2024/6/30 UP!
◎田中 新(フラの指導者「クムフラ」)
『「メンズフラ」〜キラキラしていれば、世界は輝く』(2024.6.30)
◎ひとでちゃん(サイエンス・コミュニケーター/自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表)
『なんでこんな形!? 不思議でユニークな海の「ほねなし」たち』(2024.6.23)
◎太田安彦(一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」の代表理事)
『シーズン直前!「初めての富士登山」徹底ガイド!』(2024.6.16)
◎『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第20弾!シモキタ園藝部〜人と蜜蜂が作る緑の循環』(2024.6.9)
◎工藤誠也(弘前大学の研究員/昆虫写真家)
『昆虫写真家 工藤誠也〜寝ても覚めてもチョウに夢虫』(2024.6.2)
2024/6/30 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フラの指導者「クムフラ」の「田中 新(たなか・しん)」さんです。
最近SNSの動画で話題になっている男性のフラ「メンズフラ」、そのムーヴメントをリードしているのが田中さんなんです。
田中さんは東京港区三田に本校を構えるフラ教室を主宰、そして先頃『天と地をつなぐ 素晴らしきメンズフラの世界』という本を出されました。
きょうはメンズフラの魅力のほか、ハワイの人たちにとって、神様に捧げる神事ともいえるフラについて、じっくりお話をうかがいます。
☆撮影:広川智基
フラの祭典「メリーモナーク・フェスティバル」で“絵が見えた”!
※田中さんがなぜフラの指導者になったのか、その経緯をまとめると・・・実はお母さんがフラの先生で、子供の頃から家には当たり前にフラがあったそうです。でも思春期の男の子にとって、当時女性中心のフラを習うには抵抗があり、高校では大好きな野球に没頭。
そして卒業後、国際弁護士を目指し、フロリダのカレッジに留学。おもに日本とアメリカの文化の違いを学んでいたそうですが、当時の先生から「君が学ぶべきは文化人類学だ」と諭され、先生の紹介でハワイ大学の大学院に移ります。
そこでハワイの文化をいちから学ぶことになるんですが、その一方で、田中さんを子供の頃から知る有名な男性フラの先生「チンキー・マーホエ」さんから、フラをやりなさいと再三いわれるも、学業が忙しかったこともあり、何かと理由をつけてやらなかったそうです。そんな田中さんがどうしてフラの道に進むことになったのか、気になりますよね。実はこんなきっかけがあったんです。
「2002年かな・・・『メリーモナーク・フェスティバル』にそれこそチンキーさんが出ると・・・。そこのチームから母の教室に通っていた日本人のかたがハワイに留学していて、このチームから出るということなので、いろんなツテから“新も行ってみる?”って話になって、“行ってみますか、せっかくハワイにいるし・・・”ってことで行ったんですよ」
●「メリーモナーク・フェスティバル」はフラの一大フェスで、トップ・レベルのかたがたの大会というイメージがありますけれども、実際どうでしたか?
「トップ・レベルでした!」
●うわぁ~!
「この頃と、今現代のメリーモナークの、ハワイアンたちの向き合い方はだいぶ変わってきてはいるんですけれど、やっぱり自分たちのルーツというものをしっかり大事にして、勝ち負けというよりかは、自分たちが守ってきたフラのリネージ、系譜を代表してみんなで楽しみましょうっていうのが、基本的なメリーモナークのハワイアンたちの向き合い方で、本気なんですよね。
日本に来るかたがたもいっぱいいらっしゃいますけども、やっぱり日本だとエンターテイメントという要素が大きくなって、ショー的なものというか・・・本当にみなさん真面目にやっているんだけども、やっぱり本気度が違うので、エネルギーの出し方が違ってくる。見ていてなんか違うな~って思っていたんですが、メリーモナークに行った時に、男性のかたがたがみなさん本気で踊っていると、全然違うなと思いましたね」
●どう違ったんですか?
「会場が広いので、人が米粒ぐらい、ペットボトルのキャップぐらいにしか見えないんだけども、ダンサーたちが踊っている上に絵が見えたんですよ、自分勝手な想像ですけど・・・。そのダンサーたちが見ている世界が投影されているみたいな・・・」
●すごく今、鳥肌が立ちました! え~すごいですね~!
「で、僕の知り合いのアンティーというおばちゃんに(メリーモナークに)連れていってもらったんですけど、隣にいるアンティーに“これ、こういう曲なの? こういうことを話しているの? こうなの? これなの?”っていうふうに聞いたんです。そうしたら“新、お前はハワイ語がわかるのか? やっぱりハワイ大学にいるからハワイ語も習うんだろうな“みたいに言われて、“いや、習ったことないし、話すこともできない”って言ったら、“なんで見えるんだ?”って、“だって見えるもん、すげぇ!”って・・・その時にフラってこうなんだ、っていうふうに思いましたね」
(編集部注:メリーモナーク・フェスティバルの、本気のメンズフラに魅了された田中さん、帰国してからすぐにフラに向かったと思いきや、プロの写真家に師事し、ウェディング・フォトなどを撮る写真の仕事に従事。そんな中、お母さんのフラ教室の発表会を撮影することになり、ファイダー越しに見るダンサーの幸せそう表情に魅了されたそうです。
その後、日本で長年フラを教えてきたクムフラの30周年記念の発表会で男性フラのメンバーとして踊ることになり、そこでフラの素晴らしさに目覚め、ついにはハワイで「フラの神様」といわれるジョージ・ナオぺの一番弟子「エトア・ロペス」先生について、本格的にフラを学んだそうです)
フラは、あくまで会話
※そもそもフラはハワイ人のかたたちの、神様に捧げる踊りだったり、祈りや、自然とつながる儀式のようなものなんですよね?
「神事なので、基本的には・・・。神様といっても一神教ではなくて、風の神、太陽の神、大地の神、海、植物、木、いろんなところに神が宿っているという、日本の昔からの八百万の神に通ずるような信仰というか会話、彼らにとってフラを捧げるのは神事の信仰行事ではなくて、あくまでも会話なんですよね。
だから見えないものと会話をしているというか・・・太陽の光が入ってくる、この光の線に対して“ハ~イ”と言ったりとか、あるいは風がふわっと吹いてきた時に“サンキュー・マハロ”と言ったりとか、誰もいないのに風が当たることによって、風に対して“ありがとう”って答えるとか、そのすべてのものを擬人化して“ありがとうね”って、人間が人間同士でボディタッチで、“ありがとうね”ってやるようなことと同じことをやっている会話なんですよね」
●フラには「カヒコ」と「アウアナ」のふたつがあるということですけれども、改めてどう違うのか教えていただけますか?
「どう違うのかと言われると、本質的にはさほど変わらないんですけれど、時代によって変わってきていて・・・『カラカウア』というハワイの最後の国王がハワイアン・ルネッサンスということで、私たちはハワイアンなんだというふうに、一回弾圧されたフラの信仰をもう一度取り戻したという時代から現代までを『アウアナ』と呼んでいて、それ以前のことを『カヒコ』と呼んでいるんですね。
カヒコは前から受け継いできたものという意味で、アウアナはこれから流れていくものというふうに分けられていて、それ以前はカヒコという名前もなくて『フラ』というものだったりとか『ハア』だったりとか、という言葉で済まされていたんですね」
●カヒコは「古典フラ」、アウアナは「現代フラ」とも言われたりもしていますけれども、曲調も違いますよね?
「曲調は違いますね。実際にカヒコでは『イプヘケ』と言われるヒョウタンを使った楽器、あるいは『パフ』と言われる木をくり抜いた太鼓を中心に踊っています。アウアナに関しては、みなさんよくご存じのウクレレという弦楽器、あるいはギターという弦楽器ベースで行なわれているのが『フラアウアナ』と言われるもの、現代フラと言われるものですね」
(編集部注:田中さんいわく、現代フラは楽器はなんでもありで、そういう意味ではクリエイティヴ。一方、古典フラは厳粛なもので、変えてはいけないしきたりがあるとのこと)
メリーモナークの変遷
※フラの、ひとつひとつの所作には意味がありますが、男性のフラと、女性のフラの所作で、大きな違いのようなものはありますか?
「これ、難しくて、大きな違いは特になくて、力のかけ具合とかスピードとかが変わっていくだけであって、言うてもそんなに変わらず・・・。
フラにはひとつひとつのモーション、所作に意味があるんだよねっていうこともこの20年間30年間40年間伝わってきていますけど・・・。“手話みたいなものでしょう?”ってことも言われるんですけれど、実はどちらでもなくて・・・。
我々がこうやって話している時に、“僕はキュンとしてあなたを好きになっちゃいました”っていうジェスチャーなんですよね。それを形として整えるために、“私はあなたを好きになりました、愛しています”っていうことをやっているだけであって、このモーションの意味はこれというよりかは、こういうことを伝えたいからこういうジェスチャーをしているんだっていう考え方があるんじゃないかなと僕が勝手に思っています。自分が心から今こうやっておしゃべりをしている、これと同じことなので・・・」
●なるほど~。ハワイのかたがたって子供の頃からフラを習うものなんですか?
「まちまちだと思います。日本人が昔から空手を習っているの?とか、柔道を習っているの? 日本舞踊を習っているの?って言われるとまちまち。だけども日本のかたがたが幼い頃から日本舞踊を習うという機会があるその幅よりかは、ハワイの人たちにはフラというものが当たり前に存在しています」
●ハワイ人のかたがたは迫害を受けたという悲しい過去もありますけれども、ハワイの伝統とか文化とか歴史は、今の若いかたがたにも受け継がれているっていうことですか?
「特に今のこの10年ぐらいのほうが受け継がれていることもあれば、調べ直して20〜30年前の事実とは違うんだよって言い始めている時代ですね」
●そうなんですね〜。
「これはこうあるべきなんだよっていうことも、実は間違っていたりとか、もっと昔はこういうふうにされていたとか・・・なので1980年代から1990年代のメリーモナーク、それこそさっき話したメリーモナークと、2024年のメリーモナークとはやっぱり形式が違うんですね」
●何がどう違うんですか?
