2020/10/4 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、自転車の旅人「坂本 達(たつ)」さんです。
坂本さんは1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、ミキハウスに入社。95年から99年に有給休暇をもらって、4年3ヶ月かけて自転車で世界一周、43カ国、55,000キロを走破。その後、出版した本の印税で、お世話になったギニアの村に診療所を建てたり、井戸を掘ったりと恩返し、そして国内での社会貢献活動にも積極的に取り組んでいらっしゃいます。
そんな「坂本」さんが今、家族と一緒に挑んでいるのが自転車による「世界6大陸大冒険」なんです。いったいどんな冒険なのか、このあと、じっくりお話をうかがいます。
☆写真:Tatsu Sakamoto Office
どうせ大変ならやってみよう!
*2015年に8年計画でスタートしたこの大冒険は、毎年3ヶ月かけて、自転車で旅をするスタイルで、第1ステージのニュージーランド編に始まり、スペイン、ポルトガルほかのヨーロッパ編、続いてカナダ・アラスカの北米大陸編、そしてネパール、ブータンほかのアジア編を経て、2019年の第5ステージ、北海道編まで終えています。
そもそもどうして、幼い子供と奥様を連れて、世界6大陸を自転車で巡る旅に出ようと思ったんですか?
「私が20代から30代にかけて単独で自転車で世界一周をしました。4年3ヶ月ほどかかったんですけれども、その時の経験とか感動とか景色とかそういうのを、今度は子どもたちに伝えたいという風に思いました。本とか写真とか言葉では伝えられても、経験してみないとわからないだろうと思いまして、思い切って今度は家族を連れて行こうと思ったのがきっかけです」
●とはいえ、実行に移すとなるとかなり準備も大変だったんじゃないですか?
「そうですね。まず会社の仕事もありますし、あとは妻の説得もありました。子どもに関してはまだ5歳と2歳だったので、お父さんは冒険家なんだよというところから、行くのが当たり前という風に言ってましたね。
会社に関しては、すでに4年3ヶ月の世界一周を会社員として単独でしていましたので、また坂本が2回目をチャレンジしようとしていると、まあその辺でなんとなく理解はあったんですが、やっぱりちょっと妻の方が大変だったかなと思います(笑)」
●世界を旅しよう! って言われて、奥様はなかなかOK出せなかったと思うんですけれども、どのように説得されたんですか?
「私が結婚する時に、いつか家族ができたら家族で世界を自転車で周りたいねっていうことを言ってたんですね。その時に妻もいいわねと言ってましたので、よっしゃ!と(笑)思っていたんですが。
いざ子どもが産まれ、ふたりも男の子がいると子育ても大変で、そんな日常の中、世界一周どころじゃないという状況ではあったんです。でも日々の子育ての中で思い切って海外に出てみれば、彼女も海外で暮らしていた経験がありましたので、いろんな人に助けられて、毎日同じ時間にご飯作ってお風呂入れて買い物に行って掃除してとかではなくて、全く新しい環境だけれども、どうせ大変なんだったら、やってみようと思ってもらえたのが良かったんだと思います」
毎日が試行錯誤
※2015年に始まった坂本家の「世界6大陸大冒険」は、第5ステージまで終わっていますが、いまどんな思いがありますか?
「私は自転車で単独で行くのに関しては長けていましたが、妻が実はママチャリしか乗ったことのないという女性でした。あとは子どもたちもまだ5歳と2歳というところで、ホームシックもありますし、毎日違う人と出会って違う場所に寝泊まりして、毎日同じなのは親の顔だけという、全く私にとっても初めての経験でしたので、試行錯誤の連続でしたね。
1日に走れる距離も単独だったら100キロ以上走れたのが1日15キロ とか20キロ、食べることと泊まることを考えながら安全面をケアするという、全くひとりの旅とは違うチャレンジでしたね」
●確かに安全面も含めていろんな所に気を使われたと思うんですけれども、一番どんな所に気を遣っていました?
