2022/4/10 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、静岡大学大学院の教授で植物学者の「稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)」さんです。
稲垣さんは1968年、静岡県生まれ。岡山大学大学院から農林水産省、そして静岡県農林技術研究所などを経て、現在は、植物学者として活躍されています。
そんな稲垣さんの新しい本が『花と草の物語手帳〜105の花言葉とエピソード』。この本には「野で見かける草花」「植栽で見かける木・花」そして「お店で見かける花」の3つの章があり、身近な花にまつわる、ほっこりするようなエピソードを、とても綺麗なイラストとともに紹介しています。その中からいくつか稲垣さんに解説していただきましょう。
☆イラストレーション:miltata(小林達也)
タンポポは体操する!?
※まずは「野で見かける草花」の章から、タンポポ。タンポポは体操すると書かれていますが、これはどういうことなんですか?
「もしかすると植物って動かないっていうイメージがあるかもしれないんですけど、意外と動いているんですよね。時期によって動いたりとか、あるいは昼と夜で結構、葉っぱの位置が違ったりとかよくあるんですけど、タンポポは体操をするというふうに言われています。
何かと言いますと、タンポポって花が咲く時は上のほうに茎を伸ばして咲いていますよね。で、花が咲き終わったあと、茎が一回地べたに寝転ぶんですね。そんな動きをするんですけども、そのあと花が咲き終わるとタネができますよね。タネができると、綿毛が付いていますので飛ばすんですけど、タンポポは綿毛を飛ばすためにもう一度茎が立ち上がるんですね。
その時には、花が咲いていた時よりもさらに茎を伸ばして、高いところで綿毛を飛ばそうとします。だから一回立ち上がって咲いていたやつが横に寝そべって、それからもう一回立ち上がるっていうことが見られるんですね。そういう動きが体操していると表現されています」
●なるほど〜!
「その辺でタンポポをよく見ると、ひとつのタンポポの中でも、咲いているやつは立ち上がっていたりとか、咲き終わったやつが寝転んでいるとか。それから綿毛を飛ばしていたり、そういう様子も見ることができますので、ぜひタンポポを見てもらえるといいかなって思います」
●続いて、シロツメクサですけれども、四つ葉のクローバーは幸運のシンボルと言われていますよね。で、四つ葉はよく踏まれるところにあると、本に書かれていましたけれども・・・。
「そうですね。小尾さんは四つ葉のクローバーを探したりしたことは?」
●はい、小さい頃よく見つけに行きました!
「探しますよね。これ、見つけやすいところがあると言われています。それがどういうところかというと、人がよく通って踏まれているような場所とか、あるいは車が通ったりするような、タイヤに踏まれているような場所で、四つ葉のクローバーは見つかりやすいって言われているんですね」
●逆に踏まれていないところにあるのかと思っていました(笑)。
「そうですよね。踏まれていないところのほうがシロツメクサが元気なような、踏まれているところは、踏まれるのに耐えながら生えているっていう感じなんですけど、実は踏まれるところで見つかりやすいと言われています。
どうしてかというと、葉っぱのもとになる”原基”っていうところがあるんですけども、そこが踏まれることによって傷付いてしまうんですね。傷付くことによって、ひとつだったところがふたつに分かれたりするようになるんですね。もともとシロツメクサは三つ葉なんですけど、そうやってふたつに分かれることによって、四つ葉になると言われています。
シロツメクサの四つ葉が発生する原因はいくつかあるんですけども、そのうちのひとつは、そういうふうに葉っぱのもとになるところが傷付くことによって、四つ葉になります。ですから、人がよく通るところ、あるいは車が通るようなところで四つ葉が生まれやすいって言われていますね」
●そういうことで四つ葉が生まれてくるんですね。
「四つ葉のクローバーは幸運のシンボルと言われていますけど、幸せっていうのは踏まれて育つというか、踏まれながら幸せは、もしかしたら育っていくのかもしれないっていうのを、クローバーは教えてくれているのかもしれないですね」
(編集部より:日本でいちばん長い植物の名前を知っていますか? その名前は「リュウグウノ オトヒメノ モトユイノ キリハズシ」。これは浅い海に生えるアマモの別名なんです。どうしてこういう別名になったのか、少し説明しておくと・・・「龍宮の乙姫」はわかりますよね。「元結(もとゆい)」とは髪を束ねる紐(ひも)のことで、乙姫さまの髪を結っていた紐が流れてきて、アマモになったという伝説からそう呼ばれるようになったとか。
ちなみに、いちばん短い植物の名前は「イ」。この一文字だとわかりづらいので、一般的には「イグサ」と呼ばれています。また、樹木では「エ」という名前がありますが、これだけだと不便なので「エノキ」と呼ぶようになったそうですよ)
アヤメ、カキツバタ、ハナショウブの見分け方
※続いて「植栽で見かける木・花」の章からお話をうかがいましょう。これから初夏にかけて見られる「アヤメ」、この「アヤメ」と「カキツバタ」そして「ハナショウブ」はよく似ていますよね。何か見分けるポイントはありますか?
