2020/8/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、世界157カ国を、およそ8年半かけて旅をした自転車冒険家「小口良平(おぐち・りょうへい)」さんです。
☆写真提供:小口良平
小口さんは1980年生まれ。長野県岡谷市出身。2007年から1年かけて、自転車で日本一周。2009年3月から2016年10月にかけて、世界157カ国を自転車旅。移動した距離はおよそ15万キロだそうです。そして先頃、世界一周の旅をまとめた本『果てまで走れ! 157カ国、自転車で地球一周 15万キロの旅』を出されました。
きょうはそんな小口さんに、世界一周の旅で出会った人々や忘れられない出来事、そして自転車の魅力などうかがいます。
3つの魔法の言葉
※世界一周の旅に出ると決意した小口さんは大学卒業後、建設会社で働きながら、一日2食の節約生活を5年近くも続け、旅の資金を貯め、そしてついに世界一周の旅に出たそうなんですが、どんなルートで世界を巡ったのでしょうか。
「日本からいきなり飛行機でオーストラリアに飛びました。で、オーストラリアのからオセアニア諸島ですね、ニュージーランドとか走りながらインドネシア、インドネシアからずっと東南アジアを上がって、インドのほうまで上がりました。そのあとシルクロードをずーっと東のほうから、アジアから中央アジアを超えて、中東を超えて、ヨーロッパを周ったあとにアフリカ。で、東アフリカを走ったあとに、今度はヨーロッパの北欧と西欧、で、西アフリカに南下しました。最後は2年ちょっとかけて北中南米大陸を、北のアラスカのほうからぐーっと南のほうに下がってゴールがニューヨーク。アメリカのニューヨークから最後、日本に戻ってまいりました」
●言葉はどうされていたんですか? 勉強されていたんですか?
「それが恥ずかしながら、英語もまともに喋れなかったんです(笑)。最初に行ったオーストラリアでカタコトな英語発音だけは覚えて、一応ブロークン・イングリッシュを使って、世界の人とコンタクトしていたんですけども、やっぱり人間なのでジェスチャーがある程度通じていました。ただ、世界を周るにおいて、現地の言葉を3つ覚えていたらコミュニケーションがとれるっていうのを発見しまして、私はそれを魔法の言葉と呼んでいるんです」
●へー! その3つはなんですか?
「1つ目が“こんにちは”、例えば英語だとハローとかスペイン語だとオッラー、フランス語はボンジュールとかなんですけども、それで相手の警戒心を解くことができたんですね。
2つ目が“ありがとう”、センキュー、メルシー、グラシアスとかなんですけれども、やっぱり自分が感謝を示すっていうことでオープンマインド、仲良くしたいですっていうメッセージが届いていたので、向こうもありがとうって言われて嫌な気分になる人はいないと思うんですよね。話を聞いてくれるような親身な状態になってくれていましたね。
最後が“うまい”“おいしい”、英語だとヤミーとかスペイン語だとサブロッソとか言うんですけども、やっぱり人間なので食べ物を食べて生きています。同じ食べ物を食べて共感してくれるっていうことが非常に相手の、やっぱり文化を尊重してくれているっていうように多分思ってくれたと思うんです。食っていう字を分解すると“人を良くする”って書いてあるんですね」
●おー! 確かにそうですね!
「はい、まさに私もそうです。この間も海外の友達が来て、納豆を食べておいしいって言ってくれて、何か納豆を褒めてくれる=日本を褒めてくれるような気になっていました。私も同じように現地のものを、現地の言葉でおいしいって言ったら、すぐに仲良くなって家に泊めてくれたりとか、優しくしていただいていました」
●そうなんですね! 本当に魔法の言葉ですね!
「そうですね! ちょっと言葉に自信のない方はとりあえず、この3つの言葉を現地語で覚えていくことをお勧めします!」
車の接近が鼻で分かる大自然!?
