2024/1/14 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、風景写真家の「佐藤 尚(たかし)」さんです。
佐藤さんは1963年、福井県生まれ。1984年、東京写真専門学校を卒業後、山岳写真家・風見武秀(かざみ・たけひで)さんに師事。1990年からフリーランスとして活動。日本全国を車で旅しながら、農村や自然などを撮影し、作品を写真集などで発表する傍ら、地元埼玉県の見沼(みぬま)たんぼで写真ワークショップ「里ほっと」を主宰するなどの活動もされています。
きょうはそんな佐藤さんに、日本全国の里山・里海の魅力や、房総半島のお気に入りスポット、そして人と自然が織りなす風景についてお話をうかがいます。
☆写真:佐藤 尚
自分らしさが出る里の風景写真
※風景写真を撮るために、現在も日本全国、津々浦々を巡っているんですか?
「はい、47都道府県を巡るのを自分のライフスタイルにしているので、一箇所ばっかりに行くというんではなくて、旅をしたら、なるべく多くの都道府県を周れるようにしています。昨年に行ったところは今年は行かないとか、来年は今年行ってないところに行こうとか、そういうふうにリストアップをして47都道府県を周れるようにしています」
●佐藤さんの主な被写体は里山なんですよね。佐藤さんのお写真って、本当に見ていてホッとする感じがするんですけれども、風景写真として里山を撮るようになったのはどうしてなんですか?
「風景写真って、一般的に広い自然風景などを捉えるかたがいたり、観光地に行って目の前にある景色を捉えるかたが多いかと思うんですけれど、私自身はいつの日からか、そっちのほうよりも里のほうに(目が)いくようになりましたね。
その理由というのはふたつあるかと思うんです。ひとつが深い森だったり、険しい山だったり、神秘的な海だったり、そういう大自然よりも・・・なんか大自然って見本みたいなのがあって、そこに行ってそれを撮るみたいになってしまって、やっぱりパターンが似てきちゃうと思うんですよね。
それが里の風景だと(世の中に)出ている写真が少ないというのかな、自分の感覚で探せるっていうのかな、そこが好きで里のほうに行っているのがありますね。
で、もうひとつが、里のほうに行くと人の気配ってあるじゃないですか。人が暮らしていたり、人が漁をしていたり、人が農作業をしていたり、そのかたたちの近くに行って会話ができるのが好きだな〜。
会話は実は得意じゃないんですけれど、田舎の人ってすごく優しくって、会話は難しくないよって教えてくれて、挨拶すると向こうから、おまえさん、どっから来たんだって言われて、埼玉県からだって言うと、自分の息子が娘が甥っ子がとか、昔自分が埼玉で出稼ぎしていたとか、いろんな話が出てくるんですよね。土地の人の話をするのはすごく好きで、それで里のほうに行っているっていうのがありますね」
●やっぱり人の営みを感じられるような風景がいい、ということですよね。
「はい、要するに大自然はどなたでも、もしかして撮れるかもしれない。撮るのは大変だと思うんですけれど、でもそんな中で自分の個性、自分らしさが出るのが里の風景かなと思って里山、里海に向かうようになっています」
●だから佐藤さんの撮る写真には暖かさがあるんですね。
「嬉しいじゃないですか(笑)。ありがとうございます」
(編集部注:佐藤さんは47都道府県を、改良したワンボックスカーに寝泊りしながら巡っていて、一回の撮影旅は長くて1ヶ月くらい、短くても2週間ほどと、時間をかけて、じっくり、ゆっくり移動しながら撮影を続けています)
旅の最初に魚沼、旅から帰る時に魚沼
※これまでの撮影で、特に印象に残っている場所はありますか?
「新潟県の魚沼、魚沼コシヒカリの産地、日本有数の雪国、その魚沼が好きで長く行っているんですね。魚沼になんでそんなに行くかと言ったら、魚沼って風景もいいんですけど、人が暖かいんですよね。それで魚沼に通っているうちにいっぱい友達もできたし、だから魚沼に何かと寄る、旅の最初に魚沼、旅から帰る時には魚沼、寄ってから家に帰ってくるみたいな、そんな雰囲気で終わるのが大好きです」
●どんな出会いがあったんですか?
「やっぱりいろんな人に出会えるっていうのが、魚沼っていいなって思うんですよね。それは出会いだけではなくて、(宿で)お風呂に入っていてもその中で会話を聞くのもなんか楽しいし・・・。
そうそうあとやっぱり魚沼って、どういうところって教えてくれるんですよね。魚沼は雪深いところとか、山菜がおいしいところとか、そういうのをちょっと家に寄ってけって言われてご馳走になって体験したり・・・。または畑で採れたものをくれたりとかって、そういう本当のコミュニケーションをとれるのが、私にとってもすごく財産になっているなって思います」
房総半島のおすすめスポット
※千葉県・房総半島で、よく撮影されているエリアはありますか?
