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デュエットするテナガザル、女性飼育員に恋するゴリラ、焚火にあたるニホンザル 〜霊長類専門の動物園「日本モンキーセンター」の愛すべきサルたち

2023/5/21 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、愛知県犬山市にある「日本モンキーセンター」の学芸員「綿貫宏史朗(わたぬき・こうしろう)」さんです。

 「日本モンキーセンター」は、公益財団法人が運営する霊長類専門の動物園で、先月末の時点で56種、およそ750頭のサルのなかまを飼育・展示していて、サルのなかまに特化した動物園としては世界最多を誇ります。

 そんな「日本モンキーセンター」の飼育員さんたちがイラストや解説文を手掛けた本『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』を出されたということで、きょうは解説文を担当された綿貫さんに、オスとメスでデュエットするテナガザルや、女性飼育員に恋するゴリラなど、飼育員さんだからこそ知っている、サルたちの興味深いお話をうかがいます。

☆写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

サルたちを通して、地球と人を研究

※愛知県犬山市には、日本の霊長類学の研究をリードしてきた、現在は名称が変わっていますが、京都大学の霊長類研究所があります。そのお隣にある「日本モンキーセンター」は、実は霊長類研究所よりも早く、60数年前に開設され、飼育員のほかに調査・研究する学芸員がいる、日本の動物園としては珍しい施設です。

 そんな学芸員のひとり、綿貫さんは、1986年生まれ。ご本人曰く、熊本の山奥で育ち、子供の頃から動物好き。そして漫画「動物のお医者さん」に影響を受け、東京農工大学に進学、その後、獣医師の資格を取得。

 現在は「日本モンキーセンター」のほか、京都大学の研究員として「大型類人猿情報ネットワーク」プロジェクトに携わり、日本国内で飼育されているゴリラやチンパンジーなど、貴重な研究対象の情報を集める活動もされています。

 ちなみに綿貫さんは、日本の動物園水族館協会に加盟するおよそ90の動物園を数年前に制覇、海外の動物園にも出かけるほどの動物園マニアで、ご自分で「動物園学研究家」を名乗っていらっしゃいます。

綿貫宏史朗さん

●世界的にも珍しい霊長類専門の動物園「日本モンキーセンター」が目指していることって、どんなことですか?

「やはりサルのなかま、霊長類は、私たち自身もその一員であるということで、私たちにいちばん近い存在の動物たちなわけですよね。

 私たちにいちばん近い、いわゆる隣人というか、そういう動物たちを通して、地球環境ですとか、人がどういうふうに誕生して、どういうふうにこの地球上で生きているのか、そんなことをみなさんに知っていただくために研究をしていく、そういうような場所としてやっていきたいと、そんなことを目指しています」

愛のデュエットをするテナガザル

※先頃発売された『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』は、「日本モンキーセンター」の現役の飼育員さんがイラストを描き、綿貫さんが飼育員さんたちから集めた、とっておきのネタやサルの雑学を原稿化した本なんです。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 その中からいくつか気になったことをお聞きしていきたいと思います。シロテテナガザルは歌を歌うと書いてありますが、ほんとなんですか?

「はい、シロテテナガザルはテナガザルのなかま、私たち人に比較的近い類人猿と呼ばれる手の長いサルなんですけど、その手の甲の部分がどんな個体も真っ白なんですね。それでシロテテナガザル、白い手のテナガザルってそういう意味なんですけれど、歌を歌うんです。
 テナガザルのなかまはシロテテナガザルに限らず、歌を歌うんですね。オスとメスがペアになってデュエットで」

●へぇ〜〜!

「実はサルのなかまでもテナガザルはちょっと珍しくて、あまり大きな群れとか作らないんですね。オスとメスとその子供たちっていう、人間でいうところの核家族みたいな、そういう単位で暮らしているサルのなかまなんです。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 で、いわゆる夫婦、オスとメスのペアの絆を確認するためだとか、あるいは単位が非常に小さいので、ご近所関係はあまりよくないんですね。隣の家族にここは私たちがいるところだから、あまりこっち来ないでねって、アピールしているっていうふうにも言われているんです。
 そういうことで非常に大きな声で歌を歌って、オスとメスがそれぞれ違うパートを歌って、重ね合わせてデュエットするという、そういう特徴があるんですよね」

●大声ということは、かなり迫力がありそうですよね。

「はい、テナガザルの中でもいちばん大きなのがフクロテナガザルといって、全身は真っ黒なんですけれど、喉の下に自分の顔と同じぐらいの大きさの喉袋があって、そこを膨らませて声を共鳴させて大きい音を出す。それがサルのなかまでいちばん大きな声を出すと言われているんですね。だいたい4キロぐらい遠くまで聴こえると言われています。

 なので、日本モンキーセンターでもフクロテナガザルが、ちょうどこの収録の直前まで鳴いていたので、収録に影響が出ないかなって心配していたんです(笑)。犬山駅がちょっと離れたところにあるんですけど、その駅前でもたまに風向きによって、声が聴こえたりすることもある、すごく大きな声ですね」

●そうなんですね! 近くで聴いたら本当にものすごく大きな声なんでしょうね。

「そうなんです。園内でガイドしている時に、ちょうどそのデュエットが始まったりすると、私たちのガイドの声が来園者の人たちに聴こえないこともあったりします。そういう時は歌が止むのを待ってから、”これがお聴きいただきました通り、テナガザルの歌です”なんて、そんな話をしますよ」

女性飼育員に恋するゴリラ

●ほかに顔の色が派手なマンドリルというサルがいるんですよね。鼻筋が赤くて、その両脇が水色でとっても綺麗ですけれども、これは生まれた時から派手なんですか?

