2025/1/26 UP!
◎鹿住貴之(認定NPO法人「JUON NETWORK(樹恩ネットワーク)」の事務局長)
『日本の森林を守り、農山村を支援する「JUON NETWORK」〜ボランティア活動のすすめ』(2025.1.26)
◎『シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第23弾!〜長野県諏訪市にある「REBUILDING CENTER JAPAN」のリサイクル事業にフォーカス!』(2025.1.19)
◎雨宮国広(縄文大工)
『「JOMONさんがやってきた!」〜みんなで地球をキラキラ星に!』(2025.1.12)
◎川口慎介(国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の主任研究員)
『広くて深い海は謎だらけ〜海中で鳴っている音!?』(2025.1.5)
2025/1/26 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「JUON NETWORK(樹恩ネットワーク)」の事務局長「鹿住貴之(かすみ・たかゆき)」さんです。
JUON NETWORKは都市と農山村をつなぎ、地域と自然を元気にする活動を行なっています。大学生協を母体に設立されたJUON NETWORKがなぜ、都市と農山村をつなぐ活動を始めるに至ったのか、その背景には、大学生協が過疎化の進む地域の廃校、小学校をセミナーハウスとして再生したこと。
そしてもうひとつの大きなきっかけが、1995年1月に発災した阪神・淡路大震災。
被災した大学生たちのために、仮設学生寮を作ることになり、その際、徳島の林業関係者から間伐材で作った組み立て式のミニハウスを提供してもらったこと。ここで農山村とのつながりが生まれます。
1995年の阪神・淡路大震災はボランティア元年とも呼ばれ、多くの大学生も支援に駆けつけましたが、その際、学生の間から、普段からボランティア活動をしたくても「場」や「きっかけ」がない。活動するためのネットワークがあれば、という声があがったそうです。
そこで学生たちの活動の場づくり、そして都市と過疎化が進む農山村をつなぐ活動をしたい、そんな思いから、大学生協の呼びかけで、1998年にJUON NETWORKが設立されたそうです。
設立当初からのメンバーである鹿住さんは、大学生のときに知的障害者の子供たちと遊ぶボランティア・サークルに所属。また、東京で学生ボランティアのネットワーク作りにも参加していたこともあって、JUON NETWORKのスタッフになったそうです。
きょうは、以前にもこの番組にご出演いただいた鹿住さんに、いろいろな活動の中から、おもに間伐材を有効活用する「樹恩割り箸」のほか、「森林(もり)の楽校」や「田畑(はたけ)の楽校」のお話などうかがいます。
☆写真協力:JUON NETWORK

樹恩割り箸〜森作りと仕事作り
※オフィシャルサイトを拝見して活動のひとつとして「樹恩割り箸」というのがありました。これはどんな活動なんですか?
「日本の森林を守るためには、ただ放っておけば守れるっていうことではなくて、手入れが必要だと。その手入れのひとつが間伐、“間(あいだ)を伐採する”で、間伐ですね。その “間伐材”とか、あるいは“国産材”が使われることで山側にお金が入るので、森の手入れが進むっていうことになる。日本で森林を守るっていうことは放っておくことじゃなくて、国産材とか間伐材を使うということが、すごく大切なんですね。
日本の森林を守るために、間伐材や国産材を原材料として使うっていうことと、もうひとつ大きな特徴としては、障害者の仕事作り。いま全国4つの障害者施設、障害者と言っても知的障害の人たちが多い施設なんですけれども、その障害者施設で割り箸を作って、大学の食堂で中心的に使ってもらっています。ほかにも一般のスーパーだったり飲食店でも使っていただいたりしています。
なぜ私たちが割り箸作りに取り組んでいるかというと、日本の森林を守るために国産材・間伐材を使うことの中で、JUON NETWORKがもともと大学生協とつながりがあったということ。学生に間伐材とか国産材を使ってもらうには、大学生協が経営している大学の食堂で割り箸として使ってもらえばいいということから、1998年の設立の時にスタートして、26年ぐらいやっています。そういった取り組みですね」

●大学の食堂などで使われているということでしたけれども、一般のかたでも購入はできるんですか?
「はい、そうですね。私どものウエブサイトから購入していただくことができます」
●樹恩割り箸は、年間ではどれぐらい売れていますか?
「大体1000万膳っていう(笑)ちょっとあまりピンとこないと思うんですけれども、1000万膳という量を製造しています。日本で割り箸が1年間にどれぐらい使われているかってわかりますか?」
●え~〜!? どれくらいだろう・・・(笑)
「考えたこともないと思いますけど・・・(笑)」
●でもかなりの量ですよね?
「はい、190億膳と言われています」
●うわっ!
「これでもあまりピンと来ないと思うんですけれども、日本の人口がたとえば1億2000万とか3000万人ですけど、1億人って考えると、ひとり(年間)190膳ぐらい使っているということなんですね。
木材の自給率はずっと20パーセントぐらいだったけれども、最近ちょっと上がってきていて、40パーセントを超えたんですね。それでも木材の自給率は少ないですけどね。こんなに森があるにも関わらず、外国の木を6割使っているっていうことですから。で、割り箸の自給率は、実は2パーセントしかないんですね。
ですから、ほとんど海外から入ってきているんです。その国産の割り箸のうちの大体2パーセントぐらいが、JUON NETWORKの割り箸っていう感じです」

(編集部注:樹恩割り箸は現在、福島の南会津、埼玉の熊谷、東京の日の出町、そして徳島の4つの知的障害者の施設で製造。材料はもちろんその地域から出た間伐材です。こうすることで、障害者のかたの仕事作りのほかに、森作りにも役立っているということなんですね)
森林の楽校〜森の手入れ
※ほかにも「森林(もり)の楽校」そして「田畑(はたけ)の楽校」という活動があります。まずは「森林の楽校」、これはどんな活動になりますか?
「森というのは手入れが必要です。森林ボランティア活動っていうと、木を植えることを多くの人がイメージすると思うんですね。木を植えることも大切なんですけども、むしろその後の手入れのほうが大切なんです。
例えば、木を植えます。日本では春に植えることが多いんですけれども、春に植えると、夏になると周りの雑草がたくさん生えてきます。木は大きくなるけど、成長はゆっくり、草は大きくならないですけれども、成長が早いということで、植樹した木を、夏になると周りの雑草が覆い隠しちゃうので、日の光が当たらなくなってしまい、木の成長が阻害されてしまうわけですね。そこで周りの雑草を刈ってあげる、下草刈りとか下刈り、光が木に当たるようにする作業、これが手入れのひとつですね。

植えてから7年ぐらいは、木が草よりも大きくなるまで下草刈り、下刈りやるんですけども、成長してきて10年ぐらい経ってくると、外から山のほうを見ると緑がたくさんで、日本はいいな~って思うかもしれないんですけども、枝が伸びてきますので森の中が真っ暗、木に光が当たらない状態になってしまうんですね。
そうすると森の役割が発揮できなくなってしまいます。例えば緑のダム機能、水を溜め込んでいつまでも川に水を流してくれるような、そういう機能とか、二酸化炭素を吸収する機能が発揮しにくくなるので、間伐して木を間引く、森の下まで光を当ててあげる作業ですね。そういう手入れをボランティア活動として取り組んでもらうのが“森林の楽校”です。
こういう活動に、JUON NETWORKの特徴でもあるんですけども、単発でもいいから参加してくださいっていう、イベント的なボランティア体験、森林ボランティア活動の入門的な活動が“森林の学校”になります」
●日本全国で開催されているんですか?
「そうですね。北は秋田の白神山地から、南は九州の長崎とか佐賀、全国18か所で開催しています」
田畑の楽校〜援農ボランティア
※続いて「田畑(はたけ)の楽校」について。これはどんな活動ですか?
「これは過疎高齢化で大変な農家さんをお手伝いしようということで行なっている活動、農家を応援する支援する援農ボランティア活動です。この援農ボランティア活動もやはり入門的な活動になります」