「昔は自分たちが習っている踊り、本気で習っている踊りを披露する場所みたいな・・・もちろん1曲、テーマというか指定曲があって、その指定曲を踊って、全然関係のない曲を踊ったりとかするんです。だから3〜5曲ぐらいを連続で踊っていたりとかするんですね。
それで競い合っていたんですけれど、今現代はテーマは自分たちで選びます。でもそのテーマがなんなのかっていうことと、それに付随する曲はなんなのかっていうことと、その1曲に対してどういうストーリーがあるのかっていうのをしっかりと固めておかないと点数が上がらないというか・・・自分たちがやりたい曲をそこに詰め込んだところで何も評価されないので・・・っていう違いはあるかなと思いますね。
なので、今の人たちのほうがハワイ文化に対して真摯に取り組んでいるんじゃないかな・・・もしこれが何か影響を与えるとか、昔のかたがたを嫌な気持ちにさせてしまったら、ごめんなさいね・・・なんだけれども、今現在いろんなツールを使って、インターネットも普及してきた、図書館に行くにも博物館に行くにもインターネットを使ってやれるってなってくると、やっぱり情報の速さが違いますからね。なので、今の人たちのほうがすごく深いところまでお話ができる人たちが増えてきたなっていう感覚はあります」
大事なのは「ありがとう」
※田中さんは2013年に東京港区三田にフラ教室を開校、その名前は「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」。
ハーラウは「教室」、ケオラは「命」、「クー」は立ちのぼる、そして「ラナキラ」は、先ほども少し触れましたが、ハワイでは「フラの神様」とされ、「アンクル・ジョージ」という呼び名で親しまれていた「ジョージ・ナオぺ」のミドルネームの一部を、許可を得て引用。その教室名には、アンクル・ジョージの遺伝子が立ちのぼっていくように、という願いが込められているそうです。
三田の本校で行なっているメンズフラの教室は現在、年齢別で13歳から40代、40代から60代、60代から80代の3クラス。年齢も職業も多彩な生徒さんが集まり、最年長はなんと、88歳だそうですよ。田中さんがおっしゃるには、生徒さんはみんな「大人の部活」のように楽しんでいるそうです。
田中さんに教室で、どんなことを大事にして指導されているのか、お聞きしたら、少し間をおいて、こんなふうに答えてくださいました。
「これね、ずっと考えていたんですよ、どんなことを大事にして指導されているのかっていうこと。それは、ありがとう、と思ってくださいってことかもしれないですね。ここに来させてくれて、ありがとうだったりとか、踊れる体が今ここにあって、ありがとうとか、ここに来て踊れるという気持ちを持っていて、帰って、あ〜楽しかったって思える自分の気持ちがあって、それだけでも本当は感謝なので・・・。
忙しかったらフラに行けないですよね。すごく忙しくてもなんとかこの日は行きたいなって思って、いろいろ工面をしてレッスンに出られますよね。それって時間を作ってくれたのは、もちろん自分なんだけども、いろんな奇跡的なことが重なって、この日は休める、この日は時間を取れる・・・で、取らせてくれた何かがあるわけなので、そこら辺にやっぱり感謝しながらレッスンを受けてもらいたいなと思いますね」
●感謝の気持ち、大事ですね〜。
「レッスンって、僕がお話をします、振り付けをおろします、それを受け取りますということがレッスンではなくて、その場にいることをどれだけ自分の生活の中で感謝できるのかっていうことと、そこで何に気づいたのかっていうことがライフ・レッスンとなるので・・・。
僕が指導します、あなたこうしなさい、ああしなさい、手は45度で、山が見えるでしょ、山を作りなさいってやっていることはカーナビと一緒で、次は右に行ってください、次は左に行ってください、そこの角に駐車場があります、駐車場に停めて27階まで来てくださいっていうのはナビゲーションじゃないですか、ゴールに到達するわけじゃないですか。それをよしとするのか、何も知らされない状態で、とりあえず自分で探して、ここのスタジオってここにあるんだね、何階だったっけ、あ、27階かって言ったほうがレッスンになるじゃないですか。
なので、何も教えてくれないわとか、何も伝えてくれないわ、何のレッスンしてるのかしら? っていう、ほかの人が原因で自分にストレスがかかった、じゃなくて、自分が調べないから、そういう状態になるわけなので・・・。自分がこのスタジオってどこにあるんだろう、何階にあるんだろうって調べると、それは自分のためのレッスンになるので、そういうことを僕はしたいなと思っているんですね。
もちろん振りおろしもしますし、こうして欲しいってことも言いますし・・・でも最終的にはダンサーは自分でその殻を破って、そこから生まれている何かと向き合って会話をしていくということに到達してもらいたいなとは思っています」
思えば、返ってくる
※クムフラとしてレッスンを重ねていく中で、ご自身に何か変化があったりしましたか?
「結局だから、全部自分に返ってきているんだなっていうのがあるので、自分の気を整えないと、ほかの人の気は整えられないかなって思ったりします。もちろん僕が今ものすごく幸せかって言われると、いろいろ思うことはあるけれども、心を豊かにするとか感謝の気持ちを持つとか、自分が感謝の気持ちを持たないと人には伝わらないので・・・例えば、雨が降っている時に雨が降ってうっとうしいな、雨を煩わしいものとして捉えている人たちが多い中で、雨が降ってきて、ありがとうねっていうふうに言えるかどうか・・・」
●素敵な考え方ですね〜。
「我々日本人も雨が降ったら、”恵みの雨”という言葉があるので、本来は感謝していたはずなんだけれども、現代社会になって、それこそテレビで”本日はあいにくの雨ですが・・・”とか、雨をうっとうしいものと思われがちなんだけども、我々は水がないと生きていけないので、ありがとうねって自分から言えないといけないんだなっていうことに気づかされてやっているという感じですね、クムフラとして変化があったといえば・・・」
●改めてになりますが、フラを通して田中さんが伝えていきたいことは、どんなことですか?
「思えば返ってくるっていうことだと思うんです。人を思えばその人から思われることもあるし、自分が本を作りたいって願う、思う、それを自分の現実的なイメージを作り上げていくと現実になったとかするし・・・寂しいなって思った時に実はこうしたいんだなって思うイメージがあったら、どんな形であれ、寂しくない未来がそこにあったりとかする。それに対して、これは僕が思ったことなんだと思って欲しいなと思うので・・・。
フラを踊る時に見えないものに対して・・・見えないじゃないですか、歌詞の世界なので・・・見えないものに対して何かを思うことによって、その歌詞の世界の中の何か・・・何かっていうとちょっとわからないかもしれないけど、エネルギーとか言われるとわかりやすいかもしれないし、あるいはハワイのかたがただったら『マナ』って言われたらわかるかもしれませんけども・・・何か見えないものが自分の体に宿ってくるので、思えば実現するし、かなうし、いろんなことができるんだよってことはフラを通して伝えていけたらなとは思いますね」
※田中さんに、メンズフラの魅力をお聞きしたら、それは、現在60名ほどいる生徒さんたちが作ってくれている、だから、生徒さんたちに聞いてもらったほうがいいかなと、そうおっしゃっていたんですが、あえていうなら、ということで、こんなふうにお話してくださいました。
「メンズフラの魅力はなんだって言われると、職種も年齢も違う人が集まって部活のように無邪気にはしゃげる場所。男の子が小学生なり中学生なり、仲間たちで一緒に遊んだ、あの記憶を取り戻してくれれば、笑顔が生まれてくるので・・・笑顔が生まれてくれば、その笑顔は感染するし、自分が笑えば人は笑ってくれるので、そのキラキラしたエネルギーというものをみんな伝えてくれたら嬉しいなと思いますね。
もちろん、キラキラしている女性も魅力的なんだけども、一般人の男性がいつも笑顔でキラキラしていたら、なんとなく嬉しいし、家でお父さんが楽しそうにしていれば、子供たちは輝いてくるし・・・なんか二次的な要素というか、自分たちがキラキラしていれば、世界は輝いていくんだよって思っています」
INFORMATION
『天と地をつなぐ 素晴らしきメンズフラの世界』
田中新著/KADOKAWA刊/定価1870円(10%税込)
この本にはフラの用語説明、メンズフラ教室でのレッスンの様子、フラの名曲解説や振り付けのポイントなどが載っていて、メンズフラの魅力を知ることができる一冊です。写真もたくさん掲載されていて、踊っているかたがたの表情がみんな笑顔、見ているだけで幸せな気持ちになりますよ。ぜひチェックしてください。KADOKAWAから絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。
◎KADOKAWA :https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g322311000438/
田中さんが主宰する教室「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」は東京港区三田の本校のほかに、鹿児島、広島、鵠沼海岸、そして先頃、千葉にも教室を開いたそうです。男性フラの教室は三田の本校だけで行なっていて、中には福岡や兵庫から通う人もいるそうですよ。メンズフラに興味のあるかた、ぜひオフィシャルサイトを見てください。
◎「ハーラウ・ケオラクーラナキラ」 :http://halaukeolakulanakila.com
2024/6/30 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. KU’U HOA / Robi Kahakalau
M2. KUHIHEWA / Chad Takatsugi
M3. Ka Makani Ka’ili Aloha / Nathan Aweau
M4. Pua Olena / Konishiki
M5. Hawai’i Aloha / Na Leo
M6. Kawaipunahele / Keali’i Reichel
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/6/23 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、つくば市を拠点とする自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表で、おもにヒトデの研究をされているサイエンス・コミュニケーター「ひとでちゃん」です。このニックネームは、あの「さかなクン」を意識して、つけたそうですよ。
そんなひとでちゃんは1988年、栃木県生まれ。子供の頃から、生き物ならなんでも好きだった少女は、中学生のある日、テレビ番組で「タコクラゲ」というクラゲの存在を知り、衝撃を受けます。
なんとそのタコクラゲは、光合成をする藻類を体の中に共生させて、日向ぼっこをするだけで生きているクラゲ。当時、いろんなことに窮屈さを感じていたひとでちゃんは、そののんびりとした生き方に感動し、一瞬にして虜になったそうです。
そして新潟大学理学部を卒業後、東京大学大学院へ進学し、ヒトデの系統分類学に没頭。その後、公益財団法人「水産無脊椎動物研究所」を経て、現在は、ひとでちゃんとして、海の生き物の魅力を伝える活動を行なっていらっしゃいます。そして先頃『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』という本を出されました。
この「ほねなし」とは無脊椎動物のことです。
きょうは海にいる無脊椎動物の中から、ヒトデやウミウシ、フジツボやウミホタルなど、不思議で奇妙な生き物のお話などうかがいます。
☆写真協力:ひとでちゃん
なんでこんな形になった!?
※ひとでちゃんによると、ヒトデはウニやナマコと同じグループで、日本には約350種、世界には2000種ほどもいるそうですよ。
ヒトデには潮だまりや海の底にいて、動かずにじーっとしているイメージがあるんですけど、移動しているんですよね?
「してます、してます!(笑)すっごくゆっくりだけど、しています! 」
●どうやって移動しているんですか?
「ヒトデは星みたいな形をしていて、出っ張っている部分が足だと思っている人が多いんですけれど、あれは一応、学問的には“腕”と呼ばれていて、実は足はひっくり返すと裏側にあるんですね。何百とびっしりチューブみたいな足がたくさん並んでいて、それを使ってゆっくり、もにょもにょもにょっと動きます(笑)」
●へ~!(ヒトデは)何を食べているんですか?
「これもヒトデによって、それぞれ違うんです。ヒトデは結構肉食のものが多くて、貝とかカニとかを食べたり・・・。でも草食のものもいるんで、一概には言えないんですね。ヒトデ自体の動きがゆっくりなので、肉食のものでもやっぱりゆっくりなもの、動かないものを食べていることが多いですね」
●例えばどんなものを?
