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広くて深い海は謎だらけ〜海中で鳴っている音!?

2025/1/5 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の主任研究員「川口慎介(かわぐち・しんすけ)」さんです。

 川口さんは1982年、兵庫県宝塚市生まれ。北海道大学・理学部時代は、海ではなく空、それもオゾン層より上の「大気の研究」をしていたそうです。その後、一転「深海の研究」へ。そして東京大学海洋研究所の大学院生時代に、JAMSTECのスタッフと一緒に仕事をしたこともあって、誘われてJAMSTECの職員になり、現在は主任研究員として活躍されています。プライベートではプロレス好きのサッカー部員で、カラオケも得意だとか。SNSでは「海ゴリラ」として知られています。

 JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、日本が世界に誇る科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。

 川口さんは「しんかい6500」に乗船するなどして、深海や海底に関する研究をされています。そして先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されました。

 きょうはそんな川口さんに「しんかい6500」による調査のほか、海水に含まれる成分や、海の中で聴こえる音の研究のお話などうかがいます。

☆写真提供:海洋研究開発機構

写真提供:海洋研究開発機構

「しんかい6500」、初めての時の記憶がない!?

※まずは、JASMSTECで、どんな研究をされているのか、教えてください。

「僕は調査船に乗って、陸地から離れた遠洋のほうまで行って、深い海、特に海底の近くで何が起こっているかを実際に潜ったりとか、ロボットを降ろして調べる仕事をしています」

●研究のために川口さんも「しんかい6500」に乗って調査することもあるってことですよね?

「はい、実際に『しんかい6500』に乗り込んで、深い海まで潜ったこともあります」

●これまでに何回ぐらい乗ったんですか?

「僕、実は少なくて、4回だけなんですけども、潜らせてもらっています」

●初めて「しんかい6500」に乗って、深い海に行った時はどんなお気持ちでしたか?

「もう全然覚えてないですね。初めての時のことは全く覚えてないです。きっと興奮していたんだと思います」

●乗る前からワクワクみたいな、そういう感じでしたか?

「う〜ん、もう本当に覚えてないんですけど(苦笑)、どちらかというとやっぱり研究が進む進まないっていう部分のプレッシャーがあったので、そっちでいっぱいいっぱいだったのかもしれないですね」

●(最初の時は)どれぐらいの深さまで潜ったんですか?

「最初の時は2500メートルだったんですけど、その後6000メートルまで潜る機会がありました」

●光が届かない深海って真っ暗ですよね?

「真っ暗ですね」

●外の様子は窓から確認できるんですか?

「はい、窓に顔をへばり付けて、ずっと外を見るんですけど、時々プランクトンとか魚で光るやつなんかがいたりして、ちらっと光が見えたりして幻想的です」

●へえ〜、すごいですね! 1回の潜水時間はどれぐらいなんですか?

「潜水船の蓋が閉じて、潜って帰ってくるまでのトータルで8時間ぐらいですね」

●深海で調査できる時間はどれぐらいなんですか? 到達するだけでも時間はかかりますよね?

「そうなんですよ。だから6000メートルぐらいまで潜ると、行くのに3時間、帰るのに3時間ぐらいで、海底にいるのは2時間もないですね」

●乗船するのは何名ぐらいなんですか?

「潜水船の中には3人乗ります。パイロット側のかたが2名と、研究者1名というのが通常の組み合わせです」

(編集部注:6000メートルくらいまで潜るのに、およそ3時間はかかるというお話でしたが、予定の深さに到達するまでの間、「しんかい6500」の狭い船内で何をされているのか、気になりますよね。お聞きしたら、努めてリラックスするようにしていて、パイロットのかたとおしゃべりをするか、仮眠をとるか、中にはタブレットなどで映画を見る人もいるそうです。

 また、船内にはトイレはないので、成人用のおむつを着用して乗船するとのことですが、おむつもどんどん改善されて、不快感はまったくないそうですよ)

川口慎介さん

母船に戻ってきたからが勝負!?

※研究にはサンプルの採取が欠かせないと思いますが、どんなサンプルをどんな方法で採取するんですか?

「生物だと、掃除機のような形をしているもので吸い取って、網に引っかけるように集めたりだとか、水を取りたい場合だと、ペットボトルのようなものを持っていって、深海で(水を採取したら)蓋を閉じて持って帰ってくるとか、ということをやっています」

●深海になればなるほど、水圧がとんでもなくすごいですよね。そんな深海で採取したサンプルを船の上まで引き上げると、状態が変わっちゃわないのかなって思うんですが、そのあたりはどうですか?

「めちゃくちゃ変わってしまうんですね。圧力が抜けるので変形するっていうのもあるんですけども、深海は基本的に涼しいというか冷たい環境なので、持って帰ってくるまでに、ぬるくなってしまうのが結構深刻な問題になります」

●ぬるくしないために何か方法があるんですか?

「みんな工夫はしているんですけれど、これという方法はなくって・・・僕は最近そこを解決したくって、冷たくするための装置を開発するような仕事もしています。 冷たいまま持って帰ってきて調べた時に、今までと全然違う見え方をしたら、ぬるくなっているってよくなかったんだなっていうのがわかっちゃう、よくも悪くも判明するかなと思って取り組んでいます」

●採取したサンプルは、船の上ですぐ調べるんですか?

「ものによっては本当にそこの時間が勝負になったりしますね。どんどん腐っていくものもありますし・・・だから潜水船で潜ることの調査なんですけど、潜水船が海の上で待っている母船に帰ってきてからのほうが本当の勝負で、徹夜続きになることもあります」

●では母船には、すぐ研究できるような機器とか施設が揃っているってことですよね?

「母船には冷蔵庫、冷凍庫はあるんですけど、基本的なものしかなくて、航海の度に研究者が自分のツールを持ち込んでそれを使います」

●川口さんの研究でこれまでサンプルを通して分かってきたことがあれば、ぜひ教えてください。

「わかってきたことは・・・まだまだわかんないことがあるなっていうのが毎回わかります」

●(笑)謎が多いんですね?

「謎だらけですね!」

(編集部注:川口さんが開発している冷やす装置はスバリ「深海冷凍装置」。パソコンを冷やす機能を応用しているそうですよ)

海水にはあらゆるものが含まれている!?

※川口さんは先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されています。この本を出すにあたって、何かコンセプトのようなものはありましたか?

『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』

「海の研究者が書いた海の本っていうのは、僕の師匠とか上司もたくさん本を書いているんですけど、これまでだいたい2種類あって、研究者が自分の専門分野のことを詳しく書いて紹介するタイプの本と、もうひとつは(一般のかたに)海に親しんでもらうために、”海って不思議なところだね”っていうポップな感じで書いてあるものと、だいたい2種類に分かれるんですね。

 僕は今回その中間ぐらいの本を書きたいなと思って、ポップで読みやすいんだけど、専門的な話も書いてあるっていう、そこを狙いたいなっていうのがいちばん大きなコンセプトで 書きました」

●本の中から、ほんの少し初歩的なことをピックアップして質問させていただきたいと思います。まず海水はしょっぱいですよね?

「はい、しょっぱいですね」

●しょっぱい、そのもとは食塩の成分ですよね?

「そうですね。食塩の成分である主にナトリウムがしょっぱさの原因だというふうに言われています」

●塩分濃度はどこの海でも同じなんですか?

「これ、ほんとに重要なポイントで、海の塩分はどこの海でもだいたい同じなんですけど、専門家からすると全然違います! っていう言い方をします。ちょっとしか塩分は違わないんですけど、そのほんのちょっとの違いが、海水が動いたりとか混ざったりするのにとても大きな影響を及ぼすんですね。

 一般に普通に暮らしている人がなめたら、同じしょっぱさだねっていうレベルの塩分なんですけど、科学的にはこれは全然塩分が違うんだというような言い方をしたりします」

●海水には、ほかにどんなものが含まれているんですか?

「海水にはなんでも含まれています。あらゆるものが含まれている・・・ただ多い少ないというのがあって、塩分、しょっぱいって言っている塩素とかナトリウムはとってもいっぱい溶けていますけど、たとえば鉄はほんの少ししか溶けてないです。でもほんの少しは溶けている、金も銀も銅もほんの少しは溶けているっていうのが海水の正体です」

日本近海にもある海底資源

※海底にある資源については、世界でも関心を持っている国が多いと思いますが、日本近海にも海底資源はあるんですよね?

「はい、日本の近海にも海底の資源が見つかっている場所はあります」

●どんな資源が見つかっているんでしょうか?