「毎年夏に3ヶ月かけて8年計画で走っているんですけども、子どもがどんどん成長していきますので、だんだん、なんで自分だけ夏休みに友達と遊べないの?とか、キャンプに一緒に行けないの?とか、学校のプールも、だから1回も経験してないんですね。
そんな中で、なんで自分だけがこうなの?というのも感じるでしょうし、行きたい行きたくないに関わらず、行くことになりますので、自分たちがその冒険に関わっていると。やらされているんじゃなくて、自分もそのメンバーとしてこれを作っていく、要するに主体的に関わるような、ホームスクーリングではないですけれども、そういう仕組み作りって言いますか。
ただ旅行に行く、冒険に行くだったらできると思うんですけども、いかに子供から現地の様子を調べたりとか、現地の言葉に興味を持ったりとか、現地の子と関わったりとか、帰ってきてからそれをどう伝えるかとか、その辺の仕組み作りって言うんですかね?
ただの旅行で終わらせたくなかったので、子どもがいかにルート決め、期間を決める、どこに泊まる、そういうのに一緒に、判断に参加させようと、その辺に結構苦労しましたね」
●幼い頃から決断させるというのはすごく大きなことですね。
「本当に大事だと思いますね。やらされてると思うのと、自分が選んだらこうなったんだという、やっぱり成功だけじゃなくて失敗することってすごく必要ですし、失敗した後にどうフォローするか、次はどうしようかというのを一緒に共有することって、やっぱり人を成長させることだと思うので、意識してやっていたつもりです」
●旅をしている時って、お子さんたちにとっても非日常の世界ですけれども、日本に戻ってきてからの生活で、お子さんたちはどんなことを言ってましたか?
「あ、それはですね。遠征中は非日常ではなくて彼らにとって日常になるんですね(笑)。適応力がとにかくありますので、毎日走る、移動するっていうのが当たり前になるんですね。
ですので、帰ってきたら帰ってきた瞬間が非日常って言いますか。もちろんギャップがありますので、例えばお風呂に入れる、シャワーだけの所とか多いですし、トイレに座ったら暖かいとか、洋服箪笥を開けると服がいっぱいとか、そういう素朴な感動が最初はあります。でも子どもたちは別に何とも思ってないというか、ちょっと近くの熱海に旅行に行ったとか、その程度しかないんじゃないかなと思いますね(笑)」
王様に招待される!?
※坂本家の「世界6大陸大冒険」、ハプニングだらけの自転車旅だと思いますが、これまでの旅を振り返って、忘れられない出来事を3つ挙げていただきました。
「子どもたちとも話していたんですが、子どもたちも満場一致だったのが、ブータンを走っていた時にブータンの王様に招待されて、パレス(宮殿)に家族で招かれたことですね。
王様が実は自転車好きっていうのは、私は知っていたんです。また、以前ブータンにはいろんなプロジェクトで、幼稚園を作ったりとか個人的に関わりがあったので、もしかしたらお会いできるかもしれないと思って、(ブータンの)テレビとか新聞に出て、自分たちが王様に知ってもらって、もし機会があったら連絡くださいって言ってたら、帰国する前日に電話がかかってきまして、40分以内にパレスに来れますか?って。行きます行きます!って言ってですね(笑)」
●そうだったんですね〜!
「子どもたちは、本当に優しい王様で、とってもいい時間だったって日記にも書いています。普通の人で王様に会う機会はないと思うんですけども、いろんな美味しい飲み物とか食べ物とかアフタヌーンティーとか出してもらって、最後は記念写真を撮って。
王様の子どもが当時2歳ぐらいだったんですけれども、ちょっと子育ての話をしたりとか、王妃も出てきてくれたので、今度は家族で自転車で走れたらいいですね〜みたいな話をしました。それがいちばんでしたね!