「巻貝とか二枚貝とかサンゴとか海綿動物とか・・・結構なんでも食べます。死んだ魚とかも・・・」
●へ~!
「死んだ魚にすごく群がっていたりします」
●ひとでちゃんは、ヒトデのどんなところにいちばん魅力を感じていらっしゃるんですか?
「私はやっぱり形ですかね(笑)」
●形!?
「なんでこの形になった!? って思って(笑)」
●確かに気になります。どうしてなんですか? 人の手みたいな・・・。
「人の手みたいだし、星みたいだし・・・でも実はそれがまだわかっていなくて・・・というか、いくつか説があるけれど、はっきりとはわかってないっていう状態で、こんな生き物はほかにいないんですよね。
海にはいろいろ変な生き物だらけなんですけれど、ヒトデは同じパーツが5つ並んで星型になっている、こういうのをちょっと専門的にいうと「五放射相称(ごほうしゃそうしょう)」、5個放射状に等しいものがくっついているって言うんですけど、こんな生き物はほかにいなくて(笑)、とても不思議な魅力的な生き物ですね」
●ヒトデがああいう形になったのは、いろんな説があるということですけれども、有力な説というと、どんなものがあるんでしょうか?
「ヒトデは進化の過程で、最初は「懸濁物食(けんだくぶつしょく)」と言って、海で流れてくるものをキャッチして食べる、動かないで手を広げるみたいに、流れに沿って手を広げて、キャッチして食べている生き物がヒトデの祖先というか、最初の頃に出てきた形だったと言われています。
その時に流れてくるものをキャッチするのに、広げる手の数が5がちょうどよかったんじゃないかっていう、多すぎても手と手が重なってしまって効率が悪いし、少なすぎると全部すり抜けてしまう、そういった時に5というか5の倍数ですかね、その数が手を広げて効率よく食べ物をキャッチするのによかったんじゃないかっていう説が有力です」
「ほねなし」と呼んで親しみやすく
※ひとでちゃんは先頃『海のへんな生きもの事典〜ありえないほねなし』という本を出されています。この本では、無脊椎動物を「ほねなし」と表現されていて、おもに海にいる「ほねなし」の生き物を、姿形、生態、そして繁殖の方法に分けて、わかりやすく解説されています。
改めてなんですが、無脊椎動物とはどんな生き物なんでしょう?
「漢字で書くと、“無い” 脊椎の動物って書くんですけれども、脊椎は平たく言うと背骨のこと、背中の骨。私たち人間も背骨がまっすぐ1本通っていて、それでおもに体を支えている生き物なんですけれど、無脊椎なので背骨がない生き物の総称になります。
ただ無脊椎動物ってちょっと言葉がお堅いというか、漢字にすると、どんどんどんどん漢字ーって、やっぱりとっつきにくい感じがずっとしていて、それをもうちょっとみんなに親しみ持ってもらえないかなと思って、『ほねなし』という言葉を最近よく使っています」
●ほねなし! すごく親近感がわきやすくなりますよね、無脊椎動物よりも!
「うんうん」
●海の生き物でいうと、ほねなしはイカとかタコとかクラゲとかですかね?
「はい、そうですね」
●陸上だとほねなし、無脊椎動物はカタツムリとかミミズとか、そういう生き物ですか?
「そうですよ! 素晴らしいですね! 実は昆虫もです。昆虫は私たち脊椎動物とは真逆、私たちって背骨は体の中にあって、内側から体を支えているので、内骨格とか言うんですけど、昆虫とかは外骨格と言って、外側の固い皮膚の表面を硬くして体を支えている、だから中身は全部柔らかいもの。骨はもちろんないし背骨もないし固いので・・・。ほねなしと言うと、カニとかエビとか昆虫はどうなの?って思われるかたもいるんですけど、立派なほねなしですね」
●無脊椎動物と脊椎動物は、地球上にはどちらのほうが多くいるんですか?
「もう圧倒的に無脊椎動物です!」
(編集部注:ひとでちゃんによると、分類学では、動物を基本的な体のつくりで、約34のグループに分け、人間のような背骨がある脊椎動物はその34のグループの中の、なんと! ひとつでしかなく、残りの33は無脊椎動物、ほねなし。その多くは海にいるんだそうです)
フジツボは貝じゃない!?
※ひとでちゃんの新しい本には、いろんな「ほねなし」の生き物がイラストや写真とともに紹介されています。ダイバーにも人気のあるウミウシも載っていて、ウミウシは、漢字にするとその名の通り、海の牛と書きますが、巻貝の仲間というのはほんとなんですか?
「ほんとです!(笑)」
●青い体に黄色のラインとか、すごくカラフルなイメージがありますけれども、とにかく目立ちますよね!
「そうですね~」
●カラー・バリエーションはいろいろあるんですか?
「ものすご~くバリエーションがあって、カラフルで綺麗なので、本当にダイバーさんとかにはとても人気ですね」
●天敵っているんですか?
「天敵・・・魚とかいろんなものに狙われはするんですけど、それこそなんでカラフルかって言うと、敵を寄せ付けないため。貝殻がなくなっちゃっているんで身を守りづらいんですね。貝殻がある巻貝はその殻の中に隠れれば、ある程度防御ができるんですけど、殻をなくしちゃったので、その代わりに体の中に毒を溜め込んでいるんです。
なので、魚が食べてもまずい! つまんだけど、ぺっと吐き出されるみたいなことがよくあるんですよ。カラフルな色で“私は毒ですよ! まずいですよ!”っていうアピールをしているんです」
●なるほど・・・。
「だから逆に目立って、自分を食べないほうがいいよって」
●それで身を守っているわけですね!
「そうなんです!」
●海岸に行くと岩などに張り付いているフジツボ、貝の仲間だと思っていたんですけど、そうではないんですね?
「はい、そうなんです」
●固い殻で動かないっていうイメージですけど、貝の仲間じゃないということは、なんなんでしょう?
「これは実はエビやカニに近い仲間で、エビやカニってよく動くので、”動かないフジツボが?”って思われがちなんですけれど、固い殻の中にエビを、なんていうのかな・・・背中を下にして寝かせたみたいな生き物が入っていて、入口から足だけを出して餌を捕る、そうやって生きている生き物です」
ウミホタルはなぜ光る!?
※首都圏を走るドライバーさんにはお馴染みの、東京湾アクアラインのパーキングエリア「海ほたる」、その名前になっているウミホタルは、青白く光る生物として知られています。
改めてなぜ光るのか、教えてください。
「実は何のために光るかっていうのは、ちゃんとはわかってないんですね。なんですけど、ウミホタルの場合は、実は体が光るんじゃなくて、光る物質を海水中に噴射するんです。だから陸の蛍みたいに自分の体が光るわけじゃない、光る物質を噴射する、それでその光を目くらましにして敵から逃げているって言われていたり・・・。
あとは海ホタル同士のコミュニケーションとか求愛行動として使われているとか、いろんな説はあるんですけれど、噴射するってところからも敵から逃げるっていうのが大きいのかなとは思います」
●カクレガニという生き物も紹介されていました。アサリのお味噌汁を食べると、アサリの貝の中にいたりして・・・。
「そうそうそう(笑)」
●カニの赤ちゃんではないって、本に書かれていて、あれっ!? と思って・・・。
「そうなんです! 」
●赤ちゃんではなくて?
「ではなくて、大人のカニです。あれは子供の頃にアサリの中に入って、もうそのまま一生(アサリの貝から)出ずに成長して、アサリに寄生して生きているカニです」
●あの小ささがもうマックスの大きさ?
「そうです! そうです! だからたまに卵を持っているのとかもいます。お腹に卵を抱えているやつとか」
●そうなんですね~。
「でも見つけると嬉しいですよね!」
●ミニミニの赤ちゃんサイズですけどね!
「ミニミニの赤ちゃんサイズ(笑)」
●やっぱりひとでちゃんには、ヒトデのことを聞かないといけないかなと思うんですけれども(笑)、ヒトデは目よりも鼻で世界を見ると本に載っていました。鼻で世界を見るっていうのはどういうことなんですか?
「ヒトデに限らないんですけどね。やっぱり陸は空気で満たされていて、視界、目で見る情報がとても大事な世界なんですけど、海は逆に視界はそんなによくない。水で満たされていて、いろんな物質が海水中に混ざっている。なので、そういう物質をキャッチするほうが生きていくのには有利というか、生きやすいっていうことで、そういうのが発達している生き物が多いです」
地球のことならなんでもあり!?
※ひとでちゃんが代表を務める自然科学教育普及団体「地球レーベル」は、地元のつくば市で知り合った、地球科学を大学で勉強されていたご夫婦と、2020年に立ち上げ、地球を丸ごと楽しもうというコンセプトのもと、子供たち向けの自然観察会などを実施されています。
具体的にはどんな観察会をやっているんですか?
「その観察会によりけりなんですけれど、私が講師の場合は海に行って海の生き物を観察したりとか・・・。山に行って“石と地衣類”っていう、またちょっと変わった生き物を見たりとか、星の観察会をやったりとか・・・なんでもありなんです。地球のことならなんでもありで、その講師がそれぞれ行きたいとこ、やりたいことをやるっていう(笑)で、みんながそれを手伝う感じの、とても自由な団体です」
●ひとでちゃんが磯の観察会で、参加者のかたに必ず紹介する生き物がいるということですけれども、どんな生き物なんですか?
「ヨロイイソギンチャクっていう生き物なんですけれど、イソギンチャクって形わかりますかね。お花が咲いているみたいな、あの形を想像する人が多いと思うんです。イソギンチャクは“巾着袋”から来ているんですけど、閉じるんですよね、お花の部分が。そうするとただの丸い物体になってしまうんですけど、ヨロイイソギンチャクは、そのお花を閉じた状態の時に体の表面に砂粒をたくさんつけているんです。
それが、鎧をつけているみたいだから、ヨロイイソギンチャクって言うんですね。砂粒をつけるといいことがいくつかあって、まずは乾燥から身を守れる。ヨロイイソギンチャクって、潮の満ち引きが結構ある、海中に入ったり出たりする場所に棲んでいることが多いので、水の外に出ちゃう時もあるんですね。そういった時は閉じて砂の粒で(体を)守っておけば乾燥しないっていう・・・。
もうひとつは敵から見つかりづらいっていうのがあって、まさに私たちからも最初は見つからない。知らないと本当にただの砂の塊にしか見えないので、知らない人には見つからない。ただ一回、これがヨロイイソギンチャクだよ!って教えてあげると、もうそこらじゅうにいるんです」
●そんなに多いんですか~。
「たくさんいます! すごくたくさんいます!」
●誰でも見つけられる、コツさえつかめば、という感じですか?
「コツさえつかめば、一回わかればいくらでも見つけられます」
本物を見に行こう!
※生きている本物を見ることは、子供たちにはいいことですよね?
