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ソロ秘湯、お湯も絶景も独り占め!~秘湯探検家の悦楽

2022/6/12 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、秘湯探検家の「渡辺裕美(わたなべ・ゆみ)」さんです。

 渡辺さんは奈良県出身。会社勤めをしていた15年ほど前、仕事のストレスで心身のバランスを崩したときに、バックパックを背負い、東北の温泉を巡り、自然と触れ合ったことで、とても癒されたそうです。そしてすっかり秘湯にハマり、これまでに国内外を含め、およそ2500カ所以上の温泉を制覇。温泉ソムリエの資格も取得し、現在は秘湯の旅番組などで活躍されています。

 そして先頃、アウトドア雑誌のネット版に連載していた温泉レポをまとめた本『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』を出されました。

 きょうはそんな渡辺さんをお迎えし、標高1400メートルの絶景温泉や、山に分け入り、やっとたどりつく、神々しい滝の温泉など、秘湯の話題満載でお届けします。

☆写真協力:渡辺裕美

渡辺裕美さん

サバイバル感も楽しめる「野湯」

※「秘湯探検家」という肩書は探検するかのように秘湯を追い求める渡辺さんの活動にぴったりだと思ったんですが、ひとりで行くのは何か理由があるんでしょうか。

「そうですね。やっぱりあんまり大勢で行くと、結局普通のお風呂と同じになっちゃうじゃないですか。やっぱりひとりで行く醍醐味は、自然をまさに独り占めできること。鳥の声、川のせせらぎ、あと自然に湧き出ている温泉そのものだったり・・・それを自分ひとりで満喫できるのは、多分ソロで行く以外できないですよね。

 そういう独り占め感と、あと道中なんですね。割と地図がない秘湯に行くことが多いので、何人かで行くとどうしても、おおよその場所が分かっていたり、ヒントを与えられてしまうんだけど、ひとりで行くとサバイバル感っていうか自分でその場所を探し当てるみたいな、そこがすごく楽しいところです」

●この本には、バックパックを背負って秘湯まで山の中を歩いたりっていう写真も載っていましたけど、怖くないですか?

「めっちゃ怖いですね。怖がりなので、人一倍、クマ除けスプレーだったり鈴だったり、例えば川が出てきたら、こう渡ろうとか、川の渡渉のスパッツを一応持って行ったりとかします。自然って何が起こるか分からないので、やりすぎるぐらいの準備をして挑むというのはあると思います。

 正直、いちばん怖いのは人間なんですよ。クマさんよりも動物よりもやっぱり人間がいちばん怖いですね。でも自然の中に入ってしまうと、それほど(自然が)怖いっていう感じはあんまりないですね」

●日本には秘湯と言われる場所は、どれぐらいあるんですか? 

「秘湯と言うと、割と宿も含んじゃうんで多くなるんですけど、野湯(のゆ)っていう山の中にポツンと湧いている、海岸にポツンと湧いている、そういう自然の温泉は300箇所以上あると思います」

●その中で何箇所ぐらいの秘湯を制覇されたんですか? 

「200箇所は超えていると思いますね」

●すごいですね〜! 先ほども野湯のお話がありましたけど、秘湯と一口に言ってもいろいろあると思うんですが、いくつかタイプに分かれているっていうことなんですか? 

「そうですね。秘湯って言っちゃうと割と広義な意味になって、秘湯の宿とか、宿も含んじゃうんですけど、野湯はその秘湯ジャンルの中でも、もっとニッチなところにあって、いわゆる未管理の、人間の手が加えられていない温泉です。
 山の中とか川にポツンと湧いているような、営業とかもしてないし、ただ湧き出ている、そういう温泉を野湯って言うんです」

湯船の中でご来光!

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

※新刊『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』には66カ所の秘湯が掲載されています。その中から気になった温泉をうかがっていきます。まずは、表紙になっている、この写真の温泉はどこなんですか?

「これは岩手県の八幡平市にある、本当に八幡平の山頂付近にあるポツンと一軒宿なんですけど、”藤七温泉(とうしちおんせん) 彩雲荘(さいうんそう)”さんって言います。

 なんで表紙になったかというと、綺麗なのもあるんですけど、私がすごく感動した、秘湯巡りを始めた初期に、初めて東北の温泉を周った時、この藤七温泉 彩雲荘さんに泊まって、あまりにも素晴らしい温泉でびっくりしたので、そういう印象的な思い出の温泉です」

写真協力:渡辺裕美

●どう素晴らしいんですか? 