「”いずれアヤメかカキツバタ“みたいな言葉もあるくらい、よく似ているものなんですけど、もともとは違う植物っていうか、生えている場所が違うんですね」
●生息地が違うんですね?
「カキツバタは水が溜まるところに生えているんですけど、ハナショウブは水が溜まるところよりは、少し湿った湿原のようなところに生えます。アヤメはむしろ水はけのいい場所、草原なんかに生えているのがアヤメなので、もともと生えている場所は全然違うんですよね。
菖蒲園なんかでは水が入っているほうが涼しげに見えるので、カキツバタもハナショウブもアヤメも、水を溜めたところに植えられているのが多いんですけど、もともと野生の生息地は違うんですね。
色んな品種がありますので、なかなか見分け方が難しいところではあるんですけども、下の花びらに注目をしてもらうと分かりやすいかなって思います。下の花びらに少し模様があるんですね。
何かというと、花は昆虫を呼び寄せるために咲きますよね。なので(花には)昆虫にここに蜜がありますよっていう目印があります。ネクターガイドって言うんですけど、虫たちへの看板っていうか合図ですね。そのネクターガイドの色が少し違うんですね。
カキツバタの場合は花びらの模様が白、ハナショウブは黄色、色が違いますね。それからアヤメの場合は網目のような模様になっていますので、下の花びらに注目してもらうと、カキツバタとハナショウブとアヤメを見分けやすいかなって思います」
赤いスイートピーは歌が先!?
※自然界には黄色や白い花が多いような気がしますが、どうしてなんですか?
「黄色とか白い花って多いですよね。特に春は黄色いタンポポとか菜の花とか、黄色が多いかなっていうイメージがありますけれども、植物の花の色には必ず意味があります。花は昆虫を呼び寄せるためのものですよね。で、黄色に好んで来る虫がいて、それがアブの仲間なんですね。花にやってくるアブの仲間なんですけど、それはすごく黄色を好んでいます。
これはどっちが先か分からなくて、黄色い花が多いからアブが黄色を好むようになったのか、アブがもともと黄色が好きだから、植物が黄色になったのかは分からないんですけど、とにかく黄色い花にアブがやってきやすいっていう特徴があります。
春は結構、気温が低い時がありますよね。本当はハチが花粉を運んでくれるのがいちばんいいんですけど、ハチはもう少し暖かくなってこないと、なかなか活動ができないですよね。
アブはすごく気温が低くても活動ができるので、春になってきたかなと思って、最初に活動を始めるのはアブですね。なので、アブが活動している春に黄色い花が多いっていう意味もあります。それから黄色い色素は、実は色んな役割を持っていたりするので、植物にとって使いやすいですね。
それから白。白の植物は実は色素がないんですよ。白い色素っていうのがないので、白い花は色素を全く持っていない。そうすると透明になっちゃうんじゃないのって思うかもしれないですけど、光は乱反射をするんですよね。牛乳なんかが白いのと同じ原理なんですけど、光が反射すると白く見えるので、色素が全くないと花は白くなるんです。
色素がない白が目立つのってどういう時かなっていうと、夏になってきてすごく緑が深くなってくると、白は目立ちやすいですよね、暗いところで。だからこれからだんだん夏になってきて緑が濃くなっていくと、白い花が増えてくるという特徴があります」
●色でいうと、「お店で見かける花」の章で「赤いスイートピーは歌が先」と書かれていました。「赤いスイートピー」ってあの松田聖子さんの歌ですよね?
