2021/7/11 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、公益財団法人「日本自然保護協会」NACS-J(ナックスジェー)の「志村智子(しむら・ともこ)」さんです。
1951年から日本の自然を守るための活動をしている、環境保護団体の草分け的な存在「日本自然保護協会」はこれまでにも重要な役割を果たしてきました。この団体がなければ、日本の自然はもっとひどい状態になっていたかもしれないと言われています。
そんな「日本自然保護協会」NACS-Jがいま力を入れているキャンペーンが、豊かな日本の砂浜を守るための「全国砂浜ムーブメント」。いったいどんな活動なのか、このあと志村さんにじっくりお話をうかがいます。
☆写真協力:日本自然保護協会
砂浜は危機的な状況!
※それでは早速、志村さんにお話をうかがっていきましょう。「日本自然保護協会」では現在「全国砂浜ムーブメント」というキャンペーンを行なっていますが、これはどんな活動なんですか?
「日本自然保護協会はその名前の通り、日本の自然を守る活動をやっているんですけど、ちなみに今年で70周年になるんです!」
●おお〜!
「今までは比較的、森とか山とか里山とか、陸上の活動が中心だったんですね。ただ本当に世界的に海の自然保護っていうのは遅れているので、NACS-Jも力を入れてやっていこうということで、砂浜ムーブメント自体は3年前から開始しました」
●砂浜ってそんなに危機的な状況なんですか?
「はい、そうなんです。海自体が本当に今、世界的に早く保護しなければいけない状況っていう風に言われているんです。その中でも砂浜は日本だけではなくて、世界的に危機だと言われている環境なんです」
●何がいちばん問題なんですか?
「最近、プラスチックゴミがたくさん漂着しているっていうお話は聞かれたことがあると思うんですけど。プラスチックはもちろんなんですけれど、実はもうひとつ、砂浜自体が小さくなっている、痩せていくっていうのが大きな問題になっています」
●海岸自体も減ってきてしまっているっていうこともあるんですよね?
「そうなんです。日本って海岸はすごく長くて、実は世界で6番目の長さがあるんですね。陸地はとっても狭いんですけれど、日本の海岸線はとっても長くて、その海岸線っていうのは、私は日本の財産だと思うんですね。実はそれを結構、改変してきてしまっています。日本全体では約半分は人工的な海岸になってしまっているっていう風に言われています」
●自然の海岸ではなくて、人工のコンクリートの海岸っていうことですか?
「そうですね。いちばん改変されているのが干潟とか砂浜なんですね。遠浅の干潟って埋め立てられてなくなったところがとても多いんです。砂浜も同じように遠浅なので色んな改変がしやすい。あとは波を被ってしまうので護岸工事をされて、陸と海の間にコンクリートの境界線ができてしまっているっていうところが増えています」
●どうしてどんどん自然の海岸って少なくなってしまうんですか?
「ひとつは陸地が狭かったので、遠浅のところは埋め立てやすいから、これは便利だって思って埋め立ててしまったっていうのもあるんですね。あとは砂浜は海のすぐ近くまで、例えば道路を作ったり、建物を作ったりすると、そこに波が被ったり削られたりすると大変なので、道路や町を守るために護岸を作って、砂浜のほうを潰してきたっていうことがあります。その結果、砂浜が減って波の力を弱める力が減ってしまったりして、さらに大きな堤防を作ったりっていうような悪循環になってしまっているというところが結構あるんですね」
全国砂浜ムーブメント、3つの取り組み
※「全国砂浜ムーブメント」の具体的な内容を教えてください。
「はい、砂浜って私たち、とても馴染みのある景色だと思うんですけれど、じゃあ実際にどんな生き物がいるんだろうとか、どんな仕組みを持っている自然なんだろうって、意外にご存知じゃない方が多くいらっしゃるんですね。
なので、1つは砂浜ノートっていうのを作りました。砂浜のことをもっと知ってもらおうということで、砂浜のことを紹介した冊子を作ったんですね。これをたくさんの子供たちに届けたいというのが1つ目のアクションです。
2つ目のアクションは、砂浜の生き物を調べようっていう取り組みなんですね。砂浜のアプリを使って、砂浜に行って生き物の写真を撮って送っていただくっていうものなんです。砂浜の自然のことはなかなか知られていないので、そうやって全国から砂浜の生き物の情報を集めていただくっていうのが、砂浜を守る第一歩としてとても重要なんですね。
3つ目のアクションが、砂浜に押し寄せてくる海ゴミを減らそうというものです。これもやはりアプリを使って、どこでゴミを拾ったよっていうのをご報告いただくっていう、その3つのアクションからなっています」
●アプリを使うっていうのはゲーム感覚で取り組めて、お子さんたちも楽しめそうですね!