「日本の近海でよく見つかるのは、ひとつは銅を多く含むような『熱水性鉱床』と呼ばれるもの。日本列島からは離れてしまいますけども、離島の周りにあるのが『マンガン団塊』とか呼ばれるようなマンガンを主体とする海底資源があります」

●実際に海底から引き上げて資源として利用するとなると、それはそれで莫大な費用がかかりそうですね?

「費用はすごくかかると思いますよ。資源として利用するっていうことは大量に採らなきゃいけなくて、大量に採るっていうことは、それに必要な船も大量だし、働く人も大量だし、かかる時間も長いしっていうので費用はたくさんかかると思います」

●そうなると、国家プロジェクトですよね?

「う〜ん・・・微妙・・・(苦笑)表現が難しいですけど、海底資源ってよく相場で1グラム何円っていう部分があって、そこは変動するじゃないですか。でもここの海底に何グラムありますっていうのは変動しないんですよ。

 だからもし、すごく貴重になって価格がすごく上がると、国家プロジェクトじゃなくても儲かるからやるっていう企業が出てくるかもしれない。でもそこに何グラムありますか? っていうのがわかっていないと、やっぱり企業は手が出しにくくて、そういう意味で今の段階では国家プロジェクト的に動いているというのが、海底資源に関する現状だと思っています」

写真提供:海洋研究開発機構

勝手になっている海の音!?

※川口さんは数年前から「海の音」の研究をされているそうですね。これはどんな研究なんでしょうか?

「海の音の研究にもいろんな種類があるんですけど、僕は海に人間が鳴らした音というよりは、勝手に鳴っている音をよく聴くと、海の状況がわかるんじゃないかっていう考え方で取り組んでいます」

●勝手に鳴っている音っていうのは、どういう音なんでしょうか?

「一般的にいちばん鳴る音は、たとえば、雨が”ザア〜ザア〜”降ると海面を叩くので音が鳴るとか、波がじゃぶじゃぶすると”ジャブジャブン”という音がするとか、そういうのが勝手になっている音のひとつです。それとは別に生物が動くことで、浅いところから深いところ、深いところから浅いところへと移動すると、体が”ポキポキ”なる音とか、(生物が)餌を食べる時に海面で”ジャブジャブ“する音が聴こえたりもします」

●そういう音は、どうやって録音するんですか?

「深海で音を録る時は、海底に録音機を設置してただひたすら待つ。録音機に音が入ってくるという形で今は録音しています」

●深い海に録音機を設置するってことですよね? どんな録音機なんですか?

「深海の圧力に耐えられる、海水につけても壊れない特殊な装備をした録音機なんですけれども、それはさておき、そういう録音機をたとえば『しんかい6500』に持たせて潜らせて、海底に置いて帰ってくるという方法をとります。

 で、結構大事なところで、『しんかい6500』は船自体から出る音があまりにうるさくて、海の自然な音が聴こえないので、録音機を海底に置いたら一度離れて、船の音が入らない状態にして、自然の音を聴いてもらって、改めてまた回収しに行くというようなことをやっています」

●実際に海の音を研究されて、わかってきたことはあるんですか?

「いや〜わかんないですね(苦笑)まだまだわかんないことばっかりです」

●本当に海って謎だらけなんですね?

「はい、謎だらけです」

写真提供:海洋研究開発機構

●海は本当に広くて深いので調べれば調べるほど、謎が増えていくように思いますけれども、今後、調査研究したいテーマはありますか?

「ひとつ大きいのは、深海生物がどうやって時間を感じているのかっていう研究は、いつかしたいなと思っているテーマです。深海生物が季節とか時間を感じているんじゃないかとか、いや感じてないとかっていうことは、昔から言われています。

 いずれにせよ、深海には太陽の光が届かないので、昼と夜ってわからないはずなんだけど、時々(深海生物は)わかっているんじゃないか、みたいなデータが取れることもあって、それが音と関係しているんじゃないかな〜っていう話につなげられると、ロマンがあって面白いかなと思って考えています」

●解明してください!

「(笑)頑張ります。応援してください!」

(編集部注:川口さんは、クジラやイルカなどの鳴き声を含め、海の中で鳴っている音は、きっと深海まで響いているので、その音を研究することで、生物の様子がわかるのではないか、そんなこともおっしゃっていました。

 川口さんが携わっている海の音をモニタリングするプロジェクトについて詳しくは、JAMSTECのオフィシャルサイトに情報が載っているので、ぜひチェックしてください)

☆海洋研究開発機構(JAMSTEC ):https://www.jamstec.go.jp/smartsensing/j/


INFORMATION

 

『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』

『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』

 川口さんの新刊をぜひ読んでください。海とは何か、地球とは何かを、生命の起源や深海の謎、気候変動の対策など、地球規模のテーマにそって探求する問答集です。謎だらけ、わからないことだらけの海について、深く潜って考えてみてはいかがでしょうか。エクスナレッジから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767833187

 「海ゴリラ」という名前で展開している川口さんのSNS「X」にもぜひアクセスしてみてください。

◎X:https://x.com/the_kawagucci

◎海洋研究開発機構(JAMSTEC):https://www.jamstec.go.jp/j/

海底下の微生物の謎、そして人類史上初の壮大なプロジェクトに迫る!

2023/9/24 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構JAMSTEC」の上席研究員「稲垣史生(いながき・ふみお)」さんです。

 JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、
科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。

 この番組ではこれまでにも、横須賀にあるJAMSTECの施設を取材したり、研究員のかたにお越しいただいて、深海に生息する生き物のお話をうかがったりしてきました。

 そして、今回お話をうかがう稲垣さんは、深い海のその下、海底下の岩盤に生きる微生物を研究されているスペシャリストで、国内外の科学に関する数々の賞を受賞、世界から注目されている研究者でいらっしゃいます。

稲垣史生さん

 稲垣さんは1972年、福島県郡山市生まれ。九州大学大学院の博士課程修了。専門は「地球微生物学」。この学問は稲垣さん曰く、地質学や地球科学と、微生物学を融合したもので、1980年代頃からアメリカを中心に広まっていったそうです。

 稲垣さんが、海底下の微生物を研究するようになったのは1994年、大学院生だった頃、図書館で手にした科学雑誌「nature」に掲載されていた論文に出会ったことがきっかけなんです。

 その論文には、それまで生き物はいないとされていた、深海の海底下、500メートルを超える地層に膨大な微生物が存在すると書かれていて、大きな衝撃を受けたそうです。この論文との偶然の出会いこそが、稲垣さんの壮大な研究の始まりだったといえます。

 当時は、そんな海底下の地層に本当に微生物がいるのかと、世界中で議論になったといいます。その後、いくつかの国際的なプロジェクトが組まれ、ようやく少しずつ海底下の生き物の正体が明らかになってきたそうです。そんな海底下の微生物の調査・研究をリードする存在が、今回お話をうかがう稲垣さんなんです。

きょうは稲垣さんが先頃出された本『DEEP LIFE 海底下生命圏』をもとに海底下の岩盤に生きる微生物や、人類史上初の科学プロジェクトのお話などをうかがいます。

☆写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

科学調査船『ちきゅう』は、洋上の研究所!?

※海底下の調査で活躍するのが、日本が世界に誇る船『ちきゅう』だと思うんですけど、稲垣さんの新しい本に掲載されている写真を見ると、豪華客船並みですよね。どんな船なのか、教えてください。

「そうですね。科学調査船としては世界最大かつオンリーワンの船と言っても過言じゃないと思いますね。
 全長は210メートルもあります。幅は38メートルで、総トン数が56000トンということですので、確かに豪華客船並みですよね。港で『ちきゅう』の写真を撮ろうとすると、近くからでは大きすぎて、全体が撮れないぐらい大きいんですよ。 なので、少し引き気味で遠くから撮らないと『ちきゅう』のいい写真は、なかなか撮れないですね」

●写真を見ると、船の上にやぐらのような大きな塔が立っていますけれども、これは何に使うものなんでしょうか?

「掘削をするとなると、パイプをひとつひとつ繋げて降ろしていく必要があるんですね。降ろす時にパイプを縦に引き上げて、それを海底に降ろしていく、そのための設備として、やぐらが必要なんです。

 このやぐら、非常に特徴的で高さは70メートル、水面からだと110メートルぐらいあります。パイプの吊り上げとか、連結のために必要なやぐらの下、船体の真ん中にムーンプールと呼ばれる穴が開いていまして、そこからパイプを降ろしていくというような仕組みになっています」

掘削で使うドリル・ビット
掘削で使うドリル・ビット

●どれぐらい深いところの岩盤まで掘ることができるんですか?

