2022/8/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、島に魅せられたライター
「清水浩史(しみず・ひろし)」さんです。
清水さんは1971年生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はクラブの活動として、たびたび島に行き、その一方でバックパッカーとして、アラスカ、インド、南米、アフリカなど、辺境秘境の旅に没頭。大学卒業後はテレビ局に勤務するも、日常の窮屈さから脱出したいと、国内外の島旅は続け、現在はライター、そして編集者として活躍されています。
これまでに150以上の無人島を取材。人が住んでいない島ゆえに、船の定期便はあるはずもなく、目的の島に行くためには、漁船などをチャーター。島にたどり着いても、船着場はなく、上陸するためには岩場に飛び移るか、浅瀬にドボンと飛び込んで泳ぐしかないそうです。
清水さんはそんな島や島旅に関する本を多く出版、そして先頃『日本の絶景無人島〜楽園図鑑』という本を出されました。
☆写真:清水浩史
純白の楽園「百合が浜」
※『楽園図鑑』には37の島が掲載されています。何か選ぶ基準のようなものはあったんですか?
「無人島の中でも、やはり楽園というイメージと結びつきやすい、とにかく透明度の高い海に囲まれていること、あるいは真っ白な砂浜があること、あるいはサンゴ礁が豊かな島っていうのを厳選したという形なんですね。
その中でも根幹にあるのは、人工物、人が作ったものがほとんどないっていうところを重視していると言いますか・・・はたからみると、綺麗だけど何もないように見えるかもしれないんですけど、何もないということは、何もかもあるっていう島なのかなって思います」
●どの島も本当に素敵だったんですけれども、特に私が気になった絶景の無人島についてお話をうかがっていきます。まずは、鹿児島県の「百合ヶ浜(ゆりがはま)」。最強の純白楽園と書かれていましたけれども、真っ白な砂浜ですね。
「そうですよね。ここは結構広く、美しい場所として知られていますけれども、本当に美しいんですよね。与論島の大金久(おおがねく)という海岸の1.5キロ沖ぐらいに、毎日あるわけではなくて、大潮あるいは中潮のかなり潮が引いた時、干潮の時だけポコンと現れる真っ白な砂地だけの島ですね。
与論島の海の青さと砂地の白のコントラストが本当に映えると言いますか、美しいので、出会える回数が少ない分だけ、出会えた時の喜びは大きな島なのかなと思います」
●確かに幻の浜っていうふうに、この本にも載っていましたけれども、それぐらいなかなか見ることができないっていうことですか?
「そうですね。百合ヶ浜に限らずなんですが、厳密には島未満の低潮高地と呼ばれるものなんですね。潮が引いた時だけ島が現れる、そういう場所はこの百合ヶ浜はじめ、日本には各地にあるんです。出会えないんですけれども、この幻の美しさが味わえるという、本来の島とはまた違った魅力が低潮高地にはあるのかなと思います」
●現れては消えてしまうっていうことですよね。
「そうですね。この儚さも魅力と言いますかね」
サルの楽園「幸島」
●続いては、宮崎県串間市にある「幸島(こうじま)」、サルの楽園と書かれていました。砂浜をサルの親子が走っている写真が載っていましたけど、こうやってサルが頻繁に現れるんですか?
「ここは野生のサルが90頭くらい生息しているんですね。京都大学の研究員たちが観察のために島を訪れていることもあって、結構人慣れはしていますね。
宮崎県の石波(いしなみ)海岸から渡し船で、もうほんの数分で渡ることができるんです。島にポッと渡してもらったら、もうそこにはサルが群れているという、異世界に紛れ込んだような楽しさと言いますか・・・美しさもありますし、それでまたそこの海や砂浜が綺麗なんですよ。
サルを眺めるもよし、綺麗な砂浜で泳ぐもよしと、本当に楽園のような島かなと思いますね」
●海岸にサルがいるなんて、なかなかないですよね?
「そうなんですよ。私は無人島に行くのはいつもひとり旅ですけれども、サルに見守られて泳ぐって、見守られているような気がして、本当に楽しいですね(笑)」
●人間が近くに行っても、別に恐れるとか怯えてしまうとかはないんですね。
「ないですね。黙々と毛づくろいをしたりとか、本当に人間とサルのいい距離があるのかなというふうに思いますね」
●なぜ幸島にはサルがいるんですか?
