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Every Sun. 20:00~20:54

オランウータンの命運を握っているのは、私たちです。

2024/7/14 UP!

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、ネイチャー・フォトグラファー「柏倉陽介(かしわくら・ようすけ)」さんです。

 柏倉さんは1978年、山形生まれ。写真家として、自然風景、野生動物、環境問題など幅広い分野で撮影を続けていらっしゃいます。作品は、アメリカのスミソニアンやロンドンの自然史博物館などで展示。また、「ナショナル・ジオグラフィック」ほかの国際フォトコンテストで入賞するなど、世界的にも注目されています。

 そして先頃、写真集『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』を出されたということで、番組にお迎えすることになりました。

 柏倉さんは、国内では北海道・礼文島に撮影の拠点を置いていらっしゃいます。

 礼文島は、稚内市の西の沖合60キロに位置する最北の離島で、柏倉さんによれば、島には北から南へ1本の道路があり、それが約25キロ、車で30〜40分で走れる、それくらいの大きさの島だそうです。人口は2300人ほど。

 野生の哺乳類は、意外に少なくて、イタチなどがいる程度。ヒグマやキタキツネは生息しておらず、海岸に行くとアザラシや、冬になるとトドがやってくるとのこと。首都圏からのアクセス方法は、羽田から稚内空港、そこからはバスとフェリーになるそうです。

 今回は、礼文島にいる柏倉さんにリモートで島の自然や星空、そしてボルネオ島の「オランウータン・リハビリテーションセンター」のお話などうかがいました。その時の模様をお届けします。

☆写真:柏倉陽介

柏倉陽介さん

礼文島は「花の浮島」

※まずは、礼文島のどのへんに撮影の拠点があるのか、お聞きしました。

「礼文島のいちばん北のスコトン(須古頓)集落という場所にあります。歩いて300メートルぐらい先に“日本最北限の岬”みたいな看板がありまして、そこが有名な『スコトン岬』という場所になっています」

●空き家を改装されたんですよね?

「はい、取材中に偶然そのスコトン集落があるエリアに出会いまして、空き家があるかな? どうかな? ってインターネットで検索してみたら一軒だけありました。それで(借りる人を)募集されていたんですけれども、そこに応募したら偶然選んでいただいたという形ですね」

●そこからは、どんな景色が見えるんですか?

「花畑! 一面の花畑なんです。礼文島って実は高山植物が有名な島で、“花の浮島”とも呼ばれているんですが、ここに高山植物が300種類ぐらい年間咲き誇るんですね。僕が見た光景は『ゴロタ岬』という展望台から風景写真を撮ったんですけれども、その一面の花畑の向こうに半島のような突端があって、その突端にスコトン集落があるという、そういう見事な光景でした」

※柏倉さんの生活の拠点は神奈川だそうですが、なぜ礼文島に撮影の拠点を置くことにしたんですか?

「風景撮影の仕事で偶然(礼文島に)行ったんですね。そこでとにかく一目惚れしてしまったというか・・・。
 風景の中に人が住んでいるっていう世界観というか、世界中いろんな場所に撮影に行くんですけれども、その中には大自然の中にぽつんと一軒家があったりとか、とにかくすごい風景の中にある家がいつも目に入ってきたんですよね。それにすごく近いなと思いまして、そこがポイントですね」

 季節的には6月の上旬から礼文島の固有種が咲き始めて、だいたい8月の上旬までは花の時期が続いていますね。この時期は、礼文島の固有種『レブンウスユキソウ』という花が咲いています。

 「エーデルワイス」の仲間なんですね。これが礼文町の町花に選ばれている花で、実際に白く雪が積もったような白っぽい花なんですけれども、花びらに見えているのが実は葉っぱなんです。花弁はちょっと黄色っぽいんですけど、それを包み込むような、そこから広がっていくような花のようなものに、白い雪が積もっているみたいな見た目ですね。とても美しいので見てもらいたいです」

●街の明かりとかもないから、夜も綺麗なんじゃないですか? 星空が・・・。

「そうですね。とにかく異様なぐらい星が美しいんですよ。やっぱり周りが海に囲まれていることと、それから島の中に街灯も少なくて街明かりもあまりないということで、天の川がすごく立体的に浮かび上がっているような感じで見ることができます」

