2023/8/13 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、苔クリエイターの「石河英作(いしこ・ひでさく)」さんです。
石河さんは1977年、東京都生まれ。もともと植物好きだった石河さんは2013年に苔の専門ブランド「道草michikusa」を立ち上げ、ネットで苔テラリウムを販売しているほか、you tubeの道草チャンネルでその作り方や育て方などを発信されています。
そして先頃、『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』という本を出されました。きょうはそんな石河さんに、初心者向けに見ているだけで癒される苔テラリウムの作り方などをうかがいます。
☆写真協力:石河英作
道端の苔に日の目を
※石河さんは、もともと植物に関係するお仕事をされていたそうですが、苔を専門にしようと思ったのは、どうしてなんですか?
「卒業してから贈答用の胡蝶蘭とか、ああいう蘭のお花を開発している会社に勤めていたんですよ。蘭のお花って華やかで、ギフトでもらってとか、そういうイメージがあるじゃないですか」
●存在感もありますしね。
「存在感もあるし、高級っていうような・・・そういうのはそういうので楽しくやっていたんですけど、あれは育てるっていうよりは、胡蝶蘭も開店祝いとかでいただいて、そこで一回終わってしまうみたいな感じがして・・・自分で何か植物の仕事を始めるなら、育てることをやりたかったんですよね。
で、そういうふうに考えた時に、蘭の足元にも苔を使ったりとかっていうのがあるんですよ。それって苔が脇役っていうか添え役というか、蘭の日陰にちょっと使うだけっていう感じがするじゃないですか。でも苔って日本にいっぱい生えているし、国歌にも歌われているのを考えた時に、もっと日の目を当ててあげることができたら、みんな楽しめるのかなと思ったりとか・・・」
●確かに国歌にも出てきますね!
「出てきます。苔のむすまで、って・・・」
●そうか、そうですね!
石河さんが立ち上げられた苔の専門ブランド『道草michikusa』、すごく素敵なネーミングだなと思ったんですけど、どんなコンセプトなんですか?
「ふたつの思いを込めています。ひとつは本当に道端の草、ありふれているものって、その辺にも生えるんで、強いじゃないですか。そんなに育てる対象にされてない、それを何か工夫してあげるとかっこよく見えたりとか。
実は日の目を浴びてないんだけど、この器に入れてあげたら、すごく引き立つものって多分まだまだ溢れていて、そういったものに注目したい、道端に生えている草にも注目したいっていうのがひとつと・・・。
あとは、都会で働いていて疲れちゃうみたいな、日々忙しくてっていうことがあるのを、育てるだけじゃなくて、道草するように植物に触れて・・・今メインでやっている、ガラスの中で育てるテラリウムも、自分で作って育てるみたいなのが楽しかったりするので、それって自分の生活の中で、すごくスローな時間だと思うんですよね。
苔とかそういう小さい植物って、成長していくのもすごくゆっくりで、日々見ていても全然変化がなくて、1ヶ月2ヶ月ぐらいすると、ちょっと大きくなっていたぐらいのペースの成長の仕方なんですよ。それってこの都会の忙しさと時間軸が違うっていう感じがあって、そういう部分で道草するようにこの植物を愛でていただきたいなっていう、そういう思いとそのふたつが込められています」
(編集部注:小さな植物「苔」には、一般的な植物のように、水や栄養を吸い上げる根などがなく、葉っぱや茎から直接、細胞に取り込むそうです。根の代わりに「仮」の「根」と書く「仮根(かこん)」という器官があり、それを使って石や木に体を固定しているとか。
そんな苔植物は「蘚類(せんるい)」「苔類(たいるい)」そして「ツノゴケ類」という3つのグループに分類され、園芸用に育てられているのは「蘚類」に属する種類だそうですよ)
ジメジメ好き、カラカラ好き!?
※日本には何種類くらいの苔がいるんですか?
「日本に生えているものでも毎年(新種が)見つかるので、正確な数は言えないんですけど、現在1800種類超えぐらいな感じですね。世界を見ると18000種類ぐらいいるそうです」
●どれも同じように見えますけど、違うんですよね。
「プロの人が見ても、実は区別がつかないぐらいわずかな差だったりするんですよ」
●なのにたくさんの種類があるんですね。
「それも面白いですよね。種類を見るのにまずはルーペ、虫眼鏡を使って観察するのはマストですね。その先に細かい種類まで見ていこうと思うと、顕微鏡で葉っぱの形とかを見たりして、種類を特定していくっていう、すごく狭いジャンルですね」
●花は咲いたりしないと思うんですけれども、どんなふうに増えていくんですか?