続く2番目はスペインのキリスト教の巡礼路、サンティアゴコンポステーラを目指して約1ヶ月ですね、キリスト教の巡礼者と共に1日に20〜30キロ走るんです。巡礼者は歩くんですけれども、私たちは自転車でほぼ同じ距離を毎日走っていくんですね。
そうするとみんな顔見知りになります。その時は上の子の健太郎がまだ6歳でしたので、初の自分の自転車で漕ぐデビューだったんですね。彼も重たい自転車で慣れない中、みんなが、巡礼者が助けてくれて、上り坂は自転車が重たいので押してくれたりとか、それがもう何回も何回もありました。大人でもそれ結構リタイアする人が多い巡礼路なんですね。長い人はもう1200キロぐらい歩くんですよ、2ヶ月ぐらいかけて。
私たちは1ヶ月かけて550キロを、リタイアする人も多い中、子どもがみんなに励まされて、お前はすごい頑張ってる! お前はチャンピオンだ!って。家族だけだとやっぱり親がいくら励ましても限界がありますけど、 会う人みんなにお前はすごい!って励まされますので、ゴールした時はもうみんな家族。知らなかった人がみんなよく頑張ったね! 本当にすごかったね!って言って拍手をしてくれる、そんな感動があったのが忘れられない2番目かなと思いますね!」
(*忘れられない出来事の3番目はカナダ・アラスカの旅。広大な土地だけに、自転車で移動していても、ほとんど人に出会えない中、出会った人たちの優しさ、そして景色が忘れられないそうです。また、クマが生息している環境でのキャンプだったので、子供たちがクマを怖がっていたのも思い出されるそうです)
子供たちが自費出版!
*実は先頃、これまでの旅の軌跡が本になって自費出版されました。タイトルはズバリ! 『世界6大陸大冒険』。著者は坂本さんの息子さん、健太郎くん10歳と康次郎くん7歳のふたり。坂本さんが本にまとめようと言ったわけではなく、息子さんふたりが、今までの経験を本にしたい、そしてそれを売りたい、と言い出し、本づくりが始まったそうです。絵日記があったり、写真も豊富に掲載されています。食べ物や動物の話もたくさんあって、子供目線のレポートがとても新鮮です。
この本は坂本さんにとっても子供たちの成長が見て取れる本ではないでしょうか。
「はい、そうですね。やっぱり写真を見てるだけで、子どもがどんどん成長していきますね。1年目は次男の康次郎が後ろに座って、まだ2歳だったので、食べるか寝るかあと歌うかだったんですけれども、だんだん連結したトレーラーで自分で漕いだり、3年目にはもう自分の自転車で独走するようになりました。
長男の健太郎はもう4年目から後ろに荷物を積んで走るようになって、自転車も大きくなり荷物も持ってくれるようになりました。もう妻よりは上り坂はダントツで早いですし、本当にいろんな意味での成長が日本にいる時の10倍か20倍ぐらい、とにかく経験だなと思うんですよね。その辺はすごく成長してるなって感じますね」
●どんどんたくましくなっていくお子さんたちの姿にジーンとしちゃいました。
「ありがとうございます(笑)」
●旅を通して坂本さんと奥様ご自身も変化があったんじゃないですか?
「そうですね。まず私はやっぱり子どもが大きくなるにつれて、子どもたちに主体的に関わらせたいと思っています。できるだけ自分からテントの設営をしようよとか、荷物をパッキングしようとか言わない。
日本ではやっぱり忙しいので言わなきゃいけない時もあるんですけども、出発が遅れたらその分、暑くて距離を走れなくなる、そういうのを自分で考えて早く朝出発する、パッキングする。遊びたい時期なんですけども、自分から動けるような、それをどんどん割合を高くしていくように、できるだけ指示を出さないようにしていました。自分自身も我慢というか、大人がやったら全部早いですし、上手くいくんですけど。
今回の本作りも本の発送出荷も全部子どもたちがやっているんです。私たちがやれば一瞬で済むことをもうイレギュラー、トラブルの連続ですよね(笑)。ですけど、やっぱりそれって大事で、本が届いた人からお礼があったらそれを見て、自分が送ったものがこうやって喜ばれているんだとか、関わらないと分からないっていうことをさせたいと思って、私は関わっています。
妻も最初はやっぱり坂本達の奥さんだから、自転車の冒険に一緒に行かなきゃいけないっていう義務感で行ってたんですけども、やっぱり世界でいろんな人に出会って、自分の生き方ってどういうことなんだろうと。
同時に子どものその成長を客観的に見られるようになって、これまでこんなに頑張ってたんだとか、私は自転車に関してはどんなに辛くても何とも思わないんですけれども、妻はそのキツさを知っていますので、これだけ子どもたちが頑張って無理して、でも口に言わずに頑張ってきたんだとか、そういう子どもを客観的に見られるようになってきたところもあるかなって思いますね」
●この本『世界6大陸大冒険』を読まれた読者の方からはどんな反響がありましたか?