「『ちきゅう』は、現在のスペックですと、水深2500メートルの海底から約7500メートル掘削することができます。 これはライザー掘削という特殊な、石油業界で開発されてきた技術なんですけども、それを使うと2500メートルの海底から大体7000メートルから7500メートル掘れるということなんですね。パイプの長さが1万メートルぐらいと富士山の高さの大体3倍ぐらい、そのパイプを『ちきゅう』の船上に乗せるのに、あれだけ大きな船体が必要ということなんです。

 そういった石油業界のシステムを使わない掘削のやり方というのもあって、そうすると水深が2500メートルではなくて、もっと深い、例えば日本海溝のような数千メートルの深さから掘削をすることもできると、そういうすごい能力を持っています。

 『ちきゅう』の最も大きな特色は、やはり世界トップレベルの分析施設が船の上にあるということだと思うんですね。例えば、医療用のXCTスキャンとか電子顕微鏡まで船の上にあります。掘削によって採取してきた『コア』と呼ばれる棒状の地層のサンプル、これをXCTスキャンで分析をして、どんな地層なのかを瞬時に調べることができます。本当に船上に研究室がある“洋上の研究所”みたいな感じの施設になっています」

『ちきゅう』で作業中の稲垣さん
『ちきゅう』で作業中の稲垣さん

海底下は、キッツキツでアッツアツ!?

※稲垣さんの研究には欠かせないオンリーワンの船『ちきゅう』は、正式には地球の深い部分を探査するための船ということで、「地球深部探査船(ちきゅうしんぶたんさせん)」と呼ぶそうです。
 そんな『ちきゅう』は2005年7月に就航。その後、青森県八戸沖や、高知県室戸沖の海底下の掘削を行ない、地層のサンプルを回収しています。

 そのサンプルからどんなことがわかったんでしょうか。

「いろいろなことが分かりましたよ。私たちの本当に想像を超える膨大な数の微生物細胞がいることが、まず確かめられたということですね。 そして地層のサンプルから直接DNAを抽出して、その配列を読む。例えば、PCRっていう言葉は非常に一般的になりましたよね。あのPCRの原理を使って、微量なDNAを増やして、一体そこにどんな微生物がいるのか、というのを調べたということなんです。

 そうすると、地下にいる微生物は例えば、私たちの腸内細菌であるとか、もしくは発酵食品にいる納豆菌とか乳酸菌、そういう地上のありふれた微生物とは全く違う微生物たちで、その海底下の過酷な環境で独自の進化を遂げた、海底下にしかいない固有の微生物たちだったということが分かりました。そしてそれらが非常にゆっくりと活動することで地球規模の元素循環に重要な働きをしているということが分かってきました」

写真協力:海洋研究開発機構(JAMSTEC)

●稲垣さんは深い海の底の、その下の環境を”キッツキツでアッツアツの世界”と表現されていました。そんな過酷な環境にいる微生物は、どんな生き方をしているんですか?

「過酷なんですよね〜。海底下の世界って深くなればなるほど、古い地層だし、温度や圧力もどんどん高くなっていきます。そういった中で海底下の微生物はどうやって生きているんだろうと・・・極めてゆっくりひっそりと暮らしているようなイメージかと思います。ただただそこにじっとしていて、何百万年もの間、生き長らえていると言ってもいいかもしれません。

 そもそも岩石、もしくは堆積物の世界なので、その現場に水とか栄養が地表のようにバンバン供給されているような場所ではないわけです。食べるものが少ないので、超エコなサバイバル生活をしていると、そういうような世界だと思っています」

●何かしらのエネルギー必要ですけど、どうやってエネルギーを得ているんですか?

「すごくいい質問です! 基本的には我々が住んでいる地表の世界だと、太陽光がバンバンと降り注いでいて、活発にそのエネルギー使っていますね。しかし海底下深部、深海底のさらにその下となると、太陽の光は届きませんよね。そもそもエネルギーはどこから得ているんだろうと思いますよね。

 基本的には、地下に埋没した有機物が餌なんですけれども、非常に使いやすい有機物は地表で食べ尽くされちゃっているので、なかなかそれもご飯としては食べにくい・・・そうすると、何を食べているんだろう? どうやって生きているんだろう? っていうのが大きな謎なんですね。

 最近の学説ですと、岩石と水が相互作用することによって、実は微量な水素とか電子とか、そういったものがゆっくり出てくるということがわかっています。 実は地下の微生物は、そういう岩石と水との反応に生かされているっていうか、地球に生かされているような感じで、地質学的な時間スケールで、それこそ何百万年、何千万年も生きているんじゃないかと、そういう学説もあるくらいです」

回収された地層のサンプル
回収された地層のサンプル

究極のエコシステム!?

※私たち人類は、いま温暖化など地球規模の環境問題や、エネルギー問題に直面していて、SDGsもそうですが「持続可能」という考え方が求められていると思います。海底下の微生物を研究されていて、どんなことを思いますか?

「エネルギーが豊富にある世界に我々は住んでいるわけですけれども、海底下はエネルギーが枯渇した世界と言っても過言じゃない。そうすると、その差について考えさせられますよね。

 地表の世界は、太陽光の恩恵を受けた非常にエネルギーに満ちた世界なんですけれども、そこでは我々人間を含めて熾烈な競争とか自然淘汰のような進化が起きていますよね。
 ですが、海底下の世界だと太陽光が届きませんから暗黒で、本当にわずかなエネルギーしか利用できないということになります。逆にそのような環境では微生物たちはエネルギーを使い果たしてしまうと絶滅してしまうので、それを避けようとしているように見えます。

 つまり争いをやめて、究極のサバイバルモードに入っていると・・・。その差、もしくはその仕組みから、じゃあ人間社会がどういうふうに地球環境に寄り添って今後発展していくのか、持続可能性を創出していくのか、お手本になるといいますか、感覚的に学ぶ点が非常に多いなというふうに感じています」

●確かに微生物の生き方には、いろいろヒントがありそうですね。

「そうなんですよね。究極のエコシステムと言ってもいいんじゃないかと思います。 そこから持続可能性について何がわかるのか・・・。例えば、海底下の微生物生態系はおそらくですけれども、プレートテクトニクスとか、地震や火山活動とか、そういった地球本来のシステムに寄り添った形で進化して成り立っていると思うんですよね。

 また、エネルギーを無駄にする余裕は全くありませんから、自分の体のメンテナンス、例えば、DNAとかタンパク質等々が老化とともに損傷を受けますよね。そういったものを直していくためだけの、最小限のエネルギーしか使わずに、可能な限りのリサイクルをし、長いこと生きていると、そういう世界なんだなというのが分かります」

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

壮大なプロジェクト、マントル・アタック!?

※稲垣さんの本に、海底下の岩盤のその先にある、マントルを目指す構想があると書いてありました。どんな構想なのか、教えていただけますか。

「地球という惑星の体積の83%が『マントル』という物質でできているんですね。私たちが暮らすいわゆる地表の世界、海水とか陸の土壌とか、そういった地表の世界は、マントルの上に存在するシャボン玉の幕のような場所だとイメージしていただければいいと思います。

 で、マントルの色って何? ってよく(みなさんに)聞くと、赤いドロドロしたやつじゃないの? っていう人が多いんですけれども、実はそうじゃなくて、マントルは『ペリドット』っていう緑の宝石の成分を多く含む岩石なんですよね。ドロドロしているわけではありません。ペリドットっていう宝石や、もしくはガーネット、ダイヤモンドも含まれていると言われています。なので、宝石の世界と言ってもいいんじゃないですかね。

 そういったマントルに含まれるエネルギーが、実は地球のシステムを駆動していると言いますか、動かしている。例えば、どうして海洋が循環するのか? どうしてプレートが沈み込んで地震が起きるのか? そういったさまざまな地球の事象は、実はマントルの動きにそのヒントがあると考えられています。

 なので、地球に生命がいるという状態を、マントルが作り出していると言っても過言じゃない。だけど人類は、まだマントルに到達したことがないんですね。そのマントルそのものの実態はまだ不明の点が多いということで、マントルを目指すという構想があります」

●すでに候補の海域とかってあるんですか?

「マントルに到達するにはもちろん深く掘削をしていく、そして調査をするということが必要なんですが、マントルの上に存在する地殻の厚さが重要なんです。地殻は岩石です。もちろんマントルも岩石なんですが、地殻の岩石の厚さが重要で、陸の近くは分厚すぎて、マントルに到達するのはおそらく難しい。でも海洋であれば、地殻の厚さが比較的浅い場所がいくつかあって、マントルに到達することができるんじゃないかと考えられています。

 現在はハワイ沖、コスタリカの沖合、そしてバハカリフォルニアというカルフォルニア半島の沖合、その3地点が比較的マントルに到達するまでの距離が短いので、掘削調査の候補地点として挙げられています」

※マントルへの到達を目指す、人類史上初の国際的なプロジェクトには、日本が世界に誇る科学調査船『ちきゅう』が大活躍することになると思うんですけど、プロジェクトが進行し、実現するのはいつ頃になりそうですか?

