2023/3/19 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「恐竜博2023」を監修された国立科学博物館の副館長「真鍋真(まなべ・まこと)」さんです。
真鍋さんは1959年、東京生まれ。横浜国立大学卒業後、アメリカや英国の名門大学に留学し、博士号を取得。現在は国立科学博物館・副館長と、群馬県立自然史博物館・特別館長を兼務。おもな研究テーマは、恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、そして鳥類の進化となっています。
きょうは「恐竜博2023」の見所はもちろん、恐竜界の人気者ともいえる、ティラノサウルスの秘密や、真鍋さんたちが発掘し、大注目されている新種の恐竜についてもうかがいます。
ティラノサウルスも10代が成長期!?
現在、恐竜博士として大人気の真鍋さんですが、実は子供の頃から恐竜が好きだったわけではなく、大学生になったときに、地質調査をする学問を専攻すれば、世界中に旅行に行けると思い、古生物学や地質学を研究することにしたそうです。そしてその後、化石の発掘などにより、どんどん恐竜の研究にのめりこんでいったそうですよ。
そんな真鍋さんの新しい本が『きみも恐竜博士だ! 真鍋先生の恐竜教室』。この本はコロナ禍のなか、子供たちに向けて行なったオンライン授業がもとになっていますが、大人が読んでも面白い、恐竜の入門書的な本なんです。
では、この本をもとに、恐竜に関する素朴な疑問についてお聞きしていきたいと思います。
ティラノサウルスは、大きくて強いというイメージがありますが、体が大きいと維持していくのが大変で、それは寿命にも影響しますよね。ティラノサウルスの寿命は、どれくらいだったと推定できますか?
「ティラノサウルスは有名だし、恐竜の中でいちばん研究されているって言ってもいいんじゃないかなと思うんです。年齢に関しては、戸籍があるわけではないので、本当は年齢とか簡単には分からないんですけど、足の骨とか太い骨を切ってみると、例えば、大きな木の切り株を見た時に木の年輪、あれを数えると樹齢が何年って分かったりする、あれと似たような方法で、骨の断面を切ると木の幹みたいに見えて、そこに成長の跡が線として残っている場合があるんですね。
それを数えると、ティラノサウルスはだいたい寿命が28歳から30歳・・・20歳ぐらいでほぼ成長して、あとの8年から10年っていうのは、その年輪と年輪の幅がすごく狭いので、ほとんど成長しなかったようです。
だいたい20歳くらいで大人になったんじゃないかって言われていて、僕ら人でも12歳から14歳とかティーンエイジャーの頃って、グングン成長するじゃないですか。ティラノサウルスも成長期があって、年輪と年輪の幅が12歳から16歳ぐらいが広いんですよ。
人間と似てるって言うとちょっと語弊があるかもしれないですけど、10歳代にすごい成長期があったので、あんなに大きくなれて、そしてだいたい30歳ぐらいの寿命だったんじゃないですかって言われています」
(編集部注: ティラノサウルスの全長は13メートルくらいで、体重は7トンくらいだったと推定されているそうです。そんな大きな体を維持するために1日60キロから70キロの肉を食べていたのではないかということです)
爬虫類と恐竜、どこが違う!?
※続いても素朴な疑問です。爬虫類と恐竜の違いはどんなところなんでしょうか?
「爬虫類にはワニがいたりカメがいたりするんですけれども、みんな基本的に四足歩行なんですね。恐竜には二足歩行と四足歩行、両方いるんです。
で、爬虫類は地面を這って歩いていた生物だったんですけど、なぜか急に立ち上がって、足をガニ股じゃなくて、まっすぐ伸ばして歩くようになったんです。そうするとコンパスが長くなる、足の一歩一歩が長くなる、速く走れるようになりました。
恐竜も爬虫類のひとつなんですけれども、ほかのトカゲとかワニとかカメとかゆっくりしか歩けない、走れないのに対して、恐竜は速く走れるようになったので、すごく繁栄したって言われているんですね」
●そうなんですか。ところで恐竜は変温動物だったんですか?
