2024/7/28 UP!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンは、シリーズ「SDGs〜私たちの未来」の第21弾:「コーヒーとサステナビリティ」。今回はSDGsの17のゴールの中から「つくる責任 つかう責任」、そして「働きがいも 経済成長も」。
お迎えするのは、スペシャルティ・コーヒーの専門店「ONIBUS COFFEE」を展開する株式会社ONIBUSの代表「坂尾篤史(さかお・あつし)」さんです。
坂尾さんは、コーヒー・ビジネスを軸に、サステナブルな取り組みや、コーヒー豆生産地の支援活動などを積極的に行なっていらっしゃいます。
ONIBUS COFFEEは、代表の坂尾さんが2012年1月に世田谷区奥沢に第1号店をオープン。開店当初は、なかなかスペシャルティ・コーヒーが浸透せず、苦戦していたそうですが、その後、しっかりと着実に店舗を増やし、現在は都内に6店舗、栃木県那須に1店舗。海外ではタイのバンコク、台湾のタイペイ、ベトナムのホーチミンにそれぞれ1店舗ずつ、展開されています。
そんな坂尾さんを先日、「ONIBUS COFFE」の自由が丘店に訪ね、サステナブルな活動のほか、コーヒー専門店を始めたきっかけや、豆と挿れ方のこだわりなど、いろいろお話をうかがってきました。その時の模様をお届けします。
☆写真協力:ONIBUS COFFEE
オーストラリア〜カフェが街の文化
※私たちが取材でうかがった自由が丘店は、自由が丘駅から徒歩4分ほどのところにあり、店内は白を基調にしたシンプルでウッディなしつらえになっていて、とても落ち着く空間でしたよ。
まずは、コーヒー専門店を始めようと思ったのは、どうしてなのか、お聞きしました。
「僕が若い頃って東京にカフェブームみたいのがあったんですよ。お洒落なカフェがあって、古民家カフェだったりとか、古いビルの上にルーフトップ・カフェみたいなのが流行っていて、漠然とカフェっていいなって思っていたのが、いちばん最初のきっかけですね」
●いいな〜と思っていて、それを自分でやってみようと思ったのは、どうしてなんですか?
「その当時は建築の仕事をしていたんですよ。ゼネコンで働いていて、父親は大工さんだったので、ゼネコンで働いたあとに、父と大工さんを一緒にやっていたことがあるんですね。その時に自分の仕事はこれでいいのかな〜みたいな、若い時なりに思っていて、まずはいろんな世界をもっと見てみようっていうので、バックパック(の旅)に1年間くらい行っていた時期があったんですね。
いちばん最初に訪れた国がオーストラリアだったんです。そのオーストラリアでカフェに行った時に、エスプレッソ・マシンが置いてあって、お洒落なバリスタがコーヒーをサーブしていて、お客さんとスモールトークをしていく中で、地域のコミュニティを作っていくみたいなのを見た時に、”あ、こういう世界ってあるんだ”みたいなことを感じたのが、コーヒーの仕事をしようって決めた時でしたね」
●それは、おいくつの時ですか?
「25歳だったと思います」
●オーストラリアのカフェの何が、そんなに魅力的だったんですか?
「まず、いちばんいいなと思ったのは、地域のコミュニティになっているんですよね。オーストラリアの人って毎日カフェに行くんですよ。朝必ずカフェに行って、ちょっとおしゃべりをして、たまたま隣に座った人ともちょっとお喋りをして、1日がスタートするみたいな・・・だからみんな顔見知りなんですよね」
●いいですね〜!
「そうやってカフェが街を作っている、カフェが街の文化になっているみたいなのを肌で感じた時に、すごく感動したっていうのがありますね」
●居心地よさそうですね〜。
「そうですね。なんて言うんですかね・・・自分の居場所みたいなのを、知らない街に行ったにも関わらず、顔見知りがそこでできていく感覚みたいなのは、本当に自分の居場所ができたなっていう、空間がただ居心地がいいだけではない、居心地の良さみたいなのがありましたね」
●バックパッカーとして最初に訪れたのがオーストラリアで、そこでカフェの魅力に気づき出会い、そのあともバックパッカーは続けられたんですか?
「そうです。そのあとはアジアを1年間くらいバックパックしていました」
●そのアジアの旅でもカフェにはよく行かれていたんですか?
「アジアはその当時2007年だったと思うんですけど、コーヒー屋さんって全然なかったんですよ。ただインドに行けばチャイを飲んだり、例えばバンコクに行ったらミルクティーを飲んだり、中国に行けばお茶を飲んだりっていう、その土地その土地のドリンクを飲みながら、カフェではないんですけど、お茶屋さんだったりとか、街角のチャイ屋だったりみたいなところに行ってましたね」
ONIBUSは「公共バス」!?