「特に今コロナで、みんなで集まって、例えば砂浜の生き物を探そうとか、みんなでゴミを拾おうっていうのはなかなかやりづらいと思うんですね。なんですけど、活動がひとりじゃなくて全国みんなでやっているっていうのを、アプリを使って繋がるっていうのは、とっても今の時期にやりやすいものかなと思います」
●砂浜ノートは具体的にどんな内容になっているんですか?
「砂浜を楽しもう! っていうところから始まって、砂浜でこんなことをすると面白いよっていう、例えば砂でお城を作ってみようっていうのもあるし、砂に隠れてしまったカニを掘るにはどうしたらいい? なんていうものも紹介しています。あとは砂浜でビーチコーミングをしませんかっていうお誘いをしているんですね。ビーチコーミングっていうのは、ビーチは砂浜ですよね、コーミングっていうのはコーム、くしのことを言うんですけど、砂浜をくしですくように色んな探しものをする、砂浜の宝探しみたいなことを言います。
そうすると実は貝殻とか色んな面白い貝が落ちていたりとか、あとは人工物、例えばビーチグラスであったり陶器の欠片とか、そんな色んな面白い宝物も見つかりますよ、砂浜をそうやって歩きませんかっていうようなことも紹介しています。それ以外にも植物や貝殻のミニ図鑑、あとは砂つぶそのものを見てみようとか、砂浜をどうやったら楽しめるかっていうのをご紹介している冊子です」
●ここまで砂浜に焦点を当てたものってなかなかないですよね。
「砂浜を知ってほしい、砂浜を守りたいって言っても、相手を知らないと守れないじゃないですか。なんだけど、今例えば本屋さんに行っても、森の本とか雑木林の本とかお花の本とかはたくさんあると思うんですけれど、海のコーナーって結構ちょっとなんですね。
その中でさらに砂浜のことを紹介している本って、本当にごく僅かしかないんです。で、自然保護協会としては本を作ろうか、売ろうかって思ったんですけど、今の砂浜の現状を考えると、売っていたら間に合わない、お金を出してまで手に取ってみようかなって思う人に届けているのだと間に合わないので、自分たちで作ってしまおうってことで冊子を作ったんです。
最初の年、一昨年に作った5千部はほとんどあっという間になくなってしまって、昨年これをもっとたくさんの子供たち、5万人の子供に届けたいってことで、クラウドファンディングで皆さんに協力をお願いして、それが無事達成できたんです。それを今お配りしているところです」
*編集部注:「日本自然保護協会」は千葉県内のイオンモールともコラボして、幕張、木更津、銚子で、貝殻でリースを作るワークショップなどを開催、大変好評だったそうですよ。そしてお話にもあったアプリは「ピリカ」と「バイオーム」のふたつ。
「ピリカ」はゴミ拾いアプリで、一緒にやっている仲間と交流できたり、お互いに応援のメッセージを送れたりするそうです。そして「バイオーム」は生き物コレクションアプリで、砂浜で生き物を見つけたら、写真を撮って投稿すると、AIがどんな生き物か判定してくれるそうですよ。
詳しくは「全国砂浜ムーブメント2021」のサイトをチェック!
https://www.nacsj.or.jp/sunahama_movement/
九十九里浜の謎!?
※ところでそもそも砂浜って、どうやってできるんですか?