「そうですね。本当にそこをいちばん大事にしていて、もちろん言葉とか本とかで伝えることも無駄ではないんですけれど、やっぱり本物を見てしまったほうが早いし、やっぱりその子にしか受け取れない感覚が必ずあると思っていて、それを大事にしてほしいですね。
文章とかだとこっちの解釈が一回挟まっちゃうんですよね。そうじゃなくて、実物そのものから自分で感じたものを大事にしてほしいと思っているので、本当もう実物を見せちゃおう! 行こう!っていうのを大事にしています」
●では最後にヒトデの研究者、または自然科学教育普及団体「地球レーベル」の代表として、改めて伝えておきたいことなどありましたら教えてください。
「私たちこの地球っていう素晴らしい星にみんな生まれているので、本当に一歩でもいいので外に出て、ゆっくり自然とか生き物を眺める時間を作ってもらうと、ひとりひとりが日々豊かな生活を送れると思っているので、外に出ていってもらえたら嬉しいなと思います」
INFORMATION
ひとでちゃんの新しい本、おすすめです。海にいる無脊椎動物「ほねなし」の生き物を、姿形、生態、そして繁殖の方法に分けて、イラストや写真とともにわかりやすく解説。ひとでちゃんが、海の生き物を研究するようになった、運命のタコクラゲや、磯の観察会で必ず紹介するというヨロイイソギンチャクも載っていますよ。
この夏、この本を参考書に子供たちと一緒に海辺で生き物を観察されてみてはいかがでしょうか。山と渓谷社から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社 :https://www.yamakei.co.jp/products/2823064030.html
「地球レーベル」主催の観察会は、8月11日に「ペルセウス座流星群」を観る会や、8月25日には室内で「海のほねなし動物講座」としてヤドカリの観察などを行なう予定だそうです。また「地球レーベル」では月刊自然観察マガジン「地球らいぶ」を発行しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
2024/6/23 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. STARFISH / SWAN DIVE
M2. SEASIDE (FEATURING ISABELLE ANTENA) / BUSCEMI
M3. FREE / DONAVON FRANKENREITER FEAT. JACK JOHNSON
M4. NOTHIN’ ON YOU (FEAT. BRUNO MARS) / B.O.B
M5. 小さな恋のうた / 大山百合香
M6. SOMEWHERE THEY CAN’T FIND ME / SIMON & GARFUNKEL
M7. WONDERFUL WORLD / SAM COOKE
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/6/16 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、一般社団法人「マウントフジトレイルクラブ」の代表理事「太田安彦(おおた・やすひこ)」さんです。
太田さんは富士山の頂上になんと!600回以上も立ったベテランの登山ガイド。1982年、山梨県富士吉田市出身。富士山を見て育つも、社会人になって地元を離れて初めて、富士山が特別な山だと気づき、22歳の時に初めて頂上に立ったそうです。その時、なんとも言えない達成感を感じ、毎年登りたいという思いに突き動かされ、ついには登山ガイドの道へ。
そして、32歳の時に行ったカナダやアメリカの国立公園で導入されている、自然や野生動物の保護、そして安全を目的とした規則や仕組みに感銘を受け、その手法を富士山に活かしたいという思いで、2016年に仲間と共に「ヨシダトレイルクラブ」を設立。その2年後、活動の幅を広げるために「マウントフジトレイルクラブ」に名称を変更。
現在はガイドツアー、安全対策、環境保全の3つの事業を柱に、富士山六合目の「安全指導センター」の運営や救助の手伝い、ゴミ拾いのプロジェクトなどにも取り組んでいらっしゃいます。
そして先頃、「マウントフジトレイルクラブ」監修の本『はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり 徹底サポートBOOK』を出版されました。
きょうはそんな太田さんに、初心者向けの登山プランやルート選び、装備やウエア、そして絶対に守って欲しい注意事項のほか、今年から始まる「吉田ルート」の通行規制や予約システムについてもうかがいます。
その前に、富士山の基礎知識。
日本一標高の高い山、富士山。その高さは3776メートル。第二位の北岳(きただけ)が3193メートルなので、群を抜いて高い山です。そして独立峰で、円錐形のような姿はどこから見ても美しくて雄大で、季節や時間によって、いろんな表情を見せてくれます。
2013年には、富士山とその周辺が世界文化遺産に登録され、観光で来日される海外のかたにも大人気ですよね。夏の登山シーズンには、多くの登山者が集まり、去年のデータによれば、2ヶ月で、およそ22万1000人が訪れたそうですよ。
そんな富士山の登山シーズンが、いよいよ今年も7月から始まります。登山期間は
今年は山梨県側は7月1日から、静岡県側は7月10日から始まり、いずれも9月10日まで。なぜその期間なのか、太田さんがおっしゃるには、安全を担保できるのが夏だからでしょうとのこと。
山開きの7月は山頂付近にはまだ雪が残っていて、毎年、雪かきをして登山道を整備。また、8月末から9月にかけては、みぞれや雪もちらつくことがあるとか。日本一標高の高い山、富士山は夏が短く、高所のリスクも高い山なんですね。
☆写真協力:マウントフジトレイルクラブ
正しい情報、そして準備
※私のようなまったくの初心者がまず、準備しなければいけないことは、どんなことですか?
「ふたつあると思っていて、まずしっかり正しい情報を得ること。その情報をもとに自分に何が足りないのか、それを準備する、このふたつですね。情報を得ることとそれに対しての準備を整えることですね」
●体力作りも重要になってきますよね?
「そうですね。情報で、富士山はやっぱり10時間以上行動すると知るので、山を10時間歩くことが自分にできるのかっていうところから、運動を始める。そういったところも準備になると思います」
●足腰を鍛えたらいいんですか? どんなことをしたらいいんでしょうか?
「やはり足腰の筋力も必要だと思いますし、持久力も必要だと思います。とはいえ、それがなければ、絶対登れないということではなくて、私もガイド経験が長いので、富士山はほとんどが運動してない人が来る山っていう特徴もあると思いますね。
体力がないと、どうなるかっていう話なんですけども、やはり筋肉がつってしまうケースもあります。心肺機能もいきなり心拍数が上がるのに耐えらなくて高山病を誘発してしまうような、高山病じゃなくても具合が悪くなってしまうようなケースもあります。やはり体力があるっていうのは、基礎的なベースとして必要だなっていうのは感じますね」
吉田ルートと富士宮ルート
※富士山の山頂に行くには、いくつかルートがあるんですよね?
「はい、4つあります。私がおもに拠点としているのが吉田ルート、山梨県側になります。それと、途中ぶつかるコースがあって、静岡県側から入ってきて、途中で吉田ルートにぶつかる須走ルート。で、静岡県では富士宮ルートと御殿場ルートがあります」
●初心者におすすめのルートは、どのルートになりますか?
「いちばんよく言われているのは、吉田ルートか富士宮ルート、そのふたつが上がってくるんですけども・・・とはいえ、明らかな違いがあるかって言ったら、私はそうじゃないと思います。
どの登山口からも10時間近く歩きますし、高低差はそれこそ1000メートルは登って降りくる条件は一緒なので、大きな違いはないんですが、やはり吉田ルートだと山小屋が多くある。要するにそれだけ安全を担保できる、天気が悪くなった時に避難できるとか、具合が悪くなった時に(山小屋に)入れるとか、アドバイスを受けられるとか、そういったことが吉田ルートが人気な理由でもありますね。ほかにもご来光がどこの斜面でも、七合目でも八合目でも見られるというのが吉田ルートの人気の理由だと思います。
初心者のかたに富士宮ルートも人気があるんですね、なぜかと言ったら、五合目のスタート地点の標高がいちばん上なんですね。2400メートル地点からなので、要するに山頂にちょっと近い、コースがちょっと短いという理由で、おそらく人気なのかなってのは思います」
●本に登りのルートと下りのルートが別々になっていると書かれていましたけれども・・・。
「そうですね。吉田ルートに関しては別々になっています。富士宮ルートは同じ道を帰ってきます。
吉田ルートは下山道が別になった理由がありまして、昭和55年に吉田大沢という沢の中を(登山者が)下山していたんですけども、そこが崩落によって犠牲者が出てしまったんですね。それまで荷物の上げ下げで使っていたブルドーザー道を再整備して下山道を正式につけた、要するに危険を回避するために別のところに下山道をつけたっていうところがありますね」
初心者はガイドツアーがおすすめ
※本ではモデルプランとして、二泊三日のプランをおすすめしています。利点も含めて、どんなプランなのか、教えていただけますか。
「まずは時間をかけて富士山に登る。体力に自信がない人も時間をかければなんとか登れる。一泊二日に比べて休息する日も1日多いので、体力を回復するポイントが多い。そういった意味で利点があるっていうところですね。あと高山病についてもやはり順応していくという人間の体質がありますので、そういった意味でも二泊三日というのは無理のないペースかなとは思います」
●3日間休みが取れないっていうかたでも、やっぱり八合目ぐらいまで行って山小屋に一泊は、したほうがいいですよね?
「そうですね。ほとんどというか、多くの登山者の中で多いスタイルが一泊二日のスタイルが多いと思うんですよ。やはり先ほど言った通り高度順応のためと、その途中で休息、筋力も休められたり、睡眠も取れたりとか、そういったことが利点で一泊二日もおすすめかなとは思いますね」
●初心者はまずガイドツアーに申し込むのがいいですか?
「そうですね。これは私がガイドだからっていうわけではなく、客観的に見ていても、やっぱりいちばんおすすめだと思います。理由はいちばんは、安全がある程度担保できるっていうところですね。
例えば、悪天候の時の状況判断、登山を続けていいのかどうなのか、雨は強いし風が強くなってきた、これからどうなるのか、ガイドは当然天気は読めているので、その判断もできたりとか・・・。
あと高山病になった時、自分が深刻で重度の高山病なのか、それともまだ軽い段階で改善の見込みがあるのか、そういったことの判断・・・。例えばもうちょっと歩幅を狭くして歩きましょうとか、ペースをこうやって安定させて歩きましょうとか、深呼吸を随時促すとか、そういったペースメイクですね。ペースメイクっていうのはすごく重要なので、そういったことを担うのがガイドで、それは富士山の登頂率を上げるという意味では大きく役に立つと思います」
●ガイドツアーはだいたいおいくらぐらいなんですか?
「年々ちょっと変わっているなとは思うんですけれども、今年のツアーを先ほどちょっと確認したら、だいたい2万円前後ぐらいから4万円台のツアーがありました。それはガイド付きツアーで調べたんですけれども、その中に宿泊ですとか富士山までの交通費ですとか、そういったことはすべて盛り込まれて、もちろんガイド料も盛り込まれていました。富士登山の各ツアーを運営しているツアー会社のサイトを見るっていうのがいちばんですね。それで自分に合うのかどうなのかですね」
登山の3種の神器
※装備やウエアはどんなものを用意したらいいですか?