※「カフェ愛」が高まり、帰国した坂尾さんは、日本でカフェをやりたい! そのためにはまず修業だと考え、バリスタの世界チャピオンが手がけるコーヒーショップ「ポールバセット」で2009年から2年ほど本格的にコーヒーを勉強し、その後、独立されました。
ONIBUS COFFEEを創業したときは、どんなお店にしようと思ったんでしょうか?
「やっぱり自分のコーヒー店を始めようって思ったきっかけは、オーストラリアのカフェだったので、地域の人たちが来るような、地域のコミュニティの一端を担えるようなお店作りっていうのがいちばんの目標というか、そういうお店にしたいなっていうのがありましたね」
●暮らしの一部になるような・・・。
「そうですね。まさに本当にそうです」
●ONIBUS COFFEEには、どういう意味があるんですか?
「ONIBUS COFFEEのONIBUSがブラジルの、ポルトガル語なんです。公共バスっていう意味があって、ブラジルって国土がめっちゃ広いので、バスで12時間とか20時間とか、長い移動をする国なんですね。
そういうバス網が発達しているので、バス停が地域の起点になっていたりとか、経済の起点になっていたりとか、僕の名前のお店も地域の起点になれるような、人と人とが集ってまた次に進めるようなお店を目指して、ONIBUS COFFEEっていう名前にしています」
果実のような味わい
※ONIBUS COFFEEで出しているコーヒーの特徴についてお話しいただきました。
「僕らの扱っているコーヒーの特徴がすべてスペシャルティ・コーヒー豆を浅煎りで焙煎しているので、まず苦さがないっていうのがひとつ大きな特徴かなと思いますね」
●コーヒーと言えば、苦いというイメージがありますけど・・・。
「コクとか苦さみたいなのがあると思うんですけど、そういったものよりはコーヒー本来の、ひとつひとつコーヒチェリーって言われるような果実からできているので、味わいを楽しんでもらえるようなものをお出ししていますね」
●へ〜! では早速いただいてもよろしいですか? いろんな種類がありますけれども、今回は何を・・・?
「今回はホンジュラスとルワンダのお豆を、2種類ご用意しています」
●では早速、ホンジュラスからいただきます。見た目はいわゆる普通のコーヒーという色合いですけれども・・・。
「そうですね。ただ焙煎が浅いので深煎りのものと違って、濃い黒っていうよりは少し褐色的な色になっていますね」
●あ、そうですね! ではいただきます! う〜ん美味しいですね。確かに全く苦くないですね!
「そうですね。それよりも果実感だったりとか・・・」
●すごく優しい味がします〜。このホンジュラスのコーヒーには、どんな特徴があるんえすか?
「ホンジュラスは中米にある国で、甘さが特徴的ですね。僕らは、リンゴみたいな甘さだったりとか、果物の甘さに表現することが多いんですけど、ホンジュラスはまさに熟したリンゴのような甘さを持っているコーヒーだなと思います」
●美味しいです〜! で、こちらがルワンダですね。いただきます。あ、また違った柔らかさというか・・・。
「そうですね。ホンジュラスが中米なのに対して、ルワンダはアフリカの国で、アフリカって結構、酸味がぎゅっと凝縮したようなコーヒーになっていて、ベリー系の酸だったりとか、あとはシトラス系の酸みたいなのを感じるコーヒーとなっています」
●ちょっと紅茶みたいな感覚もありますね。
「そうですね。紅茶だったりとか、あとワインのような酸味を楽しんでもらえるようなものになっています」
●美味しいです! 挿れ方にもこだわりがあるんですか?
「そうですね。挿れ方はドリップコーヒーでお出ししているんですけど、例えばグラインダーだったりとかお湯の温度だったりとか、お湯の注ぐ量みたいなのを細かくレシピで決められていますね」
●この味の決め手っていうのは?
「味の決め手は・・・農作物なので、やっぱり農家さんたちがどういう環境でどういうふうに育てているのかみたいなのがいちばん大きく影響してきます」
(編集部注:コーヒー専門店などで販売されているコーヒー豆、私たちは「豆」と呼んでいますが、正しくは、アカネ科の植物「コーヒーノキ」の実の中に入っている種子、タネなんですね。この実は、さくらんぼのように赤く熟すので「コーヒーチェリー」と呼ばれています。
コーヒーの品種はたくさんありますが、飲むために栽培され、流通しているのは、「アラビカ種」と「カネフォラ種(通称ロブスタ)」のふたつだそうです。
コーヒーノキは、苗木から2〜3年かけて成長し、ジャスミンのような香りがする白い花が咲くそうです。そして実が8ヶ月ほどかけて、徐々に大きくなり、完熟した赤いコーヒーチェリーになります)
スペシャルティ・コーヒーとは?