「面白いですよね。砂浜ってそこから砂が湧くわけでも、勝手に増えてくるわけでもないですよね。千葉県の九十九里浜にはとっても大きい砂浜がありますよね。あそこは結構、特徴的な砂浜のひとつなんですけれど、あまり大きな川が流れ込んでいないんですね。ほかの地域だと大きな川が山から砂を運んできているところっていうのが多いんです。
山の中から雨や風で削られた砂が川で運ばれてきて浜にやってくる。そこで砂浜ができるっていうのができ方のひとつなんですけれど、大きな川が流れ込んでいない、千葉県の九十九里浜は実は、北と南の崖を削った砂が溜まってできている砂浜なんです。そんな風に砂浜ってその浜ごとによって、どこから砂がやってきたかとかによって全然個性が違うんですね。だから砂の色がちょっと白っぽかったり黒っぽかったり、そういう個性があるのは砂の成り立ちに関係しています」
●いろいろ見比べてみるのもいいかもしれないですね。
「なんですけど、例えば九十九里浜は崖が砂浜を作っているっていうのは分かってはいたんですけれど、崖が削られてしまうとその上の住宅とか施設の、もしかしたら足元が崩れてしまうかもしれないっていうので、崖が削れないように、下に直接、波風が当たらないようにブロックを並べたんですね。そのおかげで崖が減るスピードっていうのは減ったんですけれど、そうしたら砂浜が痩せてきちゃったんですね。要するに砂の供給源が減ってしまったことで、波でさらわれていく需要と供給が合わなくなってしまって砂が減っている、そんなところもあります。
ほかの地域では山の上から運ばれてくる砂がダムで塞き止められたり、途中で砂を取られてしまったりいうので、海にやってくる砂が減ってしまったりっていうこともあります。あとは砂ってそこにずっと居続けるわけではなくて、波で沖に持っていかれたりしますよね。台風で一時的にさらわれていくっていうこともあるんですけれど、結構海の中にまだ残っていて、だんだん砂が戻ってくるっていうこともあるんですね。
それと同じように大きな砂浜だと海流に乗って、どんどんゆっくり運ばれてきて、隣の湾に運ばれたりとか、隣の浜に少しずつ運ばれていくっていう動きがあるんですけれど、その間に港を作ったり突堤を作ったりすると、隣の浜に砂が行かなくなったりとかっていうこともあるんですね。そんな風に砂がどこからやってきているのか、そういうことをだんだん私たちも分かってきて、これで砂浜が痩せてきてしまったんだなっていうのが分かるようになってきました。
そういうのは、最近はGoogleマップとかインターネットで地図や航空写真が簡単に見られるようになったので、そういうのを見ると、砂がどこで止まっているかなっていうのが結構簡単に分かるようになってきました。
実は砂浜のいちばんの大きな特徴は“動く自然”だっていうことなんですね。もちろん森とか草原とかも動きはあるんですけれど、砂浜ってとても動きの激しい自然なんですね。1日の間に干満もあるし、季節的な変動もあるしっていうので、常に動き続けているのが砂浜の自然なんですね。
なので、さっき自然の海岸っていうのお話があったんですけれど、コンクリートブロックを入れるっていうのが、人工物があるから自然じゃないっていう見方もあるんですけれど、その自然の動きが“どのくらい生きている自然なのか”っていうのが、ひとつ見るポイントなのかなっていう風に思います」
約20億本のペットボトルが行方不明!
※志村さんからプラスチック・ゴミが砂浜にたくさん流れ着いているというお話がありましたね。日本は家庭から出るゴミは回収して焼却などされて、ちゃんと処理されていると思うんですが、それでも海洋プラスチックゴミが増えているのは、どうしてなんでしょう?
「海のゴミはみんな海外から流れてきたものっていう風に思っていらっしゃる方も多いんですね。確かに外国のゴミっていうのも相当日本に流れ着いています。そうなんですけど、例えば千葉県っていうのは、太平洋側と東京湾側があるじゃないですか。東京湾みたいな深い湾の場合、湾の奥まで外洋のゴミが入ってくることってそんなにないんです。なんだけど、東京湾の奥のほうに行くとそれでもゴミがいっぱい溜まっているんですね。実は私たちの暮らしの中から海に流れ着いているゴミは相当数あるんです。
日本は容器包装プラスチック、色んな食べ物とか色んなものを買う時、大抵プラスチックに覆われているじゃないですか。ああいう容器包装プラスチックの、ひとり当たりの使用量がアメリカに次いで世界で2番目に多いんですね。とってもたくさんのプラスチックを日本人は使っているんです。でも一生懸命回収はしていますよね。日本は、ペットボトルの9割は回収してリサイクルしているんです。世界でトップレベルのすごく優秀な回収リサイクルの国なんです。
ただし、日本のペットボトルの使用量は年間で230億本って言われているんですね。その9割を回収しても、1割の行方不明があるとすると、それだけで20億本以上がどこかに行っているんですね。
自分はゴミ箱に入れたんだけれど風に飛ばされてとか、うっかりとか、私たちもそんなことはしないようにしようと思っても、ビニール袋が風で飛んで行っちゃったとか、ポケットに入れておいたはずなのになくなっているっていうことがあると思うんです。
最近はマスクも結構、道に落ちているのを見かけたりするんですけれど、そういうようなうっかりなものもたくさんあるんです。そういうものが回収しきれないで、私たちの手元から逃げ出しちゃっているゴミっていうのも相当数あるんです。なので、回収する、リサイクルする、拾うっていうのもとっても大事なんですけれど、元々の使う量をもうちょっと減らす、世界で2番目よりは、もうちょっと減らしたほうがいいんじゃないかなという風に思っています。
砂浜に流れ着いている海ゴミの量っていうのは、海ゴミ全体の中で1割、もしくは2割程度じゃないかっていう風に言われているんですね。それ以上の量が海の中や沿岸に流れ出してしまっているっていう風に言われています。海の中だけではなくて本当に今、色んなところの大気中からも、微小なプラスチックが見つかっているんですね。そういうことになってしまっているのは量がたくさんあるっていうのはもちろんなんですけれど、プラスチックって細かくなってもプラスチックなんですよ。
人工的に作られたとても安定した物質なので、細かくなってもなかなか分解されないんですね。私たちの周りにある落ち葉や木の枝とか、動物の死骸っていうのはだんだん細かくなって最終的には菌類が分解してくれて無機物になって、また次の生き物がそれを肥料にしたり栄養にしたりして循環しているんですけれど、プラスチックっていうのは生物が分解できない構造を持っているんですね。
バイオプラスチックの研究とかもまだ進んでいるんですけれど、私たちはこの半世紀くらいでプラスチックの使用量がものすごく増えたんですけれど、最後どういう風にしたら分解するとか、ちゃんと循環するかっていうことを知らないまま、実は使い続けているのが今の状況なんです」
砂浜ノートを持って海に行こう!
