2024/3/17 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、東京都大田区で動物病院を営む獣医師「北澤 功(きたざわ・いさお)」さんです。
北澤さんは1966年、長野市生まれ。北海道にある酪農学園大学を卒業後、長野市茶臼山動物園や城山動物園に獣医として勤務。動物の飼育や治療に加え、展示エリアの設計も担当。
その後、2010年に東京都大田区に「五十三次どうぶつ病院」を開設し、現在は獣医師としての仕事の傍ら、子供たちや一般向けに動物の生態などを解説する講演活動のほか、本も執筆。そして先頃、『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』という本を出されています。
きょうはその本をもとに、もし家庭で、ジャイアントパンダやキリンを飼ったら、エサ代や光熱費など、日々いくらお金がかかるのかなど、家庭では飼えない動物の飼育を、北澤さんと一緒に「妄想」します。また、イヌやネコの健康管理のお話などもうかがいますよ。
☆写真協力:北澤 功
イルカ 、キリンの飼育を妄想!?
●では、本に掲載されているリスト「飼えない動物、一緒に住んだらいくら?」から、いくつか動物をピックアップしてお話をうかがいたいと思います。まずはイルカ・・・1日9,333円ということで、これはプールの維持費とかすごく大変そうだなって思うんですけど・・・。
「いちばんはプールですね。実は狭いところでも飼えるんです。なんだったら(スタジオの)この部屋くらいのところで、水いっぱいしたら生きていくことはできるんです」
●このスタジオくらいで・・・?
「ええ、水いっぱい入れてね。だけど、飼うってことはただ飼うんじゃなくて、その子がいかに快適にするかなんで、それが大事です。そうすると、やっぱりある程度大きなプールが必要だし、プールの温度もその子が寒くて我慢しなきゃいけないとかじゃなくて、きちんとした温度も必要だったり・・・。
とにかく綺麗な水、水の中で生きているので、汚れたらすぐ病気になりますので、いかに健康で快適に楽しく住むか。イルカは自分たちのものじゃなくて、地球から預かったものなんで、快適にするために飼うにはやっぱりお金がかかると・・・」
●しかも海のそばに移住するっていうふうに本に書かれていましたけど(笑)
「海のそばって、新鮮で綺麗な海水がどんどん手に入るから、お金もかけずに水質管理もしやすいんで、たぶん海のほうが楽しいんじゃないかな、イルカも(笑)」
●エサはどうですか?
「けっこう食べるからね。やっぱりお魚もなんでもいいってわけじゃなくて、新鮮で美味しい魚というかね・・・そういうことを考えていくと、比較的やっぱりエサ代はかかりますね」
●お金がかかるんですね〜。では続いてキリンです。1日3,666円ということで、イルカよりはちょっと安いのかなっていう感じですね。
「これは基本的に施設を、建物で飼うってなったら別になっちゃうんだけど、暖房とエアコンをうまいことやればいいのと、パドックって言ってるんだけど、遊ぶところをきちんと作ってやれば、あとはほとんどエサ代でいけるなと思っています」
●3階建てに住んだら、毎日窓から顔を合わせることができると本に書かれていましたね。
「キリンってなつくんです、すごくなつくんです。毎日行ってエサをあげていると、梯子(はしご)じゃないけど、ちょっと高いところに登ってキリンにエサをあげたりすると、目の前の同じ高さでエサをあげると楽しいんですよ。長い舌で巻き取ってエサをとってくれます」
●庭付きの3階建てのお家に、家族が3階から見ていればいいですね(笑)
「そこのベランダで、自分たちは食卓で食事しながら、隣でキリンが(エサを)食べてるって最高!」
パンダは別格!? コアラは偏食家!?
※本に載っているリストの中から、続いてはジャイアントパンダです。1日にかかる費用が、21万6,166円、1ヶ月になると、なんと648万円5,000円ということになっていますが・・・いかがでしょうか。
「とにかくすべてが高い(苦笑)」
●すべて?
