2021/11/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、新進気鋭の映像人類学者「太田光海(おおた・あきみ)」さんです。
太田さんは1989年、東京都生まれ。神戸大学卒業後、パリに渡り、人類学の修士号を取得。その後、英国マンチェスター大学・グラナダ映像人類学センターに在籍しているときにアマゾンの熱帯雨林の村に1年間滞在、その成果を映像作品にまとめ、博士号を取得されています。
太田さんの初監督作品、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』は、その斬新な手法と内容が高く評価され、海外の映画祭で数多くの賞を受賞!
ちなみに映像人類学とは太田さんによれば、自分の研究を社会に伝える方法が、映像だったり、写真だったり、音であったりとされていて、日本には専門の学校がなく、マンチェスター大学やハーバード大学などが有名だそうです。
きょうは日本でも公開中の同映画をクローズアップ! 太田さんの、アマゾンの森の先住民たちと暮らした日々と、映像に込めた思いに迫ります。
☆写真協力:太田光海
セバスティアンとの奇跡的な出会い
※まずは映画のタイトル「カナルタ」にはどんな意味があるのか、教えてください。
「”カナルタ”というのはシュアール語で”おやすみなさい”という意味がありますね。毎日、夜寝る前にみんなで言い合う言葉です。同時に”いい夢を見なさい”という意味や、”いいヴィジョンを見なさい”という意味も含まれているんですね。
寝るということはつまり夢を見ることと同じだし、その夢を見るということはビジョンを見る、自分自身が何者なのかを知るという意味も含まれているという、深い意味があるなと思いまして、それでこのタイトルを選びました」
●撮影場所は南米エクアドルということですけれども、どのあたりなんですか?
「エクアドルの若干東のほうに、アマゾンと呼ばれるいわゆる熱帯雨林が広がっていまして、その中のちょっと南のほうですね」
●シュアール族という先住民が暮らしている村っていうことですよね?
「シュアール族の村はたくさんあるんですけど、その中で集合的にその辺に住んでいると・・・」
●だいたい何人ぐらいの村になるんですか?
「僕がいた村は200人ぐらいですね。ただ子供の数がすごく多いので」
●そこに太田さんがおひとりで行ってたんですか?
「そうです。完全にひとりで行きました」
●ええ!? 怖いとかそういった気持ちはなかったですか?
「正直、最初はそういう不安とかもありますけど、アマゾンと呼ばれる地帯に入ってから、もう少し奥に行かないとその村に入れないので、その村に入る時点ではある程度、そういう怖さみたいなものに慣れていましたね」
●映画の主な登場人物が(シュワール族の)セバスティアンというかたでした。このかたとは、どのようにして出会ったんですか?
「偶然と言えば偶然です。なぜかと言いますと、彼らの村というのは基本的に地図に全く表示されないんです。住所という概念が存在しないので・・・僕のような外部の人間が行きたいと思っても、そもそもどこにあるのかも分からない、行きかたも全く調べようがない場所にあるので、人に連れて行ってもらうしか方法がないんですよ。
僕は一回、エクアドルの首都のキトという町に飛行機で着きまして、1〜2週間そこに滞在して、その間に知り合いのかた、友人を介して紹介してもらった現地のかたに何人か会って、その人たちに、アマゾンでこういう映画を撮りたくて研究もしたいんだけど、どうすればいいだろう? ということを聞くわけですね。
そうすると、彼らが、僕がアマゾンの人を直接知っているわけじゃないけど、僕の知り合いで、アマゾンの人を知ってそうな人がいるよということで、また紹介してくれたりするんですね。
そういうのを繰り返していくと、ある時から、シュアール族なんですけど、今はちょっと都市に住んでいるよっていう人もいるので、そういう人と繋がったりします。
その人に同じような内容、こういう映画が撮りたくて、こういうことに興味があるんだけどっていう話をした時に、その人が、そういうことならうってつけの人がいるから連れて行くよということで、連れて行かれたのが、そのセバスティアンの住む村でした」
注釈:セバスティアンは、年齢は50歳くらい。長い黒髪で火焼けして精悍。家族構成は奥さんのパストーラと5人の子供たち。森から調達した木で建てた家で生活。服装は民族衣装を着るときもあるようですが、Tシャツやズボンなど着用し、プラスチックの容器なども使用。村の仲間たちと助け合い、伝統を大切にしながら、現代文明の恩恵は受け入れるところは受け入れています。
太田さんがいうには、村にはゆったりとした時間が流れているとのことでした。ちなみに言葉はスペイン語とシュアール語で会話していたそうです。
出されたものは全部平らげた!?
