2023/8/27 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ペンギン愛好家の「木村悦子(きむら・えつこ)」さんです。
木村さんは上智大学卒業、複数の出版社に勤務後、編集事務所「ミトシロ書房」を開業。現在は雑誌、書籍、WEB記事などの編集・執筆、そして撮影も行なっていらっしゃいます。そして先頃『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』を出されました。
水族館取材をきっかけに、すっかりペンギンにハマってしまった木村さんは、本を出すにあたってペンギンが飼育されている水族館や動物園、数十箇所を取材。中には年間パスを買って、週一で通っていた施設もあったそうです。
きょうはそんな木村さんに、日本の水族館や動物園で会えるペンギンたちの、知っていそうで知らない生態や、ペンギン観察におすすめの水族館のお話などうかがいます。
☆写真協力:木村悦子
可愛いのに体育会系!?
※日本では12種のペンギンに会えるということですが、いちばん多く飼育されている種は、どのペンギンなんですか?
「圧倒的にフンボルトペンギンが多いと言われています。この表紙にもあるんですけど、白黒で顔のくちばしのまわりに、ピンクの地肌がちょっと露出している可愛いペンギンちゃん、これだと思います」
●やっぱり多いっていうことは、飼育しやすいってことなんですか?
「はい、南米のチリやペルーの温帯に棲んでいるペンギンなので、日本の気候とそんなに変わらないっていう点と、長い飼育・繁殖の実績があるからなんですね。
こういうことになったら、こうすれば卵が生まれるよね、こういうペアはいいよね、みたいなのが、飼育員のかたや獣医師のかたの間で蓄積があるので、やっぱり繁殖はうまくいくみたいで、年に2回繁殖可能になることもあるそうです」
●一方で飼育員のかたに人気なのが、ジェンツーペンギンと本に書かれていましたけれども・・・。
「小尾さん、ぜひジェンツーペンギンのページをじっくりご覧いただきたいんですけど、この顔、これは脊髄反射で可愛い! っていう反応が出ると思うんです。ジェンツーペンギンが動いていると、なんか猫っぽいっていうか、たまに気が向いたら、見ている人を追いかけてくるんですよ。これをされるとやっぱり動物好きはコロっといく!」
●興味津々というか好奇心旺盛なんですね! 可愛い!
「そうそう、人間好きだーみたいな感じで、この30ページ、飼育員を執拗に追いかけるペンギン! これもなかなかいい写真が撮れました!
今(大阪の)海遊館で飼育員さんの掃除を邪魔するみたいな、邪魔になるから抱き抱えるみたいな、そういう面白いのが話題になっていますけど、ペンギンも哺乳動物、猫や犬みたいなじゃれかたをしてくるので、すごく見どころがあると思います」
●飼育員のかたのブラシとかホースにじゃれつくと、写真の説明にありますよね。可愛いですね〜。
「そうなんですよ〜。目がすごく、遊んで〜みたいな感じで言っているみたいで・・・」
●人懐っこいんですね〜。
「そうです。そんな感じがしますよ」
●でも泳いだりとか潜ったりする能力はすごいんですよね?
「そうなんです! これが自分の印象としては(ジェンツーペンギンは)美ペンギンって感じだったんですけど、取材に行けない所はプロのフォトグラファーにひとりで行ってもらって、写真だけ撮ってもらったんですけど、女性のフォトグラファーが“ジェンツー(ペンギン)は 体育会系だ!”みたいなことをコメントしてくれて、すごく本質をついていると思って、そういう気づきもありました」
●どれぐらい速く泳げて、潜れるんですか?
「最速35キロ、水深80メートルまで行けるっていう記録があるみたいですよね」
●いや〜すごいですね!
「そうなんです! 山口県に『海響館』という水族館があって、そこにペンギンの遊泳能力、どんだけ早く泳げるの? どんだけ深く潜れるの? っていうところに着目した水槽があって、それをみなさんご覧になると、ペンギンの身体能力はすごすぎないか! っていうところに気づいてもらえるんじゃないかと・・・」
世界最大のペンギン、デカっ!
※続いて、エンペラーペンギンのお話です。
●世界最大のペンギンも日本で見られるんですよね?
「『名古屋港水族館』と(和歌山の)『アドベンチャーワールド』にいます」
●写真を見ると、いわゆる白黒のペンギンの色ではなくて、胸元がオレンジ色だったりとか背中が灰色だったりとか、綺麗だなと思ったんですけれども・・・。
「本当に現物は写真よりもっと綺麗なんですけど、この黄みのところとか、ぜひ生体を見る時にじっくり見てほしいなと。光の加減でまたさらに綺麗な色になったりするので、これで異性の気を引いて、性的なアピールになるんじゃないかって言われています」
●サイズはどれぐらいなんですか?
