2021/12/5 UP!
今年の嬉しい出来事のひとつとして、7月に奄美大島が沖縄ほかとともに世界自然遺産に登録されたことがあげられます。国内では白神山地、屋久島、知床、小笠原諸島についで5件目になります。
鹿児島県に属する奄美大島が選ばれた理由は、なんといっても生物多様性の高さで、固有種の多さは際立っています。奄美大島は日本の国土の0.2%にも満たないのに、国内全体の、生物の種類のおよそ13%が確認されているそうです。そんな生き物の楽園、奄美大島にご案内します。
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生きものカメラマン「松橋利光(まつはし・としみつ)」さんです。
松橋さんは1969年、神奈川県出身。水族館に勤務後、フリーのカメラマンとしておもにカエルなどの水生生物をメインに、いろいろな生き物を撮影、これまでに児童向けの本や写真絵本を数多く出版。また、子供向けの生き物教室も開催されています。
そんな松橋さんの新しい絵本が『奄美の道で生きものみーつけた』。これまでに40回ほど通ったという奄美大島の生き物や自然について、きょうはたっぷりお話をうかがいます。
☆写真:松橋利光
道で出会える生き物たち
●本のタイトルに「奄美の道」と入れたのは、奄美大島では道でたくさんの生き物に出会えるからなんですか?
「そうですね。奄美大島は森の中にたくさん林道が走っていて、身近な生活道路だったりもするんですけど、生き物を探す時の基本として、そういう道で車をゆっくり走らせて、まずその状況を知るのが第一歩なんですね。そこで出会う生き物を集めてみました」
●奄美大島は道を歩いているだけで、こんなにたくさんの生き物に出会えるんですね。
「(生き物に出会えるのは)道だけじゃないですけど、生き物の数というか量は沖縄のやんばる以上だと思っています」
●以前よりも生き物は増えてきているんですか?
「”マングースバスターズ(*)”がすごく機能しているようです。外来のハブの退治のために導入されたマングーズが増えて、結構カエルとか食べちゃったりするんですけど、その駆除が世界でも珍しいぐらいうまくいっている島なんです。それだけじゃなく、ほかの保全活動とか色々相まって、この10年でかなり爆発的に生き物が増えていると思います」
●今年7月には沖縄本島などと共に世界自然遺産に登録されましたけれども、何度も通っている松橋さんとしてはどうですか? 決まった瞬間はどんなお気持ちでした?
「やっぱり世界遺産に向けて頑張っている人たちも見てきましたし、ものすごく嬉しい気持ちでいっぱいだったんですけど、自分はシンプルに自然を好きな人間として言ってしまえば、若干注目されて観光で人が増えると、また道で何かが起きてしまうんじゃないかみたいな、そういう弊害みたいなものに対しての心配も少しありました」
*ハブなどの駆除を目的に導入されたマングースがハブなどを食べずにアマミノクロウサギなどを捕食して、固有の生き物が減る一方でハブが増えてしまったそうです。そのため、環境省では2000年から本格的にマングースの駆除に着手、その事業のことを「奄美マングースバスターズ」と呼んでいます。その取り組みがうまくいき、奄美大島の生き物たちが増えているのではないかということなんですね。
環境省の奄美野生生物保護センターでは保護活動など、様々な取り組みを行なっています。ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。
◎奄美野生生物保護センターHP:https://www.env.go.jp/nature/kisho/wildlifecenter/amami.html
日本一美しいアマミイシカワガエル
※改めて、奄美大島の気候や天候について教えていただけますか。
「亜熱帯なんですけれども、暑さは、最近関東の夏はすごい暑さですよね。ああいう暑さとはまた違っていて、しっかり雨も降りますし、夜は涼しくなりますから、それほど過ごしにくいというか過酷な状況ではなくて、かえって夏は奄美で過ごしたいぐらいに思う時がありますよ」
●そうですか! すごく高温多湿なイメージあるんですけれども、湿気とかも多いですよね?
「湿気はすごいです。湿気はすごいですけど、そのおかげで、雨が定期的に降ることで、カエルの撮影がしやすいので、かえってありがたいです(笑)」
●自然相手だと撮影もなかなか大変なんじゃないですか?
「今の時期は繁殖期だからと思って行っても大外しすることがありますし、ふいにチャンスが訪れる時もあるので、そこは努力してもしょうがないというか、なるべく回数を行ってチャンスを増やすっていうだけですかね」
●奄美大島は、そこにしかいない生き物もたくさんいるんですよね?