※いきなり見ず知らずの人が村に行くと、警戒されたりすると思うんですけど、太田さんは、どうやって信頼関係を築いていったんですか?
「いろいろやりかたはあって、本当に些細なことの積み重ねなんですけど、ひとつ、すごく大きかったなと思うのは、僕が彼らが出してくれたご飯や飲み物を、もう全部、嫌な顔せずに平らげたというのが、多分彼らにとってはすごく大きかったかなと。
やっぱり人間誰しも、日本でもそうだと思うんですけど、自分たちがめちゃくちゃ美味しいと思っているものを外の人に、これすごくまずいよとか、これはよく分かんないから手を付けられないとかって言われたら、ちょっとショックというか、傷付くじゃないですか。
多分そういう感覚が彼らもあって、彼らの料理には口噛み酒っていう唾液の中の微生物で発酵させた、自家製のお酒みたいなのもあるんですけど、ああいうのってエクアドル国内の人でも、アマゾン出身じゃない人ってやっぱり手を付けにくかったりするんです。
彼らはそれを知っているので、僕が村を訪ねた時に、躊躇せずに全部飲んだんです。その時に彼らは、この人は何でも食べるし、飲んでくれるということになって、すごくみんながいろいろものをくれるようになって、そこから仲よくなったなと思いますね」
●実際そういった食事は、太田さんの中でちょっと美味しくないなっていう感じもありました?
「美味しくないって感じたことは正直ほとんどなくて、すごく本当に美味しいんですよ。というのも、彼らの食材って全部すごく新鮮で、何もしなくてもナチュラルに有機栽培なんですね。彼らは農薬とかわざわざ手に入れるために動くわけではないので、そのまま生えているわけですから、だから採れたてで有機栽培だと。
で、アマゾンの土地のエネルギーというか、栄養価もすごく高いので、単純に素材としてすごく美味しかったです。ただ、同じようなものをずっと食べているので、僕らにとっての白ご飯みたいなものかもしれないですけど、時々ちょっと違うものを食べたいなっていうのは正直思いましたけど(笑)、基本的にはすごく美味しいです」
少子化!? それでいいのか!?
※太田さんはシュアール族の村に1年滞在されましたが、撮り貯めた映像は35時間だったんですよね。映画を作るにしては、とても短い気がしたんですけど、撮影以外には何をしていたんですか?
「撮影以外には、本当に彼らと同じ生活をなるべくしようとしていました。彼らが森で作業する時は僕も映画にも出てくる鉈ですね、あれを持って、僕も自分用の鉈を手に入れて一緒に作業したり、魚を捕る時は一緒に川で魚を捕ったり、もう本当に彼らと同じようなことをできるだけやろうとしました。
あとはもうたくさん彼らと話しましたね。いろんな話を聞いて、研究者としてとかインタビューする人としてではなくて、ひとりの人間として、僕の人生についてもいろいろ話しましたし、そういう個人的な関係を作るようにしましたね」
●例えば、どんな話をされたんですか?