※およそ8年半の世界を巡る旅では、とんでもないハプニングがたくさんあったと思いますが、その中から、いろんな「いちばん」を聞いていきたいと思います。まずは、いちばん嬉しかった出来事はなんですか?
「そうですね。世界中で会った人と再会の場面がありまして、例えば、他に私と同じように自転車旅をしているスペインの友達がいて、たまたま一度会ったあと再会をしたりとかしていました。その中で実は私、旅の最中に出会った日本人の女性、エジプトのラハブっていうところで会ったんですけども。で、帰ってきて2016年、5年半ぶりに再会して、その女性と少し仲良くなりまして、実は2年前に結婚して、先々月、子どもも生まれました(笑)」
●わあ! おめでとうございます!
「ありがとうございます! それこそ多分、旅をしてなかったら日本でも絶対出会ってなかったので、そういう意味ではトータルすると、旅で嬉しかったことは再会かなと、そして妻との出会いかなっていう風に今では振り返りができました」
●そうなんですね〜! では、いちばん美しいと思った景色はどこですか?
「中央アジアのタジキスタンにパミール高原と呼ばれているところがありました。標高が4000メートルを超えているような場所なんですけれども、政治的な理由もあってちょっと内乱をしばらくしていましたので、割と観光で入れるようになったのは最近になります。
私が行った時も全然人に会わないようなところで、峠をいくつも越えて行って走っておりました。そしたら、何か鼻につんざくような匂いが感じられたんです。何の匂いかなと思った時に、ガソリン? って思った瞬間に、次は目で視覚として2キロ〜3キロ先に車がやってくるのが分かりました。そして近づいてくると音でようやくそれが車だって分かったんです。
つまりはですね、そこに人が全然いないので空気が非常に澄んでおりまして、車の存在が目や耳よりも、先に鼻で分かるような大自然が残されているような場所でした。夜空の星なんかも流星が降ってくるような、本当にロケットが落ちてきているんじゃないかって思えるような大自然があって、まだまだ地球にはこんなところが残っているんだ! ってワクワクした景色が本当にいちばん美しかったかなと感じました」
●素敵ですね〜。では、いちばん美味しかったご飯は何ですか?
「中東料理なんですけども、イランという国に行った時に食べさせてもらった “ドンドルマ“っていう料理がありました。田舎料理みたいなんですけれども、トマトとかナスとかの中をくりぬいて、そこにお肉を詰めたりお米を詰めたりとかして。
イランはオリーブオイルが非常に有名で、純度の高いオリーブオイルがありまして、その肉詰めしたもの、米詰めしたものの野菜をオリーブオイルで1日中煮込みつつ、次の日になったらそれを取り出してお皿に並べて最後に乾燥ローズ、バラのチップをふわーっと振りかけて、なんとも優雅な、エクセレントな食べ物をいただきました。
味はどこか日本の煮込み料理にも非常に似てて、そういった意味もありまして美味しくいただいていました!