※最後に長年、自然保護の活動に携わってこられて、いまどんなことを感じていますか?
「海の自然保護ってすごく遅れているっていう風に申し上げたんですけれど、本当に陸の自然に比べて海の自然は、半世紀とか30年とかそのくらいは軽く遅れている感じがします。なんだけど、日本の自然って、日本地図を思い浮かべてくださいって言った時に、大抵の方は陸地しか多分思い浮かばないと思うんですね。
その周りに海があると思う方、海のことまで思い浮かべて日本地図を思い浮かべてくださる方って、なかなか少ないかなって思いますね。でも本当に海と一体になって日本の自然が成り立っているので、海も含めて陸の自然も思い浮かべてくれる人が増えていくといいなっていう風に思っています。
あと、どういう風に自然を見るかっていうのは、やっぱり時代によって私たちの色んな理解、科学技術も進んできて、理解がどんどん進んできていると思うんですね。壊すほうの技術と言ったら言い過ぎかもしれないですけれど、自然を利用する技術も進んでいるんですね。それと同じように守る技術も進んでいかないと、気が付いたらそのバランスが崩れていたっていうことになると思うんですね。
本当にこの20〜30年だけ見てみても、例えば白神山地は今世界遺産になっているじゃないですか。日本自然保護協会もブナの森を守るために取り組んでいたんですけれど、30年くらい前、世界遺産になる前は加工技術が発達していなかったので、ブナを伐ってスギに変えることがいいことだったんですね。
森そのものを守るべきものだっていう認識が最初はなかった。だけど今は森の中に色んな生き物がいて、そこにいると楽しいし、空気も美味しいし、きれいな水ももたらしてくれる場所だっていうイメージが、多分皆さんの頭の中に思い浮かべられるようになったんじゃないかなと思うんですね。そういうことが海に関しても是非、皆さんに感じてほしいなっていう風に思っています」
●「全国砂浜ムーブメント」、今年は12月31日まで続きますよね。番組を聴いてくださっているリスナーさんに、改めていちばん伝えたいことってどんなことですか?
「本当に千葉の皆さんは、太平洋側の海と東京湾側の海っていうとっても個性が違う2つの海を持っている、とってもいい県にお住まいだと思うんですね。なので、是非たまには海に行っていただきたいなっていうのが第一です。
やっぱり現場に行って砂浜に立って、見えてくるものっていうのがいっぱいあると思うので、是非一度砂浜にお出かけいただきたいなと思うし、その時には是非、砂浜ノートをお持ちいただければ、砂浜を見るヒントにもなるんじゃないかなという風に思っています」
INFORMATION
「全国砂浜ムーブメント」に家族やお友達と参加しませんか。「砂浜ノート」があれば、海や砂浜のことを楽しく学べますよ。子供たちの体験にお役立てください。日本自然保護協会のサイトからすぐ申し込めます。
また、ゴミ拾いアプリ「ピリカ」と、いきものコレクションアプリ「バイオーム」もぜひ活用してください。同じく協会のサイトからダウンロードできます。今年の「全国砂浜ムーブメント」は12月31日までです。
ほかにも日本自然保護協会では、あと20頭ほどになってしまった「四国のツキノワグマ」を救うための活動も行なっています。また、現在、会報誌「自然保護」の表紙を飾る「フォトコンテスト」の作品を募集中。応募の締め切りは9月30日です。
そして日本自然保護協会の活動は会費や寄付で支えられています。ぜひご支援いただければと思います。
いずれも詳しくは「日本自然保護協会」NACS-Jのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎「日本自然保護協会」NACS-JのHP:https://www.nacsj.or.jp