「そうですね。有名なところだとアマミノクロウサギとか、ルリカケス、あとはアマミイシカワガエルとか、アマミと名の付く生き物はとても多いですね。固有種と言われるものが脊椎動物だけでも何種類かいて、昆虫も含めるともう何百といるようなので、奄美でしか見られない生き物はたくさんいます」
●アマミイシカワガエルは写真絵本にも写真が載っていましたけれども、実際に見ると、どれほど美しいんですか?
「日本一美しいって言われていますね。沖縄に棲むイシカワガエルと元々同種とされていたんですけど、何年か前に種として別れたんです。明らかにアマミイシカワガエルのほうが、緑色が、何色かのグラデーションの中に金をまぶしたような縁取りができていたり、背中だけをアップで撮ったりすると何かの模様ですよね。すごく美しいですよ。
沖縄の種も含め本当に迷彩色なんですよ。緑色なので実は目立たないんですけど、でもよく見るとすごく複雑な色彩をしていて美しいです。実は結構大きいんですよ。本州で見られるようなカエルとは違っていて、子供の手のひらぐらいはあります。大きい種類だと大人の女性の手のひらぐらいはあるので、模様もはっきり見えますし、すごく綺麗ですよ」
五感を駆使して見つけ出す
※松橋さんが奄美大島で、撮影のためによく通っている場所はどの辺なんですか?
「空港から(車で)1時間ぐらい南下したところに、大和村っていう集落があるんですね。そこの森が林道に沿って渓流もかなり多くて、林道を走っているだけで繁殖期とかですとカエルの鳴き声が聴こえてくるんですよ。この下で産卵しているんじゃないかと思って、車を停めて沢を下りていくみたいな、割と気軽に観察ができる場所があるので、その大和村がいちばん通っていますかね」
●それで降りて行って、実際やっぱりカエルがいた! みたいな感じなんですか?
「そうです、そうです。カエルって鳴き声が全部違うので、この声はハナサキガエルだ! しかも数がいっぱい、ピヨピヨ鳴いているぞ! って思って降りていくと、産卵しやすい溜まりがあったりするんですよ。そこに何百と集まって産卵しているところに出会うんですね。(大和村は)川と生活が近いって言うんですかね。なので、耳や五感を駆使すれば、そういうシーンに出会うチャンスがたくさんあります」
●同じ場所でも季節によって出会える生き物は違いますよね?
「(生き物が)食べるもので出てくる場所も違いますし、繁殖期が近ければ、カエルなどは鳴き声が全然季節で違います。そういう季節の移り変わりで見られる生き物が違ったり、図鑑に書いてある通りに解釈していると全然繁殖期とか違ったりするので、とにかく(奄美大島に)行って、耳をすませて風を感じながら行動するしかないっていう感じですけどね」
●一日の撮影スケジュールはどういう感じなんですか?
「夜がメインなんですよ。朝は例えば鳥の渡りだとか面白いことがあれば、朝から鳥の撮影をして、昼間の生き物があまり動かない時間にちょっと仮眠をとって、夜森に入って、(カエルの)産卵に出会ってしまったりしたら、一応産卵が終わるまでか、もしくは明るくなるまで待って、朝帰って仮眠してみたいな感じなので、本当に寝るとか食事っていうのはいちばん後回しで、ほぼ森にいます」
繁殖期、必死なカエルと紳士的なカエル
※撮影のためのフィールドワーク中に、なかなか出会えない生き物と出会えた時って、やっぱりどきどきするんですか?
「生き物との出会いや、そのシーンの出会いは毎回嬉しいですし、ドキッとするんです。それを体の動きで(いきなり)近づくと、生き物がびっくりするっていうのは、みなさん分かると思うんですけど、こっちの、”わっ、いた!”って気持ちの高揚が生きものに伝わるんですよ。なのでとにかく“いたっ!”って思っても、“いたっ!” って思わないようにしていたり、冷静を装うというか、本当になるべく心静かにっていうのがいちばんですね。いくら出会って感動しても」
●いた〜! って声に出さなくても、そういったワクワク感っていうのは生き物に伝わっちゃうものなんですか?
