2022/6/26 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、科学ジャーナリストの「柴田佳秀(しばた・よしひで)」さんです。
柴田さんは1965年、東京生まれ。東京農業大学卒業後、テレビ・ディレクターとして、「生きもの地球紀行」や「地球!ふしぎ大自然」などの自然番組を数多く制作。2005年からフリーランスになり、本の執筆、監修、そして講演など、幅広く活動されています。
都市に棲む鳥の観察や研究もされている柴田さんには、3年前にもこの番組に来ていただいて、ベイエフエムのすぐ近くにある公園でバードウォッチングの手ほどきを受けました。
そんな柴田さんの新しい本が『となりのハト〜身近な生きものの知られざる世界』。ハトに関するびっくりするような豆知識がたくさんつまっていて、話題になっています。
きょうはハトの未知の世界にご案内します。
☆写真協力:柴田佳秀
ドバトというハトはいない!?
※ハトは街中や公園など、どこにでもいるように思うんですけど、それだけよく見かけるというのは、たくさんいるということですか?
「そうですね。街の中に、人のそばにいる鳥なので・・・人が活動するところにいるので、よく出会うという感じですかね」
●街中でよく見かけるのは、いわゆるドバトですよね?
「そうです。ドバトと言われているハトですね」
●ドバトという種類ではないんですよね?
「そうですね。よくドバト、ドバトというんですけど、ドバトという名前の鳥はいないんです。正しくは、カワラバトという名前で、それを昔人間が利用するのに家禽化(かきんか)したんですね。それをドバトというんです。だからニワトリやアヒルとかと同じです。
ニワトリという鳥はいないんですね。あれは野生のセキショクヤケイという名前の鳥を、人間が利用するために改良したのがニワトリ、アヒルはマガモというカモを、人間が利用するのに品種改良したのがアヒル、それと同じようにカワラバトを家禽化したのが、ドバトと呼ばれています」
●人が改良したハトっていうことになるわけですね。
「そうですね。人が利用するのに改良したハトです」
●日本には何種類ぐらいのハトが生息しているんですか?
「身近にいるのはドバトなんですけど、日本には12種類、ハトの記録があります。身近にいるのはドバトと、キジバトいわゆるヤマバトとか言われているやつですね。その2種類が身近に、街の中にいます。
そのほかの10種はそう簡単に出会えないものがほとんどです。実はドバトと言われるカワラバトは、日本の鳥ではないです。外来種です。
もともとカワラバトはどこに棲んでいたかというと、エジプトとか中近東、あとは中国の西部やインドの乾燥地帯にいる鳥なので、それを昔連れてきて、逃げたり放したりしたのが野生化して、今街の中にいるのがドバトなんですね」
●世界にはもっと多くのハトがいるってことですか?
「はい、世界には今351種のハトがいます。ただこれは研究者によって分類の仕方が違うので、数の正確さは前後しますけど、大体350種くらいいると考えてもらっても問題ないと思います」
(編集部注:先ほど「家禽(かきん)」というお話がありましたが、「家禽」とは人間が繁殖させ、飼育している鳥のこと。動物だと「家畜」となります。
通称ドバトが、人が近づいても逃げないのは、もともと人が飼っていたから。人に慣れるように改良された遺伝子のハトだけが残り、それが野生化しただけなので、逃げないということだそうです)
もともとハトは神社の鳥!?
※ドバトは公園や神社、お寺などにたくさんいて、群れているイメージがありますよね。それはハトの習性なんですか?
「そうですね。ドバトの、カワラバトのもともと持っていた習性です。カワラバトというのは、集団で群れで暮らしている鳥なんですね。一方、ヤマバトと言われているキジバトはほとんど群れないです」
●日本にはどちらもいるんですよね。
「どちらもいて、両方とも今、都会では普通にいるんですけど、キジバトのほうはひとりが好きみたいです。あとはペアですね。たまに食べ物がいっぱいあったりすると、ペア同士で集まって来て、群れみたいになるんですけど、それはただ集まっているだけなので、群れとは呼べないですね」
●ハトはハトでもぜんぜん違うんですね。
「神社や公園にいて、よく歩いている奴はドバトですね。それは群れています。なぜ神社にいるかといったら、もともとハトは神社の鳥だったんです」
●えっ!? 神社の鳥というと・・・?