「もともとは爬虫類なので、変温だったはずなんですけど、恐竜の子孫が実は鳥類なんです。だから今のニワトリとかハトとかカラスとかペンギンとか、みんな恐竜の子孫なんですね。
恐竜の進化の中で変温動物から恒温動物に、つまり体温が一定である・・・そうすると例えば、ほかの爬虫類が朝とか夜になると気温が下がっちゃって、体温も一緒に下がっちゃって、それであまり活発に動けなくなって、おとなしくしているイメージがあるじゃないですか。
それに対して恐竜は恒温動物になって、足のコンパスが長くなって、より活動的になっていって、それで朝でも晩でも活発に動けるようになったので、あれだけ繁栄したんじゃないかと言われています。
大きな分類では爬虫類なんですけど、恐竜の中から鳥類、鳥が進化してきたので、爬虫類と鳥類を結ぶミッシングリンクみたいな、そんな存在になっています」
新種の肉食恐竜を発見!
※真鍋さんたちの発掘隊が化石を発見した新種の恐竜がいるんですよね?
「アルゼンチンで発掘された『マイプ』という名前の肉食恐竜です」
●どんな特徴がある恐竜なんですか?
「ティラノサウルスは体が大きくて13メートルぐらいで、恐竜時代の最後の6600万年とか7000万年前ぐらいになってくると、北アメリカやアジアでは食物連鎖の頂点にティラノサウルスの仲間の肉食恐竜がいたんですね。そういう手の小さい恐竜が歩き回っていた情景がよく復元されるんです。
今回、南アメリカで調査して見つかったマイプっていう恐竜は、メガラプトルの仲間なんですけど、南半球の大きな肉食恐竜たちは手が短くなっていなかったんですよ。
“メガ”が大きい、“ラプトル”って略奪者とか泥棒って意味なんですけど、手のところに大きな鉤爪(かぎづめ)が付いているグループなんですね。だから北半球ではティラノサウルスみたいに、手が短くなって小さくなるような進化があったのに対して、南半球では手は小さくならなくて、大きな鉤爪を付けているような、そんな恐竜が繁栄していたみたいだってことが分かってきたんですよね」
●へ〜〜! 場所によって違うんですね。ところで、発掘した時はどんなお気持ちでしたか?
「発掘している段階って、地層の中に骨とか歯が埋まっている状態じゃないですか。それを研究室まで持って帰って、クリーニングって言うんですけど、砂とか泥、岩石を削っていって、それで骨とか歯を綺麗に取り出して、こんな形しているんだね、こんな大きさしているんだね、こんな特徴があるんだねってことに気が付いていくんですね。
発掘している時には肉食恐竜の化石が見つかったと、みんな喜んでいたんですけど、それが新種かどうかは実際に研究していって、この特徴はメガラプトル類の、手が小さくなっていない大きな肉食恐竜だろうなっていうのは分かっていたんです。
メガラプトルってほかにいたりするので、そのメガラプトルとどこが違うんだろうみたいなことを研究室で比べながら、これはすごく重要な違いだから、新種って言えるんじゃないかなっていうことで、こういう特徴に基づいて、私たちは新種だと思いますって論文を発表したんですね」
(編集部注: 新種として発表した肉食恐竜「マイプ」は全長が9メートルくらいだと推定しているそうです。ちなみに正式な名前は「マイプ・マクロソラックス」。「マイプ」とはパタゴニア地方の伝説に出てくる「風の死神」という意味。そして「マクロ」は「大きな」、「ソラックス」は「胴体」だそうですよ)
自然が化石を発掘!?
※マイプを発掘したパタゴニアもそうだと思うんですが、化石のありそうな場所は、環境的には厳しいところですよね?