「レンタル料とかもかかりますので・・・。ジャイアントパンダに関しては、最先端の治療をしなきゃいけないですし、そういう研究費もかかります。エサも特殊で、新鮮な竹を・・・あの子たちはわがままだから、まずい竹を食べなかったりしますので、大変。エサ代もでかいし、施設も(費用が)すごくかかりますからね」
●レンタルっていうのは、中国からレンタルされたっていうことですよね。
「そうです。基本的に動物はすべてレンタルっていうか、私たち人間のものじゃないんです。全部借り受けているんです。たまたまジャイアントパンダの場合は、中国から借り受けているって形ですが、でも中国も地球から借りているって思っています」
●最新の治療をしなきゃいけないっていうのは、何かあるんですか?
「最新の治療っていうか、わからない、治療法が・・・やっぱりみんな経験がないし、すごく大事なことがわからないですね。薬の量もどのくらいやったらいいのかわからないですし、はたしてジャイアントパンダにはこの薬をやって大丈夫なのかもわからないから、そのデータとか(を集めるの)もやっぱり大変です。獣医とかもやっぱりすごく大変なんで、そういう部分はやっぱりお金もかかりますね」
●しかも竹を選ぶんですね。
「そうです。わがままです(苦笑)」
●竹専用の冷蔵庫もいると、本にも書かれていましたね。
「地震とか、なんかあったら(竹が)手に入らないことを想定しなきゃいけないので、ある程度のストックは絶対的に必要なんでね」
●なるほど〜。じゃあやっぱり高くなりますね。
「はい、ジャイアントパンダは別格ですね」
●あともうひとつ、コアラです。コアラは1日26,500円ということで、ユーカリしか食べない超偏食家!と(本に)書かれていましたけど・・・。
「いや大変なんですよね、食べ物を考えると・・・偏食っていう動物もいっぱいいるんです、それしか食べないって動物が・・・。特にコアラになると、それしか食べないんで、まずユーカリを確保しておくことが大変ですね」
●ユーカリは動物園でも大きな負担になると本に書かれていましたね。
「最近はコアラの飼育やめるところも出てきています。あまりにも大変すぎるし・・・ただ飼うんじゃなくて、 動物たちを快適に過ごさせてあげたいんで、良質のエサを手に入れるために・・・ということを考えると、あまりにもお金がかかりすぎますね」
(編集部注:動物園の獣医だった頃、飼育している動物は全部診ていた北澤さんによると、ライオンやトラは麻酔を打って眠っている間に診察や治療はできたそうですが、大きなゾウはそうもいかず、知能も発達しているので大変だったそうです。
動物園ではエサや飼育環境に注意し、動物にストレスを与えないようにすることが肝心で、基本は予防医療。治療よりも病気にさせないことが大事だとおっしゃっていました。
オランウータンのフジコ
※動物園の獣医時代に経験した、こんなエピソードを話してくださいました。
「私ね、獣医ではあるんだけど飼育もやっていたんです。最初の担当はずーっとチンパンジーとオランウータンの人工保育、親が飼育放棄をしちゃった子たちの親代わりをずっとしていたんですよね。ほんと親としてやったらね、(彼らは)すごく賢いから治療を理解してくれる、良好な関係ができたら、注射もできるし、苦い薬もあげることができるし・・・ただ関係ができないと、逆に(彼らのような)賢い動物は難しいですね」
●どうやって寄り添って関係を良好に持っていくんですか?
「動物たちの飼育で、力で抑えようとか、そういうこともあるんだけど、あの子たちは折り合いをつけるっていうか、もう人間関係と一緒、力で抑えるんじゃなくてお互いが信頼するような状況を作らなきゃ、力じゃ絶対無理ですね。
とにかく信頼関係のためにお互い、それぞれ性格がオランウータンもチンパンジーも個体によって違うから、その性格に合わせた接し方というか、お願いしますっていうようなイメージでやっていましたね」
●ほんとに人対人っていう感じですね。
「もうそうですね。オランウータンなんて特に完全に人と同じぐらいの感覚でしたね。
私、動物園から離れてもう10何年経つんですけど、そのオランウータンだけは未だに私が行くと覚えていてくれて、なんて言うんだろう・・・作った関係はもう絶対失わないし・・・昔は触る関係だったんだけれど、(オランウータンとの)間に柵があったり、会うと両方ちょっと悲しいことはあるんだけどね。だけど本当に行くだけで、すぐ近づいてくれるし、 子供の頃にしていた遊びを一緒にしてくれるとか、そのぐらい賢いしね、面白い! あの子たちは本当にすべてが面白いですね」
●そのオランウータンは、長野の動物園で飼っているんですよね?