「房総半島、好きですよ! 暮れに千葉県に行きましたよ! どこに行ったかというと九十九里海岸と南房総、結構千葉県って大きいですね、縦長ですよね。あの距離、すごく移動は大変だった感じはしたんですけど・・・」
●千葉県も車中泊で行ったんですね?
「もちろんそうです。九十九里に行ったのは夕陽を撮るためでした。いちばん日が短い年末は、太陽がいちばん南に寄っていくので、太平洋に面している九十九里でも夕陽が撮れるんですね。普通太平洋に面していると、日の出だけと思われがちですが、夕陽も撮れるんですよ。
あと南房総に行くと、夕陽と絡めて富士山が撮れるというイメージを持っているので、房総半島の先端から富士山を、大波が来ているところをいつか撮ってみたいと思っているんだけど、なかなかうまくいきませんが、年末になると九十九里から房総半島を巡る旅を毎年のようにやっていますね」
●季節的には冬がいいですか?
「冬の千葉県の海、最高です!」
●そうなんですね。地形的に高い山がなくて、低い山を歩く低山ハイキングも盛んだったりしますけれども、そういった風景も撮ったりはされますか?
「山歩きはそれほどしないですけれど、内陸のほうに行くと千葉県って田んぼとかもあるし、里の風景がいっぱいあるなっては思っていますね。だから千葉県は海・山・里、本当にすべてが揃っているところだなって感じているので、なにかと来ます。冬の話を先ほどさせていただきましたが、5月の九十九里が超おすすめです!」
●どんなところがおすすめですか?
「ご存知かどうかわかりませんが、砂浜に植物がいっぱい育っているところがあって、その植物でコウボウムギというのがあります。麦みたいな形のちっちゃい植物なんですけど、そのコウボウムギが砂浜いっぱいに群生しているところが5月に見られるんですが、それがまた可愛いんだ! ぜひ見ていただきたい!」
●5月ですね。
「5月です。5月から6月、7月、いつまで咲いているかわかりませんが、私が見たのは4月末だったんで・・・すごくいい景色です! 可愛いですよ」
●5月頃にそこに行けば、いい景色が見られるということですね。
「そうですね。房総半島、九十九里、本当に海岸線の多様な風景があるので、ぜひぜひ地元のかた、いや遠くからでも、みなさん、行っていただけたらなってすごく思っています」
写真を楽しみましょう!
※佐藤さんは、一般のかたに風景写真の撮り方を教える撮影会やオンラインでの教室をやっていらっしゃいます。どんなことにポイントをおいて教えているんですか?
「写真を楽しみましょう! まずそれですね。もちろんみなさん、写真が上手になりたいとかコンテストでトップになりたいとか、また向上意欲があるかたもたくさんいるんですが、その前にカメラを持って散歩して、友達と和気あいあい、会話するのが楽しいぜ! っていうのを伝えたいと思っています」
●撮り方のコツっていうよりは、周りの人たちと喋りましょう、お話ししましょうみたいな感じですか?
「まさにその通り。やっぱり写真は撮って楽しい、プリントして楽しい、発表して楽しい、そして形にして楽しいとかっていろんな楽しみ方があると思うんですね。
最近、エンターテイメントとして人と通じ合えるところもすごく感じるので、そのようなことをやりながら、人たちの集まりを作っていけたら、写真に対しての恩返しではないんですけれども、そんなことをやっていきたいと思っています 」
●ビギナーのかたに最初に教えることは、どんなことになるんですか?
「写真を楽しみましょうとは言っても、何を撮っていいかわからないかたって結構いると思うんですよね。ですので、まず1枚撮ろう、そういうアドバイスだけ送っていますね。
だから何を撮ろうとかってわからなくても、まずカメラを出して撮るという行為をすることから、1枚目が始まるっていうふうに伝えているんですが、そうすると意外に1枚目って、シャッターを切れたりするんですよ。何を撮ろうって気張っちゃうから多分ダメで、まず1枚を撮っちゃえみたいな感じ、それで1枚を撮っていただく。
そしてそのあとは、歩く・動く・観察する! 体を動かすってこと、よく見るってこと。そして被写体の探し方としては色・形・線、これを気にしながら風景などを見ていると意外に、あそこに赤色があって、あそこに線があって、あそこに丸い形があったとか、なんか見えてきたりするので、そういうふうにして楽しく撮ってもらえるようにお話をしていますね」
●いい1枚を撮るには色・形・線が、どういう組み合わせだったらいいんですか?
