2022/12/18 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫が大好きな「とよさきかんじ」さんです。
とよさきさんは1975年、埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業。本業は、おもちゃやパッケージなどのデザインを手がけるデザイナー、そして、専門学校で絵やデザインを教える先生でもいらっしゃいます。
そんなとよさきさんは「日本野虫の会」をひとりで立ち上げ、昆虫の観察、撮影、本の出版、虫グッズの販売をするときの「屋号」として使っていらっしゃいます。
テーマは「虫と和解せよ」。虫が苦手になるのは、虫のことを知らないから怖くなる、だから、虫の魅力を伝えることで苦手意識をやわらげ、和解してほしいという思いが込められているんです。
2019年には『手すりの虫観察ガイド』を出版、話題に。そして先頃、新しい本『街なか 葉めくり 虫さんぽ』を出されたということで、この番組にお迎えすることになりました。
今回は、ご近所の散歩や公園などで出会える虫と植物のワンダーランドにご案内します。
☆写真:とよさきかんじ
虫好きを封印していた時代!?
※とよさきさんは、やはり子供の頃から虫が大好きだったんですか?
「そうですね。小学生の頃は近所で虫を捕まえて、それを半年で100種類ぐらい集めて、スケッチするっていう自由研究をやっておりました。枕元に図鑑が散らばっているような子供でしたね」
●そうなんですね。ちょっとやんちゃな時期があったとうかがっているんですけれども(笑)。
「そうですね(笑)。中学2年生ぐらいの時に、そんな少年時代だったんですけれども・・・そうするとやっぱり周りの目とかもあって、虫が好きだとかいうと、不良仲間からは“あいつ、だせぇよ”みたいなことになってしまうんで、虫好きを封印してしまったんですね」
●その封印を解いて、虫好きなとよさきさんに戻ったのはいつ頃だったんですか?
「今から8年ぐらい前なんです。だいぶ大人にもうなってからなんですね」
●それは何かきっかけがあったんですか?
「そうですね。いくつかきっかけはあるんですけど・・・その頃に犬を飼い始めて、柴犬なんですけれども、割と運動量が多い犬なので、朝晩散歩に行って30分とか1時間とか歩いていたんですね。
住んでいるのは東京の住宅密集地で、自然とかも少ないし、虫なんていないんだろうなと思っていたんですけれども、歩いていると虫がチョロチョロ見つかるんですね。今まで僕はいないと思っていたけれども、それは単純に気付かなかっただけなのかなと思うようになって、それで虫の世界にどんどん近づいていきました」
●虫の世界や自然に触れることで、何か取り戻したものはありますか?
「大人になって、もう1回虫を観察しようと思って、草むらにしゃがんでみたんですね。子供の頃によくやっていたことだったんですけれども、しゃがんでみたら、子供の時に見た虫が、小さなオンブバッタであったりとか、そこらへんにいるヘリカメムシっていうカメムシだったりとか、本当に子供の頃に見た虫が全然普通にいたんですよ。
自分は(虫から)離れて何十年も経っているのに、虫は1年とか2年の生をつなぎながら世代をつないで、ちゃんと種を存続させてきているんだなっていうことにすごく感動して、それでやっぱり虫をもっとやろうと思うようになりました」
(編集部注:少年時代にやんちゃしていたとよさきさん、インタビューの収録時に着ていたウエアは、なんと黒い特攻服! でも刺繍されている文字は「日本野虫の会」や「生物多様性保全」「愛羅武虫 夜露死苦」など、虫愛に溢れた言葉があしらわれています)
都会にも虫はいる
※とよさきさんの新しい本『街なか 葉めくり 虫さんぽ』は、虫と植物にフォーカスしていますが、虫と植物の関係に興味があるということですか?