●現在、何か所の農家さんを支援されているんですか?
「いま全国4か所でやっています。いちばん古くからやっているのが山梨のブドウ農家のお手伝い、次に始まったのが和歌山県の那智勝浦の棚田、お米棚田のお手伝いで、次に三重県のミカン農家のお手伝い、それと長野県のリンゴ農家のお手伝いという、その4か所で開催しています」
●ブドウ作りのお手伝いとかって、普段できないですよね? 参加者の中から農家さんに転身されたみたいなかたもいらっしゃるんじゃないですか?
「そうなんですよね。農山村地域と都市を結ぶ活動は、私たちは交流人口って言って、 農山村地域に行く人を増やすような活動が基本です。その体験的な入り口を作っているのがJUON NETWORKの特徴なんですね。
山梨のブドウ農家のお手伝いで、交流人口から農山村地域に移り住む定住人口、実際にブドウ農家になったかたが4家族いるっていうことで、JUON NETWORKの活動の中では、いちばん移住した人が多い活動ですね」

●この「森林の楽校」や「田畑の楽校」に参加したいと思ったら、どのようにしたらいいんでしょうか?
「JUON NETWORKのウエブサイトを検索していただいて、そこから申し込みができます。もちろん電話でも申し込めます」
●会員じゃなくても体験だけの参加もできますよね?
「そうですね。基本、私たちは会員ではない人にも参加していただきたいということで、会員にならなくても参加できますし、むしろ会員でないかたの参加のほうが多いです。ただその中から会員になると、会員割引っていうのもあるので、会員になっていただくっていうことも多いですね」
環境教育のリーダーを育てる
※オフィシャルサイトに「森林ボランティア講座」の情報が載っていました。これは具体的にはどんな講座なんですか?
「ちょっと前までは“森林ボランティア青年リーダー養成講座”っていう名前だったんですけども、“里山・森林ボランティア入門講座”っていう名前に変えたんですね。
これは、大学生協が呼び掛けた組織っていうこともありますので、若い森林ボランティアのリーダーを育てようっていうことでスタートしています。大学生や高校生が参加する場合もあるんですけども、基本は大学生から40歳代、50歳未満のかたを対象としています。森林ボランティア活動の技術を身につけていただいて、将来的には活動のリーダーになっていただくことを期待しているっていう、そういう5回連続講座ですね。日にちは離れていますけれども、5回の講座がひとつになっています」
●JUON NETWORKでは「エコサーバー検定」という資格制度も実施されています。これはどんな資格なんですか?
「環境教育のリーダーを育てようということで、森林ボランティア活動も最近は取り入れているんですけども、小学生とか中学生とか、そういう子どもたちに向けたような環境教育を学んでもらう資格制度です。
アメリカに“プロジェクト・ラーニング・ツリー”、木に学べっていう、木から世界を学ぶっていうような感じで、ほかにも環境教育のプログラムがあるんですね。そういうものを(リーダーとして)実施できるように学ぶっていうことと、あと野外での作業の技術を学ぶという、リーダーの養成を目指して実施しているものです。今年度は2月からスタートし、2月に1回3日間の講座やるんですけども、(今回で)20回目ということになります。
JUON NETWORKのエコサーバーっていう資格が取れるだけではなくて、それが取れると、日本共通の指導者資格、『自然体験活動推進協議会CONE(コーン)』が進めている、『ネイチャー・エクスペリメンス・アクティビティ・リーダー NEAL(ニール))』っていう自然体験活動リーダーっていう資格があって、そういうものも取ることができます
(編集部注:鹿住さんいわく、日本ではボーイスカウトやカブスカウト、YMCAやキャンプの協会、ネイチャーゲームの協会など、それぞれの団体が自然体験の指導者を養成する活動を行なっていますが、その共通の資格になるのがNEALだそうです。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください)
◎自然体験活動推進協議会:
https://cone.jp
◎NEAL:
https://neal.gr.jp
ボランティア活動、意識の変化
※いまやSDGsという言葉がメディアで盛んに取り上げられて、その意味や目的などが一般的になってきたと思います。鹿住さんはJUON NETWORKで26〜7年、活動されてきて、いまどんな思いがありますか?
「(設立された1998年)当時は本当に間伐っていう言葉も一般的じゃなくて・・・実は日本でも木を植えてからやっぱり30年、40年、50年ぐらいは間伐が必要な時期なので・・・その頃に比べたら間伐を知っている人も非常に多くなったと思います。
私たちの“樹恩割り箸”が、間伐を知っていただくために果たした役割もあったかなと思うんですけれども、そういうことがあまり知られてないようなところからやってきていると、だいぶ社会的な理解も進んできたなぁというような思いを強く持っていますね」
●20年くらい前と比べて、「森林の楽校」などに参加されるかたの、意識の変化みたいなものって感じますか?
「そうですね。 特に東日本大震災前後で、参加する人の動機って言うんですか、ちょっと変わってきたような感じも受けているんです。昔から自然に触れたいみたいなことだったり、森のためになんかしたいとか、ボランティアしたいっていうのはあったと思うんですね。東日本大震災以降、能登半島地震もありましたけれども・・・。
やっぱり自然を生活の中に取り入れ入れたいって言うんですかね、自然とのつながりを持つ必要性みたいなものをお感じになって参加するっていうような・・・だから暮らしの中で森を切り離して守るっていうよりは、暮らしの中に森とどうつながるかみたいなことを意識しているかたが多くなっているような印象があります。

で、ボランティア活動を災害のボランティアってことで、自分は子供の時、小さかったからボランティアとして被災地に行けなかったけれども、大人になってボランティア活動をしたいと。で、調べていたら自然に対するボランティアもあるんだってことで参加しましたみたいな・・・ボランティアについても、社会的にも関心が広がってきているかなという気もします」
●鹿住さんご自身はいろんなNPO法人の理事などを兼任されています。その辺りはどんな思いがあるんでしょうか?
「私たちもそうですけれども・・・実はJUON NETWORKの設立と同じ1998年にNPO法っていう法律が施行されたんですね。日本はやっぱり基本的に行政が公共のことをやるっていうような意識がとても強いと思うんですけれども、阪神淡路大震災の時に行政だけではとてもその対応ができなかった。で、市民活動とかボランティア活動が被災地で活躍して、大切だっていうことを認識して、そのきっかけでNPO法っていう法律もできたんですね。
そういう意味では、私たちひとりひとりの市民が社会作りっていうんですかね・・・社会を作っていくことに参加していくことがとても大切だと思っているんですね。行政、企業、市民の(それぞれの)立場で、非営利の市民セクターの、この3つのセクターが協力して社会を作っていくことが大切だと思っていますので、その市民の立場で活動を広げたり、みなさんに社会の活動に参加してもらうことを広く呼び掛けて(ひとりでも多くのかたに)参加してもらいたいなと思って活動をしています」
INFORMATION
「樹恩割り箸」はJUON NETWORKのオフィシャルサイトから購入できますよ。価格は紙袋に封入したもので、100膳550円となっています。
「森林(もり)の楽校」や「田畑(はたけ)の楽校」には会員ではなくても体験として一般のかたも参加できるとのことですから、興味のあるかたは、ぜひサイトをチェックしていただければと思います。
JUON NETWORKでは随時会員を募集中。学生会員で年間2000円、個人会員で4000円。また、寄付も受け付けています。ぜひご支援いただければと思います。いずれも詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎JUON NETWORK:https://juon.or.jp/
2025/1/26 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. OUT OF THE WOODS / TAYLOR SWIFT
M2. A FOREST / NOUVELLE VAGUE
M3. KNOCK ON WOOD / SEAL
M4. LOVE FIELD / ELVIS COSTELLO & THE ATTRACTIONS
M5. NORWEGIAN WOOD / 高中正義 & 松任谷由実
M6. WILD WOOD / PAUL WELLER
M7. I’LL BE THERE / JACKSON 5
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2025/1/19 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第23弾!
「SDGs=持続可能な開発目標」の中から「つくる責任 つかう責任」
そして「住み続けられる まちづくりを」ということで、長野県諏訪市に拠点がある「REBUILDING CENTER JAPAN(リビルディング・センター・ジャパン)」通称「リビセン」のリサイクル事業にフォーカスします。
「リビセン」では、解体される空き家や建物から、古材や古道具を引き取って販売する事業を行なっています。
きょうは「リビセン」の取締役「東野華南子(あずの・かなこ)」さんにリサイクル事業を始めた経緯や事業内容のほか、活動の理念「リビルド・ニュー・カルチャー」に込めた思いなどうかがいます。
☆写真協力:REBUILDING CENTER JAPAN