「そうですね。いろんな場所があるんですけど、みなさんの恐竜化石の発掘現場のイメージだと、モンゴルのゴビ砂漠だったり、アメリカの西部だったり、今回のアルゼンチン・パタゴニア地方も山の上なんですけど、もうほとんど木がない草がないような荒涼とした場所なんですね。
そういう場所がなぜいいかって言うと、日本の山みたいなところに行くと、木があって草があったりするじゃないですか。そうすると毎年、雨が降ったり、雪が降ったり、風が吹いたりするんだけど、そういう植物が地層、地面を守ってくれているんですよね。
だけど、植物がないと風が吹いたり、雨が降ったり、雪が降ったりすると、地層の表面がどんどん削れていくんですね。そうすると自然が発掘してくれているようなものなんですよ。
定期的に通っている発掘現場に行くと、例えば昨年の夏、発掘をやめて帰ってくるじゃないですか。で、同じ場所に今年行ったとします。そうすると、その1年の間に雨とか風とか、雪と氷が表面をちょっとずつ削ってくれるので、同じ場所に行っても新しい化石が顔を出しているのが分かるんですよ。そうやって自然も化石の発掘を手伝ってくれるので、ああいう荒涼とした場所が見つかりやすい、見つけやすいってことだと思うんですね」
未来の恐竜博士に
※恐竜博士になりたいと思っている子供たちや学生さんに向けて、伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。
「いろいろ知りたいこととか、分かりたいことが山ほどあって、それで研究者になって、自分で解明したいな、解き明かしたいなっていうことだと思うんですよね。自分が好きなことを、知りたいことを、面白いと思うことがあるのは、すごくいいことなんです。
自分が謎に思っていることを、図鑑で調べたり、本を読んだり、研究者に聞いても分かんないことは、たくさんあったりすると思うんですけど、答えが分かりにくかったり、自分の求めている答えと違うなっていうことだったら、きっとそれは大人も世の中の研究者も、今は分かっていないことなのかもしれないんですよね。
その時にそれにがっかりせずに、自分がそれを解決してやろうみたいに、頑張らなくてもいいんですけれども、きっとまだまだたくさん分からないことがあって、これからどんどん世界中で研究が進んでいく・・・恐竜の研究をやっていると、やっぱり恐竜に国境がなかったように、学問の世界にも国境がないので、世界中の人たちと一緒にやっていって、ライバルがいたり、気の合わない人も山ほどいるんですけれども、気の合う人もたくさんいます。
そういう人たちと一緒に発掘をしたり研究したりして、恐竜の謎をひとつでも多く解き明かしていくことができるので、知りたいことがあったら、どんどん調べて、いろんな人と話をして、さらに勉強していくみたいなことって、きっとずっとワクワクすることにつながって、自分の世界も広がっていくので、ぜひ続けてほしいなと思いますね。
それから化石だけじゃなく、今生きている動物植物・・・だから動物園とか水族館とか植物園とか、博物館のあとにはそんなところにも足を伸ばして、自分の見方、それから関心のある世界を広げていってくれると、きっと恐竜のことが益々面白くなるんじゃないかなと思います」
(編集部注: 世界では新しい恐竜の発見、発表が相次いでいるそうですよ)
「恐竜博2023」の見所!
※現在、上野の国立科学博物館で「恐竜博2023」が開催されています。監修された真鍋さんに見所を教えていただきました。
「国立科学博物館では恐竜博とかそういう形で、何年かに一回、大きな展覧会をやっているんですけど、今回は2019年以来4年ぶりの展覧会です。
ポスターとかチラシとかインターネットでは、トゲトゲっていう、鎧竜(よろいりゅう)アンキロサウルスとか、体を鎧で守ったそういう恐竜のグループがいるんです。草食恐竜ですけどね。その子たちのすごくいい化石が見つかって、それがアメリカで見つかった『ズール』っていう名前の鎧竜なんですけど、その全身の実物骨格が来ています。
それから、みんなが大好きなティラノサウルス・レックスの実物化石が来日していたり、先ほどちょっとご紹介した、私たちが2020年3月にアルゼンチンで発掘してきた『マイプ』っていう新種の肉食恐竜の化石、これは実物の化石を特別にアルゼンチンから持ってきて展示しているんですけど、まだ組み立てていないんですね。だから恐竜の姿にはなってないんですけれども、その実物化石も展示されます。実はマイプはアルゼンチンでも公開されていないので、世界初公開なんです。ぜひ会いに来ていただきたいと思っています」
INFORMATION
この本には、真鍋さんたちが発見した新種の肉食恐竜「マイプ」のイラストや発掘現場の写真もあって、興味深いです。恐竜に関する専門的なことがわかりやすく載っているので大人が読んでも面白いですよ。恐竜研究の入門書的な一冊、ぜひ読んでください。
岩波書店から絶賛発売中です。詳しくは出版社のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎岩波書店HP:https://www.iwanami.co.jp/book/b616719.html
現在、上野の国立科学博物館で開催されている「恐竜博2023」は6月18日まで。ぜひお出かけください。詳しくはオフィシャルサイトを見てくださいね。
◎「恐竜博2023」HP:https://dino2023.exhibit.jp