2022/3/20 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第7弾! ゲストは「市民エネルギーちば」の代表「東 光弘(ひがし・みつひろ)」さんです。
「SDGs=持続可能な開発目標」は、2015年の国連サミットで採択され、2030年までに達成しようという目標=ゴールが全部で17設定。きょうはその中から、ゴール7の「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」、そして、ゴール13の「気候変動に 具体的な対策を」について。
東さんは1965年、東京生まれの千葉育ち。20年ほど、有機農産物などの流通を通して、環境問題に取り組み、2014年に「市民エネルギーちば株式会社」を設立、現在は代表取締役として活躍中。千葉県匝瑳市(そうさし)で行なっている事業「ソーラーシェアリング」は、令和3年度に環境省「気候変動アクション 環境大臣表彰」で大賞を受賞、いま大変注目されています。
実は「東」さんは「アースデイ千葉」実行委員会の発起人で、2005年にこの番組に出ていただいていたんです。
きょうはそんな「東」さんに、ソーラーシェアリングとはいったいどんな事業なのか、そしてその事業を進めることで、どんな効果があるのか、いろいろお話をうかがっていきます。
☆写真協力:市民エネルギーちば株式会社
発電すればいい、ってことじゃない
●それでは、そんな東さんが千葉県匝瑳市で行なっている、耕されなくなった畑「耕作放棄地(こうさくほうきち)」を活用したソーラーシェアリングや「市民エネルギーちば」について、お話をうかがっていきましょう。まずは、初歩的な質問になりますが、このソーラーシェアリングとは、どんな事業なのか、教えてください。
「ソーラーシェアリングはざっくり言うと、畑の上で太陽光発電をやりますよっていう事業で、山を壊しちゃったりとか、そういうことはしません。
(太陽光パネルの)高さがだいたい3メートルぐらいなんですけど、その下ではトラクターも通りますし、コンバインも通って、普通に農業やれる、そういうような仕組みなんです。
特徴的なのは、たたみ一畳ぐらいの大きな太陽光パネルは使わないで、幅が35センチ、長さが2メートルの細長い太陽光パネルが、空間が2あったら太陽光パネルが1、2対1で隙間だらけの、そういう太陽光発電のことをソーラーシェアリングって言います」
●ソーラーパネルの下が畑なんですね。会社名に”市民”と付いているのは何か意味があるんですか?
「2011年に東日本大震災があって、原子力発電所の事故がありました。僕はその前まで20年ぐらい、有機農産物の流通をやっていたんですが、これからは食べ物だけじゃなくて、エネルギーのことを市民も考えていかなきゃいけないなって考えました。
そこで千葉県内の9つの環境団体の理事とか代表クラスが集まって、ひとり10万円ずつ出し合って、本当に小さな90万円の合同会社を作ったのがスタートです。市民っていう名前は、市民のエネルギーなんだよ、しかも千葉から始めるんだよってことで、市民エネルギーちばっていう名前にしました」
●会社を起こすきっかけは、東日本大震災が大きかったんですね。
「いちばん大きかったですね」
●匝瑳市で行なっているソーラーシェアリングは、どんなことを大事に進めている事業なんですか?
「ただ発電すればいいよってことではなくて、だいたい4つのことを大事にしています。ひとつは自然環境を大事にしようねっていうことです。
いくら再生可能エネルギーでエネルギーを再生したとしても、山を壊しちゃったりとか生態系を壊しちゃったりしたら、元の木阿弥というか、本末転倒なんで、エネルギーのことだけじゃなくて、その他の環境問題のことも大事にしようね、これがひとつですね。
それと(太陽光パネルの)下で農業やらせていただいてるんですけれども、やっぱり農業と太陽光発電だったらどっちが大事なの? って言った時には、迷わず農業のほうが大事なんだよっていう、これをすごく大事にしています。
あとは地域コミュニティ、これもすごく大事にしています。自然エネルギーって広い土地や空が必要なので、その地域の恩恵を都会の、電気をたくさん使うところに分けていただくってお仕事だと思っているので、地域コミュニティが大事、そういうことを考えています。
もうひとつは、社会的に僕たちは、普段”シンク・グローバリー、 アクト・ローカリー”ということで、地元で小さく活動しているんですけども、その思いが世界中に繋がっていくような社会性、そこにも寄与していきたいなってことで、この4つのテーマを大事に活動しています」
ソーラーシェアリングの師匠
※ソーラーシェアリングは、太陽の光を「発電」と「農業」でシェアするという取り組みですが、このシステムを開発したのは東さんなんですか?
