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世界自然遺産が日本で初めて登録されてから30年!〜「世界の宝」現状と課題

2023/12/31 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、日本自然保護協会NACS-Jの「道家哲平(どうけ・てっぺい)」さんです。

 実は今月12月で、日本で初めて世界遺産が登録されてから30年という節目を迎えました。1993年12月11日に「屋久島」と「白神山地」が世界自然遺産に、「法隆寺地域の仏教建造物」と「姫路城」が世界文化遺産に、それぞれ登録され、日本初の世界遺産が誕生しました。

 それまでは、地元の自然や文化財だったものが「世界の宝」となり、一気に知名度が高まりましたが、世界遺産については意外に知らないことも多く、また30年経って、新たな課題も生まれてきているようです。そこで、番組的に今年を締めくくる意味でも世界遺産、とりわけ、世界自然遺産を深掘りしていきます。

 世界遺産条約の生みの親でもあり、諮問機関である国際自然保護連合IUCN日本委員会・事務局長の道家さんに、改めて世界自然遺産の成り立ちやその意義、そして未来に残すための課題についてお話しいただきます。

☆写真協力:(公財)日本自然保護協会

道家哲平さん

「価値」と「完全性」

※世界自然遺産のお話をうかがう前に、世界遺産の成り立ちを振り返っておきましょう。1960年代にエジプトのナイル川流域のダム建設計画が持ち上がり、完成すると「アブ・シンベル神殿」が水没するという問題が起こりました。

 そこで立ち上がったのがユネスコで、この歴史的に貴重な遺跡を、人類の遺産として残していこうと、世界各国に協力を呼びかけ、これがきっかけとなり、1972年に世界遺産条約が採択されました。その条約作りで、ユネスコとともに重要な役割を果たしたのが国際自然保護連合IUCNでした。

 日本は1992年に世界遺産条約を批准、現在は195カ国が加盟、そのうち168カ国に世界遺産があるとのことです。ちなみに世界遺産には、自然遺産、文化遺産、そして複合遺産の3つのタイプがあります。番組的には世界自然遺産を深掘りしていきます。

●現在、世界では何カ所、自然遺産に登録されていますか?

「世界自然遺産は現在227地域というか、227件、世界各地から登録されています」

●第1号はどこだったんですか?

「第1号は1978年に、どれをひとつとは言えないんですけれども、エクアドルのガラパゴス諸島、アメリカのイエローストーン国立公園をはじめ4つが、第1号という形で登録されました」

●日本は何カ所、登録されていますか?

「現在、世界自然遺産は5カ所になります。順番でいうと『白神山地』と『屋久島』が登録され、その後、北海道の『知床半島』、その次に『小笠原諸島』が登録されました。
 そして最新のものとして『奄美大島・徳之島・沖縄東北部および西表島』、ちょっと長いんですけど、これは全部ひとつのパッケージというか、ひとつの形で登録されました」

写真協力:(公財)日本自然保護協会

●世界自然遺産に認定するのは、どの機関なんですか?

「世界遺産条約に定められた『世界遺産委員会』という会合が、毎年開かれています。で、その世界遺産委員会で各国から提案されてきた候補リストを、遺産として相応しい、あるいは相応しくないとか、もう少し課題があるとか、そういったことを協議する形になっています」

●その委員会がその後も(世界自然遺産を)管轄していくっていうことですか?

「そうですね。地域地域を守っていくのは、当然それぞれの国になるんですけれども、ちゃんと守られているかどうかとか、国際社会が何か手助けをしなければいけないんじゃないか、そういった監視というかチェック、それについてはこの世界遺産委員会が会議の中で行なっていくということになっています」

※世界自然遺産の認定には、どんな条件が必要なんでしょうか?