「そうですね。虫が苦手な人は、虫が突然出てきたっておっしゃることが多いんですよ。突然出てきて、びっくりするから嫌いっていう方もいるんですけれども、実は虫がそこにいるのは必然があって、なんでこの辺に虫が多いのかとか、なんでこの季節に虫が多いのかは、そこに食べ物があったりとか、住処があったりするんですね。
それで僕が大人になって虫を探し始めた時に、いざ虫を探そうと思うと意外と虫は隠れるのが上手くって、むやみやたらに探しても見つからないんですね。ひとつそれで虫の居場所を見つけたのが、実は手すりがありまして、公園の階段とかに手すりがあるんですけど、その手すりには虫がとまっていることが多いっていうことに気付いたんですね。
で、手すりにいる虫だけを2年半ぐらい集めて、2019年に『手すりの虫観察ガイド』っていう名前で出版して、その本もまあ話題にはなったんですけれども、その時はまだ偶然が多いなっていう感じだったんですよ。たまたまそこにとまっているっていうこともあるなと思って、もっと必然を考えた時にやっぱり植物と虫をセットで考えると、この植物にはこの虫がいるっていうのがはっきりしているんで、初めて虫を探す人も、それだけ分かれば、探しやすいのかなと思って今回のテーマにしました」
●この本はタイトルにあるように、街中をお散歩しながら虫を探してみようということなんですよね。散歩中、どんなことに気を付けたらよろしいんでしょうか?
「植物があれば大体虫はどこにでもいるかなとは思っているんで、例えば渋谷の駅前の花壇にもいますし、青山の街路樹、ポプラの並木にも虫はいるので、どこでも探せるっていうことはあります。
ただやっぱり気を付けることとしては、みなさん、街を歩いている時にあまり周りのものは見ていないんじゃないかなっていう気がしています。
毎日歩く通勤路だったりとか通学路であったりするところで、一体周りにどんな植物があるのか、どんな落ち葉が落ちているのか、どんな花が咲いているのかをちょっと気にするようになると、実は虫は見つかるのかなと思っています」
●ポイントは葉っぱの裏側ですか?
「そうですね。”葉めくり虫さんぽ”というタイトルで書いているんで、葉っぱの裏側はすごく知られてないポイントだなと思うんですけれども、初めて探す人が見つけやすいのは、まず花だと思いますね。植物の花が咲いていたら近寄ってみると、そこに虫が蜜を求めて集まっていることがあるので、まずそこでひとつ植物には虫がいるんだっていうことが分かると思います」
公園で虫探し。ポイントは?
※とよさきさんの、普段の虫散歩はどんな感じなんですか?
「2種類ありまして、 ひとつは犬の散歩をしながら、20分とか30分の中で、虫散歩を犬と一緒に楽しんでいます。
今の季節ですと垣根にサザンカの花が咲いていて、ピンク色の花を咲かせているんですけど、それを覗き込むと、この冬の時期でもアリが蜜を舐めに来ていたりとかするので、そういう虫を探したりとか・・・。
あとヤツデっていう葉っぱが天狗のうちわの形をしている植物がありまして、その花が今ちょうど咲いているんで、そこに集まる虫であったりとか、葉っぱをめくるとヨコバイって言って、セミとかウンカの仲間の小っちゃい虫が付いているんで、そういうのを見つけたりしています。
もうひとつは山や公園に行って、がっつり探す時は6時間とか8時間とか、2万歩ぐらい歩くんですけど(笑)、本当に朝から晩まで歩けるだけ歩いて、葉っぱめくったり覗き込んだりして探しています」
●肉眼でいつも観察されているんですか? 何か観察用に道具を持ち歩いているんですか?
「やっぱり(虫は)小っちゃいので、僕は虫用のカメラで撮影するので、それで覗き込むと虫がより大きく見えるんですね。虫眼鏡の代わりにもなるんですけれども、こういう小っちゃい虫眼鏡も携帯しています」
●手のひらサイズなんですね。
「これを近づけて虫を見たりもしています」
●よく通うお気に入りスポットみたいなところはあるんですか?
