2023/1/15 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立科学博物館の研究主幹で魚類学者の「篠原現人(しのはら・げんと)」さんです。
篠原さんは昨年『深海魚コレクション』という本を出版。この本はエックス線CTスキャンで撮影した深海魚の画像を集めた画期的な本として注目を集めています。今回はエックス線CTスキャンによる研究や、深海魚の驚くべき進化についてうかがいます。
☆写真協力:国立科学博物館、オーム社
深海魚の骨は美しい!?
篠原さんは1964年生まれ。北海道大学大学院修了。現在は国立科学博物館の研究員として活動。専門は魚類の系統分類学。主な研究対象は深海の海底に生息している、細長い体が特徴の「ゲンゲ」と呼ばれる魚だそうです。
子供の頃は藤沢市に住んでいて、毎週のように、お父さんに連れられて釣りに出かけていたこともあり、魚が大好きに。そして大学生の時に進路を決定づける本『稚魚を求めて』そして『日本海の成立』という2冊の本に出会い、研究者になることを決めたそうです。
篠原さんの本『深海魚コレクション』には魚の骨格や、骨の隅々までがわかる立体的な画像が掲載されていて、深海魚の不思議な姿を写し出しています。
●掲載されている魚の骨格の画像がとても綺麗ですよね?
「はい、綺麗ですよね。私も深海魚は実際、標本とかでたくさん見ているんですけれども、骨で見ても綺麗だなっていうのは改めて感じました」
●びっくりしました。魚の内部を見ることってなかなかないので、すごく興味深かったです。この本には深海魚をエックス線CTスキャンで捉えた画像が掲載されていますが、人間が健康診断とかで撮るエックス線写真とはどう違うんでしょうか?
「健康診断で使うエックス線写真は、レントゲン写真って言われますよね。全体を平面的に撮影するものなので、例えば臓器とか骨が重なって見えて、それを分けて見ることはできないですよね。細かいところはよく見えないと。
それに対して エックス線CTスキャンというのは、撮る方向をちょっと変えて、対象物の断層写真、輪切りの写真をエックス線で撮るんです。それを重ねていって立体画像を作ると。それでパソコンの画面の中に立体画像ができるので、それをクルクル回すと、いろいろなところが見えます。
例えるなら、普通のプリンターと3Dプリンター、レントゲン写真のほうは普通のプリンターで印刷した画像と思ってください。それに対して、エックス線CTで撮った画像は、重ねて立体的に見えるので、3Dプリンターで印刷したものみたいな、そんな感じですよね」
●深海魚の3D画像は、骨格とか骨の構造が一目瞭然で驚いたんですけれども、本当に魚は骨が多いんですね?
「人と比べると特に多く感じるでしょうね。人にはない骨なんかもありますけれども、魚の骨は種類にすると、70種類くらいの骨で構成されているんですね。それは主数なので実際、数はもっと多いですよね」
●どれくらいになるんですか?
「数は分からないです。例えば人間の背骨でいうと、人間は背骨、脊椎骨って言うんですけれども、24個あるんですね。深海魚の中のウナギの仲間、シギウナギというのがいるんですけれども、それは200個くらい脊椎骨があります。だから全然数が違うと」
●いや〜すごいですね。そういった骨のひとつひとつをこの本で見ることができるんですね。普段の研究でエックス線CTスキャンを使って、深海魚を撮影されているんですよね? この手法はいつ頃からあるものなんですか?
「エックス線自体は、1900年よりちょっと前にレントゲンという人が発見したんですよね。それから70年くらいあと、1970年くらいにエックス線CTスキャンができる機械が発明されたと言われています。先ほども少し言いましたけれども、最初はやっぱり人の体を細かく、切らずに見るために開発されたものですよね。それがだんだん工業用になって、今は研究用になってきたと・・・自然資料なんかを見るための機械になってきたっていうことですね」
●改めてこのエックス線CTで撮影すると、特にどんなことが分かるんでしょうか?