「いえいえ、僕ではなくて、 僕の師匠に当たります、長島彬(ながしま・あきら)先生っていうかたがいらっしゃいます。長島先生は2010年にこのソーラーシェアリングという技術を特許申請しまして、特許を取れたんですね。でも自分がそれを独り占めすることはなくて、誰でも使っていいよってことで公開しています。
全国で3000件以上のソーラーシェアリングがあるんですけれども、もしも長島さんがひとつあたり5万円とかお金を取っていたら、何億円も儲かっちゃっていたんですね。長島さんは全ては世界中の子供たちのためにっていうコンセプトを持っているので、自分が儲けるよりも、みんなが真似してくれて、どんどん広まってほしいっていう、そういう人徳者のかたなんですね」
●長島さんとの出会いは?
「最初にお伝えした、自分もこれから自然エネルギーを広めたいなと思った時に、山を壊すような太陽光発電はやりたくなかったので、ちょっと悶々としているところに、畑の上の太陽光発電っていうのがあるよって知り合いから教えてもらいました。
最初は自分もずっと有機農業の流通の仕事をしていたので、畑の上で太陽光発電をやるのは、けしからんなって感じで、ちょっと文句でも言いに行こうかなと思って(長島さんのところへ)行ったんです。行ってみたら、僕も全国の色んな畑を周るお仕事だったので、そこの野菜たちがすごくたおやかというか、僕たちは幸せだよみたいな、すごくふわふわっとした、いい雰囲気の中で作物が育っていたんですね。
この技術は研究してみる価値があるなっていうことで、長島先生に色んなことを教えてもらいながら、実際に自分でそこで堆肥も作って、色んなお野菜を育ててみたんですね。どれもすごく元気に育つものですから、これはもう自分の仕事として全国に広めていきたいな、そう思ったのがきっかけです」
パネルの下でもすくすく育つ
※先ほど、細長いソーラーパネルを使っているというお話でしたが、東さん、細長いパネルを使うメリットってなんでしょうか?
「できるだけ、自然の木漏れ日に近いような状態にしたいなと思っています。自然の中では、野菜たちって背が低いので、果樹も背が低くて、ちょっと大きい木が側にあると、その枝の隙間から来る、そこはかとない木漏れ日で、みんな元気に育っています。それに近い状態を作ってあげたいなっていうことです。
大きいパネルを使っちゃうと、雨だれという雨の雫がすごくたくさん下に落っこっちゃって、その下の野菜の育ちが悪くなっちゃうんですね。(パネルが)細いと雨だれの量が大したことないので、作物にとってとても優しいっていうことですね」
●だから、ソーラーパネルの下の畑でもすくすくと育っていくわけですね。ちなみにどんな作物を育てているんですか?
「現在は大豆と麦を育てています。今まで50種類以上の野菜を育ててみて、どれも元気に育つんですけども、私たちのところは土地がとても痩せているので、まず大豆を育てて空気中の窒素を固定化する。
そして麦を育てると、麦はすごく根っこが深く延びるので土の中に空気が入っていく。空気が入っていくと微生物もよく育つ。麦と大豆を輪作していくと土がだんだんよくなるので、有機農業ではよくやる手法なんですね」
●耕作放棄地は農家さんから借りているんですか?
「そうですね。借りる場合が多くて、あとは買っちゃったりもして、そこを有機JASということで、全部オーガニックにしてやっています。僕たちは太陽光パネルでCO2が出るのを減らしたいってことと、その下で植物が育つので、光合成によっても空気中の炭素を固定化していこうというのがひとつあります。
有機栽培をやると土の中の炭素がどんどん増えていくし、化学肥料とか農薬はすごく化石燃料を使って作るものなので、それを使わないと、よりエコだっていうことで、トラクターもBDFっていうバイオディーゼルの燃料を使っていたりします」
●農家さんたちの反応はいかがでした?
「わりと僕たちの農業をやってくれている仲間たちは若くて、もともと有機栽培をやっている人たちなんですね。そういう農家さんは知的好奇心が高いので、やっぱり気持ちよく、農業をただお仕事でやるんじゃなくて、それが自分たちの仕事だとプライドが持てて、社会に自分たちの農業が貢献しているんだっていう意識があると思います。
だからその上で自然エネルギーを生み出すってことは、すごくポジティブに捉えてくれているし、今パタゴニアさんとかと協力してやっている不耕起栽培の実験にも、すごく積極的に自分ごととして参加してくれているんですよね」
●そのパタゴニアさんとのコラボってどんなものなんですか?
