毎回スペシャルなゲストをお迎えし、
自然にまつわるトークや音楽をお送りする1時間。

生き物の不思議から、地球規模の環境問題まで
幅広く取り上げご紹介しています。

~2020年3月放送分までのサイトはこちら

Every Sun. 20:00~20:54

エディブルウェイ=食べられる道〜人と人、人と町の「つながり」をつくる景観〜

2024/3/10 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、千葉大学・予防医学センターの特任研究員で「エディブルウェイ」の代表「江口亜維子(えぐち・あいこ)」さんです。

 江口さんは、石川県小松市生まれ。武蔵野美術大学卒業後、設計事務所に勤務。当時、東京都杉並区にあった阿佐ヶ谷住宅に暮らしていたことで、自然と人、人と人がつながる空間「コモンスペース」に関心を持ち、2013年に千葉大学大学院に進学。木下勇教授の研究室で、環境に配慮した住宅づくりや住民参加の街づくりなどを学んだそうです。そして2016年から「エディブルウェイ=食べられる道」の活動に取り組んでいらっしゃいます。

 今回は、エディブルウェイ・プロジェクトの活動や災害時に役立つ、人と町、そして人と人のつながりについてもうかがいます。

☆写真協力:江口亜維子

写真協力:江口亜維子、大橋香奈

エディブルウェイ・プロジェクト

※まずは、江口さんが進めている「エディブルウェイ・プロジェクト」、これはどんな活動なのか教えてください。

「まず、『エディブル・ランドスケープ』という考え方があります。直訳すると『食べられる景観』で、ランドスケープの中の植栽に果物だったり、実のなる木や野菜、ハーブとか、食べられる植物があって、それで構成された景観のことを言います。で、エディブルウェイ・プロジェクトは、町中でエディブル・ランドスケープをやってみようという活動です。

 私たちがやっているのは、沿道のおうちだったり、お店の軒先、道路に面した小さなスペースにお揃いのプランターを置いて、そこで野菜やハーブとか食べられる植物を、地域のお住まいのみなさんと一緒に育てて、食べられる景観づくりの実践をするというプロジェクトです。

 エディブルウェイっていう名前なんですけど、沿道から見えるところにプランターが置かれているので、プランターが並ぶことでエディブルな道(ウェイ)ができるよっていうことと、あとはエディブル・ランドスケープの方法・・・ウェイには方法って意味もあるので、その方法をみんなで探求していこうという、ふたつの意味をかけてプロジェクトの名前にしています」

(編集部注:研究室のプロジェクトとして始まった「エディブルウェイ」の活動は、2020年から市民参加型の活動となり、現在、江口さん始め、3人のメンバーが中心となって進めているそうです。ほかに、野菜などの苗を育てるボランティアチーム「苗部(なえぶ)」があって、ここには小学生も参加しているそうですよ。

 そして気になる実際の活動場所は、JR松戸駅から千葉大学園芸学部のキャンパスまでの約1キロ、その沿道のお店や住宅など60軒ほどが活動に参加。各軒先には、ロゴを大きくプリントした黒いフェルト製の、バッグのような形をしたプランターが点在し、野菜などが植えられているとのことです)

写真協力:江口亜維子

プランターが育てるコミュニケーション!?

※お店や住宅の軒先にプランターを置くとなると、プロジェクトに賛同してくださるかたの協力が欠かせませんよね。どうやって集めたんですか?

「最初は、当時の研究室の留学生だったり学生だったり、あとは師匠の先生だったりと、その1キロ沿いを一軒一軒訪ねて、エディブル・ランドスケープという考え方があって、町の中でやってみたいと思っているんですが、興味はありますか、もし興味があったら一緒に活動しませんかっていうことで、プロジェクトの説明だったり、エディブル・ランドスケープの説明をして、賛同していただいたお宅から(プランターを)置き始めたっていう感じです」

●お店や住民のかたがたは、すぐに理解ってしてくださったんですか?