「ほかの温泉と何が違うかっていうと、国立公園の中にいくつもの露天風呂がぽこぽこっていっぱいあるんですよ。それはもう本当に自然の中にただただ湧き出ている、まあ人工的に作ってはあるんですけど、でも本当に見た目は自然の中に湧き出ている、さっき言った野湯に近い形で、温泉も底からプクプクと気泡となって湧き出てくるんですね。

 まさに自然のジャグジーみたいな感じで、気泡が背中にポロロンって湧き出た時に付くんですけど、あ、今湧き出た! みたいなのがすごく分かるし、音もぽこぽこっと鳴るんですよ。

 これってもう究極の幸せで、温泉って本当に生まれたて、湧きたてがいちばん鮮度抜群なんで、その鮮度と自然の神秘を体感できるのが彩雲荘さんのすごいところです。
 あと泥パックとかもできるんですよ。下に泥が溜まっているので、女性のかたはすごく必見というか、顔に塗りたくっているかたもいらっしゃいますね」

写真協力:渡辺裕美

●写真を見ると、お湯が確かに白っぽいですけれども、これは泥なんですね。

「そうですね。ちょっとだけ茶色いっていうか薄いミルキーグレーみたいな色で、これがまさに泥と温泉が混ざった状態なんですよ」

●標高もかなり高い場所にあるっていうことですよね? 

「標高は1400メートルぐらいですね」

●自然のジャグジー、いいですね! 

「そうなんですよ。一回、小尾さんも泊まっていただきたいですけど、この温泉、すごいのが次の日、朝5時ぐらいに岩手山の方向を見るとご来光が出るんですよ。周りがオレンジ色に包まれて、そこにちょこんと露天風呂があるんですけど、その湯船の中でご来光を浴びる、これ最高です。
 とにかく朝昼晩、自然の神秘に触れられるっていうのが彩雲荘さんのすごいところかなと思いました」

(編集部注:渡辺さんが野湯に出会ったのも、温泉巡りを始めた15年ほど前、東北の温泉を巡っていた時だったそうです)

神々しい滝の秘湯

※本に載っている秘湯のお話を続けましょう。栃木県の那須方面にある幻といわれる滝の秘湯、これにも驚きました。これはどんな場所にあるんですか?

写真協力:渡辺裕美

「栃木県の那須郡にある「両部(りょうぶ)の滝」ですね。那須の茶臼岳の八合目付近に潜んでいる温泉の滝なんですよ。実はこれ全然知らなくて、情報を誰かから聞いたんです。こういうのがあるよ、みたいなのを・・・。

 ただ地元の人も誰も知らないし、ガイドブックでも一切紹介されていなくて、地元の観光協会や山岳クラブみたいなところに電話したんですけど、いや知らない!の一辺倒。知っていたとしても、そこはもう言えません! みたいな感じで、すごく隠している、じゃないですけど、ほとんど知られていないのが8割で、一部は知っているけど、知らんふりみたいな感じでした。

 いろんな情報を一生懸命探して、行ってみたんですよ。温泉の滝なんですけど、すごいのが温泉の滝にもうひとつ向かい合うように普通の沢水の滝があって、ふたつの滝が向かい合って落ちているんです。本当に神々しい、絶景を超えて神々しい雰囲気が漂っている場所なんですね。

 温泉は100メートルくらい上流の岩場から湧き出ているんですけれども、滝に行き着くまでに、(温度が)40度くらいから30度弱くらいになるんですね。それでも外気温が結構冷たい時は、あたりに湯気がふわぁ〜っと舞って、本当に神々しいの一言ですね」

写真協力:渡辺裕美

●ネットとか雑誌にも載っていないような場所なんですね。すごい! まさにパワースポットですね!

「そうなんですよ。本当にパワースポットでした!」

●知る人ぞ知るというか・・・。

「そうなんですよ。いろいろ歴史を調べていくと、もともと100メートル上流の源泉湧出地が、江戸時代からずっと山岳信仰の御神体みたいになっていたところで、結構、信仰者たちがそこをお参りするのがひとつの流れだったようです。それぐらい温泉と信仰が結びついていることにも、神秘的というかストーリーを感じました」

●そうですね〜。

「これはすごい滝でした。この滝は正直(温度が)30度もないので、温かいっていうわけではないんですけど、見るだけでも、さっきおっしゃったパワーをもらえるような、そういう場所ですね」

※続いて、私が特に気になった温泉が岩手県にある「国見(くにみ)温泉」、お湯がグリーンなんですよね?

「そうなんですよ。あそこは私も藤七温泉の次の日に行ったんですけど、本当に入浴剤みたいな色でびっくりしました! 