この料理がですね、実はあんまりレストランに並んでいなくて、仲良くなったご褒美の証に家に招いてもらっていただいていたので、そういったことも含めて、本当にいちばん美味しかったご飯かなって思います」
カンボジアの恩人、無償の愛と約束
※世界を巡る旅では、たくさんの人に出会い、助けてもらったことも多いと思うんですが、特に記憶に残っている人はいるのでしょうか。
「カンボジアで出会った家族になります。私の中で今でも約束と思って活動をしているんですけれども。カンボジアに行った時にカンボジアの現地通貨が切れてしまって、銀行で両替しようと思ったんですけど、土日で空いていませんでした。お金が一切なくて、川を渡らなくてはいけないんですけれども、その渡し船のお金も払えなくて。
ひとまずキャンプをしようと思って、地域の人たちにキャンプをさせてくれって言ったんです。普段だったらキャンプをさせてくれるんですが、小さい村だったので、ダメだって追い払われてしまったんですね。
体調も非常に悪かったので、泣く泣く学校の裏に隠れて張ったんですけども、やっぱり見つかってしまって、出てけ!って、みんなに追い払われた時にある人が近づいてきてくださって、その人がこっち来いよと言ってくれたんです。ついていくとその人が渡し船のお金を払ってくれて、対岸のですね、屋台があったんですけども、その屋台に連れて行ってくれました。で、ご飯をご馳走してくれて、結果その彼の家に招いてくれて、一泊させてもらいました。
次の日の朝になると当然のように朝ごはんが出てきて。私もそれだけ優しくされて体調も徐々に良くなって、じゃあきょう出発できる!って思って、出発しようとした時に彼が私の手の上に置いたのが現地のお金だったんです。
それも多分、今で換算するとカンボジアの、一般の人の平均給料の半分くらいのお金、日本円だと10万円とかそのぐらいの大金を彼が家族を振り切って渡してくれたんですね。彼には小さい子どももいるので、さすがにこれは受け取れないよって返したんですけれども、彼がそれは絶対持っていけと、世界一周するっていう人間が、日曜日だし、きょうも食べられなかったら、世界一周なんかできないと、きょう君が来てくれたから家族みんなが笑顔になっていると、またしばらくしたら、変な日本人、今頃どこにいるのかな、なんて言ってまた家族がハッピーになってスマイルになる瞬間があるから、これは感謝の証だ、って言ってくれて渡してくれたんです。
本当に世界中いろんな人が優しくしてくれましたけども、本当に無償の愛をたくさん受け取って、いつか私がこの家族を私の故郷の長野県に呼びたいなっていうのと、私自身も新しくできた家族を自転車でまたカンボジアに、この町に行きたいなっていう風に思って、彼との約束を今も、まあ果たせずにはいるんですけども、それを果たしたいなと思って今の活動をしています」
●この本を読んでいると、いろんなハプニングがあって、どうしてそこまでして旅を続けるんだろう?っていう風に思ってしまったんですけれども、旅を続けることのモチベーションってどこからきたんですか?
「やっぱり人に優しくされたっていうのがいちばん大きかったなと思います。応援してくれている人の気持ちを裏切れないな、応えたいなっていう思いがあったと思います。多分自分だけの約束であれば、変な話、弱い人間なので途中で帰っていたかもしれないんですけれども、やっぱりこれだけ優しくされて、次に再会した時に世界一周できなかったって言ったら、ガッカリさせちゃうなとかって思うと、頑張って世界一周して再会した時に、君のおかげで世界一周できたんだよ、ありがとう!って言いたいなっていうのが、本当に最後の最後までモチベーションになっていました」
サドルの上の原風景
※ところで、小口さんが自転車の魅力にハマったのはいつ頃だったのでしょうか?
「いちばん最初に自転車って楽しいな〜って思ったのが、兄がいるんですけども、兄と一緒に、私の故郷には諏訪湖という一周16キロぐらい、当時は道路が綺麗じゃなかったので22〜23キロあったんですけど、その諏訪湖一周を8歳の時にしました。
その時にお腹を空かせながらも走っていると、普段車でばーっと過ぎていた風景がしっかりと全部自分の頭の中に入ってきていました。例えばこんなところにお店があったんだなとか、親戚のばあちゃんの家ってこんな遠くにあったんだとかですね、鳥とか草花の音が聴こえたり、車では感じられなかったものがサドルの上ですごく良く感じられて、その一周が私にとっての大冒険だったんです。それがなんか原風景として心の中に残っています」
●小口さんにとって最初の冒険なんですね。
「そうですね、はい」
●現在、小口さんはジャパン・アルプス・サイクリング・プロジェクトの副代表を務めてらっしゃいますけれども、これはどんなプロジェクトなんですか?