「色々やっているんですけど、そのうちの大きいプロジェクトが、耕さないで農業をやってみること。今アメリカとかヨーロッパでどんどん盛んになってきているんですね。
さっき言った有機栽培に加えて耕さないと、土の中の”団粒構造”っていう、微生物たちがネバネバした液体みたいなのを出して、土がポップコーンみたいに粒々コロコロになっていくんですね。そうすると他の微生物がもっと育つようになってきて、どんどん微生物の死骸が溜まったりして、土の中の炭素量が増えていくんです。
僕たちの活動はその太陽光パネルでCO2が出る量を減らしていて、その下で作物を育てて光合成によって炭素を固定しているんですけれども、耕さない農業をやると土の中にさらに炭素が入っていくので、そういったことをパタゴニアさんと協力して、今実行しているところなんですね」
(編集部注:東さんによれば、千葉県匝瑳市では農地の4分の1ほどが耕作放棄地になっているそうです。そこを再生させる意味でもソーラーシェアリングに可能性を感じます)
都市部でもソーラーシェアリング
※ソーラーシェアリングの課題はありますか?
「今、うちのエリアではすごく成功しているんですけれども、まだ社会的に、例えば農家さんの高齢化が進んでいたりとか(農業)従事者人数が減っていたりとか、耕作放棄地が増えているっていうことがあります。
農業の面からもソーラーシェアリングは期待されているし、世界的にはRE100(*)だったりとかで、自然エネルギーをもっと増やしてほしいっていうニーズがあるんですね。ニーズがあるにもかかわらず、爆発的に広まっていません。
これはひとつは、20年間は最低やらなければいけないので、20年農業をやってくれる農家さんを探すのが大変だったりとか、先ほど最初にお伝えした通り、(太陽光パネルが)高いところにあったり、細長いちょっと特殊なパネルを使うので、コストがまだ高い。このふたつを解決していくのが今いちばん大きな課題になっています」
●ソーラーパネルのメンテナンスは結構大変なものなんですか?
「意外と簡単です。汚れにしても、だいたい30度くらいの角度がついているので、例えば、鳥の糞とかカラスの糞がついちゃっても、ちょっとしっかりした雨が降れば、すぐ綺麗に落ちたりとか・・・。
あとは、仕組みとしては意外とシンプルなので、メンテナンスは意外と簡単です。特に僕たちの場合はその下で農業をやっているので、定期的に人が入ります。山奥のメガソーラーと違って、週に1回ぐらいは誰かがちょっと見たりとかしているので、ケーブルがたれちゃっているねって言えば、ささっと直せますね」
●そうなんですね〜。じゃあ扱いやすいですね。
「そうですね。自然エネルギーの中では、素人でもメンテナンスしやすい技術だと思います」
●ソーラーシェアリングを都市部でも展開しようとされていますけれども、都会となると、使う土地って畑ではないですよね?
「色々考えられるんですけど、いちばん簡単なのは公園かなって思ってますね。ちょっとパーゴラみたい、藤棚みたいな感じで、木陰代わりにソーラーシェアリングになっていて、そこから例えば、外灯とか色々電気をとっておいて、災害時にはみんながそこでスマートフォンを充電出来るような空間にしたりとか。それとあと大きなビルの屋上もすごく狙っています」
●いいですね!
「ふたつのことを考えていて、屋上緑化されているビルについては、そのまま畑と同じようなソーラーシェアリングをやって、あとはビルの上ってGoogleアースとかで見ていただけるとよく分かるんですけれども、結構クーラーの室外機とかでデコボコなっているんですね。
ソーラーシェアリングの場合だと逆に脚があるので、室外機とかをオーバーハング、上に跨いでいくような形で設置ができますね。TOKYO OASISってうブランドで、そういうことも考えています。
クーラーの室外機って本体が35度以上になると、すごく消費電力が上がっちゃうんですけど、ソーラーシェアリングで日陰にするとすごく消費電力も下がるので、二重にお得かな! そんなことも考えています」
(*編集部注:東さんのお話にあった「RE(アールイー) 100」とは、「RENEWABLE ENERGY(リニューアブル・エナジー) 100%」の略で、事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的な取り組みのこと。国内外の超有名企業が数多く参加しています)
災害時に電気を供給
※2019年に千葉県でも大きな台風被害があって、停電が長引いたことがありました。その時に「市民エネルギーちば」では充電のためのステーションを開設したそうですね。どんな試みだったんですか?