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「実は、生まれた直後の赤ちゃんの顔は真っ白なんですね。成長と共にだんだん色がついていって、初めは真っ黒い感じの顔になって、それから成長とともに鼻筋がうっすら赤くなり、顔のこぶのところが青くなる感じです。

 大人のオスですと顔が非常によく目立つんですけれど、金色のヒゲが生えたりとか、あとお尻がピンクから紫にかけた、なんとも言えない絶妙なグラデーションの色になったりとか、非常にカラフルで目立つ 動物ですね」

●顔だけじゃなくてヒゲもお尻も派手なんですね。あと、ニシゴリラのタロウくんには、お気に入りの女性飼育員がいるということで、男性飼育員が一緒にいると怒るっていうふうに本に書いてありましたけど、本当なんですか?

「そうですね。やはりなんか嫉妬みたいなものがあるようなんですね。実はうちのタロウさん、先日4月20日にちょうど50歳になったところで、日本国内のオスのゴリラとしては最高齢なんですよ。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

 非常に長寿のゴリラなんですけれど、実はドイツの動物園で生まれていて、16歳の時に日本に来ているんですね。
 お母さんが育てられなかったということで、50年も前のことなので確かな記録もないんですけれど、女性の飼育員の方が子供のタロウさんを育てたという逸話が口頭で残っています。それで女性の飼育員に特に愛着を持っているというふうに語り継がれています」

●そうなんですね〜。ちゃんとそういうふうに認識しているんですね。

「お気に入りの女性飼育員を取っていきそうな人が近くにいるのは、やっぱりちょっと不安になったりするのかもしれないですね」

焚火にあたるニホンザル

※「日本モンキーセンター」では屋久島に生息するニホンザル「ヤクシマザル」を130頭ほど飼育しているそうですが、その群れが、冬になると焚き火にあたるって、ほんとなんでしょうか?

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「日本モンキーセンターの冬の風物詩ということで、『焚き火にあたるサル』っていうのを毎年開催しているんです。実は屋久島のニホンザル、ヤクシマザルなんですけれど、今飼育している個体はすべて、犬山市生まれなんですね。屋久島から来た世代から数えると、だいたい8世代ぐらいの子孫たちっていうことになるんです。

 かなり歴史を遡るんですが、大昔この辺に伊勢湾台風という大きな台風が来た時に、近くを流れている木曽川に大量の木材とかが流れ着いたりしたそうです。

 当時ヤクシマザルたちは、ここモンキーセンターの、今ある場所ではなくて、木曽川沿いにあった『野猿公苑』っていうところで飼育をしていたんですね。そこで台風の時の木材を焚き火として燃やしていたら、そこにサルたちがいつの間にか集まってきて、暖を取るようになってきたと・・・。

 火は、焚き火は、本来だったら動物は怖がるはずですけれども、怖いよりも多分暖かくて、いいものだっていう認識になったんでしょうね。それがいわゆる群れの文化っていう形で、親から子に焚き火はいいものなんだよ、みたいな・・・教えはしないですけど、そういうものが個体から個体にどんどん学習して伝わっていったと言われています」

5つの環境エンリッチメント

※「日本モンキーセンター」では飼育方法の工夫のひとつとして、「環境エンリッチメント」という手法を取り入れているそうですね。どんなことなのか、教えていただけますか。

「環境エンリッチメントっていうのは、平たくいうと飼育している動物たちの暮らしを豊かにして、できるだけ幸せになってもらいたい。そのために飼育担当者が行なう、あの手この手の工夫のことを環境エンリッチメントと言っています。

 環境を改変することで、間接的にその動物たちの行動が変わって、それで暮らしが豊かになるという、動物の行動に直接影響させるんではなくて、環境を変えようという、そういうのを環境エンリッチメントと呼んでいます」

●具体的にはどんなことがあるんですか?

