2024/6/9 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第20弾! SDGsの17の目標から「住み続けられるまちづくりを」ということで、「シモキタ園藝部」の活動をご紹介します。
下北沢駅周辺は再開発が進み、小田急線が地下に移ったことで、東北沢から世田谷代田あたりまでの約1.7キロの線路跡地に「下北線路街」ができて、そこが緑地になっています。
一般社団法人「シモキタ園藝部」は「まちの植物を守り育てていく」ことを目的として2020年4月に発足。それまでの経緯をかつまんでご説明すると・・・小田急線が地下に入るということで、地上の線路跡地をどうするかという話し合いが世田谷区と市民グループの間で始まり、区長が交代したことをきかっけに、小田急や京王の電鉄会社も参加し、さらに活発化。
そして、市民グループからの提案などをもとに、ランドスケープ専門会社がグランドデザインを作り、イメージを共有。植物を中心に活動したいというグループ「緑部会」から現在の「シモキタ園藝部」になったそうです。
同園藝部は「循環」をテーマに、植栽の管理に加え、コンポスト事業、養蜂、植物の知識を身につけるための園芸学校、世話ができなくなった植物を引き取り、手入れして、新しい持ち主へつなぐ「古樹屋(ふるぎや)」、ワイルドティーなどが飲める「ちゃや」、そして活動の拠点「こや」を運営するなど、幅広い活動を行なっています。
「のはら広場」は子供たちが作った!?
※取材にうかがった日は5月の半ば過ぎで時折、日が射す程度の、そんなに暑くもなく取材日和。小田急線下北沢駅の南西口を出てすぐに、緑あふれる小道が続き、ここが下北沢!? と思うほどでしたよ。待ち合わせ場所の「こや」までは、小道を歩いてすぐなんですが、流れている時間が違うような、そんな感覚にも包まれました。
●それではまず、シモキタ園藝部ができる前から、再開発に関わってこられた「前田道雄(まえだ・みちお)」さんにご登場いただきましょう。
「こや」のすぐそばにある「シモキタのはら広場」は公園の植栽とはちょっと違う印象なんですが、どんなふうに手入れをしているんでしょうか?
「ただ単に植物を愛でるというよりは、小田急線が地下に入り、実際に育っている緑を植栽管理っていう形でメンテナンスしながら、よくある公園の植栽管理だと、あっさり伐採しちゃうというのが多いんですけど、(シモキタのはら広場は)丁寧に見ながら管理をしていく・・・そうすると例えば、そこに生えてきた草を全部採るとかじゃなくて、選択的除草と言って、これは残しておこうとか、その場その場で判断をしながらやっているので、やっぱりその地にあるような植物が残っていくのかなと思います。
あとは月に一度ぐらいイベント的に集まって、細かく管理をするので、ほかよりも丁寧に目を光らせてやっているんだけれども、一律に管理するっていうことではなくて、その場その場に相応しいやり方をみんなで考えていくみたいな形でやっています。それがほかとはちょっと違う植栽の状況になっているのかなと思っています。一般的な公園と違うのは、やっぱり草が多いですよね。
普通は樹木を植えるのが、公園の植栽のデザインとしては多いと思うんですけれども、それよりももっと草とかそういったものを中心に仕立てられていて、最初作るときは芝生を敷いたところにタネを撒いているんですね。タネを撒いて草がいっぱい生えてきて、その草地を子供たちに走ってもらって、道がだんだんできていくみたいな感じの作られ方をしているので、誰がデザインとしたというよりも子供たちが走り回ってできた道なんです。
そこで今、草地として残っているところに生えた草をちょっとずつメンテナンスしながら、しかもタネを蒔いて出てきたものだけじゃなくて、そのうち勝手に生えてくるものもあるんですね。それもこれはいいよねっていうものは残すみたいな形でやっています。だから毎年、1年目2年目3年目と、原っぱの雰囲気がだいぶ違いますよね。生えている植物も違うので、私もわからないものがまた増えちゃうみたいな感じですかね」
(編集部注:水やりや手入れは曜日を決めて、参加できる部員みんなで行なうそうですよ)
みんなで作る
※前田さんは、おもにどんな活動をされているんですか?
「私は仕事が建築系なので、どちらかというと今使っている拠点、『こや』と呼んでいる建物があるんですけれども、そこのメンテナンスというかとDIYいうか、ちょっと手を入れたりとか、そういったことをおもにやっていますね。
それも私だけじゃなくて、いろんなかたにお手伝いいただきながら、例えば外にあるデッキをみんなで作ったりとか、2階のテラスにあるデッキをみんなで敷いたりとか、あとは棚をみんなで作ったりとか、そんなことをやる時に、ちょっと専門的な知見でこうするといいよね!とか、こうすると危なくないよね!みたいなことをアドバイスしながら、みんなで作っていくのをサポートしている感じですね」
●本業とこのシモキタ園藝部の活動と、ふたつが重なることによって、何か変化はありましたか?