<コラム:日本列島、その島の数が倍に!?>

 あす7月15日は「海の日」。「海の恩恵に感謝するとともに、海洋国家日本の繁栄を願う日」なんですね。

 海に囲まれている、いわゆる島国日本は多くの島で構成されていて、その数はこれまで「6852」とされてきましたが、36年ぶりに国土地理院が調べ直したところ、
なんと、倍以上の「14,125」の島があったそうです。

 これは、新たに島が発見されたのではなく、航空写真による測量技術が進化したことで、正確に数えられるようになったからだそうです。ここでいう島の条件は、周囲の海岸線の長さが100メートル以上。

 では、都道府県でいうと、島の数が最も多いのはどこでしょうか? 
 答えは長崎県、その数1479。五島列島などがありますから、確かに多いイメージがありますよね。
2位は、長崎県よりも6つ少ない北海道で1473、3位は鹿児島県で1256 ということです。

ボルネオ島のオランウータン・リハビリ施設

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

※ここからは、柏倉さんの最新の写真集『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』について、お話をうかがっていきます。この写真集は、おもにボルネオ島にある「セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター」で撮影した写真で構成されています。

●表紙は水色のタオルを頭から被って、つぶらな瞳で天井を見上げている保護された赤ちゃんオランウータンの写真になっています。なんだか切ない表情というか、寂しそうで不安そうですよね?

「ええ、そうなんです。幼い赤ん坊に近いオランウータンは、ずっと母親の体にしがみついて、一緒に何年も何年も生活していくんですけれども、開発に巻き込まれて母親とはぐれてしまった孤児たちは、しがみつく母親の体を失ってしまったんですね。なので、毎日泊まる場所、檻の中にタオルが敷かれていたりするんですけども、その檻の中のタオルを頭から被って、なんというか・・・寂しさを紛らわしているというか、そういう光景がありましたね」

●この写真からすごく寂しそうな雰囲気が伝わってきました。人間がタオルを被せたわけじゃないってことですよね?

「そうですね。ある日の朝、彼らの寝床のある建物に入って行ったら、やっぱり頭から(タオルを)被っていたりとか、それから体中にタオルを巻きつけていたりとか、そういう光景をよく目にしましたね」

写真:柏倉陽介

●あんなにちっちゃな赤ちゃんオランウータンが、自分でタオルを身にまとっているんですね?

「そうですね。オランウータンは記憶もすごく優れているので、おそらく自分の母親のことを思い出したりとかしているのかなと思うと、胸が苦しくなりますね」

※柏倉さんがこの施設を知ったのはいつ頃で、どんなきっかけがあったんですか?

「もう15年近く前になるんですけれども、環境保全の撮影ツアーがあって、そのツアーに同行して写真を撮るという仕事で行ったんですね。

 『キナバタンガン川』という長大な川がボルネオ島にありまして、そこの川の両岸に野生動物がたくさん出てくるんですよ。で、それを僕は “わ〜、すごいすごい!”と言いながらたくさん写真を撮っていて、その時に同行してくれた環境保全団体の理事長さんが、“どうしてこんなにたくさん動物が現れるかわかりますか?”っていう質問を僕にしてくれました。

 僕はわかんなかったんですけれども、そのなぜかっていうのは、川の両岸にある森の、数十メートルすぐ向こうには人間が開発したアブラヤシ農園がどこまでも広がっていって、動物たちがそこに棲むことができないので、川の両岸に残されたわずかな森の中にどんどん追いやられていることを教えてもらったんですね。

 僕はその追い込まれていた動物を“すごいすごい!”と言いながら撮っていたんですね。それを教えてもらって、これではカメラマンとしても、おかしな方向に進んでしまうし、もっと誰も撮らないようなテーマを見つけて撮影を進めなければいけないなって思ったのがきっかけですね」

熱帯雨林がアブラヤシ農園に!

写真:柏倉陽介

※ボルネオ島というと、熱帯雨林のイメージがあったんですけど、どんどん伐採されている現状があるんですね?

「そうですね。この100年で相当、森林伐採が進んでしまいました。オランウータンは、1960年ぐらいには11万頭ぐらいいたのが、今では3万頭ぐらいまで減ってしまったという状況ですね。ボルネオ島は世界第3位ぐらい広い島なんですけれども、その半分ぐらいの熱帯雨林がなくなってしまったとも言われていますね」

●先ほどのアブラヤシから採れる油はお菓子などの食品から、洗剤とかシャンプーとか口紅とかにも使われているんですよね?

