2021/11/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、小説家の「森沢明夫(もりさわ・あきお)」さんです。
森沢さんは1969年、船橋市生まれ。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターに。そして2007年に『海を抱いたビー玉』で小説家デビュー。その後、話題作を次々と発表されています。
映画化されている作品も多く、例えば、高倉健さん主演の映画『あなたへ』や、吉永小百合さん主演の『ふしぎな岬の物語』、そして、有村架純さん主演の『夏美のホタル』など、原作は森沢さんの小説です。
そんな森沢さんとこの番組は、14〜5年前からのお付き合いで、事あるごとにご出演いただいていますが、今回は、先頃出されたエッセイ集『ごきげんな散歩道』に沿ってお話をうかがうことになりました。
森沢さん流の、日々「ごきげん」でいるためのコツや、小さな幸せに出会える散歩のお話にはきっと、心と体をリフレッシュさせるヒントがたくさんあると思いますよ。
☆写真:森沢明夫
深夜の散歩、霧の夜
※おうち時間が増えている中、本のタイトルにある「ごきげん」と「散歩」が、日々を過ごすための大切なキーワードになっていると思ったんですが、そのあたりはいかがですか?
「僕、単純に家の中にいるより、外をふらふらしているとそれだけでご機嫌になれる体質なのか分からないんですけど、散歩って科学的にも精神や心にすごく良いって言いますよね。歩いていると色んな出会いとか、人とも出会うし、例えば綺麗な空とも出会ったり、その季節の例えば花とか、色んなものと出会えるので、そういうものを見ていると、それだけでご機嫌になっていくなと思っていますね」
●私は移動手段として、ただただ歩いていたなっていう風に感じました。ちゃんと散歩で楽しんでなかったなと思ったので、やっぱり視野を広げて色々な世界を見てみると色んな発見がありますよね。
「足もとの世界に、よく見れば見るほど、色んな世界が実は広がっていて、子供の頃、よく“ありんこ”とかしゃがんで見ていませんでした? 大人になるとあまり見ないですよね。
子供の視点で足もとに何かないかなーと思って探す、何か面白いものを探そうって目を持って歩いていると、意外と何でもない国道の道端に見たことのない雑草の花が、可愛いのが咲いていたりとか、色んな発見があるので、すごく楽しいですよね」
●日々、立ち止まりながら散歩されているんですか?
「そうですね。この歳で道端でしゃがんで写真を撮ったりすると、結構怪しがられますよね(笑)」
●そうですよね(笑)。深夜にもお散歩されるってうかがったんですけども?
「します。結構、深夜率も高いです。3割ぐらい深夜かもしれない」
●深夜というと何時ごろですか?
「僕は寝る時間とか決めていないんで、夜中の2時、3時、4時とかありますね」
●え〜! 真っ暗ですよね?
「真っ暗だったり、朝方になりつつあったりとかもします」
●深夜のお散歩だと、どんな発見があるんですか?
「深夜は、例えば星が綺麗だったり・・・ツイッターとか見ていたりすると、星の観察されているかたがいて、今どこの方向に金星と土星が光っていますとか、そういうのを見て、ちょっと散歩しようと思って見たり・・・。あと星座を見られるアプリがあるんですよ。そのアプリを見ながら空にスマホをかざして、あれが何座であれが何座だなと思いながら歩いたり・・・意外と面白いのが霧の夜。雰囲気が好きですね」
●霧の夜、何か幻想的ですね。
「そうなんですよ。小説の中の世界に、ミステリー小説の中に入り込んだみたいな不思議な感覚になって・・・男だから(深夜に散歩が)できるんだと思うんですけど」
●確かにちょっと女性の深夜の散歩は危ないかも。
「深夜の霧の夜に、わざと狭い路地に入っていくとかって雰囲気がちょっと面白いですよね。
本当に朝、昼、晩の散歩の面白さがあるし、日本って四季があるじゃないですか。だから春夏秋冬、同じ道を通っていても色んな発見があって、雰囲気も違って、すごく面白いんですよね」
メモが止まらなくなる散歩!?
※森沢さんは散歩をしているときに、小説家らしいというのか・・・、こんなこともよくあるそうですよ。
「小説を書いていると、頭の中がぎゅーって圧迫されている状態が続くっていうか、集中している状態が続くじゃないですか。でも一回それをふわって解きほぐす時間帯が欲しくて散歩するんですけど、意外なことに、そのふわって何も考えずにいる散歩の瞬間にむしろアイデアがいっぱい降ってくるんですよね」
●この本の中にも「メモが止まらなくなる散歩」という項目があって、「歩き始めてすぐに僕の内側から言葉とひらめきが溢れ出した」というような文章がありますけど、やっぱりそういう切り替えというか、あえて外だからこそ浮かんでくるものって何かあるんですか?
「やっぱり歩いていると、視覚から入ってくる情報とか、嗅覚、風の匂いとか、風の触感もそうだし、色んな感覚が新しく入ってくるんで、脳に刺激がいくのかなと思ってますね」
●「(本に)脳と心がしゃきっと目覚めた」っていう表現もありましたけれども、森沢さんが散歩中に出会った印象に残っている出来事って何かありますか?
