるほど・・・。このカブトムシの標本画を完成させるまでに、どれぐらいの時間がかかったんですか?

「え~っと10日ぐらいですね。昔だと大体2日か3日で描いたんですけれど、やっぱりそう描けなくなってきて(苦笑)、10日かそれ以上かかるようになってきましたね」

●細かい作業ですよね~。この絵の対象になる昆虫の標本は、川島さん自身が採取してきた昆虫なんですか?

「私自身が自分で採取することもあるんですけれども、例えば絵を描いてくださいって言われた時に、その虫の専門家が頼んできたりってことがあるもんですから、それはその専門家が採取したものだったり、あとは各地の博物館に収まっているものをお借りしたりとか、それは毎回状況は違います。

 自分でもなるべく捕るようにはしているんです。ただ、昆虫ってのは膨大ですから、自分のところですべてあるってことはあり得ないです」

●海外の昆虫を描く場合はどうしているんですか? 写真を見て描くんですか?

「写真を見て描くことは100パーセントないですね。必ず標本、本物、実物なんですけども、大体その場合はそれを持っている研究者だったり、それを収蔵している博物館だったり研究施設だったり、そういったところからこれを描いてくださいっていう形でお借りすることになって、それで描くわけです」

●なるほど。必ず標本をもとにされているんですね。

「そうですね~。はい」

職人技のスケッチ

※絵にする昆虫の大きさとか、頭や胴体、足などの長さは正確じゃないとだめですよね? どうやってスケッチするんですか?

「昆虫の場合は、やはり外側が硬くて外骨格、海老とかカニと同じで、外側が硬いもんですから・・・比率とか長さとか、みんなちゃんと種類ごとにある程度決まっているので、そこが正確じゃないといけなくて、分かれている節の数とか・・・。

 そういった場合に顕微鏡で写生するんですね。全くお聞きになったことはないと思いますけれども、『描画装置』っていうのがあります。顕微鏡をイメージしていただくと、目で覗く部分がありますよね。レンズがあります。『接眼レンズ』っていうんですけれども、そこの手前にそれをはめるんです。はめるとプリズムだったり、斜めになった鏡がついていて・・・私は右利きなんですけれども、右利きのペンを持った手と、覗いた虫が一緒に重なって見えます。それでなぞってトレースしていくわけです」

協力:川島逸郎、亜紀書房

●へぇ~、そういう装置があるんですね。掲載されている標本画の多くは真上から見た構図になっていましたけれども、それはいわゆる昆虫標本と同じようにされているっていうことなんですか?

「そうですね。全身像を描く場合には、大体真上からっていう場合が多いです。虫によっては、トンボとかハチみたいなものは、側面から見たほうが特徴があって、そこに(その対象の)情報があるので、そういった場合には横向きにしますけれども、大体全身を示す時には背中、真上から見ることが多いですね」

●標本画を描かれている時にその昆虫の体の構造などから、新しい気づきだったりとかってあったりしますか?

「それは非常に多いですね。私たちが例えば、見慣れている蝶々だったりしても、飛んでひらひら舞っている姿はよく見ますけども、例えば口がどうなっているかとか、そういったところを初めて知ったっていうことは、いつもいつも毎回どんな虫でも、身近な虫であっても(気づきがあるので)、それが楽しみでもあるんですけども・・・」

●描く作業されている時は、どんなこと考えていらっしゃるんですか?

「描く作業している時にはあまりものは考えない・・・考えられないってこともあるかもしれません。ただ、例えば点を置いたりしますけれども、そういった時には点をひとつひとつ置きながら、次にどこに点を打つかというようなことは、半分無意識的なんですけど、ここに打ってここに打ってみたいな、その連続ですね」

●へ~〜、次のこと考えながら点を描いているんですね~。

「次に点を、ひとつの点を置く位置を見ながら、次はここに置こう、ここにっていう・・・」

●へぇ~すご~い、職人技ですね~!

「うん、そうですね。それは職人技って言えるじゃないかなと思います」

(編集部注:実は川島さん、30代の頃に目を患い、人工レンズを入れたことで意のままに見えなくなったそうです。画家としてはとても辛い状況になり、絵を描くために、対象である昆虫を顕微鏡で見ることになったそうです。最初はピント合わせがうまくいかず、慣れるまで大変だったそうですが、いまでは当たり前にこなせるようになったとおっしゃっていました)

線一本引くにも根拠がある

※標本画に向き合って、うまくいかないこともあると思いますが、あと少しで完成、というときに描き損じたりしたら、そのときはどうするんですか? いちからやり直すこともあるんですか?