「すごく直接的に何か変わったというわけではないんですけれども、やはり仕事の中で、植物を植えたりとか、そういったことを考えることも多いので、その時の細かさが変わったかなと思います。
建築という、もう少し大きなスケールで見ると、樹木を何本、こういうふうに植えましょうみたいな、そういうスケール感で見ていたものが、その下に生えている草とか、そういったところも見えながら全体を考えるみたいな・・・少し細かさが出てきたような気がしています」
(編集部注:現在、シモキタ園藝部の部員は200人くらいで、年齢も幅広く、いろんな仕事をしているかたがたが集まっているそうです。世田谷区に住んでいなくても、だれでも部員になれるとのことですよ。興味のあるかたは、ぜひオフィシャルサイトhttps://shimokita-engei.jpをご覧ください)
雑草は宝物、循環は面白い
※続いてご登場いただくのは、コンポスト事業を担当する「斉藤吉司(さいとう・よしじ)」さんです。斉藤さんは、こんな動機でコンポスト事業のリーダーになったそうですよ。
「自分の自宅でも家の周りに雑草が生えているじゃないですか。それを抜くって本当に嫌だったのが、堆肥にできるって知った瞬間に雑草が宝物に見えてきてんですね。それで自身もコンポストをやり始めていたので、園藝部でもそういうのができるなと思ったら、自分の活動が広がるような感じがして、ぜひ自分にリーダーをやらせてください! って言って始まりました」
●まさに循環を実践されている感じなんですね。
「そう、面白い! 循環は面白いです」
●コンポストの維持とか管理は、斎藤さんをはじめ、何人ぐらいのかたでされているんですか?
「メインで活動しているのがだいだい15名ぐらいで、いろいろな関係で50人ぐらいのかたに関わっていただいています」
●何か所にコンポストを設置されているんですか?
「コンポストは、さっき見ていただいたコンポストを含めて3か所ぐらいですかね。(下北線路街が)1.7キロあるので、それぞれ(コンポスト)工場のほうに持ってきたら大変なので、やっぱり近くにコンポストが必要っていうことになって、それぞれの場所に作り始めています。なので、先ほどお話しいただいた前田さんも東北沢で『竹のコンポスト』を設計されて、すごく素敵なコンポストを作られています」
●堆肥化する落ち葉とか雑草は、下北線路街の植栽から発生したものですよね?
「そうですね。それとプラスして街の、例えばコーヒーかすだったりとか、おそば屋さんのそば殻だったりとか、あと世田谷区はエコな活動しているお店がすごく多くて、例えば果物屋さんが果物の皮を捨てるのがもったいないから、乾燥しているので使ってくれないかっていう提案をいただいたりとか、あとクラフトビールを作っているところは、ビールかすを使ってもらえないかとか、いろんなことがあって、そういうものを集めて堆肥を作っています」
●飲食店から出る生ゴミとかも堆肥化されているんですね。
「自分たちは宝物っていうんですけど、宝物をいただいて、それをまたさらに宝物にするっていう活動をしています」
●現在、年間にどれぐらいの量の堆肥ができるんですか?
「だいたい1回の積み込みでリンゴ箱20個分なんです。あれは50リットル入るんですね。なので1回で1000リットル、それが4回なので、合計で(年間)4000リットルできますね」
●その堆肥は下北線路街の植栽に使っているということですか?