「いっぱいありますけど、暗い夜道にひとりで路地を歩いていたら、前に若い女性がいたんです。悪いことしたなと思ったんですけど、その女性が僕のことを振り返ってダッシュで逃げていった時、まじか!と思って・・・追いかけていって、僕は悪い人間じゃありませんって言いたいぐらいですけど、追いかけていったらそれこそ怖いんで(笑)」
●そうですね(笑)。何か素敵な出会い、生き物だったり人だったり、そういったことはありますか?
「結構、猫と出会えたりとか、野良猫なのか分からないけど、人懐っこい猫が結構いたり・・・猫と触れ合っていると通学中の子供たちが寄ってきて話しかけてくれたり。
あと、子供のころよく遊んでいた草花を久しぶりに見つけて、子供のころやっていた遊びをやってみると、何かちょっと癒されますね。懐かしいなーって」
●すごく癒されそう、ほっこりしそうですね。
「本にも書いたんですけど、オシロイバナで遊んだりしませんでした?」
●やりました〜!
「ああいうのって懐かしいな〜と思って」
●何かふわ〜っと子供のころの情景も思い浮かびますし。
「地元を歩いていると、当時の通学路を歩いたりするんで、思い出がたくさん蘇ってくるんですよね 」
註釈:森沢さんが散歩に行くときに持っていくのは、ほぼスマホのみ。散歩の平均時間は1時間半くらい。お天気の良い日には公園で本を読んだり、行きつけの喫茶店に行くこともあるそうですよ。
渚の旅人、釣りを楽しむ!?
●森沢さんは昔「渚の旅人」ということで、日本の海岸線を巡っていたんですよね?
「そうですね。日本の海岸線を尺取虫状に、今回はここからここまで、その次はこっからここまでって繋いでいって、一周しようっていう企画が雑誌の連載であったんですよ。一周しながらそれを紀行エッセイにしていくっていう」
●私の名前が「渚沙」なので、すごく興味深いんです(笑)。
「いい名前ですね〜!」
●渚を旅されて、いかがでした?
「最高に面白くて、エキサイティングで、釣り好きなんで。でも釣竿を持って旅するのは編集長に禁止されていたんです。なぜなら先に進まないから(笑)。
僕がやっていたのは、海岸にいる釣り人に話しかけて、釣れている人にちょっと竿を貸してって言って、竿を奪い取って自分で釣って楽しんだり。
あとは日本の美味しい海産物とたくさん出会えたり。風景も、色んな独特の風景がたくさんあるんで、7年以上やったんですけど、全く飽きることがなかったですね」
●特に印象に残っている場所はありますか?
「難しいな〜。めちゃくちゃ難しいけど、ここ日本かよって思うぐらいびっくりしたのは、青森県の仏ヶ浦っていう海岸。白い巨大な岩がたくさん海岸線沿いに屹立していて、そのスケールが大きいんで、日本じゃないみたいと思いましたね。
海も本当にソーダ水みたいな綺麗な海で、5メートルとかそれ以上深いところの小石が見えます」
●ええ!? すごいですね!
「本当に綺麗です。よくテレビとかでカヌーが(水面から)浮いているように見える(シーンがありますが)、あれぐらい綺麗かもっと綺麗かってくらいでした」
註釈:森沢さんのおすすめスポットとして、散歩コースではないんですが、 「ふなばし三番瀬(さんばんぜ)海浜公園」をあげてくださいました。海好きな森沢さんは散歩の代わりに、オートバイに乗って出かけることもあるそうです。
森沢さん流の「散歩の極意」
※「だから散歩はやめられない!」という瞬間はどんな時なんですか?
「個人的には、単純に歩いて帰ってきた時の、家を出た時と家に帰って来た時の、心と身体の軽さが違うんですよね。それはやっぱり、もう本当にやめられない」
●煮詰まって出かけたのに・・・。
「そうですね。背中も肩も首も凝りっこりで、ガチガチに凝って、精神的にも疲弊して、頭もなんかこう、重たいような状況で歩きはじめて、1時間して帰って来たらものすごくすっきりしているんですよね。これはもう(散歩を)やめられないですよね」
●森沢さんが思う散歩の極意っていうのは?
「極意!? 極意はやっぱり“五感”を使うこと! 情報はたくさん目から入ってくるし、途中で花の匂いがしたり、例えば秋だったらキンモクセイの匂いがしたりね。あと、カレーライスの匂いがしてきたり・・・」
●あ〜!
