2021/8/22 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、フリーエディターそしてライターの「棚沢永子(たなざわ・えいこ)」さんです。
東京都府中市在住の棚沢さんは、詩の雑誌の編集業を経て、現在はフリーランスのエディター、そしてライター、さらに福岡にある出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」の東京スタッフとしても活動されています。
そんな棚沢さんが2017年に出された本『東京の森のカフェ』が好評で、新たなお店を追加するなどリニューアルを重ね、ロングセラーとなっています。
きょうは棚沢さんと、東京の森カフェめぐり。知る人ぞ知る素敵なカフェをご紹介します。
☆写真協力:棚沢永子
意外と緑が多い東京
●ご自身でどんな点がロングセラーにつながったと思いますか?
「こんなにたくさんの方に手に取っていただけるなんて思ってもみなかったので、自分がいちばんビックリしております。東京の人がいかに緑を求めているかっていうのを逆にこの本で知ったという感じでした。
表紙を緑でいっぱいにしようよとか、写真も大きめに入れたいねとか、章立てなんかも工夫したりとか、色々工夫はしましたけど、本はひとりで作るものではないので、編集者さんとかデザイナーの方、あと書店さん、掲載店の方とか読者の方もね、みんなで一緒に作って一緒に応援していただいた、それがやっぱりロングセラーにつながったんだなという風には思っています」
●東京の郊外、例えば奥多摩あたりですと、森に囲まれたカフェがあるっていうのはイメージできたんですけれども、この本を読んでいたら、都心にも森を感じるカフェっていうのがあるんですね!
「そうですね。東京って意外と緑が多くて、高層ビルとかごちゃっとした街並みのイメージが強いですけど、公園なんかもたくさん整備されていると思うんですよね。
東京に森とか自然を作ろうっていう風に意識的にそういうことをしてらっしゃる方たちも多分たくさんいて、例えば大手町の駅を出たところに突然のように森が出現したりとかね。東京駅の隣の”KITTE”っていうビルも屋上庭園みたいなものを作ったりとか、あるいは目黒の高速のジャンクションの上に天空庭園なんて作ったりなんかして、森が出来上がったりとか、そういう風に意識的に作っている人たちもいると思うんですね。デパートの屋上なんかでも割と最近では木をたくさん植えたりとか、緑をたくさん入れているような動きもあると思います」
●南麻布とか表参道とかにもこんなに緑豊かなお店があったんだ! っていう風に驚きました。この本に掲載するかどうかの基準っていうのはどうやって決めているんですか?
「基準っていうか自分にとって居心地がいい場所、気持ちのいいところ、面白いなと思えたところを入れるようにしました。ただ綺麗とか、お洒落とかだけじゃなくて、自分は面白好きなのかなって、やってみて思いましたけど(笑)、評判がよくても行ってみて、ピンと来なければ入れなかったかな。なんとなく緊張するなとか、静かにしてなくちゃいけないとか、椅子が硬くて腰が痛いとかね、ちょっと高いなとか、そういうところは外しました」
それぞれのストーリー
※本に掲載されているカフェは、どのお店にもストーリーを感じるんですが、その辺は意識して取材されたんですか?
「そうですね。結局取材を申し込んでお話を聞いているうちに、やっぱり皆さんすごく物語を持っているじゃないですか。それは聞いていくうちに分かってきたことなんですけどね、それを書きたくなった。逆にただのカフェ案内じゃなくて、そういうものを書きたくなって、ちょっと本の方針が見えたかなっていう、自分の中でもちょっとね、だんだん変わっていったというか、そんな感じで作ることになりました」
●単にカフェの紹介をされているだけではなく、温かみがすごく感じられました!
「店主の方、皆さん、すごくいい方が多くて、本当に何でも喋ってくださってね」
●お話を聞く中で、特に印象に残っているストーリーってございますか?
「はい、お客様で転勤になっちゃって、20年ぐらい(店に行くのに)間があいちゃった人がいるんですって。それでその人が昔、マンデリンをいつも頼んでいたので、扉が開いて顔を見た途端にパッてそれを思い出して、“きょうもマンデリンでよろしいですか?”って。本当にすごく久しぶりなのにそれが出来るってすごいですよね。やっぱり流石、お店をやっている方ってすごいなって、それを聞いた時に思ったんですけど、そうしたらそのお客様がね、”覚えていてくれたんですか!”って言って、そういうエピソードなんかもありました」
●そうですか・・・中には歴史を感じるような場所もありますよね?
「そうですね。すごく素敵な築350年の庄屋屋敷を移築してきたりとか、東京の西のほうってお蚕さんの産業が盛んでしたから、そのお蚕さんの製糸工場の女工さんたちの宿泊の施設を、そのまま和カフェに持ってきたところもあったりしました。
町田に白洲次郎記念館ってあるんですけど、そこにカフェが併設されていまして、白洲次郎さんっていうのは戦後処理で憲法作りに関わったりとか、当時日本でいちばんかっこいい男って言われた人らしいんですけど、そういうところを取材したりもしました」
本当は内緒よ
※森を感じるカフェは郊外になればなるほど、行くのに不便だったりすると思うんですが、それでもお客さんで賑わうのはどうしてなんでしょうね?
「不思議ですよね。私も不思議だと思いました。ただ、もちろんそれぞれ工夫もしてらっしゃると思うし、特色を出すような努力もされていると思うんですけれど、今SNSの時代ですから、発信力とか、そういうことも駆使して皆さんやってらっしゃるかなっていうのは思います。
でもやっぱり、カフェのポテンシャルっていうんですかね、魅力がないと続いていかないだろうなって。本当に行けば行くほど、リピーターの人が多いっていうのは感じましたね。ずっと何度も、毎回来る度に寄ってくれるみたいな人が多いみたいです」
●特に棚沢さんがおすすめのカフェをあげるとしたらどちらになりますか?
