2020/12/6 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、土の研究者、森林総合研究所の主任研究員「藤井一至(ふじい・かずみち)」さんです。
藤井さんは1981年、富山県生まれ。京都大学大学院を経て、土の研究者に。国内はもちろん、カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林まで、まさに泥まみれになって土集めに奔走。土の成り立ちや、土と食糧問題などを研究されています。
私たちは普段は土のことをほとんど意識せずに生活していると思いますが、あって当たり前の土が、実は地球の最後の謎ともいわれているそうです。
きょうは謎だらけの「土」に迫る1時間。世界には何種類の土があるのか、いったい土はどうやってできるのか、いい土とはどんな土なのか、そんな疑問に答えていただきます。
☆写真協力:藤井一至
1センチに100年、1000年!?
*それでは藤井さんにお話をうかがいましょう。どうして土の研究者になろうと思ったんですか?
「そもそも私、石ころが大好きで、石ころから土ができるって聞いて、すごく面白いなと思ったのがひとつ。僕は元々石ころは詳しいと思っていたから、土のこともすぐ詳しくなれるんじゃないかっていう打算があったのがひとつのきっかけです。
もうひとつ真面目なきっかけは、学校で、教科書とかで例えば砂漠化で大変だとか、世界には食料で困っている人がいるとか、そういう話を聞いて、すごく深刻に思って、食料の問題が解決しないとアフリカの人だけじゃなくて自分の未来も危ういんじゃないかと。
僕は結構真に受けるタイプなので、学校の授業でずいぶん深刻に状況を受け止めて、これをなんとかしたいと思った時に、食料を生み出すのは土だから、土、大事だ! っていうのは、いちばん大事なこととして思いましたね」
●石ころというお話がありましたけれども、土は改めてどうやってできるんですか?
「逆にどうやってできると思いますか? 」
●いや〜、考えたことが正直なかったです(笑)。
「ですよね。僕も研究して初めて、色々勉強して、言われてみたらそうなのか、って思ったのが、岩から砂と粘土ができて、それだけじゃ足りなくて、植物とか動物が死んだものっていうのが腐って、で、形がなくなってできた腐植って呼ばれるものが混ざったもの。
だから簡単に言うと植物が腐ったものと、岩が細かくなったものが混ざって、土ができているんですよっていうのが、そういうことだったのかと。私は土ってなんかもっと得体の知れないものだと思ってたけど、言葉にすると3つぐらい、砂と粘土と植物の腐ったものなんだっていうことらしいです」
●土ができるまでに結構時間ってかかるんですか?
「そうなんです。私もそれが見たいんですけど、実際自分は岩から土になってるところを見たことなくて、なんでかって言うと結構時間がかかるんですね。例えば本当に岩から土ができるのにだいたい数千年かかりますよとか、数万年かかりますよっていうのが、普通、教科書ではそういう風に説明してあります。
実際に例えば日本だと火山灰が降ってくるんですね。その火山灰がたくさん降ってきて、それが積もって土ができているんですけど、土を掘ってみるとだいたい1メートル掘ると1万年前の縄文時代の人たちの暮らしていた地面が出るんですよ。なので、1メートルのその土ができるのに1万年かかっていると、そうすると割り算すると1センチの土ができるのに、だいたい100年かかってるっていう感じなんですよ。
そう考えると結構長いなって思うんですけど、まだ日本は火山灰が降ってきて雨も多くて生き物も元気で、すぐ風化するから土になりやすいんですけど、アフリカみたいに火山灰とか降ってこないところだと、だいたい1センチの土ができるのに1000年かかるって言われています。
そこまでくるともう人間では対応しきれない。私もだからよく岩から土ができるんですよって言いながら、実際の人間のタイムスケールだと見ることができないので、ちょっとずつ後ろめたい思いをしながら、自分が見たこともないことを言ってるっていうことになりますね」
世界の土は12種類!?
※藤井さんは、海外の土も研究されているんですよね?
「私も本当は最初、日本の土を研究し始めたんですけど、そうすると、何か世界にはもう全然違う土があるぞって言われると、1回それを見に行かないことには、ちょっと土の研究者としていかがなものかと思って、私は飛行機苦手なんですけど、ひと通り、世界中の土を見に行って、全部自分で掘って研究するっていうことをやってきました。
私も同じ土っていうのは、日本の国の中ですら見たことないんですけれど、でも、どこか似ている、やっぱり同じところでできて、同じ火山灰とか花崗岩でできた土ってどっか似てるよねっていうので、全部同じようなものを仲間にグループ化していくと、世界の全部の土って12種類ぐらいまで単純化できるっていう話があります。
それを日本で探そうと思ったら、残念ながら日本にはそのうちの主に3種類しかなくて、本当に山の山頂とか沼地まで含めて全部で頑張るとなんとか5種類くらい見つけられるんです。日本国内だと5種類、あとの7種類は日本にないっていうことなので、日本とは全然違う砂漠とか、永久凍土って言われる寒いところとか、いろんなところに行って、全部土を見に行かないと、なかなかコンプリートできないんですよ」
●そうなんですね。世界中というのは具体的にどういった国々に行かれたんですか?
