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多様性の海〜海洋写真家「中村武弘」の視点

2023/1/8 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、海洋写真家の「中村武弘(なかむら・たけひろ)」さんです。

 中村さんは1979年、東京生まれ。子供の頃から海や自然に親しみ、写真家になってからは、海を幅広くとらえて撮影されています。海洋写真家としてのキャリアは18年ほど。そして先頃、初めての写真集『海』を出されました。ちなみにお父さんは海洋写真家の第一人者「中村庸夫(なかむら・つねお)」さんです。

 きょうは、海上や海中、磯や干潟など、様々な表情を見せる海への思いや奇跡的ともいえる写真の撮影エピソードなどうかがいます。

☆写真:中村武弘

写真:中村武弘

表紙は「半水面写真」

※写真集のタイトルを、ストレートに「海」としたのは、どうしてなんですか?

「私は海洋写真家を名乗っておりまして、海中に限らず、幅広い海を撮っているんですね。それで今回の写真集には、海中や海上の自然、そして海の動物とかを選んで掲載しています。海には様々な環境があって、そういうものを感じていただきたいなと思って、タイトルをシンプルに『海』にしました」

●まさにおっしゃっている通り、写真集には海面だったり海中だったり、いろんなシーンがありました。魚たちが海の中でとっても近くにいて、こちらを見ている写真があって、魚と目が合っているような感覚になりました。あれはそーっと魚に近づいているんですか?

「魚が並んでいる写真があって、こっちを向いているみたいなんですけど、実はそういうふうに並ぶところがあるんですよ。海流の関係でそうやって並ぶんですね。なので、ゆっくり行くと結構近づけて、魚も大きいのであまり驚かないっていうか・・・(笑)」

●かなりの至近距離ですよね。怖さとかはないですか?

「危険な魚ではないですし、向こうもダイバーに慣れているので、あまり逃げたりはしないんです。あともうひとつ、ハリセンボンっていう魚の顔のアップの写真があるんですね。ハリセンボンは泳ぐのがゆっくりな魚で、近づくことはできるんですけど、実はあそこまで寄ることはできなくて・・・なぜ撮れたかっていうと・・・」

●どアップでしたよね?

「そうですね。あれは潮溜まりと言って、磯にある、要は潮が引いて岩の隙間に海水が取り残されてできるのが潮溜まりと言うんですけど、そこにハリセンボンが取り残されていたんですよ。僕は水中に入らないで、防水のデジタルカメラを手に持って、それだけ(潮溜りに)突っ込んで撮ったので、全然警戒心がなくて、こっちを見ている感じになりました」

●本当に写真のど真ん中にハリセンボンの顔がどアップで写っていましたね。
 あと表紙にもなっている、海中と波、白い雲と青空が写っている写真、これはどうやって撮ったんですか?

『海』

「これは半分が水中、半分は海上で、半水面写真っていう・・・要は(写真の構図の中に)水面が半分ぐらいある写真を半水面写真って言うんですけれど、これはダイビングが終わってボートに戻る前に海面に浮いて撮りました」

●すごいですよね。海の中と海の上が見える、なかなか見ることができない写真ですね!

「そうですね。見ていただくと分かるんですけど、小さい波がいっぱいあるんですね。なので、ちょうどレンズの真ん中辺りにこの水面が来ないと、こういう写真は撮れないんです。
 こっちもただ浮いているだけで、踏ん張ったりできないので、なかなか撮れなかったんですけど、数枚いい写真が撮れて、こうやって表紙になるような写真になりました」

●ぜひリスナーさんにも見ていただきたい写真です!

(編集部注:中村さんの撮影の主なフィールドは東京湾や房総半島、三浦半島など。最新の写真集『海』ではそのほか、沖縄の西表島や小笠原諸島の西之島の近海、そして海外で撮った写真も掲載されています)

クジラからタツノオトシゴまで

※今回の写真集には、海に暮らすいろいろな生き物が登場します。撮影した中でいちばん大きな生き物はクジラですか?

「そうですね。いちばん大きいのがこの写真集でも使われているんですけども、ザトウクジラの写真ですね」

写真:中村武弘

●かっこよかったです。水の飛沫が舞っていて。

「大きさでいうと大体15メートルぐらいなんです。場所はアラスカで、海面に(ザトウクジラの頭が)出ている写真なんですね。なぜこういうふうになっているかっていうと、実はバブルネットフィーディングっていう漁をしているところなんですよ。

 バブルネットフィーディングっていうのは、バブルは泡で、ネットはネットなんですけど、要は複数のザトウクジラが一緒になって泡を吹いて、その泡でネット(のようなもの)を作って、その中に魚を追い込んで、魚が海面近くに行ったら、複数のクジラたちが大きい口を開けて、海面にガバっと飛び出して魚を食べるっていう漁なんですね」

●大きな口を開けている姿がどアップで写されていますけど、この周りが泡なんですね。

「そうですね。本当その泡の中から(ザトウクジラたちが)飛び出すっていう写真です」

●実際ご覧になってどうでした? 迫力がものすごくありそうですけど・・・。

「実際はかなり遠い距離なので、レンズを覗いた風景しか僕は見られないんですけど、やっぱり遠くでもその音が聴こえてくるわけですよね、ガバッていう音が・・・そういう水飛沫の音が聴こえてきて、やっぱりそれはまさに大自然の中にいるなっていう感じですね。
 クジラはこの口の大きさなので、人間は口の中入っちゃいますからね(笑)。実際食べることはないんですけれど、やっぱりそれだけ大きな生き物がこうやって地球上にいて暮らしているんだなっていうのは、すごいことだなと思っています」

●逆にいちばん小さな生き物だと、どんな生き物になりますか?