「まず、山の基本でもある3つ、登山靴とザックとレインウエアですね。これは重要になると思います。
登山靴は長時間歩く登山に適しているというか、登山をするために作られているので、やっぱり長時間歩いても疲れにくいとか、足首をホールドしてくれるとか、あと濡れにくいっていうのも重要で、ゴアテックスを使っていたりとか、発水性のある素材を使っているっていうのは重要ですね。
急な雨、レインウエアにもつながるんですけども、富士山の雨というのは短時間でドバドバと、バケツをひっくり返したような雨が降ることもあって、やっぱりそういったものに耐えうるカッパがいいですね。よく『100均で売っているようなペラペラのカッパでもいいんですか?』っていう質問があるんですけど、できればそれは避けたほうがいいなと思います。
というのは、汗を外に出す機能もない、ビニールなので透湿性がなかったり、要するに汗かいて、中がビショビショになって冷えてしまう可能性もあったりですね。あと富士山は寒いので、ビニールガッパだと硬化してパリパリ割れてしまうケースもあります。風も強くてそういったものが機能しないということがあるので、やはり上下セパレートの防水性に優れた、動きやすいカッパがいいなとは思います」
●確かに富士山は、暑さと寒さ、その両方に対処しないといけないですね。ウエア選びはちょっと大変じゃないですか?
「本当にそうですね。快晴の時は『登山日和だ! 気持ちよかったね! カッパも使う必要なかった』とか『半袖でよかったんじゃないか?』とか、そういった天気もあれば、風速20メートルで気温も寒気が入って、山頂だと5度以下になったりもします。いきなり冬が訪れるのも富士山なので、標高3000メートルを超えているということで、やはり(ウエア選びは)難しいんですけども、要するにそういった悪天候に備えるのが重要かなというのは思いますね」
●トレッキング・ポールはあったほうがいいですか?
「これは必須ではないんですが、筋力に自信のないかたはそれなりのサポートを考えて・・・下山時に特にボールがなかったら、ふらついて筋力に負担をかけるよりかは、やはり4点で、歩けると安定して歩ける、要するに筋肉にそんなに影響を与えずに歩けるっていうところでは、やっぱりポールはあったほうが便利かなとは思いますね」
(編集部注:装備やウエアは、しっかりしたものを買うとそれなりのお値段になるので、予算的に厳しいというかたは、フルセットのレンタルもあるので、それを利用する手もあるとのこと。また、山好きの友人がいたら、事前に借りて、使ってみて、それから自分に合うものを買うというのもいいかもしれませんね)
呼吸は吐くことを意識
※太田さんによると、富士登山には大なり小なりトラブルはつきもので、多く見受けられるのが高山特有の酸素不足による体調不良だそうです。高山での呼吸の仕方に、コツがあったら教えてください。
「これはシンプルで、吐き出すほうを意識することなんですね。(登山客に)深呼吸してくださいって言うと、吸うほうに意識がいきがちなんですけども、例えば、ろうそくの火を消すように、ふ~っと細く長く吐き出す、しっかり吐き出すと人間は苦しくなって深く吸い込むので、吐くほうを意識するとちゃんと吸い込めます。吸った時に肩がぐっと上がったりとか、胸がぐーっと膨らむぐらいまで深呼吸するのはいいと思いますね」
●なるほど! 吐くほうに意識を向けるということなんですね。登りと下りでバテない上手な歩き方はありますか?
「バテないっていう必殺技みたいなのはたぶんないとは思うんですけども(笑)、それこそ、登りは一足ずつぐらい、足の一足26センチとか28センチとか、本当に一足ずつぐらい、30センチぐらいの歩幅で一歩一歩、歩く。要するにすごく小股で歩くんですね。
お客さんに最初、このぐらいのペースで歩くんですと、五合目を歩き始めてすぐの上り坂で言うんですね。そうすると『えっ? これ、遅すぎないですか?』って、まずみなさん驚くんですよ。でも九合目になったら、その歩き方でさえもちょっと早いと感じるぐらいの体感があるんですね。なので、小股で歩くのは筋力を使わないとか、ペースを安定させ、心拍数を抑えるために重要ですね。
カメとウサギの話があると思うんですが、それが結構重要で、ゆっくり歩くと何ができるかって言ったら、心拍数もそれほど上がらない、筋肉をガシガシ使わない、筋肉は酸素で動いたりしますので、効率よく吸った酸素を省エネで使う歩き方、小股で歩くっていうのがポイントですね」
●登山にはいろんなルールとかマナーがあると思うんですけど、これだけは絶対に守ってほしいことってありますか?
「いくつも実はあるんですけども、いちばんはルールを守って人をケガさせないことが重要かなと思います。富士山の特徴のひとつが人が多いこと。当然(登山道で)渋滞ができてしまう時間帯とか場所もあるんですね。山頂付近、九合目付近ですとか・・・。そういった時に何が起こるかと言ったら、登山道以外を歩いたりしてしまうんですね。
登山道のロープを越えて斜面を直登していく人がたまにいるんですけれども、そういった時には石を落としやすいんですね。その石が当たって亡くなってしまったケースもあります。当然、ケガというケースもあって、毎年のようにヒヤリ・ハットは何件も起きているので、やはりルールを守って人をケガさせないことですね。もちろん自分の体調を整え、ケガをしないっていうことも重要なんですけれども、ひとりひとりがケガさせないようにルールを守っていくと、必然的に自分がケガするというリスクも減っていくんだろうと思います」
(編集部注:下山時の歩き方のコツは、太田さんによると、人にもよるそうですが、下る時も歩幅は狭く、足の裏の全体を地面につけるベタ足が基本で、トントントンと一歩ずつ丁寧に、リズミカルに歩くことだそうですよ)
今年から始まる「吉田ルート」の登山規制
※今年から山梨県側の吉田ルートの登山規制と、通行予約が始まると、ニュースなどで報道されました。この背景には、どんなことがあるのでしょうか?
「やはり弾丸登山ですとか、集中する登山者の抑制につながるという施策だと思います。例えば、去年でいうと4000人を超えた日が何日かあって、その中で弾丸登山が・・・宿泊を伴わないで夜に入ってきて、そのまま山頂へ向かうスタイルを、みなさん弾丸登山と言っているんですけども、その人数が1000人〜1300人ぐらい入った日があって、それはとても危険を感じましたね。
どんなことかって言ったら、当然その時期は山小屋がいっぱいで予約ができませんし、そんな中、いろんなところに弾丸登山者が寝ている、シュラフですとかビニールシートにくるまって寝ているとか、休んでいるケースが多くて、そこで悪天候になったら、『これはほんと大変危険な状況だ!』とかもあります。それこそ登山道をはみ出して歩く人も何人も何人も見受けられたので、今年はこの規制の効果が見込めるのかなとも思いますね」
●規制は1日何人までになるんですか?
「山梨県側では1日4000人を上限としています」
●安全登山のために、これは致し方ないことなんですか?
「重要なのは今やる施策であって、これがずっと4000人の規制があるかっていうことでは多分ないと思うんですね。とりあえず今ある目先の危険なことに対して、4000人をマックスにしたっていうことで、これが今年すごくいいほうに働いて本当に抑制できるんであれば、なおかつ登山者にとってストレスにならなければ、これはいい施策だったっていうことにもなりますし、もしかしたらまだ問題が出てくる可能性もありますけど、まずは今年これで ひとまずやっていくことで、いいのかなとは思いますね」
●吉田ルートの通行予約は、オフィシャルサイトからできるんですか?
「そうですね。オフィシャルサイトからできます。やっぱりいちばんみなさんが不安に感じているのは、自分がその4000人の中に入れるだろうかっていうところだと思うんですけれども、基本的に宿泊の予約をしていれば、山小宿泊の予約をしていて、その証明があれば4000人を超えていたとしても入山できるんですね。
なので、宿泊予約をして一泊二日、もしくは二泊三日で予約を取って、登山を計画されているかたは、この規制に対しては全く問題ないので心配されなくて大丈夫だと思います。日登りに対して、日登りとは日中、朝早くから登って夕方には帰ってくるっていうスタイルで、4000人を超えるかどうかっていうとこなので、今までの感覚だとそんなに大きな影響があるかって言ったら、冷静に考えるとそうないのかなとも思いますね」
(編集部注:山梨県側から入る吉田ルートでは、今年から2000円の通行料がかかります。収益は安全対策などに使われるとのことです)
◎富士登山オフィシャルサイト:https://www.fujisan-climb.jp/
富士山は宝物、次の世代へ
※富士山の楽しみ方はいろいろあると思うんですけど、太田さんのおすすめはありますか?
「本当にいろいろあって、自分の興味があることでいいと思うんですね。例えば、歴史とか自然とかにも魅力はあるので・・・。
自分がちょっとおすすめしたいなっていうのは、やっぱり星が綺麗なんですね、富士山は。例えば、流星群の時は数分に1個流れ星が見られるとか、人工衛星も肉眼で頻繁に見えますので、星空を鑑賞するっていうところでは富士山は適しているのかなと思います」
●富士山に登りたいって思っている初心者のかたがたに向けて、改めて伝えておきたいことなどありましたらお願いします。
「富士山は、本当に準備さえしていれば、登頂率が上がる山なんですね。なので先ほど冒頭でも言った通り、情報を取って自分に何が足りないか、例えば体力、ほんとに運動を全くしていなくて、ちょっと歩いただけでも息が上がって、膝が痛くなるっていうことであれば、富士山はトレーニングが必要だと思いますね。
日頃運動していて、階段登りもだいぶできるということであれば、登頂率も上がってきます。情報と、それに何が必要かを自分で捉えて、計画的にやってもらえたらいいなと思います。
ひとつ言うとすれば、焦らず、富士山は逃げない場所なので、こういった規制があったとしても富士山に登れなくなるっていうわけでもないです。むしろ焦って、今年しかチャンスはないんだって思ってケガをして、富士山で嫌な思い出を作って、富士山には一生行かないっていうよりかは、丁寧に準備して思い出を深く、いい思い出にしてもらって、毎年恒例にしようって思うぐらいの富士登山にしてもらえたらいいなと思います」
●では最後に、太田さんにとって富士山とは?