「まず、やっぱり私の場合は木が多い公園ですね。植物があって木が多くて、あまり遊具とか芝生とかそういうものがなくて、なるべく植物が生い茂っている公園ですね。千葉県だと佐倉市にある佐倉城址公園は、時々足を伸ばして行ったりしています。水田環境と雑木林のような環境が入り混じっていたりして、たくさんの種類の虫が見られます」
●そういう場所で虫を探すときのポイントとしては、やっぱり手すりを見るとかですか?
「そうですね。いいポイントですし・・・それからさっきも出てきた花を見ることと、あとは実がなっていたら、汁を吸いに来る虫もいるので、実を見ることですね。
花と実が分かると、実はその植物がすごく調べやすいんですね。葉っぱから植物を調べると結構難しくって、花や実が特徴的だと、あとから調べやすいので、その写真を撮ったり、ちょっとスケッチしたりすると、後ですごく調べやすいと思います。
あと虫は葉っぱが重なっているところで休んだりするんで、まあそういうところをめくって休んでいる虫を探したりもします」
虫たちに大人気、ハルジオン
※本を見ていて気づいたんですけど、いろいろな昆虫がやってくる植物もあれば、この植物にはこの昆虫だけと決まっているものもあるんですね?
「そうですね。植物食、植物を食べる虫は狭食性の虫と、広食性の虫っていう2種類がありまして、狭い虫のほうが多いんですね。この植物の葉っぱをなるべく食べたいという虫が多くて、そっちのほうが虫や植物を調べるのにはすごく有効なんですね。
要はこの植物があれば、この虫がいるはずだっていう予想ができたり、逆に虫を見たら、ひょっとしたらこの植物を食べる虫なんじゃないかって、当たりをつけることができるので調べやすくなりますね。
広食性の虫だと、例えばマイマイガっていう蛾がいるんですけれども、その蛾の幼虫は200〜300種類ぐらいの植物を食べるって言われているので、時に針葉樹から広葉樹までバリバリ食べて大発生することもあります」
●春に咲く野草ハルジオンは、チョウやミツバチ、ハナムグリなどいろんな虫がやってくるんですね?
「あっ、そうですね」
●すごく人気なんですね?
「とっても人気があります。春は花に来る虫も非常に多いんですね。ハルジオンはちょっと古くに入ってきた外来種なんですが、至るところで見られて、チョウやハチは羽根があって、茎が細くてちょっと 揺れるような花にもとまりやすいんです。
ハナムグリとかコガネムシの仲間、甲虫の仲間は(体型が)ボテッとしてるので、飛ぶのが下手だったり、花につかまるのが下手だったり・・・あと口が短いので花の奥の花粉を吸ったりできないんですけれども、ハルジオンは平たくて円盤状をしていて、飛行の下手な虫でもとまりやすいっていう形状があるんで、それで虫に人気なのかなと思っています」
(編集部注:ハルジオンのほかにも、春から初夏にかけて咲くツツジも、昆虫たちには大人気。街なかにたくさん植えられていて、花には甘い蜜があり葉っぱが柔らかいので、いろんな虫たちがやってくるそうですよ)
※新しい本には冬こそ、葉めくりのメインシーズンと書かれていますが、そうなんですか?
「そうですね。先ほど出てきたヤツデの葉っぱとかアオキとか、ちょっと硬くて冬でも落葉しない、ずっと茂り続けている照葉樹の葉っぱがあるんですけれども、その裏にとまって冬越しをする昆虫は結構いるので、ほかの木々が葉を落としてる中で、残っている植物を探してみると、意外とそこにつかまって越冬している虫が見つかりやすいなと思います。
葉めくり以外でいうと枝先ですかね。葉っぱの落ちた木の枝先を見てみると、意外とそこにモズの“はやにえ”っていう、鳥が保存用に虫をぶすっと刺して置いておく習性があるんですね。そのはやにえが見つかって、ここにはこんな虫がいて鳥の保存食になっているのが分かったりとか・・・。
あとはケヤキって木があるんですけれども、大きくなるとどんどん樹皮がちょっとずつめくれてくるんですね。その隙間に虫が入り込んで冬越しをしているので、ちょっと浮いているのをペリペリっとめくってみると、全部じゃないんですけれども10枚に1枚とか虫が入っているのがあるので、くじ引きみたいな感じで探してみるという楽しみもあります」
地球上から昆虫がいなくなったら
※もし地球上から昆虫がいなくなってしまったら、どんなことが起きるのでしょうか?