※初歩的な質問なんですが、改めて「スペシャルティ・コーヒー」というのはどんなコーヒーなのか、教えていただけますか?
「認証とかがあるわけではないんですけれども、アメリカを中心としたスペシャルティ・コーヒーの協会と言われるようなところで、厳しく審査されて点数付けされたものですね。通常のコーヒーの10%くらいしか流通していないものになっています」
●とても稀有なものなんですね。
「稀有っていう表現が正しいかどうかはわからないんですけど、最近この5〜6年、お洒落なカフェが増えて、エスプレッソ・マシンが入っていてドリップコーヒーも出しているみたいなお店だと、スペシャルティ・コーヒーを使っている傾向が高いです」
●特別な地域と気候が生み出すコーヒーっていうことですよね。
「まさにそうですね。特別な気候が複雑な味わいを生み出すコーヒーって言われています」
●具体的にはそのスペシャルティ・コーヒーの生産地っていうと、どのあたりになるんですか?
「スペシャルティ・コーヒーも通常のコーヒーも生産地域は一緒になるんですけど、中米、南米、アフリカ、あとアジアでもインドネシアとかタイとかでは生産されていますね」
●スペシャルですね〜!
「そうですね。農家さんへの対価の還元だったりとか、自然環境と長く、持続可能な農業をしていこうみたいな考え方を反映しているコーヒーになるので、本当に稀有なコーヒーであることは間違いないかなとは思いますね」
コーヒー農園が鬱蒼とした森!?
※ONIBUS COFFEEでは、どの生産地のコーヒー豆を輸入するのかを決めているのは、坂尾さんなんですよね?
「焙煎をするチームがあるので、その焙煎チームと僕とで決めていますね」
●コーヒーを仕入れる農園は何ヶ所か、決めてあるんですか?
「やっぱり(コーヒー豆は)農作物なので、なるべく継続して買うみたいなのは結構大切になってきますね。もう10年ぐらい使っている農園もあったりとか、それプラス、新規で数件、毎年開拓しているっていうような形ですね」
●現地に行って買い付けをするみたいな・・・?
「そうですね。そういうロットも多く揃えています」
●現在だと具体的にどの生産地から仕入れているんですか?
「直近でいうと、6月にルワンダに行ってきたり、4月にグアテマラに行ったりしていましたね」
●ブログで拝見したんですけど、定期的にコーヒー豆の生産地に出かけていらっしゃるんですよね?
「そうですね。僕だけではなくて、社内のチームで担当の国みたいのがあるので、それぞれなるべく、できる限り生産地域を訪ねるようにしています」
●グアテマラのコーヒー農園に行った記事も載っていましたけれど、鬱蒼とした森みたいな感じでしたね。
「そうですね。僕らが(コーヒー豆を)買っているグアテマラの農園は特に、特にというか、ほかでは見ることがないぐらい森です!」
●森ですよね! コーヒー農園なんですよね?
「そうです、コーヒー農園です! たぶんみなさんコーヒー農園をイメージすると、ブラジルの広大な農園をイメージするかたが多いと思うんですね。僕らが買いつけているところは、グアテマラとメキシコの国境付近にあるんですけど、すごく切り立った石の山なんですよね。たぶん昔は海の底だったところが隆起してできた山になっているので、石がゴロゴロしていて、険しい山の合間にコーヒー(の樹木)が生えているっていうような感じですね」
●標高も高いんですか?
「そうですね。1800メートルから2000メートルぐらいの標高になっています」
●コーヒー栽培には適した場所っていうことなんですね?
「そうですね。クオリティの高いコーヒーを作るのには、適している場所になっていますね」
ルワンダ“堆肥”プロジェクト
※ONIBUS COFFEEでは、去年からアフリカ・ルワンダの生産地でプロジェクトに取り組んでいると、ブログにありました。これはどんなプロジェクトなんですか?
「ルワンダは森は全くないんですよ。アフリカだから自然いっぱいみたいなイメージだと思うんですけど、結構切り開かれていて、原生林みたいなのがなく多様性がないんですよね。
そうすると土の微生物の量だったりとか、落ち葉が堆肥になるみたいなのがなかなかなくて、優良な有機肥料を自分たちで作ることが難しいんですよね。それを日本の農家さんたちの知見をルワンダに持っていって、自分たちで優良なオーガニックな肥料、堆肥を作るプロジェクトを一緒にやっています」
●プロジェクトを始めてどれくらいになるんですか?
「始めてまだ2年ですね。1年目はトライアルで少しだけやって、去年から(本格的に)やり始めました」
●どうですか? 進捗具合は・・・。
「実際に(コーヒー豆の)クオリティに反映されているとか、例えばそこの土の微生物が増えたみたいなのって、まだまだわからないことなんです。今年から去年作った堆肥を使ったコーヒー豆ができ上がってきて、それが11月ぐらいに入ってくるんですけど、実際に販売できるっていうところまでは来ています」
●すごいですね~! 生産地の課題でいうと、今どんなことが挙げられますか?