「そうですね・・・ちょこちょここの質問をされて、すごく答えづらくてですね(笑)、まだそんなに俯瞰して見られるというのはないんですけども、強いて言えば、むしろかっこよく言えば、富士山は自分にとって『宝物』という表現をしたいなと思います。
宝物っていうのは、自分にとって必ず必要なものでもありますし、やっぱり大切にしたくなることでもあります。あとやっぱり自分の子供にもその宝物を譲る場面が出てくると思うので、そういった時にはいい状態で譲りたいなとも思います。
富士山は自分のものだけではなくて、みんなが共有している、かけがえのないものだと思うので、それをそういった思いでいろんな人に体験してもらいたいなとは思います」
INFORMATION
富士山を目指す、特に初心者のかたは「マウントフジトレイルクラブ」が監修した本 『はじめての富士山登頂〜正しく登る 準備&体づくり徹底サポートBOOK』をぜひ参考になさってください。トラブルを回避する方法、モデルプラン、ルートガイド、装備やウエア、そして快適登山のための事前予習やトレーニングなど、初心者の知りたいことが、まるわかりのガイド本です。
メイツユニバーサルコンテンツから絶賛発売中。詳しくは、出版社のサイトをご覧ください。
◎メイツユニバーサルコンテンツ :https://www.mates-publishing.co.jp/archives/29913
「マウントフジトレイルクラブ」では富士山登頂や周辺を楽しむツアーなども企画しています。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎マウントフジトレイルクラブ :https://mftc.jp/
2024/6/16 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. AIN’T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH / MARVIN GAYE & TAMMI TERRELL
M2. MOUNTAIN GREENERY / JACKIE & ROY
M3. RAIN / MADONNA
M4. EVERYBODY WANTS TO RULE THE WORLD / TEARS FOR FEARS
M5. MISTY MOUNTAIN HOP / LED ZEPPELIN
M6. TOP OF THE WORLD / THE CARPENTERS
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/6/9 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第20弾! SDGsの17の目標から「住み続けられるまちづくりを」ということで、「シモキタ園藝部」の活動をご紹介します。
下北沢駅周辺は再開発が進み、小田急線が地下に移ったことで、東北沢から世田谷代田あたりまでの約1.7キロの線路跡地に「下北線路街」ができて、そこが緑地になっています。
一般社団法人「シモキタ園藝部」は「まちの植物を守り育てていく」ことを目的として2020年4月に発足。それまでの経緯をかつまんでご説明すると・・・小田急線が地下に入るということで、地上の線路跡地をどうするかという話し合いが世田谷区と市民グループの間で始まり、区長が交代したことをきかっけに、小田急や京王の電鉄会社も参加し、さらに活発化。
そして、市民グループからの提案などをもとに、ランドスケープ専門会社がグランドデザインを作り、イメージを共有。植物を中心に活動したいというグループ「緑部会」から現在の「シモキタ園藝部」になったそうです。
同園藝部は「循環」をテーマに、植栽の管理に加え、コンポスト事業、養蜂、植物の知識を身につけるための園芸学校、世話ができなくなった植物を引き取り、手入れして、新しい持ち主へつなぐ「古樹屋(ふるぎや)」、ワイルドティーなどが飲める「ちゃや」、そして活動の拠点「こや」を運営するなど、幅広い活動を行なっています。
「のはら広場」は子供たちが作った!?
※取材にうかがった日は5月の半ば過ぎで時折、日が射す程度の、そんなに暑くもなく取材日和。小田急線下北沢駅の南西口を出てすぐに、緑あふれる小道が続き、ここが下北沢!? と思うほどでしたよ。待ち合わせ場所の「こや」までは、小道を歩いてすぐなんですが、流れている時間が違うような、そんな感覚にも包まれました。
●それではまず、シモキタ園藝部ができる前から、再開発に関わってこられた「前田道雄(まえだ・みちお)」さんにご登場いただきましょう。
「こや」のすぐそばにある「シモキタのはら広場」は公園の植栽とはちょっと違う印象なんですが、どんなふうに手入れをしているんでしょうか?
「ただ単に植物を愛でるというよりは、小田急線が地下に入り、実際に育っている緑を植栽管理っていう形でメンテナンスしながら、よくある公園の植栽管理だと、あっさり伐採しちゃうというのが多いんですけど、(シモキタのはら広場は)丁寧に見ながら管理をしていく・・・そうすると例えば、そこに生えてきた草を全部採るとかじゃなくて、選択的除草と言って、これは残しておこうとか、その場その場で判断をしながらやっているので、やっぱりその地にあるような植物が残っていくのかなと思います。
あとは月に一度ぐらいイベント的に集まって、細かく管理をするので、ほかよりも丁寧に目を光らせてやっているんだけれども、一律に管理するっていうことではなくて、その場その場に相応しいやり方をみんなで考えていくみたいな形でやっています。それがほかとはちょっと違う植栽の状況になっているのかなと思っています。一般的な公園と違うのは、やっぱり草が多いですよね。
普通は樹木を植えるのが、公園の植栽のデザインとしては多いと思うんですけれども、それよりももっと草とかそういったものを中心に仕立てられていて、最初作るときは芝生を敷いたところにタネを撒いているんですね。タネを撒いて草がいっぱい生えてきて、その草地を子供たちに走ってもらって、道がだんだんできていくみたいな感じの作られ方をしているので、誰がデザインとしたというよりも子供たちが走り回ってできた道なんです。
そこで今、草地として残っているところに生えた草をちょっとずつメンテナンスしながら、しかもタネを蒔いて出てきたものだけじゃなくて、そのうち勝手に生えてくるものもあるんですね。それもこれはいいよねっていうものは残すみたいな形でやっています。だから毎年、1年目2年目3年目と、原っぱの雰囲気がだいぶ違いますよね。生えている植物も違うので、私もわからないものがまた増えちゃうみたいな感じですかね」
(編集部注:水やりや手入れは曜日を決めて、参加できる部員みんなで行なうそうですよ)
みんなで作る
※前田さんは、おもにどんな活動をされているんですか?
「私は仕事が建築系なので、どちらかというと今使っている拠点、『こや』と呼んでいる建物があるんですけれども、そこのメンテナンスというかとDIYいうか、ちょっと手を入れたりとか、そういったことをおもにやっていますね。
それも私だけじゃなくて、いろんなかたにお手伝いいただきながら、例えば外にあるデッキをみんなで作ったりとか、2階のテラスにあるデッキをみんなで敷いたりとか、あとは棚をみんなで作ったりとか、そんなことをやる時に、ちょっと専門的な知見でこうするといいよね!とか、こうすると危なくないよね!みたいなことをアドバイスしながら、みんなで作っていくのをサポートしている感じですね」
●本業とこのシモキタ園藝部の活動と、ふたつが重なることによって、何か変化はありましたか?
「すごく直接的に何か変わったというわけではないんですけれども、やはり仕事の中で、植物を植えたりとか、そういったことを考えることも多いので、その時の細かさが変わったかなと思います。
建築という、もう少し大きなスケールで見ると、樹木を何本、こういうふうに植えましょうみたいな、そういうスケール感で見ていたものが、その下に生えている草とか、そういったところも見えながら全体を考えるみたいな・・・少し細かさが出てきたような気がしています」
(編集部注:現在、シモキタ園藝部の部員は200人くらいで、年齢も幅広く、いろんな仕事をしているかたがたが集まっているそうです。世田谷区に住んでいなくても、だれでも部員になれるとのことですよ。興味のあるかたは、ぜひオフィシャルサイトhttps://shimokita-engei.jpをご覧ください)
雑草は宝物、循環は面白い
※続いてご登場いただくのは、コンポスト事業を担当する「斉藤吉司(さいとう・よしじ)」さんです。斉藤さんは、こんな動機でコンポスト事業のリーダーになったそうですよ。
「自分の自宅でも家の周りに雑草が生えているじゃないですか。それを抜くって本当に嫌だったのが、堆肥にできるって知った瞬間に雑草が宝物に見えてきてんですね。それで自身もコンポストをやり始めていたので、園藝部でもそういうのができるなと思ったら、自分の活動が広がるような感じがして、ぜひ自分にリーダーをやらせてください! って言って始まりました」
●まさに循環を実践されている感じなんですね。
「そう、面白い! 循環は面白いです」
●コンポストの維持とか管理は、斎藤さんをはじめ、何人ぐらいのかたでされているんですか?
「メインで活動しているのがだいだい15名ぐらいで、いろいろな関係で50人ぐらいのかたに関わっていただいています」
●何か所にコンポストを設置されているんですか?
「コンポストは、さっき見ていただいたコンポストを含めて3か所ぐらいですかね。(下北線路街が)1.7キロあるので、それぞれ(コンポスト)工場のほうに持ってきたら大変なので、やっぱり近くにコンポストが必要っていうことになって、それぞれの場所に作り始めています。なので、先ほどお話しいただいた前田さんも東北沢で『竹のコンポスト』を設計されて、すごく素敵なコンポストを作られています」
●堆肥化する落ち葉とか雑草は、下北線路街の植栽から発生したものですよね?
「そうですね。それとプラスして街の、例えばコーヒーかすだったりとか、おそば屋さんのそば殻だったりとか、あと世田谷区はエコな活動しているお店がすごく多くて、例えば果物屋さんが果物の皮を捨てるのがもったいないから、乾燥しているので使ってくれないかっていう提案をいただいたりとか、あとクラフトビールを作っているところは、ビールかすを使ってもらえないかとか、いろんなことがあって、そういうものを集めて堆肥を作っています」
●飲食店から出る生ゴミとかも堆肥化されているんですね。
「自分たちは宝物っていうんですけど、宝物をいただいて、それをまたさらに宝物にするっていう活動をしています」
●現在、年間にどれぐらいの量の堆肥ができるんですか?
「だいたい1回の積み込みでリンゴ箱20個分なんです。あれは50リットル入るんですね。なので1回で1000リットル、それが4回なので、合計で(年間)4000リットルできますね」
●その堆肥は下北線路街の植栽に使っているということですか?
「そうですね。やっぱり線路街はちょっと土がよくなかったりするので、そこに土壌改良的に入れてもらっていたりとか、今は新しい取り組みとして『下北の土』としてちょっと堆肥に土を混ぜて、必要なかたにお分けするっていうことを、これからやろうとしています。あと古樹屋さんでも植え替えの時に土を使ってもらっているということです」
<シモキタ園藝部のコンポストあれこれ>
シモキタ園藝部のコンポスト事業では、ミミズコンポストも含めて、いろんなタイプのコンポストを試していて、そのひとつが「キエーロ」というネーミングのコンポスト。これは、神奈川県葉山にお住まいの「松本伸夫(まつもと・のぶお)」さんが開発したもので、その特徴は、風と太陽と土を利用すること。
木の箱に生ゴミと土を入れるだけの、至ってシンプルな構造で、肝心なのは、雨が当たらないように屋根があること。太陽の光を取り入れたいので、屋根を透明にすること。そして、風通しを良くするために密閉しないこと。この3つに注意するだけ。土の温度を上げることで、微生物の活動を活発にする狙いがあるんです。この「キエーロ」は、臭いがしない、土の量が増えない、そしてランニングコストがゼロと、いいことだらけ。
シモキタ園藝部では、ワークショップで参加者にりんご箱の「キエーロ」を作ってもらったりするそうです。作りかたなどは「キエーロ」のオフィシャルサイトhttps://kieroofficial.wixsite.com/kieroに載っていますので、参考にされてみてはいかがでしょうか。
また、取材でお邪魔した活動拠点「こや」の2階には、「うみまちコンポスト」が設置してありました。これはコンポストとテーブルを組み合わせた実験的な家具で、なんと椅子の部分が、ロックを外すと回転するコンポストなんです。こうすることで中の土がよくまざり、微生物が元気になるんですね。
ほかにもコンポスト事業部では「発電するコンポスト」の実証実験も行なっています。これは「ニソール」という会社が考案した仕組みを取り入れているもので、コンポストの土の中に電極を差し込み、微生物などが発するエネルギーを電気として利用しようというものなんです。実際にクリスマスのイルミネーションなどを「発電するコンポスト」の電気で灯したことがあるそうですよ。
下北沢線路街で養蜂に取り組む
※続いてご登場いただくのは、シモキタ園藝部で「養蜂」を担当されている「杉山直子(すぎやま・なおこ)」さんです。杉山さんは園藝部の活動のひとつとして、養蜂をやりましょうと提案されたかたなんです。
なぜ、養蜂だったのか、それは杉山さんの知り合いで、田舎でニホンミツバチを飼っていたかたと話す機会があって、そこで養蜂に出会い、その蜜の味に感動したそうです。
ところが、ニホンミツバチは野生の生き物で採れる蜜の量が少ないため、セイヨウミツバチの飼育をやってみないかという話になり、そのためには技術と知識が必要ということで、埼玉の養蜂場にお邪魔し、養蜂家に弟子入りを懇願。およそ2年にわたって毎週のように通い、師匠にセイヨウミツバチの飼育方法をみっちり学んだそうです。
そして現在はシモキタ園藝部の活動として、下北線路街の2カ所に、計10箱の巣箱を設置し、養蜂に取り組んでいらっしゃいます。
セイヨウミツバチは、天敵のスズメバチから身を守る方法を知らないのでスズメバチが巣箱に侵入しないように、ネットを張るなどの対策を行なっているそうですが・・・ほかに養蜂でいちばん気を使うのはどんなことですか?