 面白いのが、すごくきつい炭みたいな、墨汁みたいな、よくアブラ臭とかって表現されるんですけど、独特な匂いもするんですよ。すごく成分が濃い温泉で、不思議な墨汁みたいな匂いがして、入ったら、服を着替えてもTシャツにずっと匂いが付いて、帰る新幹線まで匂っているみたいな感じです。

 色も強烈、匂いも強烈な国見温泉はぜひ温泉、秘湯巡りを始めたいっていう人にまず足を運んでいただきたい場所です。岩手県の雫石っていうところにあります。一軒宿です」

写真協力:渡辺裕美

ルールとマナーを守って楽しむ

※秘湯に行くときに心がけていることはありますか?

「野湯は調べていくと、結局あんまり責任者がいないんですよ。個人の敷地にあったら、その人のものだったりするんですけど、例えば国有林の中にあるような野湯は、森林管理者さんが森林を保全するために管理しているだけで、野湯は特に管理もされていないし、入浴を認めてくれているかっていうと、そうでもなかったりします。

 その中でマナーが悪かったり、ちょっとした事故が起こったりすると閉鎖されたりとか、いろいろそういう事象があって・・・私たち野湯愛好家は、その土地にある自然公園法だとか、そういうルールを守って、環境保全に配慮しながら温泉を楽しまないと、いつかなくなっちゃうかもしれないような温泉なんですよ。

 街のスーパー銭湯とかだったら、廃業しないかぎりは絶対に維持されていくじゃないですか。そこがすごく違うところですね。
 結構、幻の野湯ってあるんですよ。あの時、何十年前はあったよね! みたいな。だから本当に個人のマナーとルールに任されているっていうか・・・なので、できるだけ温泉に着いたら、温泉そのものを楽しむけど、余計な手は加えない。人工物を置いたり、形を大きく変えたりとかしないで、そのままありがたく自然の恵みを楽しむ、みたいなことを私は結構心がけています」

ワクワク探検! サバイバル感!

※ネットで検索しても出てこないような秘湯の情報は、どうやって調べているんですか?

「結構難しいですね。例えばですけど、国土地理院の地図、温泉マークってあるんですよ。全然知らなかった温泉が湧出してたりとか。ぼこぼこって出てるんですけど、噴気のマークとかってあるんですよ。そういうところをたどったら、実は新しい野湯が出てましたとか。あと地元の林業関係者のおじさんにめっちゃ聞いたりします。

 山を知っている人って、意外にそういう温泉も知っていたりするので、この辺にこういうのありますか? とか聞いたり、聞き込み調査! あとGoogleの航空写真! 上から見て、山肌に白いのが付着しているのが見えたりするんですよ。そういうところは、ピンを付けておいて、どういうふうにアプローチしたらいいのかを見て行ったりします」

●まさに探検ですね! ワクワクしますね〜。

「そう、むちゃくちゃワクワクしますね!(笑)。温泉にたどり着くよりもそこがメインになってきていて、去年も北海道なんですけど、往復11時間かけて、温泉は20分もなかったかな。 浸かったといっても本当に寝転がっただけで、冷たい20度の温泉が岩盤を這うように流れているだけのところなんですけど、そのためだけに往復11時間歩いて(笑)、それぐらい自然と一体化できる道中に、また最高のものがありますね! 癒されるというか」

●改めて、ソロで行く秘湯の魅力とはなんでしょうか?

「そうですね。やっぱりふたつ! 自然との一体化、サバイバル感、道中ですよね! あと温泉の独り占め感! このふたつに尽きると思います。
 日本にはいろんな素晴らしい秘湯があって、実はガイドブックにも出ていない、実は地元の人も知らない、みたいなところが結構あるんですよ、探していくと。そういう自然の素晴らしさがやっぱり野湯にはあると思うので、これからも行きたいなと思っています」

写真協力:渡辺裕美

INFORMATION

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

『絶景温泉ひとり旅〜そろそろソロ秘湯』

 渡辺さんの新しい本をぜひお買い求めください。これまでに訪れた温泉の中から厳選した66ヶ所の秘湯を掲載。中にはここが温泉!?と、目を疑うような写真に驚きますよ。写真がたくさん載っているので、見ているだけでも楽しい! そしてお話の中にもありましたが、野湯を楽しむときのルールやマナー、注意事項についてもしっかり掲載されています。小学館から絶賛発売中です。

◎小学館HP:https://www.shogakukan.co.jp/books/09311507

◎渡辺裕美さんのブログ:http://shifukuonsen.blog94.fc2.com/

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