2022/8/7 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」の「鈴木敦子(すずき・あつこ)」さんです。
鈴木さんが2003年に設立した「環境リレーションズ研究所」は環境意識が高いといわれている日本の人たちに、もっとアクションを起こしてもらいたい、そのためのプラットフォームを作っていこうと活動をスタート。現在は、森づくりを主な事業として取り組んでいます。
中でも「人生の記念日に木を植えよう」をコンセプトに、2005年から全国で進めている「プレゼントツリー」プロジェクトに注目が集まっています。
いったいどんなプロジェクトなのか、じっくりお話をうかがいます。
☆写真協力:認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」
森林再生の入り口=プレゼントツリー
※この「プレゼントツリー」、文字通り、木をプレゼントする活動のようですが、具体的にはどんなプロジェクトなのか、教えていただけますか。
「森を守ろうというと、9割以上の日本人の方々は賛同してくださるんです。でも、森にまで行ったことのある人って少ないんです。渚沙さんは森に行ったことありますか? 森林再生したことありますか?」
●いや〜確かにそう言われると・・・。
「なかなか入り口がどこにあるかということも含めて、すごく入りにくいのかもしれない。なので、そういう人たちに入り口を設けることで、あなたの大切な人やあなた自身の人生の記念日に木を植えませんか。その木を大切な人にプレゼントしませんかっていう、そういうコンセプトでスタートをしているのが、このプレゼントツリーです。
プレゼントという言葉の意味としては、自分自身へのプレゼント、もしくは大切な人へのプレゼントっていう意味と同時に、森を再生するという意味で森へのプレゼント、そこに記念樹を植えることによって森が再生される。それからひいては日本全体の森が潤っていくというそういうプレゼント、そしてそれは未来の地球に対するプレゼントでもありますよって、そんな意味を込めてプレゼントツリーという名前を付けています。
要するに森が近くにある人たちは、森づくりに参加するのも、もしかしたら簡単なのかもしれないです。でも、都会にいる私も、渚沙さんもきっとそうだと思いますけれども、都心部に住んでいらっしゃるかたがたは、どうも森まで少し距離がある。
精神的な距離もあるとするならば、記念日に記念樹、記念の木を植えることによって、その木を地元と一緒に育てていく。で、育てることによって、やっぱり木って育ちますから、大きくなりますから、そこに愛着が湧いて愛着も大きく育っていくんです。
我々は森林整備協定というのを結びながらやるんです。最低10年、地元の自治体にも入ってもらって、地元の森林保全してくださる林業家さん、森林組合さんであることが多いんですけれども、そういうところにも入っていただきます。
10年以上、都会の記念樹を植えた人たちと、それから地元の主たる人たち、地元の森林行政を司る自治体さん、自治体が市だったら市長さん、それから森林組合さん、もしくは地域に森林組合がない場合は林業家さんに入っていただいて、かつその森の所有者さんと私共と4者で協定を結ぶんです。
10年ってすごく長いじゃないですか。子供が生まれると10歳になっちゃうし、10歳の子の誕生日プレゼントに記念樹を植えれば、その子が20歳になるわけですからね。その長い年月を共に、記念の木を育てていくというプロセスを通じて、その地域とのつながりを作っていく。そうすることによって森だけでなく、地域まるごと元気にしていこうじゃないかっていう、そんな取り組みです」
(編集部注:鈴木さんがおっしゃるには、地域がうるおわないと、森に人手もお金もかけられない。つまり森林再生と地域振興はセットということです)
里親と木の対面に感動
※一般の方が、この「プレゼントツリー」の活動に参加したいと思ったら、どうすればいいですか?
「簡単です。ググって、 プレゼントツリーって入れていただくと、すぐにうちのサイト出てまいります。そのウェブサイトに、だいたい常時5〜6箇所ぐらい、植えられる場所をご準備させていただいております。その中から好きな場所を選んでいただいて、そこに1本植えようとか2本植えようとかってお申し込みいただくと、お手元に、この地域のこの区画にあなたの木が、何番という管理番号のもとに植えられ育てられますよという植樹証明書というものが届きます」
●植える場所も選べるんですね。
「そうですね。木は残念ながら、いろんな木を植えていますので、選べないんですけれども、場所は受け入れている場所であれば選べます」
●木の里親になるっていう感覚ですよね。
「その通りです。さすが!」
●里親になった方々に現場まで来てもらって、木を植えてもらうっていうことなんですか?