写真:中村武弘

「いちばん小さいのは、タツノオトシゴの仲間のピグミーシーホースという魚なんですね」

●ピンクの! 水色の海にピンク色がバーッと、もうお花のような感じですね!

「周りはサンゴの仲間なんですけれど・・・このピグミーシーホースの大きさは大体2センチくらいです」

●そんな小さいんですか! 

「はい、その周りのサンゴに擬態しているっていうか、ほとんど同じような模様と色をしていて、こうやって隠れているんですね」

●なんか梅の花かな? みたいな・・・本当にそんな感じもしますけど、2センチって大変じゃないですか? 小さな生き物を撮影するのは大変かと思うんですけど・・・。

「まず、小さいものは見つけるのがとても大変で、大体現地のダイビングガイドさんに教えてもらってから撮るんですね。
 やっぱり撮影するときに難しいのは、小さい生き物を撮る時、マクロレンズっていう(被写体に)寄れるレンズを使うんですけど、そのレンズで寄るとピントの合う範囲が狭くなるんですよ。

 生き物は基本的に目にピントを合わせて撮るものなんですけど、海の中は相手が止まっていても海水は動いているので、生き物自体も動いているし、撮る僕も動いています。そういう状況の中で、目にぴったりピント合わせて撮るのは大変だなっていつも思いますね」

(編集部注:写真集『海』には、東京湾の最奥部にある貴重な干潟「三番瀬」を、セスナ機に乗って上空から撮影し、群れをなして飛ぶスズガモとらえた写真や、西之島の近くまで行くクルーズに参加して、船上から海面に飛び出した無数のトビイカをとらえた奇跡的な写真も掲載されています。ぜひご覧ください)

写真:中村武弘
三番瀬を上空から撮影、スズガモの群れ

自然を相手にする難しさ

※撮影のテーマというか、大事にしていることはありますか?

「あまりそういうのを意識してきたことはないんですけど、常に思っているのは、珍しいものとかそういうものよりも、当たり前にあるものや身近にあるものを撮りたいなっていうのが常に頭にありますね。例えば磯とか干潟とか身近な場所なんだけど、プロで撮っている人があまりいないとか、そういう世界を見せたいなっていう思いがあります」

●撮影に行く前は、どこに行けばどんな生き物に出会えるとか、そういったことはしっかりリサーチしてから行かれるんですか?

「いつか撮りたい被写体に関しては、どこに行けば何が見られるかは頭に入っているんですね。そういう情報は結構溢れているので、例えば撮影をする時、リサーチってほどではないんですけど、現地のガイドさんにお話を聞くとか、そういうことで詳しい情報を得たりします。

 あとは、SNSをやっているダイビングガイドの人が、撮影した写真をアップしたりするんです。それを見て、これ見たいな、撮りに行きたいなと思って出かけたりとか、そういうスタイルのことが多いです」

●SNSも駆使しながら、ですね。

「やっぱり生き物はいつもいるものと、たまに出るものとか珍しいものとかってあって、いつもいるもの以外は結構すぐにいなくなっちゃったりするんですね(笑)。なので、その時に時間があれば撮りに行ったりとかはします」

●本当に海とか生き物の撮影は、天候も含めて難しいことだらけだと思うんですけど、どんなところが大変ですか?

「やっぱり自然を相手にしているので、本当に天候に左右されることがとても多いです。やっぱり海が荒れると危険なので潜ることができなかったりするので、本当に普通に海に行って楽しもうと思ったら、晴れている海がいちばん(笑)」

●そうですよね(笑)

奇跡は二度ある!? イルカのジャンプ

※中村さんは、うまくいかなかったことはあまり覚えていないそうですが・・・

「実はひとつだけ覚えていることがあって、今回の写真集でも使われている写真なんですけど、逆光の中を飛ぶイルカ(の写真)なんですね」

写真:中村武弘

●キラキラキラーって光の中に、イルカが飛び上がっていますよね。

「実はこれを撮る前にすごく悔しい思いをしていまして・・・それ何かっていうと、同じようなシーンでイルカがジャンプしたんですよ。でもイルカってどこで飛ぶのか分からないので、その時は反応できなくて、カメラを向けることができなかったんですよ。ご覧いただいたようにすごく良いシーンなんで・・・」

●垂直にブワーッと飛んでいますよね!