「そうですね。日常の本当に想像もできないところまで深く浸透しているというか、もうこのアブラヤシから採れるパーム油、この植物油なしにはおそらく生活が成り立たないっていうぐらい私たちの生活の身近にありますね」

●私たちの生活に欠かせないものになっているっていうことですよね?

「はい、世界中のパーム油の85%が、実はボルネオ島と隣のスマトラ島かな・・・そこから輸出されているっていう現状があります」

●そうなんですね。柏倉さん自身はアブラヤシ農園に行かれたことはありますか?

「何度かあります」

●どんな印象を受けましたか?

「車で農園の中を走っていても、1時間経っても2時間経っても風景が変わらない感じで、ドローンを飛ばして上から撮影したり、ヘリに乗って上から撮影したりもしているんですけれども、とにかく地平線の果てまで人工的に開発されたアブラヤシ農園が広がっているんですね。50〜60年かけて人間が作った光景とは言っても、大災害に近いような迫力がありましたね」

(編集部注:ボルネオ島は、世界で3番目に大きな島で、その面積は日本の国土のおよそ2倍。インドネシア、マレーシア、ブルネイと、3つの国に分かれています)

木登り、綱渡り、毎日練習!?

※写真集の舞台となっている「セピロク・オランウータン・リハビリテーションセンター」は、マレーシアのサバ州にあって、設立は1964年。親から引き離されてしまった孤児たちが常時、約70頭、世話をするスタッフは50〜60人ほど。

 センターに収容される孤児たちは、森でさまよっているとか、ペットとして密輸されるところを発見されるなど、通報を受けて、スタッフが現場に急行して保護するとのこと。

●保護されたオランウータンの孤児たちは、いずれは森に返すんですよね?

「そうですね。オランウータンの子供は7〜8年、母親の体にしがみつきながら、どういう果物が食べられるか、木の上でどうやってベッドを作るか、寝床を作るかっていうのを何年もかけて、母親がしているいろいろな仕草を見て覚えていくんですね。

写真:柏倉陽介

 ここのオラウータンは、それができなくて保護されてしまったので、このセンターの中で、だいたい10年ぐらいの時間をかけて、木登りの仕方だったりっていうところから教えて・・・10年ぐらい経って森に戻れると判断された個体に関しては、保護区の森に放されたりしていますね」

●その10年はどんなステップがあるんですか?

「10年のステップ・・・まず初めは保護されてすぐは、健康診断とかいろんな予防注射とかそういうのをして、まずは元気になってもらう・・・。それから人間の母親のような立ち位置にいるスタッフがミルクをあげたりして、ある程度体力を回復させることが始まりで、その後は消防ホースをちょっとねじったようなロープを、木の間に渡して・・・2メートルぐらいですかね。そういう高さのところを孤児たちに渡らせる練習をしますね。

写真:柏倉陽介

 そこから先は、ロープを張ってある場所がどんどん高くなっていくんですけれども、自由に綱渡りができるようになった子は、近くにある木々に自分で登ったりとか、いろいろできるようになります。

 それができたら今度は、センター自体が保護区の森の中にあるので、近くの保護区に実際(オランウータンを)放すんですね。その保護の森の中でしばらく生活できてOKだなってなったら、ようやく森に返されますね」

●オランウータンは、生まれた時から木に登ったりできるのかと思っていたんです。
 でもこの写真集に、毎日毎日練習を、っていうふうに書かれていました。そうやってトレーニングしていたんですね?

「そうですね。僕も初めて見た時はびっくりしまして、生まれながらの能力かなと思っていたんですけれども、やっぱり人間が、“ここをつかむんだよ。ここだよ。次はここだよ”って感じで、手で教えてあげないとわからないんですよね。高いところに登ってしまうと怖くて、体が硬直してしまうような子もいましたね」

写真:柏倉陽介

●そうなんですね。スタッフの方々がいちから教えていくっていう感じなんですね?

「はい、結構途方もないプロセスというか、途方もない作業に思えるんですけど、お話を聞いてみると、10年はあっという間に経って、自分たちが面倒を見てきたオランウータンが無事に外に行ったっていう話も聞いたりしています。

 ただ、無事に外に行ったとしても、今度は外の世界が本番の自然の中なので、いろんな危険があったりして、そこから先は彼らの勝負というか、そういう世界になっています」

●ミルクを与えたりとか食事の世話をしたりとか、そういうのも全部スタッフさんたちがするんですよね?