「なかなか答えるのが難しいんですが、国際的な科学者コミュニティーが最近、白書と言いますか、意見を取りまとめた文章を公開しておりまして、そこには、2050年までに実現すべき科学目標のひとつとして、マントル掘削というのが位置付けられていると・・・。

 ですから、先ほども申したように、まずその掘削候補となっている場所の地質を調べて、そしてマントルに至る途中の岩石を掘ってみて、どういう技術的な課題を克服しなければいけないのか、そういったものを見定めた上で最終的には“マントル・アタック”をやるというように、一歩一歩前進していくことが大事だと思います」

●ワクワクしますね!

「そうですよね。そもそもハワイ沖ですと日本に近いわけですが、水深4200メートルの海底から大体6000メートルぐらい掘削するとマントルに到達すると・・・、もしくは地殻とマントルの境界を貫いて、マントル、いわゆる宝石の世界に人類が初めて届くということになるんじゃないかと、そういうふうに考えられています」

生命の起源と地球の謎に迫る!

※果たして、アッツアツのマントルに微生物はいるのでしょうか?

「マントルに生命がいるのか? って言われると、いや、いないでしょうというふうに答えるかと思うんですけども、ハワイ沖であれば、上部マントルの温度はだいたい150度ぐらいと考えられているんですね。この間、室戸沖で掘った120度の地層にも微生物はいましたから・・・いや、どうなんでしょうかね・・・その生命が存在するかとか、もしくは生命の起源の鍵となるような化学反応が起きているかどうか等々、生命に関する多くの疑問がマントル掘削によって明らかになるんじゃないでしょうか。

 もちろん地球の構造はどうなっているんだろう? とか、そもそも地球はどんな星なんだ? っていうことが明らかになるわけですから、さまざまなことが発見されると思うんですけど、生命にとっても非常に重要な科学的な問いが、マントル掘削によって満たされるんじゃないかと思います。その鍵になるのは”水”だと思っています」

●水!?

「はい、つまり生命が存在する、もしくは生命の起源となる化学反応が起きる、つまりそれは、岩石と水との反応がないと、なかなか難しいと思うんです。
 岩石の中、地球の中にどれぐらい水があるのか? というのも、実は第一級の科学的な問いになっていて、その水が供給される何らかのメカニズムがあると、低温のマントルを含めて、そこに生命が存在する可能性というのは否定はできない、それを検証したいと思いますよね」


INFORMATION

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

『DEEP LIFE 海底下生命圏~生命存在の限界はどこにあるのか』

 稲垣さんの新しい本をぜひ読んでください。海底下の岩盤に生息する微生物研究の歴史や動向、そして最前線を知ることができますよ。なにより稲垣さんの、研究にかける熱い思いを感じます。
 講談社のブルーバックス・シリーズの一冊として絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎講談社 :https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000377075

 JAMSTECのオフィシャルサイトもぜひ見てくださいね。科学調査船「ちきゅう」の説明や写真も載っていますよ。

◎JAMSTEC :https://www.jamstec.go.jp/j/

シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第8弾!「目指せ! プラスチックフリーのライフスタイル!」

2022/9/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第8弾!「目指せ! プラスチックフリーのライフスタイル!」。

 ゲストは、情報サイト「プラなし生活」を運営されている「中嶋亮太(なかじま・りょうた)」さんと「古賀陽子(こが・ようこ)」さんです。

 中嶋さんは実は、国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECの研究員で、海洋プラスチックの調査・研究をされていて、2年ほど前にもこの番組にご出演いただきました

 古賀さんは、プラなし生活を実践している主婦として、主婦目線で見つけたプラごみを減らすアイデアや優れものの生活雑貨などの情報を発信されています。

 きょうはおふたりが先頃出された本『暮らしの図鑑 エコな毎日』をもとにお話をうかがっていきますが、今回は国連サミットで採択された「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」について考えていきましょう。

そして今週はプレゼントがありますよ。先頃、おふたりが出された本『暮らしの図鑑 エコな毎日』を、抽選で3名のかたにプレゼント! 応募方法はこちら

『暮らしの図鑑 エコな毎日』

 お話をうかがう前に、プラスチックフリーの生活を目指すための基礎知識。

 あなたのおうちにプラスチックで作られたもの、たくさんありますよね。実は、毎年作られるプラスチックの4割近くは、食品トレーやポリ袋などの容器包装、いわゆる「使い捨てプラスチック」なんだそうです。

 日本は、ひとりあたりが消費する容器包装プラスチックの量は、世界第2位。確かにスーパーに行けば、ほとんどの食材がプラスチックで包まれていますよね。

 でも、プラごみを捨てるときは、リサイクルのために、ちゃんと分別しているから、問題はないと思っていたんですが、日本ではプラごみのおよそ70%は焼やしていて、日本国内でリサイクルされているのは、わずか8%ほどだそうです。

 世界の海に流れ出ているプラごみは2050年には魚の量を超えるとも言われています。自然環境では分解されることがほとんどないプラごみ、少しでも減らさないと、近い将来、地球は「ごみの星」になってしまうかも知れませんね。

☆写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

おうちですぐ減らせるプラごみ

※それでは中嶋さんと古賀さんにお話をうかがいます。本に掲載されているアイデアやヒントの中から・・・まずは、生ごみを、ポリ袋ではなく、新聞紙で作ったごみ袋にためて処分することを提案されていますが、新聞紙のごみ袋はすぐ作れそうですね

中嶋亮太さん・古賀陽子さん

古賀さん「そうですね。慣れたらひとつ20秒くらいで作れるんですよ。新聞紙にはすごくメリットがあって、ポリ袋だと通気性がないので悪臭がして、虫が寄って来やすくなるんですけど、新聞紙だとそういうことがほとんどなくて、ものすごく快適に生ゴミの処理ができますね。

 あとは新聞紙って自然に乾いていくので、焼却する時のエネルギーも少なくて済みます。生ごみの80%が水分って言われているので、少しでも省エネに役立つんじゃないかなと思っています」

●本にはイラストで作り方が載っていました。必要なものは新聞紙1枚、大きなサイズでも新聞紙が2枚あれば作れる、本当に簡単なものですよね。

古賀さん「そうですね。新聞紙を持っているかたは、ぜひ作ってみていただきたいなと思っています」

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

●あと台所でもお風呂でも、固形の石鹸を使うことを推奨されていましたけれども、固形を使うメリットは、どんなところにあるんでしょうか? 

古賀さん「液体の洗剤だと、ボトルとか詰め替えパックがプラスチックのごみになるんですけど、固形の場合は紙包装のものもあるし、仮にプラスチック包装だとしても、すごく小さなごみだけで済みますよね。

 あと成分的にも優れていて、石鹸の成分が凝縮されているので洗浄力は高いですし、液体に比べて、刺激の強い成分とか保存料なんかもほとんど入っていないので、洗浄力は高いのに肌に優しいっていうのがすごくいい点です」

●油汚れが落ちにくいイメージだったんですけど、そんなことはないんですね。

古賀さん「そうですね。使い方にちょっとコツがあるんですけど、最初にギトギトした油汚れは、あらかじめいらない布とかで拭き取って洗ってもらうと、すごく綺麗になりますね。

 石鹸で洗ったあとも水を張ったタライにつけないほうがいいです。なんでかって言うと、泡の中に閉じ込めた油がタライの水の中に広がっちゃうんですよね。それでほかの食器が汚れちゃったりするので、ためすすぎはせずに一個一個洗っていったほうが綺麗になりやすいです」

●食器洗い用のスポンジは、プラスチック製のものだとダメなんでしょうか?

中嶋さん「プラスチック製のスポンジやタワシは、だいたい使っているうちに小さくなってきたりするんですけど、あれってプラスチックが削れて、微小なマイクロプラスチックになって下水に流れているんですよね。だから使っていくうちにどんどん環境を汚染していくことになるんですよ。なのでプラスチック製のスポンジやタワシを、天然素材に代えることがとってもおすすめなんです」

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

●例えば、どんなものがいいんでしょうか?