「これは本当にいろんな種類があるんですけれども、私たちの動物園では分類をしていて、5つの種類があります。
 ひとつは採食と言って食べ物に関するものですね。どんな動物も基本的に食べ物に非常にモチベーションが湧きますから、例えば1日1回決まった量だけをどさっと与えるのと、何回かに分けて、しかもそれを頑張って探してっていうのでは、食べ物にかける時間が全然違ってきますよね。

 野生だとやっぱり動物は、食べ物を探すために森の中をウロウロするとか、いろんな行動をしているわけなんですけど、動物園だとどうしても上げ膳据え膳になってしまうのを、できるだけそうしないように、野生と同じように食べ物を探す行動をやってもらいたいということで、取り組んだりするんです。そういうのも『採食エンリッチメント』って言っていますね。

 ほかにも飼育している場所、それ自体をいろいろ改変する『空間エンリッチメント』ですとか・・・それから動物たちにはいろんな社会性があります。ひとりで暮らしたり群れで暮らしたり、テナガザルみたいにペアで暮らしたり・・・そういう動物にはその動物それぞれに適した社会的な刺激、ほかの動物と一緒に飼育する、同じ種類だったり別の種類だったり・・・そういう動物との社会的な刺激を作ってあげるという『社会エンリッチメント』ですね 。

 それから感覚、視覚とか聴覚とか嗅覚とか、そういうものを刺激するような機会を与える『感覚エンリッチメント』ですとか。あるいは認知。動物もやっぱり大かれ少なかれ、みんな自分で考えて行動しているわけです。その知能を使うような機会を発揮する『認知エンリッチメント』と、今ご紹介したような5つの種類に分けて実施することが多いですね。

 環境エンリッチメントは、日本の動物園の中ではメジャーな手法になっています。たいていどこの動物園でも飼育動物に対してはやっているという、そういう状況になっていますね」

●さまざまな工夫が施されているんですね。

「例えば、動物園に行ったりした時に、動物を展示しているエリアの中になんか見慣れない人工物みたいなものが入っているぞ、なんていう時は、実はよく観察しているとそれがエンリッチメントのための道具だったりすることがあります。

 動物がそれを使って、いろんな行動が引き出されて、いろんな行動を見せてくれたりするかもしれませんので、動物園に行った時にはただ漫然と動物を眺めるだけじゃなくて、そういう飼育上の工夫がどこかしらに隠されているんじゃないかなと思って見ていただけると、動物園の見方がより面白くなるんじゃないかなと思いますね」

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

(編集部注:飼育員さんたちの大事な仕事のひとつとして、サルたちの健康管理があるそうです。そのためには個体識別が重要で、一頭一頭、顔と名前を照らし合わせて、動きや餌の食べ具合などをチェックしているそうです。サルたちへの愛情がないと続かない仕事ですね)

便利な暮らしの裏側に

※気候変動や生息環境の減少などが野生動物にいろいろな影響を与えていると言われています。綿貫さんがいちばん気になっていることはなんですか?

「やはり人間の活動がサルたちが暮らす環境を脅かしているということで、サルは基本的に暖かい地方に棲んでいる動物なんですけれども、熱帯雨林とかっていう環境が今どんどん壊されているわけですね。
 そういう熱帯の森は、例えば先進国である私たちの普段の暮らしの中で使う、家を建てる木材だとか事務所で使うコピー用紙だとか、そういうものを作るために熱帯雨林の木々が伐採されていると・・・。

 伐採した後、裸になった地面にもう1回、森を育てるのではなくて、我々が普段の食生活の中で意識せずに口にしている植物性油脂、それを採るためのヤシ油のヤシの木を育てるプランテーションになっているんですね。
 私たちの見えないところで、サルたちの暮らしがどんどん脅かされているっていう現状があるわけですね。

 と言っても、今すぐにこの暮らしを全部変えるのは非常に難しいですけれども、どこか意識の片隅で、我々のこの便利な暮らしの裏側に、そういうことが起きているって意識して、日々できるところから、ちょっとずつ行動を変えていくことが重要になってくるのかなと思うんですね。
 そういう我々の活動が野生で暮らしているサルたちの環境を脅かしているのが、気になっているところですね」

●「日本モンキーセンター」のサルたちに会いに行こうと思っている方々に、綿貫さんからここを見てほしいっていうポイントがあれば、ぜひ教えてください。

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

「当園、非常にたくさんの種類のサルたちを飼っていて、みんなそれぞれちょっとずつ違うんですね。その違いをよく観察して、体の違い、行動の違いを見て、楽しんでいただきたいですし、できるだけサルたちが幸せに暮らせるようにと、私たちは常に配慮して飼育に取り組んでいますので、動物たちが快適に暮らしている様子を楽しんでいただきたいなと思います。

 そういう様子を含めて、サルたちと同じ時間を過ごしていただいて、彼らが野生で暮らしている環境に思いを馳せていただきたいと、そういうふうなことを願っています」

写真&イラスト協力:公益財団法人「日本モンキーセンター」

INFORMATION

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

『飼育員がつくったサルの図鑑〜かならず会いたくなっちゃう56のなかまたち』

 「日本モンキーセンター」の現役の飼育さんたちが作った本です。サルたちの特徴をよくとらえたイラストが素晴らしいです。飼育員さんだからこそ知っているサルの裏話や、綿貫さんによるサルの雑学は面白いですよ。ぜひお子さんと一緒に見ていただければと思います。
 くもん出版から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎くもん出版:https://shop.kumonshuppan.com/view/item/000000003396

 公益財団法人「日本モンキーセンター」のオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎日本モンキーセンター:https://www.j-monkey.jp

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