合言葉は「リビルド・ニュー・カルチャー」
※2016年にオープンした「リビセン」は、一般的なリサイクルショップでは扱わない、例えば、床板や柱、古いタンスなどを扱っているのが特徴です。活動の裏には、捨てられて燃やされてしまうのは「もったいない」、ゴミにせずに再び使う、そんな思いがあるんですね。
創業メンバーは、東野さんご夫妻のほか、全部で5人。現在は総勢18人のスタッフで運営されています。
●もともとは、デザイナーのご主人「東野唯史(あずの・ただふみ)」さんとふたりで「medicala(メヂカラ)」というユニット名を掲げ、全国を転々としながら、空間デザインのお仕事をされていたんですよね?
「はい、そうなんです。もともと夫が空間デザインの仕事をしていて、私は文学部卒業で、建築の文脈だったりとかデザインの文脈を学んできたわけではなかったんですけど、依頼があった土地に夫と一緒に行って、そこに住み込みながら、解体しながらデザインしながら施工して、完成したら次の土地に行くっていう暮らしを2年ぐらいやっていました」

●へぇ〜! で、解体される家屋などの古い材料だったり古道具を引き取って、販売する事業をやっていこうと持ちかけたのは、どちらなんですか?
「2014年に夫とふたりで、その仕事を始めたんですけど、1年ぐらい経ったところで、2015年に(アメリカの)ポートランドに『REBUILDING CENTER』っていうリサイクルショップというか、建築建材がたくさんあるようなお店があるんですけど、そこに行ったんですよね。
そこを見た時に夫が、いま日本にもやっぱり空き家の問題だったりとかゴミの問題だったりがある中で、これが日本にあったら、きっと日本の社会をよくできるじゃないですけど、社会がよくなることに貢献できるんじゃないかって思ったのがきっかけで、それでポートランドのREBUILDING CENTERに連絡をして、やることになったっていうことですね。
ポートランドはもともと、アメリカにはDIYの文化もすごくあって、お家は日本だと30年ぐらい経った建物の価値ってなくなっちゃったりするんですけど、アメリカでは手をかけたら、その分ちゃんと建物の価値が上がっていくっていうような仕組みになっているので、みなさん、自分のお家を楽しみながら直しながら暮らしているかたが多いんですよね。
なので、そういう古材だったりとかドアノブだったりとか洗面台だったりとか、何でもリサイクルする文化というか、買えるようなお店がたくさんあって、そのうちのひとつがREBUILDING CENTERという感じですね」

●「リビセン」の合言葉は「リビルド・ニュー・カルチャー」ということですけども、これらにはどんな思いが込められているんでしょうか。
「私たちが本当にずっと気に入って使っている言葉ではあるんですけど、この中に古材とか古道具っていう言葉が入っていないのがすごくポイントなんです。
もともと日本にあった文化というか、物を直して使うっていうこともそうですし、物を簡単に捨てるんじゃなくて、それを次に何かに活かせないかって考える。そういうふうにもともとあったものをもう一回呼び起こすっていうのもあります。
自分の手で何かを作っていくっていう経験だったりとか、もちろん物づくりだけじゃなくって、私たちがこれから暮らす未来にどんな文化があって欲しいか、どんな仕組みがあって欲しいかっていうところを考えようって、そういう意味も込めて『リビルド・ニュー・カルチャー』、私たちのこれからの暮らしを作っていこうっていう気持ちでやっています」
(編集部注:「リビセン」の拠点を長野県諏訪市にしたのは、空間デザインのお仕事で下諏訪に3ヶ月ほど滞在していたら、華南子さんの体調が良くなり、また知り合いもできたことや、長野には古いものがたくさんあるし、東京や名古屋など、都会へのアクセスも良かったので、住まいを東京から下諏訪に移した結果、諏訪市で事業を始めることになったそうです)
<日本の空き家、過去最多に>
2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家はおよそ900万戸あり、過去最多の空き家数に。また、総住宅数に占める割合も13.8%と最高を更新。900万戸の空き家のうち、賃貸や別荘などを除き、取り壊し予定や長期間不在の空き家は、およそ386万戸にのぼるそうです。
空き家は放置しておくと、いずれは朽ち果て、また草木が生い茂り、近隣に影響を及ぼすかもしれませんが、所有者がわからない空き家も多くあるようで、自治体が勝手に取り壊すことはできないそうです。
65歳以上のかたの持ち家率が8割を超えるとされる日本、今後も空き家は、増えていく傾向にあるのかも知れませんね。
引き取り依頼、月に70〜80件!
※「リビセン」は、いわゆるリサイクルショップといっても、古材や古道具を売るだけの場所ではないですよね。カフェがあるんですよね?

「古材屋さんができても行かなくないですか?(笑)多分だいたいの人にとっては関係がない場所になっちゃうというか・・・私も以前だったら行かなかっただろうなって思うんですけど、いろんな人にとって関係のある場所だよとか、来ていい場所だよっていうところをちゃんと示すためにカフェを、オープン当時からずっとやっていますね」
●リビセン自体は大きな建物なんですね。
「そうなんです。1,000平米あって1階に古材売り場とカフェがあって、2階に古道具、3階も古道具だったり建具だったりとかを販売しています。あとは1階には雑貨スペースもあって、建具にハマっていた古いガラスを使ったプロダクトだったりとか、それをもう一回ガラス作家さんに吹き直してもらって、グラスとか器にしたものを販売したりしています」

●販売する古材とか古道具は、どうやって集めているんですか?
「基本的には全部、家主さんとの直接のお取り引きが多いです」
●引き取って欲しいっていう依頼が来るっていうことですか?
「そうです。月に70件から80件もあるんですよ」
●すごいですね!
「基本的には車で1時間圏内のご依頼を引き受けていて、それ以上なら、ちょっと出張料金がかかっちゃうよっていうふうにやっているんですけど、それでも月70件から80件あるってことは、全国でどんなスピードで物が捨てられているんだろうって思っていますね」

●確かにそうですね〜。システムとしては事前に下見したりとかされるんですか?
「例えば、物の量が多そうだなっていう時とかは、現地調査に行くこともありますけど、最近は依頼をもらったら、公式LINEでお問い合わせいただいたりもします。公式LINEにこんなものがありますって写真を撮って送っていただいて、この辺を引き取りますねと連絡して現地に行って、そのままお引き取りすることも多いですね」
●なるほど〜。引き取れるものと引き取れないものがありますよね?
「そうですね。私たちに売る力があれば、それこそ何でも引き取れるんですけど、リビセンに来てくれるお客さんが手に取ってくれるようなものだったりとか、自分たちが使い方を提案できるものだったりとか、これ、かわいいですよねってお客さんと一緒に言えるとか、次の人にちゃんと手渡せるぞって、つなげることができるって、自分たちが思えるものを引き取りさせてもらっていますね」

レスキュー率が高いプロダクト!?
※販売している古道具は、具体的にはどんな道具が多いんですか?
「本当にさまざまなんですけど、多分いちばん身近なところだと古いお皿とかはとっても多いですね。1枚300円ぐらいから売っているんですけど、印判皿っていう昔の小っちゃいお皿だったりとか、漆の器だったりもあります。あとは、諏訪だと結構、養蚕が盛んだった地域なので、そういうお家だと籠がたくさん出てきたりとか、そういうものも多いですね」
●販売前にきちんとメンテナンスされるわけですよね?
「そうです。もう本当にそれが大変です(笑)。やっぱりみなさん、おばあちゃんからお家を引き継いだけど、手つかずの場所みたいなところがあって、真っ暗だったりとか、そういう埃がかぶっているようなところに行ってレスキューしてきます。
クモの巣だったり、繭(まゆ)がついたままのお蚕さんのグッズだったり、そういうのを全部水で洗って乾かして値段をつけて、さらにどこからレスキューしてきたのかわかるように、うちは番号で管理しているので、そういう番号をつけて、ようやく店頭に出せるっていう感じなので、レスキューしてきてから店頭に出すまでに長いと1ヶ月ぐらいかかるものもありますね」