「いちばん多いのはカナダによく行っています。カナダって大きい国なので、暖かいところから寒いところまであるので、ひとつの国の中でいろんな土があるんですね。ひとつ行くだけでいろいろ見ることができるので、お得というメリットがあるんです。
カナダとアメリカの国境ぐらいのところは、草原地帯で黒い土ができますよ。そこは今小麦の畑に変わっていて、私たちが食べているパンになる小麦、そこから採れますよっていう、そういう場所に行くことができるんです。そこから北極海まで北上して行くと、今度は土を削ると、夏でも土が凍ってる永久凍土っていうのがあって、そこは当たり前なんですけど、何も育たないんですね。野菜を育てようと思っても野菜が育たない。
で、私が驚いたのは、そこに1軒だけスーパーがあるんですけれど、そのスーパーに白菜が、しおれた白菜が並んでいる・・・考えてみたら何も農業やってないのになんでこの白菜が届いてるんだろうと思ったら、例えばフロリダとかから届いてたりするんです。
そうすると輸送費がかかるものだから、美味しくなさそうな1束の白菜が1800円もするんですよ。日本でやっぱりちょっと最近野菜が高いわねって言っても、1束の白菜は数百円するかなっていうところなんですけど、本当にその現地の人たちは毎日野菜は高いわねっていう生活をしてるんですね。だから土がよくないとか気候がよくないことによって、生活が全然違うんだなっていうのを、世界中の土を見て思い知りました」
土の色って何色?
※藤井さん、土の色は場所によって、違いますよね?
「 そうなんです。例えば、小尾さん、土の絵を書いてくださいって言われたら、何色を選びますかね?」
●こげ茶のような、感じですかね?
「私は真っ黒を選んで、小学校の時に写生大会で土を真っ黒に塗って、先生に茶色でしょ! とか言われたことがあって、いやいや灰色でしょ! とか言う友達もいたんです。
だから日本っていうのは黒色を選ぶ人と、茶色を選ぶ人と、灰色を選ぶ人がいて、黒色を選ぶ人は、北海道、東北、関東、九州に多いんです。これは火山灰で黒ボク土って言われる畑の土に多いんですね。
で、茶色っていうのは、それ以外の山に暮らしてる人が多くて、そうすると山だと斜面が急なので、火山灰が降っても流れてしまってあんまり黒い土ができなくて、それで茶色になる。元々、粘土の色が残っていて茶色になるっていうのが、山の人。
最後、灰色の人っていうのは田んぼの色って言われていて、田んぼは水を張ると何故か土が、土の中の赤とか黄色の成分が青く変わるので、それを水を通してみると灰色に見えるんですね。
そういう違いになるんです。日本の場合はこの3色、なんだかんだ黒っぽい色に収まるんですけれど、例えばノルウェーの子どもに、土は何色? って聞いたら白色って答えたりとか、アフリカの子どもたちに、土は何色って聞いたら赤色って答えるのが、なんか私たちが土は黒色って答えるのと同じぐらい当たり前になるってことがある。そのくらい日頃見ている土の色が違っているんですね」
いい土は、実はとても難しい
*そもそも、いい土とはどんな土なんでしょうか?
「私が口で言うのは簡単なんですけど、黒くて、なんとなくその食材の産地を訪ねる番組で、この土がいいんだ! って農家の人が言った時の土っていうのは、なんかネバネバしていて、ちょっと黒くて、いい匂いがしそうな、そんな土。
さっき言った言葉で言うと、粘度が多くて、しかも植物の腐ったもの、腐植って呼ばれるものもかなり含まれていて、それを餌として生きている微生物がたくさん棲んでいる、それによってなんか色んな匂いがするっていうことになりますね。でも、かといってそれだけでもダメで、そこにある程度、砂が混じっているという・・・
いい土って私たち言うんですけど、結構いい土かどうか判断するのって難しいっていうのが現実です。ちょうど砂と粘土と腐植のバランスになってくるので、どれかが多ければ多いほど、いいというほど単純なのじゃなくて、しかもそこで育てるのが、例えばイチゴなのか、木なのか、稲なのかによっても、そのベストな調合の比率は変わっちゃうっていうのが難しいところですね。
大概、農家の人がこの土はいいって言ってる時は、俺はこの土でうまいこと育てることができるっていうことを言ってるだけだったり、もしくは、俺はこの土を飼い馴らしてきたとか、そういう腕自慢だったりするっていうことが多いんですよね。本当にいい土かどうかってのは結構、単純には言えなくて、むしろいろんな土で、そこでいろんなものを栽培して、ちょっとずつ技術も合わせていって、そこの土でいちばん上手く農業ができるようになった時に、その土をいい土と呼ぶという、そういうことが多いです」
●藤井さんは家庭菜園もお好きだそうですね?