「これは研究員でもまだ分かっていないんですよね。なぜここにサルがいるのかは、ずっと謎なんです。ただこの島で有名になったのは、ここのサルは文化ザルとも言われたんですよ。というのは、60年代だったか、サルが芋を海水で洗って食べる姿が目撃された島なんですね。
それは、砂を落とすっていうのもあるんですけれども、塩味が付いて芋が美味しくなることをサルは学び、その学んだことが次の世代にも受け継がれていくことが発見された島なんです。これは文化的行動であるということで、この幸島のサルは世界的にも有名になったという貴重な島かなと思いますね」
●サルにとっても楽園なんですね!
「そうですね。それを眺められるという、アクセスできるという幸せと言いますか、そんな貴重な島かなと思います」
北陸のハワイ「水島」、伊豆のヒリゾ浜
●『楽園図鑑』に掲載されている、私が特に気になった無人島。続いては、福井県敦賀市にある「水島(みずしま)」、北陸のハワイとも呼ばれているんですね。
「そうですね。無人島に限って言えば、日本海側は本当に綺麗な砂浜だけの島や無人島はほとんどないんですよ。ですので、この水島は真っ白な砂浜が600メートルぐらい続く、本当に美しい島なので貴重かなと思います。
昨年くらいまでは多少コロナの影響で制限があったものですから、今年からはしっかり楽しめる島かなと思います」
●この海の透明度も高いですね。
「そうですね。この水島の周辺は遠浅なんですよね。お子さんでも本当に安心して遊べますし、日本海というと、どうしてもちょっと荒々しいイメージがありますけれど、北陸のハワイっていう謳い文句に何ら違和感を覚えないような、素敵な島かなと思います」
●首都圏に住んでいるリスナーさんに向けて、アクセスしやすいおすすめの無人島はありますか?
「伊豆半島の先端にある”ヒリゾ浜”を挙げたいと思います。このヒリゾ浜は伊豆半島にあるので、無人島ではないんですね。ただし、道がないので陸地からアクセスできないんですよ。ですので、中木(なかぎ)っていう港から渡し船で渡るんです。
ヒリゾ浜に渡ると目の前には岩の島がポンポンと浮かんでいるんですよ。平五郎岩(へいごろういわ)であったり、丘ハヤマっていう岩礁があったりするので、ヒリゾ浜から泳いで岩場の無人島に上陸するっていうことも楽しめます。
このヒリゾ浜、何がすごいかっていうと、伊豆屈指の透明度って言われているんですよね。ただでさえ伊豆半島は綺麗ですけれども、どんだけ澄んでいるんだ、どんだけ魚影が濃いんだっていうぐらいお魚にも会えますし、そういう意味ではおすすめしたいなと思います。
それと、だいたい海水浴っていうのは8月いっぱいで終わってしまう、毎年なんか天候が不順だな〜とか言ったら、あっという間に夏って終わってしまう。ただし、このヒリゾ浜は9月いっぱいまで海水浴をやっているという、ちょっと珍しいパターンなんですね。夏が終わってしまったっていうかたにも、9月いっぱいまで楽しめますので、多くのかたが楽しめる島なんじゃないかなと思いますね」
●まだ間に合いますね!
「そうですね!」
(編集部注:素朴な疑問として、無人島の所有者は誰なのか、清水さんにお聞きしたら、国が所有していることもあるそうですが、多くは地方自治体で、中には個人または企業が所有している島もあるそうです。無人島を販売しているサイトもあるとのことですから、気になる方はネットで検索してみてはいかがでしょうか)
海と真剣に向き合う
※清水さんが島や島旅に興味を持つようになったのは、何かきっかけがあったんですか?