「これまで見えなかった、いろんな角度から骨なんかを見ることができますよね。新たな発見にもつながります。それからテクニックをいろいろ開発すれば、例えば骨以外のところも見えますよね。筋肉とか、あと血管なんかも見ることができますね」
実は身近な深海魚
※改めて、深海魚の定義を教えてください。
「これはなかなか難しいところがあるんですけれども、今は水深200メートルより深いところを深海と呼ぶので、そこにいる魚を深海魚と呼ぶようにしていますね。この水深では浅いと言われて、500とか600メートルより深いところにいる魚を、深海魚と呼んでいた時期もあるんですけれども、今は200メートルより深いところにいる魚です。
この200は何かというと、日本の周辺には大陸棚があって、その多くがいい漁場になっているんですけれども、それより外側、沖に出るとドカッと深くなるんですよね。200メートルより深いところの海がずっと広がるんですね。そういうところがひとつ基準になっています」
●定義になる深さが変わるんですね。
「そうですね。ただ200メートルになるとほとんど光が届かないです。届く光は太陽光なんですけれども、1パーセント以下って言われているので、そういう意味で真っ暗な深海という場所に相応しい水深かもしれませんね」
●私たちが普段食べている魚にも深海魚っているんですよね?
「みなさん結構食べています。有名なのはマダラとかアンコウですよね」
●そうですね。深海魚になるわけですね。
「深海には美味しい魚が結構いますよね」
特徴は発光器、ブヨブヨ!?
●そんな深海魚の大きな特徴を教えてください。
「深海魚ですごく特徴的なのは発光器ですね。水深200メートルから水深1000メートルの間にいる深海魚に多いですよね。それぞれの発光器はただ光るだけじゃなくて、その外側にレンズみたいな、鱗が変形したんですけど、そういう部分もあって、それで光を調整している、いわゆる調光システムを持っていると言われています。そういうかなり特殊な発光器は深海魚でしか見られないものですね。
それから体がブヨブヨなものも結構、深海魚に多いですよね。あまり骨の発達がよくないとか、触ったらブヨブヨするような・・・見た目は可愛いらしいんですけれども、体が柔らかくて結構もろやつがいますよね。それも深海魚の特徴かもしれません。
深海だとやっぱり餌が少ないので骨が作りにくいとか、逆に体をブヨブヨにするってことは水分が多いんですけども、水分が多いってことは、体を軽くするのに役立つんですよね。クラゲで分かりますよね。クラゲってなんか浮いているような感じじゃないですか。あれは重いものが体にないからなんですよね。深海魚も体をブヨブヨっていうか、水っぽくすることによって浮力を得て、それで移動を楽にしているっていうのもあります 」
大きな口と、大きな目
●深海魚には、ほかにはどんな特徴がありますか?
「よくみなさんが感じる大きな目とか大きな口、これもやっぱり深海魚の特徴ですよね」
●そのイメージあります。どうして深海魚は目が大きくなったり、口が大きくなったりすんですか?
「はい、まず目が大きいほうは、深海は結構、発光生物が多いんですよね。深海魚はそういう発光生物を食べるものが多いです。だから発光生物を目で見つけて食べるために、目が大きくなって、よく見つけられるようになっていると。
それから口は、捉えた獲物を丸飲みするとか、もしくは一撃を与えて逃げられないようにするっていうそういう仕組みがありますよね。つまり出会った餌を逃さないために大きな口とか、口に大きな牙みたいな歯ができることが多くありますよね」
●目とか口とか発光器もそうですけれども、そういった特徴は深海っていう特殊な環境で、どんどん進化していったものなんですか?
「そうですね。深海に行ったからできたものでしょうね。そうしないと多分生きられないっていうギリギリのところだったんじゃないですかね」
●すごく変化していくんですね〜。
「もちろん進化なので、すごく長い時間をかけて少しずつ変わっていったと思いますけどね」
●先ほど太陽光が1パーセントほどっておっしゃっていましたけど、そんな光の届かない深海でどうやって食べるものを探すんですか?
「先ほど言った発光生物がいる層では、目で見て探すことが多いと思うんですけれども、1000メートルよりも深いところは、逆に目がちっちゃくなるんです。代わりに何が発達するかっていうと、音を聴く器官、側線(そくせん)が発達します。だから彼らは周りの音を聴いて・・・音というのは振動なので水の動きですよね。それを感じて獲物がいるとか、危険が迫っているとか、そんなことを感じているって考えていますね」
●そんなに大きな振動ってわけではないですよね? すごく些細なものを聴き分けるってことですか?
