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若き古生物学者、ウンチ化石に挑む!?〜地層から読み解く化石の謎

2023/6/4 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、千葉大学准教授で古生物学者の「泉 賢太郎」さんです。

 泉さんは1987年、東京都生まれ。子供の頃から、地球や生き物に関心があり、ざっくりいうと「昔」が好きで、歴史本や図鑑、博物館に置いている石などに興味を抱く少年だったそうです。

 その後、東京大学大学院で地球惑星科学を専攻し、2015年に博士課程を修了。専門は、古生物の活動の痕跡である「生痕化石(せいこんかせき)」に記録された生き物の生態の研究など。

 泉さんは、チバニアンの研究チームで活躍するなど、その活動が注目されている若き古生物学者です。

 ちなみに古生物学とは、泉さんによると遥か昔、地球上に生息していた生き物の暮らしぶりなどを、化石や今生きている生き物の研究を通して推論する学問だそうです。

 そんな泉さんが先頃、『化石のきほん』という本を出されました。きょうはその本をもとに、ティラノサウルスのものと考えられている超巨大なウンチ化石や、チバニアン含め、地質や地層と化石の密な関係についてお話をうかがいます。

☆資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

糞の化石を研究!?

※まずは、化石の基礎知識。
 化石は大きく2種類に区分されます。ひとつは、恐竜の骨や歯、アンモナイトなどの古生物そのものの痕跡で、「体の化石」と書いて「体化石(たいかせき)」。

 もうひとつは、足跡や巣穴、糞など、古生物の活動の痕跡である「生痕化石」。
1万年より古いものを化石と呼ぶことが多いそうです。

 泉さんは、化石の中でも「生痕化石」に着目されていて、中でも糞の化石、いわゆるウンチ化石を研究されています。

 もっとも化石にならないと思われる糞が、化石として残っているというお話に驚いたんですけど、この本『化石のきほん』に、ティラノサウルス類のウンチ化石と推定されるものが発見されたと書いてありました。どこで、どれくらいの大きさの化石が見つかったんですか?

「これは、数は少ないんですけど、カナダで見つかっています。大きさは、いちばん大きいやつで、長さが60センチぐらいで、幅というか太さが20センチですね」

●巨大ですよね〜。

「巨大ですよね。両手で持って、たぶん崇めるみたいな、そんなものだと思うんです。実は私も対面したことがなくて、そういう意味でも貴重な化石標本なんですけど・・・」

●でも、それがティラノサウルスのものだというのは、どうやってわかるんですか?

「そこがすごく個人的には興味持っているところです。論文もしっかり端から端まで読んでみると、だいたい3本の推論の柱みたいなのがありますね。

 イメージ的には事件現場に残されたあらゆる痕跡を頼りに、その容疑者が自分がやりましたって言わない限りは、厳密には証明できないので、同じようなジレンマを持っているんですけど、なんとか可能性の高い仮説を出したいというので、ひとつめの証拠がまずそのサイズですよ、でかい! 

 でかいだけだと、でかい動物だろうということにしか絞れないんですけど、次は中身ですね。でっかいウンチの一部を切り出して、プレパラートみたいなのを作って顕微鏡で見てみると、中に骨の断片とか(見つかると)肉食性のでかい動物だろうというところが第2段階ですね。

 第3段階が状況証拠・・・アリバイっていうんですかね。化石は、ウンチ化石でも骨の化石でも、必ず地層の中にもともとは埋まっているんですね。なので、登場人物を洗い出すっていうイメージで、その当時の同じ地層にどういう化石が見つかるか、いろいろ登場人物を洗い出すんですね。
 その中でこのふたつの特徴、大きいかつ肉食動物の化石の中で、いちばんでかいのはティラノサウルスだよねと! そんな感じで推論されています」

(編集部注:なぜ糞が化石になるのか、不思議ですよね。糞は、一般的には微生物などで分解されてしまうんですが、例えば、水中とか酸素が少ないところに落ちて、その後、なんらかの作用が働き、鉱物化してしまったのではないかということなんです。でも、実際のところはわかっていないそうですよ)

泉 賢太郎さん

化石と地層の密な関係!?

●泉さんの新しい本『化石のきほん』の最初のところに、地質年代表っていうのが掲載されていました。やはり化石と、地質や地層は非常に密な関係にあるということなんですね。

「そうなんです。おっしゃる通りです。この『化石のきほん』でひとつ重点的に意識したのが、”化石のきほん”というタイトルなんですね。
 その化石の文脈っていうんですかね・・・地層の中に埋まっているので、その化石からいろいろ読み解いていくためには、文脈ごとにやっぱり知る必要があるんです。化石と地層の関わりはすごく意識して書きました」

●化石の中にはいろんな情報が込められているんですね?

