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昆虫写真家 工藤誠也〜寝ても覚めてもチョウに夢虫

2024/6/2 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、弘前大学の研究員で、
昆虫写真家としても活躍されている「工藤誠也(くどう・せいや)」さんです。

 工藤さんは1988年、青森県弘前市生まれ。お父さんの影響もあって、子供の頃から昆虫好き。そして岩手大学大学院を経て、現在は弘前大学農学生命科学部の研究員としておもに魚や鳥など、生物が自然環境の中でどんなふうに生きているのかを調査・研究されています。

 また、研究活動のかたわら、青森の野山をおもなフィールドとして昆虫の撮影を行ない、先頃、撮りためた蝶々、約200種を掲載した本『チョウごよみ365日』を出されました。

 この本はタイトル通り、四季折々のフィールドで出会うチョウの写真を日めくり感覚で楽しめて、美しい写真に添えてある、撮った時の状況や、チョウの特徴を解説した文章に工藤さんのチョウへの思いが溢れています。また、カヴァーに載っている「寝ても覚めても チョウに夢虫」というコピーにもチョウへの愛を感じます。

 きょうは、その本をもとに、同じ蝶々なのに翅(はね)の色を変える種や、アリを巧みに利用するチョウなど、意外と知られていない蝶々の生態についてお話をうかがいます。

☆協力:工藤誠也、誠文堂新光社

ミドリシジミ
ミドリシジミ
『チョウごよみ365日』

越冬する日本のチョウ

※日本には何種類くらいのチョウがいるとされていますか?

「240種くらいと言われることが多いです。ただ、いかんせんチョウは飛ぶ生き物なので、ほかの国で普段過ごしているチョウが台風とかで運ばれて、日本に飛んできて、まれに記録されたりだとか、毎年のように日本にはいるけど、実は冬に一度滅んでしまって、また次の年に来るっていうのを繰り返している種だとか・・・あと外来種とか、そういったものが結構多くあります。

 記録のあるチョウをすべて数えたら300種を超えると思います。もっと厳密に昔から日本にいて、越冬しているみたいなやつだけを数えたら、200種よりちょっと多いくらいになるんじゃないかと思います」

●チョウというと、東京でも都市公園とか郊外の住宅地などで春から夏にかけてよく見かけますけれども、その頃が繁殖の季節ということなんですよね?

「春に出るチョウもいますし、夏に出るチョウも秋に出るのもいて、種数でいうなら夏が多いのかなとは思いますが、それぞれいろいろあると思います」

ミドリシジミの羽化
ミドリシジミの羽化

●工藤さんがお住まいの、メイン・フィールドの青森は冬の期間が長いじゃないですか。となるとチョウの活動期間は短くなっちゃうんですか?

「寿命自体は一個体一個体、そう大きく変わらないと思うんですが、どうしても春から秋までの時間や、夏自体も短くなりますので、いろんな種が同じタイミングで出てくる。で、たくさんの種が短い期間に一気に出てくるような状態になります。春から秋までの期間は、虫が見られる期間自体はちょっと短いですね」

●冬を越すチョウは結構多いんですか?

「日本に生息している都合上、何かしらの形では冬を越さなきゃいけないですね。成虫で冬を越すっていうことであれば、タテハチョウの仲間とか、シロチョウの仲間とかに一部成虫で冬を越す種がいて、そういった種が春早い季節に飛んでいます。あとは蛹とか、卵の殻の中で小っちゃい幼虫が冬を越すとか、卵で冬を越すとか、本当に様々な越冬体を持つものがいます」

同じ種なのに、翅の色を変えるのはなぜ?

※この本を読んで初めて知ったんですけど、季節の移り変わりで、翅(はね)の色を変える種もいるんですね?

「一個体の中で色や形が変わることは基本的にはないんですが、一生が短い生き物なので、春に出たあとの次の世代が夏に出たり、1年の中で多い種だったら5回とかそれ以上とか、発生を繰り返すような種が多々います。そういう中には、寒い季節に出現する時の色や形と、暑い時期に出てくる時の色や形が違っているものが結構います。

 例えば、サカハチチョウっていう小ぶりなタテハチョウの仲間だと、春に出てくるやつは綺麗なオレンジ色ですし、夏に出てくるやつは、ほぼ真っ黒というとちょっと語弊があるんですが、かなり黒く地味なチョウになります」

サカハチチョウ春型
サカハチチョウ春型
サカハチチョウ夏型
サカハチチョウ夏型

●どうしてそういうチョウがいるんですか?