「これは、いちから描き直しだなってくらい大きな失敗はまあ・・・まずない。ところが近年、一度もなかったような大失敗をしたことがあって、それは今回の本に書いたんですけれど、それも(いちから)描き直ししないで、その部分だけ切り取ってっていうことはしましたけども、そのぐらいですね。

協力:川島逸郎、亜紀書房

 あと部分的には紙にインクがにじんだりとか、そういうことがあったり、昆虫の毛を描くときに先がシャープに細くなっていたりっていうか、ちょっと失敗することがあって、非常に細かいんですけど、そういうのは普通に白い絵の具で塗って修正はしますね。でもそれは普通なことなんです」

●すごく緊張感のある作業ですね。

「そうなんですけど、私自身は楽しいんですね。ここを白で修正しなきゃみたいな、それをやってるのも、ものがちゃんと出来上がっている感じで、すごく楽しい!」

●本来、絵は描く人の自由な発想とか表現方法があって、自由奔放なものなのかなって思うんですけれども、川島さんが向き合っている標本画は、正確に昆虫を再現する制約があるように感じるんですが、描くときによりどころにしているものとかってありますか?

「例えば生き物の絵もそうなんですけど、そういった自由自在な、まあ絵っていうのは本来自由自在で、そこが楽しいんですけども、たまには線一本引くにも、これはなぜここの線を引かなければならないか・・・みたいな、そういった根拠がある絵って言うのが、今本当になくなっているんですね。

 逆にそういった絵があってもいいな~と思って、必ずここには理由があって、なぜこう描いているかっていうのは、必ず背景に基づくんですよっていう根拠があるんですね。それが(今)なくなってきただけに、それが生き甲斐っていうんですかね。そういうのを自分は取り込み続けてもいいんじゃないかなっていう、それがよりどころですかね」

●川島さんは大学時代に昆虫を研究されて、現在は「日本トンボ学会」や「日本昆虫分類学会」の会員でもいらっしゃいます。川島さんにとって標本画は、研究に近いことなのかなって思ったんですけれども、いかがですか?

「はい、ほぼ研究ですね。それが私の絵らしさの、おおもとになっているもんですから、やっぱりそういった研究的な視点で対象を見て、それをいかに他者に伝えるために表現するかっていうことが、やりがいっていうんですかね。でも楽しいことではあるんです」

人懐っこい「サラサヤンマ」

※川島さんがいつ頃から生き物の絵を描くようになったのか・・・川崎市に生まれ育った川島さんは、幼稚園に入る前から昆虫が大好きで、当時まだ川崎近辺には武蔵野の名残があり、田んぼなども残っていたことから、トンボやカエルを捕まえたりするような子どもだったとか。

協力:川島逸郎、亜紀書房
小学校3年生のときに描いた絵

 また、絵を描くのも大好きで、図鑑を見ながら、昆虫の絵を描いていたそうです。そして中学・高校では野鳥にも興味を持ち、自宅で鳥を飼うような少年だったそうですよ。

●川島さんは、大学では昆虫の研究をされていたそうですね?

「そうですね。大学に入る時に、私もあまり学校の勉強ができたほうではないので、絵を描くかどうするかなって思った時に、昆虫の絵をしっかり描くには、絵は後からでも勉強できるかもしれないけども、昆虫学っていうのは必ずこれは知ってないと描けないなって、その頃からちょっと思っていたんですね。なもんですから昆虫を学べるところにっていう経緯ですね」

●どんな研究をされていたんですか?

「ただ、そうは言っても学生ですから、特に私なんかあまり・・・周りには優れた学生がたくさんいたんですけどね。
 私はトンボが好きだったもんですから、その頃、熱中していたトンボがいました。それはまだどんなふうに育っていたのかわかっていなかったもんですから、せっかくだから調べてみようって・・・研究っていうか観察日記の延長みたいな、そのくらいのことしかしてなかったんですね」

●ちなみになんていうトンボなんですか?

「それは、サラサヤンマっていう、ちっちゃいオニヤンマなんです」

●サラサヤンマは、どんな特徴があるんですか?

「ヤンマって言うと、普通は例えばオニヤンマだったり、大きなトンボを想像されると思うんですけれど、(サラサヤンマは)すごく小さいですね。それが水辺っていうか、山の谷あいの湿地みたいなところに棲んでいるんですけども、すごく人懐っこいって言うんですかね。

 普通トンボって言ったら、例えば(人間が)近づいていくと逃げていきますよね。ところがサラサヤンマは湿地に棲んでいて、変わっていて、暮らしぶりもわかってない・・・。成虫に向き合った時に、オスは縄張りを張って、ずっとじーっと空中の一点で止まって、縄張りを飛びながらですね。

 例えば写真を撮ろうとしますよね。そしたらレンズに止まろうとして、追っ払っても払っても・・・私は飛んでいるところを撮りたいんですけど、手で追い払ってもまたレンズに止まりに来ちゃうような、そんなところがあったもんですから・・・。
 解明されてなかったことも多かったし・・・すごく色も綺麗なんですね、『サラサ』って名前つくぐらいですから。黄色と緑のちっちゃい波紋が体全体に散りばめられたようなトンボなんです」

●人懐っこいんですね!