中嶋さん「例えば木綿で作られたガラ紡のふきん、よく『びわこふきん』って名前でも売っているんですけど、これがとってもよく落ちるんですよね。
 あとは、ちょっと焦げ付きのものとかであったら、白のタワシ、天然素材でできたタワシもよく落ちます。それだけあれば、まったく困ることないですね」

(編集部注:先ほど、固形洗剤のお話がありましたが、古賀さんによると髪の毛がさらさらになる美容成分の入った固形シャンプーがあるそうですよ。
 また、食品用にたくさん使ってしまうラップ、これもすぐごみになってしまいますよね。『暮らしの図鑑 エコな毎日』には、みつろうラップなどで代用するアイデアが載っていますので、ぜひ参考になさってください)

洗濯バサミをステンレス製に

※本ではステンレスの洗濯バサミやハンガーが紹介されていました。プラスチックより、ステンレスのほうがいいということなんですね?

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

中嶋さん「小尾さんの家に多分、プラスチック製の洗濯バサミがあるかもしれないんですけど、使っているうちに割れますよね。あれ、実はプラスチックが劣化して割れて、そのうちマイクロプラスチックになって、一部が飛んでいって、その割れた小さなプラスチックの破片はずっと消えずに環境に残るんですよ。

 どうしてもプラスチックって劣化していく、特に外に置いてある洗濯バサミは青い洗濯バサミが多いですよね。なんでかって言うと、青いと劣化の要因となる紫外線をちょっとはね返すことができるんですよ。だから劣化を少しでも遅らせるために洗濯バサミを青くするんですね。

 洗濯バサミだけじゃなくて、外に置いてあるバケツも青いですよね。外に置いてあるコンテナとかも青いですよね。ごみ箱も青いと思います。それはみんな劣化を遅らせるためなんですけれども、やっぱりどうしても、使っているうちに白っぽくなっていきますよね。あれは色が抜けていって、それで劣化して割れてしまうんです。
 なので、そういった心配がないステンレス製に代えていく、洗濯バサミもステンレス製に代えれば、ずっと劣化することなく使えますので、とってもおすすめですよ」

●毎日使うものですよね。あとトイレットペーパーを箱買いするというアイデアも載っていました。これはどんなメリットがあるんでしょうか?

古賀さん「小分けで売られているトイレットペーパーもプラスチック包装されていて、消耗品なのでよく買うし、その度にかさばるごみが出てしまいますよね。
 いろいろ探してみると業務用のトイレットペーパーを見つけまして、ダンボールに40個ぐらい入っていて、ひとつひとつの包装、紙包装も何もないんですよ。そのままきっちり入っていて、売られているんですね。

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

 そういったものを買って(トイレットペーパーを)一度にまとめ買いしちゃって、たくさんあるのでティッシュペーパーの代わりにもなるんですよ。例えば鼻をかんだりとか、油汚れを拭く時に使ったりもできますね。使う分だけちぎって使えるので無駄がないですし、あとは災害時とか緊急事態の時の備蓄にもなるので安心感もありますね」

●お掃除用の洗剤の代わりに、重曹やクエン酸が大活躍とも書かれていましたね。

古賀さん「はい、以前は私もいくつも専用の洗剤を買っていました。いろんな種類があるから、収納も結構大変なことになってたんですけど、家の汚れって、実はそんなに大したものがなくて、重曹とかクエン酸で十分綺麗になるんですよね。

 例えば、台所の油汚れも重曹を溶かしたスプレーをかけておいたら落ちますし、焦げなんかも、重曹は研磨剤の代わりにもなるんで、それを振りかけて擦れば綺麗になりますし、本当にいろんなところに使えますね」

長く続けることが大事

※プラスチックをなるべく使わない生活をしようと思っても、私たちの身のまわりには、プラやビニールがあふれていますよね。やっぱり無理! と思ってしまうかたにアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?

古賀さん「確かに自分ひとりではどうにもならないことってたくさんあって、社会が変わらないといけない面もほんとにたくさんあると思います。でもだからといって、何もできないってことはないと思うんですよね。

 まずは自分の生活を振り返ってみて、変えられるところから始めてみてほしいんですよ。でも完璧にやるっていうことよりも、長く続けることのほうが大事なので、ほんとに小さなことでも長く続けていけば、大きな成果になっていくと思います。

 あとは企業とか、お住まいの地域の自治体に対しても、もっとこういうものがあったらいいなとか、こんな仕組みができたらいいのにっていう要望を伝えていくってことも大事になってきますね」

●主婦のかたですと自分ひとりが気をつけていても、ちょっと主人がとか、息子がとか、いろいろなことがあると思うんですけど、家族みんなで意識を変えるいい方法はありますか? 

古賀さん「私も最初は結構突っ走って(笑)、理屈っぽくなったり押し付けみたいな感じになってしまった時がありましたね。でもいくら正論を言ったところで、分かっているけど、ついていけないみたいな感じ、反感をかってしまうことがあるので、そういうのは一切やめましたね。

 今は、私はこういうことが気になっているとか、私はこういうことが好きっていうのをさりげなく言ったりしています。なので、ふとした時に周りが、家族が気をつけてくれることが、ちょっとずつ増えてきたような感じがしますね。

 あとは家族が興味のあることにリンクさせていくといいかなと思います。例えば、可愛いものが好きなら、海のプラごみで作った綺麗なアクセサリーの話をしたりとか、何か欲しいものがあるんだったら、エシカルな商品を一緒に見たりとか、そこから話題が広がっていったりもしますね」

中嶋さん「さっき話していた新聞紙で作るごみ袋は、子供のお小遣い稼ぎにとっても良くて、1枚作ったら10円とか。そうすると子供たちは楽しみながら作って、その時になんでこうやって(新聞紙のごみ袋を)作らなきゃいけないのっていう話をしたりすると、どうして問題なのかを自然に分かってくれたりしますよね。子供ってとっても敏感なのですぐ理解してくれたりします」

●確かに楽しみながら学べるのは素晴らしいですよね。おふたりはプラなし生活をしてみて、どんなことが喜びとして感じますか?

古賀さん「私は普段使うものに愛着がわくようになりましたね。しっかりひとつひとつ選んで、質のいいものを長く使うことに気をつけていると、ひとつひとつのものに愛着がわいてきて、そういったものを使いこなせていることにも自信がつきますね。なので、使い捨てのものをちょいちょい買う無駄もなくなったっていうのがよかったなって思っています」

中嶋さん「私の場合は、間違い探しでもなくてパズルでもないですけど、“あ! こんなところもプラスチックが使われている”っていうのを見つけて、“これはこれに代えられるじゃん”っていうのを見つけた時の喜びは、僕も古賀さんもとっても大きいですね」

●エコな商品は価格がちょっと高いイメージがあるんですけれども、購入をためらうかたに声をかけるとしたら、どんな声をかけますか?

古賀さん「無理に高いものを買う必要はないですし、一気に買い換える必要はないと思うんですね。今、家にあるプラスチック製品で、まだ使えるものは大事に使い続ければいいと思いますし、新しく買い換える時にひとつずつじっくり選んで欲しいですね。
 今は価格が高くても購入者が増えると、ロット数も増えて価格が下がることもあるので、長い目で見て計画的に切り替えてもらうと無理がないかなと思います」

日本近海は、ごみの溜まり場!?

※海洋研究開発機構JAMSTECで海洋プラスチックを調査・研究されている中嶋さんにお話をうかがいます。2年ほど前にご出演いただいたあと、なにか新たな発見などありましたか?

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

中嶋さん「はい、前回小尾さんと話した時は、深海の水深約6000メートルの海底に行った時の話をしましたよね。なぜあの調査をしたかというと、プラスチックごみが行方不明になっているのが問題だったんですね。

 ひとことで言うと、海にはたくさんのプラスチックごみが流れ込んでいるんですけど、実は海面にぷかぷか浮かんでいるごみって、全体の1%くらいしかなくって、残り99%はどこかに行っちゃっている、行方不明になっているというのが問題だったんです。

 おそらくほとんど深海に沈んでいるんじゃないかってことで、深海の調査を開始したわけです。前回小尾さんにお話しした時は、水深約6000メートルの海底のごみの調査をした時のお話しをしたんですけども、新たに分かったことは、前回調査した房総半島から500キロメートルぐらい離れた、陸からすごく離れているところの海底に落ちていたごみが、世界でもトップクラスに多かったっていうことがわかったんですよ」

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

●えぇ〜! 世界でトップクラスですか?

中嶋さん「はい、世界の同じような水深帯で比べたら、間違いなく世界一という、ほかの陸から近いようなところと比べても、やっぱり多かったんですね」

●そんなに!?

中嶋さん「つまり、どういうことかと言うと、やっぱり日本の近海の深海底は、ごみの溜まり場になっていることを意味しているんです。今後は、今年の冬も来年も調査は続けていくんですけど、日本の周辺でもっとごみが溜まっている深海があると予想されているので、そういったところをどんどん明らかにしていく予定です」

●今後、解き明かしたいことと言うと・・・? 