「そうですね。やっぱり線路街はちょっと土がよくなかったりするので、そこに土壌改良的に入れてもらっていたりとか、今は新しい取り組みとして『下北の土』としてちょっと堆肥に土を混ぜて、必要なかたにお分けするっていうことを、これからやろうとしています。あと古樹屋さんでも植え替えの時に土を使ってもらっているということです」
<シモキタ園藝部のコンポストあれこれ>
シモキタ園藝部のコンポスト事業では、ミミズコンポストも含めて、いろんなタイプのコンポストを試していて、そのひとつが「キエーロ」というネーミングのコンポスト。これは、神奈川県葉山にお住まいの「松本伸夫(まつもと・のぶお)」さんが開発したもので、その特徴は、風と太陽と土を利用すること。
木の箱に生ゴミと土を入れるだけの、至ってシンプルな構造で、肝心なのは、雨が当たらないように屋根があること。太陽の光を取り入れたいので、屋根を透明にすること。そして、風通しを良くするために密閉しないこと。この3つに注意するだけ。土の温度を上げることで、微生物の活動を活発にする狙いがあるんです。この「キエーロ」は、臭いがしない、土の量が増えない、そしてランニングコストがゼロと、いいことだらけ。
シモキタ園藝部では、ワークショップで参加者にりんご箱の「キエーロ」を作ってもらったりするそうです。作りかたなどは「キエーロ」のオフィシャルサイトhttps://kieroofficial.wixsite.com/kieroに載っていますので、参考にされてみてはいかがでしょうか。
また、取材でお邪魔した活動拠点「こや」の2階には、「うみまちコンポスト」が設置してありました。これはコンポストとテーブルを組み合わせた実験的な家具で、なんと椅子の部分が、ロックを外すと回転するコンポストなんです。こうすることで中の土がよくまざり、微生物が元気になるんですね。
ほかにもコンポスト事業部では「発電するコンポスト」の実証実験も行なっています。これは「ニソール」という会社が考案した仕組みを取り入れているもので、コンポストの土の中に電極を差し込み、微生物などが発するエネルギーを電気として利用しようというものなんです。実際にクリスマスのイルミネーションなどを「発電するコンポスト」の電気で灯したことがあるそうですよ。
下北沢線路街で養蜂に取り組む
※続いてご登場いただくのは、シモキタ園藝部で「養蜂」を担当されている「杉山直子(すぎやま・なおこ)」さんです。杉山さんは園藝部の活動のひとつとして、養蜂をやりましょうと提案されたかたなんです。
なぜ、養蜂だったのか、それは杉山さんの知り合いで、田舎でニホンミツバチを飼っていたかたと話す機会があって、そこで養蜂に出会い、その蜜の味に感動したそうです。
ところが、ニホンミツバチは野生の生き物で採れる蜜の量が少ないため、セイヨウミツバチの飼育をやってみないかという話になり、そのためには技術と知識が必要ということで、埼玉の養蜂場にお邪魔し、養蜂家に弟子入りを懇願。およそ2年にわたって毎週のように通い、師匠にセイヨウミツバチの飼育方法をみっちり学んだそうです。
そして現在はシモキタ園藝部の活動として、下北線路街の2カ所に、計10箱の巣箱を設置し、養蜂に取り組んでいらっしゃいます。
セイヨウミツバチは、天敵のスズメバチから身を守る方法を知らないのでスズメバチが巣箱に侵入しないように、ネットを張るなどの対策を行なっているそうですが・・・ほかに養蜂でいちばん気を使うのはどんなことですか?
「今まさにこの時期なんですけれども、分蜂(ぶんぽう)・・・分かれる蜂と書いて分蜂と読むんですけれども、今新しい女王蜂が生まれる、活発に作ろう作ろうと蜂たちがする時期で、古い女王がいる巣箱に新しい女王が生まれてしまうと、古い女王が嫌がって一家の半分を連れて外に逃げちゃう。
そうすると、ものすごい数の蜂がわーって集まって、変な話ですけど、電信柱だったり木の幹だったりに、蜂球(ほうきゅう)を作るんですね。
そうすると、知らないかたが見ると蜂がかたまりになっているって・・・つい先だっても大谷翔平のドジャースタジアムで話題になったんですけど・・・本当にそれと同じ現象です。
その分蜂する蜂たちは新しい家を探しに出て行くので、お腹の中にしっかり蜜を溜めています。本当はものすごく大人しいんですけど、知らない人が見ると蜂がたくさんいる、怖い〜ってなって、警察沙汰にもなりかねないので、いちばんそこは注意して管理をしなければいけないんですね。ちょっとこまめに、内見と言って(巣箱の)中の様子を見る作業を通常よりは増やして行なっています」
蜂蜜で「下北沢」を味わう
●巣箱のあるエリアに花が咲いていないと、養蜂は成り立たないですよね?
「そうですね。蜜蜂は半径2キロのところを飛ぶんですけれども、もちろん近いところに蜜源の植物があるほうが蜂たちにとったらストレスが軽くなります。お陰様で、園藝部さんの植栽管理の地域が非常に近いところにあるので、私たちの蜂は豊かな花々に恵まれていると思っていて、しかもその花々の質が高い。それがすべて味に反映されていると感じています」
●どんな味がするんですか?
「特にやっぱり4月は桜の花のあとで一斉に花々が開花するので、まずひとくち舐めると桜の味を感じて、そのあとにまた違う、口の中で転がしていくと、違う花の味も感じますね。それで飲み込んだあとは、最後がまたちょっと桜とは違うというか、まるで香水のトップノートとミドルノート、そういうような変わり方をする味わいだと私は思っています」
●先ほど3種類の蜂蜜をいただきました。4月26日、5月11日、それから5月21日に集めた蜜ということで、本当に時期によって全然味って変わるんですね!