「基本的に植物は、植える適切な時期って決まっちゃっています。1年間のうちに、例えば雪がたくさん降るような地域は、だいたい雪の降る直前。それ以外の地域は春植えであることが多いんです。
なので地域によって、春か秋に、その年にお申し込みを受けた人たちの記念樹を、私どもが責任を持って、地域の林業のプロの方々の手で植えていただくんですけれども、年に1回植える、よいタイミングにみなさんをお招きして、参加しませんかってお声がけしますので、その時にもし参加できるようであれば、ご自分で植えられるっていう、そういう仕組みになっています」
※里親になった木がどれくらい大きくなったのか、見てみたい、そう思う方も多いと思いますが、鈴木さんからは、植えられた場所に行くことはできても、どんどん成長して、森のようになっていることが多いので中に入るのは難しいでしょうとのことでした。
それでも、里親と木の対面が実現した、こんなエピソードを話してくださいました。
「千葉県山武市というところで、プレゼントツリーの森を10年前にスタートして、ちょうど去年10年で満了を迎えたんです。その満了を迎える直前に、やっぱり最後にみなさんに集まっていただこうということで、(コロナ禍で)県をまたぐということ自体が推奨できなかったものですから、県内の方々限定で、プレゼントツリー山武の森に植えてくださった里親の方々にお声掛けして、里山体験イベントっていうのをやらせていただいたんです。
その時に、10年前に植えてくださった里親の方が、植樹証明書をお持ちになられて、”私のこの木は、今どこでどんなふうに育っているのか見たくてきました!”っておっしゃってくださって・・・。
その山武エリアは杉の区画もあるんです。山武杉(さんぶすぎ)という有名な地域の杉が、地域資源としてブランドになっているものですから。
我々は天然林の森に戻していくので、広葉樹であることが多いんです。多くの森はたくさんの種類の広葉樹を植えて、もともとその地にあった自然の森の姿に戻していく活動ではあるんですけれども、(山武エリアは)地元の方々のご要望にお応えして一部、杉を植えていました。
その里親の方は、山武杉のエリアだったんです。杉はスッとしていて、下のほうに枝があまりありませんので、入っていけたんですよ。山武杉は育ちの早い杉なので、10年経つと相当大きな杉になっていましたね。ご自分の木を確認いただいて、とても喜んでお帰りいただいたというのは、私自身が感動しました」
もともとの姿の森に
※「プレゼントツリー」プロジェクトでは、どんな木を植えているんですか?
「基本的には、どういう地域からプレゼントツリーのお呼びが掛かるかと言いますと・・・戦後に拡大造林政策っていう、難しい話は端折りますけれども、戦後の復興期に建設ラッシュが起こり、木材が足りなくなってしまって、その時に自然の森はどんどん杉とかヒノキの人工林、要は木材を作るための森に国が主導して変えていったんです。
そういうところが伐期(ばっき)を迎えると・・・同じ時期にいっぺんに自然の森から人工林に変えて、杉とかヒノキを植えてますから、伐る適切な時期を迎えるタイミングが一斉に、広範囲に広面積に同じ時期に伐らなきゃいけなくなっちゃうんです。
そうすると一気にハゲ地が広がりますよね。なんとなく想像してわかりますでしょ。そういうところは、本来は山の所有者さんが再植林、もう一度森に戻すという義務を、日本の法規制上は負っているんです。
でも、プレゼントツリーの活動を始めた2005年頃は、日本の木材自給率がものすごく低くて、20%を切っているか切らないかくらいの頃だったんですね。そういう時は経済的な理由で、(木材を)売ったけれども、そのお金では再植林するコストは賄えませんっていう方々が多かったんです。
そういう森を我々が、山の持ち主さんがもうお手上げですっておっしゃているような森だから、もともとの姿の森に戻そうよ、そういうところからスタートしていますので、その地域に自然に生えてくる樹種、木の種類というものを少し調べさせていただいて、地元の林業のプロの方々と、それから自治体の方々にご相談させていただきながら進めています。
それでも地域に還元されないような樹種を植えても、あまりうまくいきませんから、長続きしませんから、プラス、先ほどの千葉県山武市のように、地元にもともと自然に生えている樹種と同時に、山武杉という有名な杉のブランドがあったので、(地元の方から)これも植えたいんです、みたいな話があると、一部そういうのも植えていきましょうという、かなり多様性に富んだ森づくりを行なっています」
(編集部注:「プレゼントツリー」プロジェクトでは現在、国内37箇所で森づくりを行ない、これまでに植えた木は30万本を超えているとのこと)
災害から守ってくれる森
※鈴木さんが森づくりを主な事業にしようと思ったのは 日本の森が荒廃していくという危機感みたいのものがあったんですか?