中嶋さん「今後解き明かしたいことはやっぱり、日本の近海の海底に沈んでいるプラごみの量を見えるようにすることです。ちょっと難しく言うと可視化するってことなんですけど・・・。

 深海に沈んでいるごみって見えないじゃないですか。海に浮いていたら見えるけど、深海にいっていたらまず見えないので、そこにたくさんのごみがあることがだんだん分かってきましたから、日本の周辺のどこの深海にどれだけごみが溜まっているのか、どのように溜まっていくのか、そういったことを知ることが、今後プラごみを減らすための対策を打ち立てていくうえで、とっても重要な情報になるんですね。なので、まずは見えるようにすることが目標です」

写真協力:中嶋亮太、古賀陽子、プラなし生活、海洋研究開発機構

●コロナ禍で何か海洋ごみに影響はあったんですか?

中嶋さん「コロナになって、まずはマスクのごみと手袋のごみが世界中で増えたんです。マスクなんて毎月、世界中で数千億枚とか使われていますので、非常にたくさんごみになって環境に漏れ出ていますよね。やっぱり落ちているのを見たことありますよね」

●あります〜。

中嶋さん「ああいうことが世界中で起きていて、それがやっぱり海にも入っていますし、あとコロナ禍になって、使い捨てのプラスチックの消費量が圧倒的に増えました。どうしてもテイクアウトするようになりますし、なんでも使い捨てのほうが安心っていうのもあって、やっぱり使い捨てが増えたのは否めないですね」

目指せ! プラなし生活

※ところでいま、おふたりがいちばん減ったらいいなと思うプラごみは、なんでしょうか。まずは古賀さんからお願いします。

古賀さん「私は個人的にはポリ袋ですね。スーパーでお買い物をした時に、お肉とかお魚を小さなポリ袋に入れて渡されることがよくあるんですけど、毎回レジに行く前に、ポリ袋はいりませんって言わないといけないっていうのがあって・・・。汚れないようにするために、そうしていただいているのは分かるんですけど、せめてレジ袋みたいに、いるいらないを選択できたらいいなって思っています」

●確かにそうですね〜。これ、ポリ袋に入れましょうか? っていうのを聞かれる前にもう入れられていますよね、中嶋さんはいかがですか?

中嶋さん「いろいろありますけど、特に思うのは使い捨てのお手拭きですね。日本ってレストランに行ってもフードコートに行ってもどこに行っても、お手拭きを出されますよね。お弁当の中にも入っていることありますし、こんなにお手拭きを配っている国は日本しかないですよ。

 ファミリーレストランでも、お手拭きを何気なく渡されて、当たり前のように開けて手を拭いて、(テーブルに)置いておきますよね。見た目がめちゃめちゃ汚いんですよ。ご飯を食べ終わったあとにトイレに行って戻ってきて(テーブルを見ると)袋とお手拭きがすごく散乱していますよね。

 見た目も良くないし、お手拭きの袋もプラスチックでしょ。お手拭き自体もプラスチックでできているんですよ。あれは不織布ですよね。不織布ってプラスチックを混ぜて作りますので、あれは使い捨てプラスチックなんですね。とにかくこれをなるべく出さないようにするには、みんな手を洗えばいいんですよ。
 そういうふうにちょっと習慣を変えていくだけでも、ごみの量は大きく減るんじゃないかなと思っています」

●確かに当たり前とみんなが思ってしまっていますよね。
 では最後におふたりにお聞きします。プラなし生活を実践してきて、ご自身の中で何が自分でいちばん変わりましたか?

古賀さん「私は使い捨てを見直すようになって、本当に必要かどうかをすごく考えるようになりましたね。新しく買うときもすごく慎重になっていて、ごみになったらどうやって捨てるのかなとかいろいろ考えるようになりました。

 あとは買わずに、あるものでどうにかできないかとか、自分で作ることも増えましたね。それによって好奇心みたいなものが満たされて、クリエイティヴなことが増えていくのがすごく楽しいですね」

●中嶋さんはいかがでしょう?

中嶋さん「私はやっぱり研究者なので、こういったプラスチックが健康に影響するかもしれないというのを見つけることにやりがいを感じるようになりましたね。

 この問題を解決するのは私たちの世代だけじゃなくて、今の若い世代、あるいは子供たち、未来を担う時代の主役たちに問題を伝えていかなくちゃいけないんだっていう意識が、どんどん高まってきましたね。プラなし生活を通じて、なぜこれは問題なのかっていうことをどんどん広めていって、さらに知ることでアクションにつながるので、そういった活動をもっともっと広げたいなって強く思うようになってきました」

(編集部注: SDGsの目標「つくる責任 つかう責任」そして「海の豊かさを守ろう」は、あまりにもプラスチックに依存している、私たちのライフスタイルを見直すためにある目標なのかも知れません)


INFORMATION

『暮らしの図鑑 エコな毎日〜プラスチックを減らすアイデア75×基礎知識×環境にやさしいモノ選びと暮らし方』

『暮らしの図鑑 エコな毎日』

 おふたりの新しい本をぜひ参考になさってください。プラスチックを減らすためのアイデアや情報、基礎知識が満載です。写真を豊富に使ってわかりやすく解説、プラなし生活を目指すための、まさに参考書です。おすすめです。

 「翔泳社」から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎「翔泳社」HP:https://www.shoeisha.co.jp/book/detail/9784798173580

 情報サイト「プラなし生活」もぜひご覧ください。

◎「プラなし生活」HP:https://lessplasticlife.com/

◎国立研究開発法人「海洋研究開発機構」JAMSTECのオフィシャルサイト:https://www.jamstec.go.jp/j/

<プレゼントの応募方法>

『暮らしの図鑑〜エコな毎日』を抽選で3名のかたにプレゼントいたします。
応募はメールでお願いします。
件名に「本のプレゼント希望」と書いて、番組までお送りください。
メールアドレスは flint@bayfm.co.jp

あなたの住所、氏名、職業、電話番号を忘れずに。
番組を聴いての感想なども書いてくださると嬉しいです。

応募の締め切りは 9月9日(金)。
当選発表は発送をもって代えさせていただきます。
たくさんのご応募、お待ちしています。
応募は締め切られました。たくさんのご応募、誠にありがとうございました。

行方不明の海洋プラスチックごみを探せ!〜深海調査と「プラなし生活」〜

2020/12/13 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋研究開発機構JAMSTEC(ジャムステック)の研究員「中嶋亮太(なかじま・りょうた)」さんです。

 中嶋さんは1981年、生まれ。創価大学大学院・修了後、サンゴ礁の動物プランクトンの研究で博士号取得。2012年からJAMSTECの研究員、現在は主に海洋プラスチックについて研究されています。

 JAMSTECは海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、調査用の船「ちきゅう」や「よこすか」ほか、有人潜水調査船「しんかい6500」などを保有しています。

 そこできょうは中嶋さんに、「しんかい6500」による房総半島沖の調査や、海の生き物に与える影響ほか、中嶋さんがブログ「プラなし生活」で発信している減らすヒントについてうかがいます。

☆写真協力:JAMSTEC、中嶋亮太

「しんかい6500」(写真提供:JAMSTEC)
「しんかい6500」(写真提供:JAMSTEC)

深海で見つけたチキンハンバーグ!?

*中嶋さんは去年「しんかい6500」に乗船し、房総半島沖の、深さおよそ5700メートル付近の調査を行ないました。そこはどんな世界が広がっていたんですか?

「私たちが潜ったところは深海平原といって、まさしく平原、平らな泥の海底がずっと続くんですね。透明なナマコがいたり、ヒトデがいたり、いろんな生き物がいるんですけど、ずっと(海中を)走っているとゴミがいっぱい出てくるんですね」

●そんな奥底にあるわけですね。

「そうなんですよ。真っ暗闇なので、ライトを照らしながら行くんですけど、そうすると目の前に白いゴミが浮かび上がってくるんですよ」

●白いゴミ? 