「とてもシンプルに説明すると、大きくは遺産としての価値、それには10個の基準があります。文化遺産は6、自然遺産は4。まず価値があるかどうかというのがひとつの条件になります。

 自然遺産でいうと、例えば絶滅危惧種が多いような地域で、ここを守ることで世界の多様性を守れるみたいな、生物多様性の基準であるとか、地球の自然の歴史、例えば古代の恐竜の化石が見つかるとか、地球の歴史が分かる地質地形学的に大事な場所など、自然に関しては4つの基準があります。そういった自然遺産としての価値があるかどうかがひとつ目の基準。

 ふたつ目の基準はちょっと難しい言葉ですが、完全性って言うんですけれども、その素晴らしい自然だったり、あるいは文化的な建造物であったり、そういったものを国としてしっかり守っていく体制ができているかどうかですね。

 例えば小笠原とか、当初は外来生物という自然保護上の問題があったりするんですけども、そういう課題にしっかり対処できるような組織とか、専門家委員会がありますかとか、守れる体制があるかどうか・・・。
 価値と、ちゃんと守れるかどうかの視点、このふたつを大きな基準として認定をするということになっています」

写真協力:(公財)日本自然保護協会

「オンリーワン」かつ「ナンバーワン」

※先ほど、日本で現在、世界自然遺産に登録されているのは屋久島、白神山地、知床、小笠原諸島、奄美大島や沖縄島北部などの島を含め、全部で5カ所あるというお話がありましたが、島が多く登録されていますよね。これは何か理由があるんでしょうか?

「それを言ったら、日本は島だといういうことで・・・(笑)」

●あ~そうか・・・、そうですね。

「とはいえ、やっぱり島々は開発の手も、いわゆる本土と比べると経済発展のための様々な開発というのは少なかったということもあって、自然が豊かに残されてきました。
 その自然をうまく使っている人の文化が、暮らしもあったというところで、豊かな生態系が残されてきた、価値もありながら、守る体制も比較的作りやすいという部分がひとつポイントじゃないかなというふうには思います」

●日本には、こういう場所がありますよ! っていうような候補は、誰が出しているんですか?

「候補は国の中で、環境省とそれから文部科学省ですね。その両者から自然遺産に関しては、どんな地域を推薦することができるだろうか、そんな検討会が確か2003年に行なわれて、そしてその時の委員会で、その時は知床はまだだったんですが、知床と小笠原そして奄美・沖縄の4カ所、これは候補になるんじゃないかという形であがり、それが順次、やっと登録が終わったという状態です」

●毎年候補を出すとかではないってことですか?

「そうですね。世界遺産としての価値を丁寧に説明する、それから守っていける体制があることを丁寧に説明する、いろんな準備を考えると毎年毎年、推薦をするということではありません。世界遺産は比喩で言えば、オンリーワンかつナンバーワンって言うんでしょうか。最も素晴らしく世界にここにしかなく、そして世界基準というか世界標準・最高水準で守られている場所、この両者が必要ということで、候補としては絞られていく形になります」

写真協力:(公財)日本自然保護協会

富士山は世界文化遺産!?

※確か以前、富士山も世界自然遺産の候補にあがったと思いますが、登録されなかったんですよね。自然遺産に登録されなかったのは、なぜなんでしょう?

「2003年の世界遺産候補地検討会議でもあがりましたが、やはりかなり(標高の)高いところまで開発というか道路とか、観光用のいろんなインフラができてしまったっていうこともあり、自然遺産として提案するのにはちょっと厳しいのではないかということでした。
 一方で、富士山をも含めた文化的な人々の営みということで、文化遺産としては登録を目指すことになったという形ですね」

●なるほど、自然遺産ではなく文化遺産ということだったんですね。世界自然遺産に登録されるっていうことは、そのエリアの自然を保護していく義務が生じてくるわけですよね?

「そうですね。世界遺産に登録する際には、例えばこの場所は国立公園ですよとか、そういうのはちゃんと国として法律上の網掛けって言うんですか、守る体制を敷かないと登録は目指せませんので、守ることが先で、守った先に登録があるっていうのが正しい順番なんですね。
 国としてそのエリアの自然を、日本の宝じゃなくて『世界の宝』として守っていくっていう義務が生じることにはなります」

●登録された後にちゃんと自然が保護されているかどうか、定期的な調査が入ったりするんですか?

