2023/12/10 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第17弾!今回は「SDGs=持続可能な開発目標」の中から、おもに「つくる責任 つかう責任」そして「産業と技術革新の基盤をつくろう」について考える事案をご紹介します。
お話をうかがうのは、100%食品廃棄物から作る新素材を開発し、注目を集めているベンチャー企業「fabula(ファーブラ)」株式会社の代表取締役CEO「町田紘太(まちだ・こうた)」さんです。
町田さんは、お父さんの仕事の関係で小学生の3年間をオランダで過ごし、学校の授業で地球温暖化を研究・発表することがあって、それがきっかけで、環境問題に興味を持つようになったそうです。趣味は海外旅行で、これまでに60カ国以上を訪れているほどの旅好き。
そして東京大学に進学し、卒業研究で食品廃棄物から新素材を作る技術を開発。2021年に幼馴染みの3人で「あらゆるゴミの価値化」を目指し、「fabula」株式会社を設立されています。
町田さんが開発した技術を使えば、捨てられてしまう食材がお皿などの小物から建築用の資材などに生まれ変わるんです。今回は、東京大学生産技術研究所・駒場リサーチキャンパスに町田さんを訪ね、お話をうかがってきました。今回は、食品廃棄物を原料に作る新素材の可能性に迫ります。
☆写真協力:fabula Inc.
fabulaはラテン語で「物語」
※「fabula」のオフィシャルサイトのトップに「ゴミから感動をつくる」というフレーズが載っています。改めて「fabula」ではどんな事業を行なっているのか、ご説明いただきました。
「ひとことでいうと、食品廃棄物から新しい素材だったり、製品を作っているような会社です。もともとは東大の研究室から生まれたというか、私が研究室にいた時に開発したその素材を、実装化するために作った会社で、技術のおおもとは大学で作られています」
●創業は2021年ということですけれども、社名になっている「fabula」には、どんな思いが込められているんですか?
「この言葉自体はラテン語なんですけど、日本語に訳すと、物語とかそんな感じの意味があります。食品廃棄物から、ゴミから、新しい製品とかプロダクトに変えるにあたって、普通の産業で行なわれているようなストーリー性があったりとか、背景に思いのある物作りをしたいなと思って、こういう社名にしています」
●改めて、この会社を起業されたのは、どうしてなんですか?
「シンプルにいうと、面白そうだったからというのがありますけど(笑)」
●面白そうだという理由で起業するって、すごいことですね。
「そうですね。普通にやってみようと思ったのと、ある意味、失敗してもいいんじゃないかなっていうような、わりかし楽観的な気持ちもあった気がしますね」
●そもそもすごくさかのぼって、この分野を研究しようと思ったきっかけは、何だったんですか?
「もともと(私が)いた研究室自体がコンクリートに関する研究室で、コンクリートってものすごく環境負荷が高い素材なんですけど、環境負荷の高いコンクリートをリサイクルしたりとか、コンクリートに代わる素材を作る、そういう研究室にいたんです。
で、そこに入った時に私の指導教官の酒井先生が、それにまつわる研究をずっとやっていて、その中で先生としては、食べられるコンクリートがあったら面白いんじゃないかって、ちょっとファンシーな思いがあったりとか・・・。
僕自身もともと環境問題を含め、社会課題に対してすぐ取り組める研究があったほうがいいなって思っていたのもあって、その辺が合わさって、食品から何か作ろうかなみたいな話になっています」
●この「fabula」は幼馴染みの3人で作られた会社ということですけれども、ほかのメンバーおふたりも同じ思いでいらっしゃるということですよね。
「だと信じていますけど(笑)」
●お誘いしたのは、やはり町田さんですか?
「そうですね、2年くらい前に・・・」
●おふたりも、やろうやろうっていう感じでしたか?
「そうですね。やっぱり素材自体に魅力を感じてくれて、ふたりが働いていたバックグラウンドだったりとか、興味があることとか、そういう中でもともと持っていた思いとかも合わさって、今一緒にやっているようなところです」
●町田さんが声をかけて、おふたりの思いはどんな感じだったんですか?