「僕の家族の話ですとか、彼は結構、興味津々なので・・・当時、僕はイギリスに住んでいたんですけど、マンチェスター大学にいたので、そのイギリスでの生活とかについて彼らに話すんですけど、彼らは僕らの生活がすごく不思議なんですよ。
例えば、僕は東京出身なんですけど、東京ではこういう家がたくさん建っていて、渋谷の話をすると、すごく高いビルがたくさん建って、電車が何本通っていて、人がめちゃくちゃたくさんいて、みんな会社とかに勤めている・・・日本では最近少子化というのがあって、みんななかなか子供を持ちにくいとか、そういう話をすると、何で!? ってなるんです。
何で子供がいなくて君たちはそれでいいの? みたいな感じなんですけど、そういう話、パソコンに向かうのはなぜ? って聞いてくるわけです。パソコンに向かって君たちは何しているの? みたいなこと言われるんですけど、そういう時に、確かになんでだろう? みたいなことを思うんです。そういう素朴な話とかをいろいろしました」
●太田さん自身の人生を振り返るいい機会にもなったような感じですね。
「そうですね」
●確かに村ではすごくお子さんも多いとおっしゃっていましたよね。
「やっぱり子供がたくさんいて、家族がみんな健康で幸せであるという、単純な話なんですけど、そこをすごく彼らは重視していますね」
鬱蒼とした熱帯雨林を歩く能力
※映画『カナルタ〜螺旋状の夢』を見ていると、主人公セバスティアンの存在感が際立ちます。彼は神話、薬草、歌に詳しい文化的なリーダーとして尊敬されていて、薬草を使って村人の治療もします。ちなみに村の政治的リーダーは奥さんなんです。
映画の中でセバスティアンと一緒に森を歩くシーンが多くありましたが、一緒に歩いていて、驚くことがたくさんあったんじゃないですか?
「ありましたね。驚きの連続過ぎて、何から話していいかちょっと分からないんですね。いちばん最初にやっぱり衝撃だったのは、彼らが森を歩く時のスピードというか、全てなんですけど、僕が急に森に入ってもそもそも歩けないんですよ。
障害物がまず多すぎる。日本で例えば登山やハイキングに行くと、確かに自然に溢れた場所に行けるんですけど、階段があったりとか、道がとりあえず舗装されていたりっていうのはある程度あると思うんですね。
そういうのがアマゾンはもう一切ない。木が倒れていたら、その木は倒れたままだし、そこを人間が行く時はそれを飛び越えていくわけですよね。その上にはたくさんの蔓性植物がとんでもない量で垂れ下がっているんですけど、そこに枝もあって、そういうのを全部避けながら進んでいくわけです。
しかもその地面は泥だらけだったり、どこに沼があるか分からない。急に足がズボって本当に1メートルぐらい中に入ってしまうってこともあります。その上、横から急に蛇が襲ってくる可能性もある。毒蛇に噛まれると結構、死に至る可能性もあるので、そういうのを全部気を付けながら前に進んでいくわけですよ。
僕は最初それはできなくて、ものすごく歩くスピードが遅かったんですけれども、彼らは僕が普通に街を歩くのと同じスピードで、そこを歩いていくんですね。その時に僕が目で1回確認して、大丈夫だなっていって進むみたいな、そういう感覚ではここでは生きていけないんだなってことは気づきました」
“似ている”から始まる薬草の見つけ方
※映画の中にセバスティアンが薬草を探すシーンが収められていました。彼はどうやって森の中で薬草を探し出すんですか?