「はい、非常に感度の高いセンサーを持っている深海魚は多いですよね」
(編集部注:篠原さんによれば、深海魚は世界に約4000種ほどいて、世界の魚類の11%ほどを占めているそうです。最終的には新種を入れて6000種を超えるのではないか、とのことでした。ちなみに日本の近海で見つかっている深海魚は約600種、日本列島の周りには深海が多いので、深海魚の研究には適しているそうです)
オニキンメに感動
※今まで見た中で、特に強く印象に残っている深海魚を教えてください。
「私が深海魚を捕るために調査船に乗ったんですけれども、オニキンメが捕れたんですよね。オニキンメって金目鯛(きんめだい)の仲間なんですけど、普通の金目鯛とは違って、口が非常に大きくて、牙が発達しているんですよ。目もちっちゃい、色も黒っぽい、そういう魚なんですね。それが非常にいい状態、生きた状態で捕れたんですよね。
水族館ではまだ飼育できていない、非常に珍しいオニキンメという魚を、船の上でしたけど、しばらく水槽で見ていましたね。生きた状態で見られたので、非常に感動して・・・それがひとつすごく印象に残っていますね。
あとはバケダラっていう名前もちょっと変わっていますけれども、タラの仲間ですね。ソコダラの仲間なんですけれども、深海にしかいないんですよ。頭が風船のように膨らんでいて、つぶらな瞳と、口が下にぽこっと付いているやつがいるんですけれども、それも非常に印象に残っていますよね。
膨らんでいる部分が何かっていうことなんですけども、実は皮をめくってみると、中に側線が発達しているんですよ。だから頭全体が水の流れなんか感じる、非常に感度の高いセンサーになっているんですよね。いろんなところでソコダラの写真が最近は図鑑とかに出ているので、興味のある方はソコダラの姿を見て、あっ、 あの頭はセンサーなんだと、そういうふうに思ってください」
(編集部注:深海魚は何を食べているのか・・・篠原さんにお聞きしたら、深海では植物プランクトンは生育できないので、海の上のほうから落ちてくる生き物の死骸を食べる種が多いそうです。いわゆる肉食性ということになるんですが、中には、ほかの魚の鱗を食べる深海魚もいるそうですよ)
深海魚は外見も内部も魅力的!
※これまでにたくさんの深海魚を見てこられて、どんなことを感じていますか?
「やっぱり深海魚は個性的な魚が多いので、面白いですよね。生き方というか、それになんか感動することが多いです。先ほどからも何回か言いましたけれども、オニキンメっていう魚は、実はすごくちっちゃいんですよね。顔だけ見ると非常に怖そうな、牙が発達して怖そうなんですけれども、ちっちゃくて体は柔らかいんです。
でも頭と顎だけすごく発達しているんですね。硬いんですよ。なんて言いますかね・・・潔いというか、餌を取るための器官だけは、すごくしっかり発達させて、体はわりとあっさりしているっていうか、全然防御もしないような体ね。そんな姿を見ると、なんか気持ちのいい生き方しているなっていう感じもして、そういうのに感動することがありますよね」
●では最後に『深海魚コレクション』はエックス線CTで深海魚の骨格を見せている本ですが、この本を通してどんなことを伝えたいですか?
「魚ってやっぱり美しいんだっていうのを、いろんな人に知ってもらいたいですよね。 深海魚ってどちらかというと、なんか黒っぽいとか、なんか真っ赤とか、どっちかっていうと地味な魚と思われがちなんですけれども、形は非常に面白いんです。
外見も非常に面白いんですけれども、内部を見ると、さらに深海魚の魅力に気づいて、それで魚が好きな人や魚に興味を持つ人が増えてくれたらいいなっていうつもりで書きました。対象は小さいお子さんから社会人、それから研究者まで耐えられる、そんな内容を目指しましたので、いろんな方に見てもらいたいっていうのが私の気持ちです」
(編集部注:お魚屋さんやスーパーで売られている魚にはアンコウやタラ、キンメダイのほかにも、目が光っているので関東では「メヒカリ」と呼ばれる「アオメエソ」やメバルの仲間「メヌケ」、そして篠原さんが好きな「キンキ」と呼ばれるカサゴの仲間「キチジ」など、食用になる深海魚は意外に多くいるそうです)
INFORMATION
エックス線CTスキャンで撮影した深海魚の、立体的な画像をもとにその生態や特徴などを解説、特に名前の由来などをまとめた豆知識は「へ〜〜そうなんだ!」の連続で面白いですよ。そしてなにより、今まで見たこともない深海魚の骨格や骨の隅々までわかる綺麗な画像をぜひご覧ください。オーム社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトを見てくださいね。
◎オーム社HP:https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274229060/
国立科学博物館の篠原さんの研究サイトもぜひご覧ください。
◎篠原さんの研究サイト:
https://www.kahaku.go.jp/research/researcher/researcher.php?d=s-gento