2024/4/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ツチノコのドキュメンタリー映画を制作した「今井友樹(いまい・ともき)」監督です。
今井さんは1979年、岐阜県東白川村生まれ。日本映画学校、現在の日本映画大学を卒業後、民俗文化映像研究所に入所。その後、2015年に映画制作会社「工房ギャレット」を設立。おもにお祭りや芸能などの民俗文化の記録映画を制作、これまでに短編も含め、30本ほどの作品を発表されています。
そんな今井さんの最新作が自分のふるさと、岐阜県東白川村に伝わるツチノコをテーマにしたドキュメンタリー映画『おらが村のツチノコ騒動記』。2016年頃から制作を開始、人づてに目撃情報を集め、日本全国40カ所ほどをめぐり、60人以上のかたに取材、足掛け9年かけて完成させた映画です。そしていよいよ来月から一般公開されるということで、監督を番組にお迎えしました。
きょうはツチノコとは、いったいどんな生き物とされているのか、果たして、本当にツチノコはいるのかなど、その実態に迫ります。
☆写真協力:工房ギャレット
ツチノコ、そしてふるさとへの思い
※今井さんは子供の頃から、村で開催されるツチノコ探しのイベントに参加するなど、身近にツチノコを感じて育っています。
ツチノコをご存知ではないかたもいらっしゃると思いますので、まずは、どんな生き物とされているのか、その特徴などを教えてください。
「今ツチノコっていうと、たぶん大人から子供までみんな、同じような形状を思い浮かべると思うんですね。それは頭がぼこっと大きくて、首がきゅっと細くしまっていて、胴体がさらに太くなって、尻尾が細くきゅっとなっている、これ、例えば、今の子供たちだったら、アニメとかにもキャラクターとして登場していて、おなじみですし、僕が子供の頃はビール瓶のような形状でツチノコをたとえていました。
それより以前は『ツチノコ』という言葉の、たぶん語源にもつながると思うんですけど、木槌の『ツチ』、それがツチノコの形状に似ているということで、胴が太くて尻尾が細いっていうようなことを思い浮かべてもらえれば、いいと思いますね。それがヘビなのかどうかはわかりません」
●なんかほんとにヘビみたいに見えますよね~。でもヘビじゃないんですよね?
「そうですね。なんなんでしょうか(笑)」
●呼び名っていろいろあったんですか?
「そうですね。僕の田舎、岐阜県の東白川村という地域なんですが、そこの山村では僕のおじいちゃん、おばあちゃんの世代は『ツチヘンビ』っていうふうに呼んでいましたね。隣村ではツチノコと同じような形状のものを『ヘンビの大将』と呼んでいましたし、また別の場所では『ノヅチ』と呼び、で、そのまた隣の地域では『転がりヘビ』・・・だから自分のふるさとの周辺だけでも呼び名がそんなにも違います。
全国を訪ねると『ゴハッスン』であったり『サメ』と呼んでいたり、なんかもう本当にヴァリエーションがあって、10種から20種類ぐらいの呼び名があるんじゃないですかね」
※ツチノコのドキュメンタリーを制作しようと思ったのは、どうしてなんですか?
「今ツチノコっていうと、ツチノコ捜索をすることが世間でニュースになったりとかあるんですけれども、実は僕の生まれ、ふるさとである岐阜県東白川村は、今から35年前、1989年、平成元年の頃に、ツチノコ捜索イベントを行なったんですね、そしたら全国から200人以上の参加者が集まって、以来毎年ツチノコの捜索を続けている地域なんですね。
今年も開催されるんですが、その地域で当時、僕は小学校の高学年でして、おじいちゃん、おばあちゃんから、もともとツチノコの話や存在は聞かされていたわけではないんです。突如、村で1989年がヘビ年だったっていうこともあって、ヘビ年にちなんで、ツチノコの話題が盛り上がったんですね。その時におじいさん、おばあさんたちはツチヘンビと呼んでいたものが、実はツチノコだったんじゃないかっていうようなことで、村の中でツチノコがブームになっていくんですね。
おじいさん、おばあさんたちは当時ツチノコは、見ても人には言ってはいけないという存在だったんですね。怖れられていて神様のような存在として受け止めていて、僕もそのように聞かされていたんです。だからツチノコは、おじいちゃん、おばあちゃんたちがいるって言うんだから、僕もいると信じて疑わなかったんです。
それがですね、だんだん・・・ふるさとを離れて、ひとり暮らしをして、仲間や知り合いに自分のふるさとを説明する時に、ツチノコで有名な村だって言うとみなさんだいたいわかってくれるんですけど、リアクションが“いないツチノコを探している村”だとか、“なんかそれ本当にいるの?”みたいな眉唾で反応してくれて、それはそれでありがたかったんですけど、だんだんそういうのを繰り返してるうちに僕自身の中でもやっぱりツチノコに対する思いや気持ちが冷めていって・・・。
その冷めていく気持ちとふるさとへの思いがなんか重なって、“いないツチノコを探し続けているふるさと、いやだな~”なんて思っていた時期が長い間あったんですね。そういうのを振り返ってみようと思ったのが、今回の映画作りのきっかけになります」
「いるかもしれない」、それが魅力!?