「はい、数年に一度評価というのを行なうことがあります。自然遺産に関しては登録の審査書を検討する段階から、国際自然保護連合 IUCNの専門家のチームが、それぞれの生態系ごとに専門家を集めます。そして登録に際して、あるいは登録された後に、守られているかどうかの評価をして、世界遺産委員会に今こんな状態ですよというのをご報告する、そういう仕事を自然遺産に関してIUCNが、文化遺産に関しては、ICOMOS(イコモス)という別の組織が行なっています」

●これまでに世界自然遺産の登録が取り消されたケースはあったんですか?

「残念ながら存在します」

●それは、どんな理由で取り消されてしまったんですか?

「世界遺産の登録が取り消された事例としては、今まで3件あります。ふたつは文化遺産になるんですけれども『ドレスデン・エルベ渓谷』というドイツにある渓谷、それからイギリスにある海商都市『リヴァプール』、自然遺産に関しては、アラビアオリックスという野生動物絶滅危惧種の、その保護区が取り消されることになりました。

 アラビアオリックスの保護区は油田開発の事業で、油田のパイプラインを通さなきゃいけないということで、何回かの警告というか、このままでは世界遺産から外さなきゃいけなくなりますよと、いろいろ対話はしたんですけれども、開発事業のほうが優先されて、結果取り消されるということが起こりました」

IUCNの「世界遺産戦略」

※1951年に発足したNACS-Jは、日本の自然保護に関して、非常に重要な役割を果たしてきたNGOで、70年を超える活動の中で、世界遺産条約の批准を後押しするなど、NACS-Jなくして、日本に世界自然遺産は生まれなかったといっても過言ではありません。

 道家さんはNACS-Jの活動のほかに、「国際自然保護連合IUCN日本委員会」の事務局長としても活躍されています。具体的には、どんなことをされているんですか?

「私自身は世界遺産条約ではなくて、生物多様性条約という別の国際条約の専門家として15年、国際会議に出続けたりとか・・・。またIUCNは、世界遺産に限らず絶滅の恐れのあるリスト、レッドリストを編纂して自然の危機的な状況をお伝えしたりしています。

 で、私はIUCN日本委員会の事務局長として、世界の動きを日本に伝えていく、場合によっては日本の動きを世界に伝えていく、そういう翻訳者みたいな仕事をしています」

●IUCNが2023年9月に『世界遺産戦略』という文書を発表されたということですけれども、この発表した経緯とその内容を分かりやすく説明していただけますか?

「IUCNは世界遺産条約の設立50周年、今年は日本が自然遺産に登録されて30周年なんですけれども、条約そのものとしては昨年50周年を迎えました。IUCNはその50年、半世紀経って、この自然遺産を改めて見直した時に次の50年、自然遺産をどういうふうに私たち人類は守り、つなげていくべきか、そういったことを考えてこの『世界遺産戦略』というものを作りました。

 その内容のポイントとしては、今までの世界遺産は比較的国が守る。線を引いて、そこは開発禁止ですよとか、場合によっては立ち入ってはいけませんよとか、そういうことをやってきたわけですけれども、これからの世界遺産はもっともっと共同で守っていく必要がある。
 研究者とか地域の自治体の人とか、その地域の周辺で暮らしているかたがたとか、観光に関わる協会のかた、自然保護だけじゃなく、多くの人で共同で守っていく。そのためには何が必要か、どこに力を入れていくべきか、そういったことをひとつ戦略として打ち出しています。

 また国際協力もとても大事な方向として打ち出しました。先ほど条約加盟国が195カ国あると・・・ただ世界遺産登録がされているのは168カ国と、ギャップがあるというお話をしました。途上国の中には、やはり専門家がいらっしゃらないとか、国際条約のプロセスに慣れていないとか、大事な自然を持っているにもかかわらず、守る術、守る能力、技術資金がないというところがあります。

 世界の力を使って協力、力を合わせて、国を越えた協力・共同、そういったものを進めていくことも 次の50年の柱として大事じゃないか、そういったことを打ち出しました」

写真協力:(公財)日本自然保護協会

「地球の教科書作り」

※1993年に日本で初めて、世界自然遺産が登録されてから30年が経ちました。今後の課題として、どんなことがあげられますか?