「そう、お母さんが育児放棄っていうか、自分が人に育てられちゃったんで、やっぱり子育てわからなかったんですね。産んで抱っこしたのはいいんだけど、おっぱいのやり方がわかんなかったりとかで、すごくパニックになっちゃったんです。それでうまく育てられなかったってことで、私たちが取り上げて、哺乳瓶で(ミルクを与えて)育てたんです。そういうふうにしてずっと育てたんですよね」
●生まれてすぐの状態から一緒にいたわけですね。
「そう、ず~っといました。ちょうど同じようなチンパンジーもいたんです。同時期に同じのがいたんで、チンパンジーとオランウータンを一緒に(育てていました)。私、前にオランウータンを抱っこして、背中にチンパンジーを背負って、園内散歩をしたりとか・・・」
●もう本当に赤ちゃんですね!
「そうです、同じ同じ!」
●名前とかつけていたんですか?
「フジコ」
●フジコ! それは北澤さんがつけたんですか?
「いや、俺じゃないんですけどね」
●フジコちゃん!
「今でも可愛いですけどね! 可愛いたって、もうおばあちゃんだけどね。頭いいんだよね、すごく頭がいい」
(編集部注:北澤さんが赤ちゃんの頃から育て、心を通じ合わせたオランウータンのフジコは、長野市茶臼山動物園に行くと会えますよ。
北澤さんは、動物園勤務を離れたいまでも、プライベートで動物園に行くそうです。そんな北澤さんから楽しみ方のアドバイス。動物園に行くと、展示されている動物を全部見ようとするかたが多いと思いますが、それよりも、推しの動物に会いに行く感覚で、定期的に行って変化を見つけたり、ポイントを絞って、例えば、きょうは動物の足だけを観察するとか、そんな楽しみ方もありますよとご提案いただきました)
災害時にペットを守るために
※北澤さんの動物病院に来院する動物は、やはりペットの犬や猫が多いと思うんですけど、おもにどんな病気を患っていることが多いですか?
「単純で、猫ちゃんは腎臓病、ワンちゃんは心臓病、(それには)意味があるんです。猫ちゃんは本当は砂漠の生き物だったんです。砂漠の生き物だから水がない、水がないところに生きていたから、少ない水で生きようと思うから、腎臓っていうのは水を再利用しようと考えています。腎臓の能力はすごく高いんです。なので、腎臓が頑張るから、歳をとると腎臓病になる。
ワンちゃんのほうは狩りをするために心臓がすごく発達しているんです。早く走ったり、長距離を、オオカミですから、(狩りを)やるために心臓の能力がすごく高いから、歳をとるとやっぱり負担がかかるんです」
●季節によって来院する動物って変わったりするんですか?
「冬は猫、夏は犬」
●どうしてなんですか?