「どこも大好きなのでね、なかなかちょっと絞りきれない(笑)。日野に“クレア ホーム&ガーデン”っていうカフェがありまして、ちょっと広いお庭で、建物をご主人が自分で、チューダー調のイギリスのお屋敷みたいな建物を建てちゃったりとか、エキゾチックな東洋の雑貨がいっぱい置いてあったりとか、そういう雑貨なんかもすごいんですけど、ママさんのお人柄が地球規模の肝っ玉母さんって言うんですかね(笑)。
本当に考え方がとても素敵で、盲導犬リタイアの子を引き取って、その看板犬にしたりとか、あるいはWWOOF(ウーフ)と言って、外国から日本に旅行に来られる方に、無償で泊まらせてあげて、代わりにお店の手伝いとかね、パンを焼いたりとか農作業を一緒にしたり、そういうことをやってもらったりとかね。本当に小さい虫から動物も外国の人もみんな一緒に地球号に乗っている、みんな一緒だよって、そういう考え方はすごく素敵なのね。そういうところもありましたね。
あと“コンブリオ”っていう青梅の奥のほうにある喫茶店なんですけど、本当にお客さんファーストのこだわりの店で、最初マスコミNGだったんですね。すごく素敵で、CMとかドラマ(の撮影)とかでオファーがいっぱい来るんですけど、ひとつも今まで受けてこなかった。
私が申し込んだ時も最初ダメって、受けませんって言われたんですけれども、話をしているうちに受けてくださったんです。本当にお客さんのことを大事にしていて、夢のような調度品があって、なんか日常と切り離されたような場所ですね。本当は内緒です(笑)」
看板メニューは“おかかピラフ”!
※棚沢さんはご自身でもカフェをされていると聞いたんですが、そうなんですか?
「これも本当にたまたまなんですけどね、叔母のカフェ(*)をその(本の)中にひとつに入れたんですよ。多摩川が近くてね、そのカフェ自体は街中にあるんですけど、ちょっと歩くとすごく気持ちのいい自然がたくさんあるようなカフェなんですよ。
そこを去年、ちょっと体の具合があまりよくないので、そろそろリタイヤしようかっていう話が出ました。それで子供がいないので、私たちに相談が来まして、廃業の手伝いをしているうちに、あまりにやっぱり雰囲気がいいし、常連さんがたくさん付いているし、もったいないねって話になって、じゃあ思い切ってやっちゃおうかって言って、この4月の末から引き継いで、カフェの仕事もちょっとやるようになりました(笑)」
●実際に棚沢さんがコーヒーを入れたりとかもされるんですか?
「やりますよ。どっちかっていうと夫のほうがコーヒー担当で、私が料理担当なんですけど、お客さんがみえると、この本を持って来てくださったりなんかして、とても嬉しいですね。自分の本を見て来てくださるってね」
●看板メニューは何ですか?
「“おかかピラフ”という、醤油ベースのピラフに鰹節を乗せるんです。そうすると鰹節がふよふよ〜っと幸せな感じで湯気で踊るんです。それが割と評判がいいかな(笑)。それは元店主の直伝なんですけどね。評判がよかったので教えてもらってやるようになりました」
●ちゃんと引き継がれているわけですね。
「そうですね。本当に常連さんが多い店なので、その常連さんたちにも居心地がいいように、また、新しい人たちも楽しんでいただけるように、音楽と本と料理とコーヒーという、そういうお店を今頑張って作ってやっております」
(*)棚沢さんが引き継いだコーヒーハウス「ケトルドラム」は、京王線の聖蹟桜ヶ丘駅から徒歩3分ほどのところにありますよ。営業日など含め、詳しくはケトルドラムのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ケトルドラム:https://kettledrum2021.wixsite.com/cafe
小さな旅の本
※今はテレワークということで、ご自宅で仕事をされているかたも多いと思います。リフレッシュのために散歩をされているかたもいらっしゃると思いますが、ご自宅の近くで、森を感じるカフェを探してみるのもいいと思うんです。棚沢さん、どうでしょうね?
「意外と近くにもあると思うし、カフェじゃなくても、なんか雑貨屋さんとかでもいいし、ちょっと扉を開けてみる。初めてのところって扉を開けるのに勇気がいるじゃないですか。でもちょっと気になればね、いい機会だからちょっと開けてみるといいんじゃないですかね」
●改めて、この『東京の森のカフェ』を読まれた方にどんなことを感じてほしいですか?
「この本はどちらかというと、カフェ案内というより、小さな旅の本だという風に私自身は思っています。東京はカフェにしても、何にしても、とてもバラエティに富んで面白い街ですね。
なかなか今、遠出するような旅はできないですけれど、だからこそ身近な自然にちょっと目を凝らしながらね、いろんな場所を訪ねて、色んな人とちょっと話をしたりしてね、自分の好きな場所を見つけていただければいいなと。この本が手がかりにちょっとでもなれば嬉しいなと思っています 」
INFORMATION
『東京の森のカフェ』
緑がいっぱいの表紙を見ているだけで癒されますよ。掲載されているカフェは36軒、それぞれにストーリーを感じるカフェばかりです。写真も素敵で、実際にお店の雰囲気や、コーヒーなどの名物メニューを確かめたくなります。棚沢さんが引き継いだコーヒーハウス「ケトルドラム」も掲載。この本を持って、カフェめぐりをするのもいいかも知れませんね。書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)から絶賛発売中です。詳しくは、出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎書肆侃侃房HP:http://www.kankanbou.com/books/cafe/0268