「逆光の中にいるっていうのは、太陽と僕の一直線上でイルカが飛んでいるっていうことなので、そういうチャンスはもう二度とないだろうと、その瞬間すごく悔しく思ったんですけど、そしたら次の瞬間に同じところで(イルカが)飛んでくれたんです!」

●そうだったんですね! 本当に御光が射しているような神々しい写真ですよね。

「これ、ハシナガイルカなんですけど、スピンジャンプをするイルカなんですよ。なので、まっすぐ飛んでいるいわけではないんですね。体をくねらせながら飛んでいるんですよ」

●うわぁ〜〜すごい!

「その中で、このイルカらしいシルエットの瞬間が切り取れているのも奇跡的だなと思って・・・」

●奇跡が重なった写真なんですね。

磯や干潟は重要な場所

※写真集には磯や干潟で撮った写真も多くありますが、中村さんは、磯や干潟のどんなところに魅力を感じますか?

「まず、磯とか干潟は子供が遠足で初めていく場所だと思うんですよ」

写真:中村武弘

●そうですね〜。

「僕は子供の頃は、小学校の遠足で行った記憶はあったんですけど、それ以外では行ってなくて・・・。それで写真家になって磯と干潟に行くタイミングは、最初の頃に結構あったんですね。行ってみると、とにかく生物数の多さにすごく驚いたんですね。

 僕が子供の頃から見ていた海は、南国の生物が当たり前にいるような海だったりしたので、関東の海はあまり色のない海で、生き物がたくさんいるっていう意識があまりなかったんです。でも磯や干潟に通って見てみると、地球環境にとってすごく重要な場所であるっていうことに気づいたんですね。

 どちらもとても地球環境に重要な役割を果たしている、そんな海に東京の自宅から車で1時間くらいで行けるんです。磯や干潟は潮が引くと海中だった場所が海底になって現れるので、大人や子供でも歩いて磯や干潟に行くことができるんですよ。

 そんな大人も子供を簡単に親しめる海で、それでいて地球環境にとって重要であるっていうところがすごく魅力的だなと思っています。そういう意味でこれからも長く撮っていこうと決めたところであります」

●潮の満ち引きによって、全く違う表情にもなりますよね。

「そうですね」

● 首都圏でリスナーさんにおすすめの干潟とか磯はありますか?

「干潟ですと、この近くにある三番瀬とか、あと内房に木更津とか富津とか、そういうところに塩干狩りができる干潟があるので、そちらがいいですね。 三浦半島だと公園になっていて駐車場とかトイレがあるようなところも何か所かあって、そういうところは車で気軽に行くことができますね」

中村武弘さん

海は守らなければいけないもの

※地球温暖化や海洋プラスチックが、海という環境にいろいろな影響を与えていることが指摘されています。中村さんが、特に気になっていることはありますか?

「海水温の上昇とかプラスチックごみ、台風の異常発生はとても気になっていますね。 特にプラスチックごみについてなんですけれど、マイクロプラスチックになって、小さい生き物の体内に取り込まれていくんですね。そういう小さい生き物を食物連鎖で、人間が食べるような食用の魚介類であったりするわけですね。
 結局それを人間が食べることになると、人間が捨てたゴミが人間に戻ってきてしまっているので、やっぱりゴミの問題はすごく深刻だなと思っています」

●そうですよね〜。

「あとは海水温の上昇についてなんですけれど、海水温が上昇すると何が起こるかっていうと、生き物の生態系が変わってきてしまうんですね。 当たり前にいた生き物が見られなくなって、例えば関東近辺だと南国の生き物が見られるようになってきたと・・・。
 あと海水温の上昇で影響を受けるのが海藻なんですね。海藻は冬に海水温が下がることによって育つんです。なので海水温が下がらないと育たないんですよ。

 海藻は何が大事かっていうと、珊瑚と同じで光合性をしているので、二酸化炭素を吸収して酸素を排出してくれるっていうそういう役割を果たしています。あとは小さな生き物の隠れ家になったりとか、食料になったりするので、海藻がなくなるっていうのはすごく深刻なことだなと思っています」

●では、海洋写真家として伝えたいことはありますか?

「海っていうのは面白かったり、かわいいとかすごいなど、魅力的な生き物で溢れているんですけれども、僕たちはそれを写真に収めてみなさんにお見せするのが仕事なんですね。同時に海の現状をお伝えするっていう役割も担っていると思うんです。 なので、海っていうのはご存じの通り、環境が壊れていっているので、海は当たり前にあるものではなくて、守らなければいけないもの、そういう意識を持ってもらいたいなと思いますね」


INFORMATION

『海』

『海』

 中村さんの初の写真集をぜひご覧ください。国内外で撮った様々な海の表情を見ることができます。海の多様性を感じられる力作! 素晴らしいです。中村さんのオフィシャルサイトから直筆サイン入りで購入できます。ぜひチェックしてください。

◎中村武弘さんHP:https://nakamuratake.base.shop/

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