※目撃情報がたくさんあるのに、一般的にはあまり知られていなかったのは、東白川村以外でも、実際に見たとしても、ほかの人に話してはいけないという、そんな掟みたいなものがあったんですよね。
「そうですね。ツチノコ探しに発展していく前までは、そういうような言い伝えと言いますか、いわれがあって、おそらく実際にツチノコを見たという人が周りにいた時に、“あんたもツチノコ、見たんか!”と言って、怖れられるような世間があったと思うんですけれど、その背景にはやっぱり自然を相手に暮らしてきた人の暮らしというか、そういうのがちゃんと展開していたんですね。
それが自分の子供の頃を振り返ってもそうですけど、生活の舞台がどんどん機械が入ったり道路が補装されていったりとか、少しでも暮らしが豊かになっていくような形で開発されていくんですね、土地改良とか。
そういった過程の中でツチノコという存在が変化していったと・・・それが怖れられた存在からどんどん探す対象に変わっていったのを、ちょうどふるさとでの自分の体験から見ても、自然の変化とかそういったものをうかがうことができるということですかね」
●都道府県が違っても目撃者の証言は、ほとんど同じ内容というのが興味深いなと思ったんですけれども・・・。
「そうですね。実際ヘビ自体は飛ばないんですけど、ツチノコはビュンと飛びかかったりする、(ツチノコに)噛まれたという人は聞いたことはないですが、転がってくるというような現象はあちこちで聞きましたし、非常に似たものを日本各地で目撃しているんです。それは僕もなぜだろうって不思議でした」
●目撃されたのは、みなさん山あいで豊かな自然が残っているような場所でした。やはりそういうのも、ツチノコの生き物としての信憑性みたいなものを表していますよね?
「そうですね。ツチノコ探しが始まった発端は、1960年代ぐらいからなんですけれども、釣りのエッセイストであった、山本素石(やまもと・そせき)さんというかたが仲間を集めてツチノコ捜索に乗り出したんですね。
彼自身は京都の山中でツチノコのようなものを目撃して、京都の地元の人に尋ねたら、それはツチノコだということで、ツチノコ探しが始まっていくんですが、何回もツチノコ探しのブームは断ち切れてはまた現れっていうのを繰り返して、今に至るっていうことで、非常に(ツチノコは)誰にとっても魅力の詰まった存在ですね。
生き物としての存在で言えば、いるかもしれないっていう、そういうような期待がやっぱりツチノコにはあって、いるかもしれない、目撃者もたくさんいるのにまだ見つかっていないっていう、そこが最大の魅力ですね。
中にはツチノコの誤認説っていうものがたくさんあって、ヘビだったんじゃないかとか、トカゲだったんじゃないかとか、なんかと見間違えたんじゃないかとか、いろいろあるんですけれども、そういうのも含めて、ツチノコはなにか惹きつける魅力があるんだなっていうのは素材としてよく感じました」
ノヅチ、草の神様!?
※ツチノコらしきものの資料というのか、記録が残っているのはいつの時代からなんでしょう?
「これは民俗学者の伊藤龍平 (いとう・りょうへい)さんがおっしゃっていたんですけれども、ツチノコという言葉は江戸時代の頃には『ノヅチ』という呼び名で言われていて、そのノヅチという言葉自体は日本書紀の頃から出てくるような神様の名前らしいですね。
草の神様なんですが、生き物というかそういった存在として文献に出てくるのは、1700年の終わりぐらいから1800年ぐらいにかけてですね。絵にもノヅチというのは、こういう形をしているっていうような、今我々が見てもツチノコと連想できるような形で描かれていますね」
●そういった文献では、どんなふうに紹介されているんですか?
「僕のふるさとの隣に中津川市加子母(かしも)という地区があるんですが、御嶽山の麓にある山の中で、彦七というかたが山を歩いていたら、笹林の中で足もとをぬるっと触るような冷たい感触があった。で、見たらかつお節のような形をしていて、太さが一尺だから30センチぐらいの太さのものがぬるっと過ぎていって、その奇妙な体験を里に降りて話をしたら、それはノヅチだとそういうような日記が残されていたりもしますね」
未来を示唆する光を探す!?
※今井さんは、映画制作会社「工房ギャレット」の代表でもいらっしゃいますが、映画監督を志したのは、なにかきっかけがあったんですか?