「なるほど、じゃあお伝えしましょう! 色という部分で言いますと、例えば遠くのほうに赤い花があったとします。その赤い花の隣に赤いトラクターがあったとします。そうしたら、ふたつの赤と赤でまとめるだけで、写真にストーリーというか、赤色がふたつあるなっていうのが、撮った本人もわかっているけれど、それが人に伝わるようになっていくんですよ。
線で見ていった時に、縦の線ばっかりで整えていくと構図がすごく整ったりしますよね。それがごちゃごちゃしていると構図が甘くなるんですが、線ばっかりで整えると面白いし、またそこにイレギュラーな1本だけ違う線が入った時に、協調性っていうのかな、気持ちがそこに入っていくので、線、形もそうです。同じようにそれを色・形・線を混ぜ合わせていって、構図を作っていくと意外とできていきます。
でもこれは量が必要なんですよ。やっぱり数を撮ることが、いちばん成長するために必要なので量が必要だということ、それを伝えていますね。いっぱい撮りましょう、楽しく撮りましょうっていうふうに」
(編集部注:いまはスマートフォンで写真を撮るかたが多いと思いますが、佐藤さんは、できれば、レンズ交換ができるカメラを使うと、表現が変わっていくので、そんなカメラで写真の新しい世界に入ってきてくれたら、嬉しいとおっしゃっていましたよ)
写真展『僕の散歩みち』『nukumori』
※近々写真展を開催されるそうですね。どんな写真展なのか、教えてください。
「はい、東京とさいたま市の2カ所でやります。東京でやるのは青山にあります『ナインギャラリー』というところで、1月16日から21日にかけてやるんですけど、もうすぐです! ぜひみなさまに足を運んでいただけたら、とっても嬉しいです。
この写真展の内容はと言いますと、コロナ禍で私自身が苦しんで、もがいていた、その思いというものを脱ぎ捨てるような感じで発表させていただきたい。
やっぱり私は人が好き、風景が好き、暖かいものを感じ取って、その写真をみなさんにお届けするのがどうやら好きなので、このコロナ禍でやってきたことをしっかりとまとめあげて発表しようと思った写真展になっています。自然風景ばっかり、30点ほど展示します」
●すでに開催中の写真展もあるんですよね?
「そうですね。新年からやっている『僕の散歩みち』というのをカメラ屋さんでやっているんですけど、カメラの光盛堂Ⅱさんなんですが、コロナ禍でやっぱり苦労をしていて、その時に集客というか、店の整理をして人たちが集まれる場所として、ギャラリーを新しく作ったんですね。
そのギャラリーで私がコロナ禍で苦しんで撮っていた、散歩の中で撮っていた写真を今回、青山のナインギャラリーでの『nukumori』写真展に合わせて、同時開催をするっていうリバイバル展示になりますかね。
これは本当に気軽に撮ろう、まず1枚。歩く・動く・観察する、色・形・線の写真を10枚ほど並べております。同時に『里ほっと』の活動も展開しているので、それを楽しんでいただけるんじゃないかなというふうに思います」
INFORMATION
佐藤さんは、地元埼玉県の南部にある緑地「見沼たんぼ」で「里ほっと」という写真ワークショップを定期的に開催されています。ワークショップを始めた理由は、地元に飲み友達が欲しいということで、おしゃべりしている時間が多いとのことですが、みんなで写真を撮り、見沼たんぼにこだわった写真展をそれも、さいたま市で、これまでに3回開催されたそうです。「里ほっと」の活動について詳しくは、佐藤さんのオフィシャルサイトをご覧ください。
佐藤さんの写真展情報です。
現在、写真展「ぼくの散歩みち」がJR南浦和駅から徒歩4分の「カメラの高盛堂II(コウセイドウ・ツー)」の「つながるギャラリー」で開催中です。会期は今月27日まで。
◎写真展「ぼくの散歩みち」:http://www.satophoto.net/2023/12/12/
写真展「nukumori」があさって16日から21日まで、地下鉄・外苑前駅から徒歩3分の「ナインギャラリー」で開催されます。初日の16日には佐藤さんによるギャラリートークが予定されていますよ。
◎写真展「nukumori」:http://www.satophoto.net/nukumori/
ぜひお出かけください。
ほかにも佐藤さんは撮影会やオンラインサロンなども開催されています。いずれも詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。
◎佐藤 尚オフィシャルサイト:http://www.satophoto.net