●オリジナルの製品も販売されているんですよね?
「はい、そうですね。オリジナルの製品だと古材のフレームとかが今はすごく人気で販売しているんですけど、これは本当にレスキュー率がすっごく高いプロダクトなんですよ」
●その古い材が素材ってことですよね?
「古材とか古道具だけだと、やっぱり古材をお家に欲しいっていう人ってそんなに多くないというか・・・。古材を素敵だなと思っても、お家でどう使っていいかわかんないっていうかたのために、どうにかして、暮らしの中で古材だったりとか、リサイクルのプロダクトを家に置くきっかけを作れたらいいなと思って・・・。
古材を使って枠を作って、レスキューしてきた建具からガラスを外して掃除して、それをはめてフレームを作っているんです。なので、ほとんど新しく買って何かを作っているっていうことがないプロダクトです。後ろのガラスを止める金具だけ、新しく買っているんですけど、それ以外は全部レスキューしたものなので、とてもレスキュー 率が高くて、気に入っているプロダクトです」
「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」
※「リビセン」では、ほかにも古い材を使った空間デザインやDIYのワークショップなどもやっていますが、番組として特に注目したのが、2023年から始めた「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」。ネーミングにも惹かれたんですけど、こんなスクール、やっていたんですね?
「そうなんです! リビセンが2025年で(オープンから)丸9年になるんですけど、やっていく中で本当に大変だなって思うことがたくさんあるんですね。
でも大変な一方で、さっきも申し上げました通り、月に70件から80件、1時間圏内だけでレスキュー(の依頼が)あるから、みんなが各地でレスキューをやってくれることを応援できるといいんじゃないのかなって思って、私たちがしてきた大変な思いを全部学びにして、みなさんにお伝えするっていうスクールをやっています」
●日程はどれぐらいなんですか?
「2泊3日で、がっつりと夜まで懇親会というか、みなさん、本当にずっと質問し続けてくれるみたいな時間なんですけど・・・」

●例えば、どんなプログラムがあるんですか?
「例えば、最初にうちの夫がリビセンが立ち上がった経緯から、今までどういうふうに進んできたかっていう話もあったり、どういうふうにレスキューして、どういう道具を使って掃除してっていう、具体的なレスキューの方法についてのヒントがあったりとか・・・。
あとはリビセンから徒歩5分圏内にお店がたくさんあったりするんですけど、そういうコミュニティがどういうふうに育まれていったかっていう話だったりとかもしていますね」
●でも、これまでに培ってきたノウハウをさらけ出すってことじゃないですか?
「もう! すべて!(笑)」
●いずれ競合するかもしれないとか、何か怖さとかためらいみたいなものはなかったですか?
「ないんですよね・・・(笑)。それにはいくつか理由があるんですけど、ひとつは自分たちに70件から80件のレスキューがあって、例えば富山からレスキュー依頼があっても、東京からレスキュー依頼があっても、やっぱり私たちが行けない。私たちが行けなかったら、どうせ捨てられてしまう。だったら各地でみんながレスキューしてくれたほうがいいよな! っていう・・・。商圏が被らないっていうのがひとつだったりとか。
あとは、夫がデザイナーとしてのキャリアが始まる時に、大学の先生に“デザイナーはデザインで世界をよくするんだ!”って言われたのがきっかけで、デザイナーになって、今もデザイナーとして働いているんですけど、本当にスクールを通じて古材とか古道具をみんなが奪い合う世界になったら、私たちはあっさりリビセンはやめて、自分たちの力を効率よく社会に還元できる方法をまた考えられたらいいなって思っているので、全然怖くないです(笑)」
(編集部注:「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」の参加者の顔ぶれは、工務店などの建築関係、介護職、農家さん、デザイナー、地域起こし協力隊のかたなど、多彩だそうです。今年のスクールは3月からスタート! 「リビセン」のサイトに日程が掲載されていますので、参加してみたいと思ったかたは、ぜひチェックしてください。https://school.rebuildingcenter.jp)
移住者も暮らしやすい街
※華南子さんは埼玉のご出身ということですが、長野県上諏訪での暮らしはいかがですか?
「私にとっては、本当に最高ですね(笑)」
●この時期は寒いですよね?
「本当に地獄みたいに寒くて・・・(笑)。私、初めてこんな寒いところに住んだので、長野に住んでから地獄って暑いと思っていたけど、寒い場所なのかもなって思うようになるぐらい本当に寒いんです。
でも私の生い立ちというか、10年以上同じ場所に住んだことがないんですよね。なので、長野県の上諏訪が初めて(10年)住んでいるんですけど、本当にここでよかったなって思って暮らしていますね。10年同じ町に暮らすと、こんなふうに町の関わり方というか、町と自分の距離感だったりが変わっていくんだって、すごく楽しませてもらっています」
●具体的にどんなところが最高なんですか?
「たくさんあるんですけど、すごくわかりやすいところで言うと、これは諏訪の魅力っていうわけではないですけど、東京に住んでいたことも長かったので、東京との距離も結構ちょうどいいです。2時間ぐらいで行けるので日帰りでも行けるし、仕事もすごくしやすいっていうのも、物理的に地理的に便利なところだし、温泉が気持ちいい! すごく!
すっごく寒いけど、温泉も豊富な地域なので、温泉があることもありがたいし、車で10分で山があるけど、上諏訪は中央線沿線っていうこともあって、私的には結構都会なんですよね。
歩いてスーパーも行けるし、コーヒースタンドもあって、お花屋さんも古道具屋さんもあるっていう・・・車であっちこっち素敵な場所に行くのもいいんですけど、歩くスピードで歩ける距離感の中で、自分の暮らしが楽しいっていうのは、私にとってはすごく心地がいいですね。
諏訪のすごくいいところは、外から来る人に慣れている人が多いというか、中山道が通っていて、東京から名古屋に抜ける、もともと人が行き交う場所だったので、私たちみたいな移住者も暮らしやすいですね。
空き家が出てもまたそこに入居する人も多かったりとかして、ちょっとずつ改善というか、活用されていく兆しのある町だなって思っています」
生きる心強さを持てる場所
※今までレスキューした古材や古道具で、びっくりするようなものはありましたか?
「びっくりするようなものかぁ・・・いろいろあるんですけど(笑)。私たちが諏訪の出身じゃないっていうところが多分大きいんですけど、養蚕のいろいろな道具が出てきたのはすごくいろんな、いい驚きがありました。
この土地を知るきっかけにもすごくなったし、養蚕って言葉では聞いたことがあったけど、実際にここにこういうふうに葉っぱを敷いて、ここでお蚕さんを飼っていたんだみたいな、そこで本当に暮らしていたこととかが垣間見えたのがすごくその土地の解像度が上がったというか・・・。
この土地で暮らす意味だったりだとか、この土地を楽しむきっかけにもなったのは、その養蚕の現場のレスキューだったので、すごく印象深いレスキューではありますね」
●「REBUILDING CENTER JAPAN」の活動は、今後益々注目されると思うんですけれども、そのあたりはいかがですか?
「え~〜、どうでしょう(笑)。注目!? そうですね・・・」
●益々人手が必要になってきますよね?
「そうですね・・・でも自分たちとしては、そんなに大きな会社になりたいっていうことはないので、今ぐらいの人数で楽しく暮らしていけたらいいなって言ったらあれなんですけど・・・。
その一方で、日本は空き家問題とか高齢化の問題だったりとか、最近は居場所作りみたいな話だったりとか、そういう社会問題ってどこも同じようなことを抱えていると思うので、『みたいなスクール』を通じて、ほかの地域で同じような課題感を持っている人たちとつながることで、もちろんリビセンみたいな事業もサポートしつつ、いろんな地域で起きている社会課題を私たちもインプットしながら、また自分たちの地域にフィードバックしていくっていうことは、どんどんやっていきたいなと思っています」