「本当に国によって全然違うんですけど、ルワンダにおいては賃金の問題もありますし、教育ですね。コーヒーの教育っていうよりは全体的な教育の課題だったりとか・・・あと先ほどもお伝えした微生物の多様性の少なさっていうところですね」
(編集部注:農作物であるコーヒーは当然、環境の変化に影響を受けやすく、温暖化による気候変動が品質の低下や収穫量の減少につながり、このままいくと2050年頃には美味しいコーヒーが供給されなくなる恐れがあるそうです)
ONIBUS COFFEEとサステナビリティ
※ONIBUS COFFEEは、会社としての2023年の取り組みを「サステナビリティ・レポート」として、数字にしてブログで公開されていますよね。これにはどんな意図があるんですか?
「スペシャルティ・コーヒーを扱っていく上で、スペシャルティ・コーヒーの定義みたいなのがあるんですよ。その中に『サステナビリティ』と『トレサビリティ』の意識をもちましょう! みたいなのが書いてあるんですよね。
それって本質的なことだな~と思っていて、東京でこういうカフェを営んでいく中でも、自分たちが何ができるのかみたいなのを考えていく必要があるなと思っています。ただそれってなかなか伝えるのって難しいじゃないですか。なので数字に落とし込めるものは落とし込んで、レポートとしてあげようみたいなのを昨年から力を入れてやっています」
●具体的には会社でどんな取り組みをされているんですか?
「取引の価格を公表したりしていますね。例えば農家さんの『FOB』って言われる、コンテナに積む前の金額って、コーヒーの原価に関わることなので通常だとなかなか知ることがないんですけれども、そういうのも公表したりしていますね」
●社内にサステナブル担当っていうかたがいらっしゃるんですよね? サステナブル担当のかたとは結構頻繁にアイディアの交換とかされるのですか?
「そうですね。実際にいろんな農園に行ったりもするので、その時にいろんな話をしますね。今年出た話でいうと、実現するかはわからないんですけれど、焙煎機のある店舗を、例えばソーラーパネルを付けて自分たちで電気を作れるようにしたりとか・・・。
あと今、力を入れているのは“援農”ですね。農家さんのところに行って農業をお手伝いするっていうのを会社の中のひとつの仕事として、月に1回何人かで行って土に触れるみたいな機会を作ろう!みたいなのを提案して、実際に動いているっていうのをやっています。
ひとつは練馬のほうにある農家さんと、あとは東久留米にある農家さんですね。ブルーベリーを有機栽培で作っていたりとか、そこは自由が丘店で出た(食品廃棄物の)コンポストを肥料にしてもらって、カブにしてもらったりルッコラにしてもらったり、それをお店で出したり、みたいなのもしているので、そこにお手伝いしに行ったりしていますね」
●30年後のONIBUS COFFEEはどうなっていると思いますか?
「30年後・・・そうですね・・・たぶん今後もっと環境への意識はひとりひとりが高めていく必要があると思いますね。飲食店ってどうしても消費のカルチャーなので、そういったのをなるべく循環できるような仕組みを作りながら、ロールモデルになるようなお店作りをしてみたいなとは思いますね」
●改めて、坂尾さんはコーヒーを通してどんなことを伝えていきたいですか?
「そうですね・・コーヒーってめっちゃロマンがあるなと思うんですよ。きょう来ていただいている自由ヶ丘店のカフェで、いわゆるお客さんにサーブする、お客さんに提供するっていうところから、世界の裏側に行って買い付けてくる、その物流を自分たちでする、さらに土だったりとか、その土地の風土を理解するとかって、本当に多岐に渡るので、その全部をできる仕事ってなかなかないですよね。ひとことでは言えないですけど、本当にロマンがある仕事だなとは思いますね」
INFORMATION
ONIBUS COFFEEは奥沢店、自由が丘店、中目黒店、八雲店のほか、道玄坂と渋谷一丁目にそれぞれ1店舗、そして栃木県那須に1店舗と国内には7店舗あります。お近くにお出かけの際は、ぜひ立ち寄って、美味しいコーヒーを召し上がってみてください。
ONIBUS COFFEEでは、もちろんコーヒー豆の販売も行なっています。ルワンダ、エチオピア、ケニア、コロンビア、そしてホンジュラスなどから輸入した豆のほか、オリジナル・ブレンドや、ギフト用にドリップバッグなども販売。オンラインでも購入できますよ。
詳しくはONIBUS COFFEEのオフィシャルサイトをご覧ください。
◎ONIBUS COFFEE :https://onibuscoffee.com