「そうなんです。苔は花は咲かない植物で、胞子を使って基本は増えていきます。胞子っていうのは、苔には基本オス、メスみたいな、雄株と雌株・・・たまに合体している同種っていうのがいるんですけども・・・雄株と雌株があって、それが受精すると胞子体っていう球状のものがぴょこんと出てきて、その胞子体の中にはすごく細かい胞子って呼ばれるものが詰まっています。
その胞子が風とかでパーッと飛ばされて、いろんな場所に行き着くんですよね。その場所がたまたま 苔にとって生えやすい居心地のいい場所だと、そこから胞子が発芽して新しく苔が増えていくというような増え方をしています」
●繁殖力は強いほうなんですか?
「どう言ったらいいんだろう・・・みるみるどんどん広がっていって、この敷地を埋め尽くすみたいな、空き地に雑草が生えるみたいな意味での繁殖力っていうのは、そんなに強い植物ではないんですね。逆にほかの大きい植物が生えないような場所、そういった場所にも適応できるっていうのは苔のすごさです。
海浜幕張の駅からここに歩いてくるまでの間でも、道路脇とかをよく観察すると、日当たりがいいところにも生えていたりします。苔はすごくジメジメしたところだけってイメージがあるんですけど、日本に1800種類いる中には、ジメジメが好きなやつもいれば、カラカラが好きなやつもいたりします。
大きい植物が生えるような草地とかにいっちゃうと、体が小さいので苔って負けちゃうんですよ。いろんな隙間隙間、ほかの植物が来ないところとか・・・で、苔同士の中でも争いがあるわけです。同じ石の上にいろんな苔の胞子が落ちた時に、誰がいちばん勝つのかみたいなところの争いがあって、その争いに勝つために、ほかの苔にはやれない場所に、俺はやれるぜみたいなところで居つけるというのが特徴ですね。
だから繁殖力っていう意味でいうと、ほかの植物が行けないところに行けるので、すごく繁殖力があるみたいなイメージもあるんだけど、ほかの植物が居心地のいいところでは完全に負けるっていう・・・」
(編集部注:街中でよく見られる苔は、ジメジメしたところが好きな「ゼニゴケ」、そして道路脇など日当たりの良い場所を好み、乾くと銀色に見える「ギンゴケ」、その2種類だそうです)
テラリウムの語源は、ラテン語で「テラ」は陸地、「リウム」は場所を意味する造語で、密閉された透明なガラスケースの中で、陸上の生き物を育てる方法のことを、テラリウムと言うそうです。
その起源は19世紀のヨーロッパで発明されたガラスの容器、その名も「ウォードの箱」。当時、世界中の珍しい植物や、役に立つ植物を探し求めて、プラントハンターが中南米やアジアに渡っていました。移動手段は船だけだったので、長い船旅の間、満足に水やりもできず、また潮風にさらされることもあり、採取した植物を生きたまま持ち帰るのは、とても難しいことでした。
それを解決したのが、イギリスの医師ウォードで、ガラス容器の中では水分が循環することを発見し、「ウォードの箱」を開発したそうです。テラリウムにはそんな歴史があったんですね。
初心者向け「苔テラリウム」の始め方
※石河さんが先頃出された本『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』には苔テラリウムの作り方などが載っています。初心者におすすめの苔や作り方を教えてください。まずは、どんなガラス容器を用意すれば、いいんでしょうか?
「蓋ができるガラス容器・・・初心者の方だとあんまり小さすぎると、ピンセットで植えるので、結構器用じゃないと大変なんですよ。雑貨屋さんだとか100円ショップでも、小さめ小瓶とか買えるんですけども・・・だいたい8センチから10センチぐらい直径がある、口が広い容器のほうが手も入るのでいいですね。それで蓋ができるもの。テラリウムは容器の中に湿気を保てるのがポイントになりますので、蓋ができるものを選んでください」
●道具はどんなものが必要ですか?