「松田と大石というふたりなんですけど、松田はもともとコーヒーを輸入する商社に勤めていたんですね。そういう中で、コーヒーってまさしく抽出かすだったりとか、いろんな廃棄物が出て、それは消費する日本でもそうですし、生産するブラジルとか中南米とか、そういうところでも実際にいろんな廃棄物が出ています。
そういうものに対しての課題感をずっと持っていて、そういう課題の解決にもつながるし、この素材の特徴も見て、これは何でもできるって、彼は言っていて、そこがたぶん思いとしてあったのかなと思うのと・・・。
大石はもともと感性工学と言って、音とか光とか、感性的な情報が人の行動にどういう影響を与えるかっていうような研究をしていました。そういう中でこういうちょっと香りがする素材で、人々の行動がどう変わるのかなとか、お皿に見えるけど、香りがしたりとかすることで違う影響とか、カレーの匂いを嗅いだらカレーを食べちゃう、みたいなことに近いかもしれないですけど、そういうようなことを素材を通じてやりたいというふうに言っています」
技術はシンプル、「たこ煎餅」と同じ!?
※ここからは「fabula」が作っている新素材について、具体的にお話をうかがっていきます。まずは、食品廃棄物を新素材にする技術について、なんですが、明かせる範囲内で構わないので、どんな技術なのか教えてください。
「技術自体はとってもシンプルです。例えば、白菜とか野菜のクズみたいなやつを乾燥させて粉末にして、それを熱圧縮成型というような方法で素材化します。乾燥と粉砕までは本当に野菜の粉を作るみたいな感覚に近いので、そこから熱圧縮成型っていう・・・漢字5文字が並ぶと怖いですけど(笑)、簡単にいうと熱と圧力でギュッと潰しているような技術ですね。江ノ島のたこ煎餅とか、ああいうものを工業的にやっているような感覚です」
●その技術ってどうやって開発されたんですか?
「熱圧縮成型っていう技術自体は、かなりトラディショナルなというか古典的な技術です。プラスチックでもずっと使われてきていたりとか、身近なものだとベニヤ板みたいな、ああいう木材の合板でも使われてきた技術で、それを食品のくずというか、こういうものに転用してみたっていうところが新しいポイントなのかなと思います」
●開発までの道のりって、どんな感じだったんですか?
「基本的には一個一個条件を潰していくというか、温度とか時間とか圧力とか、粉の状態とか、綺麗に作るための条件なんですけど、それをいろいろ、何度だったらいいかなとか、これぐらい圧力をかけたらいいかなっていうのを、トライ&エラーで繰り返していった感じです」
●新素材になるまで、どれぐらいの日数がかかるんですか?
「基本的にプレスをする時間は、数分とかそのレベルです。あとは乾燥で結構時間がかかるものなので、 1日かかるのか、機械によっても違いますけど、本当に早ければ、すぐできるくらいです」
脱脂粉乳!? コーヒーかす!?
※開発した技術で作った新素材をもとに、これまでにどんな製品を作ったんですか?
「当初はコースターとか、ちょっとした小物入れとか、雑貨類を作っていたりとか・・・。最近だとお香立てとかも、アーティストさんとコラボして作ったりとかしているんですけど、もともとコンクリートから出発しているのもあって、建材もちょこちょこやっています。
例えば、建築の展示会用に茶室を作る機会があったんですけど、その設計会社さんに、茶室なので、お茶でできた建材みたいなものを少し提供したりとか、今度の(大阪)万博でも使用していただく予定があったりとか、そういうような感じですね」
●今回、コースターと小皿、あと小物入れ、深いお皿も用意していただきました。これが本当に食品廃棄物だったんですね。
「そうですね、もともとは」
●ちょっと触ってみてもいいですか。ツルツルで、見た目もおしゃれですし、これが廃棄物だったとは全く思えないんですけど、え〜〜すごいですね! これはもともとなんだったんですか?
「このちょっと深いお皿は、脱脂粉乳ですね」
●それがこんな立派な小物入れ、深いお皿になるんですね。この緑色のようなカーキのようなコースターは?
「緑茶です」
●緑茶なんですね! 香りとかはしないですよね?
「そうですね。コーティングがしてあるので、たぶん香りが抑えられていると思います」
●なるほど、なるほど・・・。
「もう一個のほうは、香りで判断できる気がしますけど・・・」
●これは、茶色の・・・なんでしょう?
「それはコーヒーですね」
●あっ、コーヒー、確かに! コーヒーがこの平皿になるんですね〜、コーヒーのかすで・・・。
「コーヒーの抽出かすですね」
●確かに濃い茶色と黒色でシックなお皿になっていますけれども、コーヒーのかすからできているんですね〜。この新素材を作るにあたって、いちばん苦心されたのってどんなことですか?