「子どもが書いた本なので、すごく幼い内容と思われるんですけれども、読んだ人は文字数も写真もたくさんあって読み応えがあるとか、お母さんの葛藤や悩み、苦悩が伝わってきて共感して涙が出ましたとか、本当に多く幅広い人にしっかり読んでもらっているなって感じてます」
まず動いてみよう!
※日本では幼い子供を連れての冒険は心配されることも多いと思いますが、海外ではどうなんでしょうか?
「子どもに冒険させるさせないっていうよりも、家族単位で1つのプロジェクトって言いますか、例えば家族で夏休みは自転車で南米を走るとか、家族単位でヨットで世界を一周する、その間学校はホームスクーリング、親が子どもの勉強を見ながら、学校とはパソコンで連絡を取り合うとか。
日本はなんとなくですけれども、周りがいろいろ言ってくる、それ危険じゃないの? それどうなの? 学校どうするの? とか。比較的外国は少ないんじゃないかなと、干渉されにくいのでいろんなことができる。
日本でもそれをやりたいけども、冒険しにくい。でも本当はやりたいんじゃないか? っていうのを、こういう活動してるとすごくいろんな方から応援のメッセージをもらったり。どうやって学校を休ませるんですか? 仕事はどうするんですか? という問い合わせをもらうので、実はもっとやりたいんじゃないか。でもそういう社会背景がそうさせてるんじゃないかなって思うので、思いは皆同じなんだなと思っています」
●確かに冒険に出てみたいと思う方は多いと思うんですけど、でもだからといって仕事は休めないよーとか子供の学校はどうするのとか、そうやって思ってしまう方は多いと思うんですよね。一歩を踏み出す勇気っていうのは、なかなか難しいと思うんですけれども、そういった方々に向けて何かアドバイスはありますか。
「そうですね。まず動いてみないと分からないので、仕事のことにしても子どもの学校のことにしても、できるできないって私たち考えちゃいますけど、できるできないよりも、まずやってみると。考えるとできなかったらどうしよう、だめだったらどうしようってやっぱり人間どうしても思いますのでまずやってみる。やってみたら意外に話がスムーズに進んだり、もちろんダメだったりするんですけど、じゃあどうしたらいいかっていう次の道が見えてきたりするんですよ。
私もやりたかったっていう人もいますし、幼稚園の時は園長先生が幼稚園に来るよりいいですから、坂本さん行ってきてくださいって、園長が言うんですよ。私たちすごく感動しまして、とにかく経験が大事だって。
小学校も校長先生に入学する前から、来年からこういう家族が入学してくるんですけれども、学校の勉強は全て親が責任持ちますので、ご理解いただけませんかっていうところから始まって。
授業でも教科書でやるよりも同級生が海外でこういうことをやって、時差のこととか動物のこととか文化のことを、健太郎くんはこういう所に行ってるんだよってのを授業で使ってもらったりして、先生もやりやすかったりとか。
いろんな人に理解してもらって応援してもらうためには、まず動いてみなければ分からない、考えているだけじゃ何も進まないというのが、私の経験からのメッセージかなと思います 」
INFORMATION
坂本健太郎くんと康次郎くんが作った本
『世界6大陸大冒険』
子供目線の素直な感想が微笑ましく、心身ともに成長している姿が見て取れます。坂本さんと奥さまのレポートも載っていて、我が子を思う親の愛情を垣間見られる本となっています。坂本家の思いがこもった自費出版の本をぜひお買い求めください。詳しくは、坂本達さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎坂本達さんのHP:http://tatsuoffice.com/