「季節で最適な色や形が違う。周りが枯れ草だらけのシチュエーションと、緑で覆われているシチュエーションで、色が違うのはひとつあると思います。

 あとは、どうしても季節というか、世代によって個体の数というか、チョウの密度が変わってきますので、たくさんいる時はむしろ外敵に襲われにくいように地味な見た目をしているほうが有利だったり、逆に寒くてあまり生き残れないような時は、派手な身なりをして、異性の気を引いたほうがって言ったらいいんですかね・・・モテるような姿をしたほうが有利だったりということがあるんだと思います」

アリを巧みに利用するチョウ

※これも工藤さんの本で知ったんですけど、チョウの幼虫に餌を与えて育てるアリがいるんですね?

「そうですね。クロシジミとか、キマダラルリツバメとか、国内で知られているだけでも、その2種かな・・・アリから直接、口移しで餌を与えられて過ごします。特にキマダラルリツバメは、幼虫の最初から最後まで一貫して、アリから口移しで餌をもらって成虫になるはずです」

キマダラルリツバメ
キマダラルリツバメ
キマダラルリツバメの幼虫に口移しで給餌するハリブトシリアゲアリ
キマダラルリツバメの幼虫に口移しで給餌するハリブトシリアゲアリ

●チョウに尽くすアリっていう姿ですけれども、アリに何かメリットはあるんですか?

「シジミチョウの幼虫が背中に蜜腺と呼ばれるものを持っていまして、その蜜腺から名前の通り甘い蜜のようなものを出すんですよ。で、それをアリは好んで舐めるんです。なので、その蜜をもらえることがアリ側のメリットと言えばメリットです。

 ただ、最近の研究で、必ずしもすべての種でそうなのか調べられているわけじゃないと思いますけど、少なくとも一部のシジミチョウが出しているその蜜は、アリ側からしたら好きであって、舐めている嗜好物質ではあるんだろうけど、舐めることで利益を得ていることになるのかはわからないし、どちらかというと寄生的な関係であるみたいなふうに言われることが多いです」

●なるほど〜。ほかにもアリを手なずけて、アリの巣に潜り込むチョウの幼虫もいるんですね。

「ゴマシジミの仲間は、ほかのクロシジミとか、さっきの口移しで餌をもらうシジミチョウ自体もそうなんですが、小っちゃい頃、別の植物を食べたり、アブラムシの汁を吸ったりして、小っちゃい幼虫時代を過ごして、ある程度まで大きくなったら、アリを呼ぶわけじゃないと思いますけど、うまいことやって、くわえてもらって、アリの巣に運んでもらう。

 で、運んでもらって巣の中に入ったら、あとはしれ〜っと仲間のようなふりをして、ゴマシジミの幼虫だったらアリの幼虫を捕食しますし、さっき言ったクロシジミであれば、仲間のふりをして餌をもらうようなことを続けて育っていきます」

ゴマシジミの幼虫を巣に運ぼうとするシワクシケアリ
ゴマシジミの幼虫を巣に運ぼうとするシワクシケアリ

キラキラ光る、くるくる回る

※工藤さんが撮影している中で、いちばん驚いたチョウの生態はありますか?

「今言ったアリに寄生するシジミチョウの仲間は、特にすごい生態をしているチョウだと思います。それ以外にも、そうですね・・・ゼフィルスって呼ばれる翅が緑色にキラキラ光るミドリシジミの仲間がいるんですけれども、これなんかはそんなキラキラ光る必要があるのかな? って思うくらいキラキラ光る翅を持っています。

アイノミドリシジミの飛翔
アイノミドリシジミの飛翔

 モルフォチョウとか、絵のモチーフになったりする青いチョウが海外にいますが、あれほど大きくはないですけれど、輝きの強さだけなら、それと肉薄するチョウが日本にもいます。

 その仲間は成虫が一時期、限られた時間帯だけに陽の当たる空間に出てきて、1時間ぐらいだけ激しく飛び回って、オスとオスがお互いに追いかけ合った都合上、そうなるのかわかんないですけど、輪っかを描くようにって言ったらいいんですかね・・・くるくると二個体で追いかけ合って回るんです。それなんかを見ていると、なかなか不思議なことをする奴らもいるなと思います」

真っ赤なアカオニシジミ

※工藤さんの本の、12月30日のページに、この日は私の誕生日なんですけど、タイで撮影した「アカオニシジミ」というチョウの写真が載っていました。こんなに赤くてきれいなチョウがいるんですね。

「あれは東南アジアとか海外のチョウをひっくるめて、赤色のチョウの中ではトップクラスに美しい種のひとつじゃないかなと思います」

アカオニシジミ
アカオニシジミ

●南方に生息しているチョウは、びっくりするぐらいカラフルなんですね。

「そうですね。もちろん地味な種もたくさんいるんです。なんていうか昆虫はどうしても寒いところに行くと、種数が少なくなって同じ種がたくさんいて、暖かい地域に行くと、種数が多くなってその一種あたりの数が必ずしも多くないみたいな生き方というか生息をしているんですね。

 暖かい地域に行くと、いかんせん種数が増えるので、その派手さのピラミッドみたいなものが、地味な種がとにかくたくさんいるけど、そのてっぺんにすごく派手なやつが少数だけいて、そいつらがかなり目立つみたいなところがあります。

 例えば、大きくて緑色に光るトリバネアゲハの仲間であるとか、それこそ今言ったアオカオニシジミであるとかが、うわずみ的な存在にあたるのかなというふうに思います」

●日本で見られるチョウとの違いは、どんなところにあるんですか?