「本当にいろんな条件をいじっていくっていう、数打っていくっていうところですかね、やっぱり」
コンクリートより優れた強度
※「fabula」で開発した新素材の主な特徴を改めてご説明いただけますか。
「今まさしく嗅いでいただいたように香りがあったりとか、色味とかもともとの原料のイメージが残っていたりとか・・・。いわゆる廃棄物から作ったっていうと、イメージだとちょっとグレーで茶色くてとか、もしかしたらそういう感覚で、ちょっと臭い匂いがするかもしれないとか、そういうイメージとは結構逆側の、原料の特徴を活かしながら物作りをしているのがひとつと・・・。
あとは強度がそこそこあるよっていうのがあります。コンクリートと比べても強いものだと4倍ぐらいの、“曲げ強度”って言って曲げる力に対する強度があったりします」
●かなり強いですね!
「そうですね。プラスチックほどではないですけど、まあまあ強いかもしれないです」
●一度作った新素材をまた作り直すっていうこともできるんですか?
「はい、それは可能です。こういうお皿とかを回収して、もう一回、粉々にして作り直すことはできます 」
●先ほどご紹介いただいたコースターやお皿は、原材料が緑茶とかコーヒーとかですけれども、食品廃棄物がなんでも原材料になるわけではないですよね?
「基本的になんでも使えます」
●なんでも大丈夫なんですか?
「例えば、コンビニの廃棄物、いわゆる生ゴミみたいな、ああいうものでも大丈夫です」
● これまでどんなものを原材料にされてきたんですか?
「だいたい80種類か90種類ぐらいやってきていて、食品なので無限にありますけど、カニの殻とかそういうのもやったりとか・・・。脱脂粉乳みたいなちょっと動物性のものとかもやっていますし、なんかいろいろ(使っています)」
●いくつか組み合わせても大丈夫なんですか?
「合わせても大丈夫です。バジルとトマトとパスタを混ぜて、ジェノベーゼとか言ってふざけて作っていたりしました(笑)」
●すごいですね~。そういった食品廃棄物はどこから手に入れているんですか?
「食品加工の工場だったりとか、あとは飲食店、例えばコーヒーチェーンみたいなそういうところだったりとかから買い取っていますね」
価値あるものへ変えていく文化
※「fabula」で開発した新素材は、将来的には食べることも考えているそうですね。どういうことなのか、教えてください。
「食べられなくはないよっていうのが、僕らの伝えていることというか・・・。思い返すと食品だけで、もともとは食べられるものだけで作っているので、食べてもいいかもしれないっていうところはあるんです。
例えば、規格外野菜みたいな、形が悪いだけで美味しいですよっていう、そういうものから作ると、本当に食品から作っていることに近いので、食べたりもできるだろうし・・・。
もっとリアルなところで言うと、本当に最悪の場合、交通が分断して物が届かなくなったりとか、もしくは離島とか砂漠の真ん中なのか宇宙空間なのか、なかなか物流が難しいようなところとかで、最後に生きるために食べても悪くはないかなっていうところですね」
●今後、建築用の資材を作る予定はあるんですか?
「そうですね。基本的に将来的には建材を目指しているので、万博での使用だったり、そういうのを通じて、性能とか強度もそうですし、実際に使っていく事例を増やしていくのが今後かなと思います」
●町田さんが開発した技術を、今後世界でどんどん展開していく予定もあるんですか?
「海外に出ていくってことも考えてはいますね」
●具体的にどこにとか、技術の公開も考えていらっしゃいますか?
「そうですね。まだまだ海外での事例自体はないんですけど、問い合わせベースだと、非常に多いのはヨーロッパからの問い合わせと、また東南アジアからも結構問い合わせが来るので、きっとここら辺の感度が高いだろうというところに対して、アプローチしていこうかなと思います。
例えばですけど、特許の出願をしているので、特許出願をすると必然的に(技術は)公開されるものになるんですね。そういうものはもちろんありますし、技術自体を自分だけのものにするっていうよりは文化として、食品に限らずゴミって呼ばれているものを、新しい価値あるものに変えていく文化を作っていくことが、とても大事かなとは思っています。そういう意味ではいろんな人と協業していくことはとっても大事かなと思います」
INFORMATION
「fabula」で制作している小皿やコースター、タイルなどの商品は、受注生産になりますが、ECサイトから購入できます。100%天然素材なので、風合いが微妙に違う、どれも一点ものです。どんな商品なのか、価格はいくらなのか、ぜひ「fabula」のECサイトをチェックしてください。
◎「fabula」ECサイト:https://store.fabulajp.shop
◎「fabula」:https://fabulajp.com
ちなみに、現在、国立科学博物館で開催されている特別展「和食〜日本の自然、人々の知恵」のショップでも販売しているそうです。