「そうなんですね、本当に。地域の花々から集めた百花蜜なんですけれども、その花の移り変わりでどんどん味が変わっていく。今年で3年目に入るんですけれども、1年目2年目の同じ時期の味ともちょっとまた違うし・・・となると気候によっても微妙に変わってきますし、まるでワインのヴィンテージというか、テロワールっていうんですか、下北沢を味わっている感じがします。
園藝部の植栽もさることながら、(下北沢は)割と古い住宅街で、お庭があってお花を育てていらっしゃるお家が非常に多い。あとは近くの公園だったり緑道だったり、東大駒場キャンパスなどにも豊かな蜜源があるので、そういうところから本当に様々な雑味のない蜂蜜というか、すべての採蜜日が外れたことがないというか、私たちは、それがありがたいですね」
●3種類、どれも本当に美味しかったです!
「自信を持っておすすめします。全く混ざりものがない非加熱の蜂蜜なので、蜂蜜の本来持っている大事な酵素とかビタミン、ミネラルがすべて生きたまま入っています。体にとっても非常にいいんですよね」
(編集部注:杉山さんが愛情込めて世話をしている、蜜蜂たちが集めた蜜は「シモキタハニー」として販売されているほか、蜜蝋も活動拠点の「こや」や「ちゃや」の椅子やテーブルなどのワックスとして使っているほか、シモキタ園藝部のワークショップなどでも活用しているそうです)
まとまり、つながり、循環
※それでは最後に、シモキタ園藝部の良さは、どんなところにあるのか、前田道雄さん、斉藤吉司さん、そして杉山直子さんにお聞きしました。まずは前田さんです。
「誰かが中心になって全部やっているというよりは、いろんなかたがいろんな興味に応じて手を加えているので、すごく統一感のある世界というよりも、少しバラバラなんだけれども、なんとなくみんなの意識が共有されているようなまとまりができているように思いますね。
それが『のはら広場』の(植栽が)バラバラだとしながらもまとまっている、なんとなく雰囲気があるみたいな感じ・・・それと同じように園藝部自体もいろんな人たちが集まって、みんなちょっとずつ違うほうを見ているんだけれども、全体としてはまとまりがあるっていうのがとても魅力的かなと思っています」
※続いて斉藤さんです。
「コンポストを2年間やってきて、いろんなかたとゴミを介してお会いできるし、そういうつながりがあって、自分たちもその刺激を受けながら、なんか新しいことがどんどん広がってくっていうのがすごく楽しいことですね」
※では最後は、杉山さんです。
「埼玉の(養蜂家の)師匠に弟子入りしたと同時に、やっぱり地元の下北沢で養蜂をやってみたいという思いがさらに強くなって、その間、下北沢で養蜂ができる場所を探していたんですけど、園藝部の先ほどお話しされた前田さんと、割と早い時期から活動されていた男性が私の小中学校の同級生で、たまたま道でばったり会った時に私の思いを伝えたんですね。
そうしたら実はシモキタ園藝部というのがあって、養蜂もいいよねと話していて、だから君、まず園藝部に入りなさいって言われて、即入部して、そこからみんなに呆れられるほどプレゼンをして、なんとか屋上を貸してくださるかたを見つけるまでに至りました。
園藝部のかたがたから言われたんですよ。私たちの巣箱を埼玉から下北沢に移動して、丸1年間か2年目に入ったぐらいの時から、花の付きが段違いでよくなったっていうふうに言ってくださって・・・。
蜜蜂による受粉活動で街の緑が豊かになっていく。それは私が最初に園藝部さんにプレゼンする時の第一の売り文句でもあったので、それを実感してくださる人たちがいるということに非常に感謝しておりますし、植物が豊かになってくれば、より多くの花が咲くので、蜜蜂たちの蜜源もそこで増えていくから、非常によい“循環”が生まれてくると思っています」
INFORMATION
シモキタ園藝部は活動のテーマが「循環」ということで、その循環の輪の中で、植物も蜜蜂も人も調和しながら、まわっているように感じました。また自治体、地元企業、そして市民が参加する再開発のモデルケースで、まさに「住み続けられるまちづくりを」を形にしていると思います。
下北線路街は緑あふれる素敵なエリアです。お洒落なカフェやお店も点在しています。まずはぜひ訪れてみてください。
シモキタ園藝部ではワークショップなどのイベントも定期的に開催。また「ちゃや」では採れたての野花を使ったワイルドティーを楽しめますし、天然はちみつの「シモキタハニー」も販売しています。詳しくは、シモキタ園藝部のオフィシャルサイトをご覧ください。
◎シモキタ園藝部 :https://shimokita-engei.jp