「いちばんの違いは、たぶん1年中何かしらいることだと、成虫が飛んでいることだと思います。あとは先ほど言った通り、少し一部派手な種がうわずみ的にいて目立ちますすね。

 どうしても種数が多いので、ひとつの種が活動できる時間とか空間が限られてしまって、同じ場所に、例えば1日朝から晩までいても、30分ごとに違うチョウが現れるみたいな、すごく切迫したタイム・スケジュールの中で、いろんなチョウがひとつの空間に生息しているところが、熱帯とか暖かい地域の特徴かなと思います」

(編集部注:工藤さんは青森に冬がやってくると、海外へ。おもに東南アジアのタイ、ベトナム、マレーシア、台湾などにチョウを追い求めて出かけるそうです)

美しい翅は生き残るための進化

※工藤さんの本を拝見していて、改めて感じたんですが、チョウの翅の色や模様は、個性的で美しくて、まさに芸術ですよね。翅の色や模様を決定づける要因はなんでしょうね?

「チョウはどうしても弱い存在というか、生き物全般からしたら食べられて死ぬことがとても多い生き物だと思うんです。なので、そのチョウの色とか模様は捕食者に対する警戒というか・・・例えば、毒を持っているほかの虫に擬態するためのものであったりだとか、あるいは身を隠すためのものであったりすることが多いと思います。

 あとは自分の配偶の相手を探すための標識的な模様であったりするとは思いますね。そういったところで自分の翅を綺麗に着飾ったり、あるいは地味に周りにとけ込むような斑紋を持つことで、うまく生き残るために進化した結果なんじゃないかなとは思います」

●では最後に、工藤さんにとってチョウの魅力とは?

「そうですね・・・昆虫の中ではチョウは、すごく大きい虫だと思うんです。シジミチョウは、チョウの中ではすごく小さい体のサイズのグループですけど、それでもちっちゃいもので1センチぐらいはある。でもほかの甲虫とかだと1センチだったら結構な巨大種なんですよ。なので、人の目で見て扱いやすいというか、分かりやすい体の大きさを持った分類群っていうのがまずひとつ魅力だと思います。

 あとは色とか模様が鮮やかで目を引くことと、それからこれは体が大きくて観察しやすいっていうところにもちょっとつながる部分があるんですけど、昼活動するので、自分の目でそのチョウが実際に生きて活動しているところを見ることができるっていうのが魅力かなと思います。

 例えば、蛾も僕は好きなんですけれども、蛾は夜何しているか実は知ることが難しくて、花に行って蜜を吸ったりする種もいるはずなんですが、ライトを当ててしまったらどうしても驚かれて、行動が変わってしまいます。自然な形で観察がなかなかできないというところがあるんです。

 ただその点、チョウだったら、青空の下で花の蜜を吸ったりとか、交尾相手を探したりとかしますので、気軽にそういう姿を見ることができるのが魅力かなと思います」

夜に蛾を採集するために待つ工藤さん
夜に蛾を採集するために待つ工藤さん

(編集部注:工藤さんの撮影のメインフィールド、青森の野山でチョウが去年より少なくなっていると感じることはよくあるそうですが、多くなったり少なくなったりする「ゆらぎ」なのか、当たり外れなのかはわからないそうです。ただし、外れ年と思っていたら、いっこうに戻らない、復活しない。この十数年、そんな流れになっているとのこと。気候や環境の変化が蝶々にも影響を与えているのか・・・気になりますね。

 また、今後撮りたいチョウについては、インドネシアやパプアニューギニアなどに生息している「トリバネアゲハ」を撮りたいとおっしゃっていました。てのひらサイズの大きなチョウで、翅の色も個性的で美しいので興味のあるかたは、ぜひネットで調べてみてください)


INFORMATION

『チョウごよみ365日』

『チョウごよみ365日』

 工藤さんの新しい本をぜひご覧ください。四季折々のフィールドで出会うチョウの写真を日めくり感覚で楽しめて、美しい写真に添えてある文章にチョウへの思いを感じますよ。ページをめくるごとに、季節が進んでいく感覚も味わえます。「寝ても覚めても チョウに夢虫」な工藤さんの本、おすすめです! 誠文堂新光社から絶賛発売中! 詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎誠文堂新光社 :https://www.seibundo-shinkosha.net/book/science/85779/

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