「白いレジ袋ですよ。レジ袋だけじゃなくて、あそこにも、あそこにもゴミがあるって感じで、たくさんありました」

●分解されずに残ってしまっているってことですよね。

「分解なんて絶対しないですよね。いちばん分解しないんだなって思った瞬間が、私が潜っている時に、面白いものを拾って。
 ゴミを見つけるとパイロットの人に、あのゴミを取ってくださいってお願いするんですよ。そうすると、すごい手さばきで、マニピュレータっていうロボットのアームを動かして、ゴミを拾ってくれるんですね。

房総半島沖、水深約5700mで撮影されたチキンハンバーグの包装袋。昭和59年製造(写真提供:JAMSTEC)
房総半島沖、水深約5700mで撮影されたチキンハンバーグの包装袋。
昭和59年製造(写真提供:JAMSTEC)

 それを持ち帰って、船の上に上げて見てみたら、チキンハンバーグの袋だったんですけど、製造年月日を見たら、昭和59年って書いてあったんですよ。だから拾った時点で既に35年前、だけど印刷はすごく綺麗で、何も劣化は見られなくて、深海に落ちたら、もう劣化することはないんだなっていうのは目の当たりにしました」

●どうして中嶋さんたちは深海に焦点を当てているんですか? 

「実は私たちJAMSTECのミッションのひとつが、行方不明のプラスチックを探しに行くことなんですよ」

●行方不明? 

「実は大量のプラスチックが海に入っているんですけれども、そのほとんどがまだ見つかってないんです。海の中のどっかにあるんですけど、どこに行ったか分からないんですよ。具体的にいうと、今私たちが、海の上にたくさん浮かんでいるよねって、映像とかで見るプラスチックの量は、実は海に入っちゃった量の1%もないんですよ」

●え、そうなんですか!?

「そうなんです。少なく見積もっても海に1億5000万トンのプラスチックがあるはずなんですね。だいたい計算上、そのうちの4500万トンぐらいは、広い外洋をプカプカ浮いているはずなんですけど、研究者たちが4500万トン浮いているはずだ! と思って研究調査船に乗っていろいろ海を調べても、どう頑張って推定しても44万トンぐらいしか浮いてないんですよ。

 44万トンを4500万トンで割って100かけると1%もないんですね。残り99%がどっかにいっちゃってるんですね。それがどこにいったのか、多分深海に沈んだんじゃないかって言われていて、じゃあ深海のどこにたくさん溜まっているのかを暴いてやろう、それが私たちのミッションのひとつです」

(写真提供:JAMSTEC)
(写真提供:JAMSTEC)

●調査海域を房総半島沖にしているのは、なぜなんですか?

「房総半島沖をやっている理由は、黒潮がちょうど太平洋に入り込む分岐点なんですね。黒潮って南の方から流れて、九州、四国を通って、千葉の犬吠埼辺りで急に進路を東向きに変えて、アメリカの方に流れていくわけですよ。

 その時にぐるぐるって大きな渦を巻いてしまうんですね。その渦の中にプラスチックがたくさん溜まるんですよ。渦に囲まれてプラスチックが溜まって、その溜まったプラスチックが下に沈んでいく、だからあの辺りはたくさんプラスチックが沈んでいると考えています」

●だから房総半島沖で調査されているんですね。

「していますね。でももっと怪しい場所もいっぱいあるんですよ。実は四国沖の黒潮がもっと大きな渦を巻くところがあるんですね。そこにも大量のゴミが沈んでいると予想されているんですけど、まだ誰も行ったことがないので、来年調べに行きます!」

毎年、東京スカイツリー600個分!?

※ところで、世界で1年間にどれくらいの量のプラごみが、海に入り込んでいるのでしょうか?

「1年間に、海と河川を両方合わせると、2100万トンあるって言われています。2100万トンっていうと、重さにして東京スカイツリー600個分ですね。それと同じ重さのプラスチックを海と川に毎年捨てています。

 何でこんなに海とか川に入っちゃってるかっていうと、原因は2つあって、1つはプラスチックを作りまくっているからです。作りまくって、大量生産して、大量廃棄しているから。もう1つの理由が、ゴミがちゃんと管理できていないんですね。その2つが原因です。ちなみにじゃあ小尾さん、1年間に何億トン、プラスチックが作られているか知っていますか?」

房総半島沖で撮影された海洋を漂うプラごみ(写真提供:JAMSTEC)
房総半島沖で撮影された海洋を漂うプラごみ(写真提供:JAMSTEC)

●え! 想像もつかないです、どれくらいなんですか? 

「1年間に4億トン超えているんですよ」

●え!?

「4億トンっていうと、東京スカイツリー何個分でしょうか・・・。答えは1万個分以上あるんですよ。東京スカイツリー1万個分と同じ重さのプラスチックが毎年作られている。
 で、そういったゴミがだいたい捨てられて、そのうちの半分ぐらいが使い捨てプラスチックのために作られているんですよ。だから瞬く間にゴミになるんですよ。そういったゴミがちゃんと管理できてない。ちゃんとゴミ箱に入ってないとか、ちゃんと回収されてないと、環境に漏れ出すんですね。
 小尾さん、レジ袋を風に飛ばしたことってありますか?」

●あえて飛ばしたことはないですけど、あっ! 飛んでっちゃった! みたいな経験はあります。

「 飛んでちゃった! ってありますよね? あれ誰でもありますよね。そういうことが世界中で刻々と起きているわけです。それはほんの一例で、どっか行っちゃった! ってことは、もう世の中ごまんと起きていて。
 それならまだいいほうで、ゴミ箱がちゃんとないところとかもありますから、そういうところはバンバンその辺に捨てられていますよね」

●そういったプラスチックごみが、どういうルートで海にいっちゃうんですか? 

「それは例えば、朝、ゴミ捨て場を見に行ったらカラスが(ゴミ袋を)破っていることあるじゃないですか。そうしたらプラスチックごみが散乱していますよね。 風が強かったら、全部飛ばされていきますよね。雨が降れば流されていきますよね。排水溝に入ってそのまま川に入って、海に入ります。
 日本だったらそういう感じですけど、海外だと違法に埋め立てたゴミとかも嵐に飛ばされて、どんどん海に入っていきます。

 私たちが家庭で出している、排水溝から流すプラスチックごみも実はたくさんあるんですよ。1つが冬になると着るフリースです。フリースはポリエステルでできていますけれども、洗濯するとたくさんの毛が抜けて、それが排水溝を流れていって、下水処理場に行って一旦ストップするんですけど、やっぱり少し漏れだすんですよ。で、雨が降るともう処理ができないからほとんど流れ出して、それがやっぱり海に入ってしまう。

 洗顔フォームとかにもよく毛穴の汚れを落とすスクラブ粒とか入っているじゃないですか。あれって結構プラスチックが多いんですよ。それで洗顔するとプラスチックが排水溝を流れていくっていうことが世界中で起きていますね」

マイクロプラスチックと化学物質

マイクロプラスチック。1円玉との比較で極小だとわかる(写真提供:中嶋亮太)
マイクロプラスチック。1円玉との比較で極小だとわかる(写真提供:中嶋亮太)

※海のプラごみの中でも、5ミリ以下の「マイクロプラスチック」が、より深刻な問題だと聞いたことがあるんですが、そうなんですか?

「そうなんですよ。とにかく小さいので、ありとあらゆる生き物が食べちゃうんですよ。小さなプランクトンから、それこそクジラだって海水を飲み込む時に飲み込んじゃうわけですよ。そういうのはだいたい食べてもうんちになって出ちゃうから、影響ないんじゃないの? って人も多いんですけども、実はもっと懸念されているのが、そのマイクロプラスチックにくっ付いている化学物質なんですよね。

 プラスチックって製造する時に、いろんな化学物質を加えるんですよ。添加剤っていうんですけど、プラスチックそのものだと劣化しやすくて、すぐ割れちゃったり、色が抜けちゃったりとかあるので、いろんな薬を入れるんですけれども、そういった薬を生き物が食べると脂肪に溶け込んだりするものがあるんですよ。

 脂肪に溶け込んじゃうタイプは、脂肪の中にずっと溜まっていくので、そうすると例えば、小魚が脂肪に溜め込むでしょ? するともうちょっと大きい魚がまた食べると、もっと化学物質の濃度が脂肪に溶け込んで、どんどん濃くなっていくんですよ。
 で、マグロが今度それを食べてもっともっと濃くなって、人間がその濃くなった(マグロの)化学物質をいただくんです。水銀生物濃縮とかよく聞きますけど、同じような理屈で、プラスチックに入っている化学物質が生物濃縮していくものがあります」

●私たち人間の健康にも影響が出てくるってことですよね?