「大学周辺のお宅のかたは割と、その当時地域にコミュニティガーデンがあって、大学生との活動に理解があったりするかたが多かったり・・・。
 あと園芸学部のキャンパスは学園祭で苗木や苗、野菜とか売ったりしているので、けっこう地域のかたが買いに来ています。園芸学部周辺のかたは、ちょっとお話をうかがっていると、”これ、園芸学部のキャンパスで買った木よ”とか”このみかんは園芸学部で買った苗木よ”みたいな感じでお話ししてくださるかたが多かったんですよ。すごく暖かく受け入れていただきましたね。

 7軒のご近所同士のかたたちで、その7軒に(プランターを)置き始めたら、同じものなので、すごく目立って、これは何?って、近所で話題にしていただいて・・・。で、口コミであそこの誰々さんも置きたいって言っていたよとか、プランターを運んでいる時に、うちにも置いてとか、そういう感じで、けっこう口コミでじわじわと広がっていったという経緯になります」

(編集部注:プランターに植えてある野菜などの日々のお世話は、各個人の園芸活動の一環としてやってもらっているそうですが、年に2回、植え替え講座や、タネや苗の交換会を実施。参加者のかたが余ったタネや、ハーブの挿木などを交換。中には珍しい野菜などを育てているかたもいて、そこでも情報交換を含めた参加者同士のコミュニケーションが生まれているそうですよ)

写真協力:江口亜維子

※活動するにあたって、何か規則のようなものはあるんですか?

「基本的には規則は特にはないんですけれども、(エディブルウェイ ・プロジェクトは)景観づくりでもあるので、プランターを道から見えるところに置いてくださいっていうことと、食べられるものを植えてねっていうことはお話ししていますね」

●食べられるものっていうことで、育った野菜は食べちゃっていいんですか?

「基本的には、各家庭で育てているものを各家庭で召し上がってくださいって話していて、コロナが始まる前までは、収穫時期の最後のほうに少しずつみんなで持ち寄って鍋をしたりとか、サンドイッチを作ったりとかサラダそうめんを作るとか、ちょっと収穫祭のようなイベントはやっていました」

●いいですね。みんなで集まって食べるっていうのは・・・。

「そうですね。あとはプランターが目立つので、そこでお水やりとかをしていると、道行く人に話しかけられたりするみたいで、そういうコミュニケーションの中で、(育てた野菜を)おすそ分けしたよっていうようなエピソードはいくつか聞いたことがあります」

写真協力:江口亜維子

東日本大震災と阿佐ヶ谷住宅

※そもそもなんですが、このプロジェクトを始めたのは、なにかきっかけがあったんですか? 

「きっかけはいろいろあるんですけど、私が食べる植物を育てることに関心が向いたのは、2011年3月の東日本の震災がきっかけです。その当時は、東京都杉並区にある阿佐ヶ谷住宅という古い団地に住んでいて、やっぱり揺れは揺れて、地震後の数日は都内のスーパーとかコンビニに行っても、物が買えなかったり買い占めが起こったりとかしていました。

 都市で災害に遭うと、なんて言うんだろう・・・死んでしまうかもっていう危機をすごく感じて、計画停電があったりとかもしたので、自分が生きるために何が必要なんだろうみたいなことをけっこう真剣に考えている時期でした。そんな中で食べるものを自分で育てるって大事な気がするなって思いました。

 で、当時住んでいた阿佐ヶ谷住宅は『コモン』っていう、団地内の建物以外の緑地が豊かに計画されている団地で、専用庭もあったりとか、建物と建物の間にゆとりのある緑地帯があったんですね。そこに果物のなる木を植えている人もいれば、専用庭で畑している人もいて、自分もそこで野菜を育てたりもしていたんですけど、真剣に育てたい!みたいなことを考えたりしていました。

 地震でうまく物が買えなかったりとか、心細い思いをしたんですけど、団地で普段、顔を合わせて挨拶していたかたたちと声をかけあったりとか、特に花粉症のすごい時期だったのでティッシュを分けていただいたりとか、耳鼻科を教えていただいたりとか・・・・。

 本当に些細なことなんですけど、当時の自分はすごく心強い経験をして、普段、挨拶程度のつながりでも、地域のつながりってすごく大事なんだなっていうことも同時に感じたっていうことがありました。なので、なんて言うんでしょうね・・・つながりづくりや、食べられるものを育てる、このふたつはすごく大事だなって感じたのが、このプロジェクトを始めるきっかけになる、大もとにあるかなっていうふうに思います」