「そうなんです。ただ地層から取り出して、綺麗な化石だけの状態になってしまうと、見た目は美しくなるかもしれないんですけど、文脈が失われてしまうので、その途端に情報量が激減してしまうんですね。
 古生物の研究者は私も含めて、いろんな研究対象とかいろんな目的があるので、全員というわけじゃないんですけど、地層ごと化石の資料を取るということが多いんですね。

 そうすると、化石とまわりについている地層を同時に観察することができるんです。文字通り、本当に切っても切り離せないというか(情報が)埋まっているので、そこを化石だけ取り出すことができる場合もあるんですけれども、大半はこの本の表紙のようにまわりの地層ごと化石を取り出します。

 たとえば、アンモナイト化石が地層の岩石に埋まった状態のイラストが、表紙に載っているんですけど、これもこだわりのひとつです。ここに生物学を代表する有名化石のアンモナイトが、アンモナイトの化石単体じゃなくて、地層に泥岩に埋まっているこの状態を、やっぱり出したかったんですよね、表紙に」

●化石だけじゃなくて、地層ごと取る化石っていうことですね。

「まさにおっしゃる通りです。そこに地層をなくしちゃうと、化石から見ための情報は増えるかもしれないんですけど、どういう時代に生きていたのか、どういう環境にいたのかと、そういった背景にある文脈の情報が一気に失われてしまうんですね。
 目的次第なんですけれども、完全に化石のことを知るために、化石だけを見るっていうよりも、一般的には地層も含めて見たほうが、より広範囲にわかるかなと思います」

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

「チバニアン」誕生に貢献

※3年ほど前に、地質年代にラテン語で「千葉の時代」を意味する「チバニアン」が誕生し、一大ニュースになりました。泉さんも協力されたということですが、どんなことをされたんですか?

「専門のひとつである生痕化石ですね。地層に生痕化石が何種類ぐらいいるんだろう、どんな種類がいるのかなというのを観察することで、その当時の生態系の様子を推定したりですとか・・・。生痕化石も、地層がどんな環境でできた地層なんだろうっていうのを推定するのに一役買っているんですね。

 見た目は本当に何の変哲もない川沿いの崖って感じで、調査に行ってみたら、その辺の崖って感じでしたね(笑)。その辺の崖と言っても、なかなか人によってイメージが違うかもしれないんですけどね。そんなところで、文字通り這いつくばるというか、壁にぺたっと(はりついて)生痕化石を探したんです。

 こういう種類とこういう種類がいるってことは、たとえば水深帯だったら、これぐらいでとか、こういう環境でできた地層じゃないかなと・・・そういったデータを出して、それが研究プロジェクトの中のひとつの立ち位置っていうんですかね。

 地層の成り立ちを、やっぱりその由来を知らないと、ここの地層がいいと言っても、どういう理由でいいのか、どんなことがわかっているのか、なにがわかっていないのかとか・・・。ほかと比較するとこの辺がやっぱり優れていると、一個一個証拠を出すということで、生痕化石の観察というところでは、うまくひとつデータを出せたかなと思っています」

●あの一大ニュースの裏には化石が活躍していたわけですね!

「ほかにも目に見えないぐらいちっちゃくて、顕微鏡じゃないと見えない、微笑の微に化石と書いて“微化石”って言って・・・」

●微化石!?

「それはそれで顕微鏡から広がる形も多様で、いろいろ見た目も綺麗なんですけれども、そういったちっちゃい、人知れず崖の中の泥とか砂粒の粒子と同じぐらいの大きさの、そういうのを一個一個取り出して調べて、どれぐらいの年代だったんだろうとか、あとどういう環境でできたりするのかなとか、そういうのを調べたんですね。ということで、千葉の名前が世界中に、地質学の中でもひとつ認知されたと・・・。

 たとえば有名な地質時代、ジュラ期っていうのがあると思うんですけど、『ジュラシックパーク』『ジュラシックワールド』のジュラシックが、”ジュラ期の”っていう意味なんです。あれも地名なんですよね。ジュラ山脈っていうヨーロッパの地名から来ているんですね。ジュラ期とかジュラシックが有名になりすぎて、地名に由来しているんだっていうこと自体が逆に(知られていないと・・・)。

 けっこう地名が由来となっている場合が多くて、ほかにもペンシルバニア期とか 、“ペンシルバニアン”って言いますし、意外と地名由来っていうところがあったりします」

(編集部注:泉さんによると、古生物学の研究が盛んなのは、太古の地質が残っているヨーロッパで、国でいうと、ドイツやイギリス、フランスなどだそうです。一方、恐竜の化石が多く見つかっているのは、アメリカやカナダ、中国あたりだそうですよ)

資料協力:『化石のきほん』泉 賢太郎 著、 菊谷 詩子 イラスト(誠文堂新光社)

化石は意外と日常に!?

※化石は意外と私たちの身近にあったりしますよね?