「私たちのエリアでもやっぱり2週間くらい停電がずっと続いて、僕自身も初めて被災者っていう立場になって、メンタル的にすごく削られていくっていうのがよく分かったんですね。
自分たちに出来ることはないかなっていうことで、とりあえずメンバーが各自、自分たちの発電所に行ってパワーコンディショナーっていう機械を開けて、そこから100ボルトの電気がそれなりに取れたので、それを地元のかたたちに10日間くらい解放しました。
そこに炊飯器を持って来れば、そこでお米も炊けるし、EVカー持って来れば、充電もできるってことを数設備分やったんです。それですごく地元のかたの信頼が上がったっていうか、電気はただエネルギーってことじゃなくて、人と人が繋がる、コミュニケーションになるんだなっていうのが分かりました。
そのあと、匝瑳市と連携して、今度は全部の設備から電気が取れるように協定を結んだところなんですね」
●それはどういった協定なんですか?
「僕ら(のメンバー)は数人しかいないので、設備が20個あっても全部使えないから、匝瑳市の地元のかたに講習会を開いて、カギを預けておいて、もし停電になったら、みんな自分の係の発電所を開けて電気を取り出せますよ。匝瑳市の人だったら誰でも電気をタダで貰えますよっていう協定書を、覚書を作ったんですね。
現在はそれがさらに発展して、ENEOSさんと共同申請をして”マイクログリッド”という仕組みの調査を昨年実施したところです」
●「地域マイクログリット構築プラン作成事業」!
「そう、難しい言葉! おっしゃる通りです。経産省が主導で、全国でそれに挑戦してみるところありませんか? っていうことで、私たちの地域で応募して採択されて、今調査が終わったところです」
●改めて、このマイクログリッドっていうのは、なんですか?
「普段のこの辺ですと、東京電力さんが大きなグリッド、送電網っていうものを管理していただいているわけですけれども、災害があった時には停電が起きちゃうよと。そういう時に千葉県ですと、睦沢町(むつざわまち)というところで、すでにマイクログリッドが実証されているんですね。そのエリア、決して広くはないんですけども、前々回の台風15号の時も19号の時にも、そこの町だけは停電が起きなかったんですよ。
すごく素敵で、僕らもそれをぜひやってみよう! ってことで、近くの”ふれあいパーク”っていう道の駅のようなところがあるんですが、そこに大きな蓄電池を入れて、普段は溜めておいて、もし停電になったら、ソーラーシェアリングの電気をそこに繋いで、数百件のお宅と、あとは学校とか、そこのエリアだけは停電しないようにってそういう実証実験をやっているところで、今年からいよいよ建設が予定されているところです」
※東さん、最後に「市民エネルギーちば」の代表として、ソーラーシェアリングも含め、伝えたいことがあれば、お願いします。
「本当に大事な時期に生きているなと、お互い思っていて、僕は56歳なんですけど、最近若い人もたちもどんどん訪ねて来てくれています。
自分が普段、環境活動をやっている上で気をつけていることが3つあって、ひとつはさっき言ったような、Googleアースから見た視点、距離的に高いところから見て俯瞰してものを見る。
それと環境問題って自分が今いいことだなって思っていても、人間が考えることなので、間違えちゃうことも多いから、時間軸を何十年とか何百年とか、時間も俯瞰して見るっていうこと。
ソーラーシェアリングは、空中では太陽光発電をやって地面では農業をやろうってことで、階層、レイヤーを俯瞰して見る。色んな組み合わせ、車はもともと人が移動したりとか、物を運ぶための道具なんですけど、それを今度はエネルギーを運ぶっていう異なるレイヤーのことを、再度ハイブリッドに組み合わせてみると、色んな可能性がある。だから距離的な俯瞰、時間的な俯瞰、レイヤーの俯瞰をしていくと。
これから大変な時代だって、ついみんな思いがちで、僕もそういう時あるんですけど、無限に解決していく可能性があると思っています。それはエコロジーに従事していくと、すごく自分の世界観を広げながらやっていけることだと思うので、そういうことを来ていただいた若い人には、今お伝えするようにしています」
INFORMATION
太陽の光を「発電」と「農業」でシェアするソーラーシェアリングは、クリーンなエネルギーを得られること、作物の収穫、そして耕作放棄地の再生、さらにエネルギーの自給自足は災害時の備えにもなる素晴らしい事業です。ぜひ「市民エネルギーちば」の活動にご注目ください。
「市民エネルギーちば」について、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎市民エネルギーちば HP:https://www.energy-chiba.com