「彼は、むやみやたらに自分の知らない薬草を食べているわけではないんですね。彼はもともと、先祖から受け継いできた薬草の知識を、ある程度は持った状態で独自の研究に進むわけですね。
彼が薬草を見つけるにはどうするかというと、”似ている”というところから始まるんですよ。この葉っぱやこの草は、僕が知っているこの病気に効くあの草にすごく形が似ているぞとか、匂いが似ているぞとか、そういうところから始まるんですよ。匂いが似ているってことは、同じような効果があるんじゃないかって考えるわけです。
もしくは、映画のシーンにも出てくるんですけれど、その植物の生き様のようなものを見るんですよ。例えば、形がまるで蛇のようだとか・・・僕がちょっと笑っちゃったのは彼が、髪の毛がすごくふさふさしているように見える草を見つけた時があって、一緒に僕がいた時に、彼は“この草はまるで髪の毛のように見える”、ということは、これで髪の毛を洗ったらいいんじゃないかみたいなことを言い出して・・・実際に効果があったのか分からないんですけれど、彼はそうやって植物自体が持っている姿とか、ある種、主張していることを、ひとりの人間と接するように見るわけです。
そこでこの植物にはこんな力があるんじゃないかって予測を立てていくわけですね。実際に食べたり試したりして、なんか効くなって思ったら、そこからだんだん調べていくと、そういうプロセスですね」
●へぇ〜それでどんどん知識が増えていくわけですよね。
「そうですね。増やせば増やすほど、もちろん比較出来るものがどんどん増えていくので、それでまた新しいものが分かってきたりとか。
面白いのは、薬草っていうと植物が思い浮かぶんですけど、彼らはアリもそうですし、ほかの動物も含めて、虫とかも含めて、身体にいいものは薬なんだっていう認識をしていて、そこはあまりほかの研究書を読んでも載っていなかったようなことなので、面白い発見でしたね」
自分の未来を見る儀式
※映画の中の印象的なシーンとして、薬草から作った飲み物を飲むことで「ヴィジョン」が見えてくるとセバスティアンは言ってました。これはシュアール族の、先祖から伝わる儀式のようなものなんですか?
「これは本当に、彼らの重要な部分ですね。劇中に出てくるのは“アヤワスカ”と呼ばれる覚醒植物の薬草なんですけど、あと“マイキュア”という別の薬草も出てきます。彼らにとってはすごく重要な植物で飲むと、ちょっと身体の感覚が変わって、夢を見るような状態になるんです。同時に吐いたりとかするんですけど、劇中で出てくるように・・・。
そこで見えたものを自分の中に落とし込んで考えることで、自分の未来を一部垣間みることが出来るっていう風に彼らは考えるんですね。常にそこから得たイメージと対話しながら人生を生きているというか、そういう世界ですね」
●映画の中でもセバスチャンが「森を破壊することは自分を破壊することだ」とおっしゃっていましたけれども、太田さんがこの映画を通して伝えたいことっていうのはこういったことにも繫がってくるのですか?
「間違いなく! 伝えたいことのひとつとして大きなものです。それは決して彼らだけではないと思うんですよね。彼らはもちろん、それが直接的に感じられる場所にいるので、そういう風にダイレクトに言葉が出てきますけれども、僕らも同じ世界に生きているわけで、巡り巡って本当はしわ寄せは来ているかも知れないし、今後来るかもしれないわけですよね。
だからそれを、なかなか僕らは日々のせわしない生活の中で感じることは難しいんですね。でもこの映画があることで、彼らはどういうプロセスと生活の中で、そういうことを言うに至っているのかということを、ちょっとでも垣間みることが出来たらいいなって思っています」
●映画の最後にセバスチャンが太田さんに、薬草で作った飲み物を手渡していましたけれども、あれは全て飲み干されたんですか?
「はい、飲み干しました! 」
●お〜! ヴィジョンは見えました?
「見えたと言えば見えたし、見えなかったとは言いたくないですね。見えたと言えば見えました。それを解釈するのは僕自身なので、今後の人生がどうなっていくのかっていうのは楽しみなところですね」
INFORMATION
『ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』
太田さん渾身の一作、ドキュメンタリー映画『カナルタ〜螺旋状の夢』をぜひご覧ください。実は構想から完成までおよそ7年を要した力作です。海外の映画祭で数多くの賞を受賞しています。淡々と流れていく映像・・・2時間を超える作品ですが、釘付けになりますよ。
首都圏では現在、神奈川の横浜シネマリンで上映中。11月28日からは同じく神奈川のシネマアミーゴで上映される予定です。上映スケジュールなど、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎『カナルタ〜螺旋状の夢』オフィシャルサイト:https://akimiota.net/Kanarta-1