●リビセンの活動を通じて、どんなことを伝えていきたいですか?
「私たちのメインの事業は、もちろん古道具とか古材が外から見てもいちばんわかりやすいところではあるんですけれど、大もとにあるところで『生きる心強さを持てる根拠になる場所』になれたらいいなっていうのを思っています。例えば、物が壊れたら捨てるっていうだけじゃなくて、自分で直せるって思えるってすごく心強いと思うんですよね。
電化製品とかが多かったりすると、自分で直せるって思えるものって、なかなか少ない世の中ではあるなと思うんですけど、自分にもできるかも! っていう気持ちをひとりひとりが少しでも持てて、その一歩を踏み出せたら、どんどん見える世界が因数分解されていったりとか、社会の解像度が上がっていって、自分がよりよく暮らしていくためにとか、よりよい社会を作っていくために、これだったらできるって考えられるような、原体験じゃないですけど、場所を作っていけたらいいなっていうふうに思っています」
INFORMATION

ぜひ「REBUILDING CENTER JAPAN」の活動にご注目ください。今年の「リビセンみたいなおみせ やるぞスクール」は3月21日から23日、4月25日から27日、5月16日から18日、そして10月にも、11日から13日に開催される予定です。「リビセン」で販売している古材や古道具のほか、所在地など、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「REBUILDING CENTER JAPAN」:https://rebuildingcenter.jp
2025/1/19 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. BUILT TO LAST / MÊLÉE
M2. MY LIFE / BILLY JOEL
M3. RESCUE ME / FONTELLA BASS
M4. RESCUE ME / AMY HELM
M5. 新しいYES / 桜井和寿
M6. WE BUILT THIS CITY / STARSHIP
M7. THE RESCUE BLUES / RYAN ADAMS
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2025/1/12 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、縄文大工の「雨宮国広(あめみや・くにひろ)」さんです。
雨宮さんは1969年、山梨県生まれ。20歳のときに丸太の皮を剥くアルバイトをきっかけにチェーンソーを使いこなすログビルダーに憧れ、その後、伝統的な木造建築を学ぶために弟子入りし、大工修行。
そして石の斧(おの)「石斧(せきふ)」に出会い、人生が一変。現代の文明社会に疑問を感じ、自然とともに暮らしていた縄文時代の人々の知恵や技術に傾倒していきます。普段は山梨のご自宅にある縄文小屋で暮らしていて、髭や髪を伸ばした、そのルックスも含め、まさに現代の縄文人なんです。
そして2016年からおよそ3年かけて行なわれた、国立科学博物館の人類進化学者「海部陽介」さん率いる一大プロジェクト「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」に全面協力、石の斧だけで丸木舟を作る中心人物として活躍されました。
そんな雨宮さんがいま全力で取り組んでいるのが「JOMONさんがやってきた!」というプロジェクト。これは、日本全国の子供たちと一緒に丸木舟を作り、その舟で日本各地の海を巡るというプロジェクトなんです。
3年前にご出演いただいたときには、すでにこのプロジェクトは始まっていましたが、今年、新たなステージに突入するということで、改めてプロジェクトの全容や今後の展開に迫りたいと思います。
☆写真協力:JOMONさんがやってきた!

樹齢280年の杉の命をいただく
※2021年にプロジェクトの第一章、そのパート1として「杉の命をいただく」という取り組みがありました。これは丸木舟にするための木を伐る活動ですよね?
「そうです。丸木舟を作るためには巨大な杉の木が必要なので、その杉さんの命をいただくというのが、いちばん最初のスタートですね」
●その巨大な木は、どこにあったんですか?
「愛知県 北設楽郡 東栄町、奥三河と言われている地域ですね。愛知県でも名古屋とか街のほうではなくて、山の山の奥で長野県との県境ですね」
●樹齢とか大きさは、どのくらいだったんですか?
「めちゃくちゃ大きかったですよ! 樹齢が280年、樹高、木の高さが46メートル、木全体の重さが多分30トンくらいあったでしょうね」
●ええ〜っ! そんな巨大な杉の木を石斧で伐っていくってことですよね?
「そうなんです。子供たちと一緒に石斧を使って、杉の命をいただくということでした」
●杉と対話しながらっていうことですよね?
「そうですね。もう否応なしに対話が絶対生まれるんですよね。長い期間、向き合いますから」
●樹齢280年の木が倒れたときってどんな思いがありました?
「もう感無量ですし、とにかくありがとうございましたっていう気持ち。それともうひとつは、命をいただいた以上、その杉さんとの約束を果たすことが頭をよぎるというか、絶対にそれはやらなきゃいけないことだなっていうのは、常にありましたね」
●子供たちにも参加してもらって、という作業でしたけれども、どれくらいの日数がかかりましたか?
「19日間です。これは体験教室を3回行なったんですよ。最初の体験教室をやって、次の週、また次の週と3週に渡ってやったので、(木を)寝かせる期間を調整しながらやったんですね。だから伐採だけをやって木を寝かせるには、本当はもっと早くできるんですけども、体験教室をやりながらゆっくりやったので、19日間かかりました」
丸木舟の進水式で奇跡が!?
※2022年には「JOMONさんがやってきた!」の第一章・パート2として「47都道府県・丸木舟作りツアー」がスタートしました。伐った大きな杉の木をトラックに積んで、全国を回ったんですよね。各地で参加した子供たちの様子はどうでしたか?

「もう本当に感動しかないですね。どの県がよかったとか、よく聞かれるんですけれども、本当にどこの県も素晴らしい子供たち、そしてひとりも諦めた子供がいない。これは自分で石斧を作るというところからやるので、そこで諦める子がひとりもいないんですよ。
土曜日に石斧を作って、日曜日にその石斧で削る。それを全国リレーするわけですけれども、それは本当にびっくりすることだったですね」
●石斧を作って、その石斧を使って木をくり抜く作業で、延べ何人くらい参加されたんですか?
「全国ツアーの丸木舟作りは、親御さん含めて1600名くらいですね」
●おお〜そうなんですね! 子供たちもなかなかできる体験じゃないから、目を輝かせていたんじゃないですか?
「そうですね(笑)。子供もそうなんですけど、大人もやったことがある人はひとりもいないんですよ。だから本当に親子で目を輝かせながらやっていましたね。
実際に来てくれた子供たちの年齢層は、ほぼほぼ10歳・・・10歳くらい、もしくは10歳以下の子供です。最年少は4歳くらいで、参加して、自分で石斧を作るっていうね。だから本当に保育園児とか(小学校)1年生から4年生までの子供が主体になって作ったんです。それがまたすごいなと思いますね。高学年とか中学生とかじゃなくてね、はい」

●で、2023年10月には第一章が完了して、丸木舟が完成しました! 舟に名前をつけたんですよね?
「はい、命名ですね。進水式でね」
●なんというお名前になったんですか?
「みんなの舟だから、『ミンナ』という名前です」
●へ〜! カタカナでミンナ、いいですね!
「はい、ありがとうございます」
●丸木舟「ミンナ」の大きさは、どれくらいになるんですか?
「ミンナの大きさは全長が約10メートル、沖縄で完成した時の重さは1.7トンありました」
●実際に水に浮かべて、試乗されたりもしたんですよね?
「ミンナが完成したあとに沖縄で・・・そのミンナを山梨まで一度持ってこなきゃならなかったので、その帰りの道中、トラックに乗せて、山口、静岡、そして山梨の西湖で試乗会を2カ月間やりましたね」
●実際に水に浮いたときは感動だったんじゃないですか?
「そうですね。奇跡が起こったなと思いましたね。なぜかというと、丸木舟は丸太の状態でくり抜いて作るので、左右をバランスよく作るとか、平らにふなべりが真っ直ぐ浮かぶとか、バランスよく作るのはめちゃくちゃ難しいんですよ。一回浮かべただけでは絶対できないっていう、そういう舟作りなんですけども、なんとそれが沖縄の進水式で、一回浮かべただけで完璧に浮かんでしまったと!」
●すご〜い!
「すごいですよ! 本当にすごいです! 手直しは全くなかったですね」