「そうですね。もう何から何まで、本当に人間の赤ん坊とほとんど一緒のことですね」

写真:柏倉陽介

(編集部注:トレーニングは朝から1日に行ない、中には、高いところを怖がって渡らない個体もいるそうです。トレーニングしないと森には戻れないので、人間がどこまで教えられるかの挑戦でもあると、柏倉さんはおっしゃっていました)

動物にも心がある

※オランウータン・リハビリテーションセンターで撮影をしていて、特に印象に残っている出来事があったら教えてください。

「オランウータンの瞳を撮った時にものすごく綺麗な目をしていて・・・ずっと一緒に生活はしてないんですけど、撮影現場でずっと一緒にいたので、どのオランウータンがどういう性格かっていうのも、見ているとだんだんわかってくるんですよね。

 いたずら好きだったりとか、ひとりを好むオランウータンもいたりとか、親友同士いつも遊んでいるオランウータンがいたりとか、オランウータンとひとことで言っても本当に個性豊かな動物たちですね。

 やっぱり改めてそういう姿を見ていると、動物にも心があるんだっていう当然のことがより実感できたというか・・・。(リハビリ施設には)コロナ禍以降はちょっと行けてないんですけども、今でも思い出すような出来事でしたね」

写真:柏倉陽介

●このリハビリ施設に出会って以来、柏倉さんの写真に対する向き合い方に何か変化はありましたか?

「最初はより綺麗な世界とか、より野性的な瞬間とか、いろんな人がすごいねって言ってくれる写真を撮りがちだったんですけれども、ボルネオに行ってこのセンターの撮影を経験して、その素晴らしい、感動する横にあるストーリーっていうのもすごく大事だなっていうか、それも同じく撮って、人に“こんなことがあったよ”と伝える写真が撮れたら、それはカメラマンとしても、より充実した・・・充実というか、自分の理想的な仕事のあり方って、そっちのほうなのかなっていうのも感じることができましたね」

●では最後に、写真集『Bsck to the Wild〜森を失ったオランウータン』を通して、最も伝えたい思いをぜひお話しください。

「自然っていうのは接しないと、例えば山の中でも森の中でも分け入っていかないと、大切な存在って気づきにくいんですよね。山の中に行って登山道を歩かないと、そこに咲いている貴重な花の存在、存在自体がわからないっていうことがあると思うんですね。

 なので、自分たちの自然、自分の身近にある自然を大切にすることが、大切なものの存在に気付くっていうことにもつながりますし、それがいつかボルネオのほうにも波及していけばみたいな、そんなことを考えています」


INFORMATION

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

『Back to the Wild〜森を失ったオランウータン』

 柏倉さんの最新の写真集をぜひご覧ください。ボルネオ島の熱帯雨林がアブラヤシに浸食されている実態や野生動物の現状、そしてリハビリセンターに暮らすオランウータンの孤児たちの姿をとらえたリアルなドキュメンタリーです。水色のタオルを頭から被る赤ちゃんオランウータンの表情が、すべてを物語っているように思えませんか。
 エイアンドエフから絶賛発売中です。詳しくは出版社のサイトをご覧ください。

◎エイアンドエフ:https://aandfstore.com/products/08730043000000

 写真集の印税はセピロク・オランウータン・リハビリテーションセンターに寄付されます。寄付の方法ついては現在、検討しているとのこと。

 私たちが日本にいてできることとして、ボルネオ島の無謀な開発に手を貸さないためにも、RSPOという認証マークの製品を買うことがあります。

 このRSPOとは、持続可能なパーム油の生産を目的に設立された国際NPOの認証制度です。適性に栽培されたアブラヤシから採れる油を使っている会社の製品を買うことが大事、ということですね。

 ボルネオ島の現状については認定NPO法人「ボルネオ保全トラスト・ジャパン」のサイトを見てください。

◎ボルネオ保全トラスト・ジャパン:https://www.bctj.jp

 柏倉さんの作品や活動については、以下のオフィシャルサイトをご覧ください。

◎柏倉陽介:https://www.yosukekashiwakura.com

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