「今まさにこの時期なんですけれども、分蜂(ぶんぽう)・・・分かれる蜂と書いて分蜂と読むんですけれども、今新しい女王蜂が生まれる、活発に作ろう作ろうと蜂たちがする時期で、古い女王がいる巣箱に新しい女王が生まれてしまうと、古い女王が嫌がって一家の半分を連れて外に逃げちゃう。
そうすると、ものすごい数の蜂がわーって集まって、変な話ですけど、電信柱だったり木の幹だったりに、蜂球(ほうきゅう)を作るんですね。
そうすると、知らないかたが見ると蜂がかたまりになっているって・・・つい先だっても大谷翔平のドジャースタジアムで話題になったんですけど・・・本当にそれと同じ現象です。
その分蜂する蜂たちは新しい家を探しに出て行くので、お腹の中にしっかり蜜を溜めています。本当はものすごく大人しいんですけど、知らない人が見ると蜂がたくさんいる、怖い〜ってなって、警察沙汰にもなりかねないので、いちばんそこは注意して管理をしなければいけないんですね。ちょっとこまめに、内見と言って(巣箱の)中の様子を見る作業を通常よりは増やして行なっています」
蜂蜜で「下北沢」を味わう
●巣箱のあるエリアに花が咲いていないと、養蜂は成り立たないですよね?
「そうですね。蜜蜂は半径2キロのところを飛ぶんですけれども、もちろん近いところに蜜源の植物があるほうが蜂たちにとったらストレスが軽くなります。お陰様で、園藝部さんの植栽管理の地域が非常に近いところにあるので、私たちの蜂は豊かな花々に恵まれていると思っていて、しかもその花々の質が高い。それがすべて味に反映されていると感じています」
●どんな味がするんですか?
「特にやっぱり4月は桜の花のあとで一斉に花々が開花するので、まずひとくち舐めると桜の味を感じて、そのあとにまた違う、口の中で転がしていくと、違う花の味も感じますね。それで飲み込んだあとは、最後がまたちょっと桜とは違うというか、まるで香水のトップノートとミドルノート、そういうような変わり方をする味わいだと私は思っています」
●先ほど3種類の蜂蜜をいただきました。4月26日、5月11日、それから5月21日に集めた蜜ということで、本当に時期によって全然味って変わるんですね!
「そうなんですね、本当に。地域の花々から集めた百花蜜なんですけれども、その花の移り変わりでどんどん味が変わっていく。今年で3年目に入るんですけれども、1年目2年目の同じ時期の味ともちょっとまた違うし・・・となると気候によっても微妙に変わってきますし、まるでワインのヴィンテージというか、テロワールっていうんですか、下北沢を味わっている感じがします。
園藝部の植栽もさることながら、(下北沢は)割と古い住宅街で、お庭があってお花を育てていらっしゃるお家が非常に多い。あとは近くの公園だったり緑道だったり、東大駒場キャンパスなどにも豊かな蜜源があるので、そういうところから本当に様々な雑味のない蜂蜜というか、すべての採蜜日が外れたことがないというか、私たちは、それがありがたいですね」
●3種類、どれも本当に美味しかったです!
「自信を持っておすすめします。全く混ざりものがない非加熱の蜂蜜なので、蜂蜜の本来持っている大事な酵素とかビタミン、ミネラルがすべて生きたまま入っています。体にとっても非常にいいんですよね」
(編集部注:杉山さんが愛情込めて世話をしている、蜜蜂たちが集めた蜜は「シモキタハニー」として販売されているほか、蜜蝋も活動拠点の「こや」や「ちゃや」の椅子やテーブルなどのワックスとして使っているほか、シモキタ園藝部のワークショップなどでも活用しているそうです)
まとまり、つながり、循環
※それでは最後に、シモキタ園藝部の良さは、どんなところにあるのか、前田道雄さん、斉藤吉司さん、そして杉山直子さんにお聞きしました。まずは前田さんです。
「誰かが中心になって全部やっているというよりは、いろんなかたがいろんな興味に応じて手を加えているので、すごく統一感のある世界というよりも、少しバラバラなんだけれども、なんとなくみんなの意識が共有されているようなまとまりができているように思いますね。
それが『のはら広場』の(植栽が)バラバラだとしながらもまとまっている、なんとなく雰囲気があるみたいな感じ・・・それと同じように園藝部自体もいろんな人たちが集まって、みんなちょっとずつ違うほうを見ているんだけれども、全体としてはまとまりがあるっていうのがとても魅力的かなと思っています」
※続いて斉藤さんです。
「コンポストを2年間やってきて、いろんなかたとゴミを介してお会いできるし、そういうつながりがあって、自分たちもその刺激を受けながら、なんか新しいことがどんどん広がってくっていうのがすごく楽しいことですね」
※では最後は、杉山さんです。
「埼玉の(養蜂家の)師匠に弟子入りしたと同時に、やっぱり地元の下北沢で養蜂をやってみたいという思いがさらに強くなって、その間、下北沢で養蜂ができる場所を探していたんですけど、園藝部の先ほどお話しされた前田さんと、割と早い時期から活動されていた男性が私の小中学校の同級生で、たまたま道でばったり会った時に私の思いを伝えたんですね。
そうしたら実はシモキタ園藝部というのがあって、養蜂もいいよねと話していて、だから君、まず園藝部に入りなさいって言われて、即入部して、そこからみんなに呆れられるほどプレゼンをして、なんとか屋上を貸してくださるかたを見つけるまでに至りました。
園藝部のかたがたから言われたんですよ。私たちの巣箱を埼玉から下北沢に移動して、丸1年間か2年目に入ったぐらいの時から、花の付きが段違いでよくなったっていうふうに言ってくださって・・・。
蜜蜂による受粉活動で街の緑が豊かになっていく。それは私が最初に園藝部さんにプレゼンする時の第一の売り文句でもあったので、それを実感してくださる人たちがいるということに非常に感謝しておりますし、植物が豊かになってくれば、より多くの花が咲くので、蜜蜂たちの蜜源もそこで増えていくから、非常によい“循環”が生まれてくると思っています」
INFORMATION
シモキタ園藝部は活動のテーマが「循環」ということで、その循環の輪の中で、植物も蜜蜂も人も調和しながら、まわっているように感じました。また自治体、地元企業、そして市民が参加する再開発のモデルケースで、まさに「住み続けられるまちづくりを」を形にしていると思います。
下北線路街は緑あふれる素敵なエリアです。お洒落なカフェやお店も点在しています。まずはぜひ訪れてみてください。
シモキタ園藝部ではワークショップなどのイベントも定期的に開催。また「ちゃや」では採れたての野花を使ったワイルドティーを楽しめますし、天然はちみつの「シモキタハニー」も販売しています。詳しくは、シモキタ園藝部のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎シモキタ園藝部 :https://shimokita-engei.jp
2024/6/9 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. 緑の町に舞い降りて / 松任谷由実
M2. WILDFLOWERS / TOM PETTY
M3. WALLFLOWER / DIANA KRALL
M4. Flowers / moumoon
M5. HONEY BEE / BENNY SINGS
M6. CIRCLE OF LIFE / ELTON JOHN
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2024/6/2 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、弘前大学の研究員で、
昆虫写真家としても活躍されている「工藤誠也(くどう・せいや)」さんです。
工藤さんは1988年、青森県弘前市生まれ。お父さんの影響もあって、子供の頃から昆虫好き。そして岩手大学大学院を経て、現在は弘前大学農学生命科学部の研究員としておもに魚や鳥など、生物が自然環境の中でどんなふうに生きているのかを調査・研究されています。
また、研究活動のかたわら、青森の野山をおもなフィールドとして昆虫の撮影を行ない、先頃、撮りためた蝶々、約200種を掲載した本『チョウごよみ365日』を出されました。
この本はタイトル通り、四季折々のフィールドで出会うチョウの写真を日めくり感覚で楽しめて、美しい写真に添えてある、撮った時の状況や、チョウの特徴を解説した文章に工藤さんのチョウへの思いが溢れています。また、カヴァーに載っている「寝ても覚めても チョウに夢虫」というコピーにもチョウへの愛を感じます。
きょうは、その本をもとに、同じ蝶々なのに翅(はね)の色を変える種や、アリを巧みに利用するチョウなど、意外と知られていない蝶々の生態についてお話をうかがいます。
☆協力:工藤誠也、誠文堂新光社
越冬する日本のチョウ
※日本には何種類くらいのチョウがいるとされていますか?
「240種くらいと言われることが多いです。ただ、いかんせんチョウは飛ぶ生き物なので、ほかの国で普段過ごしているチョウが台風とかで運ばれて、日本に飛んできて、まれに記録されたりだとか、毎年のように日本にはいるけど、実は冬に一度滅んでしまって、また次の年に来るっていうのを繰り返している種だとか・・・あと外来種とか、そういったものが結構多くあります。
記録のあるチョウをすべて数えたら300種を超えると思います。もっと厳密に昔から日本にいて、越冬しているみたいなやつだけを数えたら、200種よりちょっと多いくらいになるんじゃないかと思います」
●チョウというと、東京でも都市公園とか郊外の住宅地などで春から夏にかけてよく見かけますけれども、その頃が繁殖の季節ということなんですよね?