「可能性はあります。まだ現段階では、これっていうのは分からないことがいっぱいあるんですけれども、可能性はやっぱりあって。

 忘れちゃいけないのは、プラスチックの量は今後も爆発的に増えていくことなんですよ。今、年率5〜7%の勢いで増えているんですけれど、人口が増加する量よりも、すごい勢いで増えていますからね。それに応じて海に出るプラスチックの量も増えています。

 そのうちですね、今ししゃもが美味しいですけど、ししゃもを食べたら、お腹からプラスチックが出てきちゃうなんてことも起きる可能性はありますよね。すでに一部の魚ではもうお腹から出てきていますし、出てきてもおかしくはないかな。ただそういう頻繁に目にしちゃうような世界が、何十年後に起きる可能性はありますね。
 あと社会的なダメージもやっぱり大きくて、ゴミがたくさん観光地に落ちていたらもう行きたくないですよね?」

●確かにそうですね〜。

「それで観光業がやっぱり収益が減っているのも事実なんですよ。世界中で起きています。で、やっぱり掃除しないといけない。すると掃除するコストはすごくバカにならないんですね。あと船の運航とかも妨げられちゃうんですよ。例えばレジ袋がいっぱい海に浮いていたら、スクリューに絡んで船が止まっちゃうじゃないですか。そういった事故もやっぱりあって、年間に、最大の見積もりで250兆円ぐらいの損失が起きるって言われています」

●え〜!? もうどうしたらいいんですか? 

「もうとにかく減らすしかないです。これ以上海に入らないようにするしかないです。実はもう海に入ったプラスチック回収ほぼ不可能です」

●えっ!?

「だって、さっき私が言ったように、(海に)浮いているのって1%もないんです。深海に入ったら回収できないし、ましてやマイクロプラスチックになったらもう回収なんてできないです」

房総半島沖、水深約5800mで撮影された風船(写真提供:JAMSTEC)
房総半島沖、水深約5800mで撮影された風船(写真提供:JAMSTEC)

3R+断る!

*中嶋さんは「プラなし生活」というブログで、プラスチックに頼らないライフスタイルを発信されています。生活からプラスチックを減らすヒントをうかがう前に、改めて、なぜ減らすのか、お話いただきました。

「やっぱり減らすことが、科学的にいちばん海のプラスチック問題を解決するのに効果があるんです。とにかく多すぎて処理できてないんですよね。減らさないといけない。
 じゃあどうやって減らすの? って、よくリサイクルだ! とかいうけど、リサイクルも大問題だらけで、リサイクルがうまくいってるんだったら、別に今困ってないですよ。でもリサイクルは問題だらけなので、今プラスチック問題が起きているんです。
 マスコミが問題問題って騒ぐけど、個人レベルでどうしたらいいのよっていうのが探してもない。結構そういった、ヒントを伝えるウェブサイトって海外に多いんです。英語とかよく見つかるんですけど、日本語で書かれていて、日本人に向けて作られたウェブサイトって全くなかったんですね。それで作りました。
 で、どうやったらじゃあ減らせるかって話ですけれども、小尾さん、普段マイボトルとか、マイバックとか持ってます?」

●レジ袋は使わないようにエコバックを持ち歩いています。

「でもエコバックもいつも持つのは大変でしょ?」

●そうですね〜。うっかり、あ! 忘れてきちゃった! っていう時も。

「ハンドバッグに入るぐらいの小さいものがあるので、小さなエコバッグを持つとか。あと私いつも持ち歩いているのは箸です」

●あっ、マイ箸ですか! 

「カバンにマイ箸が入っています。ちょっと箸はかさばるから、折りたたみ式の箸をいつもカバンに入れて、テイクアウトしなきゃいけない時にパッと自分の箸を使えば、プラスチックのフォークとか使わなくて済む。

 レストラン行ったら必ずっていうくらいにお手拭きが出てくるじゃないですか。でも日本ぐらいですよ。あんなにプラスチックの包装に入ったお手拭きを毎回くれるところなんて。もう私は使わないようにして、手を洗ってます」

●確かに当たり前と思っていましたけど、あれもプラスチックですね。

「そうなんですよ。ストローだって何も言わなかったら、必ずストローを(容器に)刺してくるような世界ですからね。そういうのを断れるものはとことん断っていきます。
 よく3Rっていうじゃないですか、リデュース、リユース、リサイクル、3Rが大事っていうんですけど、もう1個、4Rが大事で、それが”リフューズ”、断るです」

●なるほど〜! 

「そう、もらう前に断っちゃえばいいんです」

楽しく、環境に優しく

*中嶋さんはブログ「プラなし生活」で、石鹸は液体ではなく、固形石鹸を勧めていらっしゃいますが、どうしてなんですか?

「実はプラスチックを減らす上で、液体を固形に変えるって発想がすごく重要なんですよ。液体だからボトルに入れなきゃいけないでしょ? でも固形だったら紙の容器だっていいわけだし、粉だったらいいわけですよ。

 だから例えば、液体石鹸はもうやめて、固形石鹸にしちゃうとか、洗濯の洗剤だって液体洗剤じゃなくて粉だったら、紙の容器があるじゃないですか。それだけでもたくさん減るわけで。今だったら固形シャンプーとかも流行っていますし、そういうのを使うのはいいですよね」

●そう考えると家の中にいろいろと変えるべき点はたくさんありますね! 

「いっぱいありますよ、探すとね。それがまた楽しいんですよ」

●家族で考えるのもいいかもしれませんね。

「いいと思います。子供とか意外といいアイデアを出してくれたりしますよ。私、娘が3人いるんですけど、プラスチックの話をよくしています。

 どうやってプラスチックを楽しみながら減らすかというと・・・なかなか楽しみながらって難しいんですけど、1ついいのは、ゴミ拾いのイベントに行くことですよね。そうするとやっぱりゴミ問題を自分の身近に感じてくれます。

 あと家の中では、私の家ではよく新聞紙で作ったゴミ袋を作るんですよ。新聞紙を折ってゴミ袋。レジ袋をゴミ袋にしている人が多かったですけど、レジ袋が有料化になっちゃったから、ゴミ袋がないって人も多いんです。それで新聞紙を折ってゴミ袋を作るとすごく使いやすくて、それを子供に折ってもらって、お小遣いをあげたりとかやったりして。あとは一緒にパンを作ったりします」

●パンですか? 

「そう、毎朝パンを食べるんですけど、パンだって袋はプラスチックで、毎回ゴミになってしまうので。ホームベーカリーで焼いて、子供に手伝ってもらって、楽しみながらやってくれますよ」

●へ〜! いいですね。環境のためにもなるし、お子さんも楽しんでできるし。

「そうですね。一石二鳥です」

●改めて今、中嶋さんがいちばん伝えたいことってどんなことですか? 

「そうですね。やっぱり知ることって大切ですね。東京スカイツリー600個分のゴミが海と川に入っているなんて知らなかったと思うんですけど、そういうことを知るってことが次のアクションに繋がるので、すごく大事ですね。やっぱり知ること、もっとみんなに知ってほしい。

 あと脱プラ生活っていうのは、プラスチックを減らすって結構大変そうとか、結構辛いところも実はあったりするので、楽しみながらやるのが大事です。周りから変な目で見られても気にしないで、正しいことやってるから大丈夫、みたいな感じで、楽しみながら無理しないでやることが大切です!」


INFORMATION


海洋研究開発機構JAMSTEC


 海に入り込んだ大量のプラスチックごみ、漂っているのは1%もなく、残りの99%がどこにいったかわからない。いったいどこにあるのか、行方不明のプラスチックを探す中嶋さんたちのミッションに番組では今後も注目していきたいと思っています。JAMSTECについて詳しくは以下のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎JAMSTECのHP : http://www.jamstec.go.jp/j/

ブログ「プラなし生活」


 マイバッグ、折りたたみ式の箸、新聞紙でゴミ袋作り、などなど、生活から少しでもプラスチックを減らすヒントや情報はぜひ、中嶋さんが運営するブログ「プラなし生活」をご覧いただき、参考にされてみてはいかがでしょう。

◎「プラなし生活」:https://lessplasticlife.com/

◎中嶋亮太さんのHP:https://dr.ryotanakajima.com

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  • バレンタインデー直前! エクアドル産の希少なアリバカカオ「森と生きるチョコレート」!

     今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第24弾! 「SDGs=持続可能な開発目標」の中から、「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」「人や国の不平等……

    2025/2/9
  • オンエア・ソング 2月9日(日)

    オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」 M1. SUGAR / MAROON5M2. I WANT IT THAT WAY / ……

    2025/2/9
  • 今後の放送予定

    2月16日 ゲスト:植物観察家「鈴木純(すずき・じゅん)」さん  冬の植物観察のすすめ! 春をじ〜っと待っている、葉っぱや花の赤ちゃん「冬芽(ふゆめ)」に注目! よ〜く見ると可愛くて個性……

    2025/2/9
  • イベント&ゲスト最新情報

    <mamano chocolate(ママノチョコレート)情報> 2025年2月9日放送  「ママノチョコレート」では、エクアドルのカカオ農園と日本をオンラインでつないで、月一回程度、どな……

    2025/2/9