「例えば、もともと八幡様、あの八幡宮のシンボルがハトなんですよ。鶴岡八幡宮に行くとわかるんですけど、鶴岡八幡宮と書いてある看板がありますよね。あれの「八」はハトです。ハトの絵になっていますよね。そして、鶴岡八幡宮ではハトサブレを売っていますよね」
●おおお〜。
「あれは八幡様の鳥がハトだから、そのシンボルとして、ハトサブレを売っているるんです。今(大河ドラマで)やっている鎌倉時代の、源頼朝のあの時代に遡るんですけど、昔はハトが来ると戦いに勝つ! みたいな瑞鳥(ずいちょう)として、八幡宮ではシンボルとされている鳥なので、それでずーっと八幡宮とか、そういうところで可愛がられていたんですね。日本ではそういった神社がいっぱいできて、そこでハトが可愛がられて、神社やお寺中心にハトがいるようになったんです」
●そういう歴史があったんですね!
「そうですね。その辺は話すとすごく長くなるので、一冊本が書けちゃうくらいなんですけど(苦笑)」
●いや〜、奥深いですね、ハトって!
ハトの特殊な能力
※ハト胸という言葉がありますが、胸の部分が盛り上がって見えるのは、どうしてなんですか?
「あれは、実は筋肉がついているんです」
●あれは筋肉なんですね。
「そうです。いわゆる胸肉と言っている、あの筋肉は何をする筋肉かというと、翼を動かすための筋肉なんです。あれだけ大きな筋肉がついているってどういうことかといったら、力強く羽ばたくことができるので、ハトはすごいスピードで飛ぶことができます」
●確かにそうですね。
「スピードも出せるし、さらに距離も長く飛ぶことができます。もともとハトの習性として、お家みたいな、寝るための巣を作ったりする場所があるんですね。
ハトの食べ物って、大体みなさん豆だと思いますよね。確かに豆なんです。豆というか草のタネなんですね。草のタネがなっているところは、結構遠くに行かないとなかったりしますよね。
広い範囲を飛び回って、わーっと群れで行って(タネが)あると、そこにばーっと降りて、食べてまた戻るという、お家に帰るという暮らしをしていたんです。すごく広範囲を飛び回らないと食べ物がないですよね。だから胸の筋肉が発達していて、別に渡り鳥ではないんですけど、ドバトは1日30キロほどの距離を飛びます。
あと水もよく飲みます。食べ物がタネで乾き物なので、水を飲まないとうまく消化できないんですね。だから鳥の中では水もすごくよく飲むんですけど、水を飲みに行くのも遠くまで、砂漠に棲んでいる鳥だったので、胸(の筋肉)が非常に発達していたりします。
森の中に棲んでいるハトも木の実を食べるので、どこか遠くへ木の実を取りに行かないと、いつも同じところにはないですよね。それで遠くまで飛んで行くので、筋肉が発達していて、ハト胸みたいに膨らんでいます」
●そうなんですね〜。
「もうひとつハト胸になる理由があって、それはよくタカに襲われるんです。タカ派とハト派ってあるじゃないですか。ハトってタカに食べられちゃうんですけど、食べられてばっかりだと絶滅しちゃうので、強力な筋肉で早く飛んで逃げ切るんです」
●先ほど水をよく飲むって話もありましたけど、水の飲み方もほかの野鳥とは違うんですよね?