「春に出るチョウもいますし、夏に出るチョウも秋に出るのもいて、種数でいうなら夏が多いのかなとは思いますが、それぞれいろいろあると思います」
●工藤さんがお住まいの、メイン・フィールドの青森は冬の期間が長いじゃないですか。となるとチョウの活動期間は短くなっちゃうんですか?
「寿命自体は一個体一個体、そう大きく変わらないと思うんですが、どうしても春から秋までの時間や、夏自体も短くなりますので、いろんな種が同じタイミングで出てくる。で、たくさんの種が短い期間に一気に出てくるような状態になります。春から秋までの期間は、虫が見られる期間自体はちょっと短いですね」
●冬を越すチョウは結構多いんですか?
「日本に生息している都合上、何かしらの形では冬を越さなきゃいけないですね。成虫で冬を越すっていうことであれば、タテハチョウの仲間とか、シロチョウの仲間とかに一部成虫で冬を越す種がいて、そういった種が春早い季節に飛んでいます。あとは蛹とか、卵の殻の中で小っちゃい幼虫が冬を越すとか、卵で冬を越すとか、本当に様々な越冬体を持つものがいます」
同じ種なのに、翅の色を変えるのはなぜ?
※この本を読んで初めて知ったんですけど、季節の移り変わりで、翅(はね)の色を変える種もいるんですね?
「一個体の中で色や形が変わることは基本的にはないんですが、一生が短い生き物なので、春に出たあとの次の世代が夏に出たり、1年の中で多い種だったら5回とかそれ以上とか、発生を繰り返すような種が多々います。そういう中には、寒い季節に出現する時の色や形と、暑い時期に出てくる時の色や形が違っているものが結構います。
例えば、サカハチチョウっていう小ぶりなタテハチョウの仲間だと、春に出てくるやつは綺麗なオレンジ色ですし、夏に出てくるやつは、ほぼ真っ黒というとちょっと語弊があるんですが、かなり黒く地味なチョウになります」
●どうしてそういうチョウがいるんですか?
「季節で最適な色や形が違う。周りが枯れ草だらけのシチュエーションと、緑で覆われているシチュエーションで、色が違うのはひとつあると思います。
あとは、どうしても季節というか、世代によって個体の数というか、チョウの密度が変わってきますので、たくさんいる時はむしろ外敵に襲われにくいように地味な見た目をしているほうが有利だったり、逆に寒くてあまり生き残れないような時は、派手な身なりをして、異性の気を引いたほうがって言ったらいいんですかね・・・モテるような姿をしたほうが有利だったりということがあるんだと思います」
アリを巧みに利用するチョウ
※これも工藤さんの本で知ったんですけど、チョウの幼虫に餌を与えて育てるアリがいるんですね?
「そうですね。クロシジミとか、キマダラルリツバメとか、国内で知られているだけでも、その2種かな・・・アリから直接、口移しで餌を与えられて過ごします。特にキマダラルリツバメは、幼虫の最初から最後まで一貫して、アリから口移しで餌をもらって成虫になるはずです」
●チョウに尽くすアリっていう姿ですけれども、アリに何かメリットはあるんですか?
「シジミチョウの幼虫が背中に蜜腺と呼ばれるものを持っていまして、その蜜腺から名前の通り甘い蜜のようなものを出すんですよ。で、それをアリは好んで舐めるんです。なので、その蜜をもらえることがアリ側のメリットと言えばメリットです。
ただ、最近の研究で、必ずしもすべての種でそうなのか調べられているわけじゃないと思いますけど、少なくとも一部のシジミチョウが出しているその蜜は、アリ側からしたら好きであって、舐めている嗜好物質ではあるんだろうけど、舐めることで利益を得ていることになるのかはわからないし、どちらかというと寄生的な関係であるみたいなふうに言われることが多いです」
●なるほど〜。ほかにもアリを手なずけて、アリの巣に潜り込むチョウの幼虫もいるんですね。
「ゴマシジミの仲間は、ほかのクロシジミとか、さっきの口移しで餌をもらうシジミチョウ自体もそうなんですが、小っちゃい頃、別の植物を食べたり、アブラムシの汁を吸ったりして、小っちゃい幼虫時代を過ごして、ある程度まで大きくなったら、アリを呼ぶわけじゃないと思いますけど、うまいことやって、くわえてもらって、アリの巣に運んでもらう。
で、運んでもらって巣の中に入ったら、あとはしれ〜っと仲間のようなふりをして、ゴマシジミの幼虫だったらアリの幼虫を捕食しますし、さっき言ったクロシジミであれば、仲間のふりをして餌をもらうようなことを続けて育っていきます」
キラキラ光る、くるくる回る
※工藤さんが撮影している中で、いちばん驚いたチョウの生態はありますか?
「今言ったアリに寄生するシジミチョウの仲間は、特にすごい生態をしているチョウだと思います。それ以外にも、そうですね・・・ゼフィルスって呼ばれる翅が緑色にキラキラ光るミドリシジミの仲間がいるんですけれども、これなんかはそんなキラキラ光る必要があるのかな? って思うくらいキラキラ光る翅を持っています。
モルフォチョウとか、絵のモチーフになったりする青いチョウが海外にいますが、あれほど大きくはないですけれど、輝きの強さだけなら、それと肉薄するチョウが日本にもいます。
その仲間は成虫が一時期、限られた時間帯だけに陽の当たる空間に出てきて、1時間ぐらいだけ激しく飛び回って、オスとオスがお互いに追いかけ合った都合上、そうなるのかわかんないですけど、輪っかを描くようにって言ったらいいんですかね・・・くるくると二個体で追いかけ合って回るんです。それなんかを見ていると、なかなか不思議なことをする奴らもいるなと思います」
真っ赤なアカオニシジミ
※工藤さんの本の、12月30日のページに、この日は私の誕生日なんですけど、タイで撮影した「アカオニシジミ」というチョウの写真が載っていました。こんなに赤くてきれいなチョウがいるんですね。
「あれは東南アジアとか海外のチョウをひっくるめて、赤色のチョウの中ではトップクラスに美しい種のひとつじゃないかなと思います」
●南方に生息しているチョウは、びっくりするぐらいカラフルなんですね。
「そうですね。もちろん地味な種もたくさんいるんです。なんていうか昆虫はどうしても寒いところに行くと、種数が少なくなって同じ種がたくさんいて、暖かい地域に行くと、種数が多くなってその一種あたりの数が必ずしも多くないみたいな生き方というか生息をしているんですね。
暖かい地域に行くと、いかんせん種数が増えるので、その派手さのピラミッドみたいなものが、地味な種がとにかくたくさんいるけど、そのてっぺんにすごく派手なやつが少数だけいて、そいつらがかなり目立つみたいなところがあります。
例えば、大きくて緑色に光るトリバネアゲハの仲間であるとか、それこそ今言ったアオカオニシジミであるとかが、うわずみ的な存在にあたるのかなというふうに思います」
●日本で見られるチョウとの違いは、どんなところにあるんですか?
「いちばんの違いは、たぶん1年中何かしらいることだと、成虫が飛んでいることだと思います。あとは先ほど言った通り、少し一部派手な種がうわずみ的にいて目立ちますすね。
どうしても種数が多いので、ひとつの種が活動できる時間とか空間が限られてしまって、同じ場所に、例えば1日朝から晩までいても、30分ごとに違うチョウが現れるみたいな、すごく切迫したタイム・スケジュールの中で、いろんなチョウがひとつの空間に生息しているところが、熱帯とか暖かい地域の特徴かなと思います」
(編集部注:工藤さんは青森に冬がやってくると、海外へ。おもに東南アジアのタイ、ベトナム、マレーシア、台湾などにチョウを追い求めて出かけるそうです)
美しい翅は生き残るための進化
※工藤さんの本を拝見していて、改めて感じたんですが、チョウの翅の色や模様は、個性的で美しくて、まさに芸術ですよね。翅の色や模様を決定づける要因はなんでしょうね?
「チョウはどうしても弱い存在というか、生き物全般からしたら食べられて死ぬことがとても多い生き物だと思うんです。なので、そのチョウの色とか模様は捕食者に対する警戒というか・・・例えば、毒を持っているほかの虫に擬態するためのものであったりだとか、あるいは身を隠すためのものであったりすることが多いと思います。
あとは自分の配偶の相手を探すための標識的な模様であったりするとは思いますね。そういったところで自分の翅を綺麗に着飾ったり、あるいは地味に周りにとけ込むような斑紋を持つことで、うまく生き残るために進化した結果なんじゃないかなとは思います」
●では最後に、工藤さんにとってチョウの魅力とは?
「そうですね・・・昆虫の中ではチョウは、すごく大きい虫だと思うんです。シジミチョウは、チョウの中ではすごく小さい体のサイズのグループですけど、それでもちっちゃいもので1センチぐらいはある。でもほかの甲虫とかだと1センチだったら結構な巨大種なんですよ。なので、人の目で見て扱いやすいというか、分かりやすい体の大きさを持った分類群っていうのがまずひとつ魅力だと思います。
あとは色とか模様が鮮やかで目を引くことと、それからこれは体が大きくて観察しやすいっていうところにもちょっとつながる部分があるんですけど、昼活動するので、自分の目でそのチョウが実際に生きて活動しているところを見ることができるっていうのが魅力かなと思います。
例えば、蛾も僕は好きなんですけれども、蛾は夜何しているか実は知ることが難しくて、花に行って蜜を吸ったりする種もいるはずなんですが、ライトを当ててしまったらどうしても驚かれて、行動が変わってしまいます。自然な形で観察がなかなかできないというところがあるんです。
ただその点、チョウだったら、青空の下で花の蜜を吸ったりとか、交尾相手を探したりとかしますので、気軽にそういう姿を見ることができるのが魅力かなと思います」
(編集部注:工藤さんの撮影のメインフィールド、青森の野山でチョウが去年より少なくなっていると感じることはよくあるそうですが、多くなったり少なくなったりする「ゆらぎ」なのか、当たり外れなのかはわからないそうです。ただし、外れ年と思っていたら、いっこうに戻らない、復活しない。この十数年、そんな流れになっているとのこと。気候や環境の変化が蝶々にも影響を与えているのか・・・気になりますね。
また、今後撮りたいチョウについては、インドネシアやパプアニューギニアなどに生息している「トリバネアゲハ」を撮りたいとおっしゃっていました。てのひらサイズの大きなチョウで、翅の色も個性的で美しいので興味のあるかたは、ぜひネットで調べてみてください)
INFORMATION
工藤さんの新しい本をぜひご覧ください。四季折々のフィールドで出会うチョウの写真を日めくり感覚で楽しめて、美しい写真に添えてある文章にチョウへの思いを感じますよ。ページをめくるごとに、季節が進んでいく感覚も味わえます。「寝ても覚めても チョウに夢虫」な工藤さんの本、おすすめです! 誠文堂新光社から絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎誠文堂新光社 :https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/85779/