「多分、そう感じています。もちろん、その時に無駄な動きが出ちゃっているのかもしれないんですけど、やっぱり“あっ!”って思った時は、パッとこっちを見られた気がすることもあるので、“あっ!”って思っても、とにかく、すっと心を落ち着けるように意識はしています」
●難しいですね〜(笑)。
「難しいですよ。もう長年やっているので、何とかなっていますけど」
●生き物の撮影をしていて、思わずクスッと笑ってしまうような瞬間はありますか?
「本当に、生き物ってドジなので、ちょっと食べ物を落としたりとか、そういう日常の、クスッと笑えるようなトラブルってよくあるんですけど、カエルは普段すごく警戒心が強いのに、繁殖期になると、わけがわからないくらい必死なんですよ」
●必死なんですか?
「アマミハナサキガエルは、沢でピヨピヨ鳴いて集まるカエルなんですけど、数百と集まるので、オスがメスを探すことに必死なんですね。そういう時に胴長を履いて沢に行って、川の水が濁らないように水の中に半分入って、石に座ってずーっと待つんですけど、そうすると、自分の膝が石だと思われて、膝に4匹も5匹もカエルが乗っかってきたり・・・」
●へぇ〜!(笑)
「水中カメラで近づいたら、メスだと思って人の手につかまってきたり、なかなかその必死さは面白いですよ(笑)」
●面白いですね(笑)。微笑ましいというかなんというか・・・。
「面白いです! とにかく、もう笑いながら撮っています」
●ほかのカエルで、なにか面白い生態があったら教えてください。
「日本一美しいと言われているアマミイシカワガエルですとか、オットンガエル、奄美固有のカエルがいるんですけど、その2種類は逆にとても紳士的で、目の前にメスが現れても抱きついたりしないんですよ」
●ええっ!
「イシカワガエルは岩の隙間というか、穴の中で産卵するんですけど、穴の入口で鳴いて、メスがこっちに来るまで誘導するようにして鳴き続けて、一緒に穴の中に消えていくっていう感じですね。
オットンガエルは産卵のための小さな巣を作るんです。砂利をどけたような水たまりを作るんですけど、そこでオスが鳴いてメスが来ると、まずオスは一度巣を出て、メスがそれを値踏みするようにぐるぐる動くんですね」
●へぇ〜〜!
「オスはまた戻って来て鳴いたりするんですけど、見ているとメスが姿勢を低くして、もう産卵してもいいよ!っていうような合図のようなものを出すんですよ。そうすると、(オスが)のそのそっと来て、背中に抱きついて産卵が始まったり、すごく紳士的なカエルがいて、面白いですよ」
大事なのは謙虚さ
※奄美大島が世界自然遺産に登録されたことで、現地に行って生き物の写真を撮ってみたいと思うかたも多いと思います。プロのカメラマンとして何かアドバイスがあれば、お願いします。
「自然保護という観点からも、あとは危険防止という観点からも、シンプルに自然の中にいることをすごく意識して、常に謙虚に行動していれば、生き物ってそんなに逃げないんですよ。なので、ちゃんとルールを守って、自分が撮るっていうよりは、(生き物と)会えた喜びを普通に分かち合うぐらいな、余裕を持って森に入ってもらえれば、あれだけ生き物が多くて、出会うチャンスが多いので、いい写真が撮れちゃったりするのかなって思います」
●謙虚さ、が大事なんですね。
「そうですね」
●では最後に、この写真絵本を通して、どんなことを伝えたいですか?
「奄美大島の素晴らしさを伝えるっていうことはもちろんなんですけど、やっぱり生き物が多くて、自然と人の生活が近いイメージなんですね。本当に集落の裏に珍しいカエルやネズミが普通に現れるので、ロードキルのような事故があったりすることをきちんと知ってもらって、自分がどう行動したらいいのかを少し考えるきっかけになればいいかな思って作りました」
☆この他の松橋利光さんのトークもご覧ください。
INFORMATION
『奄美の道で生きものみーつけた』
松橋さんの新しい絵本、お勧めです! 奄美の道で出会ったカエルやヘビ、ウサギや野鳥などの写真が満載。元環境省のアクティヴ・レンジャー木元侑菜(きもと・ゆうな)さんとの共著。松橋さんは木元さんから教えていただく現地の生き物情報に、とても助けられているとおっしゃっていました。奄美大島の美しくて可愛い生き物たちをぜひ感じてください。新日本出版社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。