「もう30年ほど前なんですが、大学時代、早稲田大学の水中クラブという部に所属していたんですね。この部は年がら年中、島に行って、海にスキューバダイビングで潜り、あるいは素潜りで潜るという、海の探検部みたいな活動内容だったんです。
毎年夏には1ヶ月以上の島合宿があるんですよ。それで1年生の時に沖縄県の伊江島(いえじま)での合宿で、先輩が助言してくれたんですよ。
1ヶ月もの集団生活なので、結構人に気を遣って、楽しくしなきゃとか、みんなを楽しませなきゃなんて気を遣っていたんです。それを見た先輩が“清水、そんなに人に気を遣うことなんて必要ないよ。この部ではとにかくひとりひとりが、海の本当の面白さに真剣に向き合ってくれたら、もうそれだけでいいから”みたいなことを言ってくれたんですよね。
なんかそこからですかね。吹っ切れたように、周りからどう思われてもいいや、どんなにオタクだと思われてもいいから、好きな海にどんどん行こうって。そこから島旅が始まったのかなと思います。
私は、会社勤めも飽きっぽいところがありますし、長らく大学院で研究もしてたんですけど、その研究生活も飽きるっていう、非常に飽きっぽいんですね(笑)。ただこの島旅だけは、飽きないのはなんでかなって考えたことがあるんですけど、やっぱり有人島、無人島どちらであっても飽きないのは、どんな島に行ってもそれぞれ個性が違うんですよね。
例えば、距離が近い島であっても、いざ行ってみると全然違う、これはなんなんだろう。島っていうのは小宇宙であって、それぞれ多様な個性の集まりなんだなっていうことが、飽きない理由なのかなと思っていますね」
島の人は、旅人にもおおらか
※離れた島「離島」になればなるほど、島独特の文化や豊かな自然が残っていますよね。
「そうですね。開発の波っていうことでいうと、やはり離れれば離れるほど、島独特の文化、豊かな自然は残りやすい傾向にあると思うんですよね。ですので、島旅をすると、今度はもっとあの先の島に行ってみたいな、そしてまたその先の島にも行ってみたいなって、どんどんアイランド・ホッピングをしたくなる。
それはなんでしょうかね・・・島の大きさがどんどん小さくなったり、距離がどんどん離れたり、人口がどんどん少なくなっていけばいくほど、何か昔ながらのものが残っていることが、やっぱり可能性としては大きいので、島旅はどんどん奥に分け入りたくなるのかなって思います」
●住んでいる人たちのつながりも深そうですね
「そうですね。まあ相互扶助ですよね。物理的な仕事の面でも精神的な面でも、横のつながり、助け合う精神が島には残っています。面白いのは、島の中で助け合いが閉じられているかというと、そうではなくて、結構旅人にも開かれているのが、島旅の面白さかと思うんですよね。
というのも、私が若い頃、仕事がつらくて、結構島に逃げていたことがあるんですけど、島の人によく言われたのが、そんなに仕事がしんどいんだったら、いつでもこの島に帰って来ればいいからと。あなたの居場所は会社だけじゃないんだから、そんなに気にするな、みたいなことをよく言ってくれたんですね。
そういう意味で島の人たちの温かさ、おおらかさは、島内部だけではなくて、外部の旅人にも開かれているっていうのが、面白いところかなって思いますね」
(編集部注:清水さんによれば、戦後、150近くの島が無人化。その原因は、高度成長期に出稼ぎで人が出て行ったことや、近年は少子高齢化のために無人化していることが多いそうです。無人島になってしまうと、もう一度、人が住むことはほとんどなく、「人が暮らしていることが貴重なこと」だと清水さんはおっしゃっていました)
生きる喜びに気づく
※最後に、これまでたくさんの島を取材されてきた清水さんだからこそ、島を通して、何か見えてきたこと、感じていることはありますか?
「もちろん、島の楽しさ、豊かさに気づけるのがひとつあります。ただし、それと同時にやはり日常、どんなにつまらないと思える日常であっても、島の旅から帰ると、なにか日常の面白さに気づけるんですよね。
島旅から帰ると少し強く生きられると言いますか、それが島旅の魅力かなと思うんですよね。日頃気づけなくなっている生きる喜びに気づける、ということなのかなと思いますね。
例えばなんですけども、山口県の情島(なさけじま)に行った時に、大根を育てているおばあさんの話を聞いたんですね。その息子さんは都会で暮らしていて、社長さんになられていてお金持ちなんですね。それでその息子さんは島で暮らす母親に対して、もう野菜なんて買えばいいって! と息子が言うんだよって。お婆さんは、私は野菜は育てたいから育てているんだよって言うんですよね。
つまり、生きる喜びっていうのは、何か買ったりすることだけではないんだと。何か育てること。もちろん子育てもそうですし、そういうことに気づける。
ですので、島から帰ると、あれほど嫌だった仕事が何か小さなタネのように思えてきて、この仕事も大根のように手塩にかけて育てていく。だからその過程こそが生きる喜びなのかなって気づけたりする。島旅は帰ってきてからあとの、何か効用があるのかなというふうに思います」
INFORMATION
清水さんの新しい本、おすすめです。きょうご紹介した島を含め、37の島が掲載。白い砂浜、透明な海、サンゴ礁などなど、楽園のような島が美しい写真とともに紹介されています。どの島にも行ってみたくなりますし、写真を見ているだけでも癒されますよ。この夏、間に合えば、または来年の夏の島旅の参考に、どうぞ。
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◎河出書房新社
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309289731/
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