杉さんとの約束を守る
※2023年11月から「JOMONさんがやってきた!」の活動は第二章に入り、「キラキラ星プロジェクト」が始まりました。これはどんな活動なんですか?
「第一章は丸木舟を作るっていう活動でしたよね。第二章は杉の木、丸木舟になった杉の木との約束を果たすためのプロジェクトです」
●具体的にはどんなことをするのですか?
「その約束というのは、杉さんが生きていた時に、私たちが命をいただく時に、杉さんが私たちにこう言ってきたんですよ。“俺の命をお前たちにあげる代わりに、お前たちがそんなに舟を作りたいなら、命をあげよう“と、”その代わりにひとつだけ約束してほしい“と言ってきたんですよ。それが“この地球上のすべての生き物たちを幸せにすることだ! わかったか~!”って言ってきたんです。
それで私たち参加した人たちも“わかりました! 杉さん! 約束を必ず果たします”って言って、石斧の斧を(杉の幹に)入れて木の命をいただいたんですね。そして全国ツアー、1600人の参加者も“杉さんとの約束を守ります!”と言って、みんなが幸せになる舟を作ったんです。これが第一章だったんですよ。
今度はその舟で世界航海をして、すべての生き物を幸せにする航海を、実際にみんなでしていこうというのが第二章なんですね」
●杉さんが言ってきたっていうのは、どういうことなんですか?
「実際に杉の木は人間の言葉は喋らないですからね。私も聴きたかったですけど(笑)・・・私たち人間は、いろんな生き物の声を聴く力はあると思います。いわゆる相手を思いやる、相手の立場になって物を考えるっていうことですね。 もしあなたが、君が杉の木だったらどんな気持ちになるかと・・・」
●なるほど~。
「と言いますと(杉さんは)280年も生きてきて、いろんな生き物たちの家になって、そして私たちにいちばん大切な、生命にいちばん必要な、おいしい水、おいしい空気を毎日作ってきてくれたんですよ。その役目を断ち切られるわけですね。そしたら“俺の命をお前にあげるけども、お前たちは俺以上のことをしてくれ“と、そういうふうに言ってきた。命のやり取りは本来そういうことなんですね。
いろんな生き物の命を私たちはいただいて生きています。その生き物たちの命をいただいたら、より良い地球にしていかなきゃいけないですね。これはもう本当、生命原理で当たり前のことなんですけどね。それを杉さんがこう言ってきたというふうに言っていますけども」

地球をキラキラ星にしよう!
※雨宮さんが取り組んでいるプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」の活動は2023年11月から第二章に入り、「キラキラ星プロジェクト」が始まりました。プロジェクト名にある「キラキラ星」には、どんな思いが込められているんですか?
「これは夜、星を見た時に“きれいだな~”って思うでしょ!? みんなこれ、全人類が思うことだと思うんですよ。“あの星、なんか汚ねえ星だな~”なんて思う人はひとりもいないと思う。キラキラする星をね。でも、私たちが住んでいるこの星、地球は今めちゃくちゃ汚いんですよ。その地球を汚しているのは私たちなんですね。その星をキラキラ星にしようよっていうプロジェクトなんです」
●素敵な名前ですね~。全国の海を丸木舟「ミンナ」で巡りながら、海岸のゴミ拾いもされるってことですよね?
「そうですね。この地球を汚しているものは、私たちが毎日出す、暮らしから出るゴミなんですね。想像してみてください。もし全人類がゴミを出さない暮らしをしたら、どうなると思いますか? ゴミが出ないんですよ、暮らしから。それは原始人たちが、縄文人たちがやってきたことなんですね。そういう地球は本当に輝いていたと思います。
ここでひとつ、ゴミというのは一般家庭から出るゴミだけではなくて・・・そもそもゴミという概念は、手に負えない危険なものですよね。そういう意味で考えると戦争の道具とか、核兵器とか、あらゆる毒薬とか、もうすべてがゴミなんですよ。そういうものを作り出さない世の中にしていく、それを目指していますね。
海岸のゴミを拾っても、ただ場所が移動するか、燃やせば気体になるか、形は変わってもなんら地球に害を及ぼさないものには変化しないんですよ。ずっとゴミであり続ける。だからこそ、もうこれ以上ゴミを作らない世界を作っていこう、全人類の暮らしを作っていこうということを、みんなにアピールしながら航海していくということですね。それが大切なところです」
●現在は準備期間っていうことですよね?
「そうですね。2023年の11月から2024年の10月まで、日本一周航海練習ということをしまして、山口県の佐合島(さごうじま)というところで航海の練習をしていました。おかげさまで航海のクルー、ずっと一緒にいつも漕いでくれる常駐クルーが私を含めて3人誕生しました」
●おお~~!
「そして、日替わりクルーという、『ミンナ』を作った子供たちとか、作ってない子供たちもみんなで一緒に漕いでいこうっていうのが、このプロジェクトなんですね。今回、体験教室に参加してくれた子供や大人たちも入れて、60名以上の日替わりクルーも誕生しました」
●この「キラキラ星プロジェクト」が本格的に始まるのは、いつ頃からなんでしょうか?
「今年2025年の4月から航海がスタートします」
(編集部注:今年4月から始まる日本一周の航海は、まず、瀬戸内海を2年かけて巡り、その後、九州編、日本海編、北海道編、さらには太平洋編、南西諸島編と続く予定。毎年、寒い時期は避けて、4月から10月に航海することを繰り返し、7年ほどで日本一周を終える構想になっています)