「IUCNのかたといろいろと相談をしたことがあります。日本の世界自然遺産の管理の状況ですね。もちろん課題は外来種問題だとかオーヴァーツーリズム、たくさん観光客が来すぎてしまうというのをどううまく管理するかとか、課題はあるものの、比較的管理する体制はできていますねという評価にはなっています。

 ただ大きい方向性として気候変動という影響ですね。日本の自然も少しずつ影響を受け始めているので、気候変動がもたらすような自然の危機、その対策がひとつと・・・・。
 そして日本は高齢化社会でもありますので、自然を守る人々が今までは比較的ボランティアのかたの活躍によって守られたところもあるんですけれども、ある意味プロフェッショナルとして、高齢化という大変な状況ではありますけれども、自然を守る人材をどう育てていくか、あるいは守っている人に職業として、プロフェッショナルとして、どう守っていくか・・・。

 この人の問題と気候変動という大きなふたつの課題は、日本としても常に長い目で見て、対処・対策していかなきゃいけないと思います」

●世界自然遺産は観光資源という側面もあると思うんですけど、私たち自身が観光で世界自然遺産のエリアに行く時に、どんなことを大事にしたらよろしいですか?

「世界遺産条約はある意味、人類や地球の教科書作りをしている条約と言えます。どんな歴史の中で、今のような自然が生まれたか、どんな人の歴史の中で素晴らしいものが生まれたか、ここにしかないもの、そういったものを学ぶということがあります。

 ですので、ぜひ観光とか、そういう時であれば、ほかの地域がそうとは言わないんですけど、じっくり観光していただくと学びとか、質の良い観光で・・・その質の良さはもちろんガイドさんの質の良さというのもあるかも知れません。

 また自分たちがその地域の中で落としたお金、それが自然保護にそのまま回っていくような、いわゆるエコツーリズムって言ったりしますけど、学びもしつつ、そこの地域でお土産を買うとか、ガイドさんにお金を払うとか、そういった形の経済が自然を守るほうにつながる、そういう良い質の観光を、特に世界自然遺産では体験していただきたいと思います。

 1日だけの弾丸ツアーとかそういうことではなくて、ぜひぜひじっくり、宿泊をしたり、美味しいものを食べたり、いろいろしながら(旅や観光を)するという贅沢を、世界一の贅沢をじっくり味わうという思いで、観光していくのが大事なんじゃないかなと思います」

(編集部注:道家さんに今後、日本で自然遺産も含めて、世界遺産の候補になるようなエリアはあるのか、お聞きしたら、個人的には例えば、棚田のような人と自然のかかわりの中で生まれた場所など、もっともっとあるのではないかとおっしゃっていました)


INFORMATION

会報誌「自然保護」

 NACS-Jが世界自然遺産に果たしてきた役割など含め、日本の自然や生物を守るために、どんな活動をしているのか、ぜひオフィシャルサイトをご覧ください。

 日本自然保護協会NACS-Jでは支援してくださる会員を随時募集しています。年会費は5,000円、会員になると年6回、会報誌「自然保護」が届くなどの特典もありますよ。詳しくはオフィシャルサイトを見てください。

◎日本自然保護協会NACS-J :https://www.nacsj.or.jp

 国際自然保護連合IUCN日本委員会のサイトもぜひチェックしてくださいね。

◎国際自然保護連合IUCN :https://www.iucn.jp

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