(編集部注:「エディブルウェイ・プロジェクト」の基礎になっている「エディブル・ランドスケープ=食べられる景観」は、1980年代にアメリカ人のランドスケープデザイナー、ロサリン・クリーシーが提唱した概念だと言われているそうです。

 「エディブル・ランドスケープ」という言い方は比較的新しいものですが、江口さんによれば、実はこの考え方は古代からあって、例えば、エジプトでは庭園の中にオリーブやブドウなど、実がなる植物を植えていた。また、日本でも奈良時代に、街道沿いに果樹の木を植える律令、今で言う法律があったとのこと。お陰で、夏は行き交う人々に木陰をつくり、果実は旅人を飢えから救うことにもなっていたそうです)

災害時にものを言う「つながり」

※あすは、東日本大震災が発生して13年、そして今年初めには能登半島で大きな地震がありました。自然災害の多い日本では、いざというとき、日頃培ってきた人と人との「つながり」がものを言うような気がしますが、改めて、いかがでしょうか?

「なにかあった時に、その時住んでいる地域だったり働いている場所だったりで、顔の知っている人がひとりでもいるっていうことが、すごく心強いんじゃないかなって思いますね。東日本大震災の時の私自身の経験で言うと、普段は挨拶するぐらいのゆるいつながりであっても、困った時とかは、大丈夫ですか?とか声をかけたり、気遣いあったり、助けあったりできるのかなって思いますね」

●「エディブルウェイ」は災害が発生した時に、その地域の人たちを救う一助になるかもしれませんよね。

「そうですね。すごく小さなプランターでの栽培なので、直接的な助けになりますって言い切れないんですけど、エディブルウェイの活動をしている中で、プランターを置いているかたたちが、苗の配布交換会とかで顔を合わせたりしています。本当に世代を超えて緩いつながりができていたりするので、人のつながりという面では(災害時の)一助になるといいなっていうふうには思います」

●都会に住んでいると、なかなか近隣住民と会話する機会も少ないのかなって感じるので(エディブルウェイの)効果は大きいかもしれませんよね。

「そうかもしれないです。今やっている地域も住宅地なんですけど、大学までの通学路でもあって、何もしてない時は、特に誰も知らないし、すごく退屈に歩く15分だったんですね。ただこのプロジェクトを始めたことで、歩いていると必ず知っている人に出会うので・・・」

●いいですね~。

「そうですね。一緒に活動していた留学生はこのプロジェクトに参加したことで、ここの街に住んでいる人たちがすごく親切な人なんだなっていうことがわかって、安心して歩けるようになったって言っている子がいました」

写真協力:江口亜維子

ささやかな園芸活動が広げる未来

※「エディブルウェイ ・プロジェクト」で、今後やってみたいことはありますか?

「今運営のメンバーで話をしているのは、夢や野望になるんですけど、地域の中に拠点を作って、エディブルウェイのプランターで採れるもので作った食だったり、ハーブティーだったりを提供できるようなカフェ・・・あとは、そこに行くとエディブルウェイを始められる資材、プランター、苗とかを買えるような拠点をいつか持てるようになったらいいねっていう話はよくしています」

●このプロジェクトを通して、最も伝えたいことはなんでしょうか?

「本当にこのプロジェクトでやっていることって、プランターをおうちの前に置いて、ひとりひとりの日常的なささやかな園芸活動が主になっているんですけど、そういう個人的な活動も、通りから見えることで町の景観づくりになったり、あとは関係づくりになったりとか、地域の環境を学び合う場になったりっていう、いろんな広がりが出てきています。本当にささやかな園芸活動もこうやって地域の中で発展していけるので、ぜひみなさんも野菜を育てたりとか、そういう活動が広がっていくといいなって思います」

写真協力:江口亜維子

INFORMATION

 現在、江口さんたちプロジェクトのメンバーが直接手掛けているのは松戸だけですが、都内や千葉の団地、商店街、そしてNPO団体などからも問い合わせが入っているそうです。この放送を聞いて、自分が住んでいる街でもこの活動をやってみたいと思われたら、「エディブルウェイ」のオフィシャルサイトやSNSで問い合わせてくださいとのことです。

◎エディブルウェイ:http://edibleway.org/

◎インスタグラム:https://www.instagram.com/edible.way/

前の記事
次の記事
サイトTOPへ戻る
WHAT’s NEW