「僕は子供の頃、田舎で生まれ育って、テレビで映画を見る機会が多かったんですね。父親が大工で寡黙、その寡黙な父親が、映画が流れているテレビの画面に釘付けになって、毎晩見ているっていう姿が非常に僕にとっては印象的で、その父親を惹きつけるようなものを作っている、その映画監督に憧れが生まれたんですね。
次第に劇映画、例えばハリウッドの映画とかもそうですし、アクション映画なんかもそうですけど、そういったものに憧れて、映画のことを勉強する学校に入ったんですね。そこで授業の中で自分のふるさとを取材するっていうドキュメンタリーの世界に触れて、そしたらいかに自分が自分のふるさとっていうか、足もとの部分を見てこなかったのかっていう、そういう反省に至って、それ以降はそういう民族文化に代表されるような、そういった生活の記録を中心にやってきているっていう感じですね」
●今井さんが映画制作で大事にしていることですとか、心がけていることは何かありますか?
「その時代その時代に生きてきた人の証は、もちろん偉人であれば文献にも残るでしょうし、語り継がれていくこともあるかもしれないですけど、本当に普通の、僕を含めた一般の生活者の人たちって、日々いろんなことを考えたり悩んだり、そういったことを繰り返しながら生活を営んでいるんですよね。
それが科学技術に依存しなくても、自然の中で暮らしてきた、長い間の歴史の積み重ねがあるので、そういうところの中に、実は今生きている僕ら現代人にとって、生きる糧というかヒントというか、そういった未来を示してくれるような光みたいなものがいっぱい埋もれているんですよ。そういうのは見過ごしてきてしまいがちなんですけれど、そういうところに立ち止まって目を凝らしていきたいなっていうのが・・・自分が全部できているわけではないですけども、そういうのを心がけています」
ツチノコにはロマンがある!?
※ツチノコの目撃情報はたくさんあるのに、捕獲されていない、写真さえもない、そこにツチノコらしさがあるようにも思いますが、どうなんでしょう?
「僕自身、取材を始めた9年前は、ツチノコなんてもういないのにっていうような気分から始めているので、疑いながら話を聞きに行っていたんですね。映画制作に一緒に付き合ってくれたカメラマンも“ツチノコですか・・・?”みたいな感じで(笑)、取材に同行してもらったんですが、その当時の目撃者であったりとか、ツチノコ探しに一生懸命に取り組んだ人たちの話を聞いていると・・・(みんな)真剣なんですよ。
その真剣な気持ちとか、あとはその一生懸命の中にも楽しさとか、その当時を思い出すと笑顔がこぼれるような、そういう姿をじっと見ていると、大切なものがそこにあるような気がして・・・ツチノコはいないって冷めている自分の心を熱くしてくれたというか・・・カメラマンも取材を終える頃には“ツチノコ、いますね!”みたいな感じで、僕よりも乗り気になってくれたっていうのをよく覚えていますね」
●確かにツチノコはいると思いますか?
「ツチノコは実際に見た人もいますし、そういった伝承が各地にあるっていうのは、いないということはないはずですよね。いた、あるいは、今でもいる、そっちのほうが人間、未来があっていいなって思いますね。完全にいないっていうふうに言い切ってしまうと、なんか閉ざされてしまうような・・・心がですけどね。だから僕はそういう期待も込めていると思います。
未確認動物とか、今なかなかそういう新種の生き物の発見も、地域によってはあるとは思うんですけど、かつてほどビッグニュースみたいなものってないですよね。ツチノコを発見したら、すごく明るいに話題になるなって!
僕は自分のイメージの中では、忙しく働いている、渋谷の交差点を歩いているサラリーマンが、スクランブル交差点の大きな掲示板に“ツチノコ発見!”っていう速報が流れた時に、はっ!て振り向くような、未来へ明るい顔で振り向くような、そういう感じの存在だと思うんですよ、ツチノコって。だからそこにはロマンがあると思うんです。そのロマンはずっと大事にしていきたいなと思います」
INFORMATION
いよいよ来月、5月18日(土)からポレポレ東中野を皮切りに、順次全国で公開されることになっています。ぜひ劇場に足を運んでご覧ください。
詳しくは、工房ギャレットの専用サイトを見てくださいね。公開情報は、決まり次第、順次アップされる予定です。
◎工房ギャレット:https://studio-garret.com/tsuchinoko/
岐阜県東白川村では、ツチノコを探す「つちのこフェスタ」が今年も開催されます。去年はおよそ2500人ほどのかたが参加されたそうですよ。今井さんは、今やツチノコは立派な観光資源にもなっている、そんなこともおっしゃっていました。
東白川村での「つちのこフェスタ」、今年の開催は5月3日(金・祝)。詳しくは、東白川村のホームページをご覧ください。
◎東白川村:
https://www.vill.higashishirakawa.gifu.jp/syoukai/gaiyo/tsuchinoko/tsuchinokofesta/