「そうですね。『赤いスイートピー』っていう歌が昔、流行ったんですけども、実際には赤いスイートピーはなかったんですね。歌は赤いスイートピーというイメージで作られたと思うんですけれども、植物の花の色というのは黄色とか白とか紫、もちろん自然界では決まっているんです。人間はやっぱり色んな色があったほうが花屋さんなんかが華やかになるので、品種改良して色んな花を作っているんですよね。
スイートピーというのはもともと豆の仲間なんですね。スイートピーのピーは、あのグリーンピースのピーと同じなので、エンドウとは仲間が違うんですけど、同じ豆です。よく花が似ているっていうことで、スイートピーはグリンピースのピーと同じピーが付けられているんですけど、豆の仲間はレンゲソウとかもそうなんですけど、ちょっと紫色みたいなのがもともとの色なんですね。
それは何故かというと、ミツバチの仲間を呼び寄せるための色なんです。なのでスイートピーももともとの野生の色は紫ですね。そこからいろいろ品種改良していったんですけど、赤はなかったんですよ。
だけれども、松田聖子さんの歌があれだけ流行ると、スイートピーと言えば赤! みたいなイメージになりますよね。なので、研究者とか育種をする人が一生懸命、品種改良に品種改良を重ねて、何とか皆さんのイメージに合うような赤い品種を作っていたんですね。だから歌がいちばん最初で、それに合わせて、頑張って品種改良をしていったのがスイートピーですね」
(編集部より:来月5月8日は「母の日」。「母の日」の花といえば、カーネーションが有名ですが、その名前の由来をご存知ですか? 語源は諸説ありますが、ラテン語で「肉」を意味する「カーン」に由来するとも言われています。花の色が肉の色に似ているからだそうですよ。この「カーン」はカーニバル=謝肉祭の語源にもなったとか。
ちなみに、カーネーションはアメリカの花だというジョークもあります。カー・ネーション、つまり「車の国」だと・・・苦笑)
雑草は強くない!?
※稲垣さんは「みちくさ研究家」でもあるそうです。そう名乗るのは、道に生えている草が好きだからですか?
「私、植物の中では雑草というか道に生えている草が一番好きで、よく道草をそれこそ食いながら歩いているっていうのと、それから自分の人生を考えてみると決して真っ直ぐではなくて、あっち行ったりこっち行ったりしながら、歩いてきたなと思って、”みちくさ研究家”を自分で名乗っています」
●雑草ってすごくたくましいなっていうイメージもあるんですけれども、専門家の稲垣さんからみると、雑草ってどんなイメージですか? 強いイメージですか?
「そうですね。これは私が言っていることではなくて、植物学の教科書を見ると、雑草は強くないって書いてあるんですよ。むしろ雑草は弱い植物であると、植物学の教科書に書いてあるんですよ」
●あら! 真逆のイメージでした。
「そうですよね。雑草ってやっぱり強かったり、たくましいイメージがありますよね。それなのに雑草が弱いってどういうことかなって思うと、雑草は実は競争に弱いんですね。植物にとっては、やっぱり光を少しでも高いところまでいって浴びたりする、そういう競争がすごく大事なんですけど、実は雑草は競争には弱いんですね。
では、どうしているかというと、雑草というのはほかの植物が、つまり強い植物が生えることができないような場所に生えているわけです。ほかの強い植物が生えない場所ってどういうところかなっていうと、踏まれる場所とか草取りされる場所。そういうところには、強い大きな植物って生えることができないですよね。そういうところに競争から逃れて、生えているような植物が実は雑草なんですね。
ただし、何が強くて何が弱いのかなっていうことになると思うんですけど、やっぱり私たちの周りで見る雑草は強く見えますよね。で、何に強いかっていうと、雑草は環境の変化に対して強い、変化を乗り越える力がすごく強いと言われています。ですから、強い弱いって言うけど、実際には色んな強さがあったりして、変化を乗り越える強さで成功している植物が雑草っていうことになりますね」
ナンバーワンでオンリーワン
※稲垣さんは、あるインタビュー記事の中で「生物の世界ではナンバーワンにならないと生き残れない」とおっしゃっていました。これはどういうことなのか、教えていただけますか。
「これは本当に、高校の生物の教科書にも載っているようなことなんですけども、実は基本的に自然界はすごく競争が激しいんですよね。弱肉強食っていうか適者生存というか、強い者が生き残り、そして弱い者が滅んでいくっていう激しい生存競争が行なわれているんですね。どれぐらい激しいかというと、勝ったほうが生き残り、負けたほうが滅んでいく、しかもナンバーワンじゃないと生き残れないっていう世界なんですね」
●かなり厳しいですね。
「厳しいです。もう2位じゃだめなんです。2位じゃだめなんですかって言っていた人が昔いましたけれど(笑)、自然界では2位じゃだめなんです。人間の世界だったら2位でも銀メダルとか、十分讃えられるべきことだと思うんですけど、生物の世界では2位じゃだめで、ナンバーワンじゃないと生き残れないですね。すごく厳しいんです。
でも、そうすると世界でたった1個の1種類の生物しか生き残れないってことになりますよね。だけど、私たちの身の周りにはたくさんの生物がいて、たくさんの植物がいますよね。実はすべての生物がナンバーワンなんですね。すべての生物が競争を勝ち抜いたナンバーワン。
これどういうことかっていうと、実はナンバーワンになる方法ってたくさんあるんですよね。例えばこの環境とかこの季節とか、どんな形でもいいから、そこでナンバーワンになることが大事なんですね。
そのナンバーワンになる方法がたくさんあって、すべての生物がナンバーワンを分け合っているんです。分かりますか? つまりナンバーワンになれる場所はオンリーワンなんですね。そのオンリーワンの場所ではナンバーワン、隣の生物はまた別の環境、別の条件でナンバーワンっていう、すべての生物がナンバーワンになっているんですね」
●へぇ〜素晴らしいですね!