「ひとつには、もともとNPOを立ち上げた時の背景と同じように、先ほど来、申し上げているように、これだけ森が好きな国民なのに、なぜ森づくりということをしてくれないんだろう。この人たちが森づくりをしてくれれば、森づくりに参加してくれれば、ハゲ地がもっと減るのになと。
実はハゲ地に再植林できない、なんらかの事情があって、経済的な事情だった時代もあれば、今のように日本全国高齢化していますから、年齢的に森の面倒を見きれません、みたいな事情もあります。
(日本は)これだけ森が豊かだと言われていて、これだけ森林政策、森林行政も相当テコ入れが進んでいるにもかかわらず、ハゲ地の面積って実は減っていないんです。要は伐った後に再植林するスピードが遅いままなんですよ。常時、伐った面積の3分の2ぐらいは、ずーっと再植林できないまま置かれちゃっているんです。
これが目立つので、そこで何が起こっているか分かりますよね。今、ハゲ地にしておくと(ここ数年)豪雨の頻度が高まる、台風の勢力が巨大化している、異常気象が頻発する日本では・・・そういうハゲ地が自然のまんま森に戻るのを待つと、何年かかると思いますか。100年かかっちゃうって言われているんですよ。
だから人の手で木を植えて、森に戻るスピードアップを手伝ってあげないと。その間にどれだけ豪雨が襲いますか。台風が襲いますか。森があれば、そこはそんなに急激に崩れたりとかせずに、土砂災害の被害も小さく抑えられる、阻止することにつながるわけですよね。にもかかわらずハゲ地のままであるから、どんどん崩れていってしまう。
森をつくっておいたところ、特に天然の形の森、もともとその地にあった、その風土にあった、力強い森に戻していたエリアは崩れていないんですよ。やっぱりハゲ地にしておくとそれだけリスクが高い。だからそのままにしておくことがすごく気になって・・・。
森の役割は生き物のため、地球温暖化防止にもなる、それから綺麗な水とか美味しい水も作ってくれるとかいろいろあるんですけれども、やっぱり日本で大事なのは、災害から守ってくれる、地域を守ってくれるっていうのがいちばん大事なんじゃないかなと思います」
●先ほども天然林に近い森にするのが目標だというお話もありましたけれども、やっぱりそれは自然災害にも強いっていう思いがあるってことですね。
「そうですね。その地に昔からあった形に戻すわけですから、やっぱり強い森になります」
全都道府県、100万人100万本
※「プレゼントツリー」プロジェクトの森づくりは、現在、国内37箇所ということですが、今後の目標としては、何箇所くらいまでを見据えているのでしょうか?
「もうね、全都道府県でやりたいなと。というのは、やっぱりそれぞれ人生にはいろいろとストーリーがあって、それぞれの人たちがそれぞれの地域にそれぞれの思い入れがあるので、自分ゆかりの地域の森を応援したいっていうお声もたくさんいただきます。
なので、全都道府県でやりたいなというひとつ大きなビジョンがありますし、もうひとつは100万人100万本、ここまで早く到達できたら嬉しいなと思っています」
●鈴木さんが環境リレーションズ研究所を設立して20年近くが経とうとしています。その間、地球温暖化の影響が顕著なものとなって、その一方でSDGsの達成が私たちには課せられています。最後に鈴木さんに今どんな思いがあるか、改めて聞かせていただけますか。
「はい、ありがとうございます。ありがたいことにSDGsって、いろいろなところで、国連さんが旗を降り始めて、次にESG投資なんていう言葉も、お聞きになったことがある方は多いんじゃないかなと思います。その時々に社会的な背景で、森林ブームとか森づくりブームっていうのがくるんですけれども、一過性のブームで終わらせたくないなっていうのはあります。
2005年にスタートさせた直後も、第一期森づくりブームっていうのが、我々のプレゼントツリーの活動の中で起きたんです。すごくたくさんの人たちが入ってきてくださったんですけども、それが一段落すると一気にいなくなるっていう現象にも悩まされています。
森は100年のビジネス、100年の事業、100年の活動なんです。そのうちの冒頭の10年だけ、みんなで分担し合いましょうよ。11年目以降から100年まで地元の方々に頑張っていただきたいっていう、そういう思いと長期のビジョンを、ぜひみなさんと共有していただけるような、様々なお伝えの仕方をこれから頑張っていきたいなって思っています」
INFORMATION
「環境リレーションズ研究所」が進めている「プレゼントツリー」プロジェクトにぜひご参加ください。あなたの記念日にご自身に、または大切なかたの結婚や出産、誕生日などに木を贈りませんか。鈴木さんもおっしゃっていましたが、それが地域の森や、ひいては地球へのプレゼントになります。
苗木の里親になると、植樹証明書やメッセージカードなどが送られてきます。植える場所、植栽地については、オフィシャルサイトを見ると、現在は8箇所から選べるようになっています。その中には、今年から始まった東京都の檜原村や、首都圏に近い場所として山梨県笛吹市がありますよ。
1本の苗木の里親になる料金は、苗木代や、苗木を守る防護ネット、そして下草刈りの費用などを入れて、1本5000円前後だそうです。ただし、木のオーナーになるわけではないので、10年経ったら地元に戻すことになります。鈴木さんはぜひ、里親として見届けてほしいおっしゃっていました。
「プレゼントツリー」プロジェクトについて詳しくは認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎認定NPO法人「環境リレーションズ研究所」HP:https://www.env-r.com/
◎「プレゼントツリー」プロジェクト専用サイト:https://presenttree.jp/