「どっかの家でね、今夜はカレーなんだなあ(笑)とか思いながら。あとツツジの花をたまに吸ってみたり。サルビアとか、サルビアって分かります?」
●はい! 分かります。
「赤い花なんですけど、あれを、ちゅっと吸うと蜜の味がしたりするじゃないですか。あとね、空気の感じとか。たまに枯れ葉を拾ってみたり、そういう色んな五感を使って楽しむ。
ひとつひとつに小さな感動があると思うんです。その小さな感動をしっかり身体で味わうっていうのかな。それをやっているとなんかね、すごく小さな幸せをたくさん蓄積していく感があって、個人的にはすごくいいと思うんですよね。
だから極意は? って言われたら、五感を使って、身近なことを、場所を、味わいましょうっていうことかな」
●身体全体で感じられますよね。
「散歩、しません?」
●そうですね。でも私は本当に森沢さんの本を読んで散歩しよう! って思いました。歩くことが手段でしかなかったので、散歩をすることでもっともっと心が豊かになりそうだなって思いました。
「単純に、家から駅まで通勤で歩いている間にも、多分何かしらの発見はあるはずなんですよね」
●本当ですよね〜。ただ今、テレワークも増えていて、朝起きてから夜寝るまで、ずっと家にいるってかたも多いと思うので、本当に息抜きで散歩って大事ですよね?
「大事ですね〜。ずっと家にいるのが小説家ですからね」
●そうですよね〜。締め切りに追われてとかも多いと思うんですけど。
「締め切りに追われた時ほど散歩した方がいい! そのほうが多分、筆が走る」
●むしろはかどる?
「むしろはかどると思います。30分でもいいから歩いて帰ってきたほうが、その分、時間を無駄にしたというよりは、30分ぶん以上、筆が走るんで・・・経験上僕はそうだと思います」
新しい小説は「チェアリング」!
※明かせる範囲内でいいんですけど、これから書こうと思っている小説の構想だけでも教えていただくことはできますか?
「実はそれこそフリントストーンっぽいんですけど・・・」
●おっ〜!
「“チェアリング”って知っています?」
●チェアリング? 何でしょう?
「チェアって英語で椅子ですよね。その椅子ひとつを持って、風景のいいところに出かけて行って、そこに椅子を置いて、そこでビールを呑んだり、コーヒーを飲んだり、っていうのを楽しむのをチェアリングって言うんですって。もっとも手軽なアウトドアって言われているらしいんです。
大学生が主人公なんですけど、友達や仲間とチェアリングをやって、彼らが成長していく物語みたいなものを今、日本農業新聞というところで連載しています」
●森沢さん自身もチェアリングはされるんですか?
「僕はそんなやっていないんですけど、ただ昔、野宿であちこち放浪していたので、その時はやっぱり椅子をキャンプ地にぽんと置いて、ここから視界に入る風景は全部俺の庭! と思って、贅沢な気分で遊んでいましたね。それを今の大学生達がどうやって楽しんで、どんな出会いをして、どうやって成長していくかっていう物語です」
●どうやって小説って思い描いていくんですか? 森沢さんの脳はどうなっているんですか?
「脳はちょっとお見せできないんですけど(笑)。最初は“人間関係図”みたいなものが閃めくんです。パッて降って来るんです。こういう悩みを持った、何歳くらいの、こういう人を主人公にして、それに対してサブキャラ、こういう人とこういう人がいて、こういう関係性っていうのが最初に降って来るんです」
●へぇ〜〜。
「その人間関係の中に色んな問題があったり、それぞれ抱えている悩みがあったりして、それを何かしら、今回だったらチェアリングを使って、成長させていくにはどうしたらいいのかなって考えていくんですよね。最初は人間関係ができて、キャラクター設定をするんです。
どういうキャラクターにするかって、すごく細かくいっぱい書き出していって、架空の人なんだけど、本当にいるんじゃないかって自分が勘違いしそうなぐらいまで、夢に出てくるくらいまで結構書いていくんですよね。
そのキャラクターたちを、例えば地方の大学とかそういう舞台にキャラクターを置いてあげて、あとは彼らがどういう動きをしていくか観察していく感じですね」
●かつてのアウトドアの経験も活かされているんですよね?
「めちゃくちゃ活きていますね〜。結構、釣りのシーンとかよく書くんですけど」
●では、最後にお散歩マイスターとしてリスナーの皆さんにアドバイスがあればお願いします。
「アドバイスは、四季を活かした日本の散歩をすごく楽しんで欲しいので、同じ道でも色んな時間帯と色んな季節を楽しんで欲しいのと、あとはすごくおすすめなのが、かつての通学路に、あえて行ってみて歩いてほしいですね。懐かしい子供の頃の想い出の道を歩いてみて欲しいなと思います。すごく胸がきゅ〜ってなるのでおすすめですね」
(注:写真や記事の無断複製、複写、転載は禁じられています)
INFORMATION
『ごきげんな散歩道』
エッセイ集『ごきげんな散歩道』をぜひ読んでください。森沢さんが散歩の途中に出会った「ひと」や「もの」「こと」が、やわらかい文章で書かれています。写真も全部「森沢」さんがスマホで撮ったもの。読み進めていくうちにふわっとした感じに包まれて、きっと心が軽くなると思います。春陽堂書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎春陽堂書店HP:https://www.shunyodo.co.jp/shopdetail/000000000762/