「そうやってナンバーワンを分け合うことによって、この多様性と呼ばれる世界が創られているってことになりますね」
●なんか人の生きかたににも通じる感じがしますね。
「そうですね。私たちは限られた条件で、例えば学校の成績が〜とか、売上が〜とか、数字の単純な物差しで順位を付けてしまうんですけど、実はナンバーワンになる方法はいっぱいあって、みんながナンバーワンになれる世界は創れるんだって、生物は教えてくれているのかなって思います」
雑草の生き方
※雑草が大好きだとおっしゃる稲垣さんは、こんな見方もされています。
「雑草はすごいなって思うことがひとつあって、それは雑草ってものすごく変化をするんですけど、変化しないものってあるんですよね。小尾さんは、雑草は踏まれても踏まれても立ち上がる、みたいなことを聞いたことはありますか?」
●はい、雑草魂! みたいな・・・。
「雑草魂! 踏まれても立ち上がるんだ!って、あれ結構、間違いです(笑)」
●そうなんですか!?
「雑草は踏まれるところで見てると、そんなに立ち上がらないんですよね。踏まれているところを見ていただければわかるんですけど・・・。じゃあなんで立ち上がれないのかな、なんか情けないなって思うかもしれないんですけど、そうじゃなくて、雑草にとっていちばん大事なことってなんですか? 雑草、植物にとっていちばん大事なことは、花を咲かせてタネを残すことじゃないですか。だから、踏まれても踏まれても立ち上がるって、結構ムダな努力なんですよね」
●確かにそうですね。
「それよりも、踏まれながらどうやって花を咲かせようか、踏まれながらどうやってタネを残そうかって考えるほうが正しいじゃないですか。なので、雑草は踏まれるところでは立ち上がる努力はしないで、踏まれながら花を咲かせることに力を注ぐんですよ。
雑草はすごく変化をするって言ったんですけど、実はタネを残すことが最優先っていうところは、絶対ぶれないっていうか、どんな雑草もそこは絶対大事にしている、最大限の力でタネを残すんですよね。
大切なことは見失わないっていうのは、実は雑草の生き方で、そういう雑草の生き方をみるとすごく楽しいなっていうふうに思いますね」
●春本番を迎えて、色んなお花が咲いてきていますけれども、こんな視点で花や植物を見るといいよ、面白いよっていうヒントがあれば教えてください。
「意外と身近なところに植物ってあると思いますので、身近な植物を探してほしいなって思います。東京とか大阪とか都会に住んでいるので、周りに緑はないです、雑草はないですっていうかたがいらっしゃるんですけど、よく探してみると必ず雑草があったり、植物が花を咲かせたりしますので、そういう自然が少ないところこそ、例えば自然の花を探してみると面白いなって思います。
お勧めなのが定点観測っていうんですけど、同じ場所を見るってことですね。例えば会社に行く通勤路の途中でもいいし、スーパーに買い物に行く途中でもいいんですけど、ここに花が咲いているな〜とか、ここに雑草が生えているな〜って見つけたら、同じ場所をずっと見ていくっていうのがお勧めですね。
そうすると季節によって変化していったりとか、あるいは同じ春でも、今年の春と来年の春では実は様子が変わっていくんですよね。それは、同じ場所をずっと見ているとすごく分かることなので、どっかお気に入りの場所を決めて、そこの植物を観察していくと面白いんじゃないかなと思います」
INFORMATION
この本には「野で見かける草花」「植栽で見かける木・花」そして「お店で見かける花」の3つの章があります。きょうご紹介できたのはほんの少しで、誰かに話したくなる花にまつわるエピソードが満載ですよ! とても綺麗なイラストを見ているだけでも心が和むと思います。ぜひご覧ください。大和書房から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎大和書房 HP:https://www.daiwashobo.co.jp/book/b597161.html