「先ほどから、花に虫が来るって話をしていますよね。チョウやガ、ハチやハナアブが花の蜜を吸ったりすることによって、花は受粉をして果実を付けたり、その中に種子ができて、次の世代につながっていくんですけれども、そういう虫がみんないなくなってしまうと、当然花を付けても実ができない、 次の世代ができないっていうことになってしまって、虫を介してどんどん繁殖していく植物は滅んでしまうということがあります。
同時に牧草とか、虫の受粉によって世代をつなげている植物もあるので、それを食べている家畜の餌がなくなってしまったり・・・。あとは鳥も昆虫を主な餌にしているんですね。だから野鳥の多くは虫がいなくなると滅んでしまったりするので、食物連鎖がガタガタに崩れてしまう可能性は高いと思いますね」
●この本や、普段の活動を通して、どんなことを伝えたいですか?
「この本に載っている植物や虫は、珍しくてすごく美しいっていう存在のものじゃないのを集めているんですね。それはあえて読んだ人が、身近にいっぱいある植物なんだけれども、ありふれているんだけれども、その分、追体験がしやすい種類をたくさん載せています。
やっぱり植物の名前がわからないと、目に入ってもこれは単に緑色の壁だなって認識しちゃったりとか、虫がいたとしても不快な黒い点があるなとしか思えなくって、なかなか自分たちの暮らしと関係のある生き物だと思えないんじゃないかなと私は感じています。
それが1種類でも分かると、この植物はこうだったんだとか、だからこの時期に花が咲いていたんだとか、だからこの虫が来ていたのかなとか、来年また見られるかなっていうふうにいろんな点と点がだんだんつながってくると思います。
今まで自分が、例えば田舎でつまんない町だなとか、都会すぎて殺風景だなと思っていたのが、すごく身近にたくさん楽しめる自然があるじゃないか! っていうふうに 思える、ワンダーランドのようなものに感じられる瞬間はきっとあると思っていますので、それをぜひぜひ本を読んで見つけてもらえたらなと思っています。
この本で扱っているテーマのもうひとつに、生物多様性の魅力であったり、重要さは載せてあります。虫もそうですし、植物もそうなんですけれども、その種類が多いことによって、人間がサービスを受けている、恩恵を受けているのが、生物多様性の考え方のひとつなんですね。
今までは(人間は)ずっとそれをタダで消費していたんですね。でもやっぱり生き物をすごく大事にしたり、環境を大事にしていかないと、結局自分たちが将来すごく不利益を被ってしまうことが、最近自然とか生き物に関わる考え方の大きな流れになっていると思います。
なかなかでっかいことはできないんですよ。いきなりでかいことはできないんですけど、でも足もとから世界を知っていく、自然を知っていくことはすごく大事だと思いますので、その一助にこの本がなってくれると嬉しいと思います」
INFORMATION
とよさきかんじさんの新しい本をぜひ読んでください。公園や街路樹、植え込みなど、身近な植物の花や葉っぱにやってくる昆虫たちの写真がオールカラーで掲載。とよさきさんの観察力に圧倒されますよ。季節ごとに分かれているので、冬のページを見て、ぜひ葉めくり散歩に出かけませんか。
ベレ出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎ベレ出版HP:https://www.beret.co.jp/books/detail/838