「はい、長野県の県知事のもとに官民連携の協議会を作りまして、私はそこで副代表をさせてもらっているんです。長野県をサイクリングで、その魅力を伝えていこうということで、今大きく観光プロモーションをしていて、長野県を一周するサイクリングロード800キロを今作っているところです。
自転車乗りの人にとっては坂とか峠、山が実はご馳走のような場所になるんです。これを登るために一生懸命汗をかいたりとか。標高2000メートルを超えると森林限界、植生が変わってくるので、そこにいる動植物も変わってきます。そして長野県ならではの温泉であったり、食文化、海こそないけれど、山菜やそば、そういったものを楽しんでもらえるようなものを周遊観光として今みんなで作っているところです」
●平坦な道のりじゃダメなんですね(笑)
「そうですね! 平坦は平坦でいいんですけど、やっぱり初級者から中級者、上級者までが楽しめるのが長野県の魅力かなっていう風に思っています。そして今だと電動アシスト付きの自転車、Eバイクがありますので、この登場によって今、老若男女の方が楽しめるような環境が整ってきています」
南極大陸、そして月へ
※小口さんは地元長野でバイク・パッキング・ツアーのガイドもされています。どんなツアーなんでしょうか。
「自転車に荷物を載せまして、そこにテントであったりとか食料、寝袋とか、そういったものを付けて1泊2日。もしくは来年、本格的にやろうとしているのが子どもたちを、今私がいる日本のど真ん中と呼ばれている辰野町から海を目指して、5泊6日で行くようなツアー、そういったもののガイドをしています」
●へー! 初心者でも大丈夫ですか?
「そうですね。それこそ今私たちの辰野町というところを、ゆっくりのんびり走ってもらおうということで、主にちょっと都会とかで仕事に疲れてしまった30〜40歳くらいの女性をターゲットに可愛らしいマップを作ったりとか、そういった方々が楽しめる、おいしくてお洒落で綺麗な、インスタ映えするようなコースとか、そういったコンテンツを作ったりしています」
●車では感じられないことが感じられますね。
「そうですね。時速15キロで走ると全然今までと違った時間軸で見えてきます。汗をかいたりとかすると頭の中もスッキリしだして、本当に、自分の人生の中で大切なものってなんだったかなーっていう風に見返りの時間になるので、是非こういった速度を変えるアクティヴティをしてもらえたらなと思っています」
●小口さんが今後、自転車で行きたいところはどこですか?
「いろいろあるんですけれど、今実は157ヶ国のあとに1年に1ヶ国ずつ行っておりまして、死ぬまでに全ての国を行こうと思っていて、196ヶ国あるので76歳くらいになったら全ての国を走りきれると思っています。
それとあとは南極大陸、こちらも自転車でチャレンジしてみたいなと思って、今少しずつ練習とかしているところです。今年も、新型コロナウイルスの関係はありますけれども、もし状況が芳しくなったら、モンゴルのウランバートルからロシアのイルクーツクっていうところまで800キロくらい、冬場をカットバイクっていう冬を走れる自転車で練習をしていきたいなという風に思っています」
●すごいですね!
「そして最後にはいつか、まあ『ET』っていう映画の影響もあったんですけど、月を自転車で走ってみたいなっていうのもあります。多分30年後には叶うんじゃないかなと思っています(笑)」
●夢が広がりますね〜。では最後に自転車の魅力を一言で言うならば!
「日常を冒険や旅に変えられる、身近な場所をそういった場所に変えられるかなっていう風に思っています!」
INFORMATION
小口良平さん情報
『果てまで走れ! 157カ国、自転車で地球一周 15万キロの旅』
現地の人たちと触れ合いながら世界を走破。その自転車旅の全貌が綴られた感動の冒険エッセイです! ぜひ読んでください。詳しくは、河出書房新社のサイトをご覧ください。
◎河出書房新社HP:
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309417660/
小口さんは10月17日から地元長野県上伊那郡辰野町で、世界一周したサイクリスト13人の写真と言葉の企画展を開催する予定です。詳しくは小口さんのオフィシャルブログを見てください。
◎小口さんのHP:https://ameblo.jp/gwh175r/
◎小口さんが副代表を務める
「ジャパン・アルプス・サイクリング・プロジェクト」のHP:
https://japanalpscycling.jp