「“近すぎて見えない化石”と呼んでいるんですけど、たとえば珪藻土(けいそうど)、吸水性がいいので、よくバスマットとかに使われていますよね。あれも珪藻って植物プランクトン、目に見えないちっちゃいプランクトンがガラス質の殻を持っているんです。
 そのプランクトンの本体の、アメーバ状の部分は化石に残らないんですけど、そのまわりを覆っている殻が化石になって、たくさん集まっていると・・・化石の殻にいっぱい穴が開いているんですよね。吸水性がいいってのはスカスカなんですよね、珪藻土のマット自体。なので、水が効率的に染み込んでいくということなんです。

 本当に感動しますよね。足を乗っけてすぐ乾いている、みたいな! 緻密な岩石で、中にスカスカの空間がほとんどないやつだと、水がベチャってなったまんまっていうのがあると思うんですけど、珪藻はガラス質で穴がたくさんあるスカスカな化石がいっぱい詰まって、そのスカスカの部分がいっぱいあると水がすぐ浸透していくと、そういうことが起こります。
 あとはビルの石材とかですかね。デパートの白っぽい壁や床に大理石が使われたりとか。そういうところにアンモナイトの化石があったりすることもありますね。

 個人的には、お寺の石碑っていうんですかね。黒っぽい文字が刻まれたりしているんですけど、そこにむしろ生痕化石を見ちゃうと。文字は読めないけど、なんて書いてあるかわかんないけど、生痕化石はあるな! みたいな、そういう体験もします」

●素人の私たちが、なにか見つけるコツがあったりしますか?

「あると思います。一応こういうやつがいるかも知れないよみたいな、いくつかの鑑定ポイントみたいなのはありますね。ただ日常生活だとやらないぐらい(石碑に)近づかないと・・・。触れられないところでも見ることはできると思うので・・・生痕化石のひとつのいいところって、見て楽しめるっていうんですかね。採取禁止みたいなところでも、あ〜こういう生痕化石があったと・・・そこから僕も話が盛り上がっていきますよね」

(編集部注:お寺の石碑などに生痕化石が見つかることもあるということでしたが、見つけるコツはまわりと違う模様や構造を探すことだそうですよ。じっくり根気よく見るしかないですね。ちなみに泉さん自身は、化石探しはうまくないとおっしゃっていました)

泉 賢太郎さん

ワクワクする気持ちを大事に

※最後に、古生物学を勉強したいと思っている子供たちや、学生さんに向けて伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

「これはですね、いちばんここが本でもこだわったところで、ページ数としてはあまり割いていないんですけど、ぜひ興味を持ち続けて、それで目の前の勉強に一生懸命取り組んでくれればいいかなと思っています。

 というのも私自身も・・・ほとんど過去の自分に向けて言っているような感じになっていますけど、いわゆる同じぐらいの世代で、めちゃめちゃ詳しくて経験もあって、化石のこともよく知っていて発掘もしていてっていう人がいると、どうしても、比べたくなくても比べちゃって、こんな自分でもやっていけるのかなって思うかもしれない。

 研究はまた別の枠組みだなとすごく感じています。そこは過去の経験の差が生きることもあるかもしれないですけど、思っているほど関係ないのかなと・・・ちゃんと目の前の勉強を一生懸命するとか、目の前のことに取り組む。

 あと何よりも、古生物学の研究をやってみたいな、そういう研究者になってみたいなと思っているのであれば、その気持ちを持ち続けて欲しい。研究をやり始める前にやっぱり自分には無理だっていう子がすごく、もしかしたらいっぱいいるのかもしれない。それってすごくもったいないなと思うんですよね。

 経験がなくても好きだ、興味があるっていう気持ち自体が、ひとつ素晴らしいことかなと思います。化石発掘とかよく知らないからダメなんだじゃなくて、なんかよくわかんないけど、ワクワクするっていう気持ちがあったら、それは大事にしてほしいなって思いますね。
 ただそれだけでやっていけるわけでもないので、やっぱりちゃんとした学校の勉強とか、そこは本当に礎かなと思うのでしっかりと、まあ世代にもよるんですけど、勉強を頑張るといいかなと思います」


INFORMATION

『化石のきほん~最古の生命はいつ生まれた? 古生物はなぜ絶滅した? 進化を読み解く化石の話』

『化石のきほん~最古の生命はいつ生まれた? 古生物はなぜ絶滅した? 進化を読み解く化石の話』

 チャプター1の「ようこそ、化石の世界」からチャプター5の「めざせ、古生物学者」まで5つの章に分かれていて、全部で60項目ありますが、見開き2ページで完結しているので興味のあるところから読めますよ。イラストも豊富で楽しめます。化石の入門書的な一冊、ぜひチェックしてくださいね。
 誠文堂新光社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社HP:https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/78757/

 泉さんのオフィシャルサイトもぜひ見てください。

◎泉 賢太郎さんHP:https://www.cn.chiba-u.jp/researcher/izumi_kentaro/

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