「やっぱり心臓病が多くなるのは夏。あと膀胱とか、泌尿系はストレスで膀胱炎になったりしますよね。猫ちゃんはそういう泌尿器系、腎臓から膀胱系はやっぱり冬のほうが(猫は)すごく苦手。寒いのが苦手なのは猫ちゃんで、暑いのが苦手なのはワンちゃんっていうのは生態的にもそうですから・・・」
●残念ながら日本って自然災害が多く発生します。東日本大震災そして直近では能登半島の地震と大災害に見舞われました。最優先はやっぱり人命救助とか被災者の支援なんですけれども、犬や猫を飼っているご家庭で、避難所に行かず車などで生活することを選ぶっていうかたもいらっしゃると思うんです。
ペットを飼っているかたに向けに、日頃から用意しておいたほうがいいよっていうものとか、災害に遭った時にペットを守る方法などありましたら、ぜひ教えてください。
「まずね、飼うにあたって、ちっちゃなケージだったり、ペットのケースに慣らしとくことが大事です。今まで入ったことないのに急に入ったら、パニックになっちゃうから、普段からそこで寝るとか、なんかあったら、お客さん来たら、そこに入っているようにするとか・・・。
安心する狭い空間、あの子たちっていうのは、そんなに広くなくても安心な場所が好きだから、その場所だと安心だよってことを慣らしておくと、震災とかあっても、その中に入れてどこかにいてもストレスは少ないです。まだ慣らすことが大事ですね。
あと、当然ご飯はやっぱりある程度用意してほしい。病気のワンちゃんとか猫ちゃん別ですけど、出来れば、ある程度いろんなものを食べる練習(をしておく)、ただ人間の(食べ物)はダメです。人間の物でもいいのは生の肉、味を付けていない肉とかは全然いいです。胸肉とかそういうのは全然いいです、味ないものだったら。
お菓子とかは絶対ダメなんだけど、基本的にいろんなフードをちょっと食べさせといて、(災害時に)いろんなもの食べられる状態を作っといてあげると・・・鶏肉なんて食べさせておくといいですよ! 胸肉がね。自分で食べてるのをちょっと湯がいて、たまにあげとくと、筋肉もつくし・・・。そうなった時に鶏肉だけちょっと余っていたら、それも食べることができますし・・・。
あとね、ペットシート! とにかくペットシートはいっぱい用意しとくといいです。やっぱり汚れがいちばん臭いを呼びますから、みなさん大変ですけど、どんどん替えられるぐらいにしておくと・・・あれは人も使えますから。袋にペットシートを入れておけば、トイレ替わりにもなるから、ペットシートはすごく便利ですね」
(編集部注:北澤さんが営む、東京都大田区にある「五十三次どうぶつ病院」は、傷ついた野生の鳥や動物の保護活動をする病院として東京都から指定されていて、これまでに野生のフクロウなどが持ち込まれたことがあるそうです)
ペットと長く一緒にいるために
※北澤さんの新しい本『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』には、実際に飼える犬や猫なども載っていました。当たり前のことなんですが、ペットを飼うと日々お金がかかりますよね。
「お金はかかります、なんでもかんでも。だけど工夫によって、かからない飼い方があるんです。病気にさせなければ医療費はかからない。人間が食べるものをあげなかったら病気はぐっと減る。いっぱい走るのが大好きだったら、いっぱい走らせあげることによって病気が減るとか、お金をかけない飼い方はありますので、それをしっかりやってもらうといいと思いますね。楽しく飼えます」
●ほかに飼う前に何かやっておいたほうがいいことはありますか?
「まずね、調べること! 飼い方を調べること! 私、基本的に生態学が好きなんで生態を学んでから治療に入っていく。なんでこの子は病気になったの? って思ったら、この子はこれを食べるのはダメだからっていうのがあります。そこまで調べなくてもいいけど、ワンちゃんってなんで散歩が好きなの?とか、猫ちゃんは寒いの苦手だよ!とか、それを調べて知っておくだけでも、食べ物をちょっと知っておくだけでも全然違います。知ってから飼うことはすごく大事だと思っています」
●獣医師としてペットには、こう接してしてほしいってありますか?
「いや、難しくないです。好きであればいいんです。好きもただ可愛いんじゃなくて、好きだから長く一緒にいたいから、いい飼い方と良好な関係を作る! それです。でもやっぱり好きだったり、可愛がるっていう気持ちがなかったら、それができませんのでね」
●愛情と、尊重してあげるっていうか・・・。
「いいですね、尊重はいいですね、すごくいいと思いますね」
INFORMATION
北澤さんの新しい本をぜひ読んでください。きょうご紹介した以外にもアザラシやオオカミ、カンガルーやチンバンジーなど、合わせて32種の動物を掲載、もし家庭で飼ったら、いくらかかるのか、そしてどんなことが起こるのか、ぜひ「妄想」して楽しんでくださいね。
動物が大好きな北澤さんとしては、地球でともに暮らす動物たちに興味を持ってほしい、そんな思いも込めているそうです。日経ナショナルジオグラフィックから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。
◎日経ナショナルジオグラフィック:
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/product/23/120100061/
◎五十三次どうぶつ病院: https://53tsugi.com