「サイズは身長約120センチ、けっこう大きいですよね」
●そうですよね〜。
「これ、文字で120センチ、あ、そう!って感じで予習していくと、デカ!って感じで(笑)、あまりの大きさに、これは何かの間違いじゃないかっていうぐらいデカいです(笑)」
●圧倒的な存在感ですよね。
「よくそんなんで生き延びてきたなっていう、謎の感慨が・・・」
●生息地はどの辺りなんですか?
「生息地は南極圏内の海氷上と南極海ですね。繁殖期になると南極大陸周辺の海氷、浮氷上でコロニーを形成するという生態があるようです」
●飼育できる施設は限られているみたいですけど、それはどうしてなんですか?
「南極の水温と光を再現するために大変な光熱費がかかります」
(編集部注:世界最大のエンペラーペンギンに対し、世界最小のコガタペンギンも日本で飼育されています。その体長はおよそ35センチ、エンペラーペンギンの4分の1くらいでしょうか。妖精のようなので、フェアリーペンギンとも呼ばれるコガタペンギン、ほんとちっちゃくてキュートです。ぜひ木村さんの本でチェックしてください)
ふれあいペンギンビーチ!?
※木村さんの本にユニークな展示を行なっている施設が載っていました。「長崎ペンギン水族館」には9種類のペンギンが飼育されているそうですね。どんなペンギンが飼育されているんですか?
「これを読み上げますね。キングペンギン、ジェンツーペンギン、ヒゲペンギン、キタイワトビペンギンとミナミイワトビペンギン、フンボルトペンギン、マゼランペンギン、ケープペンギン、コガタペンギンです」
●9種類、多いですよね〜。
「そうなんですよ。水族館・動物園に行くと“ペンギン、展示しています”ってあっても、だいたい1種類なので、ああこれがフンボルトペンギンかぁ〜って散漫と見て、あんまり頭に残らないんですね。
(長崎ペンギン水族館は)似たような3種、フンボルト、マゼラン、ケープが同じ・・・同じって一応、柵で区切ってあるんですけど、比べることによって、それぞれの特徴が際立ってくる、比べてわかるっていう点で、いろんな種類が同じ施設で見られるって意味では、すごく価値があるところだなと思います」
●1年を通じて実施されているイベントもあるんですよね?
「そうなんです。天然の海を区切ったプールがあって、ペンギン10羽ぐらいが、そこにみんなで歩いていて、決まった時間、天然の海で泳いで楽しく過ごすっていう『ふれあいペンギンビーチ』っていうのをやっておられて、これが素晴らしいです! 自分は見られなかったんですけど、羨ましいなと思っています」
●ふれあいペンギンビーチ!?
「そう、カラッと晴れた日にペンギンを見に行こうっていう贅沢ってあるなと思っていて、夏はおすすめという感じで2ページ書きました!」
●写真も豊富に載っていましたね。
「そうなんです」
●賞も受賞されたんですよね?
「はい、これはペンギンの幸せな暮らしを実現するため、飼育環境に工夫を加えて環境を豊かで充実したものにしようという試みが評価されて、『エンリッチメント大賞2013』の大賞を受賞したっていうお話を聞いています」
●すごいですよね〜。一方で北海道では旭山動物園が行動展示でも知られていますけれども、ペンギンの散歩も有名ですよね?
「旭山(動物園)に行かれたことありますか?」
●ないんです〜〜。
「なかなか遠いから〜」
●そうなんです、行きたいんですけど・・・。散歩するペンギンはどの種類なんですか?
「キングペンギンが登場します」
●これは通年開催されているんですか?
「寒いところのペンギンだから、暑い中で歩けないので、雪がないと実施できないんですね。なので、だいたい12月下旬ぐらいから、翌年の3月頃までっていうことで公表しているみたいですね。ただペンギンの体調とか、羽が生えかわって健康管理の面からやめようみたいなことがあるので、おすすめは1〜2月に行くのがいいですよっていうのを飼育員さんに聞いています」
(編集部注:水陸両用のペンギンたちが飼育されている施設では陸上の部分と、泳ぐためのプールが設置されていますが、プールの水は真水、それとも海水、どっちでしょうか? 答えは、どちらもあり、なんです。木村さんの本によれば、海に近い施設は海水を使ったり、また、人工海水を使うところもあれば、真水を使っている施設もあるそうです。
ペンギンの優れた体の秘密
※ペンギンは進化の過程で飛ぶのをやめた鳥だと思うんですけど、水中を飛ぶように速く泳げるのは、どうしてなんでしょう?