「家庭菜園にあまり触れたくなかったんですけど(笑)、それはなんでかって言うと、家庭菜園は元々好きで始めたわけではなくて、僕が土の研究者だって言われると皆さん家庭菜園について聞いてくるもんだから、これは詳しくないとちょっとかっこ悪いと思って始めてみると、想像以上にうまくいかないんですね。
私も土のことはこれがいいっていうのは知ってるつもりなんですけど、そういう理論と、実際どうやってトマトを育てるかっていうことにはすごく距離があるんですよ。野菜作りは土作りと言いましたけど、土だけ作っても野菜は作れないんです(笑)。
そういう難しい問題があって、そこはやっぱり栽培の仕方っていうのも、ちゃんとセットで分かってなきゃいけなくて、私も何回となく失敗して、毎年ひとつずつクリアして、ちょっとずつ、今はそれなりに家庭菜園を頑張ってるようなふりをしています。
基本は近所の農家の方とかに、私は土の研究者だっていうことは言わないでおいて、オクラ(作り)今年失敗したんですけど、何でダメだったんですかね〜? とかって聞いて、コツを聞くんです。たまにその農家の人が、やっぱりこの土が悪いんだよとか言われたりして(笑)、土のこととかいろいろ教えてもらって、なんとか改善していってますね」
食糧の95%は土から!?
*土の研究をすることで、どんなことが見えてくるんでしょうか?
「まず大事なこととしては、 僕も研究して初めて知ったんですけれど、私たちが毎日食べてるものの95%は土から来てるんです。そんなことも(知らずに)、いや、スーパーから来てるよとか思ってしまう、コンビニから来てるよとか、ついつい思ってしまう・・・私たちは、流通経路が長くなった末に、土からずいぶん距離が開いてるんですね。
土との距離は見えてないけれど、やっぱりあらゆる食べ物、ほとんどは土から来ている。さっき95%って言いましたけれども、残りの5%は海から来てるんですけど、そうじゃないものは土から来てるから、その土をいかに管理するかによって、何人分の食料が生産できるかっていうことが決まるんですね。
そうすると、今例えば飢餓で困ってる人とか、あるいはもっと美味しい野菜を作りたいのにって思っている農家の人とかがいた時に、この土をもっとこうしたら収穫がよくなるよとか、あるいは今の生活が改善されるとか。農家だったら、もうちょっとこういう風に肥料をやったら、イチゴがおいしくなるよっていうような、具体的な提案ができるっていう意味では、生活と繋がりの深い意味で、役に立てるっていう部分はあるんですね」
●土ってすごく身近なものというかあって当たり前というイメージがあったので、改めて考えること、意識することって正直なかったんですけれども、藤井さんは土の研究を通してどんなことを伝えたいですか?
「よく土と水は大切だ、みたいなことを聞くことはあるんですけど、みんな水は毎日飲むから大事だね、って分かってくれるんですけれど、土ってなかなか直接食べないんで、どっちかって言うと空気と同じぐらいの、あって当たり前っていう認識になるんですよね。
そのまま何もしていないと土って、例えば僕のプランターの土みたいにどんどんダメになっていく土っていっぱいあるんです。ちゃんとしたケアをしてあげないと悪くなってしまうってことはいくらでもあります。そうすると私たちの毎日食べる食料がよくなくなってしまうっていうことが、いつでも起こりえる。どこでも世界中、砂漠化とかそういった言葉があるように、いくらでもそういう問題が起きてるんだっていうことなんです。
皆さんは、多分農家じゃない人の方が多いし、毎日コンビニでご飯を買っているだけで、土との繋がりなんか見えないだろうと、靴にも土は付いてないって人も多いと思うんです。でも毎日食べているものって、あの産地なんだな〜とか、あの産地でやっぱり土から育ってるんだな〜っていうことをイメージしてもらうだけでも、土との距離って違うんじゃないかなと思います。
やっぱり(この問題を)放っておくと、別に輸入すればいいじゃないとか、食料なんて今、日本の自給率は40%だけど、それでも今日本やっていけているんだったら、それが30%でも20%でもいいよねとか、あんまり土との関わりあいが見えなくなると、そういう風に思っちゃうところもあるかもしれないんですね。
でも、僕がカナダの永久凍土で見た1800円の白菜っていうのは、そこで農業を自分たちでできない時に、どこでも起こりえることなんですね。日本でも、もし白菜を作らなくなったら、外国から輸入した美味しくない白菜を1800円で買わなきゃいけない可能性もある。
そういうやっぱり土と本当に距離が空いてしまって、日本には今のところそれなりに肥沃な土がある程度あるけど、それをちゃんと使わなくなってしまった時には、私たちはいくらでも美味しくもない白菜に1800円払わなきゃいけないっていう未来があるんだっていうことは、どこかで知っておいて欲しいなということが、私が土を研究して伝えたいことのひとつですね 」
INFORMATION
『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』
藤井さんが2018年に出版し、多くの新聞や雑誌等で紹介された本です。
ぜひ読んでください。
◎光文社HP :
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334043681
藤井さんの研究や活動については、ぜひオフィシャルサイトを見てください。
◎藤井一至さんのHP:
https://sites.google.com/site/fkazumichi/