「そうですね。普通、鳥は水を飲む時に、水にクチバシを浸けてから、そのままストローみたいにゴクゴク飲まないで、ちょっと(水を)ふくんでは、上を向いて流し込むような感じ・・・ニワトリはそうしていますよね。
ハトはクチバシを水に浸けて、そのままゴクゴク飲むことができるんです」
●下を向いたまま飲めるってことですよね!
「そうですね。それができるのはハトの仲間とサケイっていう仲間と、一部砂漠にいるキンカチョウっていう小鳥、それぐらいだけで、ほぼハトの専売特許というくらい特殊な飲み方です」
●へぇ〜〜、凄い能力ですね。
「なぜハトにだけそんな能力があるのかっていうのは、実はよくわかっていないんです」
●そうなんですか?
「一説によると、少ない水でも・・・森の中の浅い(水たまりの)ちょっとしかない水でも飲めるようにっていう説があります。とにかくハトは水を飲みたがるので、ちょっとの水でも飲めるように、そういった飲み方をするようになったんじゃないかなっていう説があるんですけど、まだはっきりしたことはわかっていないです」
ハトはミルクで子育てをする!?
※野鳥の場合は、おもに春から夏にかけて、繁殖をすると思うんですけど、ハトも同じような感じなんでしょうか?
「ハトの繁殖シーズンは一年中なんです」
●えっ! 一年中!?
「一年中ですね。春から夏前は多いんですけど、一年中ハトは繁殖します。それはなぜかというと、ハトは結局、タネばかり食べているので、タンパク質がないですよね。そのタンパク質を補うのに普通、タネばっかり食べている鳥でも、繁殖期の時だけは、虫を取って来て(雛に)あげるんですね、スズメとか。
だけど、ハトはずーっとタネを食べているので、ピジョンミルクという特殊な餌を雛に与えて育てるので、季節を問わないんです」
●ミルクで子育てをするってことですか?
「そうなんです。ミルクで子育てをするんです」
●えっ! どうやってミルクを出すんですか?
「鳥なので、おっぱいがあるわけじゃないので、ミルクといっても、まあミルクのようなものが・・・実は口の食道の一部に素嚢(そのう)という袋みたいなのが鳥ってあるんですけど、そこの一部が(ハトに)子供ができると、壁が厚くなるんですね。そこの部分が剥がれて溜まるとチーズみたいな感じになるんです。
すごくタンパク質に富んでいて、それを吐き戻して雛に与えるってことをやっています。ハトの特殊な生態なんですけど、あたかもミルクみたいな感じなので、ピジョンミルクという名前をつけています」
●そのミルクを出せるのはメスだけですよね?
「いや、実はオスも出せるんです」
●え〜〜! じゃあオスのミルクで育っているっていうこともあるんですね?
「そうなんです。オスもメスも両方(雛にミルクを)与えないと、多分足らないんでしょうね。我が身を削って与えるし、そう簡単に食道の素嚢の壁が厚くならないので、だから代わりばんこに与えるんでしょうね。
その代わり、ハトは雛の数が少ないんですよ。一羽か二羽なんですね、一回で育てられるのは。それはおそらく餌の量がそれほど用意できない、だから(オスとメスの)両方で育てないといけない、その代わり一年中、繁殖可能なので、ハトは数を期間で補うという戦略をとっているんだと思います」
(編集部注:ハトの繁殖シーズンは1年中ということで、求愛行動を観察するチャンスも多くあると思います。オスがノドを膨らませて、メスを追いかけ回すそうですが、主導権はメスが持っているとのことですよ。
ちなみにドバトはオスとメスの、見た目の違いはほとんどないので繁殖行動のときに、ノドを膨らませているのがオスだとはっきりわかるそうです。ノドまわりの虹色にも注目してみてください。
ハトはその昔、通信の手段、いわゆる伝書バトとして利用されていました。その起源は一説によれば、紀元前3千年前のエジプト、漁師さんが海に出るとき、ハトを連れて行き、どれくらいの量の魚が獲れたのかをいち早く知らせるために、ハトを使っていたそうです)
※これは、ハトが巣に戻る「帰巣本能」があるからだと思いますが、ハトはどうやって戻る方向を見極めているんですか?