ドキュメンタリー映画『みんなのふね』
※そんな雨宮さんのプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」は、実は第一章の活動が映像として記録され、ドキュメンタリー映画として、ついに完成。タイトルは『みんなのふね〜Jomon-san has come』。監督は、雨宮さんが全面協力した「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」の撮影クルーだった「にしやま・ゆうき」さんというかたなんです。
この映画は、雨宮さんのほうから「にしやま」さんにアプローチし、これからやる活動を映画にしてほしいと頼んだそうですね。映画にしたいと思ったのは、どうしてなんですか?
「『JOMONさんがやってきた!』というプロジェクトを言葉で言っても、なんじゃそれ!? っていう、わけのわかんないプロジェクトなんですけども、それをより知っていただくために、いちばん大切な、杉の木の命をいただいて、全国の子どもたちと舟を作ったというところを、それに参加したわずかな人しか見てないわけですよ。
そこがいちばん大切な部分で、舟ができちゃったら、みんなそのことを見ようともしないし、なかなか見られない。そこを映像を通して全国の人たち、そして全世界の人たちに知ってもらいたい! そういう思いで、これは絶対に映像に残さなきゃと思って、私の知り合いにもテレビ局の人とかいましたけども、みんな断られて、最後の最後に頭に浮かんできたのが、にしやま監督だったんです」
●へぇ~! 完成版はご覧になりました?
「はい! 昨年の12月7、8日と、先行上映会やりまして・・・」
●どんなお気持ちになりましたか?
「いやもう、ありがとうございますって、これしかないですね! 素晴らしい映画です。本当に自分で言うのもなんですけども・・・」
●英語の字幕が入っているんですよね?
「そうです。このプロジェクトは、全世界の人でやっていかないと絶対に達成できないので、英語(の字幕)も入って、全世界の人に発信していきたいですね」
●『JOMONさんがやってきた!』は現状、どんな構想になっていますか?
「今のところ、今年の4月から航海が始まって、7年間かけて日本を一周できたら、その後は世界一周です!」
●おお~!
「これを5年かけてやります。で、日本を出発して5年後に戻ってこられたら、次はアメリカ大陸に向かって、今度は各大陸の沿岸のゴミを拾う航海をずっとしていきますね。これはおそらく300年ぐらいかかるんじゃないですかね」
●うわ~、じゃあ、後継者が必要ですね?
「そうですね。全国にタネを撒いてきましたし、おかげさまで日替わりクルーの練習にも、子どもたちが参加してくれていますし、常に私も“次は頼むぞ!”っていうことを言いながら一緒にやっていますよ」
●改めてになりますが『JOMONさんがやってきた!』の活動を通して、いちばん伝えたいことを教えてください。
「いちばん伝えたいこと・・・これはみなさん、全人類がこの地球船というかけがえのない、ひとつの船に今乗って暮らしているわけですよ。みんなで同じ方向を向いて、キラキラ星に向かって漕いでいかなければ、絶対に達成できないプロジェクトなんですね。
必ずひとりひとりにできることがあって、その小さな行動が絶対に大きな成果を生んで、ゴールすることができるので諦めないで、みんなの心をひとつにして、毎日漕いでいく、毎日楽しく仲よく暮らしていくっていうことを心がけて、漕いでいってほしいなと思います。この『地球船』をね」
●今だからこそ私たちは、縄文時代の暮らしとか考え方に習う必要がありますよね?
「そうですね。科学万能の、この社会が本当にいいんだ! ではなくて、やはり世界の状況が今こういう結果になっているわけですから、一度見直して、本当にこの文明社会がいいのかをしっかり考え直してほしいですね」
INFORMATION
雨宮さんが全身全霊で取り組んでいるプロジェクト「JOMONさんがやってきた!」では、活動資金を寄付という形でも募っています。ぜひサポートをお願いします。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎JOMONさんがやってきた!:https://jomonsan.com
ドキュメンタリー映画『みんなのふね〜Jomon-san has come』は順次、全国で公開予定。3月8日には雨宮さんの地元、山梨県甲州市にある勝沼市民会館で上映されることになっています。この映画は自主上映も可能だということで、上映会のスケジュールも含め、詳しくはオフィシャルサイトを見てください。
2025/1/12 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. ORINOCO FLOW / ENYA
M2. I PROMISE YOU / MICHAEL BOLTON
M3. IT’S A MIRACLE / BARRY MANILOW
M4. COMPASSIONATE MAN / OLIVIA NEWTON-JOHN
M5. BETTER TOGETHER / JACK JOHNSON
M6. WOODEN SHIPS / CROSBY, STILLS & NASH
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
2025/1/5 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立研究開発法人「海洋研究開発機構(JAMSTEC)」の主任研究員「川口慎介(かわぐち・しんすけ)」さんです。
川口さんは1982年、兵庫県宝塚市生まれ。北海道大学・理学部時代は、海ではなく空、それもオゾン層より上の「大気の研究」をしていたそうです。その後、一転「深海の研究」へ。そして東京大学海洋研究所の大学院生時代に、JAMSTECのスタッフと一緒に仕事をしたこともあって、誘われてJAMSTECの職員になり、現在は主任研究員として活躍されています。プライベートではプロレス好きのサッカー部員で、カラオケも得意だとか。SNSでは「海ゴリラ」として知られています。
JAMSTECは、海洋・地球・生命に関する研究や調査を行なう国立の研究機関で、日本が世界に誇る科学調査船「ちきゅう」や有人潜水調査船「しんかい6500」、その母船となる「よこすか」などを保有しています。
川口さんは「しんかい6500」に乗船するなどして、深海や海底に関する研究をされています。そして先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されました。
きょうはそんな川口さんに「しんかい6500」による調査のほか、海水に含まれる成分や、海の中で聴こえる音の研究のお話などうかがいます。
☆写真提供:海洋研究開発機構

「しんかい6500」、初めての時の記憶がない!?
※まずは、JASMSTECで、どんな研究をされているのか、教えてください。
「僕は調査船に乗って、陸地から離れた遠洋のほうまで行って、深い海、特に海底の近くで何が起こっているかを実際に潜ったりとか、ロボットを降ろして調べる仕事をしています」
●研究のために川口さんも「しんかい6500」に乗って調査することもあるってことですよね?
「はい、実際に『しんかい6500』に乗り込んで、深い海まで潜ったこともあります」
●これまでに何回ぐらい乗ったんですか?
「僕、実は少なくて、4回だけなんですけども、潜らせてもらっています」
●初めて「しんかい6500」に乗って、深い海に行った時はどんなお気持ちでしたか?
「もう全然覚えてないですね。初めての時のことは全く覚えてないです。きっと興奮していたんだと思います」
●乗る前からワクワクみたいな、そういう感じでしたか?
「う〜ん、もう本当に覚えてないんですけど(苦笑)、どちらかというとやっぱり研究が進む進まないっていう部分のプレッシャーがあったので、そっちでいっぱいいっぱいだったのかもしれないですね」
●(最初の時は)どれぐらいの深さまで潜ったんですか?
「最初の時は2500メートルだったんですけど、その後6000メートルまで潜る機会がありました」
●光が届かない深海って真っ暗ですよね?
「真っ暗ですね」
●外の様子は窓から確認できるんですか?
「はい、窓に顔をへばり付けて、ずっと外を見るんですけど、時々プランクトンとか魚で光るやつなんかがいたりして、ちらっと光が見えたりして幻想的です」
●へえ〜、すごいですね! 1回の潜水時間はどれぐらいなんですか?
「潜水船の蓋が閉じて、潜って帰ってくるまでのトータルで8時間ぐらいですね」
●深海で調査できる時間はどれぐらいなんですか? 到達するだけでも時間はかかりますよね?
「そうなんですよ。だから6000メートルぐらいまで潜ると、行くのに3時間、帰るのに3時間ぐらいで、海底にいるのは2時間もないですね」
●乗船するのは何名ぐらいなんですか?
「潜水船の中には3人乗ります。パイロット側のかたが2名と、研究者1名というのが通常の組み合わせです」
(編集部注:6000メートルくらいまで潜るのに、およそ3時間はかかるというお話でしたが、予定の深さに到達するまでの間、「しんかい6500」の狭い船内で何をされているのか、気になりますよね。お聞きしたら、努めてリラックスするようにしていて、パイロットのかたとおしゃべりをするか、仮眠をとるか、中にはタブレットなどで映画を見る人もいるそうです。
また、船内にはトイレはないので、成人用のおむつを着用して乗船するとのことですが、おむつもどんどん改善されて、不快感はまったくないそうですよ)

母船に戻ってきたからが勝負!?
※研究にはサンプルの採取が欠かせないと思いますが、どんなサンプルをどんな方法で採取するんですか?
「生物だと、掃除機のような形をしているもので吸い取って、網に引っかけるように集めたりだとか、水を取りたい場合だと、ペットボトルのようなものを持っていって、深海で(水を採取したら)蓋を閉じて持って帰ってくるとか、ということをやっています」
●深海になればなるほど、水圧がとんでもなくすごいですよね。そんな深海で採取したサンプルを船の上まで引き上げると、状態が変わっちゃわないのかなって思うんですが、そのあたりはどうですか?
「めちゃくちゃ変わってしまうんですね。圧力が抜けるので変形するっていうのもあるんですけども、深海は基本的に涼しいというか冷たい環境なので、持って帰ってくるまでに、ぬるくなってしまうのが結構深刻な問題になります」
●ぬるくしないために何か方法があるんですか?
「みんな工夫はしているんですけれど、これという方法はなくって・・・僕は最近そこを解決したくって、冷たくするための装置を開発するような仕事もしています。 冷たいまま持って帰ってきて調べた時に、今までと全然違う見え方をしたら、ぬるくなっているってよくなかったんだなっていうのがわかっちゃう、よくも悪くも判明するかなと思って取り組んでいます」
●採取したサンプルは、船の上ですぐ調べるんですか?
「ものによっては本当にそこの時間が勝負になったりしますね。どんどん腐っていくものもありますし・・・だから潜水船で潜ることの調査なんですけど、潜水船が海の上で待っている母船に帰ってきてからのほうが本当の勝負で、徹夜続きになることもあります」
●では母船には、すぐ研究できるような機器とか施設が揃っているってことですよね?
「母船には冷蔵庫、冷凍庫はあるんですけど、基本的なものしかなくて、航海の度に研究者が自分のツールを持ち込んでそれを使います」
●川口さんの研究でこれまでサンプルを通して分かってきたことがあれば、ぜひ教えてください。
「わかってきたことは・・・まだまだわかんないことがあるなっていうのが毎回わかります」
●(笑)謎が多いんですね?
「謎だらけですね!」
(編集部注:川口さんが開発している冷やす装置はスバリ「深海冷凍装置」。パソコンを冷やす機能を応用しているそうですよ)
海水にはあらゆるものが含まれている!?
※川口さんは先頃『深海問答〜海に潜って考えた地球のこと』という本を出されています。この本を出すにあたって、何かコンセプトのようなものはありましたか?