「体の作りが泳ぐのに適しているというのがあると思うんですね。まず、骨の密度がすごく高くて、深く潜ることに適している。体が流線形で水中での抵抗がなくなって、ちょっとフリッパー(羽)をパタって動かすだけですっと進む、という体上の利点がある。さらに、すごく太い胸の筋肉で翼を動かせるので、陸上ではぎこちないヨチヨチ歩きでも、水中に入ったら強すぎる、早すぎる(笑)」
●ギャップがすごいですよね〜。
「本当におっしゃる通りだと思います」
●ペンギンが長く潜っていられるのは、何か秘密があるんですか?
「これもこの本の、今回のキモかなと思っているんですけど、『気嚢(きのう)』という肺から分岐した袋状の器官があって、これはほかの鳥にもあるんですけど、ペンギン(の気嚢)はすごく大きく発達しているという特徴があります。
この中に空気を溜めたり、出したりすることによって、水中で呼吸の補助をしてくれるので、長時間息継ぎをしなくても泳げるということが確認されています。
この気嚢が袋なので、死ぬとぴしゃって潰れちゃうらしいんですよ。だからペンギンをたくさん解剖したっていう先生でも、この気嚢がどんな姿をしているのかを現物では見られないんです。それを今回様々な大学の先生、獣医師さんの力を借りて、おそらく世界初だと思うんですけど、図解化に成功しているので、これをぜひみなさんに見ていただきたい。
これはイラストがあまりにもよく出来すぎたということで、出版社でこの版権を買い取って、これをぜひ動物園や水族館に展示してほしいなっていう小さなプロジェクトもあるので、ご興味のあるかたは出版社にお問い合わせいただけるといいかなと思っています。無料でパネルを・・・。
ペンギンの体の中はどうなっているのかって、夏の自由研究に最適のテーマじゃないかななんて・・・ちょっと地味ですけど、絶対いいと思います」
●体を覆っている羽毛にも秘密があるんですよね?
「そうですね。羽毛もやっぱり完全に水をはじく・・・動物園の昔の写真を見たんですけど、ペンギンに水がかかっていても、全部完全にはじいている写真を見て、あ〜やっぱりペンギンは高性能だなって思いました」
●防水性が!
「本当に体の細部に至るまで、すごく精緻な構造になっているんだなと思って圧倒されますね」
(編集部注:千葉県内でペンギンが見られる施設は、鴨川シーワールド。ここでは南米チリの沿岸を再現し、フンボルトペンギンを展示。ほかにもキングペンギンやジェンツーペンギンも見られます。そして、千葉市動物公園ではケープペンギンが飼育されていますよ。ペンギンたちに会いに、お出かけされてみてはいかがでしょうか)
絶滅危惧種のペンギンたち
※おすすめのペンギンの観察方法、ここを見て欲しいというのがあれば、ぜひ教えてください。
「ペンギンを見ていると、可愛い!ってみんないうから、可愛いをダイレクトに味わうのがすごく大事だなっていうのと、あと、体の中身はまだ全然わからないところがあるっていう不思議さ・・・どう観察するかってその人次第だなと思っていて、自分なりの視点を見つけるといいなって思っているんです。なので、まずは年パスを買って毎月行くのはどうかと提案したいですね」
●見続けるっていうことですね。
「そうです、そうです」
●絶滅危惧種に指定されている種も多いんですよね。
「そうですね。世界18種のうち10種が絶滅危惧種、日本だと君どこの水族館でもいるよねっていうレベルのフンボルトペンギンでも絶滅危惧種ということなので、けっこう深刻な事態じゃないかなと思っています。
この本買ってくれる人はペンギン好き、動物好き、環境好きみたいな意識のかたがいると思うんで、やっぱりまず第一歩として寄付をするみたいなこととか、具体的に何をすればいいのか、可愛い! 守りたい! じゃあ何する? っていうところも書いているので、この黄色い巻末のページをぜひお読みいただければと思います」
●18種のうち10種って半分以上ですね。
「そうですね」
●では最後に、木村さんを虜にしているペンギンのいちばんの魅力を聞かせてください。
「これが難しいなと思ったんですけども、可愛い、面白い、見ていて飽きない、そんな感じですかね」
INFORMATION
日本で飼育されている12種を網羅。一種一種を豊富な写真ともに詳しく解説。12種の卵やヒナも載っていますよ。さらに飼育員さんや獣医師さんのインタビューも掲載。そしてお話にもあったペンギン解剖図は必見! 驚きの体の秘密が分かります。なにより、可愛い写真だらけでペンギン好きにはたまらない一冊! グラフィック社から絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎グラフィック社:http://www.graphicsha.co.jp
木村さんが開業した編集事務所
◎ミトシロ書房:https://mito-pub.mystrikingly.com