「基本的には近い距離だと景色を憶えているみたいです。伝書バトクラスだと近い距離は憶えていているみたいですね。もうちょっと遠くなってくると、あらゆるセンサーを使って自分の位置がわかるみたいです。ひとつに、地磁気ってありますよね。地球の北とか南とか・・・それが正確にわかるらしいです」
●そういう能力があるんですね!
「そういう能力に長けていて、特にドバト、カワラバトというのはお家みたいなところがあって、どこかに行って帰って来るという、もともとの習性があったので、それをうまく利用したのが伝書バトなんです。だから本来の習性をうまく利用しているんです。
キジバトとかアオバトとか、そういうハトに、それをやらせられるかっていうと、全然そういう習性がないので、やらせるのは無理ですし、賢いと言われているカラスもお家からどこかへ行って、また戻って来る暮らしをしていないので、いくらカラスに教えてもできないです」
(編集部注:ハトは時速60キロくらいで飛ぶことができ、ハトのレースに出場する訓練されたハトは、なんと1000キロほどの距離を休まず、15時間くらいかけて飛ぶことができるそうです。まさにアスリートですね。
ちなみに昭和30年代くらいまで、新聞社は写真を送るために、ハトを使っていたそうですよ)
人間の生活が見えてくる!?
※きょうはハトの驚きの能力など、いろいろお話をうかがってきましたが、ハトのような身近な生きものに目を向けてみるのは、大事なことかも知れませんね。
「そうですね。色んな身近な生き物に目を向けてみると思わぬことがあって・・・
実は僕はそれほどハトが好きではなかったんです。今告白しちゃいますけど(笑)」
●そうなんですか〜。
「実はそうなんですね。鳥を好きな人って、ハト好きはそういないかもしれない」
●ちょっと地味なイメージがありますよね。
「地味ですし、わりと形にバリエーションがないので、まあアオバトとか綺麗なので、それは人気があるんですけど、身近にいるやつは、なんだハトか、なんだキジバトかという感じで、見ない人が多いんですね。
僕もこの本を書くお仕事がきっかけで、ハトを見直してみたんですけど、いや面白いです、非常に! ハトから見えてくることがいっぱいあって、都市の鳥を僕は主に研究しているんですけど、都市の鳥を研究すると、人間の生活が合わせ鏡のように見えてくるので、鳥を見ているんだけど、人を見ているみたいな感じになります」
●例えば、どんなことがわかるんですか?
「ここ毎日ハトがいるな、絶対ここで人が餌をあげているなと・・・ちょっと時間帯を変えてみると、やっぱり餌をあげる人がいて、話をしてみると・・・なんで餌をあげているんですか? って聞いたら、ここでハトに餌をあげられるのは、私くらいしかいなくてっていう人が何人もいたりするんですね(笑)。
あと、街のビルの構造なんかも、あ〜、ハトが巣を作っているなって見えるんだけど、もうちょっと鳥のことを知っていたら、こんなところに巣を作られないように、隙間を作らないようにするんだろうなって思いながら、僕は見ているんです」
●もうちょっと気にしてみるっていうのがいいかもしれませんね。
「そうですね。気にして見ていると世界が変わります。普段の生活がかなり変わりますね」
INFORMATION
柴田さんの新しい本をぜひ読んでください。国内外のハト全般に関する豆知識がたくさん掲載されています。一般的にはフンの被害があったり、時には害鳥として駆除されたりと、マイナスのイメージもあるかと思いますが、この本を読むと、ハトの能力や人とのつながりを知ることができて、見方が変わると思います。ぜひ身近なハトの世界を覗いてみてください。山と渓谷社から絶賛発売中です。
詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎山と渓谷社HP:https://www.yamakei.co.jp/products/2821063100.html
柴田さんの活動についてはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎柴田さんHP:http://shibalabo.eco.coocan.jp/