「海の研究者が書いた海の本っていうのは、僕の師匠とか上司もたくさん本を書いているんですけど、これまでだいたい2種類あって、研究者が自分の専門分野のことを詳しく書いて紹介するタイプの本と、もうひとつは(一般のかたに)海に親しんでもらうために、”海って不思議なところだね”っていうポップな感じで書いてあるものと、だいたい2種類に分かれるんですね。
僕は今回その中間ぐらいの本を書きたいなと思って、ポップで読みやすいんだけど、専門的な話も書いてあるっていう、そこを狙いたいなっていうのがいちばん大きなコンセプトで 書きました」
●本の中から、ほんの少し初歩的なことをピックアップして質問させていただきたいと思います。まず海水はしょっぱいですよね?
「はい、しょっぱいですね」
●しょっぱい、そのもとは食塩の成分ですよね?
「そうですね。食塩の成分である主にナトリウムがしょっぱさの原因だというふうに言われています」
●塩分濃度はどこの海でも同じなんですか?
「これ、ほんとに重要なポイントで、海の塩分はどこの海でもだいたい同じなんですけど、専門家からすると全然違います! っていう言い方をします。ちょっとしか塩分は違わないんですけど、そのほんのちょっとの違いが、海水が動いたりとか混ざったりするのにとても大きな影響を及ぼすんですね。
一般に普通に暮らしている人がなめたら、同じしょっぱさだねっていうレベルの塩分なんですけど、科学的にはこれは全然塩分が違うんだというような言い方をしたりします」
●海水には、ほかにどんなものが含まれているんですか?
「海水にはなんでも含まれています。あらゆるものが含まれている・・・ただ多い少ないというのがあって、塩分、しょっぱいって言っている塩素とかナトリウムはとってもいっぱい溶けていますけど、たとえば鉄はほんの少ししか溶けてないです。でもほんの少しは溶けている、金も銀も銅もほんの少しは溶けているっていうのが海水の正体です」
日本近海にもある海底資源
※海底にある資源については、世界でも関心を持っている国が多いと思いますが、日本近海にも海底資源はあるんですよね?
「はい、日本の近海にも海底の資源が見つかっている場所はあります」
●どんな資源が見つかっているんでしょうか?
「日本の近海でよく見つかるのは、ひとつは銅を多く含むような『熱水性鉱床』と呼ばれるもの。日本列島からは離れてしまいますけども、離島の周りにあるのが『マンガン団塊』とか呼ばれるようなマンガンを主体とする海底資源があります」
●実際に海底から引き上げて資源として利用するとなると、それはそれで莫大な費用がかかりそうですね?
「費用はすごくかかると思いますよ。資源として利用するっていうことは大量に採らなきゃいけなくて、大量に採るっていうことは、それに必要な船も大量だし、働く人も大量だし、かかる時間も長いしっていうので費用はたくさんかかると思います」
●そうなると、国家プロジェクトですよね?
「う〜ん・・・微妙・・・(苦笑)表現が難しいですけど、海底資源ってよく相場で1グラム何円っていう部分があって、そこは変動するじゃないですか。でもここの海底に何グラムありますっていうのは変動しないんですよ。
だからもし、すごく貴重になって価格がすごく上がると、国家プロジェクトじゃなくても儲かるからやるっていう企業が出てくるかもしれない。でもそこに何グラムありますか? っていうのがわかっていないと、やっぱり企業は手が出しにくくて、そういう意味で今の段階では国家プロジェクト的に動いているというのが、海底資源に関する現状だと思っています」

勝手になっている海の音!?
※川口さんは数年前から「海の音」の研究をされているそうですね。これはどんな研究なんでしょうか?
「海の音の研究にもいろんな種類があるんですけど、僕は海に人間が鳴らした音というよりは、勝手に鳴っている音をよく聴くと、海の状況がわかるんじゃないかっていう考え方で取り組んでいます」
●勝手に鳴っている音っていうのは、どういう音なんでしょうか?
「一般的にいちばん鳴る音は、たとえば、雨が”ザア〜ザア〜”降ると海面を叩くので音が鳴るとか、波がじゃぶじゃぶすると”ジャブジャブン”という音がするとか、そういうのが勝手になっている音のひとつです。それとは別に生物が動くことで、浅いところから深いところ、深いところから浅いところへと移動すると、体が”ポキポキ”なる音とか、(生物が)餌を食べる時に海面で”ジャブジャブ“する音が聴こえたりもします」
●そういう音は、どうやって録音するんですか?
「深海で音を録る時は、海底に録音機を設置してただひたすら待つ。録音機に音が入ってくるという形で今は録音しています」
●深い海に録音機を設置するってことですよね? どんな録音機なんですか?
「深海の圧力に耐えられる、海水につけても壊れない特殊な装備をした録音機なんですけれども、それはさておき、そういう録音機をたとえば『しんかい6500』に持たせて潜らせて、海底に置いて帰ってくるという方法をとります。
で、結構大事なところで、『しんかい6500』は船自体から出る音があまりにうるさくて、海の自然な音が聴こえないので、録音機を海底に置いたら一度離れて、船の音が入らない状態にして、自然の音を聴いてもらって、改めてまた回収しに行くというようなことをやっています」
●実際に海の音を研究されて、わかってきたことはあるんですか?
「いや〜わかんないですね(苦笑)まだまだわかんないことばっかりです」
●本当に海って謎だらけなんですね?
「はい、謎だらけです」

●海は本当に広くて深いので調べれば調べるほど、謎が増えていくように思いますけれども、今後、調査研究したいテーマはありますか?
「ひとつ大きいのは、深海生物がどうやって時間を感じているのかっていう研究は、いつかしたいなと思っているテーマです。深海生物が季節とか時間を感じているんじゃないかとか、いや感じてないとかっていうことは、昔から言われています。
いずれにせよ、深海には太陽の光が届かないので、昼と夜ってわからないはずなんだけど、時々(深海生物は)わかっているんじゃないか、みたいなデータが取れることもあって、それが音と関係しているんじゃないかな〜っていう話につなげられると、ロマンがあって面白いかなと思って考えています」
●解明してください!
「(笑)頑張ります。応援してください!」
(編集部注:川口さんは、クジラやイルカなどの鳴き声を含め、海の中で鳴っている音は、きっと深海まで響いているので、その音を研究することで、生物の様子がわかるのではないか、そんなこともおっしゃっていました。
川口さんが携わっている海の音をモニタリングするプロジェクトについて詳しくは、JAMSTECのオフィシャルサイトに情報が載っているので、ぜひチェックしてください)
☆海洋研究開発機構(JAMSTEC ):https://www.jamstec.go.jp/smartsensing/j/
INFORMATION
川口さんの新刊をぜひ読んでください。海とは何か、地球とは何かを、生命の起源や深海の謎、気候変動の対策など、地球規模のテーマにそって探求する問答集です。謎だらけ、わからないことだらけの海について、深く潜って考えてみてはいかがでしょうか。エクスナレッジから絶賛発売中。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎エクスナレッジ:https://www.xknowledge.co.jp/book/9784767833187
「海ゴリラ」という名前で展開している川口さんのSNS「X」にもぜひアクセスしてみてください。
◎X:https://x.com/the_kawagucci
◎海洋研究開発機構(JAMSTEC):https://www.jamstec.go.jp/j/
2025/1/5 UP!
オープニング・テーマ曲「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」
M1. YELLOW SUBMARINE / THE BEATLES
M2. DEEP SEA DIVER / BRISTON MARONEY
M3. BUILDING A MYSTERY / SARAH MCLACHLAN
M4. SALT WATER / ED SHEERAN
M5. 50% / OFFICIAL髭男DISM
M6. ALL THE MONEY IN THE WORLD / BELLEFIRE
M7. TIME AFTER TIME / CASSANDRA WILSON
エンディング・テーマ曲「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」