「そうですね。ほかのトンボとちょっと趣が違うんですね」

(編集部注:川島さんは、2012年から神奈川県立生命の星地球博物館、2014年からは川崎市青少年科学館で、学芸員をやっていたこともあるんです。学芸員時代にトンボの特別展に向けて、先輩学芸員からポスター用の絵を描くように言われ、手がけたこともあるそうですよ。

 そんなこともあり、自然に生き物の絵を仕事にするようになった川島さんは、時代の変化に伴い、手描きの標本画がだんだん消えていくのを憂い、その素晴らしさを伝えるために、最後の生き残りになっても、標本画を描き続けたい! そんな気持ちを抱くようになったそうです)

『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』

ハチとトンボはわかりやすい!?

※よく質問されることだと思いますが、いちばん好きな昆虫はなんですか?

「一番目はハチですね。二番目ぐらいがトンボですね」

●えっ、ハチですか? そうなんですね。トンボがいちばんなのかと思いました。ハチがいちばん好きな理由っていうのは?

「小さな頃は、川崎で採取、虫取りしていた頃は、例えばクワガタムシなんかをやっぱり最初は捕るんですね。ところが同じのしか捕れないんですよ。ハチは非常に種類が多くて、形も様々で綺麗な斑紋を持っていたり、それがもう捕っても捕っても次の種類が捕れる、それが非常に楽しかったってことと・・・。

 あと私が大きくなってからは、標本だけじゃなくて野外での虫の生態、それも知ってないと、やっぱり描く大事な要素になりますので・・・。虫の写真を撮った時に、ハチとトンポは、虫が何したいかってのがすごくわかりやすい・・・。野外で昆虫の暮らしを見ていた時に、例えば獲物を狩りたいんだなとか産卵したいんだなってのは、すごくわかりやすいわけです。それが非常に野外で虫の生活を見ていて楽しかったんですね。

 例えばそれがセミだったら、ミンミン鳴いていますけれども、なかなかいつ産卵したいのかなって、表情が鳴いている以外はわかりにくいんですね。今は私でもわかるようになったんですけども・・・。ところがハチとトンボは、見て何したいんだなってわかりやすいってのが、すごく親近感を覚えるっていうか、楽しさもあります」

●昆虫をよく見て絵を描くっていうのは、その昆虫を、ひいては自然を知ることにもつながりますよね? 是非、子どもたちにもやってほしいですよね。

「そうですね。それが例えば虫ではなくても、その虫を描くっていうのではなくても、身近に共に生きている生き物、あとは自然環境ですね。
 それがすごくわかりやすいって言うんですか、虫を見ることによって自然のありよう、環境のありようってのもわかりやすいもんですから、その自然感を一般の人にも持ってほしいなっていうのは、(以前)博物館にも勤めたもんですから、よくそのようなことを考えていました」

●では最後に、川島さんにとって昆虫とは?

「そうですね・・・昆虫がそうしてくれているわけではないんですけれども、人に例えるならば、恩人ですね。私のひとつのキャラクターを形づくってくれたっていうんですかね。虫がなければ、私らしさってのも出せなかったかもしれませんので、そういった意味ではその恩があります」


INFORMATION

『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』

『標本画家、虫を描く〜小さなからだの大宇宙』

 川島さんの新しい本には専門家が一目置く、点と線だけで描いた緻密な標本画が100点掲載されています。また、文章からは自ら描いた標本画と昆虫に向き合う生き様を感じ取ることができると思いますよ。ぜひ読んでください。亜紀書房から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。

◎亜紀書房 :https://www.akishobo.com/book/detail.html?id=1176&st=4

 川島さんのオフィシャルサイトも見てくださいね。学芸員時代に特別展のポスター用に描いたトンボ「ヤブヤンマ」のカラーの絵も見ることができますよ。

◎川島逸郎オフィシャルサイト:https://www.kawashima-itsuro.com

オンエア・ソング 10月6日(日)

2024/10/6 UP!

オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. WRITING TO REACH YOU / TRAVIS
M2. PICTURES OF YOU / THE CURE
M3. DELICATE / TAYLOR SWIFT
M4. FUN DAY / STEVIE WONDER
M5. 雨上がりのGood Day / ハナレグミ
M6. DRAGONFLY / ROGER JOSEPH MANNING JR.
M7. GRATITUDE / PAUL McCARTNEY

エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」

サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW
  • 秩父の森・カエデの恵み「メープルシロップ」〜人間が関わっていける森づくり

     今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秩父でメープルシロップを製造・販売する「TAP & SAP(タップ・アンド・サップ)」という会社の代表「井原愛子(いはら・あいこ)」……

    2024/11/3
  • オンエア・ソング 11月3日(日)

    オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」 M1. MY HAPPY ENDING / AVRIL LAVIGNEM2. BECAU……

    2024/11/3
  • 今後の放送予定

    11月10日 シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第22弾!  今回はスポーツ編として、廃棄されるゴルフボールを、マーカーやイヤリングなどにアップサイクルする「NEP!GOLF」、そして……

    2024/11/3
  • イベント&ゲスト最新情報

    <井原愛子さん情報> 2024年11月3日放送  秩父ミューズパーク内にある日本初のシュガーハウス「MAPLE BASE」では、本場カナダから輸入したメープルシロップを製造する機械を見学……

    2024/11/3