「道具は最低限、ピンセットとハサミと、水やりをするのに霧吹き、この3つがあれば大丈夫です」
●すごく手軽に始められそうですね。
「そうですね」
●初心者にはどんな苔がおすすめですか?
「苔の種類も本を見ていただくといっぱい出ているんですけど、種類によって育ちやすい育ちにくいが当然あります。初心者の方だと『ヒノキゴケ』っていう種類と『ホソバオキナゴケ』って種類、この2種類が特に丈夫なのでおすすめです。
ホソバオキナゴケはちょっと背が低くて、テラリウムで芝生とか草原っぽいようなイメージで植えるのに向いているものですね。ヒノキゴケはちょっと背が高めの種類なので、(その2種類を)合わせると、草原の中に木が生えているみたいな景色を作ったりとかもできるので、このふたつをまず覚えてもらうといいと思います」
●これは、販売されている苔を使うんですか?
「そうですね。今おすすめした2種類もそうなんですけど、テラリウムに使える育てやすい苔は、どちらかというと街中に生えている苔よりも森の中、常にしっとりした環境に生えているものが育ちやすいんですね。
街の中って公園とかでも、じめっとした時間もあれば、結構ドライになる季節とかドライになる時間もあるじゃないですか。そういったところに適している苔が生えているので、瓶の中に安易に入れてしまうと、結構すぐダメになります。だから苔だからなんでも瓶の中に入れたらいいのかっていうと、そうでもないんですよね」
●なるほど〜! 日頃のお世話の点で注意すべきことってありますか?
「基本のお世話は、だいたい2週間に1回ぐらい霧吹きで、シュッシュぐらいじゃダメなので、よく湿るぐらい水をかけてあげる・・・苔を植える時に下にテラリウム用の土を敷くんですけれども、その土もしっかり湿らせるぐらいに水をあげるんですが、それも毎日あげる必要はなくて、2週間で忘れそうだったら、毎週1回は苔を観察する日 みたいなのを設けてもらって、苔の様子を見ながらシュッシュッシュって水やりをしてもらう・・・」
●湿っているかは、目で見てわかるものですか?
「慣れてくればわかります。土も乾いてくると湿った時と色合いが変わってきますので、それがわかるぐらい、できれば毎日見てもらいたいっていうのが本当の気持ちです」
(編集部注:石河さんによると、街中に生えている苔を持ってきて、ガラス容器の中に入れると、虫がわいてきたりするので、苔テラリウム用に販売されている苔を使ってくださいとのことです。
また、ガラス容器内の苔はレースのカーテン越しの光や、LEDライトでも育つので、直射日光と暑さは禁物だそうですよ。
石河さんの新しい本には、数種類の苔を使った寄せ植えの苔テラリウムも紹介されています。コツとしてはタイプの違う苔を組み合わせること。
また、苔玉の作り方も掲載されていますが、石河さんがおっしゃるには、苔玉は苔テラリウムと違って、基本は屋外で育てるものだそうです。詳しくはぜひ本をご覧ください)
自然の景観をテラリウムで再現
※日本の苔テラリウムは、テラリウム発祥地ヨーロッパほか、アジア圏でも大人気だそうです。人気があるということはニーズがあるということで、自然界から勝手に苔を持ってきてしまう、そんな問題も起こっているとか。石河さんは苔を愛するひとりとして、こんな指摘をされています。
「苔ってその辺にもありふれているように見えるものじゃないですか・・・っていうのもあったりして、街中でも(苔を)安易に採ったり、あとは旅行先の山でも、いっぱい生えているんだから、ちょっとぐらいいいんじゃない、苔なんてただみたいなもんでしょ、みたいな感覚で採られてしまうのが、やっぱりここ数年特に苔の人気が出てきてから起こっていますね。
当然のことながら、他人の敷地で採ったりだとか、山も国定公園、特に苔の景勝地っていうか自然な景観が守られているところって国定公園になっていたりするので、そういったところは苔を含む動植物を採取すること自体が、法律的にNGだったりするんですよ。
そういったところで、わずかなひとつまみの苔であっても、そこの中に生態系があったりするので、安易に採るのは当然よくないことですし、大きい塊の一部を採ったことによって、綺麗に塊になっていた(苔の)一部から、なんて言うんですか・・・ここに小さい世界が作られているので、採られた一部がきっかけで、全体が枯れてくるみたいなことが苔ってあるんですよ。塊になっているから、ちょうどいい水加減を塊で保っているみたいなところがあります。
安易な行動が、あとの人たちも見に行きたい景観を壊してしまったりみたいなことがあったりするので、できるだけ自然な中のことは目に焼き付けたり、写真に撮ったりして、その風景をあらためて家で、テラリウムとかを作って再現するみたいな楽しみ方をしていただきたいなと思います」
「東京苔展2」開催
※9月に苔のイベントを計画されているそうですね。どんなイベントなのか、教えてください。
「『東京苔展2』というイベントです。板橋区立熱帯環境植物館で、苔の企画展を予定しております」
●どんなイベントになりそうですか?
「苔が好きな人って、今でこそテラリウムは少しずつ認知されてきているんですけど、まだまだ“私、苔が好きなの!”ってカミングアウトしづらいようなところが、実は苔好きの中ではあるんですね。密かに通学途中とか通勤途中に苔が生えているの、いいよねって思っているんだけど、職場とか学校でも友達とかに言っても“何?”とかって言われちゃうんで、言えないっていう人が結構いるんですよ。
そういう人たちが東京とかこの近郊にもいるんじゃないかなっていうので、そういった方々が“苔好きだよ!”って言える場所みたいなのを作りたくて、企画を始めたんですよ。
そういう一般の方とか愛好家の方の投稿してくれた写真を展示したりだとか、あとはテラリウムの作品はプロのテラリウムの作家さんが作ったものだとか、そういったのを並べたり展示したりします。
(会場の)植物園の中に温室がありまして、その中にもやっぱりちょこちょこと苔が生えているので、普段は大きい植物とかお花が、試作植物を飾ってある植物園なんですけども、そのお花とか木は見ないで、足元の苔だけを見て回りましょうっていう苔マップとか。あとはツアー動画も作りまして、その動画を見ながら足元を這いつくばって歩いてもらうっていう企画を考えていたりします」
●楽しそうですね〜! いいですね! 以前、苔役者の石倉良信さんに番組にご出演いただいたことがあるんですけれども、石倉さんも参加されますか?
「石倉さんも参加します。その観察動画は石倉さん出演です」
●そうなんですね! 石河さんは苔を通してどんなことを伝えていきたいですか?
「やっぱり出だしが(苔を)育ててもらいたいっていうところから始まっているので、苔って身近に生えていてすごく小さい植物なので、まだ植物を育てていない人でも気軽に置いてもらいやすい大きさだと思うんですよ。
テラリウムだと2週間に1回ぐらい水やりすればいいっていうと、働いていて忙しい人でも始めやすいじゃないですか、っていうところで、部屋に植物はないんだけど、何か植物を置いてみたいなって言った時に、まず苔から始めてみようって思ってもらえたら嬉しいなと思います。
で、その先に次のステップでいろいろな植物を育ててもらってもいいですし、そのきっかけが作れたらいちばん嬉しいですね」
●改めてになりますが、石河さんを虜にしている苔のいちばんの魅力とはなんでしょう?
「いちばんの魅力は、ぱっと見たら苔って緑の塊で、もう苔でしかないんだけど、ぐっと近づいてルーペとかを覗いた時に、種類が無数にあって、本当に小さな苔の森が広がっているように見えるんですよね。その違いを、遠目で見た時と近くで見た時の違いっていうのがすごく面白いので、ぜひ(苔に)近づいてみてもらいたいです」
INFORMATION
『はじめての苔インテリア〜苔テラリウムから苔玉、苔盆栽まで』
初心者に向けて、苔テラリウムや苔玉などの作り方が豊富な写真でわかりやすく解説してあります。全編カラーなので、みずみずしいモスグリーンを見ているだけで癒されますよ。この本を参考にあなただけの「苔インテリア」を作ってみませんか。家の光協会から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎家の光協会:https://www.ienohikari.net/book/9784259567620
石河さんが立ち上げた苔の専門ブランド「道草michikusa」のサイトでは素敵な苔テラリウムも販売。また、9月12日から10月1日まで板橋区立熱帯環境植物館で開催される「東京苔展2」の案内も載っています。詳しくは「道草michikusa」